目次被告人の表示等(省略) 主文 理由 第一部序説Ⅰ 本件事案の概要等第一原判決の認定した事実第二公訴事実との関係Ⅱ 本判決に用いる略語・符号等第一原審記録等を引用する場合第二固有名詞の略語第二部本論序章本件各控訴の趣意及びこれらに対する答弁第一章直輸入商品関係特別背任事件(被告人両名関係)第一節被告人A1の任務内容に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項判示方法の不備等について第二項被告人A1の任務内容について第二款当裁判所の判断第一項判示方法に関する主張について第二項任務内容に関する主張について第二節被告人A3らの有用性に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説第二項被告人A3及びD3の活動の有用性について一被告人A3の能力等二原判示各犯行開始前における被告人A3らの活動三原判示各犯行期間中における被告人A3らの活動第三項 D65の活動の有用性について第二款当裁判所の判断第一項総説第二項被告人A3らの活動の有用性に関する主張について第三項有用性の程度、対価の相当性についての検討一 D65に取得させた売買差益二被告人A3に取得させた香港コミッション第三節共謀及び実行行為に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説第二項訴因の特定について第三項判示方法の不備等について第四項基本的な共謀の成立及びその内容 控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説第二項訴因の特定について第三項判示方法の不備等について第四項基本的な共謀の成立及びその内容について第五項共謀の継続、発展に関する間接事実について第六項非身分者である被告人A3の共同正犯性について第七項罪数について第二款当裁判所の判断第一項総説第二項訴因の特定に関する主張について第三項判示方法に関する主張について第四項基本的な共謀に関する主張について一 D1における「準直方式」二被告人A1の準直方式採用への関与と共謀の成立三 A3絡み輸入方式の成立、拡大の経緯第五項共謀の継続、発展に関する主張について一被告人A1の直輸入推進に関する指示二被告人A1の個別的・具体的な発言等三いわゆる「A3人事」第六項被告人A3の共同正犯性に関する主張について第七項罪数に関する主張について第四節故意・目的等の主観的要素に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項被告人A1関係一総説二任務違背及び損害発生の認識・認容三 D65の利益を図る目的第二項被告人A3関係一総説二任務違背及び損害発生の認識・認容三 D65の利益を図る目的第二款当裁判所の判断第一項被告人A1関係一総説二任務違背及び損害発生の故意に関する主張について三図利目的に関する 利益を図る目的第二款当裁判所の判断第一項被告人A1関係一総説二任務違背及び損害発生の故意に関する主張について三図利目的に関する主張について第二項被告人A3関係一総説二任務違背及び損害発生の故意に関する主張について三図利目的に関する主張について第五節損害に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説第二項損害の捉え方と損害発生の有無について第三項判示方法の不備等について第四項 D65による検品等の対価について第五項返品、再納等による差額について第二款当裁判所の判断第一項総説第二項損害の捉え方と損害発生の有無に関する主張について第三項判示方法に関する主張について第四項検品等に関する主張について第五項返品、再納等に関する主張について第六項職権による調査第七項結論第二章自宅改修費関係特別背任事件(被告人A1関係)第一節所論の要旨第二節当裁判所の判断第一款総説第二款関係証拠から認定できる事実第三款被告人の検面調書の信用性に関する主張について第四款原審証人らの供述の信用性に関する主張について第五款その余の弁護人の主張について第一項未払い代金の有無についての被告人の認識第二項 B58らの不正行為による未払い分の回収第三項リース料金上乗せと自宅改修費支払いとの関係第六款結論第三章所得税法違反事件(被告人A3関係 被告人の認識第二項 B58らの不正行為による未払い分の回収第三項リース料金上乗せと自宅改修費支払いとの関係第六款結論第三章所得税法違反事件(被告人A3関係)第一節逋脱の故意等に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第二款当裁判所の判断第二節ワールドファッション宛デザイン料収入の帰属に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第二款当裁判所の判断第三節 D59コミッションの年分帰属に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第二款当裁判所の判断第四節 D24からのコミッション収入に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第二款当裁判所の判断第五節必要経費に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第二款当裁判所の判断第一項外国所得税に関する主張について第二項 C24に支払った給料・旅費に関する主張について第三項 D63に支払った名義使用料に関する主張について第六節結論終章各控訴趣意に対する判断の総括第三部自判Ⅰ 罪となるべき事実Ⅱ 証拠(省略)Ⅲ 法令の適用Ⅳ 一部無罪の理由Ⅴ 結語【別紙】(一) 準直商品差益額の内訳(二)(1) 修正損益計算書(昭和五四年分)(2) 脱税額計算書(昭和五四年分)(三)(1) 修正損益計算書(昭和五五年分)(2) 脱税額計算書(昭和五五年分)(四)(1) 修正損益計算書(昭和五六年分(2) 脱税額計算書(昭和五六年分)(五) 被告人両名に対する昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実 脱税額計算書(昭和五五年分)(四)(1) 修正損益計算書(昭和五六年分(2) 脱税額計算書(昭和五六年分)(五) 被告人両名に対する昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実第二の要旨 主文 原判決を破棄する。 被告人A1を懲役三年に、被告人A2を懲役二年六月及び罰金六〇〇〇万円にそれぞれ処する。 被告人A2において右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。 原審における訴訟費用中、証人B1、同B2、同B3、同B4、同B5、同B6、同B7、同B8、同B9、同B10、同B11、同B12、同B13、同B14、同B15、同B16、同B17、同B18、同B19、同B20、同B21、同B22、同B23、同B24、同B25、同B26、同B27、同B28、同B29、同B30、同B31、同B32、同B33、同B34、同B35、同B36、同B37、同B38、同B39、同B40、同B41及び通訳人C1に支給した分並びに当審における訴訟費用(全部)は、被告人両名の連帯負担とし、原審における訴訟費用中、証人B58、同B42、同B43、同B44、同B45、同B46、同B47及び同B48に支給した分は、被告人A1の負担とする。 昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実の第二について、被告人両名は、いずれも無罪。 理由 第一部序説Ⅰ 本件事案の概要等第一原判決の認定した事実原判決が認定した罪となるべき事実【原判決五〇ないし五九頁】の要旨は、次のとおりである。 一直輸入商品関係特別背任事件被告人A1は、株式会社D1(以下会社名については、初出時以外は「株式会社」を省略 認定した罪となるべき事実【原判決五〇ないし五九頁】の要旨は、次のとおりである。 一直輸入商品関係特別背任事件被告人A1は、株式会社D1(以下会社名については、初出時以外は「株式会社」を省略する。)の代表取締役としてその業務全般を統括していたもの、被告人A3ことA2(以下「被告人A3」という。)は、株式会社D65の代表取締役であるとともに、D3株式会社の実質的経営者であったところ、被告人両名は、共謀の上、被告人A1において、D1が商品を仕入れるに当たり仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入に伴う無用の支出を避けるべき任務を有していたにもかかわらず、これに背き、 1 D65の利益を図る目的をもって、昭和五三年八月ころから同五七年七月ころまでの間、D1が海外で買い付けD3を介して輸入した商品につき、D65を経由して仕入れる合理的な理由がないにもかかわらず、これをことさらD3からD65に転売させた上D1が仕入れ、これによるD65の差益額(D65のD3からの仕入価額とD1への納入価額の差額)合計一五億七七四五万七四六七円を含む仕入代金合計一〇九億〇六四一万八二九七円を、同五三年八月二五日ころから同五七年九月六日ころまでの間、東京都中央区ab丁目c番d号所在D4銀行a支店のD1の当座預金口座から同都港区ef丁目g番h号所在同銀行e支店のD65の当座預金口座に振込入金し、もって、D1に対し右一五億七七四五万七四六七円相当の損害を加え、 2 被告人A3の利益を図る目的をもって、昭和五四年四月ころから同五七年二月ころまでの間、D1が香港を中心とする東南アジア地域から商品を買い付けるに当たり、同被告人に手数料を支払うべき合理的な理由がないにもかかわらず、D7有限公司(以下「香港D8」という。)あるいは香港在住の納入業者らをして、同被告人に支払 南アジア地域から商品を買い付けるに当たり、同被告人に手数料を支払うべき合理的な理由がないにもかかわらず、D7有限公司(以下「香港D8」という。)あるいは香港在住の納入業者らをして、同被告人に支払う手数料名下の金額合計二億六七三一万九三一六円を仕入価格等に上乗せして請求させ、右請求金額を同五四年五月二三日ころから同五七年九月八日ころまでの間、東京都中央区ai町b丁目j番d号所在のD9銀行D10ほかD11銀行D9支店、D13銀行D14支店、D15銀行D16支店及びD17銀行D9支店のD1の当座預金口座から右D8あるいは香港在住の納入業者らに支払い、もって、D1に対し右二億六七三一万九三一六円相当の損害を加えたものである。 二自宅改修費関係特別背任事件被告人A1は、D1の代表取締役としてその業務全般を統括し、同社のため忠実にその業務を遂行すべき任務を有していたものであるところ、D18株式会社に対する自宅の改修工事代金をD1の計算において支払うことを企図し、右任務に背き、自己の利益を図る目的をもって、昭和五五年三月一日ころ、D1がD18との間で、D1の使用する各種ケースに関するリース契約を締結するに際し、D18が希望価格として見積り呈示したリース料金に多額の上乗せをした不当に高額のリース料金を支払うこととした上、同年三月二五日ころから同五七年九月六日ころまでの間、右契約に従い、D18の見積ったリース料金との差額合計八七四二万一九〇〇円を含む合計二億六九八三万九五六〇円を東京都中央区ab丁目c番d号所在D4銀行a支店及び同銀行東京支店のD1の当預金口座から同都豊島区mn丁目o番p号所在同銀行D19支店及び同銀行D20支店のD18の当座預金口座に振込入金し、もって、D1に対し右八七四二万一九〇〇円相当の損害を加えたものである。 三 当預金口座から同都豊島区mn丁目o番p号所在同銀行D19支店及び同銀行D20支店のD18の当座預金口座に振込入金し、もって、D1に対し右八七四二万一九〇〇円相当の損害を加えたものである。 三所得税法違反事件被告人A3は、D3、D65及びA3アクセサリー学院を経営するかたわら、D1が買い付ける商品に関し、D8あるいは香港在住の納入業者を介して手数料収入を得ていたほか、香港在住のD1の関連会社D21有限公司(以下「D21」という。)からD1のオリジナル婦人服「D22」に関するデザイン料収入等を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右手数料、デザイン料等の支払を受けるに当たり、香港の法人名義又は他人名義を用いるなどの不正な方法により、その所得を秘匿した上、 1 昭和五四年分の実際総所得金額が一億二一九四万四六〇四円であったにもかかわらず、同五五年三月一五日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が五三四〇万三九一四円でこれに対する所得税額が一七四三万七二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額六七一二万三四〇〇円と右申告税額との差額四九六八万六二〇〇円を免れ、 2 昭和五五年分の実際総所得金額が一億九一二〇万二〇七六円であったにもかかわらず、同五六年三月一六日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が八一三一万九九七四円で、これに対する所得税額が二七八七万〇六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一〇三二万一三〇〇円と右申告税額との差額八二四五万〇七〇〇円を免 〇六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一〇三二万一三〇〇円と右申告税額との差額八二四五万〇七〇〇円を免れ、 3 昭和五六年分の実際総所得金額が二億九〇九一万九九二四円であったにもかかわらず、同五七年三月一五日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が一億一〇八三万二三七〇円で、これに対する所得税額が一八三九万七一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億四九五三万円と右申告税額との差額一億三一一三万二九〇〇円を免れたものである。 第二公訴事実との関係以上の原判示事実中、一の1、2(直輸入商品関係特別背任事件)は、被告人両名に対する昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実第一、第二に、同二(自宅改修費関係特別背任事件)は、被告人A1に対する同年一一月一六日付起訴状記載の公訴事実に、同三の1ないし3(所得税法違反事件)は、被告人A3に対する同月五日付起訴状記載の公訴事実第一ないし第三に、それぞれ対応していて、原審は、金額面における若干の減額等を除けば、各公訴事実とほぼ同一の事実を認定したものである。 Ⅱ 本判決に用いる略語・符号等第一原審記録等を引用する場合一原判決の引用原判決は、原審記録第一一冊二五四四丁ないし二七四六丁に編綴されているが、その一部を引用する場合には、【一二三】のように、【 】を用い、原判決に独自に付された頁数によって該当箇所を表示する。 二原審記録第二分類の表示 1 証拠書類群は、原審記録第一四冊三一三六丁の一枝丁から第四四冊同丁の七三四四枝丁に編綴されているが、〈二〇・一 独自に付された頁数によって該当箇所を表示する。 二原審記録第二分類の表示 1 証拠書類群は、原審記録第一四冊三一三六丁の一枝丁から第四四冊同丁の七三四四枝丁に編綴されているが、〈二〇・一三〇〇〉のように、〈 〉を用い、冊数と枝丁数のみによって該当箇所を表示する。 2 公判供述群は、原審記録第四五冊三一三七丁の一枝丁から第一二〇冊同丁の一八、七七七枝丁に編綴されているが、〔五〇・一四〇〇〕のように、〔 〕を用い、冊数と枝丁数のみによって該当箇所を表示する。 3 証拠書類の表示は、例えば、検察官に対する昭和五七年一一月二日付供述調書を五七・一一・二検面調書とする例による。 三証拠物の表示《二〇》のように、《 》を用い、当庁昭和六三年押第七d号の符号のみによって表示する。 第二固有名詞の略語一既出のとおり、会社名については初出時のみフルネームとし、それ以外は「株式会社」又は「有限会社」などの表示を省略する。なお、「D7有限公司」を「D8」とするような場合には、その都度本文中に注記する。 二自然人についても、初出時又は既出箇所から相当離れている場合以外は、混同の虞のない限り、姓(外国人の場合は原則としてファミリーネーム)のみによって表示することがある。 三その他は、本文中に注記する。 第二部本論序章本件各控訴の趣意及びこれらに対する答弁被告人A1の控訴の趣意は、第一表A項掲記の各書面に記載のとおり、同A3の控訴の趣意は、同表B項掲記の各書面に記載のとおりであり(以下、これらを引用する場合には、「A1」、「B3」のように、同表記載の符号、番号でこれを特定し、該当箇所の丁数又は真数を記載する。但し、A1については、各章ごとに独立の頁数が付されているため、「一・三〇」のように章数と頁数 には、「A1」、「B3」のように、同表記載の符号、番号でこれを特定し、該当箇所の丁数又は真数を記載する。但し、A1については、各章ごとに独立の頁数が付されているため、「一・三〇」のように章数と頁数とを併記する。)、これらに対する答弁は、検察官樋田誠作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。 (第一表)<記載内容は末尾1添付>第一章直輸入商品関係特別背任事件(被告人両名関係)第一節被告人A1の任務内容に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項判示方法の不備等について(構成要件の不明確・理由不備の主張、A1四・一以下、B1三一〇以下)原判決は、D1の代表取締役である被告人A1には、「D1が商品を仕入れるにあたり仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務」があった旨判示し【五二など】、同被告人がこの任務に違反したものであるとして、昭和五六年法律第七四号附則二七条により同法による改正前の商法四八六条一項(以下「改正前の商法四八六条一項」という。)を適用している。しかし、「1」刑罰法規の解釈・適用に際して「無用な支出を避ける」などという意味内容の曖昧な要素を持ち込むことは、構成要件の不明確性をもたらすものであって、憲法三一条に違反する。「2」そうでないとしても、このような一般的、抽象的な表現では特別背任罪における罪となるべき事実の判示として極めて不十分であって、原判決には理由の不備がある。 「3」企業の営業政策は多様であって、外部から軽々にその当否を判断することは困難である。特に、どのようなやり方で商品の買付・仕入を行うかは、百貨店の経営方針の基本的な事柄に属するものであって(通常は取締役会が決するが、D1においては長年に亘って代表取締役の専決に委ねてきたもの である。特に、どのようなやり方で商品の買付・仕入を行うかは、百貨店の経営方針の基本的な事柄に属するものであって(通常は取締役会が決するが、D1においては長年に亘って代表取締役の専決に委ねてきたものである。)、仕入における「無用な支出」かどうかの判断も、当該企業の営業政策如何によって異なる筈であり、法は企業経営の合理性に関する判断に対し謙抑的な態度をとるべきものであるから、企業の経営責任者に対し右のような法的任務を課した原判決は、特別背任罪の解釈・適用を誤ったものである。したがって、原判決は、いずれの点においても破棄を免れない。 第二項被告人A1の任務内容について(法令の解釈・適用の誤り等の主張、A4一以下など)被告人A1には、原判示のように、仕入に際し「無用の支出を避ける」任務はない。すなわち、D1においては、仕入・販売による自社の粗利益を確保するために、従前からの経験や実績等を勘案し、自社にふさわしいと考えられる「売価に対する粗利益の割合」をあらかじめ各品別に定めて、これを「店出率」と呼称し、現実の仕入に当たっては、あらかじめ当該商品の売価を決定又は予定し、これに「店出率」を乗じて「粗利益」額を算出し、右粗利益額を確保できる範囲内で仕入を行うという「商」(あきない)の仕方が存在し、店出率による粗利益が確保できない場合には仕入価格の減額を図るが、確保できる場合には納入業者の言い値でも差し支えないこととなり、それ以上の利益は追求しないという方法が行われてきたのである。それ故、D1の仕入担当者の任務は、単に「無用の支出を避ける」ことではなく、「仕入に際し、何ら合理的な理由がないのに出費することによって、所定の店出率による相当程度の粗利益の確保を図ることができなくなることを避けること」であり、仕入担当者らを統括する立場にある被告人 なく、「仕入に際し、何ら合理的な理由がないのに出費することによって、所定の店出率による相当程度の粗利益の確保を図ることができなくなることを避けること」であり、仕入担当者らを統括する立場にある被告人A1の任務は、かかる観点から仕入担当者らが「所定の店出率による相当程度の粗利益が確保されないのに、無用な支出をすることのないように管理、監督すること」である。原判決は、店出率を「商品の売価と原価の差額を売価で除したもの」と定義しているが【一九六】、これは販売結果後の粗利益額の売価に対する比率、少なくとも売価と仕入価格が決まった後の比率をいうのであり、それは、右に述べたような原則として仕入前に売価を決定又は予定し、店出率による粗利益額を勘案し、その範囲内で仕入を行うというD1の「商」の仕方を理解せず、仕入担当者、ひいては被告人A1の任務となっている店出率の確保の重要性を誤解又は看過した結果、同被告人の任務内容について、法令の解釈・適用を誤ったものであって、到底破棄を免れない。 第二款当裁判所の判断第一項判示方法に関する主張についてそこで、検討するに、原判決が、D1の代表取締役である被告人A1に対し、商品の仕入に当たっては「仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務」があった旨判示【五二、三〇一など】していることは、所論指摘のとおりであるが、右判示が代表取締役の任務内容として曖昧であるとは認められず、これが刑罰法規である背任罪の構成要件として一般的、抽象的にして明確性を欠くとは到底考えられないから、被告人A1に右任務を課した原判決が憲法三一条に反するものでないことはもとより、罪となるべき事実の判示として不備であるともいい得ないところであって、所論「1」及び「2」は採用の限りでない。 そして、企業の経営政策 務を課した原判決が憲法三一条に反するものでないことはもとより、罪となるべき事実の判示として不備であるともいい得ないところであって、所論「1」及び「2」は採用の限りでない。 そして、企業の経営政策が多様であり、小売業者がどのようなやり方で商品を仕入れるかは、原則として当該小売業者の自主的・自由な判断に委ねられるべきものであって、国家の刑罰法規による介入に謙抑的な態度が要請されることは、所論指摘のとおりであるし、仕入に伴う「無用な支出」かどうかの認定・判断、代表取締役ら企業の経営責任者に対する任務違反の事実の認定・判断が慎重になさるべきことは、もとよりであるが、他面、明らかに「無用な支出」をして企業に損害を与えた代表取締役らが所論にいう「経営判断の法則」の名の下に一切の刑事責任を免れるものと解するのは、相当でなく、そのような代表取締役らに対し、その刑事責任が追及されるのは、当然のことであるから、企業の経営責任者に対して「無用な支出」を避けるべき法的義務を課した原判決が、特別背任罪の解釈・適用を誤ったものとはいい得ない。所論「3」も採ることができない。 第二項任務内容に関する主張について<要旨第一>そこで、検討するに、関係証拠を総合すれば、被告人A1には、D1の代表取締役として、商品の仕入に当</要旨第一>たり「仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務」があったものというべきであって、その旨認定・判示した原判決に誤りはない。もちろん、右任務を直接的・第一次的に負うのはD1の仕入担当者であり、代表取締役である被告人A1は、仕入担当者らを統括する立場から、仕入担当者の右任務が適正に遂行されるように、仕入担当者を監督し仕入業務を管理することによって、間接的・第二次的に「仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務 人A1は、仕入担当者らを統括する立場から、仕入担当者の右任務が適正に遂行されるように、仕入担当者を監督し仕入業務を管理することによって、間接的・第二次的に「仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務」を負うのであるが、原判決は、これを直截に、代表取締役である被告人A1には「仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務」があった旨判示したものであって、もとより、正当である。 所論は、仕入担当者の任務は、「無用の支出を避ける」ことではなくて、「何ら合理的な理由がないのに出費することによって、所定の店出率による相当程度の粗利益の確保を図ることができなくなることを避ける」ことである旨主張し、店出率の確保という観点を離れて仕入担当者及び代表取締役の任務内容を規定することはできないというのであるが、所論が店出率を重視することにはそれなりの理由があるとしても、逆に、店出率さえ確保できればそれ以上の利益は敢えて追求する必要がないとする点には、にわかに賛成できない。 そして、関係証拠によれば、D1における「店出率」が「売価と原価の差額を売価で除したもの」を意味することは、原判示のとおりであって【一九六】、この数式自体に誤りはない(%で表すには、これに一〇〇を乗じる。)。店出率・売価・原価(仕入価格)は関数関係にあるから、そのうち一つが変動すれば、他の数値にも変動が生ずることは明らかである。所論は、買付計画段階で仕入担当者が立案し、決裁を得た売価及び店出率によって算出された仕入価格をことさらに重視するが、これはあくまでもD1側の予定ないし希望による目安であって、実際に海外のメーカー側と取引の交渉をした結果がつねに予定どおりになるという保証はない。 取引条件や買付数量の如何により、仕入価格が予定を上回れば、売価を引き上げるか、店出率を引き下げるかの選択を迫られる 外のメーカー側と取引の交渉をした結果がつねに予定どおりになるという保証はない。 取引条件や買付数量の如何により、仕入価格が予定を上回れば、売価を引き上げるか、店出率を引き下げるかの選択を迫られることになるし、予定より下回れば、売価を引き下げて売行きの増加を図るか、売価を維持して店出率の向上を期することができるのであって、そのためにこそ、仕入担当者はメーカー側との交渉において少しでも安く仕入ができるよう努力するのが、「商」の常道である。たとえ、当初予定した売価と店出率から算出された仕入価格の範囲内であっても、より安く仕入れられるのに、それより高い仕入価格を支払うことが「無用の支出」に当たることはいうまでもない。まして、本件では、D1が海外のメーカー等から直輸入できる場合に、その中間にD3やD65を介在させることによって、これらに売買差益を取得させることの当否が問われているのであって、これらの介在が本来必要のないものであったとすれば、たとえこれらの介在にもかかわらず他の直輸入商品と同程度の店出率を確保できたとしても、取得させた売買差益が「無用の支出」に当たることは論を俟たないところである(被告人A3らの有用性については第二節、損害の有無・内容については第五節で詳論する。)。 してみると、被告人A1の任務内容に関する原判決の判示に所論のような法令の解釈・適用の誤りはなく、所論には理由がない。 第二節被告人A3らの有用性に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説(理由不備等の主張、A1一・一以下、B1六四以下、三一三以下など)原判決は、D1の代表取締役である被告人A1には、海外からの商品の仕入に際し、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入に伴う「無用な出費」を避けるべき任務があったところ、「1」原判示期間中の「準 )原判決は、D1の代表取締役である被告人A1には、海外からの商品の仕入に際し、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入に伴う「無用な出費」を避けるべき任務があったところ、「1」原判示期間中の「準直方式」による取引、すなわち、原判決の認定判示するところに従えば【二九ないし三一参照】、D3の輸入した商品をD65に転売し、D65からD1に納入して、そのことにより、D3が輸入原価に対し概ね五%の利益を取得し、D65がD3からの仕入価格の概ね一五%の売買差益を取得する、という「準直輸入方式」、略して「準直方式」による取引においてD1からD65に支払われた約一五%の売買差益及び「2」原判示期間中の「香港コミッション方式」による取引、すなわち、原判決の認定判示するところに従えば【三二ないし三五参照】、D1が香港から直接輸入した商品についてD8等に輸入代金を支払うに際し、被告人A3に支払うべきコミッション分を上乗せし、これを香港で(D8等が)同被告人にバックする、という方式による取引において、D1の負担で同被告人に支払われた二ないし五%の裏コミッションは、いずれも、「D1にとって、本来支払う必要のない出費」であったから、D1をして右のような「無用の出費」をさせた被告人A1は、その任務に違背したものである旨判示し【二〇六以下】、その理由として、原判示各期間中の被告人A3らの活動の有用性を全面的に否定している。しかし、D3の設立以前から原判示期間に至る被告人A3らの一連の活動が、終始一貫してD1の海外商品の仕入業務に極めて有用であったこと、それ故、原判示期間中にD65の取得した売買差益及び被告人A3の取得したコミッションが、その有用な活動の正当な対価であったことは、関係証拠上明らかなところである。しかるに、原判決は、長期間・多方面に亘る被告人A3らの にD65の取得した売買差益及び被告人A3の取得したコミッションが、その有用な活動の正当な対価であったことは、関係証拠上明らかなところである。しかるに、原判決は、長期間・多方面に亘る被告人A3らの一連の活動のうち公訴提起にかかる期間、すなわち、準直方式では昭和五三年八月ころから同五七年七月ころまでの期間、香港コミッション方式では同五四年四月ころから同五七年二月ころまでの期間におけるD65及び被告人A3の活動につき、その有用性を明確に否定し、他面、被告人A3らのその余の活動に対する評価、すなわち、「1」右期間中の「準直方式」取引におけるD3の活動に対する評価(換言すれば、右取引においてD3が概ね五%という利益を取得していたことの当否)、「2」右期間中のいわゆる「ヨーロッパコミッション方式」、すなわち、原判決の認定判示するところに従えば【三六以下参照】、ヨーロッパから輸入する商品について実行され、被告人A3に裏コミッションを支払う点で香港コミッション方式とほぼ同じ方式の取引における被告人A3らの活動に対する評価(換言すれば、右取引において被告人A3がコミッションを取得していたことの当否)、「3」右期間より前の時期における被告人A3らの海外における諸活動に対する評価等についての判断を回避しているのであるから、被告人A3らの活動の有用性につき事実を誤認するとともに理由不備の違法をも犯すものである。以下、被告人A3らの活動の有用性につき詳説する。 第二項被告人A3及びD3の活動の有用性について(事実誤認等の主張、A1一・一以下、B1三一七以下、B2一以下など)一被告人A3の能力等原判決は、アクセサリーのデザイン以外の部門における被告人A3の能力につき否定的に評価し、D1による海外商品の開発等について無益・無用であった旨判示するが【 一以下など)一被告人A3の能力等原判決は、アクセサリーのデザイン以外の部門における被告人A3の能力につき否定的に評価し、D1による海外商品の開発等について無益・無用であった旨判示するが【一七一】、誤りであって、同被告人がファッションを中心とする海外商品の開発・買付について有能であったことは、同被告人のアクセサリーデザイナーとしての優れた能力、ファッション関係の専門家としての知識と経験、多くのデパートの中からC2社長時代のD1と専属的な関係を結ぶに至った経緯等に徴しても明らかであるし、同被告人がそのセンスと能力を活かして意欲的に活動したことは、海外の主要ブランドのメーカー、サプライヤーらからも高く評価されていたところである。被告人A1を始めとするD1の関係者は、かかる被告人A3の能力と活動を正当に評価し、これがD1にとって有益・有用であると判断して、同被告人やD65との取引を継続した上、設立後間もないD3との取引を開始し、更に、これを拡大、発展させたのである。原判決は、物的な証拠を無視し、原審証人B36、同B7、同B17らD1関係者の悪意と偏見に基づく虚偽・誇張の供述を措信した結果、事実を誤認したものである。 二原判示各犯行開始前における被告人A3らの活動 1 D1において昭和四一年九月以降毎年のように行われていた外国フェアは、年間を通じ二週間程度のもので、取り扱われた商品も食料品や民芸品が中心であり、その販売量に照らしても、原判示のように「直輸入推進の一方策」【三八】と位置付けられるものではなく、また、同四六年五月のD23株式会社(以下「D24」という。)を始めとし、徐々に設立されていった海外基地も、当初の目的は日本人旅行客を相手とした土産物の販売や現地外国人に対する日本商品の販売であって、少なくとも同五〇年初頭ころまで (以下「D24」という。)を始めとし、徐々に設立されていった海外基地も、当初の目的は日本人旅行客を相手とした土産物の販売や現地外国人に対する日本商品の販売であって、少なくとも同五〇年初頭ころまでは、海外商品の取入、商品情報の収集などの仕入基地としての機能を果たすことができず、D1D10への商品輸出につき、現地法人であるD25、D26、フランスのD27社などの商社等に依存していた状況である。原判決が、昭和四〇年代後半の段階ではD1の直輸入推進策が確立・実行されていて、その海外基地の仕入機能も充実していたかの如く判示しているのは【三九以下参照】、事実を誤認したものである。 2 被告人A3は、昭和四四年にeで開催されたイギリス宝飾展への訪問、同四六年のヨーロッパ旅行及び香港旅行等を契機として、ヨーロッパ商品の優秀性や香港商品の廉価性を認識し、自らの貿易会社を設立しようと決意して、同四七年にD3を設立したものであって、当初から自社がD1とともに繁栄することを願い、D1の協力を得ながらD1のための商品開発を目指して意欲的に活動し、その結果、同四八年から四九年にかけて、イギリスのD28社の銀製品やD29所属のデザイナーのアクセサリー類、フランスのD30社のアクセサリー類の各輸入販売権の取得に貢献し、また、香港の婦人用バッグなどの雑貨類の開発に成功したのである。 被告人A3は、原判示のように【二二】、同A1の推進するD1の直輸入推進政策(そのような政策がまだ存在していなかったことは、前記1のとおりである。)に便乗し、D1社員が選定した商品をD3がインポーターとなって輸入し、これを全部D1に買い取ってもらうというリスクのない取引を考えてD3の設立を図った訳ではなく、また、D1の海外基地の仕入基地機能(この時点では、その機能を果たせる状況でなかったこ ーとなって輸入し、これを全部D1に買い取ってもらうというリスクのない取引を考えてD3の設立を図った訳ではなく、また、D1の海外基地の仕入基地機能(この時点では、その機能を果たせる状況でなかったことは、前記1のとおりである。)を利用して、その商品開発にただ乗りしたり、不当に介入したものではない。 3 被告人A3は、「1」昭和四八年一月から、イギリスにおいて、元在日英国大使館員のC3、D29の広報担当官のB49、ロンドン在住のブローカーのC4らの協力を得て、D28社から銀製品の、D29所属のデザイナーのC5やC6からジュエリー類の各独占輸入販売権を取得した。これらの独占輸入販売権の取得は、被告人A3とD1との共同開発の成果であって、これをも否定する原審証人B8らの証言は、被告人A3の原審公判廷における供述のみならず、D28、D29初回契約書一綴《五六五》やの業務日誌一冊《六一三》等の物的証拠に照らして到底措信できないものであり、このことは、当審証人B49の供述によって一層明らかである。原判決は、D28社関係の商品開発については、D1の信用力と交渉力、D1D10の社員とこれら基地の社員の尽力によるものである旨判示して、被告人A3らの寄与を全面的に否定し【一二六以下、二一一以下】、D29関係の商品開発については、まったく言及することなく、同被告人らの寄与を無視又は看過しているが、その誤りは明らかである。また、「2」被告人A3は、昭和四八年秋ころ、知人のB51の協力を得、D3の従業員であるC7と共にフランスのD30社と接触して、同社のアクセサリー商品の開発に貢献した。このことは、被告人A3が原審公判廷において詳細、かつ、具体的に供述しているところであり、当審証人B51ことB51の供述は、これを裏付けるに十分であって、被告人A3の右貢献を否定 の開発に貢献した。このことは、被告人A3が原審公判廷において詳細、かつ、具体的に供述しているところであり、当審証人B51ことB51の供述は、これを裏付けるに十分であって、被告人A3の右貢献を否定し、D30社の商品はB8、B35らが開発した旨認定【一二九以下】した原判決は誤りである。更に、「3」原判決は、被告人A3やD3がフランス、イタリア、ギリシャ、スペイン等における商品開発に貢献・寄与した事実を無視し(仮に、これらのヨーロッパ商品を発見したのがD1のバイヤーであったとしても、その後の交渉によってD1が当該商品を継続的に仕入・販売できるようにした者が被告人A3やD3と認められる以上、同被告人らの有用性が肯定されるべきである。)、原審弁護人の具体的な指摘にもかかわらず、これらのヨーロッパ商品の開発形態や開発主体について、ほとんど触れていないが、甚だ不公正であり、理由不備の違法を犯すものである。 4 被告人A3は、昭和四六年一一月以降約二年の間に六回も香港やマカオに出掛けて、商品開発に努め、香港の知人C8の協力を得て、ビーズバッグ、キャビアバッグ等の婦人用バッグ類、C9の中国風ドレスを開発したのを始めとして、同五〇年代初めころ以降、香港において、D31のジーンズ、D32やD33の宝石、D34の毛皮等を開発し、知人のC10を介して香港のセーターその他の衣料品等、更に右C8の紹介で知り合ったタイのC11らの協力によりタイ・ジュエリーやタイの衣料品類等を開発した。そのほか、昭和五〇年ころまでにD1に取り入れられた香港、台湾、タイなどの東南アジアの衣料品、雑貨類等は、すべて被告人A3やD3の活動によるものであり、このことは原審の検察官も敢えて争わなかったところである。原判決は、被告人A3が開発しD1がD3をインポーターとして輸入したビーズバッ 品、雑貨類等は、すべて被告人A3やD3の活動によるものであり、このことは原審の検察官も敢えて争わなかったところである。原判決は、被告人A3が開発しD1がD3をインポーターとして輸入したビーズバッグ類の売行きが甚だ悪く、大量な在庫が生じ、大幅な値引きを余儀なくされた点だけを強調しているが【一〇五以下】、右在庫に関する原審証人B8らD1関係者の供述は極めて誇張されたものでそのままには措信できない上、右ビーズバッグ類の売行きは、当初非常に良好だったのであって、その後に在庫が増えたのは、他社が追随して類似のバッグ類を大量に仕入れたことやC12らD1の担当者が過剰な買付を行ったことに起因するものであるから、右の大量在庫をもって被告人A3の商品開発における有用性を否定するのは誤りである。また、C9のドレスは、D1の担当者がそれなりの見識と判断に基づき相当の期待を抱いて売り出した商品であって、仮に売行きが悪かったとしても、これを被告人A3のみの責任にするのは不当である。更に、原判決が、D31は、すでに昭和四九年夏ころにD8のB14支配人が開発した商品であって、被告人A3は、右B14の依頼でこれをD9D1に取り次いだに過ぎない旨判示するが【一一八】、到底措信することのできない原審証人B14らの関係供述を信用した結果事実を誤認したものである。 三原判示各犯行期間中における被告人A3らの活動 1 被告人A3は、ヨーロッパにおいて、D1のバイヤーに同行し、商品の選品・買付について助言したり、外国のメーカーやデザイナーを表敬訪問したりしたほか、日本において、来日した外国のメーカーらの接待に努めるなどして、海外商品の開発・選品・買付やメーカーらとの取引の円滑化のために多彩な活動をした。 原判決は、海外商品の開発・選品・買付はすべてD1のバイヤーと海外基地社 日した外国のメーカーらの接待に努めるなどして、海外商品の開発・選品・買付やメーカーらとの取引の円滑化のために多彩な活動をした。 原判決は、海外商品の開発・選品・買付はすべてD1のバイヤーと海外基地社員の協力によって行われたものであり、それで十分であって、被告人A3らの関与が必要であったとは認められない旨判示し【一七〇】、同被告人らの活動の有用性を全面的に否定しているが、事実を誤認したものである。この点に関し原判決は、商品開発や買付同行の場面における被告人A3らの有用性を否定する理由の一つとして、D1のバイヤーが「担当商品分野において一〇年以上の経験を有するその筋の専門家」であることを指摘し、このようなバイヤーの商品開発や買付に際し、被告人A3らが適切なアドバイスを与えることは不可能というほかない旨判示している【一七一】しかし、返品のきく安易な殿様商法の下で成長してきたD1のバイヤーの能力と独立したデザイナーとして活動してきた被告人A3の能力を比較すれば、ほとんど取り扱った前例がなく、しかも、トータルなファッションセンスが要求される海外のアクセサリーや衣料品などの開発・選品等の場面において、D1のバイヤーの方が劣っていたことは、多言を要しないところであって、形式的な経験のみを重視する原判決の右説示は、明らかに誤りである。 2 被告人A3は、香港や東南アジアにおいても、D1のバイヤーに同行して商品の選品・買付につき助言するなどして、バイヤーらに積極的に協力し、D1の商品開発・選品・買付に貢献した。これに対し原判決は、香港や東南アジアの商品について、「1」被告人A3による開発・買付・同行等の事実自体を否定し、あるいは、右事実を認めた上、「2」D1にとって必要のない買付であったとか、「3」同被告人の関与がなくとも買付が可能であったなどと判示し 、「1」被告人A3による開発・買付・同行等の事実自体を否定し、あるいは、右事実を認めた上、「2」D1にとって必要のない買付であったとか、「3」同被告人の関与がなくとも買付が可能であったなどと判示して【一八一以下】、同被告人の有用性を否定するが、信用性に欠ける原審証人B14らD1関係者の供述に基づくもので、事実を誤認したものである上、現実に被告人A3の関与の下に商品の買付がなされ、当該商品が国内で販売されたという事実が認められる以上、「2」や「3」のような理由をもって被告人A3の有用性を全面的に否定することはできない筈である。また、被告人A3がD1のバイヤーとの同行買付の際などにトータルファッションの観点からいろいろと意見を述べた事実は、原判決も否定し得ないところであるが【一八三以下】(なお、ヨーロッパ商品につき【一七〇】)、かかる発言だけでも、バイヤーにとって無益・無意味とは到底いえない筈であるから、このような貢献までも否定しようとする原判決の判断が誤りであることは、明らかである。 3 被告人A3は、D1のプライベートブランド商品である「D22」という名の婦人服の製造・販売に関与し、素材の買付、デザインの企画・指導等、極めて精力的に働き、古いD1の体質にはなかった新しい考え方をD1にもたらして、この点でもD1に貢献した。原判決は、「D22」のデザイン企画を支えてきたのは、D1の社員であり、これに対する被告人A3の実績として評価すべきものはなく、しかも、「D22」の在庫が累積したのは、生地の買付に際してD3がコミッションを取得し、生産段階で被告人A3らがデザインフィーを取得したことが一因であって、同被告人の「D22」への関与は、D1にとってむしろマイナスであった旨判示しているが【一八八以下】、信用できない原審証人B20らの供述に基づく 告人A3らがデザインフィーを取得したことが一因であって、同被告人の「D22」への関与は、D1にとってむしろマイナスであった旨判示しているが【一八八以下】、信用できない原審証人B20らの供述に基づく誤った判断である。 4 D3の従業員は、被告人A3と相俟って、多岐に亘る活動をしてD1に貢献した。特に、B40は、ヨーロッパに長期間多数回出張し、昭和五五年からはパリにアパートを借り受けて同地に滞在して、新たな差別化商品の開発、業界情報の収集、D1の仕入担当者や海外基地社員との打合せと両者の間の連絡調整等に活躍したほか、バイヤーの買付に際しては、あらかじめ打ち合わせた上同行し、商品の選定、買付後の検査や書類の作成等の事後処理、更に輸入手続業務等を実行したものである。このようなB40らの活動状況は、D24、D35株式会社(以下「D36」という。)、D37有限会社(以下「D37」という。)等の海外基地とB40の間、D9のD1仕入本部とB40の間の連絡文書の記載内容、B40の署名のあるインボイスやオーダーシートの存在等に照らし明らかであって、このような活動が、D1にとってまったく無用・無益とはいい得ないことは多言を要しない。もっとも、B37を始めとするD1の関係者は、B40らが活動した事実自体を否定し、あるいは、右事実を認めながらD1にとっては有害無益なものであった旨供述しているが、到底措信することができないものであって、原審証人B37らの供述に基づきB40らの活動の有用性を全面的に否定した原判決は【一四四以下、一五八以下】、証拠の評価を誤って事実を誤認したものというほかない。 第三項 D65の活動の有用性について(事実誤認の主張、A1二・二七など)D65は、準直商品のD1への納入に際し、納入業者として、検品、値札付け、D1への店員の派遣 したものというほかない。 第三項 D65の活動の有用性について(事実誤認の主張、A1二・二七など)D65は、準直商品のD1への納入に際し、納入業者として、検品、値札付け、D1への店員の派遣等の活動を行った。原判決は、この事実を認めながら、右検品や値札付けは「D65がD1への商品納入の窓口となるに伴い必然的に求められる事務であって、正確に履行して当然の事柄であり、このことをもって準直方式を正当化する理由とならない」旨判示している【一七六、一七八】。しかし、検品等の業務は、D1が直輸入する場合には、みずから行わなければならない事務であり、納入業者がこれを行うのは、D1への商品の販売によって売買差益を取得するからであって、換言すれば、D65の取得した売買差益の中には、同社がかかる事務を行ったことの対価相当分が含まれているものである。したがって、原判決がかかる対価性までも否定するのであれば、その誤りは明白であり、少なくともD65の検品等の活動によってD1が自らの出費を免れた分について、これをD65に取得させても、「無用な支出」とはいえない筈である。もっとも、原判決は、D65の検品等の業務遂行について、D1の好意に甘えたところがあった、とか、準直方式を正当化させる寄与として評価することができないなどと判示しているので【一七七以下】、D65には一部たりとも売買差益を取得する理由がなかったものと判断しているようにも解されるが、そうであれば、D65の検品等の実情について事実を誤認したか、その評価を誤ったものである。 第二款当裁判所の判断第一項総説そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するに、D3及びD65が、いずれも、その実態において被告人A3の個人会社に過ぎないことは関係証拠上明らかであ 総説そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するに、D3及びD65が、いずれも、その実態において被告人A3の個人会社に過ぎないことは関係証拠上明らかであるから(D3の実質的な従業員は、B40、B41、C26ら数名に過ぎず、D65の従業員もブティックの販売員を除けば七名程度であって、資金、事務所等を共通にしていたことは、関係者の供述にも現れているところである。B40の五七・一一・九検面調書〈四四・七三〇〇以下〉等参照)、これらの企業及び被告人A3個人の活動等に対する有用性の有無・程度を評価し、その対価の支払の当否を判断するに当たっては、準直方式、香港コミッション方式、ヨーロッパコミッション方式の各取引を含むいわゆるA3絡みのすべての取引において、三者を一体のものとして全体的に評価・判断すべきものであって、これを区分し、個別的に評価・判断するのは相当ではないと認められるところ(所論も、基本的にはかかる評価方法を前提としているものと解される。 B1三一六以下参照)、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示各期間中の準直方式及び香港コミッション方式による各取引について、被告人A3らの活動の有用性を全面的に否定し、これをD1にとって無用・無益と断定することは、いささか困難であって、むしろ若干の有用性を肯定するのが相当であると認められ、当審における事実取調べの結果によっても、この結論に変わりはないから、原判決は被告人A3らの活動の有用性について事実を誤認したものといわなければならない。 しかしながら、被告人A3らの活動について若干の有用性が肯定されるとしても、直ちに同被告人らに対する支出のすべてがその活動の対価として正当なものといえるか否かは別論であって、関係証拠によれば、D65が準直方式の取引によって取得 動について若干の有用性が肯定されるとしても、直ちに同被告人らに対する支出のすべてがその活動の対価として正当なものといえるか否かは別論であって、関係証拠によれば、D65が準直方式の取引によって取得した売買差益は、被告人A3らの活動の有用性の対価として許容し得る限度を明らかに超えた違法なものと認められるから、被告人A1らがD65に売買差益を取得させたことは、やはり、D1にとって「無用の支出」といわざるを得ず(それ故、準直方式取引にかかる特別背任事件において、被告人A3らの活動の有用性に関する原判決の誤認は、何ら判決に影響を及ぼすものではない。)、他方、被告人A3が香港コミッション方式取引によって取得したコミッションは、同被告人らの活動の有用性の対価として許容し得る限度内のものとみる余地があるから、被告人A1らの被告人A3に対する香港コミッションの支払をもって「無用の支出」と認定・判示した原判決は、右香港コミッション方式による特別背任の事実に関する限り、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認を犯したものというべきである。以下、その理由を説明する。 第二項被告人A3らの活動の有用性に関する主張について原判決が刑訴法三三五条一項所定の有罪判決の理由をすべて具備していることは明らかであり、その理由不備をいう所論(前款第二項二の3の「1」及び「3」参照)は、単に原判決の証拠説明の不足を非難するに過ぎないから、同法三七八条四号にいう理由不備の主張には当たらない。そもそも、公訴事実として明示された訴因が一定の期間内における被告人両名の犯行に限定されている以上、右期間外における事情の如きは、当該期間内における犯罪の成否を判断するに必要不可欠な限度において判断すれば足り、また、その判断内容を証拠説明中に説示すると否とは原審裁判所の裁量に属するもの る以上、右期間外における事情の如きは、当該期間内における犯罪の成否を判断するに必要不可欠な限度において判断すれば足り、また、その判断内容を証拠説明中に説示すると否とは原審裁判所の裁量に属するものというべきである。所論は、原判決の証拠説明の説示を攻撃しつつ、結局その判断の誤り、すなわち事実誤認を主張するに帰する。 もっとも、原審において、検察官は、D1の海外商品の取入に関し、準直方式及び香港コミッション方式のみならず、ヨーロッパコミッション方式による取引をも含め、すべての時期のすべての商品・すべての取引について、商品情報の提供、商品の開発、選品、買付、輸入事務の履踐、納品等の場面における被告人A3個人及びD3、D65の活動の有用性を、全面的に否定し、被告人A3らの活動はD1にとって終始無用・無益ないし有害であった旨主張しているものと解され(但し、「1」原判示期間内の準直方式取引においてD65が取得した売買差益のうち、同社の従業員らが検品に際して商品に若干の加工を施したり、包装用箱詰め等を行ったと認められる分については、これをD1の損害額から除外しているし(原審記録第一冊一〇六丁参照)、「2」原判示期間内の準直方式取引においてD3が取得した輸入原価の五%のマージンについては、これを不問に付していて、論告では、その理由として、敢えてD65の一社の利得に対応するD1の支払分のみを起訴の対象としたのは、準直方式が、マスコミ攻勢をかわし被告人A3の介入を隠蔽しようという目的でなされたものであり、そのこと自体に違法性が強く認められること、D3からD65への転売といっても伝票上の処理に過ぎず、同社に固有の事務がなかったことなどを勘案して、いわば、内輪の金額としてD65に取得させた分のみに限定したものである旨主張している。原審記録第七冊一六六〇丁以下 の転売といっても伝票上の処理に過ぎず、同社に固有の事務がなかったことなどを勘案して、いわば、内輪の金額としてD65に取得させた分のみに限定したものである旨主張している。原審記録第七冊一六六〇丁以下参照)、原判決も、その理由中、第四章の冒頭部分【九四以下】において、かかる限定された公訴提起を前提としながらも、準直方式、香港コミッション方式とヨーロッパコミッション方式とは相互に関連する面があり、かつ、準直方式、香港コミッション方式の全体像を把握するためには、その成立過程に遡る必要があることから、関連する諸事実全般について、弁護人の主張に対する裁判所の判断を示す旨説示した上、原判示各期間中の被告人A3らの活動について、その有用性を全面的に否定するとともに、準直方式採用以前の時期におけるヨーロッパや香港での被告人A3らの各種の活動や原判示期間中の準直方式取引におけるD3の活動等について、必ずしも明示していないものの、ほぼ全面的に無用・無益という否定的な評価をしているものと解される。 しかしながら、原審及び当審における関係証拠を検討すると、D3設立後の長期間、多方面に亘る被告人A3、D3、D65の活動のすべてが、D1にとってまったく無用・無益であったとは断定し難く、この点に関する原判決の説明及び判断にはたやすく賛成できない。 例えば、原判決は、第四章の六において、被告人A3やD3の従業員B40らの活動につき、「スペイン関係の商品の開発に関し、B40がD24以上に寄与したとは考えられない」【一六二】とか、「B40の動向調査も、D1にとって無意味ではないとしても、取り立てて評価すべき事柄でもない」【一五九】とか、「私が買付けたアクセサリーについてさえ、D3が買付けたと胸を張って言えるようなものではなく、たとえ私の働き分を評価してもらうにしてもD いとしても、取り立てて評価すべき事柄でもない」【一五九】とか、「私が買付けたアクセサリーについてさえ、D3が買付けたと胸を張って言えるようなものではなく、たとえ私の働き分を評価してもらうにしてもD3がとる五パーセントのマージンでも充分過ぎる程」である旨のB40の五七・一一・九検面調書〈四四・七二九八〉を引用しながら、B40が単独でメーカーや展示会場に赴いたり、買付をしたりした事実もあるが、「それは、専ら昭和五五年ころからであるうえ、回数もそれほど多くなく、……B40の行動に独自の商品開発活動あるいはバイヤーの商品買付のための事前準備または下調査と評価できるものがない」【一五五以下】旨判示し、また、被告人A3の「メーカーへの表敬訪問や接待は、……D1の立場からすれば、わざわざそのようなことをする必要はなく、また、商品開発にとっては、付随的、従属的な事柄であって、重視するに足りない」【一七一以下】、各種ブランド商品の販売権はすべてD1の信用力と交渉力で獲得したものであり、「これに対する被告人A3の貢献は無きに等しい」【一七二】旨判示しているが、被告人A3の活動の有用性を全面的に否定し去る理由としては、暖味な点が残り、必ずしも説得的なものとはいえないのである。 もっとも、この点に関し、原判決は、被告人A3らの活動の有用性について全面的に否定的な判断をしたものではなく、準直方式取引による売買差益、香港コミッション方式取引による裏コミッションのように、継続的な利益の取得を正当化し得るような有用性が認められないと判断したものとも解されるのであるが、被告人A3らの活動に何らかの有用性が認められる以上、その対価の支払方法としては、一回限りの報酬として支払う方法や顧問契約を締結して定額のコンサルタント料を支払う方法等だけでなく、取引量に対応して継続的 A3らの活動に何らかの有用性が認められる以上、その対価の支払方法としては、一回限りの報酬として支払う方法や顧問契約を締結して定額のコンサルタント料を支払う方法等だけでなく、取引量に対応して継続的に定率のコミッションやマージンを支払う方法(準直方式における売買差益も実質的にはマージンにほかならない。)もあり得る訳であって、このような継続的な支払が絶対に許されず、明らかに違法であるとは認められないところである。 ところで、長年に亘る被告人A3らの活動、すなわち、D1の海外商品の開発、選品、買付、輸入業務、納品、情報提供等に関する同被告人らの関与の状況は、様々であって、商品ごと、取引ごとに異なるといってもよい状況である。原審及び当審で取り調べた関係証拠によれば、例えば、ヨーロッパの海外商品の新規開発に限定しても、(a)被告人A3らがサプライヤー側の代理人的立場でD1に売り込んだ型、(b)同被告人らがメーカーやサプライヤーとD1との中間にあってブローカー的な役割を果たした型、(c)同被告人らがサプライヤーとの交渉に際してD1への納入であることを利用し、これを条件として独自に開発してD1に売り込んだ型、(d)同被告人らが当初からD1と協力して開発した型、(e)同被告人らがD1において既に実行され又は準備中の商品開発に途中から割り込み、あるいはこれを横取りした型等々が存在したことが窺われ、これら開発の態様や時期等によって、被告人A3らの活動のD1に対する寄与・功績ないし有用性の有無・程度が同一といえないことは明らかであり、また、被告人A3らが、形式的とはいえ海外からの輸入事務及びD1への納品事務を担当する準直方式取引の場合と、形式的にもこれらの事務を担当しない香港コミッション方式取引の場合とでは、おのずと同被告人らの活動の有用性に差異があるこ はいえ海外からの輸入事務及びD1への納品事務を担当する準直方式取引の場合と、形式的にもこれらの事務を担当しない香港コミッション方式取引の場合とでは、おのずと同被告人らの活動の有用性に差異があることはむしろ当然と考えられる。 したがって、被告人A3らの活動に対する有用性の有無・程度は、起訴された期間内における個々の取引ごとに個別的・具体的に検討すべきであるとの見解もあり得ないではないが、長期間に亘る多種・多様な商品取引に関する被告人A3らの関与・貢献の有無・程度につき個別的・具体的に検討することは事実上不可能であって、右のような見解に従うことは現実的でなく、相当とは思われない。そこで、被告人A3らの活動の有用性の有無・程度については、典型的な幾つかの取引を対象として検討し、その開発、選品、買付等の各場面における同被告人らの関与・貢献の有無・程度等を吟味し、これらを総合的・全体的な観点から評価することとする。 このような見地から関係証拠、殊に、押収にかかるB50の業務日誌一冊《六一三》、当審証人B51、同B49、同B52、同B50、同B53の各供述、当審で取り調べた検察事務官作成の平成四年六月八日付捜査報告書、検察官作成の同月九日付、同年一〇月二八日付、同年一一月一一日付、同月一八日付の各捜査報告書、C13の博文館当用日記一冊《六四二》等を検討すると、被告人A3が、「1」昭和四八年一月末以降、知人のC14らの協力を得て、イギリスのD29に所属するC5、C6らのデザイナーと接触し、両名の制作するジュエリー類のD1における販売、そのための輸入権限の取得に寄与したこと、「2」同年一月ころ以降、知人のC3、C4らの協力を得て、イギリスのD28社の関係者と接触し、同社の銀製品のD1における販売、そのための輸入権限の取得に寄与したこと、「3」同 の取得に寄与したこと、「2」同年一月ころ以降、知人のC3、C4らの協力を得て、イギリスのD28社の関係者と接触し、同社の銀製品のD1における販売、そのための輸入権限の取得に寄与したこと、「3」同年九月ころ以降、D3のC7らと共に、B51らの協力を得て、フランスのD30社のアクセサリー類のD1における販売、そのための輸入権限の取得に寄与したこと、「4」前記B51や知人のC15あるいはC8らの協力を得て、D38、D39などのヨーロッパのアクセサリーないしファッション関係商品あるいは香港の宝石、毛皮、衣料品等をD1が輸入することについて、寄与、貢献したことなどの事実関係を窺うことができるのであって、これらの商品の開発について、被告人A3らがD1の担当者と連絡を取り、共同で交渉に当たったと見られる点や輸入権限取得の決め手となったのはD1の信用力であったとみられることなどの諸点をもって、原判決のように、被告人A3らの寄与・貢献を全面的に否定することは相当でなく、その他、被告人A3らのヨーロッパや香港における商品情報の提供、買付同行の場面における関与等についても、そのすべてを専ら自己らの利益追求のための行動と決めつけ、D1にとって無用・有害として排斥することはできないところである。 もっとも、右にみたように、被告人A3らの商品開発・買付等における寄与・貢献、すなわち、同被告人らの活動の有用性は、時期的にみれば、本件公訴事実の対象期間外である昭和四八年から同五〇年ころ、対象としてみれば、ヨーロッパのアクセサリーないしファッション関係商品の開発において、最も著しく、その後のヨーロッパ商品や香港商品の開発や買付等については、比較的小さいものと認められ、中には有用性がまったく認められないばかりか、迷惑ないし有害といえるものさえあったことが窺われる(こ も著しく、その後のヨーロッパ商品や香港商品の開発や買付等については、比較的小さいものと認められ、中には有用性がまったく認められないばかりか、迷惑ないし有害といえるものさえあったことが窺われる(これらの点に関するD1関係者の原審証言の中には、極めて具体的で迫真性に富むものが少なくなく、所論のように、D1関係者の供述であるとの一事をもって、その信用性を排斥することはできない。)。しかし、初期開発のヨーロッパ商品の中にも、D30やD39などのように公訴事実の対象期間内における準直方式の取引が継続していた商品が存在するのである(それ故、検察官が当審弁論において主張するように、商品の開発時期が公訴事実の対象期間前であることを理由に、これを単なる背景事情とみるのは相当でない。)。 以上を要するに、長期的、かつ、多岐に亘る被告人A3らの活動を総合的・全体的な観点から判断すれば、さまざまな消極的評価はある程度免れないにせよ、なおこれを超えて、若干の有用性を肯認せざるを得ないのであって、これを全面的に否定した原判決は、事実の評価を誤り、事実を誤認したものというべきである。 第三項有用性の程度、対価の相当性についての検討被告人A3らの活動について有用性が肯定されるとしても、問題は、その有用性の程度如何、換言すれば、その有用性に対する対価としてどの程度の支出が正当なものとして許容されるかという点にある。そこで、進んで準直方式取引によってD65に取得させたD3からの仕入価格の約一五%という売買差益及び香港コミッション方式によって被告人A3に取得させた仕入価格の概ね二ないし五%という裏コミッションをもって、D1にとって「無用な支出」と断定した原判決の当否について、以下に検討することとする。 一 D65に取得させた売買差益前示のとおり、被告人A3らの 概ね二ないし五%という裏コミッションをもって、D1にとって「無用な支出」と断定した原判決の当否について、以下に検討することとする。 一 D65に取得させた売買差益前示のとおり、被告人A3らの活動の有用性については、同被告人個人とD3、D65の三者を一体として全体的に評価すべきものと考えられるところ、関係証拠を総合して検討すれば、準直方式の取引における被告人A3らの活動の有用性の対価として、D1からの支出が正当・適正あるいは違法性を否定されると認められるのは、最も被告人A3らに利益に考慮してみても、原判示期間中においてD3が取得していた同社のマージン分(輸入原価の約五%。もっとも、輸入諸掛の過大計上や経費の架空計上等によって、実際には、輸入原価の約五%よりもかなり多かったことは、原判示【一九二】のとおりである。)を超えるものではないと認められる。すなわち、関係証拠によれば、「1」D1における「準直方式」は、被告人A3らに対するマスコミやD1内外の攻勢を避けるという意図の下、まったく必要がないのに、海外からの商品の仕入に際し、D3からD1へというルートの中間にD65を介在させる(その結果、D1への納品に伴う検品、値札付けなどの作業の担当者がD3からD65に移転した。)というものであるところ、被告人A1は、同A3の口から準直方式による取引がなされていることを知らされた昭和五一年ころの時点において、同被告人に対し「できるだけコミッション方式でやれ」と指示し、更に同五四年一〇月ころの常務会ではB33らに対しても「A3の口座を通さずバックマージンでやれ」と指示していたものであり、被告人A3自身も、準直方式からコミッション方式への切替えをもって当然のこと、少なくとも、やむを得ないことと認識していたこと、「2」被告人A3らの活動の有用性が全体と やれ」と指示していたものであり、被告人A3自身も、準直方式からコミッション方式への切替えをもって当然のこと、少なくとも、やむを得ないことと認識していたこと、「2」被告人A3らの活動の有用性が全体として比較的高いと見られるのは、原判示期間より前の時期である昭和四八ないし五一年ころまでの商品取引に関するものであり、この時期において被告人A3らが開発等に関与したと見られる商品のうち原判示期間中の準直方式取引が継続しているものは、D30、D39などごく一部に過ぎないこと、「3」商品の開発等について最も被告人A3らの貢献度が高いと思われる場合であっても、D1と被告人A3らの共同作業とみるのが相当であり、被告人A3らがD1とまったく無関係に開発等を完成したものとはいえないところ(このことは所論も概ね認めているところである。)、独自に商品を開発するなどし、宣伝費等を負担し、また、返品等のリスクを負って百貨店などの小売業者等に納入している貿易商社等が取得しているコミッションは、通常、三ないし七%とも、五ないし一〇%とも言われていること(原審証人B33の供述〔七四・七四七四以下〕及び当審証人B53の供述参照。なお、D40、D41などの商社に商品開発、アテンド、シッビングなどをやってもらった場合の手数料は五%位であった旨の原審証人B38の供述〔八五・九七七五以下〕、D42の場合、通常のマージンは三ないし五%であり、倉庫で長期に亘り商品を保管してもらうようなケースでは金利及び倉庫料として二ないし三%のマージンを加算していた旨の原審証人B30の供述〔七二・六九一九以下〕、流通業界の常識として一つの会社を介在させれば五%位の口銭を取られることになる旨の原審証人B7の供述〔五三・二一二一〕等参照。もっとも、原審証人B8、同B36、当審証人B54の各供述等によれ 下〕、流通業界の常識として一つの会社を介在させれば五%位の口銭を取られることになる旨の原審証人B7の供述〔五三・二一二一〕等参照。もっとも、原審証人B8、同B36、当審証人B54の各供述等によれば、D43とD44株式会社、D45とD46のように外国のメーカー、サプライヤーらと国内商社との間に特殊な関係が存在し、小売業者等の側で当該商社からの仕入を必要不可欠とする事情がある場合などには、その商社の取得するコミッションの率はもっと高くなっていることが認められるが、本件において、被告人A3らにつき、かかる特殊な関係を考慮する必要があるとは認められない。)、「4」D3の従業員の代表格として、被告人A3に従って活動したB40は、検察官に対し、D3とD65の二つの会社は実質的に同一であるが、自分らが買い付けたアクセサリー類についてさえ、D3が買い付けたと胸を張って言えるようなものではなく、自分の働きを評価してもらうにしても、D3の取得する五%のマージンでも十分過ぎる程であり、アクセサリー類以外では五%のマージンもおかしい位である旨供述していること(B40の五七・一一・九検面調書〈四四・七二九八以下〉参照。もっとも、B40は、原審公判廷では、これと異なる供述をしているが、そのままには措信できない。)、「5」被告人A1においても、検察官に対し、被告人A3の選品のセンス等は評価していたが、これに対しては契約を結んだ上で五%(但し、調書の末尾で五ないし一〇%と訂正)前後のコンサルタント料ないしコミッションを払えばよい訳であり、特に、D3のほかにD65にもマージンを払うのはまずいと感じた旨供述していること(被告人A1の五七・一一・二二検面調書〈四二・六六二八以下〉参照)、「6」被告人A1は、昭和五三年暮ころ、香港コミッション方式の推進に関し、B7に対して ンを払うのはまずいと感じた旨供述していること(被告人A1の五七・一一・二二検面調書〈四二・六六二八以下〉参照)、「6」被告人A1は、昭和五三年暮ころ、香港コミッション方式の推進に関し、B7に対して、D1の直輸入が増えることになるが、それでは、これまで商品開発に努力してきた被告人A3が可哀想なので、マージンを乗せてやることにする、五%位なら安いものである旨述べて指示したことが窺われること(原審証人B7の供述〈五四・二一七一以下〉参照)等の諸点にかんがみると、原判示の期間における準直方式取引に関する限り、被告人A3らの活動の有用性の対価として、正当と認められ、若しくは、違法とは断定できないのは、せいぜい、D3が取得していた輸入原価の五%というマージン分たけであると認めるのが相当である(ちなみに、D3は、準直方式導入当初から昭和五三年四月ころまでの間には平均一〇%、それ以前には平均一五%のマージンを取得していたことが窺われるが、いずれも本件公訴事実の対象期間外の事実であるから、ここでは特にその適否についての判断は示さない。)。 なお、右「1」のとおり、D65の行った検品・値札付け・派遣店員等は、「準直方式」の導入前にはD3か行っていた作業の一部を「準直方式」という形態の取引を導入した結果としてD65が担当するようになったものに過ぎず、この導入のために被告人A3らの活動に対して支払うべきマージンないしコミッションが新たに増加する合理的な理由はないから、結局、被告人A3らがD3のマージンという形で取得したもののほかにこれと別個にD65が適法に取得できるマージンないしコミッションはなかったものというべきである。D65の検品等の作業に対する対価支払の正当性を否定した原判決を論難する所論(前款第三項参照)は、結論において理由がない。 してみると、 マージンないしコミッションはなかったものというべきである。D65の検品等の作業に対する対価支払の正当性を否定した原判決を論難する所論(前款第三項参照)は、結論において理由がない。 してみると、原判示時期における準直方式取引において、被告人A1らが被告人A3ら(具体的にはD65)に取得させた約一五%の売買差益は、D1にとって明らかに「無用の支出」であって、違法といわざるを得ず、後記(第三節第二款、第四節第二款参照)のとおり、被告人A3はもとより被告人A1においても、そのことは十分認識していたものと認められるから、準直方式取引について特別背任の事実を認定した原判決は、正当として是認することができるところであり、被告人A3らの有用性についての評価・判断の誤認は、判決に影響を及ぼすものとはいえない。 二被告人A3に取得させた香港コミッション関係証拠によれば、被告人A3らの活動の有用性を全体的に考察する限り、香港コミッション方式による取引の場合も準直方式による取引の場合と大きな差異はないものと認められる。すなわち、香港コミッション方式においては、D3やD65が、輸入・納品の事務を担当・実行しないという点が異なるのは当然として、被告人A3やD3のB40らが、香港において、香港、東南アジアなどの商品の開発や商品情報の収集を行い、D1のバイヤーによるD8での買付を準備してこれに同行し、メーカー側との交渉・選品の際に助言するなどした点で、準直方式による取引の場合とさしたる違いはなく、これらの商品開発、選品、買付等の場面において、被告人A3らの関与が無益あるいは有害と評価されるものも少なからず存するものの、被告人A3らの関与・貢献がかなり大きいと評価されるものも絶無ではなく、これを全体的に考察する限り、被告人A3らの行動等に若干の有用性を肯定せ 益あるいは有害と評価されるものも少なからず存するものの、被告人A3らの関与・貢献がかなり大きいと評価されるものも絶無ではなく、これを全体的に考察する限り、被告人A3らの行動等に若干の有用性を肯定せざるを得ないことは、準直方式取引における場合とほぼ同様である。 この点に関し、原判決は、香港コミッション方式取引についても、被告人A3らの有用性を否定し、例えば、香港の宝石店D32やD33との取引について、被告人A3がC8に依頼してD8に紹介したものであるが、被告人A3としては、D1に紹介して買付が行われることにより自己の利益につながるというただそれだけのことに過ぎない上、D32等の宝石店も、D1としてはC8や被告人A3の関与がなければ買付できない店ではなく、被告人A3に対して、「せいぜい初めの買付においてなにがしかの謝礼をすればそれで十分である程度」である【一八二】とか、D34との毛皮の取引について、被告人A3からの働きかけがあったために取引が開始され、同被告人にデザインやサンプルに関する意見を聞いたこともあったが、D8において、すでに調査、接触済みのメーカーであり、「被告人A3ないしC8の紹介を特に必要としなかったもの」である【一八五】とか、D47の紳士服やF48の婦人セーターについては、C8の関与が窺われるが、「D1としては、右商品の買付にC8や被告人A3の尽力を必要としたわけではなく、売込に来たのを受けて買付けたに過ぎない」などと判示【一八八】しているが、被告人A3らの活動の有用性を全面的に否定し去る理由としては、必ずしも説得的とは認められない。 確かに、被告人A3らの活動の中には、その実態に照らし、せいぜい初めの買付において謝礼をすればそれで十分、と評価されるものも散見され、原判決はかかる観点から、コミッションという継続的かつ定率的 い。 確かに、被告人A3らの活動の中には、その実態に照らし、せいぜい初めの買付において謝礼をすればそれで十分、と評価されるものも散見され、原判決はかかる観点から、コミッションという継続的かつ定率的な金員の支払を違法としたものとも解されるのであるが、被告人A3らの活動の有用性が全体として否定できない以上、その対価の支払方法として、一回限りの謝礼方式によるか、小額とはいえ定期的な報酬方式によるか、定率的なコミッション方式によるかは、原則として企業であるD1と業者である被告人A3の間で自由に決し得る事柄であると考えられ、コミッション方式によることが、その率の如何を問わず、まったく許されないものとは認められない。 そして、被告人A3らの有用性の対価については、準直方式取引の場合と異なり、同被告人らが輸入・納品の業務を担当・実行していなかった点や元来、取引の対象となったものがヨーロッパのブランド商品と異なり、単価が安いことをセールスポイントとし、多量販売と低価格仕入を必要とするいわゆる価格訴求商品(原審証人B7の供述〔五四・二一六九以下〕参照)であったこと等にかんがみ、準直方式取引によるD3の取得マージン分(形式的には輸入原価の平均五%)を若干下回る程度をもって正当と考えられるところ、本件において被告人A3が取得した香港コミッションは、原判示のとおり、概ね二ないし五%であって、右にみた準直方式取引によるD3の取得マージン分を全体としてはかなり下回るものであったと認められるから、結局、被告人A3の香港コミッション取得は全体として違法性を帯びるものとは断定できないことになる。換言すれば、被告人A1らが、香港コミッション方式の取引によって被告人A3に裏コミッションを取得させたことがD1にとって「無用の支出」に当たることについては、合理的な疑いを容れ 定できないことになる。換言すれば、被告人A1らが、香港コミッション方式の取引によって被告人A3に裏コミッションを取得させたことがD1にとって「無用の支出」に当たることについては、合理的な疑いを容れる余地があるというべきであり、関係証拠を再検討してみても、右判断を覆すに由ないところである。 してみると、被告人両名に対する昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実の第二については結局犯罪の証明がないことに帰し、無罪を言い渡すべきものであって、これにつき有罪の認定をした原判決は事実を誤認したものであり、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点において破棄を免れない。 各論旨は右の限度において理由がある(したがって、次節以下においては、右公訴事実の第二、すなわち香港コミッション方式による手数料支払に関する控訴趣意についての判断を省略する。)。 第三節共謀及び実行行為に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説被告人両名は、原判示特別背任の犯行を共謀したこともこれを実行したこともなく、被告人両名が共謀の上で右犯行に及んだ旨認定して、共同正犯の成立を認め、これを包括一罪として処断した原判決には、理由不備、審理不尽、訴訟手続の法令違反、事実誤認、法令の解釈・適用の誤りなどがあり、到底破棄を免れない。以下詳説する。 第二項訴因の特定について(訴訟手続の法令違反等の主張、A1五・三以下)本件公訴事実として記載された被告人両名の「共謀」及び「実行行為」の内容は極めて曖昧であり、訴因としての特定を欠き違法なものであったのに、原審は、釈明その他の措置をとることなく、訴因不特定のまま漫然と審理を開始して有罪の実体判決を言い渡したものであって、審理不尽又は訴訟手続の法令違反を犯すものである。 第三項判示方法 ったのに、原審は、釈明その他の措置をとることなく、訴因不特定のまま漫然と審理を開始して有罪の実体判決を言い渡したものであって、審理不尽又は訴訟手続の法令違反を犯すものである。 第三項判示方法の不備等について(理由不備、審理不尽、法令の解釈・適用の誤り等の主張、A1三・七以下、A1五・一以下、A1七・一以下など)原判決は、被告人両名の共謀による特別背任の事実を認定判示しているが【五一ないし五三】、その補足説明部分を加えて原判決を子細に検討しても、「1」被告人両名による特別背任共謀の日時・場所・方法等は、すべて極めて曖味で不特定というほかない。この点につき、原判決は、「被告人A1は、昭和四八年末ころから同四九年春ころにかけ、被告人A3の要請を受けて準直方式及び香港コミッション方式による商品取入を部下に指示し、右各方式を実行に移したものであって、この段階において、被告人両名に右方式によることについての共謀があったことは明らかである」旨説示【二五五】するが、依然明確性を欠くばかりでなく、仮に、右時点において準直方式取引についての共謀が成立したというのであれば、そのような共謀が四年以上の潜伏期間を経て原判示犯行に至ったというのは余りに不自然である。「2」共謀に基づく実行行為及び実行行為者が判然とせず、例えば、被告人らは実行行為者なのか、それは被告人両名なのか一方だけか、ほかにも実行行為者がいるのか、いるとすればそれは誰か、また、何が実行行為か、例えば、被告人A1のD1担当者に対するA3絡み商品の輸入推進・拡大等の指示行為か、同被告人の指示に従ってなされたD1担当者の個々の輸入行為か等々について、すべて不明であるから原判決には理由不備の違法があるというほかない。そして、「3」仮に、原判決が、被告人A1のD1担当者に対する指示行為をもっ 従ってなされたD1担当者の個々の輸入行為か等々について、すべて不明であるから原判決には理由不備の違法があるというほかない。そして、「3」仮に、原判決が、被告人A1のD1担当者に対する指示行為をもって実行行為としたのであれば、その内容如何によっては公訴時効の問題が生ずるが、他方、個々の輸入行為をもって実行行為としたのであれば、輸入行為をみずから実行していない被告人A1は、いわゆる「共謀共同正犯」における共謀者と解さざるを得ないところ、本件において、被告人A1と被告人A3との間には、共謀共同正犯の成立要件とされている「当該実行行為に対する具体的で明確な謀議」は存在せず、また、被告人A1には「準間接正犯的実行行為やその意思」も「正犯意思」も認められないのであるから、いずれにせよ被告人A1に共謀による共同正犯の刑責を負わせることはできない筈であって、原判決は刑法六〇条の解釈・適用を誤ったものである。「4」更に、仮に、原判決が、個々の輸入行為をもって実行行為としたのであれば、これらの輸入行為は、商法上の諸法令やD1の内部の諸規程に従い、年間総合計画やその一環としての輸入計画の策定、海外出張議案書や買付報告書の決裁、監査等々、それぞれの段階において被告人A1以外の多数の役職員の組織的な関与の下に実行されたものであって、原判決が、これらの輸入行為を敢えて違法とし特別背任に当たるとしながら(これが事実を誤認したものであることは、次項に述べるとおりである。)、共同正犯者を被告人両名に限定し、何ら説明することなく他の役職員らを除外したのは、理由不備といわざるを得ず、また、被告人A1以外の役職員らを共同正犯者から除外するためには、当該役職員らを証人として取り調べるだけではなく、商品輸入過程に関するD1内部の諸規程、海外商品買付の計画・決算・報告等に関する ず、また、被告人A1以外の役職員らを共同正犯者から除外するためには、当該役職員らを証人として取り調べるだけではなく、商品輸入過程に関するD1内部の諸規程、海外商品買付の計画・決算・報告等に関する書類を始めとする物的な証拠を職権によってでも取り調べて、各役職員の任務や関与の程度、範囲等を明らかにする必要があったにもかかわらず、このような証拠調べを尽くさないまま漫然役職員らを共同正犯者から除外した原判決は、審理不尽の違法を犯すものである。 第四項基本的な共謀の成立及びその内容について(事実誤認等の主張、A1三・三七以下、A2一以下、B1八九以下、一三五以下、六二〇以下、B2二四以下など)前項で指摘したとおり、共謀及び実行行為に関する原判決の判示は極めて不明確で判然としないが、原判決は、準直方式などのA3絡み取引の採用自体をもって特別背任の基本的な共謀の成立としているようにも解される【二五五以下参照】。しかし、仮に、そうであるとすれば、原判決は基本的な共謀の成立について事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。すなわち、 1 そもそも、準直方式などの取引形態は、D1内部の事務組織規程に基づき被告人A1も参加した取締役会において正式に決定されたものであるから、仮に、同被告人が右方式による取引に何らかの形で関与したものと認められるとしても、そのことをもって違法不当視することはできないところである。殊に「準直輸入方式」は、原判示犯行の始期である昭和五三年八月より約二年前である同五一年八月二六日の第三六一回定時取締役会において「職制及び職務章程の改正の件」の決議により正式に決定されたD1の取引形態の一つであって、原判決が認定・判示するように【二五以下、特に二九、三一】、D3という特定の企業の輸入商品にかかる取 において「職制及び職務章程の改正の件」の決議により正式に決定されたD1の取引形態の一つであって、原判決が認定・判示するように【二五以下、特に二九、三一】、D3という特定の企業の輸入商品にかかる取引の「呼称」でも同社やD65に不法な利益をもたらすための「仕組み」でもなく、もとより、被告人両名の愛人関係と結びついて特別に採用されたものでもないのである。原判決は、D1における「準直方式」の意味や位置づけについて、職制や職務章程の改正経過等に関する証拠物等の検討を怠った結果事実を誤認したものである。 2 そして、原判決は、被告人両名による特別背任の基本的な共謀の成立に関し、被告人A1が準直方式による商品取入をD1の役員らに指示した旨認定しているが、関係証拠を検討してみても、同被告人が原判示のような指示をした事実は認められない。原判決の右の認定の根拠は、被告人A1の社長室長B7に対する「D3なんか通す必要はないんだ。D65を通せば同じなんだ」という発言と解されるが【一〇七以下参照】、かかる発言の事実は存しない上、仮に、右発言の事実が認められるとしても、これをもって、D3の輸入した商品をD65を経由してD1に納入するといういわゆる「準直方式」採用の指示と認めることは、到底できないのであって、右方式の採用はB7や仕入本部次長のB52らが中心となって決めたものに過ぎず、被告人A1はまったく関知していなかったのである(このことは、同被告人の五七・一一・二二検面調書第四項に記載された同被告人と検察官との問答形式の供述〈四二・六六二三以下〉に照らしても、明らかである。)。原判決は、「準直方式」の採用という最も重要な点について事実を誤認したものである。 3 更に、原判決は、A3絡みの取引ないし準直方式取引の成立に至る経緯として、「1」被告人A1が、昭和四 ある。)。原判決は、「準直方式」の採用という最も重要な点について事実を誤認したものである。 3 更に、原判決は、A3絡みの取引ないし準直方式取引の成立に至る経緯として、「1」被告人A1が、昭和四七年二月ころ当時の取締役D10次長のB17に対し、D3の取引口座開設の依頼をしたこと【二二、九九】、「2」被告人A3が、昭和四七年二月ないし三月ころD1の販売促進会議の終了間際に入室し、役員に対して新しく始める事業への協力を依頼する趣旨の挨拶をし、これに続いて被告人A1が、同A3の右新事業への援助を要請したこと【二三、九七】、「3」被告人A1が、B17に対し、D3とD11銀行との外国為替取引契約に関するD1の保証を指示したこと【二四、一〇二】などの事実を認定・判示しているが、これらの事実はいずれも存在しない。原判決は、任意性及び信用性を欠くことの明らかなD1の役員らの関係供述を採用して措信した結果、事実を誤認したものである。 第五項共謀の継続、発展に関する間接事実について(事実誤認、法令の解釈・適用の誤り等の主張、A2七以下、B1一二九以下、一五四以下、六四五以下、B2三七以下、七二以下、一八三以下など)前項のとおり、被告人両名の間に基本的な「共謀」の成立が認められない以上、その継続や拡大はあり得ないところであるが、この点は別としても、被告人A1は、原判決が、「A3絡み輸入方式の内容に関する被告人A1の認識(共謀の間接事実)」として認定判示【二〇七以下】するように、準直方式等を継続・拡大させる一般的及び個別的な指示・発言をしたことはないのであるから、原判決は、この点においても事実を誤認し、刑法六〇条、改正前の商法四八六条一項等の解釈・適用をも誤ったものである。すなわち、 1 原判決は、被告人A1の直輸入推進に関する指示は、A3絡み輸入 から、原判決は、この点においても事実を誤認し、刑法六〇条、改正前の商法四八六条一項等の解釈・適用をも誤ったものである。すなわち、 1 原判決は、被告人A1の直輸入推進に関する指示は、A3絡み輸入方式の拡大の指示を意味するものであり、A3絡み輸入方式の定着と対象商品拡大の根本原因は、「被告人A1がD1幹部社員に対し、同方式を是認しその推進・拡大を図る指示・発言を繰り返していたことによる」旨判示しているが【二一六】、海外商品直輸入政策の推進は、D3など取引先の一企業の利益の確保などという瑣末な目的のためのものではなく、職制の改正等正規の手続を経て決められたD1自身の経営戦略であるから、社長である被告人A1が直輸入推進を指示したとしても、それはD1の経営戦略に副うものでこそあれこれと矛盾するものではない。原判決が共謀の間接事実として指摘する被告人A1の指示・発言の多くは、直輸入推進そのものに関するものか、被告人A3のデザイナーとしての能力やセンスに対する高い評価に基づき同被告人やその企業の関与を容認する趣旨のものに過ぎず、これらの発言等をもって、準直方式等を継続・拡大させたものとはいえないのであって、このことは、押収にかかるB36のノート一冊《一七六》、B33の手帳三五冊《一七三》、「金字塔」五冊《三八八ないし三九二》その他D1の出版物などの記載内容等に照らし明らかである。もっとも、原審証人B36、同B33は、自分が記載したノートや手帳の内容について、いろいろと説明しているが、自己弁解と被告人A1の発言の曲解に終始するものであって、そのままには措信できない。なお、検察官が論告要旨二六九頁(原審記録第七冊一五九三丁)以下において指摘している「A1の直輸入推進指示一覧表」は、前記B33手帳に記載された被告人A1の発言の重要部分を除外したもの 信できない。なお、検察官が論告要旨二六九頁(原審記録第七冊一五九三丁)以下において指摘している「A1の直輸入推進指示一覧表」は、前記B33手帳に記載された被告人A1の発言の重要部分を除外したもので、右手帳の記載内容を正確に纏めたものとはいえない。原判決は、信用性の乏しいB36やB33の供述等を措信し、また、前記B33手帳を丹念に検討することなく論告要旨中の不正確な「A1の直輸入推進指示一覧表」を漫然引用する【二一五】など、採証法則に違反した結果、同被告人の直輸入推進に関する指示・発言の動機・目的等を誤認したものである。 2 原判決は、被告人A1が、海外出張議案書の決裁等を通じて、個別的に輸入商品の仕入・買付状況、特にA3絡み商品買付の有無・内容を把握し、A3絡み輸入方式を拡大・推進させるべく具体的な指示をした旨判示し【二〇八、二五六、二五八】、更に、D39、D49、ドイツの毛皮や羽毛布団等の個別商品群について、準直方式等を継続・拡大させる具体的な指示・発言をした旨認定・判示しているが【二二一以下】、代表取締役として多忙な毎日を送っていた被告人A1が、大部に亘る海外出張議案書等の決裁等によって極めて大量の商品の仕入・買付を個別的に把握することは至難の業である上(海外出張議案書《二三二》参照)、海外出張議案の決裁過程、年間の販売・取入計画の決定過程、年間の事業計画、個々の海外出張計画と実際の買付報告書等を対比して検討すれば明らかなように、同被告人には、A3絡みの商品とそうでない商品とを区別することも困難であって、同被告人が事業計画を無視して買付予算の増額を指示したなどということはなく、現実にも、予算を大幅に上回った買付は存在しなかった上、個別商品群について準直方式等を容認・推進したのは、同被告人ではなくD1の仕入担当者らである。原判決 予算の増額を指示したなどということはなく、現実にも、予算を大幅に上回った買付は存在しなかった上、個別商品群について準直方式等を容認・推進したのは、同被告人ではなくD1の仕入担当者らである。原判決は、措信することのできないD1関係者の供述等に基づき被告人A1の発言等の趣旨を曲解するなどした結果事実を誤認したものである。 3 原判決は、被告人両名の共謀によるA3絡み輸入方式の推進・拡大を支えた間接事実として、D1社内における「A3人事」の存在を強調し、その具体例を挙示しているが【四〇以下、二六二下参照】、そもそも、企業の人事は、経営者が多くの要素を多角的に検討し総合的に考慮して行う事柄であって、その是非は裁判所の判断に馴染まないところである。のみならず、原判決が「A3人事」の具体例として指摘しているC16、C17、B27、C18、B28、B26、B16、B18、B36、C19らの人事異動について、被告人A1の指示・発言と当該人事の因果関係、当該人事の内容(原判示のように「遠ざける人事」「引き立てる人事」などとみられるかどうか)を検討してみると、これらの人事が対象となった者のA3絡みの取引に対する態度や被告人A3らとの個人的な関係等に基づいてなされた不当なものとは到底認め難く、原判決は、この点においても事実を誤認するなどしたものといわなければならない。 第六項非身分者である被告人A3の共同正犯性について(理由不備・法令の解釈・適用の誤りの主張、B1五七二以下)被告人A3は、D1との関係において、改正前の商法四八六条一項所定の身分はもとより刑法二四七条所定の身分もないものであるから、同被告人につき特別背任罪の共同正犯が成立する余地はなく、これを認めた原判決は、改正前の商法四八六条一項、刑法二四七条、六五条一項、二項の解釈・適用を誤っ 刑法二四七条所定の身分もないものであるから、同被告人につき特別背任罪の共同正犯が成立する余地はなく、これを認めた原判決は、改正前の商法四八六条一項、刑法二四七条、六五条一項、二項の解釈・適用を誤ったものである。 第七項罪数について(法令の解釈・適用の誤りの主張、A1三・四三以下、B1九〇以下)第三項で指摘したとおり、原判決の共謀及び実行行為に関する判示は、極めて不明確で判然としないが、昭和四八年一二月ころの準直方式の成立をもって特別背任の基本的共謀の成立と認め、同五三年八月ころから同五七年七月ころまでの間における準直方式による多数回の取引等が、すべて右の共謀に基づく実行行為である旨認定判示しているようにも解される。仮に、そうであれば、被告人両名による特別背任の実行行為は、数年間に亘る多くの国からの多種多様かつ大量な商品の輸入という極めて多数回の行為であり、個々の行為ごとに共犯者の範囲も異なることになるから、これを準直方式という取引形態につき全部まとめて包括一罪として処断した原判決は、罪数について刑法四五条等の解釈・適用を誤ったものである。 第二款当裁判所の判断第一項総説そこで、原審の記録及び証拠物に当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、海外からの商品の輸入・仕入に関し、被告人両名が共謀の上で特別背任の犯行に及んだ旨認定して共同正犯の成立を認め、これを包括一罪として処断した原判決は、正当として是認することができ、所論のような違法や誤りは認められない。 第二項訴因の特定に関する主張について被告人両名に対する昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実を検討すれば、被告人両名の「共謀」及び「実行行為」について、訴因不特定の違法かあるとは認められない。すなわち、右起訴状には、公訴事実として「被告人両名は、共謀 七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実を検討すれば、被告人両名の「共謀」及び「実行行為」について、訴因不特定の違法かあるとは認められない。すなわち、右起訴状には、公訴事実として「被告人両名は、共謀の上、被告人A1が右任務に背き、第一D65の利益を図る目的をもって、……、D1が海外で買い付け、D3を介して輸入した商品につき、これをことさらにD3からD65に転売させることとした上、同会社からD1が仕入れ、これによるD65の差益金額合計……を含む仕入代金合計……をD1の当座預金口座から……D65の当座預金口座に振込入金し、もってD1に対し……相当の損害を加え」た旨が記載されているのであって、刑訴法二五六条三項にいう訴因の明示に欠けるところがあるとはいえない。 なるほど、右公訴事実には、「共謀」についての具体的な日時・場所・内容等が明示されていないのであるが、原審における検察官の冒頭C8述の内容(冒頭C8述書第二部の第二、第三の一及び七、原審記録第一冊七一丁以下、七六丁以下、八六丁以下など参照)を併せてみれば、検察官は、被告人A1及び被告人A3が、昭和四八年一二月下旬ころ、被告人A3及びD3、D65の利益を図る意図の下に、D1社長室長B7、常務取締役B17らに指示するなどして、D1の海外商品取引に「準直方式」を採用させたことをもって本件の「共謀」としていることが認められるから、審判の対象及び防御の範囲は明らかであって、「共謀」の内容が不特定であるとはいえないところである(ちなみに、原審第一回公判期日においては、弁護人らから本件公訴事実に関し「共謀」の態様、日時、場所、内容についての釈明要求があったものの、「必要な限度において冒頭C8述で明らかにする」旨の検察官の意見を前提として、直ちに被告人両名及び弁護人らから被告事件に対する意見のC8述が 態様、日時、場所、内容についての釈明要求があったものの、「必要な限度において冒頭C8述で明らかにする」旨の検察官の意見を前提として、直ちに被告人両名及び弁護人らから被告事件に対する意見のC8述がなされ、「共謀」の事実は一切否定する旨C8述されているのであって、「共謀」の具体的な日時・場所・内容等が明示されていなかったことが被告人らの防禦に実質的な不利益を及ぼしたものとは認められない。原審記録第一冊二三丁以下参照)。 また、特別背任の「実行行為」が、D1が海外で買い付け、D3を介して輸入した個々の商品について、これを「ことさらにD3からD65に転売させることとした上、同会社からD1が仕入れて、これによるD65の差益金額を含む仕入代金をD65に支払ったこと」にあることは、前記公訴事実の記載自体から明らかであって、その内容が不特定といえないことはいうまでもない。 したがって、「共謀」及び「実行行為」についての訴因が不特定であることを前提とする審理不尽、訴訟手続の法令違反等の主張は採用の限りでない。 第三項判示方法に関する主張について原判決の理由中、第一章第二節(罪となるべき事実等)の一【五〇】のほか、第一章第一節(経歴及び本件(主として直輸入商品関係特別背任事件)の前提ないし背景を構成する事実)の二の(四)【二五以下】、第四章(直輸入商品関係特別背任事件にかかる事実認定の理由)第一節ないし第三節【九五ないし二八五】によれば、原判決は、「1」被告人両名が、昭和四八年一二月下旬ころ、D3の取引口座の廃止を余儀なくされる状況に直面した際、被告人A3らの利益を確保する意図の下に、被告人A1において社長室長B7、常務取締役B17らに指示するなどして「準直方式」を成立させたことをもって特別背任の基本的「共謀」とし、「2」右の基本的「共謀」に基 3らの利益を確保する意図の下に、被告人A1において社長室長B7、常務取締役B17らに指示するなどして「準直方式」を成立させたことをもって特別背任の基本的「共謀」とし、「2」右の基本的「共謀」に基づき被告人A1から「準直方式」による取引を指示されたD1の仕入担当職員らが、海外で買い付け、D3を介して輸入した商品について、ことさらにD3からD65に転売させ、同社からD1が仕入れて、これによるD65の差益金額を含む仕入代金をD65に支払ったことをもって、特別背任の「実行行為」としていることが明らかであるから、原判決の特別背任の共謀及び実行行為に関する認定・判示が所論のように明確性を欠くものとはいえず、原判決に理由不備等の違法は認められない。 これに対し、所論は、原判決の共謀及び実行行為に関する認定・判示について縷々論難する。 1 なるほど、昭和四八年一二月下旬ころの段階で特別背任の基本的な「共謀」が成立したものとすれば(この点に誤認があることは、後記第四項のとおりである。)、本件公訴事実及び原判示の背任行為は同五三年八月ころ以降の取引にかかるものであるから、この間に四年以上が経過したことになるが、原判決は、この四年以上の期間中も準直方式による違法・不当な取引が継続・拡大されていた旨判示しているのであって、この期間を所論のように潜伏期間としている訳ではない。 「共謀」と「実行行為」とが時間的に離れ過ぎていて不自然である旨の所論は、採ることを得ない。 2 原判決は、被告人A1が、準直方式による個々の商品取引を直接実行したものではなく、部下であるD1の仕入担当者らに対し、準直方式による取引を一般的、個別的に指示し、これを実行させた旨認定・判示しているのであり(後記第四項のとおり、右の認定・判示は概ね是認できるところである。)、被告人A1は、 の仕入担当者らに対し、準直方式による取引を一般的、個別的に指示し、これを実行させた旨認定・判示しているのであり(後記第四項のとおり、右の認定・判示は概ね是認できるところである。)、被告人A1は、D1の他の役員や部下の仕入担当者らを介し、右担当者らをいわば道具として利用して特別背任の犯行を実行したものであるから、所論にいう「準間接正犯的実行行為やその意思」及び「正犯意思」が認められ、「共謀共同正犯者」として共謀による共同正犯の刑責を負うのは当然である。原判決に所論のような刑法六〇条の解釈・適用の誤りは存しない。 3 D1の役員の中には、B7やB17らのように「準直方式」の成立・推進に一般的に関与したと認められる者及び個々の商品の「準直方式」による仕入や代金支払に関与したと認められる者が少なからず存在することは、所論指摘のとおりであって、これらの役員は本件特別背任の共同正犯者といわざるを得ないところである(これに比し、商品仕入や代金支払の直接の担当者は、D1の従業員として被告人A1の直接間接の指示に従うほかない状況に置かれていた者であるから、せいぜい「故意ある道具」に過ぎず、共同正犯者とは認められない。)。しかし、被告人A1と異なり、B7、B17らのD1の役員は、元来、被告人A3らの利益を図って特別背任の犯行に及ぶ何らの理由も必要もなく、B7、B17らが、準直方式の成立、推進等に関与して背任行為に及んだのは、被告人A1の威勢を恐れ、同被告人の意向に逆らうことが困難な状況にあったためであると認められる。すなわち、同じ共同正犯者といっても、これらのD1の役員と被告人両名とは特別背任の犯行に対する関与の経緯・程度・態様等に質的な差異が存在するのであって、このことは、原審の関係証拠上明白であるから、所論のように更に物的な証拠等を取り調べる必要 D1の役員と被告人両名とは特別背任の犯行に対する関与の経緯・程度・態様等に質的な差異が存在するのであって、このことは、原審の関係証拠上明白であるから、所論のように更に物的な証拠等を取り調べる必要があったとは認められない。したがって、被告人両名の共同正犯者からB7、B17らのD1の役員を除外した検察官の公訴提起に対し、原裁判所が、これらのD1の役員を共犯者とするべく敢えて訴因変更を促すなどの措置に出なかったことや判決理由中で共同正犯者の範囲につき特に言及しなかったことは、是認できるところであって、共同正犯者の範囲等に関する原審の審理及び判断に所論の審理不尽、理由不備等の違法は認められない。この点を争う所論は採ることを得ない。 第四項基本的な共謀に関する主張について一 D1における「準直方式」原審証人C13〔五〇・一四七二以下〕、当審証人B17、同B54及び同B55の各供述、当審で取り調べたD1の職務章程(昭和五一年八月二六日付及び同五七年六月付のもの)等によれば、「1」中国大陸との貿易については、当初D1が友好商社ではなく、信用状を開設することができなかったため、D1の仕入担当者が現地に赴いて直接選品し買付を行っても、その商品の輸入手続は友好商社である株式会社D50に手数料を支払って同社に行わせ、D1は同社を通じ円買いの形式で商品を輸入していたものであり、昭和四八年ころまでにはD1自体が友好商社になったものの実績や経験が乏しかったため、相変わらず実績のある右D50を介した輸入が続いていたものであって、「準直輸入」という用語は、元来、このような友好商社の取り扱う中国貿易にかかる輸入について使用されていたものであること、「2」一方、D1においては、仕入担当者が海外で買い付けた商品につき、D3が輸入しD65を経由してD1に納入すると ような友好商社の取り扱う中国貿易にかかる輸入について使用されていたものであること、「2」一方、D1においては、仕入担当者が海外で買い付けた商品につき、D3が輸入しD65を経由してD1に納入するというA3絡み商品に特有の輸入方式が採用され拡大されるうち、昭和五三年ころから、主として仕入担当者の間で、このような輸入方式の俗称として「準直輸入」(その略称としての「準直」)なる用語が使用されるようになったこと、「3」昭和五一年八月二六日開催の第三六一回取締役会において、D1の職制及び職務章程が改正され、仕入本部に新設された輸入部の担当業務として、「D1全体の輸出入計画及び輸入品の販売計画の立案、予算の作成」や「直輸入品及び準直輸入品の仕入業務」等が定められたが(当審証人B52の速記録末尾添付の資料6「株式会社D1第参百六拾壱回定時取締役会議事録」参照)、右の改正は、「1」のような友好商社(及び当時ヨーロッパなどからの商品輸入について、現地のサプライヤーらとの特殊な関係から対中貿易における友好商社に類似の立場にあり、D1にとって類似の役割を果たしていたD51株式会社等)を通じて行われていた輸入方式を確認する趣旨のものであって、わざわざA3絡みの商品の輸入方式を取り上げて、その正式採用を決定したり認知したものではなかったこと、以上「1」ないし「3」の事実が認められる。原判決が「準直方式」について認定・判示するところは、まさしく右「2」の俗称としての「準直方式」に関するものであると認められ、原判決が、職務章程に明記されていた「準直輸入」と俗称として使用されていた「準直方式」との関係につき言及することなく、後者についてのみ認定・判示したことは、必ずしも適切とはいい難いが、右俗称としての「準直方式」に関する限り事実を誤認したものとは認められないから、 れていた「準直方式」との関係につき言及することなく、後者についてのみ認定・判示したことは、必ずしも適切とはいい難いが、右俗称としての「準直方式」に関する限り事実を誤認したものとは認められないから、この点に関する所論は、結局、採用するに由ないところである。なお、所論の中には、準直方式の採用をもって特別背任の共謀と認定する以上、D1における職務章程や職制の改正過程に関し証拠を取り調べて検討する必要があり、これを怠った原審には審理不尽の違法がある旨の主張が存するが、原審においては俗称としての「準直方式」を問題としているに過ぎないのであるから、所論のような証拠調べが更に必要であったとは考えられず(ちなみに、原審においても、D1関係者を証人として取り調べたほか、検察事務官作成の五八・二・二一捜査報告書〈一四・一五九〉、同五七・一〇・一一捜査報告書〈一五・二〇九〉などによって、D1の機構、職制、職務章程の主要改正点などに関する証拠調べがなされている。)、審理不尽の主張は採用の限りでない。 二被告人A1の準直方式の採用への関与と共謀の成立原判決挙示の関係証拠によれば、昭和四八年一二月中旬及び下旬の段階、すなわち、D3に対する便宜及び利益の供与がマスコミを始めとするD1内外からの激しい批判に晒されるなかで、D1の役員若しくは幹部職員であるB17、B7、B52らが、いろいろと対策を講じ、その結果に基づき、D3の取引口座の廃止等を被告人A1に進言・懇願し、あるいは、被告人A3に注意・要望した状況などについては、概ね原判決の認定・判示するとおりであると認められ【一〇八以下参照】、同月下旬ころ被告人A1がB7からD3口座の廃止等に関して三度目の懇願をされた際、「D3なんか通す必要はないんだ。D65を通せば同じなんだ」という趣旨の発言をした事実も否定で れ【一〇八以下参照】、同月下旬ころ被告人A1がB7からD3口座の廃止等に関して三度目の懇願をされた際、「D3なんか通す必要はないんだ。D65を通せば同じなんだ」という趣旨の発言をした事実も否定できないところである。 しかしながら、被告人A1の右のような発言をもって、直ちに、同被告人が、これまでD3の口座を通してD1が輸入していた商品につき、D3が輸入した上、D65の口座を使用し同社を経由してD1に納入するという「準直方式」の採用を指示したものとは認め難い。すなわち、この点に関する被告人両名の捜査段階における供述は次のとおりである。 まず、被告人A1は、検察官に対し、「1」昭和四八年一二月下旬ころにB7から進言された内容は、問題とされているD3を切り、D65を残して、D65にD3の仕事をさせること、すなわち、D3に代わってD65が貿易業務を行うことであると理解したので、これに賛成したものであり、その結果、D65が定款を変え、同社の名前で貿易業務を行ってD1に輸入商品を卸売りしているものと思っていた、「2」ところが、その後も、まだD3がD1と取引をしているという暴露記事等が出ているようだったので、不思議に思い、被告人A3がtの家に移って間もないころ、同被告人に対し、まだD3の名前でやっているのか、と尋ねたところ、B7と相談してD3が輸入しD65を通して納めている旨の説明をされたので、初めて、D3とD65の二社がD1からマージンを取っていることを知ったが、自分がB7から聞いていた話と違うなと思った、「3」被告人A3の商品選品のセンスなどについて五%前後のコンサルタント料あるいはコミッション料を支払うのは格別、貿易実績のない同被告人の会社にこれより高いマージンを払うことにも問題があり、D3とD65の二村にマージンを払うのはまずいと感じたが 五%前後のコンサルタント料あるいはコミッション料を支払うのは格別、貿易実績のない同被告人の会社にこれより高いマージンを払うことにも問題があり、D3とD65の二村にマージンを払うのはまずいと感じたが、すでに被告人A3とB7やD1の仕入担当者の間で話を付けて実行していることなので、ことを荒立てることなく、そのまま放置することに決め、被告人A3に対しては、その場で、そんな二つも通すやり方はやめろと言うべきところであったが、毅然とした態度が取れず、なるべくコミッションで仕事をする様にしろ、派手なことはするなよ、としか言わなかった旨供述している(五七・一一・二二検面調書〈四二・六六一九以下〉参照。なお、右「3」の部分について、同調書の末尾では、被告人A3のセンスに対し五ないし一〇%のコンサルタント料あるいはコミッション料を契約によって支払えば良いと思っていた旨訂正している〈四二・六六三一〉。)。 また、被告人A3も、検察官に対し、これに符合するように、「1」被告人A1から、D11の口座を解約し、D3とD1との取引口座も閉めろ、D3も一時やめておけ、と言われ、すでにヨーロッパでの商品開発も進んでいたので、急にやめろと言われても困ると思い、B7やB52に相談したところ、B7から、D3を表に出さないでD3の輸入した商品をD65からD1に納入するという案が出されて、結局、そのようになった、「2」右の方式について、B7が被告人A1に報告したかどうかは不明であるが、自分の方から被告人A1に話をしたことはなかった、「3」昭和五一年か五二年で自分がuの家に移って間もないころ、被告人A1から、どうやっているんだ、と尋ねられたので、B7と相談してD3で輸入しD65を通してD1に納めている旨話したところ、なるべく目立たないようにしろよ、できるだけコミッションで仕事 いころ、被告人A1から、どうやっているんだ、と尋ねられたので、B7と相談してD3で輸入しD65を通してD1に納めている旨話したところ、なるべく目立たないようにしろよ、できるだけコミッションで仕事をするようにしろ、と言われたが、すぐにやめろとは言われなかったのでこれまでのやり方をそのまま続けた旨供述しているのである(五七・一〇・三一検面調書〈四二・六七六〇以下〉参照)。 これら被告人両名の検察官に対する各供述には、弁解のための弁解として排斥できない真実性が窺われる上、原判決援用の原審証人B7の関係供述〔五三・二一一六以下、五六・二七七二以下等参照〕を子細に検討しても、被告人A1の前記のような発言を聞いたB7が、同被告人から準直方式の採用を指示されたものと理解したという理由は極めて暖昧であって到底納得できず、被告人A1においては、D3の口座を廃止し、D65に輸入業務を行わせる趣旨でB7の進言を了承し、その検討方を指示したに過ぎないのに、B7において、被告人A1の意向を誤解し、又は、同被告人や被告人A3に迎合する気持から独断で、被告人A3らに「準直方式」を提案し、同被告人の賛成を得てこれを実行するに至ったのではないか、と疑う余地がある。そして、その余のD1関係者、特に、原審証人B17、同B8の各供述や当審証人B17、同B52の各供述は、この疑いを払拭させるものではない(なお、被告人A3は、原審公判段階では、準直方式を提案したのはB7ではなくB52であった旨供述していて〔一一一・一六六五二以下、特に一六六五五〕、重要な点に変遷が見られることは原判決の指摘【一一三】するとおりであるが、このことは、原審公判廷における被告人A3の供述の信用性を否定する理由とはなし得ても、被告人両名の検察官に対する「準直方式」に関する各供述等を虚偽として排斥する の指摘【一一三】するとおりであるが、このことは、原審公判廷における被告人A3の供述の信用性を否定する理由とはなし得ても、被告人両名の検察官に対する「準直方式」に関する各供述等を虚偽として排斥する理由とはなし難いところである。)から、結局、昭和四八年一二月下旬ころの時点において、被告人両名の間に「準直方式」に関する基本的共謀が成立したものとは認め難いところである。 してみると、原判決は、「準直方式」の採用の経緯、ひいては、被告人両名の特別背任の基本的な共謀の時期、態様等について事実を誤認したものといわざるを得ないが、被告人両名の前記各検面調書にも現れているように、被告人A1は、遅くとも昭和五一年か五二年ころの時点において、被告人A3の口から、すでに昭和四九年ころから「準直方式」による取引が事実上行われていることを知らされて、その事実を明確に認識したものであり、それにもかかわらず、これを取り止めるための措置を取ることなく、同被告人に対し、なるべくコミッションで仕事をするようにしろ、などと言っただけで、これまでの「準直方式」を追認して右時点以降の「準直方式」による取引の継続を是認したものと認められるから、これによって、被告人A3と特別背任の共謀を遂げたものというべきであって、原判決の右の誤認は判決に及ぼすことが明らかなものとはいえず、被告人A1が昭和五三年八月ころを始期とする原判示「準直方式」の取引に関して刑責を負うべきことは当然である。 三 A3絡み輸入方式の成立、拡大の経緯原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、原判決が、その理由中、第一章第一節の(四)及び第四章第一節において、いわゆるA3絡み輸入方式の成立過程等として、「1」被告人A1は、昭和四七年二月ころ当時の取締役D10次長のB17に対し、D3の取引口座開設を依頼したこと【二 一節の(四)及び第四章第一節において、いわゆるA3絡み輸入方式の成立過程等として、「1」被告人A1は、昭和四七年二月ころ当時の取締役D10次長のB17に対し、D3の取引口座開設を依頼したこと【二二、九九】、「2」被告人A3が、昭和四七年二月ないし三月ころD1の販売促進に関する会議の終了間際に入室して新しく始める事業への協力を依頼する趣旨の挨拶をし、被告人A1が同A3の右新事業への援助を要請したこと【二三、九七】、「3」被告人A1が、B17に対し、D3とD11銀行との外国為替取引契約の保証を指示したこと【二四、一〇二】などの事実を認定・判示したことは、正当であって、所論にかんがみ原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討しても、原判決のこれらの認定に誤認があるとは認められない。 所論は、これらの事実に関する原審証人B17、同B8、同B36、同B7らの各供述の任意性及び信用性を争い(A1三・四五以下、B1三二以下)、その理由として、(a)右B17らのD1関係者は、原審証言当時、いずれもD1又はその関連会社に役員や従業員として勤務していたものであって、D1の意向に反した供述をなし難い状況に置かれていたこと、(b)D1関係者の証言の際には予め同社の法務担当者を中心とする打合せがなされていた上、法廷には右法務担当者が傍聴席にいて証言を監視するなどしていたこと、(c)証拠物として取り調べられたB56著「解任―D1顧問弁護士の証言」一冊《二五七》に記載されているように、本件は、反A1派のB56弁護士らが中心となって一〇年がかりで計画された謀略に端を発するものであることなどを指摘する。なるほど、B17らが、原審証言当時D1又はその関連会社の役員等として勤務していた者であることは、所論指摘(a)のとおりであり、(b)のよ で計画された謀略に端を発するものであることなどを指摘する。なるほど、B17らが、原審証言当時D1又はその関連会社の役員等として勤務していた者であることは、所論指摘(a)のとおりであり、(b)のような状況も窺われない訳ではないから、B17らD1関係者の供述内容の信用性については、特に慎重な吟味、判断が必要と考えられるが(所論指摘のような事情があるからといって、原審証人B17らの公判廷における供述につき、その任意性に疑いがあるといえないことはもとよりであって、原判決に訴訟手続の法令違反は認められない。)、D1関係者であるとの一事によって一律かつ全面的にこれらの者の供述の信用性を否定すべきものではなく、各供述内容につき個別的具体的に信用性を検討すれば足りるものと認められるところ、原審証人B17らの関係供述中、前記「1」や「3」に関する部分については、その内容に特に不自然、不合理な点はなく(そもそも、「1」の口座開設や「3」の銀行取引契約の保証の如きは、D1の代表取締役である被告人A1からの依頼や指示がまったく存在しないのに、B17らにおいて、独断専行する筈がなく、その必要もない事柄である。)、その余の関係証拠と比照しても重要な部分にくいちがいなどは見当たらないから、原審証人B17らの関係供述に信用性を認めて「1」及び「3」の事実を認定した原判決に誤りはない。また、「2」の事実については、販売促進に関する会議というD1社内の公的な場で、被告人A3が挨拶し被告人A1が口添えするような発言をするという極めて特異な事柄であり、しかも、原判示のように【九七以下】、D1の関係者がほぼ一致して供述しているところであって、D1関係者のこれらの供述が被告人両名を陥れるべく相談の上で事実を捏造したものとは到底考えられず、「2」の事実を認定した原判決に誤りはな 以下】、D1の関係者がほぼ一致して供述しているところであって、D1関係者のこれらの供述が被告人両名を陥れるべく相談の上で事実を捏造したものとは到底考えられず、「2」の事実を認定した原判決に誤りはない。 その他、A3絡み輸入方式の成立及び拡大の経緯等に関して原判決の事実認定等を争う緩々の所論にかんがみ、関係証拠を再検討しても、原判決には判決に影響を及ぼすような事実の誤認等を発見することはできず、所論は採ることを得ない。 第五項共謀の継統、発展に関する主張について一被告人A1の直輸入推進に関する指示なるほど、原判決指摘の被告人A1の直輸入推進に関する指示の大部分は、これをその文言どおりに理解する限り、かねてからの同被告人の持論であり、当時D1の経営戦略ともなっていた海外商品直輸入政策の推進を提唱し、その具体的展開を指示したものに過ぎず、直ちにA3絡み輸入方式、殊に準直方式の推進・拡大の指示を意味するものでないことは、所論指摘のとおりである(そもそも、被告人A3とのスキャンダルに対する批判を恐れていた被告人A1が、「金字塔」その他の広報誌や多数の社員の面前での挨拶等において、A3絡み輸入方式の推進を明示するような指示をする筈はない。)。しかしながら、被告人A1は、D65の商品取扱量や納入高をトータルな形で把握し、これが他の出入り業者と比較しても異常な程に増加していて、その原因がA3絡み輸入方式の継続・拡大にあることを十分に認識していたことが認められ、また、D1の内部において、自己の直輸入推進の指示が準直方式を含むA3絡み輸入方式の推進の指示をも意味するものと理解されることを知悉していたと認められる上、所論も認めるように、被告人A1の発言の中には、被告人A3の能力等を評価し、同被告人らがD1の取引に関与することを容認する趣旨の発 指示をも意味するものと理解されることを知悉していたと認められる上、所論も認めるように、被告人A1の発言の中には、被告人A3の能力等を評価し、同被告人らがD1の取引に関与することを容認する趣旨の発言も多々存在したのであるから、D1の内部においては、被告人A1の直輸入推進に関する指示はA3絡み輸入方式の維持・拡大を意味するものであったといわざるを得ないのであって、その旨判示した原判決に誤りはない。 なお、所論は、検察官の論告要旨中の「A1の直輸入推進指示一覧表」は、B33手帳中の被告人A1の発言の重要部分を除外していて、右手帳の記載内容を正確に纏めたものではなく、同被告人の発言の趣旨を誤解させる恐れのあるものであるのに、これを漫然と引用した原判決には採証法則違反に基づく事実誤認がある、というのであるが、原審検察官は、論告に際し、B33手帳に記載された被告人A1の発言のうち、その主張に副う部分を必要な限度で抜粋して右「一覧表」を作成したものであり、原判決は、その補足説明において、B33手帳の記載内容の主要なものの記載に代えて右「一覧表」を引用したものに過ぎず、かかる引用が許されないものとはいえない上、右「一覧表」が被告人A1の発言の趣旨を誤解させる恐れのある不正確なものとは認められないから、採証法則違反に基づく事実誤認の主張は採用できない。 二被告人A1の個別的・具体的な発言等なるほど、被告人A1は、D1の代表取締役として大局的な見地から業務全般を統括すべき立場にあり、多忙な同被告人が輸入商品の仕入・買付業務、特に、準直方式による仕入・買付の具体的内容のすべてを正確に把握していなかったことは否定できないところであるが、関係証拠によれば、同被告人は、海外出張議案書の決裁に際し、いわゆる盲判を押したり盲サインをしていたものではなく、むし の具体的内容のすべてを正確に把握していなかったことは否定できないところであるが、関係証拠によれば、同被告人は、海外出張議案書の決裁に際し、いわゆる盲判を押したり盲サインをしていたものではなく、むしろ右決裁等を通じて、個別的に輸入商品の仕入・買付状況、特にA3絡み商品の買付の有無・内容を把握し、担当者に対してかなり具体的な指示をすることが十分可能な状況にあり、現実にも、D39、D49などのA3絡み商品の個別商品群について積極的にかかる指示をしてA3絡み輸入方式を拡大・推進させた事実が認められるから、これらの点に関する原判決の認定は正当として是認することができる。 更に、所論は、被告人A1の個別商品群の仕入等についての指示・発言等に関し、原判決の認定・判断に誤りがあるとして、種々主張するが、関係証拠を再検討しても、原判決に所論のような誤りは見当たらないから、所論は採ることを得ない。 三いわゆる「A3人事」そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、原判決は、被告人A1の腹心として昭和四九年以降七年間に亘り人事管理に携わってきたB7の体験に基づく証言を措信して、いわゆる「A3人事」の存在を認定・判示したものであるが、この点に関する原審証人B7の供述内容は、同人が「A3人事」と判断した根拠としている被告人A1や同A3の言動が極めて具体的で真実性に富むものである上、例示された抜擢、左遷等の人事は、しばしば総務本部の人事担当者からの発議・提案を俟つことなく被告人A1からの直接的な指示によって実施され、人事異動に関する従来からの慣行に反するものであった旨の説得力ある説明が付加されているのであって〔五四・二二〇七以下、五六・二九一八以下等参照〕、B7の右供述は概ね措信できるものと認められる。所論は、 異動に関する従来からの慣行に反するものであった旨の説得力ある説明が付加されているのであって〔五四・二二〇七以下、五六・二九一八以下等参照〕、B7の右供述は概ね措信できるものと認められる。所論は、原判示の各人事につき、いずれも「A3人事」ではないとして、いろいろと主張するが、関係証拠に照らして必ずしも納得できるものではない上、仮に、原判示の「A3人事」の中には、いわゆる能力主義を徹底したに過ぎないものや十分に理由のある抜擢、左遷のケースが存在したとしても、D1内部において、一般的に「A3人事」が存在すると考えられていたことは、関係証拠に照らし明らかなところであり、これがD1職員らの被告人A3に対する迎合的な態度を招来し助長させたことは否定できないのであるから、原判決が、被告人両名の犯行を維持・拡大させた間接事実の一つとして、A3人事の存在を指摘したことに誤りがあるとはいえない。この点を争う所論は採ることを得ない。 第六項被告人A3の共同正犯性に関する主張について被告人A3がD1との関係において改正前の商法四八六条一項所定の身分及び刑法二四七条所定の身分を有しないことは所論指摘のとおりであるが、D1の代表取締役である被告人A1が商法及び刑法の右条項所定の身分を有することは明らかであって、身分を有しない被告人A3が身分を有する被告人A1と前示のような「共謀」を遂げ、自己及びD3、D65の利益を図って被告人A1の任務違背行為に積極的に加功したものと認められる本件の事実関係のもとにおいて、被告人A3は被告人A1の共同正犯としての刑責を免れないものである。被告人A3につき改正前の商法四八六条一項所定の特別背任罪の成立を認めた上、刑法六五条二項により同法二四七条の背任罪の刑をもって処断することとした原判決の法令の解釈・適用は正当であって、こ である。被告人A3につき改正前の商法四八六条一項所定の特別背任罪の成立を認めた上、刑法六五条二項により同法二四七条の背任罪の刑をもって処断することとした原判決の法令の解釈・適用は正当であって、これを争う所論には理由がない。 第七項罪数に関する主張について被告人両名の共謀による直輸入商品関係特別背任行為が、約四年間に亘る極めて多数回の取引に関わるものであり、これに関与した者(不起訴にかかる共同正犯者や幇助者等。第三項の2、3参照)も同一といえないことは、所論指摘のとおりであるが、これらの行為は、すべて被告人両名の間で成立した基本的「共謀」、すなわち、D65の利益を図る目的で、D1が海外で買い付けた商品の一部について、いわゆる「準直方式」による取引としてD65に不当な売買差益を取得させる旨の共謀に基づくものであり、共謀内容それ自体の中に、多数回に亘る取引の反復、累行が予定され、かつ、対象となるべき商品、取引、期限ないし終期に限定がなく、いわば可能な限り継続するものとされていたのであり、実際にも、右共謀のとおり、長期間、多数回に亘り繰り返されてきたものであるから、基本的共謀の同一性、犯意の継続性、行為の類似性ないし同種性、保護法益の同一性などの諸点に照らし、個々の支払行為による加害を包括して一個の特別背任罪に問疑するのが相当であり、これと同旨に出た原判決の法令解釈に所論の誤りはない。 第四節故意・目的等の主観的要素に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項被告人A1関係一総説仮に、被告人A1が、その任務に違背した行為をしたと認められた場合においても、同被告人には、特別背任罪の主観的要素である故意及び目的、すなわち、自己の行為がD1の代表取締役としての任務に違背し、D1に損害を生じさせるものであることについて をしたと認められた場合においても、同被告人には、特別背任罪の主観的要素である故意及び目的、すなわち、自己の行為がD1の代表取締役としての任務に違背し、D1に損害を生じさせるものであることについての認識・認容及びD65の利益を図るという目的がなかったものである。被告人A1に特別背任の故意及び目的を認定した原判決は、任意性も信用性もない同被告人の検面調書を採用・措信した結果、事実を誤認するなどしたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 二任務違背及び損害発生の認識・認容(事実誤認の主張、A1四・一五以下、四・三〇以下、A4二九以下、B1一五四以下など)被告人A3らの活動のD1に対する客観的な有用性が否定され、D65に対し売買差益を供与する必要がなかったと判断されて、被告人A1が代表取締役として商品の仕入に際し「無用の支出を避ける任務」に違背したものと認められるとしても、「1」被告人A1は、被告人A3のデザイナーとしてのセンスや能力を高く評価するとともにD1の海外商品の開発の遅れを痛感していたため、海外商品の取入・買付に際してD3とD65を介在させる「準直方式」の採用・継続が、D1にとって必要かつ有用であると考えていたものである上、右「準直方式」の採用・継続については社内の正規の手続を経ていたことなどの理由から、D65に対する売買差益の供与等は、代表取締役の業務執行として当然許されるもので、何らその任務に違背するものではないと確信していたのであり、「2」しかも、被告人A1としては、仕入に際しての自己の任務は、原判示のように「無用な支出を避けること」ではなく、所定の「店出率を確保すること」にあると考え、かつ、A3絡み商品についても他の商品と同様の店出率が確保されていると思っていたのであるから(被告人A1は、買付報 に「無用な支出を避けること」ではなく、所定の「店出率を確保すること」にあると考え、かつ、A3絡み商品についても他の商品と同様の店出率が確保されていると思っていたのであるから(被告人A1は、買付報告書等の記載によってそのように信じていたのであって、この点については、原判決も、A3絡み商品の店出率が概ね四〇ないし五〇%となっていて、純粋の直輸入商品のそれとさして変わらないものであった旨判示している位である【二九〇参照】。)、被告人A1に任務違背や損害発生の認識・認容がなかったことは明らかである。原判決は、被告人A1の特別背任の故意に関し事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 三 D65の利益を図る目的(事実誤認等の主張、A1四・六八以下、六・一一以下、B1一五四以下、B3一以下など)原判決は、被告人A1のD1に対する加害目的を否定したもののD65への図利目的の存在を肯定している。しかし、「1」原判決は、特別背任罪における故意、すなわち、任務に違背して会社に対し損害を発生させることの認識・認容と第三者であるD65の利益を図る目的とを区別することなく、前者が存在したことをもって後者も存在したかの如く判断しているものであるから、まず、この点において法令の解釈・適用の誤りを犯して事実を誤認したものである。「2」また、原判決は、被告人A1の図利目的を認定する有力な証拠として同被告人の五七・一一・二〇及び五七・一二・一の各検面調書の記載を引用しているが【二八六参照】、これらの検面調書には任意性・信用性がなく、採用・措信されるべきではない上、これらの検面調書によっても図利目的の存在を認定することはできないところであって、原判決は、この点においても証拠の評価を誤って事実を誤認したものである。 「3」更に、原判決は、 されるべきではない上、これらの検面調書によっても図利目的の存在を認定することはできないところであって、原判決は、この点においても証拠の評価を誤って事実を誤認したものである。 「3」更に、原判決は、「準直方式」がD65に不当な利益を取得させる構造のものであり、直輸入商品の仕入に関し準直方式を採用すること自体から被告人A1にD65の利益を図る目的が存在したことは明白である旨判示している【二八五参照】。しかし、そもそも「準直方式」は、被告人A1自身が単独又は同A3と相談の上で採用したものではなく、被告人A3とD1の海外商品取入担当者らが協力し合ううちに自然発生的に成立し発展したものであって、被告人A1は、これを結果的に追認したものに過ぎない上、いかなる商品をどのような方式で買い付けるか、D65の売買差益の率をどうするか等々の具体的な事柄は、被告人A1の関与しないところで決められていたのであるから(このことは原判決も認めているところである【二八三参照】。)、これらの事実に徴しても被告人A1に図利目的がなかったことは明らかである。また、仮に、被告人A1が「準直方式」等の採用・継続を了承したものと認められるとしても、同被告人には、D1の利益を図る目的とD65の利益を図る目的が併存していたのであって、その主たる目的がD1の利益を図ることにあったことは、むしろ被告人A1の前記検面調書の記載から明白である。 以上のとおり、原判決は、被告人A1の図利目的につき事実を誤認するなどしたものであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 第二項被告人A3関係一総説被告人A3につき特別背任罪の共同正犯が成立するためには、「1」身分者である被告人A1が、D65の利益を図る目的をもって、任務に違背する行為をしてD1に損害を与えたこと、「2」被告人 一総説被告人A3につき特別背任罪の共同正犯が成立するためには、「1」身分者である被告人A1が、D65の利益を図る目的をもって、任務に違背する行為をしてD1に損害を与えたこと、「2」被告人A1の右行為が、同A3との共謀に基づくものであること、「3」被告人A1が、任務違背及び損害について認識していたことの三点が認められるだけでなく、被告人A3において、「4」被告人A1の行為、具体的には同被告人の指示に基づく準直方式による取引が、同被告人の任務に違背するものであり、D1に損害を発生させるものであることを認識・認容していたこと、「5」自己の経営するD65の利益を図る目的で右取引に関与したことの二点が認められる必要があるところ、被告人A3には、いずれの事実も認められないから、同被告人を特別背任の共同正犯と認めた原判決は、事実を誤認し、ひいては改正前の商法四八六条一項、刑法六〇条の解釈・適用をも誤ったものである。 二任務違背及び損害発生の認識・認容(事実誤認等の主張、B1五七五以下、六一〇以下)被告人A3は、「1」自己のデザイナーとしての能力や海外における商品開発等の活動がD1にとって有用であると信じ、D1からも有用と評価されているものと思っていた上(もともと、アクセサリーデザイナーとして多くの業績を挙げて高い評価を得ていた被告人A3が、D1との継続的かつ専属的な取引を始めるようになったのは、昭和四五年ころのことで、当時のD1社長D66からの勧めによるものである。)、「2」準直方式による商品の店出率については、D1側が一方的に決め、同被告人らはこれに従っていただけであったことから、準直方式による商品についても直輸入商品と同程度の店出率が確保されているものと考えていたのであり、「3」しかも、D65からD1への納入価格を決めるに際し 告人らはこれに従っていただけであったことから、準直方式による商品についても直輸入商品と同程度の店出率が確保されているものと考えていたのであり、「3」しかも、D65からD1への納入価格を決めるに際しては、D1の担当者らと協議して、自社の希望価格を適宜減額したり、売行きの悪そうな商品や在庫の多い商品の買付量を減らすなどして、D1の適正な利益の確保に配慮していたものであり、「4」D1に商品を納入してコミッション等を取得している他の業者について、コミッション等の取得が違法不当と指摘された事実もなかったことから、「準直方式」による商取引の正当性を確信していたものであって、「準直方式」による取引の採用・継続が被告人A1の任務に違背するものであるとか、D1に損害を発生させるものであるなどとはまったく認識していなかったのである。原判決は、被告人A3が、被告人A1の任務違背及びD1の損害発生を認識・認容していた旨認定した点において、事実を誤認したものであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 三 D65の利益を図る目的(事実誤認の主張、B1六一五以下)被告人A3が、D1との取引に際して自己の経営するD65の利益を追求しその拡大を願うのは、ある意味で極めて自然のことである上、同被告人は、右二「3」のとおり、D65の利益と同時にD1の利益をも念頭において、いわば両者の共同利益のために行動していたのであるから(このことは、前掲B50日誌《六一三》のほか、当審における事実取調べの結果、殊に、証人B51、同B49の各証言に照らして明らかである。)、同被告人に特別背任罪における図利目的があったとは到底いい得ないところである。原判決は、被告人A3の図利目的を認定した点においても、事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであ 被告人に特別背任罪における図利目的があったとは到底いい得ないところである。原判決は、被告人A3の図利目的を認定した点においても、事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 第二款当裁判所の判断第一項被告人A1関係一総説そこで、原審の記録及び証拠物を調査して検討するに、被告人A1に特別背任の故意及び図利目的を認定した原判決に所論のような事実誤認等はなく、当審における事実取調べの結果を加えても、この結論に変わりはない。 二任務違背及び損害発生の故意に関する主張についてすでに説示したとおり、「準直方式」は、D65に対し、被告人A3らの有用性に対する対価をはるかに超える不当な利益を取得させ、それだけD1に損害を発生させるものであるところ(第二節第二款第三項の一参照)、被告人A1は、遅くとも昭和五二年ころ以降、D1とD3及びD65との間にかかる方式による取引が実行されていること、これがD1の立場から判断する限り到底許されないものであることを認識しながら、これを追認し(第三節第二款第四項の二参照)、その後も直輸入政策の推進が「準直方式」による取引の推進に直結することを知りながら、これを推進させたものと認められるから(同第五項の一、二参照)、同被告人に任務違背及び損害発生の認識・認容があったことは否定できないものというべきである。 1 これに対し所論は、まず、被告人A1は、被告人A3らの関与がD1にとって必要かつ有用であると判断したからこそ「準直方式」等のA3絡み取引を続けたものであり、しかも、準直方式の採用・継続についてはD1社内の正規の手続を経ていたことから、その推進が許されるものと信じていた、と主張する。 しかし、被告人A1は、D1社内でD3及びD65を介した取引が「準直方式」と俗称され の採用・継続についてはD1社内の正規の手続を経ていたことから、その推進が許されるものと信じていた、と主張する。 しかし、被告人A1は、D1社内でD3及びD65を介した取引が「準直方式」と俗称されていることを知っていたか否かにかかわりなく、そのような実体を有する取引が現に行われており、かかる取引が被告人A3らに対しその有用性の対価をはるかに超える利益を供与するものであることを知悉しており、かつ、かかる取引の実体がD1の取締役会で正式に承認された職務章程上の「準直輸入」に当たらないことを最もよく知っていたものと認められる(所論によれば、そもそも被告人A1は、これらの取引が俗に「準直方式」と呼ばれていたことは起訴されるまで知らなかったというのであるから(A1・序七)、これらを職務章程で認められている「準直輸入」と混同する筈がない。)。それ故、所論は採るを得ない。 2 所論は、被告人A1の業務執行を監督すべき職責を有する他の取締役や監査役らは、「準直方式」等による海外商品の買付を含めた同被告人の業務の執行について、注意、勧告、異議申立などによる阻止などの行動に出ることなく、長年に亘り同被告人に従ってきたのであって、これは、他の取締役らが、原判示のように同被告人の威勢を恐れて迎合したためではなく、「準直方式」等を含む直輸入政策がD1の経営方針に副う妥当なものであると認識していたためにほかならず、このような他の取締役らの行動自体が、同被告人をして、一層、自己の業務執行の正当性を信じさせることとなったのであり、昭和五七年九月二二日の取締役会における被告人A1の「なぜだ」という発言は、当時の同被告人の心理状態をありのままに表わしたものであって、この点から考えても、同被告人に任務違背等の認識がなかったことは明白である、と主張する。 しかし、D1にお A1の「なぜだ」という発言は、当時の同被告人の心理状態をありのままに表わしたものであって、この点から考えても、同被告人に任務違背等の認識がなかったことは明白である、と主張する。 しかし、D1における代表取締役社長の地位が専務、常務などの取締役その他の役員らに比して絶対的に強力な権限を有し、圧倒的に優越的なものであったことは原判決が指摘するとおりであり【七以下参照】、これに被告人A1の性格的なものが加わったことから、D1において、被告人A1を除く役員らは同被告人の意向に従うほかない状況に置かれていたことが明らかであって、同被告人は、他の役員らの置かれていた右の状況を知悉して、むしろこれを利用しながら、自己の政策を推進したものと認められる。これらの役員らが「準直方式」の採用・継続について、被告人A1の強い意向に背いてまで異議を述べなかったことはやむを得ないところであり、被告人A1が、かかる他の役員らの態度によって「準直方式」等を含む直輸入推進の政策の正当性を信じたものとは到底考えられない。被告人A1の「なぜだ」という発言は、前掲「解任」《二五七》に記載されたところがら判断する限り、被告人A1が昭和五七年九月二二日の取締役会に備え反A1派の動きに対抗して事前に周到な多数派工作を準備したにもかかわらず、これが完全に失敗し右取締役会において最も信頼していたB17専務らを含む全員がA1社長解任の決議に賛成したことから発せられたものに過ぎず、これをもって被告人A1の任務違背等の認識・認容がなかったことの証左とする所論には賛成できない。 3 所論は、被告人A1においては、代表取締役としての自己の任務は「無用な支出」を避けることではなく、「店出率を確保」することであると考えていた上、本件準直方式等のA3絡みの取引においても、D1所定の店出率が確保され A1においては、代表取締役としての自己の任務は「無用な支出」を避けることではなく、「店出率を確保」することであると考えていた上、本件準直方式等のA3絡みの取引においても、D1所定の店出率が確保されているものと信じていた、と主張する。 しかし、被告人A1の任務が「無用な支出」を避けることにあったことは、前説示のとおり(第一節第二款第二項参照)であり、そのことは被告人A1もよく認識していたところと認められる(後記三において検討する被告人A1の各検面調書参照)から、仮に、被告人A1がA3絡み商品につき所定の店出率が確保されていると信じていたとしても、そのことをもって、被告人A1に任務違背等の認識・認容がなかったとはいい得ないところである。 4 所論は、被告人A1は、昭和四三年以降文化的催物を企画・実行して成功し、代表取締役就任前から直輸入政策の推進によって多大の業績を挙げてきたものであり、代表取締役就任後も、直輸入政策の推進が自己の任務の本旨にかなったものと信じて、機会ある毎に右政策の推進を指示したのであって、仮に、同被告人において、被告人A3らのために好意ある取り計らいをしたとしても、被告人A1としては、それが同時にD1の利益にもつながることであると考え、業務執行上自己の裁量に委ねられた範囲内のことと信じていたのである、と主張する。 しかし、所論も自認しているように、被告人A1は、昭和四六年以降マスコミ報道等によって、自己の女性問題が世間から批判されていることを十分に認識していたものであるのに、遅くとも同五二年ころ以降、かかる批判のある被告人A3らに対して明らかに不当な利益を与えることとなる「準直方式」による取引の継続を追認し、その拡大に関与しているのであるから、被告人A1が任務違背及び損害発生につき認識・認容していたことは否定できな 3らに対して明らかに不当な利益を与えることとなる「準直方式」による取引の継続を追認し、その拡大に関与しているのであるから、被告人A1が任務違背及び損害発生につき認識・認容していたことは否定できないものというべきである。 三図利目的に関する主張についてすでにみたように、被告人A1は、「準直方式」が、被告人A3の経営するD65に対し不当な利益を与えるものであるにもかかわらず、遅くとも昭和五二年ころ以降、右方式による取引の継続を是認するとともに、自らもその拡大を推進したものと認められるから、被告人A1に図利目的があったことは否定できない。そして、被告人A1は、この点に関する検察官の取調べに対し、「準直方式」等の取引がD1の売買益の減少という同社の負担の下で被告人A3やD65らに不当な金銭的利益を与えるものであることを知悉しながら、同被告人に対する私的感情に負け、敢えて右取引を継統・拡大させた旨自供しているのであって(被告人A1の五七・一一・二〇及び五七・一二・一各検面調書〈四二・六六一一以下、四二・六七一二以下〉等参照)、右の自供は、全体として優に措信できるものと認められるから、被告人A1にはD65の利益を図る目的があったものというほかない。以下所論に即して補説する。 1 所論は、まず、被告人A1の検面調書の任意性及び信用性を争い、これらの供述調書は、同被告人が検察官から巧妙な心理的圧迫を加えられた結果作成されたものであるから任意性に疑問がある上、その内容をみても、図利目的の存在を自供した部分など客観的な証拠と対比して明らかに誤っている点や不自然な点が多いから到底措信できず、これらの供述調書を採用し措信した原判決は訴訟手続の法令違反の違法がある旨主張する。 しかし、関係証拠を調査し、検察官の取調べ状況或いは検面調書の作成経緯に関 不自然な点が多いから到底措信できず、これらの供述調書を採用し措信した原判決は訴訟手続の法令違反の違法がある旨主張する。 しかし、関係証拠を調査し、検察官の取調べ状況或いは検面調書の作成経緯に関する被告人A1の原審第八五回、第八七回公判期日の各供述〔一一五・一七四一九以下、一一七・一七九七三以下〕等を検討しても、同被告人の検面調書の任意性に疑いを生ぜしめるような事情が窺われないことはもとより、その核心的部分の信用性を否定すべき理由も見当たらないから、右検面調書を採用し信用した原判決に訴訟手続の法令違反等の違法はない。なお、この点について、所論は、原判決の被告人A1の検面調書の引用方法が恣意的であり、理由不備に当たるというが、原判決の検面調書の内容の引用方法が恣意的で違法とは認められないから、この主張も採ることを得ない。 2 所論は、原判決は、特別背任罪における故意、すなわち、任務に違背して会社に対し損害を発生させることの認識・認容と第三者であるD65の利益を図る目的とを区別することなく、前者があったことをもって後者もあったかの如く判断していて、法令の解釈・適用の誤りを犯すものである旨主張する。 しかし、原判決は、被告人A1の代表取締役としての任務内容、同被告人の右任務違反やD1の損害発生に関する認識・認容と図利目的の存在とを区別して検討した結果、本件において被告人A1には前者も後者も認められる旨判示しているのであって、原判決が、所論のように任務に違背してD1に対し損害を加えることの認識・認容とがあったことをもって直ちにD65に対する図利目的の存在を肯認したものでないことは、その詳細な補足説明を検討すれば明らかである【二〇五以下、二九六以下、三〇〇以下参照】。この点の所論は採用できない。 3 所論は、原判決は、被告人A1の五七・一一 の存在を肯認したものでないことは、その詳細な補足説明を検討すれば明らかである【二〇五以下、二九六以下、三〇〇以下参照】。この点の所論は採用できない。 3 所論は、原判決は、被告人A1の五七・一一・二〇及び五七・一二・一各検面調書の記載を引用して同被告人の図利目的の存在を肯定しているが【二八六参照】、右に記載された程度の被告人A1の心情をもって図利目的を認定することはできない旨主張する。 そこで、検討するに、被告人A1は、「1」五七・一一・二〇検面調書〈四二・六六一二以下〉において、昭和四七年四月ころ被告人A3がD3という貿易会社を設立して香港その他からアクセサリー等を輸入するということを聞いたので、「この会社が順調に伸びて行く様に援助してやろうと思い」、D8とD1との一部の取引の間にD3を入れてやることを考えたものであって、もともと輸入品の仕入にはろくに取引に関与していないのに間に入ってマージンあるいはコミッションを取っている商社があり、いわゆる眠り口銭を取られている場合もあったので、それよりもマージンを少なくしておけば、D1にとってそれほどの負担にならず、「私にとって心の安らぎを与えてくれる存在となっているA3にその位の援助をしてやっても、まあいいだろうという気持ちになった」、被告人A3に「厳格にいえば必ずしも払わなくても良いマージン或いはコミッションを取られてしまったことを深く反省している」旨供述し、「2」五七・一一・二二検面調書〈四二・六六一九以下〉において、被告人A3からの説明で、すでに「準直方式」による取引がなされていて、D3とD65の二つの会社がD1からマージンを取っていることを知った際、「まずいのではないかと感じた」が、「A3には一部余分な支払いをすることにはなりますが、D1がその商品を売ればその分たけ一部利益は減る D65の二つの会社がD1からマージンを取っていることを知った際、「まずいのではないかと感じた」が、「A3には一部余分な支払いをすることにはなりますが、D1がその商品を売ればその分たけ一部利益は減るものの実際にD1に利益は相当残る訳けですから、D1としては積極的な損害が出る訳けではなく、現在の流通業界ではいわゆる眠り口銭を取っている商社もあると感じていましたので、つい見すごしても良いだろうと考えてしまったのです。……しかし、あまりA3がマージンを取りすぎてはいけないという気持ちが働きましたので、その場でA3には、なるべくコミッションで仕事をする様にしろ、派手なことはするなよ、という注意はしておきました」旨供述し、「3」五七・一一・二九検面調書〈四二・六六九八以下〉において、A3絡みの商品の輸入を拡大すれば、「A3のコミッション或いはマージンも増えることは判っていました」が、「D1はこれらの商品に売買益を乗っけて売りさえずれば、A3らにコミッション或いはマージンを支払わない時よりも売買益は減るものの、利益が出るには間違いなく、積極的にD1が損をする訳けではないことから、この位の支払いはかまわないだろうと考え、この様な支払いを許して来ました」旨供述し、「4」五七・一二・一検面調書〈四二・六七一二以下〉において、「D1では、社長以下仕入の担当者は商品を少しでも安く或いは余計なコミッションとかマージンを少しでも取られない様にするためD43におけるD52(「D44」の誤記と認める。)やローマにおけるEを切ろうと努力していたのですから、A3の場合もたとえ一円たりとも余計なコミッションとかマージンを支払わない様厳格に対処すべきだったのですが、……そんな厳格な態度に出ることがためらわれ、ついづるづるとA3の甘えを許して来ました。私の気持ちの中には輸入 円たりとも余計なコミッションとかマージンを支払わない様厳格に対処すべきだったのですが、……そんな厳格な態度に出ることがためらわれ、ついづるづるとA3の甘えを許して来ました。私の気持ちの中には輸入品の仕入に際し、ろくに仕事もしないのに高い口銭を取っている商社もあるのだから、A3に対し少し位余計なコミッションやマージンを落としてやっても良いだろうという気持ちがあり、更に要は、仕入れた商品を売買益を乗っけて売りさえすれば、A3にコミッションやマージンを支払わない時よりも利益は減るものの、D1にとっても利益が出ることには違いなく、その意味ではD1のプラスにもなるのだからかまわないだろうという気持ちも働き、さして深く考えることもなくづるづると今日まで来てしまいました」旨供述していることが認められる。 これらの供述調書によれば、被告人A1は、検察官の取調べに対し、準直方式等の取引がD1の売買益の減少をもたらすものであることを認識した上、被告人A3やその経営する企業に不当な金銭的利益を与えるために、敢えて、その継続を認容した旨供述しているのであるから、右検面調書の記載は被告人A1の図利目的の存在を肯認するに十分というべきであって、その旨認定判示した原判決に誤りはない。たしかに、これらの供述中には、同被告人が、(a)他の輸入取引における商社の場合と比較して被告人A3やD65らへの利益供与も許されているものと信じていたとか、(b)同時に「D1の利益」にもなることだからかまわないと思った趣旨の部分が存在する。しかし、これが被告人A3やD65らに不当なマージンを与えていたことの弁解に過ぎないことは、前後の行文からも明らかであり、これらをもって被告人A1に図利目的がなかったことの証左とすることはできない。すなわち、(a)原判決が正当に指摘するように【三〇二 与えていたことの弁解に過ぎないことは、前後の行文からも明らかであり、これらをもって被告人A1に図利目的がなかったことの証左とすることはできない。すなわち、(a)原判決が正当に指摘するように【三〇二以下参照】、いわゆる「眠り口銭」を取っているとされているD43におけるD44やローマにおけるEの場合と本件「準直方式」における被告人A3らの場合とが異なることは明らかであるし、(b)同時にD1の利益をも図り得るとしても、それはあくまでも副次的なものに留まり、図利目的の存在を否定する根拠とはなし得ない(次節で詳論するように、「準直」商品の売上によってD1に相応の営業利益が生じたとしても、そのことは本件特別背任行為によって生じた損害を回復させるものではない。)。それ故、この点の所論も採用することはできない。 4 所論は、被告人A1の右検面調書には、主としてD3の設立当初の時期、すなわち、昭和四七年ないし同四九年ころの心情が供述されているのであって、右の時期と本件の犯行時期、すなわち、昭和五三年、五四年以降の時期では、D3の業務内容が量的にも質的にも異なっているのであるから、供述調書の右記載をもって被告人A1の本件犯行時の図利目的を認定することはできない、と主張する。 しかし、右3の引用からも明らかなように、被告人A1は、前記検面調書において、必ずしも、D3の発足当初の気持ちのみを供述している訳ではなく、昭和五一年ころ以降の認識や心情についても供述しているのであるから、右検面調書中の自供を有力な証拠として被告人A1の原判示犯行当時(昭和五三年八月ころから同五七年七月ころまで)における図利目的の存在を認定することが許されることは当然であって、右所論には賛成できない。 5 その他、所論は、被告人A1は「準直方式」を後になってから追認したものであるこ 五七年七月ころまで)における図利目的の存在を認定することが許されることは当然であって、右所論には賛成できない。 5 その他、所論は、被告人A1は「準直方式」を後になってから追認したものであること、個々の商品を「準直方式」によって買い付けるかどうか、D65に供与する売買差益の率如何等々について、まったく関知していなかったことなどを指摘して、被告人A1に図利目的がなかったことを裏付けるものである旨主張するが、所論指摘のような事情をもって同被告人の図利目的の存在を否定すべきものとは考えられない。 以上のとおりであるから、被告人A1に背任の故意及び図利目的の存在を認定した原判決は正当であり、更に、この点を争う縷々の所論にかんがみ、関係証拠を再検討しても、原判決には被告人A1の特別背任の主観的要素の存在について事実の誤認等はなく、論旨は理由がない。 第二項被告人A3関係一総説原審の記録及び証拠物を調査して検討するに、被告人A3に特別背任の故意及び図利目的を認定した原判決に所論のような事実の誤認及びこれに基づく法令の解釈・適用の誤りはなく、当審における事実取調べの結果を加えてみても、この結論に変わりはない。 二任務違背及び損害発生の故意に関する主張についてすでに説示したとおり、「準直方式」は、被告人A3や同被告人の経営するD65に対し、その有用性の対価をはるかに超える不当な利益をもたらすものであり、それだけD1に損害を発生させるものである。被告人A3は、そのことを知悉しながら、被告人A1の直輸入政策に便乗し、D1仕入担当者らと協議の上、同社に「準直方式」を採用させ、その後、被告人A1の協力をも得て、右方式による取引を継統・拡大させたものと認められるから、被告人A3は、右方式による取引の継統・拡大が被告人A1の任務に違背する 上、同社に「準直方式」を採用させ、その後、被告人A1の協力をも得て、右方式による取引を継統・拡大させたものと認められるから、被告人A3は、右方式による取引の継統・拡大が被告人A1の任務に違背するものであり、かつ、D1に損害を発生させるものであることを認識・認容していたものと認めるのが相当である。そして、被告人A3は、検察官の取調べに対し、D3やD65の活動の実態及び海外商品輸入に関するD1との取引の実情について詳細な供述をして、準直方式による取引でD3等がはたした役割はマージンを取得するに値するものではなかった旨供述し(五七・一一・二一検面調書〈四二・六七九八以下〉参照)、また、昭和四八年末か同四九年始めころに準直方式による取引が採用されたのは、D1のB7らの発案に同被告人が同意したためであるが、この方式は被告人A3らが従前より利益を取得しD1の利益を圧迫するものであり、B7らが同被告人と被告人A1の特殊な関係を配慮してくれたものと思う旨供述しているのである(五七・一〇・三一検面調書〈四二・六七六〇以下〉参照)。 1 所論は、まず、被告人A3の検面調書の信用性を争うが、同被告人の原審第八一回、同第八六回、同第八七回公判期日の各供述〔同被告人作成の六一・六・一〇C8述書を含む。一一一・一六五八四以下、一一六・一七七九五以下、一一七・一七八八五以下〕及び当審公判廷における供述等を検討しても、同被告人の右調書の核心的な部分につき信用性を阻害すべき具体的な事由は認められないから、右所論は採ることができない。 2 所論は、被告人A3は、自己のデザイナーとしての能力や自己及びD3等の海外における商品開発等の活動がD1にとって有用であると信じ、かつ、D1からも有用と評価されているものと思っていたし、「準直方式」による商品の店出率は、D1側が一 ナーとしての能力や自己及びD3等の海外における商品開発等の活動がD1にとって有用であると信じ、かつ、D1からも有用と評価されているものと思っていたし、「準直方式」による商品の店出率は、D1側が一方的に決めていた上、D1への納入価格については、その都度、D1側の担当者と協議し、D1の利益をも十分考慮しながら決めていたことから、同被告人らの取得する利益が不当なものであり、D1に損害を発生させるものであるなどとは、まったく考えていなかった、と主張する。 しかし、冒頭に説示したとおり、被告人A3は自己らの能力や活動がD1から取得するマージンに値するものではなかった旨自供しているのであり、同被告人において、「準直方式」が同被告人らに対してその有用性の対価をはるかに超える不当な利益を与え、それだけD1に損害を発生させるものであることを認識していたことは、到底否定できないところである。そして、被告人A3が右の事実を認識していたものと認められる以上、「準直方式」による商品の店出率が形式的にはD1の担当者によって決められていたこと、右商品のD1への納入価格がD1側担当者との協議の上で決められていて、D1の利益も考慮されていたことなどの事情をもって、被告人A3の背任の故意を否定することはできない。 3 所論は、被告人A3は、D1に商品を納入してコミッションやマージンを取得している他の業者について、右のコミッション等の取得が違法・不当と指摘された事実がなかったことから、自己らの「準直方式」等による商取引の正当性を確信していたものである、と主張する。 しかし、被告人A3らとD1との「準直方式」等による取引が正当なものとはいえないこと、被告人A3は、そのことを知悉していたと認められることは、前説示のとおりである。被告人A3らのほかにもD1からコミッションや 告人A3らとD1との「準直方式」等による取引が正当なものとはいえないこと、被告人A3は、そのことを知悉していたと認められることは、前説示のとおりである。被告人A3らのほかにもD1からコミッションやマージンを取得する商品納入業者がいたとしても、当該業者がコミッション等を取得するに至った経緯や取得しているコミッションの率などは、業者ごとに様々であり(当審証人B54の供述等参照)、これらの個別事情を捨象して、商品納入業者によるコミッション等取得の当不当を論ずることはできないのであって、そのことは被告人A3自身がよく知っていたものと認められるから、他の業者がコミッション等の取得につき違法・不当と指摘されなかったことをもって、被告人A3に背任の故意がなかった証左とする所論は採用できない。 三図利目的に関する主張についてすでに説示したとおり、「準直方式」による取引は、被告人A3らの有用性ないし寄与の程度を遥かに超えて同被告人やその経営するD65に不当な利益をもたらす違法なものであり、同被告人は、そのことを知悉しながら、「準直方式」による取引を採用・継続させたものであるから、被告人A3に背任罪における図利目的があったことは明らかである。 1 所論は、被告人A3は、D1の出入り業者としてD1と利害対立の関係にあるD65の経営者であり、同社の利益の拡大を願うのは、ある意味で極めて自然のことであるから、このような同被告人の立場を考えれば、同被告人に図利目的があったとはいい難いと主張する。 なるほど、D65がD1の出入り業者であるという面からすれば、被告人A3において、同社とD1との取引を通じて自己やD65の経済的利益を図ることは通常の営業活動であるかのようにみえる。しかし、本件「準直方式」のような違法な取引によって本来認められない不当な利益を獲 A3において、同社とD1との取引を通じて自己やD65の経済的利益を図ることは通常の営業活動であるかのようにみえる。しかし、本件「準直方式」のような違法な取引によって本来認められない不当な利益を獲得しD1に損害を加えることまでも、通常の営業活動による適法な利益の取得とみられないのは当然であって、背任罪における図利目的の存在は到底否定し得べくもない。所論は採用の限りでない。 2 所論は、被告人A3は、自己やD65の利益と同時に、むしろそれ以上に、D1の利益を念頭において行動していたのであって、そのことは、前掲B50日誌《六一三》中随所に記載されているほか、当審証人B51、同B49の各供述に現れた同被告人の海外商品の開発や取引における姿勢等に照らして明らかである、と主張する。 なるほど、所論の援用する関係証拠中には、被告人A3がヨーロッパに赴いた際、商品の開発等につき、超人的とも思える程熱心に行動していたとか、サプライヤーやその代理人と交渉するに際し、必ずしも買付商品の数量や価格の増加に拘泥することなく、日本における売行き等を考えながら行動していたなどの、所論に副う記載や供述がある。しかし、商品開発、買付の場面における同被告人の熱心な行動は、第一次的には企業経営者である同被告人が自己の企業の利益獲得を目的としたものと認められ、同時にそれがD1の経済的利益に合致するとしても、それは、サプライヤーらとの交渉に当たってD1の巨大な資本や信用力等を援用することが有利であるほか、同被告人の企業の利益そのものがD1による全量買取という後楯に依存している構造に由来するものであって、決して同被告人がD65らの利益よりもD1の利益を優先的に考えて行動していたことを示すものではないというべきである。したがって、この点も、同被告人の図利目的の存在を否定する根 に由来するものであって、決して同被告人がD65らの利益よりもD1の利益を優先的に考えて行動していたことを示すものではないというべきである。したがって、この点も、同被告人の図利目的の存在を否定する根拠とはなし得ない。 以上のとおり、被告人A3に背任の故意及び図利目的のあることを認定した原判決は正当であり、更に、この点を争う縷々の所論にかんがみ、関係証拠を再検討しても、原判決には被告人A3の特別背任の主観的要素の存在について事実の誤認等は見当たらない。論旨は理由がない。 第五節損害に関する控訴趣意について第一款所論の要旨第一項総説原判決は、被告人両名が、D65から商品を仕入れるに際し、同社に対して売買差益分を含む仕入代金を支払ったことをもって、D1に右差益分に相当する金額の損害を加えた旨認定するが、D1がD65の活動に対して適正な対価を支払うのは、当然であって、これをもって、背任罪の「損害」を加えたものとはいい得ないところである。のみならず、D1は、D65からの仕入に際し、同社への売買差益分を含む仕入価格に相当する商品を取得しており、右売買差益分は当該商品の販売価格に転嫁され、小売販売によって回収される構造となっていて、現に回収されていたのであるから、D65は、いかなる意味でもD1に「損害」を加えていないのである。原判決には、D1の「損害」の発生につき、理由齟齬、事実誤認、法令の解釈適用の誤り等が存在するが、それ以外にも、「損害」の額に関し、D65による検品等の対価を無視したこと、検察官主張の訴因を超えた取引による売買差益分をも犯罪として認定したこと等々の点において、判決に影響を及ぼすことの明らかな誤りがあり、到底破棄を免れない。 第二項損害の捉え方と損害発生の有無について(理由齟齬、審理不尽、法令の解釈・適用の も犯罪として認定したこと等々の点において、判決に影響を及ぼすことの明らかな誤りがあり、到底破棄を免れない。 第二項損害の捉え方と損害発生の有無について(理由齟齬、審理不尽、法令の解釈・適用の誤り、事実誤認等の主張、A1二・一以下、二一以下、A4二五以下、B1五〇九以下、五二三以下など) 1 原判決は、「1」その理由中、直輸入商品関係特別背任事件の「罪となるべき事実」として【第一章第二節一の(二)の1】、被告人両名が、共謀の上、D1の準直商品の仕入に際し、D1から、D65に対し、同社の売買差益分を含む仕入代金を支払い、もって、D1に対し、右差益金額相当の損害を加えた旨認定し【五一、五二】、D1にとって「支払うべき合理的理由のない」売買実益を支払った仕入時点において「損害」の発生を捉えるとともに、その補足説明中でも【二八七以下】、準直方式による直輸入システムは、D65への差益分だけ「確実にD1の仕入価格が高騰する関係にあり、しかも、これらはD1にとって全く支払う必要のない出費であったことが明らかであるから、これらの支払いは、D1の既存の全体財産の減少をもたらすものとしてD1の損害となる」旨判示し、更に、「任務違背行為によって生じた損害を販売による利益で差し引きして考えるべきものではない」旨判示して、仕入段階において支払う必要のない出費(以下「無用の出費」という。)をしたことがD1の既存の全体財産の減少をもたらすものとして、背任罪の「損害」であるとしている【二八八】如くであるが、他方、「2」右の補足説明に続いて、準直方式等では、D1が「無用の出費」による仕入価格の高騰分(以下「高騰分」という。)を販売価格に転嫁することができず、したがって、右高騰分について、販売による回収も困難な関係にあった、とも判示した上【二八八】、その理由を極め 出費」による仕入価格の高騰分(以下「高騰分」という。)を販売価格に転嫁することができず、したがって、右高騰分について、販売による回収も困難な関係にあった、とも判示した上【二八八】、その理由を極めて詳細かつ具体的に説明しているのであって【二八九ないし二九四】、仕入価格の「高騰分」を販売価格に転嫁・回収できないこと、又は、右転嫁・回収の可能性がないこと、すなわち、得べかりし利益の減少をもって、背任罪における「損害」としているかの如くでもある。原判決の「損害」の捉え方自体が混乱していることは明らかであって、原判決には理由齟齬の違法が存する。 2 仮に、原判決が、前記「1」のように、仕入代金支払の時点における「無用の出費」自体をもって背任罪の「損害」と捉え、右時点で背任の既遂罪が成立すると解しているのであれば、原判決は、改正前の商法四八六条一項所定の特別背任罪における「損害」につき、法令の解釈を誤ったものである。けだし、D1は、準直商品を始めとするいわゆる「A3絡みの商品」を他の直輸入商品と同じ程度の「店出率」で販売できる商品として仕入れたのであり、少なくとも「高騰分」を含む仕入価格以下の小売価格で販売することは、まったく考えていなかったのであるから、仕入価格に含まれた「高騰分」は、そのまま当該商品に化体されている筈であって、それ故、仕入代金支払の時点においては、D1の全体財産が増加することはあっても減少することはなく、原判示のようにD1の既存の全体財産の減少をもたらすということにはならないからである。なお、原判決は「損害」額認定の基礎を検察官提出の証拠説明書に依拠しているところ(これが誤りであることは、後記第三項で指摘のとおりであるが、この点はさておき)、右説明書においては、一旦D1に納入された商品の返品、再納等の流れが個別的具体的に追跡 の証拠説明書に依拠しているところ(これが誤りであることは、後記第三項で指摘のとおりであるが、この点はさておき)、右説明書においては、一旦D1に納入された商品の返品、再納等の流れが個別的具体的に追跡調査され、D65の売買差益額の算定に当たって考慮されているのである。しかし、D1の「損害」を仕入代金支払の時点における全体財産の減少として捉えるのであれば、かかる考慮には合理性がなく、この点でも原判決の「損害」の捉え方には、明らかに齟齬があるものというべきである。 3 したがって、A3絡み取引におけるD1の「損害」は、仕入価格の「高騰分」だけD1の販売利益(得べかりし利益)が減少したと認められるか否か、換言すれば、「高騰分」を販売価格に転嫁して購買者から回収し得たか否か、という観点から検討すべきものであり、原判決が前記「2」において「高騰分」の販売価格への転嫁ないし販売による「高騰分」の回収について詳細な検討を行っているのは、かかる見解に基づくものとも考えられるところ、取り調べられた関係証拠からは、かかる意味での「損害」はまったく認められないから、原判決には「損害」の発生について、審理不尽、事実誤認が存在する。すなわち、(一) 右のように、販売により得べかりし利益の減少という考え方を採用する場合には、(a)第一次的には、個々の商品毎・取引毎に仕入価格の「高騰分」が小売価格に転嫁され回収されたかどうかを具体的に検討すべきものであるが、原審においては、そのような作業がまったく行われていないのであるから、原判決には審理不尽の違法が存する。(b)右(a)の作業が事実上不可能であるとすれば、第二次的には、仕入代金支払の時点における右転嫁・回収の可能性の有無によって「損害」の有無を判断するほかないというべきところ、A3絡み商品については、仕入代金支 の作業が事実上不可能であるとすれば、第二次的には、仕入代金支払の時点における右転嫁・回収の可能性の有無によって「損害」の有無を判断するほかないというべきところ、A3絡み商品については、仕入代金支払の時点においてD1所定の店出率を十分に確保できる見通しがあったから、右の意味での「高騰分」の転嫁・回収の可能性が存したことは明らかである。(c)のみならず、関係証拠によれば、A3絡み商品については、これを全体的に観察する限り、他の商品と同程度の店出率が十分に確保されていて、「高騰分」は販売価格に転嫁されていたことが認められる上、仮に、A3絡み商品中に「高騰分」を転嫁できないものがあったとしても、それがどの商品のどの取引か、転嫁できなかったのは「高騰分」の全部か一部か、その金額はどの位か、まったく確定できず、かつ、損害発生時期の特定もなされていないのである。結局、本件では背任行為による損害額の認定ができないものであるから、背任既遂の事実は認定できない筈である。 (二) 原判決は、前記1のとおり、D1が仕入価格の「高騰分」を「販売価格に転嫁することができず、したがって、右高騰分について、販売による回収も困難な関係にあった」旨判示した上、その理由として、流通業界における商品の販売価格については、準直商品においても「価格が横並びで決定される原則」が存在するので、同業他店の同種の商品の売価を考慮することなく、著しく高い売価を設定することはできなかったとか【二八九】、D1において、A3絡み商品と直輸入商品との間には買付時の店出率に差異はなかったものの、現実の上代(販売価格)の設定にあたって、右計画どおりの店出率を確保することができず、あるいは、一旦、所定の店出率を確保すべく上代を設定しても、これが高いために値引販売を余儀なくされていたなどと判示してい 代(販売価格)の設定にあたって、右計画どおりの店出率を確保することができず、あるいは、一旦、所定の店出率を確保すべく上代を設定しても、これが高いために値引販売を余儀なくされていたなどと判示している【二九〇以下】が、いずれも誤りである。 第三項判示方法の不備等について(理由不備、訴訟手続の法令違反の主張、B1七以下)原裁判所は、弁護人立証の最終段階において、検察官に対し、D1の被った「損害」の額の特定のために証拠説明書の作成を命じるという甚だ不公平な措置をとった上、原判決の補足説明において、D1の被った「損害」額の内訳については、検察官提出の証拠説明書Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ及び「証拠説明書の訂正について」記載のとおりである、という異例の判示方法【二九四】をとっているのであって、理由不備若しくは訴訟手続の法令違反を犯すものである。 第四項 D65による検品等の対価について(事実誤認、法令の解釈・適用の誤りの主張、A1一・四七以下、二・二七など)仮に、原判決のような意味での「損害」の発生を是認するとしても、D65が、D1に対する準直商品の納品に際して検品や値札付けを行い、納品に伴う店員派遣を行ったことは、関係証拠に照らし明らかであって、原判決も不十分ながら認めているところである【一七六ないし一七九】。D65のこれらの活動等は、直輸入の場合にはD1自身の負担において行われるべきものであるから、これがD65の出捐によって行われたということは、それだけD1が経済的利益を受けたことであり、その対価性を否定することはできない筈である。D65の出捐によって得たD1の利益相当分は、その「損害」から控除されるべきものであって、これを無視した原判決は、D1の被った「損害」額について事実を誤認したか、背任罪における「損害」の解釈適用を誤ったものである。 得たD1の利益相当分は、その「損害」から控除されるべきものであって、これを無視した原判決は、D1の被った「損害」額について事実を誤認したか、背任罪における「損害」の解釈適用を誤ったものである。 第五項返品、再納等による差額について(事実誤認の主張、B1九以下)D65の取り扱った商品については、完全買取制とはいうものの、事実上棚卸しの時期などに返品、再納を繰り返していたのが実態であるところ、原審で取り調べた関係証拠によっては、その詳細は明らかにされていない。原判決は、返品・再納により「D65に差損が発生しているのが見受けられることも事実である」旨判示しながら【一九五】、その具体的内容を商品ごと・取引ごとに検討することなく、漫然、検察官提出の証拠説明書記載のとおりと判示している【二九四以下】が、事実を誤認したものであって、このことは、右説明書の記載からも明らかであり、当審証人B57の右説明書の作成過程に関する供述は、これを裏付けるものである。 第二款当裁判所の判断第一項総説そこで、原審記録及び証拠物を調査し当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、準直方式の取引によって被ったD1の「損害」に関し、原判決の「損害」の捉え方に誤りはなく、D1に原判示の「損害」額の発生を認定した原判決は正当として是認することができる。 第二項損害の捉え方と損害発生の有無に関する主張について<要旨第二>1 昭和五六年法律第七四号による改正前の商法四八六条一項にいう「会社ニ財産上ノ損害ヲ加ヘクルト</要旨第二>キ」とは、「経済的見地において会社の財産状態を評価し、被告人の背任行為によって、会社の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったとき」をいうものと解するのが相当である。本件では準直方式による商品取引におい 会社の財産状態を評価し、被告人の背任行為によって、会社の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったとき」をいうものと解するのが相当である。本件では準直方式による商品取引において、D1は、本来D65が取得することの許されない売買差益(D3からの仕入価格とD1への納入価格との差額)を支払うことにより「無用の出費」をしているのである(右売買差益が「無用の出費」に当たることについては、すでに第二節第二款第三項において検討したとおりである。)。いわゆる「準直方式」による取引において、D65がD3とD1の取引に介入して売買差益を取得すべき合理的根拠は存在せず、その売買差益はゼロであるべきものであって、D1の支払った売買差益はまったく支払う必要のない「無用の出費」である。したがって、それは本来あるべき「仕入価格」に含まれず、いわばその「外部」にあるものというべきである。それは、たまたま、D65がD3から購入した商品のマージン分という形態を取っているため、D1の「仕入価格」の一部を構成するかの如き外観を呈しているけれども、もともと被告人A1が被告人A3に対する個人的関係から同被告人に供与している「無用の出費」に過ぎないものであり、個々の商品取引を離れ、年間何億円という定額支給の形態を取った場合とその本質において異なるところはないのである。この点につき、原判決は、「仕入価格が高騰する」とか、「仕入価格の高騰分」などという表現を用いているが、このような言い回しは、あたかも右売買差益が「仕入価格」の一部を構成し、その「内部」にあるかの如き誤解を生じ、無用な論旨を誘発しかねないので、あまり適切な表現とはいい難い(原判決が「罪となるべき事実」や補足説明の中で「仕入代金」、「仕入価格」といっているのは、本文で述べたような本来あるべき「仕入 を生じ、無用な論旨を誘発しかねないので、あまり適切な表現とはいい難い(原判決が「罪となるべき事実」や補足説明の中で「仕入代金」、「仕入価格」といっているのは、本文で述べたような本来あるべき「仕入価格」のことではなくて、D1がD65に対し「仕入代金として」実際に支払った金額を指しており、そこに含まれるD65の売買差益は、本来の「仕入価格」を構成しない点に留意すべきである。)。しかし、原判決は、右のとおり一部に措辞適切を欠く嫌いはあるが、右売買差益分の支払をD1にとって「無用の出費」と認定し、これをもって背任罪における「損害」と捉えているのであって、その理論構成は正当というべきである。 2 以上の説示から、売買差益分の支払がD1の全体財産の減少をもたらすものであることは明らかであるが、売買差益分が仕入価格の一部を構成するとの誤解を一掃するため、若干補足説明する(計算の便宜上、以下D65のマージンを仮に二〇%と設定する。)。 (a) まず、貸借対照表(以下「B/S」という。)上の勘定科目について検討する。 いま、D3からの商品一〇〇〇万円にD65のマージン二〇%を乗せて、一二〇〇万円をD1が支払ったとする。この場合、(ア)「現金・預金」勘定は、貸方欄に一二〇〇万円が計上される(資産の減少を意味する。)。これに対し、通常の場合は、「商品」勘定の借方欄に一二〇〇万円が計上されて(資産の増加を意味する。)貸借が均衡する(D1で実際に行われた経理処理はこのとおりになっている筈である。それは、経理担当者において、二〇%のマージンが「無用の出費」であることを判断する権限を有しなかったために過ぎない。)。しかし、右二〇%のマージンは本来支出すべきでない「無用の出費」であって、仕入価格に含まれないものであるから、「商品」勘定の借方欄に計上すべき金額は とを判断する権限を有しなかったために過ぎない。)。しかし、右二〇%のマージンは本来支出すべきでない「無用の出費」であって、仕入価格に含まれないものであるから、「商品」勘定の借方欄に計上すべき金額は一〇〇〇万円に過ぎない。したがって、この時点でB/Sを作成すれば、借方欄「一〇〇〇万円」貸方欄「一二〇〇万円」で、差引き二〇〇万円の損失が計上されることとなる。(イ)また、この商品が、現実に支払った一二〇〇万円を基準に所論店出率四〇%を乗せて、二〇〇〇万円で売却できたとすれば、「現金・預金」勘定の借方欄に二〇〇〇万円が計上され(資産の増加)、さきの貸方欄の一二〇〇万円と差引きすれば、借方欄に八〇〇万円が残る。一方「商品」勘定は、貸方欄に一〇〇〇万円が計上され(資産の減少)、さきの借方欄の一〇〇〇万円と差引きすれば〇となる。その結果、この時点でB/Sを作成すれば、八〇〇万円の利益が計上されることとなる。 八〇〇万円の営業利益が得られれば、損害はなかったようにみえるが、実際は、仕入価格一〇〇〇万円の商品を二〇〇〇万円で売ったことによる一〇〇〇万円の利益(この場合の店出率は五〇%となる。)が計上されるべきところ、八〇〇万円の利益しか計上できなかったのであるから、ここに二〇〇万円の損失を生じているのである。 これは、一見「得べかりし利益の喪失」のようにみえるが、すでに仕入の段階で発生している積極損害がそのまま残ったに過ぎないものである。 (b) 次に損益計算書(以下「P/L」」という。)上の勘定科目について検討する。 すでに説示したところから明らかなように、「仕入」勘定の借方欄に計上すべき商品の原価は一〇〇〇万円であって、一二〇〇万円ではない。差額二〇〇万円の支出は、もとより、そのこと自体が特別背任罪の実行行為となるものであるから、正規の勘定科目 、「仕入」勘定の借方欄に計上すべき商品の原価は一〇〇〇万円であって、一二〇〇万円ではない。差額二〇〇万円の支出は、もとより、そのこと自体が特別背任罪の実行行為となるものであるから、正規の勘定科目には計上のしようがなく、簿外の裏勘定とするほかないものである。 しかしながら、それではB/Sとの間に不突合を生じるから、これを避けてP/Lに乗せるためには、何らかの名目で支出勘定を設けて借方欄に計上するほかない(この支出は、仕入に対する原価・費用に当たらないことが明らかであるから、一種の営業外損失と考えるべきであろう。ここでは仮に「X勘定」と呼ぶこととする。)。この場合において、(ア)当該商品が期中に売却できなかったときは、P/L上は、借方欄に「当期仕入高」一〇〇〇万円、貸方欄に「期末棚卸高」一〇〇〇万円がそれぞれ計上されて相殺されるほか、借方欄に「X勘定」二〇〇万円があるため、結局二〇〇万円の経常損失等となる。(イ)また、期中に当該商品が二〇〇〇万円で売れたとすれば、借方欄の「当期仕入高」一〇〇〇万円に対して、貸方欄に「当期売上高」二〇〇〇万円が計上され、一〇〇〇万円の「粗利益」が出るが、借方欄に「X勘定」二〇〇万円があるため、経常利益は、粗利益や営業利益より二〇〇万円少ない八〇〇万円に止まることとなる。 右にみたように、B/S上もP/L上も、「無用の出費」は、正味商品の価格や仕入高には含まれない。したがって、「D1がD65に支払ったと同額の商品がD1に入ることになるから、D1の全体財産に増減はない」との議論は通用しない。 更に重要なことは、右の設例からも明らかなように、D1が商品の価格に右「無用の出費」分を加算した金額に所定の店出率を乗せて販売できたとしても、「無用の出費」をしたことによる損害は依然として残るのであって、これが回復されるこ からも明らかなように、D1が商品の価格に右「無用の出費」分を加算した金額に所定の店出率を乗せて販売できたとしても、「無用の出費」をしたことによる損害は依然として残るのであって、これが回復されることはないのである。すなわち、「店出率を確保できれば損害は発生しない」とする議論の失当であることは明白といわなければならない。「無用の出費」(営業外損失)をしたことによる損害は、D1の営業努力によって回復されることはなく、D65から、D1に対し同額を戻入することによってのみ、解消され得るのである。 以上の検討結果に照らせば所論の当否はおのずから明らかということができるが、以下、個々の所論につき若干の説明を付加することとする。 3 さきに説示したとおり、原判決は、D1が、D65からの「準直方式」による仕入に際し、「無用の出費」である同社の売買差益分を含めた金額を仕入金額として支払ったことをもって改正前の商法四八六条一項にいう「損害」と捉えているのであって、そのことは、その「罪となるべき事実」の判文自体に徴し【五二参照】、また、補足説明中の(高騰分)は「D1が直輸入業務を行ううえで全く支払う必要のない出費であったことが明らかであるから、これらの支払いは、D1の既存の全体財産の減少をもたらすものとしてD1の損害となることは明らかである」旨の判示【二八八】、更に、「任務違背行為によって生じた損害を販売による利益で差し引きして考えるべきものではない。本件においては、準直方式等による仕入が行われる際に無用の出費に基づく損害が発生しているのであるから、D1の他の営業による利益ないし当該準画商品等による販売利益があったからといって、右の損害が消滅したり減少したりする関係にはないのである」旨の判示【二八八】等に照らし、明らかであって、もとより正当な解釈と認められ による利益ないし当該準画商品等による販売利益があったからといって、右の損害が消滅したり減少したりする関係にはないのである」旨の判示【二八八】等に照らし、明らかであって、もとより正当な解釈と認められる。なるほど、原判決は、右引用の判示部分に続く「のみならず」以下において、D1は原判示「高騰分」を「販売価格に転嫁することができず、『高騰分』の販売による回収も困難な状況にあったことが認められる」旨判示した上、その理由について詳細な説明を加えているが【二八八ないし二九四】、これがいわゆる傍論に過ぎないことは明白であって、原判決の「損害」の捉え方に混乱がある訳ではないから、理由のくいちがいをいう所論は、採用できない。 4 所論は、本件商品が小売販売の目的で仕入れられた点を強調し、仕入価格に含まれた原判示「高騰分」はそのまま当該商品に化体されているから、仕入代金支払の時点では「損害」は発生していないと主張するが、右主張が既にその前提において誤りであることは、前記1、2に詳論したとおりである。 また、所論は、小売販売の目的で仕入れた商品を「経済的見地において評価する」に当たっては、仕入代金の一部として支払った原判示「高騰分」についての「販売段階での回収可能性」を無視することはできないと主張するが、前記2で説明したように、仕入段階で生じた「無用の出費」を販売段階において回収することは理論的に不可能である(仕入商品と別個に計上された「損害」は、当該商品がどのように高価に転売されようと、B/S上もP/L上もそのまま「損害」として残るのである。)。この理は、当審で弁護人が指摘しているような、仕入名義がD1になっているものの納品場所が「さいか屋」、「D54」などとされ、仕入段階からD1がマージンを上乗せして関連会社に転売することが予定され、実行されている で弁護人が指摘しているような、仕入名義がD1になっているものの納品場所が「さいか屋」、「D54」などとされ、仕入段階からD1がマージンを上乗せして関連会社に転売することが予定され、実行されている商品についても、まったく異ならない(一般の場合と異なるのは、転売が確実で売れ残りを生じないという点のみである。)。この場合でも、D1が仕入代金の支払に際してした「無用の出費」が、転売利益によって回収されることはないのである。 更に、弁護人が当審の弁論で主張しているように、小売販売を目的とした財産の価値は、仕入価格ないし取得価格ではなく、販売価格(小売での処分可能価格)をもって評価すべきである、というに至っては、企業会計の原則を完全に無視した独自の見解というほかなく、到底採用の限りでない。 5 原判決は、「準直方式」による取引における仕入段階の「無用の出費」をもって特別背任罪における「損害」と認定したものであり、その理論構成は正当と認められるから、これと前提を異にし、消極的損害の有無等について縷々展開するその余の所論に対しては判断の要をみない。 第三項判示方法に関する主張について原審記録を調査するに、原審第六二回公判期日(被告人A3につき公判準備期日)において、検察官から、その冒頭C8述を補充するものとして証拠説明書Ⅰ、同ⅡがC8述・提出され、更に、第九一回公判期日には同Ⅲが、第九二回公判期日には同Ⅳが、第九七回公判期日には同Vが、いずれも、検察官から、同様の趣旨でC8述・提出されたことは、関係公判調書の記載からも明らかなところであるが、右C8述・提出につき所論のような原裁判所の一方的で不公平な措置が取られた形跡は少しも見当たらないから(このことは、当審証人B57の供述に照らし一層明白である。)、訴訟手続の法令違反を主張する所論は前提に 述・提出につき所論のような原裁判所の一方的で不公平な措置が取られた形跡は少しも見当たらないから(このことは、当審証人B57の供述に照らし一層明白である。)、訴訟手続の法令違反を主張する所論は前提において失当である。 そして、原判決が、その補足説明において、D1の被った「損害」額の内訳は検察官提出の証拠説明書「記載のとおりであると認められる」【二九四、二九五】と判示していて、これらの証拠説明書を引用していることは、所論指摘のとおりであり、これらの証拠説明書は、刑訴規則二一八条、同条の二所定の判決書に引用し得る文書に含まれていないものである。しかし、これらの証拠説明書は、その記載内容自体からも明らかなように、その時点ですでに取調べ済の多数の証拠物等の関係証拠を総合的に検討し整理したものであって、一方当事者の主張とはいえ証拠の裏付けを欠くものではないこと、単なる補足説明における引用に過ぎず、補足説明は有罪言渡しの判決書に必要不可欠なものではないこと等にかんがみると、かかる引用をもって違法不当視することはできないところであり、もとより理由不備の違法とは認められない。この点の所論は採用の限りでない。 第四項検品等に関する主張についてD65が、D1に対する準直商品の納品に際して検品や値札付けを行い、納品に伴う店員派遣を行ったことは、原判決が若干の留保を残しながらもこれを認めているところであり【一七六ないし一七九】、関係証拠上これを全面的に否定することは困難であるから、D1がD65のかかる検品等の活動等につき、その対価の支払を免れ、その分だけ不当に利益を得ていると認められる場合には、これをD1が被った「損害」額から控除する形で考慮するのが相当である。しかし、すでに第二節第二款第一項において説明したように、準直方式の取引におけるD65の活動の有 益を得ていると認められる場合には、これをD1が被った「損害」額から控除する形で考慮するのが相当である。しかし、すでに第二節第二款第一項において説明したように、準直方式の取引におけるD65の活動の有用性の判断に当たっては、同社の活動をD3や被告人A3の活動と切り離して評価するのではなく、三者の活動を一体として評価すべきものであり、かかる活動に対するD1の支払についても、D65だけでなく、D3、被告人A3を含めた三者を一体として考察すべきものであって、準直方式の取引においてD3の取得した輸入原価の約五%というマージン(D1がD65への仕入代金の支払を介してD3に取得させた利益)の中には、D65の検品等の活動等の対価の分が含まれているものと認められる。すなわち、D1は、D65の検品等の活動等の対価をD65には支払っていないが、これを含めた利益をD3に取得させているとみられるのであり、D65の検品等の活動等につき、対価の支払を免れ、それだけ不当な利益を得ている訳ではないのである。それ故、D65の検品等の活動等の対価相当分を本件「損害」から控除すべき理由はない。原判決が本件「損害」額からD65の検品等の活動等の対価相当分を控除しなかった理由については、その判文上必ずしも明らかでないが、その結論は正当と認められ、原判決には、この点に関し所論のような事実の誤認、法令解釈・適用の誤りは存しない。この点の主張には理由がない。 第五項返品、再納等に関する主張について証人B11の供述〔八九・一〇八二三以下、九〇・一〇九六三以下、九一・一一三五五以下〕を初めとする原審の関係証拠と比照して検察官提出の証拠説明書の記載内容を検討しても、D65の取り扱った商品の返品・再納について、所論のような誤認があるとは認められず、このことは、当審証人B57の供述により一 する原審の関係証拠と比照して検察官提出の証拠説明書の記載内容を検討しても、D65の取り扱った商品の返品・再納について、所論のような誤認があるとは認められず、このことは、当審証人B57の供述により一層明らかである。被告人A1の弁護人らは、当審弁論(要旨八三頁以下)において、B57証人の供述内容を子細に検討すると、証拠説明書の作成過程等に関する質問に対して納得できる説明がなく、このことに徴しても、準直商品における返品の把握に洩れのあった可能性及び準直商品以外の商品の除外が不完全であった可能性があると主張するのであるが、これらの点に関する各証拠説明書の記載及びB57の当審証言の内容は納得できるものであって、本件準直商品について返品されたのにこれが納品されたままの扱いになっていることを疑うべき具体的な理由はなく、また、準直商品以外の商品の除外が不完全なためにD65の差益額が実際より多く計算されている疑いも認められないから、右主張は採用できない。 なお、準直商品の返品に関連して、被告人A1の弁護人らは、当審弁論(要旨八七頁以下)において、原判決が「損害」額認定に際して依拠している検察官提出の証拠説明書によれば、一旦D1に納入された商品の返品、再納等の流れが個別的具体的に追跡調査されて、D65の売買差益額の算定に際し考慮されていることが明らかであるが、各商品ごと、各取引ごとに仕入代金の支払時点で原判示「高騰分」だけ「損害」が発生したという原判決の考え方とは相容れない取扱いであって、原判決は、その「損害」論とは異なる趣旨・方法で算定された金額をD1の「損害」額として認定しているものというべく、この点においても原判決の理由には齟齬がある、と主張する。 なるほど、個々の商品ごとに原判示「高騰分」を含んだ仕入代金が支払われたこと、すなわち、「無用の出 」額として認定しているものというべく、この点においても原判決の理由には齟齬がある、と主張する。 なるほど、個々の商品ごとに原判示「高騰分」を含んだ仕入代金が支払われたこと、すなわち、「無用の出費」がなされたことによって「損害」が発生したものと解する以上、その後に当該商品が返品されたからといって「損害」が消滅・減少することはあり得ない筈であるから、純理論的には返品分を控除すべき理由はないものといわざるを得ない。しかし、当審証人B57の供述等によれば、原審検察官が、証拠説明書の作成に当たって仕入後の返品の流れを追跡調査し、その結果を「損害」額算定の際に考慮したのは、個々の取引ごとに仕入代金の支払の時点で当該商品仕入による「損害」が確定するとはいうものの、長期間に亘る多数回の取引を包括して起訴した関係上、一定期間内に当該商品が返品されて支払代金、ひいてはD65の売買差益分が実質的に減少していることの明らかなものについては(D1とD65との間の実際の取引では、返品分が当該返品のあった月の支払額から差し引かれている。)、これをD1の「損害」額から控除するのが相当との判断に基づくものと認めれ、理論的には必要ではないにせよ、被告人らに有利な取扱いとして是認できるところであるから、かかる取扱いの存在をもって、原判決の「損害」の捉え方に矛盾や齟齬があるということはできない。この主張は採用できない。 第六項職権による調査一起訴期間を超える取引による売買差益分の算入について被告人A3の弁護人らは、当審弁論(要旨三二一頁以下)において、検察官が起訴の対象とした準直方式による取引は「昭和五三年八月から同五七年七月までの間」であるにもかかわらず、原判決は、「昭和五三年八月ころから同五七年七月ころまでの間」と認定して【五二】取引の対象期間を拡張した上 象とした準直方式による取引は「昭和五三年八月から同五七年七月までの間」であるにもかかわらず、原判決は、「昭和五三年八月ころから同五七年七月ころまでの間」と認定して【五二】取引の対象期間を拡張した上、「損害」額の中に、D65が昭和五七年八月六日に納品した婦人服(検察官提出の証拠説明書Ⅱ参照)及び同月三日、四日、八日及び同月一〇日に納品したアクセサリー(同証拠説明書Ⅲ参照)によって取得した売買差益(各約九〇万円、合計約一八〇万円)をも含めているが、不告不理の原則に違反したものというべく、その違法は明らかである旨主張する。 そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するに、弁護人指摘の婦人服及びアクセサリーをD65から仕入れた時期が、いずれも、昭和五七年八月中であることは、その主張のとおりである。しかし、本件において起訴の対象とされているのは、被告人両名が共謀の上で「昭和五三年八月から同五七年七月までの間」に「D1が海外で買い付け」て、D3を介して輸入した商品につき、D1とD3との中間にD65を介在させて同社からD1が仕入れることとした上、これによる同社の差益金額を含む仕入代金を「昭和五三年八月二五日ころから同五七年九月六日ころまでの間」にD1の口座からD65の口座に振込入金させた、というものであって、このことは、昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実の記載自体から明らかなところ、D3の五七年九月期の仕入台帳四綴《一八四》、同伝票綴一二綴《三〇九》、D65の仕入売上台帳八綴《一八〇》等の関係証拠によれば、弁護人指摘の各商品については、いずれも「D1が海外で買い付け」た時期及び仕入代金をD65の口座に振込入金させた時期が、右起訴の対象期間に含まれていることが認められる。したがって、原判決に不告不理 弁護人指摘の各商品については、いずれも「D1が海外で買い付け」た時期及び仕入代金をD65の口座に振込入金させた時期が、右起訴の対象期間に含まれていることが認められる。したがって、原判決に不告不理の原則違反の違法はなく、この点に関する弁護人の主張には理由がない。 二 D1による商品代金未払い分の損害額からの控除について被告人A3の弁護人らは、当審弁論(要旨三二〇頁以下)において、D65は、昭和五七年八月一六日から同年九月一五日までの間に一億七二〇六万円を上回る金額の商品をD1に納入しているが、D1は、同年一〇月二日ころ到達の内容証明郵便によって右商品代金の支払を留保する旨通知して今日までその支払をなさず、今後もその意思のないことが明らかなところ、右取引の多くが起訴対象期間から外れたものであるとはいえ起訴対象期間内の取引に引き続いてなされたものであること、実際にはD1は右代金未払分だけ利益を取得し、その被った「損害」が減殺されていることにかんがみれば、右代金未払い分に見合う金額をD1の「損害」額から控除すべきものであって、これを看過した原判決は誤りである旨主張する。 そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するに、D1が所論指摘の内容証明郵便によってD65に対する支払を留保したのは、すべて起訴対象期間外の昭和五七年八月一六日以降の取引にかかる商品の仕入代金であると認められる上、右は「当分の間」の「支払の留保」に過ぎず、D65の売掛金債権の消長をもたらすものではないから、これをもって本件起訴対象期間内に発生したD1の「損害」額を減殺すべきものとは到底考えられない。原判決に弁護人主張のような誤りはなく、この点の主張も採用できない。 第七項結論以上のとおりなので、準直方式の取引によるD1の「損害 生したD1の「損害」額を減殺すべきものとは到底考えられない。原判決に弁護人主張のような誤りはなく、この点の主張も採用できない。 第七項結論以上のとおりなので、準直方式の取引によるD1の「損害」の捉え方、その金額の算定等に関する原判決の判断、認定は、これを正当として是認することができ、更に多岐に亘る所論を念頭に再検討しても、原判決に理由の不備や齟齬、判決に影響を及ぼすような法令の解釈適用の誤り、事実の誤認等は認められないから、論旨は理由がない。 第二章自宅改修費関係特別背任事件(被告人A1関係)第一節所論の要旨(事実誤認の主張、A1八・一以下、A3一以下)被告人A1(以下本章においては、単に「被告人」という。)に対し、自宅改修費関係特別背任の事実を認めた原判決は、事実を誤認したものである。すなわち、 1 被告人において原判決が補足説明中で認定判示する「工事一覧表」【三〇八。便宜、次に第二表として転記する。】記載の各年月ころ、東京都中野区vw丁目x番y号所在の自宅(以下「A1邸」ともいう。)について、D18に同表記載の各工事をさせたことは、概ね間違いないところであるが、被告人は、各工事につきD18に対し相当額の工事代金を支払っていたものであり、その支払額が不十分であったとしても、D18の経営者B58から具体的な金額を明示した代金の請求がなかったため、自己の経験から判断してD18に損をさせない程度の金額を支払っていたつもりであって、それ故、未払い分を補填する目的で原判示犯行を企てる理由も必要もなかったものである。 (第二表)<記載内容は末尾2添付> 2 仮に、被告人が自宅改修工事の代金を十分には支払っておらず、未払い分があったとしても、B58は、D1に対し、架空の工事代金を請求し、あるいは、正規の工事代金に水増 )<記載内容は末尾2添付> 2 仮に、被告人が自宅改修工事の代金を十分には支払っておらず、未払い分があったとしても、B58は、D1に対し、架空の工事代金を請求し、あるいは、正規の工事代金に水増しをして請求して、D1から右改修代金の未払い分に相当する金額の支払を受けていたものであって、このことはB58が被告人に対し、見積書や請求書を提出せず、代金の具体的な請求をしなかった事実やA1邸工事の下請業者に対してD1の工事を仮装したような請求書等を作成・提出させていた事実に徴しても明らかであり、原判決も、前記工事一覧表の番号15の工事(以下「表番号15の工事」という。その余の工事についても、右の例による。)に関し、D18がD1から不当な利益を取得したという事実を認めている位である。したがって、D18やB58の立場においても、A1邸の工事代金をD18製作のアクリル製のC8列ケース(以下「F」という。)のリース料金の上乗せによって充当する必要はまったく存在しなかったのである。 3 被告人は、D55株式会社(以下「D55」という。)のC20取締役らの進言に基づいてD1D10庶務部長のB59や同部什器担当課長のB44らに対しリース業務の研究方を指示し、その結果、B59、B44、D55のC21常務取締役らが検討して、D55がD1にFをリースすることになったのであるが、その後、被告人は、B59から、D55の右リース業務がもたもたしている旨の報告を受けたことから、D18による直接のリースの方が料金は大手のリース会社に比べて若干高くなるものの結局はD1のためになるし、D18にも適正な利益を取得させることができると考えて、B58にFの直接リースを勧め、その結果原判示のリース契約の締結に至ったのであって、このような経緯に照らしても、D1とD18の間における原 し、D18にも適正な利益を取得させることができると考えて、B58にFの直接リースを勧め、その結果原判示のリース契約の締結に至ったのであって、このような経緯に照らしても、D1とD18の間における原判示リース契約の締結が、D18に対する自宅改修費の支払と無関係なことは明らかである。しかも、原判示のようなリース料金の不当上乗せは、B59とB58が勝手に相談して決めたものであって、被告人は、右決定に関与しておらず、かかる上乗せ支払の事実も、その後のリース料金値上げの事実も、まったく知らなかったのであり、被告人が、昭和五七年三月二五日ころ、すなわち、表番号15の工事が未完成の段階において、B58に対し、右工事代金として現金二〇〇〇万円を支払ったことは、その有力な証左である。 以上の事実関係については、被告人が原審第八四回、同第八五回、同第八七回、同第九〇回の各公判期日等において供述しているとおりであって〔一一四・一七二二三以下、一一五・一七三八〇以下、一一七・一八一三〇以下、一一九・一八四八五以下等参照〕、原判決が挙示する被告人の各検面調書には信用性がなく、また、原審証人B59及び同B58の各供述は、いずれも内容的に不自然な点や矛盾する点が多い上、その余の関係証拠、特に、下請業者らの関係供述やD18の決算書類の記載等に照らしても、到底措信することができないものである。原判決は事実を誤認したものであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 第二節当裁判所の判断第一款総説所論にかんがみ原判決の事実認定の当否を検討するに、原判決挙示の関係証拠を総合すれば原判示自宅改修費関係特別背任の事実は優にこれを肯認するに足り、その他原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて再検討しても、原判決の証拠の取捨選択、推 係証拠を総合すれば原判示自宅改修費関係特別背任の事実は優にこれを肯認するに足り、その他原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて再検討しても、原判決の証拠の取捨選択、推理判断の過程に誤りは見出せないから、原判決に所論の事実誤認はない。以下、順次説明する。 第二款関係証拠から認定できる事実 1 まず、原判決挙示の関係証拠によれば、「1」A1邸改修工事の時期、内容、代金の概要は前掲第二表掲記のとおりであり、右工事代金は、概ねD18が下請業者に支払い又は支払うべき下請代金の合計額と対応していて、D18の利益分を含まないこと、「2」D1とD18との間で、Fに関するリース契約が締結された経緯、契約内容(殊に、約定されたリース料金はD18が当初見積もってD1側に提示した金額と異なり、これに上乗せがなされていること)、その後のリース料金値上げの経緯、右リース契約に基づき、昭和五五年三月二五日ころから同五七年九月六日ころまでの間にD1がD18に支払ったリース料金の合計額等については、原判決が「犯行に至る経緯」及び「罪となるべき事実」の項【五三ないし五五】に認定判示するとおりであることが明らかである。 2 次に、関係証拠、殊に、原審証人B58〔四九・一〇四四以下、五一・一四八二以下、五二・一六八三以下、一〇九・一六一六一以下〕、同B59〔五五・二四一四以下、五七・三一〇六以下〕、同B47〔一〇六・一五五七〇以下〕、同B44〔八七・一〇二七一以下〕の各供述及びB47の検面調書の同意部分〈三二・四六一五以下〉並びに被告人の五七・一一・五、同五七・一一・九、同五七・一一・一〇各検面調書〈四二・六七二一以下、四二・六六三三以下、四二・六七三〇以下〉等を総合すれば、更に以下の事実が認められる。 (一) 被告人は、前掲第二表のとお ・五、同五七・一一・九、同五七・一一・一〇各検面調書〈四二・六七二一以下、四二・六六三三以下、四二・六七三〇以下〉等を総合すれば、更に以下の事実が認められる。 (一) 被告人は、前掲第二表のとおり、直接に又はB59を通じて、D18のB58に対し次々と自宅の改修工事を下命し、実行させていたが、その工事代金をごく一部しか支払っていなかったことから、表番号12の工事終了後の昭和五四年一二月の時点では、代金の未払い分が合計二七〇〇万円を超えている状態になっていた(もっとも、被告人は、これを約二〇〇〇万円と考えていた。)。 (二) 被告人は、かねてリース業務に関心を抱いていたところ、昭和五四年の夏ころB59や什器担当課長のB44らに対してD1の什器・備品類をリースで利用する方法を研究するように指示し、B59、B44、D55の岡安常務らにおいて検討した結果、従来D1が買い取っていたD18製作にかかるFをD55が買い取ってD1にリースすることになり、右リースは同年一一月から実行に移された。 (三) その後、被告人は、B59から、右(二)のFのリースにつき、D55があまり積極的でなく、もたもたしている旨の報告を受けたが、当時、前記(一)のとおりD18への自宅改修工事代金の未払い分が多額(前示(1)のとおり、被告人の認識では約二〇〇〇万円)に達していたことや新たな自宅改修工事も計画されていたことから、これらの工事代金をまかなう必要があると考え、この機会にFのリース業務をD55から取り上げ、これをD18からD1に直接リースすることとさせた上、そのリース料金額の決定に当たっては、適正な金額に相当額の上乗せをして、これをD1からD18に支払わせ、同社に対してすでに生じている自宅改修工事代金の未払い分などに相当する利益を取得させること、すなわち、Fのリース 決定に当たっては、適正な金額に相当額の上乗せをして、これをD1からD18に支払わせ、同社に対してすでに生じている自宅改修工事代金の未払い分などに相当する利益を取得させること、すなわち、Fのリース料支払を口実とし、D1の損失において自己の負担すべき工事代金の支払を免れることを企てた。 (四) そこで、被告人は、昭和五四年一二月上旬ころ、B58がB59と一緒に自宅を訪れた際、B58に対し、D18が直接Fのリースをするように勧め、B58において消極的態度を示しながら返事を留保したところ、同月下旬ころ、再度、自宅応接間において、B58に対し、「君のところには工事のことでいろいろ迷惑を掛けていることでもあるからリース料金は高くなっても構わない、君のところでリースをやれ。」などと言った上、その場にいたB59に対し、「D18さんには工事のことで大変世話になっているし、支払でも迷惑を掛けているから、そういうのを含めてB59君面倒をみてやれ。」などと言って、D1がD18との間でFのリース契約を締結し、そのリース料金の決定に当たっては、適正金額に自宅改修費未払い分相当額を上乗せすべき旨を指示した。 (五) B59は、被告人の右指示に従い、B58と相談した上、昭和五五年二月中旬ころ、Fの主力機種である三B型ケースについて、D18側が提示した一台当たり三三〇〇円という希望価格にA1邸工事代金の未払い分相当額を上乗せし、一台当たり四八一〇円という料金で契約を締結することとし、その翌日ころ、被告人に「Fのリース料金は四八一〇円でやらせていただきたいと思います。社長の言われているもの(A1邸工事代金分の意)は全部含まれています。」などと報告したところ、被告人は、これを了承して「D18もそれでいいんだな。」などと念を押した上、B59に対し、右上乗せ料金によるリー われているもの(A1邸工事代金分の意)は全部含まれています。」などと報告したところ、被告人は、これを了承して「D18もそれでいいんだな。」などと念を押した上、B59に対し、右上乗せ料金によるリースの実行方を指示した。 (六) 被告人は、昭和五六年二月末ころ、当時計画中の表番号15の自宅改修工事についてD18が消極的な態度を示している理由をB59に尋ねた際、同人から、工事の規模が大きくD18も金策に苦しんでいるらしい旨の説明を受けるや、それならばリース料金を値上げしてやってもよいと考え、その一日か二日後にB59に対し、「D18が資金的に苦しいようなら、少しリース料金を上げてやってもいいんじゃないか。」などと言って自宅改修費に充当すべくリース料金の値上げを指示し、その結果、B59が、消極的な態度を示すB58の意見を押し切る形で、同年三月一日以降の新規リース分から三B型ケースの場合で一台当たり五〇〇円だけ値上げすることとした上、被告人にその旨報告したところ、被告人は、これを了承してB59にその実行方を指示した。 以上(一)ないし(六)の事実が認められ、この事実関係によれば、被告人は、自宅改修代金の未払い分の支払をD1の負担において免れようと考え、D1側の担当者で自己の忠実な部下であるB59に指示して、D1かD55と締結していたFのリース契約をD18に切り替えさせた上、適正なリース料金に自宅改修代金未払い分相当を上乗せした金額をリース料金とさせ、これをD1からD18に支払わせてD1に右上乗せ分相当額の損害を加えたものというべく、特別背任の事実は否定できないところである。 第三款被告人の検面調書の信用性に関する主張についてこれに対し、所論は、原判決挙示の被告人の各検面調書の信用性を争うのである(A1八・一一二以下)。しかし、被告人は、 できないところである。 第三款被告人の検面調書の信用性に関する主張についてこれに対し、所論は、原判決挙示の被告人の各検面調書の信用性を争うのである(A1八・一一二以下)。しかし、被告人は、昭和五七年一〇月二九日に逮捕され、同月三一日以降検察官の取調べを受けたものであるところ、初期の段階から本件につき自白し、自宅改修代金の未払い分の支払に充てるべくB59にリース料金の上乗せを指示してこれを実行させた旨供述しているものであり、各検面調書中には、犯行の動機として、自宅工事代金の支払を免れるという自己の利益だけではなく、右工事のことで負担をかけてきたB58にそれまでの埋め合わせをして、少しいい目を見させてやろうと考えたものであって、以前からB58のセンスと仕事振りを買っていたし、D18が優良業者だったので面倒を見やすいという事情もあった旨(五七・一一・五の第五項〈四二・六七二八以下〉参照)、あるいは、当初からD1に自宅工事代金を支払わせるつもりでいた訳ではなく、自宅工事代金の未払い分はD1の工事をD18に沢山やらせるなどして埋め合わせしょうという考えであって、その旨B59に指示していたところ、気がつくと未払い分が多額に達していたので、D1との通常の取引による儲けだけではB58が可哀想という気持ちになり、D55に代わるリース業者を選定する機会にその埋め合わせをすると共にB58を喜ばせてやろうと考えた旨(五七・一一・一〇の第六項〈四二・六七三八以下〉参照)の自己の心情を率直に吐露したことを窺わせる部分が存在し、また、覚えていないところやはっきりしない点については、その旨が述べられていて、自己の記憶に従った供述であることが窺われ、自宅改修工事で自己が支払うべき代金及びすでに支払った代金の概略についても、B58らの関係供述とは必ずしも一致し ない点については、その旨が述べられていて、自己の記憶に従った供述であることが窺われ、自宅改修工事で自己が支払うべき代金及びすでに支払った代金の概略についても、B58らの関係供述とは必ずしも一致しない供述をしていて(被告人の五七・一一・九検面調書末尾の「自宅工事一覧表」〈四二・六六四七〉参照。なお、右一覧表について、所論のように被告人が捜査官のあらかじめ作成した草稿を筆写させられたものとは認め難い。)、被告人が相前後してなされた直輸入商品関係特別背任被疑事件の取調べに対しては、必ずしも全面的に自白することなく自己に有利と考えられる種々の弁解をなしている形跡がある点などを併せ考えれば、自宅改修費関係特別背任被疑事件の各検面調書が、所論のように、肉体的な疲労・疾病、社長解任に続く身柄の拘束による精神的な混乱等の下で検察官から長時間の取調べを受けた結果作成された信用性に欠けるものとは認められない。 所論は、各検面調書が措信できない理由として、「1」警察段階でも被告人の供述調書が作成された筈なのにその証拠調べが請求されていないことに徴すれば、被告人は警察では原審公判廷におけると同趣旨の弁解をしていたことが窺われること、「2」山田弁護人が伊東にいた被告人と電話で連絡を取った旨事実に反することが記載されていることを指摘するが、「1」の点は根拠の乏しい憶測に過ぎず、「2」の点は、仮に指摘どおりの事実関係であったとしても末梢的な事柄であって、被告人の各検面調書の核心的な部分の信用性を阻害するものとは到底考えられない。その他所論にかんがみ関係証拠を再検討しても、被告人の各検面調書を信用できないものとすべき具体的な事由は見当たらず、原判決が右調書を措信したことに誤りは認められない。 第四款原審証人らの供述の信用性に関する主張について 1 次に、所論 、被告人の各検面調書を信用できないものとすべき具体的な事由は見当たらず、原判決が右調書を措信したことに誤りは認められない。 第四款原審証人らの供述の信用性に関する主張について 1 次に、所論は、原審証人B59及び同B58の各供述には信用性がない旨主張する(A1八・七七以下、九七以下)。しかし、右両名の各供述内容を検討してみると、両名は、いずれも、Fに関して本件リース契約が締結され、リース料金が定められた経緯、その後にこれが値上げされた事情、その際の被告人の指示・発言と両名の対応状況、長期間に亘るA1邸改修工事の概要、これに関する被告人の発言と両名の対応状況等について、かなり詳細かつ具体的な供述をしていて、被告人の発言に接した際の両名の対応状況に関する部分などには迫真性がみられる上、はっきりしない点ははっきりしない旨述べ、とりわけ、B59においては、同人が被告人の明確な指示に従って行動した点と同人が被告人の意向を忖度して実行し事後報告によって被告人の了承を得た点とを区別して述べていて、自己の記憶に従って比較的率直に証言していることが窺われ、両名の供述を比照しても概ね整合していて、A1邸工事代金の請求及び支払状況、本件リース契約の締結とリース料金の決定経過などの重要な部分に関する限り相容れないような齟齬は認められないから、両名の各供述の信用性は、たやすく否定できないところである。 2 所論は、B59の証言が措信できない理由として、「1」A1邸改修工事やD18とのリース契約締約に関し、問題点を意図的に回避した極めて曖昧な証言に終始していること、「2」原審証人茂木治郎、同B58の各供述等にも現れているように、B59は、D1で様々な不正を働き、その結果懲戒解雇処分を受けたものであるのに、この事実を否定し私腹を肥やしたことで懲戒解雇されたも 、「2」原審証人茂木治郎、同B58の各供述等にも現れているように、B59は、D1で様々な不正を働き、その結果懲戒解雇処分を受けたものであるのに、この事実を否定し私腹を肥やしたことで懲戒解雇されたものではない旨虚偽の証言をしていること、「3」B59は、事件の発覚後自己が残しておいたメモ類を焼却したことについて、被告人の指示に従ったものである旨供述しているが、被告人の指示があったのなら自己の保身のためにも保存しておく筈であって、何ら焼却の必要はなく、同人単独の不正行為を隠蔽するための焼却と思われ、この点にも虚偽が認められることなどを指摘する。しかし、B59の供述は、かなり具体的で迫真性も認められ、A1邸改修工事やD18とのリース契約締約に関し、全体として措信できるものと認められ、重要な点について所論のように意図的な回避の供述態度は窺われないから、所論指摘の「1」は採用できず、また、所論指摘の「2」及び「3」は、いずれも根拠の乏しい独断というほかなく、それ故、これらの理由をもってB59の供述の核心的な部分を信用できないものということはできない。その他縷々の主張を参酌して再検討しても、B59の供述の信用性を否定すべきものとは考えられず、原判決がB59の供述を措信したことに誤りはない。当審証人B59の供述や当審で取り調べた別件民事訴訟におけるB59の証人尋問調書の内容を参酌しても、この結論に変わりはない。 3 また、所論は、原審証人B58の供述について、同人は、出入り業者としてD1に不利な供述をなし得ない立場にあった上、本件でB59と組み被告人の名前を利用してD1から不当な利益を上げていたものであるから、これを隠蔽するためにことさら被告人に不利な証言をした疑いが強く、B47の供述等との間にも明らかなくいちがいが存在するから、そのままには措信で を利用してD1から不当な利益を上げていたものであるから、これを隠蔽するためにことさら被告人に不利な証言をした疑いが強く、B47の供述等との間にも明らかなくいちがいが存在するから、そのままには措信できない、というのである。しかし、B58がD1の出入り業者であり、本件リース料金の上乗せや表番号15の工事の関係でD1から不当な利益を上げていたことは、所論指摘のとおりとしても、そのために、右リース料金の上乗せ分の不当取得について、B58が、無関係の被告人を巻き込んで虚偽の供述をしているものと疑うべき理由はないのであって(現に、B58は、表番号15の工事関係の不当取得については、これに被告人が関与していたなどとは述べておらず、この件と被告人が関与した本件リース契約の締結やリース料金の上乗せとを明確に区別して供述しているのである。)、B58が、自己の不当な行為を隠蔽するために事実を捏造したものとはいい得ないところである。なるほど、B58の証言中には、原審証人B47や同B45の供述と異なる部分も存するし、B59の証言との間にも若干符合しない点もあるが、これらは、いずれも、相容れないようなくいちがいとは認め難く、B58の供述の重要部分の信用性を否定すべきものとは考えられない。原判決がB58の供述を措信したことに誤りはなく、当審における事実取調べの結果を加えて再検討しても、この結論に変わりはない。 第五款その余の弁護人の主張について第一項未払い代金の有無についての被告人の認識以上に対し、所論は、被告人は、D18に対して相当額の工事代金を支払っていたものであり、そうでないとしても、自己の経験から判断してD18に損をさせない程度の金額を支払っていたつもりであって、それ故、未払い分があるとは思っておらず、被告人には本件犯行を企て、これを実行する理 ものであり、そうでないとしても、自己の経験から判断してD18に損をさせない程度の金額を支払っていたつもりであって、それ故、未払い分があるとは思っておらず、被告人には本件犯行を企て、これを実行する理由も必要もなかった、と主張する。 しかし、昭和五四年末ころの時点におけるA1邸改修工事代金の合計は三四〇〇万円を超えていたところ(この工事代金にD18の利益が殆ど含まれていないことは、第二款1の「1」のとおりである。)、被告人の前掲五七・一一・九、同一一・一〇各検面調書によれば、被告人は、自宅改修工事につき、B58やB59から計画を聞き自己の希望も述べて施工させていたので、具体的な見積書や請求書こそ受け取っていなかったものの、工事内容はよく承知していたものであって、表番号4か7か8の工事の際には、B59から代金額を聞かされ、予想していた金額より大分高かったので同人に文句を言ったことがある位であり、Fのリース契約の話が始まる直前の昭和五四年一二月ころの時点における工事代金合計額については、被告人なりに約二六八五万円と判断し、支払済金額の合計が七一〇万円に過ぎなかったので、未払い分は約二〇〇〇万円と認識していたことが認められるから、被告人が右の時点において、自宅改修工事代金に多額の未払い分があると認識していたことは明らかであるところ、被告人は、その後も、D18に対して、表番号13及び同14の工事のほか同15の大規模な工事を行わせたのに、昭和五七年三月二五日ころに二〇〇〇万円を支払った以外に何らの支払をしていなかったのであるから(右二〇〇〇万円の支払の評価については、後記第六項の3のとおりである。)、依然、工事代金に多額の未払い分があると認識していたものと認められる。ちなみに、被告人は、D1の社長を解任され、様々な金銭疑惑がマスコミに報道されるよ 価については、後記第六項の3のとおりである。)、依然、工事代金に多額の未払い分があると認識していたものと認められる。ちなみに、被告人は、D1の社長を解任され、様々な金銭疑惑がマスコミに報道されるようになった直後である昭和五七年九月二五日ころ、わざわざB58を自宅に呼び出した上、同人に対し、「自宅の工事ではこれまでいろいろ世話になった。この中に金が四つ入っているから預かっておいてくれ」などと言いながら、現金四〇〇〇万円を手渡していることが認められ、この現金交付が自宅改修工事代金未払い分を支払う趣旨のものであったことは、容易に推認できるところであり、被告人も捜査段階の当初にその旨自供しているのであって(被告人の五七・一一・九検面調書第三項ないし第六項〈四二・六六三七ないし六六四三〉参照)、被告人が自宅改修工事代金に多額の未払い分のあることを認識していたことを裏付けるものと認められる(被告人は、原審第八七回公判期日において、右現金は文字通りB58に「預けた」ものに過ぎない旨弁解しているが〔一一七・一八一三三以下〕、被告人が昭和五七年九月二五日という時点でかかる大金をB58に「預けた」ことの理由に関する説明には納得できるものがなく、右弁解は到底措信できない。)。 なお、被告人は、原審第八四回公判期日において、被告人がB59を通じてD18に支払った金額はもっと多かったが、裏付けの資料がなかったため、検面調書では七一〇万円にさせられた旨供述し、また、かねてから工事代金を請求してくれれば払う旨伝えておいたのに、B58もB59もまったく請求してこなかったのであるから、被告人としては、未払い分はないものと考えていた旨供述するのであるが〔一一四・一七二二三以下参照〕、前掲検面調書と比照して、たやすく措信できないものというほかない。 以上のとおり、所論 あるから、被告人としては、未払い分はないものと考えていた旨供述するのであるが〔一一四・一七二二三以下参照〕、前掲検面調書と比照して、たやすく措信できないものというほかない。 以上のとおり、所論は採るを得ない。 第二項 B58らの不正行為による未払い分の回収 1 所論は、仮にA1邸改修工事代金に未払い分があったとしても、B58は、B59と一緒に架空工事代金の請求や工事代金の水増し請求という方法によって、D1からA1邸改修工事代金の未払い分に相当する金額の支払を受けていたものであり、B58が被告人に同工事代金の請求書等を作成・提出せず、他方、同工事の下請業者に対してD1の工事をしたかの如き請求書等を作成・提出させていたことは、その最も有力な証左であって、この事実を否定した原判決は、誤りである、と主張する。 なるほど、B58が下請業者に対し、A1邸の工事であることを示す請求書等を作成・提出させず、D1の工事をしたかの如き請求書を作成・提出させていたことは、所論指摘のとおりである。しかし、原審証人B58の証言によれば、B58が下請業者に対してD1の工事等を仮装した請求書等を提出させたのは、B59から、D18がA1邸の工事をしていることを知られないようにしろ、とか、裏にしろ、と強く言われていたためであって、B58としては、税務署対策や違法建築についての区役所の建築課等への対策と思っていたことが認められ、B59も、この点につき、裏でやれ、というのは、被告人からの指示であって、その旨B58に伝えたことは間違いなく、時にB58からの申出により、又は、B59自身の判断で、被告人に表にして下さいとお願いし、工事代金の極く一部を表で支払って貰ったことがあったが、工事代金を受け取った場合には、ほとんどいつも被告人から裏で処理すべき旨念を押されていたの 59自身の判断で、被告人に表にして下さいとお願いし、工事代金の極く一部を表で支払って貰ったことがあったが、工事代金を受け取った場合には、ほとんどいつも被告人から裏で処理すべき旨念を押されていたのであり、B58が正規の領収書を作成して被告人に差し出したために叱責されたこともある旨供述しているのであって、これら両名の供述は措信できるものと認められる。したがって、B58が下請業者にD1の工事をしたかの如き請求書等を作成・提出させていたことを理由として、D18ないしB58がA1邸改修工事代金の未払い分に相当する金額をD1から不正に取得していたことの証左とする所論には、にわかに左袒することができない。 2 この点に関し、所論は、原判決は、D18が、表番号15の工事代金についてはD1のD56やD57の工事等によって、表番号13、14の工事代金等についてはD55の負担による社内処理等によって、それぞれ多額の利益を取得した事実を認め、かつ、これらは被告人の関知しないことであった旨説示した上、表番号15の工事などに関する後発的・偶発的事情の存在をもって他のA1邸改修工事代金の支払に関してもD18がD1から不正な利益を取得していたものとすることはできない旨説示しているが、右は事実を誤認したものであって、D18は、表番号15などと同様にして他のA1邸改修工事についても、下請業者作成の請求書等を悪用してD1から不法な利益を取得していたものである旨主張する。 しかし、D18が、D1のD56やD57の工事等に関連してD1から不正な利益を取得し、その結果としてA1邸改修工事代金につき未払い分がなくなった形となった経緯については、原判示のような特別な事情が存在したことが認められ【三二二参照】、この点に関する原判決の認定に所論の誤認は認められないから、かかる特別な 工事代金につき未払い分がなくなった形となった経緯については、原判示のような特別な事情が存在したことが認められ【三二二参照】、この点に関する原判決の認定に所論の誤認は認められないから、かかる特別な事情による例外的処理の存在をもって、所論のようにD18がB59らと相談の上、その余のA1邸改修工事についても、被告人の関知しないところで代金未払い分に相当する金額をD1から不正に取得していた証左とすることはできず、右所論は採用できない。 第三項リース料金上乗せと自宅改修費支払との関係 1 所論は、D18がFを直接リースするようになった経緯等に照らしても、D1とD18と間の右リース契約の締結やリース料金の支払は、被告人の自宅改修費の支払とは無関係であり、しかも、原判示のようなリース料金の不当な上乗せやその後の料金の値上げは、すべてB59とB58が勝手に相談して決めたものであって、被告人がまったく関知しないところである、と主張する。 なるほど、D18がFを直接リースするようになった経緯等については、第二款の1の(二)、(三)の事実が認められ、被告人が、当初から自宅改修代金の支払を免れる意図で、B59やB44にリース業務の研究や検討を指示したり、D55にFのリースを開始させたものでないことは、所論指摘のとおりである。しかし、被告人は、前示のとおり、B59からD55の右リース業務がもたもたしている旨の報告を受けたことを機として、D18がFをD1に直接リースすることにさせた上、その料金の決定にあたっては、適正額に相当額の上乗せをして、これをD1に支払わせ、そのことによって自己の負担すべき自宅改修代金の支払を免れることを企て、同1の(四)、(五)のとおり、自らB58に対してFの直接リースを勧め、B59に対してB58の面倒を見るべく命じて本件リース契約 そのことによって自己の負担すべき自宅改修代金の支払を免れることを企て、同1の(四)、(五)のとおり、自らB58に対してFの直接リースを勧め、B59に対してB58の面倒を見るべく命じて本件リース契約の締結とリース料金の上乗せを指示し(その際、B59に対し、D18に資金を融資してやれ、とか、前払いしてやれ、などという発言をしたことは、所論も認めているところであり、これらの発言の趣旨について縷々争う所論には首肯できるものが認められない。)、右指示に従いB58との協議に基づいて具体的なリース料金額等を提案したB59に対し、右提案を了承してその実行方を指示したのであり、同1の(六)のとおり、その後のリース料金の値上げについても、B59に実行方を指示したのである。したがって、Fのリース料金の決定、上乗せ額及びその値上げ額の決定と実行は、すべて被告人の指示によるものと認められるのであって、D55によるリース業務の遅延、という偶然の事情が存在したことを理由に被告人の関与を否定する所論は、到底採用できない。 2 この点に関し、所論は、D18によるFの当初のリース料金額やその後の増額は、すべてB59、B58、渡辺の間で決められたものであり、被告人は、D18がリースしているケースの台数もリースによるD18の利得金額も知らされていなかった位であるから、D1によるリース料金の上乗せ支払をもって自宅工事代金の未払い分に充てるなどという考えがなかったことは明らかである、と主張する。 しかし、Fのリース料金の決定、上乗せ額及びその値上げ額の決定と実行が、すべて被告人の指示によるものと認められることは、前説示のとおりである。なるほど、被告人の関与状況については、第二款の1の(五)、(六)の事実が認められるに過ぎず、被告人は、D18がリースする場合の同ケースの台数、B によるものと認められることは、前説示のとおりである。なるほど、被告人の関与状況については、第二款の1の(五)、(六)の事実が認められるに過ぎず、被告人は、D18がリースする場合の同ケースの台数、B59の報告したリース料金によってD18が取得する不正利得の金額等について明確な認識を欠いていた疑いが強く、それ故、自宅工事代金の未払い分との対応関係についても、甚だ曖昧な判断しかしていなかった形跡がある。すなわち、被告人は、昭和五四年一二月ころの時点において、自宅工事代金の未払い分が約二〇〇〇万円に達しているという認識を有したものの、B59の報告した料金によるFのリースによって、D18がD1から月々どの位の金額の不正な利益を取得し、自宅工事代金の未払い分にどのように充当されることになるのか、半永久的に継続する可能性のあるリース料金の上乗せ支払と自宅改修工事代金の未払い分及び当時一応予定されていた同工事や将来あり得る同工事の代金の支払との対応関係はどうなるのかなどの点について、数額的なことを認識していなかった疑いがある(右の意味におけるA1邸改修工事代金と上乗せしたリース料金による不正利得との対応関係については、B59においても十分な検討を行ったとは思われない。なお、B58においては、Fの製作原価を基礎として五年先の値上がり分を考慮し、リース係数として高めの一・五という数値を使用するなどして、自社が直接Fをリースする場合に採算の取れる金額として三B型ケース一台につき月額三三〇〇円を提示し、その後、B58とB59の原判示のような話合いの結果【三一五参照】、上乗せ後の右リース料金を月額四八一〇円として被告人の了承を得たものである。)。しかしながら、被告人においては、どのみちD1が負担することとして、右対応関係につき、かなりルーズに考えていたもので 、上乗せ後の右リース料金を月額四八一〇円として被告人の了承を得たものである。)。しかしながら、被告人においては、どのみちD1が負担することとして、右対応関係につき、かなりルーズに考えていたものである上、当時は自宅の改修工事が次々と予定され得る状況であり(このことは、右時点まで改修工事がほとんど連続的に実施されていたこと及びその後の改修工事の実施状況等に照らしても明らかである。)、しかも、前記検面調書にも現れているように、被告人には工事代金未払い分の支払を免れるという自己の利益だけでなく、これまで面倒を見てやり世話にもなってきたB58のためを図るという気持ちも存在したことが窺われるから、被告人に右の意味における対応関係についての明確な認識がなかったことをもって、リース料金上乗せの決定に対する被告人の関与の事実を否定することはできない。 3 また、所論は、被告人が、昭和五七年三月二五日ころ、B58に対し、表番号15の工事代金として現金二〇〇〇万円を支払った事実を指摘し、仮に、被告人がリース料金の上乗せを指示し実行させたのであれば、自宅工事代金の未払い分はなくなっているのであるから、二〇〇〇万円という大金を支払う筈はなく、右金員支払の事実は、被告人がリース料上乗せのことを知らなかったことの証左である、と主張する。 しかし、表番号15の改修工事が極めて大規模なものであったこと(代金合計約七五〇〇万円)は関係証拠上明らかである上、前示のとおり、被告人はリース料金の上乗せ支払と工事代金未払い分の充当状況につき明確な認識を欠いていたものであるから、かかる被告人が、前例のない大工事の代金の一部として二〇〇〇万円程度の金額を支払ったとしても、これをもって、被告人がリース料上乗せ支払の事実を知らなかったことの証左とはなし難いところである。この所論には る被告人が、前例のない大工事の代金の一部として二〇〇〇万円程度の金額を支払ったとしても、これをもって、被告人がリース料上乗せ支払の事実を知らなかったことの証左とはなし難いところである。この所論にはにわかに左袒できない。 第六款結論以上のとおりであり、その他多岐に亘る所論にかんがみ、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて再検討しても、自宅改修費関係特別背任の事実を認定した原判決に所論のような事実誤認を発見することはできない。論旨は理由がない。 第三章所得税法違反事件(被告人A3関係)第一節逋脱の故意等に関する控訴趣意について第一款所論の要旨(事実誤認の主張、B1・六七七以下)被告人A3(以下本章においては、単に「被告人」という。)は、原審公判廷において供述しているとおり、香港コミノション収入については、その源泉が香港にあり、香港で受領し、これに見合う税額を香港政庁に納付していたことから、これを日本に持ち込まない限り日本での納税義務は発生せず、日本に持ち込んだ時点で申告すれば足りると誤信していたものであって、右のような本件所得の特殊性等にかんがみれば、被告人の右誤信には相当の理由かあったものというべく、被告人には所得税法違反の故意ないし責任がないから、無罪である。しかるに、原判決は、被告人の右供述を措信し難いとして排斥し、被告人に所得税逋脱の故意があったものと認定しているが、その根拠として掲げる点は、いすれもその前提とする事実を誤認したか、故意の存在を裏付けるに足りないものであり、他方、原判決が認定の用に供している被告人の各検面調書中の自白は、異常な環境の中で検察官に誘導された結果なされたものであって、信用性を有しない。原判決は、証拠の取捨選択を誤って事実を誤認したものというべく、右 が認定の用に供している被告人の各検面調書中の自白は、異常な環境の中で検察官に誘導された結果なされたものであって、信用性を有しない。原判決は、証拠の取捨選択を誤って事実を誤認したものというべく、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。 第二款当裁判所の判断 1 原審の記録及び証拠物を調査して検討するに、原判決挙示の関係証拠を総合すれば、被告人に対し、所得税逋脱の故意ないし責任を認めた原判決は、正当として是認することができ、当審における事実取調べの結果を参酌して再検討してみても、右の判断を覆すに由ないところである。以下に若干補足説明する。 2 被告人は、昭和五七年一〇月一八日所得税法違反の被疑事実で逮捕され、同月二〇日同事実で勾留されたものであるが、逮捕直後の弁解録取に際して脱税していない旨弁解したものの、その翌日になされた検察官の取調べに対し、香港で取得したコミッション収入についても配当所得や給与所得と併せて申告・納税しなければならないことは知っていたが、これを日本において申告すると半分以上税金に持って行かれてしまうので、他に知らせることなく香港に裏金として預金しておいて申告しなかった旨述べて、香港におけるコミッション収入につき所得税逋脱の故意があったことを自白し(五七・一〇・一九検面調書第一項、第二項〈四二・六八〇五以下〉参照)、以後、同日選任した弁護人の助言等を受け得る状況の下においても、検察官の取調べに対し一貫して右自白を維持した上、香港における収入とその管理状況等につき詳細かつ具体的な供述をしているものであって、所論にもかかわらず、被告人の右供述が異常な環境の中で検察官の強い誘導に基づいてなされた信用性の乏しいものとは認められず、被告人が、相前後してなされた直輸入商品関係特別背任事件に関する取調べに対しては、必ずし わらず、被告人の右供述が異常な環境の中で検察官の強い誘導に基づいてなされた信用性の乏しいものとは認められず、被告人が、相前後してなされた直輸入商品関係特別背任事件に関する取調べに対しては、必ずしも全面的に自白することなく自己に利益と考えられる様々な主張・弁解を行い、これを録取されている点と対比してみても、右自白は十分措信するに足りるものと認められる。 他方、被告人は、原審第八四回、第八五回、第八六回の各公判期日等において、香港で取得したコミッション収入については日本に持ち込む時点で申告すれば足りると誤解していた旨所論に副う弁解をなし〔一一四・一七三三四以下、一一五・一七四三四、一一六・一七六九三以下参照〕、当審公判廷においても同趣旨の供述を繰り返しているのであるが、もともと、所得税の申告時期を日本への持込みという申告者の自由な判断に委ねるという考え自体が不合理なものである上、その内容を子細にみると、日本に持ち込む際には、いつの所得として申告するつもりであったのか、すでに香港で納税しているので納税義務はないと考えていたのか、そもそも香港で取得したコミッション収入を日本に持ち込むような事態を考えていたのか、甚だ瞹昧であり、被告人の後記「5」「6」のような現実の行動が右弁解と矛盾しないとはいえないこと等を併せ考えると、被告人の右弁解は到底措信することができないところである。そして、原判決も指摘しているように【三六一】、被告人は、単なる家庭の主婦と違い、長年に亘り事業を主宰して納税も行ってきたものであって、税金に対する関心も人並み以上であったことが窺われ(例えば、被告人は、後記「6」の偽装工作に際し、C11が日本で住宅を買った形式にした場合に、同人がタイで税金を負担するかどうかについて心配し、B18に対し国際電話でC11への照会を指示して 窺われ(例えば、被告人は、後記「6」の偽装工作に際し、C11が日本で住宅を買った形式にした場合に、同人がタイで税金を負担するかどうかについて心配し、B18に対し国際電話でC11への照会を指示している位である。原審証人B18の供述〔六二・四三三六〕参照)、また、原審第八七回公判期日等において、みずから述べているように〔一一七・一七八九八以下参照〕、香港と日本を比較すると、香港は金利が高く税金が安いので、そのことに着目して日本から香港に多額の資金を持ち込んで預金しておいた、というのであるから、少なくとも香港に預金した場合の利子に対する税金について関心を抱かなかった筈はなく、それにもかかわらず、これら香港における収入と税金の関係等につき顧問税理士のC22昂らにまったく尋ねることをせず、同人らに右収入の存在を知らせることすらしていなかったのであって、これらの事情は、被告人が香港における収入についても申告・納税義務があることを十分承知した上で敢えてこれを秘匿して申告・納税しなかったものであること、換言すれば、所得税逋脱の故意をもってこれを実行したことを強く推認させるのであって、前記自白を補強するに十分であると認められ、所得の源泉と受領が香港にあり、かつ、これに見合う税金を他人の名義で香港政庁に納付していた(なお、右納税の評価については、後に第五節第二款第一項で説示するとおりである。)という所論指摘の「本件所得の特殊性」は、これを左右するものではない。 3 これに対し、所論は、原判決が逋脱の故意の存在を裏付けるに足りる理由として指摘する諸点は、いずれも、その理由とはなり得ない、すなわち、原判決指摘の諸点【三六一以下】のうち、「1」被告人が昭和五〇年五月の東京国税局のD8に対する税務調査に際し、A1社長の命で香港に派遣されることになった経理本部 、その理由とはなり得ない、すなわち、原判決指摘の諸点【三六一以下】のうち、「1」被告人が昭和五〇年五月の東京国税局のD8に対する税務調査に際し、A1社長の命で香港に派遣されることになった経理本部経理部長B6に対し、「C8という人に会って書類が出ないようによく頼んで下さい。」などと指示するなどして、香港のコミッション収入が税務当局に知られるのを恐れていたこと、「2」D24から世界時装中心(D58、以下「ワールドファッション」という。)宛コミッションの送金を受ける過程で、D24支配人代理のB37に対し、ワールドファッションの口座は二、三の人しか知らないので秘密にしておいて欲しい旨頼むなどしたこと、「3」自己の資金を日本から香港に持込み定期預金としてC8に管理させていたが、これらの預金は香港のコミッションを原資とする定期預金と適宜合体されていて、預金を取り崩して日本に持ち帰る場合、香港のコミッション分がどれだけあるか判然としない状態になっていたことの三点については、いずれも事実を誤認したものであるし、「4」被告人が、A1社長の解任後間もない昭和五七年一〇月一二日に、それまで放置しておいた香港のコミッション収入について、急遽概算で税額一億九〇〇〇万円を増額する修正申告をしたこと、「5」D59社からコミッションの支払に代えて取得したダイヤモンド四個のうち三個を通関手続を経ずB18及びC11を介して日本で受け取り、そのまま申告しなかったこと、「6」住宅ローンの残額五五〇〇万円の返済に当たり、B18、C8、C11と相談の上、自己の所有する鎌倉市z所在のマンションをC11に売却したように仮装し、C8をして昭和五七年五月に同人管理の定期預金を解約させて約六九〇〇万円を日本に送金させたことの三点については、それぞれ相当の理由があって行われたことであって ションをC11に売却したように仮装し、C8をして昭和五七年五月に同人管理の定期預金を解約させて約六九〇〇万円を日本に送金させたことの三点については、それぞれ相当の理由があって行われたことであって、これらの事実をもって逋脱の故意を推認することはできない、と主張する。 しかしながら、申告義務の認識及び逋脱の故意・実行行為を認めた被告人の検面調書が措信することのできるものであり、これを補強するに十分な事情も存在することは、前説示のとおりである。以下に個別に検討するように、原判決が補足説明において被告人の公判段階の弁解を排斥し、逋脱の故意を認めるに足りる間接的事実として指摘している所論「1」ないし「6」の諸点の中には、関係証拠上必ずしもそのような事実が認められないものやその事実は認められるものの直ちに被告人の逋脱の故意を裏付ける事情とはなし難いものも少なくなく、かかる意味で原判決の補足説明中には適切を欠く部分があるといわざるを得ないが、もとより、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ではないから、所論は結局採用することができない。 まず、右「1」の点については、原審証人B7〔五三・二一五三以下〕、同B6〔五〇・一三八八以下、特に一三九六〕、同B14〔五九・三四八一以下、特に三四八四〕の各供述によれば、被告人は、昭和五〇年五月の東京国税局のD8に対する税務調査に際し、A1社長及びB7総務本部長の指示で香港に派遣されたB6に対し、「香港に行ったらC8さんという人に会って、書類が出ないようによく頼んできて下さい」と指示したほか、D8の支配人B14に対しても国際電話で「私の香港にある財産、現金が明るみに出ないように、即刻ベンダーのC8のところへ行って、私の書類、帳簿が国税局の査察官の目に触れないように依頼して下さい」という趣旨の依頼をしたこと しても国際電話で「私の香港にある財産、現金が明るみに出ないように、即刻ベンダーのC8のところへ行って、私の書類、帳簿が国税局の査察官の目に触れないように依頼して下さい」という趣旨の依頼をしたことが窺われる。もっとも、国税庁調査部調査官B60の五七・一一・二四検面調書〈一六・六九一以下〉によれば、右税務調査が被告人の所得、特にコミッション収入を対象とするものではなかったと認められることは、所論のとおりである。しかし、被告人らとすれば、ベンダーに対する調査の機会に被告人の香港における資産が発覚することを危倶し、これを未然に防止しようと対策を講じることは十分にあり得ることであって、前記B7、B6、B14らの供述を虚偽と断定すべき理由は見当たらない。しかしながら、被告人が香港における資産の発覚を懸念したのが、これに対する課税を恐れたためか、A1社長との個人的関係による資産形成としてマスコミにスキャンダル扱いされることを恐れたためであるかは判然とせず、所得税逋脱の故意を認定し、あるいは被告人の原審公判廷における弁解を排斥する根拠としてはいささか薄弱といわざるを得ない。 次に、右「2」の点については、原審証人B37の供述〔八三・九五三三以下、特に九五四六〕によれば、被告人が、D24支配人代理のB37に対し、「ワールドファッションの口座は二、三の人しか知らないので、これは秘密にしておいて下さい」と発言したことが窺われる。所論のように、実際にはワールドファッション口座の存在を知っている者が二、三の関係者に止まらなかったとしても、被告人が、これが広く知れ渡ることを嫌って、B37に口止めすることは何ら不自然ではないから、B37の右供述を虚偽とすべき根拠はない。 しかし、右発言をもって、所得税逋脱の故意を裏付けるに足りないことは、右「1」と同断である。 ことを嫌って、B37に口止めすることは何ら不自然ではないから、B37の右供述を虚偽とすべき根拠はない。 しかし、右発言をもって、所得税逋脱の故意を裏付けるに足りないことは、右「1」と同断である。 次に、「3」の点については、C8作成の定期預金元帳写綴一綴《一四三》によれば、右預金元帳には、口座の種別欄に「日本円」の記載が存在するのであり、C8においては、被告人が日本から持ち込んだ資金を香港でのコミッション収入と区別可能な状態で管理していたことが窺われる。したがって、この事実を被告人が認識していたかどうかの点に疑問があるものの、客観的に判断する限り、香港における預金を取り崩して日本に持ち帰る際に香港のコミッション分がどれだけあるか判然としない状態になっていたとはいい得ないのであって、この点に関する原判決の指摘は誤りというほかない。 また、「4」の修正申告については、香港における預金の仮処分という事態に直面した被告人が、その善後策をC22税理士に相談したことから、同税理士やC23弁護士にコミッション収入の存在等を打ち明けることになり、同税理士らから自発的に申告して重加算税を避けた方がよい旨助言されて、急遽、修正申告に及んだという事情が認められる。被告人のこのような行動は、被告人が、香港におけるコミッション収入につき、かねてから納税義務のあることを知りながらこれを秘匿していた場合であっても、税理士から納税義務のあることを指摘されるまで知らなかった場合であっても、変わりはない筈である。それ故、修正申告の事実をもって、被告人がそれまで納税義務のあることを知らなかった証左とする弁護人らの所論にも、逆に、これをもって被告人の逋脱の故意を裏付けようとする原判決にも、いずれも与することはできず、この点は無色、中立と考えざるを得ない。 更に、「5」 ことを知らなかった証左とする弁護人らの所論にも、逆に、これをもって被告人の逋脱の故意を裏付けようとする原判決にも、いずれも与することはできず、この点は無色、中立と考えざるを得ない。 更に、「5」、「6」の二点は、要するに、被告人が海外で取得した資産を日本に持ち込んだ際にこれを申告しなかった、というに過ぎないから、香港でのコミッション収入は日本への持ち込み時に申告すれば足りると考えていた旨の被告人の弁解を排斥する一つの理由とはなり得るとしても、これらの行動をもって、被告人が、香港での右収入についても国内の所得と同様に申告・納税する義務があると知っていたこと、ひいては、被告人に所得税逋脱の故意が存在したことを裏付ける事情とはなし難いものというべきである(もっとも、これらの行動は、被告人の納税意識が甚だ希薄であったことの現れであるから、被告人の逋脱意思を推測させる一事情となり得ない訳ではないが、極めて間接的な事情といわざるを得ない。)。 以上のとおり、原判決の補足説明中には誤認や不適切な部分も存在するが、もとより、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認ではなく、更に原審記録及び証拠物を調査し当審における事実取調べの結果を併せて検討しても、被告人に所得税逋脱の故意・責任を認めた原判決に誤りは認められないから、論旨は理由がない。 第二節ワールドファッション宛デザイン料収入の帰属に関する控訴趣意について第一款所論の要旨(事実誤認の主張、B1六九七以下)原判決は、ワールドファッションは、D21有限公司(以下「D21」という。)のデザイン企画はもとより、何らの事業活動をしていないこと等に徴しても、被告人がD21からデザイン料名下の収入を受け取るために設立され利用されたペーパーカンパニーに過ぎない旨判示し【三三〇】、D21からワールドファソ より、何らの事業活動をしていないこと等に徴しても、被告人がD21からデザイン料名下の収入を受け取るために設立され利用されたペーパーカンパニーに過ぎない旨判示し【三三〇】、D21からワールドファソションに支払われたデザイン料収入は被告人個人に帰属する旨認定した。しかし、ワールドファッション及びD60株式会社(以下「D60」という。)の設立経緯、「D22」生産の経緯、これらに対する被告人やC24の関与状況等に照らせば、ワールドファッションは単なるペーパーカンパニーではなく、同社がD21からコミッションを受け取ることには十分な理由が存在するのであって、本件デザイン料収入はワールドファッションに帰属する。原判決は、本件デザイン料収入の帰属について事実を誤認したものであり、これが判決に影響することは明らかである。 第二款当裁判所の判断そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、D21からワールドファッションに支払われたデザイン料収入が被告人個人に帰属するものと認定した原判決は、正当として是認することができる。すなわち、被告人がD21代表者B20、同社役員B6らと話し合ってワールドファッションを設立しようとした当初の意図が、所論のようなものであったことは、関係証拠上否定できないところであるが、現実にワールドファッションが設立されたのは昭和五四年八月三一日のことであって、この段階においては、すでに香港では有能なデザイナーを見出すことができず、D21のためのデザイン企画は到底無理な状況であることが判明していたのである。それにもかかわらず、被告人は、みずから費用を負担し資本金を支払って、ワールトファッションを設立したのであって、この経緯自体に徴しても、ワールドファッションにはD21からのデザイン料収入 たのである。それにもかかわらず、被告人は、みずから費用を負担し資本金を支払って、ワールトファッションを設立したのであって、この経緯自体に徴しても、ワールドファッションにはD21からのデザイン料収入の受け皿としての役割しか予定されていなかったことが窺われるところ、被告人は、捜査段階において、ワールドファッションがいわゆるぺーパーカンパニーであって、D21からのデザイン料名下の収入を秘匿する受け皿であった旨供述しているのであり(被告人の五七・一一・三検面調書〈四三・六九五八以下〉参照)、原審第八六回公判期日においても、その後D8によって保管されるに至ったワールドファッション名義の預金について、これは全部被告人個人のものと認識している旨供述している位である〔一一六・一七七〇六以下、特に一七七〇八参照〕。そして、関係証拠によってワールドファッションの現実の活動状況等を検討しても、デザインその他の営業活動は皆無というほかない上、独立した事務所も専属の従業員もなく、経理面をみても、デザイン企画に必要な費用の支出などはなく、かえって被告人の使用するブラウスやサングラスを購入するための支出などがみられる状況である。 以上の諸点にかんがみれば、ワールドファッションは、まさしく被告人がD21からデザイン料名下の収入を取得するためのペーパーカンパニーであったと認めざるを得ず、これを否定する所論は採るを得ない。 所論は、仮に、原判示のように被告人が自己の所得の秘匿を企図してワールドファッションにプールしていたのであれば、その後に、その大半(最終的には七%のうちの五%)をD60にわざわざ取得させて日本での課税の対象とさせる理由はなく、この点から考えても、ワールドファッションが所得秘匿の受け皿に過ぎないとはいえない、と主張する。しかし、D60が本邦内において現実 )をD60にわざわざ取得させて日本での課税の対象とさせる理由はなく、この点から考えても、ワールドファッションが所得秘匿の受け皿に過ぎないとはいえない、と主張する。しかし、D60が本邦内において現実にデザイン企画の仕事をする以上、D60のオーナーでもある被告人としては、同社の活動に必要な人件費等の経費を捻出する必要があるのであって、被告人が、ワールドファッョンに入金させていたデザイン料収入の一部をD60に送金させるようにしたのは、むしろ当然のことと認められ、この事実は、本件デザイン料名下の収入の帰属に関する前記認定の妨げとなるものではない。 なお、弁護人は、当審の弁論において、ワールドファッションがいわゆるペーパーカンパニーに過ぎないとの原判決の見解を前提としても、被告人は、少なくとも、右ワールドファッション名義のコミッション収入に関しては、同社の名義によって香港で納税していたことから、改めて申告・納税する義務はないものと信じていた旨主張するが、前説示のとおり、被告人は、捜査段階において、右収入についても申告・納税義務があることを認識していた旨自白しているのであって、納税義務について被告人が誤信したものとは認められないから、右主張も採ることを得ない。 第三節 D59コミッションの年分帰属に関する控訴趣意について第一款所論の要旨(事実誤認等の主張、B1七一二以下)原判決は、D1がニューヨークの宝石商D59社(以下「D59社」という。)からダイヤモンドを買い付けた際に発生した被告人のコミッショッ中、「1」昭和五三年六月一四日の買付にかかるコミッション一万三五九四・五六米ドル及び「2」同年九月一一日の買付にかかるコミッション二万六四五三・二一米ドルについては、被告人が右コミッションの支払に代えてダイヤモンドを取得した時にコミッ かるコミッション一万三五九四・五六米ドル及び「2」同年九月一一日の買付にかかるコミッション二万六四五三・二一米ドルについては、被告人が右コミッションの支払に代えてダイヤモンドを取得した時にコミッション額相当の収入を得たものと認められ、被告人は、同五四年三月二六日に一一万七OOO米ドル相当の三カラットのダイヤモンド一個を取得したのであるから、このコミッション収入は被告人の同五四年分の所得を構成する旨判示する【三四九】。しかし、原判決が右判断の理由として挙げるところには首肯できるものがなく、本件コミッションについては、ダイヤモンドの買付がなされた時点で「収入すべき権利」が確定していたことが明白であって、右「1」「2」の各コミッション収入を昭和五三年分の所得として計上すべきものである。原判決は、右コミッション収入の計上時期等に関し、事実認定等を誤ったものであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 第二款当裁判所の判断原判決挙示の関係証拠によれば、D1のD59社からのダイヤモンドの買付に際し、被告人がコミッションを取得するようになった経緯等については、概ね原判決がその補足説明中で説示しているとおりの事実関係が認められる【三四四以下】。 その大要を摘録すれば、(a)昭和五三年春ころ、D1がD59社からのダイヤモンドの買付を決めた際、仕入本部貴金属部長B26は、被告人に対し、事前にその経過を報告した上、買付金額の二%のコミッションを支払うということで被告人の了承を得ていたところ、(b)同年六月ころの第一回の買付に当たり、武田は、被告人をD59社に同道した上、同社社長に対し、「A3は、D1にとって有力な人物であり、コミッヨンを支払うことによって取引がスムーズになる。D1がA3のコミッション分としてダイヤモンドの買付金額の二%のコミ D59社に同道した上、同社社長に対し、「A3は、D1にとって有力な人物であり、コミッヨンを支払うことによって取引がスムーズになる。D1がA3のコミッション分としてダイヤモンドの買付金額の二%のコミッションを上乗せして支払うので、このコミッションをD59社からA3に支払ってもらいたい」旨申入れてその承諾を得たが、その際、被告人は、同社長からコミッションを現金で持ち帰るか否かを尋ねられ、D59社にプールしておいて欲しい旨答え、その了承を得た、というのである。 このようにして、被告人は、D1がD59社からダイヤモンドを買い付ける都度、買付金額の二%に相当するコミッションを取得することとなり、D1が買付金額に上乗せして支払ったコミッション相当額をD59社に蓄積しておいたのであるが、その後、同社長から、ダイヤモンドの価格が上昇を続けているので、現金よりダイヤモンドの形で保有する方が有利であると勧められ、右コミッションを使用し、不足分があるときは自己資金を加えるか、将来コミッションとして受け取ることとなる金額を同社から前借する形をとって、(ア)昭和五四年三月二六日に三カラットのダイヤモンド一個(一一万七〇OO米ドル相当)を、(イ)同五五年一月一四日に一・〇三カラットのダイヤモンド一個(三万一四一五米ドル相当)を、(ウ)同年四月一七日に一・〇二カラットのダイヤモンド一個(三方四六八O米ドル相当)を、(エ)同五六年一月一三日に二・一四カラットのダイヤモンド一個(四万八一五〇米ドル相当)を、それぞれ購入しているのである(なお、昭和五五年一一月三日の第一〇回の買付までに被告人がD59社に蓄積したコミッションの額と購入したダイヤモンドの価格との対応関係の詳細は、原判決がその補足説明【三四六以下】で認定判示するとおりである。)。 以上の事実関係に関し、原 買付までに被告人がD59社に蓄積したコミッションの額と購入したダイヤモンドの価格との対応関係の詳細は、原判決がその補足説明【三四六以下】で認定判示するとおりである。)。 以上の事実関係に関し、原判決は、D1とD59社とのダイヤモントの取引においては、「買付先の選定からダイヤモンドの選別に至るまですべての過程をD1自身の活動によって行っており」、被告人にコミッションを支払うべき合理的理由がないため「会社経理の上でコミッションの支払いを表面化することができず」、「D1がダイヤモンドの買付金額に二パーセントを上乗せしてD59に支払い、同社からこの二パーセント分が被告人A3に支払われるという方法」をとらざるを得す、「コミッション支払いに関して、D1、D59、被告人A3の間において文書で明確化する方法もとることができ」なかったことを指摘した上、「D1、D59、被告人A3の三者の関係からみても、D59が現実に支払いをするか否かは不確実なものであり、D59側の支払いも言わば口約束に基づく事実上のものであったに過ぎないから」ダイヤモンドの買付がなされたとしても、被告人としてはコミッションの「受領を期待し得る立場を越えて、何らか法的保護に裏打ちされた確たる権利を有していたとは認められ」ないとして、被告人がD59からコミノションの支払に代えてダイヤモンドを取得した時(将来のコミッション分の前借があるときは、そのコミッションが発生した時)に、コミッション額相当の収入を得たものと判断している【三四七ないし三四九】。 しかしながら、D1が被告人にコミッションを支払うべき合理的理由があるか否かはD1内部の問題に過ぎないのに対し、被告人のコミッションを受け取る権利が発生、確定していたか否かは、D1、D59社及び被告人の三者間の契約関係に関わる問題である。D1は べき合理的理由があるか否かはD1内部の問題に過ぎないのに対し、被告人のコミッションを受け取る権利が発生、確定していたか否かは、D1、D59社及び被告人の三者間の契約関係に関わる問題である。D1は、D59社との取引を開始するに当たり、買付金額の二%に相当するコミッションを支払うことで被告人と合意し、更に、その支払については、D59社に対する買付金額にコミッション分を上乗せして支払い、これをD59社から被告人に支払うという方法によることとし、D1、D59社、被告人の三者間でその旨の合意が成立しているのである。右合意は諾成契約であって、契約書その他の文書が作成されることはその成立要件ではない。しかも、それは、誠実な履行を期待できないあやふやな口約束ではなく、関係当事者によりその後確実に履行されているのである。すなわち、D1は、右合意の趣旨に従い、各取引の都度D59社に上乗せ分を支払っている。そして、右上乗せ金額は、D1が被告人に支払うコミッションであって買付代金の一部ではないから、D59社においてこれを取得すべき何らの権限もなく、同社はこれを被告人に代わって受領しているに過ぎず、本来これを受け取った時点で直ちに被告人に引き渡すべきところ(現に、前記合意に際し、同社長から被告人にこれを現金で持ち帰るか否か確認している。)、前記合意に際しての被告人の希望により、同社においてこれを被告人のために預かり保管しているものであり、その管理は誠実に行われている。原判決は、同社が現実にその支払をするか否かは不確実であったというが、根拠のない憶測というほかない。万一、同社がその支払を拒むようなことがあれば、被告人が法的手段に訴えて履行を求め得ることは明らかである。以上のような事実関係の下においては、D1がD59社からダイヤモンドを買い付けた時点で、コミッシ 一、同社がその支払を拒むようなことがあれば、被告人が法的手段に訴えて履行を求め得ることは明らかである。以上のような事実関係の下においては、D1がD59社からダイヤモンドを買い付けた時点で、コミッション相当額は被告人の権利として確定し、その時点の属する年分の被告人の所得を構成するものと認めるのが相当である。これに反する原判決は、事実関係に対する法的評価を誤り、ひいては事実を誤認するに至ったもので、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点において破棄を免れない。本論旨は理由がある。 そして、D59社関係のコミッション収入の確定ないし計上時期等については、所論指摘の前記「1」及び「2」の昭和五三年中の二回分だけではなく、その後の取引における分も同様に取り扱われるべきものであって、かかる見地から関係証拠によって昭和五五年一一月までに被告人が取得したD59社関係のコミッション収入を再検討してみると、右コミッション収入は、原判示のように、(一)昭和五四年分が一五〇〇万一八九八円、(二)同五五年分が一六〇〇万三五八四円、(三)同五六年分が九七八万八八九五円ではなくて、(一)昭和五三年分(但し、起訴の対象とされていない。)が八〇一万二七五四円(円貨換算は各取引日の電信買相場(終値)による。以下同じ。)、(二)同五四年分が一二一四万一四九六円、(三)同五五年分が一九七一万二三八九円、(四)同五六年分が〇円であると認められるが、右のうち(三)の昭和五五年分については、訴訟手続上検察官主張の訴因に拘束されることになるから(検察官の冒頭C8述書中の別表10、原審記録第一冊一三九丁参照)、原判示と同額の一六OO万三五八四円の限度で認定するほかないものである。 第四節 D24からのコミッション収入に関する控訴趣意について第一款所論の要旨 表10、原審記録第一冊一三九丁参照)、原判示と同額の一六OO万三五八四円の限度で認定するほかないものである。 第四節 D24からのコミッション収入に関する控訴趣意について第一款所論の要旨(事実誤認の主張、B1七二一以下)原判決は、D24に蓄積されていたD3のコミッション二三万九七一七・O八フランスフランがD61(以下「D61銀行」という。)のD62のワールドファッションの口座に送金されたことについて、被告人には十分な認識があったと認められ、ワールドファッション名義で取得した収入は被告人の個人所得と認められる旨判示して、送金された本件コミッションは被告人のD3からの臨時収入であって、役員賞与に該当(認定賞与)する旨判断している【三五〇以下】。しかし、「1」関係証拠上明らかなように、本件コミッションは、D21がD24からD22の生地を買い付けた際にD3に支払われたものであって、D24の関係者もD3のコミッションを保管していると認識していたものであり、このようなコミッションをフランス国外に送金するに際し、手続上の障害を回避するための便法としてワールドファッションの口座が利用されただけのことである。したがって、ワールドファッション口座への入金をもって、これが直ちに被告人に帰属したものと評価すべきではなく、D3からの「預かり金」と認めるのが相当である。そして、「2」被告人は、かかる送金の事実をまったく知らなかったのであり、原判決挙示の被告人の検面調書の記載によっても、被告人は、右送金の事実を具体的に認識していなかったことが窺われるのである(被告人の五七・一一・三検面調書〈四三・六九五八以下〉参照)。また、「3」原審証人B37の供述によれば、被告人が、昭和五五年六月のヨーロッパツアーに際してB37に与えた指示は、「日本でも香港でもい (被告人の五七・一一・三検面調書〈四三・六九五八以下〉参照)。また、「3」原審証人B37の供述によれば、被告人が、昭和五五年六月のヨーロッパツアーに際してB37に与えた指示は、「日本でも香港でもいいから、とにかく送るようにして下さい」というものであったことが認められ〔八三・九五四二参照〕、右指示は、送金後日本においてD3の所得として扱われることを当然の前提としていたものであるから、被告人が本件送金にかかるコミッション収入を自己の所得として秘匿する意図がなかったことの証左というべきである。 本件コミッションを被告人の収入(認定賞与)とした上、被告人が右収入を秘匿して所得税を逋脱した旨認定した原判決は、事実を誤認したものであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 第二款当裁判所の判断そこで、関係証拠を検討するに、原審証人B37〔八三・九五二八以下〕、同B25〔七〇・六一六七以下〕、同B21〔六七・五五二四以下〕の各供述及び被告人の五七・一一・三検面調書(特に第一〇項〈四三・六九七九以下〉)等を総合すれば、D21がD24をシッパーとしてフランスやスイスから買い付けた「D22」の生地に関し、D3が取得したコミッション(D24のコミッシヨン一一%を六%に削り、D3が五%取得することとしたもの)がD24に蓄積された後、D61銀行D62のワールトファッシヨンの口座に送金されるに至った経緯については、原判決がその補足説明中に認定判示するとおりであると認められる【三五〇以下参照】。これを要するに、(a)D24に送金されたコミッションのうち、D3の取得すべき分は、フランスの為替管理上、これをD3に送金する手段がないままD24に蓄積されていたが、次第に多額になったことから、その処理に困った支配人代理のB37が、昭和五五年初めころD3のB4 の取得すべき分は、フランスの為替管理上、これをD3に送金する手段がないままD24に蓄積されていたが、次第に多額になったことから、その処理に困った支配人代理のB37が、昭和五五年初めころD3のB40に対し、D24との間で送金契約を締結するよう申し入れたところ、同人からは、D3の名前で送金契約は結べない旨の被告人の意向が伝えられた。(b)同年六月ころ以降、被告人からの強い指示に基づき、B37らにおいて送金方法を検討した結果、D61銀行の本支店間であれば送金が可能であることが判明したため、被告人にその旨を伝え、同銀行支店における口座開設を依頼したところ、同年秋ころ、B37は、被告人からプールしてあるコミッションはD61銀行D62に開設したワールドファッション名義の口座に振り込むべきことを指示され、次いでその口座番号を知らされたので、直ちに送金手続に着手し、送金理由を説明するための上申書の作成等に手間取ったものの、翌五六年二月一三日D61銀行から同銀行D62のワールドファッション口座宛に二口合計二三万九七一七・〇八フランスフランの送金手続をとり、同月一六日右口座に入金させた。(c)他方、香港側では、D21の工場長で、被告人からワールドファッションの小切手のサイン権者に指定されていたC24が、昭和五五年一〇月二七、二八の両日にかけて、D61銀行D62にワールドファッション名義の香港ドル口座及び外貨建口座を開設しており、パリからの送金をこの外貨建口座で受け入れているのである。 右事実関係によれば、被告人がD24から右ワールドファッション口座への本件送金の事実を知らなかったものとは到底考えられないところ、被告人は、前掲検面調書の第一〇項において、本件コミッションは、本来D3に入ったものであるが、日本のD3に送金する方法がなかったためにD24にプ 金の事実を知らなかったものとは到底考えられないところ、被告人は、前掲検面調書の第一〇項において、本件コミッションは、本来D3に入ったものであるが、日本のD3に送金する方法がなかったためにD24にプールされていたものであり、被告人自身がD3のオーナーでもあるので、D3に送金できないなら香港に送らせて自分個人の裏金にしてしまおうと思い、B37に送金を依頼したものである旨自供した上、D61銀行のD62にワールドファッションの口座を開設したのはC24と思う、それをC24に指示したことの明確な記憶を呼び起こすことはできないが、自分の指示なくC24が独断でする訳はないから、自分の指示によることは間違いない旨述べているのである〈四三・六九七九以下〉。なるほど、右供述調書中に、本件送金の具体的事実やD61銀行D62のワールドファッション口座開設につき、明確には思い出せない旨の記載が存在することは、所論「2」に指摘のとおりであるが、B37やC24が被告人の指示なくして、かかる送金や口座開設をする筈はないのであるから、右記載をもって、本件送金に関する被告人の認識がなかったことの根拠とするに由ないところである。また、被告人が、昭和五五年六月ころの段階において、B37に対して、「日本でも香港でもいいから、とにかく送るようにして下さい」旨依頼したことは、所論が指摘するとおりであるが、被告人は、その後、D3の名義での送金契約の締結ができない以上、同社への送金が困難であることを知り、結局、同年秋にD61銀行D62にワールドファッション口座を開設して、同口座に送金することを決めた段階においては、これを個人の所得として秘匿することにしたものと認められるから、この点の所論「3」も採ることができない。 なお、所論は、被告人は、以前、D1が「D22」の広告宣伝に当たって起 決めた段階においては、これを個人の所得として秘匿することにしたものと認められるから、この点の所論「3」も採ることができない。 なお、所論は、被告人は、以前、D1が「D22」の広告宣伝に当たって起用したフランスの女優C25から特別謝礼金の支払を要求され、担当者のB6らがその取扱に苦慮していた際、同人と相談し、その一部として一OOO万円をD1のために用立てたことがあるが、D24からの本件送金は、その時期、金額等に照し、右C25関係の返済金であった可能性がある、と主張する。しかし、記録を調査して検討しても所論のような事情の存在を窺わせるに足る証拠はなく、右所論は採用の限りでない。 してみると、被告人は、D3の実質的オーナーとして、本来D3に帰属していたコミッションではあるが、香港への送金を契機として、これを自己の個人の収入として秘匿することを決意して、これを実行したものと認められるから、本件送金につき被告人個人のコミッション収入(D3からの認定賞与)とした原判決は正当であって、その他、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討しても、D24からの送金にかかる本件コミッションの帰属等に関する原判決の認定に誤りはない。論旨は理由がない。 第五節必要経費に関する控訴趣意について第一款所論の要旨(事実誤認・法令の解釈適用の誤りの主張、B1七二六以下)原判決は、原審弁護人らの主張を排斥し、被告人が、「1」ワールドファッション名義(合計二四万五九〇二香港ドル)及びD63(以下「D63」という。)名義(二三万八〇〇一香港ドル)で香港政庁に納付した昭和五五年分の所得税額については、いずれも、被告人が、香港における自己の収入を隠匿するため、収入の帰属主体を仮装したことに伴い、それぞれの名義で納付したものであって、「 港ドル)で香港政庁に納付した昭和五五年分の所得税額については、いずれも、被告人が、香港における自己の収入を隠匿するため、収入の帰属主体を仮装したことに伴い、それぞれの名義で納付したものであって、「このような支出は所得税法四六条の予想しないもの」である旨判示して【三五七】、「2」ワールドファッションのデザイン業務を担当したC24に支払った給料(一五万八〇〇〇香港ドル)及び旅費(四万一九二八・六二香港ドル)については、C24が被告人のデザイン料名義の収入を獲得するためにもこれを管理するためにも必要な活動をしていないこと、ワールドファッションは被告人の収入を秘匿するための仮の帰属主体にほかならないこと等にかんがみ、ワールドファッションの名義上の代表者になることを依頼したことに伴う名義料的なものである旨判示して【三五八】、「3」D63名義の銀行口座に関しD63に支払った名義借用料(六〇〇〇香港ドル)については、「2」と同様、被告人の収入を秘匿するためのものである旨判示して【三五八】、それぞれの必要経費性を否定した。 しかしながら、 1 ワールドファッションが被告人の収入を隠匿するためのペーパーカンパニーである旨の認定が誤りであることはさておき(第二節第一款参照)、所得税法四六条により外国税額の必要経費算入が認められるのは、同一の所得について、その所得の源泉地国において課税対象とされ、かつ、現に納税しているという事実そのものによるのである。すなわち、同一所得につき二重課税がされているという事実が重要なのであって、それが誰の名義でなされているかは問題とならない筈であるから、何ら根拠なく所得税法四六条の適用を排除した原判決は、外国税額控除法によるか必要経費算入法によるかの選択を認めた所得税法四六条、九五条一項の解釈適用を誤ったものである。 ならない筈であるから、何ら根拠なく所得税法四六条の適用を排除した原判決は、外国税額控除法によるか必要経費算入法によるかの選択を認めた所得税法四六条、九五条一項の解釈適用を誤ったものである。 2 C24は、ワールトファッションの設立以降、同社のパートナーとして、また、D21の工場長として、これに相応する業務に従事していたのであるから、同人に対する給料等は、デザイン料所得を生ずへき業務について発生した経費であって、これを否定した原判決は誤りである。原判示のような理由であれば、ワールドファッションのもう一人のパートナーであるC8にも名義使用料の趣旨で給料が支払われて然るべきところ、そのような事実はないのであって、このことは、C24に対する給料等が原判示のような名義料的なものではないことの証左である。 3 被告人は、自己が取得するコミッションが増加してきたことから、個人名義の口座を設けようとしたが、香港に住居所をもたない被告人が同地で預金口座を設けることは極めて困難であったため、C8の協力を得て同人の従業員の妻であるD63の名義を借用したのであって、その際脱税のために収入の帰属主体を仮装するなどという意図はまったくなかったのであるから、右口座借用の費用はコミッションを得るための必要経費に当たるものというべきであり、これを否定した原判決は誤りである。 第二款当裁判所の判断第一項外国所得税に関する主張について関係証拠によれば、「1」ワールドファッション口座から、昭和五六年一月八日に二〇万七〇七六香港ドル、同年四月九日に三万八八二六香港ドル、「2」D63口座から、昭和五六年一月八日に二三万八〇〇一香港ドルが、それぞれ引き出されていることが認められるところ、これらの出金は、ワールドファッション及びD63名義による香港政庁への所得税の申 「2」D63口座から、昭和五六年一月八日に二三万八〇〇一香港ドルが、それぞれ引き出されていることが認められるところ、これらの出金は、ワールドファッション及びD63名義による香港政庁への所得税の申告、納付に充当されたものであると説明されており(原審証人B21の供述〔六八・五七〇九以下〕、同B23の供述〔六九・六〇八一以下〕等参照)、これに反する証拠はない。 しかし、これらの口座の原資となったのは、被告人のコミッション収入であり、ワールドファッションらは被告人の所得を秘匿するため単にその名義を利用させていたに過ぎないことが明らかであるから、ワールドファッションらには何らの所得も発生しておらず、納税義務が生ずべきいわれはない。 <要旨第三>他方、納付にかかる金額を実際に出捐したのが被告人であるからといって、ワールドファッションらによる</要旨第三>納税を被告人による納税とみなすことはできない。申告納税制度の下においては、納税申告は納税義務の確定という公法上の効果の発生を来す要式行為であって、納税義務者が第三者名義でその納税申告をすることは、法のまったく予定していないところであり、納税義務者本人の納税申告としてその納税義務の確定という公法上の効果を生ずることはなく、納税義務の確定がない限り有効な納付もなし得ないことは明らかである(最高裁昭和四六年三月三〇日第三小法廷判決・刑集二五巻二号三五九頁参照)。外国でなした所得税の納付につき所得税法九五条一項による外国税額控除を受け、又は同法四六条によるその必要経費算入をしょうとする場合もこれと同断であって、当該外国税額の納付が第三者の名義でなされることは、法のまったく予定していないところであり、納税義務者本人につき、当該外国税額納付の法律効果を認めることはできないものというべきである(ちなみに、納 当該外国税額の納付が第三者の名義でなされることは、法のまったく予定していないところであり、納税義務者本人につき、当該外国税額納付の法律効果を認めることはできないものというべきである(ちなみに、納税義務のないワールドファッションらによる過誤納は、それ自体として香港政庁との間で解決されるべき問題であって、これを被告人に関する所得計算の中で処理すべきものではない。)。原判決はこれと同旨を説示するものであって、もとより正当である。これに反する所論は、独自の解釈に立脚するものというほかなく、到底採用の限りでない。 第二項 C24に支払った給料・旅費に関する主張についてC24に支払った給料及び旅費については、同人が被告人のデザイン料名義の収入の取得及び管理に必要な活動をしていないこと、ワールドファッションの事業としての実態が前記のとおり(第二節第二款参照)であったと認められることにかんがみれば、所論指摘の諸点を考慮しても、被告人の収入の帰属主体を仮装するための費用、換言すれば、脱税のための経費と認めるほかないのであって、ワールドファッションの共同経営者として名前を連ねたC8に対し名義使用料的なものが支払われていないことは、右結論を左右するものではない。C24に支払った給料等につき必要経費性を否定した原判決は正当であって、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討しても、この点について原判決に事実の誤認はなく、論旨は理由がない。 第三項 D63に支払った名義使用料に関する主張についてD63に支払った名義使用料については、右支払に至る経緯に関する所論指摘の事情を考慮しても、ワールドファッションの事業としての実態が前記のとおり(第二節第二款参照)であったと認められる以上、結果的には被告人の収入の帰属主体を仮装するた 右支払に至る経緯に関する所論指摘の事情を考慮しても、ワールドファッションの事業としての実態が前記のとおり(第二節第二款参照)であったと認められる以上、結果的には被告人の収入の帰属主体を仮装するための費用、換言すれば、脱税のための経費に過ぎないと認めるのが相当であって、その旨認定して、その必要経費性を否定した原判決は正当であって、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討しても、この点について原判決に事実の誤認はなく、論旨は理由がない。 第六節結論以上、第一節ないし第五節のとおりなので、所得税法違反関係の各所論のうち、D59コミッションの年分帰属に関する所論には理由があり、その余の所論には理由がない。 なお、所論の中には、香港におけるコミッション収入について、ワールドファッション口座分の約一二〇万香港ドル、D64公司(D64)口座分の約四八万米ドル及び約二二万香港ドルは、保管していたC8とD8との間で昭和五七年一〇月八日に和解が成立し、その履行としてC8からD8とオーキッド・ファッションに支払われており、D63口座分の約一三五万米ドル及び約五万香港ドルも、同年一一月ないし同五八年三月ころまでの間にC8からD8に支払われているところ、これらの金員は、D8側の見解に従えば、被告人が違法に取得したもので、D8側において返還請求権を正当に行使したことになるから、少なくとも本件公訴提起前にD8に返還されている分については、被告人の課税所得を構成しないものと取り扱われるべきである旨の主張が存在するが(B1七四五以下)、所論指摘の金員は、D8において紛争解決まで預かり金として処理されているに過ぎず、所論のようにD8に返還されてしまったものではないから(仮に、昭和五七年に返還されたものと解するとしても、それは同年度 論指摘の金員は、D8において紛争解決まで預かり金として処理されているに過ぎず、所論のようにD8に返還されてしまったものではないから(仮に、昭和五七年に返還されたものと解するとしても、それは同年度の損失として処理すべきものである。)、右の主張は前提において失当というほかない。 終章各控訴趣意に対する判断の総括以上のとおりであって、原判決は、「1」被告人両名の直輸入商品関係特別背任事件中、香港コミッション関係の事実(原判示罪となるべき事実の(一)の2)及び「2」被告人A3の所得税法違反の事実(原判示罪となるべき事実の(三)の1ないし3)について、それぞれ事実を誤認するなどしたものであって、これらの誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるところ、原判決は、被告人A1につき、右「1」の事実にかかる罪と原判示のその余の罪とを刑法四五条前段の併合罪として一個の刑を科し、被告人A3につき、右「1」「2」の各事実にかかる罪と原判示のその余の罪とを刑法四五条前段の併合罪として一個の刑(懲役刑及び罰金刑)を科しているので、結局その全部について破棄すべきものである。 そこで、刑訴法三九七条一項、三八二条により、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い、各被告事件につき更に次のとおり判決する。 第三部自判I 罪となるべき事実第一被告人A1は、D1の代表取締役として同社の業務全般を統括していたもの、被告人A3は、D65の代表取締役であるとともにD3の実質的な経営者であったものであるところ、被告人両名は、共謀の上、被告人A1において、D1が商品を仕入れるに当たり、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入に伴う無用の支出を避けるべき任務を有していたにもかかわらず、これに背き、D65の利益を図る目的をもって、昭和五三年八月ころから同五七年七月ころま れるに当たり、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入に伴う無用の支出を避けるべき任務を有していたにもかかわらず、これに背き、D65の利益を図る目的をもって、昭和五三年八月ころから同五七年七月ころまでの間、D1が海外で買い付け、D3を介して輸入した商品について、更にD65を経由して仕入れる合理的な理由がないにもかかわらず、これをことさらD3からD65に転売させた上でD1が仕入れ、これによるD65の差益額(D65のD3からの仕入価額とD1への納入価額の差額)合計一五億七七四五万七四六七円(別紙(一)「準直商品差益額の内訳」参照)を含む合計一〇九億〇六四一万八二九七円を、仕入代金として、昭和五三年八月二五日ころから同五七年九月六日ころまでの間、東京都中央区ab丁目c番d号所在D4銀行a支店のD1の当座預金口座から同都港区ef丁目g番h号所在同銀行e支店のD65の当座預金口座に振込入金し、もって、D1に対し右一五億七七四五万七四六七円相当の損害を加えたものである。 第二被告人A1は、D1の代表取締役として、同社の業務全般を統括し、同社のため忠実にその業務を遂行すべき任務を有していたものであるところ、D18に対する自宅の改修工事代金をD1の計算において支払うことを企て、右任務に背き、自己の利益を図る目的をもって、昭和五五年三月一日ころ、D1がD18との間で、D1の使用する各種ケースに関するリース契約を締結するに際し、D18が希望価格として見積り提示したリース料金に多額の上乗せをした不当に高額のリース料金を支払うこととした上、同年三月二五日ころから同五七年九月六日ころまでの間、右契約に従い、D18の見積ったリース料金との差額八七四二万一九〇〇円を含む合計二億六九八三万九五六〇円を東京都中央区ab丁目c番d号所在D4銀行a支店及び同銀行D9支店 七年九月六日ころまでの間、右契約に従い、D18の見積ったリース料金との差額八七四二万一九〇〇円を含む合計二億六九八三万九五六〇円を東京都中央区ab丁目c番d号所在D4銀行a支店及び同銀行D9支店のD1の当座預金口座から同都豊島区mn丁目o番p号所在同銀行D19支店及び同銀行D20支店のD18の当座預金口座に振込入金し、もって、D1に対し八七四二万一九〇〇円相当の損害を加えたものである。 第三被告人A3は、D3、D65及びA3アクセサリー学院を経営するかたわら、D1が買い付ける商品に関し、D8あるいは香港在住の納入業者を介して手数料収入を得ていたほか、香港在住のD1の関連会社D21からD1のオリジナル婦人服「D22」に関するデザイン料収入等を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右手数料、デザイン料等の支払を受けるに当たり、香港の法人名義又は他人名義を用いるなどの不正な方法により、その所得を秘匿した上、一昭和五四年分の実際総所得金額が一億一九〇八万四二〇二円(別紙(二)(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同五五年三月一五日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が五三四〇万三九一四円で、これに対する所得税額が一七四三万七二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(当庁昭和六三年押第七d号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額六四九七万八四〇〇円と右申告税額との差額四七五四万一二〇〇円(別紙(二)(2)税額計算書参照)を免れ、二昭和五五年分の実際総所得金額が一億九一二万二〇七六円(別紙(三)(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同五六年三月一六日、前記渋谷税務署において、同税 )税額計算書参照)を免れ、二昭和五五年分の実際総所得金額が一億九一二万二〇七六円(別紙(三)(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同五六年三月一六日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が八一三一万九九七四円で、これに対する所得税額が二七八七万〇六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一〇三二万一三〇〇円と右申告税額との差額八二四五万〇七〇〇円(別紙(三)(2)税額計算書参照)を免れ、三昭和五六年分の実際総所得金額が二億八一一三万一〇二九円(別紙(四)(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同五七年三月一五日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が一億一〇八三万二三七〇円で、これに対する所得税額が一八三九万七一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億四二一八万八三〇〇円と右申告税額との差額一億二三七九万一二〇〇円(別紙(四)(2)税額計算書参照)を免れたものである。 Ⅱ 証拠(省略)Ⅲ 法令の適用一罰条 1 被告人両名の判示第一の所為につき、包括して昭和五六年法律第七四号附則二七条により同法による改正前の商法四八六条一項、刑法六〇条(被告人A3には背任罪の身分がないので、刑法五六条一項、二項により、平成三年法律第三一号による改正前の刑法二四七条の刑を科す) 2 被告人A1の判示第二の所為につき、右改正前の商法四八六条一項 3 被告人A3の判示第三の一及び二の各所為につき、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二 条の刑を科す) 2 被告人A1の判示第二の所為につき、右改正前の商法四八六条一項 3 被告人A3の判示第三の一及び二の各所為につき、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項、二項、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項、二項に該当するが、刑法六条、一〇条により軽い行為時法を適用。同第三の三の所為につき、所得税法二三八条一項、二項二刑種の選択被告人A1の各罪につき、いずれも懲役刑を選択、被告人A3の判示第一の罪につき、懲役刑を選択、同判示第三の一ないし三の各罪につき、いずれも懲役刑と罰金刑を併科三併合罪の処理被告人A1につき、以上は、刑法四五条前段の併合罪、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に加重被告人A3につき、以上は、刑法四五条前段の併合罪、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により刑期の重い判示第一の罪の刑に加重、罰金刑につき同法四八条一項、二項により右懲役刑に併科、罰金額を合算四労役場留置被告人A3に対し、刑法一八条五訴訟費用被告人両名に対し、刑訴法一八一条一項本文(連帯負担につき、更に同法一八二条)Ⅳ 一部無罪の理由第二部第一章第二節第二款第三項の二において説示したとおりであって、昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実の第二(別紙(五)参照)については、犯罪の証明がないから、刑訴法三三六条により、被告人両名に対して無罪の言渡しをする。 Ⅴ 結語よって、主文のとおり、判決する。 (裁判長裁判官半谷恭一裁判官堀内信明裁判官新田誠志)別紙 (一)<記載内容は末尾3添付>別紙 (二)<記載内容は末尾4添付>別紙 (三)<記載内容は末尾5添付>別紙 (四)<記載内容は末尾6添付>別紙(五) 判官新田誠志)別紙 (一)<記載内容は末尾3添付>別紙 (二)<記載内容は末尾4添付>別紙 (三)<記載内容は末尾5添付>別紙 (四)<記載内容は末尾6添付>別紙(五) 被告人両名に対する昭和五七年一二月一日付起訴状記載の公訴事実第二の要旨被告人A1は、D1の代表取締役として同社の業務全般を統括し、商品の仕入に伴う無用な支出を避けるなど、同社のため忠実にその業務を遂行すべき任務を有していたもの、被告人A3は、D65の代表取締役であるとともにD3の実質経営者であるが、被告人両名は、共謀の上、被告人A1において右任務に背き、被告人A3の利益を図る目的をもって、昭和五四年四月から同五七年二月までの間、D1が香港を中心とする東南アジア地域から商品を買い付けるに当たり、同被告人に手数料を支払うべき合理的な理由がないにもかかわらず、D8あるいは香港在住の納入業者らをして、被告人A3に支払う手数料名下の金額合計二億六九三八万二二四二円を本来の仕入価格等に上乗せして請求させ、右請求金額を昭和五四年五月二三日から同五七年九月七日までの間、東京都中央区ai町b丁目j番d号所在のD9銀行D10外四行のD1の当座預金口座からD8あるいは右納入業者らに支払い、もってD1に対し二億六九三八万二二四二円相当の損害を加えたものである。
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