主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して3853万7028円及びこれに対する平成9年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,スキーをしていた原告が,スノーボードをしていたAと衝突する事故にあって傷害を負い,その治療を被告財団法人B(以下「被告法人」という。)が経営するC病院(以下「被告病院」という。)の医師である被告Dから受けたところ,医療過誤により後遺症が残ったとして,被告Dに対しては,不法行為に基づく損害賠償請求権,被告法人に対しては被告Dの使用者責任及び診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権により,損害賠償を請求する事案である。 なお,原告と被告であったAとの間では平成15年12月3日訴訟上の和解が成立している。 2 前提となる事実(証拠を掲げた以外の事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告は,昭和29年1月10日生まれで,スキーの指導員の資格を有している。 被告法人は,被告病院を経営し,原告が診療を受けていた当時,被告Dを雇用していた。 (2) スキー事故の発生(甲1ないし4)平成7年1月28日午後6時15分ころ,青森県a郡b町所在のGスキー場(以下「本件スキー場」という。)において,スキーで滑走していた原告が,スノーボードで滑走していたAと衝突し,転倒した(以下「本件事故」という。)。 (3) 診療の概要本件事故後の原告の診療の概要は次のとおりである。 ① 平成7年1月28日(本件事故当日),原告は,被告病院に入院した。 ② 同年2月6日,被告Dは,原告に対し,左下腿脛骨の観血的骨接合手術を行った(以下「本件接合手術」という。)。 ③ 同年7月 。 ① 平成7年1月28日(本件事故当日),原告は,被告病院に入院した。 ② 同年2月6日,被告Dは,原告に対し,左下腿脛骨の観血的骨接合手術を行った(以下「本件接合手術」という。)。 ③ 同年7月27日,原告は被告病院を退院し(入院期間181日間),以後平成8年2月26日まで,被告病院に通院した(ただし,平成7年11月6日から同月18日まで13日間検査入院)。 ④ 平成8年2月27日,原告は,被告病院に入院し,同日,被告Dから,抜釘手術を受けた(以下「本件抜釘手術」という。)。 ⑤ 同年3月8日,原告は,被告病院を退院し,翌日から同年11月30日まで被告病院に通院した。 ⑥ 同年12月12日,原告は,E技術短期大学附属診療所(以下「短大診療所」という。)で,F医師の診療を受け,「左下腿骨折後偽関節,左腓骨神経麻痺」と診断された。 ⑦ 平成9年1月30日,原告はE大学医学部附属病院(以下「E大病院」という。)に入院した。 ⑧ 同年4月11日,原告は,E大病院で,左脛骨の矯正骨切術を受け,金属プレート,スクリュウで再固定された(以下「本件骨切術」という。)。 ⑨ 同年9月5日,原告は,E大病院を退院した。同日,原告は,H医師から,「左下腿骨折後変形治癒」と診断された。 ⑩ 平成12年1月31日,原告は,本件骨切術で固定されたプレートを外された。 ⑪ 同年4月5日,原告は,後遺障害等級第5級と診断された。 3 争点及び争点に対する当事者の主張(1) 被告Dの注意義務違反の有無(原告の主張)① 骨折では一般に神経損傷の有無を調査する必要があるところ,下腿の骨折は,腓骨及び脛骨神経の麻痺をよく伴うから,手術前に診察や検査をして十分評価すべきである。 原告が,被告病院に入院した当初から,脛骨神経及び腓骨神経麻痺の症状を訴えていたことは看護記録から明 骨折は,腓骨及び脛骨神経の麻痺をよく伴うから,手術前に診察や検査をして十分評価すべきである。 原告が,被告病院に入院した当初から,脛骨神経及び腓骨神経麻痺の症状を訴えていたことは看護記録から明らかであるにもかかわらず,被告病院の診療録に神経に関する記載がないことからすれば,被告Dが,神経に対する診察や検査を怠ったことは明らかである。 次に,手術時には,骨折部位を開けて,直接肉眼で骨折部位や神経損傷の有無を確認し,適切な手段を採るべきである。すなわち,運動神経と知覚神経の両方を含む神経幹の障害があれば,骨折の手術と同時に神経断裂の有無を確認し,神経の縫合や移植を行わなければならないし,骨欠損があれば,植骨などの適切な対応を行って,キュンチャー髄内釘固定やプレート固定などの観血的整復固定術を行わなければならない。 被告Dは,手術時に,骨折部位を開けて,直接肉眼で骨折部位や神経損傷を確認するということをしていないし,骨欠損の有無に関しても,2方向からのレントゲン写真のみから確認しただけであり,CTやMRIによる確認をしておらず,これでは確認したといえない。 更に,神経幹の障害ではなく,知覚障害のみであったとしても,6か月経ってもその回復がなければ,新たに手術して,その原因の確認と神経剥離又は移植等の処置をすべきである。 原告は,本件接合手術も,少なくとも知覚障害を訴えていたにもかかわらず,被告Dは,神経に対する診察,評価や治療行為を行ってはいない。 ② 原告は,糖尿病に罹患しているが,糖尿病の場合には骨の癒合が遅れることから,抜釘の時期は,通常より6か月から1年延長するのが通常である。 抜釘術は,骨が完全に癒合,すなわち,骨組織が連続していて,強度的にも充分荷重負荷に耐えられる状態になった時点で行われるべきであるが,原告が平成8年 通常より6か月から1年延長するのが通常である。 抜釘術は,骨が完全に癒合,すなわち,骨組織が連続していて,強度的にも充分荷重負荷に耐えられる状態になった時点で行われるべきであるが,原告が平成8年12月12日に短大診療所で行われた診察の際に介達痛を訴えていたこと,平成9年4月4日に撮影された断層写真では,前額面(正面からのスライス)及び矢状面(側面からのスライス)の両方に欠損が見られることからすれば,本件抜釘手術が行われた平成8年2月27日の時点においては,骨癒合は不完全な状態であった。 このように,骨癒合は不完全な状態で髄内釘が抜去されたため,左脛骨は,右に比べて約30度内反し,約30度内捻して,変形治癒することととなった。 したがって,被告Dには,骨癒合が不完全な状態で本件抜釘手術を行った過失がある。 (被告らの主張)① 原告の骨折部位に何らかの神経損傷があったとの事実はない。 骨接合術においては,閉鎖性骨接合術が一般的であり,むやみに骨折部位を開放することは厳に慎むべきことである。手術するにあたっても,骨折周囲はできるだけ筋,軟部組織,皮膚でおおうようにして局所の循環を保持し,周囲の組織の損傷をできるだけ軽減しなければならない。 仮に何らかの神経損傷が認められたとしても,損傷部位が末梢神経の本幹であれば神経縫合術が必要となるが,本幹から枝分かれした神経の損傷であれば縫合術を施すことはない。原告の末梢神経の本幹に損傷が認められたという事実はない。 また,本件接合手術前に,被告Dは,レントゲン写真により骨欠損がないことを確認していた。 原告は,骨折後の経過の中で,関節の動き等について改善がみられており,神経剥離術等の手術を行う必要はなかった。 よって,被告Dには,本件接合手術について何ら過失はない。 ② 被告Dは,原告の骨折 原告は,骨折後の経過の中で,関節の動き等について改善がみられており,神経剥離術等の手術を行う必要はなかった。 よって,被告Dには,本件接合手術について何ら過失はない。 ② 被告Dは,原告の骨折部の骨癒合がほぼ完全な状態となってから,本件抜釘手術を施行したものであり,かつ,抜釘後の骨癒合も順調に経過しており,抜釘後の頸骨の骨折部における変形の進行も認められない。 本件では,糖尿病を考慮して,本件抜釘手術の時期を通常よりも遅れさせている。 痛みを伴うからと言って骨が癒合していないことにはならないし,癒合が完全でない状態で抜釘すれば,当該骨折部は,固定力がなくなり,何らかの変化がレントゲン写真に現われるはずであるが,抜釘前後で,変化はない。また,原告は,被告Dが本件抜釘術の時期を誤ったため,左脛骨が30度の内反と30度の内捻を生じたと主張するが,平成7年9月14日撮影のレントゲン写真によれば,内反は僅か(5度前後)であるし,E大病院でも,左下腿の変形は,内反5度と内捻20度であり,通常は問題にならないとしているのであり,損害賠償の対象となるような変形には該当しない。 (2) 損害額(原告の主張)原告が受けた損害は,以下①ないし⑨の合計6744万2610円となるが,内金として,3853万7028円(訴え提起当時の請求額)を請求する。 ① 治療費 279万7497円(甲10,11,69)ア被告病院 142万2880円イ短大診療所 21万0030円ウ E大病院 116万4587円② 義足代 8万6957円③ 入院雑費 55万1200円(1日1300円×424日)④ 通院費 191万3758円⑤ 休業損害 ② 義足代 8万6957円③ 入院雑費 55万1200円(1日1300円×424日)④ 通院費 191万3758円⑤ 休業損害 749万2614円原告は,主婦として家庭を支えてきただけなく,夫のペンション経営を支えてきた(入院中は全額損害,通院中は70%の損害,その余は35%の損害)。 {9024円(平成7年度女子労働者の全年齢平均賃金)×424日(入院日数)}+{9024円×70%×169日(通院日数)}+{9024日×35%×823日(平成10年6月30日まで)}⑥ 入通院慰謝料 300万円入院14か月,通院5か月⑦ 逸失利益 3510万0584円ア原告は,平成12年4月5日,左脛骨,腓骨神経麻痺による左足関節機能の全廃を理由として,後遺障害別等級表第5級に該当することになった。 イよって,原告が44歳の女子であるから,平成7年度の女子労働者の全年齢平均賃金329万4000円を基準として,労働能力喪失率79%,労働能力喪失期間23年,中間利息の控除をライプニッツ係数で算定すると次のとおりとなる。 (計算式)329万4000円×79%×13.4885(ライプニッツ係数)⑧ 後遺症慰謝料 1300万円原告は,高校時代からスキーの選手として活躍し,成人になってもアルペン選手として青森県代表として3度国体に出場したほか,全日本スキー技術選手権大会にも出場し,スキー指導員の資格を有し,また,平成6年4月には,財団法人日本体育協会公認B級スポーツ指導員の資格も取得している。また,夫の経営するペンションを手伝い,ハーブコーディネーターとして新農業普及振興のために活動している。しかし,本件事故により,スポーツを断念せ 本体育協会公認B級スポーツ指導員の資格も取得している。また,夫の経営するペンションを手伝い,ハーブコーディネーターとして新農業普及振興のために活動している。しかし,本件事故により,スポーツを断念せざるを得なく,ペンションの手伝いや家事労働にも支障が生じた。 ⑨ 弁護士費用 350万円(被告らの主張)否認ないし争う。 第3 争点に対する当裁判所の判断 1 被告Dの注意義務違反を判断する前提となる被告病院での診療の経過は,前記当事者間に争いのない事実,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりであると認められる。 (1) 原告は,平成7年1月28日午後6時15分頃,本件スキー場においてスキーで滑走中,スノーボードで滑走していたAと衝突する事故に遭い,左下腿を痛めた。原告は,同日,救急車により,被告病院に搬送された。 診察の結果,左下腿部中央半ばのところで開放骨折があり,変形し,異常可動性もあり,発赤,腫脹が見られた。左足関節の動きが制限されており(背屈不能),前脛骨筋が骨片により損傷されている可能性があるため,入院となった。 なお,同日,左下腿部のレントゲンが撮られた(左下腿部については,同月29日と同月31日にも撮られた。)。 担当医師は,原告の夫に対し,髄内釘手術となると説明した。 (2) 入院時から,本件接合手術までの間における診療録には,原告の神経症状に関し,入院当日(1月28日)に,足指の動きや知覚は正常とあり,同月30日に,入院中の持続的指示として,腓骨神経麻痺と足背動脈をチェックするようにという記載がある他は,特にないが,看護記録には次のとおりの記載がある。 1月28日入院時患者状態「左下腿疼痛(+),しびれ(-)」1月29日 6時 「左下腿痛(±)しびれ(-)」「足趾運動背屈(±)低屈(-)腓骨神 ないが,看護記録には次のとおりの記載がある。 1月28日入院時患者状態「左下腿疼痛(+),しびれ(-)」1月29日 6時 「左下腿痛(±)しびれ(-)」「足趾運動背屈(±)低屈(-)腓骨神経部圧迫(-)圧痛(-)」「知覚麻痺(-)」10時 「左下腿部痛軽度あり,左足趾背屈軽度あり,左足趾底屈軽度あり,左下肢しびれなし」18時 「左下腿部痛あるも自制可と。左足趾しびれ(-)」1月30日 6時 「足趾運動軽度も昨日より良好,しびれなし」10時 「左足趾のしびれはない,左足趾運動軽度あり,左第4指を強く動かすと骨折部にひびくと。知覚はある。」14時 「坐薬,挿入し,疼痛軽減したが,左下腿部痛(+)第5指~踵部にかけてしびれ(±),足趾運動あり,左下腿バーンと張る感じあり,左股関節部痛(+)」18時 「左足趾運動極軽度にてはっきりせず,第1~5趾内側面知覚障害(-),下腿全面にぶいがしびれる感じはない」21時 「知覚の有無確認,下腿全面知覚異常(+)特別患者よりは痛みやしびれが強いという言葉は聞かれず」22時30分 「知覚異常は緩和なく第1趾,第5趾のみ外側面他指と比べるとにぶいと,足背のしびれいい気もするが変わらずある,第1趾背屈は可能である」1月31日 6時15分 「左下腿骨折部痛強くなったと,痛み強く左足趾運動不可能である,左足第1,第5趾,足底しびれあり」8時 「左足趾運動軽度あり,第1・5趾しびれ同様」10時 「痛みはだんだん軽減してきたと,しびれ(-)左足趾背屈運動(+)知覚異常(-)18時 「左下腿しびれ(-)左足趾しびれ(-)」2月1日 6時 「左下腿部痛あり,第1・第5指しびれ軽度あり,左足底しびれなし」10時 「左第1趾触れるとしびれるような痛み(±)あると,足趾運動(± 左下腿しびれ(-)左足趾しびれ(-)」2月1日 6時 「左下腿部痛あり,第1・第5指しびれ軽度あり,左足底しびれなし」10時 「左第1趾触れるとしびれるような痛み(±)あると,足趾運動(±)」14時 「左下肢痛軽減したと,しびれ(-)足趾運動(±)」2月2日 6時 「今朝は足趾しびれなし,足趾運動軽度あり,知覚異常なし」18時 「左下腿部痛あるも自制内,触れるとしびれあり,足趾運動軽度」2月3日 6時 「第1・5趾しびれあり,知覚異常ない」10時 「左第1,第5趾しびれあり,左足趾運動軽度あり」14時 「左第1・第5趾しびれあり,足趾運動軽度」2月4日 6時 「左足趾運動可,しびれなし」9時40分 「左第1・5趾しびれなし,左足趾運動軽度あり」2月5日6時 「左下腿部痛なし,しびれなし」14時 「起きたら痛み及びしびれ軽度あると,左足趾運動軽度」2月6日 6時 「左下腿後面部しびれ時折軽度ある」16時20分 「左足趾運動不可」「左下肢知覚鈍麻あり」(3) 同年2月6日,被告Dは,原告に対し,本件接合手術を行った。 その方法は,まず,原告の左膝前面をメスで皮切して,膝蓋靱帯を分離し,脛骨に到達させる,レントゲンモニターを見なら,脛骨に穴を開け,その箇所(髄腔)にガイドワイヤーを遠位骨片(骨折した骨のうち,足首側の骨片)に至るまで挿入し,ガイドワイヤーに沿って,リーマーによって髄腔を削り,キュンチャーを打ち込めるだけの腔を確保し,左膝前面からキュンチャー(直径11mm,長さ280mm)を遠位骨片まで挿入し,骨折部を固定し,患部を十分洗浄した後,創を閉鎖するという要領であった。 なお,被告Dは,これまでの診療の経緯やレントゲン写真等の検査結果から,原告に神経麻痺や骨欠損は mm)を遠位骨片まで挿入し,骨折部を固定し,患部を十分洗浄した後,創を閉鎖するという要領であった。 なお,被告Dは,これまでの診療の経緯やレントゲン写真等の検査結果から,原告に神経麻痺や骨欠損はないものと判断して,このような方法を採ったのであり,骨折部を直接開けて手術する方法は採らなかった。 (4) 本件接合手術(2月6日)から,抜糸(2月16日)までの被告病院における診療録には,同月9日に,軽い腓骨神経麻痺があり,足趾,足関節を動かしてもらうとの記載がある他は,神経症状を窺わせるような記載はないが,看護記録には以下の各記載がある。 なお,原告は,2月10日からリハビリを行うようになった。 2月6日 6時 「左下腿後面部しびれ時折軽度あると」「足趾運動軽度」16時20分 「左足趾運動不可,左下肢知覚鈍麻あり」18時 「左下肢しびれあり」21時 「左下肢しびれなし。左足趾運動可」2月7日 0時 「左下腿部痛もあり,しびれなく」18時 「左足趾運動軽度のみ」2月9日 18時 「左第1趾の運動は悪い」「左第1趾の付近知覚にぶいと」2月10日 6時 「左下肢後面部と踵部痛あるも自制内。しびれなし。左足趾運動軽度見られるも第1趾の運動は悪い。第1趾付近の知覚にぶい」14時 「左足第1趾背屈不良。指先より第1趾側足背まで知覚鈍麻あり」18時 「左第1趾~足背まで知覚鈍麻あり」2月11日 6時 「左足関節,踵部痛少しあると。左足趾運動不良ぎみ,知覚鈍麻も同様」10時 「左第1趾側~左下肢内側部知覚鈍麻同様。しびれなし」「左足趾運動軽度あるも第1趾の運動は悪い」18時 「知覚もビリビリと出て来た由」2月12日 6時 「しびれなく足趾運動軽度,知覚鈍麻軽減してきていると」 左下肢内側部知覚鈍麻同様。しびれなし」「左足趾運動軽度あるも第1趾の運動は悪い」18時 「知覚もビリビリと出て来た由」2月12日 6時 「しびれなく足趾運動軽度,知覚鈍麻軽減してきていると」14時 「左第趾ピリピリ感に変わってきたと」「足趾運動可」18時 「左下腿内側チクンチクン痛みあり」2月13日 6時 「知覚鈍麻もだんだん良くなっていると」2月14日 6時 「知覚鈍麻も良くはなってきていると」(5) 同月16日,全抜糸となり,ジョーンズ固定を除去し,患部を弾力帯で固定した。 同日ころから,原告の血糖値が上がり,同月20日頃,原告が糖尿病に罹患していることがわかった。このため,原告は投薬等の診療を受けていた。 (6) 同年3月9日,原告は,松葉杖歩行を開始した。レントゲン写真の結果,骨折部にいくらか癒合が認められ始めた。 同月27日,正座練習を開始し,同年4月13日,レントゲン写真の結果,骨折部の癒合が進んでいたため,翌日部分荷重を伴うリハビリを開始するようになった(当初は6分の1荷重)。 同年5月11日,レントゲン写真の結果,仮骨の形成がまだ乏しかったが,荷重は,2分の1で良いとの指示が出,翌日2分の1の荷重でリハビリが行われ,同月18日に3分の2の荷重となり,同月23日,自転車こぎのリハビリを開始した。 同年6月3日足関節,背屈制限,自動0度と診断されている。 同月23日,全荷重によるリハビリを開始した。 同月27日,仰臥位で,膝屈曲150度が可能となり(ただし,同日,昨日から,自発痛と圧痛が発生したと訴えている。),同月29日,正座位が可能となった。 (7) 同年7月13日,レントゲン写真の結果,骨折部に仮骨の形成が見られ,癒合が進んだと判断されたため(左下腿外側内側に痛みはあった。), 生したと訴えている。),同月29日,正座位が可能となった。 (7) 同年7月13日,レントゲン写真の結果,骨折部に仮骨の形成が見られ,癒合が進んだと判断されたため(左下腿外側内側に痛みはあった。),同月27日,原告は被告病院を退院した(入院期間181日間)。 (8) 原告は,退院後,同年7月28日から同8年2月26日まで,被告病院に通院した(ただし,同7年11月6日から同月18日まで糖尿病の関係で13日間検査入院した。)。その間の主な診療経過は次のとおりである。 ① 同7年7月29日,原告が,両足の痛みを訴えたため,リハビリの医師は,家事をできるだけ控えるように指導した。 ② 同年8月19日,原告は,診察の際,家で立ち作業が多く,足の浮腫がときどき見られると話した。 ③ 同年9月14日,レントゲン写真の結果,頸骨の内反が5度前後であると認められるが,左右差はないと診断された。診療録では「レントゲン上脛骨内反(+)だが左右差なし,歩行痛(+),骨折部の圧痛(+),骨折部の打ったときの痛み(+),ストレスで痛み(+),疼痛の状態から考えると骨癒合していない?」と記載されている。 同月26日リハビリでは,立位で底屈運動不可と診断されている。 ④ 同年10月12日,レントゲン写真(乙21)の結果,骨折部の癒合が進んでいた。しかし,原告は,骨折付近の痛みがあると訴えた。リハビリの記録では,浮腫が見られ,脛骨に沿って前面部痛み,下腿後面,脛骨,腓骨部とも圧痛ありとある。 同年11月9日も痛みがまだあると訴えた。 同月20日の診察では,左足外側の痛みはないとしている。 同年12月11日には足のくるぶしのあたりが痛い(夜間歩けなくなるほど)と訴えている。 ⑤ 同年12月14日,被告Dは,レントゲン写真の結果,骨折部の癒合はほぼ完全であり,足関節にも問題 ている。 同年12月11日には足のくるぶしのあたりが痛い(夜間歩けなくなるほど)と訴えている。 ⑤ 同年12月14日,被告Dは,レントゲン写真の結果,骨折部の癒合はほぼ完全であり,足関節にも問題がないものと判断した(左足の外側の骨皮質は連続性があり,内足側の皮質の一部に隙間が見られるが,かなり連続していることから。)。ただし,原告は痛みがあると訴えている。 平成8年1月16日の診察の際にも原告は下肢疼痛を訴えている。 以上のように,原告は左下腿部の痛みを訴えていたが,被告Dは,退院に伴って行動範囲が広くなったことが影響していること,骨折により,骨だけでなく,その周辺の筋肉や筋膜の損傷が起こり,その修復まである程度の痛みが伴うことから,神経障害であるとは考えなかった。 (9) 平成8年2月22日のレントゲン写真の結果,外側の皮質については,平成7年12月14日にすでに見られた連続性が,さらに安心できる状態になっており,内側の皮質の隙間についてもだいぶ埋まってきていたため,被告Dは,完全に癒合しているわけではないものの,抜釘手術を行うには十分であると判断した。 同月27日,原告は,被告病院に入院し,翌日(28日),被告Dが,本件抜釘手術を施術した。 同月27日の看護記録では,入院当時の主訴「左下腿~第1趾痛み,しびれあり,腫脹軽度」,13時30分「疼痛,しびれあり」,18時「左下肢痛あるも自制内,しびれ軽度」と記載されている。 (10) 同年3月8日,原告は,被告病院を退院し,翌日から被告病院に通院した。 同日から,原告が自主的に通院をやめた同年11月30日までの期間の主な原告の訴えは次のとおりである。なお,同年3月11日,リハビリの中で,徒手筋力テストを行い,足関節底屈は5と判断された。 4月12日疼痛5月13日 「左下肢痛」 年11月30日までの期間の主な原告の訴えは次のとおりである。なお,同年3月11日,リハビリの中で,徒手筋力テストを行い,足関節底屈は5と判断された。 4月12日疼痛5月13日 「左下肢痛」「最近左下腿中央内側以下のしびれ↑」「4月末からの糖尿病のコントロール不良」8月3日 「左肩,左下腿,疼痛変りなし」8月26日 「痛い」「左下腿以下のしびれ」11月1日 「りんご箱が落ちそうになり,左足で支えたら痛み」11月11日 「足が痛い」11月21日 「バアーンとする・・」「左下腿内側ビリビリする・・」「階段の下降がつらい・・」この間の同年9月5日,被告Dは,自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成したが,それには,傷病名「左下腿骨骨折」,自覚症状「左下腿腫れ易い,左下腿以下のしびれ,左下腿疼痛あり(歩行時足底からビリビリする痛み)」との記載がある。 (11) 同年11月21日,レントゲン写真の結果,本件抜釘手術前に見られた内側の皮質の隙間がほとんど消失しており,脛骨の変形も見られず,癒合は,ほぼ完全な状態になっていた(内反も5度のまま)。 原告は,同月30日の通院を最後に,被告病院への通院をやめた(リハビリは同年12月9日までであった。)。 2 被告Dの注意義務違反の有無等(争点1)(1) 原告は,被告Dが本件接合手術を行うまでに,神経損傷について十分診察等する注意義務を負っていたのに,これを怠った過失があると主張するので,まずこの点について検討する。 ① 証拠(略)によれば,一般に,骨折した場合には,疼痛,腫脹,変形,異常可動性,轢音の症状が見られること,下腿の骨折の場合には,腓骨及び脛骨神経の麻痺を伴うことがあること,骨折部及び骨折周囲の筋損傷などによる出血や小血管損傷により局所的循環障害が起こり得ること,骨折周 動性,轢音の症状が見られること,下腿の骨折の場合には,腓骨及び脛骨神経の麻痺を伴うことがあること,骨折部及び骨折周囲の筋損傷などによる出血や小血管損傷により局所的循環障害が起こり得ること,骨折周囲の細かい神経の損傷により,神経障害が起こることもあり得ることが認められるから,被告Dは,本件接合手術を行うまでの間に,骨の接合手術のみでなく,このような神経損傷について別途対応すべき必要があるかどうかを判断し得る程度に,診察や検査等をして原告の神経損傷の有無について確認すべき注意義務を負っていたものと解される。 ② しかしながら,前記1認定の事実によれば,初診時(1月28日)には,左足関節の動きが制限されていたが,足指の動きや知覚は正常であったこと,入院時には,左下腿痛はあったが,しびれはなかったこと,その翌日(1月29日)もしびれはなかったこと,1月30日には,しびれがあったりなかったりの状態で,医師から,看護師に対して,腓骨神経麻痺を持続的にチェックするよう指示があり,これに基づいて,看護師が原告の左下腿や,足指の痛みとしびれをチェックしているが,その後の診療録には特別な記載はないことが認められ,このような事実に,証拠(略)を総合すれば,原告が被告病院に入院し,本件接合手術が行われるまでの間において,何らかの対応が求められるような明らかな神経症状はなかったと認めることができる。 ③ この点について,原告は,被告病院に入院した当初から,腓骨神経麻痺の症状を訴えていたと主張し,証人Fも,前記1(2)で認定したような看護記録の記載からすれば,原告には既に脛骨神経及び腓骨神経に麻痺があったと原告の主張に沿う証言をしている。 しかし,証拠(略)によれば,原告が本件接合手術までの間に訴え,看護記録に記載されたしびれや知覚鈍麻などの症状は,知覚異常 既に脛骨神経及び腓骨神経に麻痺があったと原告の主張に沿う証言をしている。 しかし,証拠(略)によれば,原告が本件接合手術までの間に訴え,看護記録に記載されたしびれや知覚鈍麻などの症状は,知覚異常を示すものではあるものの,これらは,いずれも受傷後早期のものであり,本件のような骨折では,周囲の筋肉,細かい神経や血管などの広範な軟部組織に損傷を伴っていたと考えられるから,このような外傷から通常起こり得るものであることが認められ,看護記録から認められる原告の痛みの症状についても波があること,原告の足関節や足指の動きがあることが確認されていることをも合わせ考慮すれば,看護記録に記載された原告の痛みの症状は,骨折部周辺の筋肉,細かい神経や血管の損傷に起因するものである可能性が高く,少なくとも,本件接合手術をするにあたり,骨折部の接合とは別に何らかの対応を求められるような明らかな神経症状ではなかったと認めるのが相当である。 ④ 以上によれば,原告の主張は理由がない。 (2) 次に,原告は,被告Dには,本件接合手術の際,骨折部位を開けて,直接肉眼で骨折部位や神経損傷の有無を確認し,神経の縫合や植骨などを行うべき注意義務があったのに,これを行わず,本件接合手術を行った過失があると主張する。 ① しかしながら,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,骨折の接合手術を行う場合には,感染の予防や早期の癒合等のため,骨折部を開けないで手術を行うことが通常であり,当該接合手術時に,明らかな神経症状,すなわち,足部の知覚障害や筋力低下があるような場合にのみ,骨折部を開けて神経損傷の有無等を肉眼で観察する必要があると認められるところ,本件接合手術までの間に,原告にそのような症状がなかったことは既に判示したとおりである。 ② また,証拠(略)によれば,少なくとも,骨折部 損傷の有無等を肉眼で観察する必要があると認められるところ,本件接合手術までの間に,原告にそのような症状がなかったことは既に判示したとおりである。 ② また,証拠(略)によれば,少なくとも,骨折部に植骨などの対応を必要とするような骨欠損があったと認めることもできない。 ③ そうすると,被告Dには,本件接合手術の際,骨折部位を開けて,直接肉眼で骨折部位や神経損傷を確認すべき注意義務はなかったといわざるを得ない。 したがって,原告の主張は理由がない。 (3) また,原告は,仮に神経幹の損傷でない知覚障害のみであったとしても,6か月経ってもその回復がなければ,新たに手術して,その原因の確認と神経剥離又は移植等の処置をすべき注意義務が被告Dにはあると主張する。 ① しかしながら,本件接合手術が行われるまでの間において,何らかの対応が求められるような明らかな神経症状がなかったことは既に判示したとおりである。 また,原告が本件接合手術を受けて退院するまでの経過は前記1(4)ないし(7)のとおりであるが,このような事実に,証拠(略)を総合すれば,原告には,被告Dにおいて何らかの対応が求められるような明らかな神経症状はなかったと認めることができる。 ② この点について,証人Fは,前記1(4)で認定したような看護記録の記載からすれば,原告には既に脛骨神経及び腓骨神経に麻痺があった旨証言している。 しかし,証拠(略)によれば,原告が訴え,看護記録に記載された足指の運動不良や知覚鈍麻などの症状は,知覚異常を示すものではあるものの,いずれも本件接合手術後早期のものであるところ,本件のような骨折では,周囲の筋肉,細かい神経や血管などの広範な軟部組織に損傷を伴っていたと考えられ,手術後間もない時点では,このような損傷に基づいて,足指の動きが弱まったり,一 ものであるところ,本件のような骨折では,周囲の筋肉,細かい神経や血管などの広範な軟部組織に損傷を伴っていたと考えられ,手術後間もない時点では,このような損傷に基づいて,足指の動きが弱まったり,一時的なしびれなどの症状を呈することがあるから,このような外傷から通常起こり得るものであることや,手術に伴って生じる腫れがあると,一時的に腓骨神経麻痺様の症状を生じることがあることが認められ,看護記録から認められる原告の痛みの症状についても波があること,原告は順調にリハビリを進めており,この間に神経症状を疑わせるような事情はなかったことをも合わせ考慮すれば,看護記録に記載された原告の痛みの症状は,骨折部周辺の筋肉,細かい神経や血管の損傷に起因して一時的に見られたものか,手術後の腫れによって一時的に生じた腓骨神経様の症状である可能性が高く,少なくとも,これに対して何らかの対応が求められるような明らかな神経症状ではなかったと認めるのが相当である。 ③ 以上によれば,原告の主張は理由がない。 (4) 更に,原告は,被告Dには,骨癒合が不完全な状態で本件抜釘手術を行った過失があると主張する。 ① 前記認定事実によれば,被告Dも,原告が糖尿病に罹患していることを知っていたことが認められ,糖尿病の場合には,骨の癒合が通常の場合と比べて遅くなることがあるというのであるから,被告Dとしては,原告が糖尿病に罹患していることにも配慮して,骨が癒合していることを確認して本件抜釘手術を行うべき注意義務があるというべきである。 ② そこで,本件抜釘手術当時,骨癒合があったかどうかを検討するが,証拠(略)によれば,平成8年2月22日のレントゲン写真では,側面像では骨折部の前方,後方とも骨癒合は完全であり,正面像では骨折部の外方の骨癒合は完全であるものの,骨折部の内方では皮質 検討するが,証拠(略)によれば,平成8年2月22日のレントゲン写真では,側面像では骨折部の前方,後方とも骨癒合は完全であり,正面像では骨折部の外方の骨癒合は完全であるものの,骨折部の内方では皮質骨を横走する線状の陰影が見られるが,その更に内方には仮骨の形成が見られること,骨折部の固定性が不十分な場合には,骨折部の内反変形や内捻を生じると考えられるところ,平成9年1月までの間に,骨折部に内反変形や内捻があったとしてもごく軽度のものであり,いずれも正常と判断される程度のものである上,本件抜釘手術後に内反変形や内捻が大きく進んだと見ることはできないし,本件抜釘手術後も,骨折部の癒合はより強固なものへと変化していることが認められ,このような事実を総合すれば,本件抜釘手術の時点で,少なくとも抜釘手術を行うのに十分な程度に,骨折部は癒合していたと認めるのが相当である。 なお,原告は,平成8年12月12日,F医師により,左下腿骨折後偽関節と診断されている。しかし,偽関節とは,骨折部の骨癒合が妨げられているうちに,ついに骨癒合機転が完全に停止してしまった状態をいうのであるから,E大病院で左下腿骨折後変形治癒と診断されていることや,偽関節であれば行われるべき骨移植等の骨折部への処置がE大病院の本件骨切術の際に行われた様子がないことをも考慮すれば,F医師の診断は適切でない。 また,証人Fは,本件抜釘手術後に内反変形や内捻が大きく進んだかのような証言もしているが,前掲各証拠に照らして採用できない。 ③ この点に関し,証人Fは,本件抜釘手術後の平成8年12月12日に,原告が介達痛などの痛みを訴えていたほか,前記1(8)ないし(10)のとおり,本件抜釘手術の前後に,原告が痛みなどを訴えていたことや,平成9年2月4日にE大病院で撮られた断層写真上,頸骨にギャ に,原告が介達痛などの痛みを訴えていたほか,前記1(8)ないし(10)のとおり,本件抜釘手術の前後に,原告が痛みなどを訴えていたことや,平成9年2月4日にE大病院で撮られた断層写真上,頸骨にギャップ(欠損)が認められたことを指摘し,原告の骨折部は癒合していなかったと証言する。 しかしながら,証拠(略)によれば,骨が完全に癒合していたとしても,骨折周囲の筋損傷や細かい神経の損傷により疼痛や神経障害が残る可能性があることが認められるのであって,証人Fが指摘するような痛み等があったとしても直ちに前記②の判断を左右するものではないし,むしろ,前記②で認定した事実によれば,少なくとも本件抜釘手術時以降の痛み等の症状については,骨の癒合が不十分であることから生じたものではないと認めるのが相当である。 また,甲45によれば,平成9年2月4日にE大病院で撮られた断層写真上頸骨に欠損が認められたことは証人Fの指摘するとおりである。 しかしながら,証人Fは,頸骨に欠損が認められる以上,完全には骨癒合はしていないとした上で,これが医学的に重要な意味を持つかどうかは別の問題であるが,本件では原告に痛みがあるから問題であると証言しているところ,少なくとも,本件抜釘手術時以降の痛み等の症状については,骨の癒合が不十分であることから生じたものではないと認められることは前述のとおりであるから,結局のところ,断層写真上頸骨に欠損が認められたことが前記②の判断を左右するものでもない。 ④ 以上によれば,被告Dに,骨癒合が不完全な状態で本件抜釘手術を行った過失があったと認めることはできない。 3 まとめ以上によれば,被告Dに注意義務違反が認められないから,原告の請求は,その余を判断するまでもなく,理由がない。 青森地方裁判所弘前支部裁判長裁判官土田昭彦 ことはできない。 3 まとめ以上によれば,被告Dに注意義務違反が認められないから,原告の請求は,その余を判断するまでもなく,理由がない。 青森地方裁判所弘前支部裁判長裁判官土田昭彦裁判官佐藤哲治裁判官加藤靖
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