平成14(行ス)14 執行停止決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所平成13年(行ク)第143号)

裁判年月日・裁判所
平成14年4月3日 東京高等裁判所 警察関係
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判決文本文5,834 文字)

主文 1 原決定を次のとおり変更する。 (1) 抗告人が平成13年8月13日付けで相手方に対して発付した退去強制令書に基づく執行は,送還部分に限り,本案事件(東京地方裁判所平成13年(行ウ)第316号退去強制令書発付処分取消等請求事件)の第1審判決の言渡しの日から起算して10日後までの間これを停止する。 (2) 相手方のその余の申立てを却下する。 2 本件申立費用及び抗告費用は,これを2分し,その1を抗告人の,その余を相手方の各負担とする。 理由 第1 抗告の趣旨及び理由等 1 本件抗告の趣旨は,「(1) 原決定主文第1項を取り消す。(2) 前項の取消しに係る本件申立てを却下する。(3) 本件申立費用及び抗告費用は,相手方の負担とする。」というものであり,本件抗告の理由は,別紙1(抗告理由書)に記載のとおりである。 2 本件抗告の理由に対する相手方の意見は,別紙2-1(平成14年2月18日付け意見書)及び別紙2-2(同年2月21日付け意見書2)に記載のとおりである。 第2 事案の概要 1 本件は,相手方が,法務大臣が相手方に対して平成13年8月13日付けでした出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)49条1項に基づく相手方の異議申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)及び抗告人が相手方に対して同日付けでした退去強制令書(以下「本件令書」という。)の発付処分の各取消しを求めて提起した訴えを本案として,本案事件の判決確定まで本件令書に基づく執行の停止を求めた事件である。原決定は,相手方の求めた本件申立てについて,本案事件の第1審判決の言渡しの日から起算して10日後まで本件令書に基づく執行の停止を求める限度で理由があるとして認容し,その余は理由がないとして却下した。 2 前提となる事実(本件記録に照らし て,本案事件の第1審判決の言渡しの日から起算して10日後まで本件令書に基づく執行の停止を求める限度で理由があるとして認容し,その余は理由がないとして却下した。 2 前提となる事実(本件記録に照らして一応認められる事実)(1) 相手方は,昭和46(1971)年10月29日,大韓民国(以下「韓国」という。)において出生した韓国国籍を有する男子である。 (2) 相手方は,平成4年5月14日,新東京国際空港に到着し,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田支局入国審査官に対し,日本の連絡先を東京都荒川区α24ー20,日本滞在予定期間を15日間,渡航目的を親知訪問とそれぞれ申告して上陸申請をし,同日,法別表第1に定める在留資格を短期滞在,在留期間を15日とする上陸許可を受けた。 (3) 相手方は,当初から不法就労する目的で我が国に入国したものであり,入国直後から,法務大臣から法19条2項に定める資格外活動の許可を受けることなく不法就労を開始し,在留期間の更新等をすることなく,上記上陸許可の在留期限である平成4年5月29日を超えて我が国に残留し,不法就労を継続した。 (4) 相手方は,平成11年12月14日,東京都葛飾区長に対し,A(昭和28年5月28日生。)との婚姻を届け出るとともに,肩書住所地である同区β4番2ー404号を居住地として外国人登録法3条1項に基づく新規の登録申請をし,その後間もない平成12年1月6日,東京入管第2庁舎に出頭し,不法残留事実を申告した。 なお,上記婚姻届出をしたものの,Aには,平成9年1月に離婚した前夫との間に3人の子(平成13年11月現在25歳,21歳,10歳のいずれも男子)がおり,二男及び三男と同居していたこともあって,相手方とAは,直ちには同居をしなかった。 (5) 東京入管入国警備官は,相手方からの不法 (平成13年11月現在25歳,21歳,10歳のいずれも男子)がおり,二男及び三男と同居していたこともあって,相手方とAは,直ちには同居をしなかった。 (5) 東京入管入国警備官は,相手方からの不法残留事実の申告に基づき相手方の法24条各号該当の有無を調査した結果,相手方に同条4号ロ(不法残留)に該当すると疑うに足りる相当な理由があるとして,東京入管主任審査官に収容令書の発付を求め,平成12年8月9日,その発付を受け,同月11日,同令書を執行して相手方を収容するとともに,相手方を東京入管入国審査官に引き渡した。東京入管主任審査官は,同日,相手方の請求に基づき,相手方の仮放免を許可した。 (6) 東京入管入国審査官は,相手方の違反事実の有無を審査した結果,平成12年11月20日,相手方に法24条4号ロ(不法残留)に該当する違反があると認定して,その認定通知書を相手方に交付したところ,相手方は,法48条1項に基づき口頭審理の請求をした。なお,相手方は,入国警備官の調査及び入国審査官の審査を通じて,不法残留の事実自体は認めており,婚姻したAやその子のために我が国で生活したい旨供述していた。 (7) 東京入管特別審理官は,平成13年4月20日,Aの立会いの下に相手方の請求に係る口頭審理をしたが,その結果,上記(6)の入国審査官の認定に誤りはない旨判定し,判定通知書を相手方に交付したところ,相手方は,同日,法49条1項に基づき異議の申出をした。 (8) 法務大臣は,平成13年8月3日,相手方の上記異議の申出には理由がない旨の本件裁決をし,抗告人にその旨の通知をした。抗告人は,これをうけて,同月13日,相手方にその旨の通知をするとともに,本件令書を発付し,これに基づいて相手方を収容した。 (9) 相手方は,平成13年11月9日,東京地方裁判所に,法務大 をした。抗告人は,これをうけて,同月13日,相手方にその旨の通知をするとともに,本件令書を発付し,これに基づいて相手方を収容した。 (9) 相手方は,平成13年11月9日,東京地方裁判所に,法務大臣及び抗告人を被告として,法務大臣がした本件裁決及び抗告人がした本件令書発付処分の各取消しを求めて本案事件を提起するとともに,本件令書に基づく執行の停止を求める本件申立てをした。相手方が本案事件の理由とするところは,本件裁決は法務大臣が相手方に法50条1項に定める在留の特別許可(以下「在留特別許可」という。)をすべきであるのにこれをしないでしたもので違法であり,したがって,違法な本件裁決を前提としてされた本件令書発付処分も違法であるというものである。 第3 当裁判所の判断 1 本件本案事件について我が国の憲法上,外国人は我が国に入国する自由や入国後我が国に在留する権利を保障されているものではなく,したがって,上陸を許された外国人といえども,その在留期間が経過した場合には,我が国から退去しなければならないことは,当然のことである。法は,当該外国人が在留資格の変更や在留期間の更新を申請するときは,法務大臣はこれを許可することができるとしているが(法20条,21条),在留資格の変更や在留期間の更新を権利として認めているものではない(最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。同様に,法は,在留期間を経過後も我が国に不法に在留する外国人に対してもその在留を特別に許可することができるとしているが(法50条1項),そうであるからといって,当該外国人にかかる在留特別許可を受ける権利があるということはできない。そして,法務大臣が在留特別許可をするか否かについては,単に当該不法在留に係る事情だけでなく,広く国内外の政治的,経済的諸 って,当該外国人にかかる在留特別許可を受ける権利があるということはできない。そして,法務大臣が在留特別許可をするか否かについては,単に当該不法在留に係る事情だけでなく,広く国内外の政治的,経済的諸情勢を含むもろもろの事情をしんしゃくして判断すべきものであるから,法務大臣は,在留特別許可に関しては広範な裁量権を有しているものというべきである。したがって,在留特別許可に係る法務大臣の判断が裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとして違法と評価されるのは,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある等により同判断が全く事実の基礎を欠くとか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られるものと解するのが相当である。 かかる見地に立って本件をみると,前記前提となる事実によれば,相手方が法24条4号ロ(不法残留)に該当することは明らかであり,また,相手方は,当初から不法就労を目的として我が国に入国し,不法在留を続けながら不法就労をしているものであって,相手方の不法在留は初めから意図されたものであり,かつ,その期間が長期に及んでいるという点において,極めて悪質であることは,否めないところである。しかし,相手方は,入国後,日本人女性Aと婚姻し,Aには未成熟の子もいるところ,記録によれば,相手方とAが相協力して当該未成熟の子を養育していることも認められなくはないのであって,本案事件の審理のいかんによっては相手方にとってより有利な事情も明らかにされる可能性もないではない。したがって,本案事件が理由があるか否かについてはなお慎重に審理を尽くす必要があるのであり,現時点においては,行政事件訴訟法25条3項にいう「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとまではい たがって,本案事件が理由があるか否かについてはなお慎重に審理を尽くす必要があるのであり,現時点においては,行政事件訴訟法25条3項にいう「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとまではいうことはできない。 2 執行停止の必要性等について(1) 前記前提となる事実によれば,相手方は,法務大臣及び抗告人を被告として本案事件を提起し,現在その審理が進行中であることが明らかであるところ,本件令書が執行されて相手方が本国に送還されてしまうと,訴訟代理人との打合せ等に支障が生じ,相手方が第1審判決までの間訴訟を維持することが相当困難になることは否定し難い上,仮に本案事件について勝訴しても,送還の執行前の状態を回復することについての制度的な保障はないのであるから,これらのことを勘案すると,相手方は,送還の執行によって回復の困難な損害を受けるものと認めるのが相当である。 そして,本件令書の送還部分の執行を停止しても,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとはいえないから,本件令書に基づく送還部分の執行は,これを停止すべきものと認めるのが相当である。しかし,第1審判決言渡し後もこの執行停止を継続すべきかは,第1審の審理の結果明らかになった事情も含めて,第1審判決言渡し後に改めて判断するのが相当であるから,送還部分の執行を停止すべき期間は,第1審判決の言渡しの日から起算して10日後までとするのが相当である。 (2) しかしながら,本件令書による収容部分の執行については,これを停止すべき必要性があるものということはできない。 すなわち,法52条5項に定める収容は,強制退去令書の発付を受けた者について送還可能の時までその者の送還を確実に実施することができるようにするため,入国者収容所等の場所に収容してその身体を拘束するものであり,収容部分の執 に定める収容は,強制退去令書の発付を受けた者について送還可能の時までその者の送還を確実に実施することができるようにするため,入国者収容所等の場所に収容してその身体を拘束するものであり,収容部分の執行により被収容者が入国者収容所等に収容され,その身体の自由が制限される等の不利益を受けることは,法の当然に予定しているところであるというべきである。そして,このように収容部分の執行により当然に生ずる身体拘束による自由の制限等の不利益は,それのみでは,いまだ行政事件訴訟法25条2項にいう「回復の困難な損害」に当たるものとはいえず,同項にいう「回復の困難な損害」があるというためには,収容部分の執行により当然に生ずる上記のような身体拘束による自由の制限等の不利益を超え,収容に耐え難い身体的状況があるとか,収容によって被収容者と密接な関係にある者の生命身体に危険が生ずるなど,収容自体を不相当とするような特別の損害があることを要するものと解すべきである。 しかるところ,本件においては,記録によれば,相手方は,我が国に入国後土木作業員として稼働し続け,Aと婚姻した後は,Aと共にキムチ販売業を行っていたことが認められるのであり,相手方が収容に耐え難いほどの身体的状況にあるものと認めることはできない。また,相手方の収容によりAとその未成熟の子の生活にある程度の影響があることは考えられるが,もともと,Aは前夫と離婚し,未成熟の子と生活していたのであるし,未成熟の子については前夫に扶助を求めることや福祉による保護を得ることも考えられるから,相手方の収容がAらの生活に何らかの影響を及ぼすとしても,これをもって回復の困難な損害が生ずるとまでいうことはできない。その他,本件記録に照らしても,収容によって回復の困難な損害が生ずるものと認めるに足りる事情があるものという かの影響を及ぼすとしても,これをもって回復の困難な損害が生ずるとまでいうことはできない。その他,本件記録に照らしても,収容によって回復の困難な損害が生ずるものと認めるに足りる事情があるものということはできない。したがって,本件令書による収容部分の執行については,これを停止する必要性を認めることはできない。 3 結論以上のとおりであるから,本件令書に基づく執行の停止を求める本件申立ては,送還部分については,本案事件の第1審判決の言渡しの日から起算して10日後までの間の停止を求める限度で相当であるが,収容部分については,その必要が認められず,理由がない。 よって,当裁判所の上記の判断と一部異なる原決定を変更することとして,主文のとおり決定する。 平成14年4月3日東京高等裁判所第20民事部裁判長裁判官石井健吾裁判官小田泰機裁判官大橋弘

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