- 1 -平成24年3月29日判決言渡平成23年(ワ)第1428号地位確認等請求事件平成23年(ワ)第14700号地位確認等請求事件 主文 1 被告は,原告Aに対し,40万4582円及びこれに対する平成23年1月26日から支払ずみまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,21万1307円及びこれに対する平成23年1月26日から支払ずみまで年6分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は原告らの負担とする。 5 この判決は第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は,別紙賃金額一覧表記載の原告らに対し,同一覧表の各原告に対応する「2010年12月分賃金未払額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年1月26日から支払ずみまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。 3 被告は,別紙賃金額一覧表記載の原告らに対し,平成23年2月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り,同一覧表の各原告に対応する「請求賃金額」欄記載の金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨- 2 -本件は,被告が従業員である原告らを整理解雇したところ,原告らが,当該整理解雇は無効であると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇の意思表示後の賃金等の支払を求めている事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実。該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の ると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇の意思表示後の賃金等の支払を求めている事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実。該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認定可能な事実)(1) 当事者ア株式会社日本航空インターナショナル(以下「JALI」という。)は,その子会社・関連会社とともに,国際旅客事業,国内旅客事業等の航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループ(以下「Cグループ」という。)を形成し,その事業中核会社として,定期航空運送事業等を営む株式会社であった。 JALIは,平成22年1月19日,当時の株式会社D(以下「D」という。)及び株式会社E(以下「E」という。)と,当庁(以下「更生裁判所」という。)に対し会社更生手続開始の申立て(同庁平成○年(ミ)第○号~第○号)をした。同日,会社更生手続開始決定がなされ,F及び株式会社G(以下「機構」という。)が管財人に選任され,管財人はそれぞれ単独で職務を行うことができる旨が定められた。 更生裁判所は,同年11月30日,同年8月31日に管財人から提出され,債権者らの投票により可決されたJALI,D及びEについての更生計画を認可する旨の決定をした。JALI,D及びEは,同年12月1日,更生計画の定めに基づき,JALIを存続会社,D及びEを消滅会社とする吸収合併を行った。(甲39)更生裁判所は,平成23年3月28日,JALIについて更生手続を終結する旨の決定をした。被告は,同年4月1日,JALIが商号変更したものである(以下,被告のことを,必要に応じて「JALI」又は「管財人F」ということがある。)。 - 3 -イ原告らは,いずれもJALIと労働契約を締結し,JALIで運航乗務員である たものである(以下,被告のことを,必要に応じて「JALI」又は「管財人F」ということがある。)。 - 3 -イ原告らは,いずれもJALIと労働契約を締結し,JALIで運航乗務員である機長,副操縦士として勤務していた者である。 (2) 労働契約の成立原告らとJALIは,別紙原告一覧表の「入社年月日」欄記載の入社日ころ,期間の定めなく,別紙原告一覧表の「職種」欄記載の職種で,航空機の運航乗務員として,別紙賃金額一覧表記載の賃金額(定額部分である基準内賃金については,各月末日締めで当月25日支払,乗務手当等の基準外賃金については,各月末日締めで翌月25日支払。なお,原告番号30A及び同52Bについては後述する。)で,労働契約を締結した。 機長は,航空機の運航の実施にかかわる判断及び運航全般を通じての指揮・監督の責任を有するパイロット,副操縦士は,航空機の運航の全般にわたり機長を補佐し,機長に不測の事態が生じた場合,直ちにその職務を継承するパイロットである。機長及び副操縦士は,いずれも航空法,国土交通大臣が認可した運航規程で規定された資格要件等を要し,身体検査基準を満たすことが必要である。 (3) 解雇の意思表示ア平成22年12月9日,管財人Fは,原告らに対し,解雇予告通知書により,同月31日付けで解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。 イ原告らに交付された解雇理由証明書には,解雇理由として就業規則52条1項4号の「企業整備等のため,やむをえず人員を整理するとき」に該当し,被告では,会社更生手続の下,経営状況の改善のために事業規模の縮小及びそれに伴う余剰人員の削減が不可欠な状況にあり,これまで諸種の人員調整施策を実施したものの,未だ人員の適正化を図る必要があることから, は,会社更生手続の下,経営状況の改善のために事業規模の縮小及びそれに伴う余剰人員の削減が不可欠な状況にあり,これまで諸種の人員調整施策を実施したものの,未だ人員の適正化を図る必要があることから,やむを得ず整理解雇せざるを得ない状況にあるとの記載がある。 また,原告らごとの人選基準(以下別紙人選基準に記載された人選基準を- 4 -「本件人選基準」という。)の該当事由として摘示した事由は,別紙原告一覧表記載の各原告に対応する「人選基準の該当事由」欄のとおりである。 (4) 会社更生手続の経過等ア Cグループは,平成13年以降,米国同時多発テロ,イラク戦争及びSARS(重症急性呼吸器症候群),新型インフルエンザの発生という外部要因による旅客需要の急激な減少と需要減退の長期化に対し,人件費の削減,普通株式の公募増資,優先株式の第三者割当増資等の実施により対応してきたが,平成20年以降,燃油価格の高騰及び燃油サーチャージの高額化による需要の低迷,いわゆるリーマンショックに端を発した金融危機の影響による全世界的な景気後退に直面し,特に利益の源泉であったビジネスの国際旅客及び国際貨物の需要が急減した。(甲18,乙31)イ Cグループでは,平成23年3月期における黒字回復を目指して,平成21年4月に「中期経営改善計画」を策定し,同年6月,H銀行(以下「H」という。),I銀行,J銀行,K銀行及びL銀行(上記金融機関を総称して「主要5行」という。)の協調融資で1000億円を借り入れる等して,当面の資金繰りを確保した。 国土交通省は,平成21年4月,ボラティリティが高い航空業界の特質を踏まえ,上記計画を更に深化させるため日本航空に対し更なる抜本的な経営改善計画の策定を指示し,同年8月20日,「日本航空の経営改善のための 省は,平成21年4月,ボラティリティが高い航空業界の特質を踏まえ,上記計画を更に深化させるため日本航空に対し更なる抜本的な経営改善計画の策定を指示し,同年8月20日,「日本航空の経営改善のための有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を開催した。これを受け,日本航空は,同年9月24日,国土交通大臣に対して,検討中の経営改善計画を説明し,産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(以下「産活法」という。)による出融資の活用を含む支援を求めた。 政権交代により新たに就任した前原誠司国土交通大臣は,有識者会議を解散し,同月25日,私的な諮問機関として「Mタスクフォース」(以下「タスクフォース」という。)を立ち上げ,日本航空は,その指導・助言- 5 -のもとで新たな事業再生計画を策定することとなった。 タスクフォースは,同年10月29日,国土交通大臣に対し,Cグループが機構による支援を受けて再建することを妥当とする調査結果を報告し,これを受け,日本航空は,機構に対し,Cグループの再生支援の事前相談を開始した。(甲18,乙31)ウ Cグループでは,平成21年11月には,事業運転資金が枯渇する状況に陥り,同月13日には,同年9月期決算について,監査法人より,初めて継続企業の前提に関する注記が記載されるに至った。 そこで,JALIは,D及びEとともに,同年11月13日,事業再生ADR手続(特定認証裁判外紛争手続)の正式申込みを行い,金融機関から債権回収等の一時停止と産活法52条に定めるプレDIPファイナンスの優先性の確認を得ることにより,Hから,つなぎ資金として,同月27日に150億円,同年12月25日に400億円の融資を受けることができた。(甲18,乙31)エ平成21年11月以降 ンスの優先性の確認を得ることにより,Hから,つなぎ資金として,同月27日に150億円,同年12月25日に400億円の融資を受けることができた。(甲18,乙31)エ平成21年11月以降,機構によるデューデリジェンスが進められるとともに,関係者間で日本航空の再生のための手法について議論がされ,平成22年1月上旬には,機構の支援にあたって更生手続を併用することにつき,関係者から大枠の理解が得られる状況になった。(甲18,乙31)オ JALIは,D及びEとともに,平成22年1月19日,主要5行とともに,機構に対して正式に支援を申し込み,同時に更生手続開始申立てをし,同日,更生手続開始決定及び機構による支援決定を受け,機構の支援と会社更生手続を併用する再建手続が開始された。 同日現在,JALI単体では1兆7134億円の債務超過であり,JALI,D及びEの間の債権債務等相殺消去した三社合算で1兆0009億円の債務超過であった。また,同年3月末現在,Cグループでは9592億円の債務超過であった。(甲10,18,乙31)- 6 -カ更生手続開始決定当初の事業再生計画では,①安全性の更なる向上,②機材の小型化,効率性向上,③不採算路線の大胆撤廃及びアライアンス効果の追求,④人員・組織体制の効率化,柔軟性の抜本向上,⑤現場基点の意思決定の早い組織体制の確立等が方向性として掲げられ,人員計画については,平成20年度末現在のCグループ社員約5万1900人を今後3年間で約3万6200人(約1万5700人削減)にするとされた。 被告は,平成22年1月21日,各労働組合に対し,会社更生手続及び事業再生計画に関する説明を行った。(甲10,11)キ被告は,平成22年3月2日,第三者の視点から被告が経営 。 被告は,平成22年1月21日,各労働組合に対し,会社更生手続及び事業再生計画に関する説明を行った。(甲10,11)キ被告は,平成22年3月2日,第三者の視点から被告が経営破綻に至った要因,過去の重大なコンプライアンス上の問題及びその他の経営上の問題を調査するため,弁護士と公認会計士からなるコンプライアンス調査委員会を設置した。同委員会は,被告の破綻要因として,収益面では,国際線,国内線ともに,競合他社の進出を受けて伸び悩んだこと,コスト面では,航空需要の見通しを誤り,機種の削減や機材の小型化が遅れたうえ,地元自治体や労働組合の反発等を配慮するあまり,不採算路線からの撤退や思い切った人件費の削減に踏み込めず,高コスト体質が温存されることとなったこと,財務面では,過去の為替差損やホテル事業・リゾート事業の失敗により従来から財務体質が脆弱であったが,その後もその体質は改善されず,借入金,社債,リース等の負債が多額に上り,平成20年度末時点の自己資本比率は10.0%と低く,極めて脆弱な財務体質のままであったことを指摘し,このような経営上の課題を解決できなかったため,同年半ばまでの燃油高騰による経費の増加とデリバティブ取引の失敗による損失の拡大,リーマンショックによる国際線の大幅な減収により,資金繰りが急速に悪化して破綻に至ったと報告している。(乙3)ク被告は,平成22年6月7日,事業計画について8労組合同説明会を開催し,Cグループ人員数計画として,平成21年度末現在の社員約4万8- 7 -700人を平成22年度末までに約3万2700人(約1万6000人削減)にするという計画を説明した。また,必要人員体制と必要削減人数の試算が示され,Cグループ全体での運航乗務員の職種に関し,休職者を含まない数値として 度末までに約3万2700人(約1万6000人削減)にするという計画を説明した。また,必要人員体制と必要削減人数の試算が示され,Cグループ全体での運航乗務員の職種に関し,休職者を含まない数値として,平成21年度末現在の3818人を平成22年度末までに2974人とする,つまり運航乗務職の削減必要数は844人とされた。そして,上記の試算の内数として「日本地区特早今後実施人数」が672人とされ,これはJALIにおける運航乗務員に関する今後の削減必要数を指すものと考えられた。(甲15,16)ケ管財人F及び機構は,平成22年8月31日,更生裁判所に対し,更生計画案を提出した。 同計画案では,被告の人員体制について,機構に対する支援申込みにあたり策定した事業再生計画案として「航空事業のリストラクチャリングに伴い,人員・組織体制等についてもグループ全体として大幅なダウンサイジングと意思決定の適時・適切化を進める。これにより,運航乗務員,客室乗務員,整備,グランドハンドリング等の直接人員の削減と併せて,本社等の間接人員についても大幅に削減する。」(11頁)ことが盛り込まれていたことが紹介され,事業計画の骨子として,「可能な限り固定費を削減し,機材や乗員体制等を機動的に運用することによって,経営の機動性・柔軟性の向上を実現するとともに,可能な限りスリムな組織構造を構築し,これにより人的生産性を向上させることで収益性を改善させ,更なるコスト競争力を確保していく」(36頁),「事業規模に応じた直接・間接人員数削減を実施し,総人件費を圧縮する。」(40頁)とし,「Cグループの人員削減をより推進し,平成21年度末の48714人から平成22年度末には約32600人とする予定である。」(23頁)とされていた。 その上で,更生債 。」(40頁)とし,「Cグループの人員削減をより推進し,平成21年度末の48714人から平成22年度末には約32600人とする予定である。」(23頁)とされていた。 その上で,更生債権等に関する権利の変更として,一般更生債権の87. - 8 -5%の免除を受け,免除後の金額について平成24年から平成30年まで毎年3月末日限り年1回の均等分割弁済を行うこと(63頁),株主については,いわゆる100%減資を行うこと(79頁)等が定められていた。 さらに,会社更生法167条1項5号所定の予想超過収益金の使途については,「更生計画遂行中に,予想超過収益金が生じた場合には,原則として,更生計画の遂行に必要な費用,会社の運営に必要な運転資金(危機対応に備えた余裕資金を含む。)もしくは裁判所の許可に基づく共益債権等の支払いまたは借入金の返済に充てる。」(74頁)とされていた。 コ Hは,平成22年8月31日付けで,D等の会社更生手続に関し,管財人が同日付けで更生裁判所に提出した更生計画案に賛成する意向を有している旨を管財人宛に通知したことを公表した。(甲322)サ機構は,平成22年8月31日,更生計画案が可決され,更生計画認可決定があることを条件として3500億円の出資決定を行った。 (甲20)シ被告は,平成22年11月22日,同月19日締切の更生計画案に対する債権者投票について96%以上の同意を得て可決された旨発表した。 ス被告は,平成22年11月30日,主要5行との間で,リファイナンスに係る基本合意書を締結した。この基本合意書では,本件リファイナンスの協議の前提として「(3) 本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に,更生計画に記載されている対象事業者における諸施策(人員圧縮等, 本合意書を締結した。この基本合意書では,本件リファイナンスの協議の前提として「(3) 本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に,更生計画に記載されている対象事業者における諸施策(人員圧縮等,実施中のコスト削減策)(中略)の実現に重大な支障が生じていないこと」(7条)とされていた。 セ被告は,11金融機関から合計2549億6000万円の資金調達を行い,平成23年3月28日までに更生債権等約3951億4557万円を繰上一括弁済した。そして,同日,更生裁判所は,更生手続を終結する旨の決定をした。(甲157,弁論の全趣旨)(5) 労働組合に対する説明等- 9 -ア被告は,平成22年9月25日配布の同年10月の勤務割で,後記イの基準に該当する運航乗務員に対し,乗務を一切指示しない白紙のスケジュール(休日以外のすべての労働日にブランクデイ勤務を指示する勤務割り。以下「ブランクスケジュール」という。)を指示し,乗務を一切させない措置を採った。(甲26)イ被告は,平成22年9月27日,各労働組合に対し,第一次希望退職の応募者数は目標を大きく下回っており,同年10月1日からの第二次希望退職によっても目標に達しない場合に備え,整理解雇の検討も行わざるを得ない状況になったとして,同日現在の被告の人選基準案を示した。その内容は,本件人選基準のうち,「病気欠勤・休職等による基準」に該当する場合であっても,同年9月27日現在で乗務復帰している者(内容を問わず乗務制限のある者を除く。)で,平成18年10月1日以降平成20年3月31日までに,連続して1か月を超える病気欠勤期間,休職期間,乗務離脱期間及び乗務制限期間(各期間の合算を含む。)がなかった者については,対象外とする旨の部分を除き,本件人選基準と同内容であった 3月31日までに,連続して1か月を超える病気欠勤期間,休職期間,乗務離脱期間及び乗務制限期間(各期間の合算を含む。)がなかった者については,対象外とする旨の部分を除き,本件人選基準と同内容であった。 (甲25,173,198)ウ被告は,平成22年9月29日~同年12月24日の間に,運航乗務員を組合員とするN組合及びO組合との間で,それぞれ13回の団体交渉を行った。この中で,被告は,事業規模の縮小に見合った人員体制にするために人員削減の必要があること,これを実現しなければ債権者や機構の理解が得られず,更生計画に対する賛否や機構による3500億円の出資に影響が出て,二次破綻の可能性があること,一時帰休やワークシェアは一時的な施策であり,抜本的なコスト削減にならないこと,人選基準案は,将来的な業務の貢献度を基準として作成したもので,それを推し量るものとして一定期間の過去の勤務の実態を基準としたこと等を説明した。(甲174~180,226~236,238)- 10 -エ被告は,平成22年11月15日,各労働組合に対し,整理解雇によって人員規模の適正化を図らざるを得ないとの結論に達したと通知し,同日現在の被告の人選基準案として,本件人選基準を提示した。なお,上記イのとおり,本件人選基準は,同年9月27日に各労働組合に示した人選基準案よりも対象外とされる者が広がっているが,それは,O組合とのやり取りの中で指摘を受けた点を考慮して,対象外としたものであった。(甲36,乙28,証人P)オ N組合は,被告に対し,平成22年11月9日に賃金減額によるワークシェアを,同月15日に平成23年1月1日~同年3月31日の間のワークシェア及び地上職への職種変更を提案したが,被告は,これらの提案を採用できない旨回答した。(甲32, 月9日に賃金減額によるワークシェアを,同月15日に平成23年1月1日~同年3月31日の間のワークシェア及び地上職への職種変更を提案したが,被告は,これらの提案を採用できない旨回答した。(甲32,33)(6) JALIの事業の状況等ア Cグループは,平成22年4月28日までに,平成22年度下期(同年10月~平成23年3月)の路線便数計画(以下「下期計画」という。)を策定した。下期計画では,国際線については,不採算路線の運休・減便により事業規模を4割削減する一方で,羽田発着路線の大幅な拡大等により,必要なグローバルネットワークを維持し,よりビジネス需要に軸足をおいた路線構成への転換を実現させるとして,15路線・週間86往復を運休,5路線・週間35往復を減便,5路線・週間42往復を開設,4路線・週間25往復を増便とした。また,国内線については,需要の低迷が当面継続することを前提に,不採算路線を中心とした運休及び機材のダウンサイジング等により,事業規模を約3割削減し,確実に収益を上げられる路線構成への転換を図るとして,30路線・1日最大58往復(季節運航便のない期間は1日56往復)を運休することとした。(乙5)イ Cグループは,平成22年8月20日までに,下期計画を一部変更した路線便数計画(以下「確定下期計画」という。)を決定した。確定下期計- 11 -画では,下期計画の方向性に基づき,需要規模に応じた路線便数の適正化を行うことで,更なる利便性と収益性の向上を図るとして,下期計画に加えて,国際線については,1路線・週間1往復を減便し,1路線・週間1往復を増便し,国内線については,10路線・1日17往復を減便し,14路線・1日17往復を増便した。(乙11)ウ運航乗務員の人員計画は,月単位で,機種別・職位 往復を減便し,1路線・週間1往復を増便し,国内線については,10路線・1日17往復を減便し,14路線・1日17往復を増便した。(乙11)ウ運航乗務員の人員計画は,月単位で,機種別・職位(機長・副操縦士)別に,事業運営に必要な労働力である「必要稼働数」と,在籍社員全体の実労働力である「有効配置稼働数」とを比較して人員計画を立てるという考え方(「稼働ベース」)を採用している。運航乗務員の特性として,該当機種ごとのライセンス(国家資格)が必要であり,同機種の機長は副操縦士を代替できるが,その逆はできないという特性がある。 JALIは,同年9月末日,このような人員計画の考え方の下に,確定下期計画を前提として,本件人選基準の「病気欠勤・休職等による基準」及び「人事考課による基準」該当者が退職し,その後,機種を問わず年齢の高い者から順次退職する(本件人選基準の「目標人数に達しない場合の年齢基準」)という想定により,平成22年度下期の運航を維持することができるように,各月・各機種・各職位の必要稼働数及び有効配置稼働数について個別に検討した。運航乗務員については,上記の機種ごとのライセンスが必要であるという特性があることから,必要稼働数と有効配置稼働数との比較は,各月・各機種・各職位ごとに行う必要があり,しかも,被告は,運航乗務員を機種ごとに採用しておらず,被告の業務命令によって各機種への配属を決めていることから,公平を期する意味で,年齢による人選は機種を問わずにする必要があると判断されたものである。そして,上記のすべてで必要稼働数を満たす限度で,最大限有効配置稼働数を削減した場合の人数(以下「最大削減可能人数」という。)を算定した。 その結果,機長は55歳以上,副操縦士は45歳4か月以上の者が退職し- 12 -た場合が, を満たす限度で,最大限有効配置稼働数を削減した場合の人数(以下「最大削減可能人数」という。)を算定した。 その結果,機長は55歳以上,副操縦士は45歳4か月以上の者が退職し- 12 -た場合が,機長については平成23年1月の機種「767」で,副操縦士については同年3月の機種「767」で,有効配置稼働数が必要稼働数を辛うじて満たす状態となり(他の機種では,余裕がある有効配置稼働数である。),最大限の人員削減が可能となることが判明した。そして,その場合の退職者数,すなわち最大削減可能人数を算定した結果は,稼働ベースで機長154名,副操縦士217名の合計371名であったことから,運航乗務員の削減目標人数を371名(ただし,第一次希望退職措置の応募者を含む稼働ベースによるもの。以下,同様とする。)と設定した。なお,被告としては,ここでいう運航乗務員の削減目標人数371名は,機長,副操縦士の総数として設定したものであり,それぞれの職位ごとに(機長,副操縦士別に)削減目標人数を設定したものではなかった。つまり,後述するように,その後の希望退職の応募状況により特定の機種・職位の有効配置稼働数は変動するため,被告としては,これに応募した運航乗務員の担当機種,職位の状況を踏まえて解雇対象者を選定する時点で,再度,各月・各機種・各職位のそれぞれについて必要稼働数と有効配置稼働数を検討し,そのすべてで必要稼働数を満たす限度で,上述の「目標人数に達しない場合の年齢基準」を当てはめて,機長・副操縦士の職位ごとの解雇対象者を選定する方針であった。(乙11,27,証人Q)エ JALI単体の平成22年4月からの累計営業利益は,同年10月末までで1048億円,同年11月末までで1148億円,同年12月末までで1251億円であった。(甲44の10~12) Q)エ JALI単体の平成22年4月からの累計営業利益は,同年10月末までで1048億円,同年11月末までで1148億円,同年12月末までで1251億円であった。(甲44の10~12)オ Cグループの平成22年4月からの累計連結収支の計画及び実績は,別紙収支状況一覧表記載のとおりであり,累計営業利益は,同年10月末までで1327億円,同年11月末までで1460億円,同年12月末までで1586億円であり,いずれも計画を上回る実績を挙げていた。 また,平成22年度(平成23年3月期)の連結営業利益は,1884- 13 -億円であった。その特殊要因として,財産評定による約780億円の利益改善効果があったが,それを控除しても,過去最高益であったFY07の900億円を超える営業利益であった。(甲44の9~12,甲103~106,170,255)カ被告は,平成23年1月1日から,新人事賃金制度を導入した。JALIの運航乗務員の賃金水準は,平成17年度との比較で,平成22年度は約75%であったが,新人事賃金制度の導入により約62%に低下した。 新人事賃金制度による人件費の削減効果額は年間約100億円が見込まれており,平成23年1月~同年3月の間に約25億円の人件費削減効果が現実化した。(甲267,268)キ被告は,平成23年3月31日,運航乗務一般職,運航乗務管理職及び業務企画一般職に対し,生活調整手当として,同月の基本給額の1.1か月分(運航乗務管理職)~1.15か月分相当額に加えて2万円(運航乗務一般職,業務企画一般職)を支給した。(甲149)(7) 希望退職の募集等ア被告は,平成20年10月から,5%の賃金減額措置を実施していたが,平成22年2月17日,各職種 運航乗務一般職,業務企画一般職)を支給した。(甲149)(7) 希望退職の募集等ア被告は,平成20年10月から,5%の賃金減額措置を実施していたが,平成22年2月17日,各職種共通の基準内賃金及び各職種の代表的な手当を各5%減額すること(管理職については,地上管理職・客室乗務管理職の管理職調整手当及び運航乗務管理職の管理職乗務調整手当について,上記の5%減額を含めて合計30%減額する内容等が含まれている。)等を骨子とした「人件費施策等について」を各組合に提案し,同年3月31日までにすべての組合から提案受入の表明があり,新人事賃金制度が開始するまでの間の措置として,同年4月1日~同年12月31日の間実施された。(甲44の3,乙7)イ JALIは,平成22年3月18日から同年4月16日にかけて,運航乗務管理職及び同年3月31日時点で35歳以上の一般職運航乗務員を- 14 -対象として,特別早期退職者を募集した。同募集では,所定退職金に加え一時金を支払うものとし,同年5月31日付けで退職するものとされた。 同募集に対し,運航乗務員154名が応募した。(甲13~15,17)ウ JALIは,平成22年7月20日から同年8月16日にかけて,運航乗務管理職,一般職運航乗務員及び運航乗務員訓練生を対象として,特別早期退職者を募集した。同募集では,所定退職金に加え一時金を支払うものとし,同年10月31日付けで退職するものとされた。 同募集に対し,運航乗務員約220名が応募した。(甲17,152)エ JALIは,平成22年9月3日から同年10月22日にかけて,同年9月3日~同月24日の間を第一次募集期間,同年10月1日~同月22日の間を第二次募集期間として,運航乗務管理職,一般職運航乗 エ JALIは,平成22年9月3日から同年10月22日にかけて,同年9月3日~同月24日の間を第一次募集期間,同年10月1日~同月22日の間を第二次募集期間として,運航乗務管理職,一般職運航乗務員及び運航乗務員訓練生を対象とする希望退職者を募集した。同募集では,所定退職金に加え一時金を支払うものとし,同年11月30日付けで退職するものとされた。 同募集に対し,運航乗務員257名,稼働ベースで242名(機長140名,副操縦士102名)が応募した。(甲21,22,27,28)オ JALIは,平成22年10月26日から同年11月9日にかけて,運航乗務管理職,一般職運航乗務員及び運航乗務員訓練生を対象とする希望退職者を募集した。同募集では,所定退職金に加え一時金を支払うものとし,同年11月30日付けで退職するものとされた。 同募集に対し,運航乗務員25名,稼働ベースで24名(機長9名,副操縦士15名)が応募した。(甲27~30,35)カ JALIは,平成22年11月19日から同年12月9日にかけて,運航乗務管理職,一般職運航乗務員及び運航乗務員訓練生を対象として,希望退職者を募集した。同募集では,所定退職金に加え一時金を支払うものとし,同年11月30日までの応募については同日付けで,同年12月1- 15 -日以降の応募については同月31日付けで退職するものとされた。 同募集に対し,稼働ベースで13名の運航乗務員(機長2名,副操縦士11名)が応募した。(甲27,37,38)キ JALIは,本件解雇の対象者を次のように人選した。 まず,本件人選基準のうち,「目標人数に達しない場合の年齢基準」以外の基準を適用した。その結果,「病気欠勤・休職等による基準」に23名が該当し, ,本件解雇の対象者を次のように人選した。 まず,本件人選基準のうち,「目標人数に達しない場合の年齢基準」以外の基準を適用した。その結果,「病気欠勤・休職等による基準」に23名が該当し,「運航乗務員訓練生」及び「人事考課による基準」に該当する者はいずれもなかった。 上記の23名では,平成22年9月末に設定した削減目標人数から同年12月9日までの希望退職者を控除して算出される解雇対象者数には不足することから,続いて,「目標人数に達しない場合の年齢基準」を適用した。その際,①機長の方が副操縦士よりも人件費が高いこと,②一般に機長の方が副操縦士よりも年齢が高く,生活費が多くかかる世代を副操縦士の方が多く含むこと,③機長の方が副操縦士よりも再就職で容易ないし有利な傾向があることを考慮して,まず,機長について全機種で運航維持が可能となるまで年齢の高い者から対象者として人選し,その余を副操縦士について年齢の高い者から対象者として人選した。 そして,最後に,このような基準により対象者として人選された者のうち,整理解雇による生活への被害度が極めて高いと思われる者として,障害等により常時介護が必要な子を有することをJALIにおいて把握していた2名を例外的に対象者から除外した。 (乙27,証人Q)ク JALIは,平成22年12月10日から同月27日にかけて,本件解雇の予告をした運航乗務員を対象として,希望退職者を募集した。 同募集に対し,稼働ベースで12名の運航乗務員(機長3名,副操縦士9名)が応募した。(弁論の全趣旨)- 16 -ケ最終的に本件解雇の対象となった運航乗務員は,81名(稼働ベースで78名)であった。そして,上記のとおり,「病気欠勤・休職等による基準」に23名が該当していた 論の全趣旨)- 16 -ケ最終的に本件解雇の対象となった運航乗務員は,81名(稼働ベースで78名)であった。そして,上記のとおり,「病気欠勤・休職等による基準」に23名が該当していたことから,残りの58名が,「目標人数に達しない場合の年齢基準」による解雇の対象となった。そして,上記の考え方により,機長8名,副操縦士50名にこの基準が適用された。この基準が適用された年齢は,機長は55歳以上,副操縦士は48歳以上となった。 (乙27,証人Q)コ JALIは,原告らを含む本件解雇の対象者に対し,会社の都合等の事由により退職した場合の所定退職金の他,平均約350万円の特別退職金と賃金5か月分の一時金(所定解雇予告手当としての60日分の平均賃金を含む。)を支給した。これにより,解雇対象者は,企業年金基金(第1年金)から支払われる脱退一時金相当額(平均で約517万円)を除き平均で約2680万円の支給を受けた。また,JALIは,解雇対象者に対し,外部機関による再就職支援サービス(当該サービスを希望しないときは10万円を支給)を提供した。(乙27,28,33,証人P) 3 争点本件の争点は,本件解雇の有効性(争点1)及び原告番号30A及び同52Bの賃金額(争点2)である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件解雇の有効性)について(原告らの主張)本件解雇は,下記の各事情を総合的に考慮すれば,解雇権を濫用したものであり無効である。 (1) 本件解雇は,会社更生手続下で行われたものであるが,更生手続下の解雇についても整理解雇法理の適用がある。会社更生手続が開始されても労働者との雇用契約は影響を受けるものではなく,開始前における権利義務関係が- 17 -継続するのであり,更生計画が策定 手続下の解雇についても整理解雇法理の適用がある。会社更生手続が開始されても労働者との雇用契約は影響を受けるものではなく,開始前における権利義務関係が- 17 -継続するのであり,更生計画が策定され,可決,認可されても,労働契約(内容・条件等)が自動的に変更されるものではない。 また,被告が破綻した原因は,歴代の経営者の放漫経営による財務体質の脆弱性やゆがんだ航空政策による過大な負担にあるから,本来責任を負うべき歴代の経営陣らの責任が不問に付されたまま,労働者にだけ多大な不利益を負わせる本件解雇は社会的相当性を欠くものであり,整理解雇の4要件の適用は厳格に行うべきであり,特に解雇の必要性については高度の必要性を要するというべきである。 (2) 平成22年12月の時点での解雇の必要性はなかった。 本件解雇は経営上必要ないものであった。平成22年12月時点で,被告は,もはや経営破綻に瀕した赤字会社ではなくなり,別紙収支状況一覧表のとおり,更生計画上の目標はもちろん,連結営業利益ベースで更生計画上の当初年度目標(641億円)を700億円程度上方修正した修正計画を更に上回る営業利益を計上し,平成24年度中に再上場申請をめざすため,債務を平成24年から7年間で均等弁済するとしていた更生計画を大幅に前倒しし,リファイナンスによる債務の繰上一括償還により会社更生手続を終結させるため,主要5行と合意するまでになっていた。本件解雇の対象となった解雇対象者の賃金は,年間約14.7億円~約20億円と試算され,本件解雇の翌月(平成23年1月)から実施された新人事賃金制度により同年3月までに約25億円の人件費削減効果が現実化し,同月にはCグループ全体で100億円規模の生活調整手当が支給されたから,本件解雇を実施した平成22年12月時 )から実施された新人事賃金制度により同年3月までに約25億円の人件費削減効果が現実化し,同月にはCグループ全体で100億円規模の生活調整手当が支給されたから,本件解雇を実施した平成22年12月時点で,これらの人件費削減効果や生活調整手当の支給財源を想定して,本件解雇を回避することは経営上十分に可能であった。 また,本件解雇は更生計画の遂行ないしその目標達成上も必要ないものであった。更生計画で,人員数の削減は総人件費を圧縮するために行うものとされており,人員数削減の具体的な目標としては「早期退職,希望退職募集,- 18 -子会社売却等により,2011年3月末までにグループ全体で3万2600人体制とする(約1万6000人の削減)」と記載されているのみであった。 また,この連結人員数削減計画に伴うJALIにおける希望退職募集による人員削減目標は,「2010年9月以降2011年3月末までに1500人を削減する」というものであった。このように,更生計画ないしその前提となる事業計画は,平成23年3月末までにCグループ連結人員数を3万2600人とし,そのために,JALI単体では同月末までに1500人を削減するというもので,平成22年12月という本件解雇の時期でも,また,別紙収支状況一覧表によれば人件費削減が不十分であったことは窺われないのに,人件費圧縮と無関係に,JALIにおける職種ごとの余剰人員を削減するというその内容においても,更生計画ないしその前提となる事業計画の求めを上回るものであった。さらに,平成23年3月末の連結人員数の実績は3万1263人であったから,本件解雇による解雇対象者165人を除いても,更生計画上の人員削減目標を1000人以上も超過して達成しており,被告は遅くとも関西国際空港及び中部国際空港での空港運営子会社の売 263人であったから,本件解雇による解雇対象者165人を除いても,更生計画上の人員削減目標を1000人以上も超過して達成しており,被告は遅くとも関西国際空港及び中部国際空港での空港運営子会社の売却が完了した平成22年10月1日には更生計画上の人員削減目標を達成することが確実であることを認識していたはずである。 さらに,本件解雇は債権者との関係上も必要なかった。更生債権者が関心を有するのは更生会社の収支状況であり,人員削減そのものに強い関心を持つことはない上,主要債権者らは,更生計画案の提出段階でこれに賛成していたから,更生計画案に対する賛成を得るために本件解雇の方針を策定・公表する必要があったということはない。リファイナンスに向けた協議及びその実行の前提として主要5行が求めたのも,コスト削減策の実現であって,人員削減そのものではない。そして,被告が収支計画以上の実績をあげていたことは,別紙収支状況一覧表のとおりである。 (3) 被告は,解雇回避努力義務を果たしていない。 - 19 -被告は,ワークシェアリング,グループ内外への出向,転籍等の解雇を回避できる有効な手段があったのに,それらを真摯に検討・実施しなかった。 被告が行った希望退職募集及び再就職支援は,運航乗務職の専門性,特殊性に照らした場合,期間が短く,再就職支援の内容も極めて不十分であったし,被告は,再就職支援の充実,希望退職募集の延長等の措置が可能であったのに,これを行わなかった。 ワークシェアリングによって,人件費削減効果を得ながら,当面の解雇を回避しつつ,他社への転職や定年退職による離職に加え,海外他社やグループ内での出向,事業規模拡大による必要稼働数の増加を組み合わせることにより,解雇を回避することは十分に可能であった。 の解雇を回避しつつ,他社への転職や定年退職による離職に加え,海外他社やグループ内での出向,事業規模拡大による必要稼働数の増加を組み合わせることにより,解雇を回避することは十分に可能であった。 (4) 本件人選基準が病気欠勤・休職等による基準又は年齢の高い順番による基準を設けていることは,いずれも合理性がなく,また,機長職の解雇対象者の選定については,本件人選基準の適用によっていないから,本件解雇における解雇対象者の選定には合理性がない。 本件人選基準が病気欠勤・休職等による基準を設けていることは,今後,運航乗務員及び産業医に対する心理的プレッシャーとなり,被告が運航乗務員の健康状態を的確に把握すべき旨の航空法上の義務に違反する結果を招くとともに,運航の安全への脅威となる。運航乗務員の傷病は過酷な運航業務に由来するものであるから,業務に対する献身性を解雇の基準とすることになるし,傷病により運航業務ができない運航乗務員が常時4%程度存在する中で,そうした傷病による欠勤・休職等がたまたま人選基準の対象期間に該当するか否か,有給休暇により対応したか否かで解雇の対象となるか否かの結論を異にするのは不公平である。地上業務に従事している「乗務離脱」や,一定の条件下で現に乗務を行っている「乗務制限」を病気欠勤・休職と並んで人選基準とすることは,それ自体不合理であるし,それらが人選基準となっていない他の職種との比較においても著しく不公平である。 - 20 -本件人選基準が年齢の高い順番による基準を設けていることは,豊富な知識と経験の蓄積により被告内で運航の安全性を支える要としての役割を果たしてきたベテラン運航乗務員を一掃することになり(本件解雇により,被告には55歳以上の機長,48歳以上の副操縦士がいなくなった。),運航の 蓄積により被告内で運航の安全性を支える要としての役割を果たしてきたベテラン運航乗務員を一掃することになり(本件解雇により,被告には55歳以上の機長,48歳以上の副操縦士がいなくなった。),運航の安全確保の観点で大きな脅威となる。年齢に基づく不利益な取扱いは,世界各国で法律により禁止されており,中高年齢者の雇用保障という政策的観点と併せて,本件人選基準のうち年齢の高い順番によるという基準は,世界標準から逸脱した不合理なものである。 被告は,平成22年9月2日に実施した希望退職説明会で,目標人数を機長約130名,副操縦士約230名,合計約370名と説明し,同月29日,機長組合との事務折衝で希望退職2次募集の目標人数を機長約100名,副操縦士約220名,合計約320名と説明した(第1次希望退職に機長39名が応募しているから,機長の削減目標人数を約139名と説明したことになる。)。これに対し,機長の希望退職応募者数は,第1次希望退職に39名,第2次希望退職に101名(累計140名),その後解雇通知がなされた同年12月9日までに11名(累計151名),解雇通知後から同月27日までに3名であり,累計で154名であった。このように,機長については,被告から説明を受けた約139名はもとより,本件訴訟において被告が主張する同年9月末に削減目標人数を最終確定させた際の人数154名をも希望退職により達成していたから,本件人選基準によれば,機長を解雇する必要はなく,少なくとも年齢基準を適用する余地はなかった。 (5) 被告は,労働組合ないし解雇対象者との十分な協議を行っていない。 被告は,本件解雇までの間に,延べ13回にわたり,人員削減に関連する団体交渉を行ったものの,人員削減の必要性に関して最も重要な人員削減目標数の確定にあたり, との十分な協議を行っていない。 被告は,本件解雇までの間に,延べ13回にわたり,人員削減に関連する団体交渉を行ったものの,人員削減の必要性に関して最も重要な人員削減目標数の確定にあたり,原告らを組織するN組合を全く関与させず,これを既に決定されたものとして組合に提示した。また,被告は,平成22年2月に- 21 -は人員削減問題の発生を想定していたのに,同年9月27日にようやく整理解雇の人選基準案を発表し,希望退職募集による退職時期を同年11月30日に設定して,N組合が被告との間で整理解雇を回避するための協議を行い,原告らが再就職の準備をすることのできる期間を約7か月間も喪失させた。団体交渉にあたっても,更生計画案の実現上どのような人件費削減効果を想定し,どのような人件費削減目標が必達であり,債権者から具体的にどのような目標設定と到達を要求されているのか,第1次希望退職募集又は第2次希望退職募集によりどの程度人件費コスト削減が達成されたのか,人員削減目標数が達成できた場合,どの程度人件費コストが削減されるのか,達成できなかった場合,利益目標の確度がどの程度落ちるのか,平成23年3月ではなく,平成22年12月末までに整理解雇を行わないと,どのように人件費コストがかかるのか,といった人員削減の必要性ひいては整理解雇の必要性を判断する上で最も基本的な情報について,具体的な資料を用意せず,回答すらしない等,判断の基礎となる経営情報を開示せず,また,N組合が合理的なワークシェアリングを提案して,更生計画案に定められた平成23年3月末日まで整理解雇を繰り延べるように求めたのに対し,自らが設定した期限に拘り,その理由についての合理的な説明も拒絶する等,合意に向けた努力をしなかった。のみならず,被告は,整理解雇の人選基準案を組合に開示す 理解雇を繰り延べるように求めたのに対し,自らが設定した期限に拘り,その理由についての合理的な説明も拒絶する等,合意に向けた努力をしなかった。のみならず,被告は,整理解雇の人選基準案を組合に開示する前に,その基準に該当する運航乗務員を乗務から外し,仕事を与えないことにした上で,組合による強い中止要求を無視して,対象者に対する仕事外しの嫌がらせと面談による退職強要を継続した。さらに,被告は,N組合が平成22年11月12日から争議権確立のための組合員による一般投票を開始したのに対し,同月15日の団体交渉において組合による争議権の確立に介入する発言を開始し,同月16日には,争議権の発動に至れば,機構として3500億円の出資をしないし,更生裁判所は更生計画案を認可せず,被告が二次破綻するかのような発言を行い,これを職場に周知させる- 22 -ことで,組合員の間に不安を生じさせて,争議権の確立・行使を阻止しようとした。 (6) 被告は,安全性と公共性が求められている公共交通機関であり,航空輸送の安全こそが利用者である国民が被告の再建に求めていることであり,公共交通機関の再建にとって不可欠な要素である。本件解雇は,年齢による基準により55歳以上の機長と48歳以上の副操縦士を解雇し,「ベテランの乗員が身体に染みつかせた技量やノウハウ」を発揮する機会も継承する機会も失わせ,また,病気欠勤等を人選基準にすることにより,体調不良の状態であっても自己申告で乗務を中止することをためらう状況を生じさせ,さらに,安全運航の基盤である現場のモチベーションの維持や労使関係の安定に対しても悪影響を及ぼしている。このように,さまざまな形で空の安全を脅かす本件解雇は,社会的相当性を欠くものである。 また,本件解雇は,O組合や上部団体における役員・執行委員 使関係の安定に対しても悪影響を及ぼしている。このように,さまざまな形で空の安全を脅かす本件解雇は,社会的相当性を欠くものである。 また,本件解雇は,O組合や上部団体における役員・執行委員の経歴を有する者等,組合活動の中心を担ってきた者を排除して,組合の弱体化を図ったものであり,憲法28条及び労働組合法で保障された団結権を侵害するという点においても社会的相当性を欠くものである。 (被告の主張)本件解雇が無効となることはない。その理由は,以下のとおりである。 (1) 本件解雇は,更生計画の基礎となった事業計画に基づき,管財人の職務遂行の一環としてなされたものである。更生計画は,株主・債権者・労働者等すべての更生会社の関係人の権利関係を適切に調整する観点から策定されるものであり,関係人の議決により権利変更を実現するものであるが,被告の更生計画の基礎となった事業計画には人員削減計画が定められ,大量の任意退職があっても予定した人員削減を達成することができない中,これを遂行することは関係人に対する管財人の職務である。機構が3500億円という巨額の出資を回収する前提として,更生担保権・更生債権に関する主要行- 23 -とのリファイナンスの合意が必要であったが,人員削減施策に重大な支障が生じていないことがリファイナンスの協議の前提とされ,その点からも管財人が本件解雇を実施せず人員削減施策を完遂しないとの選択肢はなかった。 そもそも会社更生手続は,開始決定時点で破綻した更生会社を観念的に清算する手続であり,その時点で各利害関係人に約していた人員施策を含む事業計画を遂行しなければ事業の維持更生の余地がないことに鑑みれば,いわゆる整理解雇法理を機械的に適用すべき場面ではない。また,整理解雇法理の4要素は,解釈適用 利害関係人に約していた人員施策を含む事業計画を遂行しなければ事業の維持更生の余地がないことに鑑みれば,いわゆる整理解雇法理を機械的に適用すべき場面ではない。また,整理解雇法理の4要素は,解釈適用に幅のある予見可能性の確立が極めて難しい法理であり,機構の支援と会社更生手続を併用し事業廃止を回避した本件事前調整型企業再建スキームにはなじまない。 管財人による本件解雇は,Cグループの早期確実な再生のために必要であることは明らかであるとともに,恣意的な解雇権濫用の余地がない中で行われたものであり,本件解雇は,有効である。 (2) 整理解雇法理が適用されるとしても,4要素を充足するか否かの判断は,相関的に判断されるべきであり,本件のように必要性が顕著な場合には,他の3要素の有無は緩和して判断されるべきである。 具体的には後に詳述するが,更生計画の基礎となる人員施策は,最大限の雇用を確保しようとするものであり,その貫徹なくして,イベントリスクに耐えられる将来の事業基盤の確保・二次破綻のリスクはヘッジできないことから,解雇の必要性は顕著である。また,更生会社としては異例ともいえる好条件での特別早期退職・希望退職を繰り返し募り,解雇回避義務を尽くしたことも自明であり,解雇回避義務を十分に果たしている。人選基準も,本件航空事業が専門職種ごとの人員体制で構成され,各職種で過去及び将来の会社への貢献度を測る基準として年齢基準・傷病基準を採用したことは,恣意的な人選を排除する合理的なものであり,人選基準の不合理性は何ら存しない。また各労働組合との協議についても誠実に行ってきたことは明らかで- 24 -ある。したがって,本件解雇は,有効である。 (3) 被告は,巨額の営業赤字を計上し,グループ全体で9600億円の債務超過を抱え 合との協議についても誠実に行ってきたことは明らかで- 24 -ある。したがって,本件解雇は,有効である。 (3) 被告は,巨額の営業赤字を計上し,グループ全体で9600億円の債務超過を抱え,資金繰りに窮して破綻し,平成22年1月19日,会社更生手続開始決定とともに,機構及びHから申立前後の約3500億円の貸付と申立後の6000億円の融資枠の設定を受けることによって,破綻的清算を回避し,事業を継続したものである。被告は,100%近い債権者の賛成を得て可決・認可された更生計画及びその基礎となる事業計画(「下期計画」)で,既に事業規模の縮小とその規模に見合った人員体制の構築を予定していた。 被告では,更生計画に沿って,既に国内線については同年10月から,国際線については同年11月から路線変更が実施され,これによって収入及び業務量が減少しており,また,更生計画別表5-1の事業損益計画表は,同月末の人員削減実行を前提として作成されており,事業規模の縮小に見合った人員規模を達成するための人員削減が遅れると,更生計画の想定を超える費用の増加を招き,計画未達部分が生じる状況にあった。このように,更生計画に基づく事業規模の縮小により必要人員が減少したことに基づき,余剰となる人員を削減する必要性があった。 また,運航乗務員の最終的な削減目標は,同年8月19日に下期計画が一部修正して確定したこと(「確定下期計画」)を受け,第二次特別早期退職措置の結果を受けた直近の有効配置稼働数を踏まえて,同年9月末時点で,稼働ベースで371人分(第一次希望退職への応募者(機長39人,副操縦士16人)を内数として含む。)として確定したもので,具体的には,同月27日発表の整理解雇の人選基準案での人事考課基準該当者及び傷病基準該当者が退職したこと,機種 退職への応募者(機長39人,副操縦士16人)を内数として含む。)として確定したもので,具体的には,同月27日発表の整理解雇の人選基準案での人事考課基準該当者及び傷病基準該当者が退職したこと,機種を問わず年齢一律に年齢の高い者から順次退職したことを想定して,平成22年度下期(平成22年10月~平成23年3月)の運航を維持することができるように,各月・各機種・各職位のすべてで必要稼働数を満たす有効配置稼働数まで削減するものとして算定した。本- 25 -件解雇の対象人数は,上記稼働ベース371人分から,第一次募集から最終募集までの希望退職措置への応募者295人(稼働ベースで279人分)を除いて,稼働ベース92人と決定し,人道的見地から対象から除外した2人を除く稼働ベース90人(在籍社員数94名)に対し,解雇予告通知を発したのであって,対象人数の設定は合理的なものである。 原告らは,更生手続開始後,本件解雇時まで,計画上の想定を上回る業績となっていることから,人員削減の必要性がなかった旨主張するが,そもそも更生計画により債権者に約5200億円の巨額の債務免除という負担を強いる等したことにより初めてこのような状況に至ったものであるし,業績の回復についても,更生手続の財産評定に起因する部分,従前の急激な円高や燃油価格の安定等外的要因による部分が相応に含まれたものである。また,売上の基礎となる需要の変動可能性が高く,イベントリスク(燃料費の高騰,世界的金融危機,テロ等による突発的な収益の大幅悪化要因)の発生等によって数百億円から一千億円規模の減益となる航空事業の特性からすれば,一時的に計画を上回った業績であったとしても,たちどころに財務状態が悪化する危険性を有しており(収益の改善は短期的な視点でとらえるべきでなく,長期的視点をも加味 減益となる航空事業の特性からすれば,一時的に計画を上回った業績であったとしても,たちどころに財務状態が悪化する危険性を有しており(収益の改善は短期的な視点でとらえるべきでなく,長期的視点をも加味する必要がある。),運航に必要となる運航乗務員数を上回る人員を継続して雇用することができる状態にはない。 原告らは,被告の人件費は高コストではなく,経営破綻の原因ではないと主張するが,被告の破綻原因の一つは,硬直的な人件費構造に基づく高コスト体質にあり,人件費の削減は,変動可能性の高い事業環境で,リスク発生による収益低下に対する耐性を高め,二度と破綻に至らない企業体質を構築するという被告の再生のためには必須の課題であったことは明白である。 (4) 被告は,主として,次の解雇回避措置を講じた。 ア被告は,更生手続開始に先立つ平成20年10月,5%の賃金減額措置を実施していたが,平成22年1月19日の更生手続開始後も,同年2月- 26 -17日,各職種共通の基準内賃金及び各職種の代表的な手当を各5%減額すること(管理職については,地上管理職・客室乗務管理職の管理職調整手当及び運航乗務管理職の管理職乗務調整手当について,上記の5%減額を含めて合計30%減額する内容等が含まれている。)等を骨子とした「人件費施策等について」を各組合に提案し,同年3月31日までにすべての組合から提案受入の表明があり,新人事賃金制度が開始するまでの間の措置として,同年12月31日まで実施された。 イ被告は,平成22年3月18日から同年8月16日にかけて,2度にわたって特別早期退職者の募集を行い,第一次特別早期退職措置で162人(稼働ベースで152人分),第二次特別早期退職措置で223人(稼働ベースで208人分)の運航乗務員が応募し,JALIを退職した わたって特別早期退職者の募集を行い,第一次特別早期退職措置で162人(稼働ベースで152人分),第二次特別早期退職措置で223人(稼働ベースで208人分)の運航乗務員が応募し,JALIを退職した。また,被告は,同年9月3日から同年12月9日にかけて,3度にわたり,希望退職者の募集を行い,295人(稼働ベースで279人分)の運航乗務員が応募し,JALIを退職した。 同年12月9日付けの解雇予告通知後も,解雇対象者を対象として,同月27日まで希望退職者の募集を行い,できる限りの合意退職を目指した結果,運航乗務員13人(稼働ベースで12人分)の応募者があった。 ウ被告は,当初から希望退職の退職条件として,外部機関による再就職サービスの提供を行うこととしていたが,組合との協議の中で挙げられた要望を踏まえて,平成22年10月19日,再就職支援プログラムを取りまとめてこれを示し,同年12月3日,再就職先の応募要件との関係で「最近の飛行経験の充足」が必要な者に対し,希望退職後の嘱託契約による有期限再雇用措置を適用し,必要最小限の乗務を実施できる体制をとった。 その他,国内外航空会社の運航乗務職の採用情報の提供,採用要件の緩和交渉,新規JAL退職者向けの採用開拓,英語による模擬面接の実施,採用説明会の誘致・開催等を実施した。 - 27 -被告は,これらの再就職支援を行うことにより,希望退職措置等による退職を促す措置をとった。 (5) 本件解雇の対象者は,①病気欠勤・休職等による基準,②人事考課による基準,③目標人数に達しない場合の年齢基準からなる人選基準により選定した。本件人選基準は,主に過去の勤務実績・人事考課に基づく貢献度及び将来に向けて見込まれる貢献度を基準として決定したものであり,労働組合との交渉を踏まえて変更も行っ 基準からなる人選基準により選定した。本件人選基準は,主に過去の勤務実績・人事考課に基づく貢献度及び将来に向けて見込まれる貢献度を基準として決定したものであり,労働組合との交渉を踏まえて変更も行った。また,被告の恣意を入れる余地のない客観的な明らかな指標によるものであって,合理的なものである。 病気欠勤・休職等の事情があった場合,他の社員との比較,相対評価としては,貢献度が低いものであり,これを基準とすることには合理性がある。また,服薬等により一時的に航空身体検査基準を満たさなくなり,乗務に適さないと自ら判断して,病気欠勤を申告するような場合があったとしても,平成22年度の4月1日~8月31日の5か月間で40日間(約2か月に相当。)病気欠勤しても整理解雇の対象にならないという基準は,厳しい基準ではない。 年齢の高い者ほど定年による退職時期が近く,将来勤務できる期間が短いことから,若年者の方がより将来における貢献度が高いと考えられる。 また,高年齢者ほど賃金水準が高く,高年齢者から順に解雇した方がより将来の人件費の削減につながるし,さらに,高年齢者の方が,年金支給開始年齢が近い上,退職一時金が高額になることから,解雇後の生活の維持が容易な状況にある。これらの事情からすれば,年齢の高い者から順に解雇するという基準は合理性がある。なお,運航乗務員は,若年者であれ高年齢者であれ,航空法令に基づき設定された一定の基準を充足しなければ,ライセンスを受けて運航業務に従事することはできないのであるから,年齢基準は安全運航の阻害要因となるものではない。 (6) 被告は,平成22年9月27日に整理解雇の際の人選基準案を各労働組- 28 -合に提示した後,労務,運航本部の担当者が出席し,途中からはR社長,管財人Fも出席し,本件解雇の必要性,本件解 (6) 被告は,平成22年9月27日に整理解雇の際の人選基準案を各労働組- 28 -合に提示した後,労務,運航本部の担当者が出席し,途中からはR社長,管財人Fも出席し,本件解雇の必要性,本件解雇回避措置,本件人選基準案等について,各組合と交渉・協議を続けてきた。運航乗務員を組合員とするN組合,O組合とも,同日~同年12月末日の間,それぞれ13回にわたり交渉を行った。 (7) 被告は,本件解雇による退職条件として,平成22年11月末日付けで退職した希望退職者とのバランスを図り,解雇による生活への影響をできる限り抑えることに配慮して,会社都合等の事由により退職した場合の退職金の他に,社内規程上の根拠規定はないものの,特別退職金と賃金5か月分の一時金(就業規則に基づく60日分の平均賃金に代える解雇予告手当の名目)を支給した。解雇予告手当相当分は平均約910万円であり,企業年金基金(第1年金)から支払われる脱退一時金相当額の平均約517万円も加えて,整理解雇者の受領総額は平均で約3200万円にのぼる。 また,被告は,本件解雇通知後にも,解雇対象者が希望する場合には,外部機関による再就職支援サービスの提供(当該サービスを希望しないときは10万円を支給)を行い,これとは別に運航乗務職に特化した再就職支援も行った。このように,被告は,解雇対象者に対して十分な退職条件の提示を行うこと等により,可能な限り解雇による不利益緩和を図った。 これらは,いわゆる整理解雇の4要素に含まれるものではないが,本件解雇の有効性を判断するにあたっては,考慮されるべきである。 2 争点2(原告番号30A及び同52Bの賃金額)について(原告らの主張)原告Aの基準外賃金は,乗務手当保障額が70万5087円,管理職乗務調整手当が17万5473円,原 きである。 2 争点2(原告番号30A及び同52Bの賃金額)について(原告らの主張)原告Aの基準外賃金は,乗務手当保障額が70万5087円,管理職乗務調整手当が17万5473円,原告Bの基準外賃金は,乗務手当保障額が52万7422円,管理職乗務調整手当が6万4634円である。 (被告の主張)- 29 -いずれも否認する。原告Aの平成22年12月分基準外賃金は,乗務手当保障額が38万1128円,管理職乗務調整手当が9万4850円,原告Bの同月分基準外賃金は,乗務手当保障額が9万1160円,管理職乗務調整手当が2万2622円である。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件解雇の有効性)について(1) 判断の枠組み前記前提事実のとおり,本件解雇は,更生手続開始決定後終結決定前に,管財人Fが,被告の就業規則所定の解雇理由(就業規則52条1項4号の「企業整備等のため,やむをえず人員を整理するとき」)に該当するとして行ったものである。会社更生法上,労働契約は双方未履行双務契約として,管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が,管財人は,労働契約上の使用者としての地位を承継している以上,管財人の上記の解除権は,解雇と性格づけられる。客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない解雇は,権利濫用となる(労働契約法16条)のであるから,この権利濫用法理は,管財人が行った本件解雇についても,当然に適用されることになる。 そして,本件解雇は,使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから,上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては,権利濫用との評価を根拠付ける又は障害する考慮要素として,人員削減の必要性の有無及び程度,解雇回避努力の有無及び程度,解 によって行われた解雇なのであるから,上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては,権利濫用との評価を根拠付ける又は障害する考慮要素として,人員削減の必要性の有無及び程度,解雇回避努力の有無及び程度,解雇対象者の選定の合理性の有無及び程度,解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度というかたちで類型化された4つの要素を総合考慮して,解雇権濫用の有無を判断するのが相当である。このことは,当該更生手続がいわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されたものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり,本件更生- 30 -手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは,上記結論を左右するものではない。そこで,以下,前記前提事実を前提として,上記の各考慮要素に沿って,本件解雇が権利濫用と評価できるかを検討することとする。 (2) 人員削減の必要性ア Cグループでは,平成13年以降の旅客需要の急激な減少と需要減退の長期化等により資金繰りが悪化するようになり,平成21年4月に国土交通省から抜本的な経営改善計画の策定を指示され,同年6月に主要5行の協調融資で1000億円を借り入れる等して当面の資金繰りを確保するという状況にあった。JALIは,同年8月,国土交通大臣に対し,産活法による出融資の活用を含む支援を求め,政権交代後の同年10月には,タスクフォースの調査結果を踏まえ,機構に対し,Cグループの再生支援の事前相談を開始したが,同年11月に事業運転資金が枯渇する状況に陥り,同月13日に,同年9月期決算に関して,監査法人により,初めて継続企業の前提に関する注記が記載され,JALIは,同日,事業再生ADR手続である特定認証裁判外紛争手続を申 転資金が枯渇する状況に陥り,同月13日に,同年9月期決算に関して,監査法人により,初めて継続企業の前提に関する注記が記載され,JALIは,同日,事業再生ADR手続である特定認証裁判外紛争手続を申込み,金融機関からの債権回収等の一時停止等を受け,Hから同月27日に150億円,同年12月25日に400億円のつなぎ資金の融資を受けた。そして,平成22年1月19日,JALIは,機構に対して正式に支援を申し込むとともに,更生手続開始申立てを行い,即日,更生裁判所による更生手続開始決定と機構による支援決定を受けた。そして,同日現在,JALI単体では1兆7134億円の債務超過,JALI,D及びEとの間の債権債務等相殺消去した3社合算で1兆0009億円の債務超過の状況にあった。 このように,JALIは,上記同日の時点で,1兆円を超える巨額の債務超過の状況にあったが,機構による支援と更生裁判所による更生手続の併用によって,破綻的清算を回避したものである。そして,更生手続開始- 31 -決定当初から,破綻の要因のうち,コスト面での要因として,機種の削減や機材の小型化の遅れ,不採算路線からの撤退や思い切った人件費の削減に踏み込めず,高コスト構造が温存されていたことが指摘されていた。そのため,事業再生計画の方向性の一つとして人員・組織体制の効率化が掲げられており,今後3年間で平成20年度末のCグループ社員の約3割に当たる約1万5700人を削減することが計画されていた。同年6月7日,人員計画として1年間で平成21年度末のCグループ社員の約3割強の約1万6000人を削減する計画が説明され,運航乗務員についてもCグループ全体で,同年度末の3818人を平成22年度末までに2974人とするとの試算が示された。 そして,同年8月31日,管財 万6000人を削減する計画が説明され,運航乗務員についてもCグループ全体で,同年度末の3818人を平成22年度末までに2974人とするとの試算が示された。 そして,同年8月31日,管財人から更生裁判所に提出された更生計画案では,事業計画の骨子として,航空機機種数を削減するとともに機材のダウンサイジングを行い,路線ネットワークの最適化を図り,そのような事業規模に応じた直接・間接人員数削減を実施し,総人件費を圧縮するものとされた。この更生計画案では,Cグループ全体の人員削減については同年6月7日に説明された人員計画とほぼ同様の予定であるとされたが,職種ごとの人員計画は明記されていなかった。この更生計画案は,同年11月19日までに債権者投票で可決され,同月30日,更生裁判所から認可決定を受けた。 以上によれば,被告では,巨額の債務超過による破綻的清算を回避し,更生手続により事業再生するための事業遂行の方策の一つとして,当初から事業規模を大幅に見直し,それに応じて人員・組織体制を効率化し,人員を削減することが掲げられ,可決・認可された更生計画でも,事業規模に応じた人員体制とすることが内容とされていたものと認められる。 イ被告は,上記更生計画の更生計画案の提出に先立ち,路線便数に関して,平成22年4月28日までに下期計画を,同年8月20日までにこれを一- 32 -部変更した確定下期計画を策定した。その内容は,不採算路線を運休・撤退するとともに,ビジネス需要に対応した路便網を維持・拡充することにより収益性の高い路線構成への転換を企図するものであり,上記の更生計画案の考え方に沿うものであることはもちろん,経営判断としての合理性を欠くと評価する事情は存しないものである。確定下期計画によって,同年10月以降の被告が への転換を企図するものであり,上記の更生計画案の考え方に沿うものであることはもちろん,経営判断としての合理性を欠くと評価する事情は存しないものである。確定下期計画によって,同年10月以降の被告が運航する路線便数は,国際線・国内線ともに大幅に減少するのであり,上記の内容の更生計画案は,確定下期計画による事業規模に応じた人員体制とすることをその内容としていたものというべきである。そうすると,被告が,確定下期計画実行前の同年9月の段階で,本件人選基準と基本的に同一の基準を示し,運航乗務員の削減目標人数を設定したことは,上記の更生計画案の内容に照らして,十分に合理性が認められることになる。そして,確定下期計画による運航便数を前提として必要な運航乗務員を,どこまで削減することが可能であるかを検討した結果,同月末日の人員から稼働ベースで371名(第一次希望退職措置の応募者を含む。)を削減する必要があると判断したことは,上記の更生計画案を実現する上からは,必要な措置であるというべきであるし,この判断自体,合理性の認められるものであるということができる。そして,同年12月31日までの希望退職の応募者の累計は稼働ベースで291名となり,必要削減数に照らして,稼働ベースで80名足りなかったのであるから,同日付けの時点で,それだけの数の人員削減を実現することが,更生計画の内容として必要であったと認めることができる。 ウ原告らは,別紙収支状況一覧表のとおり,平成22年12月時点で,被告は更生計画を大きく上回る営業利益を計上しており,更生計画に定められた平成24年から7年間の均等弁済を大幅に前倒しし,リファイナンスによる繰上一括償還をするため主要5行と合意する状況にあった等,本件解雇は,経営上必要ないものであったし,翌月から導入予定であった新人 平成24年から7年間の均等弁済を大幅に前倒しし,リファイナンスによる繰上一括償還をするため主要5行と合意する状況にあった等,本件解雇は,経営上必要ないものであったし,翌月から導入予定であった新人- 33 -事賃金制度による人件費削減効果や本件解雇の3か月後に支給された生活調整手当の支給財源を考慮すれば,本件解雇を回避することは経営上十分に可能であったと主張する。しかし,本件解雇は,管財人Fが,事業規模に応じた人員体制にするという更生計画の遂行(会社更生法209条1項)の一環として行ったものであるという事情を考慮しなければならない。つまり,本件更生計画は,一般更生債権の87.5%の免除を受け,株主に対してはいわゆる100%減資を行う等利害関係人の権利変更について定められ,その利益(裏返しとしての損失)を調整した上で成立したものであり,「更生計画において予想された額を超える収益金の使途」(同法167条1項5号)については,「原則として,更生計画の遂行に必要な費用,会社の運営に必要な運転資金(危機対応に備えた余裕資金を含む。)もしくは裁判所の許可に基づく共益債権等の支払いまたは借入金の返済に充てる」と定められていた。そうすると,更生計画を上回る収益が発生したとしても,このような収益の発生を理由として,更生計画の内容となる人員削減の一部を行わないことはできないというべきであり,被告が更生計画を上回る営業利益を計上していることは,更生計画に基づく人員削減の必要性を減殺する理由とはならないのである。また,実質的に考えても,一時的な更生計画を上回る営業利益を計上したからといって,又は人件費の抑制を行うからといって,事業規模に見合わない人員を抱えることは,すべての雇用が失われることにもなる破綻的清算を回避し,利害関係人の損失の分担の上で成立し 業利益を計上したからといって,又は人件費の抑制を行うからといって,事業規模に見合わない人員を抱えることは,すべての雇用が失われることにもなる破綻的清算を回避し,利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画に沿うものではないし,定年や任意退職等により必要削減数に達する時まで,事業規模に照らして余剰であると評価される人員の人件費が発生し続けることを甘受しなければならないとするのは,余りにも不合理であるといわなければならない。 また,本件解雇後の平成23年3月31日に生活調整手当を支給したことについては,高コスト構造を解消して事業規模に応じた人員規模を実現す- 34 -るという更生計画が一応実現したという状況下で,更生企業の存続の観点からの必要性を考慮して行われたものであると評価できるから,生活調整手当支給の事実は,上記判断を覆すものではない。 また,原告らは,更生計画ないしその前提となる事業計画は,総人件費の圧縮を目的として,平成23年3月末までにCグループ連結人員数を3万2600人とし,JALI単体では同月末までに1500人を削減するというものであるから,関西国際空港及び中部国際空港での空港運営子会社の売却が完了した平成22年10月にはCグループ連結人員数の削減目標の達成が確実であった以上,更生計画ないしその目標達成上必要がないと主張する。しかし,上記判断のとおり,更生計画は事業規模に応じた人員体制とすることをその内容としていたものであるから,同月の段階で確定下期計画により被告の運航する路線便数が減少し事業規模が縮小したことが確定した以上,それから遅くない時点で,事業規模に応じた人員規模を超える余剰人員を削減することが,更生計画の内容なのである。また,運航乗務員の専門性に照らせば,事業規模に応じた人員規模は運航乗務員と 定した以上,それから遅くない時点で,事業規模に応じた人員規模を超える余剰人員を削減することが,更生計画の内容なのである。また,運航乗務員の専門性に照らせば,事業規模に応じた人員規模は運航乗務員という職種内で達成する必要があるから,Cグループ連結人員数の削減目標の達成が確実であったことは,運航乗務員の人員削減の必要性に関する判断を左右するものではない。したがって,原告らのこの点の主張は採用できない。 エ以上によれば,被告においては,本件解雇(平成22年12月31日)当時,全ての雇用が失われる破綻的清算を回避し,利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の要請として,事業規模に応じた人員規模とするために,人員を削減する必要性があったと認めることができる。 (3) 解雇回避努力ア被告は,本件解雇に先立ち,平成20年10月に賃金の5%減額を行い,平成22年4月~同年12月の間に基準内賃金及び代表的な手当の各5- 35 -%減額等を行ったこと,これにより,JALIの運航乗務員の平成22年度の賃金水準は平成17年度の約75%の水準にまで低下したこと,被告は,平成22年3月~同年8月の間,2度にわたり,所定退職金に加えて一時金を支払うという条件で特別早期退職を募集して約374名の運航乗務員が応募したこと,同年9月~同年12月9日の間に,4度にわたり,所定退職金に加えて一時金を支払うという条件で希望退職を募集して,稼働ベースで279名の運航乗務員が応募したこと,同月10日~同月27日の間に,希望退職を募集して,稼働ベースで12名の運航乗務員が募集したことが認められる。 これによれば,被告は,本件解雇に先立ち,一定の解雇回避努力を行ったことが認められる。 イ原告らは,被告はワークシェアリング,グルー 名の運航乗務員が募集したことが認められる。 これによれば,被告は,本件解雇に先立ち,一定の解雇回避努力を行ったことが認められる。 イ原告らは,被告はワークシェアリング,グループ内外への出向,転籍等の解雇を回避できる有効な手段があったにもかかわらず,それらの措置を真摯に検討・実施せず,また,運航乗務員の専門性,特殊性に照らすと,希望退職募集及び再就職支援の期間が短く,支援の内容も極めて不十分であったと主張する。しかし,上記のとおり,被告は,更生手続開始決定の前後を通じて,賃金減額による人件費圧縮を行い,平成22年1月に人員削減の方針を表明した後,同年3月~同年12月9日の8か月強の期間に,退職金に加えて一時金を支払うという条件で特別早期退職及び希望退職を6度にわたり募集し,約650人前後の運航乗務員がこれに応じているのであるから,被告は,整理解雇である本件解雇に先立って,相対的には,手厚い解雇回避努力を尽くしているとの評価が可能である。同年11月の時点でN組合から提案されたワークシェアリングの内容は,一時的な措置で問題を先送りする性質のものであるし,上記の解雇回避努力に加えて,他の従業員や出向ないし転籍先企業との調整が必要な原告らの主張する解雇回避措置を行わなかったからといって,解雇回避努力が不十分であ- 36 -ると評価することは困難であるというべきである。したがって,上記の原告らの主張は,上記判断を覆すものとはいえない。 (4) 人選の合理性ア被告は,本件解雇の解雇対象者を選定するにあたり,本件人選基準を作成した上,あらかじめN組合,O組合に提示し,本件人選基準に基づいて解雇対象者の選定を行っている。 イ本件人選基準のうち,原告らに適用されたのは「病気欠勤・休職等による基準」「目 基準を作成した上,あらかじめN組合,O組合に提示し,本件人選基準に基づいて解雇対象者の選定を行っている。 イ本件人選基準のうち,原告らに適用されたのは「病気欠勤・休職等による基準」「目標人数に達しない場合の年齢基準」である。これらはいずれも,その該当性を客観的な数値により判断することができ,その判断に解雇者の恣意が入る余地がない基準であり,このような基準であるということ自体に,一定の合理性が担保されているということができる。 ウ 「病気欠勤・休職等による基準」は,平成22年8月31日時点での休職の事実(別紙人選基準の②),同年4月1日~同年8月31日の病気欠勤,乗務離脱期間,休職期間の日数(同③),平成20年4月1日~平成22年8月31日の病気欠勤,乗務離脱期間,休職期間の日数(同④),平成20年4月1日~平成22年8月31日の乗務制限期間の日数(同⑤)を解雇対象者選定の基準とするものであるが,過去に休職,病気欠勤,乗務離脱,乗務制限(以下「休職・乗務制限等」という。)があった者は,少なくともそれらの休職・乗務制限等があった期間,運航乗務員の本来の業務である運航業務に従事できず,又は一定の制約下で従事していたのであるから,休職・乗務制限等がなかった者と相対的に比較すれば,過去の運航業務に対する貢献として劣る面があったといわざるを得ないし,将来の運航業務に対する貢献の想定にあたっても相対的に劣る可能性があると判断することは不合理ではなく,多数の労働者の中から解雇対象者を選定するにあたって,過去に休職・乗務制限等がなかった者を休職・乗務制限等があった者よりも相対的に優位に扱うことには合理性があるという- 37 -ことができる。 原告らは,休職・乗務制限等を解雇対象者選定の基準とすることは,今後,運航乗務 休職・乗務制限等があった者よりも相対的に優位に扱うことには合理性があるという- 37 -ことができる。 原告らは,休職・乗務制限等を解雇対象者選定の基準とすることは,今後,運航乗務員及び産業医に対する心理的プレッシャーとなり,被告が運航乗務員の健康状態を的確に把握すべきであるという航空法上の義務に違反する結果を招くとともに,運航の安全への脅威となる旨主張する。しかし,多数の乗客乗員の生命や財産を預かる航空輸送に携わる者として高い職業倫理を有する運航乗務員や航空会社の産業医が,過去の整理解雇において上記基準が採用されたことから,本来行わなければならない判断を放棄して運航の安全に対する脅威となるような判断を行うといった事態はにわかに想定し難いから,上記の原告らの主張は,上記判断を左右するものではない。 また,原告らは,運航乗務員の傷病は過酷な運航業務に由来するものであるから,休職・乗務制限等を解雇対象者選定の基準とすることは,業務の犠牲又は業務に対する献身性を解雇の基準とすることになるし,傷病により運航業務ができない運航乗務員が常時4%程度存在する中で,そうした傷病による休職・乗務制限等がたまたま本件人選基準の対象期間に該当するか否か,有給休暇により対応したか否かで解雇の対象となるか否かの結論を異にするのは不公平であると主張するが,上述のとおり,多数の労働者の中から解雇対象者を選定するにあたって,過去に休職・乗務制限等があった者よりも休職・乗務制限等がなかった者を相対的に優位に扱うことには被告に対する貢献度の観点からみて一定の合理性があるのであり,このような過去の休職・乗務制限等について一律の基準を設定することには,十分に合理性があるし,休職・乗務制限等の有無や日数を把握するためには一定の対象期間を設定する みて一定の合理性があるのであり,このような過去の休職・乗務制限等について一律の基準を設定することには,十分に合理性があるし,休職・乗務制限等の有無や日数を把握するためには一定の対象期間を設定することは不可欠であり,本件人選基準の具体的な対象期間の設定も将来の貢献度を想定する観点からして相応の合理性があるといえる上,本件人選基準は対象期間内に少なくとも32日以- 38 -上の休職・乗務制限等があったことを基準とするものであるから,有給休暇による対応をたまたま一時的に行わなかったことから直ちに基準に該当するようになるというようなものではないのであり,この点に関する原告らの主張は採用できない。 さらに,原告らは,地上業務に従事している「乗務離脱」や,一定の条件の下であれ現に乗務を行っている「乗務制限」を病気欠勤・休職と並んで人選基準とすることは,それ自体不合理であるし,それらが人選基準となっていない他の職種との比較においても著しく不公平であるとも主張する。しかし,運航乗務員は運航業務に従事することができる点において他の職種の従業員が代替することのできない専門性があるのであり,乗務離脱は運航業務に従事できない点で,乗務制限は運航業務に従事するにあたり一定の条件の範囲内という制約がある点で,休職・乗務制限等がない状態の運航乗務員との相対的な比較では,その本来の業務である運航業務という観点から,被告に対する貢献度が劣っているといわざるを得ないし,運航乗務員の専門性に照らせば,事業規模に応じた人員規模は運航乗務員という職種内において達成する必要があるから,その職種の範囲内で運航乗務員に対する整理解雇の人選基準を設定することが,他の職種と比較して不公平であるとの評価は困難である。したがって,この点の原告らの主張もまた,採用できない る必要があるから,その職種の範囲内で運航乗務員に対する整理解雇の人選基準を設定することが,他の職種と比較して不公平であるとの評価は困難である。したがって,この点の原告らの主張もまた,採用できない。 エ 「目標人数に達しない場合の年齢基準」は,他の人選基準によってもなお目標人数に達しない場合は,各職種・職位ごとに,年齢の高い者から順に,目標人数に達するまでを対象とする(別紙人選基準⑦)というものであるが,このように年齢の高い者から順に目標人数に達するまでを対象とするという基準は,上記のとおり,解雇者の恣意が入る余地がないことに加え,年功序列型賃金体系を採る企業では,年齢の高い者を解雇対象者とするほど人件費の削減効果が大きいこと,定年制を採る企業では年齢の高- 39 -い者ほど定年までの期間が短く,企業に貢献できる期間が短いという意味において将来の貢献度が相対的に低いとの評価が可能であること,再就職が困難である等の問題もあるものの,退職金等により,その経済的打撃を調整し得ること(本件解雇の対象者には,更生手続下で所定退職金のほかに平均約350万円の特別退職金と解雇予告手当の趣旨も含む賃金5か月分の一時金を支給する等の不利益を緩和する措置が採られている。)等からすれば,これを他の人選基準では目標人数を満たさない場合の補助的な基準とすることには合理性があるということができる。 原告らは,本件人選基準が年齢の高い順番による基準を設けていることは,豊富な知識と経験の蓄積により被告内で運航の安全性を支える要としての役割を果たしてきたベテラン運航乗務員を一掃することになり,運航の安全確保の点で大きな脅威となると主張するが,運航乗務員はその年齢にかかわらず航空法令に基づき設定された一定の基準を充足することによって初めてライセン ベテラン運航乗務員を一掃することになり,運航の安全確保の点で大きな脅威となると主張するが,運航乗務員はその年齢にかかわらず航空法令に基づき設定された一定の基準を充足することによって初めてライセンス(国家資格)を受けて運航業務に従事することができるものであり,運航の安全確保に必要な知識や経験の多寡が年齢と相関関係にあると認めるだけの根拠はないから,年齢基準が運航の安全確保の点で大きな脅威になるとの主張は根拠の乏しいものである。 また,原告らは,年齢に基づく不利益な取扱いは,世界各国で法律により禁止されており,中高年齢者の雇用保障という政策的観点と併せて,本件人選基準のうち年齢の高い順番によるという基準は,世界標準から逸脱した不合理なものであるとも主張するが,我が国では,定年制を採ることが,格別,公序良俗に反するとの評価を受けていないし,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律のように,事業主が定年制を採用することを前提とした立法も存することに照らせば,年齢に基づく基準が不合理なものであると評価することはできない。年齢の高い者から順に目標人数に達するまでを対象とするという基準を他の人選基準では目標人数を満たさない- 40 -場合の補助的な基準とすることに合理性があることは上記のとおりであり,中高年齢者の雇用保障という政策的観点を考慮しても,上記判断を左右するものではない。 オ原告らは,機長については,被告が平成22年9月末に確定させた削減目標人数である154名を,希望退職により達成していたのであるから,本件人選基準によれば,機長を解雇する必要はなく,少なくとも年齢基準を適用する余地はなかったと主張する。しかし,被告が同月下旬に運航乗務員全体の削減目標人数を371名に設定し,その設定にあたり,本件人選基準を適用して, 機長を解雇する必要はなく,少なくとも年齢基準を適用する余地はなかったと主張する。しかし,被告が同月下旬に運航乗務員全体の削減目標人数を371名に設定し,その設定にあたり,本件人選基準を適用して,平成22年度下期の運航を維持することができることを考慮して算定した際の算定上の内訳は,機長154名,副操縦士217名であったものの,被告が同月末に機長の削減目標人数を154名に設定した事実がないのであり,原告らの主張はその前提を欠いている。運航乗務員には機種ごとにライセンスが必要であるという特質は,格別のライセンスも職種限定もない通常の労働者と異なっており,必要稼働数と有効配置稼働数とを比較するという手法を採る以上,機種を問うことなく機長・副操縦士という職位ごとの削減目標人数を設定することには,なじみにくい。本件に即して敷衍すると,同機種の機長は副操縦士を代替できるが,その逆はできないという特性があること,被告は,運航乗務員を機種ごとに採用せず,被告の業務命令によって各機種への配属を決めていることを踏まえて,必要稼働数と有効配置稼働数との比較を各月・各機種・各職位ごとに行った結果としての機長154名,副操縦士217名の合計371名という削減目標人数の算定は,機種「767」で,有効配置稼働数が必要稼働数を辛うじて満たす状態となる有効配置稼働数を確保できる年齢まで削減するという前提で算定されたものであって,他の機種では,有効配置稼働数には余裕があったものである。そこで,同年9月末に削減目標人数を確定させた後に希望退職者が出た場合に,それが機種「767」の- 41 -運航乗務員から出るのか,それ以外の機種の運航乗務員から出るのかによって,また,それが機長から出るのか,機長による代替が可能な副操縦士から出るのかによって,特定の機種・職位における の- 41 -運航乗務員から出るのか,それ以外の機種の運航乗務員から出るのかによって,また,それが機長から出るのか,機長による代替が可能な副操縦士から出るのかによって,特定の機種・職位における有効配置稼働数の状況は異なり得るのであって,当該機種・職位における必要稼働数の確保に与える影響は異なるのである。そうすると,機種を問うことなく機長・副操縦士という職位ごとの削減目標人数を設定することはしないで,運航乗務員全体としての削減目標人数を設定して,後日の希望退職の状況,それを前提とした各機種・各職位ごとの有効配置稼働数の状況を踏まえて,最終的な対象者を決するという方法が,不合理なものとは考えられない。実際に,被告は,最終的に本件解雇の対象者を決定する段階で,再度,各月・各機種・各職位ごとに必要稼働数と有効配置稼働数との比較を行い,本件人選基準に沿って年齢の高い者から解雇の対象者として,各月・各機種・各職位で必要稼働数を満たす年齢基準により本件解雇の対象者を選定したのであり,同年9月末段階の算定では,機長は55歳以上,副操縦士は45歳4か月以上の者が退職した場合が,すべての機種・職位の必要稼働数を満たして最大限の人員削減が可能となるとの算定であったのが,最終的な年齢基準による本件解雇の対象者は,機長は55歳以上,副操縦士は48歳以上となったものである。以上のような削減目標人数の算定と最終的な本件解雇の対象者の選定の過程が,不合理であるとは考えられない。 カ以上によれば,本件解雇の対象者の選定は,明示の人選基準である本件人選基準を作成し,これをあらかじめ運航乗務員が属する各労働組合に示した上で,これを適用することによって行われたのであり,その内容も本件解雇の対象者の選定基準としての合理性を有するものであるから,本件解雇の対象 し,これをあらかじめ運航乗務員が属する各労働組合に示した上で,これを適用することによって行われたのであり,その内容も本件解雇の対象者の選定基準としての合理性を有するものであるから,本件解雇の対象者の選定は合理的に行われたものと認めることができる。 原告らは,本件解雇は,O組合や上部団体での役員・執行委員の経歴を有する者等,労働組合活動の中心を担ってきた者を排除して,その弱体化- 42 -を図ったものであると主張するが,本件解雇の対象者の選定が管財人Fの恣意によらない基準によって行われたことは,繰り返し指摘したとおりであるから,原告らのこの点の主張は採用できない。 (5) 解雇手続の相当性等の整理解雇が信義則上許されない事情被告は,平成22年9月29日~同年12月24日の間,運航乗務員を組合員とするN組合及びO組合との間で,それぞれ13回の団体交渉を行ったこと,この中で,被告は,事業規模の縮小に見合った人員体制にするために人員削減の必要があり,これを実現しなければ債権者や機構の理解が得られず,更生計画の賛否や3500億円の出資に影響が出て,二次破綻の可能性がある,一時帰休やワークシェアは一時的な施策であり,抜本的なコスト削減にならない,人選基準案は,将来的な業務の貢献度を基準として作成したもので,それを推し量るものとして一定期間の過去の勤務の実態を基準とした等を説明したこと,被告は,O組合の意見を踏まえて,解雇対象者の選定基準を変更して,本件人選基準の決定に至ったことが認められる。 以上のような本件解雇を行うにあたって被告が採った手続の過程から,特に整理解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情は窺われないのであり,かえって,更生手続下で,本件解雇の対象者に対しても,所定退職金の他に,平均約35 うにあたって被告が採った手続の過程から,特に整理解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情は窺われないのであり,かえって,更生手続下で,本件解雇の対象者に対しても,所定退職金の他に,平均約350万円の特別退職金と所定解雇予告手当の趣旨も含む賃金5か月分の一時金を支給して,その不利益を緩和する措置を採ったことをも併せ考慮すると,本件解雇の過程において,整理解雇が信義則上許されないとする事情は認められないといわなければならない。 被告が,人員削減目標数の確定に労働組合を関与させなかったこと,本件解雇と人件費との関係について具体的な数値で説明していないことは,原告ら指摘のとおりであるが,本件解雇が破綻的清算を回避し,利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の履行として行われたものであることに照らすと,原告ら指摘の事実から,整理解雇である本件解雇が信義則上許さ- 43 -れないと評価するだけの事情は認められないと解するのが相当である。 (6) 判断以上によれば,被告は,本件解雇を行った平成22年12月当時,破綻的清算を回避し,利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の履行として,事業規模に応じた人員規模にするために,人員を削減する必要があったこと,被告は,特別早期退職及び希望退職の募集等一定の解雇回避努力を行ったこと,解雇対象者の選定は明示の人選基準により合理的に行われたことが認められ,他方,被告は,本件解雇を行うにあたり,解雇対象者の理解を得るように努めていて,整理解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情が認められないから,本件解雇は,管財人が有する権限を濫用したものとは認められないという結論になる。 2 争点2(原告番号30A及び同52Bの賃金額)について前記前提事実及び証拠(甲個3 が認められないから,本件解雇は,管財人が有する権限を濫用したものとは認められないという結論になる。 2 争点2(原告番号30A及び同52Bの賃金額)について前記前提事実及び証拠(甲個30の4,52の4)によれば,被告は,原告Aに対し,平成22年12月25日,同年11月分の基準外賃金として,乗務手当保障額の名目で70万5087円,管理職乗務調整手当の名目で17万5473円を支払ったこと,原告Bに対し,同年12月25日,同年11月分の基準外賃金として,乗務手当保障額の名目で26万0455円,管理職乗務調整手当の名目で6万4634円を支払ったことが認められる。被告は,原告Aの同年12月分の乗務手当保障額は38万1128円,管理職乗務調整手当は9万4850円であると,また,原告Bの同年12月分の乗務手当保障額は9万1160円,管理職乗務調整手当は2万2622円であると主張するが,前月の乗務手当保障額及び管理職乗務調整手当の額が減額されるだけの根拠は見当たらない。そうすると,原告Aの同月分の乗務手当保障額は70万5087円,管理職乗務調整手当は17万5473円,原告Bの同月分の乗務手当保障額は26万0455円,管理職乗務調整手当は6万4634円であると認めるのが相当である。 - 44 -よって,原告Aの同年12月分の基準外賃金として40万4582円の及び原告Bの同月分の基準外賃金として21万1307円の支払請求(商事法定利率による遅延損害金)には理由があることになる。 第5 結論以上によれば,原告らの各請求のうち,原告Aにつき40万4582円,原告Bにつき21万1307円及びそれぞれの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につい 主文 き40万4582円,原告Bにつき21万1307円及びそれぞれの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条ただし書,61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官渡邉弘 裁判官早田尚貴 裁判官古庄研
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