1 令和3年12月23日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 令和2年(ワ)第19929号 特許権侵害差止請求事件 口頭弁論終結日 令和3年9月28日 判 決 5 原 告 ワーナー-ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー カンパニー 原告訴訟代理人弁護士 飯 村 敏 明 同 磯 田 直 也 10 同 森 下 梓 原告訴訟復代理人弁護士 永 島 太 郎 原告訴訟代理人弁理士 泉 谷 玲 子 原告補佐人弁理士 小 野 新 次 郎 15 被 告 東 和 薬 品 株 式 会 社 被告訴訟代理人弁護士 吉 澤 敬 夫 同 川 田 篤 被告訴訟代理人弁理士 紺 野 昭 男 20 同 井 波 実 主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決の控訴のための付加期間を30日と定める。 25 事実及び理由 2 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の医薬品を製造し,販売し,販売の申出をしてはな らない。 2 被告は,別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。 3 仮執行宣言 5 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛 剤」とする特許権を有する原告が,被告が製造販売承認を取得した医薬品が同特 許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして,被告に対し,特許法100条 10 1項及び2項に基づき,同医薬品の製造,販売及び販 とする特許権を有する原告が,被告が製造販売承認を取得した医薬品が同特 許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして,被告に対し,特許法100条 10 1項及び2項に基づき,同医薬品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに同 医薬品の廃棄を請求する事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容 易に認められる事実) ア 原告は,アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市所在の法人である。 15 (争いなし) イ 被告は,ジェネリック医薬品の販売等を事業とする会社である。(争いな し) 原告は,以下の特許権(以下,「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許 を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」とい 20 う。)を有している。原告は,本件特許権につき,処分の対象となった物をプレ レガバリン(後記 参照),処分の対象となった物について特定された用途と して,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛につき,5年間(帯状疱疹後 神経痛については4年9月14日間)の延長登録(以下「本件延長登録」とい う。)を受けている。(甲1,2) 25 特許番号 特許第3693258号 3 発明の名称 イソブチルGABAまたはその誘導体を含 有する鎮痛剤 出願日 平成9年7月16日 (以下「本件出願日」という。) 優先日 平成8年7月24日 5 優先権主張国 米国 登録日 平成17年7月1日 本件延長登録後の特許満了日 令和4年7月16日 本件特許について,平成29年1月16日付けで無効審判(以下「本件無効 審判」という。)が請求され,原告 平成17年7月1日 本件延長登録後の特許満了日 令和4年7月16日 本件特許について,平成29年1月16日付けで無効審判(以下「本件無効 審判」という。)が請求され,原告は,本件無効審判において,令和元年7月 10 1日付け訂正請求書及び同年8月7日付手続補正書(方式)により,本件特許 の特許請求の範囲の請求項1から4について,訂正の請求をした(以下,この 訂正の請求を「本件訂正」という。)。その後,本件無効審判において,令和2 年7月14日付けで,請求項1及び2の発明に係る特許を無効とし,請求項3 及び4について訂正を認め,請求項3及び4の発明に係る特許についての審判 15 の請求は成り立たないとの審決がされた。同審決のうち,請求項1,2に係る 部分は,審決取消訴訟が提起され,確定しておらず,請求項3,4に係る部分 はその後確定した。(以下,本件訂正前の請求項1,2に記載された発明をそ れぞれ「本件発明1」,「本件発明2」といい,本件訂正後の請求項1,2に記 載された発明をそれぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」といい,本件 20 訂正後の請求項3,4に記載された発明をそれぞれ「本件発明3」,「本件発明 4」という。また,以下,本件発明1,本件発明2,本件発明3,本件発明4 に係る特許について,単に,それぞれ「本件特許1」,「本件特許2」,「本件特 許3」,「本件特許4」ということがある。)。(甲3,4,9,弁論の全趣旨) 本件特許に係る特許請求の範囲は次のとおりである。 25 ア 本件発明1 4 式I(別紙構造式記載のとおり。以下同じ。) (式中,R1は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり, R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシル である)の化合物またはその医薬的 載のとおり。以下同じ。) (式中,R1は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり, R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシル である)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー, もしくはエナンチオマーを含有する痛みの処置における鎮痛剤。 5 本件発明1を分説すると次のとおりとなる。(以下,分説された構成要 件の符号に従い,「構成要件1A」などという。) 1A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルで あり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカ 10 ルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジ アステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する 1B’痛みの処置における 1C 鎮痛剤。 イ 本件発明2 15 化合物が,式IにおいてR3およびR2 はいずれも水素であり,R1は-(C H2)0-2-iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体であ る請求項1記載の鎮痛剤。 本件発明2を分説すると次のとおりとなる。 2A’化合物が式IにおいてR3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は- 20 (CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性 体である請求項1記載の 2C 鎮痛剤。 ウ 本件訂正発明1 式I 25 5 (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり, R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシル である)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー, もしくはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処 置における鎮痛剤。 5 本件訂正発明1 を分説すると次のとおり ある)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー, もしくはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処 置における鎮痛剤。 5 本件訂正発明1 を分説すると次のとおりとなる。 1A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルで あり,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカル ボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジア 10 ステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する, 1B 痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における 1C 鎮痛剤。 エ 本件訂正発明2は次のとおりである。 式I 15 (式中,R3 およびR2はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,神経 障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置におけ る鎮痛剤。 本件訂正発明2を分説すると次のとおりとなる。 20 2A 式I (式中,R3 およびR2はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4 H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有す る, 2B 神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの 25 処置における 6 2C 鎮痛剤。 オ 本件発明3 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル −5−メチルヘキサン酸を含有する,炎症を原因とする痛み,又は手術を 原因とする痛みの処置における鎮痛剤。 5 本件発明3を分説すると次のとおりとなる。 3A (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメ チル−5−メチルヘキサン酸を含有する, 3B 炎症を原因とする痛み, 5 本件発明3を分説すると次のとおりとなる。 3A (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメ チル−5−メチルヘキサン酸を含有する, 3B 炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置におけ る 10 3C 鎮痛剤。 カ 本件発明4 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであ り,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキ 15 シルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマ ー,もしくはエナンチオマーを含有する,炎症性疼痛による痛覚過敏の 痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置にお ける鎮痛剤。 本件発明4を分説すると次のとおりとなる。 20 4A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルで あり,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカ ルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジア ステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する, 25 7 4B 炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏 若しくは接触異痛の痛みの処置における 4C 鎮痛剤。 被告は,令和2年8月17日付で,(S)−3−(アミノメチル)−5−メチル ヘキサン酸(一般名:プレガバリン。構成要件1A,2A,3A,4Aをそれ 5 ぞれ充足する。)を有効成分とし,「効能又は効果」として神経障害性疼痛,線 維筋痛症に伴う疼痛」とする別紙物件目録記載1から6の販売名の医薬品(以 下「被告医薬品」という。)について製造販売承認を取得した。 被告医薬品は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を対象とする鎮痛剤 であり,本件発明1,2の技術的範囲に属し,構成要件3 名の医薬品(以 下「被告医薬品」という。)について製造販売承認を取得した。 被告医薬品は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を対象とする鎮痛剤 であり,本件発明1,2の技術的範囲に属し,構成要件3C,4Cを充足する。 10 (弁論の全趣旨) 人が皮膚などに生じた刺激につき痛みを感じる通常のメカニズムは次のと おりである。 末梢組織(皮膚など)に何らかの痛みの原因(炎症,切り傷,その他)が生 ずると末梢神経細胞にある侵害受容器が刺激される。侵害受容器へ十分な刺激 15 が加わると,末梢神経細胞が興奮して,末梢神経細胞の末端が位置する脊髄後 角まで侵害情報が伝達される。脊髄後角には,対応する中枢神経細胞が位置し ており,神経伝達物質を介して興奮している末梢神経細胞の末端から中枢神経 細胞に侵害情報が伝達され,これにより中枢神経細胞が興奮して脳に侵害情報 が伝わり,痛みとして認識される。(甲84,乙1,弁論の全趣旨) 20 3 争点 ⑴ 本件特許1,2の無効理由(争点1) ア 本件特許1,2には,実施可能要件違反の無効理由(以下「無効理由1」 という。)があるか(争点1-1) イ 本件特許1,2には,サポート要件違反の無効理由(以下「無効理由2」 25 という。)があるか(争点1-2) 8 ⑵ 本件訂正発明1,2に係る訂正の再抗弁について(争点2) ア 技術的範囲について(争点2-1) 被告医薬品は,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」(構成要 件1B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-1) 被告医薬品は,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異 5 痛の痛みの処置における」(構成要件2B)鎮痛剤といえるか(争点2-1 -2) イ 本件訂正と新規事項追加(争点2-2) 対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」 ,痛覚過敏又は接触異 5 痛の痛みの処置における」(構成要件2B)鎮痛剤といえるか(争点2-1 -2) イ 本件訂正と新規事項追加(争点2-2) 対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とす ることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1) 10 対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触 異痛の痛み」(構成要件2B)とすることは新規事項の追加ではないか(争 点2-2-2) ウ 無効理由の解消(2-3) 本件訂正により,無効理由1が解消するか(争点2-3-1) 15 本件訂正により,無効理由2が解消するか(争点2―3-2) ⑶ 本件特許1,2の延長登録には無効理由があるか(争点3) ⑷ 被告医薬品が本件発明3,4の技術的範囲に属するか(争点4) ア 被告医薬品は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処 置における」(構成要件3B)鎮痛剤といえるか(争点4-1) 20 イ 被告医薬品は,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による 痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」(構成要件4B)鎮痛剤 といえるか(争点4-2) ⑸ 被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものといえるか(争点5) 25 ⑹ 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等な 9 ものといえるか(争点6) ⑺ 本件特許3,4の延長登録には無効理由があるか(争点7) 4 争点に対する当事者の主張(なお,本件出願日当時の「痛み」に関する用語の 意義等について,各当事者は別紙「痛み等の用語についての当事者の主張」のと おりであると主張していて,以下の各当事者の主張は,別段の記載がない限り, 5 別紙記載のそれぞれの当事者が主張する用語の の 意義等について,各当事者は別紙「痛み等の用語についての当事者の主張」のと おりであると主張していて,以下の各当事者の主張は,別段の記載がない限り, 5 別紙記載のそれぞれの当事者が主張する用語の意義を前提にしている。) ⑴ 本件特許1,2の無効理由(争点1) ア 本件特許1,2には,実施可能要件違反の無効理由があるか(争点1-1) (被告の主張) 発明の詳細な説明の記載が,医薬用途発明を使用することができる程度の 10 ものであるといえるためには,発明の詳細な説明に,当該物質が実際にその 医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が認識するこ とができるに足る臨床試験,またはそれに代わる充分な程度の薬理試験結果 を記載する必要がある。 本件明細書には,CI-1008((S)‐3-(アミノメチル)-5-メチルヘ 15 キサン酸),3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸又はS-(+)-3 -イソブチルギャバ(この化合物は,いずれも構成要件1A,2A,3A, 4Aを充足する。以下,この化合物のうち,次に列挙する本件明細書記載の 試験で効能を確かめられた化合物を「本件試験化合物」ということがある。) を用いて3種の薬理試験,すなわち「ラットホルマリン足蹠試験」,「ラット 20 カラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験」及び「ラット後肢足蹠面の皮膚,筋 膜及び筋肉を切開することによって作成された術後疼痛モデル」の記載があ るが,これら3種の薬理試験以外については,実際に実験が行われた旨の記 載はない(以下,本件明細書に記載された上記試験を,それぞれ「本件ホル マリン試験」,「本件カラゲニン試験」及び「本件術後疼痛試験」といい,こ 25 れらを併せて「本件3試験」ということがある。また,それらで行われた各 10 試験の薬理試験としての一般的な性質等 マリン試験」,「本件カラゲニン試験」及び「本件術後疼痛試験」といい,こ 25 れらを併せて「本件3試験」ということがある。また,それらで行われた各 10 試験の薬理試験としての一般的な性質等を述べるときには,それぞれ「ホル マリン試験」, 「カラゲニン試験」及び「術後疼痛試験」ということがある。)。 本件明細書では,本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験について記 載された後,「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼 痛の処置に有効であることを示す。」と結論付けている。つまり,本件ホルマ 5 リン試験から「炎症性疼痛」,すなわち炎症を原因とする疼痛の治療に有効 であることが理解され,また,本件カラゲニン試験から,炎症性疼痛による 「痛覚過敏」の治療にも有効であることが理解される。炎症性疼痛は,「侵害 受容性疼痛」の典型例であり,本件明細書に記載される本件ホルマリン試験 及び本件カラゲニン試験は,「侵害受容性疼痛」についてのみが記載されて 10 いることが明らかである。続いて,本件明細書では,本件術後疼痛試験につ いて記載された後,本件試験化合物が,侵害受容反応の遮断に対して有効で あると結論付けられている。つまり,同試験により,「手術を原因とする痛 み」,さらに「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」の治療にも 有効であることが理解される。なお,術後疼痛は,「侵害受容性疼痛」の典型 15 例であり,本件明細書に記載される術後疼痛試験は,「侵害受容性疼痛」につ いてのみが記載されていることが明らかである。 「痛み」には本件明細書に記載されている各痛みを含め,種々の種類のも のがあり,その原因や病態生理もさまざまであることが技術常識であった。 また,痛みの種類や原因によって治療法が異なり,鎮痛剤であればあらゆる 20 種類 書に記載されている各痛みを含め,種々の種類のも のがあり,その原因や病態生理もさまざまであることが技術常識であった。 また,痛みの種類や原因によって治療法が異なり,鎮痛剤であればあらゆる 20 種類の痛みに有効であるというわけではないことも,本件出願日当時の技術 常識であった。 本件発明1,2が処置の対象とする「痛み」には,「炎症性疼痛」及び「術 後疼痛」以外に,本件明細書で列挙されている「転移癌に伴う骨関節炎の痛 み,三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウ 25 ザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 11 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害 および特発性疼痛症候群」,「神経障害の痛み,癌の痛み,および原因不明の 痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛」,「末梢神経の外傷,ヘルペスウイ ルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および 血管炎からの痛み」,「慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状 5 腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる (痛み)」が含まれる。しかし,これらの「痛み」について,臨床試験はもち ろん,これらの「痛み」に関する動物モデルを用いた実験についても,開示 はない。そして,本件3試験の結果から,これらの「痛み」に対する効果を 確認することができるとの本件明細書の記載も技術常識もない。 10 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1,2を,当業者が 実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,実施可能要件 を欠く。 (原告の主張) 以下に説明するとおり,①本件3試験はいずれも神経障害性疼痛や線維筋 15 痛症に共通する神経細胞の感作の痛みに関する試験であること, したものではないから,実施可能要件 を欠く。 (原告の主張) 以下に説明するとおり,①本件3試験はいずれも神経障害性疼痛や線維筋 15 痛症に共通する神経細胞の感作の痛みに関する試験であること,②動物モデ ルは痛みの原因ではなく,痛覚過敏や接触異痛という症状に着目して用いら れていたこと,③本件明細書の記載に基づけば,本件発明1,2が,侵害受 容器への刺激による通常の痛みと区別された慢性疼痛に効果を奏したこと が明らかであることなどの理由から,本件明細書の発明の詳細な説明は,本 20 件発明1,2を,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したもので あり,実施可能要件を満たすことは明らかである。 本件発明1,2の痛みは,本件明細書を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNS AID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛と解釈でき る。 25 慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,原 12 因にかかわらず,組織損傷や炎症によるものであっても,神経損傷その他神 経の障害によるものであっても,心因性の要因によるものであっても,神経 障害性疼痛や線維筋痛症におけるものであっても,いずれも末梢や中枢の神 経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みで ある。このような痛覚過敏や接触異痛の痛みに対しては,ケタミン等の研究 5 により,その直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで,原因にか かわらず痛みを治療できることが知られていた。 具体的には,慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛の機序として,ホル マリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸 を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが 10 知られており,カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作も,こ 試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸 を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが 10 知られており,カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作も,これと同様 の機序であると理解されていた。 一方,神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作 を生ずることが知られていた。 これらによれば,本件出願日当時,当業者は,原因にかかわらず,痛覚過 15 敏や接触異痛を生ずる感作の機序は同一であると考えており,組織損傷や炎 症の疼痛モデルの結果を用いて,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛 が研究されていた。そして,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが 確認されたケタミンが,広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に 効果を奏することも知られていた。 20 また,本件出願日当時,前記のように,原因にかかわらず神経細胞の感作 により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え,組織損傷や炎症により神経 を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じ,更にはストレスで侵害刺激を生 じ,侵害刺激がストレスで増幅され,これらの原因で神経細胞の感作を生じ て痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷, 25 心因性の要因といった原因では明確に区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と 13 神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであると 理解されていた。 このように,本件出願日当時,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛は, 等しく神経細胞の感作で生ずることに加え,感作に至るまでの炎症性メディ エーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないと理解されてい 5 た。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイドの投与に よる治療も行われていた。 さらに,手 の炎症性メディ エーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないと理解されてい 5 た。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイドの投与に よる治療も行われていた。 さらに,手術で末梢神経損傷に至らない場合でも,皮神経終末を損傷する し,糖尿病性神経障害の例から明らかなように,神経損傷により直ちに疼痛 を生ずるわけではない。また,複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジ 10 ストロフィーを含む。)は,手術後に神経障害性疼痛を生ずるところ,神経損 傷だけでなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされてい た。したがって,手術により神経を損傷したか否かにより,術後疼痛と神経 障害性疼痛とを区別できないことも明らかであった。 そのため,当業者は,実験的疼痛状態を生じさせる動物又はヒトの疼痛モ 15 デルの症状に着目し,炎症や組織損傷により痛覚過敏や接触異痛を生じさせ るモデルを利用して,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛の研究を行 っていた。 疼痛の動物モデルは,人工的に痛みを生じさせるモデルであり,かつ,ヒ トではなく動物のモデルであることから,ヒトの具体的な疾患とは原因や病 20 態生理が異なるが,動物モデルが疼痛治療薬のスクリーニングに利用できな いということにはならない。仮に動物モデルによりヒトの疾患の病態生理を 正確に模倣することを要求した場合,そのような動物モデルなど存在しない ことから,特許の取得は不可能となる。 本件化合物は,本件明細書において,中枢神経系に作用するGABA類縁 25 体であり,中枢神経の過活動により生ずる疾患である「てんかん」に対して 14 効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性疼痛や線 維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより 効果 により生ずる疾患である「てんかん」に対して 14 効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性疼痛や線 維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより 効果を奏することが明示されている。 ホルマリン試験は,慢性疼痛の試験として誕生し,後期相が痛覚過敏や接 触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られていた 5 ため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた。本件明細書では,ホ ルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異 痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に本件化合物が効果を 奏することを確認している。 カラゲニン試験は,痛覚過敏の試験として知られていて,神経細胞の感作 10 を反映したものであることも知られており,神経障害性疼痛治療薬の研究に 用いられていた。本件カラゲニン試験では,神経細胞の感作で生じた痛覚過 敏に対する本件化合物の効果を確認している。 術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られてお り,感作のメカニズムを研究する動物モデルである。本件術後疼痛試験では, 15 切開創の治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に 対する本件化合物の効果を確認している。 さらに,本件明細書では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果 を奏し,慢性疼痛に効果の不十分なことのある麻薬性鎮痛剤であるモルヒネ を比較例として,本件化合物の効果を確認している。例えば本件術後疼痛試 20 験では,本件化合物がモルヒネの効かない痛覚過敏や接触異痛に有効である ことや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに影響を与えないことが示され ている。 これらによれば,本件明細書の記載により,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤 やNSAIDの有効な 覚過敏や接触異痛に有効である ことや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに影響を与えないことが示され ている。 これらによれば,本件明細書の記載により,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤 やNSAIDの有効な,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛み 25 ではなく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏するこ 15 とが明らかである。当業者は,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤と同じオピオイ ド作用や,NSAIDと同じ抗炎症作用を有すると理解することもない。 本件明細書では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチン を比較例として,これと同じ作用により,より優れた効果を有することも確 認している。ギャバペンチンも本件化合物も,共にホルマリン試験,カラゲ 5 ニン試験,術後疼痛試験のすべてにおいて用量依存性で痛覚過敏や接触異痛 に拮抗しており,機序の同一性が明らかである。 加えて,本件明細書では,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モ デルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介し ており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能である。 10 よって,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に有用であることを十分に理解 する。 これに対し被告は,痛みが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛 に分類されると主張する。しかし,この分類は,原因にかかわらず,神経細 胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じ,神経細胞の感作を抑制すること 15 で鎮痛できることを否定するものではない。 一方,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比 例する通常の痛みであると理解されており,ホルマリン試験,カラゲニン試 験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作により生ずる痛覚過敏や接触異 痛等の病的な慢性疼痛 受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比 例する通常の痛みであると理解されており,ホルマリン試験,カラゲニン試 験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作により生ずる痛覚過敏や接触異 痛等の病的な慢性疼痛を含まない。本件明細書に記載された「炎症性疼痛」 20 や「術後疼痛」も,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の痛みであり, 侵害受容性疼痛を意味しない。そのため,本件明細書の本件ホルマリン試験, 本件カラゲニン試験,本件術後疼痛試験が侵害受容性疼痛の試験と理解され ることはない。「侵害受容」との用語は,侵害受容性疼痛であることを意味し ない。 25 末梢及び中枢の神経細胞の感作の意義は明確であり,様々な神経細胞の感 16 作が存在するということはない。また,神経細胞の感作を抑制すれば,痛覚 過敏や接触異痛に効果を奏することも明らかである。 イ 本件特許1,2には,サポート要件違反の無効理由があるか(争点1-2) (被告の主張) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,本件発明1,2が解決し 5 ようとする課題は,特許請求の範囲に記載の「痛み」,すなわち本件明細書記 載の各痛みを含む「痛み」の処置をすることができる鎮痛剤を提供すること であると認められる。 しかしながら,実施可能要件に関して述べたとおり,本件明細書には式I の化合物が「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛効果を有す 10 ることが記載されているとしても,式Iの化合物が,これら以外の「痛み」 の処置における鎮痛効果を有することが本件明細書に記載されていること にはならず,また,本件出願日当時の技術常識を参酌しても,「炎症性疼痛」 及び「術後疼痛」以外の「痛み」の処置における鎮痛効果を有することを当 業者は認識し得ない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した ,また,本件出願日当時の技術常識を参酌しても,「炎症性疼痛」 及び「術後疼痛」以外の「痛み」の処置における鎮痛効果を有することを当 業者は認識し得ない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した 15 当業者は,本件発明1,2に係る発明により上記課題を解決できると認識で きるとはいえない。 本件発明1,2は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であ るとは認められないから,サポート要件を欠く。 (原告の主張) 20 前記アで述べたのと同様の理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛 に効果を奏することを十分に理解するから,サポート要件に欠けるところは ない。 ⑵ 本件訂正発明1,2に係る訂正の再抗弁について(争点2) ア 技術的範囲について(争点2-1) 25 被告医薬品は,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」(構成要 17 件1B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-1) (原告の主張) 本件訂正発明1の処置対象となる痛みは「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」 であるところ,これは神経細胞の感作により生ずる神経の機能異常の痛み であり,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の主症状である。 5 そのため,被告医薬品が神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に用い られた場合,本件訂正発明1で特定された前記処置対象の痛みに用いられ ることとなる。 したがって,被告医薬品は本件訂正発明1の技術的範囲に属する。 (被告の主張) 10 本件訂正発明1の「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」 とは,医薬品の用途を限定した要件であるところ,被告医薬品は,被告医 薬品の添付文書の効能・効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う 疼痛」と記載されているとおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に おける鎮痛剤」に限定された用途に るところ,被告医薬品は,被告医 薬品の添付文書の効能・効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う 疼痛」と記載されているとおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に おける鎮痛剤」に限定された用途について製造されておらず,その限定さ 15 れた用途について販売されるものでもないから,構成要件1Bを充足しな い。 「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症以 外の原因によっても起きるもので,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う 疼痛に対し被告医薬品が用いられた場合,必ずしも「痛覚過敏又は接触異 20 痛の痛み」に用いられることにはならないし,そのような行為は医師のす る行為であって,被告医薬品の製造,販売とは関係がない。 被告医薬品は,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異 痛の痛みの処置における」(構成要件2B)鎮痛剤といえるか(争点2-1 -2) 25 (原告の主張) 18 本件訂正発明2の処置対象となる痛みは「神経障害又は線維筋痛症によ る,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」であるところ,前記 で述べたとおり, 被告医薬品が神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に用いられた場合, 本件訂正発明2で特定された上記処置対象の痛みに用いられることとな るので,被告医薬品は本件訂正発明2の技術的範囲に属する。 5 (被告の主張) 「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置 における鎮痛剤」とは,医薬品の用途を「神経障害性疼痛及び線維筋痛症 に伴う疼痛」よりもさらに限定して「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」 としたものであるところ,被告医薬品は,被告医薬品の添付文書の効能・ 10 効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」と記載されている とおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤 としたものであるところ,被告医薬品は,被告医薬品の添付文書の効能・ 10 効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」と記載されている とおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」に限定さ れた用途について製造されておらず,その限定された用途について販売さ れるものでもないから,構成要件2Bを充足しない。 痛覚過敏又は接触異痛の痛みは,神経障害性疼痛及び線維筋痛症以外の 15 原因によっても起きるもので,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛 に対し被告医薬品が用いられた場合,必ずしも「痛覚過敏又は接触異痛の 痛み」に用いられることにはならないし,そのような行為は医師のする行 為であって,被告医薬品の製造,販売とは関係がない。 イ 本件訂正と新規事項追加(争点2-2) 20 対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とす ることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1) (原告の主張) 本件カラゲニン試験では,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験 化合物の効果が確認されており,本件術後疼痛試験では,熱痛覚過敏及び 25 接触異痛に対する試験化合物の効果が確認されているから,痛覚過敏又は 19 接触異痛の痛みに対して構成要件1Aの化合物を用いることが開示され ている。痛覚過敏や接触異痛は痛みの症状を示す用語であり,痛みの原因 に応じて複数の痛覚過敏や複数の接触異痛が存在するわけではない。 さらに,前記 アにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかか わらず,痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ,本件化合物 5 が効果を奏することを十分に理解する。このことからも,原因に応じて複 数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけではないことが明らかである。 したがって,構成要件1Bは,本件明細書に 生じ,本件化合物 5 が効果を奏することを十分に理解する。このことからも,原因に応じて複 数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけではないことが明らかである。 したがって,構成要件1Bは,本件明細書に記載した事項の範囲内で訂 正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。そして,本件訂正の 目的は,痛みの範囲について,減縮するものであり,本件訂正により拡張 10 変更するものでないことは明らかである。 (被告の主張) 2以上の請求項に係る特許請求の範囲を訂正する場合には,当該請求項 の中に一群の請求項があるときは,当該一群の請求項ごとに訂正しなけれ ばならない(特許法134条の2第3項)。 15 請求項1から4は,請求項2から4が請求項1の記載を引用する関係に あり,本件訂正における請求項1から4に係る訂正は,一群の請求項1か ら4について請求されている。さらに請求項2に係る訂正は,請求項1と の引用関係を解消し,独立形式に改めること,すなわち請求項2を請求項 1とは別の訂正単位として扱われることを求めている。 20 しかしながら,後記 で述べるとおり,請求項2を訂正する訂正は認め られないから,本件訂正後の請求項2について,これを別の訂正単位とす ることは認められない。 よって,請求項2と共に一群の請求項を構成する請求項1についてされ る訂正も一体的に認められない。 25 また,後記 で主張するとおり,請求項2について,「神経障害又は線維 20 筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」とする訂正が新規事 項を追加するとして認められないのと同じく,請求項1の訂正自体につい ても,本件訂正後の請求項1の「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に は「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」 が含まれることになり,新規事項 じく,請求項1の訂正自体につい ても,本件訂正後の請求項1の「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」に は「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」 が含まれることになり,新規事項を追加することになる。したがって,請 5 求項1と請求項2とが一群の請求項を構成し,訂正の可否が一体として扱 われる点のほか,新規事項の追加という点からも,請求項1を本件訂正後 の請求項1とする訂正は,認められない。 対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触 異痛の痛み」(構成要件2B)とすることは新規事項の追加ではないか(争 10 点2-2-2) (原告の主張) 本件訂正により「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B)とする ことについては,前記 で主張したとおり,訂正要件を満たす。 また,本件明細書には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれ 15 る痛みとして,神経障害の痛み,線維筋痛症が記載されている。 さらに,前記 アにおいて述べたとおり,神経障害の痛みや,線維筋痛 症において痛覚過敏や接触異痛を生ずることは,本件出願日当時の技術常 識である。 したがって,構成要件2Bは,本件明細書に記載した事項の範囲内で訂 20 正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。本件訂正の目的は引 用関係の解消及び痛みの範囲の減縮であり,本件訂正により拡張変更をす るものでないことは明らかである。 (被告の主張) 本件明細書には,発明対象の化合物について神経障害又は線維筋痛症に 25 よる「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置における鎮痛剤として使用す 21 ることについて,明示の記載はない。 一方で,本件明細書には,神経障害性疼痛の動物モデルとして,ベネッ トのアッセイ及びKimらのアッセイについて言及している 置における鎮痛剤として使用す 21 ることについて,明示の記載はない。 一方で,本件明細書には,神経障害性疼痛の動物モデルとして,ベネッ トのアッセイ及びKimらのアッセイについて言及している。 しかしながら,本件明細書では,発明対象の化合物を,これらの神経障 害性疼痛の動物モデルで評価したとの記載はなく,試験結果としての薬理 5 試験データの記載もない。さらに,神経障害性疼痛又は線維筋痛症による 「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置において鎮痛作用を有し,鎮痛剤 としての効果を奏したことを具体的に確認した試験結果はおろか,当該試 験において有効であるとの一般的な記載もない。 本件発明1,2に関連して述べたとおり,本件明細書で鎮痛効果を確認 10 したのは,本件3試験のみであり,鎮痛効果を予測することができるのは, 「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」に対するものだけである。 上記試験結果は,いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症による痛みの 処置に本件訂正前後の請求項2記載の化合物を使用した試験に関するも のではないから,上記試験結果から直ちに,本件訂正前後の請求項2記載 15 の化合物が,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の 痛み」処置に有効であることが本件明細書に記載されているとはいえない。 また,本件3試験の薬理試験が,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚 過敏又は接触異痛の痛み」処置に有効であることを示す実験モデルである とする技術常識も存在しない。 20 むしろ,痛みについて「侵害受容性(nociceptive),神経障害性 (neuropathic),心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考え られる」との技術常識,痛みが「侵害受容性疼痛」,「神経性疼痛」に分け て分類されているとの本件出願日当時の技術常 neuropathic),心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考え られる」との技術常識,痛みが「侵害受容性疼痛」,「神経性疼痛」に分け て分類されているとの本件出願日当時の技術常識からすれば,これら本件 3試験が明らかにした「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」は「侵害受容性疼 25 痛」に分類され,「侵害受容性疼痛」は「神経障害又は線維筋痛症による痛 22 み」とは明確に区別されている。 このことは,それぞれの痛みに対する治療効果を評価する実験的疼痛状 態を示す動物モデルが,痛みごとに区別して存在していたことからも明ら かである。 とりわけホルマリン試験後期相は,侵害受容性疼痛の動物モデルとして 5 理解され,本件明細書において「神経障害性疼痛」の動物モデルとして記 載されているベネットらによる動物モデルとは別の「疼痛」のモデルとさ れている。 本件明細書からは,本件カラゲニン試験によって,対象とする化合物が, 炎症性疼痛による「痛覚過敏」の治療にも有効であること,また,「手術を 10 原因とする痛み」,さらに「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の 痛み」の治療にも有効であることを理解することができるが,単に,「痛覚 過敏」又は「接触異痛」を伴うからといって,本件訂正発明2の化合物が, 本件明細書に記載の薬理試験及び技術常識から,「神経障害又は線維筋痛 症による,痛覚過敏又は接触異痛」の痛みの処置に有効であると理解する 15 ことはできず,このことが本件明細書に記載されているとは到底いえない。 したがって,本件訂正で「痛み」を「神経障害又は線維筋痛症による, 痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と特定することは,本件明細書又は図面に 明示的に記載された事項であるとも,本件明細書又は図面の記載から自明 な事項であるとも認めることができない痛 害又は線維筋痛症による, 痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と特定することは,本件明細書又は図面に 明示的に記載された事項であるとも,本件明細書又は図面の記載から自明 な事項であるとも認めることができない痛みに個別化するものである。本 20 件訂正は,本件明細書の全ての記載を総合しても導き出すことができない 技術的事項を含むものであるから,本件明細書又は図面に記載した事項と の関係において新たな技術的事項を導入するものであると認められる。 ウ 無効理由の解消(争点2-3) 本件訂正により,無効理由1が解消するか(争点2-3-1) 25 (原告の主張) 23 前記 アにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず, 本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に効果を奏することを十分に理解する。 また,本件訂正発明1,2では,処置対象となる痛みが,慢性疼痛のう ち「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に明確に限定されている。これは,ホ ルマリン試験の後期相に反映された中枢性感作で生ずる痛みであり,本件 5 カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験において,試験化合物の効果が明示 的に確かめられた痛みである。 本件訂正発明2では,処置対象となる痛みが更に「神経障害又は線維筋 痛症による」痛覚過敏又は接触異痛に限定されている。本件出願日当時, 神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして定 10 義されており,炎症や組織損傷だけでなく,神経損傷によっても神経細胞 の感作という神経の機能異常を生じて,神経障害性疼痛における痛覚過敏 や接触異痛を生ずることが知られていた。また,線維筋痛症も,痛覚過敏 を伴う慢性疼痛症候群として定義されており,中枢性感作により痛覚過敏 や接触異痛を生ずることが知られていた。すなわち,神経障害又は線維筋 15 痛症による痛覚過敏や いた。また,線維筋痛症も,痛覚過敏 を伴う慢性疼痛症候群として定義されており,中枢性感作により痛覚過敏 や接触異痛を生ずることが知られていた。すなわち,神経障害又は線維筋 15 痛症による痛覚過敏や接触異痛は,神経細胞の感作で生じたものであるこ とが明らかであった。本件明細書では,前記のように,本件出願日当時, 神経障害又は線維筋痛症の痛みであると理解されていた,神経細胞の感作 による痛覚過敏や接触異痛に対する発明の対象化合物の効果が確かめら れているといえる。 20 よって,当業者は,本件訂正発明1,2の化合物が痛覚過敏又は接触異 痛の痛み,並びに神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の 痛みに有用であることを十分に理解するから,本件訂正により無効理由は 解消する。 (被告の主張) 25 24 ホルマリン試験の実質は,その後期相も含め,神経障害性の痛みではな く,組織の炎症による侵害受容性の痛みに対する薬剤の効果を確認する試 験であると理解されていたのであるから,本件ホルマリン試験により確認 された「化合物の効果」は,炎症による侵害受容性の痛みに対する効果に 留まる。同様に,本件カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験では,炎症及 5 び手術を原因とする侵害受容性の痛みに対する薬剤の効果が確認された に留まる。本件明細書にはベネットモデル等について動物モデルの存在に ついて記載はあるものの,発明の対象化合物について,効果があることを 確認する記載があるわけではない。同様に,本件明細書には,「神経障害 性疼痛」や「線維筋痛症」といった単語は記載されているが,発明の対象 10 化合物がそれらに有効であることを裏付ける記載はない。 原告が主張する「本件出願日当時,当業者は,疼痛の原因にかかわらず, 痛覚過敏や接触異痛を発現する動物モデル試験で効果を確 が,発明の対象 10 化合物がそれらに有効であることを裏付ける記載はない。 原告が主張する「本件出願日当時,当業者は,疼痛の原因にかかわらず, 痛覚過敏や接触異痛を発現する動物モデル試験で効果を確認できれば,そ の動物モデルとは別の原因によって生じた痛覚過敏及び接触異痛に対し ても,同様に効果を奏するものと理解した」とする技術常識は存在しない。 15 よって,「炎症及び手術による侵害受容性の原因による痛覚過敏及び接 触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」が記載されているにとどまる本件明 細書に接した当業者が,技術常識を踏まえても,発明の対象化合物が「神 経障害性疼痛の原因による痛覚過敏及び接触異痛の痛みの処置における 鎮痛剤」としても有用であると理解するとは言い難く,「神経障害又は線 20 維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置における鎮痛 剤(本件訂正発明2),及び本件訂正発明2よりも広い概念を規定す る「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置における鎮痛剤(本件訂正 発明1)は,明細書の記載要件,すなわち実施可能要件を充足してい ないと評価され,本件訂正によって無効理由1は解消されない。 25 本件訂正により,無効理由2が解消するか(争点2―3-2) 25 (原告の主張) 前記 において述べたことと同様の理由により,当業者は,本件訂正発 明1,2の化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,並びに,神経障害又は 線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果を奏することを十 分に理解し,本件訂正によって無効理由2は解消する。 5 (被告の主張) 前記 において述べたのと同様の理由により,本件訂正によってサポー ト要件違反の無効理由2は解消されない。 ⑶ 本件特許1,2の延長登録には無効理由があるか(争点3) (被告の主張) 10 本 前記 において述べたのと同様の理由により,本件訂正によってサポー ト要件違反の無効理由2は解消されない。 ⑶ 本件特許1,2の延長登録には無効理由があるか(争点3) (被告の主張) 10 本件延長登録に係る「処分の対象となった物について特定された用途」は, 「帯状疱疹後神経痛」,「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」, 「線維筋痛症に伴う疼痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末 梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」である。 ここで,原告医薬品と薬事的に同等というべき被告医薬品が本件訂正発明1, 15 2の技術的範囲に属さないものであることと同様,本件訂正発明1,2はいず れも「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」を用途とする限定をした結果,「処 分の対象となった物について特定された用途」である「帯状疱疹後神経痛」, 「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼 痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛, 20 線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」とは用途において異なるものとなった。その 結果,本件延長登録は,いずれも「その特許発明の実施について・・・政令で 定めるものを受けることが必要である」(平成28年法律第108号による改 正前の特許法67条2項)には当たらないものとなり,延長登録の要件を満た さない。 25 したがって,本件延長登録は延長登録無効審判により無効とされるべきもの 26 であり,当該延長登録に係る特許権の行使は制限されるべきものである。本件 特許1,2に係る特許権は,本件特許の出願から20年後の平成29年(20 17年)7月16日の経過をもって消滅している。 また,本件訂正発明1,2の「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又 は接触異痛の痛 ,2に係る特許権は,本件特許の出願から20年後の平成29年(20 17年)7月16日の経過をもって消滅している。 また,本件訂正発明1,2の「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又 は接触異痛の痛みの処置」との用途が「処分の対象となった物について特定さ 5 れた用途」である「帯状疱疹後神経痛」,「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後 神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症 に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」との用途 に含まれると解したとしても,「処分の対象となった物について特定された用 途」が本件訂正発明1,2の用途よりも広くなる結果,本件訂正発明1,2と 10 重ならない部分において,それぞれの延長登録について,その一部に無効理由 が認められることになる。その結果,一体的な一個の行政処分である,それぞ れの延長登録全体が無効になるものと解される。したがって,本件訂正発明1, 2の用途が「処分の対象となった物について特定された用途」に含まれると解 したとしても,それぞれの延長登録には,本件訂正発明1,2との関係におい 15 て無効理由があることになる。 (原告の主張) 前記 アにおいて述べたとおり,本件訂正発明1,2は,被告医薬品をその 技術的範囲に含む。処分対象物は,被告医薬品と効能,効果が同一であるから, 被告医薬品におけるのと同様の理由により,処分対象物は,本件訂正発明1, 20 2の技術的範囲に含まれる。 被告は,処分対象物に係る用途が本件訂正発明1,2の用途よりも広いので, 延長登録を受けた用途の一部が本件訂正発明1,2と重ならないことを理由と して,本件訂正発明1,2に係る延長登録が無効であると主張するが,平成2 8年法律第108号による改正前の特許法125条の2第1項1号は「特許発 た用途の一部が本件訂正発明1,2と重ならないことを理由と して,本件訂正発明1,2に係る延長登録が無効であると主張するが,平成2 8年法律第108号による改正前の特許法125条の2第1項1号は「特許発 25 明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められ 27 ない」場合に延長登録が無効となる旨を定めているから,製造販売承認を受け た医薬品が特許発明の実施品でありさえすれば,無効理由はない。本件では, 処分対象物は本件訂正発明1,2の実施品であるから,本件訂正発明1,2を 実施するために,処分対象物について製造販売承認を取得する必要があったこ とは明らかであり,延長登録無効理由はない。 5 さらに,本件訂正発明1,2には無効理由はなく,訂正も適法である。 したがって,本件延長登録は,本件訂正発明1,2の実施に政令処分を受け ることが必要であった場合の出願に対してされたものであり,延長登録無効 理由はない。 ⑷ 被告医薬品が本件発明3,4の技術的範囲に属するか(争点4) 10 ア 被告医薬品は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処 置における」(構成要件3B)鎮痛剤といえるか(争点4-1) (原告の主張) ⅰ 本件発明3の処置対象となる痛みは, 「炎症を原因とする痛み,又は手 術を原因とする痛み」である。 15 「炎症を原因とする痛み」は,本件カラゲニン試験の痛みであり,「手 術を原因とする痛み」は,本件術後疼痛試験の痛みである。これらの試 験では,炎症や手術から神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を 生ずるまでの機序は限定されていない。 本件明細書では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋 20 痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは効果が不十分なことのあ る慢性疼痛として記載 生ずるまでの機序は限定されていない。 本件明細書では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋 20 痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは効果が不十分なことのあ る慢性疼痛として記載されており,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛 試験が慢性疼痛の試験であることが明らかである。 そして,前記 アで述べたとおり,慢性疼痛は,原因にかかわらず, 神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られており,神 25 経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できるこ 28 とも知られていた。 また,前記 アで述べたとおり,本件出願日当時,炎症で神経の病変 や疾患を生じ,手術で末梢神経や神経終末を損傷し,神経の損傷によっ ても炎症が生ずることなどから,痛みを原因で区別できず,炎症性疼痛 や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複すること 5 が理解されていた。 そのため,前記 アで述べたとおり,当業者は,痛みの症状に着目し て動物モデルを用いており,カラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細 胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じさせる動物モデルとして,神 経障害性疼痛治療薬の探索や,感作のメカニズムの研究に利用されてい 10 た。 したがって,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験は,神経細胞の 感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢性疼痛に共通 する痛覚過敏や接触異痛に対する効果についてのものであることが明 らかである。 15 よって,本件発明3の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関 与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触 異痛の全てが含まれる。 ⅱ 被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎等において,炎症を 原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする。また, かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触 異痛の全てが含まれる。 ⅱ 被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎等において,炎症を 原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする。また,被告医薬品は, 20 術後遷延性疼痛,開胸術後疼痛症候群等において,手術を原因として生 じた神経障害性疼痛を用途とする。 神経障害性疼痛の疾患においては,前記のとおり炎症や手術による組 織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接 触異痛を生ずる。それだけでなく,前記のとおり,炎症により神経の病 25 変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,これらの神経の病変,疾患, 29 損傷により,神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さ らに,神経の病変,疾患,損傷により,組織や神経の炎症を生じ,炎症 により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さらに, 明確に神経の病変や疾患が見出されない場合でも,痛覚過敏や接触異痛 といった,神経細胞の感作で生ずる症状により,神経障害性疼痛と診断 5 され,先発医薬品や被告医薬品が投与される。そのため,神経障害性疼 痛を神経の病変,疾患,損傷が明確な態様に限定することは誤りである。 よって,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」は,本件 発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当 する。 10 ⅲ 被告医薬品は,関節炎,胃炎,アレルギー炎症,リウマチ等の炎症性 疾患から生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする。同様に,被告医薬 品は,手術により生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする。 これらの線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神 経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 15 よって,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症 に伴う疼痛を用途とする。 これらの線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神 経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 15 よって,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症に伴う疼痛」は, 本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に 該当する。 本件カラゲニン試験,本件術後疼痛試験で確かめられた痛覚過敏や接触 異痛の痛みは,原告の定義に照らせば侵害受容性疼痛には当たらないも 20 のの,仮にこれらの痛みが「侵害受容性疼痛」であるとされた場合にも, 次のとおり本件医薬品は本件発明3の技術的範囲に属する。 炎症や手術では神経細胞の感作を生ずるし,炎症により神経の病変や疾 患を生じ,手術により神経を損傷し,神経の病変や疾患,損傷により,神 経細胞の感作を生ずる。さらに,神経の病変や疾患,神経損傷により,組 25 織の炎症や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生ずる。そし 30 て,これらは全て神経障害性疼痛を生ずる。そのため,神経障害性疼痛は, 侵害受容性疼痛との混合性疼痛とされている。 また,線維筋痛症は,炎症性疾患や手術により生じ,更に炎症を生ずる 疾患であるので,線維筋痛症に伴う疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼 痛である。 5 痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受 容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みで あり,両者を区別できない。 先発医薬品は,適応症に用いられることにより,このような混合性疼痛 を生ずる患者の痛みの処置に用いられて効果を奏しており,被告医薬品も, 10 同じ効能,効果を有するジェネリック医薬品として,混合性疼痛を生じた 患者の痛みの処置に用いられる。 前記の理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と侵害 を奏しており,被告医薬品も, 10 同じ効能,効果を有するジェネリック医薬品として,混合性疼痛を生じた 患者の痛みの処置に用いられる。 前記の理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と侵害受容性 疼痛との混合性疼痛,線維筋痛症と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置 を含むものである。 15 したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否 かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,神経障害性 疼痛,線維筋痛症を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明 3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 具体的には,①被告医薬品が適応症に用いられると,侵害受容性疼痛に 20 も効果を奏すること,②被告医薬品は,添付文書で侵害受容性疼痛とオー バーラップする痛みである神経障害性疼痛,線維筋痛症を効能,効果とし ていること,③先発医薬品が混合性疼痛に用いられており,被告もそれを 知って,ジェネリックとして被告医薬品を実施すること,などの理由によ り,被告医薬品の処置用途は,本件発明3の痛みに該当する。 25 被告は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が本件訂正により除外 31 されたと主張するが,次のとおり除外されていない。 原告は,本件訂正の前後にかかわらず,本件発明3の訂正の根拠となっ た本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験により,神経障害性疼痛や線維 筋痛症に伴う疼痛に対する本件発明3の化合物の効果を確認できること を一貫して主張していた。 5 本件訂正前になされた審決の予告は,本件カラゲニン試験や本件術後疼 痛試験により効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部 分について,発明の対象化合物の効果を確認することができないと述べて いるにすぎず,神経障害性疼痛や線維 件カラゲニン試験や本件術後疼 痛試験により効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部 分について,発明の対象化合物の効果を確認することができないと述べて いるにすぎず,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,本件カラ ゲニン試験や本件術後疼痛試験の痛みに含まれる部分についてまで,発明 10 の対象化合物の効果を確認することができないとは判断していないし,本 件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験の痛みが,神経障害性疼痛や線維筋 痛症に伴う疼痛と重複しないという判断もしていない。 よって,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に 伴う疼痛が除外されることはない。 15 (被告の主張) ⅰ 本件特許請求の範囲の記載の文言からすると,本件発明3の技術的範 囲は侵害受容性疼痛を対象とするものに限定される。 本件発明3における「炎症を原因とする痛み」という用語及び「手術 を原因とする痛み」という用語について,原告は,「炎症」又は「手術」 20 を「原因」とする限り,直接的な痛みにとどまらず,間接的,さらには その後相当の時間が経過し別の機序が加わった結果の痛みをも含む旨 主張する。 しかし,これらの用語の意味するところは本件明細書の詳細な説明の 記載に拠らざるを得ないところ,本件明細書にはこれらの用語それ自体 25 の記載は存在しない。「炎症を原因とする痛み」という用語及び「手術を 32 原因とする痛み」という用語に関連する事項で本件明細書に記載されて いるのは,本件発明4でも用いられている「炎症性疼痛」という用語及 び「術後疼痛」という用語のみである。 そうすると,「炎症を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」と の用語の意義は,それぞれ,「炎症性疼痛」,「術後疼痛」と同義と解する 5 ほかはない。 他方,これらの用 いう用語のみである。 そうすると,「炎症を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」と の用語の意義は,それぞれ,「炎症性疼痛」,「術後疼痛」と同義と解する 5 ほかはない。 他方,これらの用語の通常の意義からは,「神経系の損傷(病変や疾 患)」や「線維筋痛症」を意味することは困難であり,その示唆もない。 したがって,これらの本件発明3の用語自体からも,当業者であれば, 本件発明3が,侵害受容性疼痛に係るものに限定されていると理解する。 10 ⅱ 次のとおり,本件明細書の実施例における記載からも,本件発明3が 対象とする痛みは侵害受容性疼痛に限定される。 本件明細書には,「炎症による痛覚過敏」に係る本件カラゲニン試験 は「侵害受容性閾値」の低下を見るものであることが明記されている。 また,接触異痛に係る本件術後疼痛試験についても「侵害受容応答」を 15 見るものであることが本件明細書に明記されている。これらによれば, 本件明細書には,これらの試験が侵害受容性疼痛に係るものであること が明確に記載されている。このことは,「炎症を原因とする痛み」や「手 術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛にほかならないことを意味す る。 20 ⅲ 次のとおり,(炎症を原因とする痛みに係る)カラゲニン試験,(手術 を原因とする痛みに係る)術後疼痛試験の試験が「侵害受容性疼痛」に 係るものであることは,いわば技術常識である。 カラゲニン試験については,例えば,「皮膚の痛覚過敏における熱侵 害受容を測定するための新たな制度の高い方法」と題する論文(英文) 25 (甲44)において,カラゲニン試験を用いて,「神経障害性疼痛」には 33 効果がないとされているNSAID(インドメタシン)やモルヒネの効 果を確認したことが報告されている。すなわち,当該論文に係るカラゲ ニ いて,カラゲニン試験を用いて,「神経障害性疼痛」には 33 効果がないとされているNSAID(インドメタシン)やモルヒネの効 果を確認したことが報告されている。すなわち,当該論文に係るカラゲ ニン試験は「侵害受容性疼痛」に対する効果を見るためのものであるこ とが分かる。 また,術後疼痛は侵害受容性疼痛に含まれる痛みの典型例とされてお 5 り,術後疼痛試験が侵害受容性疼痛に係るものであることは技術常識で あったことが明らかである。「ウサギにおける近接した傷害による,及 び逆方向性の神経の刺激によるポリモーダル侵害受容器の感作の範囲」 と題する論文(英文)(甲58)においては,術後疼痛試験に該当する, ポリモーダル侵害受容器(痛みを伝える一次求心神経の1つ)の受容野 10 (神経支配領域)の外にある皮膚に障害を与える試験を行い,その結果, ポリモーダル侵害受容器の痛み閾値の低下(末梢性感作)が起こること を確認しており,この試験は,明らかに侵害受容器に対する作用を見る ための試験である。 これらの試験は,侵害受容性疼痛に係るものであり,ひいては,「炎症 15 を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」が,侵害受容性疼痛に ほかならないことを意味している。 「混合性疼痛」に関する原告の主張は,本件発明3は「混合性疼痛」 を技術的範囲に含むことから,「侵害受容性疼痛」のみならず,「神経 障害性疼痛」についても,その技術的範囲に含まれるとの主張と解さ 20 れる。 しかし,「混合性疼痛」という症状が仮に存在するとしても,侵害受 容性疼痛と神経障害性疼痛とが,いわば「併存」しているにすぎない。 そして,本件発明3は,飽くまで侵害受容性疼痛のみを技術的範囲 に含み,神経障害性疼痛を含まないというべきである。 25 したがって,「混合性疼痛」という症状が仮 わば「併存」しているにすぎない。 そして,本件発明3は,飽くまで侵害受容性疼痛のみを技術的範囲 に含み,神経障害性疼痛を含まないというべきである。 25 したがって,「混合性疼痛」という症状が仮に存在するとしても,被 34 告医薬品が本件発明3の技術的範囲に入ることはない。 原告は,本件訂正をして本件発明3とするに当たり,本件発明3が対象 とする痛みを,侵害受容性疼痛としか理解されない「炎症を原因とする痛 み」及び「手術を原因とする痛み」に限定し,神経障害性疼痛,線維筋痛 症に伴う疼痛が本件訂正により除外した。 5 本件明細書において,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び線維筋痛症 に伴う疼痛は,痛みの分類として区別されており,本件訂正の経過からも, 本件訂正により,本件発明3が,経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛に 係るものを除外し,侵害受容性疼痛に係るものに限定されたことが明瞭に されている。審決もこのような解釈を前提として訂正を認めたものである。 10 イ 被告医薬品は,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による 痛覚過敏若しくは接触異痛の処置における」(構成要件4B)鎮痛剤といえ るか(争点4-2) (原告の主張) 本件発明4の処置対象となる痛みは,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛 15 み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」である。 前記ア ⅰで主張したとおり,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験 は,神経細胞の感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢 性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛に対する効果を見たものであるこ とが明らかである。 20 よって,本件発明4の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与 するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛 の全てが含まれ 果を見たものであるこ とが明らかである。 20 よって,本件発明4の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与 するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛 の全てが含まれる。 そうすると,前記ア ⅱ,ⅲで主張したのと同様に,被告医薬品の効能, 効果である「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発 25 明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏 35 若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 また,前記ア で主張したとおり,本件カラゲニン試験,本件術後疼痛 試験で確かめられた痛覚過敏や接触異痛の痛みは,原告の定義に照らせ ば侵害受容性疼痛には当たらないものの,仮にこれらの痛みが侵害受容 性疼痛であるとされた場合にも,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と 5 侵害受容性疼痛との混合性疼痛,線維筋痛症と侵害受容性疼痛との混合 性疼痛の処置を含むものであるから,本件発明4の技術的範囲が侵害受 容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義と は無関係に,神経障害性疼痛,線維筋痛症を効能,効果とする被告医薬品 の処置用途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術 10 後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 被告は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が本件訂正により除外 されたと主張するが,本件発明4に関し,原告は本件訂正において,訂正 前の請求項4から「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」との記載を 削除したが,前記 アで述べたとおり,本件発明4の痛みは相互に重複す 15 るものであるから,このような本件訂正により,神経障害性疼痛や線維筋 痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない。 (被告の主張) ⅰ 次のとおり 4の痛みは相互に重複す 15 るものであるから,このような本件訂正により,神経障害性疼痛や線維筋 痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない。 (被告の主張) ⅰ 次のとおり,特許請求の範囲の文言からすると,本件発明4の技術的 範囲は侵害受容性疼痛を対象とするものに限定される。 20 本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」における「炎症性 疼痛」との用語や,術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」 における「術後疼痛」との用語は,いずれも「炎症」又は「手術」とい う「侵害受容器」に作用する「原因」を意味するものである。他方,こ れらの用語の通常の意義からは,「神経系の損傷(病変や疾患)」や「線 25 維筋痛症」を意味することは困難であり,その示唆もされない。 36 また,痛覚過敏や接触異痛は,その原因により,侵害受容性疼痛であ ることもあれば,神経障害性疼痛であることもあるが,「炎症性疼痛に よる痛覚過敏の痛み」や「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の 痛み」は「侵害受容性疼痛」である「炎症性疼痛」や「術後疼痛」を原 因とするものであるから,侵害受容性疼痛である。 5 したがって,これらの本件発明4の用語自体からも,当業者であれば, 本件発明4が既に侵害受容性疼痛に係るものに限定されていると理解 するというべきである。 ⅱ 前記ア ⅱで主張したとおり,本件明細書の実施例における記載から も,本件発明4が対象とする痛みは侵害受容性疼痛に限定される。 10 ⅲ また,前記ア ⅲで主張したとおり,カラゲニン試験,術後疼痛試験 の試験が侵害受容性疼痛に係るものであることは,技術常識である。 ⅳ 本件医薬品は侵害受容性疼痛を対象とするものではないから,本件発 明4の技術的範囲に入らない。 混合性疼痛に関する 術後疼痛試験 の試験が侵害受容性疼痛に係るものであることは,技術常識である。 ⅳ 本件医薬品は侵害受容性疼痛を対象とするものではないから,本件発 明4の技術的範囲に入らない。 混合性疼痛に関する被告の主張は,前記ア で主張したとおりである。 15 原告は,本件訂正をして本件発明4とするに当たり,本件訂正前の請求 項4において明示されていた「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」 を削除し,侵害受容性疼痛としか理解され難い「炎症性疼痛」及び「術後 疼痛」によるものに限定した。 上記の本件訂正の経過からも,本件明細書において,侵害受容性疼痛, 20 神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とは痛みの分類として区別さ れており,本件訂正により,本件発明4は,侵害受容性疼痛に係るものに 限定されたことが明瞭にされている。 ⑸ 被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものといえるか(争点5) 25 (原告の主張) 37 ア 均等侵害の第1要件に関し,本件発明3は,本件化合物を慢性疼痛である 炎症を原因とする痛み,手術を原因とする痛みの処置に用いることを本質的 部分としており,処置対象となる痛みが侵害受容性疼痛であるか,神経障害 性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛であるかは,本質的部分ではない。本件出願 日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対しては有効な治療薬が 5 なく,本件化合物を慢性疼痛の処置に用いることも知られていなかったから, 技術常識を参酌して,本件発明3の本質的部分を侵害受容性疼痛に限定すべ き事情もない。 イ 均等侵害の第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症 に伴う疼痛の処置に用いても効果を奏する。 10 ウ 均等侵害の第3要件に関し,本件発明3の化合物を神経障害性疼痛や線維 筋痛症 均等侵害の第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症 に伴う疼痛の処置に用いても効果を奏する。 10 ウ 均等侵害の第3要件に関し,本件発明3の化合物を神経障害性疼痛や線維 筋痛症に伴う疼痛の処置に用いることは,被告医薬品の実施時において容易 想到である。 エ 均等侵害の第4要件に関し,本件出願日当時,本件発明3の化合物を痛み の処置に用いることは全く知られておらず,出願日当時の公知技術から容易 15 に推考できない。 オ 均等侵害の第5要件に関し,前記 ア で主張したとおり,本件発明3の 技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されること はない。 カ よって,仮に本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とす 20 る痛み」が侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性 疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,炎症や手術を原因として生ずる痛みに ついては,本件発明3の均等の範囲に含まれる。 (被告の主張) 均等侵害の第1要件について,医薬品の用途発明の本質的部分は,まさしく 25 その「用途」にある。文言侵害の有無において論じたとおり,本件発明3の「用 38 途」である「炎症を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」は,侵害 受容性疼痛としか理解されない。他方,被告医薬品の「用途」は,侵害受容性 疼痛とは「原因」において異なるとされる「神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛 みの処置」である。したがって,被告医薬品は,本件発明3とはその本質的部 分において異なるというべきであり,本件発明3とは均等なものと認められる 5 余地はない。 ⑹ 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものといえるか(争点6) (原告の主張) 前記 で主張したのと同様の理由で,仮に本 のと認められる 5 余地はない。 ⑹ 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものといえるか(争点6) (原告の主張) 前記 で主張したのと同様の理由で,仮に本件発明4の「炎症性疼痛による 10 痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」が侵 害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛 症に伴う疼痛における痛覚過敏や接触異痛のうち,炎症性疼痛や術後疼痛につ いては,本件発明4の均等の範囲に含まれる。 (被告の主張) 15 本件発明4の「用途」である「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び「術 後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は,「侵害受容性疼痛」としか 理解されない。他方,被告医薬品の「用途」は,侵害受容性疼痛とは「原因」 において異なるとされる「神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛みの処置」である。 したがって,被告医薬品は,本件発明4とはその本質的部分において異なると 20 いうべきであり,本件発明4とは均等なものと認められる余地はない。 ⑺ 本件特許3,4の延長登録には無効理由があるか(争点7) (被告の主張) 本件特許3,4との関係において,特許権の存続期間の本件延長登録に係る 「処分の対象となった物について特定された用途」は,「帯状疱疹後神経痛」, 25 「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼 39 痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛, 線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」である。これらは,いずれも神経障害性疼痛又 は線維筋痛症に伴う疼痛に該当し,侵害受容性疼痛とは原因を異にするもので ある。 また,本件訂正が確定し,本件発明3,4はいずれも侵害受容性疼痛に係る 5 ものに限定 は,いずれも神経障害性疼痛又 は線維筋痛症に伴う疼痛に該当し,侵害受容性疼痛とは原因を異にするもので ある。 また,本件訂正が確定し,本件発明3,4はいずれも侵害受容性疼痛に係る 5 ものに限定された。その結果,本件延長登録に係る「処分の対象となった物に ついて特定された用途」は,いずれも「その特許発明の実施について・・・政 令で定めるものを受けることが必要であるもの」には当たらず,延長登録の要 件を満たさない。 したがって,本件延長登録は延長登録無効審判により無効とされるべきもの 10 であり,当該延長登録に係る特許権の行使は制限されるべきものである。本件 特許権は,本件特許の出願から20年の平成29年7月16日の経過をもって 消滅した。 なお,本件発明3,4はいずれも「侵害受容性疼痛」に係るものに限定され, 他方,延長登録された特許権の効力の範囲は,「神経障害性疼痛」及び「線維筋 15 痛症に伴う疼痛」に係る治療剤に限られるから,本件発明3,4の技術的範囲 と,延長登録された特許権の効力の範囲とは重ならない(特許法68条の2)。 本件発明3,4には,その効能・効果を「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症 に伴う疼痛」とする被告医薬品は含まれない。 (原告の主張) 20 前記 ~ において述べたとおり,本件発明3,4は,被告医薬品をその技 術的範囲又は均等の範囲に含むものである。処分対象物は,被告医薬品と効能, 効果が同一であるから,被告医薬品と同様の理由により,処分対象物は,本件 発明3,4の技術的範囲又は均等の範囲に含まれる。 したがって,本件延長登録は,本件発明3,4の実施に政令処分を受けるこ 25 とが必要であった場合の出願に対してされたものであり,延長登録無効理由は 40 ない。 第3 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載等 本 は,本件発明3,4の実施に政令処分を受けるこ 25 とが必要であった場合の出願に対してされたものであり,延長登録無効理由は 40 ない。 第3 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載等 本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。また,本件明細書には,別紙図 面のとおりの図面がある。 5 そして,以下の本件明細書の記載によれば,本件発明1ないし4及び本件訂正 発明1,2は,一定の痛みに対して,従来の鎮痛剤では不十分な効果しかなかっ たり副作用により処置が不完全であったりしたところ,てんかん等の中枢神経系 疾患に対する抗発作療法に有用であるとして知られていた化合物が,反復使用に よる耐性やモルヒネとの交叉耐性が生ずることなく,それらの痛みの処置に対す 10 る鎮痛剤として使用することができることを見出した医薬の用途発明であると 認められる。 発明の背景 本発明は,痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物とし てのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。 15 これらの化合物の使用の利点には,反復使用により耐性を生じないことまたは モルヒネとこれらの化合物の間に交叉耐性がないことの発見が包含される。 本発明の化合物は,てんかん,ハンチントン舞踏病,大脳虚血,パーキンソ ン病,遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対する抗発作 療法に有用な既知の薬物である。また,これらの化合物は抗うつ剤,抗不安剤 20 および抗精神病剤としても使用できることが示唆されている。・・・ 発明の概要 本発明は,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処 置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものでは ないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛 ,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処 置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものでは ないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急 25 性庖疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢 41 捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想 肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が 包含される。 化合物は式I 5 (式中,R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル,フェニルま たは炭素原子3~6個のシクロアルキルであり,R2は水素またはメチルであ り,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬 的に許容される塩である。・・・ ア 発明の詳述 10 本発明は,上記式Iの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤と しての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の 痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛 が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって 起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘル 15 ペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断, および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた,慢性アル コール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビ タミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経 傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 20 上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非 ステロイド性抗炎症薬(NSAID) には,神経 傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 20 上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非 ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限 界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。・・・ イ ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン,CI-1008,および 42 3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果 雄性Sprague-Dawley ラット(70~90g)を試験前に少なくとも15 分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴 化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマ リン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠 5 表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から,注射し た後肢のリッキング/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリ ッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)およ び後期相(10~45分)について示す。 ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100m 10 g/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は,ホルマリン応答の後期 相におけるリッキング/バイティング行動を,それぞれ最小有効用量(MED) 30および10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしな がら,いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3- アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kg 15 で後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。 ウ ギャバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果 試験日 -メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kg 15 で後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。 ウ ギャバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果 試験日にラット(雄性Sprague-Dawley 70~90g)に2~3のベー スライン測定を行ったのち,2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面 に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後,動物に試験薬物を投与した。 20 機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。 A.機械的痛覚過敏 侵害受容圧閾値を,ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(Ugo Basile)を用いて 測定した。足蹠への傷害を防止するため,250gのカットオフ点を使用し た。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下 25 させ,痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg,皮下)は痛覚過 43 敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/k g,皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg,皮下)は用量依存性に痛覚 過敏に拮抗し,MED はそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。 B.熱痛覚過敏 ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreaves モデル 5 を用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2 時間後に,動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10~1 00mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は,カラゲニン投 与後2.5時間に皮下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後 に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の有 10 意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンお 下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後 に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の有 10 意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよ びCI-1008 は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MED は30および3mg/ kgを示した(図3)。 これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の処置に有 効であることを示す。 15 エ Bennett G.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害 を生ずるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988;33:87-107)。 Kim S.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって 生ずる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain,1990;50:355-363)。 20 オ 術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennan ら,1996)。それに は,後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日 間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデ ルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては,本 発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3 25 -イソブチルギャバの活性を調べ,モルヒネの場合と比較した。 44 ⅰ 方法 Bantin and Kingmen(Hull ,U.K.)から入手した雄性Sprague- Dawley ラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術 の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12時間明暗サイクル (07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物 5 は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロー に使用した。手術 の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12時間明暗サイクル (07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物 5 は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロースから構成される “Aqua-sorb"床(Beta Medical and Scientific,Sale,U.K.)上に対で収容し た。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。 ⅱ 手術 動物は2%イソフルオランおよび1.4O2/NO2混合物で麻酔し, 10 鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を5 0%エタノールで準備して踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に 皮膚および筋膜を通して1-cm縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によっ て持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の 針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよび 15 オーロマイシン末で被覆した。手術後,すべての動物において感染の徴 候は認められず,創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48 時間後に抜糸した。 ⅲ 熱痛覚過敏の評価 熱痛覚過敏はラット足蹠試験(Ugo Basile,Italy)を用い,Hargreaves 20 らの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜し たガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に 順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き,後肢足蹠に焦点を 合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため, 自動カットオフ点を22.5秒に設定した。各動物の両後肢について2 25 ~3回PWL を測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。装 45 置は約10秒のPWL が得られるように検量した。PWL(秒)は上述の 5秒に設定した。各動物の両後肢について2 25 ~3回PWL を測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。装 45 置は約10秒のPWL が得られるように検量した。PWL(秒)は上述の プロトコールに従い術後2,24,48および72時間に再評価した。 ⅳ 接触異痛の評価 接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛 (Stoelting,Illinois,USA)を用いて測定した。動物は,針金の網の底の 5 ケージに収容して,足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前 に,この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に, 順次力を増大させて(0.7,1.2,1.5,2,3.6,5.5, 8.5,11.8,15.1,および29g)フライの毛で触れ,後肢 の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または 10 反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば,後肢 を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで 再試験した。したがって,後肢を上げて反応が誘発される最高の力29 gがカットオフ点となった。各動物を,この様式で両後肢について試験 した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラム 15 で記録した。化合物を手術前に投与する場合には,接触痛覚過敏,接触 異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し, 各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。 術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には,接触異痛 および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。 20 ⅴ 統計 熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVA に付し, ついでDunnett's t-検定を実施した。フライの毛で得られた接 敏の検査に別個の群の動物を使用した。 20 ⅴ 統計 熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVA に付し, ついでDunnett's t-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛 の結果は個別のMann Whitney t-検定に付した。 ⅵ 結果 25 ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれ 46 の侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し,3日間維持された。 実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維持した。 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバお よびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果 手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg 5 /kg,皮下)は,用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し,MED は3 0mg/kgであった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/ kgは痛覚過敏の反応を24時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソ ブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg, 皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され,MED は30mg/kgであった 10 (図4c)。30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日 まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒネの投与は,用量 依存性(1~6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し,MED は 1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4 a)。 15 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバお よびモルヒネの接触異痛に対する効果 接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと 同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間 隔を置いた。ギャバペンチンは, びモルヒネの接触異痛に対する効果 接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと 同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間 隔を置いた。ギャバペンチンは,用量依存性に接触異痛の発生を防止し, 20 MED は10mg/kgであった。ギャバペンチン10および30mg/ kgの用量はそれぞれ25および49時間有効であった(図5b)。S- (+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg) に接触異痛の発生を遮断し,MED は10mg/kgであった(図5c)。 この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチ 25 ルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1 47 ~6mg/kg)は,6mg/kgの最大用量で術後3時間,接触異痛の 発生を防止したのみであった(図5a)。 手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛お よび熱痛覚過敏に対する効果 接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達 5 し,以後5~6時間維持された。30mg/kgのS-(+)-3-イソブ チルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過 敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に,侵害受容の両応答は いずれも対照レベルに復し,これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の 消失を示す(図6)。 10 ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは,すべての実験 で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評 点におけるPWL に影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/k g,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データ は示していない)。 15 ここに たは接触異痛評 点におけるPWL に影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/k g,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データ は示していない)。 15 ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛 覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見 は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵 害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し,モル ヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに, 20 S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発およ び維持を完全に遮断した。 2 本件出願日当時の知見,技術常識,用語の意味等 本件出願日当時の痛みに関する用語の意味や技術常識,知見等は,以下のとお りであった。 25 神経細胞の感作 48 ア 定義 文献 「Sensitization 感作 正常な入力に対する侵害受容ニューロンの亢進した反応性,および [または]通常閾値以下の入力に対して反応する状態。」(日本ペインクリニ 5 ック学会用語委員会「国際疼痛学会 痛み用語 2011版リスト(日本 ペインクリニック学会用語委員会翻訳)」,最終アップデート平成24年5 月22日。乙19) 前記 は,本件出願日より後の文献に記載された定義であるが,その文 献の性質や本件出願日に異なった定義が用いられていたことをうかがわせ 10 る証拠はなく,本件出願日当時,神経細胞の感作とは,「正常な入力に対す る侵害受容ニューロンの亢進した反応性,および[または]通常閾値以下の 入力に対して反応する状態」をいうものと認められる。 イ 神経損傷による感作について 文献 15 「急性あるいは短期間に る侵害受容ニューロンの亢進した反応性,および[または]通常閾値以下の 入力に対して反応する状態」をいうものと認められる。 イ 神経損傷による感作について 文献 15 「急性あるいは短期間に続く状態と比較して,持続したあるいは慢性的 な痛みに関連する多くの問題の一つは,長く持続する痛みのある種の形態 を緩和する難しさにあり,これは特に神経損傷に関連する形態についてで ある[4]。一般的には,これらの問題は傷害による他の結果に加えて,末 梢および中枢神経の過敏によって生じ得る。動物についての様々な研究は, 20 末梢の侵害受容線維の感作が発生し得ること(参照6を見よ)を明らかに 示し,さらに最近では,マイナー入力に対する後角の侵害受容的システム の反応を顕著に促進する,急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が 蓄積している[9,24,33,34,37]。このようなメカニズムは, 痛みを増幅し,持続する痛みの状態の問題に貢献する可能性がある。」 25 (Brain Research 518 (1990(平成2)発行)p.218-226。甲46) 49 前記 によれば,本件出願日当時,神経細胞の物理的な損傷によっても 神経細胞の感作が生ずることがあることが知られていたことが認められ る。 もっとも,神経細胞の物理的な損傷が生じたときには,必ず神経細胞の 感作が生じていたこと,神経細胞の物理的な損傷が原因で痛みを感じると 5 きに必ず神経細胞の感作が生じていたという技術常識があったことを認 めるに足りる証拠はない。 侵害受容性疼痛 ア 文献 「侵害受容性疼痛は,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による 10 痛みであり,その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると 考えられる。」(内野治人編著「病態生理よりみた内科学」(第3版) 害受容性疼痛は,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による 10 痛みであり,その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると 考えられる。」(内野治人編著「病態生理よりみた内科学」(第3版),平 成8年8 月1 日発行,p.652。甲79,乙1) 「(1)侵害受容性疼痛 組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内 15 因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生す る痛みが侵害受容性疼痛である。この侵害レセプターの過剰な興奮が,痛 覚求心系を興奮させて,情動反応を伴う痛みとなる。したがって,刺激と なる組織障害に対処し,抗炎症療法を施行し,それらが効果をみる前には, モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能である。」(坪川孝志ら編 20 「最新脳神経外科学」平成8年5月25日発行,p. 200。甲80) 「侵害受容性-侵害受容器の活性化によって発生する痛み。侵害受容器 は,中枢神経系を除くすべての組織に存在する。痛みは皮膚や内臓の求心 性神経線維の化学的,熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し, 急性又は慢性である(体性痛,癌性疼痛,術後疼痛)。」(David Borsook ら 25 編「The Massachusetts General Hospital Handbook of Pain Management」 50 1996(平成8)年発行,p.32-34。乙3) イ 前記アによれば,侵害受容性疼痛とは,「組織損傷による機械的な侵害受 容器への過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質が侵害受容 器を刺激し,その活性化によって発生する痛み」であり,本件出願日当時, その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられていた 5 こと,急性又は慢性の痛みであることが認められ が侵害受容 器を刺激し,その活性化によって発生する痛み」であり,本件出願日当時, その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられていた 5 こと,急性又は慢性の痛みであることが認められる。 神経障害性疼痛 ア 文献 「痛みのタイプ(定義) ・・・・・ 10 神経障害性-末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み。進 行中の疾病がなくても痛みが持続する(例えば,糖尿病性神経障害)」 (David Borsook ら編「The Massachusetts General Hospital Handbook of Pain Management」1996年(平成8年)発行p. 32-34。乙3) 「神経障害性疼痛 神経系の一次的な損傷,あるいはその機能異常が原 15 因となって生じた疼痛」(Harold Merskey ら編「CLASSIFICATION OF CHRONIC PAIN」(Second Edition)1994(平成6)年発行,p.212 甲 77,乙8) イ 前記アによれば,本件出願日当時,神経障害性疼痛に神経系の一次的な損 傷に起因する痛みが含まれることは技術常識であったと認めることができ 20 る。他方で,神経障害性疼痛に,神経系の機能異常が原因となって生じた疼 痛を含む見解もあったことが認められる。 線維筋痛症 ア 文献 「線維筋痛症は,慢性的な全身性筋肉痛,数か所における圧痛覚過敏(圧 25 痛点),筋硬直,睡眠障害及び疲労からなる(1)。米国リウマチ学会(A 51 CR)が提案した線維筋痛症(FM)の分類基準では,FMは,痛覚過敏 を伴う慢性疼痛症候群に分類されていた。(2)」(Scand J Rheumatol 1995 (平成7)発行 24:p.360-365。甲26) した線維筋痛症(FM)の分類基準では,FMは,痛覚過敏 を伴う慢性疼痛症候群に分類されていた。(2)」(Scand J Rheumatol 1995 (平成7)発行 24:p.360-365。甲26) 「FMの疼痛は侵害受容性の痛みではなく,部位の特定されない神経障 害性ないし中枢性疼痛とされており,いわゆる中枢性感作が成立し,中枢 5 感作症候群(central sensitization syndrome: CSS)のひとつである。」 (一般社団法人日本線維筋痛症学会,国立研究開発法人日本医療研究開 発機構線維筋痛症研究班編「線維筋痛症診療ガイドライン2017」,平 成29年10月20日発行p10 乙18) イ 前記アから,少なくも平成29年には,線維筋痛症は侵害受容性の痛みで 10 はないことが技術常識となっていたと認められる。 痛覚過敏 ア 定義 本件出願日当時,痛覚過敏とは,「痛覚過敏 通常は痛い刺激に対する増 大した応答 痛覚過敏は,閾値を超えた刺激への増加した応答を反映す 15 る。・・・現在の証拠は,痛覚過敏が末梢又は中枢の感作あるいはその両方に 伴う侵害受容系の混乱の結果であることを示唆している。」(Harold Merskey ら編「CLASSIFICATION OF CHRONIC PAIN」(Second Edition)1994(平 成6)年発行p.211 甲77,乙8)と認識されていたと認められる。 イ 痛覚過敏の機序等についての文献 20 「末梢組織の損傷に続いて生ずる痛覚過敏は,損傷付近の一次求心性侵 害受容器の感受性の増大(末梢性感作)[1,2,23],および,脊髄に おけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる[35,3 8]。中枢性感作は侵害受容の求心性入力によって引き起こされ[30,4 1] 受性の増大(末梢性感作)[1,2,23],および,脊髄に おけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる[35,3 8]。中枢性感作は侵害受容の求心性入力によって引き起こされ[30,4 1],閾値の長期的減少,範囲の拡大,後角ニューロンの皮膚受容野の応答 25 性の増大[3,6,14,25,40]となって現れる。」(Pain 44 (1991(平 52 成3)発行p.293-299 甲39) 「末梢神経の病変に続いて,痛覚過敏や接触異痛,そして自発痛の状態 が発生する。前述のとおり,損傷した神経で生ずるこのような継続的な繰 り返しの活動は,定常的な疼痛状態だけではなく,後角の感作をも生じさ せうる。」(Steven D. Waldman ら編「Interventional Pain Management」, 5 1996(平成8)年発行 p.19-32 甲86) 「侵害刺激への増加した感受性(痛覚過敏)及び通常は痛くない刺激に対 する痛みの知覚(異痛)によって特徴付けられる神経障害性疼痛は,治療 が難しい。行動的に定義される痛覚過敏や異痛は,末梢の神経障害や組織 の炎症などを含む,様々な亜急性の動物モデルで生ずる。モデルは急増し 10 ているけれども,神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる痛覚過 敏の脊髄での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデ ルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊髄でのN-メチル -Dアスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存して痛覚過敏を 生ずるという強い証拠がある。そのため,NMDAレセプターアンタゴニ 15 ストのクモ膜下腔内注射は,これらのモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元 に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔 内注射により長く続く神経障害性疼 Aレセプターアンタゴニ 15 ストのクモ膜下腔内注射は,これらのモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元 に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔 内注射により長く続く神経障害性疼痛の患者の痛覚過敏や異痛が減少す るという事実は,これらのモデルが臨床と関係することを示す。」 (Anesthesiology V83, No.5 (1995(平成7))発行p.1046-54 甲146) 20 「前記の疼痛モデル類を用いて,系統的な研究が実施されている。急性, 痛覚過敏及び異常痛症の疼痛状態に対する,さまざまな薬剤類の効果が表 3-3(判決注:別紙表3-3)に示されている。」(Steven D. Waldman ら編「Interventional Pain Management」1996(平成8)年発行,p.19- 32 甲86,乙6) 25 ウ 前記ア,イ , によれば,本件出願日当時,末梢神経又は(及び)中枢 53 神経の感作が生ずると,痛覚過敏が生じ得ること,痛覚過敏の症状が現れる ときには,末梢神経又は(及び)中枢神経の感作または機能異常が生じてい ることが有力な仮説として論じられていたことが認められる。しかし,本件 出願日当時,あらゆる痛覚過敏について,これが,末梢神経又は(及び)中 枢神経の感作によって生じているとの技術常識が確立していたことまでを 5 認めるに足りる証拠はない。 また前記イ によれば,神経損傷によるものも炎症反応によるものも問わ ず,痛覚過敏でヒトが痛みを感じるまでの機序で,脊髄のNMDAレセプタ ーが関与していることが有力な仮説として議論されていたこと,このことを 前提に,NMDAレセプターアンタゴニストが前記両機序による痛覚過敏に 10 有効である可能性があると論じられていたことが認められる。しかし, いることが有力な仮説として議論されていたこと,このことを 前提に,NMDAレセプターアンタゴニストが前記両機序による痛覚過敏に 10 有効である可能性があると論じられていたことが認められる。しかし,本件 出願日当時,NMDAレセプターアンタゴニストがあらゆる痛覚過敏に有効 であるとの技術常識が確立していたことまでを認めるに足りる証拠はない。 前記イ によれば,本件出願日当時,痛覚過敏のモデルとして,少なくと もホルマリン試験後期相(後記 ア参照)とベネットモデル(座骨神経を4 15 つの結紮で緩やかに圧迫し,その結果生ずる熱痛覚過敏を観測するモデル。 外科的神経障害のモデルとされていた。甲86,乙6)があり,これらのモ デルの一方で有効な薬物が他方では必ずしも有効ではないことが知られて いたことが認められる。 原告は,前記イ について,シクロオキシゲナーゼ阻害薬に関する有効性 20 の差異が,同薬物がNSAIDとしてホルマリン試験の初期相に効果を奏す る結果であると主張するが,ホルマリン試験初期相にNSAIDが有効でな いことが知られていたことは後記 アのとおりであり,また,同文献で比較 対象とされたその他の薬物に関する反応性の違いについても両試験が異な る機序の痛覚過敏に対応していること以外に合理的な説明が可能であるこ 25 とを基礎付ける技術常識があったことを認めるに足りる証拠もない。 54 接触異痛 本件出願日当時,接触異痛は,「異痛症 通常痛みを引き起こさない刺激に よる痛み。」(Harold Merskey ら編「CLASSIFICATION OF CHRONIC PAIN」(Second Edition)1994(平成6)年発行 p.211 甲77,乙8)と認識されていたと 認められる。 5 術後疼痛 ア 本件出願日当時,術後 OF CHRONIC PAIN」(Second Edition)1994(平成6)年発行 p.211 甲77,乙8)と認識されていたと 認められる。 5 術後疼痛 ア 本件出願日当時,術後疼痛について,「術後疼痛 postoperative pain 切 開創の痛み,あるいは内蔵痛や術中体位の影響による関節・筋・腰痛などが 総合されてその原因となる。術後1~2日後まで特に痛みが激しいが,抜糸 まで続くものである。... 治療は,一般に麻薬性鎮痛薬,ペンタゾシンやブ 10 プレノルフィンなど非麻薬性鎮痛薬,解熱性鎮痛薬が投与される。」(後藤稠 ら編「最新医学大辞典」(第2版)平成9年7月20日(2版2刷)発行, p.231, 311, 645, 766, 825, 1569,なお,2版1刷は平成8年3月31日 発行である。甲78)と認識されていたと認められる。 イ 術後疼痛は,前記 ア で侵害受容性疼痛の一例として挙げられていたと 15 おり,侵害受容性疼痛の一種として分類されていた(乙3)。 ホルマリン試験 ア ホルマリン試験とは,ラット等の足にホルマリンの希釈液を注射し,当該 部位をラット等がなめたりかんだりする反応の頻度を時間経過に応じて観 察する試験である。ホルマリンによって注射部位に痛みが生じており,なめ 20 たりかんだりする頻度は痛みに依存していると考えられており,痛みや薬剤 の鎮痛作用に関する動物モデルとして開発された。従来の痛みに関する動物 モデルは,いずれも瞬間的な刺激に対するものであったが,ホルマリン試験 による刺激は30分以上持続するため,従前よりも持続する痛みに関するモ デルとして有用であると考えられていた。(甲2,43) 25 ホルマリン試験では,ホルマリンの注射後,ラット等の反応が,いったん 55 増大してピー するため,従前よりも持続する痛みに関するモ デルとして有用であると考えられていた。(甲2,43) 25 ホルマリン試験では,ホルマリンの注射後,ラット等の反応が,いったん 55 増大してピークに達した後,減少し(初期相),再度反応が増大してその後 減少する(後期相)ことが知られていた。この点につき,非ステロイド性抗 炎症薬(NSAID)であるインドメタシンは,後記相における反応を低下させ るが,初期相には効果を有しないことが知られていた。(甲45) また,ホルマリン試験の後期相は,痛覚過敏のモデルとしても知られてい 5 た。(甲64,乙6) イ 後期相におけるラット等の反応の機序について 文献 ⅰ 「ホルマリンへの応答は,初期相と後期相を示す。初期相は主に末梢 刺激によるC-線維活性化によって引き起こされるように思われるが, 10 後期相は,末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組み 合わせに依存するように思われる。これらの機能的変化は,初期段階 のC線維の集中砲火(barrage)によって開始されるようである。」 (Pain Review Article 51 (1992(平成4)年発行)p.5-17 甲45) ⅱ 「ホルマリン誘発性の行動の第1相は,ホルマリン誘発性のC線維の 15 一次求心性侵害受容器の活性化を反映しており,第2相は,第1相の間 の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感 作(中枢性感作)した結果か,炎症に誘発された一次求心性侵害受容器 の活性化の結果か,またはその両方の組合せ[2,15]であるとの仮説 が立てられてきた[2,5,13]。ホルマリンに対する行動反応の第2 20 相への末梢性侵害受容作用の寄与については,議論が引き起こされてい る。」(Neuroscience Letters との仮説 が立てられてきた[2,5,13]。ホルマリンに対する行動反応の第2 20 相への末梢性侵害受容作用の寄与については,議論が引き起こされてい る。」(Neuroscience Letters 208 (1996(平成8)年4月12日発 行) p.45-48。甲48) 前記 によれば,本件出願日当時,ホルマリン試験後期相の機序につい て,初期相により脊髄後角ニューロンが感作した結果か,炎症による侵害 25 受容器の活性化の結果か,またはその両方の組み合わせであるとの仮説 56 が有力に議論されていたが,そのいずれが原因であるかについては,技術 常識が確立していなかったと認められる。 カラゲニン試験 ア カラゲニン試験とは,ラット等にカラゲニンを注射し,その後,当該部位 付近に圧力等の機械的な刺激や熱等の刺激を加え,ラットが回避運動をした 5 ときの刺激の強度を観測する試験である。カラゲニンを投与すると,投与し ていない場合に比べて小さな刺激で回避行動をとる(行動をとる刺激の強度 の閾値が低下する)ため,皮膚の痛覚過敏のモデルとして知られていた。(甲 44。なお,当該定義からすると,この「痛覚過敏」には,「接触異痛」を含 む趣旨であると解される。)) 10 カラゲニンは,投与された場所で炎症反応を誘発し,その後,痛覚過敏が 生ずることが知られており,モルヒネ又はNSAID の一種であるインドメタシ ンを投与しておくと,ラットの前記回避反応が抑制されることが知られてい た。(甲44,56,57) イ カラゲニン試験における痛覚過敏の機序について 15 文献 「これらの結果は,末梢の炎症に続いて,脊髄の伝達及び調節システム の両方で機能的変化が発達することを実証した。μアゴニストであるモル ヒネで,オピオイドアゴニストの抗侵害受容 15 文献 「これらの結果は,末梢の炎症に続いて,脊髄の伝達及び調節システム の両方で機能的変化が発達することを実証した。μアゴニストであるモル ヒネで,オピオイドアゴニストの抗侵害受容性の変動が生じ,大きな変化 を示した。」「おそらく,炎症の発達は,脊髄ニューロンの過興奮における 20 閾下での変化に随伴し,これにより観察された変化が生ずる。遅いEPS Pの合計が,これらの細胞のワインドアップの基礎となることが示されて いる。(Thompson et al. 1990)。ESPSの構築といったイベントと,十 中八九IPSPとが,末梢の炎症に続いて,脊髄での伝達及び調節におけ るこれらの変化を生ずるもっともな説明となる。」(Pain 50 (1992(平 25 成4)年発行p.345-354 甲57) 57 前記 によれば,本件出願日当時,学術論文においてカラゲニン試験で は炎症反応に続いて脊髄の伝達及び調節システムの両方において機能的 変化が生じていることが報告されていたことが認められる。 術後疼痛試験 ア 術後疼痛試験とは,ラット等の皮膚を切開し,その後,フォン・フライの 5 毛を用いた機械的な刺激や熱等の刺激を加えて回避行動を観測する試験で あり,痛覚過敏のモデルとして知られていた。(甲15,58) イ 術後疼痛試験における痛覚過敏の機序について 文献等 ⅰ 「本モデル(判決注:術後疼痛モデル)により,手術による感作のメ 10 カニズムを理解し,ヒトの術後疼痛の新しい治療法を調査できるであ ろう。」(Pain 64 p.493 (1996 Mar.(Pain 64 (1996(平成8)年発 行)p.493-501 の書誌情報による))(甲15) ⅱ 「損傷部位での痛覚過敏の他に,それまでに損傷を受けていない皮膚 上にも痛 (1996 Mar.(Pain 64 (1996(平成8)年発 行)p.493-501 の書誌情報による))(甲15) ⅱ 「損傷部位での痛覚過敏の他に,それまでに損傷を受けていない皮膚 上にも痛みの領域がその周りに発生し(Lewis, 1935-36),これも多モ 15 ード侵害受容器感作に関連している可能性があるようである。 ここで述べられる実験は,多モード侵害受容器がそれらの受容野外で の侵害刺激によって感作され得るかどうかを立証するために行われた。 Perl ら(1974)は,広範囲の皮膚の傷害は損傷場所からいくらかの距離 の受容野を持つ多モード侵害受容器の自然発火をもたらし得ることを 20 指摘したが,感作の定量的な測定はなされなかった。」(J. Physiol. 297 (1979(昭和54)年発行) p.208 甲58) 前記 によれば,本件出願日までに,学術論文では,術後疼痛試験によ って神経細胞の感作が生ずることを前提として議論がされていたことが認 められる。 25 3 本件特許1,2には,無効理由2があるか(争点1-2)について 58 構成要件1B’は,「痛みの処置における」鎮痛剤と規定されており,その文 言上,対象とする痛みを限定していない。本件発明2も,本件発明1を引用し た上で, 「鎮痛剤」と規定するのみで,対象とする痛みの種類を限定していない。 本件明細書には,発明の概要において,「本発明は,以下の式Ⅰの化合物の, 痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。」と記載 5 し,続いて,「このような障害にはそれらに限定されるものではないが」と記載 した上で「炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛, 急性庖疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経 叢 な障害にはそれらに限定されるものではないが」と記載 した上で「炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛, 急性庖疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経 叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻 想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群 10 が包含される。」として,種々の痛みを列挙している。 これらの記載からすると,本件発明1,2が対象とする「痛み」には,種類 の限定がなく,少なくとも,本件明細書に包含するとして記載された上記の各 種の痛みを含むと認められる。 本件発明1,2が,本件明細書の発明の詳細に記載された発明であるといえ 15 るか検討すると,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合する か否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許 請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識でき る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時 20 の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもので あるか否かを検討して判断すべきものである。 本件発明1,2は,前記 で認定した痛みに対し,従前知られていた化合物 が,一定の痛みの処置に対する鎮痛剤として使用することができることを見出 した医薬の用途発明であると認められ,その課題を解決できると認識するため 25 には当業者が当該化合物の当該痛みに対する有効性を認識できる必要がある。 59 本件出願日において,前記2のとおり,痛みには様々な種類があること,痛み の種類により痛みの発生する機序が異なることが知られていた。そして,本件 明細書に する有効性を認識できる必要がある。 59 本件出願日において,前記2のとおり,痛みには様々な種類があること,痛み の種類により痛みの発生する機序が異なることが知られていた。そして,本件 明細書において,本件発明1,2で規定されている化合物に属する化合物の痛 みに対する有効性を確認した試験は,本件3試験のみであり,他に,その化合 物について,本件明細書に包含するとして記載された各種の痛みに効果がある 5 ことを裏付ける記載はない。そして,本件3試験でされたホルマリン試験,カ ラゲニン試験,術後疼痛試験について,前記2 ~⑽のとおりのことが知られ ていたが,このことを考慮しても,痛みには様々な種類がある状況で,本件3 試験において効果が示された場合に,本件明細書で示された各種の痛みについ て効果があったと認識することができたと認めることはできないし,また,上 10 記を認識することができたとする技術常識があったことを認めるに足りる証 拠もない。 原告は,本件発明1,2が対象とする痛みは慢性疼痛であるとした上で,あ らゆる慢性疼痛は神経細胞の感作によって生ずること,当業者は本件明細書の 記載によって,試験化合物が神経細胞の感作によって生ずる痛みに効果を奏す 15 ることを理解できることなどを主張する。 しかし,あらゆる慢性疼痛が神経細胞の感作によって生ずることを認めるに 足りる証拠はない。(なお,侵害受容性疼痛は,急性疼痛にも,慢性疼痛にもな り得るが,少なくとも侵害受容性疼痛は神経細胞の感作を機序とするものでは ない(前記2 イ)。) 20 また,原告は,慢性疼痛は,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神 経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとした上で,本件明細 書の各記載を指摘するなどした上で,本件発明1,2で規定されている化合物 が神 疼痛は,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神 経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとした上で,本件明細 書の各記載を指摘するなどした上で,本件発明1,2で規定されている化合物 が神経細胞の感作に作用することにより直接効果を奏すると理解することが できると主張する。 25 しかし,あらゆる慢性疼痛が痛覚過敏や接触異痛の痛みであることを認める 60 に足りる証拠はない(なお,侵害受容性疼痛には,慢性疼痛となるものがある (前記2 イ)が,このとき必ず痛覚過敏又は接触異痛を伴うことを認めるに 足りる証拠はない。)から,原告の上記主張は,本件発明1,2が,本件明細書 の発明の詳細に記載された発明であるかの点においては,前提を欠き,採用す ることができない。なお,全ての痛覚過敏や接触異痛の痛みに対して本件発明 5 1,2で規定されている化合物が効果を奏することが本件明細書に記載されて いるともいえないことは,後記4で検討するとおりである。 ⑷ これらによれば,本件発明1,2は発明の詳細な説明の記載により当業者が 当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえず,また, 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識でき 10 る範囲のものであるともいえない。よって,本件発明1,2は本件明細書の発 明の詳細に記載された発明であるとはいえないから(平成14年法律第24号 による改正前の特許法36条6項1号),本件発明1,2に係る特許には特許 無効審判により無効とされるべき事情があると認められる。 4 本件訂正発明2について(対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による, 15 痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B))とすることは新規事項の追加 でないか(争点2-2-2)について) 本件訂正発明2は,「神 て(対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による, 15 痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B))とすることは新規事項の追加 でないか(争点2-2-2)について) 本件訂正発明2は,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異 痛の痛み」を対象とする鎮痛剤である。 ここで,「神経障害」という文言や神経障害性疼痛についての当時の技術常 20 識や,「神経障害・・による,・・・痛み」という文言から,「神経障害・・ による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」とは,神経障害性疼痛に分類される痛 覚過敏及び接触異痛を意味するものと解される。 そうすると,本件訂正発明2は,神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏又は 接触異痛,並びに,線維筋痛症を原因とする痛覚過敏又は接触異痛に係るもの 25 であると認められる。 61 本件訂正発明2が,本件明細書に記載した事項の範囲内(特許法134条の 2第9項,126条5項)といえるか検討すると,本件明細書で本件訂正発明 2が規定する化合物に当たる化合物が効果を奏するものであることを具体的 に基礎付けているのは,本件3試験のみである。そこで,以下,本件出願日に おける技術常識を前提として,本件3試験によって,当該化合物が神経障害性 5 疼痛に分類される痛覚過敏及び接触異痛,並びに,線維筋痛症を原因とする痛 覚過敏及び接触異痛に効果を奏するものであるかを検討する。 本件ホルマリン試験について 前記2⑻アのとおり,本件出願日当時,ホルマリン試験の後期相は,痛覚過 敏のモデルとして知られていたことが認められる。 10 しかし,本件出願日当時,あらゆる痛覚過敏が神経障害性疼痛に分類される ものであるとの技術常識や,ホルマリン試験の後期相が神経障害性疼痛に分類 される痛覚過敏全般に係るモデルであるとの技術常識があった しかし,本件出願日当時,あらゆる痛覚過敏が神経障害性疼痛に分類される ものであるとの技術常識や,ホルマリン試験の後期相が神経障害性疼痛に分類 される痛覚過敏全般に係るモデルであるとの技術常識があったと認めるに足 りる証拠はない。同様に,本件出願日当時,線維筋痛症による痛覚過敏が神経 障害性疼痛に分類される痛覚過敏に当たること,ホルマリン試験の後期相が線 15 維筋痛症を原因とする痛覚過敏のモデルであることが技術常識であったと認 めるに足りる証拠もない(前記2参照)。 そうすると,本件出願日当時,当業者は,本件ホルマリン試験における有効 性が確認された化合物が,神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏,線維筋痛症 に分類される痛覚過敏の全般について,有効であると理解することはできない。 20 すなわち,本件出願日当時,神経障害性疼痛は,神経系の一次的損傷に起因 する痛みとされていたが,神経系の損傷に加えて,その機能異常による痛みも 神経障害性疼痛に含める見解もあった(前記2 )。そして,ホルマリン試験の 後期相のメカニズムについて,学術論文において,初期相により後角ニューロ ンが感作した結果か,炎症による侵害受容器の活性化の結果か,またはその両 25 方の組み合わせであるとの説が提唱されていた(同 イ )。ホルマリン試験 62 の後期相は,痛覚過敏に関するモデルであることが知られていたのであるから, 仮にホルマリン試験の後期相発現の機序が,脊髄後角ニューロンが感作した結 果であれば,これは神経系の機能異常による痛みに当たるといえる余地もあり, その場合には,ホルマリン試験の後期相における痛みの機序は,神経障害性疼 痛の範囲を広く解する前記の見解を前提にすると,神経障害性疼痛の少なくと 5 も一部の機序と同一であるといえる余地があった。 しかし,上記に記載し ン試験の後期相における痛みの機序は,神経障害性疼 痛の範囲を広く解する前記の見解を前提にすると,神経障害性疼痛の少なくと 5 も一部の機序と同一であるといえる余地があった。 しかし,上記に記載したホルマリン試験後期相の機序は,学術論文において, あり得る複数の機序として議論されているもののうちの一つにすぎず,そのう ちのどの機序が原因であるかについては,技術常識が確立していなかった(同 イ)。また,上記提唱されていた複数の機序の中には,ホルマリン試験後期相 10 のメカニズムが炎症による侵害受容器の活性化の結果(これは,炎症による, 侵害受容器の活性化による反応であるから,侵害受容性疼痛を意味するものと 解される。)であるとの説も含まれていた。仮にホルマリン試験後期相発現の 機序が炎症に誘発された侵害受容器の活性化によるものであった場合には,ホ ルマリン試験後期相は炎症による侵害受容性疼痛に係るモデルということに 15 なる。実際,ホルマリン試験後期相の反応には,抗炎症薬(炎症反応を抑える ことによって侵害受容性疼痛を緩和する薬物)であるインドメタシンが有効で あることが確認されていた(同 ア)。これらからすると,少なくとも,ホルマ リン試験後期相に効果があることのみをもって,当該化合物が侵害受容性疼痛 ではなく神経障害性疼痛に有効であるとはいえなかった。 20 さらに,神経障害性疼痛には,本件出願日当時,神経系の一次的損傷に起因 する痛みを含むことは技術常識であったといえるが(同 イ),ホルマリン試 験がこの類型の神経障害性疼痛にまで対応していると理解されていたと認め るに足りる証拠はない。本件出願日当時,神経細胞の損傷により神経細胞の感 作が起こり得ることは知られていたが(同 イ),このことをもって,神経細胞 25 に損傷が生じて痛みが生じているときには と認め るに足りる証拠はない。本件出願日当時,神経細胞の損傷により神経細胞の感 作が起こり得ることは知られていたが(同 イ),このことをもって,神経細胞 25 に損傷が生じて痛みが生じているときには,必ず神経細胞の感作が生じ,これ 63 が直接の原因で痛みが生じているとの技術常識があったとはいえないし(同 イ ),神経細胞に損傷が生じているときにも神経細胞の感作を緩和すること のみで痛みを抑えることができることが技術常識であったともいえない。かえ って,神経損傷による痛覚過敏の動物モデルとして知られていたベネットモデ ルやホルマリン試験後期相では,一方で有効とされた薬物が必ずしも他方で有 5 効とはならないことが知られており(同 ウ),当業者は,少なくともホルマリ ン試験後期相が,あらゆる神経障害性疼痛に対応したモデルであるとは理解し ていなかったと認められる。 カラゲニン試験 カラゲニン試験は,痛覚過敏のモデルとしても知られており(前記2 ア), 10 その際,末梢組織での炎症反応に続いて,脊髄の伝達及び調節システムの両方 で機能的変化が生じていることが報告されていた(前記2⑼イ)。このことか らすると,カラゲニン試験では,神経細胞の機能的障害がカラゲニン試験にお ける動物の反応に関与していると解することもできる。 しかし,痛覚過敏については,ホルマリン試験第2相で観察されるものとベ 15 ネットモデルで観察されるものとの少なくとも2種類のものがあることが報 告されていた(前記2 ウ)。そして,本件出願日当時,神経障害性疼痛がこ のうちの一方の痛覚過敏のみに対応する痛みであり,カルゲニン試験が当該痛 みのモデルとして機能する試験であるとの技術常識があったと認めるに足り る証拠もない。よって,当業者は,少なくともカラゲニン試験があらゆる神経 20 障 みに対応する痛みであり,カルゲニン試験が当該痛 みのモデルとして機能する試験であるとの技術常識があったと認めるに足り る証拠もない。よって,当業者は,少なくともカラゲニン試験があらゆる神経 20 障害性疼痛に対応したモデルであるとは理解していなかったというべきであ る。 他方,カラゲニン試験については,抗炎症薬であるインドメタシンの有効性 が確認されていた(前記2 ア)。抗炎症薬が神経障害性疼痛に有効とされて いなかったこと(甲74,弁論の全趣旨。なお,甲74は(2018(平成3 25 0年)年の治療ガイドラインではあるが,当時においても抗炎症薬の有効性は 64 確立していないとされていた。また,糖尿病性神経障害は神経障害性疼痛に分 類されていたが(同 ア ),アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬 は糖尿病性神経障害に対してほとんど治療効果がないとされていた(乙3)。), 抗炎症薬は炎症反応を抑える薬物であり,炎症反応を原因とする侵害受容性疼 痛に有効であるといえるが(同 参照),神経障害性疼痛の機序(同 参照)を 5 前提にすると,炎症反応の緩和が神経細胞の損傷,機能的変化に直接関連する ものとはいえず,同薬物が神経障害性疼痛を直接緩和することを想定すること は難しいといえることからしても,ある化合物がカラゲニン試験に有効である ことのみをもって,それが神経障害性疼痛に有効であるとは認められない。 そして,以上に述べたところと同様の理由で,カラゲニン試験が線維筋痛症 10 を原因とする痛覚過敏のモデルであることが技術常識であったことを認める に足りる証拠はない。 術後疼痛試験 術後疼痛試験は,痛覚過敏のモデルとしては知られていたものの(前記2 ア),それを超えて,その機序について技術常識が存在したとは認められない。 15 学術論文においては 拠はない。 術後疼痛試験 術後疼痛試験は,痛覚過敏のモデルとしては知られていたものの(前記2 ア),それを超えて,その機序について技術常識が存在したとは認められない。 15 学術論文においては,術後疼痛試験で痛覚過敏が生ずる機序として神経細胞の 感作の関与を前提に議論されていたことは認められるものの(同イ),本件出 願日当時,術後疼痛は侵害受容性疼痛に分類されていたのであって(同⑺イ), 術後疼痛による痛覚過敏が神経細胞の感作によって生ずることが技術常識で あったとまでは認められない。 20 なお,仮に術後疼痛試験を神経細胞の感作によって生ずる痛覚過敏のモデル であると理解したとしても,痛覚過敏については,ホルマリン試験後期相で観 察されるものとベネットモデルで観察されるものの少なくとも2種類のもの があることが報告されていた(前記2 )。そして,神経障害性疼痛がこのう ちの一方の痛覚過敏のみに対応する痛みであり,術後疼痛試験が当該痛みのモ 25 デルとして機能する試験であるとの技術常識があったと認めるに足りる証拠 65 もない。当業者は,少なくとも術後疼痛試験があらゆる神経障害性疼痛に対応 したモデルであると理解することはなかったというべきである。 同様に,術後疼痛試験が線維筋痛症を原因とする痛覚過敏のモデルであるこ とが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,本件3試験において,特定の化合物がそれぞれの試験単体に 5 有効であったことをもって,本件出願日当時,当業者が,あらゆる類型の神経 障害性疼痛に分類される痛覚過敏に有効であると理解することはできないし, これらの試験を組み合わせても,そのように理解することができるとの技術常 識があったとは認められない。線維筋痛症による痛みについても同様である。 本件明細書に,他に 効であると理解することはできないし, これらの試験を組み合わせても,そのように理解することができるとの技術常 識があったとは認められない。線維筋痛症による痛みについても同様である。 本件明細書に,他に,当業者が,あらゆる類型の神経障害性疼痛に分類される 10 痛覚過敏及び接触異痛,線維筋痛症による痛覚過敏及び接触異痛に有効である と理解することを基礎付ける記載があるともいえない。 原告の主張について ア 原告は,①NMDAやケタミン等に関する知見により,あらゆる痛覚過敏 及び接触異痛は,神経細胞の感作によって生ずるものであり,感作を抑制す 15 れば原因にかかわらず痛みを治療できることが知られていたこと,②炎症や 神経障害といった痛みの原因で痛みを区別できないことから,③当業者は, 実験的疼痛状態を生じさせる動物またはヒトの疼痛モデルの症状に着目し て神経障害性疼痛や線維筋痛症の研究を行っていたのであり,④このような モデルに当たる本件3試験で有効性が確認されれば,当業者は本件訂正発明 20 2の化合物が神経障害性疼痛及び線維筋痛症に有効であることを理解する と主張する。 ここで,①について,本件出願日当時,炎症性反応及び神経損傷のいずれ を原因にするかを問わず,脊髄のNMDAレセプターを阻害することで痛覚 過敏が緩和する可能性があることが論じられていた(前記2⑸ウ)。 25 しかし,このことが,仮に,あらゆる痛覚過敏が脊髄のNMDAレセプタ 66 ーを阻害すれば感作を抑制して治療できることを意味しているとしたとし ても,特定の化合物が痛覚過敏を発現する動物モデルに効果があることのみ からは,その効果がNMDAレセプターを阻害するなどして感作を抑制した 結果であるのか,痛覚過敏の原因から痛みの発現までの上記以外の機序に作 用した効果によるものであ する動物モデルに効果があることのみ からは,その効果がNMDAレセプターを阻害するなどして感作を抑制した 結果であるのか,痛覚過敏の原因から痛みの発現までの上記以外の機序に作 用した効果によるものであるか判別できない。そうすると,特定の化合物が 5 何らかの痛覚過敏の動物モデルにおいて有効であったことのみでは,原告が 主張する感作の抑制といった作用機序とは異なる,神経障害性疼痛と直接結 びつかない機序によって効果を奏した可能性を排除できないから(なお,例 えば,インドメタシンはホルマリン試験の後期相及びカラゲニン試験で発現 する痛覚過敏に有効であることが知られていたが,神経障害性疼痛による痛 10 覚過敏に有効とは考えられていなかった(前記 参照)。),当業者が,本件試 験化合物についてあらゆる痛覚過敏及び接触異痛に効果があると理解する ことはない。 また,②痛みの原因によって痛みを区別できないことが認められるとして, そのことは,痛みの原因に応じたモデルを構築することの困難性,ひいては, 15 やむを得ず複数の原因によって生じた複数の種類の痛みが混在するモデル を用いざるを得なくなることの根拠等になるとしても,ある一つのモデルに おいて有効であることが,あらゆる原因による痛みに有効であることの根拠 はならないと解される。②を根拠として,本件3試験で有効性が確認されれ ば,当業者は本件訂正発明2の化合物が神経障害性疼痛及び線維筋痛症に有 20 効であることを理解するとの原告の主張は採用することができない。 イ また,原告は,本件明細書では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対し て効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分なことのある麻薬性鎮痛剤であるモ ルヒネを比較例として,試験化合物につき本件術後疼痛試験を行い,試験化 合物がモルヒネよりも有効であること,神経障害性疼 痛みに対し て効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分なことのある麻薬性鎮痛剤であるモ ルヒネを比較例として,試験化合物につき本件術後疼痛試験を行い,試験化 合物がモルヒネよりも有効であること,神経障害性疼痛に有効なギャバペン 25 チンを比較例として,本件3試験によって試験化合物がギャバペンチンと同 67 じ作用により,より優れた効果を有することが確認されているから,当業者 は,試験化合物が,神経障害性疼痛を含むあらゆる慢性疼痛に有効であると 理解すると主張する。 しかし,術後疼痛試験は,あらゆる神経障害性疼痛に対応できるモデルと して理解されていたとはいえない(前記 )。また,試験化合物がモルヒネよ 5 りも効果が高かったとしても,ある化合物より効果が高いことのみをもって それが別の作用機序によって有効であると認めることはできないし,本件術 後疼痛試験への有効性を示す作用機序が,モルヒネによる作用機序と神経障 害性疼痛に係る作用機序の二者択一であるとの技術常識があったとも認め られないから,そのことをもって,試験化合物が当該動物モデルにおいて, 10 麻薬性鎮痛薬たるモルヒネと異なる作用機序を持ち,神経障害性疼痛に有効 であると認めることはできない。 原告は,ギャバペンチンについて,同化合物が神経障害性疼痛に有効であ ることが知られていたと主張するが,ギャバペンチンがあらゆる神経障害性 疼痛に有効であるとの技術常識が存在したと認めるに足りる証拠はない。ま 15 た,仮にギャバペンチンがあらゆる神経障害性疼痛に有効であったとしても, 本件3試験でギャバペンチンが有効であり,試験化合物も本件3試験で有効 だったことのみでは,両化合物の本件術後疼痛試験に係る作用機序が同一で あるかは判断できないのであるから,試験化合物についてまであらゆる神経 障害性疼痛に有効 が有効であり,試験化合物も本件3試験で有効 だったことのみでは,両化合物の本件術後疼痛試験に係る作用機序が同一で あるかは判断できないのであるから,試験化合物についてまであらゆる神経 障害性疼痛に有効であると理解できるともいえない。 20 以上のとおりであって,当業者は,本件出願日当時,技術常識を参酌しても, 本件3試験の結果から,本件訂正発明2の化合物があらゆる類型の神経障害性 疼痛に分類される痛覚過敏及び接触異痛,線維筋痛症による痛覚過敏及び接触 異痛に有効であることが記載されていると理解することはできないし,他に本 件明細書にこのことを基礎付ける実験結果等の具体的な根拠が記載されている 25 ともいえない。 68 そうすると,本件明細書に,本件訂正発明2の化合物があらゆる神経障害性 疼痛に当たる痛覚過敏及び接触異痛,並びに,線維筋痛症による痛覚過敏及び 接触異痛に効果があることが記載されているとはいえないし,それが記載され ているに等しいともいえない。本件訂正が,対象となる痛みを「痛覚過敏又は 接触異痛の痛み」(構成要件2B)とすることは,本件明細書,特許請求の範囲 5 に記載した事項の全ての記載を総合しても導き出すことができない技術的事 項を含むものに訂正することになるから,本件明細書に記載した事項との関係 において新たな技術的事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項 の範囲内においてする訂正であるということはできない(特許法134条の2 第9項,126条5項)。 10 よって,本件訂正は,新規事項を追加するものであり,訂正要件を満たさず, 本件訂正発明2に係る訂正の再抗弁は認められない。 5 本件訂正発明1について(対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」 (構成要件1B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1 , 本件訂正発明2に係る訂正の再抗弁は認められない。 5 本件訂正発明1について(対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」 (構成要件1B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1)に ついて) 15 本件訂正発明1は,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」を対象とする鎮痛剤であ る。その文言上,その技術的範囲には,本件訂正発明2の「神経障害又は線維筋 痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」を対象とする鎮痛剤を含むことは明 らかである。本件明細書にもこの解釈と矛盾する記載はないから,本件訂正発明 1の技術的範囲には本件訂正発明2の技術的範囲が含まれると解される。そして, 20 前記4で説示したとおり,本件明細書に本件訂正発明2の化合物があらゆる神経 障害性疼痛に当たる痛覚過敏及び接触異痛,並びに,線維筋痛症による痛覚過敏 及び接触異痛に効果があることが記載されていると理解することはできず,他に 本件明細書にこのことを基礎付ける実験結果等の具体的な根拠が記載されてい るともいえない。このことに,本件訂正発明1の技術的範囲には本件訂正発明2 25 の技術的範囲が含まれると解されることを考慮すると,本件明細書に,本件訂正 69 発明1の化合物があらゆる痛覚過敏及び接触異痛に効果があることが記載され ているとはいえないし,それが記載されているに等しいともいえない。 そうすると,本件訂正が,対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」 (構成要件1B)とすることは,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載し た全ての記載を総合しても導き出すことができない技術的事項を含むものに訂 5 正することになるから,本件明細書に記載した事項との関係において新たな技術 的事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項の範囲内においてする 訂正であるということは 術的事項を含むものに訂 5 正することになるから,本件明細書に記載した事項との関係において新たな技術 的事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項の範囲内においてする 訂正であるということはできない(特許法134条の2第9項,126条5項)。 よって,本件訂正は,新規事項を追加するものであり,訂正要件を満たさず, 本件訂正発明1に係る訂正の再抗弁は認められない。 10 6 被告医薬品は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置に おける」(構成要件3B)鎮痛剤といえるか(争点4-1)について 本件発明3は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」(構 成要件3B)を対象とする鎮痛剤である。特許請求の範囲の文言上,前者は 「炎症」が原因で生じた痛みであり,後者は「手術」が原因で生じた痛みで 15 あると認められる。 「炎症を原因とする痛み」について ア 「炎症」を原因として生じた痛みについての本件明細書の記載をみると, 本件明細書では炎症反応を前提とする試験としては,本件カラゲニン試 験が記載されている。 20 本件明細書には,本件カラゲニン試験では,ラットにカラゲニンを注射 し,機械的痛覚過敏,熱痛覚過敏に関する測定を行ったこと(前記1 ウ), その測定データによれば,試験化合物が「炎症性疼痛の処置に有効である ことを示す。」(同)ものであることが記載されている。 「炎症」を原因として生じた痛みについての技術常識についてみると, 25 本件出願日当時,侵害受容性疼痛の一態様として,炎症により内因性発痛 70 物質や発痛増強物質が侵害受容器を刺激することにより痛みを生ずるこ とが知られていた(前記2 ア 参照)。 他方,本件出願日当時のカラゲニン試験についての技術常識等について み 性発痛 70 物質や発痛増強物質が侵害受容器を刺激することにより痛みを生ずるこ とが知られていた(前記2 ア 参照)。 他方,本件出願日当時のカラゲニン試験についての技術常識等について みると,カラゲニン試験では,炎症反応に続いて痛覚過敏が生ずることが 知られていたところ,カラゲニン試験の際,学術論文において,神経細胞 5 の機能的変化が生じていることが報告されていた(前記2⑼イ)。 イ 「炎症を原因とする痛み」とは,文言上,「炎症」が原因で生じた痛み であると解されるところ,本件出願日当時,炎症によって内因性発痛物質 等が侵害受容器を刺激して痛みをもたらすことが知られていたのである から,この「炎症」が原因で生じた痛みとは,上記の炎症が直接的な原因 10 となっている侵害受容性疼痛をいうものであると自然に理解することが できるものである。 また,本件カラゲニン試験では,試験化合物が「炎症性疼痛」に対して 有効であるとされているところ,「炎症性疼痛」は,文言から,炎症を原 因とする痛みであると理解されるものであり,上記技術常識や,本件明細 15 書の上記記載からも,本件明細書に記載された痛みは,炎症を直接の原因 とする痛みである侵害受容性疼痛であると自然に理解することができる ものである。そして,本件明細書には,上記のような自然な理解とは異な る理解がされるべきであることについて,明示の記載もないし,それを示 唆する記載があるともいえない。 20 ウ 他方,カラゲニン試験については,炎症反応に続いて痛覚過敏が生ずるこ とが知られていて,学術論文において,神経細胞の機能的変化が生じている ことが報告されていた。そして,その報告のように,カラゲニン試験では, 炎症反応によって生ずる神経細胞への刺激が神経細胞の機能的変化を生じ させ(神経障害性疼 において,神経細胞の機能的変化が生じている ことが報告されていた。そして,その報告のように,カラゲニン試験では, 炎症反応によって生ずる神経細胞への刺激が神経細胞の機能的変化を生じ させ(神経障害性疼痛につき,神経細胞の機能異常による痛みを含む見解も 25 あった。前記2⑶イ),痛覚過敏の痛みを生じさせているとすると,本件明 71 細書には本件試験化合物がカラゲニン試験に有効である旨の記載があるの であるから,実施例で有効性が確かめられた痛みが本件発明3が対象とする 痛みであると理解して,神経細胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みについ ても,炎症と因果関係のある痛みであり,①その痛み,あるいは,②その痛 み及び炎症を原因とする侵害受容性疼痛の両方が本件発明3の「炎症を原因 5 とする痛み」であると評価される余地がないわけではない。 まず,当業者が「炎症を原因とする痛み」について,②上記両方の痛みで あると解するといえるかについて検討する。ここで,神経細胞の機能的変化 による痛覚過敏の痛みと,先に述べた炎症を直接原因の痛みとする侵害受容 性疼痛の痛みは機序を異にする痛みであるから,一方に有効な薬物が必ずし 10 も他方に有効であるとはいえない。そうすると,当業者は,特定の化合物が 上記機能的変化による痛みと侵害受容性疼痛の痛みのいずれにも有効であ ると理解するとはいえないから,上記の2つの痛みについて,いずれもが「炎 症を原因とする痛み」であると理解されるとはいえない。 続いて,本件カラゲニン試験の結果が,当業者が「炎症を原因とする痛み」 15 について①神経細胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みであると理解する ことの根拠になり得るかについて検討する。カラゲニン試験では,抗炎症薬 であるインドメタシンが有効であることも知られていたこと(前記2 ア) からする 胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みであると理解する ことの根拠になり得るかについて検討する。カラゲニン試験では,抗炎症薬 であるインドメタシンが有効であることも知られていたこと(前記2 ア) からすると,カラゲニン試験について,神経細胞の機能的変化に対する効果 ではなく,抗炎症作用を有する化合物一般が効果を有する可能性があると理 20 解できる(なお,神経細胞の機能的変化,炎症反応以外の機序に作用してカ ラゲニン試験での有効性が示された可能性もある。)。そうすると,当業者 は,本件明細書により本件試験化合物が本件カラゲニン試験において有効で あったことは理解できるものの,この結果のみからは,本件試験化合物が神 経細胞の機能的変化を緩和したのか,抗炎症作用により効果を奏したのか, 25 これら以外の作用機序で効果を奏したのかを判断することはできない。よっ 72 て,仮に,本件明細書に接した当業者が,本件発明3の炎症と因果関係のあ る痛みとして,少なくとも上記2種類の痛みがあると想定するとしても,本 件カラゲニン試験の結果をもって,本件発明3の痛みが,神経細胞の機能的 変化に由来する痛みを意味するものと理解するとはいえない。 エ 以上によれば,本件発明3の「炎症を原因とする痛み」は,炎症を直接の 5 原因とする痛みである侵害受容性疼痛の痛みであると解するのが相当であ る。 「手術を原因とする痛み」について ア 手術が原因で生じる痛みについての本件明細書の記載を見ると,本件術 後疼痛試験では,「いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに 10 達し,3日間維持された。」(前記1 オ ⅵ),「本試験の主要な所見 は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵 害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。」(同 )などと記 3日間維持された。」(前記1 オ ⅵ),「本試験の主要な所見 は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵 害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。」(同 )などと記 載されている。 手術の後に生ずる痛みについての技術常識等をみると,本件出願日当時, 15 術後疼痛が知られており,これは,侵害受容性疼痛の一種として分類され ていた(前記2⑺イ)。 他方,術後疼痛試験についての技術常識等をみると,ラット等の皮膚を 切開した後の反応をみるものであり,皮膚の切開の後に痛覚過敏が生ずる ことも知られていて,本件出願日当時,その切開が神経細胞の感作を生じ 20 させていることを前提とするする報告もされていた(前記2 イ)。 イ 「手術を原因とする痛み」とは,文言上,「手術」が原因で生じた痛み であると解されるところ,本件出願日当時,術後疼痛が知られていて,こ れは侵害受容性疼痛に分類されていたのであるから,この「手術」が原因 で生じた痛みとは,手術を直接の原因の痛みとする侵害受容性疼痛の痛 25 みであると自然に理解することができるものである。そして,本件明細書 73 には,上記のような自然な理解とは異なる理解がされるべきであること について,明示の記載もないし,それを示唆する記載があるともいえない。 本件明細書には,前記アのとおり,本件術後疼痛試験について,「侵害 受容反応」について検討する記載があるが,「侵害受容反応」は,その文 言上,「侵害受容器」への刺激に対する反応という意義であると理解でき 5 るところ,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激によって生ずる活性化 によって感じる痛みであるから(前記2 イ),本件術後疼痛試験の評価 と関連して「侵害受容反応」という文言が用いられていることは,上記解 釈と ,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激によって生ずる活性化 によって感じる痛みであるから(前記2 イ),本件術後疼痛試験の評価 と関連して「侵害受容反応」という文言が用いられていることは,上記解 釈とも矛盾しない(なお,「侵害受容反応」は,侵害受容性疼痛に限らず, 侵害受容器への刺激によって生ずる反応一般に用いられるというべきで 10 あり(神経障害性疼痛のモデルにおける刺激に対する効果についても「侵 害受容行動」という文言が使われている例もある(甲70)),「侵害受 容反応」という文言が用いられていることをもって,「手術を原因とする 痛み」が「侵害受容性疼痛」に限定される直接的な根拠になるとまではい えない。)。 15 さらに,本件発明3は,「炎症を原因とする痛み」をも対象とするもの である。これが侵害受容性疼痛に分類される痛みを前提にしていると解 すべきであることは,前記 で説示したとおりである。単一の薬物につい て異なる類型の痛みに有効であるとすることは,それらの痛みについて 機序を共通にする部分があり,当該薬物が当該部分に作用していること 20 を示す実験結果等があれば格別,そのような前提がない場合には理解す ることが困難といえる。本件明細書には,上記の異なる類型の痛みに有効 であることの根拠となる実験結果等の記載もなく,当業者は,通常,特定 の化合物については同一類型の痛みにのみ効果を有すると理解するとい うべきである。そうすると,本件発明3における「炎症を原因とする痛み」 25 が侵害受容性疼痛を前提にしていることからすると,「手術を原因とする 74 痛み」は,同様に侵害受容性疼痛を前提にしていると解するのが自然であ るといえる。 ウ 他方,本件出願日当時,手術を原因として生ずる痛みに関係し,侵害受容 器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼 痛み」は,同様に侵害受容性疼痛を前提にしていると解するのが自然であ るといえる。 ウ 他方,本件出願日当時,手術を原因として生ずる痛みに関係し,侵害受容 器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛があるほか,手術による刺激 が神経細胞の感作を生じさせ,これを直接の原因とする痛み(神経障害性疼 5 痛の定義に,神経細胞の機能異常による痛みを含む見解があった。前記2 イ)についても術後疼痛試験について論じられていたことが認められる。 そうすると,同見解を前提にすれば,本件試験化合物が本件術後疼痛試験 に有効であったことをもって,本件明細書に記載があるのは神経細胞の感作 へ作用することによって緩和される痛みであり,「手術を原因とする痛み」 10 とは,①同痛みあるいは②同痛みと侵害受容器への刺激を直接の原因とする 侵害受容性疼痛としての痛みの両方であると解する余地もある。 しかし,同見解が技術常識になっていたと認めるに足りる証拠はない。 また,同見解を前提にしても,当業者が「手術を原因とする痛み」につい て複数種類の痛みの両方であると理解することが困難であることは,ウで 15 説示したとおりである。 また,①の痛みについても,術後疼痛試験によって生ずる痛みが神経細胞 の感作による痛みであるとの技術常識が確立していたとはいえない上(前記 4 参照。なお,前述のとおり,術後疼痛自体は本件出願日当時,神経細胞 の感作が関与しない侵害受容性疼痛と分類されていた。),仮に上記知見が 20 あったとしても,本件カラゲニン試験につき前記 ウで説示したのと同様に, 本件術後疼痛試験で有効性が確かめられたことのみをもって,当該化合物が 神経細胞の感作に作用しているとはいえない(本件術後疼痛試験においても, 神経細胞の感作とは直接関係しない麻薬性鎮痛薬であるモルヒネが本件試 痛試験で有効性が確かめられたことのみをもって,当該化合物が 神経細胞の感作に作用しているとはいえない(本件術後疼痛試験においても, 神経細胞の感作とは直接関係しない麻薬性鎮痛薬であるモルヒネが本件試 験化合物には及ばないものの術後疼痛試験で一定の効果を挙げており(前記 25 1 オ),これは,神経細胞の感作に作用せずとも術後疼痛試験に有効とな 75 る可能性があることを示しているといえる。)。 よって,本件術後疼痛試験の結果をもって,当業者が「手術を原因とする 痛み」について神経細胞の感作へ作用することによって緩和される痛みであ ると理解するとはいえない。 エ 以上のとおりであって,「手術を原因とする痛み」の文言や本件明細書の 5 記載,技術常識等,同じ請求項に記載された発明の内容等からすると,「手 術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛に分類される痛みを対象にしてい ると自然に解されるものであり,上記に述べたところに照らし,それと異な る理解をする理由はない。 したがって,本件発明3の「手術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛 10 に分類される,手術によって生ずる痛みを意味していると解するのが相当で ある。 前記 , で説示した本件発明3の解釈を前提に,被告医薬品が本件発明3 の技術的範囲に属するか否かについて検討する。 被告医薬品は,効果又は効能を「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」 15 とする医薬品である。神経障害性疼痛の現在の定義は,「体性感覚神経系の病 変や疾患によって生ずる痛み」(乙19)であり,線維筋痛症は,「身体の広 範な部位の筋骨格系における慢性の疼痛とこわばりを主症状とし,解剖学的に 明確な部位に圧痛を認める以外,他覚的ならびに一般的臨床検査所見に異常が なく,治療抵抗性であり,疲労感,睡眠障害や抑うつ気分など多彩な身体 筋骨格系における慢性の疼痛とこわばりを主症状とし,解剖学的に 明確な部位に圧痛を認める以外,他覚的ならびに一般的臨床検査所見に異常が なく,治療抵抗性であり,疲労感,睡眠障害や抑うつ気分など多彩な身体およ 20 び精神・神経症状を伴い,中年以降の女性に好発する原因不明のリウマチ性疾 患」とされ,侵害受容性の痛みではなく,部位の特定されない神経障害性ない し中枢性疼痛とされており,いわゆる疼痛の中枢性感作が成立し,中枢感作症 候群の一つとされている(前記2 ア)。したがって,被告医薬品は,市場に おいて,上記の定義を前提とする疾患に用いられるといえる。 25 他方で,従前から,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは機序の異なる別種 76 の痛みであることを前提として分類されており(甲79,乙1~3),現在に おいても同様であると認められる。そして,前記 のとおり,本件発明3の技 術的範囲は侵害受容性疼痛に分類される痛みに限定されるのであるから,神経 障害性疼痛はこれに含まれない。また,線維筋痛症は,少なくとも侵害受容性 疼痛ではないとされている。 5 よって,被告医薬品が本件発明3の技術的範囲に属するとはいえない。 原告の主張について ア 原告は,本件発明3の技術的範囲について,本件明細書では,炎症性疼痛 や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNS AIDでは効果が不十分なことのある慢性疼痛として記載されており,カラ 10 ゲニン試験や術後疼痛試験が,このような慢性疼痛の試験であると理解でき ると主張する。この主張は,本件明細書には,本件発明3の技術的範囲から 侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛に対する鎮痛剤を 除外する趣旨の記載があるとの趣旨と解される。 本件明細書には「本発明は,上記式Iの化合物の上に掲 には,本件発明3の技術的範囲から 侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛に対する鎮痛剤を 除外する趣旨の記載があるとの趣旨と解される。 本件明細書には「本発明は,上記式Iの化合物の上に掲げた痛みの処置に 15 おける鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障 害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛た とえば幻想肢痛が包含される。(中略)上に掲げた状態が,現在市場にある 鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では, 不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われてい 20 ないことは周知である。」との記載があるが(前記1 ア),この記載は,当 時市場にあった鎮痛剤の効果等が不十分であることを記載しているのにす ぎないのであって,発明の対象化合物の作用機序が非ステロイド性抗炎症薬 や麻薬性鎮痛剤と異なると理解できるとはいえない(同様の作用機序の医薬 品であっても,より効果の高い医薬品が開発できる可能性はある。)。他に本 25 件化合物の作用機序が麻薬性鎮痛剤及びNSAIDと異なることを基礎付 77 ける記載もない。よって,本件明細書に,本件発明3の技術的範囲から侵害 受容性疼痛に対する鎮痛剤を除外する趣旨の記載があるとはいえない。 また,原告は,カラゲニン試験及び術後疼痛試験が,神経細胞の感作によ り生ずる神経障害性疼痛や繊維筋痛症などに共通する痛覚過敏や接触異痛 に対する効果を見たものであることが明らかであると主張するが,当業者が 5 必ずしもそのように解するとはいえないことについては,前記 ウ及び ウ で説示したとおりである。 イ 原告は,仮に本件発明3の技術的範囲が,侵害受容性疼痛に係る鎮痛剤に 限られるとしても,炎症や手術,神経の病変等により組 するとはいえないことについては,前記 ウ及び ウ で説示したとおりである。 イ 原告は,仮に本件発明3の技術的範囲が,侵害受容性疼痛に係る鎮痛剤に 限られるとしても,炎症や手術,神経の病変等により組織の炎症が生ずると 神経細胞の感作が生ずるため,神経障害性疼痛は侵害受容性疼痛との混合性 10 疼痛であるとされ,患者には神経障害性疼痛による痛みと侵害受容性疼痛に よる痛みを区別できず,被告医薬品は,このような混合性疼痛の患者に適用 されることになるから,①被告医薬品は侵害受容性疼痛にも効果を奏するし, ②被告医薬品は,添付文書で侵害受容性疼痛とオーバーラップする痛みであ る神経障害性疼痛を効能,効果としているし,③先発医薬品が混合性疼痛に 15 用いられており,被告もそれを知って被告医薬品を実施することになるから, 被告医薬品は本件発明3の技術的範囲に属すると主張する。 上記各主張は,神経障害性疼痛が発症している場合には侵害受容性疼痛も 併発することもあるところ,このような場合に本件医薬品が患者に投与され ると,神経障害性疼痛への適用を前提に患者に投与されたとしても,被告医 20 薬品は侵害受容性疼痛にも効果を奏し,侵害受容性疼痛に対しても用いられ たと評価でき,それは先発医薬品も同様である旨の主張とも解される。 しかし,前記2⑴のとおり,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛は作用機序 の異なる別種の痛みとして理解されていたことが認められる。医師が神経障 害性疼痛につき医薬品を投与するのは,神経障害性疼痛に係る作用機序への 25 有効性を期待して投与するのであり,他方,被告医薬品は,前記 のとおり 78 神経障害性疼痛等に対するものとされるべきものであって,侵害受容性疼痛 に対するものではなく,仮に神経障害性疼痛に侵害受容性疼痛が併発してい る場合であっても, 被告医薬品は,前記 のとおり 78 神経障害性疼痛等に対するものとされるべきものであって,侵害受容性疼痛 に対するものではなく,仮に神経障害性疼痛に侵害受容性疼痛が併発してい る場合であっても,侵害受容性疼痛に対して投与されたとして本件発明3に 係る充足性を判断するのは相当ではないと解される。 ウ したがって,上記原告の主張は,被告ら医薬品が本件発明3の技術的範囲 5 に属するとはいえないとする前記⑷の判断を左右するものではない。 7 被告医薬品は,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚 過敏若しくは接触異痛の処置における」(構成要件4B)鎮痛剤といえるか(争 点4-2)について ア 「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」の意義について検討すると,「炎症性 10 疼痛」が痛みの原因に基づく分類であり,「痛覚過敏」が症状であることか らすると,「炎症性疼痛」に分類される「痛覚過敏の痛み」の趣旨であると 解される。 本件においては,本件出願日当時,「炎症性疼痛」について,炎症を直接 の原因とする痛みであり,侵害受容性疼痛に分類される痛みを意味すると解 15 することが相当であることは,前記6 イ で説示したとおりである。 他方で,痛覚過敏については,通常痛みをもたらす刺激に対する増大した 応答とされており(前記2⑸ア),その原因が,末梢神経又は中枢神経系ある いはその両方の感作が原因であることを示唆する証拠が現れつつあったこ とは認められるものの(同イ,ウ),痛覚過敏が侵害受容性疼痛に分類される 20 痛みによって生ずることがないとの技術常識までは存在しなかったことが 認められる。 そして,前記6 ウで説示したとおり,本件カラゲニン試験の結果も侵害 受容性疼痛に係る作用が確認されたとしても矛盾するものとはいえず,本件 カラゲニン試験 常識までは存在しなかったことが 認められる。 そして,前記6 ウで説示したとおり,本件カラゲニン試験の結果も侵害 受容性疼痛に係る作用が確認されたとしても矛盾するものとはいえず,本件 カラゲニン試験の結果が神経細胞の機能的変化による痛みに有効であるこ 25 とを積極的に支持しているということもできない。 79 そうすると,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」とは,侵害受容性疼痛た る炎症を原因とする痛みに分類される痛覚過敏の痛みと解することが相当 である。 イ 「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」の意義について検討 すると,「術後疼痛」が痛みの原因に基づく分類であり,「痛覚過敏」及び「接 5 触異痛」が症状であることからすると,「術後疼痛」に分類される「痛覚過 敏の痛み」の趣旨であると解するのが相当である。 本件出願日当時,「術後疼痛」について,侵害受容性疼痛に分類される痛 みに分類されていたのは,前記2 で認定したとおりである。 そして,痛覚過敏について侵害受容性疼痛ではないとの技術常識は存在せ 10 ず,接触異痛についてその機序について確立された技術常識があったことを 認めるに足りる証拠もない。そうすると,「術後疼痛による痛覚過敏若しく は接触異痛の痛み」とは,侵害受容性疼痛たる術後疼痛を原因とする痛みに 分類される痛覚過敏又は接触異痛の痛みと解することが自然である。 そして,前記6 ウで説示したとおり,本件術後疼痛試験の結果も侵害受 15 容性疼痛に係る作用が確認されたとしても矛盾するものとはいえず,本件術 後疼痛の結果が細胞の感作による痛みに有効であることを積極的に支持し ているということもできない。 さらに,前記6 ウで説示したのと同様に,同じ請求項に記載された化合 物について,特段の事情がない限り,異なる類型の痛みに有効であ る痛みに有効であることを積極的に支持し ているということもできない。 さらに,前記6 ウで説示したのと同様に,同じ請求項に記載された化合 物について,特段の事情がない限り,異なる類型の痛みに有効であると理解 20 するのは困難であり,「炎症性疼痛による痛覚過敏」が侵害受容性疼痛への 効果を前提にしていることを前提にすると,術後疼痛による痛みについても 同種の効果を有すると理解するのが相当であり,これと別異に解すべき基礎 となる事情も本件明細書では明らかにされていない。 これらの事情からすると,「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛に 25 よる痛み」は侵害受容性疼痛たる術後疼痛を原因とする痛みに分類される痛 80 覚過敏又は接触異痛の痛みと解するのが相当である。 以上を前提に,被告医薬品が本件発明4の技術的範囲に属するか否かについ て検討するに,被告医薬品は,効果又は効能を「神経障害性疼痛,線維筋痛症 に伴う疼痛」とする医薬品である。 前記6 で説示したとおり,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛は機序の異な 5 る別種の痛みであると理解されている。本件発明4の技術的範囲は,侵害受容 性疼痛に分類される痛みに限定されるのであるから,神経障害性疼痛はこれに 含まれないといえる。また,線維筋痛症は,少なくとも侵害受容疼痛ではない とされている。 よって,被告医薬品が本件発明4の技術的範囲に属するとはいえない。 10 原告は,本件発明4についても,前記6 と実質的に同旨の主張をしている が,それに対する説示と同様の理由で,その主張には理由がない。 8 被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なも のといえるか(争点5)について 前記6で説示したとおり,本件発明3の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に限ら 15 れる。そして, 告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なも のといえるか(争点5)について 前記6で説示したとおり,本件発明3の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に限ら 15 れる。そして,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛みは, 機序の異なる別種の痛みとして理解されていたと認められる。そうすると,神経 障害性疼痛及び線維筋痛症を対象とする被告医薬品と本件発明3とは本質的部 分において異なるというべきである。よって,その余の点について検討するまで もなく,被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均 20 等とはいえない。 9 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なも のといえるか(争点6)について 前記7で説示したとおり,本件発明4の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に限ら れる。そうすると,前記8で説示したのと同様の理由により被告医薬品は,本件 25 発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等とはいえない。 81 以上のとおりであって,本件発明1,2に係る特許はサポート要件を欠き特許 無効審判により無効とされるべきものである。そして,本件訂正のうち,本件発 明1,2に係る部分は新規事項の追加を伴うものであり,訂正要件を満たさない。 また,被告医薬品は,本件発明3及び本件発明4の技術的範囲に属するとはいえ ず,均等なものということもできない。よって,その余の争点について判断する 5 までもなく,原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし,主文の とおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 10 裁判長裁判官 柴 田 義 明 裁判官 佐 伯 良 子 15 裁判官 仲 田 東京地方裁判所民事第46部 10 裁判長裁判官 柴 田 義 明 裁判官 佐 伯 良 子 15 裁判官 仲 田 憲 史 82 (別紙) 物件目録 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有 効成分とし, 「効能又は効果」として「神経障害性疼痛」又は「線維筋痛症に伴う疼痛」 5 を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。) 1 プレガバリンカプセル25mg「トーワ」 2 プレガバリンカプセル75mg「トーワ」 3 プレガバリンカプセル150mg「トーワ」 4 プレガバリンOD錠25mg「トーワ」 10 5 プレガバリンOD錠75mg「トーワ」 6 プレガバリンOD錠150mg「トーワ」 以上 15 83 別紙 構造式 84 別紙 痛み等の用語についての当事者の主張 1 神経細胞の感作 (原告の主張) 神経細胞は,感作されると,興奮状態になって,機能異常が起こり,通常の知 5 覚ができなくなる。その結果,侵害刺激以上の痛みを感じる痛覚過敏や本来痛み を感じない羽毛などの非侵害刺激に対しても痛みを感じる接触異痛になる。 (被告の主張) 正常な入力に対する侵害受容ニューロン(神経細胞)の亢進した反応性,およ び(または)通常閾値以下の入力に対して反応する状態 10 2 侵害受容性疼痛 (原告の主張) 「侵害受容器への刺激による,刺激に比例した痛み」である。 (被告の主張) 「侵害受容器の活性化によって発生する痛み」をいう。侵害受容器は,中枢神 15 経系を除く全ての組織に存在するとされ,その痛みは,皮膚や内臓の求心性神経 線維の化学的,熱的又は (被告の主張) 「侵害受容器の活性化によって発生する痛み」をいう。侵害受容器は,中枢神 15 経系を除く全ての組織に存在するとされ,その痛みは,皮膚や内臓の求心性神経 線維の化学的,熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し,急性又は慢性 であり,例えば,体性痛,癌性疼痛,術後疼痛などがあるとされる。 3 神経障害性疼痛 (原告の主張) 20 「神経の一次的な損傷,あるいはその機能異常が原因となって生じた疼痛」で ある。神経細胞の感作は,上記「神経の・・・機能異常」に該当する。 (被告の主張) 「末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み」をいい,進行中の 疾病がなくても痛みが持続する(例えば,糖尿病性神経障害)ものをいう。 25 4 心因性疼痛 85 (被告の主張) 「神経系の解剖学的分布と一致しない痛み」をいうとされ,しばしば,十分な検 索を行っても,痛みを説明する器質的障害を認めないものとされる 5 線維筋痛症 (原告の主張) 5 「痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群」である。ここで,痛覚過敏は広義の意味で あり,接触異痛を含む。 (被告の主張) 「身体の広範な部位の筋骨格系における慢性の疼痛とこわばりを主症状とし, 解剖学的に明確な部位に圧痛を認める以外,他覚的ならびに一般的臨床検査所見 10 に異常がなく,治療抵抗性であり,疲労感,睡眠障害や抑うつ気分など多彩な身 体および精神・神経症状を伴い,中年以降の女性に好発する原因不明のリウマチ 性疾患である」とされる。本件出願日はもとより,平成29年に至るもなお,そ の原因については不明な点が多いとされる。ただし,「侵害受容性の痛みではな い」とされる。 15 6 痛覚過敏 (原告の主張) 痛覚過敏は,「通常は痛い刺激に対する増大した応答」である。 (被告の 因については不明な点が多いとされる。ただし,「侵害受容性の痛みではな い」とされる。 15 6 痛覚過敏 (原告の主張) 痛覚過敏は,「通常は痛い刺激に対する増大した応答」である。 (被告の主張) 「通常痛みをもたらす刺激に対する増加した反応」をいうとされ,閾値を超え 20 た刺激に対する増加した痛みを反映するものであり,より適切には,通常の閾値 又は例えば神経障害を患う患者における増加した閾値で,増加した応答を有する 症例に対するものをいうとされる。 7 接触異痛 (原告の主張) 25 接触異痛は,「通常は痛くない(機械的)刺激によって誘発された痛み」であ 86 る。 (被告の主張) 「接触異痛」とは,「通常痛みを引き起こさない刺激による痛み」をいうとさ れる。 5 10 15 20
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