平成29年7月20日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成29年(ネ)第442号営業差止等請求控訴事件(原審大阪地方裁判所平成27年(ワ)第7288号)口頭弁論終結日平成29年5月16日判決控訴人(一審原告) 有限会社日本薬局上記訴訟代理人弁護士鈴木敬一被控訴人(一審被告) 株式会社M&Sコーポレーション(以下「被控訴人会社」という。)被控訴人(一審被告) A 被控訴人(一審被告) B 被控訴人(一審被告) C上記4名訴訟代理人弁護士岡本慎一同大濵良輔同谷田沙緒里 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,原判決別紙利用者目録記載の者に対し,面会を求め,電話をし,または郵便物を送付する等して,介護サービスに関する契約の締結,締結方の勧誘をしてはならない。 3 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,1201万6214円及びこれに対する被控訴人会社,被控訴人A及び被控訴人Cについてはそれぞれ平成27年9月4日から,被控訴人Bについては同月8日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴 訴人会社,被控訴人A及び被控訴人Cについてはそれぞれ平成27年9月4日から,被控訴人Bについては同月8日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 5 第3項につき仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,介護保険法による介護サービス事業等を行っていた控訴人が,介護サービス事業に関して控訴人に勤務していた被控訴人A,被控訴人B及び被控訴人C(以下,同3名を併せて「被控訴人ら3名」という。)において,控訴人の営業秘密である利用者の情報を持ち出した上,控訴人を退職した後,不正の利益を得る目的,あるいは,控訴人に損害を加える目的で,同情報を使用して控訴人の利用者を勧誘し,被控訴人会社との契約に切り替えさせるなどの行為をしたとして,当該行為が不正競争(不正競争防止法2条1項7号)に該当すると主張し,また,被控訴人ら全員において,被控訴人ら3名の不正開示行為であることを知りながら,上記情報を取得し,使用する不正競争を行ったと主張し(不正競争防止法2条1項8号),(1) 被控訴人ら全員に対し,同法3条1項に基づき,上記情報にある利用者に対し,面会を求め,電話をし,又は郵便物を送付する等して,介護サービスに関する契約の締結,締結方の勧誘の差止めを求めるとともに,(2) 同じく被控訴人ら全員に対し,同法4条による不法行為に基づく損害賠償として(なお,被控訴人ら3名に対しては,下記(3)の一般不法行為に基づく損害賠償請求と選択的な請求である。),1201万6214円及びこれに対する不法行為の日の後の日である各被控訴人の訴状送達の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払と(3) 被控訴人ら3名に対し,上記(2)と選択的に,一般不法行為(民法709 法行為の日の後の日である各被控訴人の訴状送達の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払と(3) 被控訴人ら3名に対し,上記(2)と選択的に,一般不法行為(民法709条) に基づく損害賠償として,上記(2)と同様の金銭の支払をそれぞれ求めている事案である。 2 原審は,利用者の情報は営業秘密に該当するが,被控訴人ら3名が不正の利益を得る目的,あるいは控訴人に損害を加える目的で,利用者の情報を開示,使用する不正競争(不正競争防止法2条1項7号)を行ったとは認められず,被控訴人ら全員において同項8号の不正競争を行ったとも認められない,被控訴人ら3名について一般不法行為も認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 3 前提事実は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の第2の1に記載したとおりであるからこれを引用する。 (1) 原判決3頁1行目の「原告」から5行目末尾までを次のとおり改める。 「控訴人は,薬局経営と介護保険法による介護サービス事業等を目的として平成8年2月20日に設立された有限会社であり,大阪府から介護保険法における訪問介護事業者及び居宅介護支援事業者としての指定を受け,大阪市(以下省略)において「日本総合福祉ケアセンター」の事業所名で,介護サービス事業を営んでいる(以下,上記所在地の事業所を「控訴人事業所」という。)。」(2) 原判決3頁16行目の「被告会社」から20行目末尾までを次のとおり改める。 「被控訴人会社は,居宅介護サービス事業等を目的として平成26年12月25日に被控訴人Aによって設立された株式会社であり,大阪府から介護保険法による訪問介護事業者及び居宅介護支援事業者の指定を受け,「ラベンダー介護ステーション」の事業所名で,介護 て平成26年12月25日に被控訴人Aによって設立された株式会社であり,大阪府から介護保険法による訪問介護事業者及び居宅介護支援事業者の指定を受け,「ラベンダー介護ステーション」の事業所名で,介護サービス事業を営んでいる(以下「ラベンダー介護ステーション」の名称の事業所を「被控訴人会社事業所」という。)。」(3) 原判決4頁4行目の「要介護者については,指定居宅介護支援事業者との 間の契約に基づき,」を「要介護者については,利用者から指定居宅介護支援事業者への依頼に基づき,」に改め,10行目末尾に「そして,要介護者は,サービス事業者から居宅サービスの提供を受ける。」を加え,12行目の「により」を「の担当者が」と改める。 (4) 原判決5頁1行目の「提供書」を「提供票」と改める。 4 争点及び争点についての当事者の主張は,次のとおり補正し,後記5のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第2の2に記載したとおりであるからこれを引用する。 (1) 原判決7頁4行目の「概ね介護保険」の次に「の適用」を加え,5行目の「その」を「提供される」と,同「が提供される」を「である」と改める。 (2) 原判決8頁5行目の「管理方法から」の次に「わかるように」を加える。 (3) 原判決8頁15行目の「別紙被害一覧表」から16行目の「利用者」までを「控訴人と訪問介護契約を締結していた利用者のうち別紙被害一覧表の「利用者様氏名」欄記載の各利用者」と,19行目の「退職してから」から19,20行目の「短期間に」までを「自らが平成27年3月31日に控訴人を退職した後,控訴人が本訴を提起した同年7月23日までの3か月余の期間中,被控訴人会社の代表者として」と,20,21行目の「一覧表記載の21名」を「一覧表の を「自らが平成27年3月31日に控訴人を退職した後,控訴人が本訴を提起した同年7月23日までの3か月余の期間中,被控訴人会社の代表者として」と,20,21行目の「一覧表記載の21名」を「一覧表の「利用者様氏名」欄記載の各利用者合計21名」と,それぞれ改め,21行目の「さらに,」の次に「被控訴人Aは,被控訴人会社の代表者として,控訴人が」を加え,同「提起して以降も」を「提起した後も」と,23行目の「原告の利用者」を「原告の元利用者」とそれぞれ改め,24行目の「他方,」の次に「被控訴人ら3名は,」を加える。 (4) 原判決9頁10行目の「在職中,退職後」を「控訴人に在職中あるいは控訴人を退職した後」と改める。 (5) 原判決9頁13行目の「退職」を「控訴人を退職する」と,14行目の「の」を「をする」とそれぞれ改め,同「持ち帰り,」の次に「「楽にネット」の」 を,17行目の「までの間,」の次に「控訴人」を,22行目冒頭に「平成27年3月ないし4月当時,」をそれぞれ加え,9頁26行目の「委託を受けて作成した」を「委託を受けた」に改める。 (6) 原判決10頁6行目の「被告Aは」の次に「,控訴人を」を加える。 (7) 原判決10頁16行目の「ケアプランを」の次に「地域包括支援センター等に」を加える。 (8) 原判決10頁25行目の「4月1日付けで」の次に「被控訴人ら3名が」を,26行目の「低下するなどと」の次に「説明して利用者の」を,それぞれ加える。 5 当審における控訴人の補充主張(1) 被控訴人Aが,控訴人を退職する前に「楽にネット」に2回アクセスしていること,被控訴人ら3名は,控訴人に在職中ないし控訴人を退職後,控訴人の利用者に勧誘を行っていたこと,被控訴人ら3名は,上記勧誘に際し,控訴人の営業秘密を利用して,利用額の ト」に2回アクセスしていること,被控訴人ら3名は,控訴人に在職中ないし控訴人を退職後,控訴人の利用者に勧誘を行っていたこと,被控訴人ら3名は,上記勧誘に際し,控訴人の営業秘密を利用して,利用額の高い者を選んで勧誘したこと,被控訴人会社が非常に早いペースで利用者を確保できたこと,これらの各事実が重なり合って生じていることからして,被控訴人ら3名が控訴人の営業秘密を不正に取得してこれを使用していたことは明らかである。 (2) すなわち,被控訴人Aの控訴人を退職する直前の長期の有給休暇取得は,控訴人に事前に申請して行われたものである。そして,その際,被控訴人Aが「楽にネット」にアクセスしたが,その必然性はなかった。被控訴人Aが,控訴人に対し,持ち帰った理由も説明せずに,直ちにセキュリティーキーを返還しているのは,後ろめたさゆえである。 また,被控訴人ら3名が控訴人の利用者に勧誘を行っていたことは,甲22ないし24号証から明らかである。控訴人から被控訴人会社に契約を切り替えた利用者の利用料は,控訴人に残留している利用者の利用料の3倍にも達する。ケアマネージャーとの繋がりは,要介護度が重度であるか否かとは 無関係である。控訴人が利用者20人を確保するのに1年かかり,被控訴人会社も,開業後3か月間で,控訴人から契約が切り替えられた利用者数が24名であるのに対し,それ以外の利用者は,開業後1年間で13,4名にとどまっていることからしても,被控訴人ら全員が不正に営業秘密を利用して利用者を奪取したことは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,本件利用者情報は,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するが,被控訴人ら3名の行為が,同法2条1項7号の不正競争に該当せず,従って,被控訴人ら全員の行為が,同項8号の不正競争に 当裁判所も,本件利用者情報は,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するが,被控訴人ら3名の行為が,同法2条1項7号の不正競争に該当せず,従って,被控訴人ら全員の行為が,同項8号の不正競争に該当しないので,控訴人の本件請求はいずれも理由がないものと判断するが,その理由は,以下のとおり付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の第3の1ないし3(原判決11頁13行目から21頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決12頁24行目の「認定情報,」を「認定情報及び」と改める。 (2) 原判決13頁22行目の「尋問調書」を「尋問調書別紙速記録(以下「速記録」という。)」と改め,以下「尋問調書」とあるのは「速記録」と読み替える。 (3) 原判決15頁23行目から24行目の「契約書の締結」を「契約書を作成した上で,契約を締結すること」と改め,24行目の「原告代表者は,」の次に「被控訴人Aに対して,」を加える。 (4) 原判決16頁6行目の「して」を削り,10行目の「手渡した」を「手渡し,被控訴人Bは,それを控訴人に返還した」と改める。 (5) 原判決16頁17行目の「19,20頁」を「19~21頁」と改める。 (6) 原判決16頁20行目の「作成した者」を「作成した利用者」と,21行目の「他のケアプラン」を「他の利用者」と,それぞれ改める。 (7) 原判決17頁3行目の「原告においては」を「控訴人代表者は」と改める。 (8) 原判決19頁6行目の「において」を「を縮小していくことを考えて」と改める。 (9) 原判決20頁12行目の「退職する」を「退職し,被控訴人会社を設立して介護事業を行う予定である」と改める。 2 控訴人の当審における主張について控訴人は,前記第2の4のとおり,当審 (9) 原判決20頁12行目の「退職する」を「退職し,被控訴人会社を設立して介護事業を行う予定である」と改める。 2 控訴人の当審における主張について控訴人は,前記第2の4のとおり,当審において,被控訴人Aが,事前に予定していた有給休暇期間中「楽にネット」にアクセスする必然性はなかったなどと主張する。 しかし,仮に,被控訴人Aにおいて,退職前の休暇の取得を事前に予定していたとしても,未処理の案件が残ることは十分にあり得ることであり,その期間中に上記アクセスをすることに必然性がないとはいえない。また,持ち帰った理由を説明することなく,求めに応じてセキュリティーキーを直ちに返還したからといって,本件利用者情報を不正に取得したと推認することはできないというべきである。 また,被控訴人ら3名は,控訴人の利用者に対し,勧誘を行うことを禁止されていたわけではなく(控訴人の就業規則や被控訴人ら3名との間の雇用契約に,退職後の競業避止義務を定めた規定は見当たらない。),被控訴人Aが,控訴人の利用者2名に対して,控訴人事業所を退職し,被控訴人会社を設立して介護事業を行う旨を伝えることは,利用者に対する退職の挨拶として相当なものであって,違法ということはできない。 さらに,控訴人の利用者が被控訴人会社との契約に切り替えるに至った理由は,前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中の第3の2(2)ウにおいて説示したとおりであり,それからすると,控訴人の利用者が,短期間のうちに被控訴人会社へと契約を切り替えたとしても不自然な点はなく,これらの事情をもって,本件利用者情報を不正に使用したと推認することはできない。 3 以上によれば,控訴人の不正競争防止法3条1項に基づく差止め請求,及び 同法4条の不法行為に基づく損害賠償請求(被控訴 もって,本件利用者情報を不正に使用したと推認することはできない。 3 以上によれば,控訴人の不正競争防止法3条1項に基づく差止め請求,及び 同法4条の不法行為に基づく損害賠償請求(被控訴人ら3名については,選択的に民法709条に基づく請求)をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官山田陽三 裁判官髙橋文淸 裁判官種村好子
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