平成14(わ)321 業務上過失往来危険、業務上過失致死傷被告事件

裁判年月日・裁判所
平成17年1月13日 福井地方裁判所
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判決文本文18,190 文字)

主文 1 被告人甲を禁錮3年に,同乙を禁錮2年に,同丙を禁錮1年6月に処する。 2 この裁判が確定した日から,被告人甲に対し4年間,同乙及び同丙に対し各3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 3 訴訟費用は,その3分の1ずつを各被告人の負担とする。 理由 第1 犯罪事実 1 被告人3名の業務者たる地位・被告人甲は,平成11年1月18日ないし同12年12月17日当時,鉄道事業等を営むA鉄道株式会社福井鉄道部(以下「福井鉄道部」と略称。)部長として,福井県内における同社の鉄道事業に関し,電車の検査,保守管理及び補修,営業運転に使用する電車の車両運用方を含む鉄道の運営全般を統括掌理し,電車の安全な運行確保を図る業務に従事していた。 ・被告人乙は,上記当時,被告人甲らの指揮を受け,福井鉄道部技術課長兼車両係長として,上記鉄道事業に関し,電車の検査,保守管理及び補修等の業務を行う車両区を指揮するとともに,所属車両の調査・研究・保守・改良に関する事項を統括し,安全を確保できない車両については,営業運転に使用させないなどの方法で,電車の安全な運行確保を図る業務に従事していた。 ・被告人丙は,上記当時,被告人乙らの指揮を受け,福井鉄道部技術課車両区長として,上記鉄道事業に関し,電車の検査,保守管理及び補修等の業務を統括し,安全を確保できない車両については,営業運転に使用させないなどの方法で,電車の安全な運行確保を図る業務に従事していた。 2 注意義務の前提事実・平成11年1月18日午後5時40分ころ,福井鉄道部が所轄する越前本線と永平寺線の分岐駅である東古市駅において,営業運転を終えて停車中の同鉄道部の運行管理に係る旅客電車モハ251形252号(以下「252号電車」と略称。) 5時40分ころ,福井鉄道部が所轄する越前本線と永平寺線の分岐駅である東古市駅において,営業運転を終えて停車中の同鉄道部の運行管理に係る旅客電車モハ251形252号(以下「252号電車」と略称。)に取り付けられていたブレーキ引棒(主ロッドともいう)が破断するという事故が発生した(以下「11年事故」と略称。)。 被告人3名は,いずれも遅くとも同月19日ころには11年事故の報告を受け,その後,各自が252号電車の破断したブレーキ引棒を直接見ており,その破断箇所がブレーキ引棒の二股部とこれに接続する丸棒部を繋ぐ通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという箇所であったことをそれぞれ確認した。 ・福井鉄道部において運行の用に供されていた252号電車のように一つの車両に一つのブレーキシリンダーしかない,いわゆる1ブレーキシリンダー車両の電車は,ブレーキシリンダーと連結した前後(長短)2本のブレーキ引棒が相互にバランスを取り合いながら台車に制動力を伝達するという構造を有しており,いずれか1本でもブレーキ引棒が破断した場合には,2本ともその機能を喪失して制動力が零になるという危険性を有していたところ,同鉄道部において運行の用に供されていた旅客電車モハ251形251号(以下「251号電車」と略称。)もまた,252号電車と同じ1ブレーキシリンダー車両の電車であった。 ・上記各電車に取り付けられていたブレーキ引棒は,いずれも,一つの丸棒部と二つの二股部から成り,丸棒部の両端に二股部がそれぞれ溶接されて1本化されたものであった。251号電車に取り付けられていた前後(長短)2本のブレーキ引棒には,252号電車の破断したブレーキ引棒に使用されていた二股部と同一の時期に同一の業者(株式会社F)から納入された二股部が使用されてい 251号電車に取り付けられていた前後(長短)2本のブレーキ引棒には,252号電車の破断したブレーキ引棒に使用されていた二股部と同一の時期に同一の業者(株式会社F)から納入された二股部が使用されていたところ,いずれの二股部にも,その付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できないいわば隠れた溶接箇所が存在しており,同箇所には,製造当初又は使用開始時より傷及びき裂等があった。 3 被告人3名の注意義務及び過失行為・被告人甲は,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能の状態に陥り,衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性があることを容易に認識し得たのであるから,福井鉄道部部長として,11年事故のブレーキ引棒の破断状況確認後,すみやかに,自らの決裁権の範囲で経費支出が可能な検査,点検及び部品交換,補修等については,被告人乙及び同丙らを指揮するなどして実施し,また,自らの決裁権を超える経費の支出を伴う検査,点検及び部品交換,補修等が必要である場合には,上司であるB専務取締役らに報告し,その決裁を得た上で,被告人乙及び同丙らを指揮するなどして実施し,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講ずべき業務上の注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,被告人丙に対し,252号電車の破断したブレーキ引棒を補修する旨の指示を出すに止め,被告人乙及び同丙に対し,ブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確 告人丙に対し,252号電車の破断したブレーキ引棒を補修する旨の指示を出すに止め,被告人乙及び同丙に対し,ブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講ずること指示しなかった。 ・被告人乙は,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能に陥り,衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性があることを容易に認識し得たのであるから,福井鉄道部技術課長兼車両係長として,11年事故のブレーキ引棒の破断状況確認後,すみやかに,上司である被告人甲に対し,検査及び点検等により,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講じる必要があることを意見具申すべき業務上の注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,被告人甲に対して何らの意見具申をしなかった。 ・被告人丙は,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能の状態に陥り,衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性があることを一応認識していたというのであるから,福井鉄道部技術課車両区長として,11年事故のブレーキ引棒の破断状況確認後,すみやかに,上司である被告人甲及び同乙に対し,検査及び点検等により,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとと ,福井鉄道部技術課車両区長として,11年事故のブレーキ引棒の破断状況確認後,すみやかに,上司である被告人甲及び同乙に対し,検査及び点検等により,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講じる必要があることを意見具申すべき業務上の注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,被告人乙に対して252号電車のブレーキ引棒の破断事故(11年事故)を報告し,当該破断したブレーキ引棒を直接確認させたに止まり,被告人甲及び同乙に対してそれ以上何らの意見具申をしなかった。 4 因果関係及び結果被告人3名の上記各過失行為により,漫然と福井鉄道部の職員らをして,251号電車を営業運転に使用させ続けた結果,平成12年12月17日午後1時30分ころ,運転士Cが運転し,永平寺線永平寺駅を出発して東古市駅に向かって運行中の251号電車(上り第316号列車)の永平寺方ブレーキ引棒を製造当初又は使用開始時から存在していた傷及びき裂等に基づき破断させて制御不能の状態に陥らせ,251号電車を,停止すべき東古市駅を通過して単線の越前本線に乗り入れさせ,そのころ,同本線上において,折から同本線を志比堺方面から対向進行してきた運転士D運転に係る旅客電車モハ1101形1101号(下り第15号列車,以下「1101号電車」と略称。)に正面衝突させ(以下「本件事故」と略称。),よって,両電車の前部を破壊するとともに,上記Cに対し,頭蓋骨及び顔面骨骨折,脳挫傷,心破裂並びに骨盤骨複雑骨折等の傷害を負わせ,同日午後2時33分ころ,福井医科大学医学部附属病院において,同人を上記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させ Cに対し,頭蓋骨及び顔面骨骨折,脳挫傷,心破裂並びに骨盤骨複雑骨折等の傷害を負わせ,同日午後2時33分ころ,福井医科大学医学部附属病院において,同人を上記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させたほか,上記各電車の乗員及び乗客合計27名に対し,加療約5日間から約2年以上を要する傷害をそれぞれ負わせた。 第2 証拠(省略)第3 事実認定の補足説明被告人3名は,いずれも,過失の存在について積極的にこれを争う供述をしておらず,また,弁護人も,被告人らの過失について積極的にその存在を争うものではないが,当裁判所が,判示事実のとおり,被告人3名の過失(業務上の注意義務違反)を認定した理由について,以下,補足的に説明する。 1 まず,前掲各証拠によれば,以下の事実が容易に認められ,この点については,特に争いがない。 ・本件事故の発生について平成12年12月17日午後1時30分ころ,運転士Cが運転し,永平寺線永平寺駅を出発して東古市駅に向かっていた251号電車が走行中に制御不能の状態に陥り,停止すべき東古市駅を通過して単線の越前本線に乗り入れ,そのころ,同本線上において,折から同本線を志比堺方面から対向進行してきた運転士D運転に係る1101号電車と正面衝突し,その結果,判示事実のとおり,上記各電車の前部が破壊されるとともに,上記C運転士が死亡し,上記各電車の乗員及び乗客合計27名が傷害を負うという事故が発生した。 ・本件事故の原因について本件事故は,251号電車に取り付けられていた前後2本のブレーキ引棒のうち永平寺方の1本が走行中に破断し,制動力が零になったために発生した。すなわち,当該破断したブレーキ引棒には,二股部の付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できないいわば「隠れた溶接箇所」があり,この 本が走行中に破断し,制動力が零になったために発生した。すなわち,当該破断したブレーキ引棒には,二股部の付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できないいわば「隠れた溶接箇所」があり,この隠れた溶接箇所に製造当初又は使用開始時から傷及びき裂等の欠陥が存在していたため,同電車の使用開始後,当該欠陥箇所に日常的に負荷がかかることにより,同箇所を起点として疲労き裂が進展し,そのき裂が広がっていき,一気に脆性破壊が発生して破断したため制動力が零になり,その結果,同電車は制御不能の状態に陥ったため,本件事故が発生した(なお,前掲各証拠に照らすと,251号電車を運転していたC運転士並びに1101号電車を運転していたD運転士及びE運転士は,いずれも本件事故の発生を回避することは不可能であった。)。 ・ 11年事故の発生について平成11年1月18日午後5時40分ころ,東古市駅において,営業運転を終えて停車中の252号電車に取り付けられていたブレーキ引棒が突然,破断するという事故が発生した。同電車は,営業運転を終えて停車中であり,乗員及び乗客が一人もいなかったため,人身事故には至らなかった。また,同電車は,修理等のためそのまま東古市駅の留置線に移動され,留置されることとなった。 ・ 252号電車及び251号電車の構造について252号電車は,一つの車両に一つのブレーキシリンダーしかないという構造であり,このようないわゆる1ブレーキシリンダー車両の電車は,ブレーキシリンダーと連結した前後(長短)2本のブレーキ引棒が相互にバランスを取り合いながら台車に制動力を伝達するという構造を有しており,いずれか1本でもブレーキ引棒が破断した場合には,2本ともその機能を喪失して制動力が零になるという危険性を有していた。そして,福井鉄道部にお 合いながら台車に制動力を伝達するという構造を有しており,いずれか1本でもブレーキ引棒が破断した場合には,2本ともその機能を喪失して制動力が零になるという危険性を有していた。そして,福井鉄道部において運行の用に供されていた251号電車もまた,252号電車と同形式の1ブレーキシリンダー車両であった。 ・ 252号電車及び251号電車のブレーキ引棒についてア 252号電車及び251号電車に取り付けられていた長短2本のブレーキ引棒は,いずれも,一つの丸棒部の両端に二つの二股部が溶接されて1本化されたものであった。 イ 252号電車のブレーキ引棒の破断箇所は,二股部とこれに接続する丸棒部をつなぐ通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという箇所(本件事故と同様な箇所)であった。なお,福井鉄道部技術課車両区関係者において,ブレーキ引棒の破断というのは11年事故が初めての経験であった。 ウ 251号電車に取り付けられていた前後(長短)2本のブレーキ引棒には,252号電車の破断したブレーキ引棒に使用されていた二股部と同一の時期に同一の業者(株式会社F)から納入された二股部が使用されていた。この二股部は,A鉄道株式会社から注文を受けた株式会社Fからさらに発注を受けた有限会社Gの下請業者である有限会社H製作所が製造して平成7年にA鉄道株式会社に納品された長短合計5本の部品の一部であった。そして,発注の際のA鉄道株式会社側作成に係る図面によれば,同部品は一本物(ワンピース)の鍛造で仕上げるものと解すべきであり,また,そう解するのが業界の常識であったにもかかわらず,いずれの二股部にも,その付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できない隠れた溶接箇所が存在しており,同箇所には,製造当初又は使用開始時より傷 解するのが業界の常識であったにもかかわらず,いずれの二股部にも,その付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できない隠れた溶接箇所が存在しており,同箇所には,製造当初又は使用開始時より傷及びき裂等があった。また,被告人甲は,上記二股部の発注に際し,福井鉄道部の職員であったKに二股部の図面の作成を依頼していた(なお,上記H製作所の代表者が二股部の製作に際して一本物(ワンピース)の鍛造で仕上げることをせずに,図面上指示のない溶接によって二股部を製造した理由については,同人が平成12年ころに死亡しているため明らかではない。)。 エ福井鉄道部では,経費削減等の見地から平成4年以降A鉄道株式会社の車両の全般検査(6年に1回実施)や重要部検査(3年に1回実施)等を技術力の高い株式会社Iに外注に出すようになっていたところ,252号電車の破断したブレーキ引棒は平成10年1月の全般検査において,251号電車に取り付けられていた前後(長短)2本のブレーキ引棒は平成9年8月の重要部検査において,それぞれ,上記Iにおいて,上記H製作所製造に係る二股部が丸棒部と溶接されたブレーキ引棒と交換されていた。また,上記Iにおいて,各溶接箇所について,き裂等の有無を確認するため,磁粉探傷検査が実施されていた。 なお,福井鉄道部の車両区においても,き裂等の有無を確認するため,磁粉(気)探傷検査や染色浸透探傷検査(カラーチェック)を実施することは可能であった。 ・ 11年事故発生に際しての被告人3名の行動について被告人3名は,いずれも遅くとも事故の翌日(平成11年1月19日)ころには11年事故の報告を受け,その後,各自が252号電車の破断したブレーキ引棒を直接見ており,その破断箇所がブレーキ引棒の二股部とこれに接続する丸棒部をつなぐ余盛部分の (平成11年1月19日)ころには11年事故の報告を受け,その後,各自が252号電車の破断したブレーキ引棒を直接見ており,その破断箇所がブレーキ引棒の二股部とこれに接続する丸棒部をつなぐ余盛部分のある通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという箇所であったことをそれぞれ確認した。しかし,被告人3名は,当該破断したブレーキ引棒に対する処置として,外注に出すことなく車両区において破断したブレーキ引棒に換えてあり合わせの部品を加工して取り付けるという方針を決め,被告人丙の指示により,車両区の嘱託職員であったJらを中心として作業等を実施させた。そして,被告人3名は,それ以上に,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明することや,252号電車と同型の251号電車のブレーキ引棒について緊急の点検等の安全確保の措置は何ら行わなかった。また,被告人3名は,上司であるB専務取締役に対し,11年事故の報告自体もしなかった。 2 そこで,以上の事実を前提に,福井鉄道部として,本件事故の発生を回避するためにいかなる措置を講じるべきであったかについて検討する。 ・福井鉄道部として講じるべき措置まず,11年事故発生当時,福井鉄道部技術課車両区関係者において,ブレーキ引棒が破断するという事態は初めてのことであったこと,252号電車の破断したブレーキ引棒の破断箇所が,通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという,一本物である鍛造仕上げで製造される場合には,短期間で破断することは想定し難い箇所であったこと,しかも,当該ブレーキ引棒は,252号電車に取り付けられてからわずか1年足らずで破断したこと,以上からすれば,当該ブレーキ引棒(具体的にはその二股部)には何らかの構造上の欠陥が存在した可能性が容易に窺われる 当該ブレーキ引棒は,252号電車に取り付けられてからわずか1年足らずで破断したこと,以上からすれば,当該ブレーキ引棒(具体的にはその二股部)には何らかの構造上の欠陥が存在した可能性が容易に窺われる。 そして,252号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車においてブレーキ引棒は,運行中にそれが1本でも破断すれば制動力が零になるというものであり,当該電車にとって最も重要な部分の一つであること,さらに,福井鉄道部では,252号電車と同形式の1ブレーキシリンダー車両として251号電車も運行の用に供されており,しかも,252号電車の破断したブレーキ引棒に使用されていた二股部と同一の時期に同一の業者から納入された二股部が使用されたブレーキ引棒が取り付けられていたこと,以上からすれば,11年事故の発生に際し,251号電車の運行の安全を確保するためには,福井鉄道部として,252号電車の破断したブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても緊急の点検により傷及びき裂等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講じる必要があったものと認められる。 ・本件事故発生の回避可能性車両区において,252号電車の破断したブレーキ引棒に染色浸透探傷検査(カラーチェック)又は磁粉(気)探傷検査を実施するか,あるいは重要部検査等を請け負っていた上記Iに対し,上記の検査に加え,蛍光X線検査や超音波検査の各検査を依頼しておれば,当該ブレーキ引棒には,本来一本物(ワンピース)で鍛造仕上げで製造されるべき二股部の付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できない隠れた溶接箇所が存在したことが判明したといえる。 そして,検査簿及び部品納入に 本物(ワンピース)で鍛造仕上げで製造されるべき二股部の付け根から約5センチメートルの箇所に表面上は判別できない隠れた溶接箇所が存在したことが判明したといえる。 そして,検査簿及び部品納入に関する注文書等を確認することにより,251号電車のブレーキ引棒に使用されている二股部が252号電車の破断したブレーキ引棒に使用されていた二股部と同一の時期に同一の業者から納入されたものであることも容易に判明したといえること,251号電車のブレーキ引棒について上記の検査を実施しておれば,隠れた溶接箇所に傷及びき裂等が存在したことも判明したといえることからすれば,ブレーキ引棒が251号電車の運行の安全にとって最も重要な部分の一つである以上,福井鉄道部として,251号電車の安全な運行を確保するため,同電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の措置を講じるべきであったことは明らかである。 そして,福井鉄道部として,上記の安全確保の措置を講じておれば,運行中に251号電車のブレーキ引棒が破断するという事態は防げたといえ,本件事故の発生を回避することは可能であったと認められる。 3 以上を前提に,被告人3名の過失(業務上の注意義務違反)について,以下,検討する。 ・被告人甲について被告人甲は,252号電車の破断したブレーキ引棒を直接見て,その破断箇所が通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという箇所であったことを確認しているのであるから,11年事故発生当時,被告人甲が福井鉄道部部長という地位にあり,ブレーキの構造等についての講義経験もあり,相応の知識を有していたことからすれば,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能と についての講義経験もあり,相応の知識を有していたことからすれば,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能となって衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性があることは容易に認識し得たといえる。 したがって,被告人甲において本件事故の発生を予見することは十分可能であったと認められる。 そうすると,前掲各証拠に照らし,被告人甲は,福井鉄道部部長として,本件事故の発生を回避するため,自らの決裁権の範囲で経費支出が可能な検査,点検及び部品交換,補修等については,被告人乙及び同丙らを指揮するなどして実施し,また,自らの決裁権を超える経費の支出を伴う検査,点検及び部品交換,補修等が必要である場合には,上司であるB専務取締役らに報告し,その決裁を得た上で,被告人乙及び同丙らを指揮するなどして実施し,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講ずべき業務上の注意義務があったものと認められる。そして,被告人甲が上記義務を果たしておれば,前記2・のとおり,本件事故の発生を回避することは可能であったと認められる。 にもかかわらず,被告人甲は,11年事故が脱線等による人身事故を伴うような重大事故ではなかったことから,たまたま起こってしまった事故であるなどと安易に考え,ブレーキ引棒の破断という事故の重大性について全く気に止めることなく,被告人丙に対し,252号電車のブレーキ引棒を補修する旨の指示を出すに止め,上司である上記Bらに報告することを含め何らの 易に考え,ブレーキ引棒の破断という事故の重大性について全く気に止めることなく,被告人丙に対し,252号電車のブレーキ引棒を補修する旨の指示を出すに止め,上司である上記Bらに報告することを含め何らの措置を講じなかった。 なお,被告人甲は,当公判廷において,被告人丙に対して252号電車のブレーキ引棒を補修する旨の指示をしたかについて覚えていないなどと供述するが,前掲各証拠に照らして到底信用することができない。 以上より,被告人甲には,本件事故の発生に関し,過失が優に認められる。 ・被告人乙について被告人乙は,破断したブレーキ引棒を直接見て,破断箇所が通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという箇所であったことを確認したというのであるから,11年事故の発生当時,被告人乙が福井鉄道部技術課長兼車両係長という地位にあり,ブレーキの構造等についての講義経験もあったことからすれば,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能となって衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性があることを容易に認識し得たといえる。 したがって,被告人乙において本件事故の発生を予見することは十分可能であったものと認められる。 そうすると,前掲各証拠に照らし,被告人乙は,福井鉄道部技術課長兼車両係長として,本件事故の発生を回避するため,上司である被告人甲に対し,検査及び点検等により,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講じ レーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講じる必要があることを意見具申すべき業務上の注意義務があったものと認められる。 そして,被告人乙が上記義務を果たしておれば,前記2・のとおり,本件事故の発生を回避することは可能であったと認められる。 にもかかわらず,被告人乙は,11年事故が脱線等による人身事故を伴うような重大事故ではなかったことから,ブレーキ引棒の破断という事故の重大性について全く気にとめることなく,しかも部下職員である被告人丙から破断したブレーキ引棒を見るように促された上,破断箇所を直接見たにもかかわらず,上司である被告人甲から11年事故の処置について特段指示されなかったことなどを理由に,たまたま起こってしまった事故であるなどと安易に考え,被告人甲に対して何らの意見具申をしなかった。 以上より,被告人乙には,本件事故の発生に関し,過失が認められる。 ・被告人丙について被告人丙は,破断したブレーキ引棒を直接見て,破断箇所が通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという箇所であったことを確認しており,しかも,252号電車及び251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車の運行中にブレーキ引棒が1本でも破断すれば,当該電車は制御不能となって衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性があることを一応認識していたというのであるから,11年事故の発生当時,被告人丙が福井鉄道部技術課車両区長という地位にあったこと及び上記認識を有していたことからすれば,本件事故の発生を予見することは十分可能であったと していたというのであるから,11年事故の発生当時,被告人丙が福井鉄道部技術課車両区長という地位にあったこと及び上記認識を有していたことからすれば,本件事故の発生を予見することは十分可能であったと認められる。 そうすると,前掲各証拠に照らし,被告人丙は,福井鉄道部技術課車両区長として,本件事故の発生を回避するため,上司である被告人甲及び同乙に対し,検査及び点検等により,252号電車のブレーキ引棒の破断原因を解明するとともに,251号電車のブレーキ引棒についても傷等の有無を確認し,それらの結果に基づき,251号電車のブレーキ引棒について部品の交換及び補修等の安全確保の措置を講じる必要があることを意見具申すべき業務上の注意義務があったものと認められる。 そして,被告人丙が上記義務を果たしておれば,前記2・のとおり,本件事故の発生を回避することは可能であったと認められる。 にもかかわらず,被告人丙は,何の根拠もなく11年事故はたまたま起こった事故であるなどと安易に考えた上,ブレーキ引棒の破断が招来する結果について特段重視することなく,被告人乙に対してブレーキ引棒の破断を報告し,破断したブレーキ引棒を直接確認させたに止まり,被告人甲及び同乙に対してそれ以上何らの意見具申をしなかった。 ところで,被告人丙は,上記のとおり,11年事故の発生に際し,直近の上司である被告人乙に対し,事故内容を報告するとともに,破断したブレーキ引棒を直接見るように促しており,被告人丙としてはなすべき注意義務を果たしたといえるのではないかが問題となり得るが,福井鉄道部車両区長という地位及びその業務内容に鑑みれば,その職責上,被告人丙は,単に被告人乙に対して破断の事実を報告してあとは被告人甲及び同乙の指示に従えば足りるというものに止まらず,さ 得るが,福井鉄道部車両区長という地位及びその業務内容に鑑みれば,その職責上,被告人丙は,単に被告人乙に対して破断の事実を報告してあとは被告人甲及び同乙の指示に従えば足りるというものに止まらず,さらに,被告人甲及び同乙に対して電車運行の安全確保を図るために講ずべき措置について意見具申をする業務上の注意義務があったものと認められる。 以上より,被告人丙には,本件事故の発生に関し,過失が認められる。 ・なお,被告人3名は,いずれも捜査段階においては,11年事故の発生に際し,これが本件のような重大事故の発生につながることまで認識していたが,被告人3名の間であえて何もしないという方針を決めた旨の供述をしていたが,当公判廷において,いずれも否定するに至っている。 そこで検討するに,確かに,被告人3名の各検察官調書の記載を前提にすると,被告人3名は,いずれも11年事故の発生に際し,ブレーキ引棒の破断という事実を認識して,これが本件のような重大事故の発生につながることを明確に認識していたにもかかわらず,被告人3名の間であえて何もしないという方針を決めたことになり,故意犯に近い認識を有していたことになる。 しかしながら,(ア)被告人3名の各検察官調書によっても,被告人3名の間で,252号電車の破断したブレーキ引棒の処置についてのやりとりは具体的にされているものの,破断原因の解明や252号電車と同形式の251号電車のブレーキ引棒の点検等をするか否かについて,具体的なやりとりが一切ないし,何もしないという上記の決定が車両区の職員に伝えられた形跡もない。また,(イ)車両区に所属していた職員らの供述等によっても,252号電車のブレーキ引棒の破断についてどのような処置をするか(外注によるのか自前で修理するのか)は話題となったが,その破断原因の解明 い。また,(イ)車両区に所属していた職員らの供述等によっても,252号電車のブレーキ引棒の破断についてどのような処置をするか(外注によるのか自前で修理するのか)は話題となったが,その破断原因の解明をすべきであるという意見が話題となったり,被告人3名にその旨の意見具申等がされた形跡はない(破断したブレーキ引棒が台車から取り外された後,写真撮影すらされておらず,どのように処置されたかについて不明であることからもこのことは裏付けられる。)。さらに,(ウ)車両区に所属していた職員らの供述等によれば,車両区の職員の中には,(同じ構造を有する)他の車両も点検すべきという意見があったことは事実であるが,被告人3名がその点に関して252号電車以外の電車の点検等について指示をしなかったことについて,特に不満が出たり,話題となった形跡はないことからすれば,車両区全体でこのことが大きな問題ととらえられていなかったものと思われる。また,(エ)前掲各証拠によれば,平成12年4月ころ,営団地下鉄の台車にき裂が発見されたことが運輸局に報告され,運輸局から全国の鉄道事業者に対して台車の緊急点検の実施が指示されたことがあったが,その際も,被告人3名の間で11年事故の報告をすべきかどうかについて意思確認をした形跡はない。 そして,(オ)被告人乙は,平成12年の本件事故の際に,すぐに11年事故のことを思い起こすことはできず,被告人丙の指摘により気付いたので,その後,被告人甲や同丙に相談することなく,専務のBに11年事故のことを報告した旨の供述をしており,一方,被告人丙も,上記営団地下鉄の台車のき裂報告に際して,11年事故のことは思い至らなかった旨の供述をしている。このような供述は,被告人3名の間で,検察官が指摘するような決定がされたことと矛盾するものといわざるを得ない。 地下鉄の台車のき裂報告に際して,11年事故のことは思い至らなかった旨の供述をしている。このような供述は,被告人3名の間で,検察官が指摘するような決定がされたことと矛盾するものといわざるを得ない。 以上の諸事情に照らせば,11年事故当時,被告人3名が,上記各検察官調書で述べているように,重大事故につながるような明確な認識まで有していたにもかかわらず,あえて何もしないという決定をしたか疑わしいといわざるを得ず,むしろ,被告人3名は,252号電車のブレーキ引棒の破断の重大性について十分認識していなかったため,252号電車の修理方法について協議したにとどまったものであり,破断原因の解明や(同じ構造を有する)他の車両も点検すべきか否かについてまで明確に意識していなかったので,被告人3名が上記のような供述や態度となったと解するのが相当であって,これと反する被告人3名の各検察官調書の供述部分はその限度で信用性を認めることは困難である。 第4 法令の適用(被告人3名につき) 1 罰条業務上過失往来危険につき刑法129条2項各業務上過失致死傷につき被害者毎にそれぞれ平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段 2 科刑上一罪の処理刑法54条1項前段(業務上過失往来危険と各業務上過失致死傷について),10条(1罪として刑及び犯情の最も重いC忠夫に対する業務上過失致死罪の刑で処断) 3 刑種の選択禁錮刑を選択 4 刑の執行猶予刑法25条1項 5 訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文第5 量刑の事情 1 本件は,福井鉄道部の部長であった被告人甲,技術課長兼車両係長であった同乙及び車両区長であった同丙の3名が,平成11年1月18日に発生した252号電車のブレー 81条1項本文第5 量刑の事情 1 本件は,福井鉄道部の部長であった被告人甲,技術課長兼車両係長であった同乙及び車両区長であった同丙の3名が,平成11年1月18日に発生した252号電車のブレーキ引棒が破断するという事故に際し,252号電車と同形式の車両である251号電車の運行の安全を確保するために,同鉄道部における各被告人の地位及び業務内容に基づき252号電車の破断原因の解明及び251号電車のブレーキ引棒の点検等をすべき業務上の注意義務があったにもかかわらず,いずれもこれを懈怠したため,平成12年12月17日に251号電車の運行中にブレーキ引棒を脆性破壊により破断させ,その結果,同電車を制御不能の状態に陥らせて暴走させ,同電車を対向進行してきた1101号電車に正面衝突させ,両電車の各前部を破壊するとともに,251号電車の運転士1名を死亡させたほか,1101号電車の運転士及び各電車の乗客合計27名に対してそれぞれ重軽傷の傷害を負わせた,という業務上過失往来危険及び業務上過失致死傷の事案である。 2 福井鉄道部において,251号電車のような1ブレーキシリンダー車両の電車は,構造上長短2本のブレーキ引棒のうちいずれか1本でも破断した場合には,制動力が零になり,それが運行中であれば,当該電車は制御不能の状態に陥り,衝突又は脱線等の重大な事故に至り,乗員又は乗客の生命又は身体に危害が及ぶ危険性を有していたものであることからすれば,251号電車にとって,ブレーキ引棒はブレーキ装置の中でも重要な部位であった。そして,被告人3名は,いずれも,11年事故の発生に際し,252号電車の破断したブレーキ引棒を直接見て,その破断箇所が通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという短期間で破断することが想定し難い箇所であることを確認したと 発生に際し,252号電車の破断したブレーキ引棒を直接見て,その破断箇所が通常の溶接箇所ではなく,二股部の付け根から約5センチメートルという短期間で破断することが想定し難い箇所であることを確認したというのであるから,それぞれ,ブレーキ引棒(二股部)の構造上の欠陥の存在を疑うとともに,ブレーキ引棒の破断が招来する結果について予見した上,その職責に基づく判示のとおりの業務上の注意義務を果たすべきであった。にもかかわらず,被告人3名は,いずれも,11年事故が脱線等による人身事故を伴うような事故ではなかったことなどの理由から安易に考え,その重大性に思いを馳せることなく,ブレーキ装置の保守・点検という電車の運行の安全確保にとって最も基本的で重要な業務上の注意義務を懈怠したものであり,その過失はいずれも重大であり,かつ,乗客等の安全な運送確保を最大の使命とする公共交通機関に携わる者としての職業意識がいずれも著しく欠如していたといわざるを得ない。 3 本件事故により,251号電車の運転士1名が死亡し,1101号電車の運転士2名が重傷を負い,双方の電車の乗客多数が加療約5日間から約2年以上を要する傷害をそれぞれ負ったものであり,その生じた結果は誠に重大である。もとより,死亡した251号電車の運転士には何ら落ち度はないばかりか,同人は,電車が制御不能となって暴走したにもかかわらず,運転席から逃げ出さず,必死にブレーキ操作等を行って暴走を止めようとして命を失うことになってしまったものであり,同人の無念さ,絶望感は察するに余りある。同人の遺族らは,必ずしも被告人3名に対する厳重処罰を表明してはいないものの,予想だにしなかった本件事故により,突然一家の大黒柱を失うことになってしまったものであり,その悲しみ・衝撃の大きさは計り知れないといわざるを得ない。また, 名に対する厳重処罰を表明してはいないものの,予想だにしなかった本件事故により,突然一家の大黒柱を失うことになってしまったものであり,その悲しみ・衝撃の大きさは計り知れないといわざるを得ない。また,本件事故により負傷した者の中には,上記のとおり,加療期間が約2年を超える重篤な傷害を負った者もおり,また,対向してくる電車に気付き,電車が正面衝突するという恐怖を感じた者も多くいるのであって,同人らの被った肉体的・精神的苦痛もまた大きい。 さらに,本件事故により,公共交通機関である鉄道事業の安全性に対する利用者及び地域住民の信頼は著しく失墜させられているのであって,本件事故による社会的影響も相当大きいといわざるを得ない。 4 以上からすれば,被告人3名の刑事責任はいずれも重いというべきである。 5 被告人各自の情状について・被告人甲においては,福井鉄道部部長という福井鉄道部内の運営全般を統括する最高責任者という地位にあり,相応の知識を有していながら,ブレーキ引棒の破断が招来する結果について深く考えることなく,252号電車のブレーキ引棒の応急的な措置のみで済ませるという態度に終始し,破断原因の解明及び他の車両点検の必要性に思い至らなかったのであり,かかる態度は厳しく叱責されなければならず,その地位及び業務内容に鑑みれば,その刑事責任は共犯者の中で最も重い。 ・被告人乙においては,技術課長兼車両係長という電車の検査,保守管理及び補修等の業務を行う車両区を指揮するとともに,所属車両の調査・研究・保守・改良に関する事項を統括していた地位にあり,被告人丙から11年事故の報告を受け,破断したブレーキ引棒を直接見るよう促され,実際に破断箇所を確認して,その重大性に気付き得たにもかかわらず,破断原因の解明及び他の車両の点検の意見具申等何も り,被告人丙から11年事故の報告を受け,破断したブレーキ引棒を直接見るよう促され,実際に破断箇所を確認して,その重大性に気付き得たにもかかわらず,破断原因の解明及び他の車両の点検の意見具申等何もしなかったというのであり,その地位及びその業務内容に鑑みれば,その刑事責任は被告人甲に次いで重いというべきである。 ・被告人丙においては,ブレーキ引棒の破断が招来する結果を認識し,被告人乙に対して破断したブレーキ引棒を直接見るよう促すなど一応の報告はしているものの,技術課車両区長という電車の検査・補修部門の現場を統括していた地位にあった以上,単に事故報告して上司の指示を待つだけでその職責を果たしたとは到底いえず,252号電車のブレーキ引棒の破断原因の解明及び他の車両の点検をするように意見具申すべきであったといえるのであって,その地位及び業務内容に鑑みれば,その刑事責任は重いというべきである。 6 しかしながら,他方,本件事故は,251号電車に取り付けられていたブレーキ引棒が破断したことに帰因するところ,そもそも,当該ブレーキ引棒の二股部には,その製造当初から表面上は判別できない隠れた溶接箇所があり,しかもその箇所に,接合不良という構造上の欠陥が存在したため,その箇所に疲労き裂が進展し脆性破壊が生じて破断したものであって,これが本件事故の主たる原因であることは明らかである。しかも,当該溶接箇所には本来存在するはずの余盛部分が削られており,251号電車への取付け時の検査並びに車両区で行う月検査及び列車検査等の通常の検査では発見することが困難であったというのである。以上からすれば,被告人3名のみを責めるのは酷であるということもできる。 7 また,会社との間で,本件事故のすべての被害者及び遺族らとの間で円満に示談が成立して被害弁償がなされており いうのである。以上からすれば,被告人3名のみを責めるのは酷であるということもできる。 7 また,会社との間で,本件事故のすべての被害者及び遺族らとの間で円満に示談が成立して被害弁償がなされており,被害者及び遺族の被害感情も現在では相当程度慰藉されていると思われること,被告人3名は,いずれも,捜査・公判を通じて,事実関係についてはこれを争っておらず,本件のような重大事故を招来させてしまったことについていずれも反省していること,被告人甲には罰金前科1犯以外に前科・前歴がなく,また,被告人乙及び同丙にもこれまで前科・前歴が全くなく,いずれも鉄道会社の職員として長年真面目に勤務してきたものであることなど,それぞれに有利若しくは斟酌すべき事情が認められる。 8 以上の事情を併せ考慮すると,被告人3名に対し,今回は,主文記載の刑を定めその刑事責任を明確にした上で,それぞれその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・被告人甲につき禁錮3年,被告人乙,同丙につき各禁錮2年)平成17年1月13日福井地方裁判所刑事部裁判長裁判官久保豊裁判官中山大行裁判官谷田好史

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