平成23(行ウ)100等 差押処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年7月26日 大阪地方裁判所 租税
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判決文本文11,278 文字)

主文 1 本件訴えのうち,金銭差押処分の各取消しを求める部分(各主位的請求)をいずれも却下する。 2 原告らのその余の請求(各予備的請求)をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 甲事件(1) 主位的請求処分行政庁が平成22年8月31日付けでAに対してした別紙差押財産目録記載の金銭に対する差押処分のうち,723万5000円に係る部分を取り消す。 (2) 予備的請求被告は,甲事件原告に対し,723万5000円及びこれに対する平成22年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 乙事件(1) 主位的請求処分行政庁が平成22年8月31日付けでAに対してした別紙差押財産目録記載の金銭に対する差押処分のうち,324万円に係る部分を取り消す。 (2) 予備的請求被告は,乙事件原告に対し,324万円及びこれに対する平成22年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要甲事件は,甲事件原告が,処分行政庁がAの滞納国税に係る滞納処分としてした別紙差押財産目録記載の金銭1488万6355円(以下「本件差押金銭」という。)に対する差押処分(以下「本件差押処分」という。)につき,本件 差押金銭のうち723万5000円(以下「本件金銭1」という。)は甲事件原告の所有に属するとして,被告に対し,主位的に,同額に係る部分の取消しを求めるとともに,予備的に,仮に本件金銭1がAの滞納国税に充当された場合には,被告は甲事件原告の損失のもとに法律上の原因なく同額の利得を得ているとして,不当利得返還請求権に基づき,本件 分の取消しを求めるとともに,予備的に,仮に本件金銭1がAの滞納国税に充当された場合には,被告は甲事件原告の損失のもとに法律上の原因なく同額の利得を得ているとして,不当利得返還請求権に基づき,本件金銭1相当額である723万5000円及び本件差押処分に対する審査請求の日の翌日である平成22年10月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 乙事件は,乙事件原告が,本件差押処分につき,本件差押金銭のうち324万円(以下「本件金銭2」という。)は乙事件原告の所有に属するとして,被告に対し,主位的に,同額に係る部分の取消しを求めるとともに,予備的に,仮に本件金銭2がAの滞納国税に充当された場合には,被告は乙事件原告の損失のもとに法律上の原因なく同額の利得を得ているとして,不当利得返還請求権に基づき,本件金銭2相当額である324万円及び本件差押処分に対する審査請求の日の翌日である平成22年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 国税徴収法の定め(1) 国税徴収法56条1項は,動産又は有価証券の差押えは,徴収職員がその財産を占有して行う旨を,同条3項は,徴収職員が金銭を差し押さえたときは,その限度において,滞納者から差押えに係る国税を徴収したものとみなす旨を,それぞれ定めている。 (2) 国税徴収法89条1項は,差押財産につき,同法第5章第3節(財産の換価)の定めるところにより換価しなければならない旨定めているが,金銭については換価を要する財産から除外されている(同項括弧書)。 (3) 国税徴収法128条3号は,差し押さえた金銭を同法第5章第4節(換価代金等の配当)の定めるところにより配当しなければならない旨を,同法1 要する財産から除外されている(同項括弧書)。 (3) 国税徴収法128条3号は,差し押さえた金銭を同法第5章第4節(換価代金等の配当)の定めるところにより配当しなければならない旨を,同法1 29条2項は,差し押さえた金銭を差押えに係る国税に充てる旨を,それぞれ定めている。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)(1) Aは,甲事件原告の代表取締役である。 (2) 大阪国税局の徴収職員は,平成22年5月17日,Aの滞納国税を徴収するため,A立会の下,Aの住所地である京都市α×番地19のAの自宅の捜索を実施したところ,Aは,自身が経営する事業に係る売上金を京都市β×号室(以下「本件居室」という。)に保管している旨申し立てた。 (3) 大阪国税局の徴収職員は,平成22年8月31日,A立会の下,本件居室の捜索を実施し,Aの滞納国税の徴収のため,別紙差押目録記載の本邦通貨合計1488万6355円(本件差押金銭)を差し押さえた(本件差押処分)。 (4) 本件差押処分時の本件居室内の状況ア本件居室は,Aが代表取締役を務める有限会社Bが賃借しているところ,本件居室に係る建物賃貸借契約書には,使用目的は住居専用,契約入居者数は1名とされ,賃貸人の承諾を得ることなく住居以外に使用してはならないとされている(弁論の全趣旨)。 イ本件居室には,ベッド,テレビ,洗濯機,冷蔵庫,電子レンジ,小型金庫(以下「本件金庫」という。),小型テーブル,ラック(棚),ゲーム機器及び自転車等が置かれていたほか,鴨居には,男性用の下着,ジャージ,タオルなどがハンガーを用いて吊り下げられていた。小型テーブルやラック(棚)には,調味料や酒類等が置かれており,帳簿類は見当たらなかった。 かれていたほか,鴨居には,男性用の下着,ジャージ,タオルなどがハンガーを用いて吊り下げられていた。小型テーブルやラック(棚)には,調味料や酒類等が置かれており,帳簿類は見当たらなかった。 (5) 本件差押金銭の保管状況ア本件金庫内には,本件居室の捜索時において,貴金属や証券とともに,本件差押金銭が保管されていた。 イ本件金庫の下段には,以下の現金が置かれていた。 (ア) 封がされておらず,表面に鉛筆で「C」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った現金325万1097円(イ) 封がされておらず,表面に鉛筆で「E」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った現金58万5510円(ウ) 封がされておらず,表面に鉛筆で「F」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った現金49万5815円(エ) 封がされておらず,表面に鉛筆で「G」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った現金213万3110円(オ) 1万円札の旧紙幣1枚ウ本件金庫の上段には,以下の現金が置かれていた。 (ア) 封がされておらず,表面に鉛筆で「H」と記載されたI銀行の紙幣等封入用の一面ロゴ入りの封筒に入った現金418万1765円(イ) ホッチキスで封がされたJ信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った300万円(ウ) 輪ゴムで2箇所止めされた現金100万円(エ) 青色の100円硬貨ケースに入れられた現金2万円(オ) 白色の硬貨ケースに入れられた現金1万0388円(カ) ケース等に入れられていない硬貨2万4670円エ本件金庫の扉の内側上部ポケットには,以下の現金が置かれていた。 (ア) 封がされておらず,裏面に黒色ボールペンで「9月分¥48,000-L」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒 70円エ本件金庫の扉の内側上部ポケットには,以下の現金が置かれていた。 (ア) 封がされておらず,裏面に黒色ボールペンで「9月分¥48,000-L」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った現金10万7000円(イ) 封筒等に入れられていない現金6万7000円(6) 本件訴えに至る経緯ア甲事件原告は,平成22年10月19日,本件差押処分のうち,本件金 銭1に係る部分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,同年12月1日付けで,同審査請求を却下する旨の裁決をした(甲A1)。 イ乙事件原告は,平成22年10月25日,本件差押処分のうち,本件金銭2に係る部分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,同年12月1日付けで,同審査請求を却下する旨の裁決をした(甲B1)。 ウ甲事件原告は,平成23年5月31日,本件差押処分のうち,本件金銭1に係る部分の取消し等を求める訴えを提起した(甲事件。顕著な事実)。 エ乙事件原告は,平成23年5月31日,本件差押処分のうち,本件金銭2に係る部分の取消し等を求める訴えを提起した(乙事件。顕著な事実)。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件差押処分の取消しを求める訴えの利益があるか(主位的請求に係る本案前の争点)。 (被告の主張)大阪国税局の徴収職員は,国税徴収法56条1項に基づき本件差押金銭を差し押さえ,これを占有したところ,本件差押金銭は本件差押処分によって大阪国税局の徴収職員が占有した時点でAの滞納国税に充てられたこととなり(同条3項),同時点で本件差押処分は目的を達してその効力は消滅しているし,原告らは本件差押処分の違法を前提として本件差押金銭の返還を求めることができるか た時点でAの滞納国税に充てられたこととなり(同条3項),同時点で本件差押処分は目的を達してその効力は消滅しているし,原告らは本件差押処分の違法を前提として本件差押金銭の返還を求めることができるから,原告らは本件差押処分の取消しを求める法律上の利益を有しない。 なお,誤って第三者の所有に属する財産を差し押さえた場合は,その差押えは原則として無効と解されるから,いずれにせよ,原告らは本件差押処分の取消しを求める法律上の利益を有しない。 (原告らの主張) 国税徴収法56条1項にいう「その財産」とは,滞納者の所有する財産を意味し,第三者所有の財産はこれに含まれないと解すべきであるから,本件差押処分のうち本件金銭1及び本件金銭2に係る部分については,同項に基づく差押え及び占有ということはできず,同条3項によって滞納者から差押えに係る滞納国税を徴収したものとみなすこともできないから,本件差押処分のうち同部分の効力が消滅しているとはいえない。このように解さなければ,差押えに当たって第三者の権利を害することがないよう留意した国税徴収法の趣旨に反することとなるし,誤って第三者の財産に対する差押えがされた場合に,国税徴収法によっては侵害された権利の回復を求めることができなくなってしまう。 よって,原告らは,本件差押処分のうち本件金銭1及び本件金銭2に係る部分の各取消しを求める法律上の利益を有するというべきである。 (2) 本件金銭1及び本件金銭2について被告が不当利得返還義務を負うか(予備的請求関係)。 (原告らの主張)ア本件金銭1及び本件金銭2が原告らの所有に属していたこと(ア) 本件金銭1について本件金銭1は,甲事件原告が経営する店舗「C」の売上金であり,一旦保管し,そこか ア本件金銭1及び本件金銭2が原告らの所有に属していたこと(ア) 本件金銭1について本件金銭1は,甲事件原告が経営する店舗「C」の売上金であり,一旦保管し,そこから経費などの支払を行うために他の金銭とは明確に区別して本件金庫内に保管されていたものである。 本件金銭1が甲事件原告の所有に属することは,本件金銭1が保管されていた封筒に「C」と記載されていたこと,本件差押処分時点で本件金庫内に保管されていた,「C」の現金売上から仕入れ等の支払を控除した残額は733万8884円であったこと,Aが本件差押処分の際,本件金銭1について甲事件原告の所有であることを説明していたことから明らかであったといえる。なお,本件差押処分の際に本件金庫内に「C」 と記載された封筒に入れて保管されていた金銭の額が本件金銭1の額と異なるのは,Aが一時的に借用するなどしていたためである。 (イ) 本件金銭2について本件金銭2は,乙事件原告が経営する店舗「K」の売上金であり,一旦保管し,そこから経費などの支払を行うために他の金銭とは明確に区別して本件金庫内に保管されていたものである。 本件金銭2が乙事件原告の所有に属することは,本件金銭2が保管されていた封筒に「K」と記載されていたこと,本件差押処分時点で本件金庫内に保管されていた「K」の現金売上から仕入れ等の支払を控除した残額は460万9236円であったこと,Aが本件差押処分の際,本件金銭2について乙事件原告の所有であることを説明していたことから明らかであったといえる。なお,本件差押処分の際に本件金庫内に「K」と記載された封筒に入れて保管されていた金銭の額が本件金銭2の額と異なるのは,Aが一時的に借用するなどしていたためである たことから明らかであったといえる。なお,本件差押処分の際に本件金庫内に「K」と記載された封筒に入れて保管されていた金銭の額が本件金銭2の額と異なるのは,Aが一時的に借用するなどしていたためである。 (ウ) Aは,甲事件原告については代表取締役として,乙事件原告については受託者として,原告らが経営する店舗の売上金の集金を行っていたところ,原告らの経営する飲食店の営業は深夜に及ぶため,売上金を直ちに銀行に預け入れることもできず,Aが本件金庫内で一時的に保管していたものである。Aは,各店舗の売上金を,各営業日の営業時間終了後に集金し,店舗ごとに分けて銀行等の封筒に入れた上,本件金庫で保管しており,このように保管していた現金の中から必要な経費を支払い,銀行等に預け入れるなどしていた。 そして,金銭についての所有権の帰属については,その保管状況等によって左右されるものではなく,その実体関係から判断すべきところ,上記のとおり,Aは本件金銭1については甲事件原告の代表者として,本件金銭2については乙事件原告の委託を受けて,それぞれ保管してい たものにすぎないから,本件金銭1及び本件金銭2がA個人の所有に属することにはならない。 (エ) Aは,本件差押処分の際,本件金庫内の金銭は原告ら所有の金銭であり,Aに帰属するものとして差し押さえられたら困る旨抗議したが,大阪国税局の徴収職員らはこれに全く応じず,数名でAを取り囲み,差押調書に署名押印するよう要請したため,Aはやむなく差押調書に署名押印せざるを得なかったものである。 イ原告らが不当利得返還請求権を有すること本件金銭1及び本件金銭2は原告らの所有に属するから,本件差押処分が取り消されない場合,被告は法律上の原因なくして原告らの損失において る。 イ原告らが不当利得返還請求権を有すること本件金銭1及び本件金銭2は原告らの所有に属するから,本件差押処分が取り消されない場合,被告は法律上の原因なくして原告らの損失において同額の利得を得たことになり,原告らは被告に対し不当利得に基づき本件金銭1ないし本件金銭2相当額の返還を求めることができる。 そして,原告らは,本件差押処分に対する審査請求をそれぞれ行っているところ,これによって本件金銭1及び本件金銭2の返還を求めたものと同視できるから,被告は,上記各不当利得返還債務につき,原告らによる各審査請求の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 (被告の主張)ア本件金銭1及び本件金銭2がA個人の所有に属していたこと(ア) 金銭については,金銭という物質の占有者がその価値の排他的支配者であると認められるから,その占有者の所有に属することとなる。 原告らは,金銭についても実体関係から所有者を判断すべきと主張するが,独自の見解にすぎず失当である。 (イ) 本件居室は原告らの本店所在地ではないこと,本件差押処分当時の状況からすれば,本件居室は原告らの事務所等ではなくAの生活の本拠であったと認められること,本件差押金銭は本件居室に設置されていた 本件金庫内から発見されていること,本件金庫内にはAが裏書人となっている手形や宝石類など,Aの私物と思われる物が保管されており,本件金庫はAが占有し使用していたものと推認されること,本件差押金銭はほとんどがむき出しの状態又は封がされていない封筒に入れられた状態で保管されていたこと,本件差押金銭の一部が原告らの占有に属することを示す的確な証拠は存在しないことからすれば,Aは本件差押金銭を排他的に占有していたことは明 は封がされていない封筒に入れられた状態で保管されていたこと,本件差押金銭の一部が原告らの占有に属することを示す的確な証拠は存在しないことからすれば,Aは本件差押金銭を排他的に占有していたことは明らかであり,また,Aが甲事件原告の代表取締役として本件差押金銭を占有していたとも認められないから,本件差押金銭はA個人の所有に属していたというべきである。 (ウ) Aは,本件差押処分の際,徴収職員から本件差押金銭について説明を求められた際,原告らの所有に属するものであり,自己に帰属しないと主張したことはなく,最終的には差押えをするなら仕方がない旨述べた上で差押調書に自ら署名押印していることからすれば,Aにおいても本件差押金銭が自己に帰属するものと認識していたことは明らかである。 原告らは,大阪国税局の徴収職員がAの抗議を容れず,差押調書への署名押印を強要した旨主張するが,Aが本件差押金銭につき原告らの所有に属する旨の抗議をした事実はないし,差押調書の作成は本件差押処分の効力とは何ら関係がなく,徴収職員において署名押印を強要する理由がないから,原告らの主張は失当である。 (エ) 原告らは,本件差押金銭の一部が入っていた封筒に原告らの経営する各店舗名が記載されていたことをもって,本件差押金銭の一部が原告らの所有に属していた旨主張するが,原告らの指摘する記載からは外観上その意味を識別することはできない上,封筒内の現金はいくらでも差替え可能であったことからすれば,当該封筒の記載によって原告らの占有があったと認めることはできない。また,「C」と記載された封筒に入っていた現金の額は325万1097円であり,本件金銭1の金額と は大きく異なるし,「K」と記載された封筒はそもそも存在せず,「H」と記載された封筒に入っていた金額は418万 れた封筒に入っていた現金の額は325万1097円であり,本件金銭1の金額と は大きく異なるし,「K」と記載された封筒はそもそも存在せず,「H」と記載された封筒に入っていた金額は418万1765円であり,本件金銭2の金額とは大きく異なるから,原告らにおいて本件金庫内に保管された金銭の額について正確に把握していたとはいえず,上記本件差押金銭の一部に対する占有の認識に欠けることは明らかである。 イ上記アの被告の主張のとおり,本件差押金銭はAの所有に属するから,被告が原告らに対して不当利得返還義務を負うことはない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件差押処分の取消しを求める訴えの利益があるか(主位的請求に係る本案前の争点))について(1) 処分の取消しの訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り,提起することができる(行政事件訴訟法9条1項)。 国税徴収法は,徴収職員が金銭を差し押さえたときは,その限度において,滞納者から差押えに係る国税を徴収したものとみなし(56条3項),差し押さえた金銭は換価を要せず,差押えに係る国税に充当されることとされている(89条1項,129条2項)。これらの規定によれば,徴収職員が滞納処分として金銭の差押えをした場合には,差し押さえた金銭は差押えと同時に滞納国税に充てられたこととなり,金銭差押処分はその目的を達してその法的効果が消滅するものと解されるところ,実体法上,金銭差押えの後においても金銭差押処分がされたことを理由として滞納者に法律上の不利益を課する旨の規定は存せず,金銭の差押えにより金銭差押処分の効果がなくなった後にお ものと解されるところ,実体法上,金銭差押えの後においても金銭差押処分がされたことを理由として滞納者に法律上の不利益を課する旨の規定は存せず,金銭の差押えにより金銭差押処分の効果がなくなった後においては,なお当該金銭差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益は存しないものと解される。 (2) 金銭差押処分が国税徴収法の規定に違反する場合において,当該処分に基 づいて滞納国税に充てられた金銭について不当利得返還請求権を行使するためには,行政処分の公定力との関係上,当該金銭差押処分の取消しが必要であって,かかる観点から同差押処分の取消しを求める利益が存在するのではないかが問題となる。しかしながら,滞納処分としての金銭差押処分は,徴収職員が差し押さえた金銭をもって差押えに係る国税に充てることを目的とするものであり,それを超えて,差し押さえた金銭に相当する価値を保持する権限を課税主体に与えるものではないから,差し押さえられた金銭について,課税主体においてこれに相当する価値を保持する法律上の原因があるか否かは,差押処分の公定力とは無関係というべきである。そして,金銭差押処分が違法であると主張する者は,直接に不当利得返還請求又は国家賠償請求によって実質的な救済を図ることができるから,差押後においても金銭差押処分の法的効果が残存すると解する実質的根拠は乏しいものといえる。 なお,第三者の所有に属する金銭について滞納者の所有に属すると誤認されて差し押さえられた場合には,当該差押処分は無効と解されるところであるが,本件において,原告らは,本件差押処分が有効であることを前提としてその取消しを求めるものである以上,前記(1)の国税徴収法の規定により,その取消しを求める法律上の利益は存しないものというべきである。 (3) 上記の解釈を踏まえ 押処分が有効であることを前提としてその取消しを求めるものである以上,前記(1)の国税徴収法の規定により,その取消しを求める法律上の利益は存しないものというべきである。 (3) 上記の解釈を踏まえて,本件についてみるに,平成22年8月31日に本件差押処分がされているところ(前記前提事実(3)),国税徴収法56条3項に基づき,本件差押金銭は差押え時にAの滞納国税に充当されているから,本件差押処分はその目的を達してその法的効果が消滅しており,原告らには本件差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益は存在しない。 (4) よって,本件訴えのうち,本件差押処分の各一部取消しを求める部分(原告らの主位的請求)は,訴えの利益を欠き,いずれも不適法なものとして却下を免れない。 2 争点(2)(本件金銭1及び本件金銭2について被告が不当利得返還義務を負う か(予備的請求関係))について(1) 金銭は,特別の場合を除いては,物としての個性を有せず,価値そのものと考えるべきであるところ,価値は金銭の所有に随伴するものであるから,金銭の所有者は,特段の事情のない限り,その占有者と一致すると解すべきであり,また,金銭を現実に支配して占有する者は,その取得原因及び占有権原の有無に関わらず,価値の帰属者たる金銭の所有者とみるべきである。 (2) 前記前提事実(4)及び(5)のとおり,本件差押金銭は,Aが代表取締役を務める有限会社Bが賃借していた本件居室に置かれていた本件金庫内に保管されていたこと,本件居室は,住居専用,契約者数1名との約定で賃借されており,本件差押処分当日において,家具,家電製品のほか,男性用の衣服等が置かれていた一方,帳簿類等は見当たらなかったこと,本件金庫内には貴金属や証券とともに封筒入りの現金やケースに入った硬貨,封 ており,本件差押処分当日において,家具,家電製品のほか,男性用の衣服等が置かれていた一方,帳簿類等は見当たらなかったこと,本件金庫内には貴金属や証券とともに封筒入りの現金やケースに入った硬貨,封筒等に入れられていない現金が保管されていたことが認められることに加え,Aは本件差押処分の際,「差押財産」欄に本件差押金銭が記載された差押調書に署名押印しており,特段の異議を述べていないこと(乙全2。なお,原告らは,Aは本件差押金銭が原告ら所有の金銭であるとして抗議した旨主張するが,これを裏付ける的確な証拠はなく,採用できない。)からすれば,本件差押処分時において,Aは本件居室を生活の本拠として利用しており,本件金庫及び本件差押金銭を含むその内部に保管されていた物を個人として管理支配していたものと認められる。 (3) 原告らは,本件金銭1は甲事件原告が経営する店舗の売上金であり,本件金銭2は乙事件原告が経営する店舗の売上金であって,Aは甲事件原告の代表取締役あるいは乙事件原告から委託を受けた受託者としてこれらの金銭を他の金銭とは明確に区別して保管していた旨主張する。しかしながら,原告らが主張する甲事件原告が経営する「C」の平成22年8月30日までの現金売上から仕入れ等の支払を控除した額733万8884円及び乙事件原告 が経営する「K」の同日までの現金売上から仕入れ等の支払を控除した額460万9236円は,そもそもこれらの売上金等が実際に存在したことを裏付ける証拠は全く存しない上,本件金銭1及び本件金銭2の額と一致せず,また,本件金庫内に保管されていた「C」と表面に記載された封筒に入っていた現金の額325万1097円及び「H」と表面に記載された封筒に入っていた現金の額418万1765円(前記前提事実(5)イ(ア),ウ(ア))とも 保管されていた「C」と表面に記載された封筒に入っていた現金の額325万1097円及び「H」と表面に記載された封筒に入っていた現金の額418万1765円(前記前提事実(5)イ(ア),ウ(ア))とも一致しない。これに加え,「C」及び「H」と表面に記載された封筒に入っていた現金は,いずれも封がされていない状態で保管されており(同上),本件金庫内の他の金銭と明確に区別して保管されていたとは認められず,本件金庫の占有者による支配下にあったものといえること,本件居室は原告らの本店所在地ではないこと(乙全15の1及び2)からすれば,本件差押処分時において,甲事件原告が本件金銭1を,乙事件原告が本件金銭2をそれぞれ占有しており,その所有者であったとは認められない。 (4) よって,本件金銭1及び本件金銭2についてAの所有する金銭として差し押さえ,Aの滞納国税に充てたことは適法であり,被告が法律上の原因なくこれら金銭と同額の利得を得ているとは認められないから,原告らの不当利得返還請求はいずれも理由がない。 3 結論以上によれば,本件訴えのうち本件差押処分の各取消しを求める部分(各主位的請求)はいずれも不適法であるからこれらを却下し,本件金銭1及び本件金銭2相当額の不当利得の各返還を求める部分(各予備的請求)はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官田中健治 裁判官尾河吉久 裁判官長橋正憲 中健治 裁判官 尾河吉久 裁判官 長橋正憲

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