平成16(行ヒ)46 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年11月15日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 大阪高等裁判所 平成15(行コ)41
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判決文本文4,335 文字)

主文 原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人堀岩夫の上告受理申立て理由(3を除く。)について 1 本件は,篠山市(以下「市」という。)の住民である被上告人が,市の助役が民間団体の開催する会合に出席した際にされた市長交際費の支出は違法であるなどと主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,市長の職にある上告人に対し,支出相当額の損害賠償を求める事案である。 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 市近郊に居住する者で旧海軍の軍務に従事した経歴のあるものが会員となって「D」という団体(以下「本件団体」という。)が組織されており,その会員数は平成13年9月当時で41人であった。本件団体は,清掃奉仕活動として,年1回,約15人の会員が参加し,約2時間にわたって,市が管理している墓地の草刈り作業を行っていた。 (2) 上告人は,本件団体から,平成12年9月に開催される総会への招待を受けた。市の助役が,上告人に代わって総会に出席し,総会に引き続いて開催された飲食を伴う懇親会にも出席した。市の助役が上記のとおり出席したことに伴い,市から本件団体に対し,祝儀として1万円(以下「本件金員」という。)が交付された。本件金員は,市長交際費から支出された。 (3) 本件団体の会員で上記懇親会に出席した者は,懇親会費として各5000円を支払ったが,懇親会費用の不足分には,本件団体の会員が支払っている年会費の中から合計1万8000円が充てられた。 - 1 -(4) 市における市長交際費の支出基準(以下「本件支出基準」という。)は,慶祝に関する支出 用の不足分には,本件団体の会員が支払っている年会費の中から合計1万8000円が充てられた。 - 1 -(4) 市における市長交際費の支出基準(以下「本件支出基準」という。)は,慶祝に関する支出について,会費制で祝賀会等に出席する場合は,一般参加者と同額を支出すること,招待等で会費の明示のない場合は,会費相当額を支出することができること,各種団体の通常総会等,定例的に開催される催しについては,原則として支出しないことを定めている。 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の本件金員に係る請求を一部認容すべきものとし,上告人に市に対する5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じた。 市長又は助役が,本件団体の総会及びそれに引き続いて行われた飲食を伴う懇親会に出席するに当たっては,本件支出基準の「招待等で会費の明示のない場合」として,社会通念上相当と判断される会費相当額の限度で,交際費を支出することができると解するのが相当である。そして,本件団体の会員が懇親会に出席するに当たって支払った懇親会費が5000円であり,不足分があれば会員の年会費の中から賄うこととされてはいるものの,実際に賄われた会員1人当たりの不足額はごくわずかであることに照らせば,懇親会出席に当たって社会通念上相当と判断される会費相当額は5000円であると認めるのが相当である。したがって,本件金員の支出は,相当と判断される会費相当額5000円を超える限度で違法なものというべきである。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 前記事実関係によれば,懇親会費用には,出席した会員が各自支払った懇親会費のほか,本件団体の年会費から拠出された金員も充てられたというのであるから,懇親会の会費相当額は 由は,次のとおりである。 前記事実関係によれば,懇親会費用には,出席した会員が各自支払った懇親会費のほか,本件団体の年会費から拠出された金員も充てられたというのであるから,懇親会の会費相当額は1人当たり5000円を超えるものであったということができる。この点につき,原審は,その超過額はごくわずかであると判断するにとどま- 2 -り,具体的に確定していない。さらに,本件金員は,祝儀として市長交際費から支出されたものであるところ,本件団体は無償で市の管理する墓地の草刈りをしている団体であるというのであるから,本件金員は,単に懇親会の会費としての性質を有するにとどまらず,本件団体による労働奉仕に謝意を示す性質をも有していたのではないかということがうかがわれる。そうすると,本件金員を支出した理由に関する上記のような事情の有無を検討しなければ,本件金員の支出が会費相当額として社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するものであるか否かを判断することはできないというべきである。 5 以上によれば,上記の点について確定することなく,本件金員のうち本件団体の会員が各自支払った懇親会費の額を超える部分の支出を直ちに違法であると断じて上告人の責任を肯定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,その余について判断するまでもなく,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところに従って更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官上田豊三の補足意見がある。 裁判官上田豊三の補足意見は,次のとおりである。 私は法廷意見に賛成するものであるが,原審の審理判断には次の点においても問 致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官上田豊三の補足意見がある。 裁判官上田豊三の補足意見は,次のとおりである。 私は法廷意見に賛成するものであるが,原審の審理判断には次の点においても問題があると考えるので,補足しておきたい。 1 本件記録によれば,次の経緯が認められる。 すなわち,被上告人は,平成13年8月23日,篠山市監査委員に対し,上告人が本件金員等の市長交際費を支出したことは違法,不当であるとして,支出した金額相当分を上告人から市へ返還するように求める旨の住民監査請求をした。同監査- 3 -委員が被上告人の請求を理由がないものとしたので,被上告人は本件訴えを提起した。被上告人は,訴状において,損害賠償請求の対象とする財務会計上の行為を具体的に記載していなかったところ,第1審の第1回口頭弁論期日において,本件金員相当額につき損害賠償を請求する旨を明らかにしたが,本件金員に係る財務会計上の行為の主体について明示的に主張しなかった。他方,上告人は,答弁書において,訴状には明確な記載はないとしながらも,本件団体の総会に市の助役が出席し,会費相当額として本件金員を市長交際費から支出しているが,社会通念上許された額であり違法なものではない旨を主張したが,その後の主張においても,本件金員に係る財務会計上の行為の主体については明示的に主張しなかった。 2 普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を,補助職員が専決により処理し,又は委任を受けた補助職員が処理した場合,長は,補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体が被った損害を賠償する義務を負う(最高裁平成2年(行ツ)第1 監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体が被った損害を賠償する義務を負う(最高裁平成2年(行ツ)第137号同3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁,最高裁昭和62年(行ツ)第148号平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁,最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁参照)。 本件の事実関係によれば,本件団体の総会等には市長に代わって助役が出席し,また,本件金員の額は1万円であるというのであるから,本件金員に係る財務会計上の行為の権限は補助職員の専決に任されている蓋然性がある。したがって,上記の財務会計上の行為が違法であるとしても,これを上告人から専決を任された補助職員が行ったかどうか,もし,補助職員が行ったとすれば,上告人が補助職員の財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により- 4 -これを阻止しなかったかどうかを認定,判断しなければ,本件金員に係る財務会計上の違法行為についての上告人の責任の有無を判断することはできないというべきである。 なお,普通地方公共団体の住民が,法242条の2第1項4号に基づき,普通地方公共団体の長が違法な財務会計上の行為をしたとして,長に対して損害賠償請求の訴えを提起する場合,当該財務会計上の行為が補助職員の専決により行われていたとしても,住民がまずそのことを明らかにしなければならないものではなく,長が当該財務会計上の行為をしたものと主張して訴えを提起することは妨げられない。 この場合,当該財務会計上の行為が専決により行われたことを長において主張せず,すなわち長において住民の上記主張事実を認めるかあるい 務会計上の行為をしたものと主張して訴えを提起することは妨げられない。 この場合,当該財務会計上の行為が専決により行われたことを長において主張せず,すなわち長において住民の上記主張事実を認めるかあるいは明らかに争わないときは,長が自らそれを行ったものとしてその違法性の有無等を審理すれば足りる。 しかしながら,前記事実関係によれば,本件訴えの訴状には,本件金員に係る財務会計上の行為を特定するに足りる記載が欠けており,それを補正するため,被上告人に主張を補充させたにもかかわらず,なお,被上告人において長たる上告人が本件金員に係る財務会計上の行為をしたと主張するものかどうかが明らかにされず,その点について上告人による明確な認否がないまま審理が進められたというのであるから,上記の場合と同列に扱うことは適切ではない。原審としては,上記の点について釈明を求め,当事者の真に意図するところを明らかにした上で審理判断すべきであったというべきである。 (裁判長裁判官上田豊三裁判官濱田邦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男)- 5 -

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