令和6(わ)170 業務上過失致死傷被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月20日 静岡地方裁判所 沼津支部
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判決文本文5,828 文字)

- 1 -令和7年1月20日宣告令和6年(わ)第170号業務上過失致死傷被告事件 主文 被告人を禁錮1年8月に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、静岡県伊豆の国市a区が開催した令和5年度A神社大祭における、B祭典委員会が運行管理等の業務を担当した山車運行について、山車2号車(以下単 に「山車」という。)の誘導責任者に令和5年5月頃に選任され、以後、同年11月3日実施の山車運行日(以下単に「運行日」という。)までの間、山車の安全な運行方法を計画し、山車の運転役らへの指示を担当する交通係らにその運行方法を指示するほか、運行日には、誘導責任者として、山車に同行し、その安全な運行を指揮するなどの業務に従事していたものであるが、運行日に先立ち、同市ab番地 のc先の丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)をd方面からe方面に山車を左折させるための進路変更の方法を計画するに当たり、山車は乗員を含む総重量が約2470kgと重く、本件交差点からその左折方向出口(e方面)に通じる道路は最大傾斜15.23%の急な下り坂となっていて、急な下り坂では山車がその重量により加速して制動が困難になりやすいことに加え、山車の制動は基本的に車 体と地面に梃子棒を押し当てることによる摩擦力によって行っており、急な下り坂においては梃子棒のみで山車を停止させることは困難であったから、あらかじめ本件交差点内又はその手前の平坦な場所で山車を一旦停止させた上で進路変更する計画を策定し、同計画内容を交通係に指示すべきはもとより、運行日においても、山車に同行し、本件交差点において山車を左に進路変更させる際には同内容を交通 所で山車を一旦停止させた上で進路変更する計画を策定し、同計画内容を交通係に指示すべきはもとより、運行日においても、山車に同行し、本件交差点において山車を左に進路変更させる際には同内容を交通 係らに指示すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、運行日前日までの間- 2 -に、本件交差点内の平坦な場所で山車を一旦停止させることなく、本件交差点内で左に大回りさせ、山車の車体前方を梃子棒で押さえるのみで、前記下り坂の下り傾斜約14.68%の地点まで前進させてから一時停止させる方法により進路変更する計画を策定し、同計画内容を交通係に指示した上、運行日である同年11月3日午前8時41分頃、山車に同行して本件交差点において左に進路変更させる際、山 車を本件交差点内の平坦な場所で一旦停止させず、前記計画内容に基づく指示内容のまま山車を本件交差点内で左に大回りさせ、山車の車体前方を梃子棒で押さえさせるのみで、前記下り坂の下り傾斜約14.68%の地点まで前進させた過失により、山車を制動困難な状態にさせ、加速・暴走させて横転させ、折から山車前方にいた引き手のC(当時72歳)に山車を衝突させるなどしたほか、山車の乗員であ るD(当時36歳)らを路上に転落させるなどし、よって、Cに両側外傷性血気胸、骨盤骨折及び大動脈損傷等の多発外傷の傷害を負わせ、同日午後0時47分頃、同市(住所省略)所在のE病院において、Cを多発外傷により死亡させるとともに、別紙被害者受傷状況一覧表記載のとおり、Dほか12名に同表記載の傷害をそれぞれ負わせた。 (量刑の理由)本件は、地域(静岡県伊豆の国市a区)にある神社の祭りの山車運行において、運行管理等の業務を担当する祭典委員会の副会長であり、山車1台(2号車)の具体的な運行方法の計画・指示、当日の運 の理由)本件は、地域(静岡県伊豆の国市a区)にある神社の祭りの山車運行において、運行管理等の業務を担当する祭典委員会の副会長であり、山車1台(2号車)の具体的な運行方法の計画・指示、当日の運行に同行した上での指揮等を担当する誘導責任者であった被告人の過失により、山車が交差点(本件交差点)左折方向の下り 坂で制御困難な状態に陥って加速・暴走して横転するなどし、山車の前方にいた引き手の男性1名を死亡させたほか、山車の乗員等13名に重軽傷を負わせたという業務上過失致死傷の事案である。 被告人の過失についてみると、山車は乗員を含めた総重量が重く、制動は基本的に地面との間に梃子棒を押し当てることによってすること等からして、本件交差点 の左折方向出口に通じる道路のような急な下り坂では制動が困難になりやすく、梃- 3 -子棒のみで停止させることは困難であり、また、一たび制動が困難となれば山車が加速・暴走し、山車が引き手に衝突したり乗員が投げ出されたりする重大な死傷事故につながる危険があることは容易に予見可能であったのであるから、被告人は、そのような事態を回避するために、山車を本件交差点内等の平坦な場所(下り坂に差し掛かるよりも手前の地点)で一旦停止させて進路変更(切り返し)をするとい う計画を策定すべきであった(その後、後方に移動した引き手が綱を引っ張りながら坂を下ることによって、山車を制動しやすくなり、引き手の安全にも資する。)。 しかし、被告人は、進路変更を、山車を平坦な場所で一旦停止させることなく、本件交差点内で大回りさせながら行い、下り坂に差し掛かっている地点(停止予定地点)まで前進させた後に一旦停止させるという計画を策定してこれを指示・実行さ せ、その結果、山車が制動困難な状態となって横転し、山車の乗員を転落 ら行い、下り坂に差し掛かっている地点(停止予定地点)まで前進させた後に一旦停止させるという計画を策定してこれを指示・実行さ せ、その結果、山車が制動困難な状態となって横転し、山車の乗員を転落させ、山車の進路前方に配置していた引き手(死亡被害者)に山車が衝突するなどした。被告人がそのような運行方法を計画したのは、約14.6%もある停止予定地点の下り傾斜を過小に見積もるとともに、梃子棒による制動力を過大評価して、同地点でも梃子棒のみで山車を停止できると考えたためであるが、被告人が過去の山車運行 において誘導責任者以外の全ての役割を経験していたこと、本件交差点に先行する、右折方向出口に通じる道路が急な下り坂になっている別の交差点では、山車を平坦な場所で一旦停止させて進路変更をしてから坂を下る(その際、引き手は後方で綱を引っ張る)という運行方法を採用していること等からすると、被告人は、急な下り坂では山車の制動が困難になりやすく、そのような(平坦な場所で一旦停止 させて進路変更をする)運行方法の方が安全性が高いことは分かっていたと認められるし、停止予定地点が下り坂に差し掛かっていることも認識していた。それにもかかわらず、被告人が、平坦な場所で一旦停止させた上での進路変更は、大きな労力を要し、大幅な遅延が生じるおそれがあるので避けたいと考え、停止予定地点の傾斜を慎重に確認したり、過去の山車運行における本件交差点の運行方法を十分確 認したりすることなく、山車を同地点で停止できると考えて、それまでにやったこ- 4 -とのない運行方法を採用・指示したことは、慎重さを欠き、安全性を軽視するものといわざるを得ず、注意義務違反の程度は大きい。本件犯行の結果は、特に、引き手の男性1名を死亡させた点で重大であり、定年まで勤め上げた後、 法を採用・指示したことは、慎重さを欠き、安全性を軽視するものといわざるを得ず、注意義務違反の程度は大きい。本件犯行の結果は、特に、引き手の男性1名を死亡させた点で重大であり、定年まで勤め上げた後、妻や高齢の母親と同居し、母親の世話等をこなしながら、趣味や孫の成長等を楽しむ充実した余生を送っていたところ、突如生命を奪われた同男性の無念さや、その遺族の悲しみ 等は察するに余りある(同男性の妻は、本件後、山車運行の再開に向けた動きに反対しておらず、裁判所に提出した書面には、被告人の刑罰は裁判所の判断に任せると記載しているが、同書面には、併せて、引き続き地域で生活し、夫を失った悲しみが癒えないまま、地域が山車運行の再開等に向けて動き出し、翌年の山車運行が実施されるに至った様子等を目の当たりにする中で抱えている複雑な心情を記載 している。)。 もっとも、本件山車運行については、安全管理体制が不十分で、被告人以外においても、安全性に対する意識が十分でなかったといえる。山車運行が本件交差点を左折する新ルートになったのは平成28年以降であり、新型コロナウイルス感染拡大による中止等があったため、本件は4年ぶりの本格的な山車運行であった。また、 被告人は、誘導責任者を務めるのは本件時が初めてで(なり手不足もあって消防団の副分団長を引き受け、慣例に従って山車運行の誘導責任者も引き受けたという経緯があり、誘導責任者については無報酬であった。)、山車運行に携わること自体久しぶりであり、新ルートでの山車運行の経験はなく、被告人(誘導責任者)の指示を受けて現場で運転役への具体的な指示等を行う者(交通係)も山車運行の経験 が少なかった。そして、新ルートになって以降、本件交差点の左折は、山車を交差点内の平坦な場所で一旦停止させて進路変更した後、 て現場で運転役への具体的な指示等を行う者(交通係)も山車運行の経験 が少なかった。そして、新ルートになって以降、本件交差点の左折は、山車を交差点内の平坦な場所で一旦停止させて進路変更した後、後方に出した綱を引き手が引っ張りながら坂を下るという方法が採用されていたが、山車運行のマニュアルは存在せず、過去の山車運行の際に作成された実施計画書等にも上記運行方法の記載はなく、上記運行方法を記載した備忘録が1通作成されたことがあったものの、周知 は不十分で、被告人には引き継がれなかった。また、山車運行の具体的な方法につ- 5 -いて協議する機会はなかった。被告人は、過去の山車運行における本件交差点の運行方法の確認を十分行わず、計画した本件交差点の左折方法を交通係1名以外には事前に伝えていないなど、山車の安全な運行のための情報の収集や共有を積極的に行っていたとは言い難いものの、事前に交通係を伴って現地に赴いて本件交差点を含む運行ルートを確認し、新ルートでの直近の山車運行時に作成された書類に目を 通すなどしていたほか、この直近の山車運行時に誘導責任者を務め、本件時は祭典委員会の委員長であった人物に対し、計画した本件交差点の左折方法を伝えるなどしていたが、同人から、その危険性や、従前の運行方法とは異なることの指摘はされなかった。山車運行を含む祭りの最高責任者であった当時の区長(被告人の父親であり、山車運行の経験も豊富であった。)も、本件山車運行は経験者が少ないと 聞いていながら、本件山車運行を被告人らに任せっぱなしにし、具体的な運行方法の確認等はせず、他の参加者等の中にも、山車運行の経験が豊富な者は多数いたが、被告人らに本件交差点の運行方法について助言等をした者はいなかった。このように、山車運行の具体的な運行方法について、書 法の確認等はせず、他の参加者等の中にも、山車運行の経験が豊富な者は多数いたが、被告人らに本件交差点の運行方法について助言等をした者はいなかった。このように、山車運行の具体的な運行方法について、書面による引継ぎが予定されておらず、その場合に重要となる口頭による引継ぎについても、取り決め等はなく、関係者の 協力も得られなかったこともあって、全く機能しなかったのであり、被告人が自ら計画した運行方法の危険性を適切に評価できなかった原因の一部は、この点にあるというべきである(本件山車運行は、地域のための伝統行事であり、多くの住民が楽しみにし、継承していくことを望んでいるものであるから、これに関わる者は、安全な運行の実現のために支援・協力することが望ましく、本件山車運行における 関係者の対応は、過去の山車運行で生命・身体の安全を脅かすような危険な事態が起きたことがなかったことや、被告人らの判断を尊重しようという配慮があったことを考慮しても、そのような意識が不十分なものであったといわざるを得ない。)。 被告人は、誘導責任者という責任のある役割を引き受けた以上、自ら手段を尽くして、安全な運行方法を計画・指示しなければならなかったのであるから、上記事情 を量刑上大きく考慮することはできないが、一定程度は考慮すべきである。 - 6 -そして、被告人は、前科前歴がなく、本件について事実を素直に認め、当初から、経緯等も含め詳細な供述をしており、そのことが事故原因等の解明に寄与した面がある。被告人は、死亡被害者の遺族に対する謝罪等も行っている。また、区が加入していた自治会活動に関する賠償責任保険によって、死亡被害者の遺族に対する死亡保険金等(約700万円)や傷害被害者13名に対する人身傷害保険金が支払い 済みで、損害賠償金(1事故あた 、区が加入していた自治会活動に関する賠償責任保険によって、死亡被害者の遺族に対する死亡保険金等(約700万円)や傷害被害者13名に対する人身傷害保険金が支払い 済みで、損害賠償金(1事故あたり上限7000万円)も、入院を要した傷害保険者3名に対しては支払い済みで、今後他の被害者との関係でも支払われる見込みであり、傷害被害者のうち入院を要した3名との関係では示談が成立し、他の10名の大半は被告人の処罰を求めていない。さらに、山車運行を今後も実行していくためには当然のことではあるものの、区において再発防止委員会が発足し、被告人も 関与して、安全な運行ルートへの変更や、運行実施要領の作成、山車の安全性の強化等の再発防止策が講じられている。これらの被告人のために酌むべき事情をも考慮すると、被告人に対しては、主文掲記の禁錮刑を科した上で、その刑の執行を猶予するのが相当である。 (求刑禁錮2年) 令和7年1月20日静岡地方裁判所沼津支部刑事部 裁判官奥山雅哉 - 7 -(別紙被害者受傷状況一覧表省略)

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