平成20年3月26日宣告平成19年(わ)第57号主文被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,Zらと共謀の上,山形県a市b字c番地のd所在の株式会社YT工場の操業を停止させる目的で,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同工場B棟及びO棟を焼損しようと企て,上記Zらにおいて,平成18年2月27日午後11時30分ころから同月28日午前1時31分ころまでの間,上記Yが所有し,上記工場工場長Mが看守する同工場内に,北東側の施錠された門扉の施錠を解いて侵入し, 上記日時ころ,同工場O棟(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建,床面積合計約3289.00平方メートル)において,同棟内のラッピングマシン用コンベア等に所携の布を覆いかぶせ,その上及び周囲の床等に所携のシンナー,ガソリン及び灯油を散布した上,不詳の方法で同布に点火するなどして放火したが,火が同棟に燃え移らず,上記ラッピングマシン用コンベア等を焼損したにとどまったため,上記O棟を焼損するには至らず, 上記日時ころ,同工場B棟(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建,床面積合計約1660.21平方メートル)において,同棟製品開発室に置かれた作業台等に所携の布を覆いかぶせ,その上及び周囲の床等に所携のシンナー及び灯油を散布した上,不詳の方法で同布に点火するなどして放火し,その火を,同棟の樹脂製床面,天井及び屋根裏張断熱材等に燃え移らせ,よって,同棟を全焼させて焼損した。 (証拠の標目) 省略(補足説明)被告人は,公判廷において,「放火事件には全く関係していない。」などと供述し,弁護人もかような被告人の供述を引用した上で,被告人は,共犯者である判示Zらと本件犯行の共謀などはしておらず, 補足説明)被告人は,公判廷において,「放火事件には全く関係していない。」などと供述し,弁護人もかような被告人の供述を引用した上で,被告人は,共犯者である判示Zらと本件犯行の共謀などはしておらず,Zが真意を秘して被告人から本件工場の様子等の情報を尋ねたのに対し,被告人が放火とは無関係に本件工場の機能や警備状況等の説明を行っただけであり,被告人は無罪である旨主張している。 そこで,以下,当裁判所が,被告人とZとの共謀の事実を認定した理由を補足して説明する。 第1本件の証拠構造Zは,公判廷において,被告人との間で,本件工場に勤務するゴルフクラブ(以下,単に「クラブ」という。)の製造・開発の技術者(以下,単に「技術者」という。)を動揺するなどさせ,自らが新たに立ち上げるクラブの製造・開発事業に引き込むことを目的として本件犯行を共謀し,被告人から教示された情報等に基づき,製品開発棟であるB棟(以下,単に「B棟」という。)及びクラブのシャフト製造棟であるO棟(以下,単に「O棟」という。)に放火するなどした旨供述している。 したがって,本件においては,このようなZ供述の信用性が肯定できれば,同人と被告人との間の本件犯行の共謀があったことはほぼ間違いないと認定することができることになる。 そこで,以下,客観的な前提事実に関する認定及び被告人の供述内容を踏まえた上で,Zの供述が信用できるか否かを検討する。 第2前提事実検察官及び弁護人が特段その存否を争っておらず,関係証拠から認められる被告人とZとの関係等,本件犯行に至る経緯,本件犯行状況等及び犯行後の被告人の言動等は概ね以下のとおりである。 被告人とZの関係等 被告人は,平成13年ころ,Y株式会社(以下「Y社」という。)の取締役副社長であったところ,クラブの取引を通じてZと知り合い,その後, の言動等は概ね以下のとおりである。 被告人とZの関係等 被告人は,平成13年ころ,Y株式会社(以下「Y社」という。)の取締役副社長であったところ,クラブの取引を通じてZと知り合い,その後,同人と大韓民国(以下「韓国」という。)内におけるY社の商品の販売状況等について意見交換等をするようになった。 その後,被告人は,平成16年8月,Y社代表取締役社長に就任し,平成17年2月ころからは本件工場にほぼ常駐するようになった。 Y社が民事再生手続を申し立てた経緯及び同社とA社の関係等(1)被告人は,平成17年6月20日,B弁護士を代理人として,かねてから経営不振の状態にあったY社につき,東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に対して民事再生手続開始の申し立てを行い,同月27日,同裁判所は,Y社に対し,同手続開始の決定をした。 (2)被告人は,かねてから韓国内におけるY社の商品について,C社と独占的商品供給契約(以下「独占契約」という。)を締結していたところ,一方で,Y社を代表して同契約を解除し,非独占的商品供給契約(以下「非独占契約」という。)締結の申し込みをするとともに,他方で,同年7月15日,Y社を代表して,Zが代表者を務めるA社との間で,韓国内におけるY社の商品につき,非独占契約を締結した。 しかし,民事再生手続の監督委員の意向等により,結局,Y社は,A社に対して,商品の出荷をすることができなかった。 (3)被告人は,同年9月22日,Y社を代表して,D株式会社ら(以下これらを「スポンサー」という。)との間で,上記民事再生手続に関してスポンサー基本合意書を交わした。そのため,被告人は上記合意以降はY社内における実質的な決定権を喪失し,Y社の意思決定などは,徐々にスポンサーから派遣された者らにより行われることになった。 ス してスポンサー基本合意書を交わした。そのため,被告人は上記合意以降はY社内における実質的な決定権を喪失し,Y社の意思決定などは,徐々にスポンサーから派遣された者らにより行われることになった。 スポンサーは,民事再生手続における再生計画案(以下「再生計画案」という。)の内容について,C社と再び独占契約を締結し,A社との上記契約の解除を する旨を主張した。被告人は当初はそのような主張に反対していたが,最終的にはスポンサーの上記主張を受け入れた。また,再生計画案の内容には,被告人が再生計画認可決定後に辞任することも盛り込まれた。 そして,概ねスポンサーの上記主張に沿った再生計画案がY社とスポンサーとの間で合意され,同年12月1日,その再生計画案が東京地裁に提出され,平成18年1月11日,同裁判所は再生計画案の許可決定をした。 また,このころからスポンサーより派遣された者がY社の取締役会に参加するようになった。 (4)Y社の臨時取締役会が同年2月20日に開催され,その際,スポンサーがY社の新株を引き受けて増資(以下「本件増資」という。)を行う日時を同年3月7日とし,それとともに,同社の現取締役の全員が辞任することが決定された。 (5)東京地裁は,同年7月10日,Y社につき民事再生手続の終結決定をした。 本件火災前の被告人とZらの言動等(1)被告人は,平成17年12月7日,B弁護士の事務所において,スポンサーの担当者などから,本件増資後には,取締役はもとより従業員としてもY社を退社することになる旨を告げられた。 その後,同日午後,被告人はZに呼び出され,Y社の取締役副社長であったDとともに,Zが宿泊していたホテルの一室を訪れた。その際,同人は,酔った状態で,「在庫をかっぱらって,それを韓国にばらまいて韓国の市場をめちゃくちゃにしてやる。 出され,Y社の取締役副社長であったDとともに,Zが宿泊していたホテルの一室を訪れた。その際,同人は,酔った状態で,「在庫をかっぱらって,それを韓国にばらまいて韓国の市場をめちゃくちゃにしてやる。」,「Cはいい加減なことをしとる。わしはこんなの許せん。」などと述べた。 (2)Zは,Dに対し,同月14日,シンガポールにおけるY社の在庫商品を購入したい友人がいるため,在庫のリストが欲しいなどと言い,その際,シンガポールにおける商品の倉庫の所在を聞いた。それに対し,Dが質問の理由を尋ねると,Zは言葉を濁した。 (3)被告人とZは,同月15日,韓国において,元Sグループの東京代表を務 めていたEと面談した後,釜山に移動するなどし,クラブの製造販売事業を始めることを合意した。 そこで,その主要な市場と考えていた韓国において,それぞれ1000万円ずつを出資して,クラブの販売会社を設立し,その会社名でクラブのブランド名,ロゴ,マーク等を登録することとし,被告人は,同月26日,Zに1000万円を送金した。 (4)Zは,平成18年1月27日ころ,Dらとともに食事をし,その際,「どうにか在庫を韓国でばらまけんか。」,「Cは韓国でひどいことをやっとる。」などと述べた上,「一遍でいいから工場を見てみたい。」などと述べた。 (5)Y社は,同年2月初めころ,A社に対し,非独占契約を解除するにあたり,和解金として5億2000万円を支払った。 (6)被告人は,同年2月13日,F,Gら本件工場製品開発部の技術者らに加え,同部の従業員ら合計8名とともに,しゃぶしゃぶ等の肉料理を飲食するなどし,その代金は被告人が全額負担した。 (7)被告人は,同月24日,福岡空港からシンガポールに向けて出国した。 本件犯行態様等(1)Zは,同月27日,本件犯行にあたり,自ら 料理を飲食するなどし,その代金は被告人が全額負担した。 (7)被告人は,同月24日,福岡空港からシンガポールに向けて出国した。 本件犯行態様等(1)Zは,同月27日,本件犯行にあたり,自らの実子であるHに,犯行に使用するガソリン,灯油及びシンナー等を山形県W市内まで運ばせたところ,同人からその理由を尋ねられたため,「Y社の社長と話し合った上,報酬ももらうということでやってくれと言われた。」などと説明した。 (2)その後,Zは,同月27日午後11時30分ころ,Iとともに,北東側門から本件工場に侵入した上,まずO棟北西角のドアをこじ開けて内部に侵入し,ラッピングマシン用コンベア合計16台のうち4台に布を被せるなどして放火した。 さらに,IがB棟北東角ドアをこじ開けて内部に侵入し,その中の製品開発室に置かれていた作業台の上に布を被せるなどした上,同台及び同室内に置かれていたコンピューター等に放火した。その後,暫くすると火災報知器が鳴り始めた。 Zらは,本件犯行後,本件工場から逃走した。 (3)本件犯行当時,B棟及びO棟に機械警備は付されていなかった。また,B棟及びO棟以外への放火がされていないことはもとより,在庫商品等の盗難被害もなかった。 本件火災後の被告人の言動等(1)被告人は,平成18年3月4日,福岡空港から本邦に入国した。 (2)被告人は,同日,Y社製品開発部長であり,同社の新製品の開発担当者であったFに対し,翌日会いたい旨電話したところ,同人はこれを承諾したので,同月5日,被告人とFは,被告人が宿泊していた旅館で面談した。 その際,被告人は,Fに対し,「会社を辞めて自分のところに来てくれないか。」,「Fが来てくれるんだったらもう一肌脱ぐから。」,「会社を作るから来てくれ。」などと言った。 Fが,被告人に対し,どこに その際,被告人は,Fに対し,「会社を辞めて自分のところに来てくれないか。」,「Fが来てくれるんだったらもう一肌脱ぐから。」,「会社を作るから来てくれ。」などと言った。 Fが,被告人に対し,どこに会社を作るのかと問いかけると,同人は,「Fさんが来てくれればほかのスタッフも来てくれると思うんで,このTの近くに工場を作る。」,「名前は[H社」」などと言った上,欲しい人材として,シャフトを作る技術者であるJやGの名を挙げるなどした。また,被告人は,新会社に移った際の給料については,「1.5倍くらい払える。」などとも言った。 このような被告人の発言に対し,Fが,「今工場は大変なことになっていますよ。」,「製品開発はもう全く何もなくなってます。」などと本件工場の状況等を説明すると,被告人は,「何だ,ちゃんと燃えちゃったんだ。」などと言った。 上記申し出に対して,Fは返事を留保し,旅館を後にしようとしたところ,被告人は,「Fさん,絶対あきらめないからな。」などと言った。 (3)スポンサーは,同月7日,本件増資を行い,被告人は同社の社長を解任された。 (4)被告人は,同月9日午後7時ころ,Fに電話をし,「考えてくれましたか。」,「どうしても来て欲しい。」などと述べたが,Fは被告人の申し出を断っ た。すると,被告人は,GとJの様子を聞くなどした。 また,被告人は,Y社製品開発部次長であり,ウッドクラブの原型の製作等を担当するGに対し,同月9日午後7時15分ころ,電話を掛けて面談を求め,同人も最終的にはこれを承諾した。 さらに,被告人は,同日午後7時20分ころ,クラブのカーボンシャフトの開発,設計及び製造の総責任者であるJに面会を求めたところ,同人はこれを承諾した。 その後,被告人は,同月10日午後7時30分ころ,再びJに電話し,面会の約束の確認をしたと クラブのカーボンシャフトの開発,設計及び製造の総責任者であるJに面会を求めたところ,同人はこれを承諾した。 その後,被告人は,同月10日午後7時30分ころ,再びJに電話し,面会の約束の確認をしたところ,同人は面談を拒否するなどした。そこで,被告人は,Jに対し,「S電気の元会長がバックアップするからゴルフクラブの会社を立ち上げればいいと言ってくれている。」,「そこで,Jさんにシャフトを作っていただけませんか。」などと言った。 これに対し,Jが,自分だけではシャフトは作れないなどと述べると,被告人は,「Jさんのところの腕のいい職人四,五人を抜いてくればいいんですよ。」(なお,被告人は,公判廷において,かような発言を否定しているが,Jがこの点につきあえて虚偽を述べる理由はない上,発言内容の具体性に鑑みると体験供述性も高いのであって,勘違いなどといった疑念はなく,上記発言の存在が優に認められる。),「Sの会長に関しては,年に数回しか日本に見えないんで,来られたときに東京でJさん会ってもらえませんか。」などと話した。 上記申し出をJが断ると,被告人は,「それもそうだよね。またちょくちょく電話をさせてもらいます。」などと述べた。 (5)被告人は,同日午後7時30分ころ,Gに電話を掛けたところ,同人が面談の約束をキャンセルしたい旨述べるなどしたので,同人に対し,「新しい会社を起こすので,私にところに来て欲しい。」などと言った。 本件火災後のZの言動等(1)Zは,同月13日,Dと会話をしていた際,本件火災の話になったところ,「被告人もDさんも関係ないんでしょう,いなかったんでしょう,もうその話は2 人とも聞かんといて,忘れて。」などと述べた。 (2)被告人はZとそれぞれ1000万円を出資し,同年6月28日,株式会社Hというスポーツ用品の販売製 しょう,いなかったんでしょう,もうその話は2 人とも聞かんといて,忘れて。」などと述べた。 (2)被告人はZとそれぞれ1000万円を出資し,同年6月28日,株式会社Hというスポーツ用品の販売製造等を目的とする会社を設立し,同社の拠点として大阪市内のマンションを借り,そこで寝泊まりをするようになった。 (3)被告人は,同年7月ころ,警察がO商銀の被告人の口座を捜査していることにつき,Dから本件工場に対する放火の嫌疑を掛けられているのではないかと指摘されたが,「おれはそのとき社長だったんだから調べるのは当然じゃないの。」などと言った。 (4)被告人は,同年11月15日ころ,Dらに対し,「Zが昨年の暮れに工場のことを何度も何度も聞いてきた。」などと述べ,同月16日ころ,B弁護士に対し,警察に「何で呼ばれているか分からない。」,「Zさんがやったっていわれても信じられない。」などと述べた。 (5)被告人は,同月17日,逮捕された。 第3Zの証言及び被告人の供述の信用性の検討前記認定に係る被告人とZとの関係,同人らの本件犯行前後の行動及び本件犯行後の被告人の技術者らに対する言動等本件犯行前後における客観的事情からすると,被告人とZがクラブ販売会社を設立するとともに,クラブ製造事業を共同して立ち上げるなどしており,両名が密接な関係にあったところ,Zらは機械警備が付されていないB棟及びO棟に的確に侵入した上でラッピングマシン用コンベアに放火するなどして本件犯行に及んだ上,被告人は,本件犯行の数日後,新会社設立にあたり,クラブの開発・製造を行う技術者らに対し,新会社に来て欲しいとの働きかけなどしていることが認められる。 しかしながら,これらの事情のみによっては,被告人とZらとの間の本件犯行に関する意思連絡や,被告人が本件工場に放火する理由等が明 に対し,新会社に来て欲しいとの働きかけなどしていることが認められる。 しかしながら,これらの事情のみによっては,被告人とZらとの間の本件犯行に関する意思連絡や,被告人が本件工場に放火する理由等が明らかになったとはいえず,検察官が主張するように客観的事情のみから,被告人がY社の社長を退任させられたことに関するスポンサーらに対する怨恨の情を有していたとして,本件犯行 の共謀を推認することまではできない。 そこで,以下,被告人との間で本件犯行の共謀があった旨述べているZの公判供述及び本件犯行への関与を否定する旨の被告人の公判供述の信用性をそれぞれ検討する。 Z供述の内容Zの公判廷における供述内容は概ね以下のとおりである。 (1)本件工場従業員らに対する引き抜きの合意等平成18年1月末ころ,被告人と2人で会ったと思う。その際,被告人に対し,今後の身の振り方を尋ねたところ,被告人は,「ゴルフクラブ等の製造販売以外にはやることないんだよね。」などと答えたので,「それであれば是非やりましょう。」などと言った。 しかし,クラブの製造に関してはさっぱり分からないので,被告人に対して,「ゴルフクラブの製造が事実できるのだろうか。」などと問いかけると,同人は「シャフトを作るというのは非常に難しいから,Y社の熟練工の技術者を連れてきてやらないことには難しいだろう。」,「製造はできるんですが,シャフトの方の技術者,できればコンピューター,開発の方,その技術者の中心人物を引っこ抜いてきてやりたい。」,「開発には長年のデータないしプログラムが蓄積されているんで,デザイン関係も含めてその部分も取り込みたい。」などと述べた。 また,その際,本件工場の技術者として,「J」の名前を挙げるなどした。 そこで,被告人に対し,「是非引っこ抜いて欲しい。」などと依頼すると,被 ザイン関係も含めてその部分も取り込みたい。」などと述べた。 また,その際,本件工場の技術者として,「J」の名前を挙げるなどした。 そこで,被告人に対し,「是非引っこ抜いて欲しい。」などと依頼すると,被告人はこれを承諾するなどした。 (2)本件工場に対する放火の合意等ア同年1月末または2月初めころ,被告人と2人で会ったと思う。その際,被告人は,「引っこ抜きに関しては,簡単にはいきそうもない。」などと話した。 そこで,被告人に対し,「他の方法で肝心な人を料亭などに連れて行くなり,料理屋に連れて来るなり,飲ましも食わしもして,何とかそういう形でじっくり説得 したらどうかと。お父さんの力でも借りてやっても無理やろうか。」などと提案した。 それに対し,被告人は,接待については「それをやらなくちゃいけないだろう。」などと言い,自らの実父の助力を得ることについては「体調が余り良くないので,力を借りることは無理だろう。」などというニュアンスのことを言った。 その際,被告人から,「民事再生で新スポンサーが入ってきて首を切られるかも分からない状況で,皆さんいろんな要素で不安がっている,動揺している。」,「生産ラインを止めればシャフトの技術者と開発の担当者が会社を辞めてこちらに来る可能性がある。」などという話を聞いた。 被告人に対し,「ラインを止めるということはどういうふうに止めるのか。」などと質問すると,被告人は,「シャフトを巻く機械に熱でも加えればいいんじゃないだろうか。」などと答えた。 そこで,被告人に対し,「熱を加えるということになると,機械は金属だから,そこに布か何かを巻いて火でも燃やさにゃいかんだろう。」などと話すと,被告人は,「それでいいんじゃないか。」などというニュアンスのことを言った。 また,その際,被告人は,「工場のコンピューターに長年蓄 そこに布か何かを巻いて火でも燃やさにゃいかんだろう。」などと話すと,被告人は,「それでいいんじゃないか。」などというニュアンスのことを言った。 また,その際,被告人は,「工場のコンピューターに長年蓄積されたものがあるからそれを駄目にして,デザイン関係,開発の人をできたら呼んだ方がいいな。」などとも話した。また,被告人に「コンピューターについても,そこへ布を入れて火を点ければ駄目になるだろうか。」などと話すと,被告人は,「シャフトと同じくそれでいいんじゃないか。」などと返事をした。 このような会話の後,接待による引き抜きが成功しないことに備え,念のため,工場のレイアウトを被告人に聞いた。すると,被告人は,紙に丸を複数書くなどして簡単な図面を作成した。そこで,紙に書かれた丸を1つずつ指さしながら,「ここは何の工場か。」などと尋ねていき,その過程でシャフトの工場と開発部門の工場の説明をしてもらった。 イその後,同年2月20日過ぎころにも被告人と2人で会ったと思う。その際, 被告人は,「やはり引き抜きは難しい。」などと言ったので,どちらから言ったのかは分からないが,ラインを止めなくてはいけないという結論に達した。 そこで,被告人に対し,工場に入る場合に警備がどうなっているのか,完全に入れるのかを尋ねた。すると,被告人は,工場の中の簡単な位置図のようなものを紙に書いた上,再び工場のレイアウトも紙に書き,前回と同じように各棟の機能についてもう一度説明をした。さらに,被告人は,工場の警備状況についても,「工場には渡り廊下から入った方がいいですよ。」,ここには「センサーが通ってない。」などと言った上で,工場のレイアウトを書いた紙を使って,各棟における警備の有無などをある程度教えてくれ,工場の門,シャフトと開発の工場については警備が入っていないことの は「センサーが通ってない。」などと言った上で,工場のレイアウトを書いた紙を使って,各棟における警備の有無などをある程度教えてくれ,工場の門,シャフトと開発の工場については警備が入っていないことの説明をした。 また,被告人は,「警備保障会社は常駐していない,夜はいない。」,「夜間は人がいない。」などとも説明した。 さらに,被告人は,「高さは1メートルぐらいで,専門用語でいうセーパー状になってる。」,「行けばそれは目立つし,分かる。」などと簡単にシャフトの機械の形状等を説明し,その位置なども簡単に説明した。また,「コンピューター室もこの辺にあるんじゃないか。」などとコンピューターがある位置の概略も説明した。 さらに,「コンピューターは,布を付けて火を点ければ駄目になるだろうか。」などと話すと,被告人は,「それでいいんじゃないか。」などと答えた。 また,被告人に,韓国の部下のような人を連れて来てやるとも言った。 最終打ち合わせの際,被告人に「何日から何日までシンガポールに行かれるんですか。」などと外国に行くスケジュールを確認すると,これに被告人が「何日から何日だ。」などと答えたので,「社長がいないときにやるよ。」などと言ったと思う。 それ以外にも,事業の話として,「名古屋か大阪で仮工場でも借りてやろうか,こちらまで来てくれるかな。」などと話をすると,被告人は「やっぱり持ち家もあ るだろうし,マンションもあることだろうから,Tじゃまずいんで,Wあたりでひとつやればいいかな。」などと言った。 (3)Iに対する本件犯行の依頼被告人は,放火をするタイプではなかったので,被告人の関与を隠すため,まず,最初は韓国において,内妻のところに出入りしていたIと会い,「個人的にY社に恨みがあるから。」など嘘の理由を言い,「要はシャフトとコンピューター,2つ はなかったので,被告人の関与を隠すため,まず,最初は韓国において,内妻のところに出入りしていたIと会い,「個人的にY社に恨みがあるから。」など嘘の理由を言い,「要はシャフトとコンピューター,2つの工場の機械だけを駄目にすりゃいいんだ。」,「機械に布を巻いてそこに火を点ければ機械が駄目になるから,それでいいよ。」などと本件犯行の実行を依頼すると,同人はこれを引き受けた。 その後,Iと合計3回くらい会い,現場の位置関係やシャフトの機械の位置及び形状等を被告人に書いてもらった図面に基づいて説明するなどした。 Iは,本件犯行の四,五日前に本邦に入国したので,大阪で落ち合った。Iは,犯行に使う道具をそろえるよう指示したので,油などを運送会社に電話して運んでもらおうとしたら,断られたので,これらを息子のHに準備させた。 (4)被告人の出国状況の確認被告人に対し,シンガポールに出国する前日ないし当日,出国の有無を確認すると,被告人は,「行く。」などと言った。 (5)本件犯行後の被告人とZの会話内容等ア被告人が帰国した当日の同年3月4日,被告人と福岡市内のホテルで会い,「機械に火を点けたんだよね。だけど,それがうまくいってないかもわからんし,結果が分かっていない。」,「とりあえず工場に行ってみてよ,どの程度かわかるから。」などと話しをした。 イその後,同月8日ころ,山口県下関市内のフェリーターミナルで被告人と会い,警察が従業員に事情聴取をしていると聞いたので,「従業員が動揺しているのであれば,引き抜いて欲しい。」などと言うと,被告人は,やるという趣旨の返答をした。 その後,被告人から,従業員の引き抜きに失敗したと聞いた。 被告人の供述内容他方で,被告人は,公判廷において,概ね以下のとおりの供述をしている。 (1)Zの憤懣の言の内容等 答をした。 その後,被告人から,従業員の引き抜きに失敗したと聞いた。 被告人の供述内容他方で,被告人は,公判廷において,概ね以下のとおりの供述をしている。 (1)Zの憤懣の言の内容等平成17年9月以降,Zと食事に行き,その際,専らビールを飲んでいた同人から,「何で商品が出ないんだ。」などとY社がA社に商品を出荷しない理由を聞かれた。その後,ZはスポンサーやC社の悪口を言い始め,「Y社の倉庫に行って商品をかっぱらってやる。」,「Y社に火を点けてやる。」などと言うようになった。 (2)Zに本件工場の警備状況等を教示した状況等平成18年1月25日,Zとしゃぶしゃぶ屋で食事をし,同人はビールを中瓶で10本程度飲んだ。その際,Zから「工場は一体何をやってんの。」と聞かれた。 しかし,1月10日にも同じことを聞かれていたので,言っていることが多岐にわたり,ゴルフの知識がない人には複雑過ぎて理解できなかったのではないかと思い,もう一度同じくらいの詳しさでシャフトの製造方法などを詳細に説明した。 その後,しゃぶしゃぶ屋を出て,Zとともにコーヒーショップに入ると,同人から「工場の中がどうなっているか教えてくれないか。」などと言われたため,Zに何か書くものはあるかと聞くと,紙とペンを出してきたので,その紙にペンで大ざっぱな工場のレイアウトを書いて,1棟ずつ機能等を説明し,Y社のクラブの作り方を詳細に説明した。 また,Zが,「工場には在庫も随分置いてあるんでしょう。」という話をしてきたので,「在庫はありますよ。」と答えた。そして,Zは,「Y社さんは宿直とかないの。」と聞いてきたので,「うちは宿直とかはないんですよ。もう最後の人が帰ったらそれでしまいです。」などと答えた。 そうすると,Zが,「警備なんかは入ってるんでしょう。」と聞いてきたので,「機 ないの。」と聞いてきたので,「うちは宿直とかはないんですよ。もう最後の人が帰ったらそれでしまいです。」などと答えた。 そうすると,Zが,「警備なんかは入ってるんでしょう。」と聞いてきたので,「機械警備は在庫のあるところだけは入っていますよ。」,「金がないんで全部は入っていないんです。」と答えた。 警備の話題になったとき,「図面を使って,この棟には警備が入っている,この棟には警備が入っていない。」などという説明をしたことはない。 1月10日にもZと会い話しをしたが,その内容は同月25日と大差がなく,同日に書いたものと同じような図面を書くなどして酒を飲んでいるZに説明をした。 しかし,その際,警備の話題はなかった。 本件火災の報告を受けたとき,Zが火を点けてやると言っていたことは頭に浮かばなかった。また,本件火災が発生したことを知った際,Zのことは全く頭に浮かばなかった。 (3)平成18年2月13日の飲食の理由等Tに割と長い間いたため,自分の興味があったセクションである開発担当の人たちと一緒に過ごすことが多く,その人たちが退任が確定した自分に対して気を遣ってくれているなと思ったので,開発室の皆と一度くらいお礼として食事をしたいと思った。 2月13日の飲食の際には,専ら食べ物の話であるとか,車の話であるとか,趣味,遊びの話を主にした。 (4)本件工場の技術者らに対する発言等ア平成18年3月5日,旅館でFと会った際,同人が「社長ひどいんですよ,もう,開発は丸焼けですよ。開発の自分たちが使っていたいろんな工具,自分たちが手作りで作ったような工具,あんな工具まで全部どろどろに溶けちゃったんですよ。開発はもう丸焼けなんですよ。」などと言ったので,「ああそんなにちゃんと燃えちゃったんだ,そりゃ大変だな。おれ電話でちょっと聞いただけだったんでよ ,あんな工具まで全部どろどろに溶けちゃったんですよ。開発はもう丸焼けなんですよ。」などと言ったので,「ああそんなにちゃんと燃えちゃったんだ,そりゃ大変だな。おれ電話でちょっと聞いただけだったんでよく知らなかったんだけど,そんなにひどく燃えちゃったんだ。」などと言った。 そんなにちゃんと燃えちゃったんだと言ったのは,電話で聞いていた話と比べて余りにも被害の程度がひどかったので,そんな深刻な事態なんだというニュアンスで言った。 イF,G及びJと面談ないし電話で前記のように「私のところに来て欲し い。」などと言ったのは,もしかしたら,三,四年先などにゴルフに関する新しい事業を始めて,Y社の技術者らを雇用するという機会があるかもしれないから,Y社を退社するにあたって,お世話になった人に儀礼的な意味を込めて声を掛けるという趣旨である。 各供述の信用性の検討以下の諸事情,とりわけ被告人の技術者らに対する面談ないし電話での発言内容及び被告人がZに教示した旨述べる本件工場の警備状況の説明内容等に鑑みると,Zの公判供述のうち,少なくともその核心部分ともいうべき被告人と技術者らの引き抜きを企て,本件工場内のラッピングマシン用コンベア等に放火する旨の共謀をしたとの点は高度の信用性を有するというべきである。 他方で,以下の諸事情,すなわち被告人の供述のみによっては,Zらは本件犯行を実現することが著しく困難であるばかりか,とりわけ技術者らへの面談ないし電話での発言内容とその趣旨を説明する被告人供述は整合しないことなどを考慮すると,被告人の公判供述は信用できないというべきである。 そして,以上に加え,その供述内容が迫真性に富み,相応の合理性を有していることにも鑑みると,その他弁護人が縷々主張していることを考慮しても,なお,Zが被告人から本件工場の警備状況 というべきである。 そして,以上に加え,その供述内容が迫真性に富み,相応の合理性を有していることにも鑑みると,その他弁護人が縷々主張していることを考慮しても,なお,Zが被告人から本件工場の警備状況等に関する情報を引き出し,同人とは無関係のうちに本件犯行に及んだとの疑念はなく,むしろ,Zの上記公判供述のうち,少なくともその核心部分ともいうべき技術者らの引き抜きを目的として,被告人との間の本件犯行の共謀に及び,同人からB棟及びO棟に機械警備がないことなどを教示されるなどして本件犯行を実行したとの部分は十分に信用できるというべきである。 (1)被告人の本件工場技術者らへの発言内容等アまず,被告人は,本件火災後,技術者らに面談ないし電話により,前記認定のとおりの発言に及んでいるところ,その際,被告人が,その技術者らのいずれに対しても,給料額にも触れるなどした上で,「どうしても来て欲しい。」,「絶対あきらめないからな。」などと新会社への移籍を強く求めるものと解するほかない 発言に及び,かつ,一旦断られても再度接触を試みるなどしていることからすれば,これらはまさに技術者らの引き抜きを目的とした強固な勧誘行為に他ならないというべきであって,本件火災の数日後にかような行動に及んでいるという事実は,上記Z供述における本件犯行の目的と整合する。 なお,被告人は,このような発言の趣旨につき,儀礼的な意味での声掛けであるなどと述べているが,前記認定に係る発言内容に鑑みるとともに,被告人が,前記S電気の元会長という現実的とはなっていない後援者の名前まで出して勧誘するという形振り構わぬ態度を採っていることからも,そのような意味付けないし解釈はほとんど不可能というべきである。 イまた,前記認定のとおり,被告人はZとともにHを設立しているところ,被告人は,「 るという形振り構わぬ態度を採っていることからも,そのような意味付けないし解釈はほとんど不可能というべきである。 イまた,前記認定のとおり,被告人はZとともにHを設立しているところ,被告人は,「H社」などと後にZと設立することになる会社の名称等を挙げるなどし,また,地元T地方に工場を作るというY社に対する根幹的背信行為ともいうべきプランまで持ち出して引き抜き行為に及んでいるのであって,かような被告人の発言自体が,Zがこれら一連の引き抜き行為を了解していたことを窺わせるとともに,Zの証言する被告人から聞いていた工場建設場所等の共同事業内容とも整合するのであって,その意味でも,被告人の技術者らに対する発言内容等はZ供述と合致するといえる。 (2)Zへの本件工場の警備状況の教示等アZは,上記のとおり,被告人から本件工場B棟及びO棟に機械警備がされていないことを被告人から教示された上,ラッピングマシン用コンベアの形状等についても説明を受けた旨供述しているところ,これら被告人から提供を受けた情報を総合すれば,前記認定に係る本件犯行態様のように,機械警備を避けるなどしつつB棟及びO棟に侵入し,ラッピングマシン用コンベアや製品開発室内のコンピューター等を正確に識別し,これらのみを狙って放火することによって,工場のラインを止めることが容易になるのであって,Z供述と前記認定に係る本件犯行態様は整合するといえる。 なお,被告人は,公判廷において,Zに本件工場各棟のうち,クラブ等の在庫がある箇所には機械警備が付されているなどと説明したが,ラッピングマシン用コンベアや,製品開発室内のコンピューター等については説明していない旨供述しているところ,かような被告人の供述を前提にすると,Zは,B棟及びO棟に機械警備が付されていないことなどを確定的に認識す 用コンベアや,製品開発室内のコンピューター等については説明していない旨供述しているところ,かような被告人の供述を前提にすると,Zは,B棟及びO棟に機械警備が付されていないことなどを確定的に認識することができないことになるが,前記の被告人の主張に係る被告人から得た情報のみによって,機械警備を的確に回避するなどしつつ,B棟及びO棟の内部に侵入してラッピングマシン用コンベア等のみに放火することは相当に困難な状況というべきである。そうすると,本件工場の警備状況等に関しては,Zが,被告人から情報を引き出した上で,本件犯行に及んだものと認めることはできない。 イさらに付言すると,前記認定のとおり,本件犯行態様,とりわけZらが犯行の発覚や検挙の危険性の高くなる侵入行為に敢えて及んだ上で,O棟内のラッピングマシン用コンベア等のみに放火するなどしていることに鑑みると,Zらの主な目的ないし動機は,それらの損壊であることは明らかというべきである。かような工場に対する無差別な損壊や放火行為とは峻別される本件犯行態様は,Zのスポンサーらに対する怨恨などといった動機よりも,技術者らに動揺等を生じさせるというZが公判廷において述べる目的ないし動機との整合性がより高いといえる。 (3)その他供述内容等の検討アZの供述内容等の検討(ア)そればかりか,Z供述のうち,被告人がラッピングマシン用コンベアの高さや大まかな形状等を簡単に説明したとの点についても,それ自体が相応に具体的な内容になっており,また,被告人から聞いたとする同機械の形状を表現する「セーパー状」という用語は,金属の加工等に使用される形削盤等の呼称である「セーパー」を意味すると合理的に解することが可能であり,そうするとこのような一種の専門用語を交えた説明を受けたとする点は,クラブ作りの技術面にも精通 は,金属の加工等に使用される形削盤等の呼称である「セーパー」を意味すると合理的に解することが可能であり,そうするとこのような一種の専門用語を交えた説明を受けたとする点は,クラブ作りの技術面にも精通していると窺われる被告人の語った言葉として,被告人が述べるように「意味不明」であ るなどとは評価できず,むしろ,相応の合理性を具備しているということができる。 (イ)以上に加えて,Zは,前記認定のとおり,実子であるHに対し,本件犯行への被告人の関与を認める旨の発言に及び,他方でIに対しては秘密の漏洩を恐れて被告人の関与を秘匿したと述べており,とりわけ,Hに対する発言は同人の証言によっても裏付けられているところ,このように,自らの実子であるため秘密が漏洩する可能性がないと判断して被告人の関与を教示したというその供述内容は,自らの実子が犯行への被告人の関与という極秘事項を口外するはずがないとの深い信頼の情に基づく自然なものと評価でき,この供述内容全体が虚偽であるとの疑念はなく,被告人との本件犯行の共謀をした旨のZ供述の信用性を補強する一事情といえる。 (ウ)なお,Zは,上記のとおり,平成18年2月20日過ぎに被告人と本件犯行の共謀をし,その後,最初に韓国でIと会い,その後数回会って本件犯行の打ち合わせをするなどした旨供述しているが,関係証拠によれば,Zは,同月22日に本邦に入国し,その後は本件犯行後である同年3月2日まで国内に滞在していることが認められ,同人の供述はその出入国状況と齟齬しているばかりか,関係証拠から認められる同人の通話状況等に鑑みると,同年2月24日ころからZがレンタカー会社に電話するなどして本件犯行の準備を開始するなどしていることが窺われることを考慮すると,Zが述べるような,同年2月20日過ぎからIと合計3回程度打ち合わ と,同年2月24日ころからZがレンタカー会社に電話するなどして本件犯行の準備を開始するなどしていることが窺われることを考慮すると,Zが述べるような,同年2月20日過ぎからIと合計3回程度打ち合わせるなどし,それから本件犯行の準備をするという行動経過は,その所用時間を考慮すると,著しく実現困難なものというべきである。したがって,Z供述のうち,本件の共謀を行った日時に関する部分の信用性は低いといわざるを得ない。 しかし,そもそも,Zの供述自体が同人らの出入国記録等を一切踏まえないものであるとされている以上,正確性に欠けるのもやむを得ないことからすると,本件共謀から公判供述まで約1年6か月もの期間を経ていることや,Z自身が供述時66歳と比較的高齢であることや,若干大雑把で誇張傾向にある同人の供述態度などに鑑みて,上記日時に関する齟齬については,これを記憶の減退等とみた上で,日 時に関する部分と切り離してその余の供述部分の信用性を判断することが恣意的判断であるなどとの誹りを受けることはないというべきである。そうすると,被告人が,上記記録を精査し,これと整合させた記憶として,前記のように,Zに本件工場各棟の機能や工場の警備状況等を教えたのは1月25日である旨供述し,関係証拠上,同日に両名が電話で連絡をとるなどしていたことが認められるのであるから,むしろ1月10日及び25日にZと被告人との間で上記のとおり述べるような会話が交わされるなどし,本件犯行の共謀がなされたと認定することができ,上記日時に関する齟齬等は両者が面談の上共謀したことを前提とするZ供述の核心部分の信用性を左右するものではない。 イ被告人の供述内容等の検討(ア)まず,被告人の前記供述は,Zが本件工場等に放火する旨述べていたことを自ら聞いたとした上で,同人に尋ねられるままに敢 の核心部分の信用性を左右するものではない。 イ被告人の供述内容等の検討(ア)まず,被告人の前記供述は,Zが本件工場等に放火する旨述べていたことを自ら聞いたとした上で,同人に尋ねられるままに敢えて本件工場の大まかな警備状況まで教え,それから間もなく本件火災が発生した後,Zを疑うことなく,技術者に対する声掛けをして,Zと共同で新会社を立ち上げるなどしたというものであって,酔余の上の発言とはいえ,本件工場等に放火する旨述べていた者にその警備状況等の情報を教示することの不自然さはさておくとしても,かような状況において,本件火災への関与が強く疑われるZを完全に信用し,同人の関与を全く疑わずに,火災直後,火災の影響を当然に顧慮すべき時期に技術者に対する声掛け行為にまで及んだ上で,Zと共同で事業を立ち上げたという被告人の行動はにわかに理解し難いものである。 しかも,前記認定のとおり,被告人の従業員に対する接触が,単なる声掛けに止まらぬ引き抜き行為と解されることを前提にして,被告人の前記供述をみれば,なおさらである。 (イ)さらに,被告人がZに本件工場の機能や警備状況等を教示したとする際の状況についても,被告人は,ゴルフの知識を有しない者には複雑過ぎる説明であることを理解しながら,敢えてクラブの製作過程等を再度詳細に説明した旨述べてい るが,このような状況は,クラブ製作の実情に疎いZに対する説明内容としては意味が乏しく,かつ不合理なものである。 (ウ)なお,被告人の上記供述内容は,一方で,Zに本件工場のレイアウト等を紙に書くなどして説明したことを前提とする点において,Zの供述に沿う事実を一部認めるものとなっており,真犯人が真実を偽ろうとする態度としては不自然な面が認められるといえるものの,他方で,被告人が,「紙の行方はちょっと分かりませ 前提とする点において,Zの供述に沿う事実を一部認めるものとなっており,真犯人が真実を偽ろうとする態度としては不自然な面が認められるといえるものの,他方で,被告人が,「紙の行方はちょっと分かりません。」などと述べており,これらの紙の行方が不明であることにも鑑みると,被告人がこれらを証拠として請求された場合などに備えて,その存在を前提として弁解に及んでいるとみることができるのであって,そうすると,真犯人が虚偽の供述をする際に真実を明らかにする限度という尺度から推し測っても,あながち,あり得ないとはいえないのであって,もとより,上記のとおり,被告人がZの供述に沿う事実を一部認めていることが,被告人の供述の合理性を担保する事情にはならないというべきである。 (エ)ところで,検察官は,①平成18年2月13日の飲食の趣旨は,Fらに高級肉のしゃぶしゃぶなどを奢ることで歓心を買い,事後の引き抜きを容易にすることを目的とした工作であり,また,②被告人が,同年3月5日,Fに対し,「何だ。 ちゃんと燃えちゃったのか。」などと述べたことにつき,放火が成功したことを知り,安堵の気持ちを抱き,思わずFに本音を漏らしてしまったのであり,このことは被告人が本件犯行に関与していることの証拠であるなどとそれぞれ主張している。 しかしながら,①については,飲食の際に被告人が立ち上げる新事業に関する会話が交わされた形跡が窺われず,被告人が引き抜き行為に及んだ技術者以外の者も多数参加させている一方で,引き抜きの対象となったJが参加していなかったことなどからすると,事後の引き抜きを容易にする工作とまでの評価には無理がある。 また,②についても,Fは,「Xさん,そんなことより,今工場は大変なことになっていますよ。Xさんのおやじが見たらもうほんと泣きますよ。」などと言った後に上記発言 する工作とまでの評価には無理がある。 また,②についても,Fは,「Xさん,そんなことより,今工場は大変なことになっていますよ。Xさんのおやじが見たらもうほんと泣きますよ。」などと言った後に上記発言があったとの記憶しかない旨述べており,被告人の発言のニュアンス を一義的に決することができない上,F自身が,被告人の上記発言に接しても,「ショックが大きかったということが一番印象に残っている。」,「それ以外には特にない。」などと述べ被告人の本件への関与を感じ取るなどしていないことを考慮するとともに,犯人であることを露呈するニュアンスの発言としては不用意過ぎることにも鑑みれば,被告人が説明するように,本件火災が予想外に深刻な事態であることに驚いたというニュアンスで上記発言に及んだと解する余地も十分あり,検察官が「証拠」と主張するような決め手と評価するのにはやはり無理があるというべきである。 (4)その他Zの供述の信用性に関する弁護人の主張弁護人は,概ね以下のとおりZの供述は不合理であり,まさに虚偽供述という他はないなどと主張する。 アすなわち,弁護人は,Zの供述について,①技術者らを引き抜くのであれば,受け皿となる会社の事業体制を整えるなどし,待遇等を明確に提示するばかりか,承諾がなくとも待遇や条件等を変更して説得を続けるはずであり,技術者の引き抜きのために工場に放火などすることは考えられないところ,被告人の新事業は,本件犯行当時は構想段階に過ぎなかったのであり,②Zは,捜査段階の当初には,被告人との共謀を否定する趣旨の供述に及んでおり,上記公判供述等との変遷がみられるが,その理由につき,取調官から「工場の様子を知らなければ実行できない」などと追及され説明できなくなったためである旨述べているところ,Zは真意を秘して被告人から工場の情報を 供述等との変遷がみられるが,その理由につき,取調官から「工場の様子を知らなければ実行できない」などと追及され説明できなくなったためである旨述べているところ,Zは真意を秘して被告人から工場の情報を聞き出すことが可能なのであるから、変遷の合理的な理由のないことが本件の重要な問題点であるとしつつ,さらに,③被告人との会話内容及び面談の場所等に関する供述内容は抽象的であること,④Y社では,コンピューターを用いた製品開発はされておらず,当然データの蓄積等はない上,本件ではキャドシステムの破壊がされていないこと,⑤本件犯行前に被告人は引き抜き等をしていないこと,⑥民事再生手続による従業員の動揺やリストラの危惧等はないこと,⑦機械に損傷を与える方法として放火は不自然であること,⑧本件犯行では 生産ラインが止まらないこと,⑨放火の対象が確定していたとすれば,被告人が,工場全体,各建物の警備関係まで説明する必要がないところ,Zも公判廷において,「被告人が工場全体の様子を全て説明してくれたが,自分は犯行場所と考えていた工場建屋に関する説明だけに注意して聞き取っていた。」などと共謀関係にない者からの情報聴き取り行為としての心理を述べてしまっていること,⑩本件共謀には火災報知器や犯行後の連絡に関する打ち合わせ等がなく不自然であること,⑪被告人にIの犯行への関与を述べたか否かの点や,被告人が作成した図面の内容等につき変遷があること,⑫共謀内容と実行行為が合致しないこと,⑬捜査状況に対する対応の協議がないことなど種々その公判供述の信用性を論難する。 イしかしながら,①については,そもそも技術者らの引き抜きを行う前提として,事業内容を整えるなどすることが必須であるとはいえず,被告人が現に行ったように特段の移籍時期等を特定せずに,新事業立ち上げの際に移籍してく ,①については,そもそも技術者らの引き抜きを行う前提として,事業内容を整えるなどすることが必須であるとはいえず,被告人が現に行ったように特段の移籍時期等を特定せずに,新事業立ち上げの際に移籍してくれる意向を確認することでも十分なはずであり,また,対象者の承諾が見込めない状況であれば,それ以上の引き抜きを断念することも十分あり得るのであって,被告人が上記以降さらなる引き抜き行為に出ていないこと自体を不自然であると評価することはできない。また,上記Z供述によれば,同人らの犯行の主目的は本件工場への放火ではなく,火力を用いて生産ラインを止めることにあるところ,前記認定のとおり,本件犯行時には,被告人とZはゴルフクラブの開発・販売に向けて活動を開始するなどし,他方で,Y社自体も実質的にスポンサーによる経営がされるなどし,少なくともその従業員らは数年後等近い将来におけるリストラ等を危惧していたとみるべきであって,⑥のようにリストラの危惧等がないとはいえない状況において,その述べるところによれば,自らに人望があるとも思っていない被告人が,技術者の動揺ないし不安に乗じて引き抜きを行うべく,ラッピングマシン用コンベア等の熱による損壊等を企てることも十分あり得るというべきである。 なお,これに加えて,検察官は,被告人がY社の社長を退任させられたことに関するスポンサーらに対する怨恨の情をも有していたことが本件の動機として認定で きるとして,被告人が本件を企図したことの合理性を強調する。しかし,かような動機を窺わせる事実としては,スポンサーにY社の経営権が委譲され,被告人が社長退任を余儀なくされたこと以外にはないところ,本件では被告人がY社の退社を余儀なくされたことに対する憤懣等を述べた事実も窺われないのであって,被告人がY社からの辞職を前提にしつつ前 れ,被告人が社長退任を余儀なくされたこと以外にはないところ,本件では被告人がY社の退社を余儀なくされたことに対する憤懣等を述べた事実も窺われないのであって,被告人がY社からの辞職を前提にしつつ前記認定に係る民事再生手続に及んだ旨の供述を完全に排斥することはできないことからすると,検察官の上記主張をそのままに採用することはできない。ただし,上記のようなZからの提案に安易に乗って熱による損壊行為を承諾した背景として,Y社内部に残れない思惑違いが生じていた経緯の存在や前記認定に係る技術者に対する引き抜きの時期が正式退社前であること及びその発言内容等に鑑みて,被告人が公判廷で強調するほどのY社に対する愛社精神を有し続けていたとは認め難いとの被告人の心情を前提とすることにより,より理解が可能となるというべきである。 また,②についても,Zが公判廷で述べるように,被告人との共謀関係を前提にして詳細な警備状況等を聞き出したのが真実であるとすれば,この隠していた情報源を明らかにせざるを得なくなった段階で,共謀なく詳細な情報を引き出すことができた具体的な状況を説明することは,必ずしも容易であるとはいえないのであって,Zが捜査段階において供述を変遷させたことに合理的な理由がないなどといえないのは明らかである。 さらに,③については,前記のとおり,Zの公判供述には記憶の減退が窺えることなどからすると,その供述内容がややもすれば抽象的ないし概括的になったり,供述の細部に変遷が生じることは多々あり得るのであって,それのみによって供述の核心部分の信用性が左右されないことも当然である。 これらに加えて,本件犯行の主たる目的は,技術者らの引き抜きなのであるから,仮に④のとおりに,製品開発室のコンピューターにクラブの開発に関する情報が蓄積されておらず,これを承知のはず も当然である。 これらに加えて,本件犯行の主たる目的は,技術者らの引き抜きなのであるから,仮に④のとおりに,製品開発室のコンピューターにクラブの開発に関する情報が蓄積されておらず,これを承知のはずの被告人の提案内容としての不合理さがZの供述内容に認められるとしても,一方で,Zの記憶の混乱や不正確さにより説明可能 な範囲内であるとともに,他方で,上記犯行の主目的に関するZ供述の核心部分への影響はほとんどない。そればかりか,Z供述によれば,被告人は「引き抜きは難しい。」旨述べるにとどまっており,実際に技術者らに対する引き抜きに及んだが困難であったとする趣旨の供述まではしていないのであって,⑤のように,本件犯行以前に被告人による引き抜き行為等がないことと齟齬するともいえない。そして,⑨についても,前記認定に係るZらの本件犯行態様に鑑みると,同人らの便宜のために,念のため本件工場全体の機能等を被告人が説明したと考えることも十分に可能であり,また,弁護人の指摘するZの心理については,被告人から工場全体に対する説明を受けたことを前提として,本件犯行場所以外の情報が現在の記憶には残っていない理由を説明するための表現を殊更に論ったものに過ぎない。さらに,本件犯行によりクラブの生産ラインこそ止まらなかったものの,シャフトの製造は約1週間にわたって停止しており,Zの述べる目的はほぼ達成されていること(上記⑧),Zの供述を前提にすると,犯行内容の詳細や実行の時期などは,同人に一任された共謀内容であるとみることができ,そうであれば,本件共謀時において,火災報知器の有無,犯行後の連絡に関する打ち合わせなどがなく,共謀内容と実行行為が厳密に合致しなくても格別不自然ではないこと(上記⑩,⑫)などに鑑みると,その他弁護人が縷々主張しているZ供述に変遷が存すること の有無,犯行後の連絡に関する打ち合わせなどがなく,共謀内容と実行行為が厳密に合致しなくても格別不自然ではないこと(上記⑩,⑫)などに鑑みると,その他弁護人が縷々主張しているZ供述に変遷が存することなどを十分に斟酌しても,なお,上記Z供述の核心部分の信用性を左右しないというべきである。 以上に加え,前記認定のとおり,ZがY社から非独占契約の解除の和解金として5億2000万円を受領しており,これによりZが被った損害等の相当額が填補されるに至ったことや,上記のように,本件犯行の具体的計画や犯行態様の詳細等,とりわけ,被告人が国外にいる間に随時Zが犯行に及ぶというアリバイ工作の点等を決定したのがZ自身であるとする供述内容等を併せ考慮すると,本件の時期に,Zがスポンサーらに対する恨みなどにより,被告人を利用して本件工場に関する情報を引き出したり,若しくは,共同事業のパートナーである被告人に敢えて情を秘して,従業員引き抜き目的で本件犯行に及んだとみるのには無理があり,また,そ の供述態度,内容に鑑みても,敢えて虚偽の供述をして被告人を引き込んでいるとの疑念はほとんどないというべきである。 ウこれらの他にも,弁護人は,Zはその家族関係,稼働状況,前科等に関する供述状況や,上記5億2000万円の使途につき出鱈目な供述に及んでいるとして,そもそもZの供述は一般的信用性を有しない旨縷々主張するが,本件共謀との関連性が薄いこれらの事情のみにより,Zの供述の核心部分の信用性が覆されることもない。 第4総括以上のとおり,当裁判所としては,客観的事実からの推認も踏まえた上で,Zと被告人の供述との比較という観点からも検討しつつ,Zの証言に信用性を認めるものであるが,加えて,このような観点からは,被告人とZとが共同事業を立ち上げていたという関係を前提に,本件 まえた上で,Zと被告人の供述との比較という観点からも検討しつつ,Zの証言に信用性を認めるものであるが,加えて,このような観点からは,被告人とZとが共同事業を立ち上げていたという関係を前提に,本件放火に近接した時点での両者の接触状況,被告人の出国直前のZから被告人への電話通話記録の存在,被告人の出国期間中に犯行が敢行されていること,被告人が帰国当日にZと接触していること,帰国後間なしに火災があったことを前提にした被告人の技術者への引き抜き行為の存在,その後に共同事業のための会社が設立されていることという一連の事実の流れについて,Zの証言が客観的事実と整合し,かつ,合理的な説明となっているのに対し,上記一連の経緯を前提とすると,被告人が述べるように,一方で,Zが被告人と共謀せずに,本件犯行を計画,実行し,他方で,被告人が,Zと共謀せずに情報を提供し,かつ,技術者への引き抜き行為に及ぶという2つの流れが同時に進行し,かつ,被告人がZの意図には全く気付かなかったなどという事態は,単なる偶然というだけでは到底説明できないところ,この点に関する被告人の合理的な説明がなされているとはいえない。 そうすると,以上のとおり,信用できるZ供述によれば,被告人とZらとの間に本件犯行の共謀があったことが優に認められ,そこに合理的な疑いを差し挟む余地はない。 (法令の適用)省略(量刑の理由)本件は,新たなクラブの製造・販売事業を立ち上げるにあたり,本件工場の技術者らの引き抜きを企図した被告人が,Zらと共謀の上,判示のとおり,同工場製品開発棟の作業台及びパソコン等及びクラブのシャフト製造棟内にあるラッピングマシン用コンベア等に放火し,うち製品開発棟を全焼させたものの,同コンベア等からシャフト製造棟に火が燃え移らなかったことから,同棟を焼損するには至ら コン等及びクラブのシャフト製造棟内にあるラッピングマシン用コンベア等に放火し,うち製品開発棟を全焼させたものの,同コンベア等からシャフト製造棟に火が燃え移らなかったことから,同棟を焼損するには至らなかったという建造物侵入,非現住建造物等放火,同未遂の事案である。 判示のとおり,巨大な製品開発棟1棟を全焼させたその結果自体が極めて重大なものであることは明らかである。それのみならず,本件犯行により,シャフト製造棟積層室内はその全体が熱と煤のため真っ黒となり,故障した空調機,煤が付着した天井や蛍光灯,配線が断線されるなどした火災報知器の交換費用等合計3900万円もの多大な損害が生じている上,特に全焼した製品開発棟については,再築した場合には約2億円もの巨費を要すると見込まれているのであり,その損害額は極めて多大であるばかりか,技術者らは火災によって消失したクラブの金型を新たに作り直すことを余儀なくされるなどし,本件工場従業員らが休日を返上するなどして必死に努力したにもかかわらず,約1か月間もの長期にわたり通常の開発業務を復旧させることができなかったのであって,本件犯行により生じた財産的な損害は極めて甚大であり,同種事案との比較においても最大級の非難が妥当することはもとより,民事再生手続中という会社の先行きが不透明な時期において,本件火災により混乱と不安の最中に陥れられた本件工場の従業員らが受けた精神的ショックも到底軽視できるものではない。 本件工場各棟は渡り廊下により連結され,本件工場自体がガソリンスタンドに隣接している上,特に同工場の地下には約6000リットルもの重油を貯蔵したタンクが存しており,深夜に発生した本件火災の覚知から鎮火までに約2時間半もの長 時間を要したことにも鑑みれば,類焼などによって近隣の住民らをも巻き込んだ大惨事に 00リットルもの重油を貯蔵したタンクが存しており,深夜に発生した本件火災の覚知から鎮火までに約2時間半もの長 時間を要したことにも鑑みれば,類焼などによって近隣の住民らをも巻き込んだ大惨事に発展した可能性も否定できず,本件は極めて危険な犯行である。本件工場から立ち上る黒煙等を目の当たりにした近隣の住民は,自ら経営するガソリンスタンドへの延焼はもとより,上記多量の重油に引火することなどを危惧し,身震いまでしているのであって,本件が公共危険犯として近隣の住民や地域社会に与えた影響は到底看過できず,近隣の住民らが犯人の厳重処罰を希望しているのも当然である。 また,被告人は,本件共謀の際,本件工場が焼損するなどし,その結果多大な公共の危険が生じる可能性を認識しつつも,敢えてラッピングマシン用コンベア等の熱を用いた損壊等に同意するなどした上,Zに対し,図面を書くなどして,本件工場各棟の警備状況等に関する詳細な情報を提供しているのである。このようにして被告人が提供した情報は,まさに本件工場の最高機密ともいうべきものであって,同人の関与を抜きにしては本件犯行はあり得ず,被告人は,本件犯行につき不可欠な役割を果たしたといえる。それにもかかわらず,被告人は,Y社に対する被害弁償その他慰謝の措置を一切行っていないばかりか,本件犯行への関与を完全に否定し,種々不合理な供述を弄するなどして自己の刑事責任をZのみに押しつけるなどしているのであって,かような被告人の態度からは,本件犯行に対する真摯な反省の情を見いだすことはできない。 さらに,被告人は,Y社の最高責任者でありながら,Zとともに高級クラブの製造・販売事業を別に立ち上げるにあたり,民事再生手続によりY社の経営権が実質的にスポンサーに委譲され,将来に対する不安を抱いている技術者らの引き抜きを目論み, でありながら,Zとともに高級クラブの製造・販売事業を別に立ち上げるにあたり,民事再生手続によりY社の経営権が実質的にスポンサーに委譲され,将来に対する不安を抱いている技術者らの引き抜きを目論み,本件犯行により,Y社ひいてはその従業員らが置かれるであろう窮状等を一顧だにすることなく,本件犯行をZらと共謀した上,自己が海外に滞在している間に犯行に及ぶことを了承するなどし,その後も,犯行への関与を何食わぬ顔で隠しつつ,火災発生に動揺する技術者らへの執拗な引き抜き行為に及んでいるのである。このように,本件犯行は,自らの新事業の立ち上げ,推進のみを念頭に置き,自己に対する嫌疑を避けつつ行われたまさに巧妙かつ自己中心的な犯行というべき であって,その犯行に至る経緯等に被告人の刑事責任を減ずべき特段の事情は全く見い出せない。 これらに加えて,本件犯行は,大手ゴルフクラブ製造メーカーの社長が,自社工場への放火等を共謀したという世間の耳目を引く重大事案であり,その内容等も新聞で繰り返し報道されるなどしており,本件犯行が社会に与えた影響力を軽視することはできないばかりか,本件の報道などに起因して,Y社に対するイメージの悪化などの風評被害の発生も懸念されるのである。 以上からすれば,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は相当に重いのであって,前科前歴はもとより,身柄を拘束された経験すら有しない被告人に対しても,相当長期間にわたる服役をさせることが不可欠な事案というべきである。 しかしながら,その他,本件犯行は,元々本件工場の技術者の引き抜きを企図し,ラッピングマシン用コンベア等の熱による損壊を主目的としたものであり,油類の使用の有無ないしその量などについてはもとより,その余の具体的犯行態様に関する明確な合意などはなく,強い着火力を有する多量のガソリン等が犯 ン用コンベア等の熱による損壊を主目的としたものであり,油類の使用の有無ないしその量などについてはもとより,その余の具体的犯行態様に関する明確な合意などはなく,強い着火力を有する多量のガソリン等が犯行に使用されることに対して被告人が確定的な認識を有していたことは窺えないこと,本件の具体的な犯行方法及びその時期等を決定したのはZであって,被告人は,首謀者の一人であるとはいえても,本件犯行を実質的に主導した者とはいえないこと,上記のとおり,犯行の動機としてY社やスポンサーに対する怨恨の情までは認められないこと,シャフト製造棟に対する犯行は未遂に終わっていることなど被告人のために酌むべき諸事情も認められる。 そこで,当裁判所は,以上の諸事情を総合考慮するとともに,共犯者Zらとの刑の均衡等をも併せ考慮し,被告人に対する量刑としては,主文程度の刑を科するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する(求刑・懲役8年)。 平成20年3月26日山形地方裁判所刑事部 裁判長裁判官金子武志裁判官光岡弘志裁判官南雲大輔
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