平成13(わ)884 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成14年5月20日 福岡地方裁判所 小倉支部
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判決文本文5,279 文字)

平成14年5月20日宣告平成13年(わ)第884号殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 押収してある果物ナイフの刃1本(平成14年押第1号の1),果物ナイフの柄1本(同押号の2),果物ナイフの鞘1本(同押号の3)及び出刃包丁1丁(同押号の4)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成13年7月30日午後8時10分ころ,北九州市a区b町c番d号所在のA方玄関内及び同玄関前通路付近において,B(当時60歳)に対し,殺意をもって,その腹部,後頭部,頸部及び背部等を所携の果物ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル,平成14年押第1号の1,2)及び出刃包丁(刃体の長さ約15.5センチメートル,同押号の4)で20回くらい突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を胸大動脈切損に基づく失血により死亡させて殺害し,第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時,場所において,前記果物ナイフ1本及び出刃包丁1丁を携帯したものである。 (法令の適用)罰条判示第1の所為は刑法199条に,判示第2の所為は包括して銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当刑種の選択判示第1の罪につき有期懲役刑を,判示第2の罪につき懲役刑をそれぞれ選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で加重)未決勾留日数の刑算入刑法21条没収 罪につき懲役刑をそれぞれ選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で加重)未決勾留日数の刑算入刑法21条没収刑法19条1項2号,2項本文(判示第1の犯行の用に供した果物ナイフの刃1本,柄1本及びその従物である鞘1本並びに出刃包丁1丁を没収)訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない。)(量刑の理由) 1 犯行に至る経緯及び犯行状況被告人は,小学生の途中から通学せず,19歳ころまで家業の農業を手伝い,その後,製材所勤務,日雇いの土木作業員として稼働したが,44歳ころから病気がちになり,入退院を繰り返し,平成5年1月18日からは,直腸ガン等による病気のため稼働能力がないと判断され,生活保護を受給していた。被告人は,妻及び長C(昭和45年生)とともに,平成7年8月末ころから,住居地のAが所有する借家(以下「本件借家」という。)に居住していたが,本件犯行当時,被告人の妻は,入院中であった。本件借家は,木造平屋建住宅1棟をモルタル壁で仕切り2世帯が入居できる構造になっている。被告人は,本件借家の東側部分に住んでいたが,同借家の西側部分には,被告人入居後,D一家,E及びその子供3名が順次入居し,平成12年4月初旬からは,B(以下「被害者」という。)が一人で居住していた。 被害者は,男女合計9人兄弟の第5子四男として昭和16年(月日省略)出生し,婚姻歴はなく,両親は他界し,本件被害当時,兄3人,弟2人及び妹1人が他所に居住していた。被害者は,40歳くらいまで土木作業などの仕事をしていたが,その後ヘルニアのため働けなくなり,病気がちの母と同居して,兄弟からの援助などにより生活していた。被害者は,昭和60年ころ 所に居住していた。被害者は,40歳くらいまで土木作業などの仕事をしていたが,その後ヘルニアのため働けなくなり,病気がちの母と同居して,兄弟からの援助などにより生活していた。被害者は,昭和60年ころ母が死亡した後,母方から転居して一人暮らしを始め,昭和61年1月20日から肝臓病,アルコール依存症等を保護理由として生活保護を受給するようになり,その後2回くらい転居した後,本件借家に入居した。被害者は,アルコール依存などの病名により,平成元年1月22日から平成3年12月27日までの間に合計3回,通算約8か月間,入院治療を受けたことがあったが,本件被害当時,アルコール依存の症状は見られなかった。 被告人は,騒音に神経質な性格で,本件借家に入居していたEや隣に居住していたFなどに対し,しばしば話し声がうるさいなどと直接苦情を言ったり,家主のAに対し,入居者に注意するよう申し入れたり,警察官に通報したりしていたほか,Eに騒音の苦情を言っていた際,同人の顔面を殴打したこともあった。 被告人は,被害者が本件借家に入居する前から,被害者と面識があり,かつて被害者から暴行を受けそうになったことがあったと思い込み,被害者を,本件借家入居当時から,快くない人物と感じていた。被告人は,被害者に対しても,激しく戸を開閉したり蹴ったりしてうるさい旨,直接苦情を言ったり,Aに対し,被害者に注意するよう申し入れたり,警察官やケースワーカーに訴えたりするなどしていたが,その後も,被害者方から戸の開け閉めなどの音が聞こえてくることから,被害者が故意に押入の戸を蹴るなどして嫌がらせをしていると思いこむようになり,また,被害者から,被害者に無言電話をかけてくるのは被告人ではないかなどと言われたため,被害者に対する憤懣の念を強めていった。 本件犯行当日の午前2時50分ころ, せをしていると思いこむようになり,また,被害者から,被害者に無言電話をかけてくるのは被告人ではないかなどと言われたため,被害者に対する憤懣の念を強めていった。 本件犯行当日の午前2時50分ころ,被害者方で戸を閉めるような大きな音がしたため,この音に目を覚ました被告人が,被害者に対し,壁越しに注意したところ,被害者からも,被告人方で掃除機を使用するとき壁に何度も当てる音がうるさいなどを言い返されたことから口論となり,同日午前3時10分ころ,被告人が,被害者方に赴いた。被告人は,被害者が「やるんか。」などと言っていたため,けんかになった場合に備えて,自宅台所から持ち出した出刃包丁をズボンのベルトに差して被害者方に行った。同所で,被告人は,被害者に対し,ケースワーカーから被害者がアルコール中毒で精神病院に通院していることを聞いたことなどを言ったため,同日,両名で区役所へ行ってケースワーカーに事実の確認や騒音問題についての話合いなどをすることを約束し,また,被害者から,被告人の娘Cが被告人に内緒で被害者から1000円借りている旨知らされたため,Cを呼びだして事実を確認した上,同女を殴打した。これをたしなめようとした被害者を,被告人が突き飛ばし,倒れた被害者を押さえつけるなどしたが,それ以上のけんかには発展しなかった。 被告人は,同日朝,A方で,CがAから借りていた500円を同人に,前記1000円を被害者にそれぞれ返還した。その際,被害者から再度無言電話の話が出たが,けんかにはならなかった。その後,被告人は,自宅で朝食を取り,病院や前記約束の区役所へ行くため外出したが,その際,出刃包丁をバッグに入れて持ち出した。被告人は,病院に行った後の午前10時ころ,a区役所で被害者と落ち合い,ケースワーカーに対し,「お前,Bがアル中と言っていたろうが。 へ行くため外出したが,その際,出刃包丁をバッグに入れて持ち出した。被告人は,病院に行った後の午前10時ころ,a区役所で被害者と落ち合い,ケースワーカーに対し,「お前,Bがアル中と言っていたろうが。」などと怒鳴りちらし,ケースワーカーがそのようなことは言っていない旨説明しても納得せず,そのうち,「昨日,一晩中,Bが壁を蹴って寝られなかった。」などと大声で一方的にしゃべった。その間,被害者は,被告人の隣にいたが何も話さなかった。被告人は,同区役所を出た後,被害者と別れ,100円ショップで果物ナイフ1本を買い,包装袋から出して,ズボンの右前ポケットに入れ,食事などをした後の同日午後6時ころ,e警察署e駅前交番を訪れ,警察官に対し,被害者が深夜に壁をたたいたり,被告人方の電話や掃除機の音がうるさいと文句を言ってくると訴え,家主に言っても何もしてくれないが,被害者を精神病院へ入院させる措置は取れないかなど相談した。そこで警察官は,被告人に対し,関係機関への相談や再度迷惑行為があった場合には110番通報を活用できることなどを助言し,実力行使は絶対しないよう注意するとともに,Aに電話して,被告人と話をすることを求めた。被告人は,同交番からの帰宅途中,A方に立ち寄り,玄関で同人に対し,区役所でケースワーカーと話をしたが被害者は何も言えないでいたなどと話した。その場へ被害者が入ってきて,「あんな大勢の前で,大声を出したりして,みんなが一斉に見てたじゃないか。恥ずかしかった。」などと言った。これに対し,被告人が,「あんたが何も言わんからや。」と言い返したことから口論となり,両名ともしだいに興奮し,座っていた両名が同時くらいに立ち上がり,被害者が被告人につかみかかって乗りかかるようになったところ,被告人は,玄関口に仰向けに倒れた。これにより,被告人は,激 ら口論となり,両名ともしだいに興奮し,座っていた両名が同時くらいに立ち上がり,被害者が被告人につかみかかって乗りかかるようになったところ,被告人は,玄関口に仰向けに倒れた。これにより,被告人は,激昂し,これまで募っていた被害者に対する憤懣の念と相まって,被害者を殺害しようと決意し,右手でズボンポケット内の果物ナイフを取り出し,鞘を抜き,右手に同ナイフを持って立ち上がり,玄関出入口付近で被告人の方を向いて立っていた被害者の腹部を同ナイフで1回突き刺したところ,刃が抜けて被害者の体内に残った。そこで,被告人は,玄関上がり口に置いたバッグから出刃包丁を取り出そうとしたところ,危険を感じたAがバッグを取り上げようとしたが,同人を突き飛ばして出刃包丁を取り出し,玄関前通路まで逃げて行った被害者の所まで走って行き,同包丁で力まかせに被害者の腹部を数回突き刺した。これにより,被害者は,その場に倒れたが,被告人は,なおもその後頭部,後頸部,脇腹及び背中を同包丁で合計十数回突き刺したところ,Aの通報により駆けつけた警察官に逮捕された。 2 量刑上特に考慮した事情被告人は,被害者がことさら騒音をたてるなどして被告人に嫌がらせをしたことに耐えられず本件犯行に及んだかのような供述をするが,前記の経過や証人C及び同Aの供述等によると,被害者が深夜に戸を閉める音をたてるなどしたことはあったものの,隣人が耐えられないほどの騒音を発していたものではないと認められ,本件は,被告人の偏った性格や独善的,自己中心的考えに起因する短絡的犯行というべきであり,その動機や経緯に格別酌むべき点はない。犯行態様も,事前にけんかになることを予想して鋭利な出刃包丁や果物ナイフを持ち歩き,これらを使用して腹部を数回突き刺した上,被害者が倒れて動かなくなった後も頸部,脇腹など身体の枢 酌むべき点はない。犯行態様も,事前にけんかになることを予想して鋭利な出刃包丁や果物ナイフを持ち歩き,これらを使用して腹部を数回突き刺した上,被害者が倒れて動かなくなった後も頸部,脇腹など身体の枢要部を多数回突き刺すという極めて執ようなものであり,その攻撃意思の強かったことが窺われる。本件犯行により,被害者は,腹部や頸部などを出刃包丁などで多数回突き刺され,血の海の中で命を失うに至ったものであり,その肉体的苦痛の激しかったことはもちろん,突然すべてを終わらせられた無念さは察するに余りあり,結果は特に重大である。しかるに,被告人から被害者の遺族に対する被害弁償や慰謝の措置などはなされておらず,被害者の遺族らが被告人を極刑に処することを望んでいるのも無理からぬものといえる。被告人は,公判廷においても,ことさら被害者に落ち度があるかのような供述を繰り返しており,真摯に反省しているとは言い難い。 以上によると,犯情は重く,被告人は厳しく刑責を問われるべきである。 したがって,被告人に前科がないこと,被告人は,高齢で直腸ガンにより人工肛門を使用するようになったほか狭心症の持病もあること,被告人の妻も脳腫瘍手術の後遺症等により入院中であること,被告人も被害者を殺害したことは悪かった旨述べていることなど被告人のために酌むべき諸般の事情を十分考慮しても,被告人に本件各犯行の刑責を果たさせるためには相当長期間服役させるべきであるから,被告人を主文の刑に処するのを相当と判断する。 (求刑懲役14年,果物ナイフ1本及び出刃包丁1本の没収)平成14年5月20日福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部裁判長裁判官大泉一夫裁判官川野雅樹裁判官坂本好司 岡地方裁判所小倉支部第2刑事部裁判長裁判官大泉一夫裁判官川野雅樹裁判官坂本好司

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