平成11(ワ)219 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年10月7日 横浜地方裁判所 横須賀支部
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判決文本文135,505 文字)

主文 1 被告は,別表の「原告名」欄記載の各原告に対し,同表の「請求認容額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成11年7月13日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その2を原告らの,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。ただし,被告において,原告らのそれぞれにつき別表の「免脱担保額」欄記載の担保を供するときは,当該原告についての仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1章申立て第1 原告ら 1 被告は,別表の「原告名」欄記載の各原告に対し,同表の「請求総額」欄記載の各金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 被告 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 3 仮執行免脱宣言第2章事案の概要本件は,アメリカ合衆国海軍(以下「米海軍」という。)横須賀基地で国の被用者として働いていた者あるいはその遺族らが原告となり,国を被告として,原告らないしその被相続人がじん肺に罹患したのは,石綿に対する安全対策が昭和50年代半ばに至るまで不充分だったからであると主張して,安全配慮義務違反の不履行を理由として,あるいは不法行為に基づき,慰謝料の支払を求めている事案である。 第3章争いのない事実等第1 当事者 1 被告と米海軍の関係及び原告らとの雇用関係(1) 現在の米海軍横須賀基地には,戦前は日本海軍横須賀鎮守府,日本海軍横須賀海軍工廠等があったが,これらは昭和20年9月2日,合衆国軍隊(以下 事者 1 被告と米海軍の関係及び原告らとの雇用関係(1) 現在の米海軍横須賀基地には,戦前は日本海軍横須賀鎮守府,日本海軍横須賀海軍工廠等があったが,これらは昭和20年9月2日,合衆国軍隊(以下「米軍」という。)により接収され,翌9月3日に発せられた連合国軍最高司令官指令第2号により,日本側が占領軍の要求する物資,サービス,労務などの提供義務を負担し,米占領軍の労働者の労務費も負担することになった。被告は,この命令を受け,昭和20年10月6日,「進駐軍関係労務充足に関する政府通牒」を出し,労働者の確保につとめた。このころ,米軍で働く労働者には,ごく一部の例外を除いて,雇用主は被告,使用者は米軍という形の間接雇用方式がとられていた。 (2) 米海軍横須賀基地の労働者の身分は,その後,国家公務員法(昭和22年法律第120号)の制定により,昭和23年7月1日から国家公務員一般職となったが,同年12月には,同法の改正(昭和23年法律第258号)により,同月21日以降,国家公務員特別職に変更となった。昭和26年6月23日には,「日本人及びその他の日本国在住者の役務に対する基本契約」が調印され,同年7月1日から発効したが,米国が国費で賄っていない事業の従業員はこの契約から除外されていたため,米海軍横須賀基地の労働者は,労務費を米国が負担し被告が雇用するグループ(間接雇用形式。原告らは全てこのグループに入る。)と,独立採算制をとる歳出外諸機関が雇用するグループ(直接雇用形式)とに二分されることになった。なお,この基本労務契約の第10条には,「この契約に従って提供された労務者はすべて契約者側の被雇用者とし,いかなる場合でも合衆国政府の被雇用者とはみなさない。契約者は日本国適用法規ならびに連合国軍最高司令官発出の適用規定及び指令に従い,この契約に基 って提供された労務者はすべて契約者側の被雇用者とし,いかなる場合でも合衆国政府の被雇用者とはみなさない。契約者は日本国適用法規ならびに連合国軍最高司令官発出の適用規定及び指令に従い,この契約に基づく提供労務者に対する雇用主としての関係によって負担する一切の費用,債務及び経費につき責任を負うものとする。」と定められていた。 (3) 昭和27年4月28日,被告と連合国との間で「日本国との平和条約」(昭和27年条約第5号)が発効し,被告は独立を回復するとともに,「日本国」とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(昭和27年条約第6号。以下「旧安保条約」という。)及びそれに伴う「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定」が発効し,引き続き被告は米軍に労務の提供義務を負担することとなった。一方,横須賀基地の労働者の身分については,国家公務員法の改正(昭和27年法律第174号)により,被告の雇用者ではあるが,国家公務員ではないと規定されるに至った。なお,前記行政協定第12条には,「相互間で別段の合意をする場合を除く他,賃金及び諸手当に関する条件,その他の雇用及び労働条件,労働者保護のための条件ならびに労働関係に関する労働者の権利は日本国の法令で定めるところによらなければならない。」と定められた。また,昭和32年10月1日には新たな基本労務契約が発効した。 (4) その後,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(昭和35年条約第6号。以下「新安保条約」という。)の締結に伴い,昭和35年6月23日,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「地位協定」という。)が発効した。この地位協定においても引き続き被告は米軍 合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「地位協定」という。)が発効した。この地位協定においても引き続き被告は米軍に労務提供義務を負担することとなり,かつ,雇用及び労働条件,労働者保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は日本国の法令で定めるところによるものと定められた(12条5項)(以上(1)ないし(4)は,当事者間に争いがない。なお,以下において,一部に書証から容易に認めることのできる事実を含む項目については,主な書証を掲げる。)。 2 原告ら別表の「従業員名」欄記載の各人は,同表の「就労期間」欄記載の時期に,同表の「就労場所」欄記載の場所において,同表の「稼働内容」欄記載の内容で米海軍横須賀基地に勤務し,被告との間に雇用関係があった(当事者間に争いがないか,証拠〔甲43・45・46ないし54〕により認められる。)。 なお,①F’(以下「亡F’」という。)は,平成12年7月10日,悪性胸膜中皮腫により死亡し,法定相続人間で遺産分割協議がなされ,亡F’の被告に対する損害賠償請求権につき原告Fが同人を相続した(甲119・120・123・124)。②G’(以下「亡G’」という。)は,平成9年4月25日,肺小細胞がんで死亡し,原告G1,原告G2,原告G3,原告G4(以下「原告Gら」という。)が同人を相続した(甲55)。③J’(以下「亡J’」という。)は,平成12年8月3日死亡し,原告J1,原告J2,原告J3(以下「原告Jら」という。)が同人を相続した(甲129の1ないし8)。以下,原告名は名字のみ示すものとし,亡F’,亡G’,亡J’も含めて適宜「原告ら」と示すことがある。 第2 米海軍横須賀基地における原告らの主な作業内容 1 横須賀米海軍艦船修 29の1ないし8)。以下,原告名は名字のみ示すものとし,亡F’,亡G’,亡J’も含めて適宜「原告ら」と示すことがある。 第2 米海軍横須賀基地における原告らの主な作業内容 1 横須賀米海軍艦船修理廠(以下「SRF」という。)艦船修理を主たる任務とする部署である(当事者間に争いがない。)。 (1) X-11(工具工場・船殻工場)従業員の職種の中心は船舶設備取付工であり(原告Iがこの職種に従事していた。),その主な作業内容は,船体の外板,船底,甲板,隔壁等の修理である(甲50)。 (2) X-17(鋼板工場・板金工場)従業員の職種は板金工であり(亡G’がこの職種に従事していた。),その主な作業内容は,薄板を扱う板金作業全般である(甲43・44・46・50・51)。 (3) X-26(溶接工場)従業員の職種は溶接工であり(亡F’がこの職種に従事していた。),その主な作業内容は,修理船内外における各種溶接全般である(甲49)。 (4) X-38M(外部機械工作室・仕上げ工場)従業員の職種は機械修理工あるいは一般船舶機械工と呼ばれ(原告A・同Cがこの職種に従事していた。),その主な作業内容は,船の主機関あるいは発電用のタービンの修理作業であるが,タービン本体だけでなく,それに付属する推進軸やプロペラ,ポンプあるいは蒸気管の接続面の仕上げも仕事となる(甲47・48)。 (5) X-41B(ボイラー工場・ボイラー修理部署)ボイラー工場のうち,ボイラーの修理を専門とする製かん工(原告H・同K・同Lがこの職種に従事していた。)を集めた部署であり,従業員の主な作業内容は,蒸気タービン船等の主機関のボイラー等の船舶で使用される様々なボイラーの修理である。船内作業が中心となるが,工場内作業もあり,主にボイラーに使用されるチューブを曲 署であり,従業員の主な作業内容は,蒸気タービン船等の主機関のボイラー等の船舶で使用される様々なボイラーの修理である。船内作業が中心となるが,工場内作業もあり,主にボイラーに使用されるチューブを曲げたり,熱交換機の修理,煙突内マフラーの修理等を行う(甲43・45)。 (6) X-41L(ボイラー工場・断熱材取扱い部署)ボイラー工場のうち,断熱材を取り扱う部署(職種としては防熱工,汽かん被覆工,石工または煉瓦積み工などといわれる。原告Eがこの職種に従事していた。)であり,従業員の主な作業内容は,船内でのボイラー炉内の石綿を使用した断熱,耐熱材の取り替えや,ボイラー,タービンあるいは各種パイプ,バルブ,フランジ等の石綿を使用した断熱材の取り替えである。また,工場内でボイラー,タービン,各種パイプの断熱材として使用する石綿布団づくりも行う(甲46)。 (7) X-99(準備工場・動力工場)従業員の主な作業内容は,修理船を修理するために,陸上の動力を使用して,あるいは配管により,電気,蒸気,水,海水,空気等を修理船内に供給することである。その中には,陸上から修理船内へ供給する空気,水,蒸気などの配管をするパイプ取付工という職種があり,原告Dがこの職種に従事していた(甲53)。 2 横須賀艦隊基地(以下「CFAY」という。)軍艦に対する兵站支援その他命ぜられた米海軍の活動のため基地施設を維持,運転することを任務とする部署である(当事者間に争いがない。)。このうち,OPS(港湾統制部)に勤務する従業員の主な作業内容は,船の出入りなどの港湾管理であり,タグボート,プッシャーボートによる作業,海上停泊船への人員,物資の輸送に携わっている。また,OPSには,OPSで使用する艦船を修理,維持するための船舶内燃機関機械工という職種があり,原告 であり,タグボート,プッシャーボートによる作業,海上停泊船への人員,物資の輸送に携わっている。また,OPSには,OPSで使用する艦船を修理,維持するための船舶内燃機関機械工という職種があり,原告Bがその職種に従事していた(甲54)。 3 米海軍横須賀補給廠(以下「NSD」という。)艦隊及び海軍陸上施設のために,必要物資を購入,受領,貯蔵,管理,配給することを任務とする部署(のちに米海軍横須賀補給センター(FISC)と改められた。)である(当事者間に争いがない。)。ここに勤務する従業員の主な作業内容は,物資の購入,貯蔵,管理,配給である。NSDの中には荷扱夫,検数員,倉庫係等と呼ばれる倉庫への荷物の出し入れ,管理に関する職種があり,原告Dがこの職種に従事していた(甲53)。 4 米海軍横須賀施設本部(以下「PWC」という。)公共施設に関わる業務,施設のユーティリティーの管理,家族住宅の管理,輸送支援,技術サービス,陸上施設の計画支援などの面で,他の基地ユーザーの兵站支援を行うことを任務とする部署である(当事者間に争いがない。)。ここに勤務する従業員の主な作業内容は,公共施設,住宅の管理,輸送,技術,サービスなどである。PWCの職種の中には各種車両の運転手という職種があり,亡J’がこの職種に従事していた(甲52)。 第3 じん肺の病像と石綿肺の特徴 1 じん肺の定義昭和53年3月改正のじん肺法(以下,昭和35年3月制定のじん肺法を「旧じん肺法」といい,昭和53年3月改正の同法を「改正じん肺法」という。)2条1項1号によれば,じん肺とは,「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」である。線維増殖とは,粉じんのために肺の組織が固い膠原線維(線維状のタンパク質)におきかえられ肺胞部分などを埋めてその機能を奪う じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」である。線維増殖とは,粉じんのために肺の組織が固い膠原線維(線維状のタンパク質)におきかえられ肺胞部分などを埋めてその機能を奪うことをいい,これによって肺胞部分などが埋められると,肺のガス交換機能が低下する。 また,じん肺は,気道の慢性炎症性変化,気腫性変化を伴うこともある。なお,臨床病理学的には,じん肺とは,「各種の粉じんの吸入によって胸部X線写真に異常粒状影,線状影があらわれ,進行に伴って肺機能低下をきたし,肺性心にまで至る肺疾患であり,剖検すると粉じん性線維化巣,気管支炎,肺気腫を認め血管変化をも伴う肺疾患」といわれている(当事者間に争いがない。)。 2 じん肺の病理機序鼻腔から吸入された粉じんは,途中の鼻毛,鼻道で濾過されたり気管支粘膜に付着したりする。肺胞内に到達したものも,全てがそこにとどまるわけではなく吐息とともに再び排出されるが,吸入量が多い,あるいは排出する力が弱いと肺胞内に沈着する。肺胞内に沈着した粉じんは,喰細胞に取り込まれ,リンパ腺に運び込まれて蓄積される。たまった粉じんはさらにリンパ腺の細胞を増殖させ,その結果,細胞がこわれて膠原線維が増加する。粉じんのために異常に多量な線維ができると,リンパ腺の本来の機能が失われ,吸入じんはリンパ腺に入らなくなる。すると,粉じんは肺胞内に次々と蓄積されて,ひいては粉じん結節をつくり,しかもそれが大きくなり,更に融合して塊状巣となる。また,粉じん変化の進行に伴って肺胞壁の破壊が起こり,肺気腫の状態となり,気管支や血管の狭窄,閉塞によって肺の換気,血流障害が招来される(甲3)。 3 じん肺の特徴じん肺の罹患によって肺内に起こる肺病変は,線維増殖性変化,慢性炎症性変化,気腫性変化,血管性変化のいずれについても不可 狭窄,閉塞によって肺の換気,血流障害が招来される(甲3)。 3 じん肺の特徴じん肺の罹患によって肺内に起こる肺病変は,線維増殖性変化,慢性炎症性変化,気腫性変化,血管性変化のいずれについても不可逆性であって,じん肺そのものについては本質的な治療の方法がなく,したがって専ら予防に依存するほか有効な対策のない疾患である。また,じん肺の病像を構成する主要な病理変化である繊維増殖性変化,気道の慢性炎症性変化,気腫性変化は,粉じん作業を継続している限り進行することはもちろん,粉じん作業を離職し,粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるものであり,その意味で,じん肺は進行性の疾患であるということができる。そして,その進行は,吸入した粉じんの質や量及び吸入期間により影響を受ける。 じん肺の自覚症状は,他の呼吸器病と同様に,咳,たん,息切れなどが主なものであり,感染が加われば,発熱,倦怠感,胸痛などの症状も出現する。軽症の場合は,X線映像所見以外に何ら異常が認められないことが多いが,重症の場合は,食欲が減退して体重が減少することが多い。なお,じん肺健康診断結果証明書には,他覚所見として,チアノーゼ(動脈血酸素飽和度が低下し,末梢血液中に,還元ヘモグロビンが増加した時に,口唇,爪あるいは皮膚が青色に見えること)の有無,ばち状指(心臓疾患や肺疾患に見られる手指末端の太鼓ばち状肥大であり,手指末端の肥大に伴って爪がスプーン状になってくること)の有無等を記載することになっている(以上は当事者間に争いがない。)。 4 粉じんとしての石綿本件で原告らが修理した軍用艦には,ボイラー,タービン,各種パイプ等の耐火,耐熱,断熱材として石綿が使用されていたものがあった。 労働作業現場や一般大気中に浮遊する石綿繊維の太さは1μmから5μm程度と微細であるため,空気中の浮遊時 ボイラー,タービン,各種パイプ等の耐火,耐熱,断熱材として石綿が使用されていたものがあった。 労働作業現場や一般大気中に浮遊する石綿繊維の太さは1μmから5μm程度と微細であるため,空気中の浮遊時間が長く,一度体内に取り込まれると,肺や胸膜,腹腔の深くへ入りこみ,排出されにくい。人体の肺内に吸い込まれた石綿は,石綿肺をひき起こし,また,肺がん,悪性中皮腫とも密接な因果関係を有するといわれている。肺に到達した石綿粉じんが肺を覆う胸膜に達すると,胸膜肥厚斑ができたり,石灰化したりすることがある(以上は当事者間に争いがない。)。 5 石綿肺の特徴石綿肺は,繊維状の珪酸化合物である石綿粉じんを吸入することにより発生する職業性じん肺症である。石綿粉じんは,他の鉱物性粉じんと異なり,繊維状を呈している。末梢気道に至るまでの気道に付着した石綿粉じんは,繊毛運動によりそのほとんどが排出されるが,石綿粉じんが終末細気管支以下の末梢気道にまで到達して滞留すると,物理化学的な刺激や免疫学的機序によって細胞障害をおこし,持続性の細気管支肺胞炎の原因となる。 病変の初期においては,肺胞腔内には石綿繊維のほかに喰細胞や剥離細胞が集積し,呼吸細気管支壁や肺胞壁の肥厚と白血球などの細胞浸潤が認められ,それらは次第に膠原繊維等に置き換えられていく。 病変が進展すると,呼吸細気管支周囲に局在性の線維化巣が形成され,また呼吸細気管支炎から隣接する肺胞群に炎症が波及して,肺胞壁の肥厚や血管周囲の線維化を引き起こす。線維化はさらに肺胞道や肺胞嚢にまで拡がってゆく。一方,呼吸細気管支を中心に終末細気管支などに閉塞性細気管支炎を起こし,その末梢で無気肺となり無気肺性線維巣が形成されるが,これと相まって線維化はさらに高度になり,次第に広範な間質性肺線維症が認められるようになる。線維 中心に終末細気管支などに閉塞性細気管支炎を起こし,その末梢で無気肺となり無気肺性線維巣が形成されるが,これと相まって線維化はさらに高度になり,次第に広範な間質性肺線維症が認められるようになる。線維化の強い部分では肺胞構造は全く失われ,わずかな残存肺胞を残すのみとなる。また,線維化が広範高度になると,末梢気道レベルでの気管支拡張を伴うようになり,いわゆる蜂巣肺の像を呈する。蜂巣肺は線維化の強い肺底区や下葉の胸膜下に認められることが多い。 石綿肺は,けい肺とは異なり,X線写真では明らかな粒状影を示さず,血管影の修飾された形または肺紋理の増強像が強く,線状ないしこれらが集まって構成する網目状でいわゆる異常線状影(不整形陰影)を呈する。この陰影は中下肺野に多く見られる。また,X線写真像における所見では比較的軽い症状であると判断される場合でも,両側肺下部に微細な捻髪音の聴診が認められたり,進行するにつれて種々の湿性ラ音の聴診所見が認められ,さらには肺機能障害が認められることもある。 自覚症状としては,労作時の呼吸困難が最も重要な所見であり,進行すると乾性咳嗽が必発する。喀痰は粘液性で排出が困難であるが,しばしば感染の合併により膿性痰が見られ,また,時には細気管支拡張性の変化により血痰が見られることもある。石綿肺の主要な肺機能障害は,肺胞毛細管ブロックによるガス拡散障害であり,病変が高度になれば換気障害が起こる。気管支炎,肺炎の合併頻度は高く,炎症が進むと下肺野に気管支拡張が強く現れる。また,石綿肺の患者には,胸膜肥厚斑や胸膜の石灰沈着像がしばしばみられる。合併症としては,特に肺がんや悪性中皮腫などの悪性腫瘍があるのもひとつの特徴である(以上は当事者間に争いがない。)。 第4 日本におけるじん肺の知見の発展とじん肺に関する法制度の変遷 1 戦前の る。合併症としては,特に肺がんや悪性中皮腫などの悪性腫瘍があるのもひとつの特徴である(以上は当事者間に争いがない。)。 第4 日本におけるじん肺の知見の発展とじん肺に関する法制度の変遷 1 戦前の日本におけるけい肺の知見(1) 大正5年8月3日,鉱業法に基づき,鉱山労働者の保護のための労働災害補償等を定める「鉱夫労役扶助規則」が制定され,鉱夫の業務上の負傷,疾病に対して,鉱業権者がその費用で療養を施し,扶助料を負担すること等が定められたが,けい肺は業務上の疾病と扱われてはいなかった。 (2) 昭和5年6月3日,内務省社会局労働部長の鉱山監督局長宛通牒「鉱夫けい肺及び眼球震とう症の扶助に関する件」が出され,鉱夫のけい肺が初めて明確に業務上疾病として取り扱われた。この通牒は,同一鉱山または同一鉱業権者の鉱山に3年以上勤務し,けい肺(結核の合併症を含む)に罹った鉱夫については,業務上の疾病と推定し,鉱夫労役扶助規則により補償すること(ただし,業務の性質上けい肺の原因がないときを除く。また,3年未満でも,発病の原因がその鉱山での就業によることが明瞭である場合を含む。),この診断は一応臨床的症状により決し,鉱業権者がこれを否認するには,レントゲン診断による証明が必要であることを定めた。 また,同年に開催された第1回国際けい肺会議で決定された覚書では,けい肺は遊離珪酸によっておこるものと規定された。労働省労働基準局監修「珪肺」(昭和28年)は,この点につき,「かくて珪肺に関する概念が明確となるにしたがい,鉱山以外の珪酸含有粉塵の発塵作業(窯業その他)にもその存在が次第に確認され,一方又,珪肺以外の塵肺(炭肺,セメント肺,石綿肺)に関心が移つて行つたことも当然の成行きであろう。この推移は,我国でも外国でも1930年代以後の報告によくあらわれ )にもその存在が次第に確認され,一方又,珪肺以外の塵肺(炭肺,セメント肺,石綿肺)に関心が移つて行つたことも当然の成行きであろう。この推移は,我国でも外国でも1930年代以後の報告によくあらわれている。」とまとめている(甲18)。 (3) 昭和9年,鉱山企業の利益団体である日本鉱山協会が,被告の鉱山監督局の後援の下,全国各地で鉱山医や担当係員を対象として鉱山衛生講習会を開き,この中ではけい肺の予防対策も講演された。 (4) 昭和10年,建設業交通運輸業等屋外労働者の労働災害(以下「労災」という。)補償を定めた「労働者災害扶助法」では,けい肺が業務上疾病として定められた。 (5) 昭和11年,工場法施行令及び鉱夫労役扶助規則に規定されている業務上疾病の範囲が改められ,けい酸を含む粉じんを発散する作業によるけい肺は,肺結核を伴わないものでも業務上疾病として取り扱われることになり,この段階で,補償の対象が鉱夫以外の工場労働者のけい肺にまで拡大された。(以上(1)ないし(5)は,当事者間に争いがない。)。 2 戦前の日本における石綿肺の知見(1) 昭和5年(1930年),第1回国際けい肺会議が開催されたが,その覚書には,「硅肺の病因,病理及診断」の第1項で「本会議に於ては専ら硅肺について討議した。他の塵肺はアスベスト肺を除いては現在あまり重要でなく,研究もまだ充分でない。」,第23項で「アスベスト塵の吸入によつて塵肺の起ることは確かである。」との記載がある(甲14)。また,中央労働災害防止協会が昭和60年に作成した「日本のじん肺対策」の第4分冊124ページ(甲1の4)には,「石綿による健康障害としての石綿肺(アスベストージス)は欧米において既に1930年頃には疫学的にも,病理組織学的にも確証されていた。」との記載がある。 (2) 日本においては ージ(甲1の4)には,「石綿による健康障害としての石綿肺(アスベストージス)は欧米において既に1930年頃には疫学的にも,病理組織学的にも確証されていた。」との記載がある。 (2) 日本においては,昭和9年,被告の内務省社会局の医学博士大西清治が「内外治療」(甲11)に欧米の業績を紹介し,石綿の吸入でじん肺がおこることや,石綿肺とけい肺の相違について論じた。石綿肺のX線像がけい肺に比較すると「その陰影遙かに細く,軟く,瀰漫性である」こと,けい肺のX線像についての標準に従うと石綿肺を軽くみることになること等,けい肺との違いについても言及されている。 昭和13年,石川知福は,「塵埃衛生の理論と実際」(甲13)の中で,石綿肺とけい肺がほとんど同一であること,また石綿の需用範囲が著しく拡大して防火具,耐熱器具などに使用されていることを指摘し,鯉沼茆吾は,同年発行の「職業病と工業中毒」(甲14)の中で,石綿肺をけい肺と同様のじん肺とした上で,じん肺が発生するおそれのある危険作業として,蒸気管,ボイラー,炉等の断熱作業をあげている。 (3) 内務省は,昭和12年,健康相談所大阪支所長助川博士の提唱により,職業病の調査研究とその予防対策を使命の一端とする健康相談所において,大阪における2000人以上の石綿作業従事者の調査を実施した。昭和15年に終了した調査の結果は同年「アスベスト工場における石綿肺の発生状況に関する調査研究,健康保険相談所資料第4輯」という報告書にまとめられ,一部の成績は助川らにより報告された(甲15)。 その報告の特徴としては,①胸部理学的所見の特徴として,両側性の副雑音や喀痰中の石綿小体の存在を認めていること,②X線写真像につき,けい肺とは異なる石綿肺の所見の特徴が詳細に記載されていること,③労研式塵埃計による作業環境測定成績は 所見の特徴として,両側性の副雑音や喀痰中の石綿小体の存在を認めていること,②X線写真像につき,けい肺とは異なる石綿肺の所見の特徴が詳細に記載されていること,③労研式塵埃計による作業環境測定成績は当時の恕限度をはるかに越え,防護設備は殆ど設備されておらず,甚だ劣悪な環境で労働条件も悪い状態であったことから,速やかに石綿肺の予防と治療の適切なる対策を樹立すべきことを指摘していることが挙げられる(甲1の4)。 また,これらの著作あるいは内務省の調査結果では,予防対策についても触れられたものがある。例えば,前掲「塵埃衛生の理論と実際」(甲13)には,「塵埃問題は結局發生原因を苅除することが抜本塞源的手段である。之に次で塵埃の發生源からの擴散を防遏すること,更に従業者の吸塵を防止するの装置と方法とを實施することは,二次的の處置として止むを得ざるの對塵埃策である。而も之等3種の方法は,主として工學的管理に屬するのであるが,これに醫學的衞生學的意義附けと協力なくしては,其の實施に有効性を期し難い」としている。また,昭和16年の「労働科学」2月号(甲17)では,ドイツの海軍工廠従業員の職業病についての研究報告の翻訳が掲載され,ここではじん肺としては石綿肺があること,石綿の代用品としてグラスウールを使用するようになったこと,マスク,作業転換等が行われることが紹介されている(以上(1)(2)(3)は,当事者間に争いがない。)。 3 戦後の日本における石綿肺の知見(1) 第2次世界大戦中及び戦後初期に中断された石綿肺についての研究は,昭和27年ごろから再開された。関西では宝来善次,瀬良好澄らが昭和27年以後,奈良等の石綿加工工場における石綿肺発生を調査し,この中で見い出された石綿肺患者が昭和30年に死亡し,我が国初の石綿肺の剖検例となった。また,東京で 。関西では宝来善次,瀬良好澄らが昭和27年以後,奈良等の石綿加工工場における石綿肺発生を調査し,この中で見い出された石綿肺患者が昭和30年に死亡し,我が国初の石綿肺の剖検例となった。また,東京では東京労災病院の医師吉見正二らが昭和29年から石綿工場の検診をはじめた(甲1の4・6)。 (2) このような中,労働省試験研究として,昭和31年度に「石綿肺の診断基準に関する研究」,昭和33年度に「セメント焼成炉以降の作業工程におけるじん肺,市販カーボン,ブラック及び黒鉛によるじん肺ならびに石綿肺に関する研究」,昭和34年度に「石綿肺等のじん肺に関する研究」がなされた。これらの研究には,宝来,瀬良,吉見ら,石綿肺の調査研究にたずさわった研究者が参加している。 昭和34年度研究の「研究班総括報告」(甲31)には,「昭和30年9月珪肺特別保護法が制定されたときから,珪肺以外のじん肺については,いかに取り扱われるかが苦慮されていた」,「珪肺及び石綿肺のX線像所見は十分検討されて基準がつくられている」,「珪肺,石綿肺の肺機能所見は或る程度明らかになった」という記述がある。 (3) 昭和28年5月に発行された労働省監修「珪肺」(甲18)には,けい肺と他のじん肺の鑑別診断についての項で,「従来塵肺として重要なものとみとめられていたものには珪肺の他に,石綿肺があり」「石綿肺以外はいづれも我が国ではなお確認されているとはいいがたい。そしてこれらの塵肺のそれぞれのX線所見に特徴的な点があるか否かについては,尚今後の研究にばつべき点が多く,目下のところこれ等と殊に珪肺の初期とをX線所見だけで鑑別することは,困難であるといわねばならぬ。」とあり,「石綿肺」についての言及もなされ,X線写真所見の特徴についても記載されている(以上(2)(3)は,当事者間に争いがない。)。 とをX線所見だけで鑑別することは,困難であるといわねばならぬ。」とあり,「石綿肺」についての言及もなされ,X線写真所見の特徴についても記載されている(以上(2)(3)は,当事者間に争いがない。)。 4 戦後の日本におけるじん肺に関する法制度等(1) 労働基準法及び労働安全衛生規則昭和22年4月7日公布の労働基準法(昭和22年法律第49号)は,使用者に対し,①粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務(42条),②労働者の健康,風紀及び生命の保持に必要な措置を講ずべき義務(43条),③定期健康診断を実施すべき義務(52条),④病者の就業禁止(51条),⑤労働時間の延長制限,特に有害な業務についての延長制限(36条),⑥危険有害業務についての年少者,女子の就業制限(63条)を規定するなどしていた。 また,昭和22年10月31日に制定された労働安全衛生規則(昭和22年労働省令第9号)は,①粉じんを発散する作業場等における作業・施設の改善努力義務(172条),②粉じんを発散する屋内作業場等における換気措置を講ずべき義務(173条),③著しく粉じんを飛散する作業場における粉じん防止措置を講ずべき義務(175条),④粉じんを発散する場所等に,必要ある者以外の者の立ち入りを禁止すべき義務及びその旨を掲示すべき義務(179条),⑤多量の粉じんを発散する場所における業務等において,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を設置すべき義務(181条)を規定するなどしていた。 なお,当時の労働基準法施行規則35条7号には,同法75条により補償をすべき業務上の疾病のひとつとして「粉塵を飛散する場所に於ける業務に因るじん肺症及びこれに伴う肺結核」と規定されていた。 (2) けい肺対策協議会,けい肺巡回検診等昭和23年,労働省内に,金属鉱山の労 べき業務上の疾病のひとつとして「粉塵を飛散する場所に於ける業務に因るじん肺症及びこれに伴う肺結核」と規定されていた。 (2) けい肺対策協議会,けい肺巡回検診等昭和23年,労働省内に,金属鉱山の労使双方と学識経験者等で構成するけい肺対策協議会が設置され,けい肺に関する各種調査及び対策の検討がなされることになった。この協議会は,昭和25年4月,労働大臣の諮問機関であるけい肺対策協議会に発展的に解消した。 昭和23年10月,労働省は,行政として初めて本格的なけい肺巡回検診を実施し,以後,昭和25年まで6回にわたり巡回検診をした。検診を受けた労働者総数4万6000名,けい肺と診断されたものは6000名いたほか,約600名が炭肺,石綿肺との診断をうけた。 昭和24年6月,被告は,その後のけい肺労災病院(栃木県所在)となる栃木珪肺療養所を設置するとともに,けい肺の研究を行うけい肺試験室を設置し,昭和31年,これを労働衛生研究所とし,昭和51年,これを拡大して産業医学総合研究所を設立した。 昭和27年及び同29年,労働省労働基準局は,日本産業衛生協会との共催で,鉱山衛生けい肺講習会を開催した。 (3) けい肺措置要綱労働省は,(2)の巡回検診結果を検討し,けい肺対策協議会の審議を経た上,昭和24年8月4日基発第812号「けい肺措置要綱」及び同第813号「労働基準法施行規則第35条第7号(粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症及びこれに伴う肺結核)の取扱いについて」を発し,けい肺患者の保護措置の基準及び業務上疾病としてのけい肺の範囲を明確にした。けい肺措置要綱は,X線写真像と呼吸器系の異常所見及び労働能力の減退の有無によって,症状の程度を要領1から3に区分し,それぞれに応じて事業者が講ずべき措置,すなわち,保護具の使用,健康管理の実施, けい肺措置要綱は,X線写真像と呼吸器系の異常所見及び労働能力の減退の有無によって,症状の程度を要領1から3に区分し,それぞれに応じて事業者が講ずべき措置,すなわち,保護具の使用,健康管理の実施,労働時間の短縮,配置転換,療養等を示した。この要領は,昭和26年12月15日改正され(同日基発第826号),昭和30年のけい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法(以下「けい特法」という。)制定まで,けい肺の健康管理に関する行政指導指針となった。 昭和25年12月,労働省は,労働衛生保護具検定規則を定めて防じんマスクの国家検定制度を導入し,昭和26年,労働衛生指導監督要領を定めて,出先機関にけい肺予防についての指示をした。ここにおいて,行政指導の基準として,けい肺について,より細かい環境対策,保護具対策,作業改善対策,健康管理対策,配置転換対策等の予防対策が明確にうち出された。 (4) けい特法(昭和30年7月)及びけい臨措法(昭和33年5月)昭和30年7月,けい特法が成立した。けい特法は,けい肺健康診断,症状等の決定及び作業の転換等,けい肺の健康管理に関する一連の手続を定める等,けい肺にかかった労働者の病勢悪化の防止を図るとともに,けい肺にかかった労働者に療養給付,休業給付等を行うことなどを目的としていた。初回のけい肺健康診断は政府が自ら行うことになっていたので,労働省は事業場の規模の大小を問わず,対象労働者総数約35万人に対して3か年にわたりこれを実施した。 また,昭和33年5月,けい特法に基づく期間満了後も当分の間療養費等を支給すること等を内容とする「けい肺及び外傷性せい髄障害の療養等に関する臨時措置法」が制定された。 (5) 旧じん肺法(昭和35年3月)昭和33年6月,政府は,けい肺審議会に対してけい特法の改正を諮問し,けい肺審 とする「けい肺及び外傷性せい髄障害の療養等に関する臨時措置法」が制定された。 (5) 旧じん肺法(昭和35年3月)昭和33年6月,政府は,けい肺審議会に対してけい特法の改正を諮問し,けい肺審議会では,昭和34年11月,答申を提出し,昭和35年3月31日,じん肺法(旧じん肺法)が成立した。旧じん肺法は,①じん肺の適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とし(1条),②じん肺健康診断の方法(3条),③じん肺のX線写真像及び健康管理の区分(4条),④使用者及び労働者の粉じんの発散の抑制,保護具の使用等の努力義務(5条),⑤使用者のじん肺教育,健康診断を行う義務(6条ないし9条)を規定した。 けい特法との主な相違点は,①補償関係は労働者災害補償保険法に基づき行うとしたこと,②じん肺の定義を定めたこと,③じん肺の予防に関し,使用者及び労働者双方の努力義務を定めたこと,④使用者のじん肺教育を行う義務を定めたこと,⑤粉じん対策指導委員制度を設けたことなどである。 旧じん肺法は,その保護の範囲をけい肺だけでなくじん肺一般に拡大し,同法が適用される「粉じん作業」について,「石綿をときほぐし,合剤し,ふきつけし,りゅう綿し,紡糸し,紡織し,積み込み,若しくは積みおろしまたは石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し研磨し,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」と定めた(じん肺法施行規則別表第1の23号)。 (6) 特定化学物質等障害予防規則昭和46年4月28日,特定化学物質等障害予防規則(同日労働省令第11号。以下「特化則」という。)が制定され,石綿は,日常の作業で労働環境の空気汚染をおこすとする「第2類物質」に該当するものとされ,一定の性能と除じん装置をつけた局所排気装 防規則(同日労働省令第11号。以下「特化則」という。)が制定され,石綿は,日常の作業で労働環境の空気汚染をおこすとする「第2類物質」に該当するものとされ,一定の性能と除じん装置をつけた局所排気装置の設置,環境測定,石綿作業主任者の選任,保護具の徹底などが定められた。 昭和47年6月8日,労働安全衛生法制定に伴い,昭和47年9月30日,特化則も改正された(同日労働省令第39号)。主な内容は次のとおりである。 ① 石綿の粉じんが発散する屋内作業場については,当該発散源に局所排気装置を設けること。ただし,それが著しく困難な場合,または臨時の作業を行うときは,全体換気装置を設けるか石綿を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講ずること。 ② 局所排気装置は,そのフードの外側における石綿の粉じんの濃度が,労働大臣が定める値を越えないような能力を有するものでなければならず,粉じんの粒径に応じた除じん方式による除じん装置を設けること。 ③ 局所排気装置,除じん装置等の定期自主検査を行い,また,石綿等を取り扱う屋内作業場においては,石綿等の空気中濃度を測定すること。 ④ 石綿等を取り扱う作業場には,関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい場所に表示すること。また,呼吸用保護具を備え,洗浄設備を設け,労働者を石綿等を常時取り扱う作業に従事させるときは,作業場以外の場所に休息室を設けること。 ⑤ 石綿等の運搬・貯蔵時は,石綿等がこぼれたり発じんする等のおそれがないよう,堅固な容器を使用しまたは確実な包装をしなければならず,また,化学物質等作業主任者を選任してその職務を行わせること。 ⑥ 石綿等を取り扱う業務に常時従事する労働者に対しては,6か月に1回の石綿健康診断を行うこと。 なお,昭和50年9月30日に改正された特化 ,化学物質等作業主任者を選任してその職務を行わせること。 ⑥ 石綿等を取り扱う業務に常時従事する労働者に対しては,6か月に1回の石綿健康診断を行うこと。 なお,昭和50年9月30日に改正された特化則では,石綿は,発がん性物質として特別管理物質とされた。 (7) 改正じん肺法(昭和53年3月)旧じん肺法の制定後,粉じん作業労働者は約60万人に達し,じん肺に関する医学的研究が進歩したので,昭和53年3月31日,粉じん作業労働者のより一層の健康管理の充実を図るために,同法は新じん肺法に改正された。 改正の主な内容は,①じん肺の定義を改め,合併症を定めたこと,②X線写真像を基礎として,5段階のじん肺管理区分を設け,右区分に応じた段階的かつ具体的な健康管理のための措置を定めたこと,③事業者に対し,じん肺の検診結果に基づき,就業上適切な措置を講じること,④種々の努力義務(20条の2,同条の3,22条の2)を課したことなどである。 アじん肺管理区分決定手続改正じん肺法によれば,粉じん作業を行う事業者は,その使用する労働者に対し,一定の要件のもとに,就業時,定期,定期外,離職時に,じん肺健康診断を実施することが義務付けられ(同法11条,7条ないし9条の2),この結果,医師によりじん肺の所見があると診断された労働者については,じん肺管理区分の決定の基礎とするため,都道府県労働局長(本件当時は労働基準局長)に対し,X線写真,じん肺健康診断結果証明書等を提出することが事業者に義務付けられている(同法12条)。都道府県労働局長は,これら提出書類を基礎として,地方じん肺診査医の診断または審査により,じん肺管理区分の決定をする(同法13条2項)。都道府県労働局長がじん肺管理区分の決定を行ったときは,じん肺管理区分決定通知書により,その旨を事業者に通知し 地方じん肺診査医の診断または審査により,じん肺管理区分の決定をする(同法13条2項)。都道府県労働局長がじん肺管理区分の決定を行ったときは,じん肺管理区分決定通知書により,その旨を事業者に通知し,通知を受けた事業者は,労働者に対し,じん肺管理区分決定通知書により,その者のじん肺管理区分及び留意すべき事項を通知することが義務付けられている(同法14条)。 これとは別に,常時粉じん作業に従事する労働者または労働者であった者は,随時,じん肺健康診断をうけて,都道府県労働局長に対し,じん肺管理区分決定をすべきことを申請することもできる。その際には,X線写真,じん肺健康診断結果証明書等を提出することとされ,都道府県労働局長は,これら提出書類を基礎として,地方じん肺診査医の診断または審査により,じん肺管理区分の決定をし,じん肺管理区分の決定を行ったときは,その旨を申請者に通知することとされている(同法15条)。 イじん肺管理区分改正じん肺法においては,じん肺のX線写真像を第1型から第4型までに区分し(同法4条1項),粉じん作業に従事する労働者であった者を,じん肺健康診断の結果に基づいて管理1から管理4までに区分して,同法の規定により健康管理を行うものとしている(同法4条2項)。じん肺の所見があると認められた者(X線写真像で,一側の肺野の3分の1を超える大陰影があると認められた者を除く。)のじん肺管理区分の決定に当たっては,肺機能障害が著しいか否かを判断する必要があり,改正じん肺法3条,同法施行規則5条等により,肺機能検査を行うこととされている。 ウ肺機能検査肺機能検査は,1次検査と2次検査に分けて行われる。1次検査では,スパイロメトリーによる検査とフロー・ボリューム曲線の検査を行い,スパイロメトリーによる検査よりパーセント肺活量 。 ウ肺機能検査肺機能検査は,1次検査と2次検査に分けて行われる。1次検査では,スパイロメトリーによる検査とフロー・ボリューム曲線の検査を行い,スパイロメトリーによる検査よりパーセント肺活量(各人の肺活量の肺活量基準値に対する割合)及び1秒率(各人の1秒間における肺活量の努力肺活量に対する割合)を求め,フロー・ボリューム曲線の検査より最大呼出位から努力肺活量の25%の肺気量における最大呼出速度(以下「V25」という。)を求める。2次検査では,動脈血酸素分圧及び動脈血炭酸ガス分圧を測定し,これらの結果から,肺胞気・動脈血酸素分圧較差を求める。2次検査は,①自覚症状,他覚所見等から1次検査の実施が困難と判定された者,②1次検査の結果等から著しい肺機能障害があると判定された者以外の者で,1次検査の結果が要2次検査の基準に至っており,かつ,胸部臨床検査の呼吸困難の程度が第Ⅲ度以上の者,③①・②に該当しない者で,1次検査の結果が要2次検査の基準に至っていないが,胸部臨床検査の呼吸困難の程度が第Ⅲ度以上の者,④①から③までに該当しないが,X線写真像が第3型または第4型と診断された者について行われる。なお,呼吸困難度は,第Ⅰ度から第Ⅴ度まで,次のように分類されている。 第Ⅰ度同年齢の健康者と同様に仕事ができ,歩行,登山あるいは階段の昇降も健康者と同様に可能である者第Ⅱ度同年齢の健康者と同様に歩くことに支障はないが,坂や階段は同様に上れない者第Ⅲ度平地でも健康者なみに歩くことができないが,自己のペースでなら1㎞以上歩ける者第Ⅳ度 50m以上歩くのに一休みしなければ歩けない者第Ⅴ度話したり,着物を脱ぐのにも息切れがして,そのため屋外に出られない者この検査の結果,1次検査においては,①パーセント肺活量が60%未満の場合, 0m以上歩くのに一休みしなければ歩けない者第Ⅴ度話したり,着物を脱ぐのにも息切れがして,そのため屋外に出られない者この検査の結果,1次検査においては,①パーセント肺活量が60%未満の場合,②1秒率が性別,年齢別に定められた一定の限界値未満の場合,③V25を身長で除した値(以下「V25/HT」という。)が性別,年齢別に定められた一定の限界値未満であり,かつ,呼吸困難の程度が第Ⅲ度ないし第Ⅴ度の場合に,著しい肺機能障害があるとされ,2次検査においては,肺胞気・動脈血酸素分圧較差の値が年齢別に定められた一定の限界値を超える場合には,諸検査の結果と合わせて著しい肺機能障害があるとされる。また,2次検査を要するのは,1次検査の結果等から,著しい肺機能障害があると判定されないもので,①パーセント肺活量が60%以上で80%未満の場合,②1秒率が性別,年齢別に定められた一定の限界値未満の場合,③V25/HTが性別,年齢別に定められた一定の限界値未満である場合のいずれかに該当し,かつ,呼吸困難の程度が第Ⅲ度ないし第Ⅴ度で,じん肺による著しい肺機能障害がある疑いがあると認められる場合とされている。 なお,肺機能検査の結果の判定に当たっては,肺機能検査によって得られた数値を判定のための基準値に機械的に当てはめて判定することなく,X線写真像,既往歴及び過去の健康診断の結果,自覚症状及び臨床所見等を含めて総合的に判断する必要があるとされている。 肺機能障害は,じん肺が進行するに従い,肺胞への空気の流通が妨げられ(換気障害),肺胞と血液の間で行われる酸素,炭酸ガスの出入りが不十分になる(ガス拡散障害)という形で次第に出現してくる。肺機能障害の程度は,じん肺による肺機能の障害がない場合,じん肺による肺機能の障害がある場合及びじん肺による著しい肺機能の障害が の出入りが不十分になる(ガス拡散障害)という形で次第に出現してくる。肺機能障害の程度は,じん肺による肺機能の障害がない場合,じん肺による肺機能の障害がある場合及びじん肺による著しい肺機能の障害がある場合の3段階に区分されることになっている。 エ改正じん肺法上の合併症改正じん肺法施行規則は,じん肺の病変を素地として,それに外因が加わること等により高頻度に発症する疾病等じん肺と密接な関連を持つ疾病を合併症と規定し,肺結核,結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸の5つの疾病をじん肺の合併症と定めている。ここにいう合併症は,管理2または管理3と決定された者が罹患したものをいう。 ここで,続発性気管支炎とは,持続性の咳,たんの症状を呈する気道の慢性炎症性変化(じん肺の基本的病変で不可逆性の変化)に,細菌感染等が加わった状態をいう。続発性気管支炎は一般に可逆性であり,積極的な治療を加える必要がある。 診断方法としては,まず,胸部X線撮影検査,胸部臨床検査で結核等の明らかな病変が認められないが,胸部臨床検査の自覚症状での調査で1年のうち3か月以上毎日のようにせきとたんがあると認められた者で,自覚症状,他覚所見等から罹患が疑われる者について,精密検査が行われる。精密検査は,主に,たんの量,性状等について検査する。たんの量は,起床後おおむね1時間のたんを採取してその量を測定するが,それが3ml以上であり,また,たんの性状が粘膿性痰を含んでいなければ,続発性気管支炎とは認定されない(以上(1)ないし(7)は,当事者間に争いがない。)。 第5 原告らによる損害賠償請求 1 原告らは,平成10年4月21日,横浜防衛施設局長あてに,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における 第5 原告らによる損害賠償請求 1 原告らは,平成10年4月21日,横浜防衛施設局長あてに,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法1条(以下「民事特別法」という。),合衆国軍隊等の行為等による被害者等に対する損害賠償金の支給等に関する総理府令(以下,単に「総理府令」という。)に基づき損害賠償請求をしたが,同施設局長はこの請求に対する支払を拒否した(原告らの主張に対し被告はこれを争うことを明らかにしないから,自白したものとみなされる。)。 2 原告らは,平成11年7月7日,本件訴訟を提起し,その訴状は,同月12日,被告に送達された(一件記録上明らかである。)。なお,原告Fは,当初原告であった亡F’の死亡に伴い,訴えの変更を申し立ててその請求額を変更するとともに,損害賠償請求権の発生原因を,亡F’が石綿による悪性胸膜中皮腫で死亡したことによる損害賠償請求権と変更した。また,原告Jらは,当初原告であった亡J’の死亡に伴い,亡J’の損害賠償請求権(じん肺管理区分管理4に罹患したことを原因とする損害賠償請求権)を相続し,本件訴訟を承継した(損害賠償請求権の発生原因を変更する旨の主張は特にない。)。 第4章争点第1 安全配慮義務の具体的内容及び債務不履行責任ないし不法行為責任の成否第2 原告らの症状及び損害第3 消滅時効の抗弁の成否第4 過失相殺の抗弁の成否第5章争点に関する当事者の主張の要旨第1 安全配慮義務の具体的内容及び債務不履行責任ないし不法行為責任の成否 1 原告らの主張一般に雇用契約関係にある当事者間では,使用者は従業員に対し,信義則上,雇用契約の付随義務として,従業員が労務に従事するに際し,その生命及び健 務不履行責任ないし不法行為責任の成否 1 原告らの主張一般に雇用契約関係にある当事者間では,使用者は従業員に対し,信義則上,雇用契約の付随義務として,従業員が労務に従事するに際し,その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている。本件の場合,雇用者である被告が安全配慮義務を負い,実際の使用者である米軍がこの安全配慮義務を怠った場合でも,被告がただちにその安全配慮義務違反の責任を負うというべきである。 なお,最高裁昭和48年(オ)第383号同50年2月25日第三小法廷判決・民集29巻2号143頁。以下「最高裁昭和50年判決」という。)によれば,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随的義務として,当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務なのであるから,雇用契約上の安全配慮義務は,日々具体的な労務提供の際にのみに発生すると限定すべきではなく,信義則上,労務提供の場面以外において,被告が米軍とは別個に安全配慮義務を負う場合もあるというべきである。 被告は,原告らとの間で,雇用契約を締結し,これに基づき,原告らをして石綿を中心とする粉じんにばく露する危険のある各種作業に従事させていたのであるから,遅くとも,じん肺に関する知見及びじん肺防止に関する知見を得た昭和15年ころ以降,すなわち原告らが雇用された当初から,雇用契約に付随する義務として,信義則上,当時の実践可能な最高の工学的技術水準に基づいて次の①ないし⑧のじん肺防止対策をとり,雇用者として,労働者がじん肺に罹患しまたは憎悪させることがないよう周到にその安全を配慮すべき義務があったというべきである。 ① 粉じん作業時間の短縮に努め,じん肺に罹患した患者については早期に非 雇用者として,労働者がじん肺に罹患しまたは憎悪させることがないよう周到にその安全を配慮すべき義務があったというべきである。 ① 粉じん作業時間の短縮に努め,じん肺に罹患した患者については早期に非粉じん作業に配置転換する。 ② 溶接作業等火気作業の際の火うけとして,石綿以外の安全な代替品を支給する。 ③ 粉じんの発生を防止ないし抑制するため,各種作業の前または作業中に,適切な箇所に散水や噴霧を行うように従業員を指導監督する。 ④ 発生した粉じんが作業現場に滞留することのないように,局所排気装置による合理的な通気システム等の実現を図る。 ⑤ 粉じん作業に従事する従業員に防じんマスク,防護衣を支給し,作業の際これを装着するように指導監督するとともに,フィルターの充分な予備を備え置いて交換に供する。また,作業終了後は防護衣を着替えさせ,作業現場の清掃を徹底する。 ⑥ 粉じんの発生する作業を調査した上,粉じんの発生する作業については他の作業との混在を禁止し,密閉し隔離した空間で粉じんの発生する作業のみを必要最小限の人員で行わせる。 ⑦ じん肺の原因,症状などの医学的知見,予防方法について従業員に充分な教育を行い,じん肺防止対策の重要性を認識させる。 ⑧ 従業員に健康診断,じん肺検診を定期的に実施し,じん肺患者の早期発見,早期治療,健康管理に努め,じん肺所見の認められた者には診断結果を通知して健康管理の必要性を認識させる。 (1) ①粉じん作業時間短縮・配置転換義務違反粉じん作業時間の短縮あるいは配置転換の重要性は戦前から判明していたことであるから,米軍及び被告もこのことを知っていたはずであるし,それは実践可能であったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,その努力をしなかった。 (2) ②石綿製品の代替 判明していたことであるから,米軍及び被告もこのことを知っていたはずであるし,それは実践可能であったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,その努力をしなかった。 (2) ②石綿製品の代替品の支給義務違反作業にあたっては,できる限り石綿を含まない製品を用いるべきであるから,例えば,X-26,X-11においては,溶接作業等の際に用いる火受けとして,石綿布以外の安全な代替品を支給する義務があるというべきであるが,米軍及び被告は,その義務を昭和50年ごろまで怠った。 (3) ③散水・噴霧の指導監督義務違反粉じん発生防止に散水,噴霧等の湿化が有効であるとの知見は戦前から確立していた上,昭和22年の労働安全衛生規則は,屋外等において,著しく粉じんを発散する作業場においては,注水その他粉じん防止措置を講じなければならない旨を定めていたのであるから(175条),米軍及び被告は,昭和22年当時,粉じん対策として湿化が有効であることを知っていたはずであるし,それは実践可能だったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50代半ばごろまでこの粉じん防止対策をとらなかった。 (4) ④通気システム設置義務違反すでに昭和13年の段階で局所排気装置の有効性について記述した文献があった上,昭和22年の労働安全衛生規則は,粉じんを発散する屋内作業場においては,局所排気装置等による換気等適当な措置を講じなければならない旨を定めていたのであり(173条),さらに,当時の労働省は,戦後,局所排気装置について研究をすすめ,労働衛生試験研究費補助金を交付し,局所排気装置の設計基準の作成につとめ,昭和33年には「労働環境における職業病の予防に関する技術指針」の中で,石綿関連作業につき局所排気装置を設置すること,石綿の抑制目標限度,防じんマスク 交付し,局所排気装置の設計基準の作成につとめ,昭和33年には「労働環境における職業病の予防に関する技術指針」の中で,石綿関連作業につき局所排気装置を設置すること,石綿の抑制目標限度,防じんマスク着用を定めていたのである。したがって,米軍及び被告は,当時,粉じん対策として,局所排気装置等の有効なことを知っていたはずであるし,それは実践可能であったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばころまで適切な局所排気装置による対策をとらなかった。 なお,①CFAYのOPSのJ87工場内においては,同工場内の一角にポンプ類の修理室が作られ,修理等のために石綿製の保熱容器やアスベストボードが保管されていたことや,修理等に使用した石綿の残りが工場のそばの臨時倉庫に保管されていたことに照らし,②NSDの倉庫においては,同所が断熱材・防熱材を専門に保管する部署であることに照らし,③PWCにおいては,同所が石綿製品を含む荷物を運搬する部署であることに照らすと,被告及び米軍にはこれら石綿製品の保管を厳重にし,粉じんが飛散しないようにする義務があるというべきであるが,米軍及び被告は,適切な対策をとらなかった。 (5) ⑤保護具等の支給及び装着指導監督義務・作業現場の清掃義務違反戦前から防じんマスクは出まわっており,すでに昭和9年の段階で防じんマスクについて詳細に言及した文献もあった上,昭和22年の労働安全衛生規則は,粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務においては,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えなければならない旨を定めていたし(181条),昭和25年,被告は防じんマスクの規格が示され,国家検定をはじめている。したがって,米軍及び被告はこの段階で粉じん作業に防護 保護具等適当な保護具を備えなければならない旨を定めていたし(181条),昭和25年,被告は防じんマスクの規格が示され,国家検定をはじめている。したがって,米軍及び被告はこの段階で粉じん作業に防護衣,防じんマスクが必要なことを認識していたはずであり,それは実践可能であったはずである。また,粉じんばく露を防ぐためには,作業現場の徹底的な清掃も必要である。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばまでこれらの対策をとらなかった。 (6) ⑥混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反粉じん作業か否かの調査は作業現場を見ればわかることであるから,当然,実践可能であった。現に昭和57年には,石綿粉じん作業について調査が行われているが,この程度の調査はそれ以前でも可能であった。なお,粉じんの測定については戦前すでに「労研式塵埃計」が存在し,戦前の内務省の大阪等の石綿工場の調査でもこれが使用されているので,それを使用して計測することは可能であった。戦前の文献において,粉じん対策としての混在作業の禁止と作業場の隔離が必要であるとの知見は確立していた上,昭和22年の労働安全衛生規則は,粉塵を発散する作業場においては,その原因を除去するため,作業または施設の改善に努めなければならないこと(172条),粉塵を発散する場所には,必要ある者以外の者の立ち入ることを禁止し,その旨を掲示しなければならないこと(179条)を定めていたのであるから,米軍及び被告は,昭和22年当時,粉じん対策として混在作業の禁止と作業の隔離が重要なことを知っていたはずであるし,それは実践可能であったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばごろまで石綿を中心とする粉じん作業につき調査もせず,混在作業を行わせ,作業場を隔離していなかった。 具 あるし,それは実践可能であったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばごろまで石綿を中心とする粉じん作業につき調査もせず,混在作業を行わせ,作業場を隔離していなかった。 具体的には,X-41Lが行う①ボイラー修理に際しての修理船内におけるボイラー等の断熱材はがし作業,炉内の耐火,断熱材の撤去,新設の作業,工場内における石綿布団づくりの作業,②タービン修理やバルブ等修理に際しての修理船内におけるタービン,バルブ等の断熱材はがし作業,断熱材撤去の作業に際しては,これら作業を密閉し,隔離した空間で最小限の人員で行わせ,X-41B,X-38M,X-26,X-17,X-99,CFAYのOPSの従業員との混在を禁止する義務があるが,米軍及び被告は,昭和50年代半ばごろまで,これらの従業員に漫然と混在作業をさせていた。 (7) ⑦従業員に対するじん肺教育義務違反昭和22年の労働基準法50条は「使用者は労働者を雇い入れた場合においては,その労働者に対して当該業務に関し,必要な安全及び衛生のための教育を施さなければならない」と定めていた。安全衛生教育の必要性は当然のことであり,すでにその時点で,米軍及び被告はじん肺及びその防止対策の知見を得ていたはずであるし,それは実践可能であったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばまでじん肺についての安全教育をしなかった。 (8) ⑧健康診断等の実施義務違反じん肺の早期発見,健康管理が重要なことはすでに戦前から判明していたことであるから,米軍及び被告もこのことを知っていたはずであるし,それは実践可能だったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばまで,ほとんどの粉じん職場でじん肺検診等を実施しなかった。 ア昭和54年以前のじん肺健 知っていたはずであるし,それは実践可能だったはずである。それにもかかわらず,米軍及び被告は,昭和50年代半ばまで,ほとんどの粉じん職場でじん肺検診等を実施しなかった。 ア昭和54年以前のじん肺健康診断の実態昭和36年11月27日,昭和35年の旧じん肺法成立を受けて,日米間の基本労務契約附属協定第56号で,初回及びその後の定期検診は米軍側の要求にもとづいて行うこととされた。しかしながら,米海軍横須賀基地で昭和30年代にじん肺検診が行われた形跡は皆無である。 昭和40年代について,昭和49年に限定された職場で,限定された人員に対してじん肺検診が行われた形跡があるが,それ以前ははっきりしない。管理2及び3を除けば,じん肺検診は3年に1度行われるはずであるから,昭和40年,43年,46年に実施された可能性があり,それが米海軍横須賀基地におけるはじめてのじん肺検診である可能性がある。このころのじん肺検診は対象職場や人員が限定されていたため,その実態は把握し難いが,おそらくは昭和46年ごろがはじめての検診と思われる。 イ昭和55年の米海軍横須賀基地でのじん肺健康診断米海軍横須賀基地に勤務する従業員で組織する全駐労横須賀支部の第23回定期大会報告書(昭和56年)には,「じん肺健康診断は,昨年秋から実施された」との記載がある。昭和56年以前の定期大会報告には,じん肺健康診断についての記述は一切なく,昭和56年の報告書に突如として現れたのであり,この記述によれば,昭和55年ごろから,遅まきながら,本格的にじん肺対策が始動し,そのため従来よりも格段に大規模なじん肺検診が初めて実施されたというのが実態であると思われる。 このときの健康診断では,大量の再検者が出た。そして昭和56年から昭和57年の3月ごろにかけて,これらの者の中から,このとき に大規模なじん肺検診が初めて実施されたというのが実態であると思われる。 このときの健康診断では,大量の再検者が出た。そして昭和56年から昭和57年の3月ごろにかけて,これらの者の中から,このときの検診結果をもとに管理2あるいは管理3イと認定される者が相当数(具体的には管理2が23名,管理3イが24名,管理3ロが1名)出た。原告側の調査によると,この昭和55年検診以前に,じん肺法によるじん肺健康診断が行われた形跡があるのは,X-26とX-41Lぐらいであったが,昭和55年のじん肺検診は対象職場が15と大幅に拡大されている。 ところで,昭和57年3月ごろまでに受診者の管理区分が決定されていったのであるが,その決定後,昭和57年の段階で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所(以下,単に「横須賀労管」という)では,昭和55年のじん肺検診についてまとめた「じん肺検診者,石綿作業従事状況」と題する書類を作成している。この書類には,職場別,職種別の受診者数と,管理2以上になった者の人数がまとめられている。また,この書類には,職場ごとに,石綿作業に過去に従事していた人間が何人で,現在,従事している人間が何人かが記載されている。つまり,じん肺検診の結果と石綿作業従事者の調査結果が1つの書類にまとめられているわけであるが,以前から石綿を意識したじん肺検診がきちんと行われていれば,この時期に,わざわざ石綿作業に過去従事した者を洗い出す必要などないわけであるから,この書類の存在は,石綿粉じん対策が,まさに昭和55年ごろから本格的に行われることになったことを示しているというべきである。 ウ昭和57年,58年の労働基準監督署による行政指導被告は,昭和54年,56年の2年にわたり,管理2及び3の者について1年以内ごとに行うべきじん肺検診を行わず,また,じん肺 というべきである。 ウ昭和57年,58年の労働基準監督署による行政指導被告は,昭和54年,56年の2年にわたり,管理2及び3の者について1年以内ごとに行うべきじん肺検診を行わず,また,じん肺所見のある者についてX線写真やじん肺健康診断結果証明書を神奈川労働基準局に提出せず,また昭和53年のじん肺検診の結果,管理3イ等に該当する労働者につき就業場所を変更する等の措置を講ずるよう努めなかったとして,昭和57年3月17日,被告の横須賀労働基準監督署長が横須賀労管所長に対して措置勧告をしている。また,同年4月3日には,被告の神奈川労働基準局長が神奈川県渉外部長に同旨の要請をしている。 また,昭和58年2月23日には,横須賀労働基準署の労働基準監督官が,横須賀労管所長あてに是正勧告書を出した。その主な内容は,局所排気装置の未設置や有効性の問題,粉じん作業者に有効な呼吸用保護具を使用させていないことに対する注意等であった。同日,指導票が横須賀労管所長に交付されたが,その内容は,「有機溶剤を使用する職場,粉じんを発生する職場において環境,設備,作業方法等の見なおし,点検を全面的に行われたいこと」,「有資格の衛生管理者に権限を与え,職場の衛生管理に当たらせること」等というものであった。 エ昭和58年以降のじん肺健康診断昭和58年5月ころより行われた3年に1度のじん肺検診では,昭和55年の検診と比較すると人数,対象職場数とも飛躍的に増加した。このことは,昭和55年のじん肺検診すら,人数,対象職場の点で不充分であった,つまり検診が実施されるべきであるのに実施されずに放置された職場があったことを物語っているというべきである。 オ特化則による石綿健康診断昭和47年9月30日制定の改正特化則において,6か月に1回の石綿健康診断が義務づけられた るのに実施されずに放置された職場があったことを物語っているというべきである。 オ特化則による石綿健康診断昭和47年9月30日制定の改正特化則において,6か月に1回の石綿健康診断が義務づけられたにもかかわらず,この石綿健康診断が米海軍横須賀基地において実施された時期は,改正特化則制定から丸10年が経過した昭和57年秋のことであって,それ以前は1度も実施されていない。 カ小括以上から明らかなように,米海軍横須賀基地においては,昭和50年代中ごろになってようやく石綿粉じんに対する対策がとられるようになったのであって,それ以前はほとんど何の対策もとられなかったといってよい。 (9) 被告の安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任ないし不法行為責任以上のように,米軍ないし被告は,使用者ないし雇用者として,原告ら労働者がじん肺に罹患しまたは憎悪させることがないようにするための種々のじん肺防止対策を怠り,原告ら労働者に対して信義則上負うべき安全配慮義務に違反した結果,原告らは以下のようにして石綿を含む粉じんのばく露を受け,じん肺に罹患したのであるから,その義務違反に基づき,被告は,原告らに対して債務不履行責任を負うというべきである。 また,米海軍は,昭和50年代半ばまで石綿粉じん対策を怠り,そのため原告らは以下のように石綿を含む粉じんのばく露を受け,じん肺に罹患するなどして損害を被ったのであり,これは,米海軍の原告らに対する不法行為ともなるから,民事特別法1条,国家賠償法1条に基づき,被告は,原告らに対して不法行為責任を負うというべきである。 ア X41-Bの原告H,同K,同Lについて(ア) 修理船内における作業中ボイラーの修理は,まず,狭く換気の悪い船内で,石綿を使用した断熱材をはがすことから始まる。断熱材を取り扱う 。 ア X41-Bの原告H,同K,同Lについて(ア) 修理船内における作業中ボイラーの修理は,まず,狭く換気の悪い船内で,石綿を使用した断熱材をはがすことから始まる。断熱材を取り扱うのは職種の上からはX-41Lになるが,軍用艦の修理は出航時期が決まっており,修理日数をなるべく短く上げるため,SRFでは多職種の混在作業が日常的に行われていた。ボイラー修理の前工程である断熱材はがしも,X-41LばかりでなくX-41Bの従業員も参加して,実際には両者の共同作業として行われた。原告H,同K,同Lは,この作業のときに飛散した大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 一方,X-41Lの従業員は,X-41Bの仕事の進展具合に合わせつつ,ボイラー室内で混在作業として,炉内の石綿を使用した耐火・断熱材の取替え作業をし,最終的にはボイラー,パイプ等を石綿使用の断熱材でもう一度被覆するのであるが,X-41Lの行う炉内の耐火・断熱材の取替え作業のうち,撤去作業の際にも大量の石綿を含む粉じんが飛散した。また炉内での耐熱・耐火材新設の際も,例えば石綿使用の断熱ブロックの切断や,「団子」と呼ばれる,石綿を含む粉末をセメントのように水で練りブロック間のつなぎとして使用する材料などを現場で作るときに,大量の石綿を含む粉じんが飛散した。これらの際,X-41LばかりでなくX-41Bの従業員も石綿を含む粉じんにばく露した。 (イ) 工場内における作業中X-41Bの工場はX-41Lと共通の建物であったため,X-41Lが工場内で断熱材として使用する石綿を切断し,縫合する等の作業をしている際(いわゆる石綿布団づくり)に大量の石綿を含む粉じんが工場内に飛散し,X-41Lの従業員とともに石綿を含む粉じんにばく露した。なお,X-41Bの従業員が,これを手伝うことも する等の作業をしている際(いわゆる石綿布団づくり)に大量の石綿を含む粉じんが工場内に飛散し,X-41Lの従業員とともに石綿を含む粉じんにばく露した。なお,X-41Bの従業員が,これを手伝うこともあった。 また,ボイラーの外側を囲うケーシングという覆い(鉄板に石綿を使用した断熱材が入れてある。)の修理,作成はX-41Bの仕事であり,X-41Bの従業員は,工場内でケーシングに石綿の綿や石綿を使用したブロック等をつめる等したため,この際,原告H,同K,同Lは,石綿を含む粉じんにばく露した。 イ X-41Lの原告EについてX-41Lの作業内容としては,第一に,船内で,船の防熱する部分に布状の石綿を切って専用のノリではりつけて被覆したり,また被覆した石綿を切ってはがしたりする作業があった。一部は,防熱する部分の部品を外して工場へ運び工場内で石綿をはりつけて,船に戻して取り付ける場合もあった。この作業時に大量の石綿を含む粉じんが飛散し,これにばく露した。 第二に,船内で,粉状の石綿を袋からあけて容器に入れて,それに水を混ぜてペースト状にし,それを団子状にして,船の配管の凹凸のある部分に沿って張りつける作業があった。原告Eは,この作業時に飛散した大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 第三に,工場内で石綿の粉等を石綿の布で包み,石綿の糸で縫い合わせて布団状のものを作り,それを船に持っていって,船のバルブなど複雑な形状の防熱部分を包むという作業があった。原告Eは,この作業時に飛散した大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 第四に,船内のボイラーの容器(ケーシング)の狭い凹凸のある内側の壁の必要箇所を削って壊し,煉瓦,石綿板等を形に合わせて加工し,組み立てながら被覆していく作業があった。これらの壁は,ケーシング(鉄),石綿板,軽量煉瓦 ーの容器(ケーシング)の狭い凹凸のある内側の壁の必要箇所を削って壊し,煉瓦,石綿板等を形に合わせて加工し,組み立てながら被覆していく作業があった。これらの壁は,ケーシング(鉄),石綿板,軽量煉瓦,耐火煉瓦の順の構造になっており,熱で劣化したこれらの被覆部分を削って壊し,新しい石綿板,煉瓦を形に合わせて切り,それを凹凸のある壁面に沿って被覆していく作業であった。原告Eは,この作業時に飛散した大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 ウ X-38Mの原告A,同Cについて(ア) 修理船内における作業中タービンの修理作業は,艦船の機関室内での作業で,タービンを覆っている周囲の石綿使用の断熱材を取り外してから,内部の羽やタービンの軸受け等を修理することになる。断熱材を取り扱うのは,職種の上からはX-41Lになるが,軍用艦の修理は出航時期との関係で修理日数が限られているので,X-38Mの従業員自らが,断熱材はがしをすることが多く,X-41Lの従業員が行う場合も,すぐに作業にとりかかれるよう,傍らで待機している状態であった。原告A,同Cは,この作業時に飛散した大量の石綿を含む粉じんにばく露した。断熱材の取り外しから1時間位は,特に石綿を含む粉じんがひどかった。また,断熱材を取り外した後,タービンの内部に粉じんが入らないように,掃除機やエアーで掃除をするが,このときにも,石綿を含む粉じんが舞い上がり,これにばく露した。 ボイラー室でのバルブ,パイプの修理作業も,バルブ,パイプを覆っている石綿使用の断熱材を取り外してから修理を行うことになる。この修理作業の際も,バルブ,パイプの周囲が石綿使用の断熱材で覆われているため,まず,断熱材を取り外すことから作業を始めなければならなかったが,前記と同様の理由で,X-38Mの従業員が自ら断熱材はがしを 理作業の際も,バルブ,パイプの周囲が石綿使用の断熱材で覆われているため,まず,断熱材を取り外すことから作業を始めなければならなかったが,前記と同様の理由で,X-38Mの従業員が自ら断熱材はがしをすることが多かった。断熱材を適当な大きさに切断したりして取り外すので,石綿を含む粉じんは,電灯がぼんやりと霞んでしまうほどにひどい状態であり,原告A,同Cは,この作業時に,石綿を含む粉じんにばく露した。 (イ) 工場内における作業中工場内にポンプ,蒸気管等比較的小さなものを持ち込んで修理することがあり,このときはX-38Mの従業員が自ら石綿使用の断熱材を取り外したが,原告A,同Cは,この作業時に,石綿を含む粉じんにばく露した。 エ X-26の亡F’について(ア) 溶接作業中溶接工の職務は,工場内及び修理船内における各種溶接溶断作業全般(以下,単に「溶接」という。)である。溶接作業の際には,溶接の火花が人や機器などに降りかかるのを防ぎ,あるいは火花が可燃物に引火して火災に至ることを防止するため,火受けとして布状の石綿製品を溶接箇所付近の相当範囲や付近の機器,可燃部に敷く,被せる,巻く等したり,溶接工自ら布状石綿製品を被って火花の飛散を避けていた。このため,亡F’は,工場内作業の場合も修理船内作業の場合も,石綿の布で被う作業の際等に発生する大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 (イ) 修理船内における作業中溶接工は,船内各所に派遣され,溶接作業に従事した。溶接に際しては,予めパイプ等に巻き付けられる等した石綿使用の断熱材をはがすことが必要なことも多く,溶接作業は断熱材をはがした後の石綿を含む粉じんが充満する狭い船内で行われることも多かった。また,傍らで断熱材はがしが行われている中で,溶接作業を並行することもあった。 中でも, 要なことも多く,溶接作業は断熱材をはがした後の石綿を含む粉じんが充満する狭い船内で行われることも多かった。また,傍らで断熱材はがしが行われている中で,溶接作業を並行することもあった。 中でも,ボイラー,タービン室内における溶接作業は劣悪な環境下で行われた。ボイラー,タービンの修理は,まず狭く換気の悪い船内で,石綿を使用した断熱材をはがすことから始まる。断熱材を取り扱うのは職種の上からはX-41Lになるが,軍用艦の修理は出航時期が決まっており,修理日数をなるべく短く上げるため,SRFでは多職種の混在作業が日常的に行われていた。X-26の溶接工も,断熱材をはがした直後の石綿粉じんが充満する室内で溶接を行ったり,ときには傍らで断熱材はがしが行われている中で溶接作業をすることもあり,亡F’は,その際に飛散した大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 オ X-11の原告Iについて船舶設備取付工の職務は,船体の外板,船底,甲板,隔壁等の修理である。具体的には,船体の損傷箇所を見て型を取り,船内や工場で部品・設備を製作し,これを船体に仮溶接をして取り付ける作業を行うことになる。この作業は,損傷部分等のガス溶断,部品・設備製作の際の溶接,部品・設備を船体に取り付ける際の仮溶接作業を伴うが,いずれの場合も,溶接の火花が人や機器などに降りかかるのを防ぎ,あるいは火花が可燃物に引火して火災に至ることを防止するため,火受けとして,布状の石綿製品を溶断,溶接箇所付近の相当範囲や付近の機器,可燃物に敷く,被せる,巻く等したり,あるいは自ら布状石綿製品を被るなどして,火花の飛散を避けていた。このため,原告Iは,石綿の布で被う作業の際等に発生する大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 カ X-17の亡G’について板金工は空調,通風関係のダクト,油圧扉等 て,火花の飛散を避けていた。このため,原告Iは,石綿の布で被う作業の際等に発生する大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 カ X-17の亡G’について板金工は空調,通風関係のダクト,油圧扉等の扉等の作成,修理,取付等けを修理船内で行うことをその職務とするが,この作業は,石綿を含む粉じんが充満するボイラー室や石綿使用の断熱材はがしを伴う配管,修理現場等において,混在して行われたため,亡G’は,この際,石綿を含む粉じんにばく露した。 キ PWCの亡J’について亡J’は,フォークリフト及び大型トレーラーの運転手として,荷物を横須賀基地入口,池子倉庫地区入口,久里浜倉庫地区入口から各基地,倉庫地区内の収納する倉庫までをトレーラーで運搬し,その上でフォークリフト等で荷物を積み下ろし倉庫内の所定場所へ収納する仕事に従事していたが,荷物の中には石綿製品も多く,大型のコンテナいっぱいに入っているパレット上の梱包された石綿製品を,パレットごとフォークリフトで持ち上げ,それを倉庫の中に入れるため,コンテナの中に入ってパレットにチェーンをつけたり,パレットからずれた荷物を元の位置に並べたり,梱包がばらけているものを運べるように別の入れ物に入れたりする作業があった。その際,運搬の途中で,コンテナの中でぶつかったりして石綿製品の梱包が破れ,中身もバラバラになっているものが多かったことから,コンテナの中に飛散していた大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 また,倉庫の中でフォークリフトにより収納作業をする際にも,梱包が破損しているものを積み上げていくため,倉庫内に飛散していた大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 ク NSD及びX-99の原告Dについて(ア) NSD在職中(昭和31年ころから同38年ころ)原告Dは,昭和31年ころから同38年こ 倉庫内に飛散していた大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 ク NSD及びX-99の原告Dについて(ア) NSD在職中(昭和31年ころから同38年ころ)原告Dは,昭和31年ころから同38年ころにかけて,久里浜倉庫地区の石綿製品等,断熱材・防熱材を専門に保管する倉庫の専任責任者をしていたが,大型のコンテナ一杯に入っているパレット上の梱包された石綿製品を,パレットごとフォークリフトで持ち上げ,それを倉庫の中に入れるため,コンテナの中に入ってパレットにチェーンをつけたり,パレットからずれた荷物を元の位置に並べたり,梱包がばらけているものを運べるように別の入れ物に入れたりする作業があった。その際,コンテナの中に飛散していた大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 また,倉庫内で石綿製品を搬入搬出する際,オーダーに従った数量の搬出のために梱包を解き,ばらして別の入れ物に入れたり,ばらしたものをそのままテープ等で巻いてまとめたり,むき出しのものを積み込んだりするとの等の作業をしていた時に,倉庫内に飛散していた大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 さらに,倉庫の管理,清掃作業の時にも,倉庫内に積もった大量の石綿を含む粉じんが飛散したため,これにばく露した。 (イ) X-99在職中(昭和45年8月から同60年6月まで)原告Dは,その後昭和45年8月15日から退職する昭和60年6月末までSRFのX-99のユーティリティーパイプ取付工として停泊ないし修理中の軍用艦船内に,蒸気,空気,真水,海水,電力のパイプ類を取り付ける作業に従事したが,ボイラー室で,パイプ作業や防熱作業が行われる時に,作業のためのユーティリティーを供給するためボイラー室の中にたびたび行き,ボイラー室のケーシングを削って壊す作業と混在してパイプ取り付け作業をし,ボイラー室に飛散する 作業や防熱作業が行われる時に,作業のためのユーティリティーを供給するためボイラー室の中にたびたび行き,ボイラー室のケーシングを削って壊す作業と混在してパイプ取り付け作業をし,ボイラー室に飛散する大量の石綿を含む粉じんにばく露した。 また,船内に暖房,調理,風呂シャワー等のための蒸気を供給する管を設置する際,蒸気の漏れを防ぐため,石綿の板を切って丸いパッキンを作り,蒸気管に取り付ける作業を行い,その際,石綿を含む粉じんにばく露した。 ケ OPSの原告Bについて(ア) 修理船内における作業中LCMボートあるいはタグボートの機関等の修理を行う際には,まず,断熱材として使用されているアスベストを取り外してから修理を依頼した。修理作業は他職種との混在作業になることがほとんどであったが,他職種の作業が粉じん作業であることもしばしばであった。例えば,プッシャーボードの上部甲板を広くし,防舷材をすべてゴムに替える工事の際には,錆落とし,塗装,溶接と混在して,また,タグボートの水漏れ修理のときには,溶接とテラゾー(有色のアスファルト状タイル)吹き付けと混在して作業を行っていた。特に,溶接との混在作業は日常的であったが,その際,原告Bは,溶接工が火受けに使用するアスベストの粉じんにばく露した。 また,外舷塗装の研磨エナメル吹き付け作業が機関室内等の修理とともに行われることもあったが,その際,原告Bは,機関室内の修理に伴うアスベストの粉じんにばく露した。 (イ) J87工場における石綿保管等に際してJ87工場内の一角にはポンプ類の修理室が作られていたが,原告Bは,熱交換機の機能を高めるために完全な分解掃除と正確なハンダ付けが必要なことから,石綿を使用し熱を保つ石綿製の容器を作成して石綿粉じんにばく露した。 また,熱交換機のハンダ付けの際の たが,原告Bは,熱交換機の機能を高めるために完全な分解掃除と正確なハンダ付けが必要なことから,石綿を使用し熱を保つ石綿製の容器を作成して石綿粉じんにばく露した。 また,熱交換機のハンダ付けの際の予熱時にはアスベストボード等を使用するが,それを修理室に保管していたところ,昭和38年から退職まで,その真下に原告Bの事務机があり,原告Bは毎日2時間以上は事務机に向かっていたことから,石綿を含む粉じんにばく露した。 さらに,昭和38年ごろから,修理等に使用した石綿の残りは,蓋をしない袋の中に入れて,J87工場のそばのバラックの臨時の倉庫の棚に載せてあったが,風が吹くとこれらの石綿粉じんが舞ったりしていた。原告Bは,部品を整理するために,毎日のようにその倉庫に出入りしていたため,石綿粉じんにばく露した。 2 被告の主張(1) 被告が安全配慮義務を尽くしたことについてア間接雇用方式と基本労務契約日本政府は,米軍の任務遂行のために必要な労務の円滑な充足と日本人従業員の権利利益の擁護を図るとの観点から,日本人従業員を雇用し,その労務を米軍に提供するいわゆる間接雇用方式を採っており,日本側と米軍との間でどのように労務管理の事務を分担するかについては,昭和32年9月18日に締結された基本労務契約において詳細に取り決められた。それによれば,おおむね,日本側は法律上の雇用主として,米軍の発議する人事措置の審査と実施,給与の計算,支払,労働組合との交渉等の事務を,他方,米軍においては実際の使用者として日本人従業員の直接の監督,指導,統制,訓練をそれぞれ担当することとなっている。 イ被告が負う安全配慮義務の内容安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方または ぞれ担当することとなっている。 イ被告が負う安全配慮義務の内容安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである(最高裁昭和50年判決)。米海軍基地従業員に対する安全配慮義務については,基本労務契約に基づき,被告との間に雇用契約が締結されたという法律関係に基づき,被告と米軍との間の特別な社会的接触関係に入ることにより生ずるものであり,安全配慮義務は被告と米軍の双方が負担することとなるが,ある者に対して複数の者が安全配慮義務を負う法律関係があった場合には,その社会的接触の内容・程度等により,負うべき安全配慮義務の内容・程度等に差異が生じるのは当然というべきであって,被告が負うべき安全配慮義務は,米軍に対して,安全配慮義務を尽くすよう申入れを行うなどの二次的な義務にとどまるものと解するのが相当である(横浜地裁昭和54年3月20日判決・判例時報942号82頁参照)。なぜなら,基本労務契約上,安全及び衛生については,米国側が施設内の作業上の安全の保持のため,安全な作業場の設置,安全規則の制定と従業員への周知,訓練の実施,保護衣の貸与等を行うこととされ,日本側は環境衛生について衛生管理者の任命・研修・教育,救急医薬品等の購入・保管,保健対策の実施等を分担することとされているのであって,日本側としては,一般に,米海軍横須賀基地内における個々の作業内容や粉じん対策等を詳細に把握する立場にさえないからである。 ウ被告の安全配慮義務の履行被告は,駐留軍従業員の雇用主として,従業員の生命身体を保護するため基地内における安全対策については重大な関心を寄せており,米国側に対し,機会がある である。 ウ被告の安全配慮義務の履行被告は,駐留軍従業員の雇用主として,従業員の生命身体を保護するため基地内における安全対策については重大な関心を寄せており,米国側に対し,機会があるたびに安全対策の確立による事故等の防止に万全を期するよう申入れを行うことで,二次的な安全配慮義務を履行している。 すなわち,残存している資料だけからしても,被告(防衛施設庁)は,在日米軍司令部に対し,昭和45年7月6日付け「基地内における安全対策について」と題する文書により,基地内における安全対策を強化するため米軍監督者及び従業員に対する安全教育の充実強化を図ること等の申入れを行っており,また,昭和50年9月16日付け「有害物質の取扱い業務に従事する駐留軍従業員の安全管理について」と題する文書により,石綿を含む有害物質の取扱い業務に従事する従業員の安全の確保について申入れを行っている。 さらに,被告は,安全衛生に関する国内の法令等についても,以下のとおり,その制定または改正のつど米国側と協議し,基本労務契約の締結を行うことで,二次的な安全配慮義務を履行している。 ① けい特法については,同法に規定する3年または1年ごとのけい肺健康診断及び雇用前の健康診断を行うことを盛り込んだ基本労務契約を昭和32年9月18日に締結した。 ② 旧じん肺法については,同法の3年または1年ごとのじん肺健康診断を行うこと,同健康診断に当たってはX線検査,従業員の職歴の調査,胸部の臨床検査等を実施すること,雇用前の健康診断を行うこと,旧じん肺法21条に規定する転換手当を支給すること等を盛り込んだ基本労務契約附属協定第56号を昭和36年11月27日に締結した。 ③ 労働安全衛生規則及び特化則については,労働安全衛生規則に規定する1年または半年ごとの定期健 換手当を支給すること等を盛り込んだ基本労務契約附属協定第56号を昭和36年11月27日に締結した。 ③ 労働安全衛生規則及び特化則については,労働安全衛生規則に規定する1年または半年ごとの定期健康診断を行うこと,特化則39条に規定する各種の健康診断を行うこと等を盛り込んだ基本労務契約附属協定第293号を昭和50年12月9日に締結した。 ④ 改正じん肺法については,離職時健康診断の規定を追加すること,肺結核以外の合併症にかかっている疑いがあると診断された者について合併症の検査を行うこと等,同法の改正後の関係規定を盛り込んだ基本労務契約附属協定第333号を昭和53年10月11日に締結した。 (2) 米軍が安全配慮義務を尽くしたことについてア昭和20年代における石綿に関する安全衛生管理措置等(ア) 一般安全規則の作成及び交付SRFは,昭和22年に横須賀基地艦船修理部として発足し,昭和26年に現在の横須賀米海軍艦船修理廠(SRF)へと組織改編がされたものであるが(証人N),発足から約6年後の昭和28年には,同年10月30日付けの一般安全規則が作成されている。 この一般安全規則は,SRF司令官からSRFの全従業員に対して従業員の安全衛生を増進すること等を目的として作成され,すべての従業員に配布されたものであり,安全衛生の観点から最も重要でかつ基本的な事項について,SRFのすべての従業員に対して周知徹底させることを目的としている。しかも,これは,その従業員の安全衛生の増進を目的として重要かつ基本的な事項を列記するという性格から,常に携行することが原則とされ(したがって,汚損や紛失等の際には再交付がされていた。),そのために日米両文でそれぞれポケットサイズで製本されている。 この規則により,SRFにおいては,すでに昭和28年の段階で,最 が原則とされ(したがって,汚損や紛失等の際には再交付がされていた。),そのために日米両文でそれぞれポケットサイズで製本されている。 この規則により,SRFにおいては,すでに昭和28年の段階で,最も重要でかつ基本的な事項として,石綿を扱う際に「防塵型ガスマスク」という保護具を着用することが義務づけられていたことがわかる。しかも,規則の内容は,各従業員が熟読するように指示されて周知徹底が図られていたのであり,実際の作業においても,それに沿う形で,石綿を取り扱う作業に従事する際に防じんマスクを着用するように厳しく指示,命令されていた。 (イ) 防じんマスクの整備状況一般安全規則が作成,配布された昭和28年10月の時点では,すべての従業員に対して石綿を取り扱う作業に際して「防塵型ガスマスク」の着用を義務づけるための当然の前提として,SRFにおいては,X-6(中央器具室)で,石綿を初めとする粉じん作業に従事する従業員に対して十分な数量の防じんマスク,エアラインマスクが整備されていた。しかも,SRFのX-39では,防じんマスクを使用する際にX-60までそれを借りに行かなければならないという煩雑さを考え,防じんマスクの着用のさらなる徹底を図るため,各個人ごとに防じんマスクを購入することとし,昭和30年ころまでには,粉じん作業に従事するすべての従業員に対して個人専用の防じんマスクが配布されるに至った。 (ウ) 局所排気装置の整備状況局所排気装置については,圧縮空気タービン駆動の移動用換気ファン(米軍規格MIL-F-19004 TypeO)が,SRFの開業当初からX-60に数十台整備されていた。これは,艦船作業用の換気扇であり,また,あらゆる作業場で使用することができるものであった。また,局所排気装置は,その後も順次補充,交換されるな SRFの開業当初からX-60に数十台整備されていた。これは,艦船作業用の換気扇であり,また,あらゆる作業場で使用することができるものであった。また,局所排気装置は,その後も順次補充,交換されるなどし,SRF及び補助艦艇を含む航空母艦機動部隊の貸出需要にも対応できる数が揃えられていたのであり,各工場からの要求があれば,いつでもこれを供給することが可能な状態になっていた。 (エ) 防じんマスク等を着用しない者に対する指導X-39をはじめとするSRFの各従業員は,その大部分が一般安全規則あるいはリーディングマンの指導に基づいて防じんマスクを着用していた。 従業員の中には,防じんマスクの着用がじゃまであるとか,息苦しいとか,外国製の防じんマスクが合わないといった苦情を述べてその着用を嫌がる従業員がいたが,そのような従業員に対しても,説得の上で防じんマスクが配られ,着用の指導が続けられていた。 (オ) 横須賀海軍施設のその余の部署の状況CFAYにおいても,少なくとも,昭和31年当時,従業員に対して一般的な安全規則を手帳にして配布していたほか,粉じんが発生する職場のストアルーム(保護具等保管室)に防じんマスクが備え付けられ,さらに,粉じんが発生する作業に従事する者に対しては,各個人ごとに防じんマスクが支給されていた。そして,通常の建物全体の換気装置だけでなく,職場ごとに粉じんを吸収除去するための局所排気装置が設置されていたのであるから,このような対策は,SRFのみにおける対策であったのではなく,横須賀海軍施設の各組織において採られていた措置であったと考えられる。 (カ) 小括このように,横須賀海軍施設においては,昭和20年代の段階で,石綿が人体に有害であることを周知徹底せしめ,石綿を取り扱う作業に従事する際に「防塵型ガスマスク」を着用 たと考えられる。 (カ) 小括このように,横須賀海軍施設においては,昭和20年代の段階で,石綿が人体に有害であることを周知徹底せしめ,石綿を取り扱う作業に従事する際に「防塵型ガスマスク」を着用することが義務づけられ,それに応じて充分な数の防じんマスクと局所排気装置が備えたのであり,これらを前提として,従業員に対して石綿を取り扱う作業に際して粉じん対策をとるよう指導がなされていたのであるから,当時としては,石綿に関する安全衛生管理措置は充分にとられていたというべきである。 イ昭和30年代における石綿に関する安全衛生管理措置等(ア) 石綿を含有する製品からそれを含まない代替品への移行SRFにおいては,昭和32年ころには,石綿に関する安全衛生管理措置等のうち最も抜本的な対策である,石綿を含有する材料からそれを含まない代替品への移行が開始された。 すなわち,米海軍は,石綿の有害性とそれに対する安全衛生管理対策を重視しており,昭和30年ころの段階で,その就航中の各艦船で石綿を含有する材料を使用する場合でも,粉じんの出にくいものが使用されていたのであるが,SRFのX-39で工事企画見積りを担当していたMの提言により,X-39においても,石綿を含まない代替品の導入が検討され,逐次,石綿を含まない材料が購入され,使用されるようになり,石綿を含有する材料からそれを含まない代替品への移行が順次進められるようになった。特に,昭和35年ころ,米海軍は,その全部隊に対して石綿の人体に対する有害性と石綿を取り扱う作業の危険性を布告し,その周知徹底を図るとともに,石綿を含有する材料の取扱いに関する管理をより徹底するための対策を開始し(アスベスト・コントロール),併せて,石綿の有害性・人体保護対策等に関する調査研究と,石綿を含まない代替品の研究開発とを に,石綿を含有する材料の取扱いに関する管理をより徹底するための対策を開始し(アスベスト・コントロール),併せて,石綿の有害性・人体保護対策等に関する調査研究と,石綿を含まない代替品の研究開発とをそれぞれ本格的に開始した。実際,昭和35年ころの段階では,X-39が購入する断熱材等のうち石綿を含まない材料(代替品)が占める割合は,すでに40%程度を占めていたが,それ以降,その割合はさらに増加した。また,昭和39年12月のポーラックス及びジュピターのボイラーのオーバーホールの修理に際しては,断熱材として,石綿を含まない代替品が使用されることとなった。それ以降,ボイラーを修理するための材料は,そのほとんどに石綿を含まない代替品が使用されることとなり,石綿を含有する材料は,どうしても石綿を含まない代替品では防熱や断熱性能が十分に発揮できない,重要な箇所に限られて使用されるにすぎない状況となった。 このような石綿を含有する材料からそれを含まない代替品への移行とは別に,SRFにおいては,昭和34年ころから,断熱及び防熱作業(ラギング作業)が極度に制限されることとなったが,これは,石綿に対する安全衛生管理対策の一環としてされたものと考えられ,少なくとも,結果としては,これが石綿に関する安全衛生管理措置等のうち最も抜本的な対策たる,石綿を取り扱う作業自体を減らす対策として機能したものということができる。 そして,このような石綿を含有する材料からそれを含まない代替品への移行は,Mが石綿を含まない代替品への移行の必要性をまとめたレポートを横須賀海軍施設の副司令官に対して提出し,これが認められたことからしても,単にX-39にとどまるものではなく,SRF全体,さらに,横須賀海軍施設全体の対策として採られたものであると考えることができる。 (イ) 石綿 副司令官に対して提出し,これが認められたことからしても,単にX-39にとどまるものではなく,SRF全体,さらに,横須賀海軍施設全体の対策として採られたものであると考えることができる。 (イ) 石綿を取り扱う作業をする従業員に対する指示,命令横須賀海軍施設においては,その全体の安全対策会議が月に1回開催され,SRFにおいても,安全課主催による各工場主任を中心にした安全対策会議が月に1回程度開催されるようになっていたが,このような米海軍からの電報指令については,その対策会議において,それに基づく具体的な指示がなされ,さらに,各工場主任から各従業員に対して指示,命令がなされていた。また,CFAYにおいても,同様に,横須賀海軍施設全体の月1回の安全対策会議がされた後,各部隊の監督者による安全衛生委員会を開催し,その対策会議を踏まえた検討を行い,その監督者が各部隊の従業員に対して具体的な指示,命令をしていたのであり,これは,横須賀海軍施設全体の安全対策会議に出席しているSRFあるいはCFAY以外の組織においても同様であったと考えられる。昭和30年代にとられた安全対策の内容及び検討の成果は,昭和40年代にまとめられ,あるいは制定された以下の指令・規則にあらわれている。 ① NAVSOP-2455 陸上での作業に関する安全対策(昭和40年4月)② NAVSOP-2455 陸上での作業に関する安全対策(昭和42年6月)③ 昭和43年10月8日改正の一般安全規則(ウ) SRF等における指示,命令の徹底SRFにおいては,昭和35年ころから,石綿を含有する材料を取り扱う際の湿潤化等その指令等に基づく作業がされるようになったことに加え,昭和37年には工場の近代化計画に着手した。CFAYにおいても,例えば,OPSで年に4回以上の安全検査がされて 有する材料を取り扱う際の湿潤化等その指令等に基づく作業がされるようになったことに加え,昭和37年には工場の近代化計画に着手した。CFAYにおいても,例えば,OPSで年に4回以上の安全検査がされていたことに加え,昭和35年ころからは,職場ごとに,定期的に映画を上映する等して粉じん対策についての安全教育をしたほか,米軍の環境衛生の専門家が,各部隊の職場環境の調査を年に2回行い,粉じんのばく露の程度の測定を行うなどしていたのであり,米海軍からの指令に基づく一連の石綿の安全衛生管理対策は,横須賀海軍施設においても,その趣旨に沿って履行されていた。 なお,横須賀海軍施設における各組織において,石綿に関する安全衛生管理対策を指示・命令し,石綿の人体に対する有害性を熟知せしめたにもかかわらず,これをあくまでも拒否する従業員が皆無ではなかったが,そのような従業員に対しても,マスク着用の説得あるいは石綿の人体に対する有害性に関する教育が続けられていた。 (エ) 小括このように,昭和30年代に入ると,人体に有害とされる粉じんのうち,特に石綿に注目した安全衛生管理徹底的な措置等が採られるようになった。 この時期には,この石綿に関する安全衛生管理措置等のうち最も抜本的な対策であるところの,石綿を含有する材料からそれを含まない代替品への移行が始まるとともに,石綿を含有する製品を取り扱う際の諸対策がよりきめ細かに定められ,これら諸対策の内容を実施するよう,従業員に対して指示,命令がされたのであって,その指示・命令内容は,その当時としては,石綿に関する安全衛生管理対策として充分な内容のものである。 ウ昭和40年代における石綿に関する安全衛生管理措置等(ア) 石綿を含有する製品からそれを含まない代替品への移行昭和40年ころまでには,ボイラーを修理するため 策として充分な内容のものである。 ウ昭和40年代における石綿に関する安全衛生管理措置等(ア) 石綿を含有する製品からそれを含まない代替品への移行昭和40年ころまでには,ボイラーを修理するための材料は,そのほとんどに石綿を含まない代替品が使用されることとなり,石綿を含有する材料は,どうしても石綿を含まない代替品では防熱や断熱性能が充分に発揮できない重要な箇所に限られて使用されるにすぎない状況となっていた。その中で,昭和40年4月に米海軍省から,NAVSOP-2455「陸上での作業に関する安全対策」の指令がされ,石綿を取り扱うに際しての安全衛生対策の徹底が図られるようになったこと,また,米海軍の艦船の一般仕様,あるいは,船舶の仕様の中で取り扱われるパイプ,機械,通風管及び機械装置の絶縁材の一般要件を規定することを目的として,昭和42年11月15日に米海軍省工学センターが作成した,MIL-STD-769C(SHIPS) 「機械及びパイプの断熱要件」において,石綿を含まない代替品が指摘されていたことを受け,SRFにおいても,石綿を含まない代替品の使用の促進や石綿を含有する材料の購入の停止が徹底されるようになった。 さらに,米海軍は,昭和45年,それ以降に建造される全ての艦船及び陸上施設に石綿を含有する材料を使用することを全面的に禁止したが,これは,艦船等を建造するについては,石綿を含有する材料に代わるべき石綿を含まない代替品が,昭和45年の時点ですでに研究開発されていたことを示している。そして,SRF及びCFAYにおいては,これを機に,石綿を含有する材料を使用することを全面的に禁止することとした。 そして,石綿を含有する材料の使用を禁止する指令がなされたのは,SRF及びCFAYのみならず,横須賀海軍施設全体であったもの ,石綿を含有する材料を使用することを全面的に禁止することとした。 そして,石綿を含有する材料の使用を禁止する指令がなされたのは,SRF及びCFAYのみならず,横須賀海軍施設全体であったものと考えられ,石綿を含有する材料からそれを含まない代替品への移行は,それをすることができない状況にあった一部の例外を除き,昭和45年ころまでには,それが達成された状況にあった。 (イ) 石綿を取り扱う作業をする従業員に対する指示,命令米海軍においては,昭和40年代になると,石綿に対する安全衛生管理措置等のうち,特に各従業員が石綿を取り扱う作業に従事するに際して遵守すべき事項について,より一層の充実を図るべく,次々に具体的な指令を出すに至ったが,米海軍横須賀海軍施設においても,従業員に対してこれを徹底すべく,様々な措置が採られた。 a 防具未着用の取締り,違反の摘発及びこれに対する懲戒処分SRFにおいては,安全課の職員が一日中各職場を巡回し,その点検簿及び一般安全規則等の違反を発見した場合には報告書を作成しこれを安全士官に対して提出するなどして,安全衛生管理措置等の徹底を図っていたが,昭和42年11月及び昭和43年1月におけるハワイの海軍工廠への現地視察を契機として,米海軍が石綿を取り扱う際に遵守すべき事項として定めた規則を守らない従業員に対し,これを遵守させる措置が徹底されることとなった。その一環として,SRFにおいては,昭和44年ころから,防具を着用しない従業員に対する取締り,一般安全規則を初めとする遵守事項に対する違反の摘発及びこれに対する懲戒処分の検討機関が設けられ,その取締り等のため,SRFの各工場長あるいはグループマスターが桟橋で待機し,各従業員の防護具等の着用状況等を厳重に管理することとなり,昭和50年ころよりC-350 る懲戒処分の検討機関が設けられ,その取締り等のため,SRFの各工場長あるいはグループマスターが桟橋で待機し,各従業員の防護具等の着用状況等を厳重に管理することとなり,昭和50年ころよりC-350の米国士官である工場安全部長(海軍少佐)自らがこれを管理することもあった。 b スタンド・アップ安全朝礼昭和45年ころには,当時の石森安全課長の指示により,各工場で毎週1回程度のスタンド・アップ安全朝礼が開催されるようになった。その朝礼では,監督者である各工場の安全主任が部下である従業員全員に対し,安全課からの配布資料を読んで聞かせるとともに,防じん対策を含め,作業に関する安全対策に関する事項を遵守するようにきめ細かな指導がされるようになった。その主な内容は,1週間に発生した事故の概要及び日米両国の関係機関からの安全衛生に関する通達及び通報の主な内容並びに有害な危険物質の取扱いに関する注意事項等に重点を置いたものであり,昭和48年8月から昭和58年12月までSRFの安全課長の職にあったNは,在任中に約500種の資料を作成し,延べ約1万5000部のコピーを全職場に配布し,それらの内容を全従業員に周知徹底させるよう努めた。 c 局所排気装置のより一層の充実等昭和40年ころ,SRFにおいては,米海軍からの指令に基づき,高性能のHEPAFILTER(空気中浮遊粉じん捕捉用フィルター)の購入を計画した。しかしながら,国内で基準を満たす製品をなかなか見つけることができず,昭和45年ころにようやくこれを購入したが,これについては,定置用,移動用及び共用型とし,SRFの各工場の使用(艦船用,陸上用)に応じるとともに,外注業者の使用にも対応するようにした。 また,昭和45年ころ,艦内の深部,遠隔区域から30m以上の長さの排気ダクト(排気導管)を接 用型とし,SRFの各工場の使用(艦船用,陸上用)に応じるとともに,外注業者の使用にも対応するようにした。 また,昭和45年ころ,艦内の深部,遠隔区域から30m以上の長さの排気ダクト(排気導管)を接続する必要がある場所の換気用として,多段式ターボブロアー(10馬力2台,20馬力1台)を購入して配備し,後に数台を購入して配備した。 さらに,SRFにおいては,昭和37年,工場の天井を高くして一人当たりの空間を広げるとともに,粉じんが発生する工場をまとめ,クリーンな環境が必要な工場を独立した建物とするなどといった工場の近代化に着手し,昭和42年には,工場の近代化,再移設が完成した。工場内の床のコンクリート化が可能な場所については,これをコンクリートにし,また,新しく排気装置を付けるなどし,工場建物の構造上も,石綿をはじめとする粉じんから従業員の身体及び健康を保持すべきものとした。 d 米海軍ないしSRFにおける指令昭和40年代には,以下の各指令が出され,米海軍横須賀基地における石綿の安全衛生管理対策が講じられた。 ① NAVSHIPSINST 5100.26 アスベストばく露の危険防止② BUMEDINST 6260.14 アスベスト抑制手段③ OPNAVINST 6260.1 海軍要員及び環境に影響を与えるアスベストの管理④ 石綿に関する管理方針(指令6260-3)(ウ) 小括以上のように,昭和40年代は,昭和30年代に採られていた,人体に対して有害とされる粉じんのうち特に石綿に注目した安全衛生管理措置等が最終的にまとめられ,その措置等の実施が徹底された時期と位置づけることができる。すなわち,昭和40年代は,石綿に関する安全衛生管理措置等の完成期として位置づけられる。 エ昭和50年代における石綿に関する安全衛生管理措置等 実施が徹底された時期と位置づけることができる。すなわち,昭和40年代は,石綿に関する安全衛生管理措置等の完成期として位置づけられる。 エ昭和50年代における石綿に関する安全衛生管理措置等(ア) アスベスト・コントロール横須賀海軍施設においては,昭和53年11月,一般安全規則を初めとする遵守事項を遵守しない一部の従業員に対してもその措置等を徹底的に浸透させるべく,石綿管理作業の強制発動としてのアスベスト・コントロールが実施された。 その内容としては,まず,前記の趣旨から,各従業員に対する石綿を取り扱う作業に係る指導及び訓練の徹底に重点が置かれ,昭和53年8月にパールハーバーの太平洋兵站司令部で開催された「アスベストの取扱いと調整」に関するセミナーの特別訓練に基づき,Mらが,昭和57年11月までにアスベスト・コントロールのための訓練用の資料や計画をまとめ,これに従って同月11日からその訓練が開始された。このアスベスト・コントロールの指導及び訓練が徹底したものであったことは,昭和53年12月の段階で,すでに400名以上のSRFの従業員,200名以上の請負業者の従業員がその指導及び訓練を受け,その後に要点に関するテストを受験していることからもうかがうことができる。 また,安全衛生教育の再度の徹底と並んで,実際の作業においても,石綿粉じん作業に従事する従業員に石綿計測用機器の携帯を義務づけるとともに,室内の石綿粉じん量を調査しない限り作業に従事してはならないこととなり,また,本格的な石綿粉じん捕捉機を備えない状態で作業をすることも全面的に禁止された。そして,SRFにおいても昭和54年に石綿管理規則が制定される等した結果,石綿を取り扱う作業の現場には,保護具を付けない者,あるいは,事前に入ることが通知されていない することも全面的に禁止された。そして,SRFにおいても昭和54年に石綿管理規則が制定される等した結果,石綿を取り扱う作業の現場には,保護具を付けない者,あるいは,事前に入ることが通知されていない者等が立ち入ることが禁止された。 (イ) SRFの安全課による対策のさらなる充実SRFの安全課は,昭和48年ころには,安全管理を徹底するために各工場を巡回して監視するための人員は3名であったが,昭和50年ころにはX-99から編入された4名のガス検知員が,また,昭和54年10月1日付けで従前から特別任命されていたX-41の石綿管理員1名ほか1名が石綿管理班員として配属替えされ,総勢9名となった。石綿管理班員は,米海軍の石綿管理講習及び石綿粉じん識別及び計数特別講習を終了した者で,石綿を取り扱う作業場のみの安全衛生管理を担当したが,具体的には,石綿を取り扱う作業場に赴き,SRFの石綿管理規則に基づいて作業が実施されているか否かを監視するととともに,位相差顕微鏡で1立方センチメートル当たりの空気中の石綿繊維の濃度を測定するなどした。 昭和50年代に入ると,SRFでは,石綿に関する安全衛生管理教育だけでなく,従業員に対する安全衛生教育全般がさらに充実した。すなわち,労働安全衛生規則による事故防止対策安全教育,免許及び特技取得対策等が,日本の労働安全衛生教育に係る規定に基づいて積極的に実施され,米国内で開催される米海軍安全センター主催の各種講習会及び神奈川県安全衛生協会主催の法定講習会にも積極的に参加する方針が採られた。これに加え,SRFで特別に必要な事項については,各職場のベテラン等による部内講習会を開催し,関係従業員の安全衛生を含めた全般な知識,技能等の向上が図られた。 (ウ) 保護具等のさらなる充実X-41に SRFで特別に必要な事項については,各職場のベテラン等による部内講習会を開催し,関係従業員の安全衛生を含めた全般な知識,技能等の向上が図られた。 (ウ) 保護具等のさらなる充実X-41においては,昭和52年以降,保護具等を完備した車両を整備し,SRFの各工場までこれを移動させることにより,各工場において保護具等を容易に使用できるようにしたが,さらに,昭和54年末までに大小約30台の集じん機本体を製作し,小規模用のものとして米国製真空掃除機約100台を購入して配備し,その後に数十台を補充した。 また,SRFで使い捨てマスクが着用されるようになったのは昭和50年代になってからのことと考えられるが,横須賀海軍施設においては,その使用が特に制限されることもなく,自由に使用することができた。 (エ) 米海軍ないしSRFにおける指令昭和50年代には,以下の各指令が出され,米海軍横須賀基地における石綿の安全衛生管理対策が講じられた。 ① NAVSEAINST 5100.2 アスベスト除去/代替/職員保護計画② OPNAVINST 6260.1A 海軍兵及び軍属…のアスベストばく露の規制③ NAVSHIPREPFACINST 6260.3C アスベスト管理④ NAVSEAINST 5100.2A アスベスト除去/代替/職員保護計画⑤ CINCPACFLTINST 6260.1 アスベストに対する職員のばく露の管理⑥ PROCESSINSTRUCTION 635-1A 作業手順⑦ OPNAVINST 6260.1B 海軍要員と環境に対するアスベストのばく露制御⑧ PWCYOKO/OICCFEINST 5100.1BCH-1 司令部職業安全衛生プログラム(オ) 小括以上のとおり,昭和50年代は,横須賀海軍施設において昭 ストのばく露制御⑧ PWCYOKO/OICCFEINST 5100.1BCH-1 司令部職業安全衛生プログラム(オ) 小括以上のとおり,昭和50年代は,横須賀海軍施設において昭和40年代に完成をみた石綿に関する安全衛生管理措置等について,これを無視する一部の限られた者を念頭に置き,このような従業員に対してもその措置等をあまねく浸透させるべく,最後の手段として,各従業員に対する安全衛生教育を再度一からやり直す等,徹底した措置等が採られた。 オ被告の安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任ないし不法行為責任以上のように,被告は,米軍に対し,横須賀海軍施設における米海軍の構成員ないし被用者について充分なじん肺防止対策を講じるよう要請していたのであるから,被告に要求されるべき二次的安全配慮義務は尽くしており,したがって,被告が,原告らに対し,安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を負う理由はない。 また,原告らが米海軍横須賀基地でじん肺に罹患しないよう,被告が米軍に対して種々の対策を講じるよう要求し,米軍もこれに応えて自ら効果的な対策を講じていたことは前記のとおりであって,そこには何ら民事特別法1条にいう「違法」はないというべきであるから,被告は,原告らに対し,不法行為責任を負う理由はない。 第2 原告らの症状及び損害 1 原告らの主張原告F,同Gら,同Jらを除く原告らは,いずれも若いころ頑健であったが,現在では身の回りのことは自分でできるものの,歩く速さは遅く,少し歩くと息が切れて一休みしなければならず,坂道あるいは階段の昇降は非常につらい状態であって,せき,たんもひどく,非常に風邪をひきやすいため,現在も療養中である。また,亡F’,亡G’,亡J’は,いずれも若いころ頑健であったが,提訴前からは,身の回りの 階段の昇降は非常につらい状態であって,せき,たんもひどく,非常に風邪をひきやすいため,現在も療養中である。また,亡F’,亡G’,亡J’は,いずれも若いころ頑健であったが,提訴前からは,身の回りのことは自分でできるものの,歩く速さは遅く,少し歩くと息が切れて一休みしなければならず,坂道あるいは階段の昇降は非常につらい状態であり,せき,たんもひどく,非常に風邪をひきやすいため療養中となり,その後,それぞれ以下のような経過で死亡した。 原告らは,以下の原因に基づき,それぞれ別表「請求総額」欄記載の損害賠償を被告に対して請求する。 (1) 原告A神奈川労働基準局長は,昭和57年2月12日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Aをじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理2と決定した。原告Aの最も新しい管理区分決定は昭和61年12月24日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成6年8月31日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Aがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Aは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであって,被告にはこの点につき重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Aは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Aが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (2) 原告B神奈川労働基準局長は,昭和55年4月1日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Bをじん肺に罹患し 安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (2) 原告B神奈川労働基準局長は,昭和55年4月1日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Bをじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理2と決定した。原告Bの最も新しい管理区分決定は昭和60年5月31日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成10年2月20日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Bがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Bは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Bは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Bが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (3) 原告C神奈川労働基準局長は,昭和57年8月4日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Cをじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理2と決定した。原告Cの最も新しい管理区分決定は平成4年10月15日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成8年8月30日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Cがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Cは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び 症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Cは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Cは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Cが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (4) 原告D神奈川労働基準局長は,昭和63年9月19日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Dをじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理2と決定した。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成2年4月5日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Dがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Dは,第3章第1の2記載の勤務により石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであって(具体的には,NSD勤務中のうち7,8年間は石綿製品等を保管する倉庫に配属され,荷の出し入れ等の際に石綿を中心とする粉じんにばく露した。また,SRFのX-99に勤務中も,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺となった。),この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Dは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Dが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係の に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Dが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (5) 原告E神奈川労働基準局長は,昭和53年9月18日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Eをじん肺に罹患しているものと認め,じん肺管理区分管理2と決定した。原告E茂の最も新しい管理区分決定は昭和56年1月19日である(じん肺管理区分管理3イ)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成3年2月22日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Eがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Eは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理3イ及び合併症)となったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Eは,被告に対し,2500万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Eが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する250万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (6) 亡F’の相続人原告F神奈川労働基準局長は,昭和57年3月16日,じん肺法に基づいて精査の上,亡F’をじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理3イと決定した。しかし,同年9月2日には,同局長は,亡F’をじん肺管理区分管理2と決定した。亡F’の最も新しい管理区分決定は昭和58年12月20日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成7年6月16日,じん肺法, は,亡F’をじん肺管理区分管理2と決定した。亡F’の最も新しい管理区分決定は昭和58年12月20日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成7年6月16日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,亡F’がじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 その後,本件提訴後の平成12年7月10日,亡F’は悪性胸膜中皮腫により死亡した。同人には石綿肺所見があり(肺組織から石綿小体が多数検出されている。),石綿にさらされる業務を行ったことにより生じた悪性胸膜中皮腫と認められたので,横須賀労働基準監督署長は,平成12年12月21日,亡F’の死亡について労災決定を原告Fに通知した。 亡F’は,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となった上,石綿による悪性胸膜中皮腫で死亡したのであり,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,亡F’は,被告に対し,3000万円の死亡慰謝料請求権を有していたというべきであり,原告Fは,これを相続した者である。また,原告Fが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する300万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (7) 亡G’の相続人である原告Gら神奈川労働基準局長は,昭和61年10月13日,じん肺法に基づいて精査の上,亡G’をじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理2と決定した。亡G’の最も新しい管理区分決定は平成2年9月4日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成8年10月24日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて 管理2と決定した。亡G’の最も新しい管理区分決定は平成2年9月4日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成8年10月24日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,亡G’がじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 その後,亡G’は平成9年4月25日,肺小細胞がんで死亡した。同人には石綿肺所見があり,石綿による業務上の肺がんと認められたので,被告の横須賀労働基準監督署長は,平成9年10月3日,亡G’の死亡について労災決定を原告Gらに通知した。 亡G’は,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(石綿肺)となった上,石綿による肺がんで死亡した。この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,亡G’は,被告に対し,3000万円の死亡慰謝料請求権を有していたというべきであり,このうち原告G1は1500万円,同G2,同G3,同G4は各500万円を相続した者である。また,原告Gらが支払うべき弁護士費用のうち10%に相当する合計300万円(原告G1につき150万円,同G2,同G3,同G4につき各50万円)が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (8) 原告H神奈川労働基準局長は,昭和57年8月4日及び昭和58年12月20日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Hをじん肺に罹患していると認め,いずれもじん肺管理区分管理2と決定した。原告Hの最も新しい管理区分決定は昭和60年10月3日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成2年4月5日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Hがじん肺合併症 新しい管理区分決定は昭和60年10月3日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成2年4月5日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Hがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。 原告Hは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Hは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Hが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (9) 原告I神奈川労働基準局長は,昭和56年12月21日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Iをじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理2と決定した。原告Iの最も新しい管理区分決定は昭和58年3月18日である(じん肺管理区分管理4)。このため,原告Iは労災保険を受給するようになり,昭和60年12月31日には傷病第3級該当による労災傷病年金の受給が決定された。 その後,原告Iは,石綿吸引を原因とする肺がんを発症し,平成3年8月29日に右肺下葉を切除する手術を受け,管理4の状態から更に進んで肺の一部を失うに至った。 原告Iは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理4)となり,さらに肺がんとなって肺の一部を失うに至ったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Iは,被告に対し,3000万円の慰謝料請 区分管理4)となり,さらに肺がんとなって肺の一部を失うに至ったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Iは,被告に対し,3000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Iが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する300万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (10) 亡J’の法定相続人原告Jら神奈川労働基準局長は,昭和59年12月27日,じん肺法に基づいて精査の上,亡J’をじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理4と決定した。このため,亡J’は労災保険を受給するようになり,昭和61年12月31日には傷病第3級該当による労災傷病年金の受給が決定された。 亡J’は,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理4)となり,本件提訴後平成12年8月3日死亡したのであって(具体的には,PWC勤務中,昭和40年ころからはトレーラー及びフォークリフトの運転手として各種物資を運搬し,場所によってはフォークリフトで荷下ろし及び倉庫への収納までする仕事に従事したのであるが,その際,石綿製品も頻繁に運んでいたところ,荷崩れによりコンテナ内等に石綿粉じんが充満していることも多く,梱包が破損しているものもあったため,フォークリフトによる運搬中等にも石綿を中心とする粉じんにばく露したのである。),この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,亡J’は,被告に対し,3000万円の慰謝料請求権を有していたというべきであり,このうち原告J1は1500万円,同J2,同J3は各750万円を相続した者である。また,原告Jらが支払うべき弁護士費用のう ’は,被告に対し,3000万円の慰謝料請求権を有していたというべきであり,このうち原告J1は1500万円,同J2,同J3は各750万円を相続した者である。また,原告Jらが支払うべき弁護士費用のうち10%に相当する合計300万円(原告J1につき150万円,同J2,同J3につき各75万円)が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (11) 原告K神奈川労働基準局長は,昭和57年3月16日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Kをじん肺に罹患していると認め,じん肺管理区分管理3イと決定した。しかし,同年の8月4日には,同局長は原告Kをじん肺管理区分管理2と決定した。 原告Kの最も新しい管理区分決定は昭和61年12月24日である(じん肺管理区分管理2)と決定した。その後,横須賀労働基準監督署長は,昭和62年6月11日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Kがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定を通知した。また,原告Kは,平成4年8月にじん肺合併症肺結核に罹患し,平成5年2月まで肺結核の治療をした。 原告Kは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであり,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Kは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Kが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (12) 原告L神奈川労働基準局長は,昭和57年10月7日,じん肺法に基づい に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 (12) 原告L神奈川労働基準局長は,昭和57年10月7日,じん肺法に基づいて精査の上,原告Lをじん肺に罹患しているものと認め,じん肺管理区分管理2と決定した。原告Lの最も新しい管理区分決定は昭和61年12月24日である(じん肺管理区分管理2)。その後,横須賀労働基準監督署長は,平成3年2月22日,じん肺法,労働者災害補償保険法に基づいて精査の上,原告Lがじん肺合併症続発性気管支炎に罹患していて療養が必要であると認め,休業補償給付支給決定をした。 原告Lは,第3章第1の2記載の勤務により,石綿を中心とする粉じんにばく露してじん肺(管理区分管理2及び合併症)となったのであって,この点につき被告には重大な安全配慮義務違反ないし不法行為があったのであるから,原告Lは,被告に対し,2000万円の慰謝料請求権を有しているというべきである。また,原告Lが支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料の10%に相当する200万円が,被告の安全配慮義務違反ないし不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 2 被告の主張(1) 原告ら主張のじん肺管理区分決定の日及び労災決定の日は,それぞれじん肺管理区分決定の通知を発送した日,労災決定の通知を発送した日であって,それらが原告らに到達した日ではない。また,原告C及び同Hに対して最初にじん肺管理区分管理2の通知を発送した日は,いずれも昭和57年8月4日ではなく昭和58年12月20日であり,同Kに対して最初にじん肺管理区分管理2の通知を発送した日は,昭和57年8月4日ではなく昭和57年10月7日である。したがって,この点に関する原告らの主張は,別表の「区分決定通知日,労災決定通 り,同Kに対して最初にじん肺管理区分管理2の通知を発送した日は,昭和57年8月4日ではなく昭和57年10月7日である。したがって,この点に関する原告らの主張は,別表の「区分決定通知日,労災決定通知日または死亡日」欄及び「じん肺管理区分の内容,じん肺合併症の内容または死亡原因」記載の限りにおいてこれを認める。 (2) 原告ら主張の各人の症状についてはいずれも不知,損害についてはいずれも争う。そもそも,原告らのうち,原告D,亡F’,原告H,同I,亡J’,原告Lは本来はじん肺に罹患していなかった可能性がある。なお,仮に被告に損害賠償責任があるとしても,原告らのうち喫煙をしていた者については,損害額の算定に当たってこれを減殺事由とすべきである。 第3 消滅時効の抗弁の成否 1 被告の主張(1) 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点ア雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は,民法167条1項によって10年と解すべきであるとされ(最高裁昭和50年判決),その消滅時効は,「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」から進行を始めるが(同法166条1項),この「権利ヲ行使スルコトヲ得ル」とは,履行期が未到来である等権利を行使する上での法律上の障害がないことを意味し,権利を行使し得ることを権利者が知らなかった等の事実上の障害は,消滅時効の進行を妨げるものではない(最高裁昭和48(オ)第647号同49年12月20日第二小法廷判決・民集28巻10号2072頁)。 これを安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権についてみると,この種の損害賠償請求権は,権利として成立すれば,これを行使する上で法律上の障害は認められないから,その権利が成立した時が消滅時効の起算点となる。そして,安全配慮義務違反に基づく損 についてみると,この種の損害賠償請求権は,権利として成立すれば,これを行使する上で法律上の障害は認められないから,その権利が成立した時が消滅時効の起算点となる。そして,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権が成立するのは,具体的な安全配慮義務違反の不履行という事実とこれと相当因果関係のある損害の発生の事実とが認められる場合であるから,在職中に安全配慮義務違反に基づく損害が発生し,退職後もその損害が進行・拡大したというときに,その退職時から消滅時効が進行すると考えられる場合があることは別として,損害が発生したときに損害賠償請求権が成立し,かつ,これと同時に消滅時効がその進行を始めるものと解される。 最高裁昭和40年(オ)第1232号同42年7月18日第三小法廷判決(民集21巻6号1559頁。以下「最高裁昭和42年判決」という。)等における損害の発生と消滅時効の起算点との関係についての原則的な考え方は,加害行為が終了した後に損害が発生し,その損害がさらに進行・拡大していく場合であっても,実体法上は,最初の損害が発生した時点で将来生ずべき損害を含む全損害が発生しているとみるというものである。そして,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権についても,同様に,その損害が最初に発生した時点で全損害が発生し,かつ,消滅時効が進行を始めるというのが原則的な考え方である。けだし,最初に損害が発生した時点で全損害を把握することができないということ自体は,客観的には確定している損害の範囲について,これを科学的,医学的知見が進んでいない等のために知り得なかっただけのことであるが,これは被害者の主観に属する事実上の障害でしかなく,そうすると,このような事実は,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の進行を妨げる法律上の障害ではあり得ないからで だけのことであるが,これは被害者の主観に属する事実上の障害でしかなく,そうすると,このような事実は,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の進行を妨げる法律上の障害ではあり得ないからである。 イところで,最高裁平成元(オ)第1667号同6年2月22日第三小法廷判決(民集48巻2号441頁。以下「最高裁平成6年判決」という。)は,安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点について,じん肺管理区分2以上の決定を最初に受けた時点で損害賠償請求権が成立し,かつ,その時点で消滅時効が進行を始めるとしながらも,その損害賠償請求権における損害の範囲について,最初の損害の発生時に今後進行し得る将来の病状に基づく損害を含む全損害が発生しているとする原則的な考え方に対し,じん肺の病状に照らしてその例外を認めた。しかし,最高裁平成6年判決は,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって,その進行の有無,程度,速度も患者によって多様であるじん肺の病変の特質に鑑み,最初の損害発生時に全損害が発生しているとする最高裁昭和42年判決等の考え方に対する例外を認めたものであって,その射程は,じん肺という極めて特異な進行性の疾患に限られ,安易に他の疾患に及ぼされるべきものではない。 ウこれをじん肺の合併症である続発性気管支炎についてみると,以下のとおり,続発性気管支炎に罹患し,その旨の労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく決定を受けたことをもって,最高裁平成6年判決のいう「新たな行政上の決定」に当たるということができないことは明らかである。 すなわち,じん肺とは,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増 く決定を受けたことをもって,最高裁平成6年判決のいう「新たな行政上の決定」に当たるということができないことは明らかである。 すなわち,じん肺とは,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいうが(じん肺法2条),その基本的な病変は,線維増殖性変化,気道の慢性炎症性変化や気腫性変化である。そして,じん肺患者において持続性のせき,たんの症状を呈するときは,じん肺の基本的な病変の一つである気道の慢性炎症性変化によるものと考えられているところ,このような気道の慢性炎症性変化自体は,特定の行政上の決定に相当するじん肺の病状に包摂されており,これと質的に異なる損害が存在するものではない。 一方,じん肺の合併症である続発性気管支炎は,この気道の慢性炎症性変化に細菌感染等が加わり,持続的に濃性痰を喀出する状態になった状態であり,この症状は一般に可逆的であるとされる。この場合,細菌感染を速やかに終息させるべく,積極的な治療を加える必要があるとされ,それゆえに,労災保険法上も,続発性気管支炎はじん肺の合併症として療養給付補償等の対象となっているのであるが,続発性気管支炎は,じん肺の基本的な病変の一つである気道の慢性炎症性変化を素地としてこれに細菌感染等が加わった状態にすぎず,まさにじん肺の基本的な病変に,その後に生じたある一定の条件が加わることによって発症するものに他ならず,その素地となる気道の慢性炎症性変化そのものは,従前のじん肺管理区分決定に相当するじん肺の症状に包摂されているというべきである。 最高裁平成6年判決が,じん肺について,じん肺管理区分に着目し,その各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害が異質であり,したがって,別個の損害賠償請求権が成立すると解した根拠は,じん肺の病理の特異性,とり 6年判決が,じん肺について,じん肺管理区分に着目し,その各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害が異質であり,したがって,別個の損害賠償請求権が成立すると解した根拠は,じん肺の病理の特異性,とりわけ,じん肺の進行がきわめて長期にわたり得るものであり,かつ,その進行の態様が医学上解明されていないという点,すなわち,現在の医学的知見の下では,具体的な患者に病状の進行の有無,程度,速度が分からないことから,将来の病状についての主張立証の術がまったくない点にあると解されているところ,続発性気管支炎は,「きわめて長期にわたって進行し,現在の医学的知見においても,その進行の態様も解明されず,その進行の有無すら分からない」というじん肺の病理の特異性とは直接の関係がなく,その発症の原因及び機序も明らかとなっており,将来の損害の発生について主張立証の術がまったくないということもできない。 そうすると,続発性気管支炎によって当該じん肺患者に従前と異なる健康被害が発生するとしても,その症状は,不可逆性の進行を続けるじん肺の繊維性増殖性変化等の基本的な病変による従前の症状と質的に異なるものではないから,続発性気管支炎にかかる労災決定は,最高裁平成6年判決にいう「行政上の決定」に含まれないと解すべきである。 エまた,肺がんや悪性中皮腫については,じん肺の重症度との間に相関関係はないとされており,石綿の基本的病変である繊維増殖性変化,気道の慢性炎症性変化および気腫性変化の進行に伴って発症するものではない。これらの疾病は,「きわめて長期にわたって進行し,現在の医学的知見においても,その進行の態様も解明されず,その進行の有無すら分からない」というじん肺の病理の特異性とは直接の関係がなく,そもそも最高裁平成6年判決がいう「質的に異なる」損害との前提を欠く 医学的知見においても,その進行の態様も解明されず,その進行の有無すら分からない」というじん肺の病理の特異性とは直接の関係がなく,そもそも最高裁平成6年判決がいう「質的に異なる」損害との前提を欠くというべきである。 (2) 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の援用の意思表示以上によれば,本件各原告については,以下のように10年の消滅時効期間が経過しているというべきである。 ① 原告Aについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和57年2月12日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月中旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ② 原告Bについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和55年4月1日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月上旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ③ 原告Cについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和58年12月20日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ④ 原告Dについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和63年9月19日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月中下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑤ 原告Eについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和56年1 はない。)通知がなされた数日後の同月中下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑤ 原告Eについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和56年1月19日のじん肺管理区分管理3イの決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月中下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑥ 原告Fについては,亡F’がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和57年9月2日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月上旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑦ 原告Gらについては,亡G’が,じん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和61年10月13日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月中旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑧ 原告Hについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和58年12月20日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑨ 原告Iについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和58年3月18日のじん肺管理区分管理4の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月中下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑩ 原告Jらについては,亡J’がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和59年12月27日のじん肺管理区分管理 同月中下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑩ 原告Jらについては,亡J’がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和59年12月27日のじん肺管理区分管理4の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月下旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑪ 原告Kについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和57年10月7日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月上旬であるから,提訴までに10年が経過している。 ⑫ 原告Lについては,同人がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定の通知を受けた日は,遅くとも昭和57年10月7日のじん肺管理区分管理2の決定(その後同人に新たな管理区分の決定はない。)通知がなされた数日後の同月上旬であるから,提訴までに10年が経過している。 被告は,駐留軍従業員の雇用者として安全配慮義務を尽くしており,本件において,いずれの原告についても損害賠償請求権は発生しないと考えるが,仮に原告らにこのような請求権が発生するとしても,原告らの損害賠償請求権は,以上のとおり本件の訴え提起当時すでに民法167条1項の消滅時効が完成しているので,被告は,本訴において消滅時効援用の意思表示をする。 (3) 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点ア民法724条の「損害…ヲ知リタル時」とは,「単純ニ損害ヲ知ルニ止マラス加害行為ノ不法行為ナルコトヲモ併セ知ルノ意ナリ」と解されており(大審院大正7年3月15日判決・民録24輯498頁),「損害」を知るというためには,その加害行為が「不法」であることを知る必要があるところ,それは,加害行為が違法とみ 知ルノ意ナリ」と解されており(大審院大正7年3月15日判決・民録24輯498頁),「損害」を知るというためには,その加害行為が「不法」であることを知る必要があるところ,それは,加害行為が違法とみられる可能性があることを被害者が認識した時を意味するものと解すべきである。 これを不法行為に基づいてじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点についてみると,じん肺に罹患した旨の行政上の管理区分の決定を受けた者は,その時点において,粉じん作業による損害が発生したことを知ることはもちろん,そのような者は,自らが粉じん作業に従事した職場において,過去あるいはその時点で現実に粉じん作業に従事していたのであるから,その行為の違法性を容易に認識し得るものであり,その行為の違法性については,じん肺法による管理区分の決定を受けると同時に当然にこれを知ったものといわざるを得ない。 したがって,最高裁平成6年判決が指摘するじん肺の病変の特異性を考慮するとしても,不法行為によってじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権は,少なくとも行政上の最終のじん肺管理区分の決定がされた時点から,その消滅時効が進行するものと解すべきである(なお,じん肺の合併症については,前記のとおり,これを予見することが不可能であったなどとはいえない。)。 これを本件についてみると,原告らは,SRF等において実際に業務に従事していた者であり,その業務の状況を認識していたから,仮にSRF等における石綿粉じん対策が原告らが主張する程度のものであったとすれば,石綿肺に罹患したことを認識しさえすれば,その業務に従事した作業環境等にその原因があるとの認識は当然に有するに至ったものと考えられる。したがって,原告らが石綿肺に罹患したことを認識すれば,SRF等における石綿粉じ たことを認識しさえすれば,その業務に従事した作業環境等にその原因があるとの認識は当然に有するに至ったものと考えられる。したがって,原告らが石綿肺に罹患したことを認識すれば,SRF等における石綿粉じん対策が充分でなく,違法とみられる可能性があるとの認識を有するに至ったというべきである。そして,原告らは,いずれもじん肺管理区分の決定を受けたのであるから,少なくとも行政上の最終のじん肺管理区分の決定を受けた時点において,原告らが米軍の行為の違法性を認識し得たものというべきである。 イまた,民法724条の「加害者ヲ知リタル時」とは,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時をいうと解されているところ,国家賠償法に基づく損害賠償請求権の消滅時効において「加害者ヲ知リタル時」とは,「被害者が国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員としての不法行為であることを知れば,加害者を知ったものであると解するのを相当とする」(東京高裁昭和33年10月21日判決・下民集9巻10号2137頁)と解されている。米海軍の不法行為に基づく損害賠償請求権については,民事特別法が国家賠償法1条1項を準用しているから,被害者において,「日本国内にある…合衆国…の構成員又は被用者としての不法行為」(民事特別法1条)であることを知った時点が「加害者ヲ知リタル時」であるというべきである。 これを本件についてみると,原告らは,米軍の構成員やその被用者の指揮監督の下で業務に従事していたのであるから,不法行為の主体が米軍の構成員または被用者であることは,何らの知識を要することなく,当然に知っていたものというほかない。 (4) 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の援用の意思表示以上によれば,本件原告らについては,以下のように3 ことは,何らの知識を要することなく,当然に知っていたものというほかない。 (4) 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の援用の意思表示以上によれば,本件原告らについては,以下のように3年の消滅時効期間が経過しているというべきである。 ① 原告A,同B,同C,同D,同E,同H,同I,同K,同Lについては,じん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定通知を受けた日から本訴提起の日までに3年以上が経過している。 ② 原告F,同Gら,同Jらについては,それぞれ,亡F’,亡G’,亡J’がじん肺の所見のある旨の最終の行政上の決定通知をそれぞれ受けた日から本訴提起の日までに3年以上が経過している。 被告には,不法行為とみられるような行為はないから,本件において,いずれの原告についても損害賠償請求権は発生しないと考えるが,仮に原告らにこのような請求権が発生するとしても,原告らの損害賠償請求権は,以上のとおり本件の訴え提起当時すでに民法724条の消滅時効が完成しているので,被告は,本訴において消滅時効援用の意思表示をする。 (5) 権利濫用の再抗弁に対する反論ア 「消滅時効の援用が権利濫用に当たるというには,債権者が訴え提起その他時効中断の挙に出ることを債務者において妨害し」た「場合など,債務者が消滅時効を援用するのが社会的に許容された限界を逸脱するものとみられる場合でなければならず,時効にかかる損害賠償請求権の発生要件該当事実が悪質であったこと,被害が甚大であったこと等は右時効援用権濫用の要件を構成しない」(最高裁平成6年判決の原審である福岡高裁平成元年3月31日判決・判時1311号36頁,その第一審である長崎地裁佐世保支部昭和60年3月25日判決・判時1152号44頁。)。そして,被告において,原告らの訴え提起その他時効中断の挙に出る 平成元年3月31日判決・判時1311号36頁,その第一審である長崎地裁佐世保支部昭和60年3月25日判決・判時1152号44頁。)。そして,被告において,原告らの訴え提起その他時効中断の挙に出ることを債務者において妨害するなど,被告が消滅時効を援用するのが社会的に許容された限界を逸脱するものとみられる事情はないから,被告による消滅時効の援用が権利の濫用に該当するという余地はない。 イなお,原告らは,米軍内での勤務におけるじん肺罹患について被告に法的責任があると考えることの困難性を理由として,被告による消滅時効の援用が権利濫用であると主張するが,原告らが間接雇用契約を締結していた相手方は被告であり,原告らが被告に対して雇用契約の付随的義務である安全配慮義務違反を求めるということ自体に困難を伴うということはできないし,また,事件が困難であっても,その訴えを自ら提起することを妨げられる理由もないから,その権利行使が困難であるともいえない。 ウまた,原告らは,損害賠償請求はそもそも二重弁済ということ自体が考えられないから,立証困難を理由として被告を保護する必要がないのであって,それゆえに被告による消滅時効の援用が権利濫用であると主張するが,二重弁済の危険回避は消滅時効制度の目的の一つにすぎず,これのみを強調して消滅時効の援用を権利濫用であるということはできない。 エさらに,原告らは,被告の安全配慮義務違反が重大であることや原告らの被害が重大であること,原告らが国家的政策の犠牲となったと評価すべきことを理由に,消滅時効によって原告らの損害賠償請求権を消滅させることが著しく正義,公平,条理に反するから,被告による消滅時効の援用は権利濫用であると主張するが,被告は,被告が負うべき前記のような二次的な安全配慮義務は尽くしており,ま 損害賠償請求権を消滅させることが著しく正義,公平,条理に反するから,被告による消滅時効の援用は権利濫用であると主張するが,被告は,被告が負うべき前記のような二次的な安全配慮義務は尽くしており,また,原告らは,自らの意思でSRF等の業務に従事した者であって被告の国家的政策の犠牲となったなどということはできない上,そもそも安全配慮義務の違反の重大性や被害の重大性をもって時効援用権の行使が権利濫用であるとされる余地がないことは前記のとおりであるから,原告らの主張は失当である。 オなお,原告らは,亡J’につき,昭和60年ごろ,横須賀労務管理事務所にじん肺の補償制度について聞きに行ったところ,同所長から,「米軍のやったことだから,そういう制度はない。」と言われたと主張し,このことからしても被告の消滅時効援用は権利濫用であると主張するが,これを裏付けるに足りる客観的証拠はないし,そもそも単にじん肺の補償制度について聞かれたとすれば,労災補償制度をさておき,先のような回答をするとは考え難く,仮にそのような事実があったとしても,少なくとも同所長が,原告Jらの損害賠償請求に係る訴えの提起を妨害する趣旨でそのような事実を述べたとは到底考えられないから,仮にこのような事実を前提としても,被告が原告Jらの損害賠償請求権について消滅時効を援用することが権利の濫用にあたるということはできない。 2 原告らの主張(1) 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点ア亡J’の損害賠償請求権の消滅時効の起算点亡J’は,当初他の原告らと共に本件訴訟を提起したが,平成12年8月3日死亡し,原告Jらがその損害賠償請求権を相続した。原告Jらは,損害賠償請求の根拠を特に死亡による慰謝料請求に変更することなく本件訴訟を承継することとしたので,最高裁 を提起したが,平成12年8月3日死亡し,原告Jらがその損害賠償請求権を相続した。原告Jらは,損害賠償請求の根拠を特に死亡による慰謝料請求に変更することなく本件訴訟を承継することとしたので,最高裁平成6年判決に従い,昭和59年12月27日にじん肺管理区分管理4と決定されたときが,その損害賠償請求権の損害賠償責任の起算点となる。 イ法定合併症に罹患した原告らの損害賠償請求権の消滅時効の起算点(ア) 長崎北松じん肺事件の最高裁判例の趣旨最高裁平成6年判決は,昭和32年10月ころ,けい特法のもとでけい肺第1症度(SR1)の行政上の決定(後に,労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置及び関係政令の整備に関する政令2条2項により,改正じん肺法のもとにおける管理2の決定とみなされることとなる決定)を受け,その後,昭和53年5月12日,改正じん肺法のもとで改めてじん肺管理区分2の行政上の決定を受け,併せて肺結核の合併症のために要療養の行政上の決定を受けた原告についても,その請求権は消滅時効にかかっていないと判断した。 このことを合理的に解釈すれば,同判例のいう「最終の(最重症の)行政上の決定を受けた時」には,単なる管理2,管理3イ,管理3ロの管理区分決定を受けている者が,同じ管理区分のままで新たに「合併症による要療養」との行政上の決定を受けた場合も含むと解される。 (イ) 続発性気管支炎の予見可能性そもそも最高裁平成6年判決の「最終の行政上の決定をうけたときから進行する」という消滅時効起算点論は,じん肺の進行の有無,程度,速度が患者によって多様であり,現在の医学においては,これらを予見することができないこと,したがって管理2の行政上の決定をうけた時点で,管理3や管理4の損害賠償を求めることが不可能 行の有無,程度,速度が患者によって多様であり,現在の医学においては,これらを予見することができないこと,したがって管理2の行政上の決定をうけた時点で,管理3や管理4の損害賠償を求めることが不可能だという点に根拠を有する理論である。この理は,まさにじん肺法上の合併症続発性気管支炎についても同じであり,じん肺管理区分管理2,管理3の決定を受けたからといって必ず合併症に罹患するものではなく,誰がいつなるかについての予見は不可能なのである。現に,本件原告らについても,じん肺管理区分管理2の段階で合併症続発性気管支炎による労災の決定を受けるかそのまま管理3に進行しその後合併症続発性気管支炎による労災の決定を受けるかは個人差があるし,じん肺管理区分管理2の決定を受けてから合併症続発性気管支炎による労災の決定を受けるまでの期間にも個人差があるのである。 (ウ) じん肺法における続発性気管支炎の位置づけとその難治性じん肺の合併症である続発性気管支炎とは,じん肺の不可逆性の病理変化の一つである,持続性のせき,たんの症状を呈する気道の慢性炎症性変化に細菌感染等が加わった状態をいう。 そして,その診断方法によれば,まず,持続性のせき,たんがなければ,合併症としての持続性気管支炎とは認定されない。また,持続性のせき,たんがある場合でも早朝1時間で3ml以上のたんがでなければやはり認定されないし,さらに,これらの条件をすべて満たしたとしても,たんが膿性でなければやはり合併症としての持続性気管支炎とは認定されない。すなわち,合併症としての持続性気管支炎の認定を受けている患者は,これらのすべての条件を満たしている者なのである。 また,気道に慢性炎症性変化が生じた状態でこれに細菌に感染すると,一般に治癒が困難であるといわれており,投薬によって一時的に良くなったか る患者は,これらのすべての条件を満たしている者なのである。 また,気道に慢性炎症性変化が生じた状態でこれに細菌に感染すると,一般に治癒が困難であるといわれており,投薬によって一時的に良くなったかに見えても,再び感染が繰り返されることが多い。すなわち,続発性気管支炎は,一応可逆的な症状ではあるが,完治させて再発を抑えることは困難な症状なのである。このような合併症の難治性は,判例においてもしばしば言及されているところである。 このように,続発性気管支炎として合併症の認定を受けることのできる症状が,種々の診断の結果,すべての認定条件を満たす場合に限られていて,その完治がきわめて困難な症状であることに鑑みると,単にじん肺管理区分の認定を受けるに至った症状との間には,質的な相違があるというべきである。なお,これまでのじん肺関係の判決は,どれも管理2,管理3だけの者と合併症に罹患している者との間に慰謝料額の差をつけている。これは,これら幾多の判例も,この両者の間に質的に異なるものがあることを認めているからに他ならない。 そして,続発性気管支炎に罹患し,合併症の認定を受けた原告らも,その治療経過からは,適切な治療をうけてもなお,今後治癒の可能性を認めることができない状態にある。そうだとすれば,合併症の認定を受けた原告らは,単に管理2,管理3イとされている者とは質的に違う健康被害を受けていると考えるほかにない。 (エ) 結論以上を総合して考えるならば,原告A,同B,同C,同D,同E,同H,同K,同Lについては,続発性気管支炎に罹患したときからそれぞれが被告に対して有する損害賠償請求権の消滅時効が進行するというべきであり,続発性気管支炎に罹患した事実はその旨の行政上の認定がなければ通常認め難いから,続発性気管支炎の症状に基づく損害は,続発性気管支炎 に対して有する損害賠償請求権の消滅時効が進行するというべきであり,続発性気管支炎に罹患した事実はその旨の行政上の認定がなければ通常認め難いから,続発性気管支炎の症状に基づく損害は,続発性気管支炎の労災決定の通知を受けた時に発生し,その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきである。 そして,これらの原告らに対して法定合併症続発性気管支炎の労災決定がなされたのは,原告Aが平成6年8月31日,同Bが平成10年2月20日,同Cが平成8年8月30日,同Dが平成2年4月5日,同Eが平成3年2月22日,同Hが平成2年4月5日,同Kが昭和62年6月11日,同Lが平成3年2月22日であるから,原告Kを除く原告A,同B,同C,同D,同E,同H,同Lの損害賠償請求権は消滅時効にかかっていない。 ウ亡F’,亡G’の損害賠償請求権の消滅時効の起算点(ア) 原告Fは,亡F’について,じん肺から更に合併症である悪性胸膜中皮腫となり,それによって死亡したことによる損害を,原告Gらは,亡G’について,じん肺から更に肺がんとなり,それによって死亡したことによる損害を求めている。 (イ) ところで,石綿によるじん肺(石綿肺)の合併症として肺がん,悪性胸膜中皮腫が認められることは,今日,異論がないところである。肺がん,悪性胸膜中皮腫はじん肺法上の法定合併症とはされていないが,それは,じん肺法が石綿肺のみならずじん肺全体を扱う法律であるからで,石綿肺に合併した肺がん,悪性胸膜中皮腫は,じん肺法上の法定合併症と同様に労働基準法施行規則35条の業務上の疾病として労災補償の対象とされている。 そして,じん肺に罹患したからといって必ず合併症である肺がんや悪性胸膜中皮腫になるとは限らず,また,誰が,いつ,これら疾患に罹患するかを予測することは 業務上の疾病として労災補償の対象とされている。 そして,じん肺に罹患したからといって必ず合併症である肺がんや悪性胸膜中皮腫になるとは限らず,また,誰が,いつ,これら疾患に罹患するかを予測することはできないし,更にこれら疾患により死亡するか否か,いつ死亡するかについても予測することはできない。加えて,単にじん肺に罹患した者と肺がんや悪性胸膜中皮腫を併発した者とでは,健康被害に質的な差異があることは多言を要しないし,まして肺がん,悪性胸膜中皮腫により死亡した場合はなおさらである。 以上からすれば,じん肺罹患後,肺がんや悪性胸膜中皮腫を併発して死亡した者の死亡についての損害の消滅時効は,早い時点をとったとしても死亡の時から進行すると考えられる。 (ウ) これを本件についてみると,亡F’は,昭和57年9月2日にじん肺管理区分2と認定され,平成7年6月16日,続発性気管支炎罹患により休業補償給付支給決定がなされたが,平成12年7月10日,悪性胸膜中皮腫により死亡した(なお,同人の死亡は同年12月21日に労災と認定された。)。また,亡G’は,昭和61年10月13日にじん肺管理区分2と認定され,平成8年10月24日,続発性気管支炎罹患により休業補償給付支給決定がなされたが,平成9年4月25日,肺小細胞がんで死亡した(なお,同人の死亡は同年10月3日に労災と認定された。)。したがって,亡F’,亡G’の各死亡日をもって,それぞれ安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点とすると,亡F’,亡G’の死亡にかかる損害賠償請求権はいずれも消滅時効にかかっていない。 エ原告Iの損害賠償請求権の消滅時効の起算点(ア) 原告Iが求めている損害賠償は,じん肺罹患後,更に進んで肺がんとなり,肺の一部を失うに至ったことによる損害である。 (イ) 石綿肺 っていない。 エ原告Iの損害賠償請求権の消滅時効の起算点(ア) 原告Iが求めている損害賠償は,じん肺罹患後,更に進んで肺がんとなり,肺の一部を失うに至ったことによる損害である。 (イ) 石綿肺の合併症として肺がんがあることは前記のとおりであり,石綿肺に罹患したからといって肺がんになるとは限らず,また,誰が,いつ肺がんに罹患するかを予測することはできない。加えて,単にじん肺に罹患した者と,その後,肺がんに罹患し死亡に至っていない者との間では,健康被害に質的な差異があることは言うまでもない。例えば肺がんの場合,手術終了後も再発におびえて精神的不安を抱えた生活を強いられなければならず,現に原告Iは,手術後も経過観察のため5年間は癌研究会附属病院港町診療所に通院し,その後は,同診療所の承諾を得て,じん肺の主治医である平野医師に診てもらっていた。 まして,原告Iは,肺がんの手術により右肺下葉を切除し失うに至っている。じん肺のみの罹患者においても,管理区分2,同3,同4は質的に違う健康被害と考えられていること,じん肺法による法定合併症罹患者の健康被害は,前記原告主張のように単なるじん肺罹患者のそれとは質的に違う健康被害と考えるべきであることと比較しても,原告Iには,肺がんによる右肺下葉切除により,じん肺管理区分4に相当する健康被害に包括され得ない質的に異なる健康被害が生じたと考えるべきである。 (ウ) これを本件についてみると,原告Iは,昭和56年12月21日にじん肺管理区分2と認定され,昭和58年3月18日,じん肺管理区分4と認定されたが,その後,石綿肺の合併症である肺がんを併発し,平成3年5月に肺がんが発見され,同年8月29日,右肺下葉を切除する手術を受けて,肺の一部を失うに至ったのであるから,同日を安全配慮義務違反に基づく損害賠償請 ,石綿肺の合併症である肺がんを併発し,平成3年5月に肺がんが発見され,同年8月29日,右肺下葉を切除する手術を受けて,肺の一部を失うに至ったのであるから,同日を安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点とすべきである。したがって,原告Iの損害賠償請求権は消滅時効にかかっていない。 (2) 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点ア加害行為が不法行為であることの覚知時期民法724条が,不法行為に関する消滅時効の起算点を「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とした趣旨は,被害者の損害賠償請求権の事実上の行使可能性を考慮したためであるから,消滅時効の起算点を検討するにあたっては,単に損害があったこと,加害者が誰かを知ったことのみでは足りず,不法行為であること(加害行為の違法性を認識しうる程度の状況があれば足るとされている)まで知ることが必要と解されている。 ところで,じん肺管理区分決定や労災決定は,使用者の過失の有無にかかわらずなされるものであるから,これらの決定を受けただけでは,その原因となる米軍の行為が不法行為であるか否かの判断をすることはできない。そもそも本件のような場合に,米軍に過失があるか否かの判断は,じん肺についての医学的知見,その防止対策についての工学的知見などを調査しなければ到底なしえないものであって,原告ら一般人が的確になしうるものではないのである。 結局,原告らが米軍の粉じん対策に過失があった旨の判断をするに至ったのは,平成10年4月21日,原告らが横浜防衛施設局長あてに総理府令に基づき損害賠償請求をする以前の平成9年11月ごろであり,したがって,原告らの損害賠償請求権は消滅時効にかかっていない。 イ賠償義務者が被告であることの覚知時期次に,民法724条の「加害者ヲ知リタル時」とは,米軍の行 以前の平成9年11月ごろであり,したがって,原告らの損害賠償請求権は消滅時効にかかっていない。 イ賠償義務者が被告であることの覚知時期次に,民法724条の「加害者ヲ知リタル時」とは,米軍の行為が不法行為であるとともに,その賠償義務者が被告であることをも知ったときと解すべきである。なぜなら,損害賠償義務者が誰かを知らなければ,現実の権利行使の可能性が認められないからである。 これを本件についてみると,原告らが,被告が損害賠償義務者である旨を知ったのは,平成10年4月21日,原告らが横浜防衛施設局長あてに総理府令に基づき損害賠償請求をする以前の平成9年11月ごろであり,したがって,原告らの損害賠償請求権は消滅時効にかかっていない。 (3) 権利濫用の再抗弁ア総論原告らの安全配慮義務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点の主張によると,亡J’,原告Kが,10年の消滅時効の期間経過後に本件訴訟を提起したことになり,被告の時効の援用により損害賠償請求権は時効消滅したことになる。 しかしながら,消滅時効制度の機能ないし目的は,①権利の上に眠っている者(権利行使を怠った者)は法の保護に値しないこと,②あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから,一定期間の経過をもって,義務の不存在の主張を許す必要があること等と説明されている。そして,債務についての消滅時効の援用は,債務者の権利に属するが,債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて,債務者の側に責むべき事由があったり,債務発生に至る債務者の行為の内容や結果,債権者と債務者の社会的・経済的地位や能力,その他当該事案における諸般の事実関係に照らして,時効期間の経過を理由に債権を消滅させることが,著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情 果,債権者と債務者の社会的・経済的地位や能力,その他当該事案における諸般の事実関係に照らして,時効期間の経過を理由に債権を消滅させることが,著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があり,かつ,援用権を行使させないことによって前記時効制度の目的に反する事情がない場合には,時効の援用は権利の濫用としてこれを許さず,債権の行使を許すべきである。特に,本件においては,債務者の悪質性や債権者の被害の甚大さが重視されるべきである。 本件では,以下に述べるとおり,被告の消滅時効の援用は権利濫用であって許されない。なお,前記2名以外の原告らの安全配慮義務不履行による損害賠償請求権ないし原告ら全員の不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅時効にかかっていると判断されるのであれば,この権利濫用の主張を他の請求権,他の原告らにおいても主張する。 イ権利行使の困難性(権利の上に眠っていたとはいえないこと)間接雇用形態をとっている場合に,労務指揮をしない被告が雇用契約上の安全配慮義務を法的に負うという法的知識は,専門家の間ですら,現在もなお一般的なものであるとは言い難い(被告自身も,被告の安全配慮義務は二次的なものという主張をして本件の安全配慮義務違反の責任を否定して争っている。)。そもそも,安全配慮義務という概念自体,昭和50年になってようやく最高裁で認められたものであり,米軍の安全配慮義務違反について被告が責任を負うか否かという論点については,昭和54年の横浜地裁の判決が1例あるのみという状態が平成6年まで続いていた上,造船業におけるじん肺が裁判上問題となったのは,昭和63年7月14日に横浜地裁横須賀支部に提訴された事件が初めてという状態であった(なお,この訴訟が和解で解決したのは平成9年3月31日のことである)。また,米軍の ん肺が裁判上問題となったのは,昭和63年7月14日に横浜地裁横須賀支部に提訴された事件が初めてという状態であった(なお,この訴訟が和解で解決したのは平成9年3月31日のことである)。また,米軍の不法行為について民事特別法によって被告が損害賠償の責任を負うということは,一般人には到底認識しうることではなく,専門家が日米地位協定等を調べてはじめてわかることである。このような状態で,一般人である原告らが被告の責任を認識しえないのは当然である。 そうすると,本件で被告を相手に損害賠償を請求するということ自体,一般人には思い至ることが不可能であることは明白であって,原告らの被告に対する権利行使に,事実上の極めて大きな困難があったことは明白である。加害企業相手のじん肺裁判であれば,一般人でも,相手は加害企業となるのではないかとの見当がつくであろうが,本件では,そもそも誰を相手にするかという点からして判断困難なのであり,この点は,他のじん肺裁判と全く違う本件の特殊性であって重視されるべきである。 加えて,原告らが仮に被告の法的責任について理解しえたとしても,実際に被告を相手として訴訟を提起するとなれば,事案の性質上,事実的にも法的にも極めて困難な問題があって,法律専門家の積極的な援助がなければ,その訴訟追行は事実上不可能である。 したがって,原告らが権利の上に眠っていたとはいえない。 ウ被告の立証困難を考慮する必要はないこと債権の消滅時効で考えられる債権者の立証困難は,いわゆる二重弁済の回避のための考慮であるが,損害賠償請求においては,そもそも二重弁済ということ自体が考えられない。また,消滅時効の起算点を最高裁判例のように捉えれば,そもそも粉じん作業従事のときから相当期間経過後の提訴を許すことになるのであって,債務者の立証困難を考慮し重視 弁済ということ自体が考えられない。また,消滅時効の起算点を最高裁判例のように捉えれば,そもそも粉じん作業従事のときから相当期間経過後の提訴を許すことになるのであって,債務者の立証困難を考慮し重視する必要性は,もともと著しく減少しているのである。 したがって,被告の立証困難を考慮する必要はない。 エ損害賠償請求権の時効消滅が著しく正義,公平,条理に反すること(ア) 被告が原告らの権利行使を困難にさせたと評価すべきこと被告は,米軍に対し,昭和50年に石綿を含む特定化学物質を取り扱う駐留軍従業員の安全確保の措置についての要請をしたが,昭和57年には,昭和50年代半ばまで米海軍横須賀基地における石綿を中心とする粉じん対策が極めて不充分な状態におかれたことが,被告にもはっきりと認識できたはずである。 すなわち,①昭和57年秋に,はじめて米海軍横須賀基地において特化則による石綿健康診断が実施され,被告がその実務を担ったが,ここにおいて10年間も特化則が米海軍横須賀基地内で無視され続けたことが判明したこと,②被告がその実務を担った昭和55年のじん肺検診の結果が昭和57年ごろに出たが,そこでこれまでじん肺検診を受けていなかった者の中から多数の管理2以上の者が出たこと,③昭和57年3月ころ,神奈川県労働基準局長,横須賀労働基準監督署長の要求によって,被告の横須賀渉外労務管理事務所が,同年までにじん肺検診を受診した米海軍横須賀基地従業員の現在または過去における石綿作業への従事状況を調査し,その結果を個人ごとに「じん肺検診者石綿作業従事状況個人別状況」という文書にまとめ,更に全体の状況をまとめたこと,④昭和57年5月,被告は米海軍から提供を受けて乙第9号証を入手したことからも明らかなとおり,被告にとっても,昭和57年には,これまでの 人別状況」という文書にまとめ,更に全体の状況をまとめたこと,④昭和57年5月,被告は米海軍から提供を受けて乙第9号証を入手したことからも明らかなとおり,被告にとっても,昭和57年には,これまでの米海軍横須賀基地内の粉じん対策が長期にわたって不充分なまま放置されたことが明白となったはずである。 ところで,じん肺は治癒することなく進行していく病気であって,昭和57年以降もじん肺罹患者が増加し,健康被害が拡大していく可能性も大きいのであるから,これを予防するための定期的な検診の受診や日々の健康管理についての教育等,日々の具体的な労務提供の際の安全配慮義務以外の安全配慮義務も重要というべきである。ところが,被告にとっても,昭和57年には,米軍が長年粉じん対策を怠ったことが判明し,それ以降,米軍がこれを充分に尽くすという保障もないのであるから,被告は,直接の雇用者として,信義則上,自ら雇った米軍基地の従業員に対し,次の義務を負うに至ったと解すべきである。 ① 米海軍が現に行っているじん肺検診やじん肺教育が,それを必要とされる全ての者に行き渡っているか否かを自ら従業員個々に確認し,かつ,米海軍の行うじん肺教育が,今後の健康管理という観点からの内容が充分か否かを確認し,不充分な点があれば,米海軍に申し入れ改善させ,改善されなければ自らこれらを行う義務② すでに退職した者については,かつての雇用契約から生じる信義則上の義務として,じん肺とは何かということ,じん肺罹患の可能性があること,じん肺検診を受けるべきこと等を少なくとも通知する義務しかしながら,被告は,このような義務を全く尽くそうともせず,昭和57年の段階で,米海軍横須賀基地においてじん肺罹患者が相当数出,今後も出続けるであろうことを予見し,将来の紛争に備えた準備までしながら, しながら,被告は,このような義務を全く尽くそうともせず,昭和57年の段階で,米海軍横須賀基地においてじん肺罹患者が相当数出,今後も出続けるであろうことを予見し,将来の紛争に備えた準備までしながら,全く何の対策もとらずにこれを放置したのである。 仮に,この時点で被告が前記①②の義務を尽くしたのであれば,じん肺罹患者はじん肺によって自分が被害を受けたということを認識することができ,権利行使をするにあっての基礎となる被害意識を形成しえたにもかかわらず,被告は責任逃れの消極的姿勢に終始したのである。 これは,雇用主としてはもちろん,被告が本来,法の定立,運用の当事者である国家という立場を考慮すれば,到底,許されるべきことではなく,強く非難されるべきであって,実質的に見れば,不作為によって原告らの被害意識の形成を妨げたものという他はなく,それによって,原告らの権利行使が困難になったのである。これは,債権者が期間内に権利行使をしなかったことについて,債務者の責むべき事由に該当する。 (イ) 原告らは国家的政策の犠牲となったと評価しうることそもそも,間接雇用という形態は,従業員を使用する米軍の無責任な安全管理を生み易い雇用形態であることは否定できず,国家的政策のためにとられた特異な雇用形態である。原告らは,自らの意思で,この職を選んだ者であるが,原告らの業務が,誰かが担わなければならない国家的政策のための業務であることは疑いないのであって,そのように考えるならば,原告らは公共的な業務のために犠牲となったのであるから,その業務を管理する被告による消滅時効の抗弁を許すべきではない。 (ウ) 原告らのじん肺罹患による被害の重大性原告らのじん肺罹患による被害は米軍の長期間にわたる重大な安全配慮義務違反によって生じたものであり,その被害も重大で 時効の抗弁を許すべきではない。 (ウ) 原告らのじん肺罹患による被害の重大性原告らのじん肺罹患による被害は米軍の長期間にわたる重大な安全配慮義務違反によって生じたものであり,その被害も重大であることは先に主張したとおりであって,このような被害の実態に鑑みれば,被告による消滅時効の抗弁を許すべきではない。 (エ) 結論以上によれば,被告が原告らの損害賠償請求権の消滅時効を主張することが著しく正義,公平,条理に反することは明らかである。 オ亡J’,原告Kについての追加事情(ア) 亡J’,原告Kに共通の事情被告は,他の本件原告らについても,同様の時期における安全配慮義務の履行状況について反証を要するのであり,亡J’,原告Kについてのみその反証が困難というわけではないから,この点について被告の立証困難を重視する必要性はない。 (イ) 亡J’について亡J’は,昭和60年ごろ,横須賀労務管理事務所に,じん肺の補償制度について聞きに行ったことがあったが,そのようなものはないと言われた。 同人にとって,被告を相手に損害賠償を請求することができるなどということは思いもよらぬことであったが,平成9年7月過ぎ,民事特別法,総理府令により補償を受けた者がいることが判明したため,平成10年4月21日,横浜防衛施設局長あてに損害賠償請求をしたのである。そして,それが時効を理由につき返された後に,原告ら訴訟代理人に相談して本件訴訟に及んだのであって,決して権利の上に眠っていたものではない。 また,亡J’は,被告が安全配慮義務を尽くさないこともあって,昭和58年12月31日の退職日までの間,在職中は1回もじん肺検診をうけることなく,じん肺教育をうけることもなかったのであって,この点につき,被告は強く非難されるべきである。 さらに,亡J’は,昭和59年 年12月31日の退職日までの間,在職中は1回もじん肺検診をうけることなく,じん肺教育をうけることもなかったのであって,この点につき,被告は強く非難されるべきである。 さらに,亡J’は,昭和59年12月27日のじん肺管理区分管理4の決定時から死亡時まで15年以上管理4の状況にあって,長年にわたりじん肺と戦いながら療養生活を続けてきたのであり,最終のじん肺管理区分決定時が消滅時効の起算点となるという考え方が定着してきたのは最高裁平成6年判決のころであると考えられるから,亡J’が,症状が悪化しつつ過ごしている間に,自らの損害賠償請求権が時効消滅することを理解することができたかどうかは疑問である。 原告Jらに対する被告の消滅時効主張が権利濫用にあたるかどうかの判断にあたっては,これらの事情も考慮すべきである。 (ウ) 原告Kについて原告Kは,昭和62年6月11日にじん肺管理区分2合併症続発性気管支炎罹患によって労災通知を受けたが,それから10年後の平成9年7月に民事特別法,総理府令により補償を受けた者がいることが判明したため,平成10年4月21日,横浜防衛施設局長あてに損害賠償請求をしたのである。そして,それが時効を理由につき返された後に,原告ら訴訟代理人に相談して本件訴訟に及んだのであって,決して権利の上に眠っていたものではない。 また,被告は,他の本件原告らについても,同様の時期における安全配慮義務の履行状況について反証を要するところ,将来,原告Kがじん肺死した場合,その後10年間は,被告に対して死亡による損害賠償請求をすることができると考えられるから,この点について被告の立証困難を重視する必要性はない。 さらに,原告Kが合併症続発性気管支炎について労災認定を受けたのは昭和62年6月11日であるから,合併症続発性気管支炎について労災認 られるから,この点について被告の立証困難を重視する必要性はない。 さらに,原告Kが合併症続発性気管支炎について労災認定を受けたのは昭和62年6月11日であるから,合併症続発性気管支炎について労災認定を受けた原告らについての消滅時効の起算点に関する原告らの理解によれば,消滅時効の完成から本件提訴までの期間は約2年遅れたにすぎない。しかも,その間,平成10年4月21日に,横浜防衛施設局長あてに損害賠償請求をしているのであるから,この日から見れば本件提訴までの期間は約10か月遅れたにすぎない。 原告Kに対する被告の消滅時効主張が権利濫用にあたるかどうかの判断にあたっては,これらの事情も考慮すべきである。 第4 過失相殺の抗弁の成否 1 被告の主張(1) 労働者の協力義務そもそも使用者に課せられる安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務であり,使用者に課せられた安全配慮義務を履行するに当たっては,使用者のみがいかに努力しても,その完全な履行をすることができない場合があり,このような場合には労働者からの協力を得ることが不可欠である。 このような性質は,労働安全衛生法の諸規定からも明らかである。すなわち,同法4条は,「労働者は,労働災害を防止するため必要な事項を守るほか,事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように務めなければならない」として労働者の一般的責務について規定しており,例えば,保護具の着用については,労働安全衛生規則597条が「労働者は,事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときは,当該保護具を使用しなければならない」と規定している。 した 例えば,保護具の着用については,労働安全衛生規則597条が「労働者は,事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときは,当該保護具を使用しなければならない」と規定している。 したがって,労働者に使用者の安全配慮措置に対する協力義務違反等が認められる場合には,損害の公平な分担の観点からも,過失相殺が認められてしかるべきである。 (2) 防じんマスク等の保護具の不着用これを本件についてみると,米海軍は,昭和20年代から,石綿を取り扱う作業に従事する際に防じんマスクの着用を義務づける等の措置を採ってきたにもかかわらず,原告らの中には,作業しづらいとか,暑苦しいとか,あるいは,呼吸が苦しいとかの理由から防じんマスクを着用しなかった等の者がいるのであるから,過失相殺が認められるべきである。 (3) 喫煙原告らの中には,長期間にわたって喫煙を継続している者がいるところ,喫煙は,健常者にとっても有害とされるのが一般であり,じん肺に罹患して肺機能が低下している者については,よりいっそう有害であると考えられる。特に,もともと喫煙等が原因となって慢性気管支炎が生じた場合には,これに細菌感染等が加わった場合でも続発性気管支炎と同様の症状が生じる。したがって,少なくともじん肺の合併症である続発性気管支炎については,喫煙をしている者については,損害額を算定するに当たってこのような事情が考慮されるべきである。 2 原告らの主張被告は,米海軍が昭和20年代から石綿作業に防じんマスクの着用を義務づけていたと主張するが,この主張事実を認定するに足る証拠はない。また,原告らの中には,この義務に違反した者がいると主張するが,この事実を認定するに足りる証拠もない。さらに,被告は,喫煙者については損害額算定に当たり考慮すべきである を認定するに足る証拠はない。また,原告らの中には,この義務に違反した者がいると主張するが,この事実を認定するに足りる証拠もない。さらに,被告は,喫煙者については損害額算定に当たり考慮すべきであるとするが,相当ではない。 第6章当裁判所の判断第1 安全配慮義務の具体的内容及び債務不履行責任ないし不法行為責任の成否 1 被告が負うべき安全配慮義務の具体的内容(1) 原告らの雇用形態が,被告が雇用者となり,従業員の労務を米軍に提供するいわゆる間接雇用方式であることは当事者間に争いがない。また,証拠(乙1・基本労務契約)によれば,従業員の労務管理の事務の分担について,日本側は,法律上の雇用主として,米軍の発議する人事措置の審査と実施,給与の計算,支払,労働組合との交渉等の事務を,米軍は,実際の使用者として,日本人従業員の直接の監督,指導,統制,訓練をそれぞれ担当すると規定されていることが認められる。さらに,地位協定12条5項には,「賃金及び諸手当に関する条件その他の雇用及び労働の条件,労働者の保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は,日本国の法令で定めるところによらなければならない。」と定められている。 (2) 一方,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであるとされているところ,原告らのような被用者と被告ないし米軍との間のいわゆる間接雇用形態においては,原告らと被告との関係が被用者と雇用者の関係,原告らと米軍との関係が労務者と使用者の関係にあり,この点でいずれも基本労務契約の適用を前提とした雇用契約が締結されたという法律関係に基づき特別な社会的接触の関係に入った 係が被用者と雇用者の関係,原告らと米軍との関係が労務者と使用者の関係にあり,この点でいずれも基本労務契約の適用を前提とした雇用契約が締結されたという法律関係に基づき特別な社会的接触の関係に入った当事者ということができる。そして,雇用関係における安全配慮義務とは,その職務遂行のための場所,施設もしくは器具等の設置管理または遂行する職務の管理にあたって,被用者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務と解されるところ,間接雇用形態の特殊性に照らすと,原告らに対するこのような安全配慮義務は,被告と米軍の双方が負担することとなるというべきである(この点は被告も争わないところである。)。 (3) 問題は,被告と米軍とが負担する安全配慮義務の内容及び被告がどのような場合に責任を負うかであるが,前記争いのない事実,基本労務契約の内容,地位協定の内容に照らすと,次のように解すべきである。 すなわち,一般に,米軍が,実際の使用者として労務者を使用する者として,その職務遂行のための場所,施設もしくは器具等の設置管理または遂行する職務の管理にあたって,労務者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下,本件に即して「対策実施義務」という。)を負うと解すべきことはもちろんであるとしても,被告としては,基本労務契約により,雇用者であるにもかかわらず被用者に対する直接の指導,統制,訓練その他の指揮監督権限を有しないこととされている以上,米軍が負うような一次的・直接的な安全配慮義務を被告も負うと解することはできない。その意味で,被告の負うべき安全配慮義務の内容は,基本的には,米軍に対して対策実施義務を尽くすよう申入れを行うなどの二次的・間接的な義務にとどまるものと解される。もっとも,雇用者が本来有すべき被用者に対する直接の指揮監督権限 全配慮義務の内容は,基本的には,米軍に対して対策実施義務を尽くすよう申入れを行うなどの二次的・間接的な義務にとどまるものと解される。もっとも,雇用者が本来有すべき被用者に対する直接の指揮監督権限を自ら制限することとなるような地位協定を締結した一方当事者は当の雇用者たる被告であるところ,このような被告自らが,単に米軍に対して対策実施義務を尽くすよう申入れを行えば,米軍がたとえその申入れを無視あるいは軽視して対策実施義務を尽くさず,その結果,実際に被用者の生命及び健康等が危険にさらされた場合にも一切責任を負う余地はないと解するのは相当ではない。地位協定12条5項が先のような規定であることに鑑みると,被告には,雇用者としての立場・地位協定締結当事者としての立場から,米軍が対策実施義務を充分に尽くしているかどうかを不断に調査・監視し,必要な措置を講ずるよう働きかける義務(以下,本件に即して「対策推進義務」という。)があるというべきである。そして,被告がこのような対策推進義務を怠ったり,それが不充分であった場合には,米軍の安全配慮義務違反により生じた結果は被告自らの安全配慮義務違反により生じた結果でもあるというべきであるから,被告はその責任を負うことになると解する。 (4) これに対し,原告らは,米軍に使用者としての安全配慮義務違反がある場合は,直ちに被告が雇用者としての安全配慮義務違反に基づく責任を負うと主張する。しかしながら,契約責任の一種とされている安全配慮義務違反に基づく責任については,不法行為法における民事特別法のような明文の法規を欠くところ,それにもかかわらず,原告ら主張のように,民事特別法と同様の法的構成で,米軍の安全配慮義務違反により直ちに被告がその責任を負うものと解することはできない。 一方,被告は,一般に,被告が米海軍横 ろ,それにもかかわらず,原告ら主張のように,民事特別法と同様の法的構成で,米軍の安全配慮義務違反により直ちに被告がその責任を負うものと解することはできない。 一方,被告は,一般に,被告が米海軍横須賀基地内における個々の作業内容や粉じん対策等を詳細に把握する立場にないことを理由に,被告が負うべき安全配慮義務の内容は,米軍に対して,安全配慮義務を尽くすよう申入れを行うなどの二次的な義務にとどまると主張する。被告の義務を米軍との対比において二次的な義務と理解すべき点は前記判断のように首肯しうるが,地位協定12条5項の趣旨に照らすと,二次的義務の内容としては,被告は,雇用者として,また地位協定締結当事者として,むしろ米海軍横須賀基地内における個々の作業内容や粉じん対策を積極的に詳細に把握すべき立場にあるというべきであるから,やはり,米軍が対策実施義務を充分に尽くしているかどうかを不断に調査・監視し,必要な措置を講ずるよう働きかける義務をも負うというべきである。 2 石綿肺に関する知見の発展と粉じん対策を推進すべき義務の発生時期(1) 米軍及び被告が負うべき安全配慮義務の内容を以上のように捉えるとしても,米軍の対策実施義務,被告の対策推進義務は,石綿肺や粉じん対策に関する知見が確立する前は発生し得ないというべきであるから,次にこれらの知見の確立時期を検討する。 (2) 我が国におけるけい肺の戦前の知見,戦前・戦後の石綿肺の知見につき当事者間に争いのない事実あるいは証拠により容易に認めることのできる文献の記載及び戦後のじん肺に対する法制度は第3章第4記載のとおりである。 (3) 以上の事実と証拠(甲1の4・6・13ないし15・17・18・31)とによれば,我が国におけるじん肺に関する知見の発展の概要は以下のようなものであったと認定することが 4記載のとおりである。 (3) 以上の事実と証拠(甲1の4・6・13ないし15・17・18・31)とによれば,我が国におけるじん肺に関する知見の発展の概要は以下のようなものであったと認定することができる。 すなわち,昭和初めころ,まず,金鉱山におけるけい肺が問題視され,その鉱夫のけい肺が業務上疾病と扱われるようになったが,これをきっかけとして鉱山以外の珪酸含有粉じんの発じん作業についても検討が進むようになり,次第に石炭山における炭肺等に対する関心が広がっていった。その結果,昭和10年ころまでには,けい肺の発生機序,病理,症状の重大性及びその対策の必要性に関する基本的な医学的知見が明らかとなり,また,けい肺の予防対策が講演されるようになるなど,具体的な予防対策に関する基本的な工学的知見が明らかとなったということができる(もっとも,このような知見が明らかとなったからといって,当時,それをすぐ実行できるような経済状況でなかったこともまた事実というべきであろう。)。なお,昭和11年には,鉱夫以外の工場労働者のけい肺も業務上疾病と扱われるようになった。 一方,昭和5年のけい肺に関する国際会議においては石綿肺の問題性も指摘され,欧米においてはそのころすでに疫学的にも病理組織学的にも石綿肺についての知見が明らかとなっていたのであるが,我が国において石綿肺の問題性が一般的に指摘されるようになったのは昭和10年代前半のことであった。なお,昭和9年,内務省は,石綿肺による欧米の業績を紹介し,昭和15年までに石綿肺に関する調査研究の結果を出すに至っている。 その後の戦時体制の中で石綿肺の研究は一時中断したが,そのような中でも昭和22年に制定された労働基準法や労働安全衛生規則においては粉じん作業中の危害予防策が定められ,あるいは昭和23年に労働省にけい肺対策協 戦時体制の中で石綿肺の研究は一時中断したが,そのような中でも昭和22年に制定された労働基準法や労働安全衛生規則においては粉じん作業中の危害予防策が定められ,あるいは昭和23年に労働省にけい肺対策協議会が設置されてけい肺巡回検診も実施され,その結果,昭和24年にはけい肺措置要綱等が定められるなどけい肺対策が進んだことに鑑みると,遅くとも昭和20年代前半ころには,けい肺に関する発症機序,病理,病像,症状の重大性及びその対策の必要性,緊急性についての詳細な医学的知見及び具体的な予防対策に関する詳細な工学的知見が確立したものと認められる。 一方,一時中断していた石綿肺の研究についても,昭和27年ころには再開され,石綿肺の発生についての調査などの結果,遅くとも昭和20年代の終わりころには,石綿肺の発生機序,病理,症状の重大性及びその対策の必要性に関する基本的な医学的知見や,けい肺に倣った具体的な予防対策に関する基本的な工学的知見が明らかとなったということができる。もっとも,石綿肺のX線写真所見について基準が作られ,肺機能所見についてもある程度明らかになるなど,石綿肺に関する発症機序,病理,病像,症状の重大性及びその対策の必要性,緊急性についての詳細な医学的知見が確立するに至ったということができるのは,石綿肺の診断基準に関する労働省の試験研究等がなされた昭和30年代のはじめころであり,石綿肺の具体的な予防対策に関する詳細な工学的知見が確立したのもそのころと認められる。 (4) そうすると,米軍及び被告は,遅くとも昭和30年代前半ころまでには石綿肺に対する対策の必要性,緊急性を認識すべきであり,また,それも可能であったというべきであるから,その時点において,それぞれの対策実施義務,対策推進義務が生じるに至ったというべきである。 3 米軍の安全配慮 対策の必要性,緊急性を認識すべきであり,また,それも可能であったというべきであるから,その時点において,それぞれの対策実施義務,対策推進義務が生じるに至ったというべきである。 3 米軍の安全配慮義務違反の有無被告に安全配慮義務違反に基づく責任が生じるのは,前述のように,米軍が対策実施義務に違反した結果,労務者の生命及び健康等に危害が生じてしまった場合で,かつ,被告が対策推進義務を怠ったり,それが不充分であった場合であるから,まず,米軍が自らに課された安全配慮義務を尽くしていたかどうかが問題となる。そこで,以下,書証により容易に認めることのできる事実を確定した上で,原告らが指摘する米軍の安全配慮義務の具体的内容に沿って,米軍がその安全配慮義務を尽くしていたかどうかを検討する。 (1) 書証により容易に認めることのできる事実証拠(甲36の4・36の7,乙7ないし9・15ないし17・19ないし27)によれば,概略次のような内容の安全対策指令等が米軍内で作成された事実が認められる(以下,これらの安全対策指令等を「指令」といい,個別に引用するときはこれに付した番号で表示する。)。 ① GENERALSAFETYRULES 一般安全規則これは,SRF司令官からSRFの全従業員に対して従業員の安全衛生を増進すること等を目的として昭和28年に作成された規則であり,アモサイト等を扱う際に防塵型ガスマスクの着用を義務づけている。 ② NAVSOP-2455 陸上での作業に関する安全対策(昭和40年4月)これは,昭和40年4月にまとめられたものであるが,この安全対策では,長年に亘り過剰なアスベストの塵埃を吸い込むと石綿症と呼ばれる呼吸器障害を引き起こすこと,アスベストへのばく露は,船上でのアスベスト材料の引き裂き,剥ぎ取り作業,アス のであるが,この安全対策では,長年に亘り過剰なアスベストの塵埃を吸い込むと石綿症と呼ばれる呼吸器障害を引き起こすこと,アスベストへのばく露は,船上でのアスベスト材料の引き裂き,剥ぎ取り作業,アスベストを含む材料の製作ないし据え付け作業でも発生することが指摘された上,(a)アスベスト製品取扱い上の一般的注意点として,ばく露度合いの評価の実施,技術的対策提言の実施,人体防護教育の実施,アスベスト塵埃の限界値の遵守,作業現場の湿潤化,廃棄時の密封化などの必要性が,(b)アスベスト製品の製作時の注意点として,作業場の設計上の工夫,作業場・作業機械に対する換気装置の設置,アスベスト布自体の湿潤化,作業場所の密閉化,呼吸装置着用の上での綿密な清掃作業などの必要性が,(c)アスベスト製品の除去・修理及び据付け時の注意点として,作業中の塵埃防護用呼吸器及び清潔な作業服の着用,換気装置の使用,作業場所の指定専用区域化,立入関係者の限定化,作業区域の間仕切りによる隔離などの必要性が指摘されている。 ③ NAVSOP-2455 陸上での作業に関する安全対策(昭和42年6月)これは,②と同じ表題であるが,昭和42年6月に作成されたものであり,この安全対策では,アスベスト製品のからむ粉じん発生作業をする際の事前措置として,(a)作業区域への全体換気施設の常設,(b)粉じん発生機械工具への排気フード設置,(c)防じんマスクの着用,(d)産業用真空掃除機の使用の必要性が指摘されている。 ④ GENERALSAFETYRULES 改正一般安全規則これは,①を昭和43年10月8日に改正したものであるが,この改正により,(a)粉じんにさらされる従業員は,適当な保護具をつけなければならないこと,(b)有害な粉じんにさらされる従業員は これは,①を昭和43年10月8日に改正したものであるが,この改正により,(a)粉じんにさらされる従業員は,適当な保護具をつけなければならないこと,(b)有害な粉じんにさらされる従業員は,適当なマスクをつけなければならないこと,(c)粉じんの濃度が高い場所や,人に安全と証明されていない区画に入る場合は,エアラインマスクまたは酸素自給マスクを使わなければならず,これらの区画に入る時は,緊急の場合に限られ,特に安全士官の許可を得なければならないこと等が規定された。 ⑤ NAVSHIPSINST 5100.26 アスベストばく露の危険防止これは,昭和46年2月9日付けで米海軍艦船司令部から発出された海軍艦隊指図書であり,その内容としては,従業員の安全衛生管理の面から最も注視すべき米海軍における石綿の利用が,パイプやボイラーの断熱材の組立て,据付け,修繕あるいは除去に際してのものであることが指摘され,また,従業員が石綿を含有する製品の加工処理現場で別の作業に従事しているときや石綿による環境汚染が存する施設内で別の作業をしている際に石綿にばく露する場合があることをも踏まえ,石綿を含有する断熱材や資材の組立て,据付け,修繕あるいは除去の作業に従事するあらゆる監督者及び従業員が最低限遵守しなければならない事項が規定されている。 ⑥ BUMEDINST 6260.14 アスベスト抑制手段これは,昭和48年6月7日付けで米海軍省の薬事保健局長が作成した規則であり,米労働省制定の米国健康安全基準に基づき,石綿に関連する疾病予防のための大気中濃度,産業衛生上の対策及び医学的監視体制を設定することを目的としている。具体的には,石綿繊維の空気中濃度の8時間平均値について,これを5μm以上の長さの繊維で空気1立方センチメートル当たり5個以下 度,産業衛生上の対策及び医学的監視体制を設定することを目的としている。具体的には,石綿繊維の空気中濃度の8時間平均値について,これを5μm以上の長さの繊維で空気1立方センチメートル当たり5個以下(ただし,昭和51年7月1日以降は,2個以下)等とする許容ばく露濃度を定めるほか,産業衛生上の防護手段及び人体防護器具の使用及びその種類,石綿繊維の空気中濃度の測定方法とモニタリングの方法,警告及び標識の設置及びその内容,健康診断について規定している。 ⑦ OPNAVINST 6260.1 海軍要員及び環境に影響を与えるアスベストの管理これは,昭和49年4月9日付けで米海軍作戦長官がすべての艦船及び基地宛てに作成した指示書であり,米海軍において,陸上たると海上たるとを問わず,職業安全健康法及び昭和47年10月18日付け連邦官報(20CFR1910:37FR22102)による石綿に関する米国安全健康基準並びに大気汚染防止法及び昭和47年4月6日付け官報(40CFR81:38FR8820)による米国排出基準をいずれも遵守することを目的として,医療調査局長が石綿被害の評価を目的とし,各部署に対して専門的かつ技術的支援を行う等の取組みを定めている。 ⑧ NAVSEAINST 5100.2 アスベスト除去/代替/職員保護計画これは,昭和50年10月24日付けで米海軍海洋システムコマンド司令官が船舶建造及び整備におけるアスベスト除去に関するNAVSEA方針の確立と石綿ばく露をより減少させるための行動の指揮を目的として発出した指令であり,その方針として,アスベスト及びアスベストを含む物質は,海軍船舶の建造,オーバーホール,修理及び整備に使用されるべきではなく,またそのような物質は,適切な代替物質が指定されているいかなる施設または作業適用においても使用され 及びアスベストを含む物質は,海軍船舶の建造,オーバーホール,修理及び整備に使用されるべきではなく,またそのような物質は,適切な代替物質が指定されているいかなる施設または作業適用においても使用されるべきではないこと,アスベストと共に働いている職員は,保護及び安全手段を提供され,それらを使用するように要求されなければならないことを明らかにしており,軍人及び民間人が不必要にアスベストの危険にさらされないようにするための行動として,①購入機器等にはアスベストフリー断熱材を要求しなければならないこと,②アスベストの除去は,適切な呼吸装置及び衣服を着用した知識のある職員によって,アスベストが存在するとの仮定の下になされなければならず,これに従事しない他の職員のばく露防止措置もとらなければならないこと等を定めている。 ⑨ OPNAVINST 6260.1A 海軍兵及び軍属…のアスベストばく露の規制これは,昭和53年8月8日付けで米海軍作戦部長が全艦及び全基地に対して石綿に関する国家安全衛生基準の遵守による職業衛生と石綿に関する国家排出基準の遵守による環境保護を目的として発した指令であり,石綿のばく露が人体に重大な影響を及ぼすため,許容限度を超える濃度の浮遊アスベストを空中に飛散させる作業として,アスベスト断熱材の製造,取付け,修理もしくは撤去を挙げるなどし,海軍の全民間職員,海上及び海岸任務に従事するすべての兵員によって職業衛生環境基準を厳重に施行・遵守すべきことを求めている。 ⑩ NAVSHIPREPFACINST 6260.3C アスベスト管理これは,昭和54年8月1日付けでSRFが安全な石綿の取扱いのための要領を作成することを目的として作成した指示書であり,この指示書による要領は,石綿材を取り扱うSRF及び請負業者従業員のすべてに対し これは,昭和54年8月1日付けでSRFが安全な石綿の取扱いのための要領を作成することを目的として作成した指示書であり,この指示書による要領は,石綿材を取り扱うSRF及び請負業者従業員のすべてに対して適用され,水上部隊の司令官は,この指示に基づいて,解体修理,改造,または保守点検中の各自艦船に存在する石綿を含有する材料のSRFによる特定及び管理作業を支援するものとされている。内容としては,アスベスト取扱い時には大きな危険性があることを認識し,アスベスト取扱いの安全条件を厳格に遵守しなければならないこと,違反があった場合,安全部,契約検査部,艦船監理官等の責任ある要員は,必要な条件が満たされるまですべての作業を中止させること等を指示している。 ⑪ NAVSEAINST 5100.2A アスベスト除去/代替/職員保護計画これは,昭和54年9月11日付けで海軍海洋システムコマンドの司令官が船舶の建造,オーバーホール,修理及び整備における石綿除去の改訂方針を作成することを目的として発出した指令であり,この指令はすべての海軍船舶,航空機及びNAVSEA産業施設に適用され,その指示の方針においては,①アスベスト及びアスベストを含む物資は,適切な代替物資が指示されている場合には,海軍の船舶の建造,オーバーホール,修理及び整備に使用されるべきではなく,②船舶に設置されたアスベスト断熱材のばく露可能性を減少させるため,随時の塗装または小規模の修繕以外に,通常は触れることのない箇所にある断熱材を除くすべての船舶の断熱材について,アスベストをアスベストフリー物資と交換することとされた。 ⑫ CINCPACFLTINST 6260.1 アスベストに対する職員のばく露の管理これは,昭和55年5月25付けでアメリカ合衆国太平洋艦隊司令長官が,艦隊及び陸上の修理活 交換することとされた。 ⑫ CINCPACFLTINST 6260.1 アスベストに対する職員のばく露の管理これは,昭和55年5月25付けでアメリカ合衆国太平洋艦隊司令長官が,艦隊及び陸上の修理活動に対して,船上におけるアスベスト断熱材の除去中ならびにその後の必要な防護手段を助言し,防護を確実に行うための指示及び手順を定めることを目的として発出した指令であり,この指令は,アスベスト絶縁材を使用していない船舶を除くPACFLTのすべての船舶に適用されるものであり,この指令の方針では,アスベスト材料を含む,あるいはそのように疑われる船上の絶縁の除去は,いかなる活動も,除去そのものを目的として遂行してはならない等とされている。 ⑬ PROCESSINSTRUCTION 635-1A 作業手順書これは,昭和55年11月1日にSRFにおいて石綿を含有する材料の撤去,取付け,加工の作業手順を明確にし,人が有害な石綿粉じんにさらされるのを最小限に抑えることを目的として作成された作業手順書であって,その手順は艦船修理廠,艦乗員,契約業者が行うすべての石綿関連作業に適用するものとされている。また,その内容は,方法,標準,品質管理,品質保証,訓練の各項目に分け,石綿関連作業の具体的な作業手順の詳細な定めである。 ⑭ OPNAVINST 6260.1B 海軍要員と環境に対するアスベストのばく露制御これは,昭和57年2月12日付けで海軍作戦部長からすべての艦船と部署に対して,石綿に関する米国安全衛生基準を遵守することによる職業衛生,石綿に対する米国排出基準を遵守することによる環境保護を目的として発出された指令である。 ⑮ PWCYOKO/OICCFEINST 5100.1BCH-1 司令部職業安全衛生プログラムこれは,昭和57年7月7日付けでアスベス 守することによる環境保護を目的として発出された指令である。 ⑮ PWCYOKO/OICCFEINST 5100.1BCH-1 司令部職業安全衛生プログラムこれは,昭和57年7月7日付けでアスベスト制御と防護に対する指令を公表することを目的として発された指令であり,石綿を含有する原材料の制御と安全な取扱いを対象にしたOPNAVINST6260.1Bの内容に一致した手続を確立することを目的としている。その方針においては,アスベストを含有する絶縁が現在設置されている箇所では,これが密閉され損傷を受けない状態で危険をもたらすことがない場合には,アスベストを撤去する目的だけで剥ぎ取り作業が実施されることはない等とされている。 (2) ①粉じん作業時間短縮・配置転換義務違反についてまず,じん肺法20条の3及び21条は,以下のように規定している。 ① 労働者が管理2・管理3イの場合事業者は,就業場所の変更・作業時間の短縮等に努めなければならない。 ② 労働者が管理3イで常時粉じん作業に従事している場合都道府県労働局長は,事業者に対して,その者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧奨することができる。 ③ 労働者が管理3イで②の勧奨を受けた場合または労働者が管理3ロで常時粉じん作業に従事している場合事業者は,その者を粉じん作業以外の作業に常時従事させることとするよう努めなければならない。 ④ 労働者が管理3ロで常時粉じん作業に従事していて,地方じん肺診査医の意見により必要があると認めるとき都道府県労働局長は,事業者に対して,その者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを指示することができる。 一方,原告らのうち,その就労期間中にじん肺管理区分の決定を受けた者は,別表のとおり,原告A,同C,同E,亡F’,同G, の者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを指示することができる。 一方,原告らのうち,その就労期間中にじん肺管理区分の決定を受けた者は,別表のとおり,原告A,同C,同E,亡F’,同G,原告H,同K,同Lであるところ,これらの原告が就労期間中に受けていたじん肺管理区分の決定内容はいずれも管理2である(亡F’及び原告Kについては,当初管理3イの決定がなされたが,およそ半年後にはいずれも管理2に変更されている。)。 そうすると,米軍と原告らとの間で問題となるのは①(じん肺法20条)の規定についてであるところ(地位協定12条5項参照),米軍に対して,これらの原告につき,安全配慮義務の内容として粉じん作業時間の短縮や配置転換に努力すべきことを超えてそれらの義務まで課すのは,米軍にじん肺法の規定を超える義務を課すものであって相当ではないから,そもそも米軍にそのような義務が存することを前提とする原告らの主張には理由がない。 (3) ②石綿製品の代替品の支給義務違反についてアまず,作業にあたって使用している製品に石綿が含まれている場合,代替品として石綿を含まない製品を使用することができるのであればそれを使用することが石綿ばく露防止の有効な手段のひとつであることは明らかであるから,米軍は,安全配慮義務の一内容として,石綿製品の代替品を使用することができる場合にはそれを整備する義務(支給に限定することまでは要求すべきでない。)を負っていたということができる。 そして,原告らは,溶接作業等火気作業の際の火受けとして,石綿以外の安全な代替品を支給すべきことを主張するのであるが,原告らの主張を精査しても,その主張の中心は,Nらが証言した石綿含有材の全面使用禁止の時期について論難するものであって,そもそも,この火受けに代替品として石綿を含まな べきことを主張するのであるが,原告らの主張を精査しても,その主張の中心は,Nらが証言した石綿含有材の全面使用禁止の時期について論難するものであって,そもそも,この火受けに代替品として石綿を含まない製品を使用することができるのかどうかについての具体的主張はないから,主張自体失当といわざるを得ない。 イなお,被告は,昭和45年にすでに石綿製品はごく例外的な場合を除いては全面使用禁止になったと主張し,これに沿う証拠(乙10・11・13,証人N・同O)も存する。しかしながら,これらは陳述書ないし証人の供述であって,一方,石綿製品の使用に関する客観的な資料(甲36の7,乙8・9)からは,①昭和35年ころから石綿の有害性,人体保護対策に関する調査研究及び代替品の研究開発を開始したこと,②その結果,昭和45年,それ以降に建造される全ての艦船並びに陸上施設に対する石綿の使用は全面的に禁止されたこと,③昭和46年2月9日付けの海軍艦隊指図書において,アスベストを含む断熱材/資材の組立,据付,もしくは除去についての記載が相当詳細になされていること,④アスベスト対策として,昭和54年ころ,米海軍作戦本部長の通達等に基づいて換気装置,シャワールーム,更衣室が完備された特別作業場がボイラー,パイプ,機械の3工場内に新設されたこと,⑤昭和55年11月1日に作成された作業手順書において,石綿材の撤去,取り付け,加工の作業手順が記載されていることが認められる(なお,証人Nによれば,昭和50年前後の段階で,一般安全規則と防火規則の中に,火気作業の場合に火災を起こすことを防ぐために石綿材を使うようと書いてあったので,これを削除したとの事実も認められる。)。 以上の事実によれば,米軍は,石綿製品の使用を制限することを念頭に置いた対策を一応は検討していたということがで ぐために石綿材を使うようと書いてあったので,これを削除したとの事実も認められる。)。 以上の事実によれば,米軍は,石綿製品の使用を制限することを念頭に置いた対策を一応は検討していたということができ,この点では米軍の石綿対策を一定程度評価することができるとしても,一方で,昭和45年以降も石綿製品の組立てや据付け,加工の作業が相当程度行われることを前提としてさまざまな規定や設備も整えていたのであって,到底,昭和45年の時点において,石綿製品がごく例外的な場合を除いては全面使用禁止となったとの事実を認めることはできない。 したがって,昭和45年以降についても,ごく一部の,どうしても石綿を使用しなければならなかった場面における例外的な石綿対策のみを検討すれば安全配慮義務を尽くしていたということができるわけではなく,以下に検討するような,作業全般における石綿対策について安全配慮義務を尽くしていたかどうかという観点から,本件を検討する必要があるというべきである。 (4) ③散水・噴霧の指導監督義務違反についてまず,作業前や作業中に散水や噴霧などの湿化対策を行うことが,粉じんの発生を防止ないし抑制するために有効な手段のひとつであることは,証拠(甲6・13・14)及び昭和22年の労働安全衛生規則に注水に関する規定があること(175条),指令②,指令⑤等からも窺われるから(石綿肺に関する知見についての前記認定によれば,その知見が確立する以前から湿化対策が粉じん一般に対する対策として有効であったことが窺われるが,石綿肺に関する知見が確立したというべき昭和30年代前半ころ以降はなおさらである。),米軍は,安全配慮義務の一内容として,粉じん作業前や作業中の散水・噴霧を行うよう従業員を指導監督する義務を負っていたということができる。もっとも,散水・噴 和30年代前半ころ以降はなおさらである。),米軍は,安全配慮義務の一内容として,粉じん作業前や作業中の散水・噴霧を行うよう従業員を指導監督する義務を負っていたということができる。もっとも,散水・噴霧等の湿化が水気を伴う以上,これができない作業場所ないし作業内容があることも考えられるから,その意味で,この義務は,散水・噴霧等の湿化対策をとることが可能であった作業場所ないし作業内容についてのみ問題とされるべきである(昭和22年の労働安全衛生規則175条ただし書もその趣旨と思われる。)。 そして,証拠(甲43・45・46・53,原告K)によれば,①原告Dとしては,X-99では,昭和57,8年ころから,ボイラー室で水をまくために水のパイプをつけるようになったと認識していること,②原告Eとしては,X-41Lにおいては,工場内作業では昭和45年ころから霧吹きで湿らせていたが,船内の作業では散水・噴霧は行われていなかったと認識していること,③原告Hとしては,ラギング壊しが社外工の仕事となった昭和56,7年ころから散水が行われるようになったと認識していること,④原告Kとしては,昭和50年代に石綿を使うときには必ず水をまけと言われたと認識していることが認められるが(これら原告らの認識は,工場内作業と船内作業とが区別され,これと噴霧の事実とが結びつけられていること,ラギング壊しが社外工の仕事となった時期と散水の事実及び時期とが結びつけられていること,散水用のパイプの設置という視覚的・印象的な変化と散水の事実及び時期とが結びつけられている供述が多いことに照らすと,一応信用することができる。),それ以前の散水・噴霧の事実を具体的に窺い知ることのできる客観的な資料はない(散水・噴霧に関する一般的な規定としては前記の各指令があるが,その指令どおりに散水・噴 と,一応信用することができる。),それ以前の散水・噴霧の事実を具体的に窺い知ることのできる客観的な資料はない(散水・噴霧に関する一般的な規定としては前記の各指令があるが,その指令どおりに散水・噴霧されていたかどうかはやはり明らかでないし,散水・噴霧に使用する機器の存在も定かではない。)。 もっとも,散水・噴霧は従業員が行うべきものであるから,散水・噴霧の指導監督義務違反をいう点は,従業員に対するじん肺教育義務違反の有無において検討するのが相当である。 (5) ④通気システム設置義務違反についてまず,局所排気装置等の通気システムの設置が,発生した粉じんが作業現場に滞留することを防止するために有効な手段のひとつであることは,証拠(甲2・6・13・14)及び昭和22年の労働安全衛生規則に局所排気装置による換気に関する規定があること(173条),指令②,指令③,指令⑤等からも窺われるから(石綿肺に関する知見についての前記認定によれば,その知見が確立する以前から,通気システムの設置が粉じん一般に対する対策として有効であったことが窺われるが,石綿肺に関する知見が確立したというべき昭和30年代前半ころ以降はなおさらである。),米軍は,安全配慮義務の一内容として,局所排気装置等による合理的な通気システム等の実現を図る義務を負っていたということができる。 そして,証拠(甲39・127,証人N)によれば,昭和48年にSRFのC-353(安全課)に安全技師兼安全課長として赴任したNは,同課に着任した当時,すでにX-60に局所排気装置があったが(このことは,弁論の全趣旨によれば,原告らも争わないものと認められる。),それらは集じん装置なしで使っていたと認識していること,昭和58年2月23日付けの横須賀労働基準監督署労働基準監督官名義の「指導票 とは,弁論の全趣旨によれば,原告らも争わないものと認められる。),それらは集じん装置なしで使っていたと認識していること,昭和58年2月23日付けの横須賀労働基準監督署労働基準監督官名義の「指導票」と題する書面で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所長あてに,①粉じんを発生する職場について環境,設備,作業方法等の見直し,点検を全面的に行うこと,②局所排気装置は排気能力,フード,ブースの形態等,充分有効な設計のもとに設置すること等の改善措置を命じたことが認められる。 ここでは,昭和58年に至ってまで局所排気装置の再検討を促す指導がなされたことも問題であるが,そもそも,証拠(甲6・33)によれば,集じん装置は,局所排気装置によって捕集した粉じんを他へ拡散しないようにするための装置であるから,集じん装置なしに局所排気装置を使用したとしても,捕集した粉じんを再び他へまき散らすことになるだけであって,到底有効な粉じん対策とはいうことはできない。証拠(甲46・53,原告A)によれば,原告A,同D,同Eは,ブロアーを暑さをしのぐために外から吸気したり,ほこりを吹き飛ばすために排気したりして使っていたとのことであるが,このような従業員の認識は,局所排気装置を集じん装置なしに使用していたこととあわせて,実際には局所排気装置等の通気システムが有効な粉じん対策として使用されていなかったことの証左ということができる(なお,乙13によれば,局所排気装置の使用が徹底されたのは昭和45年とのことであるが,少なくとも集じん装置との関係については,前記認定を覆すものではない。)。 以上によれば,MとNとで認識の異なるHEPAFILTERの導入時期の問題以前に(なお,証拠(乙13,証人N)によれば,Mは昭和45年との認識であり,Nは昭和53年との認識であって,被告は前 。 以上によれば,MとNとで認識の異なるHEPAFILTERの導入時期の問題以前に(なお,証拠(乙13,証人N)によれば,Mは昭和45年との認識であり,Nは昭和53年との認識であって,被告は前者を主張している。),米海軍横須賀基地においては,昭和48年の時点で通気システムの設置等による粉じん対策が不充分であったことが認められる。 (6) ⑤保護具等の支給及び装着指導監督義務・作業現場の清掃義務違反についてまず,防護衣,防じんマスク等の保護具が,従業員の粉じん吸入防止に有効な手段のひとつであることは,証拠(甲2・5ないし7・12ないし14)及び昭和22年の労働安全衛生規則に防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具に関する規定があること(181条),指令②ないし⑤等からも窺われるから(石綿肺に関する知見についての前記認定によれば,その知見が確立する以前から,保護具等の装着が粉じん一般に対する対策として有効であったことが窺われるが,石綿肺に関する知見が確立した以降はなおさらである。),米軍は,安全配慮義務の一内容として,防護衣,防じんマスク等の保護具を整備し(支給に限定することまでは要求すべきでない。),作業の際これを装着するよう指導監督する義務を負っていたということができる。 ア防護衣については,証拠(甲46ないし48・126,証人N,原告E・同H)によれば,煙管服(カバーオール)が昭和36年11月に約300着購入されて以降,貸し出されており,昭和49年9月の段階で,これがX-60管轄下に600着(うちX-41に161着)あったこと,NがSRFの安全課に着任した昭和48年当時,これ以外の作業服は従業員の個人負担であって支給されることはなかったこと,アスベスト・コントロール計画発足後の昭和53年11月ころから,紙製の使い捨ての煙管服が支 の安全課に着任した昭和48年当時,これ以外の作業服は従業員の個人負担であって支給されることはなかったこと,アスベスト・コントロール計画発足後の昭和53年11月ころから,紙製の使い捨ての煙管服が支給されるようになったことが認められる。 ところで,証拠(甲126)によれば,昭和36年11月以降に貸し出されていた煙管服は,①船底のさび落とし作業,②ボイラー管室作業,③リガー太径ワイヤーの油塗作業,④船底汚水汲取作業,⑤機械室の油汚れ作業,⑥エポキシ流し作業等の場合に貸し出されるとの基準があるところ,貸出基準がこれらの作業内容の場合に限定されていることに鑑みると,この煙管服は汚れのひどい作業に従事する従業員のための作業服というべきであって,特に石綿対策のために貸与されていた防護衣とは認められない。なお,乙13によれば,昭和43年以降,作業服について,現場から上がる毎に新しいものに着替えろとの指示があったとのことであり,仮にそれが事実であるとすれば,作業服の管理の仕方如何によっては(例えば,甲6にあるように,作業服としては表面のなめらかな生地のものを用い,各人専用とするものとし,更衣場を作業場から区画した場所に設け,作業服と通勤用の服とを別々のロッカーに入れることとし,更衣場には,石綿粉じんが侵入しないように湿らせたマットとともに衣服用ブラシを整え,更衣場には付着物を除去してから入ることとするなどの管理をすることが相当である。),特に石綿対策用の防護衣を貸与していたのでなくとも石綿対策はとられていたということができるが,そもそもこのような指示があったことや,作業服の管理の仕方が充分であったかどうかを窺い知ることのできる客観的な資料はない。また,乙13によれば,昭和44年ころ,石綿に対する規制として,防具未着用取締/違反摘発及び懲戒処分検討期 たことや,作業服の管理の仕方が充分であったかどうかを窺い知ることのできる客観的な資料はない。また,乙13によれば,昭和44年ころ,石綿に対する規制として,防具未着用取締/違反摘発及び懲戒処分検討期間を設けたとのことであるが,被告の主張立証を精査しても,ここにいう防具には防護衣も含むのかどうかが不明である上,懲戒処分を伴う厳格な取締りを実施したというにもかかわらず,その実施を裏付ける客観的な資料はない。 そして,前記認定事実によれば,昭和53年11月ころから,使い捨ての煙管服が整備されたのは,そのころ発足したアスベスト・コントロール計画と関係があることが認められ,また,この煙管服が使い捨てとされているのは,一般に防護衣の着脱や作業後に石綿の付着した防護衣の処理には手間がかかると思われるところ,これを省くことで従業員の防護衣着用率を高めるためと推察することができるから,石綿対策専用の防護衣は,このころになって初めて整備されるようになったものと認められる。 そうすると,米海軍横須賀基地においては,昭和53年11月以前には石綿対策用の防護衣が整備されてはいなかったことが認められる。 イ粉じん対策のマスクについては,証拠(甲46ないし48,証人N,原告H)によれば,①エアラインマスクは,ホースが非常に長くて使いにくいものであり,特に狭い軍艦内では使えるようなものではなかったこと,②防じんマスクは,X-60に備え付けられ貸し出されていたこと(原告らはこの点につき客観的な証拠はないと主張するが,複数の原告ら自身がX-60から防じんマスクを借りたことがある旨述べているのであるから,防じんマスク備付けの事実は認められるというべきである。),③昭和53年11月のアスベスト・コントロール計画発足後,石綿対策として紙マスクが使用されたことが認められる がある旨述べているのであるから,防じんマスク備付けの事実は認められるというべきである。),③昭和53年11月のアスベスト・コントロール計画発足後,石綿対策として紙マスクが使用されたことが認められる(なお,紙マスクについては,特段の督励もなく,作業者が素直に着用したことについて原告らは争わない。)。 ところで,エアラインマスクが使いにくいものであったとしても,防じんマスクが充実していれば石綿対策としては問題がないというべきであるところ,原告らは,防じんマスクをすると呼吸が苦しく,フィルターも詰まって使い物にならなかったと主張する。また,従業員の中には,じゃまであるとか,息苦しいとか,外国製であるために顔に合わないなどといった苦情を述べて防じんマスクの着用を嫌がる従業員がいたこと,そのような苦情を述べて防じんマスクの着用を拒否する従業員が昭和20年代後半から昭和50年代になってもまだいたことについては,当事者間に争いがない。そうすると,当時,米海軍横須賀基地において貸し出されていた防じんマスクの型番や性能についての客観的な資料はないものの,これらの苦情は原告らに特有のものであったわけではないというべきであるから,防じんマスクの性能は,実際の作業者の作業感覚及び作業経験からみて適切なものではなかったものと推認することができる(なお,防じんマスクの装着指導監督義務違反をいう点については,従業員に対するじん肺教育義務違反の有無において検討するのが相当である。)。 ウ作業後の現場の清掃義務をいう点については,証拠(甲36の1・47)によると,昭和50年代半ば以降にはなされるようになったことが窺われるが,それ以前には行われていたかどうかに関する客観的な資料はない。もっとも,清掃作業は従業員が行うべきものであるから,従業員に対するじん肺教育義務違 年代半ば以降にはなされるようになったことが窺われるが,それ以前には行われていたかどうかに関する客観的な資料はない。もっとも,清掃作業は従業員が行うべきものであるから,従業員に対するじん肺教育義務違反の有無において検討するのが相当である。 (7) ⑥混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反についてまず,第3章第3から窺われるじん肺・石綿肺の特徴,じん肺症の重大性に照らすと,粉じん作業と非粉じん作業とを混在させること,あるいは粉じん作業を密閉化された空間の中で行わないことが,非粉じん作業に従事する従業員のじん肺罹患を招く危険性があることは明らかというべきであり,このことは,指令②,⑤等からも窺われるから,米軍は,安全配慮義務の一内容として,粉じん作業と非粉じん作業との混在化を避け,粉じん作業を密閉化された空間の中で隔離して行うようにする義務を負っていたということができる。 そして,証拠(甲36の3・36の5・36の7・43・46,証人N,原告H)によれば,①昭和54年9月以降に,換気装置,シャワールーム,更衣室等が完備された石綿作業用の特別作業場がボイラー,パイプ,機械の3工場内に新設されたこと(この点,原告Eはこれらが新設された時期について昭和50年ころと認識していることが認められるが,その時期については他の証拠と明らかに齟齬する。),②昭和55年の時点で,造船や艦船修理工事はもっとも混雑する仕事のひとつで,同一作業現場に異なった業種の従業員たちとそれぞれに異なった材料や工具類が入り乱れることが指摘されていること,③昭和55年4月に実施された従業員協議会の中で,石綿粉じん作業である艦内防熱作業が,何らの事前通知なく他工場員らによって行われているときがあり,その場合,やむなく何らの防護装備もせずに自分の仕事をしなければ 4月に実施された従業員協議会の中で,石綿粉じん作業である艦内防熱作業が,何らの事前通知なく他工場員らによって行われているときがあり,その場合,やむなく何らの防護装備もせずに自分の仕事をしなければならないことが問題視され,Q大佐にその善処方を求めたこと,④R大尉は,昭和55年にUSSノックスの基本設計点検工事を担当したときにアスベスト断熱材の取外し手続の不備を体験し,この体験をもとに,昭和57年11月から開始されたUSSカークの基本設計点検工事以前に,アスベスト作業の改善について勧告と提案をしたこと,⑤昭和57年当時においても,請負工事従業員が深夜を通じて作業を継続する数日間,夜間の監視の必要性が当初から言われてきたが実現には至っていなかったこと,⑥Nの認識によっても,例えば,石綿をはがす際にパイプをはずす場合には,石綿作業をする従業員とパイプ工とが共同作業で行う必要があったことが認められる。そうすると,昭和50年代半ばに至っても,混在作業の禁止が実現されてはいなかったことが認められる。 以上の事実及び証拠(甲43・45ないし51・53・54,原告A・同B・同C・同D・同E・同H・同I・同K)並びにこれらの証拠の体験に基づく供述内容の具体性によれば,実際に,概略次のような混在作業がなされていたこと,よって,石綿粉じんを発する作業場の密閉隔離化も行われていなかったことが認められる。 ① X-41BやX-38Mの従業員は,修理船内でのボイラー修理,タービン修理,バルブ・パイプの修理の前工程である断熱材はがしにおいて,本来の断熱材取扱い部署であるX-41Lの従業員の作業を手伝い,実質的には共同作業として行っていたことがあった。 ② X-41Lの従業員は,X-41Bの修理船内でのボイラー修理の進展具合に合わせつつ,ボイラー室内で,炉内の石 X-41Lの従業員の作業を手伝い,実質的には共同作業として行っていたことがあった。 ② X-41Lの従業員は,X-41Bの修理船内でのボイラー修理の進展具合に合わせつつ,ボイラー室内で,炉内の石綿を使用した耐火,断熱材を撤去しその取り替え作業をしていたことがあった。 ③ X-41Bの工場はX-41Lと共通の建物であり,工場内においては,X-41Bの従業員が,X-41Lの仕事である石綿布団作り(断熱材として使用する石綿を切断し,縫合する等の作業)を手伝うこともあった。 ④ X-17の従業員は,空調,通風関係のダクト,油圧扉等の扉等の作成,修理,取付け等を行う際,(X-41Lの従業員の断熱材はがしの作業中あるいは作業後の)粉じんの舞うボイラー室等で作業をすることもあった。 ⑤ X-26の従業員は,X-41Lの従業員が断熱材をはがした直後の室内で溶接を行ったり,ときには傍らで断熱材はがしが行われている中で溶接作業をすることもあった。 ⑥ X-11の従業員は,X-26の従業員が石綿布の火受けを使用して溶断作業をしている傍らで,部品の仮溶接作業をしていたことがあった。 ⑦ X-99の従業員は,ボイラー室でパイプ作業や防熱作業が行われている時に,作業のためのユーティリティーを供給するためボイラー室の中にたびたび行き,ボイラー室のケーシングを削って壊す作業と並行してパイプ取り付け作業をしたことがあった。 ⑧ CFAYのOPSの従業員は,ボート等の修理を行う際,石綿布の火受けを使用する溶接作業や断熱材はがしを伴う機関室内の修理作業と並行して作業をしたことがあった。 (8) ⑦従業員に対するじん肺教育義務違反についてまず,第3章第3から窺われるじん肺・石綿肺の特徴,じん肺症の重大性に照らすと,従業員に対してじん肺の原因,症状などの医学的知見,予防 た。 (8) ⑦従業員に対するじん肺教育義務違反についてまず,第3章第3から窺われるじん肺・石綿肺の特徴,じん肺症の重大性に照らすと,従業員に対してじん肺の原因,症状などの医学的知見,予防方法について充分な教育を行い,じん肺防止対策の重要性を認識させることが重要であることは明らかというべきであるから,米軍は,安全配慮義務の一内容として,これらの教育をする義務を負っていたということができる。 ここで,証拠(甲36の1・117)によれば,昭和53年11月のアスベスト・コントロール計画の発足に伴い,昭和53年11月7日,アスベスト対策に関する指導訓練の第1回訓練コースが開講されたことが認められる。また,被告は,指令①が日米両文でそれぞれポケットサイズで製本され,SRFの全従業員に対して配布されたと主張しており,その性質及び乙17の体裁上,指令④についても同様の主張をするものと解されるが,証拠(原告H)及び弁論の全趣旨によれば,原告らはこの点について特に争うものではないと認められる。 そして,被告は,昭和30年代には,毎月1回程度開催される安全対策会議や安全衛生委員会の結果を各工場主任が従業員に指示・命令したり,定期的に映画を上映したり,昭和40年代には毎週1回のスタンド・アップ安全朝礼を実施したりしており,安全対策教育は充分になされていたと主張し,これに沿う証拠も存する(乙10・11,証人N・同O)。 しかしながら,安全対策会議の点を除き,これらに関する客観的な資料あるいは原告ら自らもその存在を認めている供述はない上(安全対策会議については原告Hの供述がある。),甲36の7においてNがSRFの安全衛生管理を振り返った原稿の中で,被告主張のような昭和30年代,40年代の特徴ある安全対策教育が一切記載されていないのも不自然であり いては原告Hの供述がある。),甲36の7においてNがSRFの安全衛生管理を振り返った原稿の中で,被告主張のような昭和30年代,40年代の特徴ある安全対策教育が一切記載されていないのも不自然であり,さらに,証拠(証人O)によれば,CFAYの人事部安全課に勤務していたOは,CFAYでは主としてじん肺の教育は行っていたが,アスベストに対する教育はやっていなかったし,安全規則には石綿粉じんのことは書かれていなかったと認識していることが認められる。 仮に,充分な昭和30年代から安全対策教育がなされていたのであれば,従業員が,①石綿作業前あるいは作業中に散水・噴霧を実施しなかったり,②石綿作業中に,局所排気装置を集じん装置なしに使用したり,局所排気装置を暑さ対策で扇風機代わりに用いたり,③苦しいからといって防じんマスクの装着を拒んだり,④従業員が自分の作業と石綿作業との混在作業を受け入れることがいずれも自らの健康ないし生命にとって極めて危険で無謀な行為であることは充分に承知しているはずであるから,これらの事実が認められるはずはないというべきところ,実際には前記認定のようにこれらの事実が認められることに照らすと,米軍の従業員に対するじん肺教育は,仮にそれがなされていたとしても充分なものではなかったものと認められる。 なお,前記各義務違反について,教育義務違反の項目で検討するのが相当としたもののうち,①散水・噴霧の指導監督義務違反については,前記認定事実によれば,昭和45年ころ以前の米海軍横須賀基地においては,作業前あるいは作業中の散水・噴霧の実施は少なくとも日常的なものではなかったのではないかとの疑問があるというべきであるところ,このことは,じん肺教育全般の不充分さに関する前記認定に照らすとより真実味を帯びるというべきであって,しかもその 少なくとも日常的なものではなかったのではないかとの疑問があるというべきであるところ,このことは,じん肺教育全般の不充分さに関する前記認定に照らすとより真実味を帯びるというべきであって,しかもその原因は米軍の従業員に対するじん肺教育の不充分さにあるということができるから,米軍は,従業員に対する散水・噴霧の指導監督義務を充分に尽くしていなかったものと認められる(なお,原告らは,原告Eの記憶が5年ほど古い方へずれていることを指摘するが,この点を検討するまでもなく,石綿肺に関する知見が確立したというべき昭和30年代前半ころ以降においてこの義務違反があったとの認定を左右するものではない。)。②また,防じんマスクの装着指導監督義務違反については,従業員が防じんマスクの装着を拒んだ原因が,やはり従業員に対するじん肺教育の不充分さにあるということができるから,米軍は,従業員に対する防じんマスクの装着指導監督義務を充分に尽くしていなかったものと認められる。③さらに,作業後の現場の清掃に関する指導監督義務違反については,昭和50年代半ば以前にはきちんと実施されていなかったのではないかとの疑問があるというべきであるところ,このことは,じん肺教育全般の不充分さに関する前記認定に照らすとより真実味を帯びるというべきであって,しかもその原因は米軍の従業員に対するじん肺教育の不充分さにあるということができるから,米軍は,従業員に対する作業後の現場の清掃に関する指導監督義務を充分に尽くしていなかったものと認められる。 (9) ⑧健康診断等の実施義務違反について従業員に健康診断,じん肺検診を定期的に実施し,じん肺患者の早期発見,早期治療,健康管理に努め,じん肺所見の認められた者には診断結果を通知して健康管理の必要性を認識させることが重要であることは,じん肺法 員に健康診断,じん肺検診を定期的に実施し,じん肺患者の早期発見,早期治療,健康管理に努め,じん肺所見の認められた者には診断結果を通知して健康管理の必要性を認識させることが重要であることは,じん肺法,特化則の規定に照らして明らかであるから,米軍は,これらを実施する義務を負っていたということができる。 そして,米軍が,昭和46年4月に制定された特化則に定められた石綿健康診断を昭和57年秋まで怠っていたことは,当事者間に争いがない。また,証拠(甲35・37・38・41・42・47・48・125,証人N)によれば,以下の事実が認められる。 ① 常時粉じん作業に従事する労働者に対して実施される3年に1度のじん肺検診(じん肺法8条1項1号)は,米海軍横須賀基地においては昭和40年度,43年度,46年度,49年度,52年度,55年度,58年度,61年度にそれぞれ実施された。 ② X-41/81には,昭和43年度にはじん肺検診受診者がいたが(受診者数は不明であるが,この年はX-26とあわせて445名が受診している。),昭和46年度には受診者がひとりもいなくなっている。 ③ X-31には,昭和49年度にじん肺検診受診者が5名いたが,昭和52年度には受診者がひとりもいなくなっている。 ④ X-68には,昭和49年度にじん肺検診受診者が31名いたが,昭和52年度には受診者がひとりもいなくなっている。 ⑤ 昭和55年度のじん肺検診においては,昭和52年度のじん肺検診と比較して対象部署は4倍以上,対象人員は2倍近くに増えており,昭和58年度のじん肺検診においては,対象部署がさらにおよそ1.5倍,対象人員がさらにほぼ2倍に増えている。 ⑥ 昭和49年度・昭和52年度のじん肺検診実施部署は,X-23/81(鍛造・鋳物工場),X-31(機械・旋盤取扱い工場),X-6 部署がさらにおよそ1.5倍,対象人員がさらにほぼ2倍に増えている。 ⑥ 昭和49年度・昭和52年度のじん肺検診実施部署は,X-23/81(鍛造・鋳物工場),X-31(機械・旋盤取扱い工場),X-68(木材工場),X-71(塗装工場),X-26,X-41(L)であった。 ⑦ 少なくとも昭和52年度までは,SRFにおけるじん肺検診は,受診希望者にのみ実施されていた(例えば昭和49年度の希望者は183人)。 ⑧ SRFのX-23/81,X-26,X-31,X-41L,X-68,X-71の昭和49年当時の全人員は,約350ないし400名であった。 ⑨ CFAYのOPSにおいては,昭和61年度までの間では,昭和49年度にじん肺検診受診者が1名いたのが最初で最後である。 ⑩ NSDにおいては,昭和61年度までの間では,じん肺検診受診者がひとりもいなかった。 ⑪ 昭和57年3月17日付けの横須賀労働基準監督署長作成名義の「じん肺健康診断の実施について」と題する書面で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所長あてに,同月3日の監督実施の結果,次の各項の法違反が認められることから,早急に事務体制を確立して今後再び違反が発生しないようにすることを内容とする措置勧告が発せられた。 (a) 常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理2または管理3であるものについて,1年以内ごとに1回の定期じん肺健康診断を昭和54年,昭和56年に実施しなかったこと(じん肺法8条違反)(b) じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者のX線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等を遅滞なく神奈川労働基準局長に提出しなかったこと(同法12条違反)(c) 昭和53年のじん肺診断の結果,管理3イ等に該当する労働者について就業場所を変更する等の措置を講ずるよ 結果を証明する書面等を遅滞なく神奈川労働基準局長に提出しなかったこと(同法12条違反)(c) 昭和53年のじん肺診断の結果,管理3イ等に該当する労働者について就業場所を変更する等の措置を講ずるよう努めなかったこと(同法20条の3違反)⑫ 昭和57年4月3日付けの神奈川労働基準局長名義の「横須賀米軍基地駐留軍労務者に係るじん肺健康診断の実施等について」と題する書面で,神奈川県渉外部長あてに,⑪の勧告書面を引用して,対象労働者の健康管理に係る法定基準の確保を期すよう要請がなされた。 以上の事実によれば,少なくとも昭和52年度までは,SRFにおいては希望者にしかじん肺健康診断を受診させていなかったこと(例えば昭和49年度についてみると,健康診断該当部署の全人員の約半数しか受診していない。),昭和52年度までは,SRFにおいては特に石綿と関連性のある部署ではなく,金属ヒューム,木材粉じん等と関連性のある部署の従業員の受診が多かったこと,前記混在作業に関する認定のように,石綿ばく露との関連性があったSRFのX-11,X-17,X-38M,X-41B,X-99の各部署の従業員,CFAYのOPSの従業員がじん肺検診を受診していなかったこと,昭和57年になってもじん肺健康診断の実施方法について問題点を指摘されることがあったことが認められるところ,これらの事実と,前記のように米軍が特化則に定められた石綿健康診断を昭和57年秋まで怠っていたこととに照らすと,米海軍横須賀基地においては,全体として石綿肺を意識したじん肺検診の実施体制が確立されていなかったどころか,むしろ石綿肺に関する対策が極めて不充分であったと認められる。 (10) 結論以上によれば,米軍においては,石綿肺に関する知見が確立する前後からすでに種々の指令(指令①ないし⑮)が出されてい ろか,むしろ石綿肺に関する対策が極めて不充分であったと認められる。 (10) 結論以上によれば,米軍においては,石綿肺に関する知見が確立する前後からすでに種々の指令(指令①ないし⑮)が出されていたにもかかわらず,その指令の運用場面においては,実際には,散水・噴霧の指導監督義務違反,通気システム設置義務違反,保護具等の整備義務違反,混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反,従業員に対するじん肺教育義務違反,健康診断等の実施義務違反で検討したような石綿対策の不充分さが認められるのであるから,米軍は,これらの点について安全配慮義務を充分に尽くしていなかったものと認められる。 4 被告の安全配慮義務違反の有無(1) 次に,前記認定のように米軍に安全配慮義務違反があり,その結果,原告らに危害が生じたとしても,被告が対策推進義務を尽くしていれば被告は安全配慮義務違反に基づく責任を負わないというべきであるから,被告がその安全配慮義務を尽くしていたかどうかを検討する。 (2) まず,証拠(乙1,4ないし6)によれば,次の事実が認められる。 ① 被告は,けい特法について,米軍との間で,同法に規定する3年または1年ごとのけい肺健康診断及び雇用前の健康診断を行うことを盛り込んだ基本労務契約を昭和32年9月18日に締結した。 ② 被告は,旧じん肺法について,米軍との間で,同法に規定する3年または1年ごとのじん肺健康診断を行うこと,同健康診断に当たってはX線検査,従業員の職歴の調査,胸部の臨床検査等を実施すること,雇用前の健康診断を行うこと,旧じん肺法21条に規定する転換手当を支給すること等を盛り込んだ基本労務契約附属協定第56号を昭和36年11月27日に締結した。 ③ 被告は,労働安全衛生規則及び特化則について,米軍との間で,労働安全衛生規則 1条に規定する転換手当を支給すること等を盛り込んだ基本労務契約附属協定第56号を昭和36年11月27日に締結した。 ③ 被告は,労働安全衛生規則及び特化則について,米軍との間で,労働安全衛生規則に規定する1年または半年ごとの定期健康診断を行うこと,特化則39条に規定する各種の健康診断を行うこと等を盛り込んだ基本労務契約附属協定第293号を昭和50年12月9日に締結した。 ④ 被告は,改正じん肺法について,米軍との間で,離職時健康診断の規定を追加すること,肺結核以外の合併症にかかっている疑いがあると診断された者について合併症に関する検査を行うこと等,同法の改正後の関係規定を盛り込んだ基本労務契約附属協定第333号を昭和53年10月11日に締結した。 (3) 確かに,このように,従前の労務契約内容について,これを我が国の法令に沿った労務契約内容とするよう米軍に申入れをすることは,地位協定12条5項の趣旨に照らして必要なことではあるが,これらをもって被告が安全配慮義務を尽くしたものということはできない。前記判断のように,被告は,雇用者として,また地位協定締結当事者として,米海軍横須賀基地内における個々の作業内容や粉じん対策を積極的に詳細に把握すべき立場にあるというべきであるから,被告は,米軍が対策実施義務を充分に尽くしているかどうかを不断に調査・監視し,必要な措置を講ずるよう働きかける義務があるというべきである。 この観点から本件についてみると,証拠(甲37ないし40,乙2・3)によれば,被告が米軍の安全配慮義務違反について必要な措置を講ずるよう働きかけた例として,以下のような事実が認められる(以下,これらを「要請」といい,個別に引用するときはこれに付した番号で表示する。)。 ① 被告は,昭和45年7月6日付けの防衛施設庁労務部長作成名 働きかけた例として,以下のような事実が認められる(以下,これらを「要請」といい,個別に引用するときはこれに付した番号で表示する。)。 ① 被告は,昭和45年7月6日付けの防衛施設庁労務部長作成名義の「基地内における安全対策について」と題する書面で,昭和45年1月から同年6月までの間に米海軍横須賀基地等数か所で発生した業務上等の重大事故(死亡5件,重傷2件)を機になされた要請で,①基地内における安全対策(災害防止)を強化するため,基地内日本人従業員安全委員会を活用し,災害防止の高揚をはかること,②基地内日本人従業員安全委員会に日本側労務管理機関の長をオブザーバーとして出席させ,雇用主の立場から意見を述べる機会を与えるとともに,両当事者が一体となって災害防止に万全を期すること,③人員整理等による人員不足及び緊急作業を理由に安全規則を無視した就労をさせないよう,米軍監督者及び従業員に対する安全教育その他の災害防止に関する諸訓練を強化実施すること,④業務上の重大事故が発生した場合は,直ちに日本側労務機関及び日本側監督機関の係官と米軍安全担当官との共同調査が実施できるよう最大限の便宜を図ることを要請した。 ② 被告は,昭和50年9月16日付けの防衛施設庁労務部長作成名義の「有害物質の取扱い業務に従事する駐留軍従業員の安全管理について」と題する書面で,昭和50年8月12日に米軍牧港補給地区において六価クロムを含む洗浄溶液の廃液の一部が海岸沿いに流出した事故に関連して,①調査協力,②駐留軍従業員の安全確保のため措置,③有害物質を取り扱う業務の有無の調査報告及び安全確保措置を要請した。 ③ 昭和57年3月17日付けの横須賀労働基準監督署長作成名義の「じん肺健康診断の実施について」と題する書面で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所長あてに,同月3 査報告及び安全確保措置を要請した。 ③ 昭和57年3月17日付けの横須賀労働基準監督署長作成名義の「じん肺健康診断の実施について」と題する書面で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所長あてに,同月3日の監督実施の結果,次の各項の法違反が認められることから,早急に事務体制を確立して今後再び違反が発生しないようにすることを内容とする措置勧告を発した。 (a) 常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理2または管理3であるものについて,1年以内ごとに1回の定期じん肺健康診断を昭和54年,昭和56年に実施しなかったこと(じん肺法8条違反)(b) じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者のX線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等を遅滞なく神奈川労働基準局長に提出しなかったこと(同法12条違反)(c) 昭和53年のじん肺診断の結果,管理3イ等に該当する労働者について就業場所を変更する等の措置を講ずるよう努めなかったこと(同法20条の3違反)④ 昭和57年4月3日付けの神奈川労働基準局長名義の「横須賀米軍基地駐留軍労務者に係るじん肺健康診断の実施等について」と題する書面で,神奈川県渉外部長あてに,③の勧告書面を引用して対象労働者の健康管理に係る法定基準の確保を期すよう要請した。 ⑤ 昭和58年2月23日付けの横須賀労働基準監督署労働基準監督官名義の「指導票」と題する書面で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所長あてに,次の事項を含む改善措置を命じた。 (a) 粉じんを発生する職場について環境,設備,作業方法等の見直し,点検を全面的に行うこと(b) 局所排気装置は排気能力,フード,ブースの形態等,充分有効な設計のもとに設置すること⑥ 昭和58年2月23日付けの横須賀労働基準監督署労働基準監督官名義の「是正勧 検を全面的に行うこと(b) 局所排気装置は排気能力,フード,ブースの形態等,充分有効な設計のもとに設置すること⑥ 昭和58年2月23日付けの横須賀労働基準監督署労働基準監督官名義の「是正勧告書」と題する書面で,神奈川県横須賀渉外労務管理事務所長あてに,次の事項を含む是正勧告をした。 (a) 研削砥石による金属の動力研磨機及び動力切断機について鉱物性粉じんを吸引する局所排気装置を設置していないこと(労安法22条,粉じん規則4条)(b) 上記作業者,屋内でのアーク溶接作業者,鋳物作業従事者ら粉じん作業に従事する労働者に有効な呼吸用保護具を使用させていないこと(労安法22条,粉じん規則27条)(4) しかしながら,前記認定のように,米軍の安全配慮義務違反は,石綿肺に関する知見の確立したというべき昭和30年代前半以降についてみると,散水・噴霧の指導監督義務違反については少なくとも昭和45年ころ以前までの間,通気システム設置義務違反については昭和48年ころ以前までの間,保護具等の整備義務違反については昭和53年ころ以前までの間,混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反については昭和50年代半ば以前までの間,従業員に対するじん肺教育義務違反については昭和53年ころ以前までの間,健康診断等の実施義務違反については昭和57年以前までの間,それぞれ長年にわたって継続的に認められるというべきであるから,要請③ないし⑥のように,昭和57,8年に米軍に対して一定の働きかけを行ったからといって,被告が安全配慮義務を尽くしたものと即断することはできない。 もっとも,被告が自らに課された対策推進義務を履行するためには,米軍に対する不断の調査・監視が必要であること,米軍内部で対策実施義務が果たされているかどうかを不断に調査・監視することは きない。 もっとも,被告が自らに課された対策推進義務を履行するためには,米軍に対する不断の調査・監視が必要であること,米軍内部で対策実施義務が果たされているかどうかを不断に調査・監視することは,外部からの調査・監視とならざるを得ない性質上,自ずと限界もあるというべきである。 そこで案ずるに,米軍の安全配慮義務違反のうち,じん肺教育義務違反については,これを実施したことを客観的に測るものさしがないことから,せいぜい,じん肺教育の実施に際して配布された資料の提出を報告書とともに求めることくらいが限界ではないかと思料される。 一方,健康診断等の実施義務違反については,じん肺健康診断,特化則に定められた石綿健康診断がいずれも法定のものであり,その実施には被告自身も関与していることに照らすと,これらが正しく実施されているかどうかを判断することは容易であるというべきである(実際にも,昭和57年のことではあるが,じん肺健康診断の実施に関して要請③・④のような措置が講じられている。)。また,通気システム設置義務違反,保護具の整備義務違反については,少なくとも米海軍横須賀基地で使用している通気システムそのものの性能,保護具そのものの性能を客観的に調査・監視することは容易であるということができる(実際にも,昭和58年のことではあるが,局所排気装置に関して要請⑤・⑥のような措置が講じられている。)。 もっとも,通気システムの使用実態や保護具の着用に関する指導ということになると,せいぜい定期的・部分的な調査をすることが限界ではないかと思料される(実際にも,昭和58年のことではあるが,局所排気装置や防じんマスクについて要請⑤・⑥のような措置が講じられている。)。この点は,散水・噴霧の指導義務違反,混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反 も,昭和58年のことではあるが,局所排気装置や防じんマスクについて要請⑤・⑥のような措置が講じられている。)。この点は,散水・噴霧の指導義務違反,混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反についても同様であるということができる。 (5) よって,被告には,以上のような態様で米軍が対策実施義務を充分に尽くしているかどうかを不断に調査・監視し,必要な措置を講ずるよう働きかける義務があるというべきである。 しかしながら,昭和57,8年以前に,被告においてこれらの調査・監視をしたことが窺われるのは,要請①・②のほかには,証拠(甲35・41・42)によってもせいぜいじん肺健康診断の実施に関するリストを保有していたことくらいであり,また,要請①・②の内容は,いずれも具体的な事故が起こった場合に,事後的な対処として被告が米軍に対してこれらの要請をしたという内容以上のものではない。さらに,弁論の全趣旨によっても,前記じん肺健康診断の実施に関するリストすら積極的に活用した形跡が見られないことに照らすと,被告は,そもそも米海軍横須賀基地内における個々の作業内容や粉じん対策をほとんど把握していなかったということができる。このような状態では,到底,前記のような態様での不断の調査・監視をしていたということはできないし,また,必要な措置を講ずるよう働きかけることもできないというべきである。 したがって,被告は,米軍が対策実施義務を充分に尽くしているかどうかを不断に調査・監視し,必要な措置を講ずる安全配慮義務を充分に尽くしていなかったものと認められる。 第2 原告らの症状及び損害 1 原告らの症状(1) 弁論の全趣旨によれば,被告の神奈川労働基準局長は,原告らに対し,別表「区分決定通知日」記載の日にじん肺管理区分の決定通知を発送し,また,被告 原告らの症状及び損害 1 原告らの症状(1) 弁論の全趣旨によれば,被告の神奈川労働基準局長は,原告らに対し,別表「区分決定通知日」記載の日にじん肺管理区分の決定通知を発送し,また,被告の横須賀労働基準監督署長は,原告I及び亡J’を除くその余の原告らに対し,同表「労災決定通知日」記載の日に法定合併症続発性気管支炎の休業補償給付支給決定の通知を発送したことについて,当事者間に実質的な争いはないということができる(原告ら主張のじん肺管理区分決定日,労災決定日は,厳密には決定を受けた日付そのものではなく,決定通知書に記載された日付と解釈するのが合理的である。)。なお,原告C,同H,同Kについては,じん肺管理区分決定の(通知)日につき当事者間に争いがあるが,このことは,被告の自白内容に照らして少なくとも前記認定を覆すものではない(原告ら主張の日に被告が確認しているのと別の管理決定があったかどうかを証拠上確定することはできないが,原告ら主張の日に別の管理決定(通知の発送)があったかどうかによって,原告らの現在の症状の認定に影響を及ぼすものではないというべきである。)。 (2) 以上の事実と第3章第3記載のじん肺の病像ないし石綿肺の特徴に関する事実,同第4の4(7)記載のじん肺管理区分や法定合併症の決定手続に関する事実及び前記米軍の安全配慮義務違反に関する認定事実並びに証拠(甲35・41ないし43・45ないし54・63ないし73・77ないし85・99ないし116・128・133)によれば,原告らは,被告の安全配慮義務違反によって,米海軍における就労中に,米軍及び被告の安全配慮義務違反によってじん肺に罹患し,また,原告I,亡J’を除くその余の原告らは,いずれも続発性気管支炎に罹患したものと認めることができる。 この点,被告は,そ 就労中に,米軍及び被告の安全配慮義務違反によってじん肺に罹患し,また,原告I,亡J’を除くその余の原告らは,いずれも続発性気管支炎に罹患したものと認めることができる。 この点,被告は,そもそも,原告らのうち,原告D,亡F’,原告H,同I,亡J’,原告Lはじん肺に罹患していなかった可能性があると主張し,これに沿う反証を挙げる(乙12・14)。 しかしながら,じん肺法39条4項によれば,じん肺診査医は,じん肺に関し,相当の学識経験を有する医師の中から,厚生労働大臣(本件原告らの認定当時は労働大臣)が任命することとされており,じん肺の健康診断の検査項目,手順,方法等は,じん肺に関する時代の医学的水準に基づき,前記第3章第4の4(7)にその一部を記載したように,その細目が決められて正確が期されている上,じん肺の所見の有無及び管理区分の判定は,健康診断医と地方じん肺診査医の二重の診断ないし審査を受けるシステムになっているのであるから,じん肺管理区分決定手続は,全体として,専門家による綿密かつ慎重な手続を経て決定されるものというべきである。そうすると,その判定ないし管理区分決定については,高い専門性と正確性が認められるから,基本的にはこれを信頼することができるものというべきである。加えて,証拠(甲6・66・68ないし71・73・80・82・83・85・89ないし98・101ないし103・108・110ないし113・115・118ないし122・128・133,証人P)に照らすと,被告の挙げる反証(乙12・14)の内容は,例えば,原告Iの肺切除に関する所見,亡F’の悪性中皮腫に関する所見,原告Dの心陰影に関する所見について,事前あるいは事後の客観的事実から明らかな事実及びこれらから容易に推認することのできる事実と異なる所見を挙げたり 除に関する所見,亡F’の悪性中皮腫に関する所見,原告Dの心陰影に関する所見について,事前あるいは事後の客観的事実から明らかな事実及びこれらから容易に推認することのできる事実と異なる所見を挙げたり,基本的事項を見落としたりしている部分があって,全体としてその信用性は低いものといわざるを得ず,これまでの地方じん肺診査医,じん肺検診をした医師,癌研究会附属病院の臨床医,病理医その他の医師の診断結果を覆すに足りるものではない。 (3) そして,証拠(甲43・45ないし55・63ないし73・77ないし85・89ないし116・118ないし122・128・133,証人P,原告A・同B・同C・同D・同E・同H・同I・同K)によれば,原告らの症状は,原告ら主張のようなものであったと推認することができ,この認定に反する証拠はない。原告らの症状が個別に異なることはもちろんであるが,程度の差があるとはいえ,ほぼ共通の症状としては,概略,若いころは米海軍横須賀基地で肉体労働に従事していたのであるから健康であった(原告らの稼働内容からは,むしろ頑健ですらあったと推認するのが合理的である。)にもかかわらず,じん肺ないし続発性気管支炎に罹患したことにより,休憩なしに長く歩くことや,坂道あるいは階段を昇降することは非常につらい状態となり,また,せき,たんがひどくなったり風邪を引きやすくなったりしたものと推認することができる。また,個別に特筆すべき点を挙げると,①亡F’が,平成12年7月10日,石綿によるじん肺を直接の原因とする悪性胸膜中皮腫により死亡した点,②亡G’が,平成9年4月25日,石綿によるじん肺を直接の原因とする肺小細胞がんで死亡した点,③原告Iが,石綿による肺がんに罹患し,平成3年8月28日に右肺下葉を切除した点,④亡J’が,平成12年8月3日に死亡した点 年4月25日,石綿によるじん肺を直接の原因とする肺小細胞がんで死亡した点,③原告Iが,石綿による肺がんに罹患し,平成3年8月28日に右肺下葉を切除した点,④亡J’が,平成12年8月3日に死亡した点,⑤原告Kが,平成4年8月にじん肺合併症肺結核に罹患し,平成5年2月まで肺結核の治療をした点が挙げられる。 2 原告らの損害(1) 本訴請求にかかる原告らの損害の内容原告らは,本訴の請求内容を慰謝料と表示していること,明示してはいないものの,①管理2で合併症がある者(原告A・同B・同C・同D・同H・同K・同L)につき2000万円,②管理3イで合併症がある者(原告E)につき2500万円,③管理4の者(原告I・亡J’)につき3000万円(なお,亡J’につき特に請求原因の変更がなされていないのは前記のとおりである。),④じん肺を直接の原因として死亡した者(亡F’・亡G’)につき3000万円の慰謝料を類型的に請求しているものとみられること(特に,原告Kがじん肺合併症肺結核にも罹患し,その治療を受けたことがあるにもかかわらず,他の①の原告らと同額の慰謝料額を請求するにとどまっていることからも,原告らの請求が管理区分等による類型的慰謝料額の請求と推認することができる。),いずれも合併症続発性気管支炎に罹患しあるいはじん肺管理区分管理4の決定を受けて労災保険の支給を受けている(た)こと,本訴において一切の財産的損害を請求していないことに照らすと,原告らは,本訴において,被告の安全配慮義務違反により原告らに生じた全損害のうち,財産的損害の請求をすることなく,あえてその生命,身体,人格等に対する法益侵害により生じた精神的損害のみを請求しているものと解することができる。 (2) 慰謝料額の算定にあたって考慮すべき事情そうすると,原告らの慰謝料額の ,あえてその生命,身体,人格等に対する法益侵害により生じた精神的損害のみを請求しているものと解することができる。 (2) 慰謝料額の算定にあたって考慮すべき事情そうすると,原告らの慰謝料額の算定に当たっては,前記のような事情も考慮した上で,精神的苦痛の主要な原因たるじん肺ないし合併症続発性気管支炎による健康被害の客観的な程度あるいはじん肺を直接原因とする死亡による被害について類型的な考察をすることが必要となる。そして,証拠(甲3ないし9・34・43・45ないし60・63ないし73・77ないし85・89ないし116・118ないし122・128・133,証人P・原告A・同B・同C・同D・同E・同H・同I・同K)及び前記認定に係る原告らの症状から窺い知ることのできる原告らの精神的苦痛の内容は,概要以下のとおりであることが認められる。 アまず,じん肺の特質は,①肺内で生じたじん肺の病変が,線維増殖性変化,炎症性変化,気腫性変化のいずれもが可逆性を持たないものであり,病変そのものについては本質的な治療の方法がないという点(じん肺の不可逆性),②肺における線維増殖性変化は,粉じん作業の継続により粉じんの吸入を続けることで進行するばかりか,粉じん作業から離脱して,粉じんの吸入を止めた後であっても進行を続け,X線写真上で見られる線維増殖性変化が進展する場合があるという点(じん肺の進行性)にある。そうすると,じん肺患者は,じん肺というそれ自体深刻な性質を有する疾病に罹患したこと(すなわち管理2の決定を受けたこと)のみをもってしても,かなりの精神的苦痛を被るものというべきであるから,相応の慰謝料額を認めるのが相当である。 イそして,①じん肺法において,都道府県労働局長は,じん肺管理区分が管理3イである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは るものというべきであるから,相応の慰謝料額を認めるのが相当である。 イそして,①じん肺法において,都道府県労働局長は,じん肺管理区分が管理3イである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは,事業者に対してその者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧奨することができるものとしているのに対して,それが管理3ロである場合は事業者自身に作業内容転換の努力義務を課し(なお,管理2及び管理3イの場合は就業場所の変更や作業時間の短縮に関する努力義務を課すにとどまる。),さらに地方じん肺診査医の意見により必要があると認めるときは都道府県労働局長が事業者に作業内容の転換を指示することができるものとするなど,管理区分に応じた段階的な健康管理措置が規定されていること(同法20条の3,21条),②法定合併症の認定がある場合及び管理4については,一律に療養すべきものとした上(同法23条),労災給付が支給されることとされていることからすれば,管理区分の上昇,合併症の発症による療養の必要性の現実化に伴って,肺機能の障害が高度化することで生じる呼吸困難等による肉体的苦痛が高まり,これに生活上の行動制限という苦痛が加わることで精神的苦痛も高まっていくものということができるから,それに応じた評価をしなければならない。したがって,じん肺管理区分が管理2,管理3イ,管理3ロ,管理4のいずれであるか,法定合併症の認定があるかどうかは,慰謝料額の算定にあたって重要な要素として,これを考慮に入れるべきである。中でも,とりわけ法定合併症の認定を受けた場合は,管理区分が低くても即座に療養とされていることからも窺われるように,患者の肉体的,精神的苦痛は飛躍的に増大するというべきであるから,この点を特に考慮する必要があるというべきである。 ウさらに,じん肺を直接の 低くても即座に療養とされていることからも窺われるように,患者の肉体的,精神的苦痛は飛躍的に増大するというべきであるから,この点を特に考慮する必要があるというべきである。 ウさらに,じん肺を直接の原因とするいわゆるじん肺死は,一般に重大な呼吸困難を伴う死であることが多く,死に至る過程における患者の肉体的,精神的苦痛は極めて大きいものというべきであるから,これを慰謝料算定において特別に考慮しなければならない(なお,原告らは,管理4の慰謝料額とじん肺死の慰謝料額とにつき同額の請求をしているが,後に消滅時効の起算点についてみるように,管理4の状態と死亡という極限状態との間にはやはり質的な相違があるというべきであるから,両者を分けて考えるのが相当であると思料する。)。 (3) 慰謝料の基準額及び原告らの認容慰謝料額以上で認定した,じん肺罹患による健康被害の程度に関する考え方と,じん肺罹患による精神的苦痛の内容とを総合すれば,原告らの慰謝料については,次のとおりの基準に従って律することが適当である。 ① 管理2で合併症のある者 1400万円② 管理3イで合併症のある者 1800万円③ 管理4の者 2200万円④ じん肺を直接の原因として死亡した者  2500万円なお,被告は,喫煙をしていた原告らについては,損害額の算定上これを考慮すべきと主張する。しかしながら,じん肺管理区分決定が,これまでに充分研究し尽くされたX線写真上の陰影に対する所見を主たる基礎として詳細な判断基準ないし手続のもとになされる決定であり,また,合併症の認定が,じん肺の病変を素地としてそれに外因が加わること等により高頻度に発症するとの知見のもとに定められている疾病に当該じん肺罹患者が罹患しているかどうかを判断してな れる決定であり,また,合併症の認定が,じん肺の病変を素地としてそれに外因が加わること等により高頻度に発症するとの知見のもとに定められている疾病に当該じん肺罹患者が罹患しているかどうかを判断してなされる認定であることに鑑みると,抽象論としては原告らの症状に対する喫煙の影響を否定することができないとしても,それのみ,あるいはそれが主原因となって原告らの症状が悪化したということのできる具体的な根拠はないから,所論は失当である。 以上によれば,原告らの認容慰謝料額は別表「認容慰謝料額」欄記載の金額が相当である(なお,亡J’につき特に請求原因の変更がなされていないのは前記のとおりであるから,原告Jらの認容慰謝料額は前記③の基準額によるのが相当である。)。 (4) 弁護士費用一般に,債務不履行を理由とする損害賠償請求事件訴訟の提起に要した弁護士費用は,当該裁判において請求することができないと解されることが多いが,少なくとも,債務の内容が通常の金銭債務の支払を目的とするものである場合とは異なり,債権者の生命または身体を保護することを目的とするものである場合には,当該債務不履行に基づく損害賠償請求については,不法行為に基づく損害賠償請求と同様に扱うのが相当である。そして,一般に不法行為に基づく損害賠償請求においては,弁護士費用を当該裁判において請求することができるとされているのであるから,これと同様に,安全配慮義務の不履行を理由とする本件損害賠償請求訴訟においても,弁護士費用を請求することができるものと解する。 原告らがその訴訟代理人ら弁護士に本件訴訟の遂行を委任したことは一件記録上明らかであるところ,本件訴訟の難易度,審理の経過,認容額及び被告の応訴態度等諸般の事情を考慮すると,原告らが訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料額のそれ の遂行を委任したことは一件記録上明らかであるところ,本件訴訟の難易度,審理の経過,認容額及び被告の応訴態度等諸般の事情を考慮すると,原告らが訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち,慰謝料額のそれぞれ10%に相当する額が被告の安全配慮義務違反と相当因果関係にある損害であると認めるのが相当である。 第3 消滅時効の抗弁の成否 1 消滅時効の起算点(1) 特定のじん肺管理区分決定を受けたことによる損害賠償請求権の場合雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は,民法167条1項により10年と解され(最高裁昭和50年判決参照),この10年の消滅時効は,同法166条1項により,この損害賠償請求権を行使し得る時から進行するものと解される。そして,一般には,安全配慮義務違反による損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべきところ,じん肺に罹患した事実は,その旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから,本件においては,じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けた時に少なくとも損害の一端が発生したものということができる。 しかしながら,このことから,じん肺に罹患した患者の病状が進行し,より重い行政上の決定を受けた場合においても,重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が,最初の行政上の決定を受けた時点で発生していたものとみることはできない。すなわち,前記認定事実によれば,じん肺は,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって,しかも,その病状が管理2に相当する症状にとどまっているようにみえる者もあれば,最も重い管理4に相当する症状まで進行した者もあり,また,進行する場 応する進行であるという特異な進行性の疾患であって,しかも,その病状が管理2に相当する症状にとどまっているようにみえる者もあれば,最も重い管理4に相当する症状まで進行した者もあり,また,進行する場合であっても,じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けてからより重い決定を受けるまでの進行の有無,程度,速度も,患者によって多様であることが明らかである。そうすると,例えば,管理2,管理3イ,管理3ロ,管理4と順次行政上の決定を受けた場合には,事後的にみると1個の損害賠償請求権の範囲が量的に拡大したにすぎないようにみえるものの,このような過程の中の特定の時点の病状をとらえるならば,その病状が今後どの程度まで進行するのかはもとより,進行しているのか,固定しているのかすらも,現在の医学では確定することができないのであって,管理2の行政上の決定を受けた時点で,管理3イ,管理3ロまたは管理4に相当する病状に基づく各損害の賠償を求めることはもとより不可能である。 以上のようなじん肺の病変の特質に鑑みると,管理2,管理3イ,管理3ロ,管理4の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には,質的に異なるものがあるといわざるを得ず,したがって,重い決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時に発生し,その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきであり,最初の軽い行政上の決定を受けた時点で,その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは,じん肺という疾病の実態に反するものとして是認し得ない(最高裁平成6年判決参照)。 (2) 死亡による損害賠償請求権の場合次に,死亡による損害賠償請求権に関する消滅時効の起算点について検討する。死亡による損害賠償請求権を行使する原告らを含む本件 い(最高裁平成6年判決参照)。 (2) 死亡による損害賠償請求権の場合次に,死亡による損害賠償請求権に関する消滅時効の起算点について検討する。死亡による損害賠償請求権を行使する原告らを含む本件原告らが請求する損害賠償請求権は,精神的損害に対する慰謝料に関するものであるところ,まず前提として,ある者が管理2ないし4の行政上の決定を受けた時点における精神的損害の内容を具体的に分析すると,①前記の決定を受けるまでにすでに発生している具体的な精神的損害(肺機能の障害による精神的苦痛等)と,②前記のような不可逆的な進行性疾患の一定段階に位置付けられたことによる精神的苦痛とをその構成要素としているということができる。このうち②は,じん肺が最終的には死に至る可能性の高い治療法のない進行性疾患であるところから,その一定段階に位置づけられたこと自体が将来にわたって進行する事態を予測させるため,その精神的苦痛を内容としているが,それはあくまでも将来の予測的事態をその時点で評価しているものであって,将来の損害そのものを先取りしているものではない。 これを具体的にみると,管理2の行政上の決定を受けた者の精神的損害は,①その時点までの具体的な経過の中での精神的苦痛と,②管理2の行政上の決定を受けたことにより将来さらに重い管理3イ,管理3ロ,管理4さらに死亡までの事態が予測されることによる精神的苦痛とをその内容とするものということができる。 次に,管理3イの行政上の決定を受けた者の精神的損害は,①管理2の決定から管理3イの決定までの間にすでに発生した精神的苦痛(最初の決定で管理3イの決定を受けた場合には,その時点までの具体的な経過の中での精神的苦痛)と,②管理3イの行政上の決定を受けたことにより将来の重い管理3ロ,管理4の決定ないし死までが予測され 痛(最初の決定で管理3イの決定を受けた場合には,その時点までの具体的な経過の中での精神的苦痛)と,②管理3イの行政上の決定を受けたことにより将来の重い管理3ロ,管理4の決定ないし死までが予測されることによる精神的苦痛とをその内容とするものということができる。このうち①は,管理2の行政上の決定を受けた時点で予測された事態が一部具体化したものとも評価すべきではなく,あくまで管理3イの決定を受けた者固有の損害であって,これと管理2の行政上の決定によりある程度事態が予測されていたことによる重複部分(管理2の決定を受けたことによる損害②)は,実際の慰謝料額算定の際に考慮すれば足りることであって(例えば,管理2の時点で慰謝料を請求し損害賠償金を得た後に,管理3イの決定を受けたことを理由として再び提訴した場合などに調整の必要性が具体化する。),管理2の行政上の決定を受けたことによる損害の中に,将来の管理2から管理3イまでの期間の具体的な損害が含まれているとみることはできない。管理3ロの行政上の決定を受けた者の精神的損害についても,これと同様のことがいえる。 これを管理4についてみると,管理4の行政上の決定を受けたことによる損害は,①前の決定から管理4の決定までの間にすでに発生した具体的な精神的苦痛(最初の決定で管理4の決定を受けた場合には,その時点までの具体的な経過の中での精神的苦痛)と,②管理4という最も重い段階に位置付けられたことにより将来の死までの経過が抽象的に予測されることによる精神的苦痛とをその内容とするものということができる。このうち①が,前の決定を受けた時点で予測された事態(例えば,管理3イの決定を受けたことによる前記損害②)が一部具体化したものと評価すべきではなく,あくまで管理4の決定を受けた者固有の損害であること,また②が ,前の決定を受けた時点で予測された事態(例えば,管理3イの決定を受けたことによる前記損害②)が一部具体化したものと評価すべきではなく,あくまで管理4の決定を受けた者固有の損害であること,また②が,あくまでも抽象的に予測される将来の経過に対するものであって,管理4の行政上の決定を受けた者がその後に死亡した場合にその者が受けた具体的な死亡までの精神的苦痛による損害とは別個の損害であるというべきことは,管理3イについての検討と同様である。 以上によれば,管理2ないし管理4の行政上の決定に相当する病状に基づく損害に質的に異なるものがあるということについての理由と同じ理由により,じん肺による死亡に基づく損害は,管理4の行政上の決定に相当する病状に基づく損害とは質的に異なるものがあるというべきである。そうすると,死亡による損害は当該死亡時に発生し,その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきである。 (3) 法定合併症続発性気管支炎に罹患したことによる損害賠償請求権の場合次に,管理2,管理3イ,管理3ロの者であって,法定合併症続発性気管支炎に罹患していると認められる者の損害賠償請求権の消滅時効の起算点について検討すると,まず,証拠(甲2・6・10・57ないし60・87・88)によれば,続発性気管支炎は,①法定合併症として認定される場合が,種々の診断の結果,認定条件を満たす場合に限定されていること,②その完治がきわめて困難であって,細菌感染を繰り返して再発・悪化することの多い症状であることが認められる。 そして,③法定合併症と認定された者が,作業の転換に関する勧奨や指示等(じん肺法21条)の対象となることなく即座に療養の対象とされ,労災補償給付が支給されることになっているのは(じん肺法23条,労災保険法13条・1 併症と認定された者が,作業の転換に関する勧奨や指示等(じん肺法21条)の対象となることなく即座に療養の対象とされ,労災補償給付が支給されることになっているのは(じん肺法23条,労災保険法13条・14条),②のような事情によるものということができる。さらに,④証拠(甲77ないし85・100ないし102)から窺われる原告らの症状の推移からは,じん肺管理区分管理2,管理3イ,管理3ロの決定を受けたからといって必ず法定合併症に罹患するものではなく,誰が,いつ,どのような法定合併症に罹患するかについての予見は不可能であることが認められる。以上①ないし④の事情,とりわけ②及び③の事情に鑑みると,法定合併症続発性気管支炎に罹患した者の健康被害の程度は,これに罹患していない場合と比べて飛躍的に憎悪しているものと評価すべきであるから,両者の肉体的損害,精神的損害には質的な相違があるというべきである。 そして,法定合併症に罹患した事実も,その認定条件の限定化から明らかなように,その旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから,法定合併症の症状を付加された管理2,管理3イ,管理3ロの罹患者が法定合併症に罹患したことによる損害賠償を請求する場合,その損害賠償請求権は法定合併症に罹患したことに基づく労災決定がなされた時点で発生し,その時点ではじめてこれを行使することが法律上可能となるものというべきである。 (4) 肺がんに罹患し肺の一部を切除したことによる損害賠償請求権の場合さらに,じん肺に罹患後,肺がんに罹患し肺の一部を切除したことによる損害賠償請求権の消滅時効の起算点について検討すると,まず,法令上,石綿肺に合併した肺がんは,業務上の疾病として労災補償の対象とされていることを指摘することができる(労働基準法施行規則35条)。また,証拠(甲6ないし8・10 起算点について検討すると,まず,法令上,石綿肺に合併した肺がんは,業務上の疾病として労災補償の対象とされていることを指摘することができる(労働基準法施行規則35条)。また,証拠(甲6ないし8・10)によれば,肺がんは,じん肺法上の法定合併症とはされていないが,石綿によるじん肺(石綿肺)の合併症のひとつであると認めることができる。さらに,証拠(甲77ないし85・100ないし102)から窺われる原告らの症状の推移からは,じん肺に罹患したからといって必ず合併症である肺がんになるとは限らず,また,誰が,いつ,肺がんに罹患するかを予測することはできない。以上の限りにおいては,肺がんは,法定合併症続発性気管支炎と同様であるということができる。 しかしながら,①法令上,肺がんに罹患し,あるいは肺がんにより肺の一部を切除したからといって,そのことを理由にじん肺法上作業転換の勧奨や指示等がなされるわけではない(原告らは,肺がんがじん肺法上の法定合併症とされていないのは,じん肺法が石綿肺のみならずじん肺全体を扱う法律であるからであると主張するが,石綿肺について一項目を設け,一定の認定条件を満たす場合にこれを法定合併症とする旨を規定することも不可能ではないのに,立法者がそのように規定しなかったことを説明し得ていない。)。②また,肺がんの罹患により肺を切除するかどうかの判断は,最終的には医師と患者との間の合意に基づいてなされるものであって,早めに肺の一部の切除に踏み切る場合もあれば,できるだけ肺を切除せずに治療しようとする場合もありうるところである。 そうすると,じん肺管理区分が変わったり,加えて法定合併症に罹患した場合とは異なり,肺の一部を切除した場合,その際の患者の症状が一義的・客観的に一定程度以上のものであると確定することが困難である以上,これと,単 じん肺管理区分が変わったり,加えて法定合併症に罹患した場合とは異なり,肺の一部を切除した場合,その際の患者の症状が一義的・客観的に一定程度以上のものであると確定することが困難である以上,これと,単にじん肺に罹患している者の症状とが質的に異なるものであると即断することはできないから,じん肺に罹患後,肺がんに罹患し肺の一部を切除したことによる損害賠償請求権の消滅時効の起算点を,原告ら主張のように,肺の一部を切除する手術をした日と解することはできない(なお,原告らの主張によれば,手術によって複数回にわたり肺の一部を切除した場合には,切除のたびに新たな質的に異なる損害が発生すると理解することになりかねないが,そのような見解をとることが不合理な結果を招来することは明白というべきである。)。 (5) まとめしたがって,安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,①じん肺に罹患したこと自体についての慰謝料を請求する原告にあっては,じん肺の所見がある旨の最終の行政上の決定を受けた時,②死亡慰謝料を請求する原告にあっては,当該患者が死亡した時,③法定合併症に罹患したことを理由とする慰謝料を請求する原告にあっては,当該法定合併症に罹患したことによる労災決定を受けた時から進行するものと解するのが相当である。 この点,被告の主張は,②③に反する部分につき採用することができない。また,原告らの主張は,じん肺に罹患後,肺がんに罹患し肺の一部を切除したことによる慰謝料を請求する原告Iについて,肺の一部を切除した日を消滅時効の起算点とする部分につき採用することができない。その上で,原告Iが求める損害賠償請求の根拠を合理的に判断すると,少なくとも,じん肺に罹患し,じん肺管理区分管理4の決定を受けたことについての損害 効の起算点とする部分につき採用することができない。その上で,原告Iが求める損害賠償請求の根拠を合理的に判断すると,少なくとも,じん肺に罹患し,じん肺管理区分管理4の決定を受けたことについての損害賠償を求めるものと理解することができるから,消滅時効の起算点については,①の基準によるべきものと解するのが相当である。 (6) 本件原告らについての検討これを本件についてみると,原告らの損害賠償請求権の消滅時効の起算点及び消滅時効の成否は次のとおりとなる。 ① じん肺に罹患したこと自体についての慰謝料を請求する原告ら(原告I,同Jら)弁論の全趣旨によれば,じん肺の所見がある旨の最終の行政上の決定を受けた(決定通知が到達した)のが,遅くとも,原告Iにつき昭和58年3月18日,亡J’につき昭和59年12月27日(いずれも決定通知発送日)からそれぞれ数日後であることについて,当事者間に実質的な争いはないということができる(消滅時効の起算点との関係で意味を持つのは決定を受けた日付であるところ,原告ら主張のじん肺管理区分決定日は,厳密には決定を受けた日付そのものではなく,決定通知書に記載された日付と解釈するのが合理的である。)。 そうすると,遅くともこれら決定通知発送日の数日後が,両原告の損害賠償請求権の消滅時効の起算点となる。 一方,本件提訴が平成11年7月7日であることは一件記録上明らかであるから,両原告の損害賠償請求権については消滅時効が完成している。 ② 死亡慰謝料を請求する原告ら(原告F,同Gら)亡F’が死亡したのが平成12年7月10日であること,亡G’が死亡したのが平成9年4月25日であることは当事者間に争いがない。したがって,これらの日が両原告の損害賠償請求権の消滅時効の起算点となる。 一方,本 亡したのが平成12年7月10日であること,亡G’が死亡したのが平成9年4月25日であることは当事者間に争いがない。したがって,これらの日が両原告の損害賠償請求権の消滅時効の起算点となる。 一方,本件提訴が平成11年7月7日であることは一件記録上明らかであるから,両原告の損害賠償請求権については消滅時効が完成していない。 ③ 法定合併症に罹患したことを理由とする慰謝料を請求する原告ら(原告A,同B,同C,同D,同E,同H,同K,同L)弁論の全趣旨によれば,法定合併症続発性気管支炎の休業補償給付支給決定を受けたのが,遅くとも,原告Aが平成6年8月31日,同Bが平成10年2月20日,同Cが平成8年8月30日,同Dが平成2年4月5日,同Eが平成3年2月22日,同Hが平成2年4月5日,同Kが昭和62年6月11日,同Lが平成3年2月22日からそれぞれ数日後であることについて,当事者間に実質的な争いはないということができる。そうすると,遅くともこれら決定通知発送日の数日後が,各原告の損害賠償請求権の消滅時効の起算点となる。 一方,本件提訴が平成11年7月7日であることは一件記録上明らかであるから,原告Kの損害賠償請求権についてのみ消滅時効が完成していることになるが,その余の原告らの損害賠償請求権については消滅時効が完成していない。 2 権利濫用の再抗弁の成否(1) 権利濫用の主張の可否一般に,債権者が訴え提起その他時効中断の挙に出ることを債務者において妨害した場合など,債務者が消滅時効を援用するのが社会的に許容された限界を逸脱するものとみられる場合に,債務者による消滅時効の援用を権利の濫用と評価すべきことは,いわば当然の理であるということができる。 しかしながら,当裁判所は,消滅時効の援用が権利の濫用にあたると評価す るものとみられる場合に,債務者による消滅時効の援用を権利の濫用と評価すべきことは,いわば当然の理であるということができる。 しかしながら,当裁判所は,消滅時効の援用が権利の濫用にあたると評価すべき場合は,この場合に限られると解すべき必然性はないと思料する。 すなわち,一般に,消滅時効制度の機能ないし目的は,①長期間継続した事実状態を維持することが,法律関係の安定のため必要であること,②権利の上に眠っている者(権利行使を怠った者)は法の保護に値しないこと,③あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから,一定期間の経過をもって,義務の不存在の主張を許す必要があること等と説明されている。そして,ある債務につき消滅時効を援用することは,本来的には債務者の権利に属するというべきであるが,債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者の側に責むべき事由があったり,債務発生に至る債務者の行為の内容や結果,債権者と債務者の社会的・経済的地位や能力,その他当該事案における諸般の事実関係に照らして,時効期間の経過を理由に債権を消滅させることが著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があり,かつ,消滅時効の援用権を行使させないことによって前記時効制度の目的に反するような事情がない場合には,消滅時効を援用することは権利の濫用としてこれを許さないのが相当であると解する。 (2) 本件原告らについての検討本件では,前記認定のように,原告I,同Jら,同Kの損害賠償請求権については消滅時効が完成していることになるが,原告らは,被告が消滅時効の抗弁を主張することは権利の濫用となる旨の再抗弁を主張しているので,以下,前記特段の事情があるかどうかにつき検討する。 まず,先に認定したじん肺に関する知見や法制の推移,管 告らは,被告が消滅時効の抗弁を主張することは権利の濫用となる旨の再抗弁を主張しているので,以下,前記特段の事情があるかどうかにつき検討する。 まず,先に認定したじん肺に関する知見や法制の推移,管理区分の内容とその決定手続の態様(粉じん職歴を記載した上,X線撮影や肺機能検査等の医師の診断を受けるという手続の態様)に照らせば,遅くとも,これら3名の原告らがじん肺管理区分の決定を受けた時点では,同人らも,自らが粉じん作業に従事していたことによりじん肺に罹患したということを知りうる可能性があったというべきである。 しかしながら,他方で,本件では以下の事情を認めることができる。 ア原告I,同Jら,同Kに共通の事情(ア) 安全配慮義務違反及び間接雇用形態という概念の特異性これら3名の原告らが被告に対して損害賠償請求権を行使するにあたっては,①そもそも,安全配慮義務という概念自体,昭和50年になってようやく最高裁で認められたものであること,②米軍の安全配慮義務違反について被告が責任を負うかという解決困難な論点が横たわっており,このことが問題とされた事件は公刊された裁判例の中では数例しかないこと,③雇用者と使用者とが分離する間接雇用形態は特異な雇用形態であって,就労中に災害に遭った場合の責任追及先の判断には困難を伴うことなど,幾重もの法的知識のハードルを越えることが必要であるところ,法律専門家ではない原告らにとっては,このようなハードルを越えて被告を相手に損害賠償を請求するということ自体,思い至ることが困難であったということは想像に難くなく,その結果,これら3名の原告らが被告の法的責任について認識し得なくてもやむを得なかった面もあるというべきである。結局,これら3名の原告らの被告に対する権利行使には,事実上の極めて困難な障害があったという 果,これら3名の原告らが被告の法的責任について認識し得なくてもやむを得なかった面もあるというべきである。結局,これら3名の原告らの被告に対する権利行使には,事実上の極めて困難な障害があったということができる。 (イ) 被告の立証困難性を考慮する必要性確かに,本件は,原告らの就労開始時期との関係で,昭和20年代からの被告ないし米軍の安全配慮義務の履行の有無が問題となっており,被告において,当時の関係文書の探索に困難を伴うことは想像に難くない。しかしながら,これら3名の原告らの就労期間が別表の「就労期間」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ,原告Cを除く他の原告らも同様の就労期間,米海軍横須賀基地において勤務していて,その期間,安全配慮義務が尽くされたかどうかを争っているのであり,被告としては,他の原告らについても,同様の時期における安全配慮義務の履行状況についての反証を要するのであるから,これら3名の原告らについてのみ,その立証困難性をことさら重視して消滅時効の援用による義務の消滅を認める必要性は少ないということができる。 イ原告Jらに固有の事情と権利濫用の再抗弁の成否(ア) 原告らは,亡J’が,昭和60年ごろ,横須賀労務管理事務所に,じん肺の補償制度について聞きに行ったことがあったが,そのようなものはないと言われたと主張し,その旨の陳述書を書証として提出するが(甲52)被告はその事実を争っており,他にこれを認めるに足りる客観的な証拠は存しない。 しかしながら,弁論の全趣旨からは,亡J’が,平成10年4月21日,横浜防衛施設局長あてに損害賠償請求をしたことがあったことについては,当事者間に争いがないものと認められる。 (イ) また,弁論の全趣旨によれば,亡J’が昭和59年12月27日から数日後にじん肺管理区分管理4 設局長あてに損害賠償請求をしたことがあったことについては,当事者間に争いがないものと認められる。 (イ) また,弁論の全趣旨によれば,亡J’が昭和59年12月27日から数日後にじん肺管理区分管理4の決定を受けたことについては,当事者間に実質的に争いがないものと認められる。また,亡J’が平成12年8月3日に死亡したことについては当事者間に争いがない。 そうすると,亡J’は,はじめて受けたじん肺管理区分の決定で突然もっとも重い管理4の決定を受けたこと,それから提訴まで約14年半,死亡まで16年という長年にわたり,もっとも重いじん肺管理区分管理4の状態で療養生活を続けてきたということ,しかも,本件訴訟の結果を知ることなく死亡してしまったということができる。 そして,仮に原告Jらが,本件訴訟の承継後にその請求の根拠を亡J’の死亡による損害賠償請求権と変更することも考えられるところではあるが,仮にそうであれば,前記判断のように,亡J’の死亡時が消滅時効の起算点となるというべきであって,原告Jらの請求権については未だ消滅時効が完成していないこととなるから,この点で,実際に死亡による損害賠償請求権を行使する原告F,原告Gらとの間に全か無かの差をつけるのは公平でない。 (ウ) そうすると,本件においては,亡J’が生前の消滅時効期間内にその権利を行使しなかったことについて,被告の側が権利の行使を妨害する等の責むべき事由があったことを認めるに足りる証拠はないが,以上のような,安全配慮義務違反及び間接雇用形態という概念の特異性,被告の立証困難性を考慮する必要性の希薄さ,亡J’の生前の損害賠償請求に関する具体的行動,亡J’の症状についてみられる特殊事情に加え,仮に原告らが本件訴訟の承継後,死亡による損害賠償請求権の行使に切り替えていた場合との均衡,被告 の希薄さ,亡J’の生前の損害賠償請求に関する具体的行動,亡J’の症状についてみられる特殊事情に加え,仮に原告らが本件訴訟の承継後,死亡による損害賠償請求権の行使に切り替えていた場合との均衡,被告は,国民の健康で文化的な生活を企図し,充実した福祉行政を実現すべく国家全体の政策を担う国であることを考慮すると,対原告Jらに限って被告がその権利の消滅時効を援用して損害賠償義務を免れることは著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があるというべきであり,また,消滅時効の援用権を行使させないことによって時効制度の目的に反するような事情はないということができるから,被告による消滅時効の援用は権利の濫用として許されないものと判断する。 ウ原告Iに固有の事情と権利濫用の再抗弁の成否(ア) 弁論の全趣旨によれば,原告Iが昭和56年12月21日から数日後にじん肺管理区分管理2の決定を受けたこと,昭和58年3月18日から数日後にじん肺管理区分管理4の決定を受けたことは,当事者間に実質的に争いがないものと認められる。また,法令上,石綿肺に合併した肺がんは,業務上の疾病として労災補償の対象とされており(労働基準法施行規則35条),さらに,証拠(甲90の1)によれば,原告Iに肺がんが発見されたのが平成3年5月ころのことであり,右肺下葉を切除する手術を受けたのが同年8月28日であること,原告Iの肺機能は,手術前の同年8月7日にはパーセント肺活量が77%,V25/HTが0.42であったが,手術後の平成6年9月27日にはそれぞれ52.1%と0.29と減少していることが認められる。 そうすると,原告Iは,最も重い管理4の決定を受けてから提訴まで約16年,今日まで約19年という長年にわたり,もっとも重い管理4の状態で療養生活を続けてきたということ,しかも ることが認められる。 そうすると,原告Iは,最も重い管理4の決定を受けてから提訴まで約16年,今日まで約19年という長年にわたり,もっとも重い管理4の状態で療養生活を続けてきたということ,しかも,その間,管理4の決定を受けてから8年目には,肺がんを併発して肺の一部を切除し,その肺機能がかなり落ちるに至っているということができる。以上の状況を考慮すると,原告Iの症状は,管理4の決定を受けた当時の症状からより深刻化しているということができる。 (イ) ところで,管理4の行政上の決定を受けたことによる損害は,前記のように,①前の決定から管理4の決定までの間にすでに発生した具体的な精神的苦痛(最初の決定で管理4の決定を受けた場合には,その時点までの具体的な経過の中での精神的苦痛)と,②管理4という最も重い段階に位置付けられたことにより将来の死までの経過が抽象的に予測されることによる精神的苦痛とをその内容とする。そして,原告Iの場合,単に管理4の認定を受けたのみならず,肺がんを併発し,さらに肺の一部を切除する手術を受けるに至っているのであるから,前記②の精神的苦痛はより切迫したものとなっているということができる。 他方,管理4の決定を受けた後,実際に死亡した亡J’については,前記のように,消滅時効の援用を権利の濫用とすべき特段の事情があるというべきところ,実際に死亡した亡J’と,管理4の決定を受けてさらに肺がんになり,肺の一部を切除したことで,将来の死までの経過が抽象的ではあるがより現実味を伴ったものとして予測されるようになったともいうべき原告Iとの間に,死亡したか現在も生存しているかによって全か無かの差をつけるのは公平ではない。 (ウ) そうすると,本件においては,原告Iがその権利を行使しなかったことについて,被告の側が権利の行使を妨害 の間に,死亡したか現在も生存しているかによって全か無かの差をつけるのは公平ではない。 (ウ) そうすると,本件においては,原告Iがその権利を行使しなかったことについて,被告の側が権利の行使を妨害する等の責むべき事由があったことを認めるに足りる証拠はないが,以上のような,安全配慮義務違反及び間接雇用形態という概念の特異性,被告の立証困難性を考慮する必要性の希薄さ,原告Iの症状についてみられる特殊事情に加え,最終のじん肺管理区分決定時が消滅時効の起算点となるという考え方が定着してきたのは最高裁平成6年判決のころであると考えられること,被告は,国民の健康で文化的な生活を企図し,充実した福祉行政を実現すべく国家全体の政策を担う国であることを考慮すると,対原告Iに限って被告がその権利の消滅時効を援用して損害賠償義務を免れることは著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があるというべきであり,また,消滅時効の援用権を行使させないことによって時効制度の目的に反するような事情はないということができるから,被告による消滅時効の援用は権利の濫用として許されないものと判断する。 エ原告Kの固有の事情と権利濫用の再抗弁の成否(ア) 弁論の全趣旨からは,原告Kが,平成10年4月21日,横浜防衛施設局長あてに損害賠償請求をしたことがあったことについては,当事者間に争いがないものと認められる。 (イ) また,弁論の全趣旨によれば,原告Kが昭和61年12月24日から数日後にじん肺管理区分管理2の決定を受けたこと,昭和62年6月11日から数日後に法定合併症続発性気管支炎の労災決定を受けたことについては,当事者間に実質的に争いがないものと認められる。 そうすると,原告Kは,続発性気管支炎の労災決定を受けてから提訴まで約12年,今日まで約15年という 続発性気管支炎の労災決定を受けたことについては,当事者間に実質的に争いがないものと認められる。 そうすると,原告Kは,続発性気管支炎の労災決定を受けてから提訴まで約12年,今日まで約15年という長年にわたり,療養が必要とされる管理2及び法定合併症続発性気管支炎を患った状態で療養生活を続けてきたということができる。そして,消滅時効の起算点に関する前記判断によれば,消滅時効の完成から本件提訴までの期間は約2年遅れたにすぎないという事情が認められる。しかも,その間,平成10年4月21日に,横浜防衛施設局長あてに損害賠償請求をしていることは前記のとおりである。 他方,管理2の決定を受けた後,合併症続発性気管支炎に罹患した原告A,同B,同C,同D,同H,同Lについては,いずれも前記認定のように,その損害賠償請求権につき消滅時効は完成していないと認められるところ,前記認定のように,本件における安全配慮義務違反及び間接雇用形態という概念の特異性や,被告の立証困難性を考慮する必要性が低いというべき事情,他の原告らとの均衡に鑑みると,少なくとも本件事案限りにおいては(決して軽微ではないというべきではあるが)消滅時効期間の約2年の徒過によって全か無かの差をつけるのは公平ではない。このことは,管理3イの決定を受けた後に合併症続発性気管支炎の決定を受けた原告Eとの関係についても同様であるということができる。 (ウ) そうすると,本件においては,原告Kがその権利を行使しなかったことについて,被告の側が権利の行使を妨害する等の責むべき事由があったことを認めるに足りる証拠はないが,以上のような,安全配慮義務違反及び間接雇用形態という概念の特異性,被告の立証困難性を考慮する必要性の希薄さ,原告Kの症状についてみられる特殊事情に加え,じん肺法上の合併症に罹患した 証拠はないが,以上のような,安全配慮義務違反及び間接雇用形態という概念の特異性,被告の立証困難性を考慮する必要性の希薄さ,原告Kの症状についてみられる特殊事情に加え,じん肺法上の合併症に罹患した場合の損害賠償請求権の消滅時効の起算点がその旨の決定を受けたときと解すべき考え方が裁判例上みられるようになってきたのは最近のことであると考えられること,被告は,国民の健康で文化的な生活を企図し,充実した福祉行政を実現すべく国家全体の政策を担う国であることを考慮すると,対原告Kに限って被告がその権利の消滅時効を援用して損害賠償義務を免れることは著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があるというべきであり,また,消滅時効の援用権を行使させないことによって時効制度の目的に反するような事情はないということができるから,被告による消滅時効の援用は権利の濫用として許されないものと判断する。 第4 過失相殺の抗弁の成否 1 防じんマスクの不着用原告らが,米海軍の貸与した防じんマスクを着用せずに粉じん作業をしたことがあったことは前記のとおり当事者間に争いがない(もっとも,米軍から支給された防じんマスクのうち,紙マスクについては,原告らを含む作業者もこれを着用していたことについても当事者間に争いがない。)。 しかしながら,前記認定のとおり,①米軍の貸与した防じんマスクの性能が不充分であったり使い勝手が悪いものであって実用に耐えうるものとは言い難かったとする従業員は原告らだけではなかったと認められ,被告もこれに関する調査・監視を怠っていたと認められることから,直接対策を講ずべき立場にある米軍及び米軍に対して対策を講ずるよう推進すべき立場にある被告はこれら保護具等の整備義務を尽くしていなかったというべきであること,②原告らが防じんマス 認められることから,直接対策を講ずべき立場にある米軍及び米軍に対して対策を講ずるよう推進すべき立場にある被告はこれら保護具等の整備義務を尽くしていなかったというべきであること,②原告らが防じんマスクの必要性・重要性を認識し得なかったのは,じん肺に関する従業員の教育がそもそも不充分であったことに原因があると認められ,被告もこれに関する調査・監視を怠っていたと認められることから,直接対策を講ずべき立場にある米軍及び米軍に対して対策を講ずるよう推進すべき立場にある被告は従業員に対するじん肺教育義務を尽くしていなかったというべきであることに鑑みると,被告において,原告らの防じんマスク等の保護具の不着用を過失相殺の事由とすることはできないというべきである。 2 喫煙証拠(甲3・5・6・8・95ないし97,証人P)によれば,喫煙がじん肺ないし合併症の症状に悪影響を及ぼすであろうことは認められる。 そして,証拠(甲43・45ないし54・90の1,原告C・同D・同E・同I・同K)によれば,原告C(1日数本程度であったが,平成8,9年ころに禁煙),同D(1日10本程度であったが平成12年ころに禁煙),同E(1日20本程度であったが昭和42,3年ころに禁煙),亡F’(ただし昭和50年ころに禁煙),同G(1日1箱程度であったが平成8年よりもだいぶ前に禁煙),原告H(ただし昭和48年に禁煙),同I(1日25本程度であったが昭和50年に禁煙。なお,同人の陳述書及び本人供述によれば,1日2,3本程度であったが昭和24年ころに禁煙したとのことであるが,本件訴訟を意識していない時期になされた甲90の1のカルテ記載の方が信用性が高いというべきである。),同K(1日20本程度であったが平成2年ころに禁煙)が喫煙していたことが認められる。 しかしながら,喫煙 を意識していない時期になされた甲90の1のカルテ記載の方が信用性が高いというべきである。),同K(1日20本程度であったが平成2年ころに禁煙)が喫煙していたことが認められる。 しかしながら,喫煙によって原告らのじん肺ないし合併症の症状がどの程度増悪したかについてこれを認めるに足りる証拠はなく,また,そもそも,これら喫煙していたことのある原告らが,その就労期間中に喫煙のじん肺に対する影響につき教育を受けたと認めるに足りる証拠はなく,前記認定のように,直接対策を講ずべき立場にある米軍及び米軍に対して対策を講ずるよう推進すべき立場にある被告は従業員に対するじん肺教育義務を尽くしていなかったというべきであることに鑑みると,被告において,これら原告らの喫煙を過失相殺の事由とすることはできないというべきである。 第5 結論以上によれば,原告らの本訴請求は,主文の限度で理由がある。なお,原告らに高齢者が多く,じん肺患者ないしその遺族として早期救済の必要性が高いと認められることその他本件訴訟の審理経過に鑑みると,本件については仮執行宣言を付すのが相当であるが,一方で,被告が賠償金として原告らに金員を支払う場合には国としての予算措置が必要であって一般にこれを迅速に行うのは困難とみられることに照らすと,一定の場合には仮執行免脱宣言を付すのが相当であるから,主文のとおり判断する。 横浜地方裁判所横須賀支部裁判長裁判官須山幸夫裁判官吉川昌寛裁判官石田浩二は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官須山幸夫(別表)従業就労場所稼働内容就労期間区分決定通知日じん肺管理区分の内容員名労災決定通知日じん肺合併症の内 ,署名押印することができない。 裁判長裁判官須山幸夫(別表)従業就労場所稼働内容就労期間区分決定通知日じん肺管理区分の内容員名労災決定通知日じん肺合併症の内容または死亡日または死亡原因ASRFX-38M 機械修理工S.25.09.29~S.60.12.31 S.57.02.12管理2(のちに一般船舶機械工S.61.12.24管理2と名称変更)H.06.08.31続発性気管支炎BCFAYOPS 船舶内燃機関機械工S.24.06.01~S.53.12.31 S.55.04.01管理2S.60.05.31管理2H.10.02.20続発性気管支炎CSRFX-38M 一般船舶機械工S.51.09.27~H.04.12.31 S.58.12.20管理2H.04.10.15管理2H.08.08.30続発性気管支炎DPWC板金(溶接)工S.25.07.06~S.26.09.08 S.63.09.19管理2NSD倉庫係・検数員S.26.10.19~S.39.06.30 H.02.04.05続発性気管支炎NSD運搬作業員・棚卸し事務職S.41.11.17~S.45.08.14SRFX-99パイプ取付工S.45.08.15~S.60.06.30ESRFX-41L 防熱工・汽かん被覆工・S.25.09.19~S.55.12.31 S.53.09.18管理2石工・煉瓦積み工S.56.01.19管理3イH.03.02.22続発性気管支炎F’SRFX-26溶接工S.22.04.24~S.59.04.30 S.57.03.16管理3イS.57.09.02管理2S.58.12.20管理2H.07.06.16続発性気管支炎H.12 X-26溶接工S.22.04.24~S.59.04.30 S.57.03.16管理3イS.57.09.02管理2S.58.12.20管理2H.07.06.16続発性気管支炎H.12.07.10悪性胸膜中皮種で死亡G’ SRFX-17板金工S.23.01.22~H.02.12.31 S.61.10.13管理2H.02.09.04管理2H.08.10.24続発性気管支炎H.09.04.25肺小細胞がんで死亡HSRFX-41B 製かん工S.22.01.07~S.60.09.30 S.58.12.20管理2S.60.10.03管理2H.02.04.05続発性気管支炎ISRFX-11船舶設備取付工S.25.07.13~S.46.03.15 S.56.12.21管理2SRFX-11船舶設備取付工S.49.07.12~S.55.12.31 S.58.03.18管理4J’PWCフォークリフト等の運転手S.26.11.21~S.58.12.31 S.59.12.27管理4H.12.08.03死亡KSRFX-41B 製かん工S.26.03.31~S.29.05.12 S.57.03.16管理3イSRFX-41B 製かん工S.29.11.12~S.45.04.01 S.57.10.07管理2SRFX-41B 製かん工S.51.09.01~S.59.09.30 S.61.12.24管理2S.62.06.11続発性気管支炎LSRFX-41B 製かん工S.25.11.01~S.60.06.30 S.57.10.07管理2S.61.12.24管理2H.03.02.22続発性気管支炎原告原告請求慰謝料額請求総額認容慰謝料額請求認容額免脱担保額番号名 ~S.60.06.30 S.57.10.07管理2S.61.12.24管理2H.03.02.22続発性気管支炎原告原告請求慰謝料額請求総額認容慰謝料額請求認容額免脱担保額番号名 A2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 B2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 C2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 D2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 E2500万円2750万円1800万円1980万円1584万円 F3000万円3300万円2500万円2750万円2200万円7-1G11500万円1650万円1250万円1375万円1100万円7-2G2500万円550万円416万6666円458万3333円366万6666円7-3G3500万円550万円416万6666円458万3333円366万6666円7-4G4500万円550万円416万6666円458万3333円366万6666円 H2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 I3000万円3300万円2200万円2420万円1936万円10-1 J11500万円1650万円1100万円1210万円968万円10-2 J2750万円825万円550万円605万円484万円10-3 J3750万円825万円550万円605万円484万円 K2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 L2000万円2200万円1400万円1540万円1232万 5万円550万円605万円484万円 K2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円 L2000万円2200万円1400万円1540万円1232万円合計3億1350万円2億3099万9999円1億8479万9998円

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