平成29(行コ)186 生活保護費の徴収及び返還取消し請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成29年10月18日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文5,099 文字)

平成29年10月18日判決言渡平成29年(行コ)第186号生活保護費の徴収及び返還取消し請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成28年(行ウ)第161号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人敗訴の部分を取り消す。 2 処分行政庁が控訴人に対して平成28年2月26日付けでした92万0277円の生活保護費徴収金決定を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,生活保護法(以下「法」という。)による保護を受け,保護費の支給を受けている控訴人が,被控訴人の区長から権限の委任を受けた処分行政庁から,①第三者からの入金があったにもかかわらず,当該収入にかかる申告をしていなかったことを理由として,平成28年2月26日付けで,平成25年12月13日法律第104号による改正(以下「本件改正」という。)前の法78条に基づいて,支給されていた保護費に関する徴収金決定(以下「本件第1決定」という。)を受け,また,②海外渡航費用分の資力があることを理由として,平成28年2月29日付け及び同年3月28日付けの2度にわたり,法63条又は78条に基づいて,支給されていた保護費の返還金決定及び徴収金決定(上記2度にわたる決定につき,以下,順に「本件第2決定」,「本件第3決定」という。)を受けたことに対し,各決定の取消しを求める事案である。 原審は,上記①に関する控訴人の請求を棄却し,上記②に関する控訴人の請求を認容したところ,控訴人が原判決中の控訴人敗訴の部分を不服として控訴 を提起した。 したがって,当審においては,上記①にかかる保護費徴収金決定( 求を棄却し,上記②に関する控訴人の請求を認容したところ,控訴人が原判決中の控訴人敗訴の部分を不服として控訴 を提起した。 したがって,当審においては,上記①にかかる保護費徴収金決定(本件第1決定)の取消しを求める部分につき,審理し判断することになる。 2 法等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,下記3のとおり原判決を補正し,後記4のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1ないし4(ただし,本件第2決定及び本件第3決定に関する部分を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の補正(1) 原判決3頁4行目の「支給された」の後に「(乙4)」を挿入して加える。 ⑵ 原判決3頁10行目の「毎月月末頃」の前に「若干の遅れもあるものの」を挿入して加える。 ⑶ 原判決3頁25行目の「以下」の前に「甲1。」を挿入して加える。 4 当審における当事者の主張(1) 控訴人の主張ア平成27年11月12日にA区福祉事務所が,「生活保護のしおり」を示して説明をした際,初めて控訴人は,生活保護を受給する上で必要となる様々な申告義務等を認識したのであり,それまで,控訴人にはB会社からの本件収入を申告しなければならないという認識自体がなかった。 したがって,処分行政庁に対する控訴人の「収入・無収入申告書」(乙1の1ないし4。以下「申告書」という。)に本件収入を得ていたことが記載されていなかったとしても,控訴人が本件改正前後の法78条の「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたものとはいえない。また,控訴人が乙1の1の申告書に署名したことは間違いがないが,同申告書は,控訴人が脳出血による入院治療を受けて間も 後の法78条の「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたものとはいえない。また,控訴人が乙1の1の申告書に署名したことは間違いがないが,同申告書は,控訴人が脳出血による入院治療を受けて間もない時期に作成されたもので あり,署名欄以外の記載は控訴人がしたものではない。 イ控訴人は,B会社から送金されていた三井住友銀行C支店の預金口座(以下「本件預金口座」という。)を有することをA区福祉事務所に届け出ていたのであるから,同事務所が控訴人に通帳の提出を求めれば,上記送金がされていた事実を容易に確認することができたのであり,この点からしても,控訴人が「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたとはいえない。 ウ本件改正前の法78条は,収入申告を怠ったことについて,被保護者に「故意」がある場合に適用されるべきものであるが,控訴人に「故意」が認められるかについては極めて疑わしい。 ⑵ 被控訴人の主張ア控訴人は,平成27年11月12日までB会社からの送金を収入として申告すべき義務があるとの認識はなかったと主張するが,各申告書を提出した時点において,控訴人は上記申告義務について記載した書面を受け取っており,同義務を負っていることを知っていたはずである。 イ A区福祉事務所は,控訴人が本件預金口座を有することを認識していたが,控訴人から各申告書が提出されており,特段の必要性が認められない状況下において,同事務所には,控訴人の個人情報の提出を求めたり,職権で調査する義務はなかった。 なお,法の解釈運用に係る国の通知が一部改正され,平成27年4月1日から,被保護者の預金等の申告を少なくとも12か月毎にさせることになったことに伴い,控訴人に本件預金口座にかかる通帳の写しを提出させた結 法の解釈運用に係る国の通知が一部改正され,平成27年4月1日から,被保護者の預金等の申告を少なくとも12か月毎にさせることになったことに伴い,控訴人に本件預金口座にかかる通帳の写しを提出させた結果,B会社からの不審な収入が見つかったものである。 ウ本件改正前及び改正後の法78条の「不実な申請その他不正な手段」により保護を受けた場合とは,積極的に虚偽の事実を申告した場合に限らず,既に生活保護を受けている者が届出義務を負う収入等の状況に変動があっ た事実の届出の義務について,口頭又は文書による説明を受けていたにもかかわらず,収入を得た事実を届け出なかったときも含むものである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,処分行政庁による本件第1決定は相当であり,その取消しを求める控訴人の請求には理由がないものと判断する。 その理由は,原判決11頁24行目から25行目にかけての「収入がない旨記載した」を「『無収入申告』の欄に丸印を付した」に改め,15頁6行目の「収入が」の前に「平成21年ないし平成26年の各3月頃に」を挿入して加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」(ただし,本件第2決定及び本件第3決定に関する部分を除く。)における説示のとおりであるから,これを引用する。 2(1) 上記に対し,控訴人は,平成27年11月12日にA区福祉事務所から説明を受けるまで本件収入を申告しなければならないとの認識はなかったと主張する。 しかし,生活保護は,原則として要保護者等の申請に基づいて開始されるものであり(法7条本文),申請に当たっては,要保護者の資産及び収入の状況等を記載した申請書を提出しなければならないものとされており(法24条1項4号),被保護者は,収入,支出その他生計の状況につい ものであり(法7条本文),申請に当たっては,要保護者の資産及び収入の状況等を記載した申請書を提出しなければならないものとされており(法24条1項4号),被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,すみやかにその旨を届け出なければならないとされているのであって(法61条),生活保護を受けていた控訴人としても,処分行政庁が生活保護の開始又は継続の当否等を判断するに当たり,控訴人の届出申告により,その収入,支出その他の生計の状況を把握する必要があったことは容易に認識し得たものといえ,また,原判決の「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の1⑵イのとおり,平成21年から平成26年かけて,毎年3月頃,控訴人は,A区福祉事務所から,「自分たちの働いた収入や仕送りの額が,増えたり減ったりしたとき,またそれ以外の収入があったとき」 は必ず届出をしなければならない旨が記載された「生活保護基準額の改定及び定例支払日について」などと題する書面(乙2の1ないし6)を受領していたものである。そうすると,控訴人は,遅くとも平成21年3月頃にこの書面を受領した時点で,上記の届出義務について説明を受けたというべきである。仮に控訴人が上記書面を読んでいなかったとしても,法の定めた要件・手続に従って生活保護を受けようとする者が,特段の事情もなく,配布された説明書面を読まなかったことで,説明を受けなかったことにはならないと考えるのが相当であり,本件において,控訴人に特段の事情は認められない。 そして,生活保護の申請をせざるを得ない経済状態にあった控訴人が,B会社から長期間にわたって毎月5万円の支払を受けていた事実を失念していたとは考え難く,控訴人は本件収入を得ていたことを認識していたものというほかないところ,控訴人は本件収入について届出 控訴人が,B会社から長期間にわたって毎月5万円の支払を受けていた事実を失念していたとは考え難く,控訴人は本件収入を得ていたことを認識していたものというほかないところ,控訴人は本件収入について届出を行っていなかったし,前記のように,乙1の1ないし4の各申告書は,生活保護の当否を判断するに際し,控訴人の資産状態を把握する必要から作成されるものであることは一見して明らかであるのに,各申告書を作成するに当たり,控訴人は本件収入を得ていた事実を申告書に記載しなかったばかりか,むしろ,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1⑵ウのとおり収入を0円としたり,平成21年1月16日以降は収入がない旨を積極的に記載していたものであり,かかる控訴人の行為は,本件収入を意図的に隠匿し,虚偽の内容の各申告書を提出していたものと推認することができる。控訴人は,本件改正前の法78条の「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたものと認められる。 なお,乙1の1の申告書には,申告した月である平成21年1月分の収入は0円,平成20年12月分は30万円,同年11月分は2万円,同年10月分は2万円と記載されているところ,控訴人は,上記申告書は控訴人が脳 出血による入院治療を開始して間もない時期に作成されたものであり,署名以外の欄は自らが記載したものではないと主張するが,上記の収入の状況は控訴人に確認しなければ記載できないものであり,仮に当該記載自体を控訴人がしていなかったとしても,その内容は,控訴人の説明に基づいて記載されたものと推認することができる。 ⑵ 次に,控訴人は,A区福祉事務所が控訴人に本件預金口座の通帳の写しの提出を求めていれば,控訴人に本件収入があることを認識できたと主張するが,前記のとおり,生活保護の申請をする者は,資産 。 ⑵ 次に,控訴人は,A区福祉事務所が控訴人に本件預金口座の通帳の写しの提出を求めていれば,控訴人に本件収入があることを認識できたと主張するが,前記のとおり,生活保護の申請をする者は,資産及び収入の状況等を記載した申請書を提出しなければならず,被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったときはすやかに届出なければならないものとされているところであり,また,そもそも,前記のとおり,控訴人は,本件収入を意図的に申告書に記載しなかったものと認められることからすれば,A区福祉事務所が上記通帳の写しの提出を求めるなどしていなかったとしても,そのことにより,控訴人が「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたとの前記判断を左右するものとはいえない。 ⑶ さらに,控訴人は,不実の申告をしたことについて,控訴人に故意があったかは疑わしいと主張するが,控訴人が意図的に本件収入の申告を怠ったものと認められることは前記認定のとおりである。 ⑷ 上記によれば,処分行政庁が本件改正前の法78条に基づいてした本件第1決定は適法なものと認められる。 3 以上によれば,本件控訴には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第23民事部 裁判長裁判官垣内正 裁判官髙宮健二 裁判官小川理津子

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