主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,職場の部下であったAに強いてわいせつな行為をしようと企て,平成13年6月30日午後9時45分ころ,神戸市a区b町c番B株式会社C変電所西側路上に駐車中の軽四輪乗用自動車内において,同車運転席から左手で同車助手席に座っていたA(当時19歳)の後頭部付近の髪を触り,左耳たぶを触るなどした上,同行為により驚き怯え動揺して拒むことが困難な状態になったAに対し,その意に反して,自分の顔をAの顔の上に覆い被すようにしてその唇にせっぷんし,次いで,右手でAの着衣及びブラジャーをめくり上げてAの乳房を揉むなどし,もって,強いてわいせつな行為をしたものである。 (証拠の標目)-括弧内は検察官請求証拠等関係カード甲乙の番号省略(補足説明) 1 弁護人は,被告人が,A(以下「被害者」という。)の唇にせっぷんをし,右手で被害者の乳房を揉むなどの行為をしたことは事実であるけれども,被告人の上記行為は,強制的な手段を用いて,被害者の意思に反してなされたものではなく,また,仮に,被告人の上記行為が,強制的な手段を用いて,被害者の意思に反してなされたものであったとしても,被告人は被害者の承諾があるものと誤信しており,強制わいせつの故意がなかったのであるから,強制わいせつ罪は成立せず,被告人は無罪である旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明する。 2 前掲各証拠によれば,以下の事実が間違いがないものとして認められる。 ・被告人は,平成12年2月ころから,洋菓子の製造販売等を業とする 前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明する。 2 前掲各証拠によれば,以下の事実が間違いがないものとして認められる。 ・被告人は,平成12年2月ころから,洋菓子の製造販売等を業とする株式会社Dで勤務し,平成13年6月ころは,グランドシェフの肩書きで同社の製造部門の責任者及びデレクトールの肩書きで同社の系列店舗の管理,運営,指導などを担当していたものであり,当時39歳で妻と子供達と同居していたもの,被害者は,幼いころからのケーキ職人になりたいとの夢を実現させるべく,同社のアルバイト店員を経て,平成13年3月ころから,同社の正社員として,神戸市d区ef丁目g番h号所在のE店において,販売員として勤務していたものであり,同年6月当時19歳で交際中の男性と同棲していたものであって,被告人と被害者の間には上司と部下以外の恋愛関係等の個人的な関係は全くなく,被告人に妻子がいることや被害者が男性と同棲中であることはお互いに知っていた。 ・被告人は,本件当日である平成13年6月30日午後9時すぎころ,帰宅しようとする被害者ともう一人のアルバイト店員に対し,自動車で家まで送ろうと申し出て,被告人の運転する軽四輪乗用自動車の助手席に被害者を乗せ,アルバイト店員を後部座席に乗せて,E店を出発し,アルバイト店員を神戸市d区i町j丁目k番l号先路上で降ろした後,被害者に夜景を見に行こうと誘い,被害者がこれに応じたことから,同日午後9時半すぎころ,同市a区b町c番B株式会社C変電所西側路上に至って,同車を停止させたが,同所は,住宅街から約100メートル離れた所に位置し,変電所と雑木林に囲まれた人や車両の通行量の少ない薄暗い場所で,目の前に夜景の広がっているところであった。 ・被告人と被害者は,上記自動車内で夜景を見ながら,被害者の交際中の男性 れた所に位置し,変電所と雑木林に囲まれた人や車両の通行量の少ない薄暗い場所で,目の前に夜景の広がっているところであった。 ・被告人と被害者は,上記自動車内で夜景を見ながら,被害者の交際中の男性の話をするなどしていたが,被告人が,その後,運転席から左手を助手席の被害者の後頭部付近に回して髪を触り,左耳たぶを触るなどしたところ,被害者が言葉や行動でこれを拒む態度を明確に示さなかったことから,被告人は,自分の顔を被害者の顔の上に覆い被すようにしてその唇にせっぷんし,次いで,右手で被害者の着衣及びブラジャーをめくり上げて被害者の乳房を揉んだが,被害者が言葉や行動でこれを拒む態度を明確に示さなかったことから,被告人が更に被害者のスカートの中に右手を差し入れて,被害者の太腿付近を触ったところ,被害者が,「やめてください。」と言ったため,被告人は,右手を被害者のスカートの中から出して触るのをやめた。 ・被告人が被害者の身体を触るなどの行為をやめた後,被害者は,車外に逃げ出すことなく,被告人の運転する上記自動車で家まで送ってもらったが,その間,被告人は,被害者にその希望する工場勤務にそろそろ配置転換をする旨の話をした。 ・被害者は,本件の翌々日に同僚のFに対し,被告人に山の方に連れて行かれて,キスされて,胸を触られて,下の方も触られそうになって,必死にやめてくださいと言ったら,やめてくれた旨の話をしたものの,その後しばらくはE店での勤務を続け,平成13年8月下旬ころ,被告人と同じ職場で働くのは耐えられないと思って退職し,その際,社長から事情を聞かれて,本件の被害状況について話をし,被告人が被害者に謝罪にきたことから,その当時は被告人を告訴しないでいたところ,平成15年2月ころ,被告人が本件後も同様な行為をしていた旨を聞いて,このまま放置 れて,本件の被害状況について話をし,被告人が被害者に謝罪にきたことから,その当時は被告人を告訴しないでいたところ,平成15年2月ころ,被告人が本件後も同様な行為をしていた旨を聞いて,このまま放置しておくと更に被害を受ける人が増えると思い,警察に被害を届け出,被告人を告訴するに至った。 3 被害者である証人Aの当公判廷における供述(以下「被害者証言」という。)と被告人の当公判廷における供述(以下「被告人の公判供述」という。)とが,本件犯行の具体的な態様についていうところは,上記2・の範囲においては一致しているが,①被告人が揉んだのは被害者の右乳房であったのか左乳房であったのか,②被告人が被害者のスカートの中に右手を差し入れた際に被害者の陰部を触っているのか触っていないのか,③被害者から「やめてください。」と言われて,被告人が右手を被害者のスカートの中から出してやめたのは,すぐになのかしばらくしてからなのか,④その後,被告人が更に被害者の乳房を揉んだり右手を被害者のスカートの中に入れたりしたのかしていないのかなどの点においては一致していないところ,被害者は,本件後まもなく警察に被害を届け出ることなく,1年7か月以上後になって警察に被害を届け出たものであって,本件犯行の具体的な態様についての記憶がそのときまで保たれていたかどうかは疑わしく,特に④の点については,具体性に乏しい上,本件の翌々日に被害者から話を聞いたFがその次の日に発信した電子メールの文章中にもその旨の記載がないこと,被告人のこれらの点についての供述は,捜査段階から一貫していて,特に②の点については,被害者の陰部を触ったと自己に不利益にもなり得る供述をしており,③の点については,被害者がそれまで言葉や行動で拒む態度を明確に示さなかったので,被害者の唇にせっぷんし,その乳房を揉 の点については,被害者の陰部を触ったと自己に不利益にもなり得る供述をしており,③の点については,被害者がそれまで言葉や行動で拒む態度を明確に示さなかったので,被害者の唇にせっぷんし,その乳房を揉むなどしたが,明確な拒絶の意思表示があったからすぐにやめたというのも,それなりに合理性があることなどを考え併せると,上記の各点について,被害者証言をそのまま採用して,被告人の公判供述を虚偽であるとして排斥することは困難である。 4 しかしながら,被告人が,被害者の唇にせっぷんをし,右手で被害者の乳房を揉むなどした行為は,上記事実を前提にしても,次に述べるとおり,なお,強制的な手段を用いて,被害者の意思に反してなされたものであり,また,被告人には被害者の意思に反することの認識があって,強制わいせつの故意に欠けるところはなかったと認めるのが相当である。 ・被害者証言は,尊敬し信頼していた被告人から,思いもかけず髪や左耳たぶを触られるなどしたため,驚き怯え動揺してしまい,被告人にやめてくれるよう言ったり,被告人の手を振り払ったりすることができないでいると,被告人が,自分の顔を被害者の顔の上に覆い被すようにしてその唇にせっぷんし,次いで,右手で被害者の着衣及びブラジャーをめくり上げて被害者の乳房を揉んできたが,やはり驚き怯え動揺してしまっていたことから,被告人の舌を口の中に入れられないように歯を食いしばっていただけで,被告人にやめてくれるよう言ったり,顔を背けたり,被告人を押しのけたりなどすることができないでいたところ,被告人が更に被害者のスカートの中に右手を差し入れて,被害者の太腿付近を触ってきたことから,このままではレイプされると思い,「やめてください。」と言ったのであって,被告人から唇にせっぷんされることや乳房を揉まれることなどを承諾してい 右手を差し入れて,被害者の太腿付近を触ってきたことから,このままではレイプされると思い,「やめてください。」と言ったのであって,被告人から唇にせっぷんされることや乳房を揉まれることなどを承諾していたわけではない旨いうのである。 被害者は,被告人から髪や左耳たぶを触られ,その唇にせっぷんされ,着衣及びブラジャーをめくり上げられて乳房を揉まれても,言葉や行動でこれを拒む態度を明確には示していないのであるから,それは,被害者が被告人からそのような行為をされることを承諾していたのではないかとみる余地が多分にある。しかし,上記2で認定した事実,すなわち,被告人と被害者の間には上司と部下以外の恋愛関係等の個人的な関係は全くなく,被告人は39歳で妻子がおり,被害者は19歳で男性と同棲中であること,被害者は被告人から夜景を見に行こうと言われてこれに応じたものであって,それ以外の目的はなかったこと,本件現場は,本件のあった午後9時半すぎころには,人や車両の通行量の少ない薄暗い場所であり,被告人と被害者はそのような場所で軽四輪乗用自動車に二人きりで乗車していたものであること,被害者は,本件の翌々日に同僚のFに対し,被告人に山の方に連れて行かれて,キスされて,胸を触られて,下の方も触られそうになって,必死にやめてくださいと言ったら,やめてくれた旨の話をしていたこと,そして,被害者は,本件後しばらくはE店での勤務を続けていたものの,平成13年8月下旬ころには,被告人と同じ職場で働くのは耐えられないと思って,幼いころからのケーキ職人になりたいとの夢を実現させるべく入社した職場を退職してしまったことなどの事実を考え併せると,被害者証言が,被告人の行為に驚き怯え動揺してしまったため,言葉や行動でこれを拒む態度を明確には示すことができなかったものの,被告人 るべく入社した職場を退職してしまったことなどの事実を考え併せると,被害者証言が,被告人の行為に驚き怯え動揺してしまったため,言葉や行動でこれを拒む態度を明確には示すことができなかったものの,被告人から唇にせっぷんされることや乳房を揉まれることなどを承諾していたわけではない旨いうところは,十分信用に値すると認めることができる。 そして,驚き怯え動揺して拒むことが困難な状態になった被害者に対し,その意思に反して,その唇にせっぷんし,その乳房を揉むなどする行為は,それ以上に暴行や脅迫などの強制的な手段が用いられなかったとしても,それ自体が強制わいせつ罪における暴行であると同時にわいせつな行為に該当するということができる。 ・また,上記諸事情のうち,被告人と被害者の関係,被害者の年齢やその男性関係,本件現場に行った経緯,本件現場の状況等は,被告人自身よく分かっていたところであって,これによれば,被告人には,被害者が言葉や行動で拒む態度を明確に示していないことが,被害者が被告人から髪や左耳たぶを触られただけでなく,唇にせっぷんされ,乳房を揉まれることまで承諾しているからではなく,驚き怯え動揺などのため,はっきりとした拒絶の意思表示が困難な状態にあったからにすぎないことを容易に認識することができたものということができ,むしろ,被告人としては,被害者がはっきりとした拒絶の意思表示をし難い状況にあるのを利用して,被害者の唇にせっぷんをし,乳房を揉むなどの行為に及んだものと認めるべきであるから,被告人にはその行為が被害者の意思に反することの認識があったことは間違いがなく,強制わいせつの故意に欠けるところはないと認められる。 ・なお,被告人の公判供述は,被害者は被告人から髪や左耳たぶを触られ,その唇にせっぷんされ,乳房を揉まれても嫌が あったことは間違いがなく,強制わいせつの故意に欠けるところはないと認められる。 ・なお,被告人の公判供述は,被害者は被告人から髪や左耳たぶを触られ,その唇にせっぷんされ,乳房を揉まれても嫌がっている感じはなかったとして,被害者がそのような行為をされることを承諾していたか,少なくとも被告人にはそのような行為が被害者の意思に反するとの認識がなかった旨いうものであるが,被告人の公判供述によっても,被害者が被告人のこれらの行為に積極的に応じるなどの,明確な承諾の意思を表示していたというものではないし,被害者が被告人からそのような行為をされることを承諾するような経緯や理由について,合理的な説明がなされているとはいえないのであるから,このような被告人の公判供述をもって,上記認定に疑いを容れるには至らない。 そして,被害者が,本件直後に車外に逃げ出すことなく,被告人の運転する自動車で家まで送ってもらったことも,その段階では,もはや更なる被害を受けるおそれがほぼ消滅していたと考えられることなどからして,上記認定に疑いを容れるべき理由とはなし得ないし,むしろ,その間に,被告人が被害者にその希望する工場勤務への配置転換の話をしていることは,被告人には,自己の行為が被害者の意思に反するものであることが分かっていたため,被害者の気持ちをなだめ口止めしようとしてしたものと理解するのが相当である。 ・そうだとすると,被告人の検察官調書(乙5)及び警察官調書(乙2ないし4)には,被害者の唇に無理矢理キスをしたり,無理矢理乳房を揉んだりしたなどの,被害者証言をも超える過剰な表現があって,これが本当に被告人自身がした表現かどうかは疑わしいというべきであるけれども,被告人が,これらの検察官調書及び警察官調書において,被害者の唇にせっぷんをし,乳房を揉 証言をも超える過剰な表現があって,これが本当に被告人自身がした表現かどうかは疑わしいというべきであるけれども,被告人が,これらの検察官調書及び警察官調書において,被害者の唇にせっぷんをし,乳房を揉むなどした行為が被害者の意思に反する行為であって,そのことを認識していた旨いう限度では信用できるとみるべきである。 5 以上のとおりであって,本件において,被告人が被害者の唇にせっぷんをし,乳房を揉むなどした行為は,それ自体が強制わいせつ罪における暴行であると同時にわいせつな行為に該当するし,被告人には被害者の意思に反してそのような行為をしていることの認識があって,強制わいせつの故意に欠けるところはないと認められるから,被告人は強制わいせつ罪の罪責を免れず,弁護人の上記主張は採用することができない。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法176条前段に該当するので,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,職場の部下の被害女性に対して,強いてわいせつな行為に及んだという事案である。 被告人は,自己の性的な欲望を充たす目的で本件犯行に及んだものであって,その身勝手な動機に酌量の余地はないこと,被告人は,職場の上司と部下という関係を悪用し,被害者の抵抗が困難な心理状態を利用して本件犯行に及んだものであって,犯行の態様は卑劣なものであること,被告人は,被害者の唇にせっぷんし,その乳房を揉むなどしたものであって,そのわいせつな行為の程度は決して軽いとはいえないこと,被害者は,本件後,被告人と同じ職場で働くことに耐えかねて,幼いころ と,被告人は,被害者の唇にせっぷんし,その乳房を揉むなどしたものであって,そのわいせつな行為の程度は決して軽いとはいえないこと,被害者は,本件後,被告人と同じ職場で働くことに耐えかねて,幼いころからのケーキ職人になりたいとの夢を実現させるべく入社した職場を退職するに至っており,その被った精神的苦痛等は大きいこと,被害者との示談は現在に至るも成立しておらず,被害者の処罰感情には厳しいものがあること,被告人は本件後も同様な行為に及んで警察から事情聴取されるなどしており,被告人には安易にこの種犯行に及ぶ傾向が窺えることなどを考え併せると,被告人の刑事責任は軽くないといわざるを得ない。 しかしながら,被告人が被害者に加えた強制の程度は弱く,わいせつな行為の内容も強度とまではいえないこと,被害者は,抵抗が困難な心理状態にあったとはいえ,被告人が髪や耳たぶに触り,唇にせっぷんし,乳房を揉むなどしても,明確な拒絶の意思表示をしておらず,それが被告人の行為をエスカレートさせる一因ともなっていること,被告人は,その後,被害者のスカートの中に手を入れて太股付近を触るなどし,被害者の拒絶にあってやめており,被害者の拒絶を無視して更にわいせつな行為を継続するまでの意思はなかったことが窺えること,被害者が警察に被害を届け出るまでに1年7か月以上が経過しており,被害者もそれまでは被告人の処罰を求める意思がなかったこと,被告人は,被害者に受け入れられていないとはいえ,弁護人を通じて示談金として100万円を支払う旨申し出ていること,被告人も犯罪の成否は別として自己の行為自体が間違いであったことを認め,その限度では反省していること,被告人にはこれまで前科がないこと,被告人は妻子を扶養すべき立場にあることなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるので,今回は,被 体が間違いであったことを認め,その限度では反省していること,被告人にはこれまで前科がないこと,被告人は妻子を扶養すべき立場にあることなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるので,今回は,被告人を主文の刑に処した上,その刑の執行を猶予することとする。 (検察官の科刑意見懲役2年)よって,主文のとおり判決する。 平成16年6月28日神戸地方裁判所第2刑事部12甲係裁判官森岡安廣
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