平成15年4月17日宣告平成14年(わ)第1669号,第1732号各詐欺被告事件判決 主文 被告人A及び被告人Bをそれぞれ懲役3年に,被告人Cを懲役2年6月に処する。 被告人3名に対し,この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人Aは,D株式会社(以下「D」という。)の代表取締役社長として,同会社の業務全般を統括管理していたもの,被告人Bは,同会社の監査役として,同会社の経営全般に対する監査及び営業全般の責任者をしていたもの,被告人Cは,同会社の取締役加工食品部長兼畜産営業部長として,同会社の取り扱う食肉の加工及び販売等の責任者をしていたものである。被告人B及び被告人Cは,Dが所有する輸入牛アキレスの在庫が増大してその処分に困窮していた折,牛海綿状脳症(いわゆる「狂牛病」。以下「狂牛病」という。)の影響による牛肉消費低迷対策として,政府が農畜産業振興事業団法に基づく牛肉在庫緊急保管対策事業(以下「本件事業」という。)を実施することを聞き知るや,同事業の実施主体であるEに対し,上記輸入牛アキレスを本件事業の対象となっている国産牛肉であると偽って買上申請し,Eから買上代金の名目で金員を騙し取ることを企て,そのころ,被告人Aに提案し,被告人Aはこれを受け入れて,ここに被告人3名は共謀の上,平成13年10月29日ころから同年12月13日ころにわたり,福岡市a区bc丁目d番地14のF事務所等において,東京都港区ef丁目g番h号のEに対し,真実は上記輸入牛アキレス12万2619. の上,平成13年10月29日ころから同年12月13日ころにわたり,福岡市a区bc丁目d番地14のF事務所等において,東京都港区ef丁目g番h号のEに対し,真実は上記輸入牛アキレス12万2619.3キログラムが本件事業の対象ではなかったにもかかわらず,同事業の対象の国産牛肉である旨を装い,その旨を記載した虚偽の在庫証明書及び買上申請書等の必要書類を事情を知らないF職員に郵送提出させるなどして,買上申請に関する手続をし,同月14日ころ,E専務理事Gらに,その旨を誤信させた。その結果,同月25日,F職員を介し,福岡市i区jk丁目l番m号の株式会社H銀行I支店のD名義の当座預金口座に,E職員をして,上記買上申請に係る国産牛肉の買上代金として,1億3659万7060円を振込入金させて騙し取った。 (法令の適用)被告人3名罰条刑法60条,246条1項刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)第1 事案の概要本件は,被告人らが役員をしていたDの運転資金を得る目的で,狂牛病の影響による牛肉消費低迷対策としての本件事業の実施に乗じ,同事業の実施主体であるEに対し,Dが所有する輸入牛アキレスを本件事業の対象の国産牛肉であると偽って買上申請し,買上代金約1億3600万円余りをEから騙し取ったという事案である。 第2 被告人3名に不利な事情 1 被告人3名にとって共通の事情(1) 犯行動機本件事業は,国内でも狂牛病の感染が確認されたことで,牛肉の安全性について消費者の不安が広がり,牛肉の消費が低迷したという状況の下,消費者の不安払拭と市場における牛肉の滞留解消を目的として実施されたもので,国からの補助金が交付される公共性の強い事業である。それにもかかわらず,被告人らは,このような本件事業 たという状況の下,消費者の不安払拭と市場における牛肉の滞留解消を目的として実施されたもので,国からの補助金が交付される公共性の強い事業である。それにもかかわらず,被告人らは,このような本件事業の趣旨をかえりみることなく,自社の経営不振の原因であった不良在庫の処理のために本件事業を悪用しており,倒産の危機を回避するためという動機が詐欺行為を正当化する理由になるわけもなく,本件は,企業経営に携わる者としての責任感や倫理に欠けた犯行であって,その利欲的かつ身勝手な犯行動機に酌量の余地はない。 (2) 犯行態様被告人らは,本件犯行のために,本件事業の対象となる「牛正肉」のラベルや,詰替用の箱を用意したり,休日を中心に多数の管理職従業員を動員して詰替作業をしたり,さらには,検品対策として,検品の方法まで予想して,検品用の国産牛肉を倉庫内に用意周到に配置したりしている。このように,本件犯行は,極めて計画的で,Dの多数の従業員を本件犯行に関与させているという点でも悪質な会社ぐるみの組織的犯行である。 (3) 犯行結果被害者であるEが被った損害額は,1億3659万7900円と巨額である。また,公共性の強い本件事業について不正行為が行われたことで,本件事業自体の公正が疑われたり,消費者の食肉業界全体に対する社会的信用を大きく揺るがせた。そして,被告人らはDを守るという動機から本件犯行を行ったものであるが,結局,Dは倒産の危機を乗り切れず,むしろ農水省の行政指導により牛肉の販売を自粛するなどの不利益も受け,また,Dの多くの取引先や債権者,従業員に多大な迷惑をかける結果となった。このように,本件犯行の結果も非常に重大である。 (4) 犯行後の事情被告人らは,他の会社による牛肉偽装が発覚し,偽装工作に使用された本件輸入牛アキレスの 従業員に多大な迷惑をかける結果となった。このように,本件犯行の結果も非常に重大である。 (4) 犯行後の事情被告人らは,他の会社による牛肉偽装が発覚し,偽装工作に使用された本件輸入牛アキレスの再検品が行われることになった際,買上申請したうちの3分の1程度に輸入牛アキレスが混ざっていたなどと打ち合わせた上で,買上申請の取下げを申し出て,再検品を避けようとしたり,本件犯行が内部告発によって発覚した後も,代表取締役であった被告人Aの関与を否定するなど,本件犯行後も,真実を覆い隠そうとしており,犯行後の犯情も芳しくない。 2 被告人らの個別の責任被告人Aは,本件犯行の提案者ではないとはいえ,Dの代表取締役であり,経営の最高責任者として,本件犯行をやめさせることができたにもかかわらず,被告人Bや被告人Cの提案を安易に受け入れており,その責任は重い。 被告人Bは,経営の立て直しを期待されてDに復帰したものであるが,本件犯行を計画し,被告人Cとともに,被告人Aを説得して本件犯行を受け入れさせ,また,肉の詰替作業の際には,士気を高めるために自ら指揮を執って作業に参加していたのであり,本件犯行の中心的役割を担っていた責任は重い。 被告人Cは,加工食品部長兼畜産営業部長として,輸入牛アキレスの詰替作業の人員や場所の手配を行い,また,買上申請の具体的な手続を担当しており,本件犯行の実行犯として必要不可欠の役割を担っていたもので,その責任を軽視することはできない。 第3 被告人3名にとって有利な事情しかし,被告人3名には,以下のような有利な事情も認められる。 1 被害弁償被告人Aは,平成14年3月4日,個人的に調達した資金の中から,買上代金に保管料等を加えた金額を,D名義でFの口座に入金しており,そのうちの買上代金額に相当する部分はEに受領さ 。 1 被害弁償被告人Aは,平成14年3月4日,個人的に調達した資金の中から,買上代金に保管料等を加えた金額を,D名義でFの口座に入金しており,そのうちの買上代金額に相当する部分はEに受領されており,現時点では,本件犯行による被害は回復されている。 2 社会的制裁等本件犯行の発覚により,Dは致命的な打撃を受け,平成14年7月3日,福岡地方裁判所に民事再生手続の開始を申し立て,被告人らもDを退職している。 また,Dが民事再生手続開始の申立てをしたことにより,Dの債務を個人保証していたAと,Dの関連会社の債務を連帯保証していたCは,多額の債務を弁済しなければならなくなっている。 さらに,被告人らは,本件により相当期間身柄を拘束された上,本件がマスコミ等で大きく取り上げられたことにより,今まで築き上げてきた社会的な名誉や信用などを失うこととなった。このように,被告人らには,すでに相応の社会的制裁が加えられている。 3 被告人らの反省被告人らは,捜査当初は被告人Aとの共謀を否定していたものの,その後は共謀の点を含めて全て犯行を認め,公判廷において,本件犯行により,社会や食肉業界,Dの関係者そして家族に迷惑をかけたことを詫び,反省している旨述べている。 4 その他被告人らには,家族を始めとして,被告人らの更生を支援する人がいること,被告人Aと被告人Cにはこれまで前科前歴はなく,被告人Bについても25年以上前の罰金前科しかないこと,被告人Aが福岡県弁護士会犯罪被害者支援基金に対し金300万円を贖罪寄付していること,被告人Aは慢性腎不全等の持病があり通院治療中であることなどの事情も認められる。 第4 結論そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人3名を主文掲記の刑に処した上,今回に限り,それぞれその刑の執行を猶予し,社 腎不全等の持病があり通院治療中であることなどの事情も認められる。 第4 結論そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人3名を主文掲記の刑に処した上,今回に限り,それぞれその刑の執行を猶予し,社会内で更生する機会を与えるのが相当であると判断した。 (求刑被告人Aに対して懲役4年,被告人B及び被告人Cに対してそれぞれ懲役3年6月)平成15年4月17日福岡地方裁判所第3刑事部裁判長裁判官陶山博生裁判官國井恒志裁判官古賀英武
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