令和元年11月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年(行ウ)第24号退職手当返納命令取消等請求事件口頭弁論終結日令和元年7月16日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 処分行政庁が平成28年11月16日付けで原告に対してした退職手当返納 命令を取り消す。 2 被告は,原告に対し,2618万8547円及びこれに対する平成29年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 北海道教育委員会(以下「処分行政庁」という。)は,被告の職員であった原告が在職中に偽造印等による事務処理をしたこと,横領をしたことなどを理由として,原告に対し,支給済みの退職手当2618万8547円を返納するよう命じる処分(以下「本件処分」という。)をし,これに応じて原告は,上記退職手当相当額を被告に支払った。 本件は,原告が,本件処分は理由提示の不備や裁量権の逸脱濫用等により違法であると主張して,本件処分の取消しを求めるとともに,不当利得返還請求権に基づき,原告が返納した2618万8547円及びこれに対する上記返納の日から支払済みまで民法704条前段所定の年5分の割合による利息の支払を求める事案である。 被告は,原告が別紙非違行為一覧表記載の各非違行為(以下,その番号に従い 「非違行為①a」などという。)に及んだ事実を理由に挙げ,本件処分は適法であるなどと反論している。 2 本件に関連する法令の定め⑴ 北海道職員等の退職手当に関する条例(甲3,4。以下「本件条例」という。)ア退職をした者が懲戒免職等処 挙げ,本件処分は適法であるなどと反論している。 2 本件に関連する法令の定め⑴ 北海道職員等の退職手当に関する条例(甲3,4。以下「本件条例」という。)ア退職をした者が懲戒免職等処分を受けて退職をした者に該当するときは, 当該退職に係る退職手当管理機関は,当該退職をした者に対し,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状況,当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して,当該 一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。(12条1項1号)イ退職をした者に対し当該退職に係る一般の退職手当等の額が支払われた後において,当該退職をした者が当該一般の退職手当等の額の算定の基礎となる職員としての引き続いた在職期間中の行為に関し再任用職員に対する 免職処分を受けたときは,当該退職に係る退職手当管理機関は,当該退職をした者に対し,12条1項に規定する事情のほか,当該退職をした者の生計の状況を勘案して,当該一般の退職手当等の額の全部又は一部の返納を命ずる処分を行うことができる。(15条1項2号)ウ退職手当管理機関は,上記ア又はイの処分を行うときは,その理由を付記 した書面により,その旨を当該処分を受けるべき者に通知しなければならない。(12条2項,15条6項)⑵ 北海道職員等の退職手当に関する条例の運用方針処分行政庁は,平成21年10月16日付けで,本件条例の運用方針(以下「本件運用方針」という。)を定め,これを全職員に周知した。その概要は,次 のとおりである。(甲1 関する条例の運用方針処分行政庁は,平成21年10月16日付けで,本件条例の運用方針(以下「本件運用方針」という。)を定め,これを全職員に周知した。その概要は,次 のとおりである。(甲15添付資料1,弁論の全趣旨) ア本件条例12条1項の規定により処分を行うに当たっては,非違の発生を抑止するという制度目的に留意し,一般の退職手当等の全部を支給しないこととすることを原則とするものとする。(12条関係1号)イ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを検討する場合は,本件条例12条1項に規定する「当該退職をした者が行っ た非違の内容及び程度」について,次のいずれかに該当する場合に限定する。 その場合であっても,公務に対する信頼に及ぼす影響に留意して,慎重な検討を行うものとする。(12条関係2号) 懲戒免職等処分の理由となった非違が,正当な理由がない欠勤その他の行為により職場規律を乱したことのみである場合であって,特に参酌すべ き情状のある場合懲戒免職等処分の理由となった非違が過失(重過失を除く。)による場合であって,特に参酌すべき情状のある場合過失(重過失を除く。)により禁錮以上の刑に処せられ,執行猶予を付された場合であって,特に参酌すべき情状のある場合 ウ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを検討する場合には,例えば,当該退職をした者が占めていた職の職務に関連した非違であるときには処分を加重することを検討すること等により,本件条例12条1項に規定する「当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任」を勘案することとする。(12条関係3号) エ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを検 12条1項に規定する「当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任」を勘案することとする。(12条関係3号) エ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを検討する場合には,例えば,過去にも類似の非違を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがある場合には処分を加重することを検討すること等により,本件条例12条1項に規定する「当該退職をした者の勤務の状況」を勘案することとする。(12条関係4号) オ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを 検討する場合には,例えば,当該非違が行われることとなった背景や動機について特に参酌すべき情状がある場合にはそれらに応じて処分を減軽又は加重することを検討すること等により,本件条例12条1項に規定する「当該非違に至った経緯」を勘案することとする。(12条関係5号)カ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを 検討する場合には,例えば,当該非違による被害や悪影響を最小限にするための行動をとった場合には処分を減軽することを検討し,当該非違を隠ぺいする行動をとった場合には処分を加重することを検討すること等により,本件条例12条1項に規定する「当該非違後における当該退職をした者の言動」を勘案することとする。(12条関係6号) キ一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを検討する場合には,例えば,当該非違による被害や悪影響が結果として重大であった場合には処分を加重することを検討すること等により,本件条例12条1項に規定する「当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度」を勘案することとする。(12条関係7号) ク本件条例15条1項の規定に を加重することを検討すること等により,本件条例12条1項に規定する「当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度」を勘案することとする。(12条関係7号) ク本件条例15条1項の規定による処分により返納を命ずる一般の退職手当等の額は,12条関係2号から7号までに規定する基準のほか,同項に規定する「当該退職をした者の生計の状況」を勘案して定める額とする。(15条関係2号)ケ本件条例15条1項に規定する「当該退職をした者の生計の状況」を勘案 するに当たっては,退職手当の生活保障としての性格に鑑み,当該退職をした者又はその者と生計を共にする者が現在及び将来どのような支出を要するか,どのような財産を有しているか,現在及び将来どのような収入があるか等についての申立てを受け,返納すべき額の全額を返納させることが困難であると認められる場合には,返納額を減免することができることとする。 (15条関係3号) ⑶ 地方公務員法任命権者は,職員に対し,懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分を行う場合においては,その際,その職員に対し処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。(49条1項) 3 前提事実 以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。 ⑴ 当事者等ア原告(昭和27年8月17日生)は,昭和53年4月,被告の職員として採用された。(争いがない) イ原告は,平成23年4月,北海道A高等学校(以下「本件高校」という。)に事務長として赴任した。原告は,本件高校において,PTA会計や体育実習費等の私費会計(以下,単に「私費会計」という。)を担当していた。(弁論の全趣旨)ウ原告は,平成25年3月,本件高校で )に事務長として赴任した。原告は,本件高校において,PTA会計や体育実習費等の私費会計(以下,単に「私費会計」という。)を担当していた。(弁論の全趣旨)ウ原告は,平成25年3月,本件高校での勤務を最後に定年退職した。被告 は,原告に対し,退職手当として2705万2728円を支給した(以下,この金員を「本件退職手当」という。)。(争いがない)エ原告は,平成25年4月,北海道B高等学校の主任主事として,再任用された。(争いがない)⑵ 本件懲戒処分等 ア本件高校の原告の後任の事務長は,原告が残したパソコン上のファイルに不審な点があることに気付き,平成25年10月以降,本件高校において,原告からの聴き取りも含め,調査が行われた。(甲13添付資料6,弁論の全趣旨)イ本件高校の校長は,原告が本件高校で会計を担当していた平成23年度及 び平成24年度に使途不明金等があるとして,平成25年12月2日,原告 に対し,58万5944円の弁済請求をした。これに対し,原告は,同月3日,その全額を支払うとともに,同校長に対し,同月5日付け供述書(以下「本件供述書」という。)を提出した。原告は,本件供述書において,原告が生徒の授業料を立て替えたため振込手数料の差額を立替金に充当したと説明し,その余の使途不明金等については,他の会計の支払に流用したとか, 物品の購入に充てたなどと弁明し,私費会計で購入したものの自己負担すべき物品代等についても,結果的に活用はできなかったが,購入した時は必要であると判断したものであるなどと弁明した。(甲13添付資料5,7,弁論の全趣旨)ウ北海道教育庁総務政策局総務課の職員は,本件高校から,原告が印鑑等を 偽造して虚偽の振込依頼書を作成したり現金を原告個人の口 あるなどと弁明した。(甲13添付資料5,7,弁論の全趣旨)ウ北海道教育庁総務政策局総務課の職員は,本件高校から,原告が印鑑等を 偽造して虚偽の振込依頼書を作成したり現金を原告個人の口座に入金したなどの金銭事故が発覚したとの事故報告書(以下「本件事故報告書」という。)の提出を受けたことから,平成26年3月1日,原告に対する事情聴取を行った(以下「本件事情聴取」という。)。その際,原告は,上記職員から,校長,教頭の私印を偽造し,私費会計の事務処理を頻繁に校長の決裁や教頭の 確認を受けることなく単独で行い,また,私費会計購入の消耗品に係る納品書,請求書,領収書を偽造し,さらに銀行出納印を偽造して虚偽の振込依頼書を作成したことは事実かと質問され,事実であると返答した。また,原告は,上記職員から,使途不明金や個人負担すべきであった物品代合計58万5944円を支払ったことについて,私的流用の事実を認めるか否か質問さ れ,不適切であることは認めた上,不本意だが支払ったものである旨釈明した。(甲13添付資料10)エ処分行政庁は,平成26年3月26日付けで,原告に対し,懲戒免職の処分(以下「本件懲戒処分」という。)をした。本件懲戒処分の処分事由説明書には,処分事由として,以下のとおり,非違行為①a~c,②,③が記載さ れていた。(甲2の2,弁論の全趣旨) 原告は,本件高校に事務長として赴任した直後から平成25年3月31日までの間,偽造した校長,教頭の私印を用いて,私費会計の事務処理を校長の決裁を受けることなく繰り返し単独で行い,また,私費会計購入の消耗品に係る書類を架空の会社名義で作成するなどして偽造,さらに銀行出納印を偽造して虚偽の振込依頼書を作成し,私費会計の監査を受けてい た。 原告 く繰り返し単独で行い,また,私費会計購入の消耗品に係る書類を架空の会社名義で作成するなどして偽造,さらに銀行出納印を偽造して虚偽の振込依頼書を作成し,私費会計の監査を受けてい た。 原告は,在任中の平成23年度から平成24年度までの間に,担当していた私費会計から関係団体に支払う負担金や業者への支払金を,原告の個人口座(インターネット銀行)に入金し,その口座から関係団体等へ振り込むことによって,振込手数料の差額129件,4万8455円を横領し, 平成24年3月30日,体育科実習費を預金していた北門信用金庫の口座を解約した際,解約残金16万7704円を新設した北海道銀行の口座に入金せず,使途不明金とした。 オ原告は,本件懲戒処分に対して不服申立てをせず,本件懲戒処分は確定した。(弁論の全趣旨) ⑶ 本件処分等ア処分行政庁は,原告に対する退職手当返納命令処分をするため,聴聞を行うこととして,平成27年9月17日付け聴聞通知書(以下「本件通知書」という。)をもって,原告に対し,その旨の通知をした。本件通知書には,同処分の原因となる事実として,非違行為①a~c,②,③が記載され,これ により原告が本件懲戒処分となったこと等が記載されていたが,非違行為④,⑤に関する記載はなかった。(甲13添付資料4)イ北海道教育庁は,平成27年10月6日,本件処分に先立ち,原告に対する聴聞(以下「本件聴聞」という。)を実施した。その際,処分行政庁の職員は,原告が,偽造した校長等の私印を用いて私費会計の事務処理を単独で行 っていたこと,振込手数料の差額を横領するなどの行為により本件懲戒処分 を受けたこと,本件懲戒処分の非違行為の内容及び程度や原告の生計状況に照らし,本件退職手当の全額の返納を命ずるも っていたこと,振込手数料の差額を横領するなどの行為により本件懲戒処分 を受けたこと,本件懲戒処分の非違行為の内容及び程度や原告の生計状況に照らし,本件退職手当の全額の返納を命ずるものである旨説明した。これに対し,原告は,何らの陳述等もしなかった。(乙29)ウ処分行政庁は,平成28年11月16日付けで,原告に対し,退職手当返納命令書(以下「本件命令書」という。)を送付して,本件条例15条1項に 基づき,本件退職手当の全額を返納するよう命ずる処分(本件処分)をした。 併せて,処分行政庁は,原告に対し,本件退職手当の手取り分全額に相当する2618万8547円の納入通知書を送付した。(争いがない)エ本件命令書には,以下の内容が記載されており,返納命令の理由としては非違行為①a~c,②が記載されていた。(甲1) 返納命令の理由平成23年4月に本件高校に事務長として赴任直後から同校を定年退職となる平成25年3月31日までの間,偽造した校長,教頭の私印を用いて,私費会計の事務処理を校長の決裁を受けることなく繰り返し単独で行い,また,私費会計購入の消耗品に係る書類を架空の会社名義で作成す るなどして偽造,さらに銀行出納印を偽造して虚偽の振込依頼書を作成し,私費会計の監査を受けていた。 また,同校在任中の平成23年度から平成24年度までの間に,担当していた私費会計から関係団体に支払う負担金や業者への支払金を,原告の個人口座(インターネット銀行)に入金し,その口座から関係団体へ振り 込むことによって,振込手数料の差額129件,4万8455円を横領するなど非違行為を行った。 平成25年3月31日付けで定年退職に伴い退職手当が支払済みであるが,上記により,平成26年3月26日付 とによって,振込手数料の差額129件,4万8455円を横領するなど非違行為を行った。 平成25年3月31日付けで定年退職に伴い退職手当が支払済みであるが,上記により,平成26年3月26日付けで懲戒免職処分となったため,本件条例15条1項2号に該当することから,同項の規定により本件 退職手当の全部の返納を命ずる処分を行うものである。 本件条例12条1項で定める事情のほか,この処分を受ける者の生計の状況に関し勘案した内容についての説明学校職員という職の職務及び責任,非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案した。 また,提出された生計状況に関する申立書を基に,有する財産の状況,家計の収支状況を勘案した。 オ原告は,平成29年1月25日,被告に対し,2618万8547円を支払った。(甲7)⑷ 本件訴訟に至る経緯 ア原告は,平成28年12月12日,北海道知事に対し,本件処分について審査請求をした。(争いがない)イ処分行政庁は,審査請求手続において,原告が平成24年3月30日に体育科実習費を預金していた北門信用金庫の口座を解約した際,解約残金16万7704円を新設した北海道銀行の口座に入金せず,使途不明とした事実, さらに私文書偽造等により原告が5万2925円を私的に流用した事実,その他使途不明金が31万6860円存在した事実(非違行為③~⑤)が本件処分の処分理由に含まれる旨主張した。(甲13,15,弁論の全趣旨)ウ北海道知事は,平成29年10月17日,上記アの審査請求を棄却する裁決をした。原告は,同月22日,上記裁決があったことを知った。(甲18, れる旨主張した。(甲13,15,弁論の全趣旨)ウ北海道知事は,平成29年10月17日,上記アの審査請求を棄却する裁決をした。原告は,同月22日,上記裁決があったことを知った。(甲18, 弁論の全趣旨)エ原告は,平成29年11月7日,本件訴えを提起した。(顕著な事実) 4 争点⑴ 本件処分に理由提示の不備があり,本件処分が違法となるか⑵ 本件懲戒処分が違法であることにより,本件処分も違法となるか ⑶ 本件処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるか ⑷ 不当利得返還請求権の有無 5 当事者の主張⑴ 争点⑴(本件処分に理由提示の不備があり,本件処分が違法となるか)について(原告の主張) ア処分行政庁が審査請求手続において主張した非違行為③~⑤は本件命令書の記載から了知できない。 イまた,処分行政庁は,審査請求手続において,本件運用方針なる処分行政庁の内部の運用方針に基づいて本件処分を行った旨主張しているところ,本件命令書に記載された本件処分の理由には,本件運用方針の存在及びその適 用関係が全く示されておらず,理由の提示の要件を欠いている。原告は,本件運用方針の存在については知らなかったし,本件聴聞の手続においても,本件運用方針について説明は受けていない。 ウさらに,本件処分の理由とされている非違行為①aの「私費会計の事務処理」については,その具体的内容が何ら示されていない。 エしたがって,処分行政庁は,本件処分について十分な理由を提示しておらず,本件処分は理由の提示の要件を欠き,地方公務員法49条1項,本件条例12条2項に反しており,違法である。 (被告の主張)ア一般の退職手当の支給を制限する処分は,退職した職員又は職員の遺族な ど 理由の提示の要件を欠き,地方公務員法49条1項,本件条例12条2項に反しており,違法である。 (被告の主張)ア一般の退職手当の支給を制限する処分は,退職した職員又は職員の遺族な どに対してされるものであり,地方公務員法が定める不利益処分に該当せず,同法49条から51条の2までの規定は適用されない。 本件処分は,既に被告を退職した職員である原告に対してされたものであるから,地方公務員法49条は適用されず,本件処分に同条違反はない。 イ本件命令書は,「横領するなどの非違行為を行った。」と記載されているこ とからも明らかなとおり,返納命令の理由となる非違行為を例示したもので あり,「横領」のみを非違行為として記載したものではない。本件命令書に,懲戒免職処分となったため本件条例15条1項2号に該当することを明記していることからも明らかなとおり,処分行政庁は,当然のことながら本件懲戒処分と同一の非違行為に基づき本件処分を行っており,非違行為③~⑤が処分理由に含まれることは明らかである。 仮に,本件命令書の理由の記載に不足があると評価される場合でも,これに記載されている事実と基本的に同一と認められる非違行為であって,処分の当時に処分行政庁がその存在を認識し,処分理由とする意思を有していた事実については,処分理由として主張できると解される。 本件においては,弁済請求,事情聴取,本件懲戒処分,本件処分という一 連の経過からすれば,処分行政庁が,非違行為③~⑤を認識し,処分理由とする意思を有していたものであることは明らかであるから,被告が,本件処分の理由として主張することは許される。 ウまた,本件運用方針は,内部規定にすぎないのであるから,その存在や適用関係を示さなかったからといって,本件処分 あることは明らかであるから,被告が,本件処分の理由として主張することは許される。 ウまた,本件運用方針は,内部規定にすぎないのであるから,その存在や適用関係を示さなかったからといって,本件処分に影響するものではない。な お,本件運用方針は,制定時の平成21年10月16日に全職員に対し周知しているものであり,職員であれば誰でも内容を確認できるものである。 エ本件処分の根拠となった本件条例15条1項本文及び2号は,いずれも分かりやすく具体的に定められているし,本件運用方針15条関係2号により勘案することとされている本件運用方針12条関係2号に定める基準も,平 易な条文構造となっている。したがって,本件処分が,本件条例15条1項2号の規定に基づくものであり,上記基準所定の除外事由に該当しないため退職手当の額の一部の返納を命ずる処分にとどめることを検討する場合に当たらないことは,各規定の記載から容易に理解できる。加えて,原告は,その実務経験からすれば,本件条例及び本件運用方針の知識を十分に有して おり,処分基準の適用関係を具体的に理解できたはずである。 仮に,本件命令書の処分理由の記載がやや不足していたとしても,本件処分に先立ち,原告は,事情聴取を受け,58万5944円を弁済しているなどの経緯を踏まえると,本件処分の理由となった非違行為の詳細について具体的に認識していたものと認められる。 ⑵ 争点⑵(本件懲戒処分が違法であることにより,本件処分も違法となるか) について(原告の主張)ア本件懲戒処分は,原告に提示されていない非違行為④,⑤をも理由とするものであり,本件懲戒処分の手続の瑕疵は重大かつ明白であるから,本件懲戒処分は違法である。また,本件懲戒処分は,北海道職員の他の事 本件懲戒処分は,原告に提示されていない非違行為④,⑤をも理由とするものであり,本件懲戒処分の手続の瑕疵は重大かつ明白であるから,本件懲戒処分は違法である。また,本件懲戒処分は,北海道職員の他の事案等に比 して過重であり,平等原則(地方公務員法13条),公正原則(同法27条1項)に反する重大明白な瑕疵があるから,違法である。 イしたがって,本件処分の前提となる本件懲戒処分が違法であるから,本件処分も違法である。 (被告の主張) ア本件懲戒処分の理由に非違行為④,⑤が含まれていることは明らかであり,仮に,その事実が原告に提示されていなかったとしても,処分行政庁は処分時にその存在を認識し,処分理由とする意思を有していたものであり,処分理由として主張できるものであるから,本件懲戒処分が違法とされる余地はない。 イ原告が行った非違行為は,事務職員として担当する団体会計から現金を横領し,校長等の私印を偽造するなどして団体関係に係る経理関係書類の偽造を繰り返したというものであって,生徒や保護者からの信頼を著しく損ねるばかりでなく,教育行政に対する道民の信頼を大きく損なうものである。したがって,本件懲戒処分は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したも のではなく,適法かつ妥当なものである。 ウ本件懲戒処分と本件処分は,前者が後者の準備行為であるとか,手段と結果の関係にあるものとはいえず,また,本件懲戒処分について不服であれば審査請求で争うことが可能であった。したがって,仮に本件懲戒処分が違法であるとしても,その違法性は本件処分には承継されない。 ⑶ 争点⑶(本件処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるか)について (被告の主張)ア原告は,平成23年4月から平成25 あるとしても,その違法性は本件処分には承継されない。 ⑶ 争点⑶(本件処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるか)について (被告の主張)ア原告は,平成23年4月から平成25年3月31日までの間,別紙非違行為一覧表の「被告の主張する非違行為」欄,「日付等」欄及び「額」欄記載のとおりの各非違行為に及んだ。各非違行為についての原告の主張に対する被告の主張は,別紙非違行為一覧表の「被告の主張」欄記載のとおりである。 本件処分は,原告が本件条例15条1項2号に該当するためにされた処分である。本件運用方針による取扱いについては,退職手当が賃金後払い,退職者の生活保障,功労報償という各要素を含むことを前提として,非違行為のあった職員に対し,退職手当の支給を制限することにより,非違行為の発生を抑止し,公務の公正性とこれに対する住民の信頼を維持するこ とを目的とする制裁としての性質を有するものであり,退職手当の支給制限の趣旨に反するものではなく,合理性を有するものである。 そして,原告が行った非違の内容及び程度については,本件運用方針15条関係2号により勘案することとされている同12条関係2号に定める基準には該当せず,退職手当の額の一部の返納を命ずる処分にとどめる ことを検討する場合に該当しない。 また,原告は,本件処分時において,一般の退職手当の額の全部を返納しても今後の生計を維持することは可能であったのであり,支払済みの退職手当の額の全部を返納させることが困難であると認める場合には該当しない。処分行政庁は,原告の生計の状況を十分考慮し,本件条例に基づ き本件処分を行っており,本件処分は適法かつ妥当である。 ウ原告は,部下を指導すべき管理職員の立場でありながら,職員が一丸と 政庁は,原告の生計の状況を十分考慮し,本件条例に基づ き本件処分を行っており,本件処分は適法かつ妥当である。 ウ原告は,部下を指導すべき管理職員の立場でありながら,職員が一丸となって私費会計の適正化を図るために取り組んでいる最中に,長期間にわたり反復して,私費会計から資金を横領し,多額の使途不明金を発生せしめるなどしたのであるから,上記の各非違行為に対する責任は極めて重大であり,これによって地方教育全般に対する住民の信頼を著しく損なった。原告によ る非違行為の悪質性に鑑みれば,原告に本件以外に懲戒処分歴がないことや,本件が刑事事件化されていないことを考慮しても,本件処分は,著しく妥当性を欠くものとは到底いえない。 エしたがって,本件処分が,社会通念上著しく妥当を欠き裁量権を逸脱又は濫用したものでないことは明らかである。 (原告の主張)被告の主張する非違行為に対する原告の主張は,別紙非違行為一覧表の「原告の主張」欄記載のとおりである。 退職手当には賃金の後払い的性質,退職者の生活保障的性質,功労報償的性質がある。本件処分は,原告の35年間の労働や原告とその妻の今後の生計を 考慮していない。また,原告は,本件懲戒処分のほかには懲戒処分を受けたことはなく,いわゆる不祥事も起こしたことがなかった。また,本件懲戒処分の理由とされた事実については,刑事事件ともなっていない。 これらの事情を考慮すれば,本件退職手当の全額を返納させる本件処分は過酷であり,不合理・不相当である。 ⑷ 争点⑷(不当利得返還請求権の有無)について(原告の主張)被告は,原告に対し,取り消されるべき本件処分に基づき,本件退職手当の手取り分2618万8547円の返納を求め,平成29年1 争点⑷(不当利得返還請求権の有無)について(原告の主張)被告は,原告に対し,取り消されるべき本件処分に基づき,本件退職手当の手取り分2618万8547円の返納を求め,平成29年1月25日,原告から,その全額の利得を受けた。被告は,本件処分が取り消されるべきものであ り,本件処分による返納請求が法律上の原因を欠くものであることについて悪 意であった。 (被告の主張)本件処分は適法かつ妥当なものであり,取り消される余地はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件処分に理由提示の不備があり,本件処分が違法となるか)につい て⑴ 地方公務員法49条1項違反について原告は,本件処分の理由提示は不十分であって,地方公務員法49条1項に違反すると主張する。しかしながら,同項は,「職員に対し」と規定されていることから明らかなとおり,退職した職員に対する不利益処分に適用されるもの ではないから,本件処分が同項に違反するとの原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。 ⑵ 本件条例12条2項違反についてア本件条例12条2項,15条6項が,退職手当返納命令処分を行うときはその理由を付した書面により被処分者に通知しなければならないとしてい るのは,同処分が退職手当の全額又は一部の返納を命ずるという重大な不利益処分であることに鑑み,退職手当管理機関の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を被処分者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,上記の規定に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような趣旨に照らし,本件条 例の規定内容,本件運用基準の内容及び公表の有無,当該処分の 便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,上記の規定に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような趣旨に照らし,本件条 例の規定内容,本件運用基準の内容及び公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。 この見地に立って本件条例15条1項2号に基づく退職手当返納命令処分についてみると,上記のとおり,同処分が被処分者に対する重大な不利益 処分であることは明らかである。他方で,本件条例15条1項2号において は,退職手当返納命令処分の要件として,再任用職員が,退職手当が支払われた後に,退職前の在職期間中の行為に関し免職処分を受けたことと定められ,その考慮要素も明示されているのであって,その要件は簡明に規定されている。また,処分行政庁が定めた本件運用方針は,上記考慮要素について具体例を挙げて説明するものにすぎず,本件運用方針を参照しなければ被処 分者において退職手当返納命令処分の判断基準を把握できないような複雑な内容が定められているものではない。しかも,本件運用方針は,全職員に周知されていたものである(前記第2の2⑵参照)。 そして,本件処分についてみると,本件命令書には,非違行為①a~c,②という,本件懲戒処分の処分理由として明示されていた重大な非違行為に ついて記載されており,原告が,どのような非違行為を根拠として本件処分がされたのか容易に知ることができるようになっている。 このような本件の事情の下においては,本件命令書には,本件条例12条2項,15条6項の趣旨に照らし,十分な理由が提示されているというべきである。 イこれに対し,原告は,本件処分の理由提示の不備の違法を主張するが,以下のとおり,いず には,本件条例12条2項,15条6項の趣旨に照らし,十分な理由が提示されているというべきである。 イこれに対し,原告は,本件処分の理由提示の不備の違法を主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 原告は,本件命令書には,非違行為③~⑤が記載されておらず,これが処分理由となっていることが了知できないと主張する。 a 非違行為③について 確かに,本件命令書には非違行為③に関する記載はない(なお,本件命令書に「横領するなど非違行為を行った」との文言があり,これが非違行為③をも含むようにも思われるが,非違行為③は具体的な行為や被害金額も明確な事実であり,その内容も「横領」とは異なる重大な事実であるから,上記文言が極めて簡潔なものであることも併せ考慮すると, 上記文言に非違行為③が含まれると解するのは無理がある。)。 しかしながら,上記アのとおり,本件処分は,本件懲戒処分を受けて行われたものであるから,その処分理由となる非違行為が本件懲戒処分の処分事由と同一であることは,特段の事情のない限り,被処分者である原告にとっても明らかであったというべきである。そして,非違行為③については,本件懲戒処分の処分事由の一つとされており,本件命令 書に非違行為③を処分理由から除外することをうかがわせる文言はなく,他に上記特段の事情の存在はうかがわれない。 また,本件命令書に明記された非違行為①a~c,②は,いずれもそれ自体が犯罪を構成しかねない重大な非違行為であって,上記アのとおり,これらの事実については,適切にその理由が提示されている。 そうすると,本件命令書に非違行為③が記載されていないからといって,本件処分が違法であるとはいえない。 アのとおり,これらの事実については,適切にその理由が提示されている。 そうすると,本件命令書に非違行為③が記載されていないからといって,本件処分が違法であるとはいえない。 b 非違行為④,⑤について本件の事実関係の下においては,そもそも非違行為④,⑤が本件処分の処分理由であったと認めることはできない。その理由は,次のとおり である。 本件処分は,本件懲戒処分を受けて行われたものであるところ,前記前提事実⑵エのとおり,本件処分に先立つ本件懲戒処分の処分事由説明書においては,非違行為①a~c,②,③は記載されているものの,非違行為④,⑤については,何ら記載されていない。そして,本件懲戒処 分に至る経緯をみても,前記前提事実⑵イ,ウのとおり,本件校長が非違行為④,⑤をも理由として原告に金員の返納を請求し,原告がこれに応じて請求額全額を返納しているものの,原告は,本件校長に提出した本件供述書において,非違行為④,⑤に関する金員処理の正当性を主張し,本件懲戒処分に先立ち行われた本件事情聴取においても,上記金員 処理が不適切であることは認めたものの,私的流用の事実は認めず,上 記返納は不本意であった旨釈明している。そして,本件懲戒処分の処分事由説明書においては,非違行為④,⑤は記載されていないところ,このような重大な事実をあえて処分事由説明書に記載しない合理的な理由は見当たらない。そうすると,処分行政庁においては,本件懲戒処分をするに当たって,非違行為④,⑤についても処分事由の一つとするこ とが検討されたものの,結局それは見送られたとみるほかないのであって,本件懲戒処分において非違行為④,⑤が処分事由になっていたと認めることはできない。 そして,前 一つとするこ とが検討されたものの,結局それは見送られたとみるほかないのであって,本件懲戒処分において非違行為④,⑤が処分事由になっていたと認めることはできない。 そして,前記前提事実⑶ア,イのとおり,本件懲戒処分を受けて行われた本件処分についてみても,本件聴聞に先立ち原告に示された本件通 知書には非違行為④,⑤に関する記載はなく,本件聴聞の手続においても,処分行政庁の職員から,退職手当返納命令の理由として非違行為④,⑤に関する説明があったことはうかがわれない。加えて,前記前提事実⑶エのとおり,本件処分の処分理由が記載された本件命令書においても,非違行為④,⑤は理由として明記されていないのである(なお,本件命 令書の「横領するなど非違行為を行った」との文言が非違行為④,⑤をも含むと解することができないのは,非違行為③に関し上述したところと同様である。)。 そうすると,非違行為④,⑤が本件処分の処分理由になっているとは認められないというべきである。被告は,本件訴訟において,非違行為 ④,⑤も本件処分の処分理由であると主張しているが,これは,本件処分において処分理由とされていなかった事実を本件訴訟で追加主張しているにすぎないと解される(なお,このような追加主張が許されるか否かについては,後記3⑶で検討する。)。 したがって,非違行為④,⑤が処分理由として明示されていないこと を理由に本件処分の違法をいう原告の主張は,その前提を欠くものであ る。 また,原告は,本件命令書には本件運用方針の存在及びその適用関係が全く示されていないこと,原告が本件運用方針の存在について知らなかったこと,本件聴聞の手続においても本件運用方針について説明がなかったことから は,本件命令書には本件運用方針の存在及びその適用関係が全く示されていないこと,原告が本件運用方針の存在について知らなかったこと,本件聴聞の手続においても本件運用方針について説明がなかったことから,本件処分は理由提示の不備があると主張する。 しかしながら,前記アのとおり,本件運用方針は,退職手当返納命令処分において返納を命ずる額を検討するに当たって考慮すべき要素について,本件条例に列挙された考慮要素を具体的に説明するにとどまるものである。加えて,本件運用方針は制定時に全職員に周知されていたものである。そうすると,原告が,事前に,あるいは本件命令書において,本件運 用方針の内容を示されなければ,本件処分がいかなる理由に基づいてされたものかを知ることが困難であったと認めることはできない。したがって,本件命令書に本件運用方針に関する記載がなく,本件処分に当たって本件運用方針の存在等について説明等がなかったとしても,本件処分に理由提示の違法があるということはできない。 さらに,原告は,本件処分の理由とされている非違行為①aの「私費会計の事務処理」については,その具体的内容が何ら示されていないと主張する。 しかしながら,前記前提事実⑵ウのとおり,非違行為①aについては,本件懲戒処分に先立つ本件事情聴取においても,処分行政庁側の職員から, 非違行為①aに相当する事実の有無について質問を受け,原告はこれを肯定する旨の返答をしている。上記職員の質問は,非違行為①aに含まれる個々の会計事務処理の内容を明らかにするものではなく,概括的な質問にとどまるものであったが,原告が上記質問に際しその個別具体的な内容を明らかにすることを求めたことはうかがわれず,前記前提事実⑵エ,オの とおり,本件懲戒処分の処分事由説明書に ,概括的な質問にとどまるものであったが,原告が上記質問に際しその個別具体的な内容を明らかにすることを求めたことはうかがわれず,前記前提事実⑵エ,オの とおり,本件懲戒処分の処分事由説明書においても非違行為①aについて は概括的な処分事由しか示されなかったものの,原告がこれに不服申立てをすることもなかった。また,前記前提事実⑶イのとおり,本件処分に先立って行われた本件聴聞の手続においても,処分行政庁からは非違行為①aについて概括的な説明しかされなかったにもかかわらず,原告がその個別具体的な内容を明らかにすることを求めることもなかったというので ある。 そうすると,原告としては,非違行為①aに該当する個別具体的な事実関係があることを認識し,それを争わないという態度に終始していたのであるから,本件命令書においてその個別具体的な内容が明らかにされていなくとも,これをもって本件処分に違法があるということはできない。 ウしたがって,本件処分が理由提示の要件を欠き違法であるということはできない。 2 争点⑵(本件懲戒処分が違法であることにより本件処分も違法となるか)について原告は,本件懲戒処分が違法であるから,本件処分も違法であると主張する。 しかしながら,本件条例12条1項1号,15条1項2号によれば,退職手当返納命令処分は,懲戒免職等処分を受けて退職した者に対し,非違の内容等を勘案して行われるものであって,その判断に当たっては,懲戒免職等処分の処分事由となった非違の内容等が改めて考慮されることとなっている。そうすると,退職手当返納命令処分は,懲戒免職等処分を前提とするものではあるが,これとは 別個独立の処分であるというべきであるから,前者の処分の違法性が後者の処分に承継される ととなっている。そうすると,退職手当返納命令処分は,懲戒免職等処分を前提とするものではあるが,これとは 別個独立の処分であるというべきであるから,前者の処分の違法性が後者の処分に承継されると解することはできない。このように解しても,被処分者としては,懲戒免職等処分を受けた時点で当該処分の違法性を争うことができるのであるから,その手続保障に欠けるところはない。 したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くのであって,採用することは できない。 3 争点⑶(本件処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるか)について⑴ はじめに本件条例12条1項1号,15条1項2号は,退職手当管理機関が一般の退職手当等の全部又は一部の返納を命ずる処分をするに当たっては,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状況,当該 退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響のほか,当該退職をした者の生計の状況を勘案すべき旨を規定している。同処分をするに当たっては,このような広汎な事情について総合的な検討を要するのであるから,退職手当返 納命令処分の当否や返納を命ずる額を判断するに当たっては,平素から組織内の事情に通じて職員の指揮監督の衝に当たる者の裁量に任せるのでなければ,適切な結果を期待することができないといわなければならず,その判断は退職手当管理機関の裁量に任されているものと解すべきである。そうすると,退職手当管理機関が上記の裁量権の行使としてした処分は,それが社会観念上著し く妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,又はこれを濫用したと認め 任されているものと解すべきである。そうすると,退職手当管理機関が上記の裁量権の行使としてした処分は,それが社会観念上著し く妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである。したがって,裁判所が退職手当返納命令処分の適否を審査するに当たっては,退職手当管理機関と同一の立場に立って退職手当返納命令処分をすべきであったかどうか又は同処分を行うときにいかなる額の返納 を命ずべきであったかについて判断し,その結果と退職手当返納命令処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,退職手当管理機関の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものであると解される。 そこで,以下,このような見地から,本件処分について,裁量権の範囲を逸 脱又は濫用したと認められるか否かを検討することとする。 ⑵ 認定事実前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,複数頁にわたる書証のうち認定に用いた主な箇所の頁数を〔 〕内に摘示した。)。 ア私費会計事務処理マニュアル北海道教育庁は,学校における金銭事故が後を絶たないことから,関係団体とともに学校事務改善協議会を設置し,同協議会は,平成16年1月,「私費会計事務処理マニュアル」を作成した。同マニュアルにおいては,「各学校においては,日常の教育活動を展開するための経費として,公費(道費)の ほか,PTA会計などの会費や保護者からの徴収金等の私費(道外費)を取り扱っています。公的機関である学校が保護者等から徴収した経 ては,日常の教育活動を展開するための経費として,公費(道費)の ほか,PTA会計などの会費や保護者からの徴収金等の私費(道外費)を取り扱っています。公的機関である学校が保護者等から徴収した経費については,…その取扱いについて批判や疑惑を招かないよう,責任ある事務処理が求められています。このため,私費会計については,道費に準じ,厳正に取り扱う必要があります。」と記載されている。(甲13添付資料11,甲15 添付資料2)イ非違行為①aについて本件高校では,私費会計に係る決裁において,校長の偽造印が平成23年度には191回,平成24年度には434回使用されるなど,平成23年4月から平成25年3月31日までの間に,偽造した校長印及び教頭印が多数 回使用された。(乙25の1~6,弁論の全趣旨)ウ非違行為①bについて原告は,本件高校に在職中,「C商会代表 D」名義の納品書兼請求書や領収書を複数回にわたって作成した。「D」とは,原告の父の氏名であったが,上記作成当時,本件高校の取引業者の中にC商会という商号ないし屋号 の企業は存在しなかった。(甲13添付資料10〔4〕,甲25〔4〕,乙21 の1,弁論の全趣旨)エ非違行為①cについて原告は,本件高校に在職中,帳簿記載用の銀行及び信用金庫名の各スタンプ印と日付スタンプ印を組み合わせて,銀行及び信用金庫の各出納印を偽造し,本件高校名義の振込依頼書のうち少なくとも112件において,偽造し た出納印を押印してこれを使用した。(甲25〔4〕,乙25の1~6,乙26の1,2,乙27の1,2,弁論の全趣旨)オ非違行為②について原告は,本件高校に在職中,インターネット銀行からの送金のほうが,それ以外の一般金融機関からの送金より 乙25の1~6,乙26の1,2,乙27の1,2,弁論の全趣旨)オ非違行為②について原告は,本件高校に在職中,インターネット銀行からの送金のほうが,それ以外の一般金融機関からの送金よりも送金手数料が低額であることに目 を付け,平成23年4月27日から平成25年3月29日までの間,本件高校の私費会計から関係団体へ支払うべき金員について,まず,インターネット銀行の原告名義の個人口座に入金し,その口座から関係団体へ振り込むことを繰り返し,その結果,一般金融機関から振り込んだ場合の振込手数料との差額合計4万8455円を領得した。(甲13添付資料7,10,甲25 〔5〕,乙3の1~乙4の2)カ非違行為③について 原告は,平成24年3月30日,北門信用金庫の「北海道A高等学校体育実習費」名義の口座を解約した。その際の解約残金は16万7704円であった。(甲13添付資料7,10,乙2,弁論の全趣旨) ところが,当時,北海道銀行に「北海道A高等学校体育実習費」名義の預金口座が開設されていたにもかかわらず,原告は,同口座に上記解約残金を入金しなかった。(甲13添付資料7,10,乙12)キ非違行為④について 原告は,平成24年3月21日,16インチモニターの代金として2万 0790円(税込み)を,パソコンソフト「コーレルデジタルスタジオ」 の代金として1万0290円(税込み)を,それぞれ私費会計から支払った。併せて,原告は,上記の各物品について,同月15日付けで,C商会名義の納品書兼請求書を作成した。(甲13添付資料5,7,乙21の1,弁論の全趣旨)原告は,平成24年3月30日,パソコンソフト「GOMENCOD ER拡張版」の代金として,5980 会名義の納品書兼請求書を作成した。(甲13添付資料5,7,乙21の1,弁論の全趣旨)原告は,平成24年3月30日,パソコンソフト「GOMENCOD ER拡張版」の代金として,5980円(税込み)を私費会計から支払った。(甲13添付資料5,7,乙21の2,弁論の全趣旨)原告は,平成24年10月23日,パソコンソフト「ドクターフォトリカバリー」の代金として,4725円を私費会計から支払った。併せて,原告は,上記の物品について,同日付けで,C商会名義の納品書兼請求書 を,同月26日付けで同社名義の領収証を作成した。 (甲13添付資料5,7,乙21の3,弁論の全趣旨)原告は,平成24年8月17日,航空券の取消手数料として1万1140円を私費会計から支出した。(甲13添付資料5,7,乙22の1,弁論の全趣旨) 原告は,平成25年10月31日,本件高校による事情聴取に対し,モニターやパソコンソフトの購入については,自費で購入すべきだったと思う,自分の考え方が甘かったかもしれないなどと述べ,弁済を約束した。 また,原告は,同年11月7日,上記の物品代等について,自己負担すべきものであったことを認め,全額弁済することを約する旨の書面に 署名した。(甲13添付資料5,6〔6〕,乙28の1〔3〕)ところが,原告は,平成25年11月21日,本件高校による事情聴取に対し,個人負担すべきであったと判断された物品代について,私的流用といわれるのはちょっと納得がいかない,などと不満を述べ,本件供述書においても,購入した時は必要であると判断したなどと弁明した。(甲1 3添付資料6〔6〕) 本件事故報告書には,本件高校による調査結果として,次の記載がある。 パソコンソフトの購入は私費会計からは 時は必要であると判断したなどと弁明した。(甲1 3添付資料6〔6〕) 本件事故報告書には,本件高校による調査結果として,次の記載がある。 パソコンソフトの購入は私費会計からは認められていないし,購入したとしても職場では職員全員が道費購入のパソコンを使用し,スクールネットに接続することが義務付けられていた。原告が購入したソフトを他の職員は利用することができない環境にあった。事務室の職員も誰一人原告の ソフト購入のことは知らなかったし,原告も一度も事務室内では話題にしなかったことを認めている。(甲13添付資料6〔5〕)ク非違行為⑤について 原告は,決定書が作成されていないのに,本件高校のPTA会計口座から,平成24年10月2日に3万0700円を払い出した。(甲13添付 資料7,乙7の1,2)また,平成24年12月11日付け物品購入(修繕・その他)決議書に計上された金額の合計は17万8260円であるが,原告は,本件高校のPTA会計口座から,同日に19万6950円を払い出した(支払日計表と払出金額との差額は1万8690円である。)。また,平成25年3月8 日付け物品購入(修繕・その他)決議書に計上された金額の合計は33万4853円であるが,原告は,本件高校のPTA会計口座から,同日に35万8213円を払い出した(上記決議書と払出金額との差額は2万3360円である。)。(甲13添付資料7,乙8の1~乙9の3) 原告は,平成24年6月12日,私費会計から,北海道高等学校PTA 連合会大会の参加旅費を支出したところ,更に重複して1名分の旅費を支出したため,1万8340円が過払となった。ところが,その後,原告は,上記過払分の旅費の戻入れをしなかった。(乙10の1~3,弁論の全趣 会大会の参加旅費を支出したところ,更に重複して1名分の旅費を支出したため,1万8340円が過払となった。ところが,その後,原告は,上記過払分の旅費の戻入れをしなかった。(乙10の1~3,弁論の全趣旨) 原告は,平成24年3月28日から同年4月4日の間,いずれも北門信 用金庫に開設されていた4つの口座(①「北海道A高等学校共済掛金」名 義,②「北海道A高等学校共済組合」名義,③「北海道A高等学校写真代」名義,④「Aコウチョウ」名義)を順次解約したが,①の解約残金1836円,②の解約残金1262円,③の解約残金492円,④の解約残金3万0972円をいずれも上記解約前後に開設された北海道銀行の各口座に入金しなかった。(乙13の1~乙16の2,弁論の全趣旨) a 本件高校には,一時的な収納を役割とする北門信用金庫の「北海道A高等学校庶務会計」名義の口座(以下「本件庶務会計口座」という。)があった。本件庶務会計口座からの払出金は遅滞なく関係各口座に入金する手続を行う必要があった。(弁論の全趣旨)b 私費会計の未納者らは,以下のとおり,本件庶務会計口座に入金した。 Eは,平成23年3月31日に5520円を振り込んだ。(甲13添付資料6,7,乙17,18の1)⒝ Fは,平成23年4月6日に1万8280円を,Gは,同日に1万6610円を振り込んだ。 (甲13添付資料6,7,乙17,18の2,3) ⒞ Hの保護者は,平成23年4月12日に1万円を振り込んだ(なお,お釣りとして,同年5月31日,Hに対して1720円が返金された。)。(甲13添付資料6,7,乙17,18の4)⒟ Iは,平成23年6月23日に6770円を振り込んだ。(甲13添付資料6,乙17) c 原告は,以下の に対して1720円が返金された。)。(甲13添付資料6,7,乙17,18の4)⒟ Iは,平成23年6月23日に6770円を振り込んだ。(甲13添付資料6,乙17) c 原告は,以下のとおり,本件庶務会計口座から払出しを行ったが,その後,関係各口座に入金をしなかった。 原告は,平成23年5月31日,上記b~⒞(⒞については残額8280円)の合計額4万8690円を含む4万9050円を払い出したが,それらを各関係口座に入金しなかった。 (甲13添付資料6, 7,乙17,19~20の3) ⒝ 原告は,平成23年6月29日,上記b⒟の6770円を払い出したが,日計表を作成せず,関係各口座への入金もしなかった。(甲13添付資料6,乙17,35)⒞ 原告は,平成23年10月24日,7029円を払い出したが,関係各口座に入金しなかった。(甲13添付資料6,乙17,弁論の全 趣旨) 本件事故報告書には,本件高校による調査結果として,次の記載がある。 (甲13添付資料6)当該使途不明金について原告が「わからない」といっていたが,供述書には「教員のけが治療代」,「事務室清掃機器」の支払い,「PTA会計に3 万円戻入」と記載があったため,調査を行い,次のように結論を出した。 確かにPTA会計には平成24年3月28日付けで収納の決定書が作成されずに3万円の入金がある。高P連災害補償費口座にも,払出しの決定書がない同日付けの3万円の払出しがあったため,「PTA会計への3万円」は高P連災害補償金口座からの入金として整理した。 原告は,自らC商会名義の納品書兼請求書や領収書を作成した上で,以下のとおり,合計17万7154円分を私費会計に負担させた。(乙11の1~7,弁論の全趣旨) 金として整理した。 原告は,自らC商会名義の納品書兼請求書や領収書を作成した上で,以下のとおり,合計17万7154円分を私費会計に負担させた。(乙11の1~7,弁論の全趣旨)(請求日付) (物品) (代金)平成23年7月20日トナー 6384円 平成24年1月26日電池パック 1万0500円同月27日紙バラ 4万3665円同年2月2日和み紙等 6195円同月20日トナー 7300円同年3月26日印刷用マスター等 7万4235円 同日ロール紙等 2万8875円 ケ原告の生計の状況 原告は,平成26年4月8日付けで,「生計状況に関する申立書」と題する書面を作成した。同書面には,原告の生計状況について,要旨以下のとおりの記載があった。(甲13添付資料1,弁論の全趣旨)a 家族状況 妻59歳無職同居長男28歳別居b 財産現在住んでいる住居(土地約40坪・建物)平成11年約3000万円で購入 c 収入(月額)共済年金約12万5000円d 支出(月額)生活費 15万円社会保険,国民年金,税金等 5万円 施設に入居中の母親の援助 5万円e 現在の生活状況について現在求職中であるが,病気のため事務的な仕事しかできない健康状態であり,年齢もあって仕事はなかなか見つからない。原告の母親は83歳で身体障害者2級,要介護2級の認定を受け,現在介護老人保健施設 に入居しており,月5万円を援助している。退職金は,大半を住宅の借入金の返 あって仕事はなかなか見つからない。原告の母親は83歳で身体障害者2級,要介護2級の認定を受け,現在介護老人保健施設 に入居しており,月5万円を援助している。退職金は,大半を住宅の借入金の返済及びお墓の購入に充てた。現在の預貯金は約200万円である。退職金の返納に全財産を充てると,今後の生活を維持することは難しい。 原告は,平成27年8月20日付けで,生計状況に関する回答書を作成 した。同回答書には,要旨次の記載がある。(甲13添付資料2) 現在J設備サービスに就職しており,1か月の収入額が12万円であるが,1年契約のパートであり,2年後の定年以降は現在の収入が見込める状況にない。勤労以外による収入は,共済年金が149万5300円,老齢年金が56万8400円,企業年金が1万8960円である。現在の普通預金は305万7984円であり,住宅,土地及び軽自動車を有してい る。妻はパート就労中であるが,9月には離職予定である。子は独立しており,自分たちの生活で一杯のため,子からの経済協力は受けられない。 (甲13添付資料2)原告は,現在,肩書住所地に土地及び建物を有し,妻と2人暮らしをしている。原告は月額約17万円の年金を,原告の妻は月額約8万円の年金 をそれぞれ受給している。(弁論の全趣旨)⑶ 非違行為④,⑤の追加主張の適法性について前記bのとおり,非違行為④,⑤については,本件処分の理由とみることはできず,被告は,本件訴訟においてこれらの事実を追加主張したものとみるほかない。そこで,まず,このような追加主張が許されるか否かについ てみることとする。 本件条例12条1項1号,15条1項2号によれば,退職手当返納命令処分は「当該退職をした者が行った非違」の内容等を勘 ず,このような追加主張が許されるか否かについ てみることとする。 本件条例12条1項1号,15条1項2号によれば,退職手当返納命令処分は「当該退職をした者が行った非違」の内容等を勘案して行われるものであるところ,上記処分は懲戒免職等処分を前提とするものであるから,上記各条項にいう「当該退職をした者が行った非違」とは,懲戒免職等処分の処分事由と なった非違行為と同一であることが当然に想定されているというべきである。 一方,上記各条項によれば,退職手当返納命令処分を行うに当たっては,非違の内容程度のほか,被処分者の勤務状況や非違後の言動等を勘案するものとされているのであるから,懲戒免職等処分の処分事由となっていなかった非違行為がある場合,これをいわば情状事実として勘案して処分の内容を決すること も,上記各条項の下では想定されているというべきである。 したがって,本件においても,被告が非違行為④,⑤についても本件処分の処分理由として主張することは許され,裁判所もこれを考慮して本件処分の適法性を判断することができると解するのが相当である。 ⑷ 被告の主張する各非違行為の有無ア非違行為①aについて 前記前提事実⑵ウ及び前記認定事実イによれば,本件高校には偽造された校長及び教頭の印があり,それを原告が使用していたことが認められる。 原告は,偽造印の存在やこれを原告が使用していることは,当時の校長,教頭又は事務室内の他の職員も認識しており,校長及び教頭は当該事実に気付きながら黙認していた,偽造印は誰でも使用できる状態に置かれていたか ら,仮に被告の主張する件数の偽造印の使用があったとしても,全てが原告によるものではないなどと主張し,原告の陳述書(甲25〔4〕)にも,原告が ,偽造印は誰でも使用できる状態に置かれていたか ら,仮に被告の主張する件数の偽造印の使用があったとしても,全てが原告によるものではないなどと主張し,原告の陳述書(甲25〔4〕)にも,原告が用意した校長及び教頭の印鑑を使用することについては事務主任に伝えていたと思うなどと,これに沿う記載がある。 しかしながら,原告が本件高校における調査,本件事情聴取及び本件聴聞 の手続において上記のような弁解を述べていたことはうかがわれないし(甲13添付資料6,7,10,乙29参照),上記陳述書の記載は曖昧なものにとどまり,実際に事務主任が,原告が用意した校長及び教頭の印鑑を使用することについて伝えられていたと認めるに足りる証拠はない。また,当時の校長や教頭,他の事務職員らが当該偽造印の存在や使用について認識してい たと認めるに足りる証拠もない。 そうすると,校長等が偽造印の存在を黙認していたとは認められず,また,偽造印が使用されているものは,全て原告が使用したものであるといえるから,原告の上記主張を採用することはできない。 以上によれば,非違行為①aが認められる。 イ非違行為①bについて 前記認定事実ウによれば,原告がC商会名義の領収書等の私文書を偽造したことは明らかである(原告は,「C商会」は架空の会社ではないと主張するが,この点が偽造の成否を左右するものではない。)。 ウ非違行為①cについて前記認定事実エのとおり,原告が銀行や信用金庫の出納印を偽造し,少な くとも112件でこれを本件高校名義の振込依頼書に押印して使用していたことが認められる。 原告は,被告が主張する偽造銀行出納印の使用件数は112件であるところ,本件処分の理由である振込手数料の差額129件と件数が合わな 件高校名義の振込依頼書に押印して使用していたことが認められる。 原告は,被告が主張する偽造銀行出納印の使用件数は112件であるところ,本件処分の理由である振込手数料の差額129件と件数が合わないと主張するが,少なくとも112件において偽造出納印を使用したことは原告も 争わないところであるから,上記主張は上記認定を左右するものではない。 以上によれば,非違行為①cが認められる。 エ非違行為②について前記認定事実オによれば,原告は,私費会計から関係団体への振込手数料が実際にはインターネット銀行分しか生じていないにもかかわらず,一般金 融機関からの振込手数料が生じたように装ってこれを私費会計に負担させ,その差額を領得したものであるから,これを横領したというべきである。 原告は,私費会計には実質的損失は生じていないと主張する。しかしながら,私費会計において振込手数料の差額が生じたのであれば,私費会計に組み入れるべきものであり,これを原告が領得してよい理由はない。したがっ て,原告の上記主張を採用することはできない。 以上によれば,非違行為②が認められる。 オ非違行為③について前記認定事実カによれば,原告は,北門信用金庫の口座を解約して16万7704円の解約残金を得たにもかかわらず,これを別の口座に入金しなか ったものであり,その使途は不明といわざるを得ないから,原告が16万7 704円の使途不明金を生じさせたことは明らかである。 これに対し,原告は,解約残金は平成22年度の体育実習費リフト代等に充てたと主張する。確かに,原告がスキーリフト代3万7944円を立替払したことは認められるものの(甲13添付資料6〔4〕,弁論の全趣旨),上記解約残金が上記リフト代に充てられた 育実習費リフト代等に充てたと主張する。確かに,原告がスキーリフト代3万7944円を立替払したことは認められるものの(甲13添付資料6〔4〕,弁論の全趣旨),上記解約残金が上記リフト代に充てられたと認めるに足りる証拠はない(なお, 下記のとおり,上記の立替払分は,非違行為⑤の損害額を算出するに当たって控除されている。)。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 以上によれば,非違行為③が認められる。 カ非違行為④について によれば,原告は航空券の取消手数料を私費会計から支出したものであるところ,原告は,これが自己負担すべきものであったことを争っていない。したがって,原告は,上記取消手数料を私費会計から私的に流用したものと認められる。 また,前記認定事実キ~によれば,原告が複数の物品を購入し,その 代金として合計4万1785円を私費会計から支払ったことが認められる。 原告は,これらの物品は本件高校で使用することを目的に購入したものであるなどと主張するが,いつ,どのようにして使用されたのか具体的な説明はされておらず,実際に本件高校で用いられたと認めるに足りる証拠はない。 かえって,原告は,本件高校による事情聴取においては,上記物品の購入に ついても自己負担すべきものであったことを認め,その旨の文書に署名までし),本件事故報告書には,パソコンソフトの購入は私費会計からは認められないこと,事務室の職員は誰一人として上記ソフトの購入の事実を知らなかったことが記載されていること(認定事実)も併せ考慮すると,原告の上記主張を採用することはできないのであって, 原告は,私的に用いるために上記各物品を購入し,その代金を私費会計から 流用したものと推認するのが相当である。 も併せ考慮すると,原告の上記主張を採用することはできないのであって, 原告は,私的に用いるために上記各物品を購入し,その代金を私費会計から 流用したものと推認するのが相当である。 以上によれば,非違行為④が認められる。 キ非違行為⑤について原告は,被告の主張する使途不明金の認定が曖昧あるいはずさんなものであって,原告の責めに帰すべきものかどうか不明である,使途不明金と されているものの中には本件高校で使用するために購入した物品代に充てられたものもあるなどと主張する。そこで,以下,被告の主張する使途不明金について,原告の上記主張の当否を検討することとする。 a 銀行からの払出金額と決定書等の金額が相違しているもの(7万2750円)について ないにもかかわらず,私費会計から払出しを行い,その差額は合計7万2750円に達している。上記の支出については,そもそも決定書等が作成されていないにもかかわらず私費会計から支出するという処理手順自体,通常の手続を逸脱したものであって,原告からその使途につい て明確な説明とその裏付けとなる資料が示されない限り,使途不明金といわざるを得ないものである。しかるに,原告は,上記支出に係る金員の使途について明確な説明をしていないし,これが本件高校で使用する物品の購入に充てられたと認めるに足りる証拠もない。そして,原告は,本件高校が実施した事情聴取において,上記支出について,平成25年 10月24日には「記憶が定かでない」などと供述していたところ(乙28の1〔2〕),同月31日には「事務室の蛍光灯を購入した。」,「紙を買った。」,「プリンターのインクを買った。」などと供述を変遷させ(乙28の1〔2〕),同年11月7日には「蛍光灯は23年度のこ 28の1〔2〕),同月31日には「事務室の蛍光灯を購入した。」,「紙を買った。」,「プリンターのインクを買った。」などと供述を変遷させ(乙28の1〔2〕),同年11月7日には「蛍光灯は23年度のことだった。 勘違いして話した。コピー用紙を購入した。」などと更に供述を変遷さ せている(乙33〔1〕)。加えて,原告は,物品を購入したことを裏付 ける資料についても,「請求書や納品書は,退職の際に全部捨てた。」,「(物品をしばしば購入していた)Amazonは今はもうやめている。 入力する番号はもうわからない。」とか,「Amazonでは買っていない。」などと不自然な供述に終始している(甲13添付資料6)。このように,原告の供述は不自然かつ不合理であって,これを採用することは できない。 そうすると, 上記7万2750円については,本件高校で使用する物品代に充てたと認めることはできず,使途不明金と認めるのが相当である。 b 過払の旅費(1万8340円)について 払を生じさせているところ,上記過払分については,原告は,実際に要した旅費よりも1万8340円余分に旅費として私費会計から支出しているのであるから,原告からその使途について明確な説明とその裏付けとなる資料が示されない限り,使途不明金といわざるを得ないもので ある。しかるに,原告は,上記過払分の使途について明確な説明をしていないし,これが本件高校で使用する物品の購入に充てられたと認めるに足りる証拠もない。そして,原告は,本件高校が実施した事情聴取において,上記過払分について,平成25年10月24日には「どういう処理をしたのか覚えていない。」と述べ(乙28の1〔2〕),同月31日 には「かなり後から気が付き,教頭先生の旅費 た事情聴取において,上記過払分について,平成25年10月24日には「どういう処理をしたのか覚えていない。」と述べ(乙28の1〔2〕),同月31日 には「かなり後から気が付き,教頭先生の旅費を戻した。」と供述したものの(乙28の1〔2〕),同年11月7日には「思い違いがあった。戻入れをせずに事務室のエプソンのプリンターインク3箱とインクジェットの紙を買った。」などと供述を変遷させている(乙33〔1〕)。加えて,原告は,物品を購入したことを裏付ける請求書や納品書についても, 上記aのとおり,退職時に廃棄したと不自然な供述をしている(甲13 添付資料6)。このように,原告の供述は不自然かつ不合理であって,これを採用することはできない。 そうすると,上記1万8340円については,本件高校で使用する物品代に充てたと認めることはできず,使途不明金と認めるのが相当である。 c 北門信用金庫から北海道銀行への口座変更に伴う解約残金(3万4562円)について 合計3万4562円を北海道銀行の口座に入金しなかったのであるから,原告からその使途について明確な説明とその裏付けとなる資料が示 されない限り,使途不明金といわざるを得ないものである。しかるに,原告は,上記解約残金の使途について明確な説明をしていないし,これが本件高校で使用する物品の購入に充てられたと認めるに足りる証拠もない。そして,原告は,本件高校が実施した事情聴取において,平成25年10月24日には,上記解約残金のうち①「北海道A高等学校共 済掛金」名義,③「北海道A高等学校写真代」名義については「解約金が入金されていないのはどうしてなのか覚えていない。」,②「北海道A高等学校共済組合」名義については「共済組合の利息 等学校共 済掛金」名義,③「北海道A高等学校写真代」名義については「解約金が入金されていないのはどうしてなのか覚えていない。」,②「北海道A高等学校共済組合」名義については「共済組合の利息については,切手購入などに充ててよいと聞いている。よく覚えていないがそのような使い方をしたのじゃないか。」と述べ(乙28の1〔4〕),同月31日には, ②について,「どこの口座にも入金処理せず決定書も作成せず物品購入して使ったということである。」旨供述したものの(乙28の1〔4〕),同年11月25日には①~③及び④「Aコウチョウ」名義について「紙を買いました。」と述べ(乙28の2〔2〕),本件供述書には「コピー用紙20箱程度をインターネットで購入し着払いで支払いました。」と記 載するなど(甲13添付資料7〔2〕),供述を変遷させている。加えて, 原告は,物品を購入したことを裏付ける請求書や納品書についても,上記aのとおり,退職時に廃棄したと不自然な供述をしている。このように,原告の供述は不自然かつ不合理であって,これを採用することはできない。 そうすると,上記3万4562円については,本件高校で使用する物 品代に充てたと認めることはできず,使途不明金と認めるのが相当である。 d 私費会計の未納者が入金した口座から払い出された金員(6万2489円)について 本件庶務会計口座から合計6万2489円を払い出したが,遅滞なく行うべき関係各口座への入金手続をしなかったc⒝のとおり,6770円分については,日計表も作成していない。)のであるから,原告からその使途について明確な説明とその裏付けとなる資料が示されない限り,使途不明金といわざるを得ないものである。 しかるに,原 70円分については,日計表も作成していない。)のであるから,原告からその使途について明確な説明とその裏付けとなる資料が示されない限り,使途不明金といわざるを得ないものである。 しかるに,原告は,上記払出金の使途について明確な説明をしていないし,これが本件高校で使用する物品の購入等に充てられたと認めるに足りる証拠もない。 ⒝ この点,原告は,本件供述書においては,上記払出金について,「4万8690円につきましては,口座に入金せずに両替,おつり又は緊 急時の立替金等で事務室の金庫で保管しておりました。」,「4万8690円のうち約1万9000円につきましては,教員のけが治療代1万5000円,事務室清掃器機3980円の支払に流用いたしました。」,その残金は「PTA会計に3万円戻入いたしました。」,6770円及び7029円については「記憶にありません。」と述べている (甲13添付資料7〔2〕)。 しかしながら,原告が主張する上記の使途については,何ら裏付けとなる証拠がない。また,3万円については,確かに,前記認定事実原告の供述するとおり,収納の決定書のないPTA会計への戻入れがあったと認められるものの,他方で,戻入れと同日に,払出しの決定書のない高P連災害補償費口座からの3万円の出金が あったと認められるのであって,上記払出金のうちの3万円が上記戻入れに充てられたと認めるに足りる証拠はない(なお,この点について原告は,高P連災害補償費口座からの3万円の出金については,調査がされておらず,使途不明金が生じているかは不明のままであるなどと主張するが,原告の弁解を受けて調査が行われた結果,PTA会 計口座への3万円の入金は高P連災害補償費口座からの入金として整理され3万円の使途不明金が生じていること は不明のままであるなどと主張するが,原告の弁解を受けて調査が行われた結果,PTA会 計口座への3万円の入金は高P連災害補償費口座からの入金として整理され3万円の使途不明金が生じていることが確認されているのであって,原告の主張は前提を欠くから,採用することができない。)。そうすると,原告の上記供述を採用することはできない。 ⒞ また,原告は,本件訴訟においては,①上記払出金のうち平成23年6月29日の6770円については,同月30日付けの「父母と教師の会」名義の口座への52万1400円の入金,同日付けの「文化体育振興会」名義の口座への53万4600円の入金又は同日付けの「生徒会」名義の口座への171万0720円の入金の中に含まれて いないとはいえないから,使途不明金とはいえない,②被告は審査請求手続では「私費会計の未納者が納入期限後に入金した口座から払い出された使途不明金」については3件1万4054円と主張していたから,被告の使途不明金の認定は変遷しているなどと主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,以下のとおり,いずれも採用す ることができない。 ①については,原告から6770円をどの口座にいくら入金したのか具体的な説明はされておらず,原告がこれまでにそのような弁解を述べていたことはうかがわれないし,実際に上記各口座に入金したと認めるに足りる証拠はないから,使途不明金といわざるを得ない。また,②については,処分行政庁が審査請求手続でそのような主張をし ていたのは,6万2489円から,原告の立替払を認めた4万8435円を差し引き,便宜上3件1万4054円と整理していたにすぎないと認められるから(甲13〔12〕,同添付資料5参照),被告の使途不明金の認定に変遷があるとはいえない。 告の立替払を認めた4万8435円を差し引き,便宜上3件1万4054円と整理していたにすぎないと認められるから(甲13〔12〕,同添付資料5参照),被告の使途不明金の認定に変遷があるとはいえない。 ⒟ そうすると,上記6万2489円については,使途不明金と認める のが相当である。 eC商会名義で購入したとされる物品代(17万7154円)について前記認定事実ウ,原告は,実態のない「C商会」名義の書類を作成した上,物品を購入したとして,合計17万7154円を 私費会計に負担させているのであるから,原告からその使途について明確な説明とその裏付けとなる資料が示されない限り,使途不明金といわざるを得ないものである。しかるに,原告は,上記物品代の使途について明確な説明をしていないし,これが本件高校で使用する物品の購入に充てられたと認めるに足りる証拠もない。そして,原告は,本件高校が 実施した事情聴取において,上記物品代について,平成25年11月7日には,「C商会から購入したのではなく,私がインターネットで購入して,C商会の伝票を自分が作っていた。ネット購入ばかりだと都合が悪いかなと思ってC商会の名を借りた。Amazonで買うことが多かった。」,ネットショップでは「領収書が来ないところもあった。」,購入 履歴やクレジット明細等購入を確認できる手段の有無について「明細も ない。」,「パソコンも廃棄しているからデータもない。確認することはできないと思う。」と述べ(乙33〔3〕),同月25日には「その都度見て買ってたものですから,どこから買ったか,なんていう会社だったのか。覚えてないんですよ。」と述べ(乙28の2〔4〕),物品を購入したことを裏付ける請求書や納品書については,「パソコンを廃棄した 見て買ってたものですから,どこから買ったか,なんていう会社だったのか。覚えてないんですよ。」と述べ(乙28の2〔4〕),物品を購入したことを裏付ける請求書や納品書については,「パソコンを廃棄した。」, 「Amazonは今はもうやめており,入力する番号は分からない。」(上記a)などと不自然な供述に終始している。このように,原告の供述は不自然かつ不合理であって,これを採用することはできない。 なお,原告は,上記17万7154円の物品名は,個人で使用するには不自然に大量の物品であり,本件高校で使用する物品であったものと 考えるのが合理的であると主張する。しかしながら,物品名の記載された書類は原告が偽造したものであり,そもそもそれらの商品が実際に購入されたか否かが明らかではないのであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。 そうすると,上記17万7154円については,本件高校で使用する 物品代に充てたと認めることはできず,使途不明金と認めるのが相当である。 以上によれば,原告は合計36万5295円の使途不明金を生じさせたと認められる。他方で,原告は,合計4万8435円(スキーリフト代3万7944円,同窓会費5281円,写真代5210円)の立替払いをし たと認められる(甲13添付資料6)から,結局,原告が生じさせたその他の使途不明金は,31万6860円となる。したがって,非違行為⑤が認められる。 ⑸ 裁量権の逸脱又は濫用ア本件懲戒処分の処分事由となった非違行為のうち,非違行為①a~cは, 他人名義を冒用して文書を作成するなどしたというものであり,非違行為② は私費会計に帰属すべき振込手数料の差額を着服したというものであって,いずれも犯罪を構 ,非違行為①a~cは, 他人名義を冒用して文書を作成するなどしたというものであり,非違行為② は私費会計に帰属すべき振込手数料の差額を着服したというものであって,いずれも犯罪を構成しかねないような重大なものである。とりわけ,非違行為①cは,外部者である金融機関の出納印を偽造してこれを虚偽の振込依頼書に押印したというものであるところ,偽造された出納印は一見して真正のものと判別ができないような精巧なものであって,その手口は巧妙である。 非違行為③についても,16万円余という決して少額とはいえない金銭が使途不明となっているのであって,私費会計に与えた影響は少なからぬものがある。加えて,原告は,自己負担すべき物品代等を私費会計に負担させ(非違行為④),その他使途不明金31万円余を発生させている(非違行為⑤)。 イこうした一連の非違行為をみると,原告の事務処理は,専ら私利を図るた め,あるいはずさんな事務処理の結果として,もたらされたものというほかなく,その経緯に酌むべき事情は何ら見当たらない。 なお,原告は,非違行為①bについては,全て実際に消耗品を購入したとのとおり,消耗品の購入の確認が取れないものが17万7154円もあるのであるから,この点を格別原告 に有利な事情とみることはできない。 また,原告は,非違行為②については,原告が生徒の授業料を立て替えたことから,その補塡のために行ったものであって,酌むべき事情があると主張する。しかしながら,原告が授業料の立替を行ったことについては,何ら裏付けがない上,本件訴訟における主張内容は,本件供述書における供述内 容とも大きく異なっているのであって,採用し難い。そもそも,仮に原告がそのような立替を行ったからといって,私費会計からの横領が許されるものでな 訟における主張内容は,本件供述書における供述内 容とも大きく異なっているのであって,採用し難い。そもそも,仮に原告がそのような立替を行ったからといって,私費会計からの横領が許されるものでないことはいうまでもない。 したがって,原告の上記各主張を採用することはできない。 ウ原告は,本件高校の事務長という教育機関の重職に就き,校長等からの信 頼を受けて会計事務を担当していたにもかかわらず,その職責に背き,約2 年もの長きにわたり,悪質かつずさんな事務処理を常習的に続けていたのであって,その結果,本件高校の私費会計に混乱を与え,金銭的損害までも生じさせたものである。原告の非違行為の対象は,私費会計ではあるものの,これは保護者からの徴収金等で賄われるものであって,保護者は本件高校を信頼して金員の処分を委ねているのであるから,厳正に取り扱う必要がある ことはいうまでもなく,「私費会計事務処理マニュアル」においても,私費会計は道費に準じて厳正に取り扱う必要があると指摘されているところである(認定事実ア)。ところが,原告は,保護者や生徒からの信頼に背いて,悪質かつずさんな事務処理に及び,本件高校に対する信頼を失墜させたものである。 エ加えて,原告の非違行為が発覚した経緯を見ても,後任の事務長が不審点に気付いて調査が行われたところ,これが発覚したというものであって(前提事実⑵),原告が自主的に自らの非違行為を申告したというものではない。 発覚後,原告は,本件高校による調査や本件事情聴取において,基本的な事実関係はおおむね争わなかったものの,使途等に関する説明を二転三転させ, あるいは不自然かつ不合理な説明を展開するなどしているのであって,自らの非違行為の重大性に対する自覚が乏しいといわざるを得ない。 むね争わなかったものの,使途等に関する説明を二転三転させ, あるいは不自然かつ不合理な説明を展開するなどしているのであって,自らの非違行為の重大性に対する自覚が乏しいといわざるを得ない。 オ一方,前記認定事実ケによれば,本件処分当時,原告が,本件手当の全額の返納を命じられたとしても,原告の生活が著しく困窮するような状況にあったとは認められないし,返納が困難であったというべき事情があったとも 認められない。そして,現に原告は本件処分で命じられた全額を返納しているのであって(前提事実⑶オ),これにより生計が維持できなくなったとも認められない(なお,原告は,返納に当たって1000万円を借り入れたと主張するが,所有不動産等の財産を処分せずに借入金で返納金を賄うこととしたのは,原告の選択によるものにすぎない。)。 カそうすると,本件退職手当が賃金後払い等の性格を有すること,原告が被 告の職員として35年間勤務し,その間本件懲戒処分を除いて懲戒処分を受けたことはないこと,原告が本件高校から弁済を求められた全額を弁済していること,本件処分により原告とその妻の老後の生活に少なからぬ不利益が生じていることなど,原告が主張する諸事情を考慮しても,原告が本件退職手当の全額の返納を命じられてもやむを得ないものであって,本件処分は, 退職手当支給制限処分において全部不支給を原則とする本件運用指針の趣旨にも沿うものであるから,社会観念上著しく妥当を欠くものではなく,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したとは認められない。 4 争点⑷(不当利得返還請求権の有無)について 以上によれば,本件処分は適法であるから,原告が被告に返納した本件退職手当につき法律上の原因がないとはいえず,これが不当利得にな 4 争点⑷(不当利得返還請求権の有無)について 以上によれば,本件処分は適法であるから,原告が被告に返納した本件退職手当につき法律上の原因がないとはいえず,これが不当利得になるとはいえない。 第4 結論したがって,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官武藤貴明 裁判官宮崎雅子 裁判官亀井直子
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