- 1 -主文本件各控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人ら(1)原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。 (2)被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2事案の概要等本判決においては,以下の略語等を使用する。 ・中華人民共和国を「中国」という。 ・東京入国管理局を「東京入管」という。 ・原審被告東京入国管理局入国審査官を単に「入国審査官」という。 ・控訴人東京入国管理局長を「控訴人東京入管局長」という。 ・控訴人東京入国管理局主任審査官を「控訴人主任審査官」という。 ・平成17年法律第66号による改正前の出入国管理及び難民認定法を「出入国法」といい,平成16年法律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法を「改正前の出入国法」という。 ・入国審査官が被控訴人に対して平成16年11月1日付けでした,平成8年12月29日付け上陸許可及び平成13年8月10日付け上陸許可の各取消処分を「本件各上陸許可取消処分」という。 ・控訴人東京入管局長が被控訴人に対して平成16年12月20日付けでした出入国法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決- 2 -を「本件裁決」という。 ・控訴人主任審査官が被控訴人に対して平成17年1月28日付けでした退去強制令書の発付処分を「本件退去強制処分」といい,当該退去強制令書を「本件退去強制令書」という。 ・平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法を「改正前の行訴法」という。 ・経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約を「A規約」という。 事案の要旨等(1)被控訴人は中国国籍を有し本邦(日本の領土。以下単に「日本」あるいは「我が国 改正前の行訴法」という。 ・経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約を「A規約」という。 事案の要旨等(1)被控訴人は中国国籍を有し本邦(日本の領土。以下単に「日本」あるいは「我が国」ともいう。)に在留するする男性であるが,入国審査官から本件各上陸許可取消処分を受け,その後,入国審査官から出入国法24条2号(不法上陸)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管特別審理官から同認定に誤りがない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長から本件裁決を受け,控訴人主任審査官から本件退去強制処分を受けた(本件退去強制処分当時17歳)。 本件は,被控訴人が,被控訴人は不法上陸当時9歳であったから不法上陸について帰責性がなく,かつ,被控訴人は9歳から日本において教育を受けており,日本での教育を継続する必要があること等を理由に,本件各上陸許可取消処分はその必要性を欠く違法があり,また,在留特別許可を付与すべきであったにもかかわらずこれを認めなかった本件裁決は違法であり,それを前提とする本件退去強制処分も違法であるなどと主張して,(ア)入国審査官に対しては本件各上陸許可取消処分の各取消しを,(イ)控訴人東京入管局長に対しては本件裁決の取消しを,(ウ)控訴人主任審査官に対しては本件退去強制処分の取消しを,それ- 3 -ぞれ求めた事案である。 (2)原判決は,次のとおりの判決をした。 ア入国審査官がした本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。 イ控訴人東京入管局長がした本件裁決を取り消す。 ウ控訴人主任審査官がした本件退去強制処分を取り消す。 (3)控訴人らは,上記(2)イ,ウを不服としてそれぞれ控訴をしたものである。 なお,被控訴人の入国審査官に対する訴えは上記(2)アの 消す。 ウ控訴人主任審査官がした本件退去強制処分を取り消す。 (3)控訴人らは,上記(2)イ,ウを不服としてそれぞれ控訴をしたものである。 なお,被控訴人の入国審査官に対する訴えは上記(2)アのとおりいずれも却下されたが,これに対する控訴はなく,この部分の判決は確定している。 関係法令の定め等本件に関連する出入国法及び改正前の出入国法の規定は,次のとおりである。 (1)出入国法24条は,「次の各号のいずれかに該当する外国人については,次章に規定する手続により,本邦からの退去を強制することができる。」とし,その2号において「入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者」と定めている。 (2)改正前の出入国法47条2項は,「入国審査官は,審査の結果,容疑者が第24条各号の1に該当すると認定したときは,すみやかに理由を附した書面をもつて,主任審査官及びその者にその旨を知らせなければならない。」と規定している。 (3)改正前の出入国法48条1項は,「前条第2項の通知を受けた容疑者は,同項の認定に異議があるときは,その通知を受けた日から3日以内に,口頭をもつて,特別審理官に対し口頭審理の請求をすることがで- 4 -きる。」とし,出入国法48条8項は,「特別審理官は,口頭審理の結果,前条第3項の認定(注:改正前の出入国法47条2項の認定に相当する。)が誤りがないと判定したときは,速やかに主任審査官及び当該容疑者にその旨を知らせるとともに,当該容疑者に対し,第49条の規定により異議を申し出ることができる旨を知らせなければならない。」と規定している。 (4)出入国法49条1項は,「前条第8項の通知を受けた容疑者は,同項の判定に異議があるときは,その通知を受けた日から3日以内に,法務省令で定める手続により,不服の事由を記載 」と規定している。 (4)出入国法49条1項は,「前条第8項の通知を受けた容疑者は,同項の判定に異議があるときは,その通知を受けた日から3日以内に,法務省令で定める手続により,不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出して,法務大臣に対し異議を申し出ることができる。」と規定し,同条3項は,「法務大臣は,第1項の規定による異議の申出を受理したときは,異議の申出が理由があるかどうかを裁決して,その結果を主任審査官に通知しなければならない。」と規定している。 (5)出入国法49条6項は,「主任審査官は,法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに,第51条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。」と規定している。 (6)出入国法50条1項は,「法務大臣は,前条第3項の裁決に当つて,異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該容疑者が左の各号の1に該当するときは,その者の在留を特別に許可することができる。」とし,その3号において,「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。」と定めている。 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨等により容易に認めることのできる事実は,その旨付記しており,その余の- 5 -事実は,当事者間に争いのない事実である(なお,前後関係から明らかなときは年の記載を省くことがある。)。 (1)被控訴人の身分事項及び入国状況等ア(ア)被控訴人は,昭和▲年(▲年)▲月▲日,中国の黒竜江省において,いずれも中国国籍を有する外国人である父P1及び母P2の間に出生した中国国籍を有する男性の外国人である。 被控訴人には,実妹として,平成▲年(▲年)▲月▲日に中国の黒竜江省において被 江省において,いずれも中国国籍を有する外国人である父P1及び母P2の間に出生した中国国籍を有する男性の外国人である。 被控訴人には,実妹として,平成▲年(▲年)▲月▲日に中国の黒竜江省において被控訴人と同じ父母の間に出生したP3がいる。 (乙2,5,6,弁論の全趣旨)(イ)P4は,日本国籍を有する女性であり,第二次大戦後に中国に残されて,中国で養育されたいわゆる中国残留邦人であるが,その後中国人と婚姻した。P4の夫の実兄の子がP1である(P1は,P4の夫の甥に当たる。)。 P4は,被控訴人が出生した昭和▲年▲月▲日より以前に,既に本邦に帰国していた。(甲9,乙7,弁論の全趣旨)イ被控訴人,P1,P2及びP3(以下「被控訴人一家」という。)は,平成8年(1996年)12月29日,中国の上海から新東京国際空港(現在の成田空港。以下,改称の前後を問わず「成田空港」という。)に到着した。 P1は,東京入管成田空港支局入国審査官に対し,真実は日本国籍を有する者の子ではないのに,日本国籍を有するP4の子であるとして,外国人入国記録の渡航目的の欄に「日本人の配偶者等」(日本人の子の趣旨)と記載して上陸申請を行った。また,被控訴人,P2及びP3は,東京入管成田空港支局入国審査官に対し,外国人入国記録の渡航目的の欄に「定居(定住)」と記載して上陸申請を行った。な- 6 -お,上陸申請の際,被控訴人の外国人入国記録の日本滞在予定期間の欄には,「1年」と記載されていた。 P1は,東京入管成田空港支局入国審査官から,在留資格を「日本人の配偶者等」(日本人の子として出生した者を含む。出入国法別表第2)とする上陸許可の証印を受け,被控訴人,P2及びP3は,在留資格「定住者」及び在留期間「1年」(平成9年12月29日まで)とする上陸許可の証印を受けた。 子として出生した者を含む。出入国法別表第2)とする上陸許可の証印を受け,被控訴人,P2及びP3は,在留資格「定住者」及び在留期間「1年」(平成9年12月29日まで)とする上陸許可の証印を受けた。 被控訴人一家は,同日,本邦に上陸した。被控訴人は,当時,9歳であった。(乙1から3まで,11,弁論の全趣旨)(2)被控訴人の在留状況等ア被控訴人は,千葉県我孫子市長に対し,外国人登録法に基づく新規登録を申請し,平成9年1月8日,外国人登録証明書の交付を受けた(乙1,4の1)。 イ被控訴人は,平成9年12月10日,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請を行い,法務大臣は,同月22日,在留期間を1年(平成10年12月29日まで)として,これを許可した(乙1,2)。 ウ被控訴人は,平成10年11月27日,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請を行い,法務大臣は,同年12月9日,在留期間を1年(平成11年12月29日まで)として,これを許可した(乙1,2)。 エ被控訴人は,平成11年12月3日,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請を行い,法務大臣は,平成12年1月25日,在留期間を3年(平成14年12月29日まで)として,これを許可した(乙1,2)。 オ被控訴人は,平成13年6月11日,法務大臣に対し,再入国許可- 7 -申請をし,法務大臣は,同日,これを1回限り有効なものとして許可した(乙1,2)。 被控訴人は,平成13年6月29日,新潟空港から中国のハルピンに向け,再入国許可による出国をした(乙1,2)。 被控訴人は,平成13年8月10日,中国のハルピンから新潟空港に到着し,再入国許可による上陸許可を受けて本邦に上陸した(乙1,2)。 カ(ア)被控訴人は,平成14年11月19日,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請を行った(乙1, 国のハルピンから新潟空港に到着し,再入国許可による上陸許可を受けて本邦に上陸した(乙1,2)。 カ(ア)被控訴人は,平成14年11月19日,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請を行った(乙1,2)。 (イ)入国審査官は,平成16年11月1日,P1がP4の子ではないことが判明したとして,P1,P2及びP3に対する平成8年12月29日付けの各上陸許可等を取り消した。また,P1は,平成16年11月1日ころ,東京入管に収容された。 入国審査官は,被控訴人(当時17歳)に対して,平成16年11月1日,本件各上陸許可取消処分をするとともに,平成9年12月22日,平成10年12月9日及び平成12年1月25日付けでした各在留期間更新許可並びに平成13年6月11日付けでした再入国許可を取り消し,さらに,上記(ア)の在留更新許可申請を終止した。入国審査官は,被控訴人に対し,平成16年11月1日,本件各上陸許可取消処分を告知した。(甲1の1及び2,乙1,2,11,24,弁論の全趣旨)(3)被控訴人の退去強制手続等ア東京入管入国警備官は,平成16年11月1日,被控訴人について違反調査を行い,その結果,被控訴人が出入国法24条2号(不法上陸)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,同年11月- 8 -16日,控訴人主任審査官から収容令書の発付を受け,11月19日,同令書を執行するとともに,同日,被控訴人を出入国法24条2号該当容疑者として,入国審査官に引き渡した。 控訴人主任審査官は,同日,被控訴人に対し,仮放免を許可した。 (乙6,8から10まで)イ入国審査官は,平成16年11月19日,被控訴人,P2及びP3について違反審査を行い,その結果,同日,被控訴人が出入国法24条2号に該当する旨の認定を行い,これを被控訴人に通知した。 被控 で)イ入国審査官は,平成16年11月19日,被控訴人,P2及びP3について違反審査を行い,その結果,同日,被控訴人が出入国法24条2号に該当する旨の認定を行い,これを被控訴人に通知した。 被控訴人は,同日,特別審理官による口頭審理を請求した。(乙11,12)ウ東京入管特別審理官は,平成16年12月3日,被控訴人について口頭審理を行い,その結果,同日,入国審査官による上記認定に誤りがない旨判定し,被控訴人にこれを通知した。 被控訴人は,同日,法務大臣に対し,異議の申出をした。(乙13から15まで)エ法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長は,平成16年12月20日,被控訴人の上記異議の申出に理由がない旨の本件裁決をした。 本件裁決の通知を受けた控訴人主任審査官は,平成17年1月28日,被控訴人に本件裁決を通知するとともに,本件退去強制令書を発付した。 東京入管入国警備官は,同日,本件退去強制令書を執行し,控訴人主任審査官は,同日,被控訴人に対し,仮放免を許可した。(甲2,乙17から20まで)オなお,P1,P2及びP3も,平成16年11月又は12月ころ,- 9 -入国審査官から,出入国法24条2号(不法上陸)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管特別審理官から同認定に誤りがない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長から出入国法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けた。控訴人主任審査官は,P1に対しては,平成16年12月20日に,P2及びP3に対しては,平成17年1月28日に,それぞれ退去強制令書を発付した。P3は,同日,仮放免されたが,P1及びP2は,退去強制令書の執行により,東京入管に収容された。 P1及びP2は,その後に,仮放免されたものの,平成17年5 28日に,それぞれ退去強制令書を発付した。P3は,同日,仮放免されたが,P1及びP2は,退去強制令書の執行により,東京入管に収容された。 P1及びP2は,その後に,仮放免されたものの,平成17年5月15日,成田空港から出国した。(甲20,弁論の全趣旨)カ被控訴人は,平成17年3月7日,本件訴えを提起した。また,P3も,同日,東京地方裁判所に,入国審査官がP3に対して平成16年11月1日付けでした,平成8年12月29日付け上陸許可及び平成13年8月10日付け上陸許可の各取消処分の取消し等を求める訴えを提起した。(甲4の1ないし4,弁論の全趣旨,当裁判所に顕著な事実)そして,被控訴人に対しては,平成18年3月28日,前記のとおりの原判決が言い渡されたが,P3に対しても,同年7月19日上記裁決及び退去強制令書の発付処分を取り消す旨の判決が言い渡され,控訴人らが控訴をした。 争点 本件の原審における主な争点は,次の(1)ないし(6)のとおりであったが,被控訴人の入国審査官に対する訴えを却下した判決部分に関しては双方から控訴がされなかったので,当審における争点は,そのうち(3)ないし(6)である。 - 10 -(本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えないし請求について)(1)本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えの適否具体的には,本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えか。 (2)本件各上陸許可取消処分の適法性具体的には,本件各上陸許可取消処分は,法令の根拠に基づかないでされた違法なものであるということができるか。また,本件各上陸許可取消処分は,手続上又は実体上,違法なものであるということができるか。 (本件裁決の取消請求について)(3)本件裁決の実体上の適法性具体的には,被控訴 ということができるか。また,本件各上陸許可取消処分は,手続上又は実体上,違法なものであるということができるか。 (本件裁決の取消請求について)(3)本件裁決の実体上の適法性具体的には,被控訴人には不法上陸について帰責性がないこと,日本で継続して教育を受けるべきこと等を理由として出入国法50条1項3号に基づく在留特別許可を付与すべきであったのに,これを付与せずにされた本件裁決は,控訴人東京入管局長の有する裁量権を逸脱するなどしてされた違法なものであるということができるか。 (4)本件裁決についての違法性の承継の有無本件各上陸許可取消処分が違法であるとして,本件裁決は,その違法性を承継するか。 (5)本件裁決の手続上の適法性本件裁決は,手続上違法なものであるということができるか。 (本件退去強制処分の取消請求について)(6)本件退去強制処分の適法性本件裁決が違法であるから,これを前提とする本件退去強制処分も違法であるか。 - 11 - 争点に関する当事者の主張の要旨上記争点に関する当事者の主張の要旨は,以下に当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決別紙「当事者の主張の要旨」のとおりであるので,これを引用する。 (当審における控訴人らの主張)(1)控訴理由の骨子被控訴人を含む一家は,残留孤児の子孫であると偽装して本邦に上陸して残留していたものである。その不法入国・在留状況は,中国残留日本人孤児を救済しようとする国民感情や中国残留日本人孤児の救済政策を悪用するもので,我が国の社会秩序あるいは法秩序を著しく乱し,悪質性の極めて大きいものである。 この点で未成年者であった被控訴人自身に責任がなかったとしても,そうであるからといって在留特別許可がされることになれば,結局,どのような違法な手段や方法を使っても,我が国 の極めて大きいものである。 この点で未成年者であった被控訴人自身に責任がなかったとしても,そうであるからといって在留特別許可がされることになれば,結局,どのような違法な手段や方法を使っても,我が国に入国しさえすれば,少なくとも,その点について責任のない親族は在留特別許可が認められるとの期待を増長させることにもなりかねず,出入国管理行政上,看過できない事態を招くものといわざるを得ない。まして,被控訴人は,本件裁決当時17歳の未成年者であったから,本国に両親と共に帰国させるべきであるとして在留特別許可を付与しなかったからといって,このような判断が裁量権の逸脱又は濫用に当たり,違法であるなどと非難されるいわれはない。 (2)本件裁決の適法性(原審における主張と基本的に同趣旨である。)ア在留特別許可の許否についての法務大臣等の裁量権(ア)そもそも,国家は,外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく,特別の条約ないし取決めがない限り,外国人を自- 12 -国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができるのであり,憲法上も,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない。 (イ)出入国法24条各号の退去強制事由に該当するということは,類型的に見て,我が国社会に滞在させることが好ましくない外国人であり,在留特別許可の許否の判断に当たっては,そのことを前提にした上で,恩恵として,当該外国人の在留を特別に許可することが我が国の国益の保持に合致するか否かを検討する必要がある。具体的には,当該外国人の滞在中の一切の行状等の個別的事情のみならず,国内の治安や善良な風俗の維 して,当該外国人の在留を特別に許可することが我が国の国益の保持に合致するか否かを検討する必要がある。具体的には,当該外国人の滞在中の一切の行状等の個別的事情のみならず,国内の治安や善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の政治,経済,社会等の諸事情,当該外国人の本国との外交関係,我が国の外交政策,国際情勢といった諸般の事情をその時々に応じ,各事情に関する将来の変化の可能性なども含めて総合的に考慮し,我が国の国益を害さず,むしろ積極的に利すると認められるか否かを判断して行わなければならない。そして,そのような判断は,国内はもとより国際的にも広範な情報を収集し,その分析の上に立って,先例にとらわれず,時宜に応じて的確かつ慎重に行う必要があり,時には高度に政治的な判断を要求される場合もあり得ることなどにかんがみれば,出入国管理行政全般について国民や社会に対して責任を負う法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねるのが適当である。 そして,以上の理は,法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長にも妥当する(以下,法務大臣及び法務大臣から権限の- 13 -委任を受けた者を合わせて「法務大臣等」という。)。 (ウ)この点は,在留期間更新の許否の判断と比較しても明らかである。すなわち,我が国に適法に在留し,期間更新について申請権も付与されている在留期間更新の許否についてさえ,更新事由の有無の判断は,法務大臣等の裁量に任され,その裁量の幅は極めて広いとされているところ,在留特別許可は,出入国法上,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人に恩恵的に与え得るものにすぎず,当該外国人には申請権も認められていないものである。 (エ)在留特別許可を付与しなかった法務大臣等の判断の適否に対する司法審査の在り方は,法務大臣等と同一の立場 国人に恩恵的に与え得るものにすぎず,当該外国人には申請権も認められていないものである。 (エ)在留特別許可を付与しなかった法務大臣等の判断の適否に対する司法審査の在り方は,法務大臣等と同一の立場に立って在留特別許可をすべきであったかどうかについて判断するのではなく,法務大臣等の第1次的な裁量判断が既に存在することを前提として,同判断が裁量権を付与した目的を逸脱し,又はこれを濫用したと認められるかどうかを判断すべきである(行訴法30条)。 そして,出入国法24条各号の退去強制事由に該当する我が国にとって好ましくない外国人を対象とする在留特別許可に係る法務大臣等の裁量は極めて広いものであり,適法に在留する外国人を対象とする在留期間更新許可に係る法務大臣等のそれと比べても質的に格段にその範囲が広いというべきであるから,在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の逸脱濫用に当たるとして違法とされるような事態は容易には想定し難いというべきであろう。 実際に,この点で違法と判断されて確定した裁判例はほとんどないといっても過言ではない。 極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても,それは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお我- 14 -が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずこれが看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた出入国法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである。 イ被控訴人一家は,中国残留日本人孤児の子孫であると偽装して本邦に入国していたこと(ア)本件のように中国残留日本人孤児の子孫を装って本邦に入国する事案は,中国残留日本人孤児やその子孫を救済しようとする国民意識や政策を悪用するものであり,悪質性の極めて 本邦に入国していたこと(ア)本件のように中国残留日本人孤児の子孫を装って本邦に入国する事案は,中国残留日本人孤児やその子孫を救済しようとする国民意識や政策を悪用するものであり,悪質性の極めて大きいものであって,こうした手段をもってする不法入国・滞在は,日本の社会秩序を著しく乱すとともに,適正な入国管理行政を阻害する程度の甚だしいものである。中国残留日本人孤児やその子孫を装って不法に入国して滞在する中国人の動機・目的は,一般に,日本で不法に滞在しつつ,就労等をし,あるいは,就学の資格・経験を得て,金銭を稼ごうという点にあるところ,その模倣性は大きく,このような違法な行為を看過することはできない。 (イ)また,本件のような偽装残留孤児等の背後には,P5を始めとする組織的犯罪組織が存在し,中国人のみならず日本人まで巻き込んだ偽装工作が行われており,かかる偽装工作に関して多額の不正な資金が流通するとともに,相当数の偽装残留孤児等が本邦に残留しているとされている。中には真の残留孤児の子孫が安易に金銭を得ようと,これら犯罪組織が企てる偽装工作に加担して,自らの親族を名乗らせるような事態も発生している。 このような組織的な偽装入国の防止のためには,この種事案に対しては,入管行政において厳正な態度で臨む必要が大きいのである。 - 15 -これを本件についていえば,被控訴人一家が身分関係を偽って本邦に不法に上陸するに際しては,中国残留日本人孤児であるP4の子であるP6が関与し,被控訴人の父・P1は,金銭の授受に関して,偽装証明書をあっせんしてくれたP7なる人物に2000元(注・邦貨換算で約3万円)を払ったとしているなど,偽装工作に関する不正な金員の授受が行われている。 (ウ)要するに,どのような違法な手段や方法を使っても,我が国に入国し P7なる人物に2000元(注・邦貨換算で約3万円)を払ったとしているなど,偽装工作に関する不正な金員の授受が行われている。 (ウ)要するに,どのような違法な手段や方法を使っても,我が国に入国しさえすれば,少なくともその点に責任のない親族は在留特別許可が認められるとの期待を増長させることになりかねず,出入国管理行政上,看過できない事態を招くものといわざるを得ない。 ウ被控訴人にはその違法な入国後の生活状況等を考慮しても,在留特別許可を認めなければならないような特別な事情があったとはいえないこと(ア)被控訴人の生活状況等原判決は,被控訴人が不法上陸してから約8年間にわたり本邦での生活を継続し,これになじんでいることについて,在留特別許可の許否の判断に当たり,これが非常に重視されるべき事情であるとする前提に立っているものと解される。 しかし,このような事情は,要するに被控訴人の不法滞在期間が長期に及んでいるということにほかならない。我が国で採用されている在留資格制度は,一方において,出入国法が,在留資格を有せず,入国管理局の管理下にないような外国人の存在を予定していないことを意味するところ,こうした出入国法に定める在留制度に反する状態が長期間継続されたからといって,出入国法の趣旨に照らし,そのような滞在が保護に値するものになることはないから,在- 16 -留特別許可の許否の判断に当たり,格別積極的に考慮されなければならない事情といえないことは明らかである。 (イ)本国へ帰国した場合の被控訴人の不利益は極めて限定的なものであること原判決は,被控訴人が本邦での生活になじんでいる一方で,本国へ帰国した場合には非常な困難が生じるであろうと推測されるとして,この点も在留特別許可の判断において重視されるべき事情と位置づけている。 し 判決は,被控訴人が本邦での生活になじんでいる一方で,本国へ帰国した場合には非常な困難が生じるであろうと推測されるとして,この点も在留特別許可の判断において重視されるべき事情と位置づけている。 しかしながら,そもそも本国に帰国した場合に本国政府に迫害される難民であるような特段の事情がない限り,在留特別許可を付与するか否かの判断に当たって,本国に戻った際の生活を積極的に考慮しなければならない理由はない。 被控訴人は,もともと中国で生まれ,9歳まで中国で暮らしたものであり,被控訴人が帰国した場合の困難としているところをみても,いずれも,未だ抽象的な不安感を誇張して述べているものというほかない。仮に帰国当初,生活様式,言語や友人関係等の面で多少の困難を感じることがあるとしても,このような事態は,親の海外転勤や国内異動等に伴う国内外への住居移転や転校においても,多かれ少なかれ生じ得るものであって,在留特別許可制度を設けた趣旨に明らかに反するような特別の事情と評価すべきものではない。 (ウ)被控訴人の在留継続の希望があるからといって在留特別許可を認めることはできないこと原判決は,本邦における在留継続を希望するか否かについての被控訴人の判断が非常に重視されるべき事情であるとの前提に立っているものと解される。 - 17 -しかし,原判決の判断は,退去強制事由の認められる外国人に,その選択によって我が国への在留を認めるというもので,入国管理制度を根本的に誤解しているものというよりほかない。およそ退去強制手続は,対象となる外国人の意思によらずに,当該外国人を国外に追放する制度であって,出入国法上,在留特別許可の許否の判断に当たり,被控訴人やその父母の希望を考慮しなければならないものではない。 (エ)被控訴人を支援する動きがあるからといってそれ 人を国外に追放する制度であって,出入国法上,在留特別許可の許否の判断に当たり,被控訴人やその父母の希望を考慮しなければならないものではない。 (エ)被控訴人を支援する動きがあるからといってそれだけで在留特別許可を付与しないことが違法になるとはいえないこと原判決の判断が,退去強制事由の認められる外国人に対し,その選択による在留を認めるというもので,入国管理制度を根本的に誤解するものであることは,前記のとおりである。また,両親が本国に送還されるべき者であることを前提とした場合に,被控訴人のように,処分時に17歳である未成年の子について,両親の監護を受けられないことによる不利益と比べて,帰国した場合の不利益や学習に対する本人の希望(選択,意思)を優先して,未成年の子のみ本邦にとどまることが最善であるか否かについては,子の福祉の観点からも種々の意見があり得るところであって,一概に原判決が判示するように断ずることができないことは明らかである。これらの事情について,考慮するか否か,また考慮するとしてどの程度重視すべきかは,正に法務大臣等の裁量にゆだねられた事項であるにもかかわらず,原判決は裁量処分における司法審査の方法を誤り,在留特別許可の許否の判断を行う法務大臣等と同一の立場に立って在留特別許可をすべきであったか否かの判断をしたものというほかなく,失当である。 - 18 -(3)本件退去強制処分の適法性控訴人主任審査官は,法務大臣から「異議の申出は理由がない」との裁決をした旨の通知を受けたときは,速やかに退去強制令書を発付しなければならないのであり(出入国法49条6項),退去強制令書を発付するにつき全く裁量の余地はない。したがって,本件裁決が適法である以上,控訴人主任審査官がした本件退去強制処分も適法であるというべきである。 ないのであり(出入国法49条6項),退去強制令書を発付するにつき全く裁量の余地はない。したがって,本件裁決が適法である以上,控訴人主任審査官がした本件退去強制処分も適法であるというべきである。 第3当裁判所の判断争点1(本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えの適否)及び争点2(本件各上陸許可取消処分の適法性)については,控訴審における審理の対象外である。 争点3(本件裁決の実体上の適法性)について(1)控訴人東京入管局長の裁量権について法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長の裁量権について検討する。 ア憲法22条1項は,日本国内における居住・移転の自由を保障するにとどまっており,憲法は,外国人の日本へ入国する権利や在留する権利等について何ら規定しておらず,外国人の日本への入国又は在留を許容すべきことを義務付けている条項は存在しない。このことは,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別な条約がない限り,外国人を受け入れるかどうか,受け入れる場合にいかなる条件を付するかについては,当該国家が自由に決定することができるとされていることと考えを同じくするものと解される。 したがって,憲法上,外国人は,日本に入国する自由が保障されていないことはもとより,在留する権利ないし引き続き在留することを要- 19 -求する権利を保障されているということはできない。 このように外国人の入国及び在留の許否は,国家が自由に決定することができるのであるから,我が国に在留する外国人は,法に基づく外国人在留制度の枠内においてのみ憲法の規定する基本的人権の保障が与えられているものと解するのが相当である(以上につき,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁,最高裁昭 おいてのみ憲法の規定する基本的人権の保障が与えられているものと解するのが相当である(以上につき,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁,最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁参照)。 イ出入国法2条の2,7条等は,憲法の前記の趣旨を前提として,外国人に対し原則として一定の期間を限り特定の資格により我が国への上陸,在留を許すものとしている。したがって,上陸を許された外国人は,その在留期間が経過した場合は当然我が国から退去しなければならないことになる。そして,出入国法21条は,当該外国人が在留期間の更新を申請することができることとしているが,この申請に対しては法務大臣が「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り,これを許可することができる。」ものと定められている。 これらによると,出入国法においても,在留期間の更新が当該外国人の権利として保障されていないことは明らかであり,法務大臣は,更新事由の有無の判断につき広範な裁量権を有するというべきである(前掲最高裁昭和53年10月4日大法廷判決参照)。 ウまた,出入国法50条1項3号は,法務大臣は,出入国法49条1項所定の異議の申出を受理し,同条3項の裁決をする場合において,異議の申出が理由がないと認める場合でも,法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,その者の在留を特別に許可す- 20 -ることができるとし,出入国法50条3項は,この許可をもって異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす旨定めている。 しかし,①前記のように外国人には我が国における在留を要求する権利が当然にあるわけではないこと,②出入国法50条1項柱書及び同項3号は,「特別に在留 出が理由がある旨の裁決とみなす旨定めている。 しかし,①前記のように外国人には我が国における在留を要求する権利が当然にあるわけではないこと,②出入国法50条1項柱書及び同項3号は,「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」に在留を特別に許可することができると規定するだけであって,この在留特別許可の判断の要件,基準等については何も定めていないこと,③出入国法には,そのほか,前記在留特別許可の許否の判断に当たって考慮しなければならない事項の定めなど上記の判断をき束するような規定は何も存在しないこと,④在留特別許可の判断の対象となる者は,在留期間更新の場合のように適法に在留している外国人とは異なり,既に出入国法24条各号の規定する退去強制事由に該当し,本来的には退去強制の対象となる外国人であること,⑤外国人の出入国管理は,国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,外交関係の安定,労働市場の安定等,種々の国益の保持を目的として行われるものであって,このような国益の保持の判断については,広く情報を収集し,時宜に応じた専門的・政策的考慮を行うことが必要であり,時には高度な政治的判断を要することもあり,特に,既に退去強制されるべき地位にある者に対してされる在留特別許可の許否の判断に当たっては,このような考慮が必要であることを総合勘案すると,前記在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられていると解すべきである。そして,その裁量権の範囲は,在留期間更新許可の場合よりも更に広範であると解するのが相当である。 したがって,これらの点からすれば,在留特別許可を付与するか否- 21 -かについての法務大臣の判断が違法とされるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが ある。 したがって,これらの点からすれば,在留特別許可を付与するか否- 21 -かについての法務大臣の判断が違法とされるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られるというべきである。 エそして,出入国法69条の2,出入国管理及び難民認定法施行規則61条の2第10号は,出入国法49条3項所定の裁決の処分権限を地方入国管理局長に委任することができる旨を規定しており,本件裁決も,上記規定に基づいて法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長が行ったものであるところ,法務大臣が出入国法49条3項所定の裁決を行う場合について,上記アからウまでに説示したことは,当然,法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長が同項所定の裁決を行う場合についても妥当する。 オなお,被控訴人は,出入国法50条1項3号は,法務大臣に「特別に在留を許可すべき事情」をあらかじめ定める権限を与え,当該外国人に「特別に在留を許可すべき事情」があると認められた場合には,日本への在留を許可するよう定めた規定であり,また,「特別に在留を許可すべき事情」の一般的要件の定立に当たっては,条約,憲法,出入国管理基本計画に従う必要がある旨を主張する。 しかし,出入国法50条1項3号の文言からすると,同号が法務大臣に「特別に在留を許可すべき事情」を定めることを要求していると見ることはできないのであり,同号は,前示のとおり,法務大臣等に極めて広範な裁量を認めたものというべきである。 また,出入国法61条の10は,法務大臣は,出入国管理基本計画に基づいて,外国人の出入国を公正に管理するよう努めなければならないと規定しているのであるから,法務大臣は,出入国管理基本計画- また,出入国法61条の10は,法務大臣は,出入国管理基本計画に基づいて,外国人の出入国を公正に管理するよう努めなければならないと規定しているのであるから,法務大臣は,出入国管理基本計画- 22 -を最大限に尊重した行政運営に努めなければならないことはもちろんであるが,同条は,努力義務を課すにすぎない表現をしているのであるから,同条を根拠にして,出入国管理基本計画に法的拘束力を認めることはできないというべきである。 したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。 カ被控訴人は,本件裁決は,被控訴人を強制送還し,被控訴人の日本における教育を受ける機会を奪う点で,A規約13条1項,2項(d),児童の権利に関する条約28条1項,3条に違反する旨を主張する。 しかし,A規約2条1項の規定が,締結国が「立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため(中略)行動をとることを約束する。」と規定するように,A規約は,方針規定としての性格が強く,A規約13条1項,2項(d)は,個人に対して即時に具体的な権利を付与すべきことを定めたものではないと解すべきである。 また,児童の権利に関する条約についても,個々の具体的権利について規定したものと見ることはできず,裁判規範として個人に直接適用可能なものではない。また,仮に,その点をさておくとしても,同条約が外国人が我が国に在留する権利までも保障したものではないことは,同条約9条4項が,父母の一方若しくは双方又は児童の退去強制の措置に基づき,父母と児童が分離されることのあることを予定していることからも明らかである。 したがって,本件裁決が,A規約13条1項,2項(d)及び児童の権利に関する条約9条1項,3条に違反するものであるとする被控訴 児童が分離されることのあることを予定していることからも明らかである。 したがって,本件裁決が,A規約13条1項,2項(d)及び児童の権利に関する条約9条1項,3条に違反するものであるとする被控訴人の前記主張は,いずれも採用することができない。 キ以上の判断の枠組みに従って,法務大臣から権限の委任を受けて,- 23 -被控訴人に在留特別許可を付与しないとした控訴人東京入管局長の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったか否かについて,更に検討することとする。 (2)認定事実前記前提事実に加え,証拠(甲9から15,16の1ないし3,17,20,22から27まで,30から32,35から42,43の1ないし6,44,46,47の1ないし4,48の1及び2,49の1及び2,乙1,4の1,6,11,13,16,47,68から70,72から74,被控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。 ア被控訴人の入国までの経緯及び入国状況等(ア)被控訴人は,昭和▲年(▲年)▲月▲日,中国の黒竜江省において出生した中国国籍を有する男性である。 被控訴人一家は,平成8年に来日するまで,中国の黒竜江省に居住していた。 被控訴人は,P1の父母(被控訴人の祖父母)について面識がなかった。P4は,被控訴人の生まれる前に日本に帰国していたが,時に中国を訪れたりし,被控訴人はその際にP4と会ったりした。 被控訴人はP1から聞かされて,P4が祖母であると考えていた。 (イ)被控訴人は,5,6歳のころ,幼稚園に入園した。また,被控訴人は,7歳になった後の平成6年(1994年)9月,地元のP8小学校に入学した。被控訴人は,小学校3年生に進級後に来日するまで,P8小学校で,国語(中国語)と算数の授業を受けた。 (ウ)P1及びP2は,被控訴人及び 後の平成6年(1994年)9月,地元のP8小学校に入学した。被控訴人は,小学校3年生に進級後に来日するまで,P8小学校で,国語(中国語)と算数の授業を受けた。 (ウ)P1及びP2は,被控訴人及びP3を伴い,平成8年12月29日に,来日した。 - 24 -被控訴人一家の上陸申請手続やその準備については,当時9歳にすぎなかった被控訴人に関するものは,被控訴人に代わって,P1又はP2が行い,被控訴人はこれに関与せず,内容も知らなかった。 なお,P1又はP2は,その後の被控訴人に係る在留期間更新許可申請や再入国申請についても,すべて被控訴人に代わって行った。 イ中国に一時帰国するまでの被控訴人の在留状況等(ア)被控訴人一家は,平成8年12月29日の来日後,千葉県我孫子市内で,P4の居宅の近くにアパートの一室を借りて居住した。 P1及びP2は,このころ,稼働を始めた。 被控訴人は,平成9年1月下旬ころ,我孫子市立P9小学校の2年生に編入入学し,通学を始めた。しかし,被控訴人は,日本語がほとんど分からなかったため,算数以外の授業の内容を全く理解することができなかった。被控訴人は,P9小学校において,中国語のできる通訳から,毎日約1時間,日本語を教わった。 (イ)被控訴人一家は,平成9年4月ころ,P1が別の仕事に就いたため,千葉市αに転居した。 被控訴人は,同月ころ,千葉市立P10小学校に転校し,3年生になった。しかし,被控訴人は,日本語が分からなかったため,授業の内容をほとんど理解することができなかった。また,P10小学校には,日本語をほとんど知らない被控訴人に対して,日本語を教える教師等がいなかったため,被控訴人は,ほとんど日本語の勉強をしなかった。 (ウ)被控訴人一家は,平成10年7月ころ,千葉市βの公営住宅に転居し,これに伴って, ない被控訴人に対して,日本語を教える教師等がいなかったため,被控訴人は,ほとんど日本語の勉強をしなかった。 (ウ)被控訴人一家は,平成10年7月ころ,千葉市βの公営住宅に転居し,これに伴って,被控訴人は,そのころ,千葉市立P11小学校に転校した(4年生)。 - 25 -P11小学校では,日本語教室が週に2,3回開かれていた。被控訴人は,ここで初めて日本語を本格的に教わるようになった。 被控訴人は,P11小学校で,教員であるP12と出会い,P12から,日本語を教わるようになった。被控訴人は,当時,日本語については,最低限の日常会話はできたものの,単語をつなげて話をしている状態であった。また,被控訴人は,平仮名を書くことができたものの,漢字を書くことはほとんどできず,日本語の助詞の「て,に,を,は」や,よう音の「っ」を習得していなかったことから,作文を書くことができなかった。P12は,工夫を凝らして被控訴人に日本語を教えた。 被控訴人は,負けず嫌いでかつ努力家であり,日本語で年賀状を書いたものの,他の外国人の児童よりも記載した量が少ないことを気にして,休み時間を利用して全部を書き直したこともあった。 (エ)被控訴人は,P12がP11小学校から転勤した後の小学校5年生以降も,日本語の勉強を続けた。 被控訴人は,小学校6年生のころから,土曜日や平日の夜に,学校外の2,3か所の日本語教室に通い,日本語を勉強するようになった。被控訴人は,学校外の日本語教室で,同じ境遇を持つ中国国籍の友人を多く作ることができ,仲間同士で,日本語の勉強に励むようになった。 被控訴人は,学校外の日本語教室に通い始めて間もなく,小学校低学年のレベルの試験である日本語能力試験4級に合格した。 被控訴人は,日本語を学ぶにつれ,小学校の授業の内容も次第に理解できるよう った。 被控訴人は,学校外の日本語教室に通い始めて間もなく,小学校低学年のレベルの試験である日本語能力試験4級に合格した。 被控訴人は,日本語を学ぶにつれ,小学校の授業の内容も次第に理解できるようになり,小学校6年生のころには,小学校の授業で教師が話した内容の約半分を聞き取ることができるようになった。 - 26 -(オ)被控訴人は,平成13年3月に,P11小学校を卒業し,同年4月に,千葉市立P13中学校に入学した。被控訴人は,中学校に入学したころには,授業で使われている日本語をほとんど聞き取ることができるようになり,会話も自然にすることができるようになった。 そして,中学校1年生のころには,小学校高学年のレベルの試験である日本語能力試験3級に合格した。 被控訴人は,その後も学校外の日本語教室に通い続け,本件退去強制処分後の平成17年5月13日に千葉市の里親宅に居住するようになるまで続けた。 ウ中国への一時帰国(ア)被控訴人一家は,被控訴人が中学校1年生であった平成13年6月29日に,再入国許可を得て,新潟空港から出国をし,中国の黒竜江省のハルピンに行った。被控訴人は,ハルピンに到着した後の約1か月間は,中国にいる親戚に会ったり,遊んだりしていた。 (イ)被控訴人及びP3は,P1の意向もあって,中国滞在中の平成13年7月下旬に約1週間,学校の教師をしていた被控訴人の親戚から,中国語の授業を受けた。授業は,小学校1年生の国語(中国語)の教科書を使って,ピンイン(日本でいう仮名の50音表に相当するもの)や漢字の勉強を中心に行われた。被控訴人は,約1週間の授業を受けた後,中国の小学校1年生が習得すべき漢字については読むことができるようになったが,それらの漢字を書くことはできなかった。 被控訴人及びP3に中国語の授業を行っていた親戚 人は,約1週間の授業を受けた後,中国の小学校1年生が習得すべき漢字については読むことができるようになったが,それらの漢字を書くことはできなかった。 被控訴人及びP3に中国語の授業を行っていた親戚の教師は,上記授業の後,被控訴人に対して,中国で小学校4,5年生の勉強を- 27 -することすら無理であると説明した。 エ再入国後の被控訴人の在留状況等(ア)被控訴人一家は,約1か月余り中国に滞在した後,平成13年8月10日,中国のハルピンから新潟空港に到着し,再入国許可による上陸許可を受けて本邦に上陸した。 被控訴人は,日本に再入国後,再び,P13中学校(1年生)に通うようになった。その後,被控訴人は学習に励み,教科の成績は,中学校1年生の2学期から中学校3年生にかけて,次第に上がっていった。また,被控訴人は,生活態度がまじめで,意欲的に授業に取り組み,友達とも仲良くしていた。 被控訴人は,中学校では,課外活動として,技術部に入部し,次第に,機械,電気やコンピュータに興味を持つようになり,工業高校への進学を希望した。 そこで,被控訴人は,中学校3年生の1学期ころから受験勉強を始め,平成16年1月に千葉県立P14高等学校の推薦入学試験を受験し,作文と面接からなる推薦の試験に合格した。 (イ)被控訴人は,平成16年3月にP13中学校を卒業し,同年4月,千葉県立P14高等学校電子工業科へ入学した。被控訴人は,高校入学後も,意欲的に学習を続け,1年生の1学期から2学期にかけても,教科の成績を上げ,成績の平均は中位以上であって,更に成績は向上する傾向にあった。 被控訴人は,高校において,運動委員を担当するとともに,特に問題なく友達の輪に溶け込み,規則正しい,落ち着いた生活を送ってきた。また,被控訴人は,高校において,与えられた課題をきちん 向にあった。 被控訴人は,高校において,運動委員を担当するとともに,特に問題なく友達の輪に溶け込み,規則正しい,落ち着いた生活を送ってきた。また,被控訴人は,高校において,与えられた課題をきちんとこなしており,授業にも前向きに取り組んでいる。高校の教員- 28 -は,被控訴人について,地道な努力をするという長所を持つと評価しており,被控訴人が中国人であることを意識することはない。 なお,被控訴人は,中学卒業後は,ファミリーレストランでアルバイトをするようになった。 (ウ)被控訴人は,高校に進学した後の平成16年11月1日に本件各上陸許可取消処分を受けたが,そのときに,東京入管の職員から説明を受けて,初めて,P4がP1の母親ではなく,自分が日本人と血縁関係がないことを知った。 (エ)被控訴人につき平成16年12月20日に本件裁決がされ,被控訴人は,平成17年1月28日本件裁決の通知を受けるとともに本件退去強制処分を受けた。 その後,被控訴人及びP3は,P1に続いてP2も収容されたため,2人で生活することとなった。被控訴人は,それまで行っていたファミリーレストランでのアルバイトに加え,新聞配達のアルバイトも始めた。 被控訴人は,自分の将来についても考え,両親が日本にいられなくなっても,自分は日本で勉強を継続したいと考え,平成17年3月7日に,本件訴えを提起した。 P1及びP2は,それぞれ一時仮放免されたものの,平成17年5月15日に中国に帰国した。 被控訴人一家は,後記「P15」とも相談し,P1及びP2の帰国に先立ち,千葉市児童相談所に相談に行き,被控訴人及びP3は,里親委託制度の適用を受け,平成17年5月13日から,千葉市内の里親宅に居住することとなった。なお,里親委託制度においては,被控訴人及びP3のために,1か月に1人当たり に行き,被控訴人及びP3は,里親委託制度の適用を受け,平成17年5月13日から,千葉市内の里親宅に居住することとなった。なお,里親委託制度においては,被控訴人及びP3のために,1か月に1人当たり,一般生活費とし- 29 -て4万8210円,就学費として2万2100円等の支給がされることとなっており,高校を卒業するまで,この制度を利用することができることとなった(もっとも,後記のとおり,里親側の事情で里親制度の適用を続けていくことが困難な状況になったことから,現在は,被控訴人とP3の2人で生活している。)。 被控訴人は,P1及びP2と離れて生活しなければならない寂しさに耐えながら,引き続き,勉学に励んだ。被控訴人は,高校2年生の1学期及び2学期(平成17年)には,全教科の成績の平均が,いずれも学年で9位になるなど,優れた成績を修めており,特に,数学及び電子回路の科目の成績は優れている。 (オ)被控訴人は,本件裁決の以前から,日本に残留して大学へ進学し,電気やコンピュータの関係の会社に就職し,(日本の)社会に役立つことをしていきたいと強く希望していた。 そして,被控訴人は,原判決後の平成18年10月,P16大学工学部電気電子情報工学科に合格した(甲41)。被控訴人は,必要な学費等について,奨学金を利用することなどを考えている。 オ本件裁決当時及び現在の被控訴人の状況等(ア)被控訴人は,平成8年に来日して以降,中国に一時帰国した時を除いて,家庭内でP1及びP2と会話をするとき以外には,中国語を使うことがなかった。また,被控訴人は,来日して以降約8年間にわたり,日本人の児童や生徒と同様に,日本語による授業を受けてきた。前記のとおり,平成13年に1か月余り中国に帰国した際に,約1週間中国語の授業を受けたが,ごく短期間であったため, 以降約8年間にわたり,日本人の児童や生徒と同様に,日本語による授業を受けてきた。前記のとおり,平成13年に1か月余り中国に帰国した際に,約1週間中国語の授業を受けたが,ごく短期間であったため,中国語を習得するには至らなかった。 そのため,本件裁決当時,被控訴人は,中国語で簡単な日常会話- 30 -をすることができるが,中国語による読み書きをほとんど行うことができない状況であった。他方,日本語による会話や読み書きについては,問題なく行うことができるようになっていた。 (イ)被控訴人は,中学校,高校を通じて,本件裁決当時まで,非行歴はなく,犯罪行為,問題行動等も認められなかった。被控訴人は,本件裁決後,妹と2人だけで暮らすようになったり,また,里親の下で生活するようになってからも,非違行為はなく,むしろ模範的な高校生生活を継続してきた。 (ウ)P12やその協力者たちは,被控訴人及びP3を支援するため,被控訴人及びP3の在留を求める嘆願書を191通集め,平成16年12月3日,東京入管に提出した。P12等は,被控訴人及びP3の在留が認められるため継続的かつ組織的に活動することができるように,同年12月11日,「P15」を設立した。P15は,更に嘆願書を集めたほか,被控訴人及びP3に対する学習支援等を行い,訴訟費用の準備のために,支援者から資金を集めた。 また,P15の会員を中心として,本件訴え提起後の平成17年9月1日には,被控訴人及びP3の日本での生活一般の支援や進学の相談,学習の支援,支援金の収集,拠出等を行う目的で「P17」が設立された。 被控訴人は,進学や生活上の問題等については,P12又はP17のメンバーに相談しており,同人たちから物心両面の支援を受けている。 (エ)被控訴人は,前記の里親の下で生活しているときは,P17 た。 被控訴人は,進学や生活上の問題等については,P12又はP17のメンバーに相談しており,同人たちから物心両面の支援を受けている。 (エ)被控訴人は,前記の里親の下で生活しているときは,P17の支援もあるため,生活費や学費,小遣い等の心配をする必要はなくなり,被控訴人は,里親の家に入居して以降,アルバイトはしてお- 31 -らず,勉学にいそしんでいた。 その後,平成18年5月末日限りで里親側の事情で里親制度の利用が困難な状況になったことから,現在は,被控訴人とP3の2人で生活することになった。兄妹2人での生活は,同P17が中心となってアパートを見つけて契約金を支払い,必要な家財道具を協力者から集め,様々な援助を行っている。 (3)控訴人東京入管局長の判断における裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無についてア(ア)前記のとおり,本件各上陸許可取消処分の取消しを求める訴えは,いずれも却下され,その部分の判決は確定している。そして,行政処分には公定力があることから,本件各上陸許可取消処分は,有効なものということができるのであって(なお,本件各上陸許可取消処分に無効事由があるとは認められない。),被控訴人は,遡及的に,平成8年12月29日及び平成13年8月10日に,いずれも上陸許可を受けずに本邦に上陸したことになる。 そうすると,被控訴人は,出入国法24条2号に該当するというべきである。 (イ)他方,前記前提事実及び前記認定事実によると,①被控訴人は,9歳の時に,P1が,日本国籍を有するP4の子であると偽って来日した際に,その事情を知らずに,P1及びP2に連れられて我が国に入国したのであり,上陸申請やその後の在留期間更新等の手続に被控訴人は関与せず,すべてP1又はP2が行ったものであること,②被控訴人は,中国で出生したものの ずに,P1及びP2に連れられて我が国に入国したのであり,上陸申請やその後の在留期間更新等の手続に被控訴人は関与せず,すべてP1又はP2が行ったものであること,②被控訴人は,中国で出生したものの,中国では,小学校3年生の初めまで小学校の授業を受けたにすぎなかったこと,③被控訴人は,来日後,千葉県内の小学校の2年生に編入し,その- 32 -後も,千葉県内の小学校,中学校及び高校に通学してきたこと,④被控訴人は,9歳の時に来日した当初は日本語が全く分からなかったものの,小学校内の日本語教室で学んだり,学校外の日本語教室に通うなどの努力を続けて,本件裁決当時は,会話や読み書きはもちろん,高等学校における学習に支障がないレベルにまで,日本語を習得していたこと,⑤被控訴人は,日本語が分かるようになったことから,次第に学校の授業も理解できるようになり,高校入試の受験勉強も行い,高校の入学試験にも合格したこと,⑥被控訴人は,高校入学後も,意欲的に学習を続け,本件裁決当時である1年生の1学期から2学期にかけても,教科の成績の平均は中位以上であり,更に成績は向上する傾向にあったこと(その結果,P16大学工学部電気電子情報工学科に合格した。),⑦被控訴人は,日本において,生活態度がまじめであるとともに,努力家で,学習にも意欲的に取り組んできたこと,⑧被控訴人は,本件各上陸許可取消処分を受けるまで,P4がP1の実母ではないことを知らず,また,自らが不法上陸したことを知らなかったこと,⑨被控訴人は,9歳の時から本件裁決の時点まで約8年間,日本人と同様に小学校,中学校及び高校に通っており,日本に引き続き在留し,学習を継続して大学に入学し,電気関係の仕事に就いて,(日本の)社会に役立ちたいと強く希望していたこと,⑩被控訴人は,中国語で簡 同様に小学校,中学校及び高校に通っており,日本に引き続き在留し,学習を継続して大学に入学し,電気関係の仕事に就いて,(日本の)社会に役立ちたいと強く希望していたこと,⑩被控訴人は,中国語で簡単な日常会話をすることはできるが,中国語による読み書きはほとんどすることができないこと,⑪被控訴人は,本件裁決当時,高校1年生であったが,既に17歳であって,1人で生活していくことも可能であり,また,自分の将来の生き方等についても考察する時期に達しており,将来についての判断能力もあったこと,⑫- 33 -本件裁決当時既に,被控訴人及びP3の在留を支援する者らが多数いて,P15が設立されており,これらの者の支援も期待することができたこと,⑬本件裁決後,被控訴人の両親は日本を出国したものの,被控訴人は日本での生活を続けることを希望して,妹と2人で日本に残り,高校に通学し続けていること(前記のとおり,P16大学工学部電気電子情報工学科に合格し,入学予定であること),⑭本件裁決当時も,また,その後,現在に至るまでの間も,被控訴人には,犯罪行為,非違行為,問題行動等は見られず,健全な高校生として,日本社会に溶け込んでまじめな生活を続けていること,以上の事実が認められる。 (ウ)そうすると,被控訴人は,9歳の時に,父であるP1が,日本国籍を有するP4の子であると偽って来日した際に,その事情を知らずに両親に連れられて本邦に入国し,その後,上記の偽りが発覚したため,被控訴人の上陸許可も取り消されたのであって,被控訴人にとっては,いかんともし難い事情により,本邦において不法入国者となったものであり,不法上陸及び不法滞在について,被控訴人には,何らの帰責性もないということができる。 この点にかんがみると,通常は,出入国法24条各号所定の退去事由に り,本邦において不法入国者となったものであり,不法上陸及び不法滞在について,被控訴人には,何らの帰責性もないということができる。 この点にかんがみると,通常は,出入国法24条各号所定の退去事由に該当するということは,それだけで,類型的に見て我が国に滞在させることが好ましくない外国人であるということを意味するが,被控訴人の場合はこのような類型的な評価をすることはできず,より慎重な吟味が必要であるというべきである。また,上記のように,外国人が不法上陸及び不法滞在していることについて,当該外国人自身には責めるべき点がない場合には,通常の不法上陸,不法滞在の事案とは異なり,我が国における生活,学習等の実績,将来- 34 -の設計や,それらが国外退去させられることによって失われる不利益についても,これを違法状態の上に築かれたものとして軽視することは不相当であり,その不利益も大きなものと見るべきときがあるが,本件はそのようなときに当たるというべきである。 さらに,被控訴人は,小学校2年生から高校1年生という学習や人間形成にとって極めて重要な約8年間を,日本の学校や日本社会において生活し,来日当初はほとんど理解することができなかった日本語を多大の努力を重ねて身に付け,現在では,日本人と全く変わりのない生活を継続しており,日本語や日本の生活習慣になじんでいるのである。他方,被控訴人にとって,言語も生活習慣も全く異なる中国で生活することで大きな困難が生じるであろうことは,推測するに難くない。 また,被控訴人は,本件裁決の当時,高校1年生であったが,既に17歳であり,自らの将来について自分で判断することができる年齢になっていたということができる。そして,前記認定事実に照らすと,被控訴人は,本件裁決当時,日本での学習を継続し,大学に進学して,就職 17歳であり,自らの将来について自分で判断することができる年齢になっていたということができる。そして,前記認定事実に照らすと,被控訴人は,本件裁決当時,日本での学習を継続し,大学に進学して,就職し,社会に役に立てることをしていきたいと強く希望するなど,自らの将来について自分で考えていたことが認められるのである(その後,希望どおり,P16大学工学部電気電子情報工学科に合格している。)。 イところが,証拠(乙6,11,13)及び弁論の全趣旨を総合すると,東京入管入国警備官や東京入管特別審理官は,被控訴人から,多少,その生活状況等について事情を聴取しているものの,被控訴人の来日以降の学習状況や生活状況,被控訴人の日本語の能力,被控訴人の中国語の能力,将来についての考察態度や判断能力等について,詳- 35 -細に事情を聴取しているとはいえず,また,入国審査官は,被控訴人自身からは事情を聴取しておらず,P2からも,上記の点については,十分に聴取していなかったことが認められる。 そうすると,控訴人東京入管局長は,本件裁決をする際に,被控訴人の具体的な学習状況や生活状況,被控訴人の日本語の能力,被控訴人の中国語の能力,将来についての考察態度や判断能力等について,十分考慮することがなかったと推認することができる。 しかし,既に判示したところを総合すると,被控訴人は,平成8年の来日当初は,日本語や日本での学校生活に苦労したものの,日本の学校で約8年間学習し,日本人の子供と全く変わりのない生活をするまでに至っており,その学習状況や生活状況に照らすと,今後とも学習を継続し,日本社会に溶け込んで,日本社会に貢献することが十分に考えられるところであり,自分の人生や将来についても真しに考察してこれを判断する能力があったと認めることができる。 そうすると, も学習を継続し,日本社会に溶け込んで,日本社会に貢献することが十分に考えられるところであり,自分の人生や将来についても真しに考察してこれを判断する能力があったと認めることができる。 そうすると,控訴人東京入管局長が,被控訴人の学習状況や生活状況,判断能力等について,前記判示のように適正に認定していれば,不法上陸及び不法滞在については被控訴人に何らの責任もない以上,控訴人東京入管局長は,被控訴人に在留特別許可を付与した可能性が相当に高かったであろうと推認することができる。 以上によると,被控訴人に在留特別許可を付与しなかった本件裁決は,その判断が全く事実の基礎を欠くことが明らかである。 ウまた,仮に,控訴人東京入管局長が前記ア及びイのような事実関係を把握していたのに本件裁決をしたというのであれば,控訴人東京入管局長は,(ア)被控訴人が中国で出生し,小学校3年生の初めまで中国で教育を受けてきたことや,被控訴人が未成年者であることを過- 36 -度に重視したか,あるいは,(イ)不法上陸及び不法滞在につき被控訴人自身を責めることができないため,被控訴人について好ましくない者として類型的な評価をすることができず,かつ,国外退去させられることの不利益も十分に勘案すべきであることや,被控訴人のこれまでの努力,中国語能力の乏しさ,被控訴人が今後とも日本社会に溶け込んで,日本社会に貢献し得ること,自分の人生についての判断能力があること等を軽視して,在留特別許可を付与しないという判断に達したものと推認するのが相当である。 そうであるとすれば,そのような判断は,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるというべきである。 エ(ア)もっとも,既に判示したように,本件裁決当時,被控訴人の父であるP1は,東京入管に収容中であって,本件裁決の日付と 判断は,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるというべきである。 エ(ア)もっとも,既に判示したように,本件裁決当時,被控訴人の父であるP1は,東京入管に収容中であって,本件裁決の日付と同日付けで控訴人主任審査官により退去強制令書が発付されている。被控訴人の母であるP2については,退去強制令書はまだ発付されていなかったものの,前述した処分経緯に照らすと,早晩退去強制令書が発付される可能性が高かったということができる。そして,本件裁決後ではあるが,実際にも,P1及びP2は中国に帰国しているのである。 そうすると,本件裁決当時,被控訴人が日本に在留する場合には,両親と別れて暮らす結果となり,被控訴人が経済的に生活を維持することが困難になることが予想されていたとも考えられる。 しかし,本件裁決時においても,被控訴人は17歳であり,アルバイトによる収入を見込むこともできた上,前述した千葉市の里親委託制度も存在し,また,前記認定事実によると,本件裁決時においても,被控訴人及びP3の在留を支援する者が多数いるのであり,- 37 -このような者たちの支援も期待することができたというべきである(その後,里親側の事情で里親制度の利用が困難な状況になったことから,現在は,被控訴人とP3の2人で生活することになったが,兄妹2人での生活は,同P17が中心となってアパートを見つけて契約金を支払い,必要な家財道具を協力者から集める等,物心両面から支援を続けている。)。また,前記認定事実によると,被控訴人は,大学進学のために学費等が必要になることについても認識しているのであり,そのようなことをも考慮した上で,なお,本件訴えを提起し,本邦に在留することを選択しているのであるから,将来,多少,経済的な困難を伴う可能性があるからといって,それならば, 認識しているのであり,そのようなことをも考慮した上で,なお,本件訴えを提起し,本邦に在留することを選択しているのであるから,将来,多少,経済的な困難を伴う可能性があるからといって,それならば,被控訴人やその両親の判断によって帰国すればよいのであり,出入国管理行政上,一方的に被控訴人等の選択を排除して,国外退去を強制すべき理由はないというべきである。 (イ)また,以上の事実関係に照らすと,日本において両親の監護を受けられないことによる被控訴人に対する心理的,物理的影響も軽視し難いということができる。 しかし,高校生が親元を離れて暮らすことは,日本人であっても必ずしも珍しいことではないのである。しかも,現在では通信手段が発達している上,前記認定事実のとおり,被控訴人には友人も豊富であって,教師であるP12や支援者等による支えも期待することができたというべきである。そうすると,両親による直接の監護を受けられない点を本人の判断を無視するほどに重視することは相当ではなく,この点も,被控訴人自身や両親の判断にゆだねるべきことと考えるのが相当である。 (4)控訴人東京入管局長の主張について- 38 -ア(ア)これに対して,控訴人東京入管局長は,被控訴人ら一家は,中国残留日本人孤児の子孫であると偽装して本邦に入国していたことを強調し,P5を始めとする犯罪組織の存在にも触れて,不法入国・在留状況は,中国残留日本人孤児を救済しようとする国民感情や中国残留日本人孤児の救済政策を悪用するもので,我が国の社会秩序あるいは法秩序を著しく乱し,悪質性の極めて大きいものであるから,この種事案に対しては,入管行政において厳正な態度で臨む必要が大きい旨,また,偽装による入国に関して未成年者であった被控訴人自身に責任がなかったとしても,そうであるからといっ 大きいものであるから,この種事案に対しては,入管行政において厳正な態度で臨む必要が大きい旨,また,偽装による入国に関して未成年者であった被控訴人自身に責任がなかったとしても,そうであるからといって,在留特別許可がされることになれば,結局,どのような違法な手段や方法を使っても,我が国に入国しさえすれば,少なくとも,その点について責任のない親族は在留特別許可が認められるとの期待を増長させることにもなりかねず,出入国管理行政上,看過できない事態を招くものといわざるを得ない旨を主張する。 (イ)しかし,前記認定のとおり,そのような偽装を行ったのは被控訴人の父であるP1であり,被控訴人は全く関与していないし,被控訴人は,日本において,生活態度がまじめであるとともに,努力家で,学習にも意欲的に取り組んできたことからみて,控訴人東京入管局長が非難する偽装の悪質性や模倣性は,被控訴人に対しては当てはまらない。 また,控訴人東京入管局長は,本件のような偽装残留孤児家族の背景には,P5を始めとする犯罪組織が存在し,偽装工作が行われ,多額の不正な資金が流通しているなどと主張するが,そもそも,そのような控訴人東京入管局長の主張と本件との関連性が必ずしも明らかでないし,被控訴人について犯罪組織とのつながりや金銭の授- 39 -受の経緯を知っていたことを認めるに足りる証拠もない。 さらに,控訴人東京入管局長は,違法な手段を使っても日本に入国しさえすれば,偽装について責任のない親族は在留特別許可が認められるとの期待を増長させることになりかねないというが,その可能性は否定できないものの,それがどの程度の蓋然性があるかについてはこれを認めるに足りる的確な証拠もない。また,偽装について責任のない親族が常に在留特別許可を与えられるものでないことはもとよりであっ 性は否定できないものの,それがどの程度の蓋然性があるかについてはこれを認めるに足りる的確な証拠もない。また,偽装について責任のない親族が常に在留特別許可を与えられるものでないことはもとよりであって,被控訴人のような特別な事由がある場合に限定されるものである。 イ次に,控訴人東京入管局長は,被控訴人には入国後の生活状況等を考慮しても,在留特別許可を認めなければならないような特別な事情があったとはいえないとして,以下のとおり主張するので,これらの点につき判断する。 (ア)控訴人東京入管局長は,被控訴人が,日本語を十分に理解することができないP1及びP2と話をする時には,中国語を使っていること,被控訴人が中国語で思考することがあること,被控訴人が現在中国語を勉強していないことからすると,被控訴人も中国に帰国すれば中国語を理解することができるようになる旨を主張する。 しかし,前記認定事実のとおり,被控訴人は,生後9年間中国で生活したとしても,中国では約2年間小学校で教育を受けただけであり,それ以降,本件裁決時までの約8年間,中国語で学校の授業を受けたことがなく,中国語の読み書きの能力を有していないのである。また,平成13年に中国に一時帰国した際に1週間小学校1年生程度の勉強をしてみたことをもって,中国で学校教育を受けたと評価することができないのは当然である。 - 40 -そうすると,たとえ,被控訴人が,P1及びP2と話をする時に,中国語を用いていたとしても,そのことから,被控訴人が学習したり,思考したりするときに中国語を用いているということはできないのである。また,被控訴人は,P1及びP2と話をする時以外には中国語を用いていないのであるからこそ,中国語については簡単な日常会話程度しかすることができないのである。 さらに,外国語を十分 できないのである。また,被控訴人は,P1及びP2と話をする時以外には中国語を用いていないのであるからこそ,中国語については簡単な日常会話程度しかすることができないのである。 さらに,外国語を十分に用いることができない日本人であっても,思考するなどの時に,外国語の概念を用いることもあることからすると,被控訴人が日本語のみならず中国語も思考に用いることがあるとしても,そのことから,直ちに,被控訴人が,中国語を十分に理解することができるということにはならないというべきである。 控訴人東京入管局長は,被控訴人について,中国語を今後勉強していけば,身に付く旨主張する。しかし,前示のとおり,被控訴人について,日本語の習得のために,これまで相当期間のたゆまない努力が必要であったことや,年齢もいわゆる人格形成期を過ぎつつあることを考えれば,今後,仮に,被控訴人が現在の日本語の読み書き能力のレベルにまで中国語を身に付けるためには,相当の困難を伴うことは明らかであり,中国において高校に編入入学したり,大学へ進学することが当面不可能であることは,十分推認することができるというべきである。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 (イ)控訴人東京入管局長は,被控訴人が,千葉市の里親委託制度を利用するようになったことや,P17による支援を受けていることは,本件裁決後の事情にすぎない旨を主張する。 - 41 -確かに,上記の各事実は,本件裁決後の事情であり,本件裁決の適法性の判断に当たって,そのまましんしゃくすることのできる事情というわけではない。 しかし,被控訴人及びP3について,本件裁決後間もない時期に千葉市の里親委託制度の利用がされるに至ったこと,また,本件裁決当時存在したP15の会員を中心として,本件裁決後それほど間 うわけではない。 しかし,被控訴人及びP3について,本件裁決後間もない時期に千葉市の里親委託制度の利用がされるに至ったこと,また,本件裁決当時存在したP15の会員を中心として,本件裁決後それほど間をおかない時期にP17が設立されたことからすると,本件裁決当時の被控訴人をめぐる状況や被控訴人の考えに照らせば,被控訴人が千葉市の里親委託制度を利用したり,P17による支援を受けるなどして何とか日本に在留して高校生生活を送ることができる可能性があったことは,本件裁決当時にも,予測することができるところであったというべきである。 さらに,本件裁決当時における可能性としては,被控訴人に在留特別許可を付与しても,両親の意向や,あるいは親元を離れて生活することによる物心両面の困難さから,被控訴人がその考えを変更して,結局,両親と共に生活するために出国するという事態もあり得たところと考えられる。しかし,それは,被控訴人やその両親が自らの意思で決すべき問題であり,日本での学業継続の意向が強く,支援者もいるなど,既に判示した事実関係に照らせば,そのような可能性もあるからといって,出入国管理行政上,強制的に出国させるのが相当であるということにはならないものというべきである。 (ウ)なお,控訴人東京入管局長は,P17の実体性ないし実効性について疑問がある旨主張する。 しかし,証拠(甲16の1ないし3,20,24から27まで,30,31)及び弁論の全趣旨によると,①P15は,被控訴人- 42 -及びP3の在留を求める嘆願書を集める活動をしていた者を中心に,平成16年12月11日に設立された団体であること,②P15は,被控訴人及びP3の在留を求める嘆願書を集めたり,訴訟費用の準備のため支援者から資金を集めたりしたこと,③P15は,P1及びP2が収容 16年12月11日に設立された団体であること,②P15は,被控訴人及びP3の在留を求める嘆願書を集めたり,訴訟費用の準備のため支援者から資金を集めたりしたこと,③P15は,P1及びP2が収容された後は,会員が交替で被控訴人等の居宅を訪ね,心理面での支援をして2人を励まし,その後,P1及びP2の帰国の前には,千葉市児童相談所を紹介し,また,P3の高校の入学試験の受験勉強の支援を行い,さらに,本件訴えの提起後の平成17年4月からは,「○○ニュース」を発行して訴訟の進行状況を支援者に報告したこと,④現在,P15は,P1及びP2の仮放免のために準備した保証金の返還額である100万円と,300人以上の支援者からの寄付金合計約97万円の合計約197万円の資金を保有していること,⑤P12らP15の会員の認識としては,同会で集めた資金は,訴訟費用だけでなく,被控訴人及びP3の2人が里親宅から離れて生活する場合の生活費や被控訴人の大学の進学費用等に用いることができるものであること,⑥P15は,その名称上,被控訴人及びP3の在留資格が認められた場合には目的を達成して解散することとなっていたことから,同会の会員を中心として,平成17年9月1日に,P17が設立されたのであり,上記P17の構成員は,P15の会員とほぼ同じであること,⑦上記P17には,設立趣旨書や,運営規定,構成員の名簿が設けられていること,⑧前記のとおり,その後,平成18年5月末日限りで里親側の事情で里親制度の利用が困難な状況になったことから,その後は,被控訴人とP3の2人で生活することになったが,兄妹2人での生活は,同P17が中心となってアパートを見つけて契約- 43 -金を支払い,必要な家財道具を協力者から集め,様々な援助を行っていることが認められる。 以上によると ることになったが,兄妹2人での生活は,同P17が中心となってアパートを見つけて契約- 43 -金を支払い,必要な家財道具を協力者から集め,様々な援助を行っていることが認められる。 以上によると,P17は,P15の会員を中心として,その活動を引き継ぎ,さらに,被控訴人及びP3の在留が認められた後の生活支援も含めて被控訴人等を支援するために設けられた団体であるということができる。また,P15は,被控訴人等の在留を求めるだけでなく,生活を支援するために積極的な活動を行っており,かつ,相当の資金もあるのであるから,その実体を十分に認めることができるとともに,被控訴人等に対する実効的な支援を行っていたものと認めることができる。 そうすると,P17についても,その実体性ないし実効性を認めることができるというべきである。 なお,控訴人東京入管局長は,P15の資金が,被控訴人やP3に対してほとんど支払われていなかったことも主張する。 しかし,前記認定事実によれば,被控訴人及びP3は,千葉市の里親委託制度の適用を受けていた時期においては,千葉市から生活費や就学費等の支給を受けるなどしており,生活費や学費に困ることがなかったからこそ,P15からはほとんど生活費や学費の金銭的援助を受けていなかったにすぎないものと推認することができる。 そうすると,被控訴人及びP3が,現在まで,生活費や学費について,P15からほとんど金銭的援助を受けていないからといって,将来にわたって,P15が,被控訴人及びP3に対して,生活費や学費の援助をしないということにはならないというべきである。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 - 44 -(エ)控訴人東京入管局長は,被控訴人が本国に帰国することにより,当初は困惑するような事態が多少生じ きである。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 - 44 -(エ)控訴人東京入管局長は,被控訴人が本国に帰国することにより,当初は困惑するような事態が多少生じることがあるとしても,直ちに経済的に困窮するような状況が生じるとは考えられない旨を主張する。 確かに,被控訴人が中国に帰国しても経済的に困窮するような状況が生じると認めるに足りる証拠はない。しかし,前示のとおり,被控訴人が中国に帰国することによる困難は,主として,言語,生活習慣や,学習面,将来の進路等に関するものである。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,的を射ないものであって,採用することができない。 (オ)控訴人東京入管局長は,P1の不法就労によって得られた資金があることをもって,本邦において被控訴人が勉学を安定的かつ経済的に行うための経費支弁能力を肯定することは,出入国法が罰則まで設けて禁止している不法就労を容認することになりかねず,認められない旨を主張する。 しかし,在留資格の認定は,将来に向けての判断であるところ,本件裁決の当時,P1は既に収容されて,退去強制令書が発付されていたのであるから,被控訴人の今後の学費が,今後のP1の不法就労によって賄われるという危ぐはなかったというべきである。 さらに,仮に,今後,被控訴人が,P1の過去の不法就労によって既に得た資金を学費として用いることがあったとしても,不法上陸や不法滞在について被控訴人には帰責性がないという特別な事情のある本件の場合においては,そのことがP1の不法就労を容認することになるとは必ずしもいえないし,既に中国に出国したP1の不法就労を助長することはあり得ない上,我が国に滞在する不法就- 45 -労者一般に対して,不法就労を助長することになるとも考え難いとい ことになるとは必ずしもいえないし,既に中国に出国したP1の不法就労を助長することはあり得ない上,我が国に滞在する不法就- 45 -労者一般に対して,不法就労を助長することになるとも考え難いというべきである。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 (カ)控訴人東京入管局長は,被控訴人が日本で教育を受けていた事実があったとしても,それは不法上陸に基づく違法状態の上に築かれたものであるから,法的保護を受けない旨主張する。 しかし,前記のとおり,被控訴人は,9歳の時に,P1が日本国籍を有するP4の子であると偽って来日した際に,その事情を知らずにP1及びP2に連れられて本邦に入国し,その後,P1の偽った行為が発覚することにより,被控訴人の上陸許可も取り消されたのである。したがって,被控訴人にとっては,いかんともし難い事情により,さかのぼって不法上陸者ということになったのであり,既に判示したとおり,不法上陸や不法滞在について,被控訴人に何らの帰責性もないということができる。 そうすると,自らが意図して不法上陸や不法滞在を行った場合とは異なり,被控訴人に責任を問うことができない本件の場合については,当該事実が違法状態の上に築かれたものであるからといって,法的保護に値しないということはできないというべきである。むしろ,その者に責任を問うことができない本件のような例外的な場合については,前示のとおり,在留特別許可の判断に当たっては,違法状態の間に生じた事実であっても,慎重に吟味しなければならないというべきである。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 - 46 -(キ)控訴人東京入管局長は,被控訴人が中国に帰国した場合に言語や生活様式等の違いについて多少の困難が生じることがあっ って,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 - 46 -(キ)控訴人東京入管局長は,被控訴人が中国に帰国した場合に言語や生活様式等の違いについて多少の困難が生じることがあったとしても,そのような困難は外国で長期間生活をした子女が本国に戻った際に多々直面することであり,ましてや,被控訴人はいまだ可塑性に富む年齢であり,その父母は既に本国で生活し,言語はもちろんのこと生活様式等にも習熟している上,親族も生活しているのであり,このような状況を見れば被控訴人が中国で生活してもその困難を乗り越えることは十分に可能であると認められるから,このような事情をもって,在留を特別に許可すべき事情ということはできない旨を主張する。 しかし,本件で問題となっているのは,本人の選択によらずに,出入国管理行政上強制的に退去させるのが著しく妥当性を欠くか否かであり,外国で長期間生活をした子女が自分や両親の意思で本国に戻る場合とは,その局面が全く異なるというべきである。 また,前示のとおり,被控訴人について,日本語の習得のために,これまで相当期間のたゆまない努力が必要であったことを考えれば,今後,被控訴人が中国語を身に付けるためには,再び相当期間にわたる困難を伴うことは容易に想定することができるというべきである。さらに,被控訴人の現在の年齢からすると,被控訴人が,中国において小学校や中学校に通学して勉強し直すのは,大変な困難であるというべきであるし,被控訴人が日本において小学生や中学生当時に日本語を学んだよりも,本人にとってはるかに辛いものになることがと推認されるところである。 確かに,被控訴人は,相当の努力家であるから,仮に,中国に送還されたとしても,中国語や中国の生活様式を苦労して身に付ける- 47 -ことができるかもしれない。し ることがと推認されるところである。 確かに,被控訴人は,相当の努力家であるから,仮に,中国に送還されたとしても,中国語や中国の生活様式を苦労して身に付ける- 47 -ことができるかもしれない。しかし,そのためには,被控訴人について,相当の困難と時間を要することは明らかというべきであり,そのような困難を一方的に強制することは,著しく妥当性を欠くものというべきである。 (ク)なお,控訴人東京入管局長は,大阪府立P18高等学校(現在のP19高校)の関係者が,平成12年8月5日から同月12日までの間,中国・黒龍江省方正県を訪問し,本邦から帰国した児童や生徒の教育状況を始めとして現地における教育事情を視察した際の感想などを引用して,被控訴人が中国に帰国したとしても,似た境遇の者とも交流しながら,現地で中国語の再習得を含む充実した教育を受けることが十分可能であると主張する。 しかし,甲32によれば,上記引用された感想を述べたとされるP19高校の教師は,控訴人東京入管局長の主張は,同教師の意図しているものと全く異なるため非常に困惑していると述べていること,また,仮に,控訴人東京入管局長主張のような例が存在するとしても,そのことをもって直ちに一般化すべき根拠は認められない。 したがって,控訴人東京入管局長の前記主張は,採用することができない。 (5)まとめ以上によれば,前記のとおり,在留特別許可を付与するか否かについて法務大臣から権限の委任を受けた控訴人東京入管局長に与えられた裁量権が極めて広範なものであることを前提としても,被控訴人に在留特別許可を付与しないとする控訴人東京入管局長の判断は,全く事実の基礎を欠くことが明らかであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり,裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるというべきであ- を付与しないとする控訴人東京入管局長の判断は,全く事実の基礎を欠くことが明らかであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり,裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるというべきであ- 48 -る。 なお,控訴人東京入管局長は,原判決は裁量処分における司法審査の方法を誤り,在留特別許可の許否の判断を行う法務大臣等と同一の立場に立って在留特別許可をすべきであったか否かの判断をしたものというほかなく,失当であるとも主張するが,上記のとおり認定・説示したところに照らして,この判断を不合理とすべき理由はない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件裁決は違法であるというべきである。 争点6(本件退去強制処分の適法性)について法務大臣等は,出入国法49条1項による異議の申出を受理したときには,異議の申出が理由があるかどうかを裁決して,その結果を主任審査官に通知しなければならず(同条3項),主任審査官は,法務大臣等から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときには,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに,出入国法51条の規定する退去強制令書を発付しなければならない(出入国法49条6項)。 そうすると,本件裁決が違法である以上,これに従ってされた本件退去強制処分も違法であり,取消しを免れないといわざるを得ない。 第4 結論 よって,被控訴人の請求のうち,本件裁決及び本件退去強制処分の各取消しを求める請求は,いずれも理由があり,これらを認容した原判決は相当であるから,控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部- 49 -裁判長裁判官岩井俊裁判官及川憲夫及び同芝田俊文は,いずれも転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官岩井 ,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部- 49 -裁判長裁判官岩井俊裁判官及川憲夫及び同芝田俊文は,いずれも転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官岩井俊
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