平成29(行ウ)411 法人文書開示決定の不開示処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年8月23日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文12,915 文字)

- 1 -平成30年8月23日判決言渡平成29年(行ウ)第411号法人文書開示決定の不開示処分取消請求事件 主文 1 本件訴えのうち,法人文書開示決定の義務付けを求める部分を却下する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 当事者が求めた裁判 1 請求の趣旨 ⑴ 被告が平成29年3月3日付けで原告に対してした法人文書一部開示決定(年機構発第〇号)のうち別紙2「障害認定医一覧表」の「認定医氏名」欄及び「勤務先(所属)」欄を不開示とした部分を取り消す。 ⑵ 被告は,原告に対し,別紙2「障害認定医一覧表」の「認定医氏名」欄及び「勤務先(所属)」欄を開示する旨の決定をせよ。 2 本案前の答弁主文第1項と同旨 3 本案の答弁主文第2項と同旨第2 事案の概要 原告は,日本年金機構法に基づいて設立されたいわゆる特殊法人である被告に対し,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成28年法律第51号による改正前のもの。以下「法人等情報公開法」という。)3条に基づき,「埼玉事務センターが行う障害基礎年金の認定,審査に係る医師の名簿」,「各医師の診療科,所属医療機関についても記載されたもの」を対象文書(以下「本 件対象文書」という。)とする法人文書の開示請求(以下「本件開示請求」とい - 2 -う。)をしたが,平成25年12月2日付けで全部不開示とする旨の決定を受けたことから,同決定に対して,異議申立てをしたところ,平成29年3月3日付けで同決定は取り消され,同日付けで改めて一部開示決定(以下「本件一部開示決定」という。)がされた。本件は,原告が,本件一部開示決定のうち,別紙 に対して,異議申立てをしたところ,平成29年3月3日付けで同決定は取り消され,同日付けで改めて一部開示決定(以下「本件一部開示決定」という。)がされた。本件は,原告が,本件一部開示決定のうち,別紙2「障害認定医一覧表」(以下「本件一覧表」という。)のうち「認定医氏名」欄 及び「勤務先(所属)」欄の部分(以下「本件部分」という。)を不開示とした部分の取消し及び本件部分の開示決定の義務付けを求める事案である。 1 関係法令等の定め本件に関係する法令等の定めは,別紙3「関係法令等の定め」記載のとおりである。 2 前提事実(1) 原告は,平成25年10月4日,被告に対し,埼玉事務センターが行う障害基礎年金の認定,審査に係る医師(障害認定医)の名簿(各医師の診療科,所属医療機関についても記載されたもの)である本件対象文書の開示を請求した(本件開示請求)が,被告は,同年12月2日,本件対象文書の全部に つき開示しない旨の決定をした。(甲2,甲3)(2) 原告は,平成26年2月3日,上記(1)の決定を不服として,被告に対し,異議申立てをしたところ,被告は,平成27年4月1日,同異議申立てについて,情報公開・個人情報保護審査会に諮問し,同月6日付けで,原告にその旨を通知した。(甲4,甲5) (3) 上記審査会は,平成29年2月10日,被告に対し,本件一覧表のうち本件部分,「契約書住所」,「連絡先電話番号」及び「生年月日」の各欄(以下「本件部分等」という。)を除く部分を開示すべき旨の答申をし,被告は,この答申を受けて,同年3月3日,前記(1)の決定を取り消した上で,本件一覧表のうち本件部分等を除く部分を開示し,本件部分等を不開示とする旨の 決定(本件一部開示決定)をした。(甲6ないし甲8) を受けて,同年3月3日,前記(1)の決定を取り消した上で,本件一覧表のうち本件部分等を除く部分を開示し,本件部分等を不開示とする旨の 決定(本件一部開示決定)をした。(甲6ないし甲8) - 3 -なお,被告の事務センターはおおむね県ごとに置かれているが,必要に応じ,同一ブロック内の他県の障害認定審査医員(国民年金,厚生年金保険及び船員保険に係る給付並びに特別障害給付金の裁定等に係る障害の程度の認定事務のうち,医学的事項に係る審査を行う医師であって,被告との間で業務委託契約を締結しているもの)に審査を依頼する場合がある。本件一覧表 は,埼玉事務センターが含まれる北関東・信越ブロックの障害認定審査医員の名簿であり,本件部分等のほか,表の題名,ブロック本部の名称,特記事項欄等の記載がある。(甲7)(4) 原告は,平成29年9月2日,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実) 3 争点⑴ 本件部分に記録されている情報の法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報該当性⑵ 本件部分に記録されている情報の法人等情報公開法5条1号所定の不開示情報該当性 ⑶ 義務付けの訴えの適法性 4 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(本件部分に記録されている情報の法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報該当性)(被告の主張) ア障害認定医の氏名等が開示された場合には,これらを知った障害年金の裁定請求者等が,当該障害認定医に自らの裁定請求に対して有利な意見を出すよう働きかけたり,自らに不利な意見を出した障害認定医に対して有利な意見を出すよう働きかけたり,自らに不利な意見を出した障害認定医に対していわれのない誹謗中傷を行うことも十分考えられる。 実際, ,自らに不利な意見を出した障害認定医に対して有利な意見を出すよう働きかけたり,自らに不利な意見を出した障害認定医に対していわれのない誹謗中傷を行うことも十分考えられる。 実際,障害認定医の氏名を知った某医師が,特定の勤務医である障害認 - 4 -定医の氏名を明らかにして誹謗中傷し,当該認定医の診療等について情報提供を求める呼びかけを行い,被告における障害等級の認定事務に支障を来したという事態が発生したことがあった。また,障害認定医の氏名を開示したことで,障害認定医から業務委託契約を解除したいとの要請があり,障害認定医の氏名を開示することにより被告の業務や障害認定医の本来業 務である診療に支障を及ぼす事態になったこともある。 これらの状況や障害認定医からの要請等を踏まえ,被告と障害認定医との間の業務委託契約には,障害認定医の特定につながる情報を明らかにしてはならない旨の定めがおかれている。 イしたがって,本件部分に記録されている障害認定医に係る情報は,それ を公にすることにより,障害認定医個人に対し,認定結果に係る判断理由を強く問いただす等の不当な働きかけが行われる可能性が極めて高くなり,障害認定医の公正中立な業務の遂行に支障が生じるだけでなく,不当な働きかけを受けることを憂慮した障害認定医が辞退を申し出ること等により,障害認定医の確保にすら支障が生じるおそれも高くなることは明らかであ る。 よって,本件部分に記録されている情報は,法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報に該当する。 (原告の主張)ア被告の前身である社会保険庁は障害認定医の名簿を開示請求により開示 するなど,本件部分に記録されている情報は,かつては,慣行として請求がされれ 示情報に該当する。 (原告の主張)ア被告の前身である社会保険庁は障害認定医の名簿を開示請求により開示 するなど,本件部分に記録されている情報は,かつては,慣行として請求がされれば開示されていた情報であったほか,平成22年1月1日時点の障害認定医の名簿(甲11)や平成25年4月1日時点の障害認定医の名簿(甲12)は,現時点においてもインターネットで公表されている。そうであれば,被告が主張するような弊害があったとは認められないし,専 門性,経験がともに備わった医師が障害認定医として判断している限りに - 5 -おいては,有形無形の働きかけが行われる余地はない。 そして,審査を担当する医師の氏名を公表することにより業務に支障が生じるとすれば,そのような支障を受けるのは障害認定医に限られるものではないというべきであるが,地方労災医員や石綿確定診断委員会の医師の氏名は開示されているから,障害認定医のような審査を担当する医師の 氏名を公表したとしても「当該事務又は業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは認め難い。 イなお,被告は,障害認定医に対する誹謗中傷事例があったと主張するが,当該事例の具体的内容に照らせば,誹謗中傷に当たるものではない。また,障害認定医から業務委託契約の解除の申入れが1件あったと主張するが, それをもって「当該事務又は業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と認められるものではないし,そもそも専門家であれば,第三者からの批判にさらされることは当然に甘受すべきものである。 ウ現状の被告の運用においては,年金請求者の裁定請求に対し,自ら提出した診断書等の問題点がどこにあるのかを示すことなく,極めて簡単な理 由のみを付して,請求を却下する又は のである。 ウ現状の被告の運用においては,年金請求者の裁定請求に対し,自ら提出した診断書等の問題点がどこにあるのかを示すことなく,極めて簡単な理 由のみを付して,請求を却下する又は等級を下げるという判断が行われている。そのため,何が争点であるかが明らかでないまま審査請求,再審査請求を行わざるを得ず,特に従前2級の認定がされていたのに,何一つ障害の状態が変更されていないにもかかわらず等級を下げられる場合には深刻であり,そのような認定の根拠となった認定医に確認したいと考えるこ とは何らおかしなことではない。このような事情に照らせば,「当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と解することはできない。 ⑵ 争点⑵(本件部分に記録されている情報の法人等情報公開法5条1号所定の不開示情報該当性) (被告の主張) - 6 -ア法人等情報公開法5条1号本文に該当すること(ア) 本件一覧表に記録されている情報のうち「認定医氏名」,「契約書住所」及び「生年月日」の各欄に係るものは,それ自体が特定の障害認定医個人を識別することができる情報であるし,「勤務先(所属)」及び「連絡先電話番号」の各欄に係るものは,他の情報と照合することに より特定の個人を識別することができることとなる情報であるから,本件部分(「認定医氏名」及び「勤務先(所属)」の各欄)に記録されている情報は法人等情報公開法5条1号所定の個人識別情報に当たる。 (イ) なお,原告は,本件部分に記録されている情報は法人等情報公開法5条1号括弧書き「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当す ることから,同条1号の適用はないと主張する。 しかしながら,仮に障害認定 に記録されている情報は法人等情報公開法5条1号括弧書き「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当す ることから,同条1号の適用はないと主張する。 しかしながら,仮に障害認定医が個人開業医である場合,その医師にとっての「当該事業」とは自らが開設する医療機関における診療であり,障害認定医としての業務についての情報である本件部分に記録されている情報は,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」には当たらない。 なお,障害認定医が勤務医である場合,本件部分に記録されている情報は,法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者に関する情報でも,当該法人のために行う契約の締結等に関する情報でもないから,法人等情報公開法5条2号の対象である「法人その他の団体に関する情報」に当たらない。 イ法人等情報公開法5条1号ただし書イに該当しないこと(ア) 障害認定医の根拠や身分等については,法令上の根拠はなく,名簿等について官報や被告のホームページ等により公表している事実はないから,本件部分は法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とはいえない。 (イ) 原告は,地方労災医員の氏名が開示されていると主張するが,同医 - 7 -員は障害認定医と異なり非常勤の国家公務員という立場であることからその氏名を開示しているのであって,原告が主張するような,氏名を公表することによって働きかけや誹謗中傷がなされる事態になっているにもかかわらず地方労災医員の氏名を開示しているものではない。 また,原告は,石綿確定診断委員会の委員氏名は開示されていると主 張するが,石綿確定診断委員会意見書における委員氏名の開示の請求があった場合においても,委員氏名は るものではない。 また,原告は,石綿確定診断委員会の委員氏名は開示されていると主 張するが,石綿確定診断委員会意見書における委員氏名の開示の請求があった場合においても,委員氏名は不開示とする運用が行われている。 (ウ) 原告は,かつて国民年金障害認定医員名簿が専門分野,氏名,勤務先及び所属が記録された形で開示請求に対して開示されていたことから,本件部分は慣行として公にされる情報であると主張する。確かに過去に おいてはこのような開示を行う対応がとられており,障害認定医の氏名を公にしても障害年金の認定事務等に支障が及ぶような事態は生じないと考えられており,法人等情報公開法における開示を原則とする理念を踏まえた対応を取っていたものであるが,障害認定医の氏名を開示したことで機構の業務や障害認定医の本来業務である診療に支障が生じた事 案があったことから,このような取扱いをしていないものであり,現状,慣行として公にされる情報ではない。 (エ) したがって,本件部分に記録されている情報は法人等情報公開法5条1号ただし書イに該当しない。 ウ法人等情報公開法5条1号ただし書ロに該当しないこと 法人等情報公開法5条1項ただし書ロに該当する情報は,開示対象となっている情報を公にしないことにより,直接,人の生命,健康,生活又は財産に直接影響の及ぶ情報であることが想定されているところ,本件部分が開示されたとしても,それにより障害年金を受給すべき者に対する年金の支給に何ら影響が及ぶわけではないから,本件部分に記録されている情 報は法人等情報公開法5条1号ただし書ロに該当しない。 - 8 -エ法人等情報公開法5条1号ただし書ハに該当しないこと前記イのとお ら,本件部分に記録されている情 報は法人等情報公開法5条1号ただし書ロに該当しない。 - 8 -エ法人等情報公開法5条1号ただし書ハに該当しないこと前記イのとおり,障害認定医は,業務の受託者にすぎず,被告との間に雇用関係はなく,被告の非常勤職員ではないから,「公務員等」とはいえない以上,本件部分に記録されている情報は法人等情報公開法5条1号ただし書ハに該当しない。 (原告の主張)ア法人等情報公開法5条1号本文に該当しないこと医師は,専門職としての資格を有し,病院に勤務することもあれば,自身で医院等を経営することもできる者であり,その意味では「事業を営む個人」という側面を有し,被告が主張する業務委託契約を締結する契約主 体となって,医師として業務を行い,報酬を得ている。本件の業務委託契約書(乙7)の記載も,勤務形態によらず,医師という国家資格に基づいて,業務を行い,報酬を得ていることを示すものである。したがって,本件部分に記録されている情報は,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」(法人等情報公開法5条1号本文括弧書き)に当たり,法人等情報公 開法5条1号本文の不開示情報に該当しない。 なお,本件部分に記録されている情報は,同条2号本文の「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当することになるが,同号本文イ及びロの要件満たさないし,同号ただし書の「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」でもある から,同条2号の不開示情報にも該当しない。 イ法人等情報公開法5条1号ただし書イに該当すること被告の前身である社会保険庁が障害認定医の名簿を開示請求により開示した事例があるな から,同条2号の不開示情報にも該当しない。 イ法人等情報公開法5条1号ただし書イに該当すること被告の前身である社会保険庁が障害認定医の名簿を開示請求により開示した事例があるなど,慣行として請求がされば開示されていた情報であったほか,前記⑴(原告の主張)アのとおり,平成22年1月1日時点の障 害認定医の名簿や平成25年4月1日時点の障害認定医の名簿は,現時点 - 9 -においてもインターネットで公表されていることからすれば,本件部分に記録されている情報は,法人等情報公開5条1号ただし書イ所定の「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当する。 ウ法人等情報公開法5条1号ただし書ロについて障害認定医の判断一つで障害年金を受給できるか否かが決せられるとい う現実を踏まえると,被告が選任する障害認定医が,いかなる経歴を有し,いかなる専門的知見を有しているかは,障害年金申請者が人として生活を営んでいくために必要な資金を年金という形で受給できるか否かという障害年金申請者の生活全般に関わるものであり,国民共通の利害と関心の対象といわざるを得ない。 したがって,本件部分に記録されている情報は,障害者の生活を保護するために公にすることが必要である情報というべきであり,法人等情報公開法5条1号ただし書ロ所定の情報に該当する。 エ法人等情報公開法5条1号ただし書ハについて障害認定医について,仮に,被告との関係が業務委託契約に基づく受託 者にすぎないとしても,受託者については,当該業務に係る守秘義務を負うほか(日本年金機構法31条2項),「機構の役員及び職員は,刑法その他の罰則の適用については,法令により公務に従事する職員とみなす。 にすぎないとしても,受託者については,当該業務に係る守秘義務を負うほか(日本年金機構法31条2項),「機構の役員及び職員は,刑法その他の罰則の適用については,法令により公務に従事する職員とみなす。」と定める同法20条が準用され(同法31条3項),罰則に係る規定においても公務に従事する職員とされている。このような被告の業務受託者の 地位からすれば,障害認定医は被告の職員であるとみなすべきであり,障害認定医は独立行政法人等の職員に該当するというべきである。 ⑶ 争点⑶(本件義務付けの訴えの適法性)(被告の主張)本件一部開示決定は適法であり,取り消されるべきものではないから,義 務付けの訴えは不適法である。 - 10 -(原告の主張)本件不開示決定は違法であり,本件部分の開示の義務付けの訴えは適法である。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件部分に記録されている情報の法人等情報公開法5条4号柱書き 所定の不開示情報該当性)について⑴ 被告は,平成22年1月1日に設立された特殊法人であり,国(厚生労働大臣)から委任・委託を受け,公的年金に係る一連の運用業務(適用・徴収・記録管理・相談・決定・給付など)を担うことをその業務としている。そして,被告は,当該業務の一環として,障害認定医との間で業務委託契約を締 結しているのであるから,本件一覧表の本件部分に記録されている情報が,法人等情報公開法5条4号柱書きの「独立行政法人等(中略)が行う事務又は事業に関する情報」であることは明らかである。 ⑵ア(ア) 法人等情報公開法5条4号柱書きは,公にすることにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすお それがあるものを不開示情報とする旨を規定し 。 ⑵ア(ア) 法人等情報公開法5条4号柱書きは,公にすることにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすお それがあるものを不開示情報とする旨を規定しているところ,「当該事務又は事業の性質上」とは,当該事務又は事業の本質的な性格,具体的には,当該事務又は事業の目的,その目的達成のための手法等に照らして,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを判断する趣旨であり,「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」に係るその支障の程度 は名目的なものでは足りず,実質的なものであることが必要であり,そのおそれの程度も,抽象的な可能性では足りず,法的保護に値する程度の蓋然性が要求されるというべきである。 (イ) 障害年金は,病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に,現役世代も含めて受け取ることができる年金を指し, その一つとして国民年金法に基づく障害基礎年金がある。そして,障害 - 11 -基礎年金には,障害の原因となった疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(初診日)において被保険者であることなどを支給要件とするいわゆる拠出制の障害基礎年金(国民年金法30条1項)と,「疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者」であることなどを支給要件と するいわゆる無拠出制の障害基礎年金(同法30条の4)に区別される厚生労働大臣は,受給権者の請求に基づいて,障害基礎年金の給付を受ける権利につき裁定を行う(国民年金法16条)。受給権者が裁定の請求を行う際は,障害の状態に関する医師又は歯科医師の診断書やその障害の状態を示すレントゲンフィルム(平成27年厚生労働省令第14 4号, つき裁定を行う(国民年金法16条)。受給権者が裁定の請求を行う際は,障害の状態に関する医師又は歯科医師の診断書やその障害の状態を示すレントゲンフィルム(平成27年厚生労働省令第14 4号,153号による改正前の国民年金法施行規則31条2項4号,5号)等を添付しなければならず,厚生労働大臣は,必要があると認めるときには,受給権者に対し,障害の状態に関する書類等の提出を命じたり,医師や歯科医師の診断を受けるべきことを命じたりすることも定められている(国民年金法107条1項,2項)。各障害等級の障害の状 態は,国民年金法30条2項,同法施行令4条の6,別表に定められているところ,上記の方法で得た情報をもとに,厚生労働大臣が適正な障害等級を認定し,適正な障害等級がないときには不認定と判断することが予定されている。 そして,各障害等級の障害の状態は,「両上肢の機能に著しい障害を 有する」(国民年金法施行令別表1級3),「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」(同9)など医学的な知見をもとに判断することが求められるものも多く,このような要件を厚生労働大臣が適切に判断する必要があることに 照らせば,障害等級の認定に当たっては,医師の意見が重要な資料とな - 12 -っているといえる。 (ウ) したがって,被告に対する本件開示請求に関して本件対象文書に記録されている情報が法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に当たるか否かは,これを公にすることにより,厚生労働大臣が適切に障害等級を認定することができることを目的として,その参考とするために 障害認定医から意見を聴取するなどの業 号柱書きの不開示情報に当たるか否かは,これを公にすることにより,厚生労働大臣が適切に障害等級を認定することができることを目的として,その参考とするために 障害認定医から意見を聴取するなどの業務の適切な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがあり,そのおそれの程度が法的保護に値する程度の蓋然性のあるものであるか否かにより判断すべきである。 イ障害基礎年金の額は障害等級によって異なり,上記のとおり障害等級の認定においては医師の意見が重要な資料となることに照らせば,障害等級 認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や住所が開示された場合,上記情報を知った障害基礎年金に係る裁定請求者等が,当該認定医に対し,自らの裁定請求につき有利な意見を出すよう働きかけることにより,適正な障害等級の認定や障害認定医の業務に支障が生じることは十分に考えられる。そして,障害者手帳の交付の申請をした者が,認定医に 対し,申請が認められるまで連日継続して架電した事案も存在する(乙6)。 また,被告と障害認定医の契約において,障害認定医の特定につながる情報を明らかにしてはならないと定められているところ(乙7),障害認定医の中にはその名簿を開示することに反対の意見を述べ,仮に名簿を開示するのであれば認定医を辞することを検討するとの意見を述べる者もい ること(乙5)に照らせば,障害認定医の氏名や住所が開示された場合,障害認定医に就任することを応諾する者が減少することで,障害認定業務の継続的な業務遂行に支障が生じることも十分に考えられる。 このように,障害等級認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や住所を開示することは,障害認定業務に上記支障を及ぼすおそれ があり,その支障の程度は名目的なものでは る。 このように,障害等級認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や住所を開示することは,障害認定業務に上記支障を及ぼすおそれ があり,その支障の程度は名目的なものではなく,業務の継続的な業務遂 - 13 -行に支障が生じひいては制度破綻に至り得るおそれが否定できない実質的なものというべきであり,そのおそれの程度も法的な保護に値する程度の蓋然性を有するものというべきである。 したがって,障害認定医の特定につながる情報である本件部分に記録されている情報は,法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に該当す る。 ウこの点,原告は,地方労災医員や,厚生労働省が独立行政法人労働者健康福祉機構に委託している石綿確定診断等事業における石綿確定診断委員会の構成員たる医師については氏名等が開示されているから,障害認定医に係る本件部分に記録されている情報は法人等情報公開法5条4号柱書き の不開示情報には当たらないと主張し,石綿確定診断委員会に関してはこれに沿う証拠(甲16)を提出する。 しかしながら,石綿確定診断委員会は複数の医師により構成され,その合議により意見を形成し,これを意見書として表明するものであり(甲16),その業務の在り方は障害認定医の業務の在り方と大きく異なること がうかがわれることを措くとしても,原告が指摘する役職の医師らにつき,裁判所や行政庁の命令等によって開示される場合を除いて自身が特定される情報が開示されないとの契約内容にもかかわらずその氏名等が開示されているとの事情は見当たらないし,実際に障害認定医の辞職を検討すると伝えた医師が存在するか否かなど,判断事情が同一であるとは認められな い。そうすると,石綿確定診断委員会の構成員たる医師の氏 ているとの事情は見当たらないし,実際に障害認定医の辞職を検討すると伝えた医師が存在するか否かなど,判断事情が同一であるとは認められな い。そうすると,石綿確定診断委員会の構成員たる医師の氏名が開示されているという原告の指摘を前提にしたとしても,一般的に,公的な認定のために医学的見地から意見を述べる医師の氏名を開示することが,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとはいえないという原告の主張は採用できない。 エ原告は,氏名等の情報が公開されることになれば,障害認定医を辞職す - 14 -ることを検討する旨を述べる医師が1名しか把握されていないと指摘するが,同様の意見を持つ医師が一定数いる蓋然性は否定できない。また,原告は,専門家であれば第三者からの批判にさらされることは当然に甘受すべきであると主張するが,上記のとおり,障害認定医の氏名等の開示がされることで適正な認定業務に支障が生じるおそれがあることなどを踏まえ れば,原告主張の点を踏まえても本件部分に記録されている情報が法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に当たらないとはいえない。 ⑶ したがって,原告の主張はいずれも失当であり,本件部分に記録されている情報は,独立行政法人等が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂 行に支障を及ぼすおそれがあるものといえるから,法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に該当する。 なお,原告は,仮に本件部分に記録されている情報が法人等情報公開法5条所定の不開示情報に該当する場合であっても,同法7条にいう「公益上特に必要があると認め」られる場合に当たるとして,開示されるべきであ お,原告は,仮に本件部分に記録されている情報が法人等情報公開法5条所定の不開示情報に該当する場合であっても,同法7条にいう「公益上特に必要があると認め」られる場合に当たるとして,開示されるべきであると も主張する。しかし,同条の規定に基づいて開示するか否かは,開示請求を受けた独立行政法人等の裁量的判断に委ねられているものと解されるところ,同条に基づき本件部分を開示しなかった被告の判断につき,その裁量の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したことをうかがわせるような事情は主張,立証されていないから,原告の上記主張は採用の限りではない。 2 小括(本件一部開示決定の適法性)上記1⑶のとおり,本件部分に記録されている情報は法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に該当するから,本件部分を不開示とした本件一部開示決定は適法である。 3 争点⑶(義務付けの訴えは適法であるか)について 本件訴えのうち,本件部分を開示する旨の決定をすることの義務付けを求め - 15 -る部分は,行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請型の処分の義務付けの訴えであるところ,同訴えは,法令に基づく申請を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において,当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り,提起することができるとされている(同法37条の3第1項2号)。 そして,上記2のとおり,本件一部開示決定は適法であるから,本件訴えのうち,上記義務付けを求める部分は,同法37条の3第1項2号の要件を欠き,不適法である。 第4 結論よって,その余の点(争点⑵(本件部分に記録されている情報の法人等情報 公開法5条1号所定の不開示情報該当性))について判断するまでも 1項2号の要件を欠き,不適法である。 第4 結論 よって,その余の点(争点⑵(本件部分に記録されている情報の法人等情報公開法5条1号所定の不開示情報該当性))について判断するまでもなく,本件訴えのうち,本件部分を開示する旨の決定をすることの義務付けを求める部分は不適法であるから却下し,原告のその余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官 林俊之 裁判官 衣斐瑞穂 裁判官 鈴鹿祥吾 (別紙1省略) (別紙2省略)

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