当事者の表示別紙1当事者目録記載のとおり 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用のうち、原告ら補助参加人の参加によって生じた費用は原告ら補助参加人の負担とし、その余(被告補助参加人の参加によって生じた費用を含む。)は 原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求亡A(以下「A」という。)名義の別紙2の平成25年2月8日付け書面(以下「本件遺言書」という。)による自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)が無 効であることを確認する。 第2 事案の概要 1 事案の骨子原告ら及び原告ら補助参加人は、Aの法定相続人(きょうだい又はその子)であり、被告補助参加人は、本件遺言によりAの遺産の遺贈を受ける者である。 本件は、原告らが、本件遺言の執行者である被告に対し、本件遺言の無効の確認を求め、原告ら補助参加人が原告らに補助参加をし、被告補助参加人が被告に共同訴訟的補助参加をしている事案である。 2 前提事実当事者間に争いがない事実並びに証拠(個別に掲記するほか甲17、丙25、 26、32、丁1、証人B、同C、同D、同E、同原告ら補助参加人。枝番のあるものは、特に注記しない限り、全ての枝番を含む。以下同様。)及び弁論の全趣旨により認められる本件の前提となる事実は、次のとおりである。 ⑴ Aの属性等(甲6~10、26~31、丙5、9、49、154、156~160。別紙3相続関係図参照) ア A(昭和▲年▲月▲日生)は、旧和歌山県西牟婁郡a町において、父であるFと母であるGとの間の五男として出生した。Aには、実兄(H、I、原告Jほか1名(A出生前に死亡))、実姉K及び実妹原告ら補助参加人がいたが、Hは平成22年に 和歌山県西牟婁郡a町において、父であるFと母であるGとの間の五男として出生した。Aには、実兄(H、I、原告Jほか1名(A出生前に死亡))、実姉K及び実妹原告ら補助参加人がいたが、Hは平成22年に、Iは平成27年にそれぞれ死亡した(Iの法定相続人は、原告Jを除く原告ら(Iの子ら)3名である。)。 イ Aは、金融業、酒類販売等その他幅広い事業展開によって多額の資産を形成し、和歌山県田辺市に自宅を構え、同市内のほか東京でも事業を展開した。Aは、平成8年、株式会社L及び株式会社M(以下両会社を併せて「本件各会社」という。)を設立し、従業員のD(以下「D従業員」という。)やB(以下「B従業員」という。)を株式会社Mの取締役等の役員に 就任させた。また、Aは、平成22年まで法律事務所に事務員として勤務し、その後Aから法律相談等種々依頼を受けていたC(以下「C取締役」という。)を、本件各会社の取締役に就任させた。 Aは、被告補助参加人の職員や著名人・マスコミ関係者と広く交友関係があったほか、多数の女性と関係を持ち、同女性らに多額の金銭を渡すな どして、世間の耳目を集め、「N」などと称されていた。 ウ Aは、平成11年に左被殻出血を発症し、翌年平成12年にも同じ疾患の再発により入院した。この時期、Aは、同年及び翌平成13年にOと婚姻・離婚を繰り返したが、同人との間に子はなかった。 Aは、平成14年にPと婚姻し、●●姓(注:Pの氏)を称するように なり(▲▲歳)、平成24年8月、同人と離婚したが(▲▲歳)、同人との間にも子はなく、離婚後も「●●」(注:Pの氏)を続称し、離婚前より飼っていた「Q」と名付けられたミニチュアダックスフンド(以下「飼犬Q」という。)を溺愛し、独居生活を送っていた。 人との間にも子はなく、離婚後も「●●」(注:Pの氏)を続称し、離婚前より飼っていた「Q」と名付けられたミニチュアダックスフンド(以下「飼犬Q」という。)を溺愛し、独居生活を送っていた。 エ Aは、平成▲年2月8日、Rと婚姻した。飼犬Qは、同年5月6日に死 亡し、Aは、▲月▲日、死亡した(▲▲歳)。 被告がAを被相続人とする相続財産管理人として調査した結果、Aが遺した財産(資産から負債を差し引いた金額)は、令和元年7月16日時点で、約15億円であることが判明した。 ⑵ 本件遺言書の形状、内容等(甲1ないし3、丙1、2。別紙2参照)ア本件遺言書の形状 本件遺言書は、白色無地1枚(縦約29.6cm、横約21cm)の紙に、赤色サインペンで、6行縦書きの文字が記載された文書である。 1行目冒頭に「いごん」という見出しが付けられ、2行目から3行目にかけての文章の中には、「キフ」、「たのム」など平仮名と片仮名を混ぜた単語があり、4行目に「平成25年2月8日」という年月日が記載され、5行目に 同年月日より下げた位置から「A」という署名がされ、その末尾に実印が押され、6行目に上記署名より上げた位置から「C殿」と記載されている。 イ本件遺言書に記載された内容本件遺言書に記載された内容は、①2行目に「個人の全財産を田辺市(被告補助参加人)にキフする」と記載されているように、A自身の遺産全てを 被告補助参加人に遺贈すること、②3行目に「LMの清算をたのム」と記載されているように、本件各会社の清算を依頼することである。 ウ本件遺言書の保管状況等本件遺言書は、平成30年6月12日、平成25年2月7日発行の印鑑登録証明書(以下「本件印鑑登録 れているように、本件各会社の清算を依頼することである。 ウ本件遺言書の保管状況等本件遺言書は、平成30年6月12日、平成25年2月7日発行の印鑑登録証明書(以下「本件印鑑登録証明書」という。)及び「S」と印字された金 色様の開封された状態の封筒1枚(縦約12cm、横約23.4cm。以下「本件金色封筒」という。)とともに、C取締役からT弁護士に預けられた。 T弁護士の申立てにより本件遺言書の検認がされ(和歌山家庭裁判所田辺支部平成30年(家)第376号)、検認期日の際、本件遺言書及び本件印鑑登録証明書とともに、これらを封入していた封筒として本件金色封筒が確認 された。 3 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は、本件遺言の民法968条1項の要件充足性(Aが、本件遺言の全文、日付及び氏名を自署し、押印をしたか)であり、これに関する当事者の主張は、次のとおりである。 被告及び被告補助参加人の主張 ア本件遺言書は、A名義の署名があり、Aの実印が押されている(前提事実⑵ア)。 上記のA名義の署名は、その特徴がAの自署と一致しているし、筆跡鑑定の結果(丙150~153)からも、上記自署がAによりされたことが裏付けられ、透写等によってA以外の者によってされた可能性はない。 また、Aの実印や印鑑登録証明書は、Aの指示又は承認によってのみ使用され、A以外の者が無断で使用する可能性はなく、本件印鑑登録証明書は、本件遺言書作成日前日(平成25年2月7日)に、Aの指示及び費用負担により発行された上で本件遺言書と一体となっていた。本件金色封筒が本件遺言書作成日である平成25年2月当時に株式会社Mで使用されていないこ と及びC取締役がAから頻繁に送 Aの指示及び費用負担により発行された上で本件遺言書と一体となっていた。本件金色封筒が本件遺言書作成日である平成25年2月当時に株式会社Mで使用されていないこ と及びC取締役がAから頻繁に送付される郵便物と一緒に開封後の本件遺言書をビニール袋に入れて保管していたことからすると、本件遺言書を封入していた封筒は本件金色封筒ではなかった可能性があるとも考えられるが、本件遺言書の検認の際に本件遺言書を封入していた封筒として本件金色封筒が確認されたことは、本件遺言書の成立の真正を覆す事情にはならない。 したがって、本件遺言書は、Aによる署名と押印によって、民訴法228条4項の規定から、内容全体がAの意思に基づき真正に成立したことになるから、民法968条1項の要件を充足するといえる。 イまた、次のとおりの事情から、Aが、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、自署の末尾に押印をしたといえる。 本件遺言書の筆跡と押印 本件遺言書の署名・押印がAによってされたことは、前記アのとおりである。署名以外の部分も、筆跡鑑定(丙150~153)によれば、Aの自署であり、透写等によってA以外の者によってされた可能性はなく、C取締役やD従業員の筆跡とも一致しないとされている。C取締役やD従業員が本件遺言書を偽造することによって得る利益はなく、本件遺言書につ き偽造を行う動機もない。 本件遺言書の体裁等本件遺言書は、Aが仕事上でも日常生活でも常に好んで使用していた赤色サインペンで記載されており(前提事実⑵ア)、このことは、本件遺言書にAの嗜好が表れたといえる。また、本件遺言書は、白色無地の紙(前提 事実⑵ア)で罫線等がなかったが、そこに記載された文字列に乱れ等がな で記載されており(前提事実⑵ア)、このことは、本件遺言書にAの嗜好が表れたといえる。また、本件遺言書は、白色無地の紙(前提 事実⑵ア)で罫線等がなかったが、そこに記載された文字列に乱れ等がなく、丁寧かつまっすぐに筆記されており、このような字体等は、Aが筆記する特徴である。 本件遺言書の方式として自筆証書を選択することは、立会証人などから本件遺言の内容が漏れるリスクを避けることができたという点で合理性 がある。 本件遺言の内容本件遺言の内容は、①Aが自身の遺産全てを被告補助参加人に遺贈すること、②C取締役に対して本件各会社の清算を頼みたいということである。 ①については、Aが、若い頃より、被告補助参加人に対する郷土愛を強 く持ち、その繁栄を心底願っていたため、被告補助参加人に多額の寄付を行い、報道関係者や知人など複数の者に対し、被告補助参加人に寄付や遺贈をする意思を繰り返し表明したほか、被告補助参加人以外の複数の地方公共団体や公的団体にも寄付をしていた一方、法定相続人であるきょうだいを嫌っており、同人らに財産を譲りたくない旨の意思を表明していたこ とからして、合理性がある。また、②についても、Aが、平成19年2月 14日、和歌山県知事に対し、株式会社Mの廃業届を提出し、平成24年1月頃、過払金請求への対応により事業継続困難として株式会社Lの廃業を決めた旨の広告記事を出した上、同年2月1日、和歌山県知事に対し、株式会社Lの廃業届を提出していることからして、本件各会社について赤字状態で清算手続を要することを認識していたし、C取締役から、「早く 会社を清算した方が良いですよ。」と言われ、本件各会社の清算を勧められていたことからしても、合理性がある。 いて赤字状態で清算手続を要することを認識していたし、C取締役から、「早く 会社を清算した方が良いですよ。」と言われ、本件各会社の清算を勧められていたことからしても、合理性がある。 本件遺言は飼犬Qに関して触れていないけれども、Aとしては、犬に財産を譲ることはできず、犬の寿命は人の寿命より短く、飼犬Qより長生きすると考えていたからと思われ、不自然ではない。 Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等Aは、本件各会社の顧問税理士であったU税理士(以下「U税理士」という。)との間で、仕事上のほかプライベートでも信頼関係を築いていた中で、U税理士から、相続争いを避けるために遺言書を作成することを勧められており、これに対し、遺言書作成の必要性については理解している ことや、「配下に法律事務所の職員がいる」ことなど述べていて、本件遺言書を作成する以前から遺言書を作成する意思を表明していた。また、Aは、C取締役からも遺言書作成を勧められていた。 Aは、原告ら、原告ら補助参加人を含むきょうだいとの関係が良好ではなく、Pとの婚姻中からきょうだいに財産を譲りたくないと考えており、 平成24年8月21日にPと離婚した後、その考えを更に強くし、遺言をしないまま死亡してきょうだいが財産を承継することに危機感を抱いていた可能性がある。 本件遺言書の保管状況、発見状況等C取締役は、Aから郵便物を頻繁に受け取っていたため、随時ビニール 袋に入れており、その結果、C取締役によって開封された本件遺言書は他 の郵便物とビニール袋の中で混ざってしまった。その後、C取締役が本件遺言書を預かってからA死亡までは約5年以上経過した上、C取締役とAの関係は、 、C取締役によって開封された本件遺言書は他 の郵便物とビニール袋の中で混ざってしまった。その後、C取締役が本件遺言書を預かってからA死亡までは約5年以上経過した上、C取締役とAの関係は、平成27年以降希薄になっていた。 C取締役は、本件遺言書を受け取った際のAとの会話で、Aから「まだまだ死ぬつもりはない」と言われていたこともあって、しばらくは本件遺 言書を使うことはないと考えていたと思われ、その中で、本件遺言書の入っていた封筒の勘違いが生じた可能性がある。 C取締役は、本件遺言により、本件各会社の清算という負担を託されただけで、Aの遺産から利益を得ていないし、被告補助参加人と利害関係を有しておらず、このことは、本件各会社の従業員も同様であるから、C取 締役や上記従業員が被告補助参加人にAの遺産を包括遺贈させる動機はない。C取締役や上記従業員が本件印鑑登録証明書を入手するのは不可能であるし、C取締役が、Aの死亡後その遺産の行方が注目される中で、本件遺言書の偽造という犯罪行為に及ぶことは考え難い。被告補助参加人に遺贈された遺産の一部について、C取締役や上記従業員が自ら得ることも、 Aの妻Rに得させることも不可能である。 ⑵ 原告らの主張ア民訴法228条4項は、署名又は押印がある文書につき、成立の真正を推定する規定であるから、同条によって、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署したことは推定されない。 イ次のとおりの事情から、Aが、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署せず、自署の末尾に押印もしておらず、本件遺言書は、A以外の者によって偽造されたといえる。 本件遺言書の筆跡と押印本件遺言書の全文、日付及び署名の筆跡は、A自身が生前作 せず、自署の末尾に押印もしておらず、本件遺言書は、A以外の者によって偽造されたといえる。 本件遺言書の筆跡と押印本件遺言書の全文、日付及び署名の筆跡は、A自身が生前作成したとさ れる書面における筆跡と一致しておらず、本件遺言書は、透写等によって A以外の者によって作成された可能性が極めて高い。このことは、筆跡鑑定(甲14、39、43、57)やB従業員のほかAに生前接していた複数の関係者の見解からも裏付けられる。 また、Aの実印は、株式会社Mの業務のため、同社の事務所の従業員の机の上に置かれた施錠されていないケースで、社印等複数の印鑑と一緒に 保管されていたことから、同社従業員において、Aから逐一許可を得ることなく使用することができる状況にあったので、本件遺言書の押印がAの指示も承認もなくされた可能性がある。 印鑑登録証明書も、株式会社Mの事務所の棚に数枚常時保管されており、新たに取得する際にAの指示又は承認を要しない状況にあったので、本件 印鑑登録証明書はAの指示又は承認なく発行された可能性がある。 本件金色封筒が、本件遺言書作成日とされている平成25年2月8日時点で発注・納入されていなかったのに、検認手続では本件遺言書とともに確認されているという点も併せると、本件遺言書の全文、日付及び署名並びに押印は、A以外の者によってされた可能性が極めて高い。 本件遺言書の体裁等本件遺言書の体裁(前提事実⑵ア)は、単なる紙に赤いサインペンで走り書きしたような文字が記載されたというものであり、Aの多額の遺産全てを被告補助参加人に遺贈する(同イ)という重大な内容を熟慮の末に遺言するために作成された体裁とは考え難い。Aは、金 サインペンで走り書きしたような文字が記載されたというものであり、Aの多額の遺産全てを被告補助参加人に遺贈する(同イ)という重大な内容を熟慮の末に遺言するために作成された体裁とは考え難い。Aは、金融業を営む際に公正 証書を用いたことがあったから、上記のとおり熟慮を要する遺言は、公正証書の方式によるはずであって、同方式を用いなかったのは不自然である。 さらに、本件遺言書の冒頭の「いごん」(前提事実⑵ア)は、Aの用いていた用語「ゆいごん」と異なっているし、日付の数字も算用数字であり、縦書きの際にAの用いる漢数字と異なっている。A自身を「個人」と呼称 していること、「C殿」という宛名が存在することも、遺言書として不自 然である。 本件遺言の内容遺産全てを被告補助参加人に遺贈するという内容は、唐突かつ荒唐無稽である。Aが被告補助参加人に寄付をしていたのは、遠縁の者が田辺市助役を務めていた平成4年3月までにすぎないし、被告補助参加人以外の団 体も寄付先となっていたから、Aが被告補助参加人に生前寄付をしていたことは、遺産全てを被告補助参加人に遺贈するのが合理的であることの裏付けにはならず、Aがそのような遺贈意思を表明したことはない。 また、Aが原告ら、原告ら補助参加人を含む法定相続人に財産を譲る意思を有していなかったということを裏付ける事情もない。 さらに、本件遺言の中で、Aが溺愛していた飼犬Qに触れられていないことや、本件各会社の清算をC取締役に頼むことも、遺言として唐突で不自然である。 Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等Aは、本件遺言書作成日とされている平成25年2月8日当時、健康に 支障がなく、遺言書作成の必要性を有して 、遺言として唐突で不自然である。 Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等Aは、本件遺言書作成日とされている平成25年2月8日当時、健康に 支障がなく、遺言書作成の必要性を有していなかった。 しかも、Aは、原告ら、原告ら補助参加人を含むきょうだいとの関係が良好であり、同人らへの相続による財産承継を阻みたいという意思もなかった。 本件遺言書の保管状況、発見状況等 C取締役は、平成▲年▲月▲日(A死亡翌日)及び同月29日に、Aが遺言書を作成していないことや、Aが遺言書を作成する性格ではないこと等を周囲の者に述べており、本件遺言書について全く触れていなかった。 C取締役が本件遺言書を預かったのに、その後で忘れていたとは到底考えられないし、そもそもAから郵便物を受け取っていたのかも明らかではな く、本件遺言書を他の郵便物等と混ぜて保管していたというのも不自然で ある。 Aの妻Rは、本件遺言が有効であることを前提として、遺留分減殺請求権を行使することにより、原告ら及び原告ら補助参加人を相続人から外した上、被告補助参加人から遺留分相当額を速やかに受け取ることができ、C取締役は、Aの妻Rに上記のメリットを与えるのと引換えに報酬を得る ため、本件遺言書の作成に関わっていた可能性がある。 ⑶ 原告ら補助参加人の主張次のとおりの事情から、Aは、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署していないし、押印もしていない。 ア本件遺言書の筆跡と押印 本件遺言書の署名のうち、「■」(注:Aの名の一字)は、Aの自署と異なっている。 Aの実印は、株式会社Mの業務のため、同社の事務所に置かれたケースで、社印等複数の印鑑と一緒に保管されていたこと 言書の署名のうち、「■」(注:Aの名の一字)は、Aの自署と異なっている。 Aの実印は、株式会社Mの業務のため、同社の事務所に置かれたケースで、社印等複数の印鑑と一緒に保管されていたことから、Aから逐一許可を得ることなく使用することができる状況にあり、印鑑登録証明書も、株式会社M で常時保管されており、A以外の者において持ち出すことができる状況にあったことからすると、本件遺言書の押印はA以外の者が行った可能性がある。 イ本件遺言書の体裁等本件遺言書の冒頭の「いごん」(前提事実⑵ア)は、Aの用いていた用語「ゆいごん」と異なっている。また、Aは、金銭の貸付けに慎重で頻繁に公 正証書を用いていたから、遺産の帰属先を決める重大な局面である遺言の際に公正証書の方式にしなかったのは不自然である。 ウ本件遺言の内容Aが被告補助参加人に寄付をしていた目的は、そのことによって注目を浴びて自身の事業の宣伝効果を狙うとともに、優越感を得ることにあったと考 えられ、Aに郷土愛があったからではない。その上で、Aが被告補助参加人 に遺産全てを遺贈しても、上記の効果等を得られないから、遺産全てを被告補助参加人に遺贈するという本件遺言の内容は不自然である。 エ Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等Aは、原告ら、原告ら補助参加人を含むきょうだいとも良好な関係を築き、折に触れて交流を続け、旧姓(〇〇)にも愛着を持っていた。Aがきょうだ いとの良好な関係や旧姓への愛着を否定する言動をとったのであれば、周囲を笑わせようとしたり、虚勢を張ったりするためであったと考えられる。 Aは、原告ら補助参加人に対し、長生きをする旨述べていたから、平成25年2月当時(▲▲歳)に本件遺言をするはずがない。 せようとしたり、虚勢を張ったりするためであったと考えられる。 Aは、原告ら補助参加人に対し、長生きをする旨述べていたから、平成25年2月当時(▲▲歳)に本件遺言をするはずがない。 オ本件遺言書の保管状況等 C取締役は、平成▲年▲月▲日(A死亡翌日)及び同月29日に、Aが遺言書を作成していないことや、Aが遺言書を作成する性格ではないこと等を周囲の者に述べており、本件遺言書について述べていなかった。AがC取締役に本件遺言書を送付したことも、C取締役がこれを保管したこともない。 第3 当裁判所の判断 1 被告及び被告補助参加人は、Aによる署名と押印によって、民訴法228条4項の規定から本件遺言書の内容全体がAの意思に基づき真正に成立したことになり、その結果、本件遺言書につき民法968条の要件を充足する旨主張するが、民訴法228条4項は、本人の署名又は押印がある文書の成立の真正を推定するにとどまり、Aが本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、これに押印したこ とを推認させないから、この点に関する被告及び被告補助参加人の上記主張は採用できない。 2 そこで、Aが、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、自署の末尾に押印をしたかについて、⑴本件遺言書の筆跡と押印、⑵本件遺言書の体裁等、⑶本件遺言の内容、⑷Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等、⑸本件遺言書 の保管状況、発見状況等のそれぞれを検討する。 ⑴ 本件遺言書の筆跡と押印ア本件遺言書に記載された文字の筆跡 本件遺言書に記載された文字は、白色無地1枚(縦約29.6cm、横約21cm)の紙に6行縦書きに並んでいるが(前提事実⑵ア)、その特徴として、一見したところでは、流れるような筆致であること 本件遺言書に記載された文字は、白色無地1枚(縦約29.6cm、横約21cm)の紙に6行縦書きに並んでいるが(前提事実⑵ア)、その特徴として、一見したところでは、流れるような筆致であることが見て取れる。 Aの筆跡を示す書面として、メモ(甲15の3~6、甲33、34、66〔5枚目A署名部分〕、丙93)、公正証書への署名(甲15の1・2、甲16〔別紙2資料1~13〕、丙52~61、101~103)、贈答用の本へのサイン(丙43)、督促用封筒への記入(丙50、79、137~142、146)、指示書(丙51、83、90、116)、和解確認書(丙 62、94)、裁判関係書類(丙63の2、丙89、100、104)、手紙(丙82、92)、封筒へのメモ書き(丙85)、念書(丙86)がある。 また、Aは、貸金の返還を迫る書面(丙7の1)を作成し、従業員に対し、Vその他借主の自宅や勤務先にばらまかせており(丙35、36、39、40、91、92)、上記書面には、「金貸屋」(丙37、46、丙71 の9、丙120の1)、「市民税弐億円納税した男」(丙9、38、丙45の1)といったAが好んで使用していた表現が用いられていることから、上記書面もまた、Aの自署によると認められる。 上記の各書面等にあるAの自署もまた、一見したところでは、流れるような筆致である。この特徴は、平成11年と平成12年の2度にわたる脳 疾患(前提事実⑴ウ)の後遺症により、正方形様で「かっちりとした」字体(丙80、99)が変化して生じたと考えられ、その特徴が本件遺言書の筆跡と近似していることは、本件遺言書に記載された文字がAの自署によると推認し得る事情ということができる。 他方、C取締役の筆跡(丙27、28、丙 じたと考えられ、その特徴が本件遺言書の筆跡と近似していることは、本件遺言書に記載された文字がAの自署によると推認し得る事情ということができる。 他方、C取締役の筆跡(丙27、28、丙114の1、丙115の1、 丙134)、D従業員の筆跡(丙69の1、丙96、129、135)、B 従業員の筆跡(甲17、丙67)、その他株式会社Mの従業員の筆跡(丙69の2~4、丙73の3・4、丙104~106、110、111)には、流れるような筆致はいずれもなく、本件遺言書の筆跡と一致しないように見える。 上記、に関し、筆跡鑑定書等(丙150~153)は、筆跡が筆記 具、運筆方向(縦書き、横書きの別を含む。)、書体の相違(走り書き、乱雑さ等)、体調、心理状態などの事情で大きく変化するという特性がある上、筆跡対照資料におけるAの筆跡には、筆順、字画構成・形態等に大きなばらつきがあるため、筆跡の個人内変動を考慮する必要があることを前提に、本件遺言書と筆跡対照資料を基にして、本件遺言書に記載された文 字列の配字、各文字それぞれの筆跡について検討を加え、本件遺言書の文字列の配字については、個人内誤差が大きいこと、本件遺言書の各文字それぞれの筆跡については、運筆、筆癖等からみて、個人内変動が大きい中にもA固有の筆跡あるいは筆跡対照資料に恒常的に表れている筆癖が認められることから、筆跡対照資料の筆跡との同筆性があり、本件遺言書と 筆跡対照資料の各筆跡が同一人によると結論づけるとともに、C取締役及びD従業員の筆跡が両名各自の配字及び恒常的な筆癖において本件遺言書の筆跡とは異筆であると指摘している。上記結論や指摘で検討した筆跡の特性や検討等の過程において、特段不合理な点は見当たらない。 そう 跡が両名各自の配字及び恒常的な筆癖において本件遺言書の筆跡とは異筆であると指摘している。上記結論や指摘で検討した筆跡の特性や検討等の過程において、特段不合理な点は見当たらない。 そうすると、本件遺言書に記載された文字の筆跡は、Aの筆跡であると みて相違ないということができる。 原告らは、本件遺言書の全文、日付及び署名の筆跡について、A自身が生前作成したとされる書面における筆跡と一致しておらず、本件遺言書につき、透写等によってA以外の者によって作成された可能性が極めて高い旨主張し、原告ら補助参加人も、本件遺言書のA名義の署名がAの自署と 異なる旨主張し、これらに沿う筆跡鑑定書等(甲14、39、43、44、 57)並びにB従業員の陳述(甲17)及び証言がある。 まず、上記筆跡鑑定書等を検討すると、W作成の筆跡鑑定書(甲14)に関しては、筆跡対照資料が6通にとどまる上、それらにはA作成であることが明らかではない書面も含まれているほか、A作成の書面(丙7の1)を合理的理由なく筆跡対照資料から除外している点で採用し難い。また、 X作成の筆跡鑑定書(甲39、57)に関しては、筆跡対照資料の中から、Aの筆跡と似ている筆跡のあるものを除き、Aが脳疾患発症前に作成した書面の筆跡を、A以外の者が同人の筆跡に似せたなど評価していて(甲39の2)、筆跡対照資料の選別や認識にいささか疑義があるほか、令和3年8月30日付け筆跡鑑定書(甲39の2)では、同年5月10日付け筆 跡鑑定書(甲39の1)と整合しない指摘(甲39の2〔23頁〕)や検証を回避する点(同〔26頁、28頁、31頁〕)などにおいて、採用し難い。 さらに、Y作成の鑑定書(甲43)は、判断の前提としている「高齢者筆跡の特徴」の根拠 合しない指摘(甲39の2〔23頁〕)や検証を回避する点(同〔26頁、28頁、31頁〕)などにおいて、採用し難い。 さらに、Y作成の鑑定書(甲43)は、判断の前提としている「高齢者筆跡の特徴」の根拠が明確とはいい難い上、「高齢者筆跡の特徴」を踏まえた検討をした形跡に乏しく、採用し難い。 次に、B従業員の陳述(甲17)及び証言は、Aの字を見てきたという経験に基づくにとどまり、ここから本件遺言書に記載された文字がAの筆跡ではないと認めることはできない。 その上、本件遺言書の文字には、透写の場合には生じない終筆部や転折部における筆圧によるインクだまりがある上、微細な箇所の再現は困難で あって(丙150)、本件遺言書につき、透写等によってA以外の者によって作成された可能性が高いとはいえない。 したがって、原告ら及び原告ら補助参加人の上記主張は採用できない。 イ本件遺言書の押印 本件遺言書には、本件印鑑登録証明書が添付されており(前提事実⑵ウ)、 証拠(丙4、113、121~123)及び弁論の全趣旨によると、Aが、 平成25年2月7日に、従業員に指示して、被告補助参加人から印鑑登録証明書2通の発行を400円で受け、その代金を金庫から支払ったと認められるので、その翌日にされた本件遺言書の押印もまた、Aによってされたと推認し得る。 原告ら及び原告ら補助参加人は、Aの実印が、株式会社Mの従業員にお いて、Aから逐一許可を得ることなく使用することができる状況にあったから、本件遺言書の押印がAの指示も承認もなくされた可能性があり、印鑑登録証明書が同社の事務所の棚に数枚常時保管されていて、新たに取得する際にAの指示又は承認を要しない状況にあったから、本件印鑑登録証明書についても、Aの指 の指示も承認もなくされた可能性があり、印鑑登録証明書が同社の事務所の棚に数枚常時保管されていて、新たに取得する際にAの指示又は承認を要しない状況にあったから、本件印鑑登録証明書についても、Aの指示又は承認なく発行された可能性があるなどと主 張する(前記第2の3⑵イ)が、Aの実印及び印鑑登録証明書の保管・使用が、株式会社Mにおいて、A以外の者でも可能な状況にあったからといって、そのことから、本件遺言書の押印や本件印鑑登録証明書の発行が、Aの指示も承認もなくされたとの事実を導き出せることにはならない。 また、原告らは、本件金色封筒が本件遺言書作成日とされている平成2 5年2月8日時点で発注・納入されていなかったのに、検認手続では、本件遺言書とともに確認されていることも指摘するが、本件遺言書及び本件印鑑登録証明書は、5年以上の間、これらを封入していた封筒から出されて保管されていたのだとすると(丙25、証人C取締役)、原告らの上記指摘は、上記の推認を覆す事情とまではいえない。 したがって、原告ら及び原告ら補助参加人の上記主張及び指摘は、いずれも採用できない。 ⑵ 本件遺言書の体裁等ア本件遺言の体裁は、前提事実⑵アのとおりであり、その特徴として、①筆記具が赤色サインペンであること、②白色無地1枚(縦約29.6cm、横 約21cm)の紙に6行縦書きの文字が並んでいること、③1行目冒頭に「い ごん」という見出しが付けられていること、④文章中に平仮名と片仮名を混ぜた単語があること、⑤4行目の年月日「平成25年2月8日」に算用数字が用いられていること、⑥6行目に「C殿」という宛名があることが挙げられる。 この中で、①の点についてみると、Aは、赤色やピンク色を こと、⑤4行目の年月日「平成25年2月8日」に算用数字が用いられていること、⑥6行目に「C殿」という宛名があることが挙げられる。 この中で、①の点についてみると、Aは、赤色やピンク色を好み、赤色の ネクタイ、胸ポケット用ハンカチ、ワイシャツ等を着用していたほか、自宅外壁をピンク色にし、内装に赤色を多用し、筆記具に赤色サインペンをよく使用し、本件各会社の事務所の机引出しに常備するなど、赤色及び赤系の色を好んでいたこと(甲9、17〔添付写真〕、甲49の1〔5頁下、13頁下~17頁の各写真〕、丙7~10、64~66、68)からすると、筆記具が 赤色サインペンであるとの点は、本件遺言書がAにより書かれたことを裏付けるといえる。 次に、②の点についてみると、文字列に大きな乱れは見受けられず、2度の脳疾患発症というAの病歴(前提事実⑴ウ)を考慮すると、文字列の形状をもってAにより書かれたことを否定する要素は見出せない。 続いて、④の点についてみると、Aは、「ホドンする(「保存する」の方言)」(丙64)、「反対さいけん」(丙81)、「必ズ」、「点ケン」(丙88)、「教ソ」(丙91の4)など平仮名と片仮名や仮名と漢字を混ぜた単語を用いていたことからすると、本件遺言書で上記同様の単語が用いられているとの点は、本件遺言書がAにより書かれたことを裏付けるといえる。 イ原告らは、①単なる紙に赤色サインペンを用いた自筆証書という方式が多額の遺産全てを被告補助参加人に遺贈するという重大な内容に見合わず、このような場合には公正証書の方式によるはずである、②前記アのうち、③の点について、Aが用いていた「ゆいごん」と異なること、⑤の点について、縦書きの際に用いられていた漢数字ではないこと、⑥の点に 、このような場合には公正証書の方式によるはずである、②前記アのうち、③の点について、Aが用いていた「ゆいごん」と異なること、⑤の点について、縦書きの際に用いられていた漢数字ではないこと、⑥の点について、宛名が 存在することに加え、A自身を「個人」と呼称していることからして不自然 であるなど主張する。また、原告ら補助参加人も、上記①の点及び②のうち前記アの③に関する点と同旨の主張をする。 しかし、①については、自筆証書と公正証書には、それぞれに特性があり、多額の遺産全ての遺贈という内容であれば公正証書の方式によるはずであるという推論が常に導き出せるとはいい難い。 また、②については、前記アのうち、③の点について、Aが用いていたのが「ゆいごん」のみであったのか客観的に明らかではないし、そうであるとしても、実際に遺言をする際に「いごん」を用いたことが直ちに不自然ということにはならない。⑤の点について、Aは、縦書きの際の数字表記に、漢数字(丙7の1、丙51、87、91、92)のみならず、算用数字(丙6 4、65、86、丙116の1、丙149)も用いていたから、縦書きで用いる数字表記が漢数字のみであったことを前提とする点で失当である。⑥の点について、遺言書に宛名があること及びA自身を「個人」と呼称していたことといった点から本件遺言書が不自然であるとは断じ難い上、本件遺言書には、A個人の遺産のみならず本件各会社の清算についても触れられている こと(前提事実⑵イ)に照らし、特段不自然とはいえない。 したがって、原告ら及び原告ら補助参加人の上記主張は採用できない。 ⑶ 本件遺言の内容ア本件遺言の内容は、前提事実⑵イのとおり、①A自身の遺産全てを被告補助参加人に遺贈す したがって、原告ら及び原告ら補助参加人の上記主張は採用できない。 ⑶ 本件遺言の内容ア本件遺言の内容は、前提事実⑵イのとおり、①A自身の遺産全てを被告補助参加人に遺贈すること、②本件各会社の清算を依頼することである。 イまず、①についてみると、証拠(丙11~24、32、44、45、証人E)及び弁論の全趣旨によれば、Aは、被告補助参加人に対し、昭和51年11月から平成2年5月までの間6回にわたって合計1200万円を寄付し(昭和51年11月、昭和53年1月、同年12月につき各100万円、昭和54年3月に200万円、昭和62年4月に500万円、平成2年5月 に200万円)、そのことで、被告補助参加人から、自治功労者として4回表 彰されるとともに、被告補助参加人の国に対する上申により昭和63年7月に紺綬褒章を受章し、このほか、犯罪者の更生保護に関わる財団法人、Z1、Z2にも寄付を行い、国から感謝状を贈呈され、Aの氏名がZ2寄付者の銘板に掲載されるなどしていたこと、Aは、地元新聞社からの取材で、毎年寄付を続けたい、福祉行政のための費用に充てて欲しい旨述べて、その発言 が地元紙や広報誌で掲載され、株式会社Mを掲載した新聞広告にも「利益を地元に還元できるよう目指しています。」、「約2億円の市民税を納めてきました。」などと掲載されたこと、Aは、平成17年頃から交流していた田辺市役所の職員に対し、被告補助参加人の発展を望んでいるなどと述べて同人を鼓舞する発言をしたことが認められる。 このように、Aは、長年にわたって、被告補助参加人等へ合計1000万円を超える寄付を行い、寄付を継続する意向を示すとともに、本件各会社での事業経営により、被告補助参加人への億単位の納税を実 このように、Aは、長年にわたって、被告補助参加人等へ合計1000万円を超える寄付を行い、寄付を継続する意向を示すとともに、本件各会社での事業経営により、被告補助参加人への億単位の納税を実現してきたことも表明したり、被告補助参加人の発展を望む発言をしたりもしてきた。その一連の言動は、十数億円の遺産全てを、最も近しい寄付先等であり自身の地元 であった被告補助参加人に遺贈するという内容と矛盾するところはない。 その上、Aは、原告ら補助参加人と年に数回会って高額な商品や現金を与えるなどし、そのほかきょうだいやその子らとも交流を持つ一方で、平成24年4月17日頃、きょうだいと財産を巡る紛争の中で、「グータラ人間ばかり」なきょうだいに財産を譲るつもりは全くない旨手紙に記したことがあ り、C取締役、D従業員ら複数の者に対し、きょうだいには遺産を渡したくないなどと述べ、飼犬Qに財産をあげたいとも述べていたこと(甲47、50~52、丙6、25、26、143、145、丁1、証人C取締役、同D従業員、同原告ら補助参加人)からすると、きょうだいやその子ら法定相続人に遺産が承継されない内容の遺言をすることは、Aの意に沿わないとはい えない。 ウ次に、②についてみると、Aは、本件各会社の経営者として、その負債が多額であることを認識し、C取締役から本件各会社の清算を勧められていたこと(丙25、33、証人C取締役)や、Aが平成19年2月には株式会社Mについて、平成24年2月には株式会社Lについて、和歌山県知事に対して廃業届を提出したこと(丙110、111)、かねてよりC取締役を法律問 題等の相談相手として頼りにしていたこと(丙116、117)からして、さして不合理なことではない。 エ原 に対して廃業届を提出したこと(丙110、111)、かねてよりC取締役を法律問 題等の相談相手として頼りにしていたこと(丙116、117)からして、さして不合理なことではない。 エ原告らは、①Aが被告補助参加人に寄付をしていたのは、遠縁の者が田辺市助役を務めていた平成4年3月までにすぎないし、被告補助参加人以外の団体も寄付先となっていたから、Aが被告補助参加人に生前寄付をしていた ことは、遺産全てを被告補助参加人に遺贈するのが合理的であることの裏付けにはならない、②Aが原告ら、原告ら補助参加人を含む法定相続人に財産を譲る意思を有していなかったということを裏付ける事情がない、③本件遺言の中で、Aが溺愛していた飼犬Qに触れられていないことや、本件各会社の清算をC取締役に頼むことは唐突で不自然であるなどと主張する。 しかし、①について、Aの寄付の時期が田辺市助役の就任時期と関連しているのか明らかではなく、被告補助参加人以外の団体が寄付先になっていたことをもって、被告補助参加人への遺贈の合理性を直ちに否定することにはならず、②を裏付ける事情に関する説示は前記イのとおりである。③について、Aが飼犬Qを溺愛していた(前提事実⑴ウ)からといって、本件遺言の 中で飼犬Qについて触れるのが自然であるとは限らないし、前記ウで認定したとおり、Aが生前本件各会社を整理する方針をとり、本件各会社の清算をAに勧めていたのがC取締役であったことからすると、本件遺言の中で、本件各会社の清算をC取締役に頼むことは唐突とも不自然ともいい難い。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 オ原告ら補助参加人は、Aの寄付の目的が世間の注目を浴びて自身の事業の 宣伝効果を狙うとともに、優越感を い難い。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 オ原告ら補助参加人は、Aの寄付の目的が世間の注目を浴びて自身の事業の 宣伝効果を狙うとともに、優越感を得ることにあったことを前提に、被告補助参加人に遺産全てを遺贈しても、上記の効果等を得られないという点で、不自然である旨主張するが、Aの寄付の目的が自身の事業の宣伝効果や優越感を得ることにあったのか定かではなく、原告ら補助参加人の上記主張は前提において失当である。 ⑷ Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等ア被告及び被告補助参加人は、Aが、U税理士やC取締役から、相続争いを避けるために遺言書の作成を勧められていたとか、Aときょうだいとの関係が良好でなく、Aがきょうだいに財産を譲りたくないと考えていたなどと主張する(前記第2の3⑴イ)。 他方、原告らは、Aが健康に支障なく、遺言書作成の必要性を有していなかったとか、Aときょうだいとの関係は良好であり、Aにはきょうだいへの相続による財産承継を阻みたいという意思がなかったなどと主張し(前記第2の3⑵イ)、原告ら補助参加人は、Aときょうだいとの関係は良好である上に、Aが旧姓(〇〇)に愛着を持っていたとか、Aが原告ら補助参加人 に対して長生きをする旨述べていた時期に遺言をするはずがないなどと主張する(前記第2の3⑶エ)。 イ Aが本件遺言をしたのは、平成25年2月8日とされている(前提事実⑵ア)。 この時期は、Aが平成24年8月にPと離婚をした時期(前提事実⑴ウ) に比較的近く、C取締役やU税理士から、遺言書の作成を勧められていた節もある(丙25、42、証人C取締役)が、本件遺言書作成に至る具体的かつ客観的な経緯は定かでは をした時期(前提事実⑴ウ) に比較的近く、C取締役やU税理士から、遺言書の作成を勧められていた節もある(丙25、42、証人C取締役)が、本件遺言書作成に至る具体的かつ客観的な経緯は定かではないため、遺言書作成の勧めがあったとしても、それが本件遺言書作成にどの程度影響したのかは判然としない。 また、この時期のAと法定相続人との関係は、前記⑶イで認定説示したと おり、Aにおいて、原告ら補助参加人を含むきょうだいやその子らとの交流 を持つ一方で、同年4月17日頃、きょうだいと財産を巡る紛争の中で、「グータラ人間ばかり」なきょうだいに財産を譲るつもりは全くない旨手紙に記し、周囲の複数の者に対してきょうだいには遺産を渡したくないなどと述べていたという状況にあった。この点からすると、Aと法定相続人との関係は、本件遺言をする事情の一つであった可能性はあり得るが、これが平成25年 2月8日時点における本件遺言書作成の確たる理由であったのかは定かではない。 さらに、Aは、過去に2度脳疾患を患っており(前提事実⑴ウ)、本件遺言書作成の時期における年齢(▲▲歳)からみて、A自身において、遺言書作成の必要性を全く考えていなかったとも断定し難いし、Aが旧姓(〇〇)に 愛着を持っていたのかもはっきりとはせず、Aが原告ら補助参加人に対して長生きをする旨述べていたとしても、そのことから遺言書を作成することはあり得ないということにもならない。 結局のところ、Aが平成25年2月8日に本件遺言をしたことについて、Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等の観点から、的確に説明す ることは難しいことに加え、Aの生き方(前提事実⑴イ)からみても容易に推し量ることはできないというほかなく、上記の観点は、 Aと法定相続人、関係者との関係、遺言の経緯等の観点から、的確に説明す ることは難しいことに加え、Aの生き方(前提事実⑴イ)からみても容易に推し量ることはできないというほかなく、上記の観点は、Aが本件遺言書全文、日付及び氏名を自署し、自署の末尾に押印したことの裏付けとして重きを置く事情と位置付け得ない。 ⑸ 本件遺言書の保管状況、発見状況等 ア本件遺言書の保管状況等は、前提事実⑵ウのとおりであり、本件遺言書が、平成30年6月12日、本件印鑑登録証明書及び本件金色封筒とともに、C取締役からT弁護士に預けられ、同弁護士の申立てにより本件遺言書の検認がされ、その際、本件印鑑登録証明書とともに、これを封入していた封筒として本件金色封筒がそれぞれ確認された。 それ以前の本件遺言書の保管状況、発見状況等について、被告及び被告補助参加人は、C取締役が、Aから「まだまだ死ぬつもりはない。」と言われていたこともあって、頻繁に受け取っていた郵便物を入れていたビニール袋の中に入れたままにしていたなどと主張する。 上記主張を直接裏付ける証拠は、C取締役の陳述(丙25)及び証言であ るため、これらについて検討する。 イ C取締役の陳述及び証言の概要は、①C取締役は、平成27年頃まで、Aから頻繁に郵便物の送付を受けていたため、当初、郵便物及び封筒を段ボールに入れて保管し、平成23年4月頃の自宅の改装を機に、一部を約70リットルサイズのビニール袋に積み重ねて保管し、残りを破棄し、その後に送 られてきた郵便物及び封筒もビニール袋に入れ続け、平成26年末頃、重要なものを1袋に整理して保管し、その余の2袋を廃棄した、②C取締役は、平成25年2月10日以降、本件遺言書を本件印鑑登録証明書と共に封 てきた郵便物及び封筒もビニール袋に入れ続け、平成26年末頃、重要なものを1袋に整理して保管し、その余の2袋を廃棄した、②C取締役は、平成25年2月10日以降、本件遺言書を本件印鑑登録証明書と共に封入された状態で郵送にて受け取り、開封して、本件遺言書、本件印鑑登録証明書、封筒を積み重ねてビニール袋に入れた、③C取締役は、同年末頃まで、本件 遺言書のことを覚えていたが、その後忘れてしまい、平成▲年▲月▲日のA死亡直後、突然のAの死亡に接した上に殺人事件として捜査が始まるなどしたことによる動揺で本件遺言書を思い出せず、同年6月10日頃に至って、Aから遺言書を受け取っていたことを思い出し、上記①で残したビニール袋から、本件遺言書及び本件印鑑登録証明書を発見し、これらの近くにあった 本件金色封筒とともに、T弁護士に預け、その後、平成31年3月の自宅の改装を機に、残りのビニール袋を廃棄したという内容である。 ①については、C取締役が、Aから頻繁に送られてくる郵便物をどのように保管していたのかを客観的に裏付ける証拠はないが、郵便物の内容が従業員に書かせた手紙、第三者がAに送った手紙、Aが掲載された新聞記事、パ ーティの案内状、写真、酒の価格表、裁判資料等多岐にわたっていたのだと すれば(証人C取締役〔4頁、16頁、28頁〕)、C取締役が証言等するような保管方法もあながち不合理とまではいえない。 ②については、本件印鑑登録証明書の日付が本件遺言書作成日の前日であることからして、不合理なところはない。C取締役自身が、平成25年2月8日時点やA死亡時点に、本件遺言書を作成した上でその前日の日付の本件 印鑑登録証明書を入手するといったことを想定するのは困難である。本件遺言書及び本件印鑑登録証明書を大きなビニー 成25年2月8日時点やA死亡時点に、本件遺言書を作成した上でその前日の日付の本件 印鑑登録証明書を入手するといったことを想定するのは困難である。本件遺言書及び本件印鑑登録証明書を大きなビニール袋に入れて他の雑多な書類と一緒にしていたとの点については、いささか不自然ともいえるが、そうであるとしても、C取締役がAから本件遺言書及び本件印鑑登録証明書を郵送にて受け取ったという事実自体を動かすことにはならない。 ③については、本件遺言書の作成日からAの死亡までは、5年以上が経過しており、その後の殺人事件疑惑で騒ぎになっていたとするならば、A死亡からしばらく経つまで本件遺言書の確認に思い至らなかったとしても、無理からぬ面もある。本件金色封筒が発注・納入されたのは、本件遺言書の作成日後である平成25年12月であるが(甲12、48)、①で残ったビニール 袋の中で積み重ねていた書類が崩れた(証人C取締役〔16頁、17頁、34頁、66頁〕)のだとすれば、C取締役において、本件遺言書及び本件印鑑登録証明書の近くにあった本件金色封筒を、本件遺言書及び本件印鑑登録証明書を封入していた封筒であろうと考えたのもやむを得ないともいい得る。 平成31年3月の自宅の改装を機に残りのビニール袋を廃棄した理由が、A の死亡に関して殺人という話を聞いて「何か気持ちが悪くなっ」た(証人C取締役〔40頁〕)、「人が死んだら気持ち悪いでしょう。」、「警察にも全部提出して、裁判所にも検認で提出してれば、他は要らないと判断した。」(証人C取締役〔63頁〕)というのも、不合理とまではいえない。 上記によれば、C取締役の陳述及び証言は、相応に信用することができる。 ウ原告らは、①C取締役が平成▲年▲月▲日(A死亡翌 というのも、不合理とまではいえない。 上記によれば、C取締役の陳述及び証言は、相応に信用することができる。 ウ原告らは、①C取締役が平成▲年▲月▲日(A死亡翌日)及び同月29日に、Aが遺言書を作成していないことや、Aが遺言書を作成する性格ではないこと等を周囲の者に述べており、本件遺言書について全く触れていなかった、②C取締役が本件遺言書を預かったのに、その後で忘れていたとは到底考えられないし、そもそもAから郵便物を受け取っていたのかも明らかでは なく、本件遺言書を他の郵便物等と混ぜて保管していたというのも不自然である、③Aの妻Rが、本件遺言が有効であることを前提として、遺留分減殺請求権を行使することにより、原告ら及び原告ら補助参加人を相続人から外した上、被告補助参加人から遺留分相当額を速やかに受け取ることができ、C取締役において、Aの妻Rに上記のメリットを与えるのと引換えに報酬を 得るため、本件遺言書の作成に関わっていた可能性がある旨主張し、原告ら補助参加人も、原告ら上記①及び②と同旨の主張をする。 しかし、①について、B従業員が、C取締役において、Aに関して「遺言を残すタマじゃない」と述べていた旨証言等している(甲17、証人B従業員)が、C取締役は上記証言内容につき覚えていない旨証言し、B従業員の 上記証言等を裏付けることのできる事情は見当たらない。②について、本件遺言書預かり後の認識等や保管方法に関するC取締役の証言の信用性を否定する事情が見いだし難いことは、前記イで説示したとおりである。③については、裏付けのない推論に基づく可能性を指摘するにすぎず、採用の余地はない。 したがって、原告ら及び原告ら補助参加人の上記主張は採用できない。 ⑹ たとおりである。③については、裏付けのない推論に基づく可能性を指摘するにすぎず、採用の余地はない。 したがって、原告ら及び原告ら補助参加人の上記主張は採用できない。 ⑹ まとめ上記⑴ないし⑸で検討した点を踏まえると、本件遺言書の筆跡と押印、本件遺言書の体裁等及び本件遺言書の内容からは、Aが本件遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、自署の末尾に押印したとみるほかなく、Aと法定相続人、関 係人との関係、遺言の経緯等は、本件遺言書の自署押印の判断で重きを置く事 情と位置付けることができず、本件遺言書の保管状況、発見状況等は、A以外の者による本件遺言書作成への関与をうかがわせる事情とはいえない。 したがって、本件遺言は、民法968条1項の要件を充足しているといえる。 その他原告ら及び原告ら補助参加人が縷々主張する点は、上記結論を左右するものではない。 第4 結論よって、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所民事部 裁判長裁判官髙橋綾子 裁判官堀 部 麻記子 裁判官 森谷拓朗(別紙1ないし3の掲載省略) 森谷拓朗
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