平成16(ネ)130 損害賠償請求,同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成17年1月27日 福岡高等裁判所 福岡地方裁判所 平成11(ワ)3713
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判決文本文11,364 文字)

主文 1 本件控訴に基づき,原判決中主位的請求に係る部分を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,714万2462円及びこれに対する平成10年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人のその余の主位的請求を棄却する。 2 本件附帯控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(控訴の趣旨)(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の各請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人(附帯控訴の趣旨)(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) (主位的請求)控訴人は,被控訴人に対し,1897万6092円及びこれに対する平成6年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) (予備的請求)控訴人は,被控訴人に対し,1897万6092円及びこれに対する平成10年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。 (5) (2)(3)項につき,仮執行宣言第2 事案の概要等1(1) 事案の概要は,以下のとおり原判決を補正し,次項2のとおり当審における主張を追加・補足するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」欄(2頁2行目から7頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決2頁10行目の「以下」の前に「床面積合計129.17平方メートル。」を加える。 イ同15行目の「20条」の次に「(本件契約当時のもの。 のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決2頁10行目の「以下」の前に「床面積合計129.17平方メートル。」を加える。 イ同15行目の「20条」の次に「(本件契約当時のもの。関係法令につき以下同じ。)」を加える。 ウ同17行目の「同法施行令38条1項」を「同法36条に基づき定められた同法施行令36条1項は『建築物の構造設計に当たっては,その用途,規模及び構造の種別並びに土地の状況に応じて柱,はり,床,壁等を有効に配置して,建物全体が,これに作用する自重,積載荷重,積雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の振動及び衝撃に対して,一様に構造耐力上安全であるようにすべきものとする。』と,同38条1項」に改める。 エ 3頁10行目の「本件建物の敷地(」の次に「329.57平方メートル。」を加える。 (2) 原審は,本件建物に不同沈下が生じたのは,控訴人が建物敷地に地盤対策を行うことなく基礎を築いたためであるとして,不法行為に基づく損害賠償請求権(主位的請求)に基づいて,補修工事費用948万8183円及び調査費用60万1402円の合計1008万9585円の損害及びこれに対する平成6年3月21日(本件建物引渡日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求を認め,その余の損害(補修工事費用,代替住居確保の費用,慰謝料,弁護士費用)の賠償請求は認めず,予備的請求も棄却した。 (3) そこで,これを不服とした控訴人が,第1の1記載のとおり控訴し,被控訴人が,第1の2記載のとおり附帯控訴したものである。 2 当審における追加・補足主張(控訴人)(1) 過失相殺ア控訴人は,被控訴人から本件建物の南側に庭の盛土をすることを知らされておらず,また,玄海国定公園内であるため宅地を造成 のである。 2 当審における追加・補足主張(控訴人)(1) 過失相殺ア控訴人は,被控訴人から本件建物の南側に庭の盛土をすることを知らされておらず,また,玄海国定公園内であるため宅地を造成するときには福岡県への届出が義務づけられている(自然公園法13条)のに,その届出もなかったため,これを考慮しないで,基礎工事を行ったものである。工事代金もその程度の額しか受領していない。被控訴人は,本件建物建築後に,その2.5倍もの応力がかかる庭の盛土等をするのであれば,予め控訴人に知らせ,予算を上積みして,基礎工事の強化を依頼すべきであったのに,これをしなかったものであり,控訴人が本件の基礎工事を行ったのはやむを得ないことである。損害賠償額の算定に際しては,これら地盤沈下に関する被控訴人側に起因する諸事情を考慮して過失相殺すべきである。責任の割合は,鑑定の結果によれば,控訴人1に対し被控訴人2.5というべきである。 イ本件建物の基礎にひび割れが生じたのは,被控訴人が庭の盛土を完了させた平成7年5月10日以降である。平成7年春にひび割れがあったとする甲31号証(問い合わせ回答書)は,問い合わせと回答内容に矛盾があり信用性はない。 (2) 損益相殺本件建物を建築するに際して地盤沈下を防ぐための基礎工事をする必要があったとすると,本件契約ではそのような基礎工事は予定されていなかったから,控訴人が地盤沈下を防止するための基礎工事を含む補修工事費用を賠償すると,被控訴人はその基礎工事分(62万円。乙14号証)を不当に利得することになるから,これを損益相殺すべきである。 (3) 瑕疵担保責任の除斥期間本件契約では,基礎(地盤)の瑕疵担保責任は引渡日から2年となっている(甲1。15条3項)。控訴人は,平成6年3月20日,本件建物を被控訴人 益相殺すべきである。 (3) 瑕疵担保責任の除斥期間本件契約では,基礎(地盤)の瑕疵担保責任は引渡日から2年となっている(甲1。15条3項)。控訴人は,平成6年3月20日,本件建物を被控訴人に引き渡しており,被控訴人が本件訴訟を提起した平成11年11月16日には,すでに基礎(地盤)の瑕疵担保責任は消滅していた。よって,控訴人は基礎(地盤)の瑕疵担保責任を負わない。 (被控訴人)(1) 過失相殺ア控訴人は,被控訴人から本件建物の南側に庭の盛土をすることを知らされていなかったし,工事代金も少額であったと弁解するが,建物の基礎を設計施工する者は,建築基準法20条(建物の安全な構造の確保),同法施行令38条1項(「建築物の基礎は建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え,かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」)の性能基準を充たす設計施工を行うべき責任がある。また,住宅金融公庫の仕様書に基づく本件建物については,「建築業者は,敷地地盤の状態については工事計画上支障の内容地盤調査を実施するか,あるいは近隣の地盤に関する情報資料などにより検討」(3-1-1)して,地盤対策を検討する責任を負っているのであるから,上記弁解は許される訳がない。 自然公園内において造成工事に許可が必要であるからといって,造成工事を予測する必要がないというのは論理の飛躍である。実際に,本件建物の周辺で5から10メートルの擁壁を築いている宅地は多数あるのであり,自然公園内であるから造成が行われにくいと判断することはできない。  本件契約締結前に,被控訴人は控訴人と一緒に,本件土地を開発したエメラルド観光開発株式会社(以下「エメラルド観光」という。)の事務所を訪ねて,エメラルド観光の営業部長に設計図面を持参して説明し 本件契約締結前に,被控訴人は控訴人と一緒に,本件土地を開発したエメラルド観光開発株式会社(以下「エメラルド観光」という。)の事務所を訪ねて,エメラルド観光の営業部長に設計図面を持参して説明したことがあったが,その際,控訴人は本件土地に関する情報を得ようとしなかった。設計は,控訴人が依頼した一級建築士のAが行ったものである。両者とも,本件土地の調査が不十分であったというべきである。 イ被控訴人が行った庭の盛土は,「敷地の利用として通常のものでしかない。庭の造成やその工事に伴うトラック等の振動は,基礎工事に際して地盤対策(杭工事)さえ十分であれば不同沈下の原因となりえないものである」(鑑定書)。また,そもそも,被控訴人が庭の盛土を行うより前の平成7年の春ころ,既に本件建物の基礎にひび割れが生じていたものである(甲31)。 (2) 工事期間中の代替住居確保費用本件補修工事の中には,風呂場の浴槽撤去工事や洗面台撤去工事,水道管,ガス管付け直し工事なども含まれており,少なくともこれらの工事をしている時期(2週間程度)は,本件建物で通常の家庭生活を送るのは困難である。近辺にウイークリーマンションはない上,子供の通学のことを考えると,校区内に借家を借りるしかなく,借家は1か月単位で賃借せざるを得ないので,1か月の賃料8万円,仲介手数料8万円,引越費用62万7290円の合計79万7290円の費用を要する。 基礎杭打ち工事期間中(約1か月)も,本件建物で通常の家庭生活を送るのは困難である。上記合計1か月半の転居のために2か月間借家を借りると,賃料16万円,仲介手数料8万円,引越費用62万7290円の合計86万7290円の費用を要する。 (3) 調査費用(当審で追加した主張)被控訴人は,本件建物の不同沈下の現象と原因を解明するため 料16万円,仲介手数料8万円,引越費用62万7290円の合計86万7290円の費用を要する。 (3) 調査費用(当審で追加した主張)被控訴人は,本件建物の不同沈下の現象と原因を解明するため,本件書証として多数の意見書を提出したが,そのために一級建築士に合計62万2185円(甲38の1から7)を,日本地研株式会社に60万9000円(甲33の1,2)を支払った。 (4) 損益相殺補修工事を行うことによって,本来本件契約で被控訴人が負担すべきであった杭工事代金を被控訴人が不当に利得するという不公平が生じるとすれば,それを是正するために杭工事費用相当額40万円を損益相殺すれば足りる。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人の主位的請求については,714万2462円及びこれに対する平成10年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであり,予備的請求は原審同様棄却すべきであると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第3 判断」欄(7頁23行目から15頁末行まで)に記載のとおり(ただし,次のとおり補正する。)であるから,これを引用し,当審における追加・補足主張等について,次項2以下のとおり判断する。 (1) 8頁2行目から20行目までを次のとおり改める。 「(1) 本件敷地を含む一帯は,エメラルド観光が,1970年ころから,元は山林であったものを別荘地として数次に分けて開発を行ってきたものである。玄海国定公園内であるため,できるだけ自然な形で開発し,取付け道路も最小限の地形変更になるように自然な地形に合わせて作られた。本件敷地の区域は,初期に開発されたものである。 なお,本件敷地は,国定公園の特別地域であるため,工作物の新築や土地の形状変更等には県知事の許可 限の地形変更になるように自然な地形に合わせて作られた。本件敷地の区域は,初期に開発されたものである。 なお,本件敷地は,国定公園の特別地域であるため,工作物の新築や土地の形状変更等には県知事の許可が必要とされている(自然公園法13条3項)。 被控訴人は,平成4年秋ころ,自宅の建築用地として本件敷地の購入を考え,平成5年3月ころ,エメラルド観光からこれを購入した。 その際,エメラルド観光の関連会社との間で建築工事請負契約を締結しない場合には,建築工事費の3パーセントをエメラルド観光に支払うことが条件になっていた。 被控訴人は,建築工事の請負業者をどこにするか検討したが,エメラルド観光の関連会社では坪当たり60万円から70万円程度と高く,また,積水ハイムでは気に入った間取りが取れなかった。そこで,被控訴人は,父親がかって解体工事を依頼し,誠実な人柄であるという印象を抱いていた,同じ町に住む控訴人に相談したところ,請負代金も安かったことなどから,控訴人に建築を依頼することになった。 被控訴人は,建築資金の蓄えがなかったので,請負代金を全額住宅金融公庫の融資で賄いたい意向をもっており,その年収(公務員である。)で融資を受けられる上限に近い2090万円(延べ床面積129.17平方メートルなので,坪当たり約53万円となる。)を請負代金(照明器具,カーテン,浄化槽の代金を含む。)とする旨合意し(甲1),住宅金融公庫は請負代金の8割しか融資しないことから,住宅金融公庫への提出書類には請負代金を2650万円と水増しして記載し,その融資を得た。なお,工事に着工するころになって,道路使用料64万5460円が必要なことが分かったが,被控訴人は蓄えがなかったことなどから,控訴人がこれを負担することとなった。 控訴人は,個人で仕 を得た。なお,工事に着工するころになって,道路使用料64万5460円が必要なことが分かったが,被控訴人は蓄えがなかったことなどから,控訴人がこれを負担することとなった。 控訴人は,個人で仕事をしている,いわゆる大工であったから,設計・監理は一級建築士のAに依頼し,Aに4枚の図面(配置図,平面図,立面図,矩形図)を作成してもらうなどして平成5年9月20日建築確認(甲3)を取ってもらい,建物の(布)基礎工事は,20年来一緒に仕事をしているBに依頼し,請負代金2090万円の中から両者へ報酬を支払った。建築資材について見積書等の書面も作成されず,住宅金融公庫融資住宅の仕様書に基づくことが合意され,その他は控訴人に任せられたが,控訴人は地盤の許容地耐力の計算などはできない。 なお,被控訴人は,請負契約締結前に,控訴人と一緒にエメラルド観光の事務所を訪ねて,営業部長に図面を示して設計内容の説明をし,エメラルド観光の関連会社に建築を頼まないので,建築工事費の3パーセントをエメラルド観光に支払うことを約束したが,その際,本件敷地の地質について話題が及ぶことはなかった。 (甲1,3,12,乙1,4,被控訴人,控訴人,当審被控訴人第5回準備書面)(2)ア本件敷地は,南側に海を望む緩い傾斜地の中腹にある。本件敷地の北側は東西に走る取付け道路に接しているが,その道路の北側は雑木が一部伐採された地山が存在し,本件敷地の西側隣接地内境界付近には,30年以上経ったと見られる木の切り株が存在し,取付け道路部分のみ山を削り取った外観を有している(乙2)。平成5年当時,本件敷地の地表は凸凹であり,草や小木が生えていて,1メートル前後の大きな石が数個露出しており,機械で均した様子はなく,歩いてみると硬く感じられた。 控訴人とA る(乙2)。平成5年当時,本件敷地の地表は凸凹であり,草や小木が生えていて,1メートル前後の大きな石が数個露出しており,機械で均した様子はなく,歩いてみると硬く感じられた。 控訴人とAは,いずれもこれらの外観から本件敷地を地山だと判断した。控訴人は,露出していた石をクレーンとトラックで搬出し,地表を整地して砂利を敷き均し,その上に本件建物の布基礎を築いた。 (甲3,4,5の②から⑨,8,17,18,乙1,4,証人C,証人A,被控訴人,控訴人)イ平成11年7月に行われた本件敷地の地質調査(スウェーデン式サウンディング試験)によれば,本件敷地は,粘土(本件建物の南西部分)又は砂混じり粘土(その他の部分)を主とする地盤であり,その強度は,表層部は全体が換算N値が3以上であったが,本件建物の南西端付近の地層には,深さ1.25メートルから3.25メートルの間に換算N値が2以下の層が存在し(その内,1.75メートルから3.25メートルの間では換算N値が0.7である。),本件建物南中央付近の地層にも,深さ0.75メートル及び1.75メートルに換算N値が1.5の層が存在することが認められ,本件建物の南西部分は,換算N値が2以下の極軟弱地盤粘土層が存在するということができる。 (甲8,証人C,鑑定の結果)」(2) 9頁8行目の「平成7年春ころまでには,」から10行目末尾までを,次のとおり改める。 「控訴人は,本件建物を建築して半年ほど経ったころ,被控訴人から木製建具(1階便所の開き戸と2階の廊下から和室に入る戸。いずれも,本件建物西側中央部である。)の開け閉めができなくなったという不具合の連絡を受けたので,被控訴人方を訪問してこれらを調整した。不具合の原因は建具のそりなどであった。」(3) 同11行目から12 ,本件建物西側中央部である。)の開け閉めができなくなったという不具合の連絡を受けたので,被控訴人方を訪問してこれらを調整した。不具合の原因は建具のそりなどであった。」(3) 同11行目から12行目にかけての「原告は,平成7年6月ころ本件敷地南側に階段状(2段)の庭を造成した。」を次のとおり改める。 「被控訴人は,平成7年4月24日から5月10日ころにかけて,本件建物の基礎工事を担当(下請け)したBに依頼して,150万円近くの費用を投じて,本件敷地南側の斜面に2段のコンクリート擁壁を土留めとして設け,擁壁の中に盛土して庭を造成したほか,本件建物西側も一部盛土し,また駐車場にコンクリートを打つなどした。」(4) 同16行目の「原告は,」の前に次のとおり加え,22行目の「乙4」を「乙1,4,10」に改める。 「控訴人は,木製建具を調整した後大分(2年程)経ってから,被控訴人から2度にわたってアルミサッシの不具合(1回目は1階和室の縁側1か所,2回目は1階和室の縁側,風呂場,2階和室の南側の3か所。いずれも,本件建物の南西部分である。)の連絡を受けたので,その都度被控訴人方を訪問してこれらを調整した。控訴人は,2回目のアルミサッシの調整(平成10年10月25日ころ浴室排水パイプ継ぎ目折損に気づく半年前ころ)の際,被控訴人から,南側基礎の中央部に最大9ミリメートル前後のひび割れ(上にいくほど割れが大きい)が入っているのを指摘され,アルミサッシの不具合の原因は地盤沈下であると判断した。 なお,被控訴人は,庭を造成する前に南側基礎のひび割れが生じていたと主張し,これに副う証拠(甲14,31,被控訴人)もある。しかしながら,甲14の被控訴人作成の陳述書及び被控訴人本人の供述は,入居後すぐアルミサッシの不具合が生じた,そして,平成6年の夏こ ていたと主張し,これに副う証拠(甲14,31,被控訴人)もある。しかしながら,甲14の被控訴人作成の陳述書及び被控訴人本人の供述は,入居後すぐアルミサッシの不具合が生じた,そして,平成6年の夏ころに南側基礎に幅1センチメートル位の大きな亀裂があるのに気付いた,そこで,エメラルド観光の営業部長及び建築部長に相談したところ,『これはひどい』と言われたので,基礎工事を行ったBを呼んで見て貰ったら心配ないと言われた,というものであり,甲31のエメラルド観光建築部長作成の問い合わせ回答書には,庭の造成前の平成7年春ころ,被控訴人からの点検依頼により,南側基礎の大きなひび割れを確認した旨記載されているが,Bは,平成10年11月ころ控訴人から南側基礎のひび割れを聞いて初めてこれを知ったと述べていること(乙18),アルミサッシ等の不具合の調整経過について,控訴人は建築後数年経ってからであったと具体的に供述していること,本件建物の不同沈下は平成11年4月と平成13年10月を比較すると徐々に進行していることが分かるが,平成10年10月に補修した時9ミリメートルのひび割れであったこと(甲8)に照らすと,建築した年に既に同程度のひび割れが生じていたというのは不自然であること,甲14と甲31とでは,エメラルド観光の建築部長等がひび割れを確認した時期が食い違っている上,ひどいひび割れと言われて控訴人に何ら連絡をしなかったというのも不自然であることなどに照らすと,被控訴人の主張に副う上記証拠はいずれも採用し難い。」(5) 13頁3行目から4行目にかけての「庭の造成による盛土も計算上本件建物の荷重と同程度の影響を与えている」を,次のとおり改める。 「庭の造成時の本件建物南側及び西側の盛土のほか,本件建物西側の駐車場のコンクリート打ちなどによる荷重が本件建物南 よる盛土も計算上本件建物の荷重と同程度の影響を与えている」を,次のとおり改める。 「庭の造成時の本件建物南側及び西側の盛土のほか,本件建物西側の駐車場のコンクリート打ちなどによる荷重が本件建物南西部分の地盤の沈下に与える影響は,本件建物自体の荷重のそれの2.5倍程度(責任割合に直結するものではない。)になる」(6) 13頁9行目の「また,」から15行目までを削る。 (7) 14頁7行目の「及び」から18行目の「不履行」までを「法上の過失」に改める。 (8) 15頁23行目の「・弁護士費用」を削る。 2 工事期間中の代替住居確保費用について被控訴人は,補修工事中の住居移転の必要性を立証するため意見書(甲37)を提出したが,工事期間中の一時期,風呂,水道,ガスが使用できないことがあるとしても,「多少の不便は生じると思うが,移転しなくても工事は可能である」とする原審鑑定結果を左右するものとはいえないから,代替住居確保費用を損害として認めることはできない。 3 調査費用について証拠(甲38の1から7,甲39)によれば,本件建物の不同沈下の現象と原因を解明するため,本件書証として多数の意見書を提出したが,そのために(株)Cアメニティデザイン一級建築士事務所に対し,平成12年9月ころから平成16年5月ころまで,合計62万2185円を,日本地研株式会社に対し,平成15年ころ,60万9000円をそれぞれ支払ったことを認めることができ,これらは本件建物の不同沈下と相当因果関係がある損害と認められる。 4 損益相殺について本件敷地に本件建物を建築するに際しては,地盤沈下を防ぐため基礎工事として杭工事をする必要があったところ,本件請負契約ではその工事は予定されていなかったから,控訴人が鋼管杭圧入工法等による補修工事費用を賠償すると,被控 築するに際しては,地盤沈下を防ぐため基礎工事として杭工事をする必要があったところ,本件請負契約ではその工事は予定されていなかったから,控訴人が鋼管杭圧入工法等による補修工事費用を賠償すると,被控訴人は本来本件契約において負担すべきであった杭工事費用相当額を不当に利得することになる。よって,これを損益相殺すべきであるが,証拠(甲40,乙14)を総合すると,本来負担すべきであった杭工事費用相当額として50万円を認めるのが相当である。 5 過失相殺について(1) 引用にかかる原判決認定の事実(当審で補正後のもの)によれば,以下のような事情が認められる。 建築物の基礎は,建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え,かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない(建築基準法施行令38条1項)。控訴人は,住宅金融公庫の仕様書に基づいて本件建物の建築を請け負ったのであるから,「敷地地盤の状態については,工事計画上支障のないように,地盤調査を実施するか,あるいは近隣の地盤に関する情報資料等により検討」(仕様書3-1-1)しなければならない義務を負っている。本件敷地はその一部地中に極軟弱地盤が存在していたものであるが,本件敷地のような海岸近くの丘陵地の開発地であれば,局所的に変化のある地盤が含まれることはどこでも見られることであるから,控訴人が地盤調査をしなかったのは上記義務違反があると認めるべきである。しかしながら,平成11年6月成立した「住宅の品質確保の促進等に関する法律」施行後は,住宅においても地盤調査を行うことが一般的になってきたものの,本件建物の設計が行われた平成5年当時においては,多くは設計者の経験と勘に頼っていた実情であったこと(鑑定の結果),本件敷地の北側には地山があったことや本件敷地及び付近 が一般的になってきたものの,本件建物の設計が行われた平成5年当時においては,多くは設計者の経験と勘に頼っていた実情であったこと(鑑定の結果),本件敷地の北側には地山があったことや本件敷地及び付近の外観などから,控訴人が現地を見て地山と判断したことも根拠のない判断ではないこと,本件建物の不同沈下に与えた影響は,本件建物の荷重よりも被控訴人が後に行った庭の盛土等の荷重の方が大きく,約2.5倍(これが責任割合に直結するものではないことは前記した。)であること,本件敷地の地盤の性状の情報については,所有者である被控訴人やその前所有者であり開発者であるエメラルド観光が控訴人に提供すべき立場にあるが,これらの者から控訴人に対し何ら情報提供はなかったこと,請負契約に際し,念のため地盤調査をし,その結果によっては基礎工事として杭工事も行うことになるとすれば,請負代金額が増加することになるが,これは資金の蓄えがなかった被控訴人の請負代金額を極力低く抑えたいという意向に副うものではないから,控訴人として提案しにくい状況にあったことなど,諸般の事情を総合考慮して,本件建物の不同沈下による損害を公平に分担させるには,民法722条2項を類推適用して,弁護士費用を除いた全損害額から4割を減じた金額とするのが相当である。 (2) 本件建物の不同沈下による損害額は,原審認定の1008万9585円(補修工事費用948万8183円及び調査費用60万1402円)のほか当審で追加認定した調査費用合計123万1185円の合計1132万0770円から損益相殺の50万円を控除した残額1082万0770円となる。 この金額について,4割の過失相殺をすると,649万2462円になる。 本件訴訟経過,認容額等を考慮すると,控訴人が負担すべき弁護士費用としては65万円が 1082万0770円となる。 この金額について,4割の過失相殺をすると,649万2462円になる。 本件訴訟経過,認容額等を考慮すると,控訴人が負担すべき弁護士費用としては65万円が相当である。 6 遅延損害金について不法行為による損害賠償債務は,不法行為に基づく損害発生と同時に遅滞に陥るところ(最高裁昭和37年9月4日判決・民集16巻9号1834頁),本件のように不十分な基礎工事により建物の不同沈下という結果に起因する損害が発生したような場合は,客観的に同損害が発生したときに遅滞に陥るというべきであり,これを本件に即していえば,本件建物の不同沈下が明確になったのは遅くとも平成10年4月1日(控訴人が2回目のアルミサッシの調整をしたころ。浴室排水パイプ継ぎ目折損に気づいた平成10年10月25日ころの半年前ころ)というべきである。 7 以上によれば,被控訴人の主位的請求は,714万2462円及びこれに対する上記平成10年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の主位的請求及び予備的請求は理由がない。 8 よって,上記判断と一部異なる原判決は相当でないから,本件控訴に基づき,原判決を変更し,附帯控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官簑田孝行裁判官駒谷孝雄裁判官岸和田羊一

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