平成13(ネ)24 土地所有権確認請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年8月27日 広島高等裁判所
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判決文本文7,052 文字)

主文 1 本件各控訴を棄却する。 2 控訴人の当審における各予備的請求を棄却する。 3 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2(主位的請求)原判決別紙物件目録(ただし,番号五,九,一三,一四,一六ないし二三,二七ないし三〇の各物件につき記載された「(持分四分の一)」をいずれも削除する。)記載の各不動産がいずれも控訴人の所有であることを確認する。 (予備的請求(当審における新たな請求))(1) 同目録記載一ないし四,六ないし八,一〇ないし一二,一五,二四及び二五の各土地について,控訴人が各2分の1の共有持分を有することを確認する。 (2) 同目録記載五,九,一三,一四,一六ないし二三,二六ないし三〇の各不動産について,控訴人が各8分の1の共有持分を有することを確認する。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要次のとおり補正するほかは,原判決の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決3頁1行目の「証拠」の次に「及び弁論の全趣旨」を,同末行の次に改行して次のとおりそれぞれ加える。 「控訴人は,Aの長男Bの長男である(乙7)。Aは昭和41年10月10日,Bは昭和36年4月11日それぞれ死亡した。」 2 同6頁1行目の「C」の次に「(以下,これら3名を「Dら3名」という。)」を加える。 3 同7頁2行目の次に改行して次のとおり加える。 「5 前記4(一)の登記はEのDら3名に対する贈与,同(二)の登記は,広島法務局公証人F作成平成6年第503号遺言公正証書(以下「本件公正証書」という。)に係るEの遺言(E 次のとおり加える。 「5 前記4(一)の登記はEのDら3名に対する贈与,同(二)の登記は,広島法務局公証人F作成平成6年第503号遺言公正証書(以下「本件公正証書」という。)に係るEの遺言(E所有の本件土地一一,一二及び広島県安芸郡a町b10681番7雑種地436平方メートル(以下,これら3筆の土地を「本件遺言土地3筆」という。)をDに相続させる旨のもの。以下「本件遺言」という。)に基づくものであるところ,被控訴人らは,前記贈与及び本件遺言の効力を争い,Dら3名を被告として,本件遺言の無効確認,本件遺言土地3筆,本件土地二四及び二五につき所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起し(広島地方裁判所平成8年(ワ)第918号),これに対し,Dら3名は,本件遺言土地3筆がDの所有であり,本件土地二四及び二五がDら3名の共有であることの確認を求める訴訟を反訴として提起した(同裁判所平成9年(ワ)第437号)。平成10年5月29日,前記贈与及び本件遺言が無効であるとして,本訴請求を認容し,反訴請求を棄却するとの判決が言い渡され,Dら3名が控訴した(当庁平成10年(ネ)第294号)が,平成11年9月29日,前記贈与及び本件遺言が無効であるとして,本件遺言の無効を確認し,本件遺言土地3筆につき,前記4(二)の所有権移転登記を被控訴人らの持分各10分の1,Dの持分5分の4とする所有権移転登記に更正登記手続をすること,本件土地二四及び二五につき,前記4(一)の所有権移転登記の抹消登記手続をすることを命じ,反訴請求を棄却するとの判決が言い渡され,確定した(乙1,2。以下,この訴訟を「別件訴訟」という。)。」 4 同7頁4行目の「A」を「1 A」と,同5行目の「1」を「(一)」と,同8頁3行目の「2」を「(二)」とそれぞれ改め,同末行の次に改行して (乙1,2。以下,この訴訟を「別件訴訟」という。)。」 4 同7頁4行目の「A」を「1 A」と,同5行目の「1」を「(一)」と,同8頁3行目の「2」を「(二)」とそれぞれ改め,同末行の次に改行して次のとおり加える。 「2 控訴人は民法891条5号所定の相続欠格者であるか否か。 (一) 控訴人の主張ア仮に,EがAから本件各不動産の贈与を受けたとしても,控訴人は,Eの夫であるから,Eの死亡により,E所有の本件土地一ないし四,六ないし八,一〇ないし一二,一五,二四及び二五につき各2分の1の共有持分を相続により取得し,また,Eが各4分の1の持分を有する本件土地五,九,一三,一四,一六ないし二三,本件建物及び本件土地二七ないし三〇について,各8分の1の共有持分を相続により取得した。 イ別件訴訟においては,Eの認識判断能力が認められなかったにすぎず,控訴人は,民法891条5号所定の相続欠格者には当たらない。 (二) 被控訴人の主張Eは,平成6年ころには意思能力を失い,意思表示が全くできない状態であったにもかかわらず,控訴人は,同年11月22日,自ら発議して本件公正証書を作成させた。このように,被相続人が意思表表示できないような状態にあることを利用して,相続人が発議し公正証書遺言をさせる場合も,民法891条5号に規定する遺言書の偽造に当たると解されるから,控訴人は同号所定の相続欠格者に該当する。」第3 当裁判所の判断 1 次のとおり補正するほかは,原判決の「第三争点に対する当裁判所の判断」の一に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決9頁2行目から10頁末行までを次のとおり改める。 「一争点1(Aの控訴人に対する本件各不動産の贈与)について 1 前記前提と 載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決9頁2行目から10頁末行までを次のとおり改める。 「一争点1(Aの控訴人に対する本件各不動産の贈与)について 1 前記前提となる事実,証拠(甲1,2,45,48,56,乙1ないし5,15,17の1,当審証人G,原審における控訴人及び被控訴人H各本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,前掲証拠中これに反する部分は採用しない。 (一) 控訴人は,昭和26年ころから,I商店の名称で,牡蠣養殖の資材販売業等を営んでいたが,資材メーカ宛に振り出していた手形について紛争が生じ,昭和39年7月ころ不渡が発生し,そのころから昭和44年春ころにかけて,多額の手形訴訟が提起された。そこで,控訴人は,そのころ,財産保全のため,自宅の家財について,Eの兄弟であるJに対する借金の返済ができないということにして差押えをさせ(なお,借入れについては公正証書を作成した。),また,昭和39年10月15日,自ら購入し所有していた4筆の土地のうち,1筆を弟のGに,3筆を同じく弟のKに売却したことにして,それぞれ所有権移転登記をした。その後,信幸に所有権移転登記をした土地については昭和46年11月24日に,Gに所有権移転登記をした土地については昭和61年7月26日にいずれも錯誤を原因として,それぞれ控訴人に所有権移転登記をして登記名義を回復した。 ところが,昭和36年7月から昭和41年9月にかけて,AからE,被控訴人ら及びDに順次所有権移転登記がされた本件各不動産については,前記手形訴訟が控訴人の勝訴で確定し,手形金の請求を受けるおそれがなくなった後も,控訴人は,そのまま放置し,本件各不動産の登記名義を自己に移転するための行動は何ら取っておらず,かえって,控訴人は,常々自分には全く 訴人の勝訴で確定し,手形金の請求を受けるおそれがなくなった後も,控訴人は,そのまま放置し,本件各不動産の登記名義を自己に移転するための行動は何ら取っておらず,かえって,控訴人は,常々自分には全く財産がない旨公言していた。 (二) Aの長男Bは,昭和32年ころ,実家を出て以来Aと別居しており,昭和36年4月に死亡した。Aは,被控訴人らやEに対し,控訴人に財産を渡すとなくしてしまうから家族全員で財産を守るよう常々言っていた。 (三) Eは,控訴人と結婚後,育児や家事に携わっていただけでなく,I商店の仕事にも従事するほか,本件各不動産のうちの農地をAと共に耕作していた。I商店は,控訴人が中心となり,Eや被控訴人Hらの協力を得てその経営に当たっていた。 2 ところで,控訴人は,Aが昭和36年7月ころ控訴人に対し,本件各不動産を贈与した旨主張し,原審における本人尋問及び甲1,45(控訴人の陳述書)においてこれに沿う供述をする。また,控訴人は,Aの直系の孫であって,いわゆる本家の跡取りであることからすると,Aが控訴人を差し置いて,控訴人の妻や子に本件各不動産を贈与したというのは一見不自然であるとの感がしないでもない。 しかし,前記1の認定によれば,Aは,Bの死亡に伴い花房家の財産の相続問題について思案し,控訴人の経済状況や控訴人が手形訴訟を抱えていることにかんがみ,控訴人に本件各不動産を相続させると花房家の財産が散逸するおそれがあるとの危機感を抱いていたことがうかがわれる。そして,Eは,農業やI商店の仕事など家業を手伝い,花房家の財産形成及び維持に貢献していたのであって,このような状況の下で,Aが控訴人に本件各不動産を相続させることに危機感を抱き,家産の散逸を防止するため,財産をあえて控訴人に贈与せず 家業を手伝い,花房家の財産形成及び維持に貢献していたのであって,このような状況の下で,Aが控訴人に本件各不動産を相続させることに危機感を抱き,家産の散逸を防止するため,財産をあえて控訴人に贈与せず,Eやその子らに贈与したとしてもあながち不自然であるとはいえない。 さらに,控訴人は,前記1(一)のとおり,自ら購入した土地については,手形訴訟が提起された当時,財産保全のためG及び信幸に仮装の所有権移転登記をしたが,手形訴訟が決着した後,登記名義を回復しているのに対し,本件各不動産については,一切そのような手続をしていないばかりか,自分には財産がない旨常々口にし,後記二1(二)のとおり,本件土地一一及び一二等について,Eの所有を前提とする遺言公正証書を作成している。また,別件訴訟において,Dら3名申請の証人として,E名義であった本件土地一一,一二,二四及び二五等について同人の所有であることを当然の前提として証言し,これら不動産が自己の所有であるとは証言していない。このように,控訴人には,本件各不動産の所有者としての地位と矛盾する言動が見られる。 以上を総合すると,控訴人の供述を直ちに信用することはできず,他にAが控訴人に本件各不動産を贈与したことを認めるに足りる的確な証拠はない。」(2) 同12頁3行目の次に改行して次のとおり加える。 「二争点2(控訴人の相続欠格)について 1 証拠(甲1,2,乙9,18,19の1ないし5)によれば,次の事実が認められ,前掲証拠中これに反する部分は採用しない。 (一) Eは,昭和57年6月ころから,老人性痴呆の症状を呈するようになり,昭和58年10月から広島大学医学部附属病院精神科神経科(以下「広大病院」という。)で治療を受けるようになったが,当時見 (一) Eは,昭和57年6月ころから,老人性痴呆の症状を呈するようになり,昭和58年10月から広島大学医学部附属病院精神科神経科(以下「広大病院」という。)で治療を受けるようになったが,当時見当識障害があった。その後,Eは,平成元年9月広大病院に入院したが,自発言語はなく,歩行不能の状態であった。広大病院で行われたCT検査では,前頭葉から側頭葉に程度の強い萎縮が見られるが血管性疾患は認められず,脳波検査では,神経細胞の電気的活動が低下している状態であった。長谷川式知能検査は,Eが氏名及び生年月日すら回答できず,施行不能であった。Eは,平成2年1月,広大病院を退院したが,当時の診断は,高度のアルツハイマー病,パーキンソン氏病であり,Eの状況は,痴呆症状が著明で日常生活においては全介助を要し,会話不能,自発的な行動は全くないというものであった(なお,会話不能という状況は,パーキンソン氏病から生じるものとは考え難く,アルツハイマー病から生じたものである。)。Eは,平成5年12月にも広大病院で受診しているが,同様の状況であった。 (二) E所有の本件遺言土地3筆の上には,I商店の工場及び事務所が建てられていたところ,控訴人は,昭和52年ころから被控訴人Hと不仲となったことから,Eの死後,同土地をDに取得させ,工場敷地を確保しようと考え,本件公正証書を作成することとした。そこで,控訴人は,本件公正証書の作成に先立って,公証人役場に赴き,公証人F(以下「F公証人」という。)に対し本件遺言内容を伝えて公正証書の作成を嘱託した。 当時,Eは寝たきりで,Eから控訴人に話しかけることはなく,控訴人の話しかけに対し,うなずいたり,時には嫌悪の情を表しているかのような表情を見せることがある程度であった。 (三) F公 当時,Eは寝たきりで,Eから控訴人に話しかけることはなく,控訴人の話しかけに対し,うなずいたり,時には嫌悪の情を表しているかのような表情を見せることがある程度であった。 (三) F公証人は,平成6年11月22日,控訴人方でEに対し控訴人から聞いていた遺言内容を口述したところ,同人から自発的な発言は全くなかったが,うなずいたように思い,本件公正証書を作成したが,その際,Eは,署名押印することはもとよりできず,署名は,F公証人が代筆し,押印は,F公証人に同行していた書記がEに印鑑を持たせ,介添えして行った。 2 前記1の認定事実によれば,本件公正証書作成当時,Eは,自己の財産状態及びその処分についての認識判断能力を全く備えていなかったことが明らかである。夫婦の間では意思が通じたとの控訴人の供述(甲2)があるが,控訴人は,Eが具体的にどのような事柄についてどのような意思表示をしたのかについてあいまいな供述に終始しているのであって,Eがうなずいたり,嫌悪の情を示したとしても,せいぜい感覚的な快不快の表現が可能であったというにとどまり,一般的な行為の内容を理解し意思表示をすることは全く不可能であって,Eと長年起居を共にしていた夫の控訴人は,その事実を熟知していたものと認められる。 ところで,被控訴人は,控訴人の本件公正証書の作成が民法891条5号所定の遺言書の偽造に当たると主張するところ,同条は,相続人の非行に対する制裁の制度であり,相続法上不当の利益を得ることを目的として,同条所定の行為を行い,相続法秩序を侵害した者から相続権を剥奪する趣旨の規定であると解される。そうだとすると,被相続人が事理弁識能力を欠き意思表示できない状態にあることを利用して,相続人が発議し,遺言公正証書を作成させたような場合も,民法8 から相続権を剥奪する趣旨の規定であると解される。そうだとすると,被相続人が事理弁識能力を欠き意思表示できない状態にあることを利用して,相続人が発議し,遺言公正証書を作成させたような場合も,民法891条5号所定の遺言書の偽造に当たると解される場合があるというべきである。しかしながら,同号所定の相続欠格者に該当する場合には,当然に相続権が剥奪されるという重大な結果が生じるものであること及び前記のような同条の規定の趣旨にかんがみ,同号所定の行為をした場合において,相続人の同行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは,相続権剥奪の制裁を課するに値しないものとして,同相続人は,同号所定の相続欠格者に該当しないものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,前記認定の事実によれば,控訴人は,Eの遺言書自体を直接偽造したものではないが,本件公正証書作成当時のEの精神状態は,最高度に障害され,その結果,事理弁識能力を完全に欠如し意思表示をなし得ない状態であったところ,控訴人は,このような事情を十分認識しつつ,これを利用して,Eの共同相続人の一人であるDに本件遺言土地3筆を取得させることを企図して,本件公正証書の作成を嘱託したものであって,民法891条5号所定の遺言書の偽造に該当すると認めるのが相当である。このような控訴人の行為は,遺言者の意思を無視し,相続に関して不当な利益を目的とするものであって,相続権剥奪の制裁を課されてもやむを得ない場合に該当し,控訴人は,同号所定の相続欠格者に該当するものというべきである。 したがって,控訴人がE死亡による相続によって,本件各不動産の持分を取得したものと認めることはできない。」 2 以上の次第で,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,これ(控訴人の当審にお したがって,控訴人がE死亡による相続によって,本件各不動産の持分を取得したものと認めることはできない。」 2 以上の次第で,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,これ(控訴人の当審における新請求を除く。)を棄却した原判決は相当であり,本件控訴及び控訴人の当審における新請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法67条1項,61条を適用して主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部裁判長裁判官高升五十雄裁判官松井千鶴子裁判官工藤涼二

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