令和7年9月29日判決言渡 令和7年(行ケ)第10031号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和7年7月30日判決 原告 株式会社Eikyu 同訴訟代理人弁理士 佐藤英昭 丸山亮 林晴男 松本邦夫 被告 有限会社高芝ギムネ製作所 同訴訟代理人弁護士 辻本希世士 辻本良知 松田さとみ 同訴訟代理人弁理士 丸山英之 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 特許庁が無効2023-880009号事件について令和7年2月27日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 被告は、意匠に係る物品を「害虫忌避具」とする意匠(登録第1718966号、令和4年1月14日登録出願、同年6月16日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。 原告は、令和5年12月25日、本件意匠について、意匠登録無効審判を請求した(無効2023-880009号、甲11)。 特許庁は、令和7年2月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年3月10日に原告に送達された。 原告は、令和7年4月9日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。 2 上記意匠登録無効審判において 「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年3月10日に原告に送達された。 原告は、令和7年4月9日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起し た。 2 上記意匠登録無効審判において原告の主張した本件意匠の無効理由の要旨本件意匠は、①その出願日前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、甲2ないし10号証に記載された各意匠(以下、それぞれ「甲2意匠」ないし「甲10意匠」等と、それらを総称し て「甲各意匠」という場合がある。)に基づいて容易に創作をすることができたものであるから、意匠法3条2項の規定に違反し(無効理由1)、②工業上利用することができる意匠に該当しないから、同法3条1項柱書の規定に違反し(無効理由2)、意匠登録を受けることができないものであるから同法48条1項1号により、無効とすべきである。 3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、要するに、本件意匠は、①当業者が、本件意匠の意匠登録出願前に公知であった甲各意匠に基づいて容易に創作をすることができたものとは認められないから、本件意匠は、意匠法3条2項の規定に該当しない(無効理由1に対し)、②願書及び添付 図面の記載によりその形状等が具体的に特定されたものであり、意匠法3条1 項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当する(無効理由2に対し)、とするものである。 4 原告主張の本件審決の取消事由(原告は、上記無効理由2についての本件審決の判断を争わない)⑴ 取消事由1 本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状の認定の誤り⑵ 取消事由2「クリップと安全ピン」の形状等の類似性⑶ 取消事由3胸部底面に安全ピン付クリップを設 わない)⑴ 取消事由1 本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状の認定の誤り⑵ 取消事由2「クリップと安全ピン」の形状等の類似性⑶ 取消事由3胸部底面に安全ピン付クリップを設けることの容易性 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状の認定の誤り)について〔原告の主張〕⑴ 本件審決は、本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状等を認定し、その 上で甲4ないし6、甲8意匠と対比しているが、対比する項目に下記の表のような相違があり、本件審決においてなされた対比は正確な対比とはいえず、誤りである。 特に、本件審決は、本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状を「クリップの基台部は縦長長方形板であり、縦横比1:0.5で、全体比で縦幅は約 1/2、安全ピンが横幅約1/1.4である」と認定しているが、そこにいう「全体」は、その比率から「意匠登録を受けようとする部分」つまり「トンボの頭部から腹部まで」の縦幅に対して「クリップの基台部」の縦幅が約1/2であり、横幅において最も長い「トンボの脚部」の縦幅に対して「安全ピン」の横幅が1/1.4であると認定しているものと推測される。 しかし、この認定は、対比されるべき甲4ないし6、甲8意匠と異なる認 定方法であり、正確な対比となっていない。 対比される部分である「クリップと安全ピン」の形状等を正確に認定した上で、甲4ないし6、甲8意匠における「クリップと安全ピン」と、その形状等を対比すべきである。 本件意匠甲4意匠甲5意匠甲6意匠及び甲8意匠基本的構成要素シーソー式クリップと安全ピンシーソー式クリップと安全ピンシーソー式クリップと安全ピンシーソー式クリップと安 4意匠甲5意匠甲6意匠及び甲8意匠基本的構成要素シーソー式クリップと安全ピンシーソー式クリップと安全ピンシーソー式クリップと安全ピンシーソー式クリップと安全ピンクリップの基台部の形状縦長長方形板縦長長方形板縦長長方形板縦長長方形板クリップの基台部の縦横比1:0.5約1:0.6約1:0.5約1:0.5クリップの基台部の全体比の縦幅全体比で縦幅は約1/2(認定無し)(認定無し)(認定無し)安全ピンの全体に対する比率1/1.4(認定無し)(認定無し)(認定無し)安全ピンの横幅(基台部横幅比)(認定無し)基台部横幅比約2.5倍基台部横幅比約2.8倍基台部横幅比約2.5倍クリップ可動部の底面視形状略羽子板形状略羽子板形状(認定無し)略羽子板形状上部寄りの押圧部の形状略長方形略長方形角丸逆三角形上部が角丸の略長方形押圧部表面の凸条の数5筋4筋3筋5筋押圧部表面の凸条の方向単手方向単手方向表面外形縁部と単手方向単手方向凸条の配置幅均一幅等幅最上段から下段へ向かい徐々に幅狭くなる最上段のみ幅狭く、下4段が等幅下部寄りの挟み込み部の形状押圧部より横幅が狭く、略長方形押圧部より横幅が狭く、末端が半円形の略長方形略長方形押圧部より横幅が狭く、略長方形押圧部と挟み込み部の間の中央付近の形状略等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する略等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する(認定無し)略逆等脚台形状で、側面視 付近の形状略等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する略等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する(認定無し)略逆等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する挟み込み部のうち、基台部と向き合い接する部分の形状山形が連続したギザギザを配した噛み合わせ部を形成不明山形を一つ配した噛み合わせ部で形成山形を四つ配した噛み合わせ部で形成 安全ピンの接続態様クリップ可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続クリップ可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続クリップ可動部の支点付近に安全ピンの軸部を接続クリップ可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続色クリップの基台部は無色透明であり、クリップ可動部及び安全ピンは淡色であるクリップの基台部は無色透明であり、クリップ可動部及び安全ピンは銀色である線図のみで、色は無いクリップの基台部は透光性のある白色クリップ可動部及び安全ピンは銀色⑵ 上記のとおり、本件審決の認定には誤りがあるから、本件意匠に係る「クリップと安全ピン」の形状等(本件審決50頁、「理由」第5、1⑵イ「(キ)クリップと安全ピン」該当部分)については、以下のように認定すべきである(下線部分が本件審決の認定と異なる部分である)。 なお、原告の計測によれば、本件意匠に係る意匠公報の【正面図】を計測 したところ、基台部横幅9mm、安全ピン横幅22mmであるので、前記表の「安全ピンの横幅(基台部横幅比)」については、基台部横幅比約2.4倍(22÷9=2.444…)となるので、これを前提としている。 「(キ) クリップと安全ピン 横幅22mmであるので、前記表の「安全ピンの横幅(基台部横幅比)」については、基台部横幅比約2.4倍(22÷9=2.444…)となるので、これを前提としている。 「(キ) クリップと安全ピン胸部の下面には、シーソー式クリップと安全ピンを設けており、ク リップの基台部は縦長長方形板であり、縦横比1:0.5で、安全ピンの横幅は、基台部横幅比約2.4倍である。クリップ可動部は、底面視略羽子板形状であり、上部寄りの押圧部は、略長方形で表面に5筋の凸条を単手方向に均一幅で配し、下部寄りの挟み込み部は、押圧部より横幅が狭く、略長方形で、押圧部と挟み込み部の間の中央付近 は、略等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する。挟み込み部のうち、基台部と向き合い接する部分に山形が連続したギザギザを配した噛み合わせ部を形成している。 また、安全ピンは、クリップ可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続している。 色は、クリップの基台部は無色透明であり、クリップ可動部及び安全ピンは淡色である。」〔被告の主張〕⑴ 原告の主張は取消事由を構成しないこと審決取消訴訟においては、結論に影響を及ぼす瑕疵のみが取消事由となる。 しかるに、原告は、取消事由1において、本件意匠における安全ピンの横幅(基台部横幅比)が認定されていないと述べるにとどまり、この点が本件審決の結論に影響を及ぼすことを何ら主張立証しない。 したがって、取消事由1は、そもそも審決取消訴訟における取消事由を構成しない。 ⑵ 本件審決に何らの問題もないこと本件意匠につき、創作非容易性を欠如しないと本件審決が判断した理由は、要するに、①胸部底面に安全ピン付クリップが設けられる本件意匠の態様は、甲9意匠や甲10意匠とは異なる 決に何らの問題もないこと本件意匠につき、創作非容易性を欠如しないと本件審決が判断した理由は、要するに、①胸部底面に安全ピン付クリップが設けられる本件意匠の態様は、甲9意匠や甲10意匠とは異なること、②本件意匠の安全ピン付クリップの形状等は、甲4から6、甲8意匠のいずれの形状等とも異なることにある。 しかるに、上記理由①においては、胸部底面に安全ピン付クリップが設けられる態様が問題となるから、安全ピンの横幅(基台部横幅比)は無関係である。また、上記理由②につき、本件意匠と甲4から6、甲8意匠は、安全ピンの横幅(基台部横幅比)以外の構成態様において異なる以上、殊更に安全ピンの横幅(基台部横幅比)を対比する必要もない。この点、原告の主張 によっても、本件意匠と他の先行公知意匠の安全ピンの横幅(基台部横幅比)は異なるから 、本件意匠における安全ピンの横幅(基台部横幅比)を殊更に認定したところで、上記理由②がより一層強化されるだけのことである。そうである以上、本件意匠における安全ピンの横幅(基台部横幅比)がどうであれ、本件審決の結論に影響が及ぶことはない。 したがって、本件審決が本件意匠における安全ピンの横幅(基台部横幅比) を認定しないことにつき、何らの問題もない。 2 取消事由2(「クリップと安全ピン」の形状等の類似性)について〔原告の主張〕本件審決は、本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状等について、甲4ないし6、甲8意匠のいずれの形状等とも異なっているとするのみであり、その 形状の相違について創作容易性の判断をしていない点において誤りである。 本件意匠と先行公知意匠(甲4ないし6、8)との「クリップと安全ピン」部分の上記対比表において、「安全ピンの横幅(基台部横幅比)」について「基台部横幅 易性の判断をしていない点において誤りである。 本件意匠と先行公知意匠(甲4ないし6、8)との「クリップと安全ピン」部分の上記対比表において、「安全ピンの横幅(基台部横幅比)」について「基台部横幅比約2.4倍」と認定すれば、本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状等は、その各構成要素について、先行公知意匠(甲4ないし6、8)のい ずれかの構成要素と一致するものであって、本件意匠の「クリップと安全ピン」の形状等は、先行公知意匠(甲4ないし6、8)の各構成要素の寄せ集めに過ぎず、その微細の差異は、ありふれた構成に基づく些細な設計変更に過ぎない。 本件審決は、その微細な差異に係る創作容易性の判断を怠り、本件意匠の創作容易性を否定する結論を導く理由としている点において誤りがある。 〔被告の主張〕⑴ 取消事由を構成しないこと原告は、取消事由2において、本件意匠のクリップと安全ピンの形状が先行公知意匠の寄せ集めであるとするが、既に述べたとおり、本件意匠のクリップと安全ピンの形状が先行公知意匠の寄せ集めであろうがなかろうが、本 件意匠の創作非容易性の欠如が直ちに論証されることにはならない。原告は、本件意匠の創作非容易性の欠如ではなく、本件意匠におけるクリップと安全ピンという特定の構成態様の創作非容易性の欠如を論証しているに過ぎない。 このように、取消事由2は、審決の結論への影響に言及するものではないから、そもそも審決取消訴訟における取消事由を構成しない。 ⑵ 原告の主張内容が失当であること 上記⑴の点を措くとして、本件意匠のクリップと安全ピンの形状が先行公知意匠の寄せ集めであるという原告の主張内容自体も失当である。 すなわち、「寄せ集め」の意匠とは、「複数の既存の意匠等を組み合わせて、一の意匠を構成 、本件意匠のクリップと安全ピンの形状が先行公知意匠の寄せ集めであるという原告の主張内容自体も失当である。 すなわち、「寄せ集め」の意匠とは、「複数の既存の意匠等を組み合わせて、一の意匠を構成すること」をいい(特許庁作成の意匠審査基準第Ⅲ部第2章第2節創作非容易性4.2.1(b) )、「寄せ集め」の意匠とは、先行公知 意匠の全部又は一部分をそのまま組み合わせることで創作される意匠をいうところ、甲4ないし6、甲8意匠を組み合わせたところで、複数のクリップが積み重なった意味不明な形状の物品が完成するだけであるし、安全ピンとクリップを都合のよいように寄せ集めたところで、本件意匠には想到しない。 以上より、原告指摘にかかる先行公知意匠を寄せ集めたからといって本件 意匠には想到しないから、原告の主張は失当である。 3 取消事由3(胸部底面に安全ピン付クリップを設けることの容易性-本件意匠の創作非容易性についての判断の誤り)について〔原告の主張〕⑴ 本件審決は、「甲9意匠及び甲10意匠に基づいて、当業者が胸部底面に安 全ピン付クリップを設けることを容易に創作することができたとはいえない」とするが、誤りである。 トンボや昆虫等のモチーフを身に着けようとする場合、そのモチーフとなった生物であるトンボや昆虫の脚部がある位置(つまり「胸部」)に取付具を配置する造形処理は、工業デザイン一般において通常行われていることであ るから特段困難なことではない(モチーフとなった生物の脚がある位置に取付具を設けることにより、当該モチーフが生きている状態の意匠を構成することができる)。してみれば、トンボ形状の害虫忌避具に公知の安全ピン付クリップを組み合わせて本件意匠を創作するに当たり、トンボの「胸部」に取付具を位置する意匠を創作するこ ている状態の意匠を構成することができる)。してみれば、トンボ形状の害虫忌避具に公知の安全ピン付クリップを組み合わせて本件意匠を創作するに当たり、トンボの「胸部」に取付具を位置する意匠を創作することは、需要者の視覚を通じて起こさせる美 感についての着想の新しさ・独創性があるとはいえず当業者にとって容易で ある。 ⑵ 安全ピン付きクリップの取り付け位置は、胸部底面とすることが最もありふれている。本件意匠に係る意匠公報の【意匠に係る物品の説明】の欄には、「本物品は、人体に蚊や虻などの害虫が近づくことを防止するための道具であり、使用状態を示す参考斜視図に示すように、背中側(平面側)にて紐を 取り付けて軒先などに吊るして使用したり、腹部側(底面側)に存在するクリップや安全ピンにて衣服、帽子や鞄などに留めて使用したりすることができる。」とある。 また、甲7意匠に係る意匠公報の【意匠に係る物品の説明】の欄には「本物品は、蜂、アブ、ハエ、蛾、蚊等の害虫を追い払うものである。これらの 害虫は本能的にオニヤンマを天敵とみなす習性がある。本物品はこの習性を利用し、使用状態を示す参考図に示すように、玄関やベランダの上面壁に、正面図中央の環状部を使って糸でぶら下げ、風等によって本物品が生きているように動くことで、一定の虫除け効果を得る。」とある。 以上によれば、本件意匠に係る物品「害虫忌避具」と、甲7意匠に係る物 品「虫除け具」については、何れも蚊等の天敵であるオニヤンマの形状を模すことにより害虫を忌避する(除ける)ことを目的とするものである。そしてこのような目的のためにはトンボが生きている状態に見える状態を保たねば、「害虫忌避具」又は「虫除け具」という意匠に係る物品の機能を発揮することができない。 そうとすれば ものである。そしてこのような目的のためにはトンボが生きている状態に見える状態を保たねば、「害虫忌避具」又は「虫除け具」という意匠に係る物品の機能を発揮することができない。 そうとすれば、生きている状態のトンボが何らかの場所に留まる場合、その脚によって何かに掴まることになるのであるから、トンボを模した害虫忌避具において脚に相当する取付具の位置は、生きているトンボの脚がある胸部と同じく、胸部とすることが最も自然であり、かつ、ありふれている。 さらに、実際に害虫忌避具に限らず、広く一般にトンボを含む昆虫のモチ ーフを身に着ける場合には、それらモチーフとなった生物の脚がある位置に 取付具を設けることにより、当該モチーフが生きている状態の意匠を構成するという造形処理が工業デザイン一般において通常行われている事実がある。 ⑶ 本件意匠の出願時の当業者における造形処理の一般的水準を示す証拠(甲20ないし22)によれば、我が国においては遅くとも江戸時代にはトンボや蝶等のモチーフを三次元で立体的に表した形状を有する物品「兜の前立て」 が知られており、当該物品においては、それらモチーフとなった生物の脚がある位置に取付具を設けることにより、当該モチーフが生きている状態の意匠を構成するという造形処理が行われていた。 また、同趣旨の証拠(甲23ないし26)から明らかなように、近代においては、「とんぼ、ちょうちょ、せみ」等の昆虫をモチーフとするブローチが 知られており、その取付具は「ブローチの留め金はブローチの裏側につける」(甲24)、「ブローチの留め金として安全ピンが用いられる」(甲25)、「ブローチとして使用するために胴の一部に安全ピンを付けて出来上りである」(甲26)と記載され、更に、蝉のモチーフを三次元で立体的に表 4)、「ブローチの留め金として安全ピンが用いられる」(甲25)、「ブローチとして使用するために胴の一部に安全ピンを付けて出来上りである」(甲26)と記載され、更に、蝉のモチーフを三次元で立体的に表した形状を有する物品の胸部底面に当たる位置に、胴体長手方向に対して直角方向に、 取付具としての安全ピンが配置されている意匠が記載されている(甲26)。 そして、既に述べたとおり、本件意匠に係る物品「害虫忌避具」と、甲7意匠に係る物品「虫除け具」については、何れも蚊等の天敵であるオニヤンマの形状を模すことにより害虫を忌避する(除ける)ことを目的とする物品であり、この種の物品の分野において、その物品を「害虫忌避具」又は「虫 除け具」として衣服や帽子などに取り付けて身に着ける場合には、その取付手段・位置等様々な事情を考慮して、取付具の形態を創作することは当然行われているところ、その際、必要に応じて安全ピンやクリップ等につき公知の形態を組み合わせ、また、他の公知の形態に置き換え、あるいは、こうして組合せ、置換等をした結果に、通常思い付く程度の調整を加える等の変更 は、当業者にとってありふれた手法である。 この手法によれば、甲7意匠の存在を前提とした上で自然界のトンボの形状を模して害虫忌避具とし、その取付具を甲4ないし6、甲8の安全ピン付きクリップに置き換え、かつ、ごく普通に知られている手法によって、当該安全ピン付きクリップをトンボの胴体(胸部底面)に位置するように配置した結果に、通常思い付く程度の調整を加えることにより、本件意匠を創作す ることができるといえる。また、このような組合せや置換えの障害となるべき事情も何ら伺われない。 以上のとおり、本件意匠に係る物品「害虫忌避具」の機能を発揮するためには、モチーフと 匠を創作す ることができるといえる。また、このような組合せや置換えの障害となるべき事情も何ら伺われない。 以上のとおり、本件意匠に係る物品「害虫忌避具」の機能を発揮するためには、モチーフとなった生物の脚がある位置、つまり胸部底面側に取付具を設けることがごく自然であること、及び、そのような取付手段・位置等様々 な事情を考慮して、取付具の形態を創作することは当然行われており、必要に応じて安全ピンやクリップ等につき公知の形態を組み合わせ、また、他の公知の形態に置き換え、あるいは、こうして組合せ、置換等をした結果に、通常思い付く程度の調整を加える等の変更は、当業者にとってありふれた手法であることによれば、甲7意匠を前提とした上で自然界のトンボの形状を 模して害虫忌避具とし、その取付具を甲4ないし6、甲8の安全ピン付きクリップに置き換え、かつ、ごく普通に知られている手法によって、当該安全ピン付きクリップをトンボの胴体(胸部底面)に位置するように配置した結果に、通常思い付く程度の調整を加えることにより、本件意匠を創作することができるといえる。 そして、そのような本件意匠には、着想の新しさ・独創性があるとはいえず、その創作は当業者にとって容易であって、意匠登録を認めるに足りる程度の創意工夫が施されているとはいえない。 したがって、胸部底面に安全ピン付クリップを設けることの容易性についての本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 ⑴ 原告の多数の創作活動を要求する論理付けの失当性原告は、甲7意匠を前提とした上で自然界のトンボの形状を模して害虫忌避具とし、その取付具を甲4ないし6、甲8の安全ピン付きクリップに置き換え、かつ、ごく普通に知られている手法によって、当該安全ピン付きクリップをトンボ 提とした上で自然界のトンボの形状を模して害虫忌避具とし、その取付具を甲4ないし6、甲8の安全ピン付きクリップに置き換え、かつ、ごく普通に知られている手法によって、当該安全ピン付きクリップをトンボの胴体(胸部底面)に位置するように配置した結果に、通常思 い付く程度の調整を加えるというステップにより、本件意匠が創作されるとする。しかし、本件審判における手続においても主張したとおり(甲13)、原告が提示するような多数のステップに基づく創作非容易性の欠如の論理付けは、およそ成立し得ない。 すなわち、多段階のステップを経て発明に想到する場合には、「容易の容易」 として進歩性欠如の論理付けが否定される。意匠の場合も同様であり、当業者において、複数の構成要素を組み合わせるステップを経る創作活動に及ぶには格別の努力を要するから、このような創作活動がありふれていると評価される余地はない。本件意匠が創作されるまでに、当業者に多数の創作行為を要求する原告の論理付けは奏功しない。 別の観点からすれば、原告が提示する創作行為は、本件意匠を所与のものとし、先行公知意匠から本件意匠が創作されたとの論理が成立するように、後知恵を働かせているに過ぎない。 ⑵ 論理付けの不成立上記⑴の点を措くとしても、原告の論理付けに従って甲7意匠をモチーフ とした場合、甲7意匠の安全ピンを安全ピン付クリップに置き換えることを示唆する証拠は一切提出されていないから、これがありふれた手法であるなどというのは、客観的根拠を欠く原告の独論に過ぎない。 かえって、原告の論理付けの中でモチーフとなる甲7意匠の構成態様において、原告が取付具として主張する物品は「環状連結具」であると解される ところ、その機能は、環状部に糸を通して玄関やベランダの上面壁にぶら 告の論理付けの中でモチーフとなる甲7意匠の構成態様において、原告が取付具として主張する物品は「環状連結具」であると解される ところ、その機能は、環状部に糸を通して玄関やベランダの上面壁にぶら下 げることにより、風等によって虫除け具を生きているように動かすことにある(甲7)。このように、甲7意匠は、玄関やベランダの上面壁にぶら下げることが想定されているのであり、人が着用する帽子や服に取り付けること自体が想定されていない。したがって、甲7意匠の環状連結具を、人が着用する帽子や服に取り付けるための何らかの部材に置き換えることさえ一切想定 され得ないし、甲7意匠の物品の目的に反する創作行為ですらある。 この点を措き、甲7意匠とは別の甲9意匠や甲10意匠に着目するとしても、これらの意匠において、取付具は、虫除け具の頭部側に安全ピンが設けられる構成態様が存在するにとどまり、安全ピン付クリップを虫除け具に設ける構成態様を示唆するものではない。しかも、安全ピン付クリップにかか る先行公知意匠としては甲4ないし甲6、甲8意匠が挙げられるが、これらはすべて名札を保持するための物品であり、虫除け具に用いることは一切示唆されていない。このため、甲7意匠の安全ピンを甲4ないし6、甲8意匠の安全ピン付きクリップに置き換えるという創作行為は、甲7意匠のみならず、他の先行公知意匠に開示される用途にも反する。 以上より、原告の主張は特許の進歩性における阻害要因と同様の阻害要因が存在すると評価されるべき創作行為であり、少なくともありふれた手法であるとは決して評価できない。 ⑶ 虫除け具の取付具は胸部底面とすることがありふれているとする点原告が論拠として挙げる先行公知意匠(甲20~26)は、すべて装飾に かかるものであるから であるとは決して評価できない。 ⑶ 虫除け具の取付具は胸部底面とすることがありふれているとする点原告が論拠として挙げる先行公知意匠(甲20~26)は、すべて装飾に かかるものであるから、虫除け具の取付具を胸部底面とすることは、客観的裏付けが存在しない原告の独論である。 この点、原告は、生きている状態に見える状態を保つには、胸部底面に取り付ける必要があるなどという、客観的裏付けを欠く独論を重ねる。 本件審判の手続においても主張したとおり(甲17)、そもそもどのような 状態をもって「生きている状態に見える状態」であると捉えるか自体が定か でないし、そのような状態でなければ虫除け具として成立し得ないわけでもない。仮に原告が主張する前提の下に検討するとしても、例えば、本件意匠の【正面図】において、下方ではなく上方に安全ピン付クリップが設けられているとしても、麦わら帽子のような外周にツバを有する帽子の場合、帽子のツバの下側に虫除け具を配設し、その上方の安全ピン付クリップをツバの 下側から取り付ければ、本件意匠の【正面図】のように「生きている状態に見える状態」で、虫除け具を帽子に取り付けることとなる。したがって、虫除け具の胸部底面に安全ピン付クリップがある場合でなければ、「生きている状態に見える状態」で、虫除け具を取り付けられないわけでもない。この反例からも明らかなように、オニヤンマを模した虫除け具に対して安全ピン 付クリップを設ける位置の自由度は非常に高い。 本件意匠は、このように自由度が非常に高い中で、安全ピン付クリップの取付位置を具体的に選択して特定するものであるから、これを創作非容易性を欠如すると評価される理由はない。 ⑷ 調整の点 原告の主張を通してみても、得られた結果に対して加える「 付クリップの取付位置を具体的に選択して特定するものであるから、これを創作非容易性を欠如すると評価される理由はない。 ⑷ 調整の点 原告の主張を通してみても、得られた結果に対して加える「調整」の具体的な内容は、一切不見当である。当然のことながら、意匠の創作非容易性は、具体的な物品における具体的な形態の創作行為に対して判断されるものであり、「虫除け具に取付具を設ける」とか「取付位置を胸部底面とする」などという、具体的な物品や形態を捨象した抽象論により、特定の意匠の創作非容 易性が欠如すると評価されるものではない。原告の主張は、意匠の創作非容易性の欠如の論理付けを欠如するものであり、到底首肯できるものではない。 更に敷衍するに、オニヤンマを模した虫除け具に安全ピン付クリップを組み合わせるとしても、具体的にどのような形状の安全ピン付クリップを、虫除け具のどの位置に、どのような角度で配置し、虫除け具と安全ピン付クリ ップの比率をどのようにするかなど、組合せ方は千差万別であり、組合せ方 によって美感も機能も異なる。すなわち、虫除け具と安全ピン付クリップを組み合わせる行為は、無数に存在する選択肢の中から当業者が試行錯誤して決定していく独創的な創作活動である。 したがって、仮にオニヤンマを模した虫除け具に安全ピン付クリップを組み合わせるという創作活動の非容易性を度外視したとしても、特定の形状を 備えるクリップ付き虫除け具である本件意匠が創作されるには、当業者が試行錯誤して決定していく独創的な創作活動がいくつも存在する以上、本件意匠の創作非容易性が否定されることには決してなり得ない。 さらに、位置を捨象した構成要素のみを取り出して創作容易であると断じることは禁じられる。本件意匠においても、上記のとおり、オニヤン 上、本件意匠の創作非容易性が否定されることには決してなり得ない。 さらに、位置を捨象した構成要素のみを取り出して創作容易であると断じることは禁じられる。本件意匠においても、上記のとおり、オニヤンマを模 した虫除け具における安全ピン付クリップの取付位置等につき無数の選択肢がある以上、同取付位置等を捨象し、虫除け具と安全ピン付クリップの組合せなどという抽象化した概念をもって、創作容易であると断じることなど決して許されない。 以上より、本件意匠の創作行為は創作非容易性を欠如しないから、本件意 匠の創作非容易性は欠如しないと評価される。 第4 当裁判所の判断 1 本件意匠の甲各意匠に基づく容易想到性について⑴ 証拠(甲1及び甲各意匠についてそれぞれ甲2ないし10。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠及び甲2意匠及び甲3意匠について、 次の各事実を認めることができる。 ア本件意匠は、別紙審決書(写し)の別紙第1のとおりであるところ、意匠に係る物品を「害虫忌避具」とし、意匠に係る物品の説明を「本物品は、人体に蚊や虻などの害虫が近づくことを防止するための道具であり、使用状態を示す参考斜視図に示すように、背中側(平面側)にて紐を取り付け て軒先などに吊るして使用したり、腹部側(底面側)に存在するクリップ や安全ピンにて衣服、帽子や鞄などに留めて使用したりすることができる。」とし、意匠の説明を「緑色に着色した部分以外が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」とするものであり、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、意匠公報の図面の緑色に着色した部 分以外とするものである。本件意匠は部分意匠であり、全体 若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、意匠公報の図面の緑色に着色した部 分以外とするものである。本件意匠は部分意匠であり、全体の形状をトンボ形状とする害虫忌避具のうちの、図面の緑色に着色した部分以外を、意匠登録を受けようとする部分とするものであるから、本件意匠は、この意匠登録を受けようとする部分を指すものである。 イ本件意匠の位置、大きさ及び範囲は、全体の形状をトンボ形状とするう ちの、羽部と腹部の細管状部分を除いた、頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分、脚部、及び胸部の上面の環状連結具と胸部の下面のシーソー式クリップと安全ピンに係るものである。 ウ本件意匠の形状等は、以下のとおりである。 (ア) 全体の形状(基本的構成態様) 昆虫のトンボの一種であるオニヤンマを模した(当事者間に争いがない)、害虫忌避具のうちの、頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分及び脚部からなる本体を構成し、胸部の上面に環状連結具を設け、胸部の下面にはシーソー式クリップと安全ピンを設けている(以下、本件意匠のうち、胸部の上面に設けられた環状連結具及び胸部の下面に設けられたシーソ ー式クリップと安全ピンを除いた、頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分及び脚部からなる部分を「本体」ということがある。)。 (イ) 各部の形状等(具体的構成態様)a 全体の長さの比率平面視における縦、横の長さ及び高さの比率は、約1:0.8:0. 7である。 b 頭部頭部は、左右側面に略半楕円球形の目(昆虫の複眼)を配し、頭頂部に2本の短い突起がある。 色は濃色で、頭部前面の上段に水平な短細線模様、中段に略角丸横長長方形の下辺を2連円弧で抉った模様、下段に左右横並びの二つの 円球形の目(昆虫の複眼)を配し、頭頂部に2本の短い突起がある。 色は濃色で、頭部前面の上段に水平な短細線模様、中段に略角丸横長長方形の下辺を2連円弧で抉った模様、下段に左右横並びの二つの 略小円模様をそれぞれ淡色で配している。 c 胸部胸部は、略拳形状である。 色は濃色で、平面側の頭部寄りに略ハの字状に淡色の略長楕円模様を二つ配し、頭部寄りと腹部寄りに1本ずつ左右側面から底面側まで 延びる2本の細い線模様を淡色で配している。 d 腹部腹部は、平面視において縦長の略楕円球状である。 色は濃色で、腹部の胸部寄りと尾部寄りに1本ずつ尾部方向へ傾斜し周回する2本の細い線模様を淡色で配している。 e 脚部脚部は、前脚、中脚、後脚の3対あり、先端が先細った細線体であって、いずれも胸部下面から略水平に出ており、それぞれの脚の長さには、大きな差がない。前脚は胸部から約90度横に延びて中間の関節部で頭部方向へ約90度曲がり、中脚は胸部から約90度横に延び て中間の関節部で腹部方向へ約90度曲がり、後脚は胸部から腹部方向に約45度横に延びて中間の関節部で腹部方向へ約45度曲がっており、中脚と後脚の先端は外側にわずかに湾曲している。 色は濃色である。 f 環状連結具 胸部の平面視における上面に、環状連結具を縦向きに設けてあり、 その長さは全長の約1/8である。 色は淡色である。 g シーソー式クリップと安全ピン胸部の下面に、シーソー式クリップと安全ピンを設けてある。シーソー式クリップの基台部は縦長長方形板であり、縦横比1:0.5で ある。シーソー式クリップは、全体に比して縦幅は約1/2、安全ピンが横幅約1/1.4である。クリップの可動部は、底面視略羽子板形状であり、上部寄りの押圧 縦長長方形板であり、縦横比1:0.5で ある。シーソー式クリップは、全体に比して縦幅は約1/2、安全ピンが横幅約1/1.4である。クリップの可動部は、底面視略羽子板形状であり、上部寄りの押圧部は、略長方形で表面に5筋の凸条を単手方向に均一幅で配し、下部寄りの挟み込み部は、押圧部より横幅が狭く、略長方形で、押圧部と挟み込み部の間の中央付近は、略等脚台 形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する。挟み込み部のうち、基台部と向き合い接する部分に山形が連続したギザギザを配した噛み合わせ部を形成している。 また、安全ピンの横幅は、基台部の横幅に比して約2.4倍であり、クリップの可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続している。 色は、クリップの基台部は無色透明であり、クリップの可動部及び安全ピンは淡色である。 エ甲2意匠及び甲3意匠甲2意匠及び甲3意匠は、いずれも自然界に生息する昆虫のトンボの一種であるオニヤンマであり、その肢体である。 オ甲2意匠及び甲3意匠の本件意匠に対応する部分の形状等甲2及び甲3から認められる甲2意匠及び甲3意匠のうち、本件意匠に対応する部分、すなわち、全体の形状をトンボ形状とするうちの、羽部と腹部の細管状部分を除いた、頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分及び脚部に係るもの(以下、「甲2及び甲3意匠部分」という。)の形状等は以下のと おりである。 (ア) 全体の形状等(基本的構成態様)甲2及び甲3意匠部分は、トンボの一種であるオニヤンマの一部分であり、頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分、脚部から構成される。 (イ) 各部の形状等(具体的構成態様)a 全体の長さの比率 平面視における縦幅、横幅及び側面視における高さの長さの比率は、約1:0.5: 胸部、腹部の胸部寄り部分、脚部から構成される。 (イ) 各部の形状等(具体的構成態様)a 全体の長さの比率 平面視における縦幅、横幅及び側面視における高さの長さの比率は、約1:0.5:0.7である。 b 頭部頭部は、上面から左右側面にかけて略半楕円球形の複眼を配し、頭頂部に三つの小球体からなる単眼とその外側に2本の細く短い毛のよ うな触角があり、下面には口がある。 色は黒色で、複眼は緑色、頭部前面の上段に略浅皿状の湾曲線模様、中段に略角丸横長長方形状の下辺を2連矩形で抉った模様、下段に左右横並びの二つの略横長楕円模様を黄色で配している。 c 胸部 胸部は、略拳形状である。 色は黒色で、平面側の頭部寄りに略ハの字状に黄色の略紡錘型模様二つを配し、それよりも腹部寄りに、胸部を周回する2本の黄色の太線模様を配している。 d 腹部 腹部は、略円錐形状で、胸部側から末端側に向かって細くなっている。 色は黒色で、腹部を周回する1本の太い線模様を黄色で配している。 e 脚部脚部は、前脚、中脚及び後脚の3対あり、付け根から関節を経る毎 に先細る細線体であって、いずれも胸部下面から略下方に向けて生え ており、前脚は胸部から頭部方向約45度下方に延びており、中脚は胸部から腹部方向約30度下方に延びて関節部で頭部方向へ約30度曲がり、後脚は胸部から腹部方向に胸部に沿うように延びて関節部を経て末尾方向下方へ延びており前脚や中脚よりも極端に長い。 色は黒色である。 ⑵ 本件意匠と甲2及び甲3意匠部分の形状等の共通点及び差異点本件意匠と甲2及び甲3意匠部分を比較すると、基本的構成態様に関し、本件意匠では胸部の上面に設けられた環状連結具及び胸部の下面に設けられたシーソー式クリップと安 意匠部分の形状等の共通点及び差異点本件意匠と甲2及び甲3意匠部分を比較すると、基本的構成態様に関し、本件意匠では胸部の上面に設けられた環状連結具及び胸部の下面に設けられたシーソー式クリップと安全ピンが存在するのに対し、甲2及び甲3意匠部分ではこれらがない点で異なる一方、本件意匠の本体と甲2及び甲3意匠部 分は、頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分及び脚部からなる点において共通する。 もっとも、本件意匠の本体の具体的構成態様と、甲2及び甲3から認められる甲2及び甲3意匠部分の具体的構成態様を比較すると、以下の差異点がある。 (差異点1) 頭部は、甲2及び甲3意匠部分では、頭部上面から左右側面にかけて略半楕円球形の複眼を配し、頭頂部に三つの小球体からなる単眼とその外側に2本の細く短い毛のような触角があるのに対して、本件意匠は、頭部左右側面に略半楕円球形の複眼を配し、頭頂部に2本の短い突起がある点。 (差異点2) 腹部は、甲2及び甲3意匠部分では、略円錐形状で、胸部側から末端側に向かって細くなっているのに対して、本件意匠は、略楕円球状である点。 (差異点3) 脚部は、甲2及び甲3意匠部分では、前脚は胸部から頭部方向約45度下方に延びており、中脚は胸部から腹部方向約30度下方に延び て関節部で頭部方向へ約30度曲がり、後脚は胸部から腹部方向に胸部に沿 うように延びて関節部を経て末尾方向下方へ延びており、前脚や中脚よりも極端に長いのに対して、本件意匠は、前脚は胸部から約90度横に延びて関節部で頭部方向へ約90度曲がり、中脚は胸部から約90度横に延びて関節部で腹部方向へ約90度曲がり、後脚は胸部から腹部方向に約45度横に延びて関節部で腹部方向へ約45度曲がっており、中脚と後脚の先端は外側に わずか 度曲がり、中脚は胸部から約90度横に延びて関節部で腹部方向へ約90度曲がり、後脚は胸部から腹部方向に約45度横に延びて関節部で腹部方向へ約45度曲がっており、中脚と後脚の先端は外側に わずかに湾曲し、それぞれの脚の長さには大きな差がない点。 ⑶ 甲4ないし甲10意匠その他の甲各意匠につき、その物品等の用途及び機能並びに形態については、以下のとおり認められる。 ア甲4に示された意匠 甲4に示された意匠は、本件意匠の意匠登録出願前である平成29年(2017年)初旬頃に、アスクル株式会社発行のカタログ「ASKULカタログ2017秋・冬号」226頁に掲載された、プラス製「名札ハード安全ピン&金属クリップ付」の安全ピン付クリップである。 その具体的な形状等は以下のとおりである。 (ア) 意匠に係る物品前記のとおり物品は安全ピン付クリップである。甲4に示された意匠は、胸付名札の意匠であるところ、本件意匠との関連が主張されているのは、このうち安全ピン付の金属クリップ部の部品の形状であり、当該安全ピン付の金属クリップ部の部品の意匠(以下、この部分を「甲4意 匠」という。)は、以下のとおりである。 (イ) 形状等甲4意匠は、名札の裏面視を正面とすると、以下のとおりである。 甲4意匠は、シーソー式クリップと安全ピンを設けており、クリップの基台部は縦長長方形板であり、縦横比約1:0.6で、安全ピンの横 幅は、基台部横幅比約2.5倍である。クリップ可動部は、底面視略羽 子板形状であり、上部寄りの押圧部は、略長方形で表面に4筋の凸条を単手方向に配しており、凸条は等幅である。下部寄りの挟み込み部は、押圧部より横幅が狭く、末端が半円形の略長方形で、押圧部と挟み込み部の間の中央付近は、略等脚台形状 部は、略長方形で表面に4筋の凸条を単手方向に配しており、凸条は等幅である。下部寄りの挟み込み部は、押圧部より横幅が狭く、末端が半円形の略長方形で、押圧部と挟み込み部の間の中央付近は、略等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する。挟み込み部のうち、基台部と向き合い接する噛み合 わせ部分の形状は明らかではない。 また、安全ピンは、クリップ可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続している。 色は、クリップの基台部は無色透明であり、クリップ可動部及び安全ピンは銀色である。 イ甲5意匠甲5意匠は、本件意匠の先行公知意匠である意匠登録第1242769号であり、意匠に係る物品の説明を「本物品は、名札板に取着するときには、両面テープ、接着剤等によって行うものである。」とするものである。 (ア) 意匠に係る物品 甲5意匠は、「名札用クリップ」である。 (イ) 形状等甲5意匠は、シーソー式クリップの可動部に安全ピンを設けたものであって、クリップの基台部は縦長長方形板であり、縦横比約1:0.5で、安全ピンの横幅は、基台部横幅比約2.8倍である。クリップ可動 部の上部寄りの押圧部は、角丸逆三角形で表面外形縁部と単手方向に3筋を凸条があり、3筋の凸条は最上段から下段へ向かい徐々に幅狭くなる。挟み込み部は、略長方形である。挟み込み部のうち、基台部と向き合い接する部分に側面視山形を一つ配した噛み合わせ部で形成している。 また、安全ピンは、クリップ可動部の支点付近に安全ピンの軸部を接 続している。 甲5意匠は、線図のみで、色は無い。 ウ甲6意匠及び甲8意匠甲6意匠は、本件意匠の意匠登録出願前である平成31年(2019年)1月オープン工業株式会社発行のオンラインカタログ「オープン 甲5意匠は、線図のみで、色は無い。 ウ甲6意匠及び甲8意匠甲6意匠は、本件意匠の意匠登録出願前である平成31年(2019年)1月オープン工業株式会社発行のオンラインカタログ「オープン工業株式会社 2019オンラインカタログ」の64頁に掲載された、「名札用クリ ップ NB-1/NB-1P」の安全ピン付クリップであり、その具体的な形状等は以下のとおりである。 なお、原告は、甲6意匠の補強証拠の趣旨として、甲8(「オープン工業OpenNB-1P[名札用クリップ両面粘着テープ付接着タイプ5個入]」の「名札用クリップ」。)を提出する。同証拠に示されたものは、 本件意匠の出願前である平成28年(2016年)4月7日を販売開始日として、株式会社ヨドバシカメラのオンラインショップページwww.yodobashi.com「オープン工業OpenNB-1P[名札用クリップ両面粘着テープ付接着タイプ 5個入]」に掲載された「名札用クリップ」である。これら甲6、甲8は型番を同じくする同一の製品で あるから、以下、まとめて「甲6意匠」とする。 (ア) 意匠に係る物品甲6意匠は、前記のとおり「名札用クリップ」である。 (イ) 形状等甲6意匠は、シーソー式クリップの可動部に安全ピンを設けたもので あって、クリップの基台部は縦長長方形板で透光性のある白色であり、縦横比約1:0.5で、安全ピンの横幅は、基台部の横幅比約2.5倍である。クリップ可動部は、底面視略羽子板形状で銀色であり、上部寄りの押圧部は、上部が角丸の略長方形で、表面の単手方向に5筋の凸条があり、凸条は最上段のみ幅狭く、下4段が等幅である。下部寄りの挟 み込み部は、押圧部より横幅が狭く、略長方形で、押圧部と挟み込み部 の間の中央 長方形で、表面の単手方向に5筋の凸条があり、凸条は最上段のみ幅狭く、下4段が等幅である。下部寄りの挟 み込み部は、押圧部より横幅が狭く、略長方形で、押圧部と挟み込み部 の間の中央付近は、略逆等脚台形状で、側面視で挟み込み部側を低くする斜面を構成する。挟み込み部のうち、基台部と向き合い接する噛み合わせ部分は側面視山形を四つ配した噛み合わせ部で形成している。 また、安全ピンは銀色であり、クリップ可動部の支点寄り付近に安全ピンの軸部を接続している。 エ甲7意匠甲7意匠は、本件意匠の先行公知意匠である意匠登録第1575239号の意匠であり、意匠に係る物品の説明を「本物品は、蜂、アブ、ハエ、蛾、蚊等の害虫を追い払うものである。これらの害虫は本能的にオニヤンマを天敵とみなす習性がある。本物品はこの習性を利用し、使用状態を示 す参考図に示すように、玄関やベランダの上面壁に、正面図中央の環状部を使って糸でぶら下げ、風等によって本物品が生きているように動くことで、一定の虫除け効果を得る。」とするものである。意匠の説明には、「右側面図は左側面図と対称に表れるので、省略する。羽を模した薄肉板状部の表面の線模様以外の板状部分は、透明体である。」とされている。 (ア) 基本的構成態様甲7意匠は、上記のとおり、トンボのオニヤンマを模したものとして、頭部、胸部、腹部及び羽部から本体を構成し、本体胸部の上面に環状連結具を設けているが、自然界のオニヤンマに比して、相対的に非常に大きな球形の眼球が付されるなど、本体はデフォルメされたものであるこ とが一見して明らかで、脚もないなど簡素化された表現となっている。 (イ) 具体的な態様a 全体の長さの比率平面視における縦幅、横幅及び正面視における縦幅(以下、「高 れたものであるこ とが一見して明らかで、脚もないなど簡素化された表現となっている。 (イ) 具体的な態様a 全体の長さの比率平面視における縦幅、横幅及び正面視における縦幅(以下、「高さ」という。)の長さの比率は、約1:1.3:0.2である。 b 頭部 頭部は、前方上方の左右に略球形で頭部全体に比して相当に大きな球形の眼球を配しており、口やその他の構造物は表現されていない。 左側面図によれば頭部下は角ばっており、細い首などもなく寸胴状にそのまま胸部と一体となっている。 色は、中心部を除く眼は青緑色で、それ以外は黒色である。 c 胸部胸部は、頭部側から腹部側に細長く伸びる略楕円球状である。このうち底面寄りは、腹部と一体で形成されており、脚もない。 色は、黒色で、両側面に腹部方向へ傾斜する、それぞれ三つの黄色の略楕円形模様を配している。 d 腹部腹部は、略円筒状で、胸部から一旦細身になった後、緩やかに膨らみ末端で再び細身になっている。 色は黒色で、腹部を周回する黄色い太線模様を6本、略等間隔に配している。 e 羽部羽部は、薄板状で、正面視において上方へ長辺が緩く弓なりに湾曲した略変形楕円形で、胸部の正面側中央に接続しており、頭部寄りに左右1枚ずつ、腹部寄りに左右1枚ずつの合計4枚が一枚の薄板で形成されている。 色は、全体に黒い略網目状の模様が配され、網目模様以外の全面が透明体である。 f 連結具連結具は、環状で、胸部の上面に縦向きに設けており、平面視において縦幅の約1/23である。 オ甲9意匠 甲9意匠は、本件意匠の意匠登録出願前である令和3年(2021年)5月23日を公開日とする日本気象協会Webページ「【おにやんま君】売 縦幅の約1/23である。 オ甲9意匠 甲9意匠は、本件意匠の意匠登録出願前である令和3年(2021年)5月23日を公開日とする日本気象協会Webページ「【おにやんま君】売り切れ続出中! 電池も火も薬剤も使わないニュータイプの虫除けグッズに大注目」に掲載されている「虫除け具」であり、具体的な形状等は以下のとおりである。 (ア) 意匠に係る物品甲9意匠は、「虫除け具」である。 (イ) 形状等甲9意匠は、甲7意匠の虫除け具の意匠の、頭部側の先端付近に安全ピンを取り付けた意匠である。 カ甲10意匠甲10意匠は、本件意匠の意匠登録出願前である令和3年(2021年)8月31日を更新日とする関西女子アナ.COMのWebページ「す・またん!/2021年8月16日(月)/ショコジャーナル/虫よけグッズ!おにやんま君を調査!」に掲載されている「虫除け具」であり、具体 的な形状等は以下のとおりである。 (ア) 意匠に係る物品甲10意匠は、「虫除け具」である。 (イ) 形状等甲10意匠は、甲7意匠の虫除け具の意匠の、頭部側の先端付近に安 全ピンを取り付けた意匠である。 ⑷ 本件意匠の甲各意匠からの創作容易性の判断ア意匠の創作非容易性は、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準に、公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたか否かを判断 して決すると解されるところ(意匠法3条2項)、意匠法3条2項は、物品 との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ)を基準として、それから当業者が容易に創作することができた意匠でな との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ)を基準として、それから当業者が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであるから、上記の周知のモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものである (最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁、最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。 したがって、登録意匠が、周知のモチーフを基準として、ありふれた手法により変更可能なものあるいは軽微な改変又はそれらの単なる寄せ集 めとはいえず、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性が認められる場合は、これを引用意匠等の形状、模様、色彩又はこれらの結合に基づいて当業者が容易に創作することができた意匠であるということはできないというべきである。 本件意匠の当業者については、害虫忌避具や虫除け具等に係る分野にお ける通常の知識を有する者であると認められるところ、本件意匠と甲各意匠とを比較すると、以下のとおりである。 イ本件意匠は、甲2及び甲3意匠部分との対比において、本件意匠の本体の具体的構成態様と甲2及び甲3意匠部分の具体的構成態様の間には、頭部、腹部、脚部の形状等につき、前記⑵差異点1ないし3のとおり、子細 に見れば異なる点はある。しかし、これらは、自然に生息するオニヤンマの形状と比してわずかに改変を加えた程度の差異といえるものであり、本件意匠の本体は、上記差異点以外の部分の形状等を含めて観察した場合には、自然界のトンボの一種であるオニヤンマの頭部、胸部、腹部の胸部寄 形状と比してわずかに改変を加えた程度の差異といえるものであり、本件意匠の本体は、上記差異点以外の部分の形状等を含めて観察した場合には、自然界のトンボの一種であるオニヤンマの頭部、胸部、腹部の胸部寄り部分及び脚部の形状を模して、これを害虫忌避具としたものといえる。 そして、甲7意匠にあるとおり、本件意匠の登録出願前から、自然に生 息するオニヤンマの形状をデフォルメし、これを虫除け具の本体とした意匠が公然知られる状態であった。甲7意匠のうち環状連結具を除いた本体のうち頭部、胸部、腹部の胸寄り部分と本件意匠の本体を比べると、甲7意匠の本体の上記部分は、眼球がデフォルメされており、脚も省略されるなどしているから、本件意匠の方が、自然に生息するオニヤンマに近いも のと認められる。そして、自然に生息するオニヤンマの形状は、もとより公知であるから、害虫忌避具の本体の形状を甲7意匠の頭部、胸部、腹部の胸寄り部分に比してより自然に生息するオニヤンマに近いものとし、脚部を付加することは、当業者であれば容易に創作できたものといえる。 また、本件意匠は、甲2及び甲3意匠部分との対比において、基本的構 成態様について、胸部の上面に環状連結具が設けられている点で異なるところ、オニヤンマの形状を模した本体に、取付具として、本体の胸部の上面に環状の取付具を付することについても、甲7意匠から公知であったことが認められる。 ウしかしながら、本件意匠は、甲2及び甲3意匠部分との対比において、 基本的構成態様について、胸部の下面に、シーソー式クリップと安全ピンが設けられている点で異なる。このシーソー式クリップと安全ピンを取付具として付することにおいて、本件意匠の態様は、頭部側の先端付近に安全ピンを取り付けた甲9意匠や甲10意匠に表さ クリップと安全ピンが設けられている点で異なる。このシーソー式クリップと安全ピンを取付具として付することにおいて、本件意匠の態様は、頭部側の先端付近に安全ピンを取り付けた甲9意匠や甲10意匠に表された意匠とは、取付具自体(本件意匠ではシーソー式クリップと安全ピンであるのに対し、甲9意 匠及び甲10意匠は安全ピンのみ)及び取付位置(本件意匠では胸部の下面であるのに対し、甲9及び甲10意匠では頭部側の先端付近)について、いずれも異なっている。トンボを模した虫除け具の胸部の下面にシーソー式クリップと安全ピンが設けられている意匠が本件意匠の出願前に存在したとは認められない。 また、シーソー式クリップと安全ピンの形状等についても、甲4から甲 6、甲8に示されたシーソー式クリップと安全ピンと、同種の物ではあるものの、原告の主張に係る表からも明らかなように、甲4から甲6意匠に示されたシーソー式クリップと安全ピンのいずれの形状等と比較しても、同一のものではない。 そうすると、甲9意匠及び甲10意匠とは異なり、オニヤンマを模した 本体の胸部の下面に、本件意匠中のシーソー式クリップ及び安全ピンを設けることについて、ありふれた手法により変更可能なものあるいは軽微な改変又はそれらの単なる寄せ集めとはいえず、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性が認められるものといえ、当業者がその他甲各意匠に基づいて、容易に創作することができた意匠であるとはいえない。 したがって、本件意匠のうちのオニヤンマの形状を模した本体と環状連結具だけを見るならば、それらは出願前公知意匠から創作容易であったと解する余地があるとしても、本件意匠は本体と環状連結具に加え、本体の胸部の下面のシーソー式クリップと安全ピンを含めたこれらの総体から 具だけを見るならば、それらは出願前公知意匠から創作容易であったと解する余地があるとしても、本件意匠は本体と環状連結具に加え、本体の胸部の下面のシーソー式クリップと安全ピンを含めたこれらの総体から構成されるものであり、このような本件意匠は、出願前公知意匠又は刊行物 記載意匠に基づいて容易に創作をすることができたとは認められない。 以上によれば、本件意匠(本件意匠)は、甲2意匠から甲10意匠(甲各意匠)に基づいて当業者が容易に創作をすることができた意匠とはいえないから、意匠法3条2項に規定する意匠には該当せず、これと同旨の本件審決の結論に誤りはないというべきである。 2 原告の主張する取消事由に対する判断⑴ 原告は、前記第3の1(取消事由1)のとおり、本件意匠のクリップと安全ピンの認定には誤りがある旨を主張する。 原告の上記主張は、本件審決の結論にどのように影響を及ぼすか明らかでなく、本件審決の結論を誤りとする理由を示すべき取消事由の主張としては 当を得ないが、この点を措くとしても、前記1⑴ウ(イ)(各部の形状等(具体 的構成態様))gのとおり、安全ピンの横幅は、原告の主張するとおり基台部横幅比約2.4倍と認められるところであるものの、これを前提としても、前記1のとおり、本件意匠の創作非容易性についての本件審決の判断に誤りはないというべきである。 したがって、原告の上記取消事由1の主張は採用することができない。 ⑵ 原告は、前記第3の2(取消事由2)のとおり、クリップと安全ピンの形状等の類似性についての本件審決の判断は誤りである旨を主張する。 しかし、甲4ないし6意匠の認定については、前記1⑶アないしウのとおりであり、これを前提としても、前記1のとおり、本件意匠の創作非容易性についての本件審 の本件審決の判断は誤りである旨を主張する。 しかし、甲4ないし6意匠の認定については、前記1⑶アないしウのとおりであり、これを前提としても、前記1のとおり、本件意匠の創作非容易性についての本件審決の判断に誤りは認められない。 したがって、原告の上記取消事由2の主張は採用することができない。 ⑶ 原告は、前記第3の3(取消事由3)のとおり、本件意匠の創作非容易性についての判断は誤りである旨を主張し、それに沿う証拠として甲20ないし26号証を提出する。 原告が本件意匠出願時の当業者における造形処理の一般的水準を示すもの として提出する証拠(甲20「サムライアーマー甲冑」(写し)・平成30年5月25日発行・岡山県立博物館、甲21「変わり兜」(写し)・令和6年(2024年)5月5日発行・株式会社宮帯出版社、甲22「戦国の変わり兜」(写し)・平成22年(2010年)6月30日発行・株式会社学研パブリッシング、甲23「世界の美しいブローチ」(写し)・平成28年(2016年) 10月15日発行・株式会社パイインターナショナル、甲24「楽しい工作」(写し)・昭和51年(1976年)5月1日発行・インテリア出版株式会社、甲25「紙で作るくふう」(写し)・昭和40年(1965年)11月15日発行・株式会社誠文堂新光社、甲26「手芸実習講座・第2巻」(写し)・昭和31年(1956年)9月10日発行・株式会社岩崎書店)のうち、甲 20ないし22には、江戸時代頃に制作された兜の正面に、武勇を象徴する トンボが前立として付けられた例が示されており、それらには、トンボの胸部に取付具を付したものがある。また、甲23には、1960年から80年代に欧州で製作されたブローチにつき、トンボをデフォルメし、一部擬人化して人間の顔を れた例が示されており、それらには、トンボの胸部に取付具を付したものがある。また、甲23には、1960年から80年代に欧州で製作されたブローチにつき、トンボをデフォルメし、一部擬人化して人間の顔を模したブローチの胸部の下面に取付具が付されているものが示され、甲24には、「昆虫でさえ、ブローチのすてきなモデルです。」「留め 金は、手芸用品店で手に入れ、ブローチの裏側にボンドでつけてください。」と記載されている。また、甲25には、「安全ぴんでとめてブローチにしてみましょう。」としてトンボのブローチが示されており、甲26には「蝶と蝉」「これをブローチとして使用するために胴の一部に安全ピンをつけて(14図)出来上りである(15図)。」との記載があり、トンボを含む昆虫の胴(胸 部)の一部に安全ピンを付したものが、それぞれ示されている。 しかし、これらは江戸時代における兜の前立における装飾や、ブローチ等としてトンボの柄の飾りを設ける装飾品に係る場合に、虫の胸部の下面にその取付けに係る手段を設けることについてのものであって、取付具をシーソー式クリップと安全ピンとすることを示すものではなく、また害虫忌避具や 虫除け具の分野について直ちに当てはまるものでもない。その他、本件意匠について、本件審決の創作非容易性についての判断に、誤りは認められない。 したがって、原告の上記取消事由3の主張は採用することができない。 3 結論以上のとおり、本件審決の認定及び判断に誤りは認められず、原告主張の取 消事由1ないし取消事由3には、いずれも理由がない。 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 主文 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官中平健 裁判官今井弘晃 裁判官水野正則 別紙省略
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