平成29(行ウ)94 公文書部分公開決定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年9月1日 東京地方裁判所 情報公開
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判決文本文12,510 文字)

- 1 -平成29年9月1日判決言渡平成29年(行ウ)第94号公文書部分公開決定処分取消請求事件 主文 1 板橋区長が平成28年10月6日付けで原告に対してした公文書の部分公開決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,原告が,東京都板橋区情報公開条例に基づき,板橋区長に対し,板橋区を被告とする訴訟事件の判決書の正本の公開を請求したところ,同条例6条1項2号及び6号に該当する非公開情報に係る部分を除いて公開する旨の部分公開決定を受けたことから,同決定には同条例10条3項,4項及び東京都板橋区行政手続条例8条に定める理由の提示を欠く違法があるとして,その取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め(1) 東京都板橋区情報公開条例(以下「本件情報公開条例」という。甲1)ア 1条この条例は,区民の知る権利を尊重し,区民の公文書の公開を求める権利を保障するとともに,公文書の公開手続等に関し必要な事項を定めることにより,区が区政に関し区民に説明する責務を全うし,区民の区政への参加を促進し,一層公正で開かれた区政の実現を図り,もって区民と区政との信頼関係を深め,地方自治の本旨に即した区政を推進することを目的とする。 イ 5条- 2 -何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対して公文書の公開を請求することができる。 ウ 6条1項実施機関は,公開請求があったときは,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。 (ア) 2号個人に関する情報(括弧内省略)で特定の個人が識別され得るもの れかに該当する情報が記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。 (ア) 2号個人に関する情報(括弧内省略)で特定の個人が識別され得るもの。 ただし,次に掲げる情報を除く。 ア法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報イ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報ウ当該個人が公務員(括弧内省略)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務執行の内容に係る部分(イ) 6号実施機関又は国若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあるものア監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれイ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国又は地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれウ調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な執行を不当に阻- 3 -害するおそれエ人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれエ 6条2項実施機関は,公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において,非公開情報とそれ以外の部分とを容易に,かつ,公文書の公開を求めるものの請求の趣旨を失わない程度に合理的に分離できるときは,当該非公開情報に係る以外の部分を公開しなければな されている場合において,非公開情報とそれ以外の部分とを容易に,かつ,公文書の公開を求めるものの請求の趣旨を失わない程度に合理的に分離できるときは,当該非公開情報に係る以外の部分を公開しなければならない。 オ 10条1項実施機関は,前条の規定により公文書の公開の請求があったときは,(中略),当該請求に係る公文書の全部又は一部を公開するときはその旨の,当該請求に係る公文書の全部を公開しないとき,第8条の規定により公文書の公開請求を拒否するとき及び公開請求に係る公文書が存在しないときは公開しない旨の決定(以下「公開決定等」という。)を行わなければならない。ただし,(以下省略)カ 10条3項実施機関は,公開決定等を行ったときは,速やかに請求者に対し,書面により通知しなければならない。 キ 10条4項前項の場合において,公開決定等(全部を公開する決定を除く。)をしたときは,その理由を併せて通知しなければならない。(以下省略)(2) 東京都板橋区行政手続条例(以下「本件行政手続条例」という。甲6)ア 1条2項処分,行政指導及び届出に関する手続に関しこの条例に規定する事項について,他の条例に特別の定めがある場合は,その定めるところによる。 イ 2条1項- 4 -この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。 (ア) 3号申請条例等に基づき,行政庁の許可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。 ウ 8条1項行政庁は,申請により求められた許認可等を拒 る処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。 ウ 8条1項行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。ただし,(以下省略)エ 8条2項前項本文に規定する処分を書面でするときは,同項の理由は,書面により示さなければならない。 3 前提事実(掲記の証拠等により容易に認定することができる。)(1) 原告は,平成28年9月7日,本件情報公開条例に基づき,同条例上の実施機関(2条1号)である板橋区長に対し,「東京地方裁判所平成28年1月26日判決(損害賠償請求事件)に係る判決文」及び「東京高等裁判所平成28年9月1日判決(損害賠償請求控訴事件)に係る判決文」の公開を請求した(以下,当該請求を「本件公開請求」という。甲1,2)。 本件公開請求の対象たる各文書(以下「本件請求対象各文書」という。)は,第三者(以下「別件訴訟原告」という。)を原告とし,板橋区を被告とする訴訟事件(以下「別件訴訟」という。)における第1審及び控訴審の各判決書の正本である(甲5の1・2,弁論の全趣旨)。 (2) 板橋区長は,本件公開請求について,平成28年10月6日付けで,本件請求対象各文書の一部を公開する旨の部分公開決定(以下「本件処分」と- 5 -いう。)を行い,その頃,原告に対し,同日付け公文書部分公開通知書(以下「本件通知書」という。)を交付し,その後間もなく,本件請求対象各文書につき,①事件番号の表示のうち号数字の記載部分,②当事者の表示欄のうち別件訴訟原告の住所及び氏名の記載部分,③当事者の表示欄のうち板橋区長の肩書の記載(被告の代表者である旨の記載 件請求対象各文書につき,①事件番号の表示のうち号数字の記載部分,②当事者の表示欄のうち別件訴訟原告の住所及び氏名の記載部分,③当事者の表示欄のうち板橋区長の肩書の記載(被告の代表者である旨の記載を除く。)部分,④「主文」欄のうち却下された訴えの内容の記載部分,⑤「事実及び理由」欄のうち各項の標題及び裁判所の判断の結論の記載等を除くほとんどの記載部分をいずれも墨塗りにした本件請求対象各文書の写しを原告に交付した(甲4,5の1・2)。 (3) 本件通知書には,「公開できない部分及び理由」欄に次のとおりの記載がされているが,そのほかには本件処分における非公開部分の内容及びその非公開の理由についての記載はされていない(甲4)。 「(公開できない部分の概要)住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」「板橋区情報公開条例第6条第1項2,6号該当(理由)個人情報行政運営情報」(4) 原告は,平成28年10月24日付けで,板橋区長に対し,本件処分について審査請求をしたが,現在までこれに対する裁決はされていない(甲11,乙1,弁論の全趣旨)。 (5) 原告は,平成29年3月1日,本件処分の取消しを求めて本件訴えを提起した(顕著な事実)。 4 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件処分が理由提示の要件を満たしているか否かであり,この点に関する当事者の主張は次のとおりである。 - 6 -(原告の主張)(1) 本件情報公開条例に基づく公開請求に対して実施機関が公文書の全部又は一部を非公開とする場合,同条例10条3項に基づき,当該決定をした旨を書面により通知しなければならず,この通知を行う際には,同条4項及び本件行政手続条例8条に基づき,理由の提示を書面により行うことを要する。 そして,理由の提示 10条3項に基づき,当該決定をした旨を書面により通知しなければならず,この通知を行う際には,同条4項及び本件行政手続条例8条に基づき,理由の提示を書面により行うことを要する。 そして,理由の提示は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨のものであるところ,公文書を非公開とする決定について提示する理由としては,公開請求者において条例所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず,単に非公開の根拠規定を示すだけでは十分でない(最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決・裁判集民事166号773頁(以下「平成4年最判」という。)参照)。具体的には,該当条項のみを示した場合はもとより,その記載内容が条文を引き写した程度にすぎず,実質的に該当条項のみを示した程度である場合も,理由の提示に不備があり違法である。 (2) これを本件処分について見ると,本件通知書には,「個人情報」及び「行政運営情報」と記載されているのみであり,これは本件情報公開条例6条1項2号及び6号の内容をそれぞれ一語で言い換えたものでしかない。そして,非公開情報として列挙された「住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」のうちいずれが同項2号に該当し,いずれが同項6号に該当するのか明らかではないし,同項6号については,同号アないしエのいずれに該当するのか,いずれにも該当しない場合にはどのような情報に該当するのか,公にすることによりどのようなおそれが生じるのかについて,何一つ述べられていない。 また,本件処分においては,公開された文書のほぼ全部が墨塗りになっており,その非公開部分のどの部分が「住所,氏名,事件番号,処分名,処分- 7 -内容」のいずれに ,何一つ述べられていない。 また,本件処分においては,公開された文書のほぼ全部が墨塗りになっており,その非公開部分のどの部分が「住所,氏名,事件番号,処分名,処分- 7 -内容」のいずれに該当するのかという対応関係も全く判然としない。 (3) そうすると,本件処分における理由の提示は,その態様から処分行政庁の恣意が抑制されたものとは認められないし,原告の不服申立てを著しく困難ならしめるものであるから,理由提示の要件を満たさないことが明らかである。したがって,本件処分は,本件情報公開条例10条3項,4項及び本件行政手続条例8条に反し,違法である。 (4) なお,板橋区長は,原告が別件訴訟の訴訟記録を閲覧したことを処分理由として主張するが,処分後に同区長が入手した情報に基づき理由の後付けをしたものであるし,そうでなくても処分時にその理由を提示していないから,理由提示の要件を欠くことに変わりはない。 (被告の主張)(1) 本件情報公開条例10条4項は,書面により理由を通知すべきことを求めていない。また,本件行政手続条例8条2項は,処分を書面でする場合に限定して書面による理由の提示を求めているところ,本件情報公開条例10条3項は公開決定等を行った後にその旨を書面により通知すべきことを求めているにすぎず,同公開決定等は処分を書面でする場合に当たらない。このように,同条例に基づく公開決定等については,同条例上も本件行政手続条例上も,書面による理由の提示を求められていない。 原告が依拠する平成4年最判は,条例上,書面に処分理由を記載(付記)することが求められていた事案に係るものであって,これと事案を異にする本件はその射程外である。 (2) 平成4年最判においても,当該公文書の種類,性質等とあいまって,開示請求者が非 載(付記)することが求められていた事案に係るものであって,これと事案を異にする本件はその射程外である。 (2) 平成4年最判においても,当該公文書の種類,性質等とあいまって,開示請求者が非開示事由のどれに該当するのか等を当然に知り得るような場合には,単に非開示の根拠規定を示すだけでも構わないものとされている。 そして,本件請求対象各文書は判決書であるところ,判決書は,別件訴訟原告が被告たる板橋区に対して請求した内容,請求原因,訴訟物に関する攻- 8 -撃防御方法,証拠等が記載されているという性質を有しており,これらは全て別件訴訟原告の個人情報に当たるのであり,このような本件請求対象各文書の種類及び性質からして,公開請求者はそれが本件情報公開条例6条1項2号本文の「個人に関する情報」に該当することを当然知り得るのである。 しかも,公開請求者たる原告は,本件公開請求をした時点で,既に民事訴訟法91条1項に基づき別件訴訟の判決書を閲覧し,本件請求対象各文書が誰を当事者とする判決書であるかについて個人識別情報を有していたから,「個人に関する情報」たる当該判決書が「特定の個人が識別され得るもの」(同条例6条1項2号本文)に該当することを当然知り得るのである。 すなわち,本件公開請求をした原告は,本件請求対象各文書が「個人に関する情報」で「特定の個人が識別され得るもの」であることを元々知っており,その前提で本件通知書上の理由を読めば,本件請求対象各文書が本件情報公開条例6条1項2号に該当することを当然知り得るのであるから,本件処分に係る理由の提示は十分である。 (3) 板橋区長は,本件公開請求につき,原告が既に別件訴訟の判決書を閲覧していることが推認されたため,別件訴訟原告のプライバシー保護のため,本件処分のよう 処分に係る理由の提示は十分である。 (3) 板橋区長は,本件公開請求につき,原告が既に別件訴訟の判決書を閲覧していることが推認されたため,別件訴訟原告のプライバシー保護のため,本件処分のような部分公開を実施せざるを得なかったのであって,本件処分が処分行政庁の恣意によるものとはいえない。また,前記(2)のとおり,公開請求者たる原告は,部分公開とされた理由が個人識別情報にあることを容易に知り得たのであり,原告にとって,部分公開の理由は明確でその争点も明確であるから,本件処分に対する不服申立てが困難であったとはいえない。 したがって,理由の提示の趣旨に照らしても,本件処分が理由提示の要件を欠くとはいえない。 (4) なお,本件通知書上の記載が不十分であると判断される場合に備え,本件訴訟において,予備的に,「原告は,本件公開請求をした時点で,既に別件訴訟の判決書を民事訴訟法91条1項に基づき閲覧済みであり,当該判決- 9 -書の当事者の住所,氏名等の個人識別情報を知悉していたから,本件請求対象各文書について,個人識別情報についてのみ墨塗りをするだけでは,別件訴訟原告のプライバシーを侵害することとなるため」との理由を補充して主張する。板橋区長は,本件通知書を発送する時点で,原告が別件訴訟の判決書を閲覧していたことを合理的に推認していたものであり,上記主張は処分後に入手した情報により理由を後付けするものではない。 第3 当裁判所の判断1(1) 本件情報公開条例10条3項は,実施機関が公開決定等を行ったときは,速やかに請求者に対して書面により通知しなければならない旨を規定し,同条4項は,前項の場合において,公開請求に係る公文書の全部を公開する決定ではない公開決定等(以下「非公開決定」という。)をしたときは,その理由を併 して書面により通知しなければならない旨を規定し,同条4項は,前項の場合において,公開請求に係る公文書の全部を公開する決定ではない公開決定等(以下「非公開決定」という。)をしたときは,その理由を併せて通知しなければならない旨を規定している。この同条4項の規定は,行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する処分(本件情報公開条例に基づく公開請求に対してされる非公開決定はこれに当たるものと解される。)をする場合に,申請者に対し,同時に当該処分の理由を示さなければならない旨を規定している本件行政手続条例8条1項本文に対する特別の定め(同条例1条2項)と位置付けられるものである。 一般に,法令が行政処分につき理由を提示すべきものとしている場合に,どの程度の提示をすべきかは,処分の性質と理由の提示を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきであるところ,本件情報公開条例が上記のように非公開決定をしたときにその理由を併せて通知すべきものとしているのは,同条例に基づく公文書の公開請求制度が,区民の公文書の公開を求める権利を保障することにより,区民と区政との信頼関係を深め,地方自治の本旨に即した区政を推進することを目的とするものであること(同条例1条)や,非公開決定が請求者に公文書の公開という利益を付与しない性質の処分であることに鑑み,非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎- 10 -重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,非公開の理由を公開請求者に知らせることによってその不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。このような理由の提示制度の趣旨に鑑みれば,非公開決定をしたときに提示すべき理由としては,公開請求者において,同条例6条1項各号所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るも 。このような理由の提示制度の趣旨に鑑みれば,非公開決定をしたときに提示すべき理由としては,公開請求者において,同条例6条1項各号所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず,単に非公開の根拠規定を示すだけでは,当該公文書の種類,性質等とあいまって公開請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として,同条例10条4項の要求する理由の提示としては十分ではないといわなければならない(平成4年最判参照)。 (2) ところで,被告は,本件情報公開条例に基づく非公開決定について,同条例上も本件行政手続条例上も書面による理由の提示を求められていないから,本件は平成4年最判とは事案を異にする旨を主張する。 しかし,本件情報公開条例10条3項は,実施機関が公開決定等を行ったときは,速やかに請求者に対して書面により通知しなければならない旨を規定し,同条4項は,前項の場合において,非公開決定をしたときは,その理由を併せて通知しなければならない旨を規定しているのであり,その文理上,非公開決定の理由の通知は原則として当該処分を通知する書面によって併せて行われることが予定されているものと解するのが自然である。また,本件行政手続条例8条2項は,申請により求められた許認可等を拒否する処分を書面でするときはその理由を書面により示さなければならない旨を規定しているところ,同項に規定する「処分を書面でするとき」とは,行政手続法8条2項と同様に,処分を書面で名宛人に通知する場合をいうものと解するのが相当であり,これと別異に解すべき特段の事情は見当たらない。したがって,本件情報公開条例上及び本件行政手続条例上,非公開決定につき書面による理由の提示が求められていない旨の被告の主張は,それ自体にわかに採用し難いものといわなければならな 情は見当たらない。したがって,本件情報公開条例上及び本件行政手続条例上,非公開決定につき書面による理由の提示が求められていない旨の被告の主張は,それ自体にわかに採用し難いものといわなければならない。 - 11 -この点をさて措くとしても,非公開決定の性質及びこれについて理由の提示を命じた本件情報公開条例の趣旨・目的に照らせば,同条例に基づく非公開決定をする場合に提示すべき理由の程度については,その提示を書面によって行うかどうかに関わらず,前記(1)のとおりに解すべきであって,いずれにしても,これに反する趣旨の被告の主張は採用することができない。 2(1) 本件情報公開条例10条4項は,公開決定等を行ったときは速やかに通知しなければならない旨を定める同条3項の場合において,非公開決定をしたときはその理由を併せて通知しなければならないとするものであるから,非公開決定をしたときは速やかにその通知と併せてその理由を通知することを求めているものと解される。 しかるに,本件処分については,前記前提事実(3)のとおり,原告に交付された本件通知書には非公開の理由が記載されているが,そのほかには,本件処分の通知と併せて原告に対して非公開の理由が提示されたとは認められない。そこで,本件処分について本件通知書によってされた理由の提示が,前記1(1)の観点から,本件情報公開条例10条4項の定める理由提示の要件を満たすものと認められるか否かについて検討する。 (2) 前記前提事実(3)のとおり,本件通知書には,公開できない部分の概要として,「住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」と記載されているほか,公開できない理由として,「板橋区情報公開条例第6条第1項2,6号該当」,「(理由)個人情報,行政運営情報」と記載されている。このうち, 所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」と記載されているほか,公開できない理由として,「板橋区情報公開条例第6条第1項2,6号該当」,「(理由)個人情報,行政運営情報」と記載されている。このうち,「個人情報」は本件情報公開条例6条1項2号本文の規定を,「行政運営情報」は同項6号柱書の規定を,それぞれ簡潔に言い換えただけのものであるから,本件通知書は,実質的には,単に非公開の根拠規定が同項2号及び6号であることを示したにすぎないものというべきである。 そして,本件請求対象各文書の非公開部分は多数の箇所に及んでいるところ(前記前提事実(2)),本件通知書上の記載によっては,各非公開部分の- 12 -ほとんどの部分について「住所,氏名,事件番号,処分名,処分内容」のいずれに該当するのか判然としない上,各非公開部分と公開できない理由との対応関係が示されていないため,そもそも,公開請求者たる原告において,各非公開部分につき,その非公開の理由が本件情報公開条例6条1項2号及び6号のいずれなのか又はその両方なのかを知ることはできない。すなわち,本件請求対象各文書の非公開部分のうち,事件番号並びに当事者の住所及び氏名に係る部分(前記前提事実(2)の①,②)については,原告によって特定された本件請求対象各文書が訴訟事件の判決書であることに照らし,公開請求者たる原告において,非公開の理由が同項2号所定の個人識別情報に該当することにあるであろうことは推測し得るものといえるが,非公開の理由に同項6号に該当することも含まれるのかを知ることはできないし,その余の部分(同③ないし⑤)については,本件請求対象各文書の種類,性質等に照らしても,非公開の理由が同項2号及び6号のいずれなのか又はその両方なのかを知ることはできないものといわざるを得ない。(なお 余の部分(同③ないし⑤)については,本件請求対象各文書の種類,性質等に照らしても,非公開の理由が同項2号及び6号のいずれなのか又はその両方なのかを知ることはできないものといわざるを得ない。(なお,仮に,本件通知書上の記載について,本件請求対象各文書の非公開部分の全ての非公開の理由が同項2号及び6号の両方であることを示す趣旨であると解したとしても,次に述べるとおり,少なくとも同項6号については,非公開の根拠規定が同号であることが示されるだけでは理由の提示として十分ではないから,結局,理由提示の要件を満たすものとはいえない。)また,本件情報公開条例6条1項6号は,公開の請求に係る公文書に,「実施機関又は国若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,同号アないしエに掲げるおそれその他当該事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当する情報が記録されている場合には,これを公開しないことができるとするものであるところ,原告によって特定された本件請求対象各文書の種類,性質等を考慮しても,本件通知書のように非公開の根拠規定が同号であることが示- 13 -されるだけでは,いかなる根拠により同号所定の非公開事由のどれに該当するとして非公開決定がされたのかを,原告において知ることはできないものといわざるを得ない。 そうすると,前記前提事実(3)のとおりの記載があるにすぎない本件通知書によってされた理由の提示は,本件情報公開条例10条4項の定める理由提示の要件を満たすものと認めることはできないというほかない。 (3) この点につき,被告は,原告は既に別件訴訟の判決書を閲覧し,その当事者に係る個人識別情報を有していたから,本件請求対象各文書が本件情報公開条例6条1項2 ことはできないというほかない。 (3) この点につき,被告は,原告は既に別件訴訟の判決書を閲覧し,その当事者に係る個人識別情報を有していたから,本件請求対象各文書が本件情報公開条例6条1項2号本文に規定する「個人に関する情報で特定の個人が識別され得るもの」に該当することを当然知り得たのであり,本件通知書上の記載は原告に対する理由の提示として十分である旨主張する。この主張は,訴訟事件の判決書の公開請求者が当該訴訟事件の当事者の住所,氏名等の情報を知っている場合には,当該判決書に記載された情報は,それ自体としては特定の個人を識別し得るものでなくても,同号本文に規定する個人識別情報に当たり,同号ただし書アないしウ所定の事由にも当たらないため,同号所定の非公開事由に該当するとの解釈を前提に,原告は,自ら別件訴訟の判決書を閲覧していた以上,本件請求対象各文書の非公開部分が同号所定の非公開事由に該当することをその根拠とともに了知し得たことをいう趣旨と解される。 しかし,本件通知書を見ても,本件処分につき,原告が既に別件訴訟の判決書を閲覧してその当事者に係る個人識別情報を有していたことを根拠に本件情報公開条例6条1項2号所定の非公開事由該当性を認めたものであることを示す記載は何ら存在しない。そして,被告の主張が前提とする上記解釈は,その当否はさて措き,少なくとも同条例の解釈として当然に導き出されるものとはいえない(例えば,公開請求者が事件番号や当事者名を知っている場合には,その公開請求者は当該判決書を民事訴訟法91条1項に基づい- 14 -て閲覧することが可能であるため,当該判決書は本件情報公開条例6条1項2号ただし書アに規定する「法令等の規定により公にされている」ものに当たることとなり,結局,非公開事由には当たらないという解 -て閲覧することが可能であるため,当該判決書は本件情報公開条例6条1項2号ただし書アに規定する「法令等の規定により公にされている」ものに当たることとなり,結局,非公開事由には当たらないという解釈も成り立つ余地がある。)から,被告が主張するように原告が本件公開請求に先立ち別件訴訟の判決書を閲覧し,別件訴訟原告の住所,氏名等の情報を知っていたという事実があったとしても,本件処分を受けた原告において,上記のような被告の解釈を前提に自身の閲覧等の事実を根拠に同号所定の非公開事由に該当すると判断されたことを当然知り得るものとはいえない。 なお,そもそも,本件通知書においては,非公開の根拠規定として本件情報公開条例6条1項2号のほか同項6号も併記されているのであるから,被告の主張によっても,前記(2)のとおり,同項6号所定の非公開事由についての理由の提示が十分ではないことに変わりはない。 そうすると,被告の主張を踏まえて検討しても,本件通知書上の記載によっては,いかなる根拠により本件情報公開条例6条1項2号及び6号所定の非公開事由に該当するとして非公開決定がされたのかを,原告において知ることはできないものといわざるを得ない。 3 被告は,本件通知書上の記載が不十分であると判断される場合に備えて,本件訴訟において,「原告は,本件公開請求をした時点で,既に別件訴訟の判決書を民事訴訟法91条1項に基づき閲覧済みであり,当該判決書の当事者の住所,氏名等の個人識別情報を知悉していたから,本件請求対象各文書について,個人識別情報についてのみ墨塗りをするだけでは,別件訴訟原告のプライバシーを侵害することとなるため」との理由を補充して主張するとする。 しかし,本件処分の取消訴訟において被告から訴訟上の主張として非公開の理由の説明がされたとし るだけでは,別件訴訟原告のプライバシーを侵害することとなるため」との理由を補充して主張するとする。 しかし,本件処分の取消訴訟において被告から訴訟上の主張として非公開の理由の説明がされたとしても,そのような事後的な説明では前述した理由提示の趣旨・目的に沿わないから,それによって本件処分に係る理由の提示の不備の瑕疵が治癒されるものということはできない(最高裁昭和47年12月5日- 15 -第三小法廷判決・民集26巻10号1795頁,平成4年最判参照)。 4 以上によれば,本件処分は,本件情報公開条例10条4項の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって,その取消しを求める原告の請求には理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官古田孝夫 裁判官貝阿彌亮 裁判官志村由貴

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