主文 1 被告は,原告に対し,以下の金員を支払え。 (1) 金2億9205万3000円及びこれに対する平成9年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員(2) 金1670万5034円及びこれに対する平成9年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,以下の金員を支払え。 (1) 金2億9205万3000円及びこれに対する平成9年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員(2) 金5億8410万6000円及びこれに対する平成9年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員第2 事案の概要本件は,東京証券取引所一部上場企業である株式会社(被告)の実質的創業者で,17年以上の間,取締役ないし代表取締役を務めた後,取締役会で突然解任された者(原告)が,後任社長(B)が株主総会決議,取締役会決議及び内規に基づいて決定した退職慰労金の支払を求めるとともに,及び,後任社長が報復目的で前記決定において内規による功労加算を全くしなかったため,その分の損害を被ったとして,不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(1) 当事者被告(以下「被告会社」という。)は,昭和49年7月17日に設立された(ただし,設立当時の商号は「株式会社名古屋技術センター」であり,昭和59年12月に現在の商号に変更された。),機械類の設計,製作及び販売,電気・電子機器類の設計・製作及び販売その他の事業を営業目的とする株式会社であり,現在の主たる業務は電子計算機に関するソフトウエアの開発及び販売,労働者派遣事業法に基づく一般 の設計,製作及び販売,電気・電子機器類の設計・製作及び販売その他の事業を営業目的とする株式会社であり,現在の主たる業務は電子計算機に関するソフトウエアの開発及び販売,労働者派遣事業法に基づく一般・特定労働者派遣事業などであって,その株式は東京証券取引所第1部及び名古屋証券取引所第1部に上場されている。 原告は,被告会社の設立に関与し(ただし,設立当初の代表取締役には,原告の配偶者の弟であるCが就任した。),昭和55年5月12日から平成9年6月27日までは取締役,そのうち昭和55年5月12日から平成8年7月31日までは代表取締役の各地位にあった者であり,後記の取締役退任当時は同社の発行済み株式総数の十数パーセントの株式を実質的に保有していた。 (2) 原告の取締役退任原告は,平成8年7月31日に開催された被告会社の取締役会で代表取締役を解任され,さらに,平成9年6月27日に開催された被告会社の定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)では,取締役に再任されなかった。 なお,原告の役員報酬は,平成8年6月27日に開催された株主総会及び取締役会の各決議等により,同年7月分以降について月額1900万円から2750万円へと増額されたが,前記代表取締役解任決議後,非常勤取締役相談役に降格されて,同年8月分以降について月額1375万円に減額され,さらに同年8月23日に開催された取締役会の決議等により再度降格されて,同年9月分以降について月額30万円に減額された。 (3) 原告の退職慰労金の支給に関する決議被告会社の定款25条には,「取締役の報酬及び退職慰労金の額は株主総会の決議をもってこれを定める。」と規定されており,また,同社の取締役会が定めた平成7年6月28日改訂後の役員関係規則(甲4,以下「本件規則」という。)には,以下の条項が存する。 金の額は株主総会の決議をもってこれを定める。」と規定されており,また,同社の取締役会が定めた平成7年6月28日改訂後の役員関係規則(甲4,以下「本件規則」という。)には,以下の条項が存する。 14条「(1)退職慰労金は次の式により計算するものとする。 ① 算式(省略)② 定額は400万円とする。ただし,取締役を歴任した監査役については,定額を200万円とする。 ③ 常勤基礎給及び非常勤基礎給は,それぞれの取締役退任時の報酬月額(ただし手当は除く)とする。 ④ 勤務係数は,常勤の場合は1.0,非常勤の場合は0.5とする。 (2) 取締役と監査役を歴任した場合は各々を退任した時に支払うものとする。 (3) 端数の処理など① 役員退職慰労金額は千円単位とし,未満の額は切り上げる。 ② 在任年数は取締役就任の翌月から退任の月までの年数とし,年未満は切り上げるものとする。 15条「特別に功労が顕著であると認められた場合は,退職慰労金の200%を限度として功労加算を行うことができる。」ただし,上記15条は,平成4年5月21日改訂後の役員関係規則(乙29)では,「特別に功労が顕著であると認められた場合は,退職慰労金の100%を限度として功労加算を行うことができる。」と定められていたが,平成7年6月28日の取締役会決議で改訂され(甲6),加算の上限が引き上げられて前記のとおりとなったものである。 本件株主総会では,被告会社側が提出した議案(「本総会終結の時をもって取締役を退任されますD,E,F,Aの4氏に対し,その在任中の功労に報いるため,当社所定の基準に従って退職金を贈呈いたしたく,その具体的な金額,贈呈の時期・方法等は取締役会に一任願いたく存じます。」)に従い,原告に対して退職慰労金を支給すること, の在任中の功労に報いるため,当社所定の基準に従って退職金を贈呈いたしたく,その具体的な金額,贈呈の時期・方法等は取締役会に一任願いたく存じます。」)に従い,原告に対して退職慰労金を支給すること,その金額,支払時期及び支払方法等については取締役会に一任することが決議された。(以下これを「本件株主総会決議」という。)これを受けて被告会社の取締役会が開催され,原告に支給する退職慰労金の金額及び時期の決定については代表取締役であるB社長(当時,以下「B社長」という。)に一任する旨決議された。(以下これを「本件取締役会決議」という。)(4) B社長の決定本件取締役会決議を受けて,B社長は,平成9年7月25日,原告の退職慰労金の額を2億9205万3000円とする旨決定した。(以下これを「本件決定」といい,これによって金額が確定した債権を「本件退職慰労金債権」という。)なお,上記金額は,原告の取締役退任時の報酬月額について,常勤基礎給2750万円,常勤役員在職年数17年(16年2か月のところ,本件規則14条(3)②により切上げ),非常勤基礎給30万円,非常勤役員在職年数1年(11か月のところ,本件規則14条(3)②により切上げ)を本件規則14条(1)①に定める計算式に当てはめて算出し,かつ,本件規則15条に基づく功労加算をしなかった結果である。 (5) 本件退職慰労金債権の帰趨本件決定に先立つ平成9年7月14日,被告会社は,完全子会社である株式会社メイテックインテリジェントテクノロジー(以下「MITC」という。)との間で,同社の原告に対する準消費貸借契約に基づく金2億9860万円及びこれに対する同月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払請求権(以下「本件反対債権」という。)を2億9917万2657円の対価で譲り受ける 約に基づく金2億9860万円及びこれに対する同月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払請求権(以下「本件反対債権」という。)を2億9917万2657円の対価で譲り受ける旨の債権譲渡契約を締結し(乙14),原告には同月16日に債権譲渡通知をした(乙13の1及び2)。 さらに,本件退職慰労金の中から所得税5841万0600円,住民税1882万2400円,合計7723万3000円を源泉徴収分として控除し,残る2億1482万円については,同月24日,原告に対し,本件退職慰労金債権と本件反対債権とを対当額で相殺する旨書面で意思表示し,同書面は内容証明郵便により同月25日に原告に配達された(乙28の1及び2)。 被告会社は,これによって本件退職慰労金債権が全額消滅したものと取り扱っている。 (6) 本件反対債権に関する被告の主張の背景事情原告は,平成2年1月17日,被告会社の株主である知り合いの政治家が実質上のオーナーである株式会社アイアクト(以下「アイアクト」という。)が,株式会社東海銀行(以下「東海銀行」という。)と取引契約を締結したのに伴い,東海銀行との間に極度額5億円の連帯根保証契約を締結した。 アイアクトは,同日,東海銀行から3億5600万円を借り入れ,この金員を,前記政治家が同じく実質上のオーナーである株式会社国際通商(以下「国際通商」という。)に貸し付けた。 国際通商は,この融資金で東京都千代田区a内のマンション「エクセルa」3階及び4階部分(乙22ないし乙24,以下これを「本件不動産」という。)を購入した。 被告会社は,平成7年9月25日,取締役会決議に基づきMITCに1億8000万円を貸し付け,MITCは,平成8年1月31日,国際通商から3億9900万円で本件不動産を買い取った。 MITCは,同年8月,株 社は,平成7年9月25日,取締役会決議に基づきMITCに1億8000万円を貸し付け,MITCは,平成8年1月31日,国際通商から3億9900万円で本件不動産を買い取った。 MITCは,同年8月,株式会社横山不動産鑑定事務所に本件不動産の評価額の鑑定を依頼し,その結果,前記売買契約時の評価額が合計1億0040万円であると鑑定された。 被告は,本件不動産の実勢価格が前記代金額より相当低廉であるのは明らかであったので,MITC(当時の代表取締役はG)は,被告会社の人事部長であったH(当時,以下「H部長」という。)を代理人として,平成7年12月28日,原告に対し,後に本件不動産の評価額についての鑑定結果が出た時点で,前記国際通商とMITC間の売買契約締結日に遡って,原告とMITC間に3億9900万円と評価額との差額についての準消費貸借契約を成立させる処理をしたい旨申し出て,原告が同意し,その後の平成8年10月,MITCは,前記鑑定結果を受けて,原告との前記予約に基づき,差額の2億9860万円につき,前記売買契約締結日に遡って,利息及び期限の定めのない条件で準消費貸借契約を成立させた旨主張している。 しかしながら,原告が前記のような準消費貸借の予約に同意したことを客観的に裏付ける資料はなく,また,H部長がMITCを代理してかかる契約を締結する権限を有していたことを示す直接的な証拠もない。 (7) 本件反対債権に関する他の訴訟の帰趨被告は,原告と被告会社間の別件訴訟においても,原告の同訴訟における請求に対して本件反対債権の前記相殺後の残債権による相殺を主張し,第一審判決(当庁平成8年(ワ)第4090号,甲8,乙1)においては同債権の成立及び相殺の抗弁が認められたが,控訴審判決(名古屋高等裁判所平成12年(ネ)第387号,甲3)では,同債権の成立が し,第一審判決(当庁平成8年(ワ)第4090号,甲8,乙1)においては同債権の成立及び相殺の抗弁が認められたが,控訴審判決(名古屋高等裁判所平成12年(ネ)第387号,甲3)では,同債権の成立が否定されて抗弁が排斥された。 また,第一審判決及び控訴審判決とも,原告の取締役報酬について月額1375万円から30万円へ減額したB社長の決定を無効とし,原告の被告会社に対する差額分の報酬請求権を認めた。 なお,控訴審判決は,上記減額について,「平成八年七月三一日から一か月もたたないうちであり,その間に一審原告自身何らの不手際も行ったとはみえず,且つ取締役会が相談役を剥奪してもしなくても,その前後を通じてもはや一審原告の役割に変化が生じるともみえない段階に至っていることが窺えるにもかかわらず,追い打ちをかけるがごとき決定」と判示している。 被告会社は上告及び上告受理の申立てをしたが,本件口頭弁論終結後に棄却及び不受理の決定がなされている。 (8) 本訴提起及び訴え変更原告は,平成11年10月26日,本件決定による退職慰労金2億9205万3000円の支払を求めて本件訴えを提起したが,別件訴訟の前記第2審判決を踏まえ,平成12年12月7日実施の第8回口頭弁論期日において,訴えの変更を申し立てた。 その変更は,原告は被告会社の創業者で「特別に功労が顕著」であるにもかかわらず,B社長が,原告に対する報復意図によって殊更に本件規則15条に基づく功労加算をしない内容の本件決定をしており,これは被告の代表者による原告に対する悪意の不法行為であって,その損害賠償として,本件規則の定める功労加算の上限額である5億8410万6000円及びこれに対する本件決定の日の翌日である平成9年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員の請求を追加するというものである。 被 件規則の定める功労加算の上限額である5億8410万6000円及びこれに対する本件決定の日の翌日である平成9年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員の請求を追加するというものである。 被告は,本件退職慰労金の請求については,別件訴訟と同様の本件反対債権のほか,新たに主張した不当利得返還請求権及び事務管理費用償還請求権との相殺の抗弁を主張し,不法行為に基づく損害賠償請求については,B社長には原告に対する報復意図はなく,本件株主総会決議,本件取締役会決議及び本件規則に従って裁量権を行使して原告の退職慰労金の額を決定したものであり,原告には功労を減殺すべき事由が存し,また,被告会社には必ず功労加算するとの慣例もないから,前記裁量権の行使は相当であるなどとして,不法行為の成立を争った。 2 争点(1) 被告が相殺の抗弁において反対債権として主張する,MITCの原告に対する準消費貸借契約に基づく支払請求権(本件反対債権),MITCの原告に対する不当利得返還請求権ないし事務管理費用償還請求権の成否(2) B社長による本件決定について,原告に対する不法行為の成否(3) (2)において不法行為が成立する場合の原告の損害額 3 争点に関する当事者の主張(1)ア被告の主張原告とMITCとの間には,前記第2の1(6)のとおり,準消費貸借契約が成立している。仮に同契約が成立していないとしても,被告は,以下のとおり,原告に対する不当利得返還請求権ないし事務管理費用償還請求権を有し,これを本件退職慰労金債権との相殺に供した。 すなわち,MITCは,原告の要求に基づいて当時の実勢価格が1億0040万円であった本件各不動産を3億9900万円で買い取り,これにより原告の東海銀行に対する連帯保証債務が消滅したのであり,MITCは,原告の要求がなければ,本件 に基づいて当時の実勢価格が1億0040万円であった本件各不動産を3億9900万円で買い取り,これにより原告の東海銀行に対する連帯保証債務が消滅したのであり,MITCは,原告の要求がなければ,本件各不動産を実勢価より2億9860万円も高額で買い取ることはあり得ず,その結果,MITCは,原告に対し,同額の不当利得返還請求権を取得した。 また,MITCは,原告のため,当時の実勢価が1億0040万円であった本件各不動産を3億9900万円で買い取ることにより,原告の東海銀行に対する連帯保証債務を消滅させ,買取価格と実勢価の差額である2億9860万円の有益費を出捐したから,MITCは,原告に対し,事務管理に基づく2億9860万円の有益費償還請求権を取得した。 上記いずれかの債権は,平成9年7月14日,MITCと被告会社との間の債権譲渡契約により,MITCから被告会社に移転した。 イ原告の主張そもそも,原告とMITCとの間に,被告の主張するような準消費貸借又はその予約の合意は成立しておらず,また,MITCの原告に対する不当利得返還請求権及び事務管理費用償還請求権も成立していないから,反対債権が不存在で,相殺は無効である。 (2)ア原告の主張本件総会決議は,取締役の退職慰労金の支給に関して実務上行われている株主総会の一任決議方式と同様に,会社の業績,退職役員の勤続年数,功績の軽重等から割り出した一定の基準に従って退職慰労金を決定すべきことを黙示して決議したものである。したがって,同決議により原告の退職慰労金の金額,支払時期,方法等の決定を一任された被告会社の取締役会,及び,同取締役会からさらに一任されたB社長は,これらを恣意的な自由裁量をもって決定できるわけではない。本件株主総会決議は,原告への退職慰労金を被告会社の内規に基づいて支給すべき旨の決 社の取締役会,及び,同取締役会からさらに一任されたB社長は,これらを恣意的な自由裁量をもって決定できるわけではない。本件株主総会決議は,原告への退職慰労金を被告会社の内規に基づいて支給すべき旨の決議であり,本件規則15条は,退職慰労金の最高限度額を定めると同時に,「特別に功労が顕著であると認められた場合」には支給すべきことを意味しており,「功労加算を行うことができる」との文言は前者の意味を示すために用いられたにすぎず,後者の意味を排除するものではない。したがって,本件株主総会決議に基づく原告の退職慰労金額の決定について取締役会から再委任を受けたB社長は,被告会社の創業者で「特別に功労が顕著」である原告に対し,本件規則15条を適用して功労加算すべき,取締役としての善管注意義務ないし忠実義務があり,「特別に功労が顕著」であるか否かについて恣意的に判断することはできない。にもかかわらず,B社長が本件決定にあたって,合理的理由もなく功労加算しなかったことは,本件株主総会決議,本件取締役会決議及び取締役としての法的義務に違反するものである。 また,原告は被告会社の創業者であって,多大な貢献を果たし,同社を東京証券取引所の1部上場企業へと発展させるなど,同社内で比類なき実績を上げているのであるから,過去の退職慰労金支給事例に照らせば,明らかに原告の退職慰労金は功労加算されるべきであるところ,B社長は,原告に対する報復目的から殊更に功労加算をしなかったのであり,不当性は著しく,悪意の不法行為に該当する。なお,別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決は,「原告の報酬額が月額二七五〇万円で,他の取締役の報酬よりも格段に高額であったとしても,創業者で,被告の業績を拡大してきた功績がある」と判示している。また,同控訴審判決は,原告の取締役報酬を月額30万円に減 酬額が月額二七五〇万円で,他の取締役の報酬よりも格段に高額であったとしても,創業者で,被告の業績を拡大してきた功績がある」と判示している。また,同控訴審判決は,原告の取締役報酬を月額30万円に減額したB社長の決定を「追い打ちをかけるがごとき決定」と判示し,不当であると認定した。退職慰労金の法的性質は在職中の職務執行の対価,つまり報酬であるから,取締役報酬に関して原告の功績を認定した上記判示内容は,本件についてもそのまま妥当する。 B社長の前記行為は被告会社の代表者の職務執行における不法行為であるから,被告会社は,民法44条,709条等により,原告に対して損害賠償責任を負う。 イ被告の主張本件株主総会決議は,被告会社の社内基準に従って退職慰労金を支給すべき義務を被告会社に課したにとどまるのであり,必ず功労加算をすべき旨決議したわけではない。 本件規則15条は,功労加算を行うに足る功労があったか否かの認定,功労加算金を支払うかどうか,そしてこれを支払う場合の料率(金額)については,裁量に基づいて決定しうることを定めたものであり,原告の退職慰労金についても,本件株主総会決議により授権された取締役会が合理的な裁量の範囲でこれを具体化しうべきものであって,取締役会の委任により退職慰労金額を決定したB社長も,功労加算をするか否か,加算の割合を幾らにするかについては,会社の業種,経歴,規模,資産の状況,退職役員の勤続年数,担当業務,功績の度合,従前の支給事例,慣行等を総合的に裁量勘案した上で決定しうるのである。 また,被告会社においては,退職慰労金について本件規則15条に従って功労加算することが慣例になっていたものではなく,全く功労加算されなかった例や,減額された例まである。そして,原告が被告会社において代表取締役又は取締役として一定の責務を果 て本件規則15条に従って功労加算することが慣例になっていたものではなく,全く功労加算されなかった例や,減額された例まである。そして,原告が被告会社において代表取締役又は取締役として一定の責務を果たしたとしても,功労加算をしなければならないほどの功績があったとは認められない。むしろ,原告の退職慰労金は,経営能力に対する疑問,会社の私物化,経費の流用,人事の壟断,女性問題及び競争馬事業を被告会社に行わせたことなどの点で,本来,減額されてしかるべきであった。 また,原告の代表取締役退任時の報酬額は非常に高額であり(平成8年7月期において,取締役平均額の約17倍,全報酬額の約59パーセントの報酬を得ていた。),本件規則の細則である役員関係規則取扱内規3条(1)②(「世間水準および従業員給与との均衡を考慮し,役員の序列に従い決定するものとする。」)に反し,ひいては本件規則及び定款に違反しているところ,原告自身が前記報酬額を定めていることから,この額を基に退職慰労金を算定することは,信義則に反し権利の濫用に亘る虞があるものであり,また,本件退職慰労金の額は実質的に功労加算分を含んでいるものである。 さらに,B社長が,原告の非常勤取締役としての報酬を月額1375万円から30万円に減額したことについては,原告に対する報復目的からではなく,職位の変更(非常勤取締役相談役から非常勤取締役への降格)という正当な理由に伴うものであって,別件訴訟の控訴審判決は認定を誤っており,B社長には原告に対する報復の意図はないから,本件決定につき不法行為における故意過失も存しない。 したがって,B社長が,本件決定において原告の退職慰労金につき本件規則15条による功労加算をしなかったことは,不法行為となるものではない。 (3)ア原告の主張(1) 功労加算分前記のとおり,原 したがって,B社長が,本件決定において原告の退職慰労金につき本件規則15条による功労加算をしなかったことは,不法行為となるものではない。 (3)ア原告の主張(1) 功労加算分前記のとおり,原告の被告会社に対する功績を前提にすると,原告の退職慰労金については本件株主総会決議,本件取締役会決議及び本件規則15条に基づき最大限である200パーセントの功労加算がなされるべきことは明らかであって,B社長が本件決定に際し功労加算をしなかったことにより,原告は功労加算部分の退職慰労金の支給を受けることができなくなったから,前記功労加算部分はB社長の不法行為による原告の損害として被告が賠償すべきである。 (2) 非常勤基礎給の額の誤り仮に,前記(1)について被告の主張が認められるとしても,別件訴訟の第一審判決及び控訴審判決のとおり,原告の退職慰労金の計算にあたっては,非常勤基礎給を1375万円として計算すべきところ,B社長は,非常勤基礎給を30万円とした上で原告の退職慰労金を計算しており,その差額1670万5034円については,B社長の不法行為による損害であるから,被告において賠償すべきである。 イ被告の主張(1) 仮に,本件決定について不法行為の成立する余地があるとしても,そもそも本件規則15条は退職慰労金につき功労加算ができることを定めるにすぎず,被告会社には,過去の退職慰労金支給実績に照らしても,退職慰労金について必ず功労加算すべきとの慣例は存しないから,原告には退職慰労金を功労加算されないことにより侵害される権利利益は存在せず,功労加算相当分を不法行為による損害と解すべきではない。 (2) 前記(2)イのとおり,原告の非常勤取締役としての報酬を月額1375万円から30万円に減額した決定は,職位の変更という正当な理由に基づく有効なもので 不法行為による損害と解すべきではない。 (2) 前記(2)イのとおり,原告の非常勤取締役としての報酬を月額1375万円から30万円に減額した決定は,職位の変更という正当な理由に基づく有効なものであるから,非常勤基礎給を30万円として算出した本件退職慰労金は正当であり,減額前の1375万円として算出した額との差額を原告の損害と解すべきではない。 第3 争点についての判断 1 争点(1)について(1) 本件証拠及び弁論の全趣旨によるも,平成7年12月28日に,MITCを代理するH部長と原告との間で,被告が主張するような準消費貸借契約の予約の合意が存したものとは認められない。 かえって,被告が強調するような被告会社内における原告の専断的傾向からすると,アイアクトの東海銀行に対する債務について連帯保証債務の履行を嫌がっていたという原告が,実質的にみて自身が同債務を返済するのと同じ内容の契約について承諾するというのは不自然であり,準消費貸借契約の予約に関する原告の意思を明確に示した書面その他の客観的証拠が存しないことも,準消費貸借契約の予約の合意の不自然さを増幅させるものである。 また,被告会社の原告に対する本件反対債権の請求状況をみるに,I弁護士及びJ弁護士(被告訴訟代理人ら)は,本件株主総会開催日の2日前である平成9年6月25日付けの催告書を発送しているが(乙27の1),それ以前に,代表取締役解任から1年近くもの間,明確に本件反対債権の履行を求めた様子が窺えず,他方で,その間に,被告会社経理部において,原告の平成7年度及び平成8年度の源泉徴収税の未収分について同年3月12日付けの請求書(乙30の1)を,原告の私的費用の会社負担分について同月24日付けの請求書(乙31の1)をそれぞれ作成し,原告に支払を求めているのであって,そのような経緯から 収分について同年3月12日付けの請求書(乙30の1)を,原告の私的費用の会社負担分について同月24日付けの請求書(乙31の1)をそれぞれ作成し,原告に支払を求めているのであって,そのような経緯からも,被告の本件反対債権についての主張が,本件株主総会決議に基づく原告の退職慰労金の現実の支払を免れる目的で考案された可能性を強く窺わせるものである。 被告は,別件訴訟の控訴審判決の前記準消費貸借契約の成立を否定する部分の判示に対する反論として,MITCが国際通商から購入した本件不動産を処分した際の売買契約書(乙15),被告会社のMITCに対する金員貸付けを決議した取締役会議事録(乙25)を証拠として提出しているが,これらによっても前記認定は左右されない。 (2) 被告は,MITCの本件不動産の購入に関して,MITCの原告に対する不当利得返還請求権が成立した旨主張するので,検討するに,MITCの損害については,MITC自身が相場より高額で購入したことにより発生したものであって,これにはMITCと国際通商間の売買契約という法律上の原因が存在しており,同契約は有効であり,取り消されたわけでもない。 加えて,仮に,MITCの本件不動産購入のきっかけが,アイアクトの東海銀行に対する債務について連帯保証していた原告の指示によるものだとしても,前記アイアクトの債務については,同社の実質的オーナーである政治家及びその秘書も保証債務を負担していたものと認められ,MITCの本件不動産購入が,被告会社の株主でもあった国会議員たる前記政治家から有利な取り計らいを受ける旨の期待に基づき,同政治家に対する利益の供与の趣旨でなされたものとの理解も不可能ではなく,本件不動産購入によるMITCの損害と結果的に連帯保証債務を免れた原告の利得との因果関係は相当間接的なものに留まり に基づき,同政治家に対する利益の供与の趣旨でなされたものとの理解も不可能ではなく,本件不動産購入によるMITCの損害と結果的に連帯保証債務を免れた原告の利得との因果関係は相当間接的なものに留まり,不当利得規定が想定する範囲を超えたものというべきである。 そうすると,MITCの本件不動産購入に関して,MITCの原告に対する不当利得返還請求権が成立する余地はない。 (3) また,被告は,MITCの本件不動産の購入に関して,MITCの原告に対する事務管理償還請求権が成立した旨も主張するので,検討するに,MITCは,親会社である被告会社の委託に基づく事務を処理するため,自らの取引として,本件不動産を買い受ける旨国際通商と契約し,その履行として代金として3億9900万円を支払ったのであって,原告の東海銀行に対する連帯保証債務の履行その他の原告の事務を処理したものではなく,その額が相場より高額で,MITCの支払う売買代金がアイアクトの東海銀行に対する債務の返済に充てられることが想定されていたとしても,それをもって前記代金の全部又は一部を原告の事務管理費用と解することはできない。 したがって,MITCの本件不動産購入に関して,MITCの原告に対する事務管理費用償還請求権が成立する余地はない。 (4) 以上によれば,被告の主張する本件退職慰労金債権と本件反対債権その他との相殺の抗弁は,反対債権がそもそも不存在であったことに帰し,理由がない。 2 争点(2)について(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件決定の不法行為性の有無に関して,以下の事実が認められる。 ア被告会社の沿革及び原告の功績(甲14の1ないし4,甲15の1ないし4,甲16の1ないし4,甲17の1ないし4,甲18の1ないし4,甲19の1ないし5,甲20の1ないし4)被告会社は,昭和4 ア被告会社の沿革及び原告の功績(甲14の1ないし4,甲15の1ないし4,甲16の1ないし4,甲17の1ないし4,甲18の1ないし4,甲19の1ないし5,甲20の1ないし4)被告会社は,昭和47年の設立時は資本金100万円の規模で,昭和51年3月期には売上高が7801万5000円であったが,平成4年3月期(第19期)には,売上高493億2089万2000円,営業利益47億6996万4000円,経常利益25億6073万2000円へと増大し,資本金100億円以上,従業員5818名(うち技術者5148名)を擁するなど規模も相当拡大しており,平成3年3月期(第20期)の純資産額は304億4823万3000円,長期借入金は2億円で,財務内容も優良であった。 その後,業績は一時的に低下しているが,原告の代表取締役解任直前の決算期である平成8年3月期(第23期)においても,資本金146億4045万3000円,純資産額339億8017万円,売上高339億3155万4000円,営業利益37億3264万2000円,経常利益35億4867万円という決算内容である。 被告会社の株式は,昭和62年3月に名古屋証券取引所の上場審査を通って同取引所第2部に上場され,平成3年2月には東京証券取引所の上場審査にも通って同取引所第2部にも上場されるようになり,原告の取締役退任後,名古屋証券取引所第1部へ,また,平成10年9月1日には東京証券取引所第1部へと上場管理替えがなされて,現在に至っている。 原告は,被告会社の実質的な創業者であるが,前に経営していた会社が倒産し,労働組合との間で紛争中であったことから,被告会社への悪影響を避けるため,設立にあたっては発起人にも取締役にも就任せず,妻の弟を名目的に代表取締役に選任しつつ,実質的な経営は原告自身において行い,昭和 働組合との間で紛争中であったことから,被告会社への悪影響を避けるため,設立にあたっては発起人にも取締役にも就任せず,妻の弟を名目的に代表取締役に選任しつつ,実質的な経営は原告自身において行い,昭和55年5月12日からは代表取締役に就任し,解任された平成8年7月31日までの間,相当専断的に被告会社を経営していた。 その間,B社長その他の人材を採用し,取締役に選任するなどして登用した結果,遅くとも平成5年10月ころからは,B社長その他の部下に実質的な業務執行の相当部分を委ねるようになった。 イ原告とB社長の関係,対立状況(乙2,乙20,乙34ないし乙40,証人B)B社長(昭和16年10月3日生)は,昭和35年3月に長野県立の工業高校を卒業し,アメリカの大学の付属研究所で研究員を務めるなどして,主に電子顕微鏡関連の研究に従事していたが,原告に見込まれて昭和62年9月に被告会社に入社し,平成2年6月に開催された同社の株主総会で取締役に選任され,新事業開発部長,東部事業部長,事業部門統括,事業部門管掌の各役職を歴任し,子会社(MITC)の代表取締役も務めた。その後も被告会社の取締役を重任し,平成7年6月には専務取締役となり,原告の代表取締役解任当時は,被告会社内において原告に次ぐいわゆるナンバー2の地位を占めていた。 また,B社長は,原告の代表取締役解任後,代表取締役に選任されたが,平成11年11月26日に社長の座をH部長に譲り,代表取締役を辞任した。現在は同社の取締役(相談役)である。 なお,原告の代表取締役解任については,B社長をはじめ賛成者の間で事前に相談ないし打合せを行った上で,取締役会において突然動議が出され,決行されたものである。 原告は,代表取締役解任後,同決議に賛成した取締役らの自宅などに架電して同人らを激しく非難し,また,被 事前に相談ないし打合せを行った上で,取締役会において突然動議が出され,決行されたものである。 原告は,代表取締役解任後,同決議に賛成した取締役らの自宅などに架電して同人らを激しく非難し,また,被告会社に無断で記者会見を行い,B社長ら現経営陣を批判しており,他方,B社長も,原告を非常勤取締役相談役から非常勤取締役に降格し,報酬を月額1375万円から30万円に減額するなどの対抗措置を取った。 ウ本件決定に至る経緯(乙16,乙18,証人B)B社長は,本件株主総会終了後,人事担当の専務取締役に就いていたH部長との間で原告の退職慰労金について相談した際,H部長が持参したメモ(乙32,乙33の3)により本件規則14条に基づく原告の退職慰労金の額が2億9205万3000円であることを知り,さらに,本件規則15条に基づく功労加算をするか否かについてH部長と協議した結果,両名は,原告には被告会社の成長ないし業績拡大につき何がしかの功績は認められるものの,その常勤基礎給が極めて高額であり,その結果として本件規則14条に基づく退職慰労金の額も相当高額になっていること,また,原告には,従業員の大量採用や競争馬育成事業への進出の意向などの経営方針に関する問題のほか,女性問題その他功労を減殺すべき事由があることから,それらを総合勘案すると功労加算をしないのが相当であるとの意見で一致し,これに基づいてB社長は,原告の退職慰労金について功労加算しないことを決めた。 なお,B社長は,H部長以外の他の取締役には,本件規則15条に基づく功労加算をするか否かについて相談をしておらず,また,原告自身の功労を減殺すべき事由の詳細については,原告に対する意見聴取,H部長以外の取締役,従業員その他の者に対する調査を改めて行ってはおらず,B社長が,それまでの間に自身が見聞した事実 ず,また,原告自身の功労を減殺すべき事由の詳細については,原告に対する意見聴取,H部長以外の取締役,従業員その他の者に対する調査を改めて行ってはおらず,B社長が,それまでの間に自身が見聞した事実に基づいてその存在を認識した上で,功労加算をしない旨の決定の理由としたものである。 また,平成8年7月31日に代表取締役に就任したB社長にとって,株主総会決議,取締役会決議による委任に基づいて退任役員の退職慰労金の額を決定するのは,本件決定が初めてであった。 エ本件退職慰労金の額の相当性(ア) 被告会社の退職慰労金支給実績(乙42,証人B)被告会社には,過去,30数名の退任役員がおり,そのうち4名は退職慰労金について功労加算がされていないが,残る退任取締役にはその程度ないし額はともかく何がしかの功労加算がされた退職慰労金が支給されている。 他方で,被告会社の人事部長Kは,原告が同社の代表取締役在任中の昭和55年5月12日から平成8年7月31日までの間に株主総会決議及び取締役会決議により委任されて決定した退任役員20名の退職慰労金を調査し,その結果を報告書(乙42)にまとめて被告代理人に提出している。 これによれば,20名中17名の退職慰労金が功労加算されており,加算率は,0.26パーセントから117.39パーセントまでであるが,残る3名のうち2名(L,M)は功労加算がなく,もう1名(N)は22.88パーセント減額されている。 他方,支給額をみれば,退任時副社長で役員在職期間7年の者(O)が2000万円,退任時副社長で役員在職期間11年の者(P)が2200万円であって,最高額は退任時常務取締役で役員在職年数7年の者(Q)であり,金額は3000万円である。 なお,加算率が100パーセントを超える者は2名いるが,うち1名(Q)は112.39パーセン 0万円であって,最高額は退任時常務取締役で役員在職年数7年の者(Q)であり,金額は3000万円である。 なお,加算率が100パーセントを超える者は2名いるが,うち1名(Q)は112.39パーセント加算されて3000万円,残り1名(R)は117.39パーセント加算されて1800万円である。 (イ) 退職慰労金の世間相場被告は,平成7年9月1日から平成12年8月31日までの間に退任した214社678名の役員の退職慰労金を調査した結果をまとめたとされる文献の抜粋(乙41)を書証として提出している。 それによれば,常勤役員のうち会長20名の在任1年あたりの平均額は505万円,最低額140万円,最高額1406万円である。 同様に,社長については,平均額454万円,最低167万円,最高1271万円,副社長については,平均額482万円,最低100万円,最高1782万円である。 (2) ところで,本件株主総会決議が,原告に対する退職慰労金を支給する旨,及び,被告会社の内規である本件規則に従って金額,支払時期,支払方法等を決定することを取締役会に委任する旨決議したものであることは当事者間に争いがない。 そして,商法269条が取締役の報酬(退職慰労金を含む。)を株主総会の決議により定めることとした趣旨は,一次的に,取締役ら自身によるお手盛り防止にあることは否定されないが,その根本理念としては,株式会社の実質的所有者である株主を構成員とする機関に取締役の報酬を決定させることによって,取締役の職務執行に対する監督権能を十全ならしめる点にあると解すべきである。 そうすると,株主総会決議において,具体的金額等を定めることなく,内規に従って算出される額を支給することとし,その決定手続を取締役会に委任し,同様に取締役会が代表取締役に再委任すること自体は同条が排除するもの ,株主総会決議において,具体的金額等を定めることなく,内規に従って算出される額を支給することとし,その決定手続を取締役会に委任し,同様に取締役会が代表取締役に再委任すること自体は同条が排除するものではないが,内規が不明確な算出基準を定めている場合には,取締役会ないしその再委任を受けた代表取締役に対し,退任する役員の退職慰労金の額について広範な裁量を与えることとなり,取締役会の主導的構成員ないし代表取締役の独裁的な職務執行を助長する虞があるのであって,その点からすると,退職慰労金の額に関する内規は,単に支給しうる額の上限を定めるのみでは足りず,一義的に定まるものか,又は,裁量の幅が相当狭いものでなければならないのであって,内規が上記のような広範な裁量を認めており,かつ,退職慰労金の額の決定権者が内規による裁量権を逸脱ないし濫用して不当に低額の退職慰労金を決定した場合には,その決定は違法であり,株主総会決議に基づき適正な内規に従った支給を受けるべき権利を有する退任取締役に対する不法行為を構成するというべきである。 以上の点を踏まえて,本件決定が原告に対する不法行為を構成するか否かを検討する。 (3) まず,本件規則15条に基づく功労加算をしないで退職慰労金額を決定した点については,同条項は「特別に功労が顕著」である場合には最大限200パーセントの功労加算を認めるのであるが,その要件を満たすのがどのような場合であるかについては何ら基準を示すところがなく,原告が指摘しているような役職に応じた具体的な功績倍率(例えば,会長3.0,社長2.0,専務1.5等)を別途定めているわけでもない。また,功労加算の程度についても上限以外には示しておらず,判断権者が0パーセントから200パーセントの間で自由に決定し得るかのようになっている。 被告会社の退職慰 等)を別途定めているわけでもない。また,功労加算の程度についても上限以外には示しておらず,判断権者が0パーセントから200パーセントの間で自由に決定し得るかのようになっている。 被告会社の退職慰労金支給実績をみても,「特別に功労が顕著」という要件の判断基準は不明なままであって,むしろ,退職慰労金額を一千万円単位のキリの良い数字とするために便宜的に適用された例もあるものと窺われ,また,加算率についても,0.26パーセントから117.39パーセントまで広範囲にわたっており,慣例の存在どころか,何ら基準を見い出せないものである。 なお,同条項の功労加算率が100パーセントから200パーセントへと改訂された経緯については,B社長は,証人尋問において,某役員の退職慰労金について相当と考えた額が功労加算率にして100パーセントを超えてしまうので,原告の指示で,担当取締役である自分が取締役会で改訂を提案し(甲6),その結果改訂された旨述べるのであるが,その真偽はともかく,功労加算率を200パーセントまで拡大する必要性があったのか極めて疑問の存するところである。(なお,原告は,退職慰労金の支給について株主総会決議が現実的問題となる上場企業の多数において,退職慰労金に関する内規につき,月額報酬を基準としつつ,役職に応じて功績倍率を定めている例(例えば,会長3.0,社長2.0,専務1.5等)が少なからず存し,本件規則15条も,同様の趣旨で200パーセント(2倍)を限度とする功績倍率が認められているのであって,世上言われる平均的な功績による付加分(概ね30パーセント)は既に職責貢献による功績倍率を施した後の更なる付加であって,本件規則15条とは異なる旨主張するが,本件規則15条が不明確な基準により200パーセントもの加算を認め得る内容の規定であることに変 ント)は既に職責貢献による功績倍率を施した後の更なる付加であって,本件規則15条とは異なる旨主張するが,本件規則15条が不明確な基準により200パーセントもの加算を認め得る内容の規定であることに変わりはない。)このように,本件規則は,判断権者に特段の基準もないまま200パーセントもの広範な裁量を認めるもので,これによって退職慰労金の額を決定することは,不明確な基準に基づいたものである旨の批判を免れず,また,他の要素と相まって,本件規則に基づく具体的な退職慰労金の額の決定が裁量権を濫用ないし逸脱したものと推認する一要素となるものである。 加えて,B社長は,本件決定をするにあたり,被告会社の設立以後規模を相当拡大させた原告の功労について,加算率にして200パーセントに相当するものと一応評価しつつ,これを減殺するような要素も存するので功労加算をしなかった旨判断過程を説明するのであるが,それ以上に功労減殺要素が200パーセントもの減殺を相当とするような程度のものであったか否かについて具体的に検討した様子は窺えず,全体的ないし包括的な印象で判断したものと解されるものである。 B社長は,功労加算するか否かの判断過程において,H部長に相談し,賛同を得た旨供述するが,それ以外の取締役や会社の顧問弁護士その他の第三者の意見を聴いたわけではなく,B社長及びH部長が原告の代表取締役解任に関与し,後に代表取締役に就いたことなど,原告との利害対立的関係にあったことに鑑みれば,B社長において原告に対する相当の悪感情を有していたものと窺われ,定款,株主総会決議,内規,取締役会決議その他の正当な根拠に基づかないで原告の報酬を月額1375万円から30万円に減額したことも併せ考慮すると(なお,被告は,原告に対する非常勤取締役相談役から非常勤取締役への降格及びそれに伴う報酬 会決議その他の正当な根拠に基づかないで原告の報酬を月額1375万円から30万円に減額したことも併せ考慮すると(なお,被告は,原告に対する非常勤取締役相談役から非常勤取締役への降格及びそれに伴う報酬減額の理由として,原告が代表取締役解任後に他の取締役に対して不当な嫌がらせ行為に及び,また,独断で記者会見を行い,解任理由と公表された競争馬育成事業への進出の意向を否定する虚偽の発言をし,また,B社長を中心とする経営陣を公然と批判する発言をした旨主張するが,仮に被告の主張する減額理由が真実であるとしても,法的根拠を欠く前記減額が正当化されるものではなく,B社長の原告に対する悪感情の存在が否定されるものではない。),本件決定における「特別に功労が顕著」か否か及び功労加算の程度の判断については,私情を交え,裁量権を濫用ないし逸脱したとの疑いが払拭しきれないものである。 H部長(乙3),S(乙4),T(乙5),U(乙6),V(乙7),W(乙8),X(乙9),Y(乙10),D(乙11)など原告の代表取締役解任決議に賛成した取締役ら及び被告会社従業員Z(乙12)の各陳述書によれば,同人らは,自身が体験した事実に基づいて,原告の経営能力に対する疑問,会社の私物化,経費の流用,人事の壟断,女性問題などを指摘しており,原告においても,評価にわたる部分を除いた事実関係については,競争馬育成事業への進出の意向の有無以外には積極的に反論しておらず,B社長の考慮した原告の功労減殺要素が少なからず存したものと一応認められるところであるが,それらの点が功労加算率を200パーセント減殺させる程であることを的確かつ説得的に説明し得てはいない。 しかしながら他方で,原告は,自身の退職慰労金算定の基礎となる数字のうち,常勤基礎給の高さについては問題にせず,専ら功労加算率が零であ ント減殺させる程であることを的確かつ説得的に説明し得てはいない。 しかしながら他方で,原告は,自身の退職慰労金算定の基礎となる数字のうち,常勤基礎給の高さについては問題にせず,専ら功労加算率が零であることをもって,本件決定の著しい不当性ないし不法行為性を主張するのであるが,本件規則14条のように,月額報酬及び在職期間を要素とする一定の計算式をもって退職慰労金の額を算出する定めの場合には,功労加算率による加算の有無以外に月額報酬の額及び在職期間の長短が功績に応じた適正な退職慰労金を算出するための重要な要素であることは明らかであり,月額報酬が高額で,その結果,功労加算されなくとも退職慰労金が相当高額になる場合には,功労加算されないこと自体は不当ではなく,その点は裁量逸脱ないし濫用を否定する方向に推認させる要素となるものである。 (なお,被告は,相当数の企業の役員の退職慰労金の額を集計した結果をまとめた文献の抜粋(乙41)を,退職慰労金のいわゆる世間相場に関する証拠として提出しているが,他の証拠(甲11)の中には,退職慰労金の額を公表しないことが慣例となっている旨のコメントが引用されており,前記文献の調査結果の信用性には疑問の余地なしとはいえず,そもそも,退職慰労金の額は,個々の株式会社の実情に応じて決定されるべきものであって,他の会社の例をもって,被告会社における退職慰労金の額の当否を論ずることは相当でないというべきである。)そこで,被告会社の退職慰労金支給実績をみるに,ほとんどの退任役員が功労加算されている状況であり,100パーセントを超える加算率の者もいるが,その者でさえ退職慰労金の額は3000万円であり,退任時副社長であった者の最高額が2200万円,他の者はいずれも2000万円以下である。このように,本件退職慰労金の額は,功労加算を 率の者もいるが,その者でさえ退職慰労金の額は3000万円であり,退任時副社長であった者の最高額が2200万円,他の者はいずれも2000万円以下である。このように,本件退職慰労金の額は,功労加算をしなくとも他の役員の額に比して概ね10倍前後に達しているのであるから,前記認定の被告会社の業績から認められる原告の創業者的功労に鑑みても,あながち本件退職慰労金の額が不当であるとはいえず,これは功労加算をしていない本件決定についての裁量権逸脱ないし濫用を否定する一要素というべきである。 (4) しかしながら,本件退職慰労金の額は,算定の基礎となる数字のうち,非常勤基礎給を30万円として算出したものであるところ,原告の非常勤取締役としての報酬を月額1375万円から30万円に減額したB社長の前記決定は,株主総会決議,取締役会決議,内規などに基づかない違法なものであると解すべきであり,そうすると,非常勤基礎給は前記減額前の1375万円として算出すべきであって,非常勤基礎給を30万円として算出したB社長の本件決定は,その点では明らかに裁量権を逸脱ないし濫用するもので,本件株主総会決議及び本件取締役会決議に基づき内規である本件規則に従った正確な額の退職慰労金の支給を受けるべき原告の権利を侵害し,主観的にも報復意図が容易に推認され,原告に対する不法行為を構成するものと解すべきである。 3 争点(3)について(1) まず,本件決定で本件規則15条に基づく功労加算がされていない点についてみるに,そもそも本件退職慰労金の額を前提にするかぎり,裁量の濫用ないし逸脱を推認させるものではなく,不法行為性を認め難いことは前記のとおりであって,支給されなかった功労加算分を不法行為による損害と解することはできない。 仮に,客観的な原告の功績に鑑み,功労減殺要素を加味しても 認させるものではなく,不法行為性を認め難いことは前記のとおりであって,支給されなかった功労加算分を不法行為による損害と解することはできない。 仮に,客観的な原告の功績に鑑み,功労減殺要素を加味してもなお,功労加算することが相当であり,功労加算相当分について不法行為性が認められるとしても,長期間にわたり被告会社の代表取締役として,不明確な加算基準で裁量の幅の極めて大きい本件規則15条を何ら異を唱えることなく適用して多くの退任役員の退職慰労金を決定し,その中で,功労加算をせず,所定の退職慰労金を減額する旨の決定をしたこともある原告において,自身の退職慰労金が前記の不明確な加算基準による功労加算がされないことによる損害を主張することは信義則上相当でなく,不法行為に基づく損害賠償請求としても認められないものと解される。 (2) そうすると,本件決定という不法行為に基づき原告が賠償を受けるべき損害としては,非常勤基礎給を1375万円として算出した退職慰労金の額と,30万円として算出した本件退職慰労金の額との差額である1670万5034円に留まることになる。 4 結局,原告は,被告に対し,取締役委任契約に基づく本件退職慰労金2億9205万3000円及びこれに対する支給日の翌日である平成9年7月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,並びに,不法行為に基づく損害賠償金1670万5034円及びこれに対する不法行為日以降である平成9年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を請求しうることとなる。 5 以上によれば,原告の請求は主文第1項の限度で理由がある。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官河村隆司 よれば,原告の請求は主文第1項の限度で理由がある。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官河村隆司
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