主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 東村山税務署長が原告に対し平成18年3月28日付けでした,平成▲年▲月▲日開始の被相続人をAとする相続に係る相続税の更正処分(ただし,平成18年8月8日付け異議決定及び平成19年8月9日付け裁決による一部取消し後のもの)のうち,納付すべき税額2430万9200円を超える部分を取り消す。 東村山税務署長が原告に対し平成18年3月28日付けでした,上記1の相続税の更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,平成18年8月8日付け異議決定及び平成19年8月9日付け裁決による一部取消し後のもの)を取り消す。 第2事案の概要本件は,相続開始時に特別医療法人に貸借されていた別紙1物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)に係る被相続人の共有持分(3分の1)の時価(相続税法22条)につき,その相続人(相続分2分の1)である原告が,財産評価基本通達(昭和39年直資56,直審(資)17。平成16年課評2-3ほかによる改正前のもの)25(1)の貸宅地の評価に関する定めに基づき,自用地として評価した価額から借地権割合70%相当額を控除した後の価額を評価額として,相続税の申告をしたところ,東村山税務署長が,土地の無償返還に関する届出書(以下「無償返還届出書」という。)が提出されている場合の貸宅地の評価に関する特例を定める通達の定め(「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年直資2-58(例規),直評9。平成17年課資2-4ほかによる 改正前のもの。以下「相当地代通達」という。)8)に基づき,自用地として評価した価額の80%相当額を評価額として,相続税の更正処 60年直資2-58(例規),直評9。平成17年課資2-4ほかによる 改正前のもの。以下「相当地代通達」という。)8)に基づき,自用地として評価した価額の80%相当額を評価額として,相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をしたため,原告が,上記各処分はいずれも違法であるとして,本件更正処分のうち原告の修正申告した納付税額を超える部分及び本件賦課決定処分(上記各処分のいずれも,異議決定及び裁決による一部取消し後のもの。後記1(8)を除き,以下同じ。)の取消しを求めている事案である。 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1)原告の祖父(被相続人Aの父)であるBは,昭和▲年▲月▲日,家督相続により,北多摩郡α(昭和42年1月1日市制施行後は,東京都田無市β)396番宅地859.50平方メートル(以下「分筆前396番の土地」という。),同所397番1宅地892.56平方メートル(以下「分筆前397番1の土地」という。)及び同所397番2宅地152.06平方メートル(以下「分筆前397番2の土地」という。)の各土地を取得した。 分筆前396番の土地は,昭和57年5月27日,同所396番1及び同番2の各土地に分筆され,さらに,同所396番1の土地は,同年10月20日,同所396番1及び同番3の各土地に分筆された。 また,平成3年9月12日,分筆前397番1の土地が,同所397番1,同番3及び同番4の各土地に分筆され,分筆前397番2の土地が,同所397番2,同番5及び同番6の各土地に分筆された(以下,これらの各分筆後の土地は,地番のみで表示する。)。 このうち,これらの分筆後の396番1,同番2,397番 れ,分筆前397番2の土地が,同所397番2,同番5及び同番6の各土地に分筆された(以下,これらの各分筆後の土地は,地番のみで表示する。)。 このうち,これらの分筆後の396番1,同番2,397番1及び同番2の各土地が,本件各土地である。 (以上につき,乙2から5までの各1・2) (2)昭和58年12月13日,B,C,D,E及びAを理事として,医療法人社団Fが設立された。同法人は,平成15年4月3日,特別医療法人社団Fに組織変更された(以下,その変更の前後を通じて「本件法人」という。)。DはBの妻であり,C及びAは,BとDとの間の子である。(甲6,乙6の2)(3)昭和61年10月31日,下記の建物が建築された。(乙7)記所在田無市β(ただし,平成13年1月21日合併により西東京市γに変更)397番地1(上記(1)の分筆後の397番1,同番3及び同番4),396番地3,同番地1及び同番地2(上記(1)の分筆後の396番3,同番1及び同番2),397番地2(上記(1)の分筆後の397番2,同番5及び同番6),395番地3,同番地5家屋番号397番1種類病院構造鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付7階建床面積1階1748.19平方メートル2階1785.08平方メートル3階1054.26平方メートル4階973.26平方メートル5階530.12平方メートル6階190.00平方メートル7階116.02平方メートル地下1階851.79平方メートル(4)Bは,昭和▲年▲月▲日死亡し,その妻であるD並びにその子であるA及びCが同人を相続し,本件各土地(ただし,上記(1)のうち平成3年の分 筆前のもの)につき,それぞれ共有持分3分の1を取得した。 (5)Dは,平成▲年▲月▲日死亡し,Cが,本件 にその子であるA及びCが同人を相続し,本件各土地(ただし,上記(1)のうち平成3年の分 筆前のもの)につき,それぞれ共有持分3分の1を取得した。 (5)Dは,平成▲年▲月▲日死亡し,Cが,本件各土地に係るDの共有持分を相続した。これにより,本件各土地に係るCの共有持分は,3分の2となった。 (6)C及びAと本件法人は,平成15年3月13日,所定の様式(後記2(2)イ参照)に従い,東村山税務署長に対し,本件各土地に関する無償返還届出書(以下「本件届出書」という。)を提出し,その際,その添付書類として,平成14年12月20日付け土地賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。)を添付した。(乙8,9)ア本件届出書には,所定の様式に従い,土地所有者であるC及びAが,本件法人に本件各土地及び395番3の土地を使用させるに当たり,将来本件法人から無償で土地の返還を受けることとなっていること及び土地の所有又は使用に関する権利等に変動が生じた場合には速やかに届け出る旨が記載されていた。(乙8)イ本件契約書には,C及びAが,本件法人に対し,西東京市γ395番3ほか4筆宅地1558.2平方メートルを,普通建物所有目的で,期間を平成15年1月1日から平成34年12月末日までの20年間,賃料を1か月93万5000円(1平方メートルについて600円)との定めで賃貸する旨の記載があった。(乙9)ウ本件契約書に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結する際,権利金の授受はされなかった。(乙9,12の1・2)(7)Aは,平成▲年▲月▲日死亡し,原告及びGが同人を相続した(以下,この相続を「本件相続」という。)。これに伴い,原告及びGは,本件各土地の共有持分6分の1をそれぞれ取得した。 (8)原告は,財産評価基本通達25(1)による本 ,原告及びGが同人を相続した(以下,この相続を「本件相続」という。)。これに伴い,原告及びGは,本件各土地の共有持分6分の1をそれぞれ取得した。 (8)原告は,財産評価基本通達25(1)による本件各土地(共有持分)の時価の評価を前提として,同年9月21日,別紙2「課税処分等の経緯」の「申 告」欄記載のとおり,本件相続に係る相続税の申告をし,平成17年12月27日,同別紙「修正申告」欄記載のとおり,相続税の修正申告をした。 これに対し,東村山税務署長は,相当地代通達8による本件各土地(共有持分)の時価の評価を前提として,平成18年3月28日,同別紙「更正処分」欄記載のとおり,本件更正処分及び本件賦課決定処分をした。 原告は,同年5月8日,同別紙「異議申立て」欄記載のとおり,これに対する異議申立てをし,同年8月8日,同別紙「異議決定」欄記載のとおり,本件更正処分及び本件賦課決定処分の各一部につき税額を減額する旨の異議決定を受け,同年9月4日,審査請求をし,平成19年8月9日,本件更正処分及び本件賦課決定処分(いずれも,上記異議決定による一部取消し後のもの)の各一部を取り消す旨の裁決を受けた。 (9)原告は,平成20年1月29日,本件訴訟を提起した。 (10)相当地代通達8による本件各土地(共有持分)の時価の評価を前提とする場合,本件相続に係る相続税の課税の根拠及び計算は,別紙3「課税の根拠及び計算」記載のとおりである。 関連通達(1)財産評価基本通達財産評価基本通達によれば,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引慣行があると認められる地域における借地権の価額は,その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に,その価額に対する借地権の売買実例価額,精通者意見価格,地代の額等を基として 金を支払う取引慣行があると認められる地域における借地権の価額は,その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に,その価額に対する借地権の売買実例価額,精通者意見価格,地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価することとされており(同通達27),借地権の目的となっている宅地(貸宅地)の価額は,その宅地の自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価することとされている(同通達25)。 (2)相当地代通達ア相当地代通達1は,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引慣行がある地域において,当該権利金の支払に代え,当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6パーセント程度の地代(以下「相当の地代」という。)を支払っている場合には,借地権を有する者については,当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱うものとしている。 イ平成13年課法3-57ほか「法人課税関係の申請,届出等の様式の制定について(法令解釈通達)」には,無償返還届出書の様式が定められており(乙15の1・2参照),土地所有者が借地権設定等の契約に際して将来借地人等から無償で土地の返還を受ける旨の合意をした旨の届出(以下「無償返還届出」という。)がその記載事項とされている。 相当地代通達5は,借地権が設定されている土地について,無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る借地権の価額は,零として取り扱うものとしている。 そして,同通達8は,借地権が設定されている土地について,無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は,当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価す そして,同通達8は,借地権が設定されている土地について,無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は,当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価するものとしている。 ウ相当地代通達7は,借地権が設定されている土地について,収受している地代の額が相当の地代の額に満たない場合の当該土地に係る貸宅地の価額は,当該土地の自用地としての価額から,その場合の借地権の評価に関する同通達4に定める借地権の価額を控除した金額(ただし,その金額が当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額を超える場合は,後者の金額)によって評価するものとしている。 (3)法人税基本通達(昭和44年直審(法)25(例規)) なお,法人税基本通達13-1-3は,法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において,これにつき通常収受すべき権利金を収受せず,しかも相当の地代の額に満たない額の地代しか収受しないときは,原則として権利金の認定課税(権利金相当額を贈与されたものと認定してこれに課税することをいう。以下同じ。)をすることとなるものとしているが,同通達13-1-7は,その場合でも,当該法人及び借地人等が遅滞なく無償返還届出書を提出したときは,同通達13-1-3にかかわらず,権利金の認定課税を行わず,当該借地権の設定等をした日の属する事業年度以後の各事業年度において,相当の地代の額から実際に収受している地代の額を控除した金額に相当する金額を借地人等に対して贈与したものとして取り扱うものとしている。 また,法人税基本通達13-1-14(1)は,借地人である法人が借地を返還するに当たり,通常立退料その他これに類する一時金(以下「立退料等」という。)を授受する取引慣行のある地域において,立退料等の授 た,法人税基本通達13-1-14(1)は,借地人である法人が借地を返還するに当たり,通常立退料その他これに類する一時金(以下「立退料等」という。)を授受する取引慣行のある地域において,立退料等の授受がされなかった場合でも,当該法人及び土地所有者が借地権の設定後遅滞なく無償返還届出書を提出しているときは,原則として行うべき立退料等の認定課税(立退料等相当額を贈与されたものと認定してこれに課税することをいう。以下同じ。)を行わないものとしている。 争点及び争点に関する当事者の主張の要旨本件の争点は,本件更正処分における本件各土地(共有持分)の時価(相続税法22条)の評価の相当性である。 具体的には,①本件各土地(共有持分)の時価の評価は,財産評価基本通達25(1),相当地代通達8又は相当地代通達7のいずれの評価方法によるべきか,②相当地代通達8の評価方法による評価の合理性(無償返還合意の私法上の効力と無償返還届出の税法上の評価との関係等)が争われている。 (被告の主張) (1)ア本件更正処分の適法性相当地代通達8の評価方法による本件各土地(共有持分)の時価の評価を前提とする場合,本件相続に係る原告の相続税の納付すべき税額は,別紙3「課税の根拠及び計算」記載第1の2(4)のとおり,3081万0400円であるところ,この金額は,本件更正処分に係る原告の相続税の納付すべき税額(別紙2順号8「審査裁決」欄の金額)と同額であるから,本件更正処分は,適法である。 イ本件賦課決定処分の適法性上記アのとおり,本件更正処分は適法であるところ,原告は,本件更正処分の基礎となった本件相続に係る原告の相続税の納付すべき税額を過少に申告した。したがって,国税通則法65条1項の規定に基づき,本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額650 件更正処分の基礎となった本件相続に係る原告の相続税の納付すべき税額を過少に申告した。したがって,国税通則法65条1項の規定に基づき,本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額650万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に100分の10の割合を乗じて算出した金額65万円(別紙2順号9「審査裁決」欄の金額)と同額の過少申告加算税を賦課決定した本件賦課決定処分は,適法である。 (2)本件各土地の評価の相当性ア相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価によると定めている。 そして,財産評価基本通達は,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)を支払う取引慣行があると認められる地域において通常支払われる標準的な地代を支払っている標準的な借地権についての評価の取扱いを示している。 イ他方,権利金の取引慣行のある地域において,権利金の支払に代えて,①通常支払われる地代の額に比して高額な地代(相当の地代)が支払われている場合又は②将来は無償で借地を返還する旨の合意をした上で借地を している場合など特殊な賃貸借契約により借地権の設定がされている場合については,相当地代通達が相続税の算定基礎となる土地の評価の取扱いを定めている。 このうち,借地権が設定されている土地につき,上記②の合意に係る無償返還届出書が提出されている場合については,同通達8が,貸宅地を,自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価することとしている。これは,無償返還届出書は,借地人と土地所有者との間の将来無償で借地を返還する旨の合意に係るものであり,当事者双方がこのような土地の無償返還の合意をし,それを課税庁に対し積 評価することとしている。これは,無償返還届出書は,借地人と土地所有者との間の将来無償で借地を返還する旨の合意に係るものであり,当事者双方がこのような土地の無償返還の合意をし,それを課税庁に対し積極的に表明して課税上の選択をしている以上,借地人にその借地権の価値が生じないこととして取り扱うことが当事者の取引の実態にかなうと考えられる一方で,無償返還届出書が提出されている場合でも,借地借家法等の制約を受け,また,相続等の時点で借地の返還がされるわけではなく,権利金の取引慣行のない地域の借地の価額についても20パーセントの借地権価額の控除が容認されていることとの権衡上,貸宅地の価額の評価については20パーセントを控除することが適当であるとの考えによるものである。 (3)原告の主張に対する反論ア原告は,無償返還の合意が借地借家法9条に違反する旨主張するが,同法の趣旨からすれば,権利金の取引慣行のある地域において,権利金を授受しないなど特殊な賃貸借契約を締結した当事者間に,同族会社とその役員や関係会社間等のように利害関係の一致する関係がある場合に,当該賃貸借契約の当事者双方が合意の上,当該土地の無償返還の合意をし,課税上の選択として無償返還届出書を提出しているときは,必ずしも借地人に不利益な特約であるとは考えられない。借地人に不利益な特約であるか否かは,当該借地に係る事実関係を総合して判断すべきであって,当事者間の関係,権利金に係る費用負担の回避,認定課税の回避等に係る利益も考 慮されるべきであり,無償返還届出書による課税上の合意が直ちに無効となるものではない。 イ相続人は,相続開始の時から,被相続人の一身に専属したものを除き,その財産に属した一切の権利義務を承継するものであり(民法896条),本件各土地の賃貸借契約に係る具体的 効となるものではない。 イ相続人は,相続開始の時から,被相続人の一身に専属したものを除き,その財産に属した一切の権利義務を承継するものであり(民法896条),本件各土地の賃貸借契約に係る具体的な権利関係は,当然に原告に承継されるものであるところ,本件各土地の賃貸借契約につき,無償返還届出書の提出により課税上の選択をして課税関係を確定させた当事者が,当該届出に係る合意が私法上無効であることを理由として課税関係における主張を行うことは,信義則に反し,又は借地権に関する課税制度を濫用するものであって,許されないと解すべきである。 (原告の主張)(1)本件各土地の評価ア本件各土地の地代の年額は,本件各土地の自用地としての価額の約3. 3パーセントで,固定資産税及び都市計画税の年額の約2.9倍であり,通常の地代といえる。そして,通常の地代による場合には,財産評価基本通達25によるものとされているから,本件各土地の評価は,本件各土地の借地権割合である70パーセントを控除した残額によるべきである。 イ被告は,無償返還届出書が提出されたことから,本件各土地の評価は,相当地代通達8によるべきである旨主張する。 しかしながら,まず,そもそも土地の返還に当たって,借地人が賃貸人に対し金員の請求をすることができる旨の法律上の規定は存在しないから,無償返還の合意は無意味であり,私法上の効力を有しない。 また,借地契約の更新が有効に拒絶されるか否かが問題となる場合に,賃貸人側の正当事由の有無の判断における補助的事情として,返還の対価の提供があるか否かが斟酌されることがあるが,仮に,無償返還の合意が,この意味での返還の対価の提供を不要とする旨の合意であるとすれば,そ れは,借地人に不利益な定めであるから,借地法11条及び借地借家法9条により無効である ことがあるが,仮に,無償返還の合意が,この意味での返還の対価の提供を不要とする旨の合意であるとすれば,そ れは,借地人に不利益な定めであるから,借地法11条及び借地借家法9条により無効である。 このように,無償返還の合意は私法上無意味又は無効であるから,その合意及び届出の有無によって税額計算の基礎となる財産の価額の評価に差異を設けている相当地代通達8の定めは不合理である。したがって,本件各土地をこれによって評価することは適当でない。 ウなお,相当地代通達においては,貸宅地の評価について,同通達8のみならず,同通達7の定めもある。同通達7の定め(同通達4の計算方法=自用地としての価額×借地権割合×{1-(実際に支払っている地代の年額-通常の地代の年額)÷(相当の地代の年額-通常の地代の年額)})は,通常の地代より高い地代が定められている借地権の価額は,通常の地代の定めのある借地権より廉価であり,実際に支払っている地代の額が相当の地代の額に達したときは借地権が無価値となるとするものであると考えられ,通常の地代の定めがある本件でも適用できるものである。したがって,仮に本件各土地を相当地代通達によって評価するとしても,同通達8ではなく,同通達7(同通達4の計算方法)によるべきであり,その計算結果は,財産評価基本通達25による場合と同じになる。 (2)被告の主張に対する反論仮に無償返還の合意が有効であったとしても,その基礎となる特殊な関係は,一身専属的で相続性がないから,本件相続により無償返還の合意は無効となったものと解すべきである。したがって,被相続人による無償返還の合意及び届出がされたことを理由として,本件各土地の価額を相当地代通達8により算定することはできない。 第3争点に対する判断 前記前提事実,甲5及び弁論の全趣旨によ て,被相続人による無償返還の合意及び届出がされたことを理由として,本件各土地の価額を相当地代通達8により算定することはできない。 第3争点に対する判断 前記前提事実,甲5及び弁論の全趣旨によれば,本件各土地は,借地権の設定に際してその設定の対価として権利金を支払う取引慣行があると認められる 地域に存在すること,本件各土地に係る本件賃貸借契約の締結に当たり,権利金の授受はされなかったこと,相当の地代とは土地の自用地としての価格の概ね6%をいうところ,本件賃貸借契約に係る地代はこれに満たなかったこと,本件賃貸借契約の当事者である本件法人(借地人)とC及びA(土地所有者)が,平成15年3月13日,東村山税務署長に対し,無償返還届出書を提出したこと,以上の事実が認められる。 被告は,このような事実関係の下で,本件賃貸借契約の当事者である本件法人とC及びAが,当該契約においては権利金の支払に代えて将来無償で借地を返還する旨の合意をした旨を記載した無償返還届出書を提出していることから,本件各土地は,相当地代通達8に従い,自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価すべきである旨主張する。 これに対し,原告は,借地の無償返還の合意が私法上無効であることを前提として,相当地代通達8の合理性を争い,財産評価基本通達25又は相当地代通達7により,本件各土地の評価は,自用地としての価額から,借地権相当額(借地権の価額の割合は70パーセント)を控除した金額によって評価すべきである旨主張する。 このように,本件では,借地権が設定されている土地の評価に関する通達の合理性及びその適用関係が争われているため,まず,借地権が設定されている土地の評価に関する法の定め及び各通達の内容について概観する。 (1)相続税の課税価格は,相続又は遺贈に 地の評価に関する通達の合理性及びその適用関係が争われているため,まず,借地権が設定されている土地の評価に関する法の定め及び各通達の内容について概観する。 (1)相続税の課税価格は,相続又は遺贈により財産を取得した者ごとに,その取得した財産の価額を基礎として算定されるところ,当該財産の価額は,当該財産の取得の時における時価によるとされており(相続税法22条),その時価の具体的な評価は解釈にゆだねられている。そして,ここにいう時価とは,当該財産の取得の時において,その財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されている(財産評価基本通達1参照)。 (2)アそして,財産評価基本通達は,前記前提事実のとおり,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行があると認められる地域においては,当該借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に,当該価額に対する借地権の売買実例価額,精通者意見価格,地代の額等を基として評定した割合を乗じて計算した金額を借地権の価額とし(同通達27),借地権の目的となっている宅地(貸宅地)の価額は,その貸宅地の自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価することとしている(同通達25)。 イこの取扱いは,次の(ア)ないし(ウ)の考察に基づき,借地権の設定に当たり権利金が支払われる取引慣行がある場合には,これを正常な取引条件ととらえ,これを当該借地の評価に反映する趣旨のものであると解される。 (ア)土地所有者が借地権の設定等により他人に土地を使用させる場合には,借地人が借地借家法の保護を受けて強い権利を有することになるほか,将来,土地の価額の上昇に応じて地代の値上げができるという保証がないこと等の理由から 権の設定等により他人に土地を使用させる場合には,借地人が借地借家法の保護を受けて強い権利を有することになるほか,将来,土地の価額の上昇に応じて地代の値上げができるという保証がないこと等の理由から,当該土地の価額(交換価値)がいわゆる底地価額(自用地としての価額から借地権価額を控除した金額)にまで低下してしまうという現象が生ずるため,地域により,借地権の設定等に際し,その設定の対価として相応の権利金を授受する取引慣行が存在することがある。 (イ)これを借地人の側からみると,借地権の設定に当たり権利金が支払われている場合には,土地所有者がこれに相当する土地使用の対価を取得していることから,地代の額がそれだけ低く定められ,借地人は,適正な土地使用の対価としての相当の地代を下回る地代を支払うことによって,当該土地を独占的に利用することができることとなる。 (ウ)このように,権利金の授受によって,賃借期間中,上記相当の地代と実際に支払う地代との差額に相当する経済的利益が借地人に帰属する ことになり,その反面,借地権の設定されている宅地の価額は,当該宅地の自用地としての価額よりも,借地権の価額(その実態は,土地の適正地代と実際に支払われる地代との差額に賃借権の存続期間を乗じた借地人に帰属すべき利益の額がこれに相当する。)だけ低く評価されることとなるという経済的実態が生じる。そこで,課税関係上も,上記の取引慣行を正常な取引条件としてとらえ,上記の経済的実態を当該借地の評価に反映させることが取引の実態に合致することになる。 ウそして,このように権利金の授受をする取引慣行が正常な取引条件であるとの前提に基づき,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行があると認められる地域であるにもかかわらず,権利金の授受がなく,収 利金の授受をする取引慣行が正常な取引条件であるとの前提に基づき,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行があると認められる地域であるにもかかわらず,権利金の授受がなく,収受されている地代が相当の地代に満たない場合には,権利金の授受があったものとして認定課税をすることとされている(法人税基本通達(昭和55年直法2-15)13-1-3)。 (3)アこれに対し,相当地代通達は,借地権の設定に際しその設定の対価として権利金を支払う取引慣行がある地域において,その権利金の支払に代え,①相当の地代が支払われている場合,②支払われている地代は相当の地代に満たないが,通常の地代を超えている場合及び③支払われている地代は相当の地代に満たないが,無償返還届出書が提出されている場合という,特殊な賃貸借契約により借地権が設定された場合について,当該土地につき相続,遺贈又は贈与による移転があったときの借地権又は貸宅地の評価の取扱いを定めている。(乙13)イこのうち,権利金の支払に代え,相当の地代が支払われている場合(上記ア①の場合)には,借地権の設定による利益はなかったものと取り扱うものとされている(相当地代通達1)。これは,このような場合には,土地所有者から見れば,当該土地の地代収受権としての経済的価値は減殺されておらず,その土地に借地権が設定されてもなお更地としての経済的価 値が維持されているものと考えられ,上記(2)イ(イ)及び(ウ)にいう借地人に帰属すべき利益の生ずる余地がないことによるものと解される。(乙13)ウ(ア)これに対し,権利金の支払に代え,無償返還届出書が提出されている場合(上記ア③の場合)には,当該土地の借地権の評価は,零として取り扱うものとされている(相当地代通達5)。これは,借地権の設定に際し これに対し,権利金の支払に代え,無償返還届出書が提出されている場合(上記ア③の場合)には,当該土地の借地権の評価は,零として取り扱うものとされている(相当地代通達5)。これは,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行があると認められる地域であるにもかかわらず,権利金の授受がなく,しかも,土地所有者が借地権設定契約の際に将来借地人から無償で土地の返還を受ける旨の合意をし,両当事者がその合意をした旨の届出をしている場合には,土地所有者と借地人との間に,同族会社とその役員や関係会社間等のように利害の共通する特殊な関係があり,利害対立のある第三者間のような権利主張がされることが想定されないため,収受される地代が相当の地代に満たないときであっても,土地所有者から借地人に対し何ら経済的利益が移転しておらず,前記(2)イ(イ)及び(ウ)にいう借地人に帰属すべき利益もないという経済的実態が存在するとみるべきであり,かつ,このことが両当事者による無償返還届出書の提出によって明らかにされていることから,こうした経済的実態を課税関係においても反映させる趣旨であると解される。 (イ)さらに,このような見地から,法人税基本通達13-1-7においても,法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において,これにつき権利金を収受せず,収受している地代が相当の地代に満たないときであっても,無償返還届出書が提出された場合には,権利金の認定課税を行わないものとされている。 (ウ)そして,土地の賃貸借契約に係る経済的実態は様々であり,上記のように土地所有者と借地人との間に利害の共通する特殊な関係がある場 合には,土地所有者と借地人との間の関係は,財産評価基本通達25において想定されている通常の取引条件と異なる面があり,これを課税 ように土地所有者と借地人との間に利害の共通する特殊な関係がある場 合には,土地所有者と借地人との間の関係は,財産評価基本通達25において想定されている通常の取引条件と異なる面があり,これを課税関係に反映させることには,合理性があるということができる。 (エ)他方で,相当地代通達8は,無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額の評価は,当該土地の自用地としての価額によるのではなく,自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価することとしている。(乙13)上記(ア)の趣旨からみれば,借地権が設定されている土地のうち,無償返還届出書が提出されている場合の土地について課税関係が生じたときは,当該土地の自用地としての価額によるべきであるとも考えられるが,他方で,当該土地は賃貸されていることから現にその利用は一定の制限を受けており,相続開始の時に返還されるものではなく,その返還に際しては借地借家法による制約も受け得ること,権利金の取引慣行がない地域でも貸宅地の評価額の算定において借地権の価額はある程度斟酌されること(財産評価基本通達25(1)参照)等の点が考慮されたものと解される。(乙13)そして,このような課税上の取扱いは,課税の内容を土地所有者と借地人との間の経済的実態に即したものにするものとして,合理性があるということができる。 これを本件についてみるに,前記1によれば,本件各土地は,借地権の設定に際してその設定の対価として権利金を支払う取引慣行があると認められる地域に存在したが,本件各土地に係る本件賃貸借契約の締結に当たり,権利金の授受はされず,収受される地代も相当の地代に満たなかったが,権利金の授受に代えて,本件賃貸借契約の当事者である本件法人(借地人)とC及びA(土地所有者)が無償返還届出書を提出 締結に当たり,権利金の授受はされず,収受される地代も相当の地代に満たなかったが,権利金の授受に代えて,本件賃貸借契約の当事者である本件法人(借地人)とC及びA(土地所有者)が無償返還届出書を提出したことが認められる。 そして,上記2に検討したところによれば,このような事実関係の下では, 本件各土地(共有部分)の時価は,無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の評価に関する特例を定める相当地代通達8によって評価されることとなり,その評価方法は,土地所有者と借地人との間の経済的実態に即した土地の評価の在り方として,合理性があるということができる。 これに対し,原告は,本件各土地を相当地代通達8によって評価することの合理性を争うので,以下,検討する。 (1)前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件においては,以下の事実が認められる。 ア本件各土地の借地人である本件法人は,もともとBが営んでいた個人病院を経営するために,昭和58年12月13日,設立されたものであり,設立当初はB及びその家族が理事等を務めるものであった(ただし,平成15年の医療法人社団から特別医療法人社団への組織変更の際,本件法人が経営する病院の職員等も理事に就任した。乙10の1)。 なお,本件法人を設立するに当たり,Bが病院の施設として自己所有の建物を出資したため,同建物は本件法人の所有となったが,その敷地である本件各土地等は,Bの所有のままであった。(乙10の1)イ本件法人は,昭和59年1月27日,上記病院の敷地である各土地(本件各土地を含む。)について,Bを代表者として,当時の所有者であったBとの間で,使用貸借契約を締結し,本件賃貸借契約が締結された平成14年12月まで,無償で上記各土地を使用しており,かつ,上記使用貸借契約の締結に伴い,東村 ,Bを代表者として,当時の所有者であったBとの間で,使用貸借契約を締結し,本件賃貸借契約が締結された平成14年12月まで,無償で上記各土地を使用しており,かつ,上記使用貸借契約の締結に伴い,東村山税務署長に対し,昭和60年4月1日付けで無償返還届出書が提出されていた。(乙10の3,16,17)ウ本件賃貸借契約は,平成14年12月20日,本件法人の医療法人社団から特別医療法人社団への組織変更に当たり,Cを本件法人の代表者として,本件各土地等の当時の所有者であったC及びAとの間で,上記使用貸借契約の対象土地の一部である本件各土地等につき,締結された。(乙1 0の1)エAも,本件法人の理事であり,平成15年1月30日の臨時社員総会でも理事として再任された。(乙10の1)オ本件届出書は,税理士の助言に基づき,本件法人につき認定課税を回避する目的で,そのための無償返還届出書として提出されたものであった。 (乙10の1・2)なお,権利金を授受する取引慣行のある地域においては立退料等を授受する取引慣行もあるものと推認される以上,本件届出書の提出は,本件法人につき将来の土地返還時に立退料等の認定課税を回避し得る効果を伴うものであった(法人税基本通達13-1-14(1))。 (2)上記(1)認定の事実によれば,本件賃貸借契約の経緯については,当初,Bが個人で経営する病院の医療法人化に伴い,その敷地である本件各土地につき同人と本件法人との間で使用貸借契約が締結され,その後,本件法人の特別医療法人への組織変更に伴い,上記使用貸借契約に代わり,本件賃貸借契約が締結されたものであるところ,本件賃貸借契約の当事者は,Bから本件各土地を相続したC及びAと,同人らを理事(前者を代表者理事長)とする本件法人であることからすれば,本件賃貸借契約は,当事 貸借契約が締結されたものであるところ,本件賃貸借契約の当事者は,Bから本件各土地を相続したC及びAと,同人らを理事(前者を代表者理事長)とする本件法人であることからすれば,本件賃貸借契約は,当事者間に利害の共通する特殊な関係があり,その特殊な関係に基づいて締結されたものであって,利害対立のある第三者間のような権利主張がされることが想定されない場合に当たるということができる。このことによれば,本件賃貸借契約の締結の際に権利金の授受がされなかったのは,当事者間の経済的実態として,土地所有者と借地人の利害が共通しており,土地所有者から借地人に対し何ら経済的価値が移転しておらず,前記2(2)イ(イ)及び(ウ)にいう借地人に帰属すべき利益もなかったためであると認めるべき事情が存在するということができる。そして,この経済的実態は,両当事者により無償返還届出書が提出されたことによって明らかにされているということができるから,本件 各土地の時価の評価が,財産評価基本通達25でなく,相当地代通達8に従ってされることには,合理性があるということができる。 (3)これに対し,原告は,無償返還届出書に係る無償返還合意は私法上無意味又は無効であるとして,その有無によって税額計算の基礎となる財産の価額の評価に差異を設けている相当地代通達8の定めは不合理である旨主張する。 しかしながら,前記2(2)ウ並びに同(3)ウ(ア)及び(イ)のとおり,法人税基本通達では,権利金又は立退料等の取引慣行のある地域において,権利金又は立退料等の授受がなく,本来であれば権利金又は立退料等の認定課税をすべき場合(同通達13-1-3,13-1-14)でも,無償返還届出書が提出されている場合には,これらの認定課税を行わないものとされており(同通達13-1-7,13-1-14(1 退料等の認定課税をすべき場合(同通達13-1-3,13-1-14)でも,無償返還届出書が提出されている場合には,これらの認定課税を行わないものとされており(同通達13-1-7,13-1-14(1)),これらの取扱いを含め,無償返還届出は,課税関係において,土地所有者と借地人との間に特殊な関係があり,土地所有者から借地人に対し何ら経済的利益が移転していない経済的実態があることを当事者が自ら明らかにする趣旨の届出として,課税関係上一定の効果を有するものとされているということができ,しかも,上記(1)オのとおり,本件届出書に係る無償返還届出は,本件賃貸借契約の当事者自らにより,認定課税の回避という課税上の利益を享受するために課税庁に対して行われ,現にこれを享受し得る効果を伴うものである以上,税法上の行為として有効であり,税法上の意味・効果を有するものということができる。 原告は,無償返還届出書に係る無償返還合意が,借地借家法の規定等に照らし,私法上無意味又は無効であるとの主張を論拠とするが,以上に述べた無償返還届出の税法上の性質・効果等に照らすと,本件届出書に係る無償返還届出は,認定課税の回避という課税上の利益を享受するための公法上の行為として課税庁に対して行われ,現にこれを享受し得る効果を伴うものとし て有効に成立していると認められる以上,当該届出に係る当事者間の無償返還合意の私法上の効力のいかんによって,当該届出の税法上の効果が左右されるものではないというべきである。また,前記2(3)ウ(ア)のとおり,無償返還届出書が提出されるのは,土地所有者と借地人との間に利害の共通する特殊な関係があり,利害対立のある第三者間のような権利主張がされることが想定されない場合であるところ,本件においても,前記(前提事実及び上記(1))のとおり, 地所有者と借地人との間に利害の共通する特殊な関係があり,利害対立のある第三者間のような権利主張がされることが想定されない場合であるところ,本件においても,前記(前提事実及び上記(1))のとおり,本件賃貸借契約の締結当時(組織変更前),借地人となる本件法人は,本件各土地の共有者であるCが代表者理事長,他の共有者で同人の妹であるAが理事,同人らの家族が他の理事を務めており,同人らの亡父が本件法人の前代表者理事長として亡父個人との間で締結した使用貸借契約を事実上継承する形で,本件賃貸借契約の締結がされたものであり,このような特殊な人的関係に基づき無償返還届出書が提出され,同契約の締結当時,利害対立のある第三者間のような権利主張がされることは想定されない状況にあったのであるから,本件届出書に係る無償返還合意が借地人である本件法人にとって必ずしも現実に不利なものであったと認めるには足りず,その私法上の効力を否定すべき事情も認め難いので,いずれにしても,原告の上記主張は理由がない。 (4)また,原告は,仮に本件において相当地代通達が適用されるとしても,同通達8ではなく,相当の地代に満たない地代を収受している場合の貸宅地の評価に関する同通達7が適用されるべきである旨主張する。 しかしながら,相当地代通達7及び8の文理並びに前記2(3)の同通達8の趣旨等に照らすと,借地権が設定されている土地につき,無償返還届出書が提出されている場合については,専ら同通達8が適用され,その結果,同通達7は,借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行がある地域において,収受している地代の額が相当の地代に満たない場合のうち,無償返還届出書の提出がない場合のみについて適用されるもの と解するのが相当であり,したがって,現に無償返還届出書が提出さ ある地域において,収受している地代の額が相当の地代に満たない場合のうち,無償返還届出書の提出がない場合のみについて適用されるもの と解するのが相当であり,したがって,現に無償返還届出書が提出されている本件各土地については,専ら同通達8が適用され,同通達7の適用はない。 原告の上記主張は,本件届出書に係る無償返還合意が私法上無意味又は無効であることを前提として,その提出があっても同通達8の適用を排除すべきとする趣旨のものと解されるが,その前提を欠くことは上記(3)のとおりであり,他に同通達8の適用を排除すべき事情も認められない以上,上記主張は理由がない。 (5)原告は,さらに,仮に本件届出書に係る無償返還合意が有効であっても,その基礎となる特殊な関係は一身専属的で相続性がない旨主張する。 しかしながら,①上記(2)のとおり,本件賃貸借契約の締結に際し,土地所有者から借地人に対し何ら経済的価値が移転しておらず,前記2(2)イ(イ)及び(ウ)にいう借地人に帰属すべき利益もなかったという経済的実態が,本件届出書の提出により,その時点における状況として明らかにされており,また,②上記(3)のとおり,本件届出書に係る無償返還届出は,認定課税の回避という課税上の利益を享受するための公法上の行為として課税庁に対して行われ,現にこれを享受し得る効果を伴うものとして有効に成立していると認められる以上,当該届出に係る無償返還合意における一部当事者の私法上の地位が相続によりAから原告及びGに承継されたことによって,上記①の経済的実態が左右されるものではなく,また,上記②の届出の税法上の効果が影響を受けるものでもないので,上記主張は理由がない。 以上によれば,本件各土地(共有持分)時価の評価を相当地代通達8に従って行うことは,合理的な評価方法による適正 ,上記②の届出の税法上の効果が影響を受けるものでもないので,上記主張は理由がない。 以上によれば,本件各土地(共有持分)時価の評価を相当地代通達8に従って行うことは,合理的な評価方法による適正な評価であるというべきであり,相当地代通達8による時価の評価を前提とする場合,本件相続に係る相続税及び過少申告加算税の課税の根拠及び計算は,別紙3「課税の根拠及び計算」記載のとおりである。そして,本件更正処分に係る原告の相続税の納付すべき税額及び本件賦課決定処分に係る過少申告加算税の税額(別紙2順号9「審査裁 決」欄の「納付すべき税額」及び「過少申告加算税」の各欄に記載された金額)は,上記「課税の根拠及び計算」による相続税の納付すべき税額及び過少申告加算税の税額と同額であるから,本件更正処分及び本件賦課決定処分は,適法である。 よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官岩井伸晃裁判官本間健裕裁判官倉澤守春 (別紙3)課税の根拠及び計算第1相続税の課税の根拠及び計算 課税価格の合計額3億0905万2000円上記金額は,次の(1)「本件相続により取得した財産の価額」から,次の(2)「債務等の金額」を控除して算出した差引純資産価額(別紙4の別表2(以下「別表2」という。)順号9の各金額)に,次の(3)「純資産価額に加算される贈与財産価額」を加算した各人の課税価格(ただし,国税通則法118条1項の規定により,相続人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後の金額。 別表2順号11の各金額)の合計額である。 (1)本件相続により取得した財産 算した各人の課税価格(ただし,国税通則法118条1項の規定により,相続人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後の金額。 別表2順号11の各金額)の合計額である。 (1)本件相続により取得した財産の価額(別表2順号7合計額欄の金額)3億0701万9259円上記金額は,本件相続人らが本件相続により取得した財産の総額であり,その内訳は,次のとおりである。 ア土地等の価額(別表2順号1合計額欄の金額)9773万6698円上記金額は,次の(ア)及び(イ)の金額の合計額である。 (ア)課税価格に算入すべき本件各土地の価額7972万9828円上記金額は,別紙4の別表4-1(以下「別表4-1」という。)「土地の明細」順号2(本件甲土地)及び順号3(本件乙土地)に記載した各土地の価額の合計額である。 なお,本件各土地の計算は,本件甲土地については,別紙4の別表4-2「本件甲土地(別表4-1順号2)の価額」に,本件乙土地については,別紙4の別表4-3「本件乙土地(別表4-1順号3)の価額」に, それぞれ記載したとおりである。 (イ)課税価格に算入すべき本件各土地以外の土地の価額(別表4-1順号1価額欄の金額)1800万6870円上記金額は,原告が本件修正申告書(甲2)に記載した本件各土地以外の土地の価額と同額である。 イ家屋・構築物の価額(別表2順号2合計額欄の金額)527万0954円上記金額は,原告が本件修正申告書に記載した家屋・構築物の価額と同額である。 ウ有価証券の価額(別表2順号3合計額欄の金額)4118万2738円上記金額は,①Hの株式につき,財産評価基本通達169に基づき,課税時期の最終価格又はその最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の最終価格の各月ごとの平均額のうち最も低い価額で評価した同株式の1株当たりの価 ①Hの株式につき,財産評価基本通達169に基づき,課税時期の最終価格又はその最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の最終価格の各月ごとの平均額のうち最も低い価額で評価した同株式の1株当たりの価格209円に,本件相続人らが取得した3000株を乗じて算定した価額62万7000円と,②原告が本件修正申告書に記載したHの株式以外の有価証券の合計額4055万5738円を加算した金額である。 エ現金預貯金等の価額(別表2順号4合計額欄の金額)9849万2175円オ家庭用財産の価額(別表2順号5合計額欄の金額)100万円カその他の財産の価額(別表2順号6合計額欄の金額)6333万6694円上記エないしカの各金額は,原告が本件修正申告書に記載した現金預貯金等,家庭用財産及びその他の財産の各価額と同額である。 (2)債務等の金額(別表2順号8合計額欄の金額)236万7052円(3)純資産価額に加算される贈与財産価額(別表2順号10合計額欄の金額)440万円上記(2)及び(3)の各金額は,原告が本件修正申告書に記載した債務等,純資産価額に加算される贈与財産価額の各金額と同額である。 相続税の納付すべき税額原告の本件相続に係る相続税の納付すべき税額は,相続税法15条ないし17条の各規定に基づき,上記1の課税価格の合計額に基づき,次のとおり算定したものである。 (1)課税遺産総額(別紙4の別表3(以下「別表3」という。)順号3の金額)2億3905万2000円上記金額は,上記1の課税価格の合計額3億0905万2000円から,相続税法15条の規定により,5000万円と1000万円に本件相続に係る相続人の数である2を乗じた金額2000万円との合計額7000万円を控除した後の金額である。 (2)法定相続分に応ずる取得金額(別表3 15条の規定により,5000万円と1000万円に本件相続に係る相続人の数である2を乗じた金額2000万円との合計額7000万円を控除した後の金額である。 (2)法定相続分に応ずる取得金額(別表3順号5の各欄の金額)ア原告(法定相続分2分の1)1億1952万6000円イ他の相続人(法定相続分2分の1)1億1952万6000円上記各金額は,相続税法16条の規定により,本件相続人らが上記(1)の金額を民法900条の規定による相続分に応じて取得したものとした場合の各人の取得金額(ただし,相続税法基本通達(昭和34年直資10。平成16年課資2-6ほかによる改正前のもの)16-3により,各相続人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。 (3)相続税の総額(別表2順号12合計額欄及び別表3順号7の金額) 6162万0800円上記金額は,上記(2)のア及びイの各金額に,それぞれ相続税法16条に定める税率を乗じて算出した金額の合計額である。 (4)原告の納付すべき税額(別表2順号16原告欄の金額)3081万0400円上記金額は,相続税法17条の規定により,上記(3)の金額に,課税価格の合計額3億0905万2000円(別表2順号11合計額欄の金額)のうち,原告に係る課税価格1億5452万6000円(別表2順号11原告欄の金額)の占める割合を乗じて算出した金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により,100円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。 第2過少申告加算税の課税の根拠及び計算本件更正処分に係る税額(別紙2順号8「審査裁決」欄の金額)と原告の申告に係る税額(別紙2順号8「修正申告」欄の金額)(ただし,いずれも,国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)の差額は650万円で 8「審査裁決」欄の金額)と原告の申告に係る税額(別紙2順号8「修正申告」欄の金額)(ただし,いずれも,国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)の差額は650万円であるところ,同法65条1項の規定に基づき,本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった同税額(同差額)に100分の10の割合を乗じて算出した金額65万円が,原告の納めるべき過少申告加算税の税額となる。
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