平成11(行ウ)46 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年11月30日 大阪地方裁判所 住民訴訟
ファイル
hanrei-pdf-15478.txt

判決文本文14,359 文字)

主文 1 原告の本件訴えのうち被告Aに対する別紙訴え目録記載1(1)の部分を却下する。 2 原告の被告Aに対する別紙訴え目録記載1(2)及び同記載2の訴えに係る請求並びに原告の被告Bに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,河南町に対し,各自金448万8000円及びこれに対する,被告Aについては平成11年6月29日(訴状送達の日の翌日)から,被告Bについては平成11年6月26日(訴状送達の日の翌日)から,それぞれ支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,αの住民である原告が,河南町が被告Bに対し貸し付けた別紙物件目録記載の町有建物(以下「本件医師住宅」という。)につき,その対価が不当に低額であり,河南町に適正な対価との差額分相当の損害ないし損失を生ぜしめているとして,いずれも地方自治法(以下単に「法」という。)242条の2第1項4号の規定に基づき,河南町に代位して,同貸付け以降河南町の町長の地位にある被告Aに対しては損害賠償を,被告Bに対しては不当利得の返還を求めた住民訴訟である。 1 前提事実(争いの無い事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1)当事者原告は,αの住民である。 被告Aは,昭和63年10月23日から現在まで河南町長の地位にあり,本件医師住宅の管理者である。 被告Bは,医師であり,平成6年11月10日付けで河南町立国民健康保健直営診療所(以下「本件診療所」という。)所長に任命され,以降,同診療所長の地位にあり,同診療所で診療行為を行っている。 (2)本件医師住宅の使用関係ア本件医師住宅は,河南町が平成元年度に建築したものであり,平成2年3月31日に町有財産とされ,財産台帳上,法238条3項の普 にあり,同診療所で診療行為を行っている。 (2)本件医師住宅の使用関係ア本件医師住宅は,河南町が平成元年度に建築したものであり,平成2年3月31日に町有財産とされ,財産台帳上,法238条3項の普通財産として管理されてきたが,平成11年6月1日,行政財産とされ現在に至っている。 イ河南町は,被告Bに対し,平成6年11月1日,本件医師住宅を月額1万2000円の対価で貸し付けることとし,被告Bは,平成6年11月10日から現在まで,本件医師住宅に月額1万2000円の対価で居住している(以下「本件貸付」という。)。 ウ本件医師住宅の対価月額1万2000円は,河南町の一般会計予算の(款)財産収入,(項)財産運用収入,(目)財産貸付収入,(節)土地建物貸付収入,(細節)医師住宅貸付料として徴収されていた。 しかるところ,本件医師住宅が行政財産とされた後,前記対価は,本件医師住宅の維持管理に必要な費用として国民健康保健特別会計(直営診療施設勘定)予算の(款)諸収入,(項)雑入,(目)雑入,(節)雑入として収入されている。 (3)監査請求原告は,平成11年3月17日,河南町監査委員に対し,法242条1項の規定に基づき監査請求をしたところ,同監査委員は,平成11年5月14日,原告の主張については理由がないものとして同請求を棄却した。 なお,同監査結果の通知(甲2)には,本件医師住宅の管理及び使用料の収入の方法については,行政財産として適正に管理し,財産貸付収入ではなく維持管理等に必要な費用として収入するように意見が添えられている。 2 争点及び当事者の主張2の1 本案前の争点(1)被告らの主張本件医師住宅は,平成6年11月1日,河南町から被告Bに貸し付けられたものであり,原告の監査請求は監査請求期間を徒過した違法なものである。 (2)原告の主 2の1 本案前の争点(1)被告らの主張本件医師住宅は,平成6年11月1日,河南町から被告Bに貸し付けられたものであり,原告の監査請求は監査請求期間を徒過した違法なものである。 (2)原告の主張被告らの主張は争う。 2の2 本案の争点(1)原告の主張ア違法な財務会計上の行為又は怠る事実(ア)被告Aは,本件医師住宅を被告Bに貸与するに当たり,同住宅は普通財産であるから適正な賃料で貸与すべきであるのに,不当に安価な対価で貸し付ける内容の契約を締結した。同契約締結行為は,法237条2項,さらには法2条13項(平成11年法律第114号による改正前のもの現2条14項)及び地方財政法4条2項に違反する違法な財務会計上の行為である。 また,低額での本件貸付行為は,その実態は被告Bに対する給与の給付であるが,法律あるいは条例に基づかないものであり,法204条の2に反する違法な財務会計上の行為である。 (イ)また,被告Aには,町有財産である本件医師住宅の管理として前記契約を終了させるあるいは適正な対価に改定する義務があるにも関わらず,漫然と財産管理の義務を怠っている。 (ウ)さらに,河南町は,被告Aに対して,前記(ア)及び(イ)の同人の行為により,後記ウ(ア)a及びbのとおり損害賠償請求権を有し,被告Bに対して,後記ウ(イ)のとおり不当利得返還請求権を有するものであるが,被告Aは,長として同各請求権の行使を怠っている。 イ損害ないし損失本件医師住宅貸付けの適正な対価は,少なく評価しても月額10万円である。しかるところ,被告Bは,平成6年11月10日以降平成11年2月9日まで,51か月間にわたり,本件医師住宅を対価月額1万2000円で使用しており,この結果,河南町には,少なくとも差額448万8000円の損害ないし損失が生じている。 ( 10日以降平成11年2月9日まで,51か月間にわたり,本件医師住宅を対価月額1万2000円で使用しており,この結果,河南町には,少なくとも差額448万8000円の損害ないし損失が生じている。 (計算式)10万円×51か月-1万2000円×51か月=510万円-61万2000円=448万8000円ウ請求(ア)被告Aに対する請求被告Aは,町長として法の規定に則り,本件医師住宅を適正な価格で貸し付け,あるいは,その是正を図るべきであるのに,漫然とこれらを怠ったものであり,故意あるいは過失が認められる。 なお,具体的な請求の法242条の2第1項の訴訟類型は次のとおりである。 a 前記ア(ア)につき,当該行為を行った当該職員に対する法242条の2第1項4号前段の損害賠償請求b 前記ア(イ)につき,財産の管理を怠る当該職員に対する法242条の2第1項4号前段の損害賠償請求c 前記ア(ウ)につき,財産の管理(債権(被告Aに対する損害賠償請求権及び被告Bに対する不当利得返還請求権)の管理)を怠る当該職員に対する法242条の2第1項4号前段の損害賠償請求(イ)被告Bに対する請求被告Bは,本件医師住宅に安価な対価で居住することにより,法律上の原因なく,前記(2)の河南町の損失額と同額の利益を得ている。 なお,本件医師住宅の貸付は議会の議決を経ておらず無効である(法237条2項,96条1項6号)。 被告Bに対する請求の法242条の2第1項の訴訟類型は,前記ア(ア)の違法な財務会計上の行為の相手方,あるいは,前記ア(イ)(ウ)の怠る事実の相手方に対する法242条の2第1項4号後段の不当利得返還請求である。 エ本件医師住宅のおかれた状況等(行政財産非該当性)(ア)本件医師住宅の必要性現在,社会環境が変化し,医師余りの現象が生じ 相手方に対する法242条の2第1項4号後段の不当利得返還請求である。 エ本件医師住宅のおかれた状況等(行政財産非該当性)(ア)本件医師住宅の必要性現在,社会環境が変化し,医師余りの現象が生じ,医療機関も乱立気味となり,患者も有名医や高度な検査機器や医師の技能を求めて大病院に集中する傾向があり,町立診療所の役割も変化している。 そして,本件医師住宅は,河南町の本件診療所からかなり離れた場所にあり,夜間や休日など時間外の診療は拒否され,普通のサラリーマンと変わらぬ勤務体系である。 このように,そもそも直営診療所の必要性が低下しており,「医師としての職務の執行上一定の場所に居住することを必要とする義務的宿舎である公用財産」と称してわざわざ離れた遠方の医師住宅に住まわせなければならない合理的な理由はない。 (イ)被告らは,本件医師住宅は直営診療所施設整備分という国庫補助金を元に建築したと主張しているが,実態は全く異なったものであり,同国庫補助の事実自体疑わしい。仮に,国庫から補助を受けたとしても,不法に拡大解釈して建築したに過ぎない建物につき,補助金を不正流用したものである。 (ウ)医師住宅が真に行政財産であるためには,住宅が診療所医師として,そこに居住させることの必須性が必要であり,公務員である医師に自宅を提供することの便宜性では足りない。 ところが,本件医師住宅は名ばかりで,被告Bの私宅としての機能を有するだけであり,診療所横の医師住宅で急患への対応が直ちにできるといった類のものでもないし,現にそのような対応もなされていない。 (エ)以上のとおり,本件医師住宅は,行政財産に当たるものではなく,あくまでも普通財産である。 また,本件医師住宅が行政財産として管理することが可能ないし適切であったとしても,財産管理上普通財産として管理さ のとおり,本件医師住宅は,行政財産に当たるものではなく,あくまでも普通財産である。 また,本件医師住宅が行政財産として管理することが可能ないし適切であったとしても,財産管理上普通財産として管理されていた以上,法237条2項の適用があるというべきである。 (2)被告Aの主張本件医師住宅は行政財産であり普通財産であることを前提とする原告の請求は理由がなく,被告Aは,本件医師住宅の管理を怠ったことはない。 ア本件医師住宅建築の経緯昭和40年当時まで,河南町においては,いわゆる無医町であったため,これを解消して,町民の福祉増進に寄与することを目的として,昭和40年に診療所を開設し,診療諸施設に付随した形で医師住宅を設置した。 このように,医師住宅は,本来,医師の定着や確保を図るために必要なものであるが,河南町では,昭和54年に至り,診療所を現在の場所に移転することとなり,前記医師住宅は現在倉庫として利用されているため,平成元年に至り,本件医師住宅を新たに建築したものである。 建築に当たっては,河南町国民健康保健特別会計(直営診療施設勘定)予算に計上した上で,地理的条件等によって診療施設の運営が困難であると思われる保険者等が行う施設整備事業に対して国が助成することを目的とする国民健康保健調整交付金(直営診療施設整備分)という国庫補助金334万8000円を受けた。 イ行政財産該当性(ア)本件医師住宅は,医師の定着を図るという行政目的のために建築したものである。 すなわち,河南町は,診療所医師の確保についてはこれまでも苦労してきており,医師住宅は,医師候補者の対象を近隣居住者に限らず全国に広げて医師を捜すときに少しでも有利なように,少しでも医師が診療所に勤務しやすいようにという意味で設置したものであり,このことは,国庫補助金の交付要件 宅は,医師候補者の対象を近隣居住者に限らず全国に広げて医師を捜すときに少しでも有利なように,少しでも医師が診療所に勤務しやすいようにという意味で設置したものであり,このことは,国庫補助金の交付要件である「医師の確保上,特に必要と認められるもの」にも該当するものである。 (イ)また,本件医師住宅は,「職務の執行上一定の場所に居住することを必要とする職員に貸与するもの」(昭和32年2月11日付自丁行発第17号行政実例)に該当するものとして,公用性の強い義務的宿舎というべきものである。すなわち,本件医師住宅設置の目的は,医師を住まわせることであるが,その中には,診療所医師として緊急の患者に対応するためという目的が含まれているのである。 (ウ)以上のとおり,本件医師住宅は,いわゆる公用財産であって行政財産として管理されるべきものである。 なお,本件医師住宅建築当時,旧医師住宅は既に他の目的に使用しており,また,本件診療所近隣にも適当な未使用地や医師住宅用地として転用できる土地が無かったため,別紙物件目録記載の所在地の町有地に本件医師住宅を建設することが最も効率的であり,かつ医師住宅として緊急時にも対応できると判断したものである。 (3)被告Bの主張原告の主張は争う。 被告Bは,本件貸付によって本件医師住宅の対価として月額1万2000円を支払って使用しているのであり,仮に,一般の賃貸住宅よりは低額な対価で利用しているとしても法律上の原因なく利得しているものではない。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の判断(1)訴えの適否の判断ア住民訴訟における訴訟物は,地方公共団体が有する損害賠償請求権や不当利得返還請求権などの実体法上の請求権の存否であり,訴えの個数はかかる訴訟物の個数により画される。 一方,住民訴訟の訴えの適否を判断するには,監査請 訟物は,地方公共団体が有する損害賠償請求権や不当利得返還請求権などの実体法上の請求権の存否であり,訴えの個数はかかる訴訟物の個数により画される。 一方,住民訴訟の訴えの適否を判断するには,監査請求期間や住民訴訟の対象としての適格性など,財務会計上の行為又は事実(以下,併せて「財務会計行為」という。)が重要な指標となる。 しかるところ,同一の訴訟物,すなわち同一の訴えを基礎づける事実の中に,一連の事実経過の中で段階的に行われる複数の財務会計行為を想定することができ,住民がこれらの複数の財務会計行為がそれぞれ違法であるとして同一の訴えを基礎づける場合がある。 かかる場合に住民訴訟の訴えの適否を判断するには,ある訴訟物につき,いずれか一つの財務会計行為を指標として適法性が肯定されるのであれば,他の財務会計行為を指標とした場合に不適法となる場合であっても,違法事由の主張制限の有無は別として,当該訴訟物に係る訴えは適法であると解するべきである。 イ本件において原告は,被告Aにつき不法行為に基づく損害賠償請求権を,被告Bにつき不当利得返還請求権をその訴訟物として設定しているところ,まず,被告Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求権としては,本件貸付が違法な契約締結であることにより生じる損害賠償請求権(この場合の財務会計行為は,契約の締結,違法な契約締結により生じた損害賠償請求権等の行使を怠る事実が含まれる。)と本件貸付にかかる契約を改定する義務に違反して生じた損害賠償請求権(この場合の財務会計行為は,契約改定を怠る事実となる。)の異なる2つの請求権が存在するものと解される。 一方,被告Bに対する不当利得返還請求権は,財務会計行為をどのようにとらえるとしても,本件医師住宅を使用した利得と河南町が適正な対価で貸し付けられなかったことにより被っ が存在するものと解される。 一方,被告Bに対する不当利得返還請求権は,財務会計行為をどのようにとらえるとしても,本件医師住宅を使用した利得と河南町が適正な対価で貸し付けられなかったことにより被った損失を基準として画することができ,各個の財務会計行為の違法性は,法律上の原因の有無を判断する際の事情にすぎないと言うべきであり,請求権は1つであると解することができる。 したがって,本件においては,①被告Aに対する違法な契約締結を理由とする損害賠償請求,②被告Aに対する契約改定を怠ることを理由とする損害賠償請求,③被告Bに対する不当利得返還請求の3つの訴えが併合されているものと解される。 そこで,以下,各訴えについてそれを基礎づける財務会計行為を手掛りにその適否を検討する。 (2)被告Aに対する違法な契約締結を理由とする損害賠償請求ア契約の締結原告は,まず,被告Aが,本件医師住宅を被告Bに貸与するに当たり,同住宅は普通財産であるから適正な賃料で貸与すべきであるのに,不当に安価な対価で貸し付ける内容の契約を締結したことを違法な財務会計行為であると主張する。 しかし,本件貸付は,平成6年11月1日になされたものであり,本件住民監査請求時点ではすでに1年を経過しており,かかる財務会計行為に係る請求は,適法な監査請求を経ているものとはいえない。 また,原告は,低額での本件貸付行為は,その実態は被告Bに対する給与の給付であるとも主張するものと解されるが,原告が給与の給付であると主張するのは,河南町が被告Bに現実に金銭等を支給したというのではなく,実質的にみて同人に適正な対価との差額部分に相当する利益を与えたことを指すのであるから,法242条1項に定める一定の行為又は事実にもあたらず,住民訴訟の対象たり得ないものであるから不適法である。 イ請 的にみて同人に適正な対価との差額部分に相当する利益を与えたことを指すのであるから,法242条1項に定める一定の行為又は事実にもあたらず,住民訴訟の対象たり得ないものであるから不適法である。 イ請求権の行使を怠る事実原告は,違法な契約の締結により生じた被告Aに対する損害賠償請求権及び被告Bに対する不当利得返還請求権の行使を怠る事実をも財務会計行為として主張する。 しかるところ,財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする監査請求については,同行為のあった日又は終わった日を基準として法242条2項の規定を適用すべきものである(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁)。しかし,財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求において,同請求権が同財務会計上の行為のされた時点においてはいまだ発生しておらず,又はこれを行使することができない場合には,同実体法上の請求権が発生し,これを行使することができることになった日を基準として同項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号287頁)。 これを本件にあてはめると,本件損害賠償請求権及び不当利得返還請求権は,違法,無効な契約に基づいて発生する請求権であるが,継続的な法律関係に関する損害賠償請求権あるいは不当利得返還請求権は,損害あるいは損失及び利得の発生に応じて日々発生していく性質の請求権であり,契約締結時にその後の期間全てについて損害賠償請求権あるいは不当利得返還請求権が発生したものと解することはできない。そうであるならば,これを行使することができることとなっ していく性質の請求権であり,契約締結時にその後の期間全てについて損害賠償請求権あるいは不当利得返還請求権が発生したものと解することはできない。そうであるならば,これを行使することができることとなった日を基準として法242条2項の規定を適用すべきものである。 前記第2,2の2(1)イのとおり,原告は,平成6年11月10日から平成11年2月9日まで,51か月間にわたる期間についての損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の行使を主張するが,原告が監査請求を行ったのは前記のとおり平成11年3月17日であるから,1年の監査請求期間を超える平成10年3月15日以前の損害,損失及び利得にかかる部分は不適法なものである。 そして,平成10年3月16日から平成11年2月9日までの部分については適法な監査請求を経ているものと解することができる。 ウ小括したがって,当該訴えは,平成6年11月10日から平成10年3月15日までに生じた損害,損失及び利得に係る部分は不適法である。 (3)被告Aに対する契約改定を怠ることを理由とする損害賠償請求次に,被告Aに対する契約改定を怠ること(契約改定の義務違反)に基づく請求を検討する。 原告は,本件医師住宅が普通財産であることを前提として,被告Aは,本件医師住宅の管理として前記契約を終了させるあるいは適正な対価に改定する義務があるにも関わらず,漫然と財産管理の義務を怠っていると主張する。仮に,かかる義務が肯定されるとすれば,かかる義務は,財産の管理に関する義務ということができ,これを怠ることは,財産の管理を怠る事実として住民訴訟の対象となり得るものである。 したがって,当該訴えはその全てについて適法となる。 (4)被告Bに対する不当利得返還請求原告は,被告Bが,本件医師住宅に安価な対価で居住することにより,法律 民訴訟の対象となり得るものである。 したがって,当該訴えはその全てについて適法となる。 (4)被告Bに対する不当利得返還請求原告は,被告Bが,本件医師住宅に安価な対価で居住することにより,法律上の原因なく,前記第2,2の2(1)イの損失額と同額の利益を得ていると主張するが,原告は,被告Bは,以下の違法な財務会計行為の相手方であると主張する。 ア契約の締結原告は,まず,本件貸付に係る契約が違法,無効であり,その相手方である被告Bに不当利得返還請求を行うものであるが,かかる構成による場合は,本件貸付は,平成6年11月1日になされたものであり,本件住民監査請求時点ではすでに1年を経過しており,適法な監査請求を経ているものとはいえないことは,前記(2)アと同様である。 また,低額での本件貸付行為は,実態は被告Bに対する給与の給付であるとの構成も,原告が主張する給付が住民訴訟の対象たり得ないものであることは,前記(2)アと同様である。 イ請求権の行使を怠る事実原告は,違法な契約の締結により生じた不当利得返還請求権の行使を怠る事実をも財務会計行為として主張する。 この場合は,前記(2)イと同様,1年の監査請求期間を超える平成10年3月15日以前の損失及び利得については不適法なものであり,平成10年3月16日から平成11年2月9日までの部分については適法な監査請求を経ているものと解することができる。 ウ契約改定を怠る事実原告は,契約改定を怠る事実をも財務会計行為として主張する。 この場合は,前記(3)と同様,その全てについて一応適法である。したがって,被告Bに対する請求は全て適法である。 2 本案の判断前記1の判断を前提とすると,本案においては,本件医師住宅の貸付けの適否,すなわち,本件医師住宅が普通財産として法237条2項 る。したがって,被告Bに対する請求は全て適法である。 2 本案の判断前記1の判断を前提とすると,本案においては,本件医師住宅の貸付けの適否,すなわち,本件医師住宅が普通財産として法237条2項,96条1項6号の規制を受けるのか否か,さらに,被告Aにおいて,本件契約の改定を行う法的義務があるのか否かが問題となる。 以下,順次検討する。 (1)契約締結に関する請求(本件医師住宅の性質)ア本件医師住宅が普通財産であるならば,条例又は議会の議決による場合でなければ,これを適正な対価によらず貸し付けることはできない(法237条2項,96条1項6号)ところ,本件貸付けが条例に基づくものではなく,議会の議決を経ていないことは当事者間に争いがないものと解されるから,仮に,本件医師住宅が普通財産であるならば,かかる条例又は議会の議決を欠く本件貸付は無効であるということになる。 そこで,本件医師住宅が普通財産であるのか否か検討する。 イ公有財産は,行政財産と普通財産に分類され,それぞれ管理の方法が異なるが,普通財産とは行政財産以外の一切の公有財産をいう(法238条3項)。 そして,行政財産は公用財産と公共用財産に分類されるが,公用財産とは,普通地方公共団体がその事務又は事業を執行するため直接使用することをその本来の目的とする公有財産をいい,公共用財産とは,住民の一般的共同利用に供することをその本来の目的とする公有財産をいう。 本件医師住宅が公共用財産に該当しないことは明らかであるので,本件医師住宅が公用財産に当たり行政財産といえるのか,あるいはこれに該当せず普通財産であるのか検討する。 ところで,本件医師住宅は前記のとおり財産台帳上は普通財産として分類されていたものであるが,公有財産が行政財産と普通財産のいずれに分類されるかは,管理者の主観 当せず普通財産であるのか検討する。 ところで,本件医師住宅は前記のとおり財産台帳上は普通財産として分類されていたものであるが,公有財産が行政財産と普通財産のいずれに分類されるかは,管理者の主観的な取扱いにより決せされるべきものではなく,もっぱらその用途を客観的に判断して決せされるべきものである。したがって,財産台帳上普通財産として分類されている限り,法237条2項の規制が及ぶとする原告の主張は採用の限りではない。 ウ証拠(乙1の1及び2,2,3の1及び2,4,5,10,14の1,15,丙1,証人C,被告本人B)及び弁論の全趣旨によれば,本件医師住宅については以下の事実が指摘できる。 (ア)河南町においては,昭和40年に診療所を設置し,同年旧医師住宅を設置したが,同医師住宅は,診療所を現在の場所に移転した昭和54年ころから入居者がない状態であった。 そこで,旧医師住宅は,昭和58年9月から同63年3月まで河南町西部土地改良区の事務所として使用された。その後,一部を心身障害者のための授産施設として使用するとともに,残部を倉庫として使用し,現在では,全体を倉庫として使用し,総務課において所管している。 そして,本件医師住宅建築当時,旧医師住宅は上記のとおり既に他の目的に使用しており,また,本件診療所の近隣にも適当な未使用地や医師住宅用地として転用するに適した土地を見いだすことができず,βの未使用の町有地に医師住宅を建築することとした。 (イ)本件医師住宅は,平成元年度河南町国民健康保険特別会計(直営診療施設勘定)予算に計上した上で,地理的条件等によって診療施設の運営が困難であると思われる保険者等が行う施設整備事業に対して国が助成することを目的とする国民健康保険調整交付金(直営診療施設整備分)334万8000円の交付を受けて平成元年に 等によって診療施設の運営が困難であると思われる保険者等が行う施設整備事業に対して国が助成することを目的とする国民健康保険調整交付金(直営診療施設整備分)334万8000円の交付を受けて平成元年に建築された。 (ウ)河南町の町立診療所は,大学病院との提携関係も特にないことから,医師のなり手が少なく,河南町においては,富田林医師会を通じ他府県の医師からも候補者を捜すなど,本件診療所に勤務する医師を捜すことに困難を感じていた。 被告Bの前任のD医師も平成4年末から平成5年春にかけて退職を希望したが,後任の医師の手当がつかないことから平成6年9月まで退職を延期した経緯がある。 (エ)本件貸付にあたり,被告Bと河南町との間で一般的な賃貸契約書が作成されたことはないが,被告Bは,本件貸付にあたり河南町長あてに誓約書(乙5)を提出している。 同誓約書には,住宅の使用に当たっては,月額1万2000円の使用料を毎月20日までに納付すること,町長から住宅使用料引上げの通知があったときには,被告Bはこれに従うこと,ガス,電気,上下水道,電話の使用料及びその他軽微な小修理については,住宅の使用者の負担とすること,河南町職員の身分を失ったときは速やかに明け渡すことなどが記載されている。 (オ)本件診療所と本件医師住宅の距離は,直線距離で約1.5キロメートルである。被告Bは往診及び診療所への移動について自家用車を用いており,本件医師住宅と本件診療所間の移動に要する時間は5分程度である。 また,被告Bを診療所医師に任命する際には,本件医師住宅に居住することが条件とされた。 (カ)本件診療所の診療時間は,平成11年度までは,平日月曜日ないし土曜日は午前9時ないし12時まで,夜間は月曜日及び木曜日午後6時ないし午後9時までとされていた。 午後は,被告Bは必要に応 た。 (カ)本件診療所の診療時間は,平成11年度までは,平日月曜日ないし土曜日は午前9時ないし12時まで,夜間は月曜日及び木曜日午後6時ないし午後9時までとされていた。 午後は,被告Bは必要に応じて往診に出るなどしていたが,土曜日の診療は代診の医師がこれにあたっていた。 また,時間外で被告Bが本件医師住宅に所在している時に,患者あるいは河南町の担当者から被告Bに電話で連絡があり,被告Bが診療所に赴き診療にあたる場合もあった。 (キ)本件医師住宅に設置された電話につき,電話帳には医師住宅として記載されており,被告B個人の氏名は掲げられていない。 エ検討(ア)職員宿舎の目的が単に職員に住宅を供給することにある場合は,当該宿舎は職員に対する福祉施設的性質を有するものであり,このような性質から当該宿舎が直接公用に供されていると解することはできない。 これに対し,職員宿舎が,当該宿舎において職務を執行することが予定されている場合,あるいは,職員の職務の執行上一定の場所に居住しなければならない職員に貸与する場合には,当該職員宿舎は公用財産として行政財産に該当するということができる。 (イ)そこで検討すると,前記ウ(ア)ないし(ウ)によれば,本件医師住宅の設置目的は,第1には,河南町において本件診療所の医師を確保するため,医師に特典として住宅を供給するところにあったと解される。このような性質は,前記ウ(イ)のとおり,本件医師住宅建築の予算として国民健康保健の調整交付金が用いられているが,当該調整交付金の交付対象施設としての医師住宅は,当該診療施設の診療科目の増設に伴う医師の増員,又は医師の通勤困難を緩和する等,医師確保上,特に必要と認められるものとされている(乙1の2)ことからもうかがわれる。 被告Aは,本件医師住宅が上記調整交付金の対象施 療科目の増設に伴う医師の増員,又は医師の通勤困難を緩和する等,医師確保上,特に必要と認められるものとされている(乙1の2)ことからもうかがわれる。 被告Aは,本件医師住宅が上記調整交付金の対象施設たる医師住宅の実質を有することから公用財産にあたると主張するが,本件医師住宅がかかる実質を有するとしても,かかる実質は本件医師住宅の福祉施設的性質を基礎づける事実ではあっても,前記(ア)において検討したような行政財産性を基礎づける事実ではない。 しかし,前記ウで認定したとおり,本件医師住宅は,診療所に付随して設置されていた旧医師住宅が他目的に利用されていたことから河南町において同町内に所有する土地から選択した土地の上に建築されたものであること,本件医師住宅は本件診療所から1.5キロメートルの距離にあり,必要な場合には,迅速に本件診療所に臨場することが可能であること,被告Bは本件診療所の医師に任命される際に本件医師住宅に居住することが条件とされていたこと,さらに,被告Bが診療所の時間外において患者等からの要請で本件医師住宅から本件診療所に赴くこともあったことが認められるのであって,かかる事実を総合勘案すると,旧医師住宅に比較して診療所との近接性はやや低いものの,本件医師住宅は,本件診療所における医師の業務を円滑に行うために医師が居住するために設置された宿舎であると認定して妨げないというべきである。 したがって,本件医師住宅は,公用財産として行政財産に該当するものである。 (ウ)以上のとおり,本家医師住宅は,行政財産であるから,普通財産であることを前提として,低額な対価による本件貸付が法237条2項に違反することを理由とする原告の請求は理由がない。 (2)契約改定義務を理由とする請求について一般に,賃貸契約においては,契約締結後の特段の事情 提として,低額な対価による本件貸付が法237条2項に違反することを理由とする原告の請求は理由がない。 (2)契約改定義務を理由とする請求について一般に,賃貸契約においては,契約締結後の特段の事情の変更が無い限り契約内容の改定を相手方に法的に要求し得る根拠はないが,本件誓約書(乙2)には,町長から住宅使用料引上げの通知があったときには,これに従う旨の条項が設けられており(乙5),被告Aは,かかる条項に基づき,契約の改定を行うことができたというべきである。 しかしながら,本件医師住宅は,前記のとおり行政財産であるのだから原告がその主張の前提とする法237条2項の規制は及ばないというべきである。その上,被告Bは行政財産である本件医師住宅にその本来の目的に従って居住していたのであるから,その使用関係を私法上の賃貸借関係とみるのは相当でなく,また,河南町において法225条に基づき行政財産の目的外使用に対する使用料を徴収することができるものでもないのであるから,そもそも被告Bが河南町に対し,本件医師住宅の使用の対価として賃料ないし使用料を納めるべき法的義務を負うものではない。 したがって,被告Aにおいて契約を改定すべき義務が存したと認めることはできず,同義務を前提とする原告の主張は採用できない。 第4 結論以上のとおり,原告の本件請求にかかる訴えのうち,被告Aに対する別紙訴え目録記載1(1)の訴えは不適法であるから却下し,原告の被告Aに対する別紙訴え目録記載1(2)及び同記載2の訴えに係る請求並びに被告Bに対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第二民事部裁判長裁判官三浦潤裁判官林俊之裁判官中島崇(別紙)訴え目録(被告A関係) 1 被告Aに対する,違法な契約締結(本件貸付)を理 することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第二民事部裁判長裁判官三浦潤裁判官林俊之裁判官中島崇(別紙)訴え目録(被告A関係) 1 被告Aに対する,違法な契約締結(本件貸付)を理由とする損害賠償請求に係る訴え(1)上記訴えのうち,平成6年11月10日から平成10年3月15日までに生じた損害,損失及び利得に係る部分(353万6181円及びこれに対する平成11年6月29日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払を求める部分)(計算式)10万円×(21/30+39+15/31)か月-1万2000円×(21/30+39+15/31)か月=401万8387円-48万2206円=353万6181円(2)上記訴えのうち,上記(1)を除く部分すなわち,平成10年3月16日から平成11年2月9日までに生じた損害,損失及び利得に係る部分 2 被告Aに対する,契約改定を怠ることを理由とする損害賠償請求に係る訴え

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る