令和3年12月23日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和2年(ワ)第19929号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日令和3年9月28日判決 原告 ワーナーランバートカンパニーリミテッドライアビリティーカンパニー 原告訴訟代理人弁護士 飯村敏明 同 磯田直也 同 森下梓 原告訴訟復代理人弁護士 永島太郎 原告訴訟代理人弁理士 泉谷玲子 原告補佐人弁理士 小野新次郎 被告 東和薬品株式会社 被告訴訟代理人弁護士 吉澤敬夫 同 川田篤 被告訴訟代理人弁理士 紺野昭男 同 井波実 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決の控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の医薬品を製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。 2 被告は,別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。 3 仮執行宣言 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする特許権を有する原告が,被告が製造販売承認を取得した医薬品が同特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,同医薬品の製造,販売及び販 とする特許権を有する原告が,被告が製造販売承認を取得した医薬品が同特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして,被告に対し,特許法100条 1項及び2項に基づき,同医薬品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに同医薬品の廃棄を請求する事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)ア原告は,アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市所在の法人である。 (争いなし)イ被告は,ジェネリック医薬品の販売等を事業とする会社である。(争いなし)原告は,以下の特許権(以下,「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」とい う。)を有している。原告は,本件特許権につき,処分の対象となった物をプレレガバリン(後記参照),処分の対象となった物について特定された用途として,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛につき,5年間(帯状疱疹後神経痛については4年9月14日間)の延長登録(以下「本件延長登録」という。)を受けている。(甲1,2) 特許番号特許第3693258号 発明の名称イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤出願日平成9年7月16日(以下「本件出願日」という。)優先日平成8年7月24日 優先権主張国米国登録日平成17年7月1日本件延長登録後の特許満了日令和4年7月16日本件特許について,平成29年1月16日付けで無効審判(以下「本件無効審判」という。)が請求され,原告 平成17年7月1日本件延長登録後の特許満了日令和4年7月16日本件特許について,平成29年1月16日付けで無効審判(以下「本件無効審判」という。)が請求され,原告は,本件無効審判において,令和元年7月 1日付け訂正請求書及び同年8月7日付手続補正書(方式)により,本件特許の特許請求の範囲の請求項1から4について,訂正の請求をした(以下,この訂正の請求を「本件訂正」という。)。その後,本件無効審判において,令和2年7月14日付けで,請求項1及び2の発明に係る特許を無効とし,請求項3及び4について訂正を認め,請求項3及び4の発明に係る特許についての審判 の請求は成り立たないとの審決がされた。同審決のうち,請求項1,2に係る部分は,審決取消訴訟が提起され,確定しておらず,請求項3,4に係る部分はその後確定した。(以下,本件訂正前の請求項1,2に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」といい,本件訂正後の請求項1,2に記載された発明をそれぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」といい,本件 訂正後の請求項3,4に記載された発明をそれぞれ「本件発明3」,「本件発明4」という。また,以下,本件発明1,本件発明2,本件発明3,本件発明4に係る特許について,単に,それぞれ「本件特許1」,「本件特許2」,「本件特許3」,「本件特許4」ということがある。)。(甲3,4,9,弁論の全趣旨)本件特許に係る特許請求の範囲は次のとおりである。 ア本件発明1 式I(別紙構造式記載のとおり。以下同じ。)(式中,R1は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的 載のとおり。以下同じ。)(式中,R1は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する痛みの処置における鎮痛剤。 本件発明1を分説すると次のとおりとなる。(以下,分説された構成要件の符号に従い,「構成要件1A」などという。)1A 式I(式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカ ルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する1B’痛みの処置における1C 鎮痛剤。 イ本件発明2 化合物が,式IにおいてR3およびR2 はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤。 本件発明2を分説すると次のとおりとなる。 2A’化合物が式IにおいてR3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は- (CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の2C 鎮痛剤。 ウ本件訂正発明1式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。 本件訂正発明1 を分説すると次のとおり ある)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。 本件訂正発明1 を分説すると次のとおりとなる。 1A 式I(式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジア ステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,1B 痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における1C 鎮痛剤。 エ本件訂正発明2は次のとおりである。 式I (式中,R3 およびR2はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。 本件訂正発明2を分説すると次のとおりとなる。 2A 式I(式中,R3 およびR2はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,2B 神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの 処置における 2C 鎮痛剤。 オ本件発明3(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル−5−メチルヘキサン酸を含有する,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。 本件発明3を分説すると次のとおりとなる。 3A (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル−5−メチルヘキサン酸を含有する,3B 炎症を原因とする痛み, 本件発明3を分説すると次のとおりとなる。 3A (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル−5−メチルヘキサン酸を含有する,3B 炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における 3C 鎮痛剤。 カ本件発明4式I(式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキ シルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。 本件発明4を分説すると次のとおりとなる。 4A 式I(式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する, 4B 炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における4C 鎮痛剤。 被告は,令和2年8月17日付で,(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン。構成要件1A,2A,3A,4Aをそれ ぞれ充足する。)を有効成分とし,「効能又は効果」として神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」とする別紙物件目録記載1から6の販売名の医薬品(以下「被告医薬品」という。)について製造販売承認を取得した。 被告医薬品は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を対象とする鎮痛剤であり,本件発明1,2の技術的範囲に属し,構成要件3 名の医薬品(以下「被告医薬品」という。)について製造販売承認を取得した。 被告医薬品は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を対象とする鎮痛剤であり,本件発明1,2の技術的範囲に属し,構成要件3C,4Cを充足する。 (弁論の全趣旨)人が皮膚などに生じた刺激につき痛みを感じる通常のメカニズムは次のとおりである。 末梢組織(皮膚など)に何らかの痛みの原因(炎症,切り傷,その他)が生ずると末梢神経細胞にある侵害受容器が刺激される。侵害受容器へ十分な刺激 が加わると,末梢神経細胞が興奮して,末梢神経細胞の末端が位置する脊髄後角まで侵害情報が伝達される。脊髄後角には,対応する中枢神経細胞が位置しており,神経伝達物質を介して興奮している末梢神経細胞の末端から中枢神経細胞に侵害情報が伝達され,これにより中枢神経細胞が興奮して脳に侵害情報が伝わり,痛みとして認識される。(甲84,乙1,弁論の全趣旨) 3 争点⑴ 本件特許1,2の無効理由(争点1)ア本件特許1,2には,実施可能要件違反の無効理由(以下「無効理由1」という。)があるか(争点1-1)イ本件特許1,2には,サポート要件違反の無効理由(以下「無効理由2」 という。)があるか(争点1-2) ⑵ 本件訂正発明1,2に係る訂正の再抗弁について(争点2)ア技術的範囲について(争点2-1)被告医薬品は,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」(構成要件1B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-1)被告医薬品は,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異 痛の痛みの処置における」(構成要件2B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-2)イ本件訂正と新規事項追加(争点2-2)対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」 ,痛覚過敏又は接触異 痛の痛みの処置における」(構成要件2B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-2)イ本件訂正と新規事項追加(争点2-2)対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1) 対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-2)ウ無効理由の解消(2-3)本件訂正により,無効理由1が解消するか(争点2-3-1) 本件訂正により,無効理由2が解消するか(争点2―3-2)⑶ 本件特許1,2の延長登録には無効理由があるか(争点3)⑷ 被告医薬品が本件発明3,4の技術的範囲に属するか(争点4)ア被告医薬品は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における」(構成要件3B)鎮痛剤といえるか(争点4-1) イ被告医薬品は,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」(構成要件4B)鎮痛剤といえるか(争点4-2)⑸ 被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点5) ⑹ 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものといえるか(争点6)⑺ 本件特許3,4の延長登録には無効理由があるか(争点7) 4 争点に対する当事者の主張(なお,本件出願日当時の「痛み」に関する用語の意義等について,各当事者は別紙「痛み等の用語についての当事者の主張」のとおりであると主張していて,以下の各当事者の主張は,別段の記載がない限り, 別紙記載のそれぞれの当事者が主張する用語の の意義等について,各当事者は別紙「痛み等の用語についての当事者の主張」のとおりであると主張していて,以下の各当事者の主張は,別段の記載がない限り, 別紙記載のそれぞれの当事者が主張する用語の意義を前提にしている。)⑴ 本件特許1,2の無効理由(争点1)ア本件特許1,2には,実施可能要件違反の無効理由があるか(争点1-1)(被告の主張)発明の詳細な説明の記載が,医薬用途発明を使用することができる程度の ものであるといえるためには,発明の詳細な説明に,当該物質が実際にその医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が認識することができるに足る臨床試験,またはそれに代わる充分な程度の薬理試験結果を記載する必要がある。 本件明細書には,CI-1008((S)‐3-(アミノメチル)-5-メチルヘ キサン酸),3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸又はS-(+)-3-イソブチルギャバ(この化合物は,いずれも構成要件1A,2A,3A,4Aを充足する。以下,この化合物のうち,次に列挙する本件明細書記載の試験で効能を確かめられた化合物を「本件試験化合物」ということがある。)を用いて3種の薬理試験,すなわち「ラットホルマリン足蹠試験」,「ラット カラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験」及び「ラット後肢足蹠面の皮膚,筋膜及び筋肉を切開することによって作成された術後疼痛モデル」の記載があるが,これら3種の薬理試験以外については,実際に実験が行われた旨の記載はない(以下,本件明細書に記載された上記試験を,それぞれ「本件ホルマリン試験」,「本件カラゲニン試験」及び「本件術後疼痛試験」といい,こ れらを併せて「本件3試験」ということがある。また,それらで行われた各 試験の薬理試験としての一般的な性質等 マリン試験」,「本件カラゲニン試験」及び「本件術後疼痛試験」といい,こ れらを併せて「本件3試験」ということがある。また,それらで行われた各 試験の薬理試験としての一般的な性質等を述べるときには,それぞれ「ホルマリン試験」,「カラゲニン試験」及び「術後疼痛試験」ということがある。)。 本件明細書では,本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験について記載された後,「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」と結論付けている。つまり,本件ホルマ リン試験から「炎症性疼痛」,すなわち炎症を原因とする疼痛の治療に有効であることが理解され,また,本件カラゲニン試験から,炎症性疼痛による「痛覚過敏」の治療にも有効であることが理解される。炎症性疼痛は,「侵害受容性疼痛」の典型例であり,本件明細書に記載される本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験は,「侵害受容性疼痛」についてのみが記載されて いることが明らかである。続いて,本件明細書では,本件術後疼痛試験について記載された後,本件試験化合物が,侵害受容反応の遮断に対して有効であると結論付けられている。つまり,同試験により,「手術を原因とする痛み」,さらに「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」の治療にも有効であることが理解される。なお,術後疼痛は,「侵害受容性疼痛」の典型 例であり,本件明細書に記載される術後疼痛試験は,「侵害受容性疼痛」についてのみが記載されていることが明らかである。 「痛み」には本件明細書に記載されている各痛みを含め,種々の種類のものがあり,その原因や病態生理もさまざまであることが技術常識であった。 また,痛みの種類や原因によって治療法が異なり,鎮痛剤であればあらゆる 種類 書に記載されている各痛みを含め,種々の種類のものがあり,その原因や病態生理もさまざまであることが技術常識であった。 また,痛みの種類や原因によって治療法が異なり,鎮痛剤であればあらゆる 種類の痛みに有効であるというわけではないことも,本件出願日当時の技術常識であった。 本件発明1,2が処置の対象とする「痛み」には,「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外に,本件明細書で列挙されている「転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウ ザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー, 線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群」,「神経障害の痛み,癌の痛み,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛」,「末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛み」,「慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状 腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる(痛み)」が含まれる。しかし,これらの「痛み」について,臨床試験はもちろん,これらの「痛み」に関する動物モデルを用いた実験についても,開示はない。そして,本件3試験の結果から,これらの「痛み」に対する効果を確認することができるとの本件明細書の記載も技術常識もない。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1,2を,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,実施可能要件を欠く。 (原告の主張)以下に説明するとおり,①本件3試験はいずれも神経障害性疼痛や線維筋 痛症に共通する神経細胞の感作の痛みに関する試験であること, したものではないから,実施可能要件を欠く。 (原告の主張)以下に説明するとおり,①本件3試験はいずれも神経障害性疼痛や線維筋 痛症に共通する神経細胞の感作の痛みに関する試験であること,②動物モデルは痛みの原因ではなく,痛覚過敏や接触異痛という症状に着目して用いられていたこと,③本件明細書の記載に基づけば,本件発明1,2が,侵害受容器への刺激による通常の痛みと区別された慢性疼痛に効果を奏したことが明らかであることなどの理由から,本件明細書の発明の詳細な説明は,本 件発明1,2を,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり,実施可能要件を満たすことは明らかである。 本件発明1,2の痛みは,本件明細書を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛と解釈できる。 慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,原 因にかかわらず,組織損傷や炎症によるものであっても,神経損傷その他神経の障害によるものであっても,心因性の要因によるものであっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症におけるものであっても,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みである。このような痛覚過敏や接触異痛の痛みに対しては,ケタミン等の研究 により,その直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できることが知られていた。 具体的には,慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛の機序として,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが 知られており,カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作も,こ 試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが 知られており,カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作も,これと同様の機序であると理解されていた。 一方,神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていた。 これらによれば,本件出願日当時,当業者は,原因にかかわらず,痛覚過 敏や接触異痛を生ずる感作の機序は同一であると考えており,組織損傷や炎症の疼痛モデルの結果を用いて,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛が研究されていた。そして,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが,広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていた。 また,本件出願日当時,前記のように,原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え,組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じ,更にはストレスで侵害刺激を生じ,侵害刺激がストレスで増幅され,これらの原因で神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷, 心因性の要因といった原因では明確に区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と 神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであると理解されていた。 このように,本件出願日当時,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛は,等しく神経細胞の感作で生ずることに加え,感作に至るまでの炎症性メディエーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないと理解されてい た。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイドの投与による治療も行われていた。 さらに,手 の炎症性メディエーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないと理解されてい た。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイドの投与による治療も行われていた。 さらに,手術で末梢神経損傷に至らない場合でも,皮神経終末を損傷するし,糖尿病性神経障害の例から明らかなように,神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではない。また,複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジ ストロフィーを含む。)は,手術後に神経障害性疼痛を生ずるところ,神経損傷だけでなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされていた。したがって,手術により神経を損傷したか否かにより,術後疼痛と神経障害性疼痛とを区別できないことも明らかであった。 そのため,当業者は,実験的疼痛状態を生じさせる動物又はヒトの疼痛モ デルの症状に着目し,炎症や組織損傷により痛覚過敏や接触異痛を生じさせるモデルを利用して,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛の研究を行っていた。 疼痛の動物モデルは,人工的に痛みを生じさせるモデルであり,かつ,ヒトではなく動物のモデルであることから,ヒトの具体的な疾患とは原因や病 態生理が異なるが,動物モデルが疼痛治療薬のスクリーニングに利用できないということにはならない。仮に動物モデルによりヒトの疾患の病態生理を正確に模倣することを要求した場合,そのような動物モデルなど存在しないことから,特許の取得は不可能となる。 本件化合物は,本件明細書において,中枢神経系に作用するGABA類縁 体であり,中枢神経の過活動により生ずる疾患である「てんかん」に対して 効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果 により生ずる疾患である「てんかん」に対して 効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されている。 ホルマリン試験は,慢性疼痛の試験として誕生し,後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られていた ため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた。本件明細書では,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に本件化合物が効果を奏することを確認している。 カラゲニン試験は,痛覚過敏の試験として知られていて,神経細胞の感作 を反映したものであることも知られており,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた。本件カラゲニン試験では,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果を確認している。 術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られており,感作のメカニズムを研究する動物モデルである。本件術後疼痛試験では, 切開創の治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認している。 さらに,本件明細書では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分なことのある麻薬性鎮痛剤であるモルヒネを比較例として,本件化合物の効果を確認している。例えば本件術後疼痛試 験では,本件化合物がモルヒネの効かない痛覚過敏や接触異痛に有効であることや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに影響を与えないことが示されている。 これらによれば,本件明細書の記載により,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤やNSAIDの有効な 覚過敏や接触異痛に有効であることや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに影響を与えないことが示されている。 これらによれば,本件明細書の記載により,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤やNSAIDの有効な,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛み ではなく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏するこ とが明らかである。当業者は,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤と同じオピオイド作用や,NSAIDと同じ抗炎症作用を有すると理解することもない。 本件明細書では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチンを比較例として,これと同じ作用により,より優れた効果を有することも確認している。ギャバペンチンも本件化合物も,共にホルマリン試験,カラゲ ニン試験,術後疼痛試験のすべてにおいて用量依存性で痛覚過敏や接触異痛に拮抗しており,機序の同一性が明らかである。 加えて,本件明細書では,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能である。 よって,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に有用であることを十分に理解する。 これに対し被告は,痛みが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に分類されると主張する。しかし,この分類は,原因にかかわらず,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じ,神経細胞の感作を抑制すること で鎮痛できることを否定するものではない。 一方,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比例する通常の痛みであると理解されており,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作により生ずる痛覚過敏や接触異痛等の病的な慢性疼痛 受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比例する通常の痛みであると理解されており,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作により生ずる痛覚過敏や接触異痛等の病的な慢性疼痛を含まない。本件明細書に記載された「炎症性疼痛」 や「術後疼痛」も,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しない。そのため,本件明細書の本件ホルマリン試験,本件カラゲニン試験,本件術後疼痛試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはない。「侵害受容」との用語は,侵害受容性疼痛であることを意味しない。 末梢及び中枢の神経細胞の感作の意義は明確であり,様々な神経細胞の感 作が存在するということはない。また,神経細胞の感作を抑制すれば,痛覚過敏や接触異痛に効果を奏することも明らかである。 イ本件特許1,2には,サポート要件違反の無効理由があるか(争点1-2)(被告の主張)本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,本件発明1,2が解決し ようとする課題は,特許請求の範囲に記載の「痛み」,すなわち本件明細書記載の各痛みを含む「痛み」の処置をすることができる鎮痛剤を提供することであると認められる。 しかしながら,実施可能要件に関して述べたとおり,本件明細書には式Iの化合物が「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛効果を有す ることが記載されているとしても,式Iの化合物が,これら以外の「痛み」の処置における鎮痛効果を有することが本件明細書に記載されていることにはならず,また,本件出願日当時の技術常識を参酌しても,「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の「痛み」の処置における鎮痛効果を有することを当業者は認識し得ない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した ,また,本件出願日当時の技術常識を参酌しても,「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の「痛み」の処置における鎮痛効果を有することを当業者は認識し得ない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した 当業者は,本件発明1,2に係る発明により上記課題を解決できると認識できるとはいえない。 本件発明1,2は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められないから,サポート要件を欠く。 (原告の主張) 前記アで述べたのと同様の理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に効果を奏することを十分に理解するから,サポート要件に欠けるところはない。 ⑵ 本件訂正発明1,2に係る訂正の再抗弁について(争点2)ア技術的範囲について(争点2-1) 被告医薬品は,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」(構成要 件1B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-1)(原告の主張)本件訂正発明1の処置対象となる痛みは「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」であるところ,これは神経細胞の感作により生ずる神経の機能異常の痛みであり,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の主症状である。 そのため,被告医薬品が神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に用いられた場合,本件訂正発明1で特定された前記処置対象の痛みに用いられることとなる。 したがって,被告医薬品は本件訂正発明1の技術的範囲に属する。 (被告の主張) 本件訂正発明1の「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」とは,医薬品の用途を限定した要件であるところ,被告医薬品は,被告医薬品の添付文書の効能・効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」と記載されているとおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」に限定された用途に るところ,被告医薬品は,被告医薬品の添付文書の効能・効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」と記載されているとおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」に限定された用途について製造されておらず,その限定さ れた用途について販売されるものでもないから,構成要件1Bを充足しない。 「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症以外の原因によっても起きるもので,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛に対し被告医薬品が用いられた場合,必ずしも「痛覚過敏又は接触異 痛の痛み」に用いられることにはならないし,そのような行為は医師のする行為であって,被告医薬品の製造,販売とは関係がない。 被告医薬品は,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」(構成要件2B)鎮痛剤といえるか(争点2-1-2) (原告の主張) 本件訂正発明2の処置対象となる痛みは「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」であるところ,前記で述べたとおり,被告医薬品が神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に用いられた場合,本件訂正発明2で特定された上記処置対象の痛みに用いられることとなるので,被告医薬品は本件訂正発明2の技術的範囲に属する。 (被告の主張)「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」とは,医薬品の用途を「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」よりもさらに限定して「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」としたものであるところ,被告医薬品は,被告医薬品の添付文書の効能・ 効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」と記載されているとおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤 としたものであるところ,被告医薬品は,被告医薬品の添付文書の効能・ 効果の欄に「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」と記載されているとおり,「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」に限定された用途について製造されておらず,その限定された用途について販売されるものでもないから,構成要件2Bを充足しない。 痛覚過敏又は接触異痛の痛みは,神経障害性疼痛及び線維筋痛症以外の 原因によっても起きるもので,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛に対し被告医薬品が用いられた場合,必ずしも「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に用いられることにはならないし,そのような行為は医師のする行為であって,被告医薬品の製造,販売とは関係がない。 イ本件訂正と新規事項追加(争点2-2) 対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1)(原告の主張)本件カラゲニン試験では,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験化合物の効果が確認されており,本件術後疼痛試験では,熱痛覚過敏及び 接触異痛に対する試験化合物の効果が確認されているから,痛覚過敏又は 接触異痛の痛みに対して構成要件1Aの化合物を用いることが開示されている。痛覚過敏や接触異痛は痛みの症状を示す用語であり,痛みの原因に応じて複数の痛覚過敏や複数の接触異痛が存在するわけではない。 さらに,前記アにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ,本件化合物 が効果を奏することを十分に理解する。このことからも,原因に応じて複数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけではないことが明らかである。 したがって,構成要件1Bは,本件明細書に 生じ,本件化合物 が効果を奏することを十分に理解する。このことからも,原因に応じて複数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけではないことが明らかである。 したがって,構成要件1Bは,本件明細書に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。そして,本件訂正の目的は,痛みの範囲について,減縮するものであり,本件訂正により拡張 変更するものでないことは明らかである。 (被告の主張)2以上の請求項に係る特許請求の範囲を訂正する場合には,当該請求項の中に一群の請求項があるときは,当該一群の請求項ごとに訂正しなければならない(特許法134条の2第3項)。 請求項1から4は,請求項2から4が請求項1の記載を引用する関係にあり,本件訂正における請求項1から4に係る訂正は,一群の請求項1から4について請求されている。さらに請求項2に係る訂正は,請求項1との引用関係を解消し,独立形式に改めること,すなわち請求項2を請求項1とは別の訂正単位として扱われることを求めている。 しかしながら,後記で述べるとおり,請求項2を訂正する訂正は認められないから,本件訂正後の請求項2について,これを別の訂正単位とすることは認められない。 よって,請求項2と共に一群の請求項を構成する請求項1についてされる訂正も一体的に認められない。 また,後記で主張するとおり,請求項2について,「神経障害又は線維 筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」とする訂正が新規事項を追加するとして認められないのと同じく,請求項1の訂正自体についても,本件訂正後の請求項1の「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」には「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」が含まれることになり,新規事項 じく,請求項1の訂正自体についても,本件訂正後の請求項1の「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」には「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」が含まれることになり,新規事項を追加することになる。したがって,請 求項1と請求項2とが一群の請求項を構成し,訂正の可否が一体として扱われる点のほか,新規事項の追加という点からも,請求項1を本件訂正後の請求項1とする訂正は,認められない。 対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B)とすることは新規事項の追加ではないか(争 点2-2-2)(原告の主張)本件訂正により「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B)とすることについては,前記で主張したとおり,訂正要件を満たす。 また,本件明細書には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれ る痛みとして,神経障害の痛み,線維筋痛症が記載されている。 さらに,前記アにおいて述べたとおり,神経障害の痛みや,線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生ずることは,本件出願日当時の技術常識である。 したがって,構成要件2Bは,本件明細書に記載した事項の範囲内で訂 正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。本件訂正の目的は引用関係の解消及び痛みの範囲の減縮であり,本件訂正により拡張変更をするものでないことは明らかである。 (被告の主張)本件明細書には,発明対象の化合物について神経障害又は線維筋痛症に よる「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置における鎮痛剤として使用す ることについて,明示の記載はない。 一方で,本件明細書には,神経障害性疼痛の動物モデルとして,ベネットのアッセイ及びKimらのアッセイについて言及している 置における鎮痛剤として使用す ることについて,明示の記載はない。 一方で,本件明細書には,神経障害性疼痛の動物モデルとして,ベネットのアッセイ及びKimらのアッセイについて言及している。 しかしながら,本件明細書では,発明対象の化合物を,これらの神経障害性疼痛の動物モデルで評価したとの記載はなく,試験結果としての薬理 試験データの記載もない。さらに,神経障害性疼痛又は線維筋痛症による「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置において鎮痛作用を有し,鎮痛剤としての効果を奏したことを具体的に確認した試験結果はおろか,当該試験において有効であるとの一般的な記載もない。 本件発明1,2に関連して述べたとおり,本件明細書で鎮痛効果を確認 したのは,本件3試験のみであり,鎮痛効果を予測することができるのは,「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」に対するものだけである。 上記試験結果は,いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症による痛みの処置に本件訂正前後の請求項2記載の化合物を使用した試験に関するものではないから,上記試験結果から直ちに,本件訂正前後の請求項2記載 の化合物が,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」処置に有効であることが本件明細書に記載されているとはいえない。 また,本件3試験の薬理試験が,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」処置に有効であることを示す実験モデルであるとする技術常識も存在しない。 むしろ,痛みについて「侵害受容性(nociceptive),神経障害性(neuropathic),心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考えられる」との技術常識,痛みが「侵害受容性疼痛」,「神経性疼痛」に分けて分類されているとの本件出願日当時の技術常 neuropathic),心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考えられる」との技術常識,痛みが「侵害受容性疼痛」,「神経性疼痛」に分けて分類されているとの本件出願日当時の技術常識からすれば,これら本件3試験が明らかにした「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」は「侵害受容性疼 痛」に分類され,「侵害受容性疼痛」は「神経障害又は線維筋痛症による痛 み」とは明確に区別されている。 このことは,それぞれの痛みに対する治療効果を評価する実験的疼痛状態を示す動物モデルが,痛みごとに区別して存在していたことからも明らかである。 とりわけホルマリン試験後期相は,侵害受容性疼痛の動物モデルとして 理解され,本件明細書において「神経障害性疼痛」の動物モデルとして記載されているベネットらによる動物モデルとは別の「疼痛」のモデルとされている。 本件明細書からは,本件カラゲニン試験によって,対象とする化合物が,炎症性疼痛による「痛覚過敏」の治療にも有効であること,また,「手術を 原因とする痛み」,さらに「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」の治療にも有効であることを理解することができるが,単に,「痛覚過敏」又は「接触異痛」を伴うからといって,本件訂正発明2の化合物が,本件明細書に記載の薬理試験及び技術常識から,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛」の痛みの処置に有効であると理解する ことはできず,このことが本件明細書に記載されているとは到底いえない。 したがって,本件訂正で「痛み」を「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と特定することは,本件明細書又は図面に明示的に記載された事項であるとも,本件明細書又は図面の記載から自明な事項であるとも認めることができない痛 害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と特定することは,本件明細書又は図面に明示的に記載された事項であるとも,本件明細書又は図面の記載から自明な事項であるとも認めることができない痛みに個別化するものである。本 件訂正は,本件明細書の全ての記載を総合しても導き出すことができない技術的事項を含むものであるから,本件明細書又は図面に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであると認められる。 ウ無効理由の解消(争点2-3)本件訂正により,無効理由1が解消するか(争点2-3-1) (原告の主張) 前記アにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に効果を奏することを十分に理解する。 また,本件訂正発明1,2では,処置対象となる痛みが,慢性疼痛のうち「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に明確に限定されている。これは,ホルマリン試験の後期相に反映された中枢性感作で生ずる痛みであり,本件 カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験において,試験化合物の効果が明示的に確かめられた痛みである。 本件訂正発明2では,処置対象となる痛みが更に「神経障害又は線維筋痛症による」痛覚過敏又は接触異痛に限定されている。本件出願日当時,神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして定 義されており,炎症や組織損傷だけでなく,神経損傷によっても神経細胞の感作という神経の機能異常を生じて,神経障害性疼痛における痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた。また,線維筋痛症も,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群として定義されており,中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた。すなわち,神経障害又は線維筋 痛症による痛覚過敏や いた。また,線維筋痛症も,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群として定義されており,中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた。すなわち,神経障害又は線維筋 痛症による痛覚過敏や接触異痛は,神経細胞の感作で生じたものであることが明らかであった。本件明細書では,前記のように,本件出願日当時,神経障害又は線維筋痛症の痛みであると理解されていた,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に対する発明の対象化合物の効果が確かめられているといえる。 よって,当業者は,本件訂正発明1,2の化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,並びに神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに有用であることを十分に理解するから,本件訂正により無効理由は解消する。 (被告の主張) ホルマリン試験の実質は,その後期相も含め,神経障害性の痛みではなく,組織の炎症による侵害受容性の痛みに対する薬剤の効果を確認する試験であると理解されていたのであるから,本件ホルマリン試験により確認された「化合物の効果」は,炎症による侵害受容性の痛みに対する効果に留まる。同様に,本件カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験では,炎症及 び手術を原因とする侵害受容性の痛みに対する薬剤の効果が確認されたに留まる。本件明細書にはベネットモデル等について動物モデルの存在について記載はあるものの,発明の対象化合物について,効果があることを確認する記載があるわけではない。同様に,本件明細書には,「神経障害性疼痛」や「線維筋痛症」といった単語は記載されているが,発明の対象 化合物がそれらに有効であることを裏付ける記載はない。 原告が主張する「本件出願日当時,当業者は,疼痛の原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛を発現する動物モデル試験で効果を確 が,発明の対象 化合物がそれらに有効であることを裏付ける記載はない。 原告が主張する「本件出願日当時,当業者は,疼痛の原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛を発現する動物モデル試験で効果を確認できれば,その動物モデルとは別の原因によって生じた痛覚過敏及び接触異痛に対しても,同様に効果を奏するものと理解した」とする技術常識は存在しない。 よって,「炎症及び手術による侵害受容性の原因による痛覚過敏及び接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」が記載されているにとどまる本件明細書に接した当業者が,技術常識を踏まえても,発明の対象化合物が「神経障害性疼痛の原因による痛覚過敏及び接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」としても有用であると理解するとは言い難く,「神経障害又は線 維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置における鎮痛剤(本件訂正発明2),及び本件訂正発明2よりも広い概念を規定する「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置における鎮痛剤(本件訂正発明1)は,明細書の記載要件,すなわち実施可能要件を充足していないと評価され,本件訂正によって無効理由1は解消されない。 本件訂正により,無効理由2が解消するか(争点2―3-2) (原告の主張)前記において述べたことと同様の理由により,当業者は,本件訂正発明1,2の化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,並びに,神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果を奏することを十分に理解し,本件訂正によって無効理由2は解消する。 (被告の主張)前記において述べたのと同様の理由により,本件訂正によってサポート要件違反の無効理由2は解消されない。 ⑶ 本件特許1,2の延長登録には無効理由があるか(争点3)(被告の主張) 本 前記において述べたのと同様の理由により,本件訂正によってサポート要件違反の無効理由2は解消されない。 ⑶ 本件特許1,2の延長登録には無効理由があるか(争点3)(被告の主張) 本件延長登録に係る「処分の対象となった物について特定された用途」は,「帯状疱疹後神経痛」,「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」である。 ここで,原告医薬品と薬事的に同等というべき被告医薬品が本件訂正発明1, 2の技術的範囲に属さないものであることと同様,本件訂正発明1,2はいずれも「痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」を用途とする限定をした結果,「処分の対象となった物について特定された用途」である「帯状疱疹後神経痛」,「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛, 線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」とは用途において異なるものとなった。その結果,本件延長登録は,いずれも「その特許発明の実施について・・・政令で定めるものを受けることが必要である」(平成28年法律第108号による改正前の特許法67条2項)には当たらないものとなり,延長登録の要件を満たさない。 したがって,本件延長登録は延長登録無効審判により無効とされるべきもの であり,当該延長登録に係る特許権の行使は制限されるべきものである。本件特許1,2に係る特許権は,本件特許の出願から20年後の平成29年(2017年)7月16日の経過をもって消滅している。 また,本件訂正発明1,2の「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛 ,2に係る特許権は,本件特許の出願から20年後の平成29年(2017年)7月16日の経過をもって消滅している。 また,本件訂正発明1,2の「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」との用途が「処分の対象となった物について特定さ れた用途」である「帯状疱疹後神経痛」,「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」との用途に含まれると解したとしても,「処分の対象となった物について特定された用途」が本件訂正発明1,2の用途よりも広くなる結果,本件訂正発明1,2と 重ならない部分において,それぞれの延長登録について,その一部に無効理由が認められることになる。その結果,一体的な一個の行政処分である,それぞれの延長登録全体が無効になるものと解される。したがって,本件訂正発明1,2の用途が「処分の対象となった物について特定された用途」に含まれると解したとしても,それぞれの延長登録には,本件訂正発明1,2との関係におい て無効理由があることになる。 (原告の主張)前記アにおいて述べたとおり,本件訂正発明1,2は,被告医薬品をその技術的範囲に含む。処分対象物は,被告医薬品と効能,効果が同一であるから,被告医薬品におけるのと同様の理由により,処分対象物は,本件訂正発明1, 2の技術的範囲に含まれる。 被告は,処分対象物に係る用途が本件訂正発明1,2の用途よりも広いので,延長登録を受けた用途の一部が本件訂正発明1,2と重ならないことを理由として,本件訂正発明1,2に係る延長登録が無効であると主張するが,平成28年法律第108号による改正前の特許法125条の2第1項1号は「特許発 た用途の一部が本件訂正発明1,2と重ならないことを理由として,本件訂正発明1,2に係る延長登録が無効であると主張するが,平成28年法律第108号による改正前の特許法125条の2第1項1号は「特許発 明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められ ない」場合に延長登録が無効となる旨を定めているから,製造販売承認を受けた医薬品が特許発明の実施品でありさえすれば,無効理由はない。本件では,処分対象物は本件訂正発明1,2の実施品であるから,本件訂正発明1,2を実施するために,処分対象物について製造販売承認を取得する必要があったことは明らかであり,延長登録無効理由はない。 さらに,本件訂正発明1,2には無効理由はなく,訂正も適法である。 したがって,本件延長登録は,本件訂正発明1,2の実施に政令処分を受けることが必要であった場合の出願に対してされたものであり,延長登録無効理由はない。 ⑷ 被告医薬品が本件発明3,4の技術的範囲に属するか(争点4) ア被告医薬品は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における」(構成要件3B)鎮痛剤といえるか(争点4-1)(原告の主張)ⅰ 本件発明3の処置対象となる痛みは,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」である。 「炎症を原因とする痛み」は,本件カラゲニン試験の痛みであり,「手術を原因とする痛み」は,本件術後疼痛試験の痛みである。これらの試験では,炎症や手術から神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずるまでの機序は限定されていない。 本件明細書では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋 痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは効果が不十分なことのある慢性疼痛として記載 生ずるまでの機序は限定されていない。 本件明細書では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋 痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは効果が不十分なことのある慢性疼痛として記載されており,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験が慢性疼痛の試験であることが明らかである。 そして,前記アで述べたとおり,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られており,神 経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できるこ とも知られていた。 また,前記アで述べたとおり,本件出願日当時,炎症で神経の病変や疾患を生じ,手術で末梢神経や神経終末を損傷し,神経の損傷によっても炎症が生ずることなどから,痛みを原因で区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複すること が理解されていた。 そのため,前記アで述べたとおり,当業者は,痛みの症状に着目して動物モデルを用いており,カラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じさせる動物モデルとして,神経障害性疼痛治療薬の探索や,感作のメカニズムの研究に利用されてい た。 したがって,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験は,神経細胞の感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛に対する効果についてのものであることが明らかである。 よって,本件発明3の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる。 ⅱ 被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎等において,炎症を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする。また, かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる。 ⅱ 被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎等において,炎症を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする。また,被告医薬品は, 術後遷延性疼痛,開胸術後疼痛症候群等において,手術を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする。 神経障害性疼痛の疾患においては,前記のとおり炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。それだけでなく,前記のとおり,炎症により神経の病 変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,これらの神経の病変,疾患, 損傷により,神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さらに,神経の病変,疾患,損傷により,組織や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さらに,明確に神経の病変や疾患が見出されない場合でも,痛覚過敏や接触異痛といった,神経細胞の感作で生ずる症状により,神経障害性疼痛と診断 され,先発医薬品や被告医薬品が投与される。そのため,神経障害性疼痛を神経の病変,疾患,損傷が明確な態様に限定することは誤りである。 よって,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 ⅲ 被告医薬品は,関節炎,胃炎,アレルギー炎症,リウマチ等の炎症性疾患から生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする。同様に,被告医薬品は,手術により生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする。 これらの線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 よって,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症 に伴う疼痛を用途とする。 これらの線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 よって,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 本件カラゲニン試験,本件術後疼痛試験で確かめられた痛覚過敏や接触異痛の痛みは,原告の定義に照らせば侵害受容性疼痛には当たらないも のの,仮にこれらの痛みが「侵害受容性疼痛」であるとされた場合にも,次のとおり本件医薬品は本件発明3の技術的範囲に属する。 炎症や手術では神経細胞の感作を生ずるし,炎症により神経の病変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,神経の病変や疾患,損傷により,神経細胞の感作を生ずる。さらに,神経の病変や疾患,神経損傷により,組 織の炎症や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生ずる。そし て,これらは全て神経障害性疼痛を生ずる。そのため,神経障害性疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛とされている。 また,線維筋痛症は,炎症性疾患や手術により生じ,更に炎症を生ずる疾患であるので,線維筋痛症に伴う疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛である。 痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,両者を区別できない。 先発医薬品は,適応症に用いられることにより,このような混合性疼痛を生ずる患者の痛みの処置に用いられて効果を奏しており,被告医薬品も, 同じ効能,効果を有するジェネリック医薬品として,混合性疼痛を生じた患者の痛みの処置に用いられる。 前記の理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と侵害 を奏しており,被告医薬品も, 同じ効能,効果を有するジェネリック医薬品として,混合性疼痛を生じた患者の痛みの処置に用いられる。 前記の理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛との混合性疼痛,線維筋痛症と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものである。 したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,神経障害性疼痛,線維筋痛症を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 具体的には,①被告医薬品が適応症に用いられると,侵害受容性疼痛に も効果を奏すること,②被告医薬品は,添付文書で侵害受容性疼痛とオーバーラップする痛みである神経障害性疼痛,線維筋痛症を効能,効果としていること,③先発医薬品が混合性疼痛に用いられており,被告もそれを知って,ジェネリックとして被告医薬品を実施すること,などの理由により,被告医薬品の処置用途は,本件発明3の痛みに該当する。 被告は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が本件訂正により除外 されたと主張するが,次のとおり除外されていない。 原告は,本件訂正の前後にかかわらず,本件発明3の訂正の根拠となった本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対する本件発明3の化合物の効果を確認できることを一貫して主張していた。 本件訂正前になされた審決の予告は,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験により効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部分について,発明の対象化合物の効果を確認することができないと述べているにすぎず,神経障害性疼痛や線維 件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験により効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部分について,発明の対象化合物の効果を確認することができないと述べているにすぎず,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験の痛みに含まれる部分についてまで,発明 の対象化合物の効果を確認することができないとは判断していないし,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験の痛みが,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛と重複しないという判断もしていない。 よって,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。 (被告の主張)ⅰ 本件特許請求の範囲の記載の文言からすると,本件発明3の技術的範囲は侵害受容性疼痛を対象とするものに限定される。 本件発明3における「炎症を原因とする痛み」という用語及び「手術を原因とする痛み」という用語について,原告は,「炎症」又は「手術」 を「原因」とする限り,直接的な痛みにとどまらず,間接的,さらにはその後相当の時間が経過し別の機序が加わった結果の痛みをも含む旨主張する。 しかし,これらの用語の意味するところは本件明細書の詳細な説明の記載に拠らざるを得ないところ,本件明細書にはこれらの用語それ自体 の記載は存在しない。「炎症を原因とする痛み」という用語及び「手術を 原因とする痛み」という用語に関連する事項で本件明細書に記載されているのは,本件発明4でも用いられている「炎症性疼痛」という用語及び「術後疼痛」という用語のみである。 そうすると,「炎症を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」との用語の意義は,それぞれ,「炎症性疼痛」,「術後疼痛」と同義と解する ほかはない。 他方,これらの用 いう用語のみである。 そうすると,「炎症を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」との用語の意義は,それぞれ,「炎症性疼痛」,「術後疼痛」と同義と解する ほかはない。 他方,これらの用語の通常の意義からは,「神経系の損傷(病変や疾患)」や「線維筋痛症」を意味することは困難であり,その示唆もない。 したがって,これらの本件発明3の用語自体からも,当業者であれば,本件発明3が,侵害受容性疼痛に係るものに限定されていると理解する。 ⅱ 次のとおり,本件明細書の実施例における記載からも,本件発明3が対象とする痛みは侵害受容性疼痛に限定される。 本件明細書には,「炎症による痛覚過敏」に係る本件カラゲニン試験は「侵害受容性閾値」の低下を見るものであることが明記されている。 また,接触異痛に係る本件術後疼痛試験についても「侵害受容応答」を 見るものであることが本件明細書に明記されている。これらによれば,本件明細書には,これらの試験が侵害受容性疼痛に係るものであることが明確に記載されている。このことは,「炎症を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛にほかならないことを意味する。 ⅲ 次のとおり,(炎症を原因とする痛みに係る)カラゲニン試験,(手術を原因とする痛みに係る)術後疼痛試験の試験が「侵害受容性疼痛」に係るものであることは,いわば技術常識である。 カラゲニン試験については,例えば,「皮膚の痛覚過敏における熱侵害受容を測定するための新たな制度の高い方法」と題する論文(英文) (甲44)において,カラゲニン試験を用いて,「神経障害性疼痛」には 効果がないとされているNSAID(インドメタシン)やモルヒネの効果を確認したことが報告されている。すなわち,当該論文に係るカラゲニ いて,カラゲニン試験を用いて,「神経障害性疼痛」には 効果がないとされているNSAID(インドメタシン)やモルヒネの効果を確認したことが報告されている。すなわち,当該論文に係るカラゲニン試験は「侵害受容性疼痛」に対する効果を見るためのものであることが分かる。 また,術後疼痛は侵害受容性疼痛に含まれる痛みの典型例とされてお り,術後疼痛試験が侵害受容性疼痛に係るものであることは技術常識であったことが明らかである。「ウサギにおける近接した傷害による,及び逆方向性の神経の刺激によるポリモーダル侵害受容器の感作の範囲」と題する論文(英文)(甲58)においては,術後疼痛試験に該当する,ポリモーダル侵害受容器(痛みを伝える一次求心神経の1つ)の受容野 (神経支配領域)の外にある皮膚に障害を与える試験を行い,その結果,ポリモーダル侵害受容器の痛み閾値の低下(末梢性感作)が起こることを確認しており,この試験は,明らかに侵害受容器に対する作用を見るための試験である。 これらの試験は,侵害受容性疼痛に係るものであり,ひいては,「炎症 を原因とする痛み」や「手術を原因とする痛み」が,侵害受容性疼痛にほかならないことを意味している。 「混合性疼痛」に関する原告の主張は,本件発明3は「混合性疼痛」を技術的範囲に含むことから,「侵害受容性疼痛」のみならず,「神経障害性疼痛」についても,その技術的範囲に含まれるとの主張と解さ れる。 しかし,「混合性疼痛」という症状が仮に存在するとしても,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とが,いわば「併存」しているにすぎない。 そして,本件発明3は,飽くまで侵害受容性疼痛のみを技術的範囲に含み,神経障害性疼痛を含まないというべきである。 したがって,「混合性疼痛」という症状が仮 わば「併存」しているにすぎない。 そして,本件発明3は,飽くまで侵害受容性疼痛のみを技術的範囲に含み,神経障害性疼痛を含まないというべきである。 したがって,「混合性疼痛」という症状が仮に存在するとしても,被 告医薬品が本件発明3の技術的範囲に入ることはない。 原告は,本件訂正をして本件発明3とするに当たり,本件発明3が対象とする痛みを,侵害受容性疼痛としか理解されない「炎症を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」に限定し,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が本件訂正により除外した。 本件明細書において,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛は,痛みの分類として区別されており,本件訂正の経過からも,本件訂正により,本件発明3が,経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛に係るものを除外し,侵害受容性疼痛に係るものに限定されたことが明瞭にされている。審決もこのような解釈を前提として訂正を認めたものである。 イ被告医薬品は,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の処置における」(構成要件4B)鎮痛剤といえるか(争点4-2)(原告の主張)本件発明4の処置対象となる痛みは,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛 み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」である。 前記アⅰで主張したとおり,本件カラゲニン試験や本件術後疼痛試験は,神経細胞の感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛に対する効果を見たものであることが明らかである。 よって,本件発明4の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれ 果を見たものであることが明らかである。 よって,本件発明4の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる。 そうすると,前記アⅱ,ⅲで主張したのと同様に,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発 明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏 若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 また,前記アで主張したとおり,本件カラゲニン試験,本件術後疼痛試験で確かめられた痛覚過敏や接触異痛の痛みは,原告の定義に照らせば侵害受容性疼痛には当たらないものの,仮にこれらの痛みが侵害受容性疼痛であるとされた場合にも,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と 侵害受容性疼痛との混合性疼痛,線維筋痛症と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものであるから,本件発明4の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,神経障害性疼痛,線維筋痛症を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術 後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 被告は,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が本件訂正により除外されたと主張するが,本件発明4に関し,原告は本件訂正において,訂正前の請求項4から「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」との記載を削除したが,前記アで述べたとおり,本件発明4の痛みは相互に重複す るものであるから,このような本件訂正により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない。 (被告の主張)ⅰ 次のとおり 4の痛みは相互に重複す るものであるから,このような本件訂正により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない。 (被告の主張)ⅰ 次のとおり,特許請求の範囲の文言からすると,本件発明4の技術的範囲は侵害受容性疼痛を対象とするものに限定される。 本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」における「炎症性疼痛」との用語や,術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」における「術後疼痛」との用語は,いずれも「炎症」又は「手術」という「侵害受容器」に作用する「原因」を意味するものである。他方,これらの用語の通常の意義からは,「神経系の損傷(病変や疾患)」や「線 維筋痛症」を意味することは困難であり,その示唆もされない。 また,痛覚過敏や接触異痛は,その原因により,侵害受容性疼痛であることもあれば,神経障害性疼痛であることもあるが,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」や「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は「侵害受容性疼痛」である「炎症性疼痛」や「術後疼痛」を原因とするものであるから,侵害受容性疼痛である。 したがって,これらの本件発明4の用語自体からも,当業者であれば,本件発明4が既に侵害受容性疼痛に係るものに限定されていると理解するというべきである。 ⅱ 前記アⅱで主張したとおり,本件明細書の実施例における記載からも,本件発明4が対象とする痛みは侵害受容性疼痛に限定される。 ⅲ また,前記アⅲで主張したとおり,カラゲニン試験,術後疼痛試験の試験が侵害受容性疼痛に係るものであることは,技術常識である。 ⅳ 本件医薬品は侵害受容性疼痛を対象とするものではないから,本件発明4の技術的範囲に入らない。 混合性疼痛に関する 術後疼痛試験の試験が侵害受容性疼痛に係るものであることは,技術常識である。 ⅳ 本件医薬品は侵害受容性疼痛を対象とするものではないから,本件発明4の技術的範囲に入らない。 混合性疼痛に関する被告の主張は,前記アで主張したとおりである。 原告は,本件訂正をして本件発明4とするに当たり,本件訂正前の請求項4において明示されていた「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」を削除し,侵害受容性疼痛としか理解され難い「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」によるものに限定した。 上記の本件訂正の経過からも,本件明細書において,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とは痛みの分類として区別されており,本件訂正により,本件発明4は,侵害受容性疼痛に係るものに限定されたことが明瞭にされている。 ⑸ 被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点5) (原告の主張) ア均等侵害の第1要件に関し,本件発明3は,本件化合物を慢性疼痛である炎症を原因とする痛み,手術を原因とする痛みの処置に用いることを本質的部分としており,処置対象となる痛みが侵害受容性疼痛であるか,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛であるかは,本質的部分ではない。本件出願日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対しては有効な治療薬が なく,本件化合物を慢性疼痛の処置に用いることも知られていなかったから,技術常識を参酌して,本件発明3の本質的部分を侵害受容性疼痛に限定すべき事情もない。 イ均等侵害の第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いても効果を奏する。 ウ均等侵害の第3要件に関し,本件発明3の化合物を神経障害性疼痛や線維筋痛症 均等侵害の第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いても効果を奏する。 ウ均等侵害の第3要件に関し,本件発明3の化合物を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いることは,被告医薬品の実施時において容易想到である。 エ均等侵害の第4要件に関し,本件出願日当時,本件発明3の化合物を痛みの処置に用いることは全く知られておらず,出願日当時の公知技術から容易 に推考できない。 オ均等侵害の第5要件に関し,前記アで主張したとおり,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。 カよって,仮に本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とす る痛み」が侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,炎症や手術を原因として生ずる痛みについては,本件発明3の均等の範囲に含まれる。 (被告の主張)均等侵害の第1要件について,医薬品の用途発明の本質的部分は,まさしく その「用途」にある。文言侵害の有無において論じたとおり,本件発明3の「用 途」である「炎症を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛としか理解されない。他方,被告医薬品の「用途」は,侵害受容性疼痛とは「原因」において異なるとされる「神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛みの処置」である。したがって,被告医薬品は,本件発明3とはその本質的部分において異なるというべきであり,本件発明3とは均等なものと認められる 余地はない。 ⑹ 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点6)(原告の主張)前記で主張したのと同様の理由で,仮に本 のと認められる 余地はない。 ⑹ 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点6)(原告の主張)前記で主張したのと同様の理由で,仮に本件発明4の「炎症性疼痛による 痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」が侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛における痛覚過敏や接触異痛のうち,炎症性疼痛や術後疼痛については,本件発明4の均等の範囲に含まれる。 (被告の主張) 本件発明4の「用途」である「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は,「侵害受容性疼痛」としか理解されない。他方,被告医薬品の「用途」は,侵害受容性疼痛とは「原因」において異なるとされる「神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛みの処置」である。 したがって,被告医薬品は,本件発明4とはその本質的部分において異なると いうべきであり,本件発明4とは均等なものと認められる余地はない。 ⑺ 本件特許3,4の延長登録には無効理由があるか(争点7)(被告の主張)本件特許3,4との関係において,特許権の存続期間の本件延長登録に係る「処分の対象となった物について特定された用途」は,「帯状疱疹後神経痛」, 「末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)」,「線維筋痛症に伴う疼 痛」又は「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)」である。これらは,いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛に該当し,侵害受容性疼痛とは原因を異にするものである。 また,本件訂正が確定し,本件発明3,4はいずれも侵害受容性疼痛に係る ものに限定 は,いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛に該当し,侵害受容性疼痛とは原因を異にするものである。 また,本件訂正が確定し,本件発明3,4はいずれも侵害受容性疼痛に係る ものに限定された。その結果,本件延長登録に係る「処分の対象となった物について特定された用途」は,いずれも「その特許発明の実施について・・・政令で定めるものを受けることが必要であるもの」には当たらず,延長登録の要件を満たさない。 したがって,本件延長登録は延長登録無効審判により無効とされるべきもの であり,当該延長登録に係る特許権の行使は制限されるべきものである。本件特許権は,本件特許の出願から20年の平成29年7月16日の経過をもって消滅した。 なお,本件発明3,4はいずれも「侵害受容性疼痛」に係るものに限定され,他方,延長登録された特許権の効力の範囲は,「神経障害性疼痛」及び「線維筋 痛症に伴う疼痛」に係る治療剤に限られるから,本件発明3,4の技術的範囲と,延長登録された特許権の効力の範囲とは重ならない(特許法68条の2)。 本件発明3,4には,その効能・効果を「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」とする被告医薬品は含まれない。 (原告の主張) 前記~において述べたとおり,本件発明3,4は,被告医薬品をその技術的範囲又は均等の範囲に含むものである。処分対象物は,被告医薬品と効能,効果が同一であるから,被告医薬品と同様の理由により,処分対象物は,本件発明3,4の技術的範囲又は均等の範囲に含まれる。 したがって,本件延長登録は,本件発明3,4の実施に政令処分を受けるこ とが必要であった場合の出願に対してされたものであり,延長登録無効理由は ない。 第3 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載等本 は,本件発明3,4の実施に政令処分を受けるこ とが必要であった場合の出願に対してされたものであり,延長登録無効理由は ない。 第3 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載等本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。また,本件明細書には,別紙図面のとおりの図面がある。 そして,以下の本件明細書の記載によれば,本件発明1ないし4及び本件訂正発明1,2は,一定の痛みに対して,従来の鎮痛剤では不十分な効果しかなかったり副作用により処置が不完全であったりしたところ,てんかん等の中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用であるとして知られていた化合物が,反復使用による耐性やモルヒネとの交叉耐性が生ずることなく,それらの痛みの処置に対す る鎮痛剤として使用することができることを見出した医薬の用途発明であると認められる。 発明の背景本発明は,痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。 これらの化合物の使用の利点には,反復使用により耐性を生じないことまたはモルヒネとこれらの化合物の間に交叉耐性がないことの発見が包含される。 本発明の化合物は,てんかん,ハンチントン舞踏病,大脳虚血,パーキンソン病,遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。また,これらの化合物は抗うつ剤,抗不安剤 および抗精神病剤としても使用できることが示唆されている。・・・発明の概要本発明は,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛 ,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急 性庖疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢 捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。 化合物は式I (式中,R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル,フェニルまたは炭素原子3~6個のシクロアルキルであり,R2は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩である。・・・ア発明の詳述 本発明は,上記式Iの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘル ペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた,慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID) には,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。・・・イラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン,CI-1008,および 3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果雄性Sprague-Dawley ラット(70~90g)を試験前に少なくとも15分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠 表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から,注射した後肢のリッキング/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)および後期相(10~45分)について示す。 ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100m g/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は,ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を,それぞれ最小有効用量(MED)30および10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら,いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kg で後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。 ウギャバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果試験日 -メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kg で後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。 ウギャバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果試験日にラット(雄性Sprague-Dawley 70~90g)に2~3のベースライン測定を行ったのち,2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後,動物に試験薬物を投与した。 機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。 A.機械的痛覚過敏侵害受容圧閾値を,ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(UgoBasile)を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため,250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下 させ,痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg,皮下)は痛覚過 敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg,皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg,皮下)は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MED はそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。 B.熱痛覚過敏ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreaves モデル を用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に,動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10~100mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は,カラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の有 意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンお 下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の有 意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよびCI-1008 は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MED は30および3mg/kgを示した(図3)。 これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。 エ BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生ずるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain,1988;33:87-107)。 KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生ずる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain,1990;50:355-363)。 オ術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennan ら,1996)。それには,後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては,本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3 -イソブチルギャバの活性を調べ,モルヒネの場合と比較した。 ⅰ 方法BantinandKingmen(Hull ,U.K.)から入手した雄性Sprague-Dawley ラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12時間明暗サイクル(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物 は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロー に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12時間明暗サイクル(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物 は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロースから構成される“Aqua-sorb"床(BetaMedicalandScientific,Sale,U.K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。 ⅱ 手術動物は2%イソフルオランおよび1.4O2/NO2混合物で麻酔し, 鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよび オーロマイシン末で被覆した。手術後,すべての動物において感染の徴候は認められず,創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間後に抜糸した。 ⅲ 熱痛覚過敏の評価熱痛覚過敏はラット足蹠試験(UgoBasile,Italy)を用い,Hargreaves らの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き,後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため,自動カットオフ点を22.5秒に設定した。各動物の両後肢について2 ~3回PWL を測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。装 置は約10秒のPWL が得られるように検量した。PWL(秒)は上述の 5秒に設定した。各動物の両後肢について2 ~3回PWL を測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。装 置は約10秒のPWL が得られるように検量した。PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2,24,48および72時間に再評価した。 ⅳ 接触異痛の評価接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting,Illinois,USA)を用いて測定した。動物は,針金の網の底の ケージに収容して,足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に,この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に,順次力を増大させて(0.7,1.2,1.5,2,3.6,5.5,8.5,11.8,15.1,および29g)フライの毛で触れ,後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または 反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば,後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再試験した。したがって,後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点となった。各動物を,この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラム で記録した。化合物を手術前に投与する場合には,接触痛覚過敏,接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し,各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。 術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には,接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。 ⅴ 統計熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVA に付し,ついでDunnett'st-検定を実施した。フライの毛で得られた接 敏の検査に別個の群の動物を使用した。 ⅴ 統計熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVA に付し,ついでDunnett'st-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMannWhitneyt-検定に付した。 ⅵ 結果 ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれ の侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し,3日間維持された。 実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維持した。 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg /kg,皮下)は,用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し,MED は30mg/kgであった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kgは痛覚過敏の反応を24時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg,皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され,MED は30mg/kgであった (図4c)。30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒネの投与は,用量依存性(1~6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し,MED は1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4a)。 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは, びモルヒネの接触異痛に対する効果接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは,用量依存性に接触異痛の発生を防止し, MED は10mg/kgであった。ギャバペンチン10および30mg/kgの用量はそれぞれ25および49時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し,MED は10mg/kgであった(図5c)。 この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチ ルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1 ~6mg/kg)は,6mg/kgの最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。 手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達 し,以後5~6時間維持された。30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に,侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し,これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。 ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは,すべての実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWL に影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データは示していない)。 ここに たは接触異痛評点におけるPWL に影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データは示していない)。 ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し,モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに, S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。 2 本件出願日当時の知見,技術常識,用語の意味等本件出願日当時の痛みに関する用語の意味や技術常識,知見等は,以下のとおりであった。 神経細胞の感作 ア定義文献「Sensitization 感作正常な入力に対する侵害受容ニューロンの亢進した反応性,および[または]通常閾値以下の入力に対して反応する状態。」(日本ペインクリニ ック学会用語委員会「国際疼痛学会痛み用語 2011版リスト(日本ペインクリニック学会用語委員会翻訳)」,最終アップデート平成24年5月22日。乙19)前記は,本件出願日より後の文献に記載された定義であるが,その文献の性質や本件出願日に異なった定義が用いられていたことをうかがわせ る証拠はなく,本件出願日当時,神経細胞の感作とは,「正常な入力に対する侵害受容ニューロンの亢進した反応性,および[または]通常閾値以下の入力に対して反応する状態」をいうものと認められる。 イ神経損傷による感作について文献 「急性あるいは短期間に る侵害受容ニューロンの亢進した反応性,および[または]通常閾値以下の入力に対して反応する状態」をいうものと認められる。 イ神経損傷による感作について文献 「急性あるいは短期間に続く状態と比較して,持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは,長く持続する痛みのある種の形態を緩和する難しさにあり,これは特に神経損傷に関連する形態についてである[4]。一般的には,これらの問題は傷害による他の結果に加えて,末梢および中枢神経の過敏によって生じ得る。動物についての様々な研究は, 末梢の侵害受容線維の感作が発生し得ること(参照6を見よ)を明らかに示し,さらに最近では,マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する,急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している[9,24,33,34,37]。このようなメカニズムは,痛みを増幅し,持続する痛みの状態の問題に貢献する可能性がある。」 (BrainResearch 518 (1990(平成2)発行)p.218-226。甲46) 前記によれば,本件出願日当時,神経細胞の物理的な損傷によっても神経細胞の感作が生ずることがあることが知られていたことが認められる。 もっとも,神経細胞の物理的な損傷が生じたときには,必ず神経細胞の感作が生じていたこと,神経細胞の物理的な損傷が原因で痛みを感じると きに必ず神経細胞の感作が生じていたという技術常識があったことを認めるに足りる証拠はない。 侵害受容性疼痛ア文献「侵害受容性疼痛は,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による 痛みであり,その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられる。」(内野治人編著「病態生理よりみた内科学」(第3版) 害受容性疼痛は,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による 痛みであり,その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられる。」(内野治人編著「病態生理よりみた内科学」(第3版),平成8年8 月1 日発行,p.652。甲79,乙1)「(1)侵害受容性疼痛組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内 因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛みが侵害受容性疼痛である。この侵害レセプターの過剰な興奮が,痛覚求心系を興奮させて,情動反応を伴う痛みとなる。したがって,刺激となる組織障害に対処し,抗炎症療法を施行し,それらが効果をみる前には,モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能である。」(坪川孝志ら編 「最新脳神経外科学」平成8年5月25日発行,p. 200。甲80)「侵害受容性-侵害受容器の活性化によって発生する痛み。侵害受容器は,中枢神経系を除くすべての組織に存在する。痛みは皮膚や内臓の求心性神経線維の化学的,熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し,急性又は慢性である(体性痛,癌性疼痛,術後疼痛)。」(DavidBorsook ら 編「TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement」 1996(平成8)年発行,p.32-34。乙3)イ前記アによれば,侵害受容性疼痛とは,「組織損傷による機械的な侵害受容器への過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質が侵害受容器を刺激し,その活性化によって発生する痛み」であり,本件出願日当時,その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられていた こと,急性又は慢性の痛みであることが認められ が侵害受容器を刺激し,その活性化によって発生する痛み」であり,本件出願日当時,その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられていた こと,急性又は慢性の痛みであることが認められる。 神経障害性疼痛ア文献「痛みのタイプ(定義)・・・・・ 神経障害性-末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み。進行中の疾病がなくても痛みが持続する(例えば,糖尿病性神経障害)」(DavidBorsook ら編「TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement」1996年(平成8年)発行p. 32-34。乙3) 「神経障害性疼痛神経系の一次的な損傷,あるいはその機能異常が原 因となって生じた疼痛」(HaroldMerskey ら編「CLASSIFICATIONOFCHRONICPAIN」(SecondEdition)1994(平成6)年発行,p.212 甲77,乙8)イ前記アによれば,本件出願日当時,神経障害性疼痛に神経系の一次的な損傷に起因する痛みが含まれることは技術常識であったと認めることができ る。他方で,神経障害性疼痛に,神経系の機能異常が原因となって生じた疼痛を含む見解もあったことが認められる。 線維筋痛症ア文献「線維筋痛症は,慢性的な全身性筋肉痛,数か所における圧痛覚過敏(圧 痛点),筋硬直,睡眠障害及び疲労からなる(1)。米国リウマチ学会(A CR)が提案した線維筋痛症(FM)の分類基準では,FMは,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群に分類されていた。(2)」(ScandJRheumatol 1995(平成7)発行 24:p.360-365。甲26) した線維筋痛症(FM)の分類基準では,FMは,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群に分類されていた。(2)」(ScandJRheumatol 1995(平成7)発行 24:p.360-365。甲26)「FMの疼痛は侵害受容性の痛みではなく,部位の特定されない神経障害性ないし中枢性疼痛とされており,いわゆる中枢性感作が成立し,中枢 感作症候群(centralsensitizationsyndrome: CSS)のひとつである。」(一般社団法人日本線維筋痛症学会,国立研究開発法人日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班編「線維筋痛症診療ガイドライン2017」,平成29年10月20日発行p10 乙18)イ前記アから,少なくも平成29年には,線維筋痛症は侵害受容性の痛みで はないことが技術常識となっていたと認められる。 痛覚過敏ア定義本件出願日当時,痛覚過敏とは,「痛覚過敏通常は痛い刺激に対する増大した応答痛覚過敏は,閾値を超えた刺激への増加した応答を反映す る。・・・現在の証拠は,痛覚過敏が末梢又は中枢の感作あるいはその両方に伴う侵害受容系の混乱の結果であることを示唆している。」(HaroldMerskeyら編「CLASSIFICATIONOFCHRONICPAIN」(SecondEdition)1994(平成6)年発行p.211 甲77,乙8)と認識されていたと認められる。 イ痛覚過敏の機序等についての文献 「末梢組織の損傷に続いて生ずる痛覚過敏は,損傷付近の一次求心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)[1,2,23],および,脊髄におけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる[35,38]。中枢性感作は侵害受容の求心性入力によって引き起こされ[30,41] 受性の増大(末梢性感作)[1,2,23],および,脊髄におけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる[35,38]。中枢性感作は侵害受容の求心性入力によって引き起こされ[30,41],閾値の長期的減少,範囲の拡大,後角ニューロンの皮膚受容野の応答 性の増大[3,6,14,25,40]となって現れる。」(Pain 44 (1991(平 成3)発行p.293-299 甲39)「末梢神経の病変に続いて,痛覚過敏や接触異痛,そして自発痛の状態が発生する。前述のとおり,損傷した神経で生ずるこのような継続的な繰り返しの活動は,定常的な疼痛状態だけではなく,後角の感作をも生じさせうる。」(StevenD. Waldman ら編「InterventionalPainManagement」, 1996(平成8)年発行 p.19-32 甲86)「侵害刺激への増加した感受性(痛覚過敏)及び通常は痛くない刺激に対する痛みの知覚(異痛)によって特徴付けられる神経障害性疼痛は,治療が難しい。行動的に定義される痛覚過敏や異痛は,末梢の神経障害や組織の炎症などを含む,様々な亜急性の動物モデルで生ずる。モデルは急増し ているけれども,神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる痛覚過敏の脊髄での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊髄でのN-メチル-Dアスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存して痛覚過敏を生ずるという強い証拠がある。そのため,NMDAレセプターアンタゴニ ストのクモ膜下腔内注射は,これらのモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射により長く続く神経障害性疼 Aレセプターアンタゴニ ストのクモ膜下腔内注射は,これらのモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射により長く続く神経障害性疼痛の患者の痛覚過敏や異痛が減少するという事実は,これらのモデルが臨床と関係することを示す。」(AnesthesiologyV83, No.5 (1995(平成7))発行p.1046-54 甲146) 「前記の疼痛モデル類を用いて,系統的な研究が実施されている。急性,痛覚過敏及び異常痛症の疼痛状態に対する,さまざまな薬剤類の効果が表3-3(判決注:別紙表3-3)に示されている。」(StevenD. Waldmanら編「InterventionalPainManagement」1996(平成8)年発行,p.19- 32 甲86,乙6) ウ前記ア,イ,によれば,本件出願日当時,末梢神経又は(及び)中枢 神経の感作が生ずると,痛覚過敏が生じ得ること,痛覚過敏の症状が現れるときには,末梢神経又は(及び)中枢神経の感作または機能異常が生じていることが有力な仮説として論じられていたことが認められる。しかし,本件出願日当時,あらゆる痛覚過敏について,これが,末梢神経又は(及び)中枢神経の感作によって生じているとの技術常識が確立していたことまでを 認めるに足りる証拠はない。 また前記イによれば,神経損傷によるものも炎症反応によるものも問わず,痛覚過敏でヒトが痛みを感じるまでの機序で,脊髄のNMDAレセプターが関与していることが有力な仮説として議論されていたこと,このことを前提に,NMDAレセプターアンタゴニストが前記両機序による痛覚過敏に 有効である可能性があると論じられていたことが認められる。しかし, いることが有力な仮説として議論されていたこと,このことを前提に,NMDAレセプターアンタゴニストが前記両機序による痛覚過敏に 有効である可能性があると論じられていたことが認められる。しかし,本件出願日当時,NMDAレセプターアンタゴニストがあらゆる痛覚過敏に有効であるとの技術常識が確立していたことまでを認めるに足りる証拠はない。 前記イによれば,本件出願日当時,痛覚過敏のモデルとして,少なくともホルマリン試験後期相(後記ア参照)とベネットモデル(座骨神経を4 つの結紮で緩やかに圧迫し,その結果生ずる熱痛覚過敏を観測するモデル。 外科的神経障害のモデルとされていた。甲86,乙6)があり,これらのモデルの一方で有効な薬物が他方では必ずしも有効ではないことが知られていたことが認められる。 原告は,前記イについて,シクロオキシゲナーゼ阻害薬に関する有効性 の差異が,同薬物がNSAIDとしてホルマリン試験の初期相に効果を奏する結果であると主張するが,ホルマリン試験初期相にNSAIDが有効でないことが知られていたことは後記アのとおりであり,また,同文献で比較対象とされたその他の薬物に関する反応性の違いについても両試験が異なる機序の痛覚過敏に対応していること以外に合理的な説明が可能であるこ とを基礎付ける技術常識があったことを認めるに足りる証拠もない。 接触異痛本件出願日当時,接触異痛は,「異痛症通常痛みを引き起こさない刺激による痛み。」(HaroldMerskey ら編「CLASSIFICATIONOFCHRONICPAIN」(SecondEdition)1994(平成6)年発行 p.211 甲77,乙8)と認識されていたと認められる。 術後疼痛ア本件出願日当時,術後 OFCHRONICPAIN」(SecondEdition)1994(平成6)年発行 p.211 甲77,乙8)と認識されていたと認められる。 術後疼痛ア本件出願日当時,術後疼痛について,「術後疼痛 postoperativepain 切開創の痛み,あるいは内蔵痛や術中体位の影響による関節・筋・腰痛などが総合されてその原因となる。術後1~2日後まで特に痛みが激しいが,抜糸まで続くものである。... 治療は,一般に麻薬性鎮痛薬,ペンタゾシンやブ プレノルフィンなど非麻薬性鎮痛薬,解熱性鎮痛薬が投与される。」(後藤稠ら編「最新医学大辞典」(第2版)平成9年7月20日(2版2刷)発行,p.231, 311, 645, 766, 825, 1569,なお,2版1刷は平成8年3月31日発行である。甲78)と認識されていたと認められる。 イ術後疼痛は,前記アで侵害受容性疼痛の一例として挙げられていたと おり,侵害受容性疼痛の一種として分類されていた(乙3)。 ホルマリン試験アホルマリン試験とは,ラット等の足にホルマリンの希釈液を注射し,当該部位をラット等がなめたりかんだりする反応の頻度を時間経過に応じて観察する試験である。ホルマリンによって注射部位に痛みが生じており,なめ たりかんだりする頻度は痛みに依存していると考えられており,痛みや薬剤の鎮痛作用に関する動物モデルとして開発された。従来の痛みに関する動物モデルは,いずれも瞬間的な刺激に対するものであったが,ホルマリン試験による刺激は30分以上持続するため,従前よりも持続する痛みに関するモデルとして有用であると考えられていた。(甲2,43) ホルマリン試験では,ホルマリンの注射後,ラット等の反応が,いったん 増大してピー するため,従前よりも持続する痛みに関するモデルとして有用であると考えられていた。(甲2,43) ホルマリン試験では,ホルマリンの注射後,ラット等の反応が,いったん 増大してピークに達した後,減少し(初期相),再度反応が増大してその後減少する(後期相)ことが知られていた。この点につき,非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるインドメタシンは,後記相における反応を低下させるが,初期相には効果を有しないことが知られていた。(甲45)また,ホルマリン試験の後期相は,痛覚過敏のモデルとしても知られてい た。(甲64,乙6)イ後期相におけるラット等の反応の機序について文献ⅰ 「ホルマリンへの応答は,初期相と後期相を示す。初期相は主に末梢刺激によるC-線維活性化によって引き起こされるように思われるが, 後期相は,末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組み合わせに依存するように思われる。これらの機能的変化は,初期段階のC線維の集中砲火(barrage)によって開始されるようである。」(PainReviewArticle 51 (1992(平成4)年発行)p.5-17 甲45)ⅱ 「ホルマリン誘発性の行動の第1相は,ホルマリン誘発性のC線維の 一次求心性侵害受容器の活性化を反映しており,第2相は,第1相の間の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か,炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か,またはその両方の組合せ[2,15]であるとの仮説が立てられてきた[2,5,13]。ホルマリンに対する行動反応の第2 相への末梢性侵害受容作用の寄与については,議論が引き起こされている。」(NeuroscienceLetters との仮説が立てられてきた[2,5,13]。ホルマリンに対する行動反応の第2 相への末梢性侵害受容作用の寄与については,議論が引き起こされている。」(NeuroscienceLetters 208 (1996(平成8)年4月12日発行) p.45-48。甲48)前記によれば,本件出願日当時,ホルマリン試験後期相の機序について,初期相により脊髄後角ニューロンが感作した結果か,炎症による侵害 受容器の活性化の結果か,またはその両方の組み合わせであるとの仮説 が有力に議論されていたが,そのいずれが原因であるかについては,技術常識が確立していなかったと認められる。 カラゲニン試験アカラゲニン試験とは,ラット等にカラゲニンを注射し,その後,当該部位付近に圧力等の機械的な刺激や熱等の刺激を加え,ラットが回避運動をした ときの刺激の強度を観測する試験である。カラゲニンを投与すると,投与していない場合に比べて小さな刺激で回避行動をとる(行動をとる刺激の強度の閾値が低下する)ため,皮膚の痛覚過敏のモデルとして知られていた。(甲44。なお,当該定義からすると,この「痛覚過敏」には,「接触異痛」を含む趣旨であると解される。)) カラゲニンは,投与された場所で炎症反応を誘発し,その後,痛覚過敏が生ずることが知られており,モルヒネ又はNSAID の一種であるインドメタシンを投与しておくと,ラットの前記回避反応が抑制されることが知られていた。(甲44,56,57)イカラゲニン試験における痛覚過敏の機序について 文献「これらの結果は,末梢の炎症に続いて,脊髄の伝達及び調節システムの両方で機能的変化が発達することを実証した。μアゴニストであるモルヒネで,オピオイドアゴニストの抗侵害受容 文献「これらの結果は,末梢の炎症に続いて,脊髄の伝達及び調節システムの両方で機能的変化が発達することを実証した。μアゴニストであるモルヒネで,オピオイドアゴニストの抗侵害受容性の変動が生じ,大きな変化を示した。」「おそらく,炎症の発達は,脊髄ニューロンの過興奮における 閾下での変化に随伴し,これにより観察された変化が生ずる。遅いEPSPの合計が,これらの細胞のワインドアップの基礎となることが示されている。(Thompsonetal. 1990)。ESPSの構築といったイベントと,十中八九IPSPとが,末梢の炎症に続いて,脊髄での伝達及び調節におけるこれらの変化を生ずるもっともな説明となる。」(Pain 50 (1992(平 成4)年発行p.345-354 甲57) 前記によれば,本件出願日当時,学術論文においてカラゲニン試験では炎症反応に続いて脊髄の伝達及び調節システムの両方において機能的変化が生じていることが報告されていたことが認められる。 術後疼痛試験ア術後疼痛試験とは,ラット等の皮膚を切開し,その後,フォン・フライの 毛を用いた機械的な刺激や熱等の刺激を加えて回避行動を観測する試験であり,痛覚過敏のモデルとして知られていた。(甲15,58)イ術後疼痛試験における痛覚過敏の機序について文献等ⅰ 「本モデル(判決注:術後疼痛モデル)により,手術による感作のメ カニズムを理解し,ヒトの術後疼痛の新しい治療法を調査できるであろう。」(Pain 64 p.493 (1996 Mar.(Pain 64 (1996(平成8)年発行)p.493-501 の書誌情報による))(甲15)ⅱ 「損傷部位での痛覚過敏の他に,それまでに損傷を受けていない皮膚上にも痛 (1996 Mar.(Pain 64 (1996(平成8)年発行)p.493-501 の書誌情報による))(甲15)ⅱ 「損傷部位での痛覚過敏の他に,それまでに損傷を受けていない皮膚上にも痛みの領域がその周りに発生し(Lewis, 1935-36),これも多モ ード侵害受容器感作に関連している可能性があるようである。 ここで述べられる実験は,多モード侵害受容器がそれらの受容野外での侵害刺激によって感作され得るかどうかを立証するために行われた。 Perl ら(1974)は,広範囲の皮膚の傷害は損傷場所からいくらかの距離の受容野を持つ多モード侵害受容器の自然発火をもたらし得ることを 指摘したが,感作の定量的な測定はなされなかった。」(J. Physiol. 297(1979(昭和54)年発行) p.208 甲58)前記によれば,本件出願日までに,学術論文では,術後疼痛試験によって神経細胞の感作が生ずることを前提として議論がされていたことが認められる。 3 本件特許1,2には,無効理由2があるか(争点1-2)について 構成要件1B’は,「痛みの処置における」鎮痛剤と規定されており,その文言上,対象とする痛みを限定していない。本件発明2も,本件発明1を引用した上で,「鎮痛剤」と規定するのみで,対象とする痛みの種類を限定していない。 本件明細書には,発明の概要において,「本発明は,以下の式Ⅰの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。」と記載 し,続いて,「このような障害にはそれらに限定されるものではないが」と記載した上で「炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性庖疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢 な障害にはそれらに限定されるものではないが」と記載した上で「炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性庖疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群 が包含される。」として,種々の痛みを列挙している。 これらの記載からすると,本件発明1,2が対象とする「痛み」には,種類の限定がなく,少なくとも,本件明細書に包含するとして記載された上記の各種の痛みを含むと認められる。 本件発明1,2が,本件明細書の発明の詳細に記載された発明であるといえ るか検討すると,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時 の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 本件発明1,2は,前記で認定した痛みに対し,従前知られていた化合物が,一定の痛みの処置に対する鎮痛剤として使用することができることを見出した医薬の用途発明であると認められ,その課題を解決できると認識するため には当業者が当該化合物の当該痛みに対する有効性を認識できる必要がある。 本件出願日において,前記2のとおり,痛みには様々な種類があること,痛みの種類により痛みの発生する機序が異なることが知られていた。そして,本件明細書に する有効性を認識できる必要がある。 本件出願日において,前記2のとおり,痛みには様々な種類があること,痛みの種類により痛みの発生する機序が異なることが知られていた。そして,本件明細書において,本件発明1,2で規定されている化合物に属する化合物の痛みに対する有効性を確認した試験は,本件3試験のみであり,他に,その化合物について,本件明細書に包含するとして記載された各種の痛みに効果がある ことを裏付ける記載はない。そして,本件3試験でされたホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験について,前記2~⑽のとおりのことが知られていたが,このことを考慮しても,痛みには様々な種類がある状況で,本件3試験において効果が示された場合に,本件明細書で示された各種の痛みについて効果があったと認識することができたと認めることはできないし,また,上 記を認識することができたとする技術常識があったことを認めるに足りる証拠もない。 原告は,本件発明1,2が対象とする痛みは慢性疼痛であるとした上で,あらゆる慢性疼痛は神経細胞の感作によって生ずること,当業者は本件明細書の記載によって,試験化合物が神経細胞の感作によって生ずる痛みに効果を奏す ることを理解できることなどを主張する。 しかし,あらゆる慢性疼痛が神経細胞の感作によって生ずることを認めるに足りる証拠はない。(なお,侵害受容性疼痛は,急性疼痛にも,慢性疼痛にもなり得るが,少なくとも侵害受容性疼痛は神経細胞の感作を機序とするものではない(前記2イ)。) また,原告は,慢性疼痛は,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとした上で,本件明細書の各記載を指摘するなどした上で,本件発明1,2で規定されている化合物が神 疼痛は,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとした上で,本件明細書の各記載を指摘するなどした上で,本件発明1,2で規定されている化合物が神経細胞の感作に作用することにより直接効果を奏すると理解することができると主張する。 しかし,あらゆる慢性疼痛が痛覚過敏や接触異痛の痛みであることを認める に足りる証拠はない(なお,侵害受容性疼痛には,慢性疼痛となるものがある(前記2イ)が,このとき必ず痛覚過敏又は接触異痛を伴うことを認めるに足りる証拠はない。)から,原告の上記主張は,本件発明1,2が,本件明細書の発明の詳細に記載された発明であるかの点においては,前提を欠き,採用することができない。なお,全ての痛覚過敏や接触異痛の痛みに対して本件発明 1,2で規定されている化合物が効果を奏することが本件明細書に記載されているともいえないことは,後記4で検討するとおりである。 ⑷ これらによれば,本件発明1,2は発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえず,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識でき る範囲のものであるともいえない。よって,本件発明1,2は本件明細書の発明の詳細に記載された発明であるとはいえないから(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号),本件発明1,2に係る特許には特許無効審判により無効とされるべき事情があると認められる。 4 本件訂正発明2について(対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による, 痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B))とすることは新規事項の追加でないか(争点2-2-2)について)本件訂正発明2は,「神 て(対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による, 痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B))とすることは新規事項の追加でないか(争点2-2-2)について)本件訂正発明2は,「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」を対象とする鎮痛剤である。 ここで,「神経障害」という文言や神経障害性疼痛についての当時の技術常 識や,「神経障害・・による,・・・痛み」という文言から,「神経障害・・による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」とは,神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏及び接触異痛を意味するものと解される。 そうすると,本件訂正発明2は,神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏又は接触異痛,並びに,線維筋痛症を原因とする痛覚過敏又は接触異痛に係るもの であると認められる。 本件訂正発明2が,本件明細書に記載した事項の範囲内(特許法134条の2第9項,126条5項)といえるか検討すると,本件明細書で本件訂正発明2が規定する化合物に当たる化合物が効果を奏するものであることを具体的に基礎付けているのは,本件3試験のみである。そこで,以下,本件出願日における技術常識を前提として,本件3試験によって,当該化合物が神経障害性 疼痛に分類される痛覚過敏及び接触異痛,並びに,線維筋痛症を原因とする痛覚過敏及び接触異痛に効果を奏するものであるかを検討する。 本件ホルマリン試験について前記2⑻アのとおり,本件出願日当時,ホルマリン試験の後期相は,痛覚過敏のモデルとして知られていたことが認められる。 しかし,本件出願日当時,あらゆる痛覚過敏が神経障害性疼痛に分類されるものであるとの技術常識や,ホルマリン試験の後期相が神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏全般に係るモデルであるとの技術常識があった しかし,本件出願日当時,あらゆる痛覚過敏が神経障害性疼痛に分類されるものであるとの技術常識や,ホルマリン試験の後期相が神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏全般に係るモデルであるとの技術常識があったと認めるに足りる証拠はない。同様に,本件出願日当時,線維筋痛症による痛覚過敏が神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏に当たること,ホルマリン試験の後期相が線 維筋痛症を原因とする痛覚過敏のモデルであることが技術常識であったと認めるに足りる証拠もない(前記2参照)。 そうすると,本件出願日当時,当業者は,本件ホルマリン試験における有効性が確認された化合物が,神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏,線維筋痛症に分類される痛覚過敏の全般について,有効であると理解することはできない。 すなわち,本件出願日当時,神経障害性疼痛は,神経系の一次的損傷に起因する痛みとされていたが,神経系の損傷に加えて,その機能異常による痛みも神経障害性疼痛に含める見解もあった(前記2)。そして,ホルマリン試験の後期相のメカニズムについて,学術論文において,初期相により後角ニューロンが感作した結果か,炎症による侵害受容器の活性化の結果か,またはその両 方の組み合わせであるとの説が提唱されていた(同イ)。ホルマリン試験 の後期相は,痛覚過敏に関するモデルであることが知られていたのであるから,仮にホルマリン試験の後期相発現の機序が,脊髄後角ニューロンが感作した結果であれば,これは神経系の機能異常による痛みに当たるといえる余地もあり,その場合には,ホルマリン試験の後期相における痛みの機序は,神経障害性疼痛の範囲を広く解する前記の見解を前提にすると,神経障害性疼痛の少なくと も一部の機序と同一であるといえる余地があった。 しかし,上記に記載し ン試験の後期相における痛みの機序は,神経障害性疼痛の範囲を広く解する前記の見解を前提にすると,神経障害性疼痛の少なくと も一部の機序と同一であるといえる余地があった。 しかし,上記に記載したホルマリン試験後期相の機序は,学術論文において,あり得る複数の機序として議論されているもののうちの一つにすぎず,そのうちのどの機序が原因であるかについては,技術常識が確立していなかった(同イ)。また,上記提唱されていた複数の機序の中には,ホルマリン試験後期相 のメカニズムが炎症による侵害受容器の活性化の結果(これは,炎症による,侵害受容器の活性化による反応であるから,侵害受容性疼痛を意味するものと解される。)であるとの説も含まれていた。仮にホルマリン試験後期相発現の機序が炎症に誘発された侵害受容器の活性化によるものであった場合には,ホルマリン試験後期相は炎症による侵害受容性疼痛に係るモデルということに なる。実際,ホルマリン試験後期相の反応には,抗炎症薬(炎症反応を抑えることによって侵害受容性疼痛を緩和する薬物)であるインドメタシンが有効であることが確認されていた(同ア)。これらからすると,少なくとも,ホルマリン試験後期相に効果があることのみをもって,当該化合物が侵害受容性疼痛ではなく神経障害性疼痛に有効であるとはいえなかった。 さらに,神経障害性疼痛には,本件出願日当時,神経系の一次的損傷に起因する痛みを含むことは技術常識であったといえるが(同イ),ホルマリン試験がこの類型の神経障害性疼痛にまで対応していると理解されていたと認めるに足りる証拠はない。本件出願日当時,神経細胞の損傷により神経細胞の感作が起こり得ることは知られていたが(同イ),このことをもって,神経細胞 に損傷が生じて痛みが生じているときには と認めるに足りる証拠はない。本件出願日当時,神経細胞の損傷により神経細胞の感作が起こり得ることは知られていたが(同イ),このことをもって,神経細胞 に損傷が生じて痛みが生じているときには,必ず神経細胞の感作が生じ,これ が直接の原因で痛みが生じているとの技術常識があったとはいえないし(同イ),神経細胞に損傷が生じているときにも神経細胞の感作を緩和することのみで痛みを抑えることができることが技術常識であったともいえない。かえって,神経損傷による痛覚過敏の動物モデルとして知られていたベネットモデルやホルマリン試験後期相では,一方で有効とされた薬物が必ずしも他方で有 効とはならないことが知られており(同ウ),当業者は,少なくともホルマリン試験後期相が,あらゆる神経障害性疼痛に対応したモデルであるとは理解していなかったと認められる。 カラゲニン試験カラゲニン試験は,痛覚過敏のモデルとしても知られており(前記2ア), その際,末梢組織での炎症反応に続いて,脊髄の伝達及び調節システムの両方で機能的変化が生じていることが報告されていた(前記2⑼イ)。このことからすると,カラゲニン試験では,神経細胞の機能的障害がカラゲニン試験における動物の反応に関与していると解することもできる。 しかし,痛覚過敏については,ホルマリン試験第2相で観察されるものとベ ネットモデルで観察されるものとの少なくとも2種類のものがあることが報告されていた(前記2ウ)。そして,本件出願日当時,神経障害性疼痛がこのうちの一方の痛覚過敏のみに対応する痛みであり,カルゲニン試験が当該痛みのモデルとして機能する試験であるとの技術常識があったと認めるに足りる証拠もない。よって,当業者は,少なくともカラゲニン試験があらゆる神経 障 みに対応する痛みであり,カルゲニン試験が当該痛みのモデルとして機能する試験であるとの技術常識があったと認めるに足りる証拠もない。よって,当業者は,少なくともカラゲニン試験があらゆる神経 障害性疼痛に対応したモデルであるとは理解していなかったというべきである。 他方,カラゲニン試験については,抗炎症薬であるインドメタシンの有効性が確認されていた(前記2ア)。抗炎症薬が神経障害性疼痛に有効とされていなかったこと(甲74,弁論の全趣旨。なお,甲74は(2018(平成3 0年)年の治療ガイドラインではあるが,当時においても抗炎症薬の有効性は 確立していないとされていた。また,糖尿病性神経障害は神経障害性疼痛に分類されていたが(同ア),アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬は糖尿病性神経障害に対してほとんど治療効果がないとされていた(乙3)。),抗炎症薬は炎症反応を抑える薬物であり,炎症反応を原因とする侵害受容性疼痛に有効であるといえるが(同参照),神経障害性疼痛の機序(同参照)を 前提にすると,炎症反応の緩和が神経細胞の損傷,機能的変化に直接関連するものとはいえず,同薬物が神経障害性疼痛を直接緩和することを想定することは難しいといえることからしても,ある化合物がカラゲニン試験に有効であることのみをもって,それが神経障害性疼痛に有効であるとは認められない。 そして,以上に述べたところと同様の理由で,カラゲニン試験が線維筋痛症 を原因とする痛覚過敏のモデルであることが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。 術後疼痛試験術後疼痛試験は,痛覚過敏のモデルとしては知られていたものの(前記2ア),それを超えて,その機序について技術常識が存在したとは認められない。 学術論文においては 拠はない。 術後疼痛試験術後疼痛試験は,痛覚過敏のモデルとしては知られていたものの(前記2ア),それを超えて,その機序について技術常識が存在したとは認められない。 学術論文においては,術後疼痛試験で痛覚過敏が生ずる機序として神経細胞の感作の関与を前提に議論されていたことは認められるものの(同イ),本件出願日当時,術後疼痛は侵害受容性疼痛に分類されていたのであって(同⑺イ),術後疼痛による痛覚過敏が神経細胞の感作によって生ずることが技術常識であったとまでは認められない。 なお,仮に術後疼痛試験を神経細胞の感作によって生ずる痛覚過敏のモデルであると理解したとしても,痛覚過敏については,ホルマリン試験後期相で観察されるものとベネットモデルで観察されるものの少なくとも2種類のものがあることが報告されていた(前記2)。そして,神経障害性疼痛がこのうちの一方の痛覚過敏のみに対応する痛みであり,術後疼痛試験が当該痛みのモ デルとして機能する試験であるとの技術常識があったと認めるに足りる証拠 もない。当業者は,少なくとも術後疼痛試験があらゆる神経障害性疼痛に対応したモデルであると理解することはなかったというべきである。 同様に,術後疼痛試験が線維筋痛症を原因とする痛覚過敏のモデルであることが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,本件3試験において,特定の化合物がそれぞれの試験単体に 有効であったことをもって,本件出願日当時,当業者が,あらゆる類型の神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏に有効であると理解することはできないし,これらの試験を組み合わせても,そのように理解することができるとの技術常識があったとは認められない。線維筋痛症による痛みについても同様である。 本件明細書に,他に 効であると理解することはできないし,これらの試験を組み合わせても,そのように理解することができるとの技術常識があったとは認められない。線維筋痛症による痛みについても同様である。 本件明細書に,他に,当業者が,あらゆる類型の神経障害性疼痛に分類される 痛覚過敏及び接触異痛,線維筋痛症による痛覚過敏及び接触異痛に有効であると理解することを基礎付ける記載があるともいえない。 原告の主張についてア原告は,①NMDAやケタミン等に関する知見により,あらゆる痛覚過敏及び接触異痛は,神経細胞の感作によって生ずるものであり,感作を抑制す れば原因にかかわらず痛みを治療できることが知られていたこと,②炎症や神経障害といった痛みの原因で痛みを区別できないことから,③当業者は,実験的疼痛状態を生じさせる動物またはヒトの疼痛モデルの症状に着目して神経障害性疼痛や線維筋痛症の研究を行っていたのであり,④このようなモデルに当たる本件3試験で有効性が確認されれば,当業者は本件訂正発明 2の化合物が神経障害性疼痛及び線維筋痛症に有効であることを理解すると主張する。 ここで,①について,本件出願日当時,炎症性反応及び神経損傷のいずれを原因にするかを問わず,脊髄のNMDAレセプターを阻害することで痛覚過敏が緩和する可能性があることが論じられていた(前記2⑸ウ)。 しかし,このことが,仮に,あらゆる痛覚過敏が脊髄のNMDAレセプタ ーを阻害すれば感作を抑制して治療できることを意味しているとしたとしても,特定の化合物が痛覚過敏を発現する動物モデルに効果があることのみからは,その効果がNMDAレセプターを阻害するなどして感作を抑制した結果であるのか,痛覚過敏の原因から痛みの発現までの上記以外の機序に作用した効果によるものであ する動物モデルに効果があることのみからは,その効果がNMDAレセプターを阻害するなどして感作を抑制した結果であるのか,痛覚過敏の原因から痛みの発現までの上記以外の機序に作用した効果によるものであるか判別できない。そうすると,特定の化合物が 何らかの痛覚過敏の動物モデルにおいて有効であったことのみでは,原告が主張する感作の抑制といった作用機序とは異なる,神経障害性疼痛と直接結びつかない機序によって効果を奏した可能性を排除できないから(なお,例えば,インドメタシンはホルマリン試験の後期相及びカラゲニン試験で発現する痛覚過敏に有効であることが知られていたが,神経障害性疼痛による痛 覚過敏に有効とは考えられていなかった(前記参照)。),当業者が,本件試験化合物についてあらゆる痛覚過敏及び接触異痛に効果があると理解することはない。 また,②痛みの原因によって痛みを区別できないことが認められるとして,そのことは,痛みの原因に応じたモデルを構築することの困難性,ひいては, やむを得ず複数の原因によって生じた複数の種類の痛みが混在するモデルを用いざるを得なくなることの根拠等になるとしても,ある一つのモデルにおいて有効であることが,あらゆる原因による痛みに有効であることの根拠はならないと解される。②を根拠として,本件3試験で有効性が確認されれば,当業者は本件訂正発明2の化合物が神経障害性疼痛及び線維筋痛症に有 効であることを理解するとの原告の主張は採用することができない。 イまた,原告は,本件明細書では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分なことのある麻薬性鎮痛剤であるモルヒネを比較例として,試験化合物につき本件術後疼痛試験を行い,試験化合物がモルヒネよりも有効であること,神経障害性疼 痛みに対して効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分なことのある麻薬性鎮痛剤であるモルヒネを比較例として,試験化合物につき本件術後疼痛試験を行い,試験化合物がモルヒネよりも有効であること,神経障害性疼痛に有効なギャバペン チンを比較例として,本件3試験によって試験化合物がギャバペンチンと同 じ作用により,より優れた効果を有することが確認されているから,当業者は,試験化合物が,神経障害性疼痛を含むあらゆる慢性疼痛に有効であると理解すると主張する。 しかし,術後疼痛試験は,あらゆる神経障害性疼痛に対応できるモデルとして理解されていたとはいえない(前記)。また,試験化合物がモルヒネよ りも効果が高かったとしても,ある化合物より効果が高いことのみをもってそれが別の作用機序によって有効であると認めることはできないし,本件術後疼痛試験への有効性を示す作用機序が,モルヒネによる作用機序と神経障害性疼痛に係る作用機序の二者択一であるとの技術常識があったとも認められないから,そのことをもって,試験化合物が当該動物モデルにおいて, 麻薬性鎮痛薬たるモルヒネと異なる作用機序を持ち,神経障害性疼痛に有効であると認めることはできない。 原告は,ギャバペンチンについて,同化合物が神経障害性疼痛に有効であることが知られていたと主張するが,ギャバペンチンがあらゆる神経障害性疼痛に有効であるとの技術常識が存在したと認めるに足りる証拠はない。ま た,仮にギャバペンチンがあらゆる神経障害性疼痛に有効であったとしても,本件3試験でギャバペンチンが有効であり,試験化合物も本件3試験で有効だったことのみでは,両化合物の本件術後疼痛試験に係る作用機序が同一であるかは判断できないのであるから,試験化合物についてまであらゆる神経障害性疼痛に有効 が有効であり,試験化合物も本件3試験で有効だったことのみでは,両化合物の本件術後疼痛試験に係る作用機序が同一であるかは判断できないのであるから,試験化合物についてまであらゆる神経障害性疼痛に有効であると理解できるともいえない。 以上のとおりであって,当業者は,本件出願日当時,技術常識を参酌しても,本件3試験の結果から,本件訂正発明2の化合物があらゆる類型の神経障害性疼痛に分類される痛覚過敏及び接触異痛,線維筋痛症による痛覚過敏及び接触異痛に有効であることが記載されていると理解することはできないし,他に本件明細書にこのことを基礎付ける実験結果等の具体的な根拠が記載されている ともいえない。 そうすると,本件明細書に,本件訂正発明2の化合物があらゆる神経障害性疼痛に当たる痛覚過敏及び接触異痛,並びに,線維筋痛症による痛覚過敏及び接触異痛に効果があることが記載されているとはいえないし,それが記載されているに等しいともいえない。本件訂正が,対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件2B)とすることは,本件明細書,特許請求の範囲 に記載した事項の全ての記載を総合しても導き出すことができない技術的事項を含むものに訂正することになるから,本件明細書に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項の範囲内においてする訂正であるということはできない(特許法134条の2第9項,126条5項)。 よって,本件訂正は,新規事項を追加するものであり,訂正要件を満たさず,本件訂正発明2に係る訂正の再抗弁は認められない。 5 本件訂正発明1について(対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1 ,本件訂正発明2に係る訂正の再抗弁は認められない。 5 本件訂正発明1について(対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とすることは新規事項の追加ではないか(争点2-2-1)について) 本件訂正発明1は,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」を対象とする鎮痛剤である。その文言上,その技術的範囲には,本件訂正発明2の「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」を対象とする鎮痛剤を含むことは明らかである。本件明細書にもこの解釈と矛盾する記載はないから,本件訂正発明1の技術的範囲には本件訂正発明2の技術的範囲が含まれると解される。そして, 前記4で説示したとおり,本件明細書に本件訂正発明2の化合物があらゆる神経障害性疼痛に当たる痛覚過敏及び接触異痛,並びに,線維筋痛症による痛覚過敏及び接触異痛に効果があることが記載されていると理解することはできず,他に本件明細書にこのことを基礎付ける実験結果等の具体的な根拠が記載されているともいえない。このことに,本件訂正発明1の技術的範囲には本件訂正発明2 の技術的範囲が含まれると解されることを考慮すると,本件明細書に,本件訂正 発明1の化合物があらゆる痛覚過敏及び接触異痛に効果があることが記載されているとはいえないし,それが記載されているに等しいともいえない。 そうすると,本件訂正が,対象となる痛みを「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」(構成要件1B)とすることは,本件明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した全ての記載を総合しても導き出すことができない技術的事項を含むものに訂 正することになるから,本件明細書に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項の範囲内においてする訂正であるということは 術的事項を含むものに訂 正することになるから,本件明細書に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項の範囲内においてする訂正であるということはできない(特許法134条の2第9項,126条5項)。 よって,本件訂正は,新規事項を追加するものであり,訂正要件を満たさず,本件訂正発明1に係る訂正の再抗弁は認められない。 6 被告医薬品は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における」(構成要件3B)鎮痛剤といえるか(争点4-1)について本件発明3は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」(構成要件3B)を対象とする鎮痛剤である。特許請求の範囲の文言上,前者は「炎症」が原因で生じた痛みであり,後者は「手術」が原因で生じた痛みで あると認められる。 「炎症を原因とする痛み」についてア「炎症」を原因として生じた痛みについての本件明細書の記載をみると,本件明細書では炎症反応を前提とする試験としては,本件カラゲニン試験が記載されている。 本件明細書には,本件カラゲニン試験では,ラットにカラゲニンを注射し,機械的痛覚過敏,熱痛覚過敏に関する測定を行ったこと(前記1ウ),その測定データによれば,試験化合物が「炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」(同)ものであることが記載されている。 「炎症」を原因として生じた痛みについての技術常識についてみると, 本件出願日当時,侵害受容性疼痛の一態様として,炎症により内因性発痛 物質や発痛増強物質が侵害受容器を刺激することにより痛みを生ずることが知られていた(前記2ア参照)。 他方,本件出願日当時のカラゲニン試験についての技術常識等についてみ 性発痛 物質や発痛増強物質が侵害受容器を刺激することにより痛みを生ずることが知られていた(前記2ア参照)。 他方,本件出願日当時のカラゲニン試験についての技術常識等についてみると,カラゲニン試験では,炎症反応に続いて痛覚過敏が生ずることが知られていたところ,カラゲニン試験の際,学術論文において,神経細胞 の機能的変化が生じていることが報告されていた(前記2⑼イ)。 イ「炎症を原因とする痛み」とは,文言上,「炎症」が原因で生じた痛みであると解されるところ,本件出願日当時,炎症によって内因性発痛物質等が侵害受容器を刺激して痛みをもたらすことが知られていたのであるから,この「炎症」が原因で生じた痛みとは,上記の炎症が直接的な原因 となっている侵害受容性疼痛をいうものであると自然に理解することができるものである。 また,本件カラゲニン試験では,試験化合物が「炎症性疼痛」に対して有効であるとされているところ,「炎症性疼痛」は,文言から,炎症を原因とする痛みであると理解されるものであり,上記技術常識や,本件明細 書の上記記載からも,本件明細書に記載された痛みは,炎症を直接の原因とする痛みである侵害受容性疼痛であると自然に理解することができるものである。そして,本件明細書には,上記のような自然な理解とは異なる理解がされるべきであることについて,明示の記載もないし,それを示唆する記載があるともいえない。 ウ他方,カラゲニン試験については,炎症反応に続いて痛覚過敏が生ずることが知られていて,学術論文において,神経細胞の機能的変化が生じていることが報告されていた。そして,その報告のように,カラゲニン試験では,炎症反応によって生ずる神経細胞への刺激が神経細胞の機能的変化を生じさせ(神経障害性疼 において,神経細胞の機能的変化が生じていることが報告されていた。そして,その報告のように,カラゲニン試験では,炎症反応によって生ずる神経細胞への刺激が神経細胞の機能的変化を生じさせ(神経障害性疼痛につき,神経細胞の機能異常による痛みを含む見解も あった。前記2⑶イ),痛覚過敏の痛みを生じさせているとすると,本件明 細書には本件試験化合物がカラゲニン試験に有効である旨の記載があるのであるから,実施例で有効性が確かめられた痛みが本件発明3が対象とする痛みであると理解して,神経細胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みについても,炎症と因果関係のある痛みであり,①その痛み,あるいは,②その痛み及び炎症を原因とする侵害受容性疼痛の両方が本件発明3の「炎症を原因 とする痛み」であると評価される余地がないわけではない。 まず,当業者が「炎症を原因とする痛み」について,②上記両方の痛みであると解するといえるかについて検討する。ここで,神経細胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みと,先に述べた炎症を直接原因の痛みとする侵害受容性疼痛の痛みは機序を異にする痛みであるから,一方に有効な薬物が必ずし も他方に有効であるとはいえない。そうすると,当業者は,特定の化合物が上記機能的変化による痛みと侵害受容性疼痛の痛みのいずれにも有効であると理解するとはいえないから,上記の2つの痛みについて,いずれもが「炎症を原因とする痛み」であると理解されるとはいえない。 続いて,本件カラゲニン試験の結果が,当業者が「炎症を原因とする痛み」 について①神経細胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みであると理解することの根拠になり得るかについて検討する。カラゲニン試験では,抗炎症薬であるインドメタシンが有効であることも知られていたこと(前記2ア)からする 胞の機能的変化による痛覚過敏の痛みであると理解することの根拠になり得るかについて検討する。カラゲニン試験では,抗炎症薬であるインドメタシンが有効であることも知られていたこと(前記2ア)からすると,カラゲニン試験について,神経細胞の機能的変化に対する効果ではなく,抗炎症作用を有する化合物一般が効果を有する可能性があると理 解できる(なお,神経細胞の機能的変化,炎症反応以外の機序に作用してカラゲニン試験での有効性が示された可能性もある。)。そうすると,当業者は,本件明細書により本件試験化合物が本件カラゲニン試験において有効であったことは理解できるものの,この結果のみからは,本件試験化合物が神経細胞の機能的変化を緩和したのか,抗炎症作用により効果を奏したのか, これら以外の作用機序で効果を奏したのかを判断することはできない。よっ て,仮に,本件明細書に接した当業者が,本件発明3の炎症と因果関係のある痛みとして,少なくとも上記2種類の痛みがあると想定するとしても,本件カラゲニン試験の結果をもって,本件発明3の痛みが,神経細胞の機能的変化に由来する痛みを意味するものと理解するとはいえない。 エ以上によれば,本件発明3の「炎症を原因とする痛み」は,炎症を直接の 原因とする痛みである侵害受容性疼痛の痛みであると解するのが相当である。 「手術を原因とする痛み」についてア手術が原因で生じる痛みについての本件明細書の記載を見ると,本件術後疼痛試験では,「いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに 達し,3日間維持された。」(前記1オⅵ),「本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。」(同)などと記 3日間維持された。」(前記1オⅵ),「本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。」(同)などと記載されている。 手術の後に生ずる痛みについての技術常識等をみると,本件出願日当時, 術後疼痛が知られており,これは,侵害受容性疼痛の一種として分類されていた(前記2⑺イ)。 他方,術後疼痛試験についての技術常識等をみると,ラット等の皮膚を切開した後の反応をみるものであり,皮膚の切開の後に痛覚過敏が生ずることも知られていて,本件出願日当時,その切開が神経細胞の感作を生じ させていることを前提とするする報告もされていた(前記2イ)。 イ「手術を原因とする痛み」とは,文言上,「手術」が原因で生じた痛みであると解されるところ,本件出願日当時,術後疼痛が知られていて,これは侵害受容性疼痛に分類されていたのであるから,この「手術」が原因で生じた痛みとは,手術を直接の原因の痛みとする侵害受容性疼痛の痛 みであると自然に理解することができるものである。そして,本件明細書 には,上記のような自然な理解とは異なる理解がされるべきであることについて,明示の記載もないし,それを示唆する記載があるともいえない。 本件明細書には,前記アのとおり,本件術後疼痛試験について,「侵害受容反応」について検討する記載があるが,「侵害受容反応」は,その文言上,「侵害受容器」への刺激に対する反応という意義であると理解でき るところ,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激によって生ずる活性化によって感じる痛みであるから(前記2イ),本件術後疼痛試験の評価と関連して「侵害受容反応」という文言が用いられていることは,上記解釈と ,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激によって生ずる活性化によって感じる痛みであるから(前記2イ),本件術後疼痛試験の評価と関連して「侵害受容反応」という文言が用いられていることは,上記解釈とも矛盾しない(なお,「侵害受容反応」は,侵害受容性疼痛に限らず,侵害受容器への刺激によって生ずる反応一般に用いられるというべきで あり(神経障害性疼痛のモデルにおける刺激に対する効果についても「侵害受容行動」という文言が使われている例もある(甲70)),「侵害受容反応」という文言が用いられていることをもって,「手術を原因とする痛み」が「侵害受容性疼痛」に限定される直接的な根拠になるとまではいえない。)。 さらに,本件発明3は,「炎症を原因とする痛み」をも対象とするものである。これが侵害受容性疼痛に分類される痛みを前提にしていると解すべきであることは,前記で説示したとおりである。単一の薬物について異なる類型の痛みに有効であるとすることは,それらの痛みについて機序を共通にする部分があり,当該薬物が当該部分に作用していること を示す実験結果等があれば格別,そのような前提がない場合には理解することが困難といえる。本件明細書には,上記の異なる類型の痛みに有効であることの根拠となる実験結果等の記載もなく,当業者は,通常,特定の化合物については同一類型の痛みにのみ効果を有すると理解するというべきである。そうすると,本件発明3における「炎症を原因とする痛み」 が侵害受容性疼痛を前提にしていることからすると,「手術を原因とする 痛み」は,同様に侵害受容性疼痛を前提にしていると解するのが自然であるといえる。 ウ他方,本件出願日当時,手術を原因として生ずる痛みに関係し,侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼 痛み」は,同様に侵害受容性疼痛を前提にしていると解するのが自然であるといえる。 ウ他方,本件出願日当時,手術を原因として生ずる痛みに関係し,侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛があるほか,手術による刺激が神経細胞の感作を生じさせ,これを直接の原因とする痛み(神経障害性疼 痛の定義に,神経細胞の機能異常による痛みを含む見解があった。前記2イ)についても術後疼痛試験について論じられていたことが認められる。 そうすると,同見解を前提にすれば,本件試験化合物が本件術後疼痛試験に有効であったことをもって,本件明細書に記載があるのは神経細胞の感作へ作用することによって緩和される痛みであり,「手術を原因とする痛み」 とは,①同痛みあるいは②同痛みと侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛としての痛みの両方であると解する余地もある。 しかし,同見解が技術常識になっていたと認めるに足りる証拠はない。 また,同見解を前提にしても,当業者が「手術を原因とする痛み」について複数種類の痛みの両方であると理解することが困難であることは,ウで 説示したとおりである。 また,①の痛みについても,術後疼痛試験によって生ずる痛みが神経細胞の感作による痛みであるとの技術常識が確立していたとはいえない上(前記 参照。なお,前述のとおり,術後疼痛自体は本件出願日当時,神経細胞の感作が関与しない侵害受容性疼痛と分類されていた。),仮に上記知見が あったとしても,本件カラゲニン試験につき前記ウで説示したのと同様に,本件術後疼痛試験で有効性が確かめられたことのみをもって,当該化合物が神経細胞の感作に作用しているとはいえない(本件術後疼痛試験においても,神経細胞の感作とは直接関係しない麻薬性鎮痛薬であるモルヒネが本件試 痛試験で有効性が確かめられたことのみをもって,当該化合物が神経細胞の感作に作用しているとはいえない(本件術後疼痛試験においても,神経細胞の感作とは直接関係しない麻薬性鎮痛薬であるモルヒネが本件試験化合物には及ばないものの術後疼痛試験で一定の効果を挙げており(前記 オ),これは,神経細胞の感作に作用せずとも術後疼痛試験に有効とな る可能性があることを示しているといえる。)。 よって,本件術後疼痛試験の結果をもって,当業者が「手術を原因とする痛み」について神経細胞の感作へ作用することによって緩和される痛みであると理解するとはいえない。 エ以上のとおりであって,「手術を原因とする痛み」の文言や本件明細書の 記載,技術常識等,同じ請求項に記載された発明の内容等からすると,「手術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛に分類される痛みを対象にしていると自然に解されるものであり,上記に述べたところに照らし,それと異なる理解をする理由はない。 したがって,本件発明3の「手術を原因とする痛み」は,侵害受容性疼痛 に分類される,手術によって生ずる痛みを意味していると解するのが相当である。 前記,で説示した本件発明3の解釈を前提に,被告医薬品が本件発明3の技術的範囲に属するか否かについて検討する。 被告医薬品は,効果又は効能を「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」 とする医薬品である。神経障害性疼痛の現在の定義は,「体性感覚神経系の病変や疾患によって生ずる痛み」(乙19)であり,線維筋痛症は,「身体の広範な部位の筋骨格系における慢性の疼痛とこわばりを主症状とし,解剖学的に明確な部位に圧痛を認める以外,他覚的ならびに一般的臨床検査所見に異常がなく,治療抵抗性であり,疲労感,睡眠障害や抑うつ気分など多彩な身体 筋骨格系における慢性の疼痛とこわばりを主症状とし,解剖学的に明確な部位に圧痛を認める以外,他覚的ならびに一般的臨床検査所見に異常がなく,治療抵抗性であり,疲労感,睡眠障害や抑うつ気分など多彩な身体およ び精神・神経症状を伴い,中年以降の女性に好発する原因不明のリウマチ性疾患」とされ,侵害受容性の痛みではなく,部位の特定されない神経障害性ないし中枢性疼痛とされており,いわゆる疼痛の中枢性感作が成立し,中枢感作症候群の一つとされている(前記2ア)。したがって,被告医薬品は,市場において,上記の定義を前提とする疾患に用いられるといえる。 他方で,従前から,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは機序の異なる別種 の痛みであることを前提として分類されており(甲79,乙1~3),現在においても同様であると認められる。そして,前記のとおり,本件発明3の技術的範囲は侵害受容性疼痛に分類される痛みに限定されるのであるから,神経障害性疼痛はこれに含まれない。また,線維筋痛症は,少なくとも侵害受容性疼痛ではないとされている。 よって,被告医薬品が本件発明3の技術的範囲に属するとはいえない。 原告の主張についてア原告は,本件発明3の技術的範囲について,本件明細書では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは効果が不十分なことのある慢性疼痛として記載されており,カラ ゲニン試験や術後疼痛試験が,このような慢性疼痛の試験であると理解できると主張する。この主張は,本件明細書には,本件発明3の技術的範囲から侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛に対する鎮痛剤を除外する趣旨の記載があるとの趣旨と解される。 本件明細書には「本発明は,上記式Iの化合物の上に掲 には,本件発明3の技術的範囲から侵害受容器への刺激を直接の原因とする侵害受容性疼痛に対する鎮痛剤を除外する趣旨の記載があるとの趣旨と解される。 本件明細書には「本発明は,上記式Iの化合物の上に掲げた痛みの処置に おける鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。(中略)上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われてい ないことは周知である。」との記載があるが(前記1ア),この記載は,当時市場にあった鎮痛剤の効果等が不十分であることを記載しているのにすぎないのであって,発明の対象化合物の作用機序が非ステロイド性抗炎症薬や麻薬性鎮痛剤と異なると理解できるとはいえない(同様の作用機序の医薬品であっても,より効果の高い医薬品が開発できる可能性はある。)。他に本 件化合物の作用機序が麻薬性鎮痛剤及びNSAIDと異なることを基礎付 ける記載もない。よって,本件明細書に,本件発明3の技術的範囲から侵害受容性疼痛に対する鎮痛剤を除外する趣旨の記載があるとはいえない。 また,原告は,カラゲニン試験及び術後疼痛試験が,神経細胞の感作により生ずる神経障害性疼痛や繊維筋痛症などに共通する痛覚過敏や接触異痛に対する効果を見たものであることが明らかであると主張するが,当業者が 必ずしもそのように解するとはいえないことについては,前記ウ及びウで説示したとおりである。 イ原告は,仮に本件発明3の技術的範囲が,侵害受容性疼痛に係る鎮痛剤に限られるとしても,炎症や手術,神経の病変等により組 するとはいえないことについては,前記ウ及びウで説示したとおりである。 イ原告は,仮に本件発明3の技術的範囲が,侵害受容性疼痛に係る鎮痛剤に限られるとしても,炎症や手術,神経の病変等により組織の炎症が生ずると神経細胞の感作が生ずるため,神経障害性疼痛は侵害受容性疼痛との混合性 疼痛であるとされ,患者には神経障害性疼痛による痛みと侵害受容性疼痛による痛みを区別できず,被告医薬品は,このような混合性疼痛の患者に適用されることになるから,①被告医薬品は侵害受容性疼痛にも効果を奏するし,②被告医薬品は,添付文書で侵害受容性疼痛とオーバーラップする痛みである神経障害性疼痛を効能,効果としているし,③先発医薬品が混合性疼痛に 用いられており,被告もそれを知って被告医薬品を実施することになるから,被告医薬品は本件発明3の技術的範囲に属すると主張する。 上記各主張は,神経障害性疼痛が発症している場合には侵害受容性疼痛も併発することもあるところ,このような場合に本件医薬品が患者に投与されると,神経障害性疼痛への適用を前提に患者に投与されたとしても,被告医 薬品は侵害受容性疼痛にも効果を奏し,侵害受容性疼痛に対しても用いられたと評価でき,それは先発医薬品も同様である旨の主張とも解される。 しかし,前記2⑴のとおり,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛は作用機序の異なる別種の痛みとして理解されていたことが認められる。医師が神経障害性疼痛につき医薬品を投与するのは,神経障害性疼痛に係る作用機序への 有効性を期待して投与するのであり,他方,被告医薬品は,前記のとおり 神経障害性疼痛等に対するものとされるべきものであって,侵害受容性疼痛に対するものではなく,仮に神経障害性疼痛に侵害受容性疼痛が併発している場合であっても, 被告医薬品は,前記のとおり 神経障害性疼痛等に対するものとされるべきものであって,侵害受容性疼痛に対するものではなく,仮に神経障害性疼痛に侵害受容性疼痛が併発している場合であっても,侵害受容性疼痛に対して投与されたとして本件発明3に係る充足性を判断するのは相当ではないと解される。 ウしたがって,上記原告の主張は,被告ら医薬品が本件発明3の技術的範囲 に属するとはいえないとする前記⑷の判断を左右するものではない。 7 被告医薬品は,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の処置における」(構成要件4B)鎮痛剤といえるか(争点4-2)についてア 「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」の意義について検討すると,「炎症性 疼痛」が痛みの原因に基づく分類であり,「痛覚過敏」が症状であることからすると,「炎症性疼痛」に分類される「痛覚過敏の痛み」の趣旨であると解される。 本件においては,本件出願日当時,「炎症性疼痛」について,炎症を直接の原因とする痛みであり,侵害受容性疼痛に分類される痛みを意味すると解 することが相当であることは,前記6イで説示したとおりである。 他方で,痛覚過敏については,通常痛みをもたらす刺激に対する増大した応答とされており(前記2⑸ア),その原因が,末梢神経又は中枢神経系あるいはその両方の感作が原因であることを示唆する証拠が現れつつあったことは認められるものの(同イ,ウ),痛覚過敏が侵害受容性疼痛に分類される 痛みによって生ずることがないとの技術常識までは存在しなかったことが認められる。 そして,前記6ウで説示したとおり,本件カラゲニン試験の結果も侵害受容性疼痛に係る作用が確認されたとしても矛盾するものとはいえず,本件カラゲニン試験 常識までは存在しなかったことが認められる。 そして,前記6ウで説示したとおり,本件カラゲニン試験の結果も侵害受容性疼痛に係る作用が確認されたとしても矛盾するものとはいえず,本件カラゲニン試験の結果が神経細胞の機能的変化による痛みに有効であるこ とを積極的に支持しているということもできない。 そうすると,「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」とは,侵害受容性疼痛たる炎症を原因とする痛みに分類される痛覚過敏の痛みと解することが相当である。 イ 「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」の意義について検討すると,「術後疼痛」が痛みの原因に基づく分類であり,「痛覚過敏」及び「接 触異痛」が症状であることからすると,「術後疼痛」に分類される「痛覚過敏の痛み」の趣旨であると解するのが相当である。 本件出願日当時,「術後疼痛」について,侵害受容性疼痛に分類される痛みに分類されていたのは,前記2で認定したとおりである。 そして,痛覚過敏について侵害受容性疼痛ではないとの技術常識は存在せ ず,接触異痛についてその機序について確立された技術常識があったことを認めるに足りる証拠もない。そうすると,「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」とは,侵害受容性疼痛たる術後疼痛を原因とする痛みに分類される痛覚過敏又は接触異痛の痛みと解することが自然である。 そして,前記6ウで説示したとおり,本件術後疼痛試験の結果も侵害受 容性疼痛に係る作用が確認されたとしても矛盾するものとはいえず,本件術後疼痛の結果が細胞の感作による痛みに有効であることを積極的に支持しているということもできない。 さらに,前記6ウで説示したのと同様に,同じ請求項に記載された化合物について,特段の事情がない限り,異なる類型の痛みに有効であ る痛みに有効であることを積極的に支持しているということもできない。 さらに,前記6ウで説示したのと同様に,同じ請求項に記載された化合物について,特段の事情がない限り,異なる類型の痛みに有効であると理解 するのは困難であり,「炎症性疼痛による痛覚過敏」が侵害受容性疼痛への効果を前提にしていることを前提にすると,術後疼痛による痛みについても同種の効果を有すると理解するのが相当であり,これと別異に解すべき基礎となる事情も本件明細書では明らかにされていない。 これらの事情からすると,「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛に よる痛み」は侵害受容性疼痛たる術後疼痛を原因とする痛みに分類される痛 覚過敏又は接触異痛の痛みと解するのが相当である。 以上を前提に,被告医薬品が本件発明4の技術的範囲に属するか否かについて検討するに,被告医薬品は,効果又は効能を「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」とする医薬品である。 前記6で説示したとおり,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛は機序の異な る別種の痛みであると理解されている。本件発明4の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に分類される痛みに限定されるのであるから,神経障害性疼痛はこれに含まれないといえる。また,線維筋痛症は,少なくとも侵害受容疼痛ではないとされている。 よって,被告医薬品が本件発明4の技術的範囲に属するとはいえない。 原告は,本件発明4についても,前記6と実質的に同旨の主張をしているが,それに対する説示と同様の理由で,その主張には理由がない。 8 被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点5)について前記6で説示したとおり,本件発明3の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に限ら れる。そして, 告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点5)について前記6で説示したとおり,本件発明3の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に限ら れる。そして,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛みは,機序の異なる別種の痛みとして理解されていたと認められる。そうすると,神経障害性疼痛及び線維筋痛症を対象とする被告医薬品と本件発明3とは本質的部分において異なるというべきである。よって,その余の点について検討するまでもなく,被告医薬品は,本件発明3に係る特許請求の範囲に記載された構成と均 等とはいえない。 9 被告医薬品は,本件発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものといえるか(争点6)について前記7で説示したとおり,本件発明4の技術的範囲は,侵害受容性疼痛に限られる。そうすると,前記8で説示したのと同様の理由により被告医薬品は,本件 発明4に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等とはいえない。 以上のとおりであって,本件発明1,2に係る特許はサポート要件を欠き特許無効審判により無効とされるべきものである。そして,本件訂正のうち,本件発明1,2に係る部分は新規事項の追加を伴うものであり,訂正要件を満たさない。 また,被告医薬品は,本件発明3及び本件発明4の技術的範囲に属するとはいえず,均等なものということもできない。よって,その余の争点について判断する までもなく,原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官佐伯良子 裁判官仲田 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官佐伯良子 裁判官仲田憲史 (別紙)物件目録 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,「効能又は効果」として「神経障害性疼痛」又は「線維筋痛症に伴う疼痛」 を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。) 1 プレガバリンカプセル25mg「トーワ」 2 プレガバリンカプセル75mg「トーワ」 3 プレガバリンカプセル150mg「トーワ」 4 プレガバリンOD錠25mg「トーワ」 5 プレガバリンOD錠75mg「トーワ」 6 プレガバリンOD錠150mg「トーワ」以上 別紙構造式 別紙痛み等の用語についての当事者の主張 1 神経細胞の感作(原告の主張)神経細胞は,感作されると,興奮状態になって,機能異常が起こり,通常の知 覚ができなくなる。その結果,侵害刺激以上の痛みを感じる痛覚過敏や本来痛みを感じない羽毛などの非侵害刺激に対しても痛みを感じる接触異痛になる。 (被告の主張)正常な入力に対する侵害受容ニューロン(神経細胞)の亢進した反応性,および(または)通常閾値以下の入力に対して反応する状態 2 侵害受容性疼痛(原告の主張)「侵害受容器への刺激による,刺激に比例した痛み」である。 (被告の主張)「侵害受容器の活性化によって発生する痛み」をいう。侵害受容器は,中枢神 経系を除く全ての組織に存在するとされ,その痛みは,皮膚や内臓の求心性神経線維の化学的,熱的又は (被告の主張)「侵害受容器の活性化によって発生する痛み」をいう。侵害受容器は,中枢神 経系を除く全ての組織に存在するとされ,その痛みは,皮膚や内臓の求心性神経線維の化学的,熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し,急性又は慢性であり,例えば,体性痛,癌性疼痛,術後疼痛などがあるとされる。 3 神経障害性疼痛(原告の主張) 「神経の一次的な損傷,あるいはその機能異常が原因となって生じた疼痛」である。神経細胞の感作は,上記「神経の・・・機能異常」に該当する。 (被告の主張)「末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み」をいい,進行中の疾病がなくても痛みが持続する(例えば,糖尿病性神経障害)ものをいう。 4 心因性疼痛 (被告の主張)「神経系の解剖学的分布と一致しない痛み」をいうとされ,しばしば,十分な検索を行っても,痛みを説明する器質的障害を認めないものとされる 5 線維筋痛症(原告の主張) 「痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群」である。ここで,痛覚過敏は広義の意味であり,接触異痛を含む。 (被告の主張)「身体の広範な部位の筋骨格系における慢性の疼痛とこわばりを主症状とし,解剖学的に明確な部位に圧痛を認める以外,他覚的ならびに一般的臨床検査所見 に異常がなく,治療抵抗性であり,疲労感,睡眠障害や抑うつ気分など多彩な身体および精神・神経症状を伴い,中年以降の女性に好発する原因不明のリウマチ性疾患である」とされる。本件出願日はもとより,平成29年に至るもなお,その原因については不明な点が多いとされる。ただし,「侵害受容性の痛みではない」とされる。 6 痛覚過敏(原告の主張)痛覚過敏は,「通常は痛い刺激に対する増大した応答」である。 (被告の 因については不明な点が多いとされる。ただし,「侵害受容性の痛みではない」とされる。 6 痛覚過敏(原告の主張)痛覚過敏は,「通常は痛い刺激に対する増大した応答」である。 (被告の主張)「通常痛みをもたらす刺激に対する増加した反応」をいうとされ,閾値を超え た刺激に対する増加した痛みを反映するものであり,より適切には,通常の閾値又は例えば神経障害を患う患者における増加した閾値で,増加した応答を有する症例に対するものをいうとされる。 7 接触異痛(原告の主張) 接触異痛は,「通常は痛くない(機械的)刺激によって誘発された痛み」であ る。 (被告の主張)「接触異痛」とは,「通常痛みを引き起こさない刺激による痛み」をいうとされる。
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