令和4(ワ)2974 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年3月19日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-92829.txt

判決文本文15,839 文字)

- 1 - 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告各自に対し、770万円及びこれに対する平成30年1月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、名古屋市立A中学校(以下「本件学校」という。)に在学していたB(以下「本件生徒」という。)の相続人である原告らが、本件学校を設置する被 告に対し、本件学校の教員が本件生徒に対する安全配慮義務に違反したことにより、本件生徒に対するいじめを防ぐことができず、本件生徒は自死に至るほどの精神的苦痛を被ったなどと主張し、また、名古屋市教育委員会及び本件学校は、本件生徒が自死したことについての調査報告義務に違反したり、卒業式等において原告らに対する配慮を欠いた違法な対応をしたりしたなどと主張し て、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金1540万円(原告各自に770万円)及びこれに対する本件生徒が死亡した日である平成30年1月5日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実)(1) 当事者ア原告らは、本件生徒(平成16年6月生まれ)の親である(以下、原告Cを「原告父」といい、原告Dを「原告母」という。)。 イ被告は、名古屋市教育委員会及び本件学校を設置する。 (2) 本件生徒は、愛知県外から転居し、平成29年9月1日から、転校先であ- 2 -る本件学校に通い始めた(甲9、乙3)。 (3) 平成29年11月後半頃 会及び本件学校を設置する。 (2) 本件生徒は、愛知県外から転居し、平成29年9月1日から、転校先であ- 2 -る本件学校に通い始めた(甲9、乙3)。 (3) 平成29年11月後半頃から同年12月前半頃までの間、本件学校のソフトテニス部において、特定の生徒が、本件生徒から練習相手を頼まれたにもかかわらず手伝わず、無視したことがあった。また、同じ頃、本件学校のソフトテニス部において、ほかの複数の生徒が、本件生徒の練習を手伝わない ことがあった。(以下「本件いじめ」という。甲2・27頁、弁論の全趣旨)(4) 本件生徒は、平成30年1月5日、自死した(以下「本件事故」という。)。 (5) 名古屋市教育委員会の附属機関として設置された名古屋市いじめ対策検討会議は、平成30年5月18日から本件事故について調査を実施し、平成31年4月9日、本件生徒に対するいじめがあったとまでは認められないこ と等を答申した(甲1)。 (6) 被告は、令和元年10月4日、名古屋市いじめ問題再調査委員会条例を制定し、名古屋市長の附属機関として名古屋市いじめ問題再調査委員会(以下「再調査委員会」という。)を設置した。再調査委員会は、令和2年3月14日から本件事故について再調査を実施し、令和3年7月30日、本件いじめ を認定すること等を内容とする調査報告書を作成した。(甲2) 2 争点(1) 本件生徒に対する安全配慮義務違反の有無(2) 原告らに対する調査報告義務違反の有無(3) 原告らを殊更に傷つける本件学校の対応の違法性 (4) 損害額 3 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件生徒に対する安全配慮義務違反の有無)(原告らの主張の要旨)アいじめ発生予防義務 本件学校の教員は、 (4) 損害額 3 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件生徒に対する安全配慮義務違反の有無)(原告らの主張の要旨)アいじめ発生予防義務 本件学校の教員は、いじめが発生しないように普段から生徒を指導し、- 3 -いじめが発生した場合すぐにこれを発見し、対策を執る体制を準備する義務を負う。 しかるに、本件学校の教員は、次のとおり、上記義務を怠った。 ① 本件生徒は初めて転校したものであり、2学期に愛知県外から転入したものであるから、特別な指導や配慮方針を定めて、より丁寧かつ個別 的な対応をすべきであった。しかるに、本件学校の教員は、学級担任を含めた丁寧な面接によって本件生徒の理解を深めることをせず、スクールカウンセラーや養護教諭を個別に引き合わせることもしなかった。 ② 本件生徒が「よりよい学校生活と友達づくりのためのアンケート hyper-QU」(学校生活における生徒個々の満足感や意欲、ソーシャ ルスキル及び学級集団の状態を質問紙によって測定する心理テスト。以下「ハイパーQU」という。)の「学級生活不満足群」であったにもかかわらず、一覧表に名前を記載するのみで何らの対応もしなかった。 ③ 過去のいじめ自死事案について2回の調査報告書が提出されているにもかかわらず、本件学校では全く活かされず、多くの教員は調査報告 書を読んでさえいなかった。 ④ 2週間に1回、いじめ等対策委員会を兼ねた主任会が開催されていたが、いじめがあるかもしれないという視点で会議が行われていなかった。 ⑤ 生徒がいじめについてスクールカウンセラーに相談できる体制になっていなかった。 ⑥ ソフトテニス部の顧問は、部員が8名も退部していたにもかかわらず、いじめを疑おうとせず、いじめがあるかもしれ 徒がいじめについてスクールカウンセラーに相談できる体制になっていなかった。 ⑥ ソフトテニス部の顧問は、部員が8名も退部していたにもかかわらず、いじめを疑おうとせず、いじめがあるかもしれないという視点を持っていなかった。 イいじめ発見義務本件学校の教員は、いじめを疑わせる徴表となる事実があるときは、被 害者と思われる生徒及び周囲の生徒からの聴き取り、保護者との協議、ア- 4 -ンケートの実施等の措置を執り、いじめを発見する義務を負う。 これを本件についてみると、①本件生徒は初めて転校したものであり、2学期に愛知県外から転入したものであるから、いじめの対象になりやすい。また、②本件生徒は、「気づいてる?こころのSOS」のアンケート(以下「こころのSOSアンケート」という。)において「言われて悲しかった 言葉」を複数記載し、ハイパーQUの結果は「学級生活不満足群」であった。③さらに、本件生徒が作成した生活ノートは、平成29年10月初旬頃から字体が徐々に崩れ始め、同年11月9日には「つかれました」のみの記載にとどまるなど、一言や1行程度の記載にとどまることが増え、同年12月後半は「寒いです。」の記載が続いていた。以上によれば、本件学 校の教員は、本件生徒がいじめを受けていることを疑うことができたものであるから、本件生徒に丁寧な面接をしたり、養護教諭に引き合わせたり、原告らに十分な説明をしたり、教員同士で十分な情報共有をしたりすべきであったのに、これをせず、いじめを発見しなかった。 (被告の主張の要旨) 被告には、次のとおり、本件いじめに対する予見可能性がなく、また、通常尽くすべき注意義務を尽くしていなかったとはいえないから、安全配慮義務違反は認められない。 ① 本件いじめは、一般人からみ 被告には、次のとおり、本件いじめに対する予見可能性がなく、また、通常尽くすべき注意義務を尽くしていなかったとはいえないから、安全配慮義務違反は認められない。 ① 本件いじめは、一般人からみて精神的に苦痛を感じるほどの行為であると断定することはできないものであり、名古屋市いじめ対策検討会議がい じめを認定できないとしたことも踏まえると、本件学校の教員がいじめを予見することは不可能又は著しく困難であった。 ② こころのSOSアンケート及びハイパーQUを実施した時点では、本件いじめは発生していないから、これらの結果から、本件学校の教員が本件いじめを発見し、認識することはできなかったものである。 ③ こころのSOSアンケートについて、本件生徒はいじめを疑うべき項目- 5 -にチェックを入れていなかったし、担任の教員は日頃から本件生徒に声かけをしていたものである。 ④ ハイパーQUの結果について、本件生徒の評価は総合評価で5段階中下から2番目に低い「学級生活不満足群」であり、個別面接等が必要な「要支援群」とされているものとは異なり、必ずしも個別面接等の対応が必要 な状態ではなかった。 ⑤ 生活ノートの記載について、本件生徒は本件いじめがあったとされる時期の以前からコメント欄に寒い旨を複数回記載したり、一言だけ記載したりしており、本件生徒の精神状態が乱れていたと判断することは不可能又は著しく困難であるし、担任の教員は声かけのコメントを記載し、本件生 徒の気持ちに寄り添っていたものである。 ⑥ 教育相談アンケートによれば、いじめ被害を示唆する事情は全くうかがわれず、三者面談においても、担任の教員は本件生徒と原告母にハイパーQUの結果を示した上で、不安なことや気になっていることはないかと問いかけをし、本件生 よれば、いじめ被害を示唆する事情は全くうかがわれず、三者面談においても、担任の教員は本件生徒と原告母にハイパーQUの結果を示した上で、不安なことや気になっていることはないかと問いかけをし、本件生徒は「特にない」と返答していたものである。 (2) 争点(2)(原告らに対する調査報告義務違反の有無)(原告らの主張の要旨)いじめ等学校での出来事によって生徒が死亡したことが疑われる事件が発生した場合には、学校及び教育委員会は、いじめ防止対策推進法28条1項の趣旨や条理に基づき、学校で生じていた事実を調査し、その結果を遺族に 報告する義務を負う。 しかるに、本件学校及び名古屋市教育委員会は、平成30年1月に実施した本件学校の全校生徒に対するアンケートの結果、いじめの存在が疑われたにもかかわらず、いじめ防止対策推進法28条1項所定の重大事態として取り扱おうとしなかった。また、再調査委員会が本件学校に事情聴取のための 場所の提供を依頼したにもかかわらず、本件学校は、新型コロナウイルス感- 6 -染症の感染拡大を理由にこれを拒否した。さらに、本件学校及び名古屋市教育委員会は、再調査委員会から、本件学校の校長及び教頭が作成したとされるファイルの提出を求められたにもかかわらず、校長が作成したとされるファイルを提出しなかった。 (被告の主張の要旨) いじめ防止対策推進法28条1項に基づく調査報告義務は、被告と本件生徒及び原告らとの間で具体的な権利義務を形成する法的効果を生じさせるものではない。また、名古屋市教育委員会は、記名式アンケート及び無記名式アンケートを実施し、生徒への面談や教員への聴き取りをした上で、調査報告書を作成し、原告らに交付したものであり、その調査・報告に裁量権の逸 脱・濫用はなか 員会は、記名式アンケート及び無記名式アンケートを実施し、生徒への面談や教員への聴き取りをした上で、調査報告書を作成し、原告らに交付したものであり、その調査・報告に裁量権の逸 脱・濫用はなかった。 重大事態と直ちに認定しなかったのは、本件生徒について、いじめの事実を確認できず、なお調査中であり、名古屋市教育委員会や本件学校が聴き取り調査をした上で、いじめの有無を確認する方針で動いていたからである。 当時の本件学校の校長及び教頭が作成した2冊のファイルについては、後任 の教頭によって1冊のファイルに綴じ直されたため、校長が作成したファイル1冊が提出されていないとされたものである。 (3) 争点(3)(原告らを殊更に傷つける本件学校の対応の違法性)(原告らの主張の要旨)ア本件学校は、令和2年2月28日、卒業式の予行演習を行い、その際、 卒業生は体育館に集まって、一人ずつ壇上で卒業証書を受け取り、写真撮影をした。上記予行演習において写真撮影をすることは同月25日頃には予定していたはずであり、少なくとも同月27日には決定していたのであるから、本件学校は、原告らに対して、その旨を伝えた上で出席するかを問い合わせるべきであった。しかるに、本件学校は、その旨を原告らに知 らせなかったため、原告らは、他の卒業生と一緒の卒業式に参加すること- 7 -ができず、写真撮影をすることができなかった。 イ本件学校は、令和2年3月3日の卒業式の際、生徒及び保護者がいない場所で、原告父に対して卒業証書を授与した。 ウ本件学校の校長及び教頭は、ソフトテニス部の合宿は顧問がプライベートで行っていることで本件学校とは無関係である旨主張した。 エ本件学校の校長は、本件事故の直後、原告父に対し、「(本件 ウ本件学校の校長及び教頭は、ソフトテニス部の合宿は顧問がプライベートで行っていることで本件学校とは無関係である旨主張した。 エ本件学校の校長は、本件事故の直後、原告父に対し、「(本件生徒は合宿に行こうとして)誰も来ないので、あれおかしいなということで一旦家まで戻って(中略)あれどこかなと思って結局9階まで上って皆の集合場所どこかなと思って無防備にあそこから見(て落ち)たのかなと僕は思ったんですよ。」と、本件生徒が自分の不注意で死亡したかのような心ない発言 をした。 オ本件学校は、原告らの再三の求めにもかかわらず、本件事故後1年以上にわたり保護者会を開催せず、教育委員会もこれに対して何ら指導しなかった。 (被告の主張の要旨) ア卒業式の参加について、そもそも被告には原告らの要望に応えるべき法的義務が存在しない。 イ当初予定されていた卒業式では、原告らの要望にできる限り配慮し、体育館で本件生徒の名前を読み上げ、原告父が壇上で卒業証書を受け取り、門出の際にも他の卒業生と同様のルートで歩行することを計画していた。 しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、内閣総理大臣からの要請を受け、本件学校は、令和2年2月28日、卒業式を各教室で行うこととした。そして、原告らが卒業証書を特定のクラスで受け取ることは困難であったため、原告らが卒業証書を体育館で受け取る様子を撮影し、その映像を校内放送で流し、他の卒業生らも共に本件生徒の卒業を祝うこ とを計画し、原告らの気持ちにできる限り配慮していたものである。本件- 8 -学校が原告ら代理人に対して予行演習に参加するか否かを問い合わせたのは、卒業式の内容を縮小することを決定した同日より前の時期であり、改めて原告らに予行演習への参加の たものである。本件- 8 -学校が原告ら代理人に対して予行演習に参加するか否かを問い合わせたのは、卒業式の内容を縮小することを決定した同日より前の時期であり、改めて原告らに予行演習への参加の確認をすることはできなかった。 ウ本件学校の校長及び教頭は、ソフトテニス部の顧問から、「これ(合宿)は部活動ではなく任意のもの」として行われている旨の説明を受けていた ことから、「顧問がプライベートでやっている」、「クラブチーム的なものだと理解している」と述べたにとどまり、合宿が本件学校とは無関係であるとは主張していない。 エ本件学校の校長が本件事故直後に原告父に対してした発言については、原告父に配慮した上で行ったものであり、原告父から特段、非難や不満を 示されてはおらず、違法と評価されるべきものではない。 オ本件学校は、平成31年4月17日に臨時保護者会を開催している。それ以前に保護者会を開催していなかったのは、いじめ対策検討会議による答申がされるまでの間、本件生徒の自死の原因などを断定できず、的確な状況説明が困難であったためである。なお、ソフトテニス部の保護者に対 しては本件事故の当日に事情を説明し、その他の保護者に対しては平成30年1月9日付けの説明文書を発出している。 (4) 争点(4)(損害額)(原告らの主張の要旨)ア本件生徒は、被告の安全配慮義務違反により、自死を選択することがあ り得るほどの精神的苦痛を受け続けたものであり、その慰謝料は少なくとも1000万円を下らない。なお、その慰謝料請求権は、本件生徒の死亡により、原告らが等分に500万円ずつ相続している。 イ原告らは、本件生徒が酷い精神的苦痛を受け続けたこと自体に親として非常に大きな精神的苦痛を味わった。ま の慰謝料請求権は、本件生徒の死亡により、原告らが等分に500万円ずつ相続している。 イ原告らは、本件生徒が酷い精神的苦痛を受け続けたこと自体に親として非常に大きな精神的苦痛を味わった。また、原告らは、名古屋市教育委員 会及び本件学校の調査報告義務違反や原告らを殊更に傷つける対応によ- 9 -って激しい精神的苦痛を受けたものであり、その慰謝料は少なくとも原告各自に対し200万円を下らない。 ウ本件訴訟の難易度や訴訟に至る経過などを考慮すれば、原告各自について、少なくとも70万円の弁護士費用が被告の安全配慮義務違反によって生じた損害となる。 エ以上によれば、原告各自の損害額は770万円である。 (被告の主張の要旨)争う。 なお、再調査委員会の調査報告書では、本件生徒は本件いじめを含む様々なストレスが複合した結果、自死に至ったものと認定されている。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件生徒に対する安全配慮義務違反の有無)について(1) 認定事実前記前提事実に当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 ア本件学校が、平成29年10月11日、本件生徒に対し、こころのSOSアンケートを実施したところ、本件生徒は、次のとおり、「こころの元気(おつかれ度)」の21項目中8項目にチェックをした。 1 最近、悲しいことやつらいことがあった 5 朝、こころやからだがだるくて動きたくない 9 泣きたいような気持ちになる 10 ちゃんとやらなきゃいけないと焦ってしまう 11 失敗をしてしまうのではないかと不安 12 自分のことが好きだと思え 9 泣きたいような気持ちになる 10 ちゃんとやらなきゃいけないと焦ってしまう 11 失敗をしてしまうのではないかと不安 12 自分のことが好きだと思えない 14 やろうと思うことがうまくできない 21 友だちは本当の自分のことをわかっていないと思う- 10 -また、本件生徒は、「こころが苦しくなった時、相談しますか?」という問いに対し、「はい」を選択し、「誰に相談していますか?」という問いに対し、「友達」と記載した。 そして、本件生徒は、言われてうれしかった言葉をハートの形の中に、悲しかった言葉をその外に記載するというアンケートに対し、ハートの形 の中に「足速いね。」「がんばってー!」「ありがとう。」「面白い!」「すごい!」「一緒にしよっ!」と記載し、ハートの形の外に「〇人だけで話したい。」「こっちこないで。」「何がしたいの?」「しょうもない。」と記載した。 (甲2・16頁、51頁、乙1(枝番を含む。))イ本件学校は、平成29年10月19日、本件生徒に対し、ハイパーQU を実施した。 ハイパーQUの結果において、本件生徒は、承認得点(自分の存在や行動が、級友や教師から承認されていると感じている度合い)が低く、被侵害得点(不適応感やいじめ・冷やかしなどを受けていると感じている度合い)が高い、「学級生活不満足群」に該当するとされた。 なお、ハイパーQUの実施要領において、「学級生活不満足群」に該当する児童は、いじめ被害や悪ふざけを受けている可能性が高いと思われるとされている。また、「要支援群(学級生活不満足群の中でも特に承認得点が低く、被侵害得点が高いもの)」の生徒には早急な対応が必要であるとされている。 本件学 けている可能性が高いと思われるとされている。また、「要支援群(学級生活不満足群の中でも特に承認得点が低く、被侵害得点が高いもの)」の生徒には早急な対応が必要であるとされている。 本件学校の教員は、上記ハイパーQUの結果について、本件生徒が「要支援群」に該当しなかったことから、学年で情報共有をすることまではしなかった。 (甲2・57頁、甲7の2、乙17)ウ本件生徒は、平成29年11月2日、ソフトテニス部への入部届を提出 した(乙3)。 - 11 -エ本件学校が、平成29年11月17日、本件生徒に対し、教育相談アンケートを実施したところ、本件生徒は、次のとおり回答した(甲2・21頁、乙19)。 「1.あなたは学校が楽しいですか。」という問いに対し、「②どちらかといえば楽しい」を選択し、「友達もできてきて、部活も始めたから。」と 理由を記載した。 「2.あなたは家庭での生活が楽しいですが。」という問いに対し、「②どちらかといえば楽しい」を選択し、「話がはずむから。」と理由を記載した。 「4.あなたは校内に親しい友達がいますか。」という問いに対し、「① いる」を選択し、具体的な友人の名前を2名記載した。 「5.あなたは校内で気のあわない人はいますか。」という問いに対し、「①いる」を選択した。 「6.あなたは校内や登下校時などで、いやがらせ・おどし・暴力などを受けたことがありますか。」という問いに対し、「②受けたことも、見た こともない」を選択した。 「7.現在、不満に思っていることや悩んでいることがあれば書いてください。学校や学級、友達、家庭、自分のことなど何でもかまいません。」という問いに対し、何も記載をしなかった。 「8.担任以外に相談したいことはありますか。」という問い んでいることがあれば書いてください。学校や学級、友達、家庭、自分のことなど何でもかまいません。」という問いに対し、何も記載をしなかった。 「8.担任以外に相談したいことはありますか。」という問いに対し、「② ない」を選択した。 オ原告母は、本件生徒から、特定の生徒が本件生徒から練習相手を頼まれたにもかかわらず練習を手伝わず、無視したことがあった旨を聞いたことがあった(甲2・27頁、弁論の全趣旨)。 カ本件学校の教員は、平成29年12月13日、本件生徒及び原告母と三 者面談を実施し、ハイパーQUの結果(「学級生活不満足群」と記載された- 12 -ものではなく、花が咲いている図で表したもの)を示し、本件生徒に対し、「不安なことや気になっていることはないか」と聞いたところ、本件生徒は「特にない」と答えた(甲2・21頁、53頁、57頁)。 キ本件生徒は、平成29年12月18日から同月20日までの間、生活ノートのコメント欄に、「寒いです。」とだけ記載した(なお、同月21日は 終業式であり、同日以降のコメント欄に記載はない。甲9、26、乙3)。 ク本件生徒は、ソフトテニス部の合宿が予定されていた平成30年1月5日の朝、自宅である集合住宅の9階部分から転落し、自死した(甲1、3)。 (2) 検討ア公立中学校の教員は、学校における教育活動及びこれに密接に関連する 生活関係において、生徒の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うところ、①ある生徒がいじめを受けるおそれがあることを具体的に予見することができた場合には、当該生徒に対するいじめの発生を防止(予防)すべき義務を、②ある生徒がいじめを受けていることを具体的に認識することができた場合には、当該生徒に対 それがあることを具体的に予見することができた場合には、当該生徒に対するいじめの発生を防止(予防)すべき義務を、②ある生徒がいじめを受けていることを具体的に認識することができた場合には、当該生徒に対す るいじめを発見すべき義務を、それぞれ負うと解される。 以下、本件について検討する。 イいじめ予防義務について(ア) 本件生徒は、平成29年9月1日(本件学校の2学期途中)に愛知県外から転入したものであり(前記前提事実(2))、学校生活に慣れるまで、 学習進度や他の生徒との関係等について特に配慮を要する存在であったといえる。また、本件学校が実施したアンケートについて、平成29年10月11日に実施したこころのSOSアンケートでは、「言われて悲しかった言葉」が複数記載されていた(前記認定事実ア)。さらに、平成29年10月19日に実施したハイパーQUの結果では、本件生徒は、い じめ被害や悪ふざけを受けている可能性が高いと思われるとされる「学- 13 -級生活不満足群」に該当するとされた(同イ)。 以上によれば、本件学校の教員は、本件いじめが発生する前の平成29年10月下旬の時点において、本件生徒が何らかのいじめや悪ふざけを受けるおそれがあることを一般的、抽象的には予見することができたといえる(本件生徒が当時いじめを受けていた事実を認めるに足りる証 拠はないから、本件学校の教員が、本件生徒が当時いじめを受けていた事実を認識することができたとは認められない。)。しかるに、本件学校は、ハイパーQUの結果等を踏まえて、本件生徒に対して特段の対応をしていなかったから(前記認定事実イ)、「学級生活不満足群」に該当する生徒に対して十分な対応をしたとはいい難い。 (イ) 他方、前記(ア)のこころのSO まえて、本件生徒に対して特段の対応をしていなかったから(前記認定事実イ)、「学級生活不満足群」に該当する生徒に対して十分な対応をしたとはいい難い。 (イ) 他方、前記(ア)のこころのSOSアンケートでは、「言われてうれしかった言葉」も複数記載されていた(前記認定事実ア)。また、本件生徒は平成29年10月当時ソフトテニス部に正式には入部していなかった(同ウ)。さらに、生活ノートの記載について、本件いじめが発生するまでの間に、一見して明らかな文字の乱れや記載内容の変化はなかった(甲 9、26、乙3)。 (ウ) そうすると、本件学校の教員が、平成29年10月当時、本件いじめを具体的に予見することができたとはいえないから、直ちに本件生徒に丁寧な面接をしたり、養護教諭に引き合わせたり、原告らに十分な説明をしたり、教員同士で十分な情報共有をしたりすべき義務を負っていた ものとはいえない。 ウいじめ発見義務について(ア) 本件生徒は、平成29年12月18日から同月20日までの間、生活ノートのコメント欄に、「寒いです。」とだけ記載した(前記認定事実キ)。この事情は、本件生徒が何らかの悩みを抱えているのではないかとの 疑いを抱かせ得るものであるといえるが、これをもって直ちに本件いじ- 14 -めを具体的に認識することができたとはいえない。 (イ) 他方、本件学校が平成29年11月17日に実施した教育相談アンケートにおいて、本件生徒は、「1.あなたは学校が楽しいですか。」という問いに対し、「②どちらかといえば楽しい」を選択し、「友達ができてきて、部活も始めたから。」と理由を記載したり、「6.あなたは校内や 登下校時などで、いやがらせ・おどし・暴力などを受けたことがありますか。」という問いに対し、「②受け を選択し、「友達ができてきて、部活も始めたから。」と理由を記載したり、「6.あなたは校内や 登下校時などで、いやがらせ・おどし・暴力などを受けたことがありますか。」という問いに対し、「②受けたことも、見たこともない」を選択したりするなどしており(前記認定事実エ)、本件いじめの存在を明らかにしたり、本件いじめの存在を疑わせるような事情を記載したりはしなかった。また、本件学校の教員が、平成29年12月13日、本件生徒 及び原告母と三者面談を実施し、「不安なことや気になっていることはないか」と聞いたところ、本件生徒は「特にない」と答えた(同カ。なお、原告母は、当時、本件生徒から、特定の生徒が本件生徒から練習相手を頼まれたにもかかわらず練習を手伝わず、無視したことがあったことを聞いていた。)。 (ウ) 以上によれば、本件学校の教員が、平成29年12月当時、本件いじめを具体的に認識することができたとはいえないから、直ちに本件生徒に丁寧な面接をしたり、養護教諭に引き合わせたり、本件生徒の両親に十分な説明をしたり、教員同士で十分な情報共有をしたりすべき義務を負っていたものとはいえない。 エよって、被告が本件生徒に対する安全配慮義務に違反したとはいえない。 (3) これに対して、原告らは、本件学校が転入生である本件生徒について特別な指導や配慮方針を定めていなかったこと、ハイパーQUの結果を学年で情報共有していなかったこと、過去のいじめ自死事案についての報告書が全く活かされていなかったこと、いじめ等対策委員会においていじめがあるかも しれないという視点で会議が行われていなかったこと、生徒がいじめについ- 15 -てスクールカウンセラーに相談できる体制になっていなかったこと等を指摘し、本件学校にはいじ じめがあるかも しれないという視点で会議が行われていなかったこと、生徒がいじめについ- 15 -てスクールカウンセラーに相談できる体制になっていなかったこと等を指摘し、本件学校にはいじめの予防及び発見において体制上の問題があった旨の主張をする。 確かに、本件学校の設置者である被告は、いじめの発生を予防し、発見するために、原告らの主張するような体制を準備すべきであると一般的にいう ことはできる。また、再調査委員会が本件学校のいじめ等対策委員会は形骸化しており実態がなかったなどと指摘していること(甲2・62頁等)からして、本件学校のいじめを予防し、発見するための体制には改善の必要があったと考えられる。 しかしながら、本件において、原告らの主張するような体制を準備したか らといって、直ちに本件いじめの存在を予見し、その発生を予防したり、発見したりすることができたとは認め難く、被告が上記の体制を準備しなかったことについて安全配慮義務違反を理由とする損害賠償責任を負うものとはいえない。 したがって、原告らの主張は採用することができない。 2 争点(2)(原告らに対する調査報告義務違反の有無)について本件学校及び名古屋市教育委員会が、いじめ防止対策推進法28条1項の規定の趣旨や条理に基づいて原告らに対して調査報告義務を負うか否かは措くとしても、本件学校の設置者である被告(名古屋市)は、令和3年7月に再調査委員会名義の調査報告書を提出したものである。そして、本件全証拠によって も、上記報告書の提出が原告らの主張する調査報告義務に違反することを根拠付ける具体的事実を認めるに足りない。 なお、原告らは、本件事故が発生した当初の本件学校の対応や再調査委員会に対する本件学校等の対応について の提出が原告らの主張する調査報告義務に違反することを根拠付ける具体的事実を認めるに足りない。 なお、原告らは、本件事故が発生した当初の本件学校の対応や再調査委員会に対する本件学校等の対応についてるる主張するが、上記各対応が上記調査報告書の提出と別個独立に国家賠償法1条1項の適用上違法になるものとはいえ ない。 - 16 - 3 争点(3)(原告らを殊更に傷つける本件学校の対応の違法性)について(1) 卒業式の参加についてア認定事実前記前提事実に当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 (ア) 本件学校は、令和2年2月20日の時点で、原告ら代理人に対し、同年3月3日の卒業式の際、本件生徒の遺族が卒業式に参加することを認め、本件生徒の名前を呼び、遺族が卒業証書を受け取ることを予定している旨を連絡していた(甲19の1、2)。 (イ) 本件学校の教頭は、令和2年2月25日又は同月26日頃 、原告ら代 理人に対し、卒業式の予行演習を行うが、原告らが出席するかを問い合わせた(弁論の全趣旨)。 (ウ) 本件学校は、令和2年2月27日、第15回新型コロナウイルス感染症対策本部において内閣総理大臣より同年3月2日から春休みまでの間臨時休業を要請する方針が示されたことを受け、カメラマンに対し、同 年2月28日の予行演習での写真撮影を依頼した(弁論の全趣旨)。 (エ) 本件学校は、令和2年2月28日、卒業式の予行演習を行った(乙14)。この際、卒業生は、一人ずつ壇上で卒業証書を受け取り、写真撮影をした。原告らは、この予行演習に参加しなかった。 (オ) 名古屋市教育委員会は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、令和 2年2月28日午前9時30分、名古屋市立 業証書を受け取り、写真撮影をした。原告らは、この予行演習に参加しなかった。 (オ) 名古屋市教育委員会は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、令和 2年2月28日午前9時30分、名古屋市立学校長に対し、同年3月2日(月曜日)から学年末休業まで、全名古屋市立学校の臨時休業を決定するとともに、卒業式については、万全の体制(ママ)をとった上で実施できる旨を連絡した(乙10の1、2)。これを受けて、本件学校は、同年2月28日の予行演習の開始後に、卒業式は各教室で行い、校長式辞は 放送で、卒業証書の授与は各担任から行うこと、保護者で式への参加を- 17 -希望するものは各教室に入ること等を決めた(乙11、弁論の全趣旨)。 (カ) 原告父は、令和2年3月3日に行われた本件学校の卒業式の際、体育館において、校長から卒業証書を受け取った。その様子は、校内放送で各教室に上映された。(乙12、13)イ以上の事実によれば、本件学校の教頭が原告ら代理人に対して卒業式の 予行演習について説明した時点では、卒業式の際、原告らが他の卒業生と共に卒業式に参加し、卒業証書を受け取ることが予定されていたのであるから、上記予行演習には純然たる予行演習を超える特段の意義はなかったものである。そうすると、上記の時点において、本件学校の教頭が、原告らに対し、上記予行演習において写真撮影をすることなどを原告らに知ら せるべきであったものとはいえない。 これに対し、原告らは、上記予行演習において写真撮影をすることは令和2年2月25日頃には予定していたはずであり、少なくとも同月27日には決定していたのであるから、本件学校は、原告らに対して、その旨を伝えた上で出席するかを問い合わせるべきであった旨の主張をする。しか しながら、遺族に対する はずであり、少なくとも同月27日には決定していたのであるから、本件学校は、原告らに対して、その旨を伝えた上で出席するかを問い合わせるべきであった旨の主張をする。しか しながら、遺族に対する配慮としての是非は措くとしても、本件学校は同月25日又は同月26日頃に原告ら代理人に対して上記予行演習への出席の有無を問い合わせていたものであり、改めて原告らが主張するような問合せをすべき義務を当然に負うものではないから、原告らの主張は採用することができない。 そのほか、令和2年3月3日当時、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まっていたことは公知の事実であるところ、当時の状況に照らして、卒業式を各教室で行い、中学3年生の特定のクラスに属していない本件生徒の保護者は体育館で卒業証書を受け取ることとすることが、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものとはいえない。 (2) 本件学校の校長及び教頭の主張について- 18 -本件学校の校長及び教頭は、本件事故の後間もない平成30年1月の時点で 、ソフトテニス部の合宿は顧問がプライベートで行っていることであるとの認識を示していた(甲25の1・3頁、甲25の2・2頁、弁論の全趣旨)。その認識が誤っているか、あるいは事実の評価として不当であるとしても(甲2・64頁参照)、当時、本件学校の校長及び教頭が、その認識が誤っ ていることなどを知りながらあえて原告らの心情を傷つける意図で上記認識を示したなどの事情はうかがわれないから、上記認識を示すことが直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものとはいえない。 (3) 本件学校の校長の発言について原告らは、本件学校の校長が、本件事故の直後、原告父に対し、「(本件生 徒は合宿に行こうとして)誰も来ないので、 上違法の評価を受けるものとはいえない。 (3) 本件学校の校長の発言について原告らは、本件学校の校長が、本件事故の直後、原告父に対し、「(本件生 徒は合宿に行こうとして)誰も来ないので、あれおかしいなということで一旦家まで戻って(中略)あれどこかなと思って結局9階まで上って皆の集合場所どこかなと思って無防備にあそこから見(て落ち)たのかなと僕は思ったんですよ。」と発言した旨主張し、被告は、この事実を明らかに争っていない。 本件学校の校長が上記の発言をしたとすると、本件生徒が自死したという事実が明らかになった現時点から遡って考えれば、遺族に対する配慮が不足した発言であったといわざるを得ない。しかしながら、遺族に対する配慮を欠く発言があったとしても、それが直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものとはいえない。また、原告らの主張を前提としても、上 記発言は本件事故の直後にされたというのであり、当時は詳細な事実関係が明らかでなかったのであるから、その時点においては、上記発言が著しく不適切であったものとは必ずしもいえない。 (4) 保護者会の開催について原告らが保護者会の開催を求めたからといって、本件学校がこれをすべき 義務を当然に負うものとはいえない。そして、本件全証拠によっても、本件- 19 -学校が本件事故を受けて保護者会を開催すべき法的義務を負うものと解すべき根拠となる具体的事実を認めるに足りない。 第4 結論よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第7部 裁判長裁判官齋藤毅 主文 いからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 理由 名古屋地方裁判所民事第7部 裁判長裁判官齋藤毅 裁判官河野申二郎 裁判官飯塚大航

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る