- 1 -令和7年2月14日宣告裁判所書記官令和6年(う)第745号詐欺、窃盗、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反被告事件判決 主文 原判決を破棄する。 本件を大阪地方裁判所に差し戻す。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人渡辺顗修作成の控訴趣意書及び被告人作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、論旨は、訴訟手続の法令違反、事実誤認、法令適用の誤 り及び量刑不当をいうものである。 第1 訴訟手続の法令違反の論旨について 1 論旨は、原審(大阪地方裁判所をいう。以下同じ。)第2回公判期日の被告事件に対する被告人の意見陳述において、原判示第4及び第6の事実(いずれも、被告人が、Aらと共謀の上、不正に入手したキャッシュカードを使用して銀行の現 金自動預払機から現金を引き出し窃取したというもの)につき共謀を認める陳述はなかったのに、通訳人(北京語)の誤訳により、被告人が自白したと誤解したまま手続を進行させた原審には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というのである。 そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せて検討する。 2 当審鑑定の結果(鑑定書・当審職権2)によれば、原審第2回公判期日の被告事件(原判示第4及び第6の事実)に対する被告人の意見陳述の機会において、裁判官や被告人の発言内容及び通訳人による通訳状況は以下のとおりであったと認められる。 すなわち、同期日において、裁判官が被告人に対し原判示第4及び第6の事実に 対する陳述の機会を与えた際、被告人の最初の陳述は、「あの時いくらお金を取っ- 2 -た、お金を引き出した、お金を引き出した、私は何も知りません。 が被告人に対し原判示第4及び第6の事実に 対する陳述の機会を与えた際、被告人の最初の陳述は、「あの時いくらお金を取っ- 2 -た、お金を引き出した、お金を引き出した、私は何も知りません。」と通訳されるべきものであったのに、通訳人は、「はい、当時そのお金、あの銀行やお金取りに行ったことは私には知らないです。」と通訳した。これを受け、裁判官が「銀行取りに行ったこと知らないというのは、全く関係がないということなんでしょうか。」と質問したが、これに対する被告人の陳述は、「いいえ、違います。私が言いたい のは、お金を引き出しに行く、又はいくら引き出すのか、それらを私は知りません。」と通訳されるべきものであったのに、通訳人は、「いいえ、関係ないという意味ではありません。ただお金どのくらいあの引き出したのか、いくらかそれは知らないと言っています。」と通訳した。裁判官が、「要するに、今回起訴状に記載されているAという人が実際にどれくらいのお金を引き出したのかそれ知らないと いうことですか。」と質問したのに対し、被告人は、「そうです。」という内容を答え、そのとおり通訳された。裁判官は、「ただ、不正に今回の事件自体にあなたは関わっていると、この不正に入手した他人名義のキャッシュカードを利用して、お金を、現金を窃取しようとしているということ自体には、あなたも関わっているということでいいですか。」と質問したが、通訳人は、これを北京語で「しかし、 この事件のためにあなた自身関わっていたり又は取ったり、他人の家に行って不正に他人のキャッシュカードを取ったり、このことにあなたは関与した、そうですか。」と通訳し、「キャッシュカードを利用して現金を窃取しようとしているということ自体」という部分を通訳しなかった。その後に被告人が発言した内容は、 ドを取ったり、このことにあなたは関与した、そうですか。」と通訳し、「キャッシュカードを利用して現金を窃取しようとしているということ自体」という部分を通訳しなかった。その後に被告人が発言した内容は、「そうです。」ということを意味するものであり、その旨通訳された。裁判官が 「弁護人、ご意見はいかがでしょうか」と質問したのに対し、弁護人は、「被告人同様あの公訴事実は争いません。」と発言した。通訳人は、この発言を「あなたの弁護士はあなたと同じくこの事実について争うところはない。」ということを意味するものとして通訳した。裁判官は、被告人に対し、「念のために確認しますが、先ほど弁護人が窃盗罪の成立は争わないというふうに意見を述べられましたが、そ の点はあなたも争わないということでいいですか」と質問したが、通訳人は、「あ- 3 -なたの弁護士はこの事実に関して争わない、あなたも同じ考えでしょうか。」と通訳し、「窃盗罪の成立は争わない」という部分を通訳しなかった。この後に被告人が発言した内容は、「はい」ということを意味するものであり、その旨通訳された。 3 前記2からすると、原審第2回公判期日の意見陳述の機会において、被告人は、不正にキャッシュカードを入手したことへの関与は認めているものの、原判示 第4及び第6の事実(不正に入手したキャッシュカードを使用した現金窃盗)につき共謀を認める旨の陳述をしていないものと認められる。 しかし、原審第2回公判調書(手続)には、原判示第4及び第6の事実に関する被告人の陳述として、「各公訴事実はいずれもそのとおり間違いありませんが、Aが幾ら引き出したかについては知りません。」と記載された。 その後の被告人の供述(公判手続の更新における被告人の陳述、被告人質問、最終陳述)等を精査しても、 そのとおり間違いありませんが、Aが幾ら引き出したかについては知りません。」と記載された。 その後の被告人の供述(公判手続の更新における被告人の陳述、被告人質問、最終陳述)等を精査しても、原判示第4及び第6の事実につき共謀を認めたと理解されるものはない(原審で取り調べられた被告人の捜査段階の供述にも、原判示第4及び第6の事実につき共謀を認めたと理解されるものはない。)。 そして、原判決は、(証拠の標目)の項において、原判示第4及び第6の事実に ついての証拠として、「第2回公判調書中の被告人の供述部分」を挙示している。 以上によれば、原判示第4及び第6の事実につき共謀を認める被告人の陳述・供述はなかったのに、原審は、通訳人の不正確な通訳により、被告人が自白したと誤解したまま手続を進行させ、判決においても上記供述部分を事実認定に用いていると認められる。その瑕疵は重大なもので、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼす ことが明らかな法令違反がある。 検察官は、被告人の自白がなくても関係証拠により原判示第4及び第6の事実が認められるから、上記法令違反は判決に影響を及ぼさないという趣旨の主張をする。 しかし、同事実が認められるかどうかは、被告人の自白がないことを前提とした審理をし、被告人に防御を尽くさせて判断すべきことであって、検察官の主張は採用 できない。 - 4 - 4 訴訟手続の法令違反の論旨は理由がある。 第2 結論そうすると、その他の論旨について判断するまでもなく、刑訴法397条1項、379条により原判決を破棄し、第1審において適正な通訳の上で被告人の被告事件に対する陳述を聴き、これに基づき審理を進めるため、同法400条本文により 本件を原裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すのが相当であるから、主文のと 第1審において適正な通訳の上で被告人の被告事件に対する陳述を聴き、これに基づき審理を進めるため、同法400条本文により 本件を原裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すのが相当であるから、主文のとおり判決する。 所論は、原判決を破棄した上、原判示第4及び第6の事実につき無罪の判決をすべきと主張する。しかし、原審検察官は、前述した訴訟手続の法令違反により、原判示第4及び第6の事実につき被告人の自白があると誤解していたと認められるこ とからすると、改めて第1審において検察官に主張立証の機会を与える必要があるから、所論は採用できない。 なお、原判決の主文が①原判示第1及び第2の事実に係るもの(懲役1年6月)と②同第3から第8の事実に係るもの(懲役3年)とに分かれていることに鑑み、当裁判所が原判決の全部を破棄した理由について若干触れておく。本件では、原審 及び当審における訴訟費用を①に関するものと②に関するものとに分けることができないから、①の部分の控訴を棄却し、又は原判決を破棄して自判し、②の部分のみ原判決を破棄して原裁判所に差し戻すことはできない。このような問題がなかったとしても、①の量刑(殊に、執行猶予を付す余地の有無)は、②の量刑の影響を受ける(原判決も量刑の理由の項でそのような趣旨を述べている。)ことからすれ ば、①の部分の控訴を棄却し、又は原判決を破棄して自判するのは不相当であり、原判決の全部を破棄すべきである。 令和7年2月14日大阪高等裁判所第6刑事部 - 5 -裁判長裁判官飯島健太郎 裁判官松井修 裁判官宇田美穂 裁判官 松井修 裁判官 宇田美穂
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