主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。 押収してある牛刀包丁1丁(平成18年押第4号の1)を没収する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,平成17年11月2日夜,元妻であるA(当時48歳)(以下「被害者」という。)から金銭を無心しようと考えて電話で話したところ,被害者が「子供たちはあなたのことを怖がっている」「嫌がって会いたくないと言ってる。」などと言ってきたことから,被害者が嘘を言って,子どもたちから自分を引き離そうとしているに違いないと邪推し,被害者に対する憤まんの情を募らせていたものであるが,同月6日午後5時20分ころ,被害者に対し,なぜ自分の悪口を子どもたちに言うのかと問いつめて謝らせようと考え,大阪市b区cd丁目e番f住宅南側路上に被害者を呼び出し,話があると言って車に乗るよう再三要求したものの,被害者がこれを拒んで押し問答になったことから,所携の牛刀包丁(刃体長約16センチメートル)(平成18年押第4号の1)を被害者に突きつけて乗車を要求したところ,被害者が「何考えてるの。いいかげんにして。」などと言って,被告人と話をすることを頑なに拒んだことに激高し,上記日時ころ,同所において,被害者に対し,とっさに殺意をもって,上記牛刀包丁でその胸部・腹部等を多数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,被害者を心臓刺創に基づく左血胸・失血により死亡させて殺害したものである。 【事実認定の補足説明】 弁護人の主張弁護人は,被告人には殺意がなかった旨主張し,被告人も,当公判廷においてこの主張に副う供述をするので,以下検討する。 関係各証拠によれば,次のとおり認められる。 (1)本件犯行に使用された凶器の牛刀包丁(以下「本件包丁」という。)は,刃体の長さ約16センチメート の主張に副う供述をするので,以下検討する。 関係各証拠によれば,次のとおり認められる。 (1)本件犯行に使用された凶器の牛刀包丁(以下「本件包丁」という。)は,刃体の長さ約16センチメートルで,その形状からみて,十分な殺傷能力を有するものであるところ,本件犯行日に被告人自身がこれを購入したものであるから,被告人は本件包丁の性状を十分認識していたものと認められる。 (2)被害者の創傷は,左前胸部,腹部,腕部に及び,左前胸部,腹部には合計5か所の刺切創があり,とくに左前胸部にある2か所の刺創のうちひとつは,心臓を貫通しており,被害者は,心臓刺創に基づく左血胸・失血により,受傷後短時間で死亡したと認められ,また,左腕には合計9か所の刺切創があり,そのうち3か所は骨が露出している状態である。 (3)被告人は,被害者と向かい合った状態で,いきなり右手に持った本件包丁を,被害者に向けて少なくとも5回以上突き刺し又は切りつけるなどしたが,その際,特に被害者の身体の枢要部を避けようとした等の情況はなかった。 (4)被告人は,上記攻撃を受けた被害者が,その場に仰向けになって倒れ込み全く動かなくなったのを認識したが,何らの救命措置をとらずに現場から逃走したのち,自殺を試みた。 以上(1)ないし(4)で認定した凶器の性状,創傷の部位・程度,攻撃態様,犯行後の状況等からすると,被告人は,十分な殺傷能力のある鋭利な刃物でそれと知って意図的に被害者の身体の枢要部である左前胸部及び腹部に対し,心臓を貫通する程強力に突き刺すなどして執拗な攻撃を加えていることが明らかである。そして,このような犯行の後,被告人は路上に倒れた被害者をそのまま放置して逃走しているのであって,このような犯行直後の行動からも被告人が犯行時被害者の生命に対して何らの配慮をしていなか らかである。そして,このような犯行の後,被告人は路上に倒れた被害者をそのまま放置して逃走しているのであって,このような犯行直後の行動からも被告人が犯行時被害者の生命に対して何らの配慮をしていなかったことが推認される。 以上によれば,被告人が殺意をもって判示犯行に及んだことは明らかであって,弁護人の主張は採用できない。 【法令の適用】被告人の判示所為は,刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を 選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役13年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中110日をその刑に算入し,押収してある牛刀包丁1丁(平成18年押第4号の1)は,判示殺人の用に供したもので被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 【量刑の理由】本件は,被告人が,殺意をもって,元妻である被害者の胸腹部等を,牛刀包丁で多数回突き刺すなどして,心臓刺創に基づく失血死により殺害した事案である。 被告人は,被害者が自己を疎んじるあまり子どもたちに対しても悪口を吹き込んでいるなどと邪推し,被害者が被告人との話し合いを拒む態度を示したことに激高して犯行に及んだものであり,その短絡的で自己中心的な動機に酌量の余地は皆無である。犯行態様をみても,無防備な女性に対して,手加減することなく,いきなりその胸腹部を牛刀包丁で多数回突き刺し又は切りつけたという執拗かつ残虐なものであって,極めて悪質である。これにより,人一人の尊い生命が奪われるという取り返しのつかない結果が生じている。もとより被害者には殺されなければならないような落ち度はまったくなく,被告人と離婚後,子どもたちに苦労をかけまいと寝る間を惜しんで働き続け,最 命が奪われるという取り返しのつかない結果が生じている。もとより被害者には殺されなければならないような落ち度はまったくなく,被告人と離婚後,子どもたちに苦労をかけまいと寝る間を惜しんで働き続け,最近になってやっと自分のために時間を使うことができるようになった矢先,自宅前路上において突如として元夫からの本件凶行に遭い,恐怖と苦痛の中,最愛の子ども3人を残して非業の死を遂げた被害者の無念は計り知れない。いつも明るく振る舞っていた実母の変わり果てた姿に接した子どもたちの衝撃や怒りは大きく,最も重い刑で処断することを望む旨記載した意見陳述書を作成した遺族の心境には察して余りあるものがある。残された子どもたちの今後の生活も懸念される状況にあり,結果はあまりにも重大というほかない。 以上のとおり,被告人の刑責は重く,厳しくその刑責を問う必要がある。 もっとも,他方において,本件は計画性のない偶発的犯行であること,被告人が, 自殺企図の後自ら警察署に出頭していること,公判廷において殺意の点は否認するものの,被害者を死亡させてしまったこと自体については,被害者に対して申し訳ないことをした旨反省の弁を述べ,今後は被害者の供養や残された子どもたちに対する謝罪をしていきたい旨述べていること,前科前歴がないこと,犯行後に自殺を図ったことによる後遺症で左手が不自由であることなどの酌むべき事情も認められる。 そこで,以上諸般の情状を総合勘案して主文のとおり刑を量定した次第である。 よって,主文のとおり判決する。(求刑懲役15年押収してある牛刀包丁の没収)平成18年6月6日大阪地方裁判所第6刑事部裁判長裁判官水島和男裁判官中川綾子裁判官堀田秀一 6日大阪地方裁判所第6刑事部裁判長裁判官水島和男裁判官中川綾子裁判官堀田秀一
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