【DRY-RUN】主 文 一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 原告 1 被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和
主 文 一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 原告 1 被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二四日 から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、別紙一記載の謝罪広告を同記載の各新聞に同記載の条件 で掲載せよ。 3 被告は、原告に対し、別紙二記載の謝罪広告を同記載の各雑誌に同記載の条件 で掲載せよ。 4 被告は、原告に対し、別紙三記載の謝罪広告を同記載の雑誌に同記載の条件で 掲載せよ。 5 訴訟費用は被告の負担とする。 6 第1項につき仮執行の宣言 二 被告 1 主文第一、二項と同旨 第二 請求原因 一 当事者 1 原告は、京都大学理学部所属の生物物理を専攻する研修員で、脳波の解析、神 経回路網の解析等の研究を続ける者である。 2 被告は、京都大学理学部助教授で、流体力学を専攻する者である。 二 共同研究と共有著作権 1 原・被告を含む左の五名(以下「原・被告ら五名」という。)は、昭和四七年 ころから同五五年までの間、脳波の実験的及び理論的解析に関する共同研究を続 け、その成果として別紙四の業績目録記載の研究論文及び学会発表をなしてきた。 原告 京都大学理学部研修員 被告 同大学数理解析研究所助手 【A】 野川病院医師(以下「【A】」という。) 【B】 同病院検査技師(以下「【B】」という。) 【C】 大阪大学経済学部助手(以下「【C】」という。) 右は研究会発足当時の肩書であるが、その後被告が京都大学理学部助教授に、 【C】が大阪大学工学部助教授に転職している。なお、右五名以外にも一時期他の 者が共同研究に加わっていたことがある。この研究会は昭和五六年一〇月に解散し た。 2 電気生理学的に測定される脳波は、大脳機能の解析 大阪大学工学部助教授に転職している。なお、右五名以外にも一時期他の 者が共同研究に加わっていたことがある。この研究会は昭和五六年一〇月に解散し た。 2 電気生理学的に測定される脳波は、大脳機能の解析方法の中でも古典的で知見 も集積されているものの、その理論的解析は確立していない。雑音(背景脳波)の なかに埋もれた信号(誘発脳波)の抽出が困難であるのは、脳波の非定常性と雑音 のパワーが信号のそれを数倍上回る点にある。 3 原・被告ら五名は、ウイーナー・フィルター法を実用化するという方法で、脳 波の数理解析の糸口をつかむことに成功し、さらに各種模型を用いて簡単化をはか り、よく知られた方程式を脳波の解析に適用できることを明らかにした。 4 この共同研究の一連の業績は、医学、数学、物理学にまたがる学際的研究の成 果であり、国際的にも注目され「【A】グループ」として広く知られている。脳波 研究には、医師、測定技師、理論家の三者の緊密な連帯なくしては成果をあげえ ず、原告は理論家の中心的存在であった。 5 この共同研究の成果は、原・被告ら五名の連名によって、その都度内外に発表 されてきたが、その骨子や概要は事前に検討し全員の了解を得ていた。 6 別紙四の業績目録記載の文献①ないし⑪は、原・被告ら五名の共同研究の成果 として発表されたものであり、原・被告ら五名は右各文献につき著作権を共有する ものである。 (1) 文献①(甲第三号証)は、原告が昭和五一年六月に仙台の日本生理学会で 行った講演の抄録である。 (2) 文献②(甲第四号証)は、原告が昭和五一年八月にオタワの国際ME学会 で行った講演の予稿集に登載されたものであり、ウイルソン・コーワン模型からフ ァンデンポール方程式が導かれる過程を論じ、神経活動の不応期の効果を考慮する とヴォルテラ項が出現することから、簡単化された方程式は た講演の予稿集に登載されたものであり、ウイルソン・コーワン模型からフ ァンデンポール方程式が導かれる過程を論じ、神経活動の不応期の効果を考慮する とヴォルテラ項が出現することから、簡単化された方程式は一般化されたリエナー ル型微分方程式或いは一般化されたヴォルテラ型微分方程式の形式に分類されるこ とを指摘し、それらの最も簡単な場合にはファンデルポール方程式に帰着すること を明らかにした。文献②は、ついで、二個及び四個のファンデルポール方程式の結 合系に対してパラメーターを制御することにより脳波現象が説明できることを計算 機実験で示した。 (3) 文献③(甲第五号証)は、原告が昭和五一年一一月に、福岡の日本脳波・ 筋電図学会で行った講演の予稿集に登載された予稿である。 (4) 文献④(甲第六号証)は、【A】が昭和五二年四月に鹿児島の日本生理学 会で行った講演の抄録である。 (5) 文献⑤(甲第七号証はその原稿)は、原告が昭和五二年四月に東京の日本 ME学会で行った講演の抄録であり、文献⑥(甲第八号証)はその学会講演の可否 を決める審査用原稿である。文献⑤の前半は、文献②と同じく、ウイルソン・コー ワン模型からファンデルポール方程式が導かれる過程を論じたものであり、後半 は、空間相互作用をもつウイルソン・コーワン方程式から拡散項が導出できるこ と、大脳皮質の視覚野のモデルに対してはフィッチュー・南雲方程式が導き出せる こと、投射経路のモデルに対しては空間の一階微分項を含むコルモゴロフ方程式が 導き出せることを計算機実験と共に示したものである。 (6) 文献⑦(甲第九号証)は、原告が昭和五二年七月に箱根の「性格・行動と 脳波」研究会で行った講演の抄録である。 (7) 文献⑧(甲第一〇号証)は、原告が昭和五二年九月にアムステルダムの国 際脳波学会で行った講演の抄録であり、その内容は 昭和五二年七月に箱根の「性格・行動と 脳波」研究会で行った講演の抄録である。 (7) 文献⑧(甲第一〇号証)は、原告が昭和五二年九月にアムステルダムの国 際脳波学会で行った講演の抄録であり、その内容は、ウイルソン・コーワン模型か ら得られた諸結果の集大成であり、文献②、⑤の内容と同じである。 (8) 文献⑨(甲第一一号証)は、原告が昭和五二年一一月にロサンゼルスの医 学生物学工学会議で行った講演の抄録であり、(1)空間相互作用をもつウイルソ ン・コーワン方程式を簡単化してフィッチュー・南雲方程式を導き出すこと、 (2)それがリミット・サイクル振動をする波動群を表すときの包絡線方程式を導 くこと、(3)脳波活動の振幅のゆっくりした変調は包絡線方程式の性質で説明で きること等を明らかにした。 (9) 文献⑩(甲第一二号証)は、【A】が昭和五二年一一月に仙台の日本脳 波・筋電図学会で行った講演の予稿集に登載された予稿である。 (10) 文献⑪(甲第一三号証)は、原告が右と同じときに右学会で行った講演 の予稿集に登載された予稿である。 三 被告による著作権等の侵害 1 被告は、国際的に著名な学術雑誌であるバイオロジカル・サイバネティックス 誌(Biological Cybernetics,Springer-Ver lag)に、昭和五五年に単独名で次の第一論文(甲第一号証)を発表し、さらに 三年後に被告、【A】、【B】の連名で、原告及び【C】を除外して次の第二論文 (甲第二号証)を発表した。 第一論文 結合ファンデルポール振動子系 -興奮性及び抑制性神経の相互作用の模型 (一九八〇年)三九巻三七頁 第二論文 神経集団に対する反応 -拡散型非線形方程式 (一九八三年)四八巻一九頁 2 第一論文による著作権等侵害 (1) 第一論文の前半部分は、空間相互作用のない場合に、ウイルソン・コーワ 九巻三七頁 第二論文 神経集団に対する反応 -拡散型非線形方程式 (一九八三年)四八巻一九頁 2 第一論文による著作権等侵害 (1) 第一論文の前半部分は、空間相互作用のない場合に、ウイルソン・コーワ ン模型からファンデルポール方程式が導けることを示したものである。第一論文 は、「要旨」冒頭において、「興奮性及び抑制性の神経集団の力学に関するウイル ソン・コーワン模型を拡張して、相互に結合したファンデルポール方程式を導いた (訳文、以下同じ)」と主要な結論が記載されているが、これは、文献①②③⑤⑦ ⑧⑩⑪の記載の結論と同一である。 (2) 第一論文の「序説」の後半三分の一の部分、すなわち「以上述べた観点か ら」以降の部分は、この論文の意図と内容構成が説明されており、その意図とし て、「神経集団の適切な模型から結合振動子系を導きだせることを指摘することは 価値がある。…非線形回路理論や生物システム理論の中ですでに確立している諸結 果や方法を利用して、生理学的な変数と回路の係数を関係づければ、複雑な脳波現 象でもよく理解できる」と記載されているが、これは文献①②③⑤⑦⑧⑩⑪の記載 の意図と同一である。 (3) 第一論文の「第2節」の部分は、「2・1基礎方程式」でウイルソン・コ ーワンの原論文の模型を要約した後、「2・2簡単化」において、連立ファンデル ポール方程式を導くための簡単化の手順について記載しているが、これは文献①② ③⑤⑧の記載と同一であり、更にその内容は右各文献の学会で口頭及びスライドで 説明されている。 特に、左のとおり、第一論文に記載された方程式は文献②⑤に記載された方程式と 重複している。 第一論文の(1)(2)(3)(4)式は、文献②の(1)(2)式、文献⑤の (1)式と重複。 第一論文の(5)式は、文献②の(3)式、文献⑤の(2)式と重複。 第一論文の(6 た方程式と 重複している。 第一論文の(1)(2)(3)(4)式は、文献②の(1)(2)式、文献⑤の (1)式と重複。 第一論文の(5)式は、文献②の(3)式、文献⑤の(2)式と重複。 第一論文の(6)式は、文献②の(4)式、 文献⑤の第2節の(4)の前の式と重複。 第一論文の(9)式は、文献⑤の(5)式の前半の式と重複。 第一論文の(10)式は、文献②の(2)式、文献⑤の(5)式の後半の式と重 複。 第一論文の(11)(12)式は、文献②の(6)(7)式、文献⑤の(4)式と 重複。 (4) 第一論文の「第5節結語」の冒頭で、「この論文の主要な論点は、多数の 相互作用する興奮性神経及び抑制性神経の部分集合に対する拡張したウイルソン・ コーワン模型から連立ファンデルポール方程式が導かれることにある」と記載さ れ、第2節がこの論文のポイントであることが示されているが、まったく同等のこ とが文献①②③⑤⑦⑧⑩⑪に明確に記載されている。 3 第一論文における原告らの文献の引用 (1) 第一論文には、文献①②③⑤⑦⑧⑩⑪がどれ一つとして引用されていな い。 (2) しかしながら、被告は文献①②③⑤⑦⑧⑩⑪を基礎として第一論文を書い たのであるから、これらを参考文献として第一論文に掲記すべきものである。 4 第一論文の以上の点は、被告が原・被告ら五名の文献のうちこの部分を無断で 複製し、もしくは翻案したことにあたり、原告の共有する著作権と原告の著作者人 格権とを侵害した。 5 第二論文による著作権等侵害 (1) 第二論文の前半部分は、空間相互作用のある場合に、ウイルソン・コーワ ン模型からフィッチュー・南雲方程式が導けることを示したものである。第二論文 の「要旨」の部分に、「興奮性及び抑制性の神経系の力学に関するウイルソン・コ ーワン模型から、いくつかの簡単な微分方程式を導いた。…それ フィッチュー・南雲方程式が導けることを示したものである。第二論文 の「要旨」の部分に、「興奮性及び抑制性の神経系の力学に関するウイルソン・コ ーワン模型から、いくつかの簡単な微分方程式を導いた。…それをさらに簡単化す ると、神経インパルスに関するフィッチュー・南雲方程式と数学的に同等な偏微分 方程式系に帰着することを示した。」との主要な結論が記載されているが、これは 文献③⑤⑥⑧⑨記載の結論と同一である。 (2) 第二論文の「第1節序説」の後半で「この論文ではウイルソン・コーワン 模型の簡単化により、神経活動の全般的な振る舞いが、微分方程式論において、す でに確立した方法によって予見できるようになり、さらには、ある特定の神経機序 や脳波のもつ(生理学的)意味をもっとよく理解することができる」と記載されて いるが、これは文献⑤の1、2、3、文献⑥の「目的」の(1)(2)、「結果」 の(2)(3)、「まとめ」の(2)、「独創性」の(2)の記述にも一貫してあ らわれている。 (3) 第二論文の「第4節簡単化した方程式の導出」において、ウイルソン・コ ーワン模型の方程式の簡単化が記載され、「第5節簡単化した微分方程式の例」で は、ウイルソン・コーワン模型の方程式からフィッチュー・南雲方程式が導かれて いるが、「要旨」及び「結語」の項でも強調されているとおり、この部分が本論文 の主要な結論である。これと同じ内容が文献⑤⑥⑨で具体的に記載されている。 第二論文の(30)、(31)式は、文献⑤の(8)、(9)式、文献⑥の(3) 式、文献⑨の(2)式と同一である。 (4) 第二論文の「第7節結語」で、「この論文の主要な結論は、…ウイルソ ン・コーワン模型はフィッチュー・南雲型、…ファンデルポール方程式などの単純 な微分方程式に還元できることである」と記載し、第4、第5節が第二論文の研究 の 語」で、「この論文の主要な結論は、…ウイルソ ン・コーワン模型はフィッチュー・南雲型、…ファンデルポール方程式などの単純 な微分方程式に還元できることである」と記載し、第4、第5節が第二論文の研究 の眼目であることが明らかにされているが、同じ内容が文献③⑤⑥⑧⑨に明確に記 載されている。 6 第二論文における原告らの文献の引用 (1) 第二論文には、文献①ないし⑪1のうち文献②⑨のみが引用されている。 この二つは、いずれも学会報告のアブストラクトである。被告は、第一論文発表 後、原告の抗議に対し、「学会のアブストラクトは引用しないのが慣例である。」 と答えたのに、第二論文ではこれらを引用した。第二論文発表後、原告がこの点を 再度問い質したところ、被告は返答に窮した。 (2) 文献②は、前記のとおり、ウイルソン・コーワン模型から連立ファンデル ポール方程式を導くこと、そしてファンデルポール方程式二個及び三個を結合して 脳波を人工的に作り出すことにあった。第一論文は、後者についての理論的解析を 進めて、右の二つの内容をまとめたものであるから、文献②は本来第一論文におい て引用されるべきものである。 (3) 被告は、文献③⑤⑥⑧を基礎にして第二論文を書いたのに、これらの文献 が第二論文に引用されていないのは不当である。 7 第二論文の以上の点は、被告が原・被告ら五名の文献のうちこの部分を無断で 複製し、もしくは翻案したことにあたり、原告の共有する著作権と原告の著作者人 格権とを侵害した。 四 第一、第二論文発表後の原被告の交渉 1 原告は、第一、第二論文の発表を、それぞれの論文の発表後に、第三者の知ら せでこれを知った。 2 原告は、第一論文については昭和五五年もしくは五六年に、第二論文について は昭和五八年及び五九年に、それぞれ被告に抗議した。 3 原告は指導教授その他に相談し 後に、第三者の知ら せでこれを知った。 2 原告は、第一論文については昭和五五年もしくは五六年に、第二論文について は昭和五八年及び五九年に、それぞれ被告に抗議した。 3 原告は指導教授その他に相談し、その結果原・被告間の調整が試みられたが、 失敗に終わった。 五 原告の被った損害とその回復方法 1 原告は、被告の第一、第二論文により、文献①ないし⑪の共有著作権を侵害さ れ、同時に著作者人格権を侵害され、多大の精神的苦痛を受け、かつ、名誉を毀損 された。 2 右精神的苦痛を慰謝し、かつ、名誉を回復するためには、被告から原告に対 し、著作権侵害の慰謝料として二〇〇万円、著作者人格権侵害の慰謝料として三〇 〇万円の各支払い、及び別紙一記載の謝罪広告を同記載の新聞の各全国版に同記載 の条件で掲載し、別紙二、別紙三記載の各謝罪広告を同記載の各雑誌に同記載の条 件で掲載することが必要である。 六 請求 よって、原告は被告に対し、慰謝料合計五〇〇万円及びこれに対する本件訴状送 達の日の翌日である昭和六〇年一〇月二四日から完済に至るまで民法所定年五分の 割合による遅延損害金の支払、及び別紙一記載の謝罪広告を同記載の新聞の各全国 版に同記載の条件で掲載し、別紙二、別紙三記載の各謝罪広告を同記載の各雑誌に 同記載の条件で掲載することを求める。 第三 請求原因に対する被告の認否 一 請求原因一項1、2の事実は認める。 二 同二項1のうち、その主張の研究や発表が原・被告ら五名の共同研究としてな されたことは否認し、その余の事実は認める。各会員は脳波解析に関する自己の興 味に従って研究し、その成果に対し互いに意見を述べたまでのことであり、研究や 発表は、 会員が個々的にしたものである。なお、被告は昭和五二年一〇月一三日から翌年一 〇月一二日までイギリスに留学中であった。 同二項2の事実は認める 対し互いに意見を述べたまでのことであり、研究や 発表は、 会員が個々的にしたものである。なお、被告は昭和五二年一〇月一三日から翌年一 〇月一二日までイギリスに留学中であった。 同二項2の事実は認める。 同二項3の事実は否認する。 同二項4のうち、本件研究会の研究が医学、数学、物理学にまたがる学際的研究 であり、脳波研究には、医師、測定技師、理論家の三者の緊密な連帯なしには成果 をあげられないことは認め、その余の事実は否認する。 同二項5の事実は否認する。 同二項6のうち、本件研究会の会員の研究により、文献①ないし⑪が発表された ことは認め、その余の事実は否認する。本件研究会では、研究や論文に著者として 記名されていても、その者がそれに著作権を主張しうる程の寄与をしているとは限 らない。 同二項6の(1)の事実は認める。 同二項6の(2)のうち、後段の、文献②が二個及び四個のファンデルポール方 程式の結合系に対して、パラメーターを制御することにより脳波現象が説明できる ことを計算機実験で示したことは否認し、その余の事実は認める。 同二項6の(3)(4)の事実は認める。 同二項6の(5)のうち、文献5の後半で計算機実験が示されたとの部分は否認 し、その余の事実は認める。 同二項6の(6)(7)の事実は認める。 同二項6の(8)のうち、文献⑨が原告主張の国際会議での講演の抄録であるこ と及びその内容のうち(1)の部分は認め、その余の事実は否認する。文献⑨は、 被告が被告自身で具体的に解析を行った結果をまとめてロサンゼルスでの国際会議 の講演の抄録として昭和五二年三月三一日に作成したものであるが、この国際会議 の時期に被告が急遽イギリスへ留学したため、原告が講演を代行したものである。 同二項6の(9)(10)の事実は認める。 三 同三項1の事実は認める。 三月三一日に作成したものであるが、この国際会議 の時期に被告が急遽イギリスへ留学したため、原告が講演を代行したものである。 同二項6の(9)(10)の事実は認める。 三 同三項1の事実は認める。 同三項2の(1)ないし(4)のうち、第一論文にその旨の記載があることは認 め、その余の事実は否認する。 同三項3の(1)の事実は認め、(2)の事実は否認する。 同三項4の事実は否認する。 同三項5の(1)ないし(4)のうち、第二論文にその旨の記載があることは認 め、その余の事実は否認する。 同三項6の(1)のうち、第二論文に文献①ないし⑪のうち文献②⑨のみが引用 されていること及び第一論文発表後原告の抗議に対し被告が「学会のアブストラク トは引用しないのが慣例である。」と答えたことは認め、その余の事実は否認す る。(2)(3)の事実は否認する。 同三項7の事実は否認する。 四 同四項1の事実は知らない。2、3の事実は認める。 五 同五項1、2の事実は否認する。 第四 抗弁及び主張 一 著作物に非該当 1 原告は、文献①ないし⑪の内容のうち、「ウイルソン・コーワン模型からファ ンデルポール方程式等の偏微分方程式を導き出すアイデア」が著作権の保護対象で あると主張しているものと解される。 2 しかしながら、アイデア自体は著作権保護の対象とならない。 二 万人が自由利用できる科学的知見 1 自然科学の知見ないし法則・真理は万人が自由に利用できるものであり、これ には著作権は及ばない。空間分布のない場合とある場合の両方とも、ウイルソン・ コーワン模型から連立ファンデルポール方程式を導くための簡単化は、第一、第二 論文作成当時、既に知られた自然科学知見ないし法則となっていた。 2 また、第一、第二論文に記載の数式やその展開形式は、いずれも自然科学上の 知見ないし法則である。 3 を導くための簡単化は、第一、第二 論文作成当時、既に知られた自然科学知見ないし法則となっていた。 2 また、第一、第二論文に記載の数式やその展開形式は、いずれも自然科学上の 知見ないし法則である。 3 したがって、仮に、文献①ないし⑪につき原告主張の著作権があったとして も、第一、第二論文は自然科学的知見ないし法則を利用したものであり、原告の著 作権に抵触しない。 三 原告のプライオリティーの不存在 1 第一論文は、ウイルソン・コーワン方程式を興奮性及び抑制性の神経集団が多 数ある場合に拡張して相互に結合したファンデルポール方程式を導出したことに意 義を有する論文である。 2 他方、原告が著作権を主張するのは空間分布のないウイルソン・コーワン模型 からファンデルポール方程式を導くことであるが、空間分布のないウイルソン・コ ーワン方程式から、よく知られたテーラー展開という方法を用いて簡単化すること は大学の学生でもわかる程度のことであり、このことについて、原告にプライオリ ティーがあるとはいえない。 3 第二論文は、空間分布のあるウイルソン・コーワン方程式を簡単化している が、この方程式は単なる微分方程式ではなく微積分方程式であるので、微分方程式 である空間分布のない場合ほど単純に簡単化はできず、たたみ込み積分に独立変数 の変換を導入することによって、はじめて拡散項を含む微分方程式に簡単化できる のである。被告は、このアイデアを昭和五一年六月一六日に発見している。原告が このアイデアを被告以前に発見したとは聞いたことがない。 4 したがって、そのプライオリティーが原告にないことは明らかであり、被告が 原告のアイデアを剽窃したものではない。 四 自由利用の包括的許諾 1 本件研究会は、原・被告が参加する以前の昭和四四年九月ころ【A】の主宰に より始められたものであるが、【A】は 明らかであり、被告が 原告のアイデアを剽窃したものではない。 四 自由利用の包括的許諾 1 本件研究会は、原・被告が参加する以前の昭和四四年九月ころ【A】の主宰に より始められたものであるが、【A】は、昭和五三年六月ころ以来、博士号をもっ ていない会員が博士論文を書くにつき、研究会で出たアイデア・示唆・論文等を他 の会員のその都度の了解を得ることなく、引用することなく、自由に利用できるよ うにしようと度々提言し、他の会員全員もこれを了解していた。そして、博士論文 の場合に限らず、会員の誰もが研究会の成果を個人で自由に発表でき、他の会員の 論文等を自由に利用できることは、昭和五四年六月にも会員の間で確認された。 2 原告は、昭和五四年九月にオーストリアのシュラドミングで行われた国際学会 において、本件研究会の成果を踏まえて、被告の了解を得ることなく、原告単独名 で、Dynamic Aspects of Cortical Rhythmi c Activities(仮訳・大脳皮質のリズム活動の動的諸相)を講演し、 これを昭和五八年に京都大学理学部紀要に発表した。右論文の内容は原・被告ら五 名の共同研究に基づくものであるので、会員全員の名前が掲記されて然かるべきも のであったが、これが原告の博士論文として発表されたと考えた他の会員は、原告 単独名の発表に何ら違和感をもたなかった。 3 昭和五六年一〇月末に本件研究会が解散した際にも、会員は研究会の成果を踏 まえて発表された論文等につき、その著者名が誰であるかにかかわりなく、他に対 するその都度の了解を得ることや引用をすることなく自由に利用することを互いに 許諾した。 五 共同名義での発表の拒絶 1 被告は、第二論文の原稿を研究会の会員に配付したところ、原告から「中途半 端だ」と批判され、直ちには論文発表ができなかった。そのあと、原告 用することを互いに 許諾した。 五 共同名義での発表の拒絶 1 被告は、第二論文の原稿を研究会の会員に配付したところ、原告から「中途半 端だ」と批判され、直ちには論文発表ができなかった。そのあと、原告はこの原稿 に関連してはなんら研究を進めていない。 2 これは、原告が被告の第二論文につき共同名義で発表することを自ら拒絶した といえる。 3 そこで、被告は研究会解散後に、【A】、【B】と連名で第二論文を発表した ものである。 第五 抗弁及び主張に対する認否 右一ないし五項の事実はいずれも否認する。 第六 証拠(省略) 理 由 第一 当事者及び原・被告らの共同研究について 一 請求原因一項1、2の事実、研究や発表が原・被告ら五名の共同研究としてな されたことを除く同二項1の事実、同二項2の事実、同二項4のうちこれらの研究 が、医学、数学、物理学にまたがる学際的研究であり、脳波研究には、医師、測定 技師、理論家の三者の緊密な連帯なしには成果をあげられないことは当事者間に争 いがない。 二 証人【A】の証言、原告本人尋問の結果によれば、【A】は医師として、大阪 府守口市で野川病院を経営するかたわら、昭和四四年ころから研究者を集めて、脳 波の分析に関する文献の研究を手始めに野川病院における脳波測定技術を活用し脳 波の測定及び解析等に関する共同研究を主宰していたものであるが、原・被告も昭 和四七年ころ相前後してこの共同研究に加わり、ここに原・被告ら五名の共同研究 が始められ、主として【B】が野川病院で脳波の測定・採取をなし、【A】が医学 的見地から脳波の生理的検討をなし、原・被告と【C】が脳波の数理的解析にあた り、原・被告はこの数理的解析のため京都大学数理解析研究所の大型電子計算機を 活用し、共同研究を行い、別紙四の業績目録記載の研究論文及び学会発表は原・被 告が 、原・被告と【C】が脳波の数理的解析にあた り、原・被告はこの数理的解析のため京都大学数理解析研究所の大型電子計算機を 活用し、共同研究を行い、別紙四の業績目録記載の研究論文及び学会発表は原・被 告が加わった以後の原・被告ら五名の共同研究の成果であり、これらは一部の例外 を除き原・被告ら五名の連名で発表されてきたものと認められる。 もっとも、証人【A】の証言、被告本人尋問の結果によれば、この研究会はおお むね週一回夕刻から野川病院で行われ、各自がその専門的立場からその分野につい て自由な発言をするに終始していたもので、各自他に本業をもっていたため五名が 定刻に出席するとは限らず、全員が揃わないままで随時研究上の報告や発言がなさ れ、毎回の研究内容が予め決められておらず、毎回の研究討議の記録は取らず、学 会報告等の作成にあたっても分担執筆はせず指定された特定の人が一人で執筆して いたものであり、共同研究の主体としての結果は強固とは言えないが、研究内容 が、医師、測定技師、理論家の共同作業なしには成立しえないものでかつ毎年の日 本ME(Medical Electronics)学会及び日本脳波・筋電図学 会に原・被告ら五名の名義でその共同研究として学会発表をし、その原稿は事前に 研究会の席で会員の閲覧に供されていたものと認められるので、この共同研究の成 果は原・被告ら五名の共有と解するのが相当である。 三 成立に争いのない甲第三ないし一三号証によると、別紙四の業績目録記載の文 献①ないし③、⑤、⑦ないし⑪は原・被告ら五名連名、文献④は被告を除く四名連 名、文献⑥は無記名のものと認められる。右甲第六号証及び被告本人尋問の結果に よると、文献④は被告が原・被告ら五名の共同研究の成果に基づき鹿児島の日本生 理学会でした講演の抄録であり、被告が中心になって準備したものであるので、被 告 られる。右甲第六号証及び被告本人尋問の結果に よると、文献④は被告が原・被告ら五名の共同研究の成果に基づき鹿児島の日本生 理学会でした講演の抄録であり、被告が中心になって準備したものであるので、被 告も共同研究者の一員として記名さるべきものであると認められ、また、右甲第 七、八号証、原告本人尋問の結果によると、文献⑥は原・被告ら五名連名で発表さ れた文献⑤の学会講演の審査用原稿であることからして、元来原・被告ら五名の名 前が掲記されるべきものと認められ、いずれも原・被告ら五名の共同原告の成果で ある。 第二 文献①ないし⑪の形式・内容とその著作物性 一 文献①ないし⑪の形式と内容 1 文献①が昭和五一年六月に仙台で行われた日本生理学会における原告の講演の 抄録であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証によれば、 文献①は、脳波活動のモデルとして非線形微分方程式(ファンデルポール方程式) をたててその数理解析によって脳波活動の再現及び解析が可能であるということを 講演で明らかにする旨の講演骨子を簡略に示したものであるが、ウイルソン・コー ワン模型からファンデポール方程式が導かれる解析内容や非線形微分方程式(ファ ンデルポール方程式)及びパラメーター制御の実質内容については全く触れていな いものと認められる。 2 文献②が、原告が昭和五一年八月にオタワの国際ME学会で行った講演の予稿 集に登載され、ウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方程式が導かれる 過程を論じたもので、神経活動の不応期の効果を考慮するとヴォルテラ項が出現す ることから、簡単化された方程式は一般化されたリエナール型微分方程式或いは一 般化されたヴォルテラ型微分方程式の形式に分類されることを指摘し、それらの最 も簡単な場合にはファンデルポール方程式に帰着することを明らかにしたものであ る は一般化されたリエナール型微分方程式或いは一 般化されたヴォルテラ型微分方程式の形式に分類されることを指摘し、それらの最 も簡単な場合にはファンデルポール方程式に帰着することを明らかにしたものであ ることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証によれば、文献②は 英文の学会発表用の小論文形式のものであり(末尾にフランス語のレジュメがつい ている)、ウイルソン・コーワン模型の非線形連立微分方程式を簡単化してテーラ ー展開しファンデルポール方程式を導き出す過程を数式をもって説明し、その最後 の部分で一成分の場合と三成分の場合におけるαリズムと誘発電位の波形を図示し たものと認められる。 3 文献③が、原告が同年一一月に福岡の日本脳波・筋電図学会で行った講演の予 稿集に登載された予稿であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第 五号証によれば、文献③は日本語で書かれたもので、抑制性と興奮性のニューロン 集団の活動をファンデルポール方程式にしてこれを解析し、脳波を分析しようとす ること、神経モデルとしてのウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方程 式を導き出せること等の講演項目が簡略に記載されているにとどまり、方程式の内 容や導出の過程については全く記述がないものと認められる。 4 文献④が昭和五二年四月に鹿児島の日本生理学会で行われた講演の抄録である ことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証及び被告本人尋問の結 果によれば、文献④は、オン・オフ(On・Off)光刺激による誘発電位の実験 結果の解析の結論のみが記載されたものであり、実験内容やその解析の方法・内容 については全く記述がないものと認められる。 5 文献⑤が、原告が昭和五二年四月に東京の日本ME学会で行った講演の抄録で あり、文献⑥はその学会講演の可否を決める審査用原稿であること、 解析の方法・内容 については全く記述がないものと認められる。 5 文献⑤が、原告が昭和五二年四月に東京の日本ME学会で行った講演の抄録で あり、文献⑥はその学会講演の可否を決める審査用原稿であること、文献⑤の前半 が、文献②と同じく、ウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方程式が導 かれる過程を論じたものであり、後半は、空間相互作用をもつウイルソン・コーワ 方程式から拡散項が導出できること、大脳皮質の視覚野のモデルに対してはフィッ チュー・南雲方程式が導き出せること、投射経路のモデルに対しては空間の一階微 分項を含むコルモゴロフ方程式が導き出せることを示したものであることは、当事 者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七、八号証によればこれらは日本語によ る学会発表用の小論文形式のものであり、抑制性と興奮性の二種類のニューロン集 団の力学を定式化したウイルソン・コーワン模型から、いくつかの条件のもとに簡 単化してファンデルポール方程式を導き出す過程を数式を掲げて記述し、さらに、 空間相互作用をもつウイルソン・コーワン模型を非線形微分方程式の立場から解析 してフィッチュー・南雲方程式と同一の結果を導き出せることを数式を掲げて記述 しているものであるが、計算機実験の経過、結果の記述はないものと認められる。 6 文献⑦が、原告が昭和五二年七月に箱根の「性格・行動と脳波」研究会で行っ た講演の抄録であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第九号証に よると文献⑦は日本語で書かれ、興奮性と抑制性の二種類のニューロンからなる神 経回路網モデルから平均活動度がみたす非線形微分方程式を導き、脳波(特にαリ ズム)との関係を論ずる等の講演骨子が記載されているにすぎず、論証の記述はな いものと認められる。 7 文献⑧が原告が昭和五二年九月にアムステルダムの国際脳波学会で行った講 方程式を導き、脳波(特にαリ ズム)との関係を論ずる等の講演骨子が記載されているにすぎず、論証の記述はな いものと認められる。 7 文献⑧が原告が昭和五二年九月にアムステルダムの国際脳波学会で行った講演 の抄録であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一〇号証による と、文献⑧は英語で書かれ、ウイルソン・コーワン模型から非線形微分方程式を導 くこと、空間的に局在する神経集団が単一の特異点をもつとき模型の基礎方程式は 活動が低い水準にあるか、高い水準にあるかによって、フィッチュー型あるいはヴ ォルテラ・ロトカ型の非線形連立微分方程式に還元され、前者は不安定な特異点を 一つもつときファンデルポール方程式になること、ファンデルポール型あるいはヴ ォルテラ型の方程式のリミットサイクル振動はαリズムのペースメーカーに対応す るものと考えられること、空間的に分布して相互作用する神経集団の一次元模型は 南雲型の非線形偏微分方程式を生み出すこと、二次元投射形への拡張はコルモゴロ フ型の非線形偏微分方程式を生み出すこと等を論ずる旨の講演の骨子が記載されて いるにすぎず、論証過程の記述はないものと認められる。 8 文献⑨が昭和五二年一一月にロサンゼルスの医学生物学工学会議で行われた講 演の抄録であり、(1)空間相互作用をもつウイルソン・コーワン方程式を簡単化 してフィッチュー・南雲方程式を導き出すことを内容としていることは当事者間に 争いがなく、成立に争いのない甲第一一号証及び原・被告各本人尋問の結果による と、右会議には当初被告が本件共同研究を代表して出席して発表する予定で、文献 ⑨の原稿も被告が執筆作成したものであるが、被告がイギリスへ留学したため、原 告が代わって右会議に出席して学会発表をしたものであり、文献⑨は英文で書か れ、右争いのない(1)の内容のほか、(2)フィッチュ の原稿も被告が執筆作成したものであるが、被告がイギリスへ留学したため、原 告が代わって右会議に出席して学会発表をしたものであり、文献⑨は英文で書か れ、右争いのない(1)の内容のほか、(2)フィッチュー・南雲方程式からはリ ミット・サイクル振動をする波動群を表すときの包絡線方程式を導くこと、(3) 脳波活動の振幅のゆっくりした変調は包絡線方程式の性質で説明できること等を明 らかにした学会発表用の小論文形式のものであるものと認められる。 9 文献⑩が、【A】が昭和五二年一一月に仙台の日本脳波・筋電図学会で行って 講演の予稿集に登載された予稿であることは当事者間に争いがなく、成立に争いの ない甲第一二号証によると、文献⑩は日本語で書かれたもので、種々の照度の連続 光刺激に基因する誘発電位の測定結果から光刺激強度と誘発電位との対応関係を考 察すると、誘発電位のLatency及び振幅に有意差が認められ、生体の刺激受 容プロセスの解明に役立つと考えられること等の講演の骨子が記載されているにと どまり、その内容まで記述したものではないものと認められる。 10 文献⑪が原告が右と同じときに右学会で行った講演の予稿集に登載された予 稿であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一三号証によると、 文献⑪は日本語で記載され、興奮性と抑制性の二種のニューロンからなる神経回路 網モデルから非線形微分方程式を導き、脳波(特にαリズム)との関係を論ずる等 の講演の骨子を記載したにとどまり、その内容まで記述したものではないものと認 められる。 二 文献①ないし⑪の著作物性 そうすると、文献②⑤⑥⑨は、原・被告ら五名の共同研究の成果をその時々にお いて取りまとめた学会発表用の小論文形式のもの及び審査用原稿、文献③⑩⑪は 原・被告ら五名の共同研究に基づく学会講演の予稿、文献①④⑦⑧は原・被告ら ⑥⑨は、原・被告ら五名の共同研究の成果をその時々にお いて取りまとめた学会発表用の小論文形式のもの及び審査用原稿、文献③⑩⑪は 原・被告ら五名の共同研究に基づく学会講演の予稿、文献①④⑦⑧は原・被告ら五 名の共同研究に基づく学会講演の抄録であり、文献①ないし⑪はいずれも思想を創 作的に表現したもので、学術の範囲に属するものといえるから、原・被告ら五名の 研究から生じた共同著作物で、原告は共同著作者としてこれらにつき著作権を他の 四名とともに共有し、著作者人格権を有しているものと認められる。 もっとも文献①③④⑦⑧⑩⑪は講演の内容そのものを記述したものではなく、単 に講演の骨子だけを示した予稿あるいは抄録に過ぎないので、著作権の対象はその 簡略な記述そのものに限定されざるを得ないが、いずれも書面に記載された学術の 創作的表現であるから、その限度で著作権が発生することは否定できない。 なお、講演自体も著作物性をもつが、右各講演の内容そのものは記録されておら ず、甲第三六号証が文献②に関するオタワの国際会議での講演の台本であるほか は、右予稿、抄録以外のことは明らかではなく、本件においては講演自体の著作権 は審理の対象となっていない。 三1 被告は、原告が著作権の保護対象として「ウイルソン・コーワン模型からフ ァンデルポール方程式等の偏微分方程式を導き出すアイデア」を主張していると解 した上で、アイデアは著作権の保護対象とはならないと主張する。 しかし、原告が本件において著作権の保護対象として主張しているのが文献①な いし⑪に表現されたものであって単なるアイデアではないことは、前記原告の主張 自体から明らかであるから、被告の右主張は失当である。 2 ところで、著作権が保護対象としているのは、「思想……を創作的に表現した もの……」(著作権法二条一項一号)であって思想それ自体 前記原告の主張 自体から明らかであるから、被告の右主張は失当である。 2 ところで、著作権が保護対象としているのは、「思想……を創作的に表現した もの……」(著作権法二条一項一号)であって思想それ自体ではないが、科学研究 の著作物は、一般に、ある主題を設定し、その主題につき理論或いは実験結果に基 づき論証の筋道を分析・総合して構成し、これを言葉・文字・数式等によって表現 して成るけれども、その性質上文学作品等とは異なり、言葉・文字等の表現手段の 用法には余り創作的個性がないのが通常である(数式も、既成の方程式等は言葉や 文字などと同じ表現手段の一つにすぎない。)反面、論証の筋道の構成が著作者の 創作性を示すものとして重要な地位を占める。 3 したがって、科学研究の著作物について著作権侵害の有無を判断するにあたっ ては、単に外形上の表現の異同を検討するだけではなく、表現された内容の実質的 異同をも検討しなくてはならない。4 そこで、以下においては、以上の見地にし たがって、第一、第二論文が文献①ないし⑪の著作権を侵害するものであるか否か を検討する。 第三 被告の第一、第二論文について 一 請求原因三項1の事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一、二 号証によると、第一、第二論文とも英文で作成されているものと認められる。 二 第一、第二論文発表の経緯 成立に争いのない甲第二八号証、同第三〇、三一号証、乙第二八号証、被告本人 尋問の結果によって成立の認められる乙第二二号証、同第二三号証の一、二、同第 二九、三〇号証、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、被告は、原・被告 ら五名の共同研究によって空間分布のない興奮性及び抑制性の神経集団のウイルソ ン・コーワン模型からファンデルポール方程式を導くことができることが解析さ れ、文献②⑤⑨等で公表されたあと、さらに空間 被告 ら五名の共同研究によって空間分布のない興奮性及び抑制性の神経集団のウイルソ ン・コーワン模型からファンデルポール方程式を導くことができることが解析さ れ、文献②⑤⑨等で公表されたあと、さらに空間分布のないウイルソン・コーワン 模型から興奮性及び抑制性の神経集団が複数の場合にも結合ファンデルポール方程 式が導出できることを解析し、これらのことを第一論文にまとめ、原告の了解は求 めないまま自己の単独名の著作として、西ドイツのバイオロジカル・サイバネティ クス誌に投稿し、レフリーの閲読(その分野の専門家による査閲)を経て昭和五五 年六月一六日受理され、同誌三九号(一九八〇年)に掲載されたこと、これとは別 に、被告は空間分布のある興奮性及び抑制性の神経集団のウイルソン・コーワン模 型から拡散項を導出し、フィッチュー・南雲方程式が導けることを解析し、イギリ ス留学中の昭和五三年春ころに第二論文の基礎となった英文の手書き原稿(甲第二 八号証)を野川病院に送り、原・被告ら五名の共同研究として発表することを提案 したが、原告から修正意見が提出されたため、翌年ころこれに包絡線方程式の部分 を付加したタイプ原稿(乙第二九号証)を作成して野川病院で原告らに示したが、 中途半端であると原告から批判されたためそのときは公表に至らず、昭和五六年一 〇月の研究会解散後第二論文の原稿を完成させ、原告の了解は求めないまま 【A】、【B】と三名連名で、バイオロジカル・サイバネティクス誌に投稿し、レ フリーの閲読を経て昭和五八年一月二一日受理され、同誌四八号(一九八三年)に 掲載されたこと、なお、第二論文の末尾の謝辞の欄には、この研究の初期の原告及 び【C】の有意義な議論に感謝すること及びこの研究の一部は著者らが原告、 【C】と共同研究をしているときに開始されたものであるとの記載がなされている こと、以上 尾の謝辞の欄には、この研究の初期の原告及 び【C】の有意義な議論に感謝すること及びこの研究の一部は著者らが原告、 【C】と共同研究をしているときに開始されたものであるとの記載がなされている こと、以上の事実が認められる。 三 第一論文の内容と著作権等の侵害の成否 1 成立に争いのない甲第一号証と、同第三ないし一三号証とを対比すると、次の (1)ないし(6)の事実が認められる。 (1) 第一論文は、その要旨冒頭において、「興奮性及び抑制性の神経集団の力 学に関するウイルソン・コーワン模型を拡張して、相互に結合したファンデルポー ル方程式を導いた。」と記載している。 そこでまずこの部分の文献①ないし⑪との外形上の表現の異同について検討する に、文献①ないし⑪にはこれと同一の表現は見当たらない。もっとも、文献②に は、ウイルソン・コーワン模型を簡単化してテーラー展開し、リエナール型の非線 形微分方程式を導き出せば、その最低次の方程式はファンデルポール型になる旨の 記述があり、文献③には、「興奮性と抑制性の二種類のニューロンからなる神経回 路網の平均活動度がみたす非線形微分方程式を解析して、その神経回路網の時間・ 空間的ふるまいを述べて、実際の脳波及び脳の情報処理について論ずる。まず、視 床の神経モデルとして反回性抑制をもつ回路をつくり、それが自励振動状態(ファ ン・デア・ポール方程式)をとりうること。」との記述があり、文献⑥には、「反 回性抑制条件ae-ai〈-1といくつかの条件をおいて、①式〔註、ウイルソ ン・コーワン方程式のこと〕からファン・デア・ポール方程式を導いた。」との記 述があり、文献⑧には、「大脳皮質と視床の神経組織に対するウイルソン・コーワ ンの数学的模型(Kybernetik 1973年)から、それを近似する非線 形微分方程式を導いた。」との記述があり、文献⑨ 述があり、文献⑧には、「大脳皮質と視床の神経組織に対するウイルソン・コーワ ンの数学的模型(Kybernetik 1973年)から、それを近似する非線 形微分方程式を導いた。」との記述があり、文献⑨には、「この論文では、興奮性 及び抑制性の神経集団の力学に関するウイルソン・コーワン模型からいくつかの簡 単化した微分方程式を導く。」との記述があり、文献⑪には、「興奮性と抑制性の 二種のニューロンからなる神経回路網モデルから平均活動度がみたす非線形微分方 程式を導き、脳波(特にαリズム)との関係を論ずる。」との記述がある が、いずれも、第一論文と表現形式は同一ではない。 さらに、第一論文の表現と右認定の各文献の表現との実質的異同について検討す るに、右各文献は一成分の興奮性及び抑制性の神経集団を取扱ってファンデルポー ル方程式を導き出そうとするのに対し、第一論文はその記載から明らかなように、 多成分の興奮性及び抑制性の神経集団の修正されたウイルソン・コーワン模型から 連立ファンデルポール方程式を導き出す記述であり、両者の表現は実質的にも異な っている。 (2) 第一論文は、序説の後半の三分の一の部分で、「神経集団の適切な模型か ら結合振動子系を導きだせることを指摘することは価値がある。……非線系回路理 論や生物システム理論の中ですでに確立している諸結果や方法を利用して、生理学 的な変数と回路の係数を関係づければ、複雑な脳波現象でもよく理解できる」と記 載している。 そこでまずこの部分の文献①ないし⑪との外形上の表現の異同について検討する に、文献①ないし⑪にはこれと同一の表現は見当たらない。また、文献①ないし⑪ は結合振動子系の導出過程を論述したものではなく、両者の表現は実質的にも相違 している。 (3) 第一論文は、第2節「2・1基礎方程式」において、ウイルソン・コー 現は見当たらない。また、文献①ないし⑪ は結合振動子系の導出過程を論述したものではなく、両者の表現は実質的にも相違 している。 (3) 第一論文は、第2節「2・1基礎方程式」において、ウイルソン・コーワ ンの原論文の模型を要約し、「2・2簡単化」において、連立ファンデルポール方 程式を導くための簡単化の手順を記載している。 第一論文の(1)ないし(12)式は、文献②⑤の各式といずれも表現形式が相 違しているのみならず、数式の表現内容自体も既成の方程式を除けば同じとみられ るものはない。 (4) 第一論文は、「第2節」の「2・1基礎方程式」でウイルソン・コーワン の原論文の模型を要約した後、「2・2簡単化」において、連立ファンデルポール 方程式を導くための簡単化の手順として、ウイルソン・コーワン方程式から、シグ モイド曲線を用い、テーラー級数に展開し、連立ファンデルポール方程式を導くこ とを記載している。 文献②⑤⑥⑨もウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方程式を導くこ とを記述しているが、簡単化の内容の記述が簡略で、導出の過程を数学的に論証す ることを目的にしていないため、同一論文と文献②⑤⑥⑨とは、表現の上で、形式 的にも、実質的にも同一とはいえない。文献①③④⑦⑧⑩⑪には、ウイルソン・コ ーワン模型からファンデルポール方程式を導くための簡単化の手順の記載はない。 (5) 第一論文は、「第5節結語」において、「この論文の主要な論点は、多数 の相互作用する興奮性神経及び抑制性神経の部分集合に対する拡張したウイルソ ン・コーワン模型から連立ファンデルポール方程式が導かれることにある」と記載 している。 ウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方程式が導けることについて は、すでに本項(1)で認定のとおり、文献②③⑥⑧⑨にその趣旨の記載がある が、第一論文の右 れることにある」と記載 している。 ウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方程式が導けることについて は、すでに本項(1)で認定のとおり、文献②③⑥⑧⑨にその趣旨の記載がある が、第一論文の右結語の記載は、拡張されたウイルソン・コーワン模型から連立フ ァンデルポール方程式を導くことができることを記載したもので、文献②③⑥⑧⑨ の右記載とは、表現の上で形式的にも実質的にも相違している。 (6) 最後に、第一論文の構成と文献①ないし⑪の構成とを全体として比較検討 するに、第一論文は興奮性及び抑制性の神経集団の相互作用を二成分の場合に限定 し、拡張したウイルソン・コーワン模型から結合ファンデルポール方程式を導き、 二つの結合振動子系の相互作用を数学的に解析したものであるのに対し、文献②⑤ ⑥⑨(他の文献は前記のとおり主題が記載されているだけで構成の記載はない。) は、主として空間分布のない一成分のウイルソン・コーワン模型からいくつかの簡 単化したファンデルポール方程式が導き出せることの荒筋を記述したにとどまり、 数学的解析の論証を目的としていないので、両者の構成は異なるものである。 2 以上のとおり、第一論文と文献①ないし⑪とは構成及び表現をいずれも異にす るばかりでなく、主題も第一論文は文献①ないし⑪の主題から発展した主題を取り 扱うものといえるかもしれないが、別の主題を取り扱うものといえる。 3 そうだとすると、第一論文は文献①ないし⑪を複製もしくは翻案したものであ るとはいえない。 四 第二論文の内容と著作権等の侵害の成否 1 成立に争いのない甲第二号証と、前掲甲第四ないし一三号証を対比すると、次 の(1)ないし(5)の事実が認められる。 (1) 第二論文は、その「要旨」の部分において、「興奮性及び抑制性の神経系 の力学に関するウイルソン・コーワン模型から、いくつか いし一三号証を対比すると、次 の(1)ないし(5)の事実が認められる。 (1) 第二論文は、その「要旨」の部分において、「興奮性及び抑制性の神経系 の力学に関するウイルソン・コーワン模型から、いくつかの簡単な微分方程式を導 いた。」との主要な結論を記載している。 これとほぼ同一表現の記述は、文献⑨にあるが、その余の文献①ないし⑧、⑩⑪に はこの記述はなく、表現の上でこれと実質的に同一とみられるものもない。 (2) 第二論文は、「第1節序説」の後半で、「この論文ではウイルソン・コー ワン模型の簡単化を試みる。この模型はかなり包括的な事情を含んでいるが、解析 的に取扱うのは困難なので、もっと取扱いやすい微分方程式の形に直すわけであ る。そうすることによって、神経活動の全般的な振る舞いが、微分方程式論におい て、すでに確立した方法によって予見できるようになり、さらには、ある特定の神 経機序や脳波のもつ(生理学的)意味をもっとよく理解することができるであろ う。」と記載している。 文献①ないし⑪には、表現形式の上でこれと同一の記述はない。もっとも、文献 ⑧には、「大脳皮質と視床の神経組織に対するウイルソン・コーワンの数字的模型 (Kybernetik 1973年)から、それを近似する非線形微分方程式を 導いた。多様な脳波現象の理解を深めるために、得られた微分方程式を基礎にし て、神経組織の模型の力学を研究した。」との記述があり、文献⑨には、「簡単化 した方程式(2)あるいは(3)、またそれを一般化した方程式は、脳波現象の理 論的並びに実験的研究において有益である。」との記述がある。また、文献⑤⑥⑨ は、それぞれ、全体の記述からみて、ウイルソン・コーワン模型の簡単化により複 雑な脳波現象を説明し、生理学的意味を解明しようとしたものであることは明らか である。しかしながら、これらの記 た、文献⑤⑥⑨ は、それぞれ、全体の記述からみて、ウイルソン・コーワン模型の簡単化により複 雑な脳波現象を説明し、生理学的意味を解明しようとしたものであることは明らか である。しかしながら、これらの記載は以下の論述の前提となる記述にすぎないか ら、これだけを取り上げて表現が実質的に同一か否かを論ずることは意味がない。 (3) 第二論文は、「第4節簡単化した方程式の導出」において、ウイルソン・ コーワン模型の方程式の簡単化の手順を数学的に記載し、「第5節簡単化した微分 方程式の例」でフィッチュー・南雲方程式と数学的に同等な連立方程式を導出する 過程を数学的に記載している。 文献⑤⑥⑨は、この点に関しては、表現の上で、形式的にも実質的にも第二論文 と同一といえる記載はない。第二論文の(30)、(31)式は、文献⑨の(2) 式と表現上ほぼ同一であるが、これは既成の方程式である。 (4) 第二論文は、「第7節結論」で「この論文の主要な結論は、簡単化のため のいくつかの近似の下では、空間的に(分布して)相互作用する興奮性及び抑制性 の神経集団に対するウイルソン・コーワン模型は、反応-拡散型、フィッチュー・ 南雲型、BVP型そしてファンデルポール型などの単純な微分方程式に還元できる ことである。」と記載している。 ウイルソン・コーワン模型からフィッチュー・南雲型、の方程式が還元できるこ とは、文献⑤⑥⑧⑨にその記述があるが、これらはいずれも還元に至る手順を数学 的に論証したものではないので、第二論文の表現は、形式的にも実質的にもこれら と相違している。 (5) 最後に、第二論文の構成と文献①ないし⑪の構成とを全体として比較検討 するに、文献①ないし⑪のうちウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方 程式を導く記述はいずれも空間分布のないウイルソン・コーワン模型即ち微分方程 式を 文献①ないし⑪の構成とを全体として比較検討 するに、文献①ないし⑪のうちウイルソン・コーワン模型からファンデルポール方 程式を導く記述はいずれも空間分布のないウイルソン・コーワン模型即ち微分方程 式をテーラー展開という方法で簡単化しファンデルポール方程式を導くというもの であるのに対し、第二論文は空間に分布した複数の興奮性及び抑制性の神経集団の 相互作用を取り入れたウイルソン・コーワン模型の微積分方程式を対象として、こ れに独立変数を導入して簡単化し拡散項を導き、フィッチュー・南雲型その他のフ ァンデルポール方程式に還元するというものであり、両者は主題及び構成を異にす るものである。 2 以上のとおり、第二論文は一部分において文献⑨と表現をほぼ同一にする部分 があるものの、それ以外では文献①ないし⑪とは、主題、構成及び表現を異にして いるものということができる。 3 そして、文献⑨ついては、第二論文にこれが引用されていることは、当事者間 に争いがない。したがって、右引用が適正なものであれば第二論文は、文献①ない し⑪を複製もしくは翻案したものであるとはいえない。 五 文献の引用 1 前示のとおり、第一、第二論文とも、英文で書かれ、レフリーの閲読を経て、 西ドイツの専門雑誌に掲載された科学論文である。 2 成立に争いのない乙第二五、二六号証、証人【C】の証言、被告本人尋問の結 果によると、科学論文の公表(出版掲載)には、オリジナルな研究結果の最初の出 版であり、その分野の専門家の閲読を経ているもので、学界内で容易に利用できる 雑誌あるいは原記録であることが要請され、他方、学会・国際会議での発表や会議 録は専門家の閲読を経ていないので、厳密な意味では科学論文とは認められず、こ のため、科学論文には学会・国際会議での発表や会議録は引用しないという慣行が あるものと認められる。 際会議での発表や会議 録は専門家の閲読を経ていないので、厳密な意味では科学論文とは認められず、こ のため、科学論文には学会・国際会議での発表や会議録は引用しないという慣行が あるものと認められる。 そうすると、公刊されたものであっても学会発表や会議録にすぎないものを科学 論文に参考文献として引用しなかったからといって、不当視することはできない。 文献①③④⑦⑧⑩⑪はそれ自体が論文とはいえず、文献⑥は公刊されたものでは ないし、文献②⑤⑨も学会発表のためだけのものにすぎないので、いずれも、第 一、第二論文に参考文献として引用すべきものとはいえない。したがって、第一論 文に文献①ないし⑪が全く引用されていないこと、第二論文に文献②⑨以外のもの が引用されていないことは、それ自体をもって違法というべきでない。 3 文献⑨は第二論文に引用されているものであるが、前掲甲第二号証の記載から みて、その引用の方法は著作権法三二条の規定に適合し、適正なものと認められ る。 第四 結論 そうすると、第一論文は文献①ないし⑪を複製もしくは翻案したものと認め難 く、第二論文も文献⑨を除いて右各文献を複製もしくは翻案したものと認め難く、 かつ、第二論文は文献⑨を適正に引用しているのであるから、結局被告は文献①な いし⑪について、原告の著作権、著作者人格権を侵害したものとはいえない。 よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負 担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官 露木靖郎 井土正明 住友俊美) 別紙一~四(省略)
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