平成12(行ウ)16 重加算税賦課決定処分取消請求

裁判年月日・裁判所
平成14年1月10日 神戸地方裁判所
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判決文本文12,061 文字)

判決平成14年1月10日神戸地方裁判所平成12年(行ウ)第16号重加算税賦課決定処分取消請求事件 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が原告らに対して被相続人Aに係る相続税につき平成10年6月25日付けでした重加算税賦課決定処分(但し,平成12年1月20日付け裁決により取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。 第2 事案の概要等本件は,原告ら及びBの被相続人であるAの死亡にともなう相続に係る相続税につき,被告が原告らに対して平成10年6月25日付けで更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)を行ったところ,原告らが,被告に対し,本件処分が違法であるとしてその取消しを求めた(但し,平成12年1月20日付け裁決により取り消された部分を除く。)事案である。 1 前提となる事実次の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 (1) 原告らの身分関係等ア原告らは,いずれも,Aと同人の妻Bとの間に生まれた子である(別紙相続関係図参照)。 イ Aは,平成2年12月30日に死亡し,原告ら及びBがAの権利義務を相続した(以下「本件相続」という。)。 ウ Cは,Aの実弟である。 (2) 本件相続に係る相続税申告の委任原告らは,誰に委任するかという点も含め,本件相続に係る相続税の申告手続を,Bに一任した。Bは,Cから紹介を受けたD(なお,当時,Dは,姫路市議会議員であった。)に対し,B及び原告らの相続税の申告手続を委任した。 (3) Dによる本 ,本件相続に係る相続税の申告手続を,Bに一任した。Bは,Cから紹介を受けたD(なお,当時,Dは,姫路市議会議員であった。)に対し,B及び原告らの相続税の申告手続を委任した。 (3) Dによる本件相続に係る相続税の申告Dは,上記委任に従って平成3年6月28日,本件相続に係る相続税の申告書(乙1の1。以下「本件申告書」という。)を被告に提出した。 上記申告の内容は,別表1「課税の経緯」申告欄記載のとおりである。 本件申告書第13表「債務及び葬式費用の明細書」の「1 債務の明細」欄には,Aの債務として,次のような記載がある。 ア種類借入金イ債権者 Cウ発生年月日平成2年4月6日エ金額 100,000,000円オ負担する人の氏名及び負担する金額B  40,000,000円E  60,000,000円本件申告書には,本件相続に係る遺産分割協議書(乙1の5)等のほか,株式会社阪神銀行(当時,以下同じ)姫路支店(以下,単に「阪神銀行」という。)作成の平成3年5月28日付けのCの残高証明書(乙1の2。以下「本件残高証明書」という。)及び平成2年4月6日付けの念書(乙1の3。以下「本件念書」という。)が添付されて,被告に提出された。 (4) 本件残高証明書,念書の記載内容等本件残高証明書及び本件念書の記載内容は,それぞれ次のとおりである。 ア本件残高証明書本件残高証明書には,阪神銀行のCに対する平成2年12月31日現在の貸付残高が,手形貸付1億2000万円,証書貸付1億0040万6248円,合計2億2040万6248円と記載されて 証明書本件残高証明書には,阪神銀行のCに対する平成2年12月31日現在の貸付残高が,手形貸付1億2000万円,証書貸付1億0040万6248円,合計2億2040万6248円と記載されている。 イ本件念書本件念書は,平成2年4月6日付けで,AからCに宛てた体裁となっており,「阪神カードで壱億圓をCが債務者になって借りているが実際は私が使用している事を誓約致します」と記載されている。 そして,本件念書の末尾には,A名義の署名と押印がされている。 (5) Cの阪神銀行からの1億円の借入れ前記(4)イの本件念書記載の1億円の債務は,Cが阪神銀行から貸付を受けて,自らが使用し返済しているものであって(以下,Cの阪神銀行に対する上記債務を「本件債務」という。),AがCから1億円の貸付を受けた事実はない。 (6) 本件申告書に基づく相続税の納付原告らは,本件申告書の記載内容に従い,別表1「課税の経緯」申告欄の各納付すべき税額記載のとおりの相続税を納付した。 (7) 本件更正処分及び本件処分被告は,税務調査の結果,原告らの本件相続に係る相続税の申告について,本件債務を控除すべきでないのに,控除して申告したとして,平成10年6月25日付けで同相続税の計算において,本件念書記載の1億円の債務控除を否認するという内容の本件更正処分を行った。 被告は,前記原告らの行為が国税通則法68条1項に規定する課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実を仮装し,その仮装したところに基づき納税申告書を提出したことに該当するとして,前記本件更正処分と同時に本件処分を行った(以下,本件相続に係る相続税の申告において問題となっている仮装行為を「本件仮装行為」という。)。 納税申告書を提出したことに該当するとして,前記本件更正処分と同時に本件処分を行った(以下,本件相続に係る相続税の申告において問題となっている仮装行為を「本件仮装行為」という。)。 なお,本件更正処分及び本件処分の内容は,別表1「課税の経緯」の更正処分等欄記載のとおりである。 (8) 原告らの異議申立てとこれに対する決定原告らは,被告に対し,平成10年8月5日付けで本件更正処分及び本件処分について異議申立てをした。これに対し,被告は,同年11月5日,上記異議を棄却する旨の決定をした。 (9) 原告らの審査請求とこれに対する裁決原告らは,平成10年11月25日,審査請求を行った。これに対し,国税不服審判所長は,平成12年1月20日付けで,別表1「課税の経緯」裁決欄記載のとおり,本件更正処分及び本件処分の各一部を取り消す旨の裁決をした。 2 争点本件の争点は,抽象的には本件処分(但し,裁決で取り消された部分を除く。)の適法性であるが,具体的には次の2点である。 (1) 本件処分において,重加算税の賦課要件が充足されているか。 (2) 本件処分は,信義則に違反するか。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(重加算税の賦課要件の充足の有無)について(被告の主張)本件処分は,以下のとおり,重加算税の賦課要件が充足されており,適法である。 (1) 重加算税の賦課要件については,納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺい,仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り,その申告に際し,納税者が過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではな 又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺい,仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り,その申告に際し,納税者が過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではない。 そして,国税通則法68条1項は,隠ぺい又は仮装行為の行為者について「納税者」と規定しているが,これは納税者本人に限らず,納税者と同視できる者が隠ぺい,仮装行為をした場合も,「納税者」の隠ぺい,仮装行為というべきである。すなわち,代理人のみならず,復代理人ないし履行補助者(履行代行者)の行為を含めてその申告手続に関し,国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装行為がされた以上,復代理人又は履行補助者を含めて,同手続を行う者の選任,監督について納税者に過失がないと認められる場合を除き,その申告の効果が納税者に帰属するとともに,重加算税の賦課要件を充たすと解すべきである。 (2) 本件において,原告らは,相続税の申告手続をBに一任し,BはこれをDに委任するとともに,その申告のためDに渡す書類の作成をCと相談の上行ったものである。したがって,Bは原告らの申告についての代理人又は履行補助者,Cは申告に必要な一部の書類の作成についてBから委任を受けた復代理人又は履行補助者に該当する。 そして,BはCと相談の上,本件債務をAの債務と仮装する内容の本件念書(乙1の3)を日付を遡らせて作成した上,これを本件残高証明書(乙1の2)とともにDに渡し,Dが本件念書に基づきCの債務である本件債務をAの債務としてAの相続財産額から控除し,本件相続税の計算を行って本件申告書を作成した上,被告に提出したのであるから,原告らの代理人又は履行補助者であるB及びCが,課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実を してAの相続財産額から控除し,本件相続税の計算を行って本件申告書を作成した上,被告に提出したのであるから,原告らの代理人又は履行補助者であるB及びCが,課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実を故意に仮装したというべきであり,本件仮装行為は原告らの行為と同視すべきである。 なお,仮に,本件仮装行為にDも関与していたとしても,Dは申告についての復代理人又は履行補助者(履行代行者)に該当するから,上記結論に影響はない。 (3) 次に,原告らには,B,C及びDに対する選任,監督上の過失があったことも明らかである。すなわち,Bらはいずれも税理士等の資格を有する者ではない上,原告らがその選任に当たってBらが税理士に委任する等して適切な申告をする意思があるかについて確認していないから,選任に当たって尽くすべき注意を怠ったというべきである。また,原告らは,申告手続を任せた後,Cらから本件申告の内容について説明を受けるなどしておらず,監督義務も怠ったというべきである。 (原告らの反論)本件処分は,以下のとおり,重加算税の賦課要件を充足していないから,違法である。 (1) 国税通則法68条にいう「事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」とは,納税者自身がその隠ぺい,仮装行為,及び隠ぺい又は仮装に基づく申告書の提出について何らかの認識を有していたことを必要と解すべきである。納税者がそのような認識を欠く場合には,重加算税の賦課要件は充たさないと考えるべきである。 (2) 本件において,原告らは,Dがどのような書類を作成し,本件債務をAの相続財産額から控除して本件申告書を提出したかについて,一切認識していない。 したがって,本件において,重加算 ある。 (2) 本件において,原告らは,Dがどのような書類を作成し,本件債務をAの相続財産額から控除して本件申告書を提出したかについて,一切認識していない。 したがって,本件において,重加算税の賦課要件は充たされていない。 (3) 被告は,BがCと相談して,本件債務をAの債務と仮装する内容の本件念書を日付を遡らせて作成したなどと主張するが,否認する。本件念書(乙1の3)は,Cが,Dと協議の上で,原告ら及びBの知らないところで作成したものと推測され,本件仮装行為にBが関与したことはない。 なお,乙第5号証(確認書)は,CがBに対する恨みから原告ら及びBを陥れる目的で作成したもので,信用性がない。 2 争点(2)(信義則違反の有無)について(原告らの主張)本件処分は,以下のとおり,信義則に反するから,違法である。 (1) 課税庁が,納税者と同視すべき者が反復継続して税理士法違反の行為をしていることを認識しながら,これを容認し放置した結果,納税者と同視すべき者が隠ぺい,仮装行為をした場合になされた重加算税賦課決定処分は,信義則に反すると解すべきである。 なぜなら,重加算税は納税義務違反の発生を防止し,徴税の実を挙げようとする行政上の措置であるから,一方でこのような行為を課税庁自らが容認,放置しておきながら,納税者にのみ不正な方法で行われたものであるとして,不利益な処分である重加算税賦課決定処分をすることは,信義則に反するというべきだからである。 (2) 本件において,被告は,従来からDと癒着し,本来,納税申告では許されないことも故意に見逃し,不正確な申告を容認,放置してきた。すなわち,Dは,本件以外にも納税者の申告の代行をなし,その事実を被告も認識していたにもかかわらず,被告がDを し,本来,納税申告では許されないことも故意に見逃し,不正確な申告を容認,放置してきた。すなわち,Dは,本件以外にも納税者の申告の代行をなし,その事実を被告も認識していたにもかかわらず,被告がDを排除しようとしたことがないのはもちろん,Dが申告代行をすることを助長してさえいたのである。 こうした事情を考慮すると,原告らがDに対する監督義務を怠ったというより,被告や姫路税務署職員がDと通じて,原告らなどの納税者がDを監督する必要がない状況を作出しており,Dがそのような状況を利用して1000万円もの高額な報酬を得ていた(甲2,3)という方が,事案の全体像として適切である。 (3) したがって,本件処分は,信義則に違反する。 (被告の反論)本件処分は,以下のとおり,信義則に反せず,適法である。 (1) 原告らは,課税庁が,納税者と同視すべき者が反復継続して税理士法違反の行為をしていることを認識しながら,これを容認し放置した結果,納税者と同視すべき者が隠ぺい,仮装行為をした場合に重加算税賦課決定処分をすることは信義則に反するとし,本件において,被告は,Dの税理士法違反の行為を容認,放置していたから,本件処分は信義則に違反する旨主張する。 (2) しかし,被告がDの税理士法2条違反の行為を認識していたとか,そのような行為を容認,放置したことは否認する。すなわち,そもそも原告らが主張する事実関係自体が存在しないのである。 また,重加算税は,その賦課要件を充たせば賦課すべきことは当然であり,信義則のような一般条項を安易に適用して賦課要件を充足した処分の効力を否定することを軽々しく行うべきではない。 第4 当裁判所の判断 1 本件申告手続の経緯等について(1) 事実の認定前記第2の1の前提と を安易に適用して賦課要件を充足した処分の効力を否定することを軽々しく行うべきではない。 第4 当裁判所の判断 1 本件申告手続の経緯等について(1) 事実の認定前記第2の1の前提となる事実に,証拠(甲2,甲3,甲11〔一部〕,乙1〔枝番を含む〕,乙5,乙12,乙13,証人B〔一部〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア本件相続税申告の委任等Aが平成2年12月30日に死亡した。そこで,原告らは,本件相続に係る相続税の申告手続を,誰に委任するかという点も含め,Bに一任した。Bは,平成3年5月ころ,Cに本件相続に係る相続税の申告について相談したところ,当時姫路市議会議員であったDを紹介され,B及び原告らの相続税の申告手続をDに委任した。 原告らは,Bらに本件申告手続を任せた後,B,C,Dから本件申告書の内容について説明を受けたり,B,C,Dに本件申告書の内容を確認したりしたことはなく,また本件申告書の控えを受領したこともない。勿論,B,C,Dらはいずれも税理士等の有資格者ではなく,原告らは,Bらが税理士に委任するなどして,適切な申告をする意思があるかどうかについて確認したこともない。 イ本件申告書添付書類の作成,交付等Bは,本件相続税の申告についてCに相談し,CがDから助言されたところに従い,Cが阪神銀行から借り入れた本件債務をAの債務として相続税の申告をすることにした。そこで,Cが阪神銀行から本件残高証明書(乙1の2)を取り寄せ,BがA作成名義の本件念書(乙1の3,作成日付を遡って記載)を偽造した。 そして,CからDに対し,本件申告書添付書類として,本件念書及び残高証明書等が交付された。 ウ本件申告書の提出等Dは,本件念書及び残高 成日付を遡って記載)を偽造した。 そして,CからDに対し,本件申告書添付書類として,本件念書及び残高証明書等が交付された。 ウ本件申告書の提出等Dは,本件念書及び残高証明書等に基づき本件申告書を作成し,平成3年6月28日,本件申告書にこれらの書類を添付して,原告ら及びBに代わって本件申告書(乙1の1)を被告に提出した。上記申告の内容は,別表1「課税の経緯」申告欄記載のとおりであり,本件債務はAの債務とされ,Aの相続財産額から本件債務額を控除した金額で本件申告がなされた。 その後,Bは,Cから原告ら及びBの各納税額を記載したメモ書きを受け取り,原告ら及びBは,このメモ書きの記載に従って,別表1「課税の経緯」申告欄記載のとおり(本件申告書記載のとおり)相続税を納付した。 そして,Bは,平成3年8月8日ころ,Dに対し,本件相続税の申告について助言してもらい,少ない相続税額で済んだことの謝礼として,1000万円を支払った(甲2,3)。 (2) 前記認定に反する原告ら主張の検討ア原告らは,本件仮装行為にBが関与したことを否認し,Cが,Dと協議の上,Bの知らないところで本件念書を作成し,本件相続にかかる相続税の申告をした旨主張し,Bも本件念書を作成していないと証言する。 イしかし,B自身,本件訴訟での証人尋問において,被告指定代理人から,本件念書(乙1の3)に記載されたAの住所,氏名の筆跡と,Bが作成した書類(乙12)に記載されたAの住所,氏名の筆跡とを同時に示され,「まあ,それは見た目はね,よく似てます。私もこれ,あれ,なんで私の筆跡。」と思わず叫んでしまい,本件念書(乙1の3)に記載されたAの住所,氏名の筆跡がBの筆跡であることを自認するかのような証言をしている(B証人調書14 ね,よく似てます。私もこれ,あれ,なんで私の筆跡。」と思わず叫んでしまい,本件念書(乙1の3)に記載されたAの住所,氏名の筆跡がBの筆跡であることを自認するかのような証言をしている(B証人調書14頁)。 確かに,本件念書(乙1の3)に記載されているAの住所,氏名の筆跡と,BがAに代わって記載したと認めている(乙13の2丁・第5項,B証人調書14頁)スーパーローン借入申込書(乙12)のAの住所,氏名の筆跡とは,極めて類似していることが認められる。 そして,Cは,平成10年5月13日付で作成して被告宛に差し入れた確認書(乙5)の中で,「Bから相談され,私が阪神銀行姫路支店から借入れしている1億円をAの借入れとして本件申告をしています。本件申告の時は,私が阪神銀行から本件残高証明書をとりよせ,Bが本件念書を書いて本件申告書に付けています。本件念書の日付は,遡って書いています。」と陳述している。 ウ以上の事実によると,本件念書はBが作成したものであることが認められ,原告らの前記アの主張は採用できない。 2 争点(1)(重加算税の賦課要件の充足の有無)について(1) 重加算税の賦課要件ア納税者の主観的要件国税通則法68条に規定する重加算税は,同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が,事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に,違反者に対して課される行政上の措置であって,故意に納税義務違反を犯したことによる制裁ではない。 したがって,国税通則法68条1項による重加算税を賦課するためには,納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺい,仮装行為を原因として過少申告の結果が発 通則法68条1項による重加算税を賦課するためには,納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺい,仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り,それ以上に,申告に際し,納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない,と解するのが相当である(最高裁昭和62年5月8日第2小法廷判決・裁判集民事151号35頁参照)。 イ国税通則法68条1項にいう「納税者」(ア) 国税通則法68条1項は,重加算税賦課の要件として,隠ぺい又は仮装行為の行為者について「納税者」と規定している。そこで,同条にいう「納税者」であるが,納税者本人の他,同申告手続を行う者の選任,監督について納税者に過失がないと認められる等の特段の事情がない限り,納税者と同視できる者,具体的には,納税者から委任を受けた代理人,代行者を含むと解するのが相当である。 何故ならば,納税者は,納税申告を自らの判断と責任において第三者に委ね,納税者に代わってその者に行わせることが許されている(国税通則法124条,税理士法2条1項)ところ,納税者が納税申告を第三者に代理ないし代行として委任した場合,第三者が同委任に基づいて行った行為の効果は納税者に帰属するうえ,自己責任の原則からしても,第三者を利用することによって得られる利益とともに,それによる不利益も当然納税者が享受すべきであるからである。 したがって,納税者が委任した第三者が,その申告手続に関し,国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい,仮装した場合も,「納税者」の隠ぺい,仮装行為に該当するということになる。 (イ) ところで,原告らは,国税通則法68条 税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい,仮装した場合も,「納税者」の隠ぺい,仮装行為に該当するということになる。 (イ) ところで,原告らは,国税通則法68条の「事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ことについて,「納税者」自身がその隠ぺい,仮装行為,及び隠ぺい又は仮装に基づく申告書の提出について,何らかの認識を有していたことが必要であると主張する。 しかし,前記(ア)で説示したところからすれば,そのような認識が必要ではないうえ,仮に,重加算税の賦課要件として納税者自身の認識が必要であるとすると,委任を受けた親族等による仮装,隠ぺい行為による脱税行為を抑止することは困難となり,納税義務違反の発生を防止し徴税の実を挙げようとした行政上の措置としての重加算税の趣旨を没却する結果となり相当でない。 したがって,原告らの上記主張は採用することはできない。 (2) 本件への当てはめア前記1(1)ア,イのとおり,原告らは,本件相続税の申告手続をBに一任し,Bは,これをDに委任するとともに,Cと相談の上Dに交付する書類を作成したものである。 そうすると,Bが原告らの本件相続に係る相続税の申告に関する代理人又は履行補助者,Cが同申告に必要な一部の書類の作成についてBから委任を受けた復代理人又は履行補助者に該当すると認めるのが相当である。 イそして,前記1(1)で認定したとおり,Bは,Cと相談の上,本件債務をAの債務と仮装する内容の本件念書を作成し,これを本件残高証明書とともにDに渡し,Dが本件念書に基づき本件債務をAの債務とし,Aの相続財産額から本件債務額を控除した金額で ,Cと相談の上,本件債務をAの債務と仮装する内容の本件念書を作成し,これを本件残高証明書とともにDに渡し,Dが本件念書に基づき本件債務をAの債務とし,Aの相続財産額から本件債務額を控除した金額で本件申告書を作成した上,被告に提出したのであるから,当該申告行為は,代理人又は履行補助者であるB及びCが,課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実を故意に仮装したものと認めるのが相当である。 したがって,その仮装行為は,B及びCの選任,監督につき原告らに過失がないと認められる等の特段の事情がない限り,原告らの行為と同視すべきであって,重加算税の賦課要件を充たすものといわなければならない。 そして,Dが本件申告書の代筆に止まらず本件仮装行為に関与してはいるが,Dもまた本件申告についてB及びCから委任を受けた復代理人又は履行補助者(履行代行者)というべきであるから,上記結論に影響はない。 ウそこで,原告らに,本件申告に関して,B及びCの選任,監督につき過失がないと認められる等の特段の事情があるかであるが,それを認めるに足る的確な証拠はない。 かえって,前記1(1)アのとおり,Bらはいずれも税理士等の有資格者ではなく,しかも,原告らがその選任に当たってBらが税理士に委任するなどして,適切な申告をする意思があるかどうかについて確認したことがないことからすると,原告らが選任に当たって尽くすべき注意義務を怠ったということができる。 また,前記1(1)アで認定したとおり,原告らは,Bらに申告手続を任せた後も,これらの者から本件申告の内容について説明を受けたり,申告書の控えを受領したこともないことが認められ,原告らからBらに対して,本件申告の内容に係る説明及び申告書の控えの交付を要求したり,Dが作成した本件申告 者から本件申告の内容について説明を受けたり,申告書の控えを受領したこともないことが認められ,原告らからBらに対して,本件申告の内容に係る説明及び申告書の控えの交付を要求したり,Dが作成した本件申告書,及びB及びCが申告のためにDに手渡した関係書類(本件念書,本件残高証明書等)について,被告への提出前に内容を点検するなどして,Bらの監督を行おうとした形跡も窺われないことからすると,その監督義務を怠ったということもできる。 したがって,原告らには,上記特段の事情は認められない。 エ以上のとおり,本件更正処分により増加した原告らの納付すべき税額に対する重加算税の賦課要件は充たされるというべきである。そして,重加算税の計算については,別表2「重加算税の計算明細表」のとおり適正に行われている。 したがって,本件処分は重加算税の賦課要件を充足しない旨の原告らの主張は採用できない。 3 争点(2)(信義則違反の有無)について(1) 原告らの主張原告らは,課税庁が,納税者と同視すべき者が反復継続して税理士法違反の行為をしていることを認識しながら,これを容認し放置した結果,納税者と同視すべき者が隠ぺい,仮装行為をした場合になされた重加算税賦課決定処分は信義則に反することを前提に,本件処分はまさにこれに該当し信義則に反して無効であると主張する。 (2) 検討ア課税処分と信義則租税法規に適合する課税処分について,法の一般原理である信義則の法理により課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても,その適用は,法律による行政とりわけ租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては慎重でなければならず,租税法規の適用における納税者間の平等,公平 て取り消すことができる場合があるとしても,その適用は,法律による行政とりわけ租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては慎重でなければならず,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしても,なお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に,初めて信義則の法理の適用を考えるべきものである(最高裁昭和62年10月30日第3小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。 イ本件への当てはめ(ア) これを本件についてみるに,そもそも,本件全証拠によるも,被告ないしは姫路税務署職員が,Dが税理士法2条違反の行為を反復継続して行っていたことを認識し,これを容認,放置していた事実は認めることができないのである。 (イ) そして,仮に,被告ないし姫路税務署職員が,Dが税理士法2条に違反して納税者の申告手続の代行をしていることを認識していたとしても,次の各事実に照らせば,本件処分については信義則の法理の適用を考える余地はないものといわなければならない。 a 前記1(1)イのとおり,Bは,本件相続税の申告内容についてCと相談し,CがDから助言を受けたところに従い,本件債務をAの債務として申告することとし,Cが阪神銀行から本件残高証明書を取り寄せるとともに,BがA作成名義の本件念書(乙1の3,作成日付を遡って記載)を偽造している。 すなわち,B自身がDの助言に従い,本件申告による悪質な脱税行為に積極的に関与している。 b 前記2(2)のとおり,Bらによる原告らの本件相続に係る相続税の申告は,原告らによる申告と同視できる。 (ウ) したがって,原告らの上記(1)の信義則違反の主張も理由がない。 第5 b 前記2(2)のとおり,Bらによる原告らの本件相続に係る相続税の申告は,原告らによる申告と同視できる。 (ウ) したがって,原告らの上記(1)の信義則違反の主張も理由がない。 第5 結論 1 以上説示したところによれば,本件処分は,重加算税の賦課要件を充足し,何ら信義則にも反しない適法なものということができる。 2 よって,本件処分の取消しを求める原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判長裁判官紙浦健二 裁判官中村哲 裁判官今井輝幸

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