平成16(ワ)81 情報非公開慰謝料請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年9月29日 宇都宮地方裁判所
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判決文本文6,339 文字)

判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成16年2月14日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告の水資源対策等に関する情報公開を請求したのに対し,鹿沼市長が資料の全面公開を決定しながら,実際には一部を非公開とした不法行為によって,知る権利を侵害されるなどして精神的苦痛を受けたとして,被告に対し,慰謝料の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 原告は,被告の住民である。 (2) 原告は,平成13年10月30日,被告の情報公開条例(以下「条例」という。)に基づき,鹿沼市長に対し,同年4月3日に被告水資源対策室が開催した会議(以下「本件会議」という。)において出席者に配付された資料の公開を求め,鹿沼市長は,同年11月13日付けで同資料について情報公開を行うことを決定し(以下「本件情報公開決定」という。),その旨の通知書を原告に送付した。 それにより,原告は,同月15日,「水問題と当面の課題対応打ち合わせ次第」,「事務手続きリストと留意事項」及び「ダム推進署名活動事務手続きリストと留意事項」と題する合計3枚の文書(以下,一括して「当初公開文書」という。)の交付を受けた。 (3) 原告は,平成14年1月4日,当初公開文書に付加して,独自に入手した「署名活動スケジュール」等の本件会議で使用されたと思料される4枚の文書を添付した上で,本件情報公開決定について,部分公開にとどまっており,当該処分を取り消して全面公開する旨の決定を求める旨の異議申立てを行い,鹿沼市長は,同月7日,これを受領した。 (4) 鹿 添付した上で,本件情報公開決定について,部分公開にとどまっており,当該処分を取り消して全面公開する旨の決定を求める旨の異議申立てを行い,鹿沼市長は,同月7日,これを受領した。 (4) 鹿沼市長は,原告の異議申立てに対して,情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)に諮問せず,市長の補助機関である被告総務部総務課(以下「総務課」という。)所属のA(以下「A」という。)が,平成14年1月21日,原告に対し,異議申立書を返戻するとともに,原告が異議申立書に添付した文書と同一内容の,「署名活動スケジュール」,「推進運動スケジュール」,「作業リスト一覧(フォーラム,地区懇談会)」及び「作業リスト一覧(推進会議,署名活動)」と題する合計4枚の文書(以下,一括して「追加公開文書」という。)を交付した(以下「本件追加公開措置」という。)。 その際,原告は,本件情報公開決定に対する異議申立てを取り下げた。 2 争点(1) 不法行為の成否(原告の主張)鹿沼市長及びその補助機関(以下,一括して「鹿沼市長等」ともいう。)は,原告の情報公開請求に対し,少なくとも7枚ある対象文書の一部である当初公開文書のみを公開し,これを部分公開であることを明示せずにあたかも全面公開であるかのように装った。しかも,鹿沼市長等は,情報公開対象文書の一部を非公開としたのはダム推進の民意を行政がねつ造しようと企図していたことを隠す目的で故意に情報を出し渋ったものである。 鹿沼市長等のこれらの行為は,公正で開かれた市政を実現し,市民と市との信頼関係を深める等の条例の制度目的に反するばかりか,同条例の非公開事由に該当しない文書を公開せず,原告に対して非公開の理由も通知しておらず,同条例の手 は,公正で開かれた市政を実現し,市民と市との信頼関係を深める等の条例の制度目的に反するばかりか,同条例の非公開事由に該当しない文書を公開せず,原告に対して非公開の理由も通知しておらず,同条例の手続条項にも違反しており,国家賠償法1条1項の「故意又は過失」による不法行為に該当する。 (被告の主張)本件情報公開決定において追加公開文書が公開されなかったのは,被告水資源対策課の室長B(以下「B」という。)が,追加公開文書は,本件会議において,自己の手持ち資料としてメモ的に作成したもので,出席者から説明内容が不明確であるとの指摘を受けて追加して配付したという経緯から,総務課に追加公開文書の存在を報告することなく,追加公開文書が条例における公開対象文書に該当しないと判断し,これがそのまま決裁されたためであり,鹿沼市長等に国家賠償法1条1項所定の故意又は過失があったとはいえない。 また,異議申立てについても,条例上,情報公開の実施機関が早期に不服申立てに理由があると認めた場合には,審査会に諮問することなく,これを是正する決定をすることも可能であり,そのような場合,申立人の同意を得て不服申立ての趣旨を満たす措置を講じた上で申立ての取下げという便宜的取扱いも許されるというべきであって,原告は本件追加公開措置に応じて申立てを取下げたのであるから,鹿沼市長が審査会に諮問せず,異議申立てについて決定を行わなかったことにも違法性はない。 (2) 損害の有無(原告の主張)原告は,一部公開にすぎないのに全部公開とされた本件情報公開決定によって憲法21条に由来する知る権利を侵害され,条例1条に規定する情報の公開を求める権利も侵害されたのであり,かかる民主主義の前提を破壊しかね 一部公開にすぎないのに全部公開とされた本件情報公開決定によって憲法21条に由来する知る権利を侵害され,条例1条に規定する情報の公開を求める権利も侵害されたのであり,かかる民主主義の前提を破壊しかねない精神的自由権の侵害を慰謝するには100万円をもってすべきである。 (被告の主張)原告は,追加公開文書が,本件情報公開決定で公開対象文書として扱われなかったことに不満や怒りを覚えたにすぎないもので,このような場合に情報公開請求者に通常生ずる不満等が金銭をもって慰謝することを相当とするような法的救済に値する精神的苦痛とは認められない。また,上記不満等も本件情報公開決定の約2か月後の本件追加公開措置によって解消されたというべきであるから,原告に損害はない。 第3 争点に対する判断 1 前記争いのない事実及び証拠(甲1の1ないし4,甲2,3,甲4及び5の各1ないし8,甲6の1ないし4,甲7,証人A,証人B)によると,以下の各事実が認められる。 (1) 本件各文書の配布状況等当初公開文書及び追加公開文書は,本件会議において,前者は会議の配付資料として,後者は説明時の手持ち資料として,いずれもBが作成したものである。 本件会議は,水に関するフォーラムと地区懇談会の立ち上げのため,助役,企画課長,地域振興課長,水道施設課長,経済部次長及びBが出席して行われた。 本件会議の席上,あらかじめ当初公開文書が配付されていたが,行政以外の民間の団体による水問題に関する議論の動向を説明する段階,及び,鹿沼市の商工会議所が中心となって進めていたダム推進の動きを関係部署に周知する段階で,各出席者から理解を容易にするために資料を見せてほしいとの要望があり,Bが,手持ちの追加公開文書を順次出席者にコピーして配 工会議所が中心となって進めていたダム推進の動きを関係部署に周知する段階で,各出席者から理解を容易にするために資料を見せてほしいとの要望があり,Bが,手持ちの追加公開文書を順次出席者にコピーして配付した。 Bは,本件会議終了後,追加公開文書を机上に置いていってほしい旨出席者に告げて回収しようとしたが,出席者から持ち帰らせてほしいとの要望が出たため,メモという前提で上記要望に同意した。 (2) 情報公開請求及び不服申立ての一般的取扱い被告における条例に沿った情報公開請求の取扱いについては,総務課が所管する情報公開室で請求を受け付け,当該文書を所管する担当課が,総括部署である総務課と協議するなどした上,担当部長の決裁を得て公開・非公開等の意思決定を行う扱いとなっていた。文書の情報公開決定がされれば,その後の開示作業は,請求人は鹿沼市から受け取った決定の通知書を情報公開室まで持参して,総務課から閲覧ないし写しの交付を受ける形で実施されていた。 請求人から文書の情報公開決定に対する異議申立てがされた場合には,実質的な意思決定をした担当課で再度検討して,全面公開が相当であるとの意見になれば,それに沿った方向の処分を直ちに行うが,意見が従前と変わらない場合には,審査会に諮問して判断を仰ぎ,その答申に基づいて再度処分を行う扱いであった。 (3) 原告の情報公開請求及び異議申立てに対する被告側の対応原告からの情報公開請求に対して,Bは,本件会議の資料としてつづられていた追加公開文書の存在を認識していたが,飽くまで自己の説明用の手持ち資料として作成したものであり,公文書に当たらないとの考えから,追加公開文書について,情報公開の担当部署である鹿沼市総務部総務課と協議することなく,担当課として公開 が,飽くまで自己の説明用の手持ち資料として作成したものであり,公文書に当たらないとの考えから,追加公開文書について,情報公開の担当部署である鹿沼市総務部総務課と協議することなく,担当課として公開対象文書に当たらないと判断して決裁に回付し,その結果本件情報公開決定がされた。 これに対し,原告から本件情報公開決定に対する異議申立てがされたため,総務課の担当者であったAは,水資源対策課の担当と協議し,本件会議で配付された以上メモ的な手持ち資料とはいえないなどと強く指導して,公開対象文書に当たるとの意見を述べ,水資源対策課もこれに応じて本件追加公開措置を行うこととなった。その後,Aは,追加公開文書の写しを原告に直接交付するとともに,異議申立書を返戻し,原告はこれを受領した。 2 本件情報公開決定及びそれに伴う措置の当否(1) 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。 そうすると,公務員が与えられた裁量の範囲内で法令の定めるところに従って職務を執行している場合には,職務上の義務は尽くされているのであるから,事後的な司法判断により,公務員の行った処分が関係法規に照らして違法と評価され,あるいは取り消されたとしても,職務上の義務を尽くしている限り,国家賠償法上の違法性はないと解するのが相当である。 (2) そこで検討するに,条例は,市長,各種委員会及び議会等の実施機関の職員が職務上作成した文書であって,当該実施機関が管理しているもの(条例2条1項,2項)については,一定の非公開事由(条例6条)に該当しない限り公開すべきことを定めている。追加公開文書 の実施機関の職員が職務上作成した文書であって,当該実施機関が管理しているもの(条例2条1項,2項)については,一定の非公開事由(条例6条)に該当しない限り公開すべきことを定めている。追加公開文書は,前記認定のとおり,Bが本件会議における説明用の手持ち資料として作成した文書であり,会議の出席者の要望により席上配付されたため,水資源対策課において職務上の文書たる本件会議資料として管理していたものであって,本件情報公開条例が定める非公開事由にも何ら該当しないから,同条例2条1項にいう公開対象文書に該当する。したがって,本件会議資料として管理されていたにもかかわらず,事実上経るべき総務課との協議も経ずにBが独自の判断をした結果,本件会議資料の一部であるのに全面公開措置としてされた本件情報公開決定は,条例の趣旨に照らして不相当な措置であるといわなければならない。 (3) もっとも,本件会議において,追加公開文書が配布された経緯は,上記1(1)に認定したとおりであって,Bが出席者の要望に応じないで追加公開文書を手持ち資料にとどめていた場合には,「職務上作成された」とはいい難いし,会議後同文書の回収も図ろうとしているBにおいて,同文書が職務上の文書であるとの認識は希薄であったことがうかがわれるのであって,本件情報公開決定における公開対象文書に該当しないとの判断が誤りであったにせよ,その後の原告の異議申立てに対して追加公開文書の公開に応じていることも併せ考えると,鹿沼市長において,追加公開文書を隠ぺいしようとの意図があったとまでは認められない。 原告は,当時のダムを巡る情勢や文書の内容に照らして追加公開文書の当初の非公開措置には隠ぺいというべき有意性がうかがわれる旨主張するが,本件会議における追加公開文書の配布状況や本件会議の 原告は,当時のダムを巡る情勢や文書の内容に照らして追加公開文書の当初の非公開措置には隠ぺいというべき有意性がうかがわれる旨主張するが,本件会議における追加公開文書の配布状況や本件会議の目的等は前記認定のとおりであって,原告の上記主張は憶測の域を出るものではない。 したがって,本件情報公開決定は,公開対象とすべき文書を認識せず,あるいは公開対象文書に該当しないとした点において過誤があるものの,追加公開文書について非公開事由に当たると判断したり,文書の存在を殊更に隠ぺいしたわけではないから,請求者に対する非公開事由の通知義務という手続条項に違背した違法はないというべきである。 (4) そして,水資源対策課は,原告の異議申立てに対して,総務課との協議を経て,迅速に本件追加公開措置を行い,これを受けて,総務課は,原告の異議申立てから約2週間内に追加公開文書の交付をしており,これにより原告においても異議申立てを取り下げたものである。このような取扱いは,前記認定事実のとおり被告において通常されていたものであり,異議申立てに対して,原決定を行った実施機関が判断を再考の上これを是正することはもとより可能と解せられることからすれば,その結果として審査会への諮問を行わなかったとしても条例の規定に何ら反するものではない。 そうすると,本件情報公開決定自体は,上記のとおり,公開対象文書とすべき文書を看過して一部の文書のみを公開して全面公開措置とした不相当なものであったとしても,原告の異議申立てに応じて直ちに公開すべき文書を追加公開していることや,上記のとおり,Bにおいて追加公開文書を故意に隠ぺいしたとも認め難いこと等を考慮すると,原告の情報公開請求に対する鹿沼市長等の一連の情報開示手続は,原告の異議申立てに対 書を追加公開していることや,上記のとおり,Bにおいて追加公開文書を故意に隠ぺいしたとも認め難いこと等を考慮すると,原告の情報公開請求に対する鹿沼市長等の一連の情報開示手続は,原告の異議申立てに対する対応を含めて全体としてみれば,公務員の職務執行として適法な範囲内にとどまっており,鹿沼市長等が情報公開請求を行う個別の市民に対して負担する職務上の法的義務に違背したということはできない。 3 以上によれば,原告の被告に対する請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成16年8月18日)宇都宮地方裁判所第2民事部裁判長裁判官羽田弘裁判官今井攻裁判官馬場嘉郎

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