令和6(ネ)3984 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月6日 東京高等裁判所 棄却 東京地方裁判所 令和4(ワ)5542
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判決文本文11,157 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1100万円及びこれに対する平成30年11月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り原判決のもの(平成30年の出来事については「平成30年」を省略することも含む。)を用いる。) 1 本件は、弁護士であった控訴人が、犯人隠避教唆の被疑者として横浜地検特別刑事部の検察官から10月15日から11月5日までに受けた取調べ(本件取調べ)に違法があり、精神的苦痛を被ったなどとして、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として、慰謝料等1100万円(弁護士費用100万円を含む。)及びこれに対する上記取調べ後の11月6日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、控訴人が違法である旨指摘する検察官の言動の一部について、控訴人の人格を不当に非難するなど違法なものであるほか、同行為により被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は100万円が相当であり、違法な取調べと相当因果関係を有する弁護士費用は10万円と認めるのが相当であるとして、控訴人の損害賠償請求を110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し、その余の請求を棄却した。 控訴人は、上記控訴人敗訴部分を不服として、本件控訴をするとともに、上記検察官が10月18日の取調べで行った言動も別途控訴人の弁護人依頼権を侵害したとして、上記取調べにおける言動を一連の違法行為として追加した。 2 本件における前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は、次のと べで行った言動も別途控訴人の弁護人依頼権を侵害したとして、上記取調べにおける言動を一連の違法行為として追加した。 2 本件における前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、当審における控訴人の追加主張及び控訴理由を後記3のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決3頁3行目の「Aが死亡した。」を「Aは死亡し、B及びCは負傷した。」と改める。 ⑵ 原判決4頁19行目の「イ 」の後に「控訴人は、10月15日に逮捕される前、3回にわたる本件犯人隠避教唆事件についての任意取調べに応じ、その際には黙秘することなく、嫌疑が事実無根であるとして否認する旨供述していた。」⑶ 原判決4頁22行目の「と述べた。」の後に、「そこで、D検察官は、「黙秘にしたの。」と確認し、控訴人は「はい。」と回答した。」を加える。 ⑷ 原判決4頁25行目の「静止し、」の後に「本件犯人隠避教唆事件について、」を加える。 3 当審における控訴人の追加主張及び控訴理由⑴ 当審における控訴人の追加主張D検察官は、10月18日、控訴人に対し、E弁護士に対して真実を話さないと迷惑がかかるとか、騙すことになるなどと伝えるとともに、E弁護士及びF弁護士が証拠関係から控訴人の言っていることが正しくないことに気付くとか、実態と弁解が食い違ったときに上記弁護士らに迷惑がかかるなどと伝えた。 控訴人は、弁護人が実は疑っていると伝えられたものと考え、その疑念や不安から弁護人らとの接見において、弁護人らの態度を心配するようになり、何も気にせずに話をすることができなくなった。 D検察官の上記発言は、控訴人とE弁護士又はF弁護士との信頼関係を害し、防御活動に支障を生じさせる 接見において、弁護人らの態度を心配するようになり、何も気にせずに話をすることができなくなった。 D検察官の上記発言は、控訴人とE弁護士又はF弁護士との信頼関係を害し、防御活動に支障を生じさせることが明らかであり、弁護人依頼権を侵害 する行為である。 ⑵ 黙秘権侵害ア黙秘する被疑者に対する取調べの継続が憲法38条1項に違反すること控訴人の黙秘権行使の意思は揺らぎようがない明確なものであり、このような控訴人に対する取調べの継続を許容することは、控訴人に何時間もの取調べが続くことへの忍耐を強いることを許容するということになり、憲法38条1項の趣旨と相いれない。控訴人は、56時間以上にわたる取調べに耐え、黙秘を貫徹したが、その黙秘権が侵害されていないわけではない。 憲法38条1項が同条2項とは別に黙秘権を保障している趣旨は、供述の自由を危険にさらすことを禁じる事前規制の趣旨を含むものであり、米国では、Miranda 判決によって被疑者が黙秘権を行使したにもかかわらず取調べを継続することが供述の強要にあたるとし、取調べの事前規制を実現している。控訴人に対する取調べの実態は、我が国においても、Miranda判決と同様、取調べがもつ強制的な雰囲気を直視しなければならないことを明らかにしている。 そして、黙秘権を行使している被疑者を密室にとどめ置き、取調べを受けることを強いるのは、それ自体が拷問であり供述の強要であって、このことは、身体を拘束されて家族や社会から隔絶されている状況においてはより一層顕著である。黙秘権を行使している被疑者に対する取調べを継続することは、それ自体が供述の自由を危険にさらす行為であり、黙秘権侵害にほかならない。 公判における刑事実務では、黙秘権行使の意思を明確に表明した者に対する質問が許 る被疑者に対する取調べを継続することは、それ自体が供述の自由を危険にさらす行為であり、黙秘権侵害にほかならない。 公判における刑事実務では、黙秘権行使の意思を明確に表明した者に対する質問が許されないことは既に常識であり、こうした実務に照らせば、取調べにおいても、同様に、黙秘権行使を明確にした被疑者に対する質問が許されてはならない。身体を拘束されている被疑者に取調べをするため に出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務が認められるとの解釈は明らかに誤っているし、それらの義務を認める見解に立っても、控訴人に対して行われたような、数々の罵詈雑言を交えた56時間以上に及ぶ取調べが黙秘する被疑者に対する許容される余地がある取調べの限界をはるかに超えるものであり、明らかに黙秘権を侵害している。 イ平成11年最大判の判断内容平成11年最大判は、黙秘権を行使せず取調べに応じている被疑者について、取調べの支障を理由に接見指定をすることの違法性が争点となった事案における判断であり、被疑者に対する出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務を判断したものではなく、また、被疑者取調べについて出頭滞留義務を課したとしてもその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことにはならないとの判断は、「取調べ」の理解を誤っており、供述の強要と説得の峻別が限りなく困難であるなどとして、学者からも批判されている。本件におけるD検察官の控訴人に対する取調べにおいては、控訴人の弁護士としての能力、資質等に乏しいことを殊更に侮辱的又は揶揄する表現を用いて繰り返し指摘している。黙秘している被疑者に対する説得を許せば、本件のように、人格を不当に非難する言動により供述を強要する事態が説得目的という名目で惹き起こされることとなる。 さらに、仮に被疑者の出頭滞留義務ないし取調べ している被疑者に対する説得を許せば、本件のように、人格を不当に非難する言動により供述を強要する事態が説得目的という名目で惹き起こされることとなる。 さらに、仮に被疑者の出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務を肯定したとしても、説得、発問等は被疑者が黙秘権行使の態度を翻意することが客観的に期待できる状態に至るまでの間に行われなければならず、被疑事実と関連する内容に限られ、起訴・不起訴の決定に向けた捜査の一環として行われ、その範囲も新たな証拠関係や疑問と関連して被疑者への確認を要する範囲にとどまり、被疑者が引き続き黙秘したときはその取調べを終了しなければならない。本件における控訴人に対する取調べは、控訴人が黙秘権行使の意思を明示した平成30年10月16日には客観的に翻意を期 待できない状態であったにもかかわらず、同月17日以降も取調べが継続しており、D検察官の数々の発言が専ら黙秘権行使をやめさせるために行われたものであり、被疑事実と関連するものでもなく、起訴方針を既に決めている以上、起訴・不起訴の決定に向けられた取調べではない。これらの事情によれば、仮に被疑者の出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務が認められるとしても、控訴人に対する取調べの継続がその黙秘権侵害に当たることは明らかである。 ウ刑訴法198条1項ただし書の解釈刑訴法198条1項ただし書は、被疑者の出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務を定めたものではなく、その立法趣旨は、黙秘権保障の趣旨に従って被疑者の人権を保障することにあり、立法の初期段階から被疑者が供述を拒まないときに限り取調べができるものとする方針であり、立法担当者も被疑者に対する取調べを許容するものではない。 すなわち、立法段階における答弁内容からすれば、刑訴法198条1項の立法趣旨は、従来行われがちであっ り取調べができるものとする方針であり、立法担当者も被疑者に対する取調べを許容するものではない。 すなわち、立法段階における答弁内容からすれば、刑訴法198条1項の立法趣旨は、従来行われがちであった自白の追求を防止し、黙秘権保障の趣旨に従って被疑者の人権を保障する点であった。被疑者に出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務を課すことは、自白の追求にほかならず、黙秘権を危うくする行為であるのであって上記趣旨と矛盾するものである。立法の初期段階においては、被疑者が供述を拒まないときに限って取調べができるとする方針であったものであり、立法時の発案者においても供述を拒否する被疑者に対する取調べの継続を許容する認識はない。刑訴法198条が英米法の無罪推定の思想に由来して設けられたことは、刑訴法改正案の審議における答弁からも明らかであり、英国や米国では黙秘権を行使する被疑者に対する取調べが禁止又は批判される行為であったことからすれば、刑訴法198条1項ただし書が、被疑者に対する出頭滞留義務ないし取調べ受忍義務を課し、黙秘権の行使後も延々と取調べを継続する扱い を許容しているはずがない。 ⑶ 弁護人依頼権侵害憲法34条によって保障される弁護人依頼権は、形式的に弁護人を選任できる権利ではなく、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会をもつことを実質的に保障するものであり、被疑者と弁護人との信頼関係を害する行為は、弁護人依頼権を侵害するものである。控訴人は、D検察官の発言により、弁護人からの援助を受けることに不安になる気持ちを抱いたほか、弁護人らの活動では勝訴できないという気持ちを抱いた旨供述しており、弁護人らとの信頼関係に影響を及ぼしたことが明らかである。さらに、控訴人は、上記⑴のD検察官の発言 とに不安になる気持ちを抱いたほか、弁護人らの活動では勝訴できないという気持ちを抱いた旨供述しており、弁護人らとの信頼関係に影響を及ぼしたことが明らかである。さらに、控訴人は、上記⑴のD検察官の発言により、弁護人らに疑われるかもしれないなどと考えた旨供述しているところ、D検察官が何の根拠もなく、弁護人が控訴人を疑っているものと決めてかかった上で、その信頼関係の破壊を企てたものであって悪質である。 ⑷ 人格権侵害ア D検察官の言動のうち、①a、③b(飲水・トイレ希望への対応)について被疑者には自ら望むタイミングでトイレに行く自由があり、捜査機関への服従を強いられるものではない。D検察官の発言は、被疑者がトイレに行くに当たり自身の許可を得るよう強制するものであり、被疑者の立場と相いれないばかりか、人としての尊厳を損なわせるものである。 イ D検察官の言動のうち、①d、②c(取調べ状況報告書への署名、指印に関するもの)について法律上取調べ状況報告書に署名及び指印をしなければならないルールはない。黙秘権は、口頭に限らずあらゆる表現・叙述方法での情報伝達をしないことを保障する権利であり、捜査機関の提示する書面への署名・指印を強制されないこともその保障に含まれる。D検察官の上記発言は、署 名・指印への拒否を理由に「再犯しますよ、あなた」と決めつけるもので悪質であり、このような侮辱は人格権保障と全く相いれないものである。 ウ D検察官の言動のうち、①b、③a(黙秘に関するもの)について黙秘権は人間の尊厳に照らして保障されたものであり、その行使が誰かの迷惑になる旨の発言は、黙秘せずに供述させようとしているものではなく、捜査機関の見立てに沿った供述をするよう求めるものであって、憲法上の権利の尊重と真っ向から反する れたものであり、その行使が誰かの迷惑になる旨の発言は、黙秘せずに供述させようとしているものではなく、捜査機関の見立てに沿った供述をするよう求めるものであって、憲法上の権利の尊重と真っ向から反する言動であるから、公権力行使の場面において許容される余地はない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原審と同じく、控訴人の請求を110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる範囲で認容するのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2において当審における控訴人の追加主張及び控訴理由に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中第3の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決11頁13行目から14行目にかけての「と述べ、」の後に、「D検察官の黙秘権を行使するかの確認に対して黙秘権を行使する旨回答し、」を加える。 ⑵ 原判決14頁12行目の「(略)、」の後に、「裁判所の勾留質問でも言っているようにね、事実争いますと、事実無根ですと。で、」を加える。 ⑶ 原判決14頁15行目の「cD検察官は、」を次のとおり改める。 「cD検察官は、「F先生とかね。E先生だって、おそらくほんとの事実関係知りたいと思っているはずだと思いますよ。こういう刑事事件になっちゃっているわけですから。きちんと真実をね、語らないとそういう人たちにもね、迷惑かかっちゃうし、騙すことにもなっちゃうのかもしれないし、それはおかしいと思いますよ。」、「F先生だってE先生だってね、証拠関係見れば、そりゃあなたの言っていることが正しいかどうかって、あの 人たち私から見ればすごくまともな方々だから、そりゃわかりますよ、そんなの。まあ私と全くおんなじものの見方になるかというのはね、それは違うと思うけれども、あくまで弁護人とし うかって、あの 人たち私から見ればすごくまともな方々だから、そりゃわかりますよ、そんなの。まあ私と全くおんなじものの見方になるかというのはね、それは違うと思うけれども、あくまで弁護人としての立場だとは思うんだけれども。あまりにも実態とあなたの弁解が食い違ったときには、そりゃ迷惑がかかるんじゃないですかね。」などと述べた。 dD検察官は、」⑷ 原判決15頁2行目の「(略)」を「」と述べ、「そういったあたりも、本件の動機、犯行に至る経緯、大事な事実ですので、色々収集して分析して、私なりに解釈している部分がありますけども、やっぱりバランス悪いと思うんですよね。」と改め、8行目の「目いっちゃってんのってね。」の後に、「、「翻ってね、今回の事件でもどこが大事なのか、考えるべきだと思うんですよね。 そこを見極めた上でないと、正しい防御活動って多分できないと思うんですよね。」、」を加える。 ⑸ 原判決16頁5行目の「すいませんでしたとか」を「すみませんでしたとか」と改める。 ⑹ 原判決17頁3行目の「被害者とか、」の前に「そういった重大な殺傷事案についても、もしかするとあんまりその」を加える。 ⑺ 原判決22頁2行目、11行目及び13行目の「①c」を「①d」と各改める。 ⑻ 原判決22頁11行目から12行目にかけての「穏当さを欠く言辞が含まれていること」の後に、「、被疑者が取調べ状況報告書への署名及び指印をすることがルール化しているかのような理由で署名及び指印を求めていることなどその内容及び具体的な方法のいずれも不適切であったこと」を、13行目の「述べられたものにとどまること」の後に、「、控訴人が刑事弁護活動の相当の経験を有する弁護士であり、D検察官の上記言辞によって被疑者に署名指印義務があることが法定されているといった 」を、13行目の「述べられたものにとどまること」の後に、「、控訴人が刑事弁護活動の相当の経験を有する弁護士であり、D検察官の上記言辞によって被疑者に署名指印義務があることが法定されているといった誤解を生じさせるとも考え 難いこと」を各加える。 ⑼ 原判決22頁15行目の「できない。」を「できないし、控訴人が口頭での伝達のみならず、あらゆる表現・叙述方法での情報伝達をしない趣旨で上記署名・指印を拒否していたとしても、合理性がないとの意見を述べて署名、指印への協力を要請する上記発言が、社会的相当性を超えているとまではいえない。」と改める。 ⑽ 原判決22頁20行目の「黙秘を続ければ」を「事実無根である旨供述した上で取調べにおいて黙秘を続けることについて、本件犯人隠避教唆事件の」と改める。 ⑾ 原判決23頁10行目から11行目にかけての「原告の弁護人としてE弁護士及びF弁護士が就いていることについて、原告がこれらの弁護士に迷惑をかけている」を「E弁護士及びF弁護士が控訴人の弁護人に就いたことにより、E弁護士及びF弁護士が弁護士らの間で辛い立場に置かれるとか、控訴人の弁護方針を控訴人が決めているものと決めつけた上で、そのような弁護活動がE弁護士やF弁護士の迷惑になっている」に改め、12行目末尾の後に、「控訴人自身がその内容を策定したと決めつけた上で、」を加える。 ⑿ 原判決23頁23行目の「これらの発言は、」を「⑦aは」と改める。 2 当審における控訴人の追加主張及び控訴理由に対する判断⑴ 控訴人は、当審において、D検察官の言動のうち、①cについて、控訴人に対し、E弁護士に対して真実を話さないと迷惑がかかるとか、騙すことになるなどと伝えるとともに、E弁護士及びF弁護士が、控訴人の弁解が正しくないことに気付いており、実態と弁 ち、①cについて、控訴人に対し、E弁護士に対して真実を話さないと迷惑がかかるとか、騙すことになるなどと伝えるとともに、E弁護士及びF弁護士が、控訴人の弁解が正しくないことに気付いており、実態と弁解が食い違ったときに迷惑がかかる旨伝えるものであって、控訴人が、弁護人らに疑念や不安を抱き、実際の接見でも支障があったなどとして、控訴人の弁護人依頼権を侵害する行為であると主張する。 しかしながら、①cは、その前後の発言(乙7)を前提とすれば、D検察 官が、控訴人に対し、控訴人が黙秘する前にしていた供述について、D検察官自身の証拠関係から得た見立てと異なるとの理解を前提に、控訴人の弁護人となるE弁護士及びF弁護士も全く同じ見立てではないとしても、疑問を抱くなどと推測できるとして、控訴人にE弁護士及びF弁護士に対しては真実を述べるよう説得する内容であって、E弁護士やF弁護士の認識や本件犯人隠避教唆事件の証拠関係を前提にした見立てが控訴人の弁解と相違していることを確定的に伝えるものではないし、その内容に虚偽の事情等が含まれていることをうかがわせる証拠もない。これらの事情に加え、控訴人が刑事弁護活動の経験を有する弁護士であることも考慮すると、控訴人が、上記発言によって、E弁護士及びF弁護士に対して疑念や不安を抱いたとしても、①cが直ちに控訴人の弁護人依頼権を侵害するとはいえず、その発言が社会的相当性を欠くとの評価が妥当するものともいえない。 ⑵ また、控訴人は、黙秘権を行使している被疑者を密室にとどめ置き、取調べを受けることを強いるのは、それ自体が拷問であり供述の強要であって、このことは、身体を拘束されて家族や社会から隔絶されている状況においてはより一層顕著であるし、黙秘権を行使している被疑者に対する取調べを継続することは、それ それ自体が拷問であり供述の強要であって、このことは、身体を拘束されて家族や社会から隔絶されている状況においてはより一層顕著であるし、黙秘権を行使している被疑者に対する取調べを継続することは、それ自体が供述の自由を危険にさらす行為であり、黙秘権侵害にほかならないとして、明確に黙秘する被疑者に対する取調べの継続が憲法38条1項に違反すると主張する。 しかしながら、前記補正の上で引用する原判決の説示するとおり、身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかであり、逮捕又は勾留されている被疑者が黙秘の意思を表明した場合に、検察官がその後に取調べのために出頭、滞留させ、その取調べを継続したとしても、そのこと自体をもって、当該被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うこ とを意味するものとはいえず、憲法38条1項の黙秘権を侵害するということもできない。 また、前記補正の上で引用する原判決の説示するとおり、検察官の取調べが国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否かの判断に当たっては、当該取調べの対象となった事案の内容・性質、被疑者に対する嫌疑の程度、取調べ時点における証拠関係の下での取調べの必要性、取調べの具体的態様等諸般の事情を勘案して、当該取調べが社会通念上相当と認められる範囲を超えるものか否かにより判断するのが相当であり、その判断に際して、被疑者の人格権、黙秘権、弁護人依頼権等の被疑者に保障されている権利の内容やその保障の趣旨を考慮すべきものと解されるところ、原判決別紙のとおり、本件取調べは、10月15日から11月5日までのうち21日間をかけて行われたものであり、1回の 被疑者に保障されている権利の内容やその保障の趣旨を考慮すべきものと解されるところ、原判決別紙のとおり、本件取調べは、10月15日から11月5日までのうち21日間をかけて行われたものであり、1回の取調べ時間や、各取調べの間隔などを考慮した場合、その総取調べ時間が合計56時間に及ぶことをもって、直ちに本件取調べが控訴人の黙秘権を侵害するということはできないし、社会的相当性を欠くとの評価が妥当するものともいえない。 ⑶ さらに、控訴人は、憲法34条によって保障される弁護人依頼権が、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会をもつことを実質的に保障するものであるとし、控訴人が、D検察官の発言により不安や疑念を抱くなど弁護人らとの信頼関係に影響を及ぼしたことが明らかであるし、D検察官が根拠なく弁護人が控訴人を疑っているものと決めてかかった上で、その信頼関係の破壊を企てた発言は悪質であり、控訴人の弁護人依頼権を侵害する旨主張する。 しかしながら、前記補正の上で引用する原判決の説示のとおり、D検察官の言動のうち、④b及び⑦aは、弁護人依頼権に照らせば、穏当さを欠くといえるものの、弁護人らの弁護活動を阻害するものとは認められず、控訴人と弁護人らとの信頼関係が直ちに損なわれるものともいえないのであって、 このことは、前記⑴で説示したとおり、当審において控訴人が追加主張した①cにおいても同様である。 ⑷ 加えて、控訴人は、㋐①a、③b(飲水・トイレ希望への対応)は、捜査機関への服従を強いるものであり、人としての尊厳を損なわせるものであること、㋑①d、②c(取調べ状況報告書への署名、指印に関するもの)は、控訴人が黙秘権の保障に含まれる権利を行使したこと自体を非難するものであるし、「再犯します 人としての尊厳を損なわせるものであること、㋑①d、②c(取調べ状況報告書への署名、指印に関するもの)は、控訴人が黙秘権の保障に含まれる権利を行使したこと自体を非難するものであるし、「再犯しますよ、あなた」と決めつける発言は悪質な侮辱であること、㋒①b、③a(黙秘に対するD検察官の言動)は、D検察官が控訴人の黙秘権の行使により誰かに迷惑がかかる旨発言するものであり、控訴人に対し、黙秘をやめさせようとしているのではなく、捜査機関の見立てに沿った供述をするよう求めているのであって許容される余地がないなどとして、それぞれ控訴人の人格権を侵害するものとして違法である旨主張する。 しかしながら、①a、③b(飲水・トイレ希望への対応)は、前記補正の上で引用する原判決の説示するとおり、取調べの中断を伴う事態が生じないよう帰室を制限したり、事前に準備しておくよう求めたりしたものであって、その頻度や態様に加え、控訴人に対する本件取調べ時間を考慮すると、D検察官の上記言動が控訴人に捜査機関に対する服従を求めるものとはいえない(上記㋐の主張)。 また、①d、②c(取調べ状況報告書への署名、指印に関するもの)は、前記補正の上で引用する原判決の説示するとおり、取調べ状況報告書に対する署名、指印が控訴人に何らかの不利益をもたらすとは考え難いことから、D検察官が控訴人の対応に合理性がないことを指摘し、その結果再犯可能性に言及するものといえ、その具体的言辞が穏当さを欠いていることを考慮しても、同行為が社会的相当性を欠くとまでは評価できず、控訴人の人格権を侵害しているとはいえない(上記㋑の主張)。 さらに、①b、③a(黙秘に関するもの)は、前記補正の上で引用する原 判決の説示するとおり、控訴人が事実無根である旨否認した上で黙秘していることについて るとはいえない(上記㋑の主張)。 さらに、①b、③a(黙秘に関するもの)は、前記補正の上で引用する原 判決の説示するとおり、控訴人が事実無根である旨否認した上で黙秘していることについて、控訴人の親族に迷惑がかかることや、関連する事件の遺族らの心情を控訴人に伝え、真実を供述するよう説得するものといえ、社会的相当性を欠くものということはできない(上記㋒の主張)。 したがって、控訴人の上記主張はいずれも採用できない。 3 結論以上によれば、控訴人の請求を110万円及びこれに対する本件取調べ後の平成30年11月6日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第10民事部 裁判長裁判官松井英隆 裁判官小島清二 裁判官横地大輔

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