平成29(行コ)34 課徴金納付命令取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成29年6月7日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文15,063 文字)

- 1 -平成29年6月7日判決言渡平成29年(行コ)第34号課徴金納付命令取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第460号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は第1 審原告の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 金融庁長官が第1 審原告に対し平成26年8月21日付けでした課徴金39万円を国庫に納付することを命ずる決定を取り消す。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,第1 審被告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,株式会社ノジマ(以下「ノジマ社」という。)との間で法律顧問契約を締結していた弁護士である第1審原告が,同契約の履行に関し,ノジマ社の取締役兼代表執行役であるZ1が,ノジマ社において,その発行する株式及びその処分する自己株式を引き受ける者の募集(以下「公募増資」という。)を行うことについての決定をした旨の重要事実を知りながら,法定の除外事由がないのに,同事実の公表がされる前に,ノジマ社の発行に係る株式合計2000株を自己の計算において売り付けたとして,内閣総理大臣の権限の委任を受けた金融庁長官から,金融商品取引法(以下「法」という。)166条1項4号,同条2項1号イ,175条1項1号に基づく課徴金の納付を命ずる旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたのに対し,第1審原告が,Z1は法166条2項1号にいう「業務執行を決定する機関」に該当せず,第1審原告は本件処分に係る公募増資(以下「本件公募増資」という。)について同号の決定はないと認識していたから,本件処分は- 2 -誤った事実を前提とした違法なものであるとして,本件処分の取消しを求める事案である。 原判決は,本件処分は適法であるとして第 。)について同号の決定はないと認識していたから,本件処分は- 2 -誤った事実を前提とした違法なものであるとして,本件処分の取消しを求める事案である。 原判決は,本件処分は適法であるとして第1 審原告の請求を棄却し,これを不服とする第1 審原告が控訴した。 2 関係法令の定め(1) 法166条1項4号は,上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者であって当該上場会社等の役員等以外のもので,当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったものは,当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ,当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない旨を定める。 (2) 法166条2項1号イは,同条1項に規定する業務等に関する重要事実として,当該上場会社等の業務執行を決定する機関が会社法199条1項に規定する株式会社の発行する株式若しくはその処分する自己株式を引き受ける者の募集又は同法238条1項に規定する募集新株予約権を引き受ける者の募集を行うことについての決定をしたことを掲げる。 (3) 法175条1項1号は,法166条1項の規定に違反して,自己の計算において有価証券の売付け等(同項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日以前6月以内に行われたもの(当該公表がされた日については,当該公表がされた後に行われたものを除く。)に限る。)をした者があるときは,内閣総理大臣は,その者に対し,当該有価証券の売付け等について当該有価証券の売付け等をした価格にその数量を乗じて得た額から当該有価証券の売付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も低い価格に当該有価証券の売付け等の数量を乗じて得た額を控除した額に相当する額の課徴金を国庫 を乗じて得た額から当該有価証券の売付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も低い価格に当該有価証券の売付け等の数量を乗じて得た額を控除した額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨を定める。 - 3 - 3 前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1) 第1審原告は,アルファパートナーズ法律事務所所属の弁護士であり,平成22年6月,ノジマ社との間で法律顧問契約を締結し(乙8),平成25年10月11日及び同年11月15日の時点においても,同契約(以下「本件顧問契約」という。)が継続していた。 ノジマ社は,その発行に係る株式が東京証券取引所JASDAQ市場に上場されている会社であり,平成15年6月以降,委員会等設置会社(現行の指名委員会等設置会社)に移行した株式会社である(甲7,乙15)。 (2) 第1審原告は,平成15年6月から平成21年6月まで,ノジマ社の社外取締役を務めており,その際,ノジマ社の発行する株式に係るストックオプションを2000株分付与されていたところ,その後,上記ストックオプションを権利行使し,平成25年7月19日,ノジマ社の発行に係る株式合計2000株の入庫を受けた。 (3) ノジマ社の取締役兼執行役経営企画部長であったZ2及び同部員であったZ3は,平成25年8月,大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)から,調達額を約30億円とする本件公募増資に係る提案を受け,同年9月2日,ノジマ社の取締役兼代表執行役であるZ1に対し,上記の提案について説明したところ,Z1は,同日,Z2及びZ3に対し,本件公募増資に必要な準備を開始するよう指示した(以下,Z1によるこの指示を「本件指示」という。)(甲7,乙18,証人Z3)。 (4) Z3は て説明したところ,Z1は,同日,Z2及びZ3に対し,本件公募増資に必要な準備を開始するよう指示した(以下,Z1によるこの指示を「本件指示」という。)(甲7,乙18,証人Z3)。 (4) Z3は,平成25年10月11日,アルファパートナーズ法律事務所所属のZ4弁護士に対し,本件公募増資に係る有価証券届出書にノジマ社が東京証券取引所市場第2部上場申請を予定していることを記載する必要があるか否かについて,電話とメールで相談をしたところ,同弁護士は,同日中に,上記メールをその添付資料(以下「本件メール資料」という。)と共に,第1審原告を含むアルファパートナーズ法律事務所所属の各弁護士に転送した。 - 4 -本件メール資料には,ノジマ社が本件公募増資の実施を予定しており,同年11月19日に取締役会決議及び有価証券届出書の提出が行われ,払込期日を同年12月4日とする等の本件公募増資に係るスケジュール案が記載されていた(乙12)。 第1審原告は,同年10月11日中に,本件メール資料の内容を確認した上,Z3に対し,上記の相談案件を受任する旨を電話で伝えた。第1審原告は,同相談案件をアルファパートナーズ法律事務所所属の他の弁護士に担当させた(甲9,乙9)。 (5) 第1審原告は,平成25年11月15日,自己の計算において,前記(2)の株式合計2000株を売付価額合計194万6900円で売り付けた(以下,これを「本件売付行為」という。)。 (6) 平成25年11月19日に開催されたノジマ社の臨時取締役会において,本件公募増資の実施が決議され,同日午後3時30分頃,TDnet(適時開示情報伝達システム)により,本件公募増資の実施が決定されたことが公衆縦覧に供されて公表された。 本件公募増資は,同年12月4日から同月18日までの間に払込期日を設け 30分頃,TDnet(適時開示情報伝達システム)により,本件公募増資の実施が決定されたことが公衆縦覧に供されて公表された。 本件公募増資は,同年12月4日から同月18日までの間に払込期日を設けて実施された。 (7) 内閣総理大臣の権限の委任を受けた金融庁長官は,平成26年8月21日付けで,第1審原告に対し,本件売付行為に関し,法175条1項1号所定の課徴金39万円を国庫に納付することを命ずる本件処分をした。 本件処分の理由は,本件売付行為が,ノジマ社の業務執行を決定する機関であるZ1が,本件指示をした平成25年9月2日に,本件公募増資を行うことについての決定をしたとの重要事実を,本件顧問契約の履行に関し知った第1審原告が,上記重要事実の公表がされた同年11月19日より前の同月15日にノジマ社の発行に係る株式を売り付けた行為であり,法166条1項4号,同条2項1号イが定める禁止行為に該当するというものであっ- 5 -た。 4 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件処分の適法性であり,具体的には,以下の(1)及び(2)のとおりである。 (1) Z1がノジマ社の「業務執行を決定する機関」として本件公募増資を「行うことについての決定をした」といえるか(争点(1))(第1審被告の主張)①ノジマ社の社内体制として,ノジマ社においては,各部の担当者が毎週月曜日に取締役兼代表執行役として業務執行の最高責任者の立場にあるZ1に対して重要案件の説明・報告を行う経営相談という定例の打合せを実施しており,重要な資本政策や経営方針については,最終的にZ1の判断で決定され,②本件公募増資についても,Z1が,平成25年9月2日,定例の打合せにおいて,本件公募増資に係る説明を受けて本件指示によりその準備を指示し,その後,会社として秘密保持を図り にZ1の判断で決定され,②本件公募増資についても,Z1が,平成25年9月2日,定例の打合せにおいて,本件公募増資に係る説明を受けて本件指示によりその準備を指示し,その後,会社として秘密保持を図りながら本件公募増資の実施に向けた準備が進められていたから,これらの事情によれば,Z1は,本件公募増資を行うことについて,実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関ということができる。なお,このことは,ノジマ社の社内規程において,Z1が募集株式の発行等の権限を取締役会から委任されていたことからも裏付けられるものである。 ③しかも,Z1による本件指示は,間近い時期に本件公募増資を実施することを具体的に見据えたものであったから,本件公募増資の実現を意図して,本件公募増資それ自体やそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定をしたものということができる。 したがって,Z1が平成25年9月2日に本件指示をしたことが,ノジマ社の「業務執行を決定する機関」が本件公募増資を「行うことについての決定をしたこと」に当たるというべきである。 - 6 -(第1審原告の主張)ノジマ社においては,過去の公募増資の案件において,実施前の取締役会において取締役から強い反対意見が出されたため,Z1が公募増資の議案を提出するのを断念したことがあるほか,その他にもZ1が企画した案件が取締役会で賛同を得られず実現しなかったことが複数回あるなど,ノジマ社においては,取締役会が活発に機能していたというべきであって,取締役会の議決事項とされる事柄について,その議決を待たずしてZ1が実質的に決定していたような実態は全くうかがわれない。また,第1審被告の提出に係る執行役職務分掌規程等の社内規程の有効性やこれに基づく手続の履践の有無は不明であり,本件 ,その議決を待たずしてZ1が実質的に決定していたような実態は全くうかがわれない。また,第1審被告の提出に係る執行役職務分掌規程等の社内規程の有効性やこれに基づく手続の履践の有無は不明であり,本件公募増資もノジマ社の臨時取締役会に決議事項として提出されており,社内規程に沿った処理がされていないことからすれば,Z1が本件公募増資の実施に係る権限を委任されていたとは認められない。 したがって,Z1が実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関とはいえず,Z1による本件指示は,ノジマ社の「業務執行を決定する機関」による本件公募増資を行うことについての決定には該当しない(当該決定がされたのは,平成25年11月19日の臨時取締役会においてである。)。 (2) 第1審原告が本件公募増資の決定を「知った」といえるか(争点(2))(第1審被告の主張)法166条1項にいう「知った」とは,同項所定の禁止行為の構成要件に該当する事実を認識することである。これには,未必的な認識も含まれ,構成要件に該当する具体的事実の詳細を認識する必要はなく,投資者の投資判断に影響を及ぼすべき当該事実の内容の一部を知った場合も含まれる。また,事実の認識で足りるのであって,当該事実が禁止行為の構成要件に当てはまるとの認識は必要ではない。 このような観点からすると,第1審原告は,平成25年10月11日,本- 7 -件メール資料を見て,その内容を確認したことにより,ノジマ社の業務執行を決定する機関が本件公募増資を行うことについての決定をした旨の重要事実を「知った」ものというべきである。 (第1審原告の主張)第1審原告は,平成25年10月11日にノジマ社からの相談案件を受任した時点では,ノジマ社において本件公募増資を行うという重要事実の決定 を「知った」ものというべきである。 (第1審原告の主張)第1審原告は,平成25年10月11日にノジマ社からの相談案件を受任した時点では,ノジマ社において本件公募増資を行うという重要事実の決定がされたとの認識は有しておらず,第1審原告としては,本件公募増資について,業務執行を決定する機関による決定までには至っていないとの認識であった。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) ノジマ社の社内体制アノジマ社は,決算期を毎年3月とする株式会社で,公開会社かつ委員会設置会社(現行の指名委員会等設置会社,会社法2条5号,12号)であり,Z1が取締役兼代表執行役の地位にあり,募集株式の発行等に関する取締役会の権限(同法201条)を含む業務執行の決定が広汎に執行役に委任されていた(同法416条4項,418条)。ノジマ社の執行役職務分掌規程2条1項は,代表執行役(同規程上の表記では執行役社長)は会社の業務執行の最高責任者として取締役会から委任された範囲内で,必要な権限を有し,かつ,全ての部署の責任を負う旨を定めている。 また,ノジマ社において定められている取締役会規則8条1項は,取締役会は,取締役及び執行役から「取締役会細則」に定める報告事項の報告を受ける旨を定め,同規則別表「取締役会細則」は,「Ⅱ 報告事項」において,取締役会の決議により執行役に委任した事項として,「募集株式の発- 8 -行等(自己株式の処分を含む)」を挙げた上で,これは最高経営会議(ノジマ社の執行役,主要部長クラス,本部の担当者等で構成される,執行役権限事項の一部に係る決定機関及び代表執行役の諮問機関としての会議体)の付議事項である旨を定めている。 (以上,前提事 営会議(ノジマ社の執行役,主要部長クラス,本部の担当者等で構成される,執行役権限事項の一部に係る決定機関及び代表執行役の諮問機関としての会議体)の付議事項である旨を定めている。 (以上,前提事実(1),乙15,16,18,証人Z3)イノジマ社においては,毎週月曜日,各部署の担当者や幹部が個別にZ1と相談事項を打ち合わせる経営相談という打合せが行われており,各部署の担当者や幹部は,自らの担当する案件の重要事項につき,経営相談においてZ1の了承を得ることとされている。経営相談において,Z1が担当者からの報告内容を了承すれば,担当者は報告した方向で業務を進めていくことになるが,Z1が反対すれば,担当者は持ち帰って見直すことになり,報告した内容のままで業務を進めることはできなかった。 (以上,甲7,乙18,証人Z3)(2) 本件公募増資の実施に至る経緯アノジマ社においては,平成25年初頭頃から,新たな事業展開のための資金調達等の目的で公募増資の準備を進めていた経緯があり,経営相談においてZ1の了承を得て,同年7月に開催される取締役会に公募増資の議案を提出することとなっていた(以下,この公募増資を「前件公募増資」という。)。 Z1は,同年6月22日に開催された取締役会において,前件公募増資について事前に意見を求めたところ,一部の取締役から,同月の株主総会の終了直後であり,この時期の公募増資は既存株主に対する配慮を欠くものであるとの意見や,業績についての情報開示が不十分で,業績の上向きが株価に反映されていないことに鑑みて時期尚早であるとの意見が出たため,Z1はこれを受けて,前件公募増資の実施を見送ることとした。 その後,同年8月に実施された第1四半期(平成25年4月から6月ま- 9 -で)の決算短信等の公表を経て,ノジマ るとの意見が出たため,Z1はこれを受けて,前件公募増資の実施を見送ることとした。 その後,同年8月に実施された第1四半期(平成25年4月から6月ま- 9 -で)の決算短信等の公表を経て,ノジマ社の株価が上昇した。 (以上,甲7,乙17,18,証人Z3)イ Z2及びZ3は,平成25年8月,大和証券から本件公募増資に係る提案を受け,同年9月2日の経営相談において,Z1に上記提案に係る本件公募増資についての説明をした。その説明に用いられた大和証券作成の本件公募増資の案には,新株発行及び自己株式処分並びにオーバーアロットメントによる株式売出しの形態で,大和証券を主幹事として,引受方式をスプレッド方式による総額買受方式とし,総額30億円程度を調達することや,第2四半期(平成25年7月から9月まで)決算発表後の同年11月下旬から同年12月頃までの間に実施日(取締役会決議日)を設けることを前提とした詳細な日程案等が記載されていた。 Z1は,上記の説明を受け,同日,Z2及びZ3に対し,上記の提案に係る本件公募増資の実施について,本件指示をした。 (以上,前提事実(2),乙17,18,証人Z3)ウ Z1は,本件指示をする際,前件公募増資に反対した取締役に対して前件公募増資において指摘があった問題点が解決済みであること等を説明するようZ2及びZ3に指示した。 これを受けたZ2及びZ3は,当該取締役に対して上記の旨の説明をし,同年10月頃,「最後は経営者の判断なので,決行したいのなら仕方がない」との回答を得た。 (以上,前提事実(3),甲7,乙18,証人Z3)エ Z2は,本件公募増資に係る有価証券届出書にノジマ社が東京証券取引所市場第2部上場申請を予定していることを記載する必要があるか否かについて,本件顧問契約に基づいて法律相談を行うよ ,証人Z3)エ Z2は,本件公募増資に係る有価証券届出書にノジマ社が東京証券取引所市場第2部上場申請を予定していることを記載する必要があるか否かについて,本件顧問契約に基づいて法律相談を行うようZ3に指示し,これを受けたZ3は,平成25年10月11日,アルファパートナーズ法律事務所に本件メール資料を送信し,第1審原告は,同日,その内容を確認- 10 -した。 (以上,前提事実(4),甲7)オノジマ社の社内においては,平成25年9月2日の本件指示以降,本件公募増資に係る情報は,法166条1項が規定する,それを知って売買等をすることが禁止される「重要事実」に該当するとの認識の下で,Z1,Z2及びZ3とその部下の間でのみそれが共有されるよう情報管理がされており,ノジマ社の取締役会細則上は最高経営会議の付議事項であったものの,事案の重大性や上記の情報管理の観点等から,本件公募増資は取締役会に付議することとされていた。 (以上,甲7,乙18,証人Z3)カ本件公募増資は,平成25年11月5日のノジマ社の取締役会でその準備の状況が報告されたところ,取締役から特段の反対意見は出されず,同月19日に開催された臨時取締役会においてその実施が反対意見なく決議され,同年12月4日から同月18日までの間に払込期日を設けて実施された。 (以上,前提事実(6),乙18,証人Z3)。 キノジマ社においては,過去に,Z1の了承を得て取締役会に提出された議案が取締役の反対により否決されることもあった。 (以上,甲10,乙18,証人Z3) 2 争点(1)(Z1がノジマ社の「業務執行を決定する機関」として本件公募増資を「行うことについての決定をした」といえるか)について(1) 法166条1項は,上場会社等と特別の関係にある者が,投資者の投資判 1)(Z1がノジマ社の「業務執行を決定する機関」として本件公募増資を「行うことについての決定をした」といえるか)について(1) 法166条1項は,上場会社等と特別の関係にある者が,投資者の投資判断に影響を及ぼし得る重要な事実を知って,その公表前に当該上場会社等の発行する有価証券の売買をすることは,公表前に当該重要事実を知ることができない多くの機関投資家や一般投資家との関係において,証券取引市場における公平性・公正性を著しく害し,投資家一般の利益と証券取引市場に対- 11 -する信頼を著しく損なうものであることから,このような不当な行為を防止することによって,投資家一般が不利益を受けることのないようにし,証券取引市場の公平性・公正性を維持するとともに,これに対する投資家一般の信頼を確保することを目的として設けられたものであると解される。 そうすると,法166条1項の「業務等に関する重要事実」は,その事実が投資家一般の投資判断に及ぼす影響力の観点から解釈すべきである。そして,同条2項1号の「業務執行を決定する機関の決定」とは,会社法に基づく決定権限を有する機関の決定に限られない。また,会社法に基づく決定権限を有する機関が下した決定の中でも,会社法に基づく正式な決定に限られず,それ以前の準備段階で下した決定も同条2項1号の「決定」に該当し得る。要するに,会社法に基づく正式な決定でなくても,それを知った標準的な投資家が当該重要事実が実現する可能性が非常に高い(当該重要事実の実現可能性が高いので,公表後の株価の変動を見越して公表前に当該銘柄の株式の売買をすることにより,利益の増加又は損失の減少を高い確率で実現したいという誘惑に駆られる)と判断するようなものを「業務執行を決定する機関の決定」というのである。そして,標準的な投資家が重要事 式の売買をすることにより,利益の増加又は損失の減少を高い確率で実現したいという誘惑に駆られる)と判断するようなものを「業務執行を決定する機関の決定」というのである。そして,標準的な投資家が重要事実の実現の可能性が非常に高いと判断するような決定がされても,まれには重要事実の実現に至らないこともあるが,そのような場合には「業務執行を決定する機関の決定」に該当しないと解すべき文理上の根拠はないから,「業務執行を決定する機関の決定」に当たると解すべきである。すなわち,同号イに掲げる株式会社が発行する株式等を引き受ける者の募集(公募増資)を「行うことについての決定をした」とは,上記のような機関において,株式の発行それ自体や株式発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいい,上記機関において株式発行の実現を意図して行ったことを要するが,当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないと解するのが相当である(最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決・刑- 12 -集53巻5号415頁参照)。 (2) これを本件についてみると,前記認定事実のとおり,Z1は,ノジマ社の取締役兼代表執行役であり,代表執行役は,同社の執行役職務分掌規程において,同社の業務執行の最高責任者として取締役会から委任された範囲内で必要な権限を有し,かつすべての部署の責任を負うものとされている。またノジマ社においては,会社法416条4項の規定により業務執行の決定が広汎に取締役会から執行役に委任されており,公募増資もその中に含まれていた。さらに,執行役や従業員による実際の業務執行においても,ノジマ社の経営に関する重要案件については,週に1回行われる経営相談の機会に担当者が個別に代表執行役であるZ1に報告をし,その了承を得て進めることになって 役や従業員による実際の業務執行においても,ノジマ社の経営に関する重要案件については,週に1回行われる経営相談の機会に担当者が個別に代表執行役であるZ1に報告をし,その了承を得て進めることになっており,Z1の了解を得られなければそのまま進めることはできない体制になっていた。これらの事情を総合すると,Z1は,本件公募増資の実施を決定する会社法上の権限を有する機関であったと認められる。 前記認定事実によれば,Z1は,本件公募増資については,事前に取締役会に報告し,一人の取締役の反対もないことを確認してから本件公募増資の実行について会社の機関たる代表執行役としての正式な決定をするつもりで,平成25年11月5日の取締役会に報告し,同月19日の取締役会の全員一致の決議を得たものである。そうすると,代表執行役としての会社法上の決定をしたのは,同月19日であるが,法166条2項1号イの規定による株式の募集を行うことについての業務執行を決定する機関の決定をしたのは,後記(4)及び(5)の事情を考えると,同年9月2日と判断して差し支えない。 (3) 第1審原告は,法166条2項1号の「業務執行を決定する機関」につき,前記最高裁判決の解釈を前提としつつ,①平成25年6月22日の取締役会において,Z1が提案した前件公募増資の議題が取締役の反対により取り下げられたこと,②この他にも,Z1が提案した議題が社外取締役の意見によっ- 13 -て撤回されたり変更されたりしたことが度々あったことから,Z1は実質的にノジマ社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことができる機関であったとはいえないと主張する。 しかしながら,前記認定事実に証拠(甲7,乙18,証人Z3)を総合すると,ノジマ社における公募増資の実行についての会社法に基づく決定権限を有していたの できる機関であったとはいえないと主張する。 しかしながら,前記認定事実に証拠(甲7,乙18,証人Z3)を総合すると,ノジマ社における公募増資の実行についての会社法に基づく決定権限を有していたのは代表執行役であるZ1であり,代表執行役の諮問機関的な位置付けで取締役会(執行役の職務の執行を監督する。会社法416条1項2号)の意見を聞いたにとどまるとみられること,前件公募増資の実施を中止したのは,代表執行役であるZ1自身の判断によるものであることが認められる。また,ノジマ社において,Z1の業務執行の方針が他の取締役の意見によって撤回されたり変更されたりしたことがあったとしても,前記認定にかかるZ1のノジマ社における地位や権限等に照らすと,そのことによって直ちにZ1がノジマ社の代表執行役に与えられた権限を有していないことにはならない。したがって,第1 審原告主張にかかる上記①及び②の事情をもって,Z1がノジマ社の「業務執行を決定する機関」であるとの上記判断を左右するものではない。 なお,本件公募増資は,取締役会が執行役に権限を委任するに当たり,最高経営会議への付議が必要とされたにもかかわらず,最高経営会議への付議が省略されている。しかしながら,取締役会の全員一致の承認があることから,最高経営会議への付議の省略は,手続上の瑕疵とはいえない。 多くの上場企業が自社の役員,社員その他の関係者からインサイダー取引規制違反者(いわゆる「うっかりインサイダー」を含む。)を出さないために,インサイダー情報となり得る情報について,情報に接する者を少人数に限定したり,情報管理,機密保持を厳重にするなどの対策を講じていることは,今や公知の事実である。ノジマ社も同様であり,参加者数が多数で,かつ社内の各部署にわたる最高経営会議に付議することを避けて,少人数 したり,情報管理,機密保持を厳重にするなどの対策を講じていることは,今や公知の事実である。ノジマ社も同様であり,参加者数が多数で,かつ社内の各部署にわたる最高経営会議に付議することを避けて,少人数での- 14 -作業を続けたものと推認される。ノジマ社本体がこのような対策を励行していたにもかかわらず,会社関係者である顧問弁護士からインサイダー取引規制違反者が出たことはまことに残念なことである。顧問弁護士などの会社関係者についても,自社株(弁護士にとっては顧問先である上場企業の発行する株式)の売買に当たりインサイダー取引規制に違反しないかの確認を励行することが望まれる。 (4) 前記事実関係によれば,大和証券の提案に係る本件公募増資の案は,公募増資の形態や引受方式,調達金額や実施時期,実施までのスケジュール案等を具体的に示したものであり,Z1は,このような具体的な提案に基づいて,その実施に係る本件指示をしたものである。また,本件指示後のノジマ社における本件公募増資の準備状況をみても,平成25年9月2日の本件指示以降,本件公募増資に係る情報が法166条1項に規定する「重要事実」に該当するとの認識の下で,情報の管理が厳重に行われていたことが認められる。 以上のような事実関係の下では,本件公募増資の実施に係る本件指示は,ノジマ社の業務執行を決定する機関であるZ1において,本件公募増資の実現を意図して,本件公募増資及びそれに向けた作業等をノジマ社の業務として行う旨の決定をし,それを外部的に表示したものということができる。 (5) なお,第1審原告は,Z1による本件指示後に,前件公募増資に反対した取締役2名に対する個別の事前説明(根回し)が行われていることからすると,本件指示によっては,未だ本件公募増資についてのノジマ社の意思決定が 審原告は,Z1による本件指示後に,前件公募増資に反対した取締役2名に対する個別の事前説明(根回し)が行われていることからすると,本件指示によっては,未だ本件公募増資についてのノジマ社の意思決定がされたとは認められないと主張している。しかし,前記のとおり,Z1は,代表執行役として,本件公募増資の実行を決定する権限を有していたものである。また,Z1は,公募増資については,執行役の職務の執行を監督する取締役の意見も尊重しながら業務執行をしていたものではあるが,取締役の中から出た前件公募増資に対する消極意見の背景事情が解消された状況の下- 15 -で平成25年9月2日の本件指示をしていたことからすると,第1審原告の前記主張は採用し難い。すなわち,前記認定のとおり,本件公募増資の実行時期は,毎年6月に開催される株主総会の終了直後の時期ではない。また,前記認定のとおり,業績の情報開示の不十分さについては,平成25年8月に第1四半期(平成25年4月から6月まで)の決算短信が開示された。さらに,前記認定のとおり,業績の上向きが株価に反映されていない点については,平成25年8月の決算短信の公表後に株価が上昇した。このように前件公募増資に対する一部の取締役の消極意見の基礎となった事情が解消されていたことを考慮すると,第1審原告の主張を採用するには無理があるというほかない。 (6) したがって,本件指示に係るZ1の決定は,法166条2項1号にいう「業務執行を決定する機関」が同号イに掲げる公募増資(本件公募増資)を「行うことについての決定をした」ことに該当するというべきである。 3 争点(2)(第1審原告が本件公募増資の決定を「知った」といえるか)について前記2(1)のような法166条1項の目的に鑑みれば,同項にいう「知った」の意義についても, るというべきである。 3 争点(2)(第1審原告が本件公募増資の決定を「知った」といえるか)について前記2(1)のような法166条1項の目的に鑑みれば,同項にいう「知った」の意義についても,その認識の内容が投資者の投資判断に影響を及ぼし得る性質のものであるか否かという観点から考察するのが相当であり,このような見地からすれば,同条2項1号の機関による決定を「知った」といえるためには,当該決定がされたことについての少なくとも未必的な認識があれば足り,当該決定に係る事項が確実に実行されることが予測されるとの認識や,当該決定が同号の構成要件に当てはまるとの認識までは要しないと解するのが相当である。 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,第1審原告は,平成25年10月11日,ノジマ社のZ2からアルファパートナーズ法律事務所に送信された本件メール資料の内容を確認しているところ,本件メール資料には,- 16 -ノジマ社が本件公募増資の実施を予定しており,同年11月19日に取締役会決議及び有価証券届出書の提出が行われ,払込期日を同年12月4日とする等の本件公募増資に係るスケジュール案が記載されていたことが認められる。このような本件メール資料の記載を見れば,ノジマ社が会社の業務として本件公募増資の実施に向けた作業を進めていることは一見して明らかであり,またZ3からアルファパートナーズ法律事務所に対する相談の内容も,本件公募増資の実施を前提とする具体的かつ専門的事項に関するものであるから,本件メール資料及びZ3からの相談内容を確認した第1審原告は,ノジマ社の業務執行を実質的に決定することのできるいずれかの機関において本件公募増資を行うことを実質的に決定したことを少なくとも未必的には認識したものと認められる。 そうすると,仮に第1 原告は,ノジマ社の業務執行を実質的に決定することのできるいずれかの機関において本件公募増資を行うことを実質的に決定したことを少なくとも未必的には認識したものと認められる。 そうすると,仮に第1審原告において,本件公募増資が確実に実行されることが予測されるとの認識や,当該決定が法166条2項1号の構成要件に当てはまるとの認識を有していなかった(第1審原告の主張は,この趣旨をいうものと解される。)としても,第1審原告は,平成25年10月11日に本件メール資料の内容を確認したことによって,本件公募増資に関する前記2の決定を「知った」ものというべきである。 4 本件処分の適法性について以上によれば,本件売付行為は,ノジマ社の本件公募増資に係る業務等に関する重要事実を本件顧問契約の履行に関し知った第1審原告が,その重要事実の公表がされる前にノジマ社の発行に係る株式を売り付けた行為として,法166条1項4号,同条2項1号イが定める禁止行為の要件及び法175条1項1号が定める課徴金賦課の要件に該当するから,本件処分は適法である。 5 本件は,上場企業の顧問弁護士が顧問契約の履行に当たりインサイダー情報を知ったのに,公表前に当該企業の発行する株式を売り付けた事案である。 インサイダー取引に行政処分たる課徴金制度が導入されて10年以上が経- 17 -過し,刑事処分対象者のみならず課徴金処分の対象者も含めれば,摘発件数が課徴金制度導入前と比べて著増した。摘発者が出れば企業イメージに与える打撃も大きくなるため,課徴金制度導入後には,証券取引所等の指導により,多くの上場企業で,インサイダー取引(いわゆる「うっかりインサイダー」を含む。)を未然に予防するため様々な対策をとってきた。本件の認定事実によれば,ノジマ社も相応の対策をとってきたものと推認 より,多くの上場企業で,インサイダー取引(いわゆる「うっかりインサイダー」を含む。)を未然に予防するため様々な対策をとってきた。本件の認定事実によれば,ノジマ社も相応の対策をとってきたものと推認することができる。この反面において,上場企業に対して法的アドバイスを行う立場の顧問弁護士がインサイダー取引をしてしまったのでは,弁護士の職業的価値が疑われる事態となり,誠に残念なことである。弁護士事務所においても,各上場企業におけるのと同様のインサイダー取引の予防策が立案,実行されることが望まれるところである。 第4 結論以上によれば,第1 審原告の本件請求は理由がないからこれを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第11民事部 裁判長裁判官野山宏 裁判官吉田彩 裁判官長田雅之

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