- 1 -平成18年4月20日判決言渡平成17年(ワ)第2089号損害賠償請求事件判決主文,,, 被告は原告Aに対し3196万円原告Bに対し330万円原告Cに対し165万円,原告Dに対し165万円と,これらに対する平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告Aに対し7921万4474円,原告Bに対し503万6702円,原告Cに対し231万4642円,原告Dに対し281万8486円と,これらに対する平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,平成14年3月22日から胃ろう交換の目的で被告の開設する虎の門病院(以下「被告病院」という)に入院した原告Aが,同月31日,入浴の際。 に,介助に当たった看護師により誤って原告Aの永久気管ろう(喉頭を摘出した場合などにおいて,呼吸するために,気管を前の方に出して首の皮膚と縫いつけて造る空気の通路。気道が気管切開孔に縫いつけられるため,呼吸に際して永久気管ろうが唯一の空気の通路となる)にサージカルドレープ(患部及びその周辺に感染。 防止のためにはり付ける通気性がないプラスチック製のフィルム)をはり付けられた(以下「本件事故」という)ため,無酸素脳症となり重篤な後遺障害を負った。 - 2 -などと主張して,原告A及びその夫又は子であるその余の原告らが,被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為に基づいて,損害賠償及びこれに対する同年4月1日(本件事故の発生した日の翌日 - 2 -などと主張して,原告A及びその夫又は子であるその余の原告らが,被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為に基づいて,損害賠償及びこれに対する同年4月1日(本件事故の発生した日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 被告は,平成17年4月21日の第1回弁論準備手続期日において,本件事故について法律上の損害賠償責任が発生することは争わない旨を陳述しており,原告らに生じた損害の額について争っている。 前提となる事実(証拠等の摘示のない事実は,争いがないか,争うことを明らかにしないものである)。 当事者原告Aは,昭和9年1月1日生の女性であり,平成7年秋にオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)を発症した(乙A1。 )原告Bは原告Aの夫,原告C及び原告Dは原告Aの子である。 本件事故の経緯原告Aは,平成12年6月,誤嚥性肺炎に罹患して被告病院に入院し,同年8月4日永久気管ろうを造設され,退院した。平成13年4月には嚥下困難と食思不振が認められたため,再入院し,胃ろうを造設された。胃ろうは半年に1回定期的に交換する必要があるため,同年10月,胃ろうの交換を目的として被告病院に入院し,翌11月に退院した。 原告Aは,平成14年3月22日(以下,平成14年については月日のみを記載する,胃ろうの交換のために被告病院に入院した(4月1日には退院の。)予定であった。入院中の3月31日午前10時31分ころ,E看護師は,原告。)Aを入浴させるために,その介助に当たったが,その際,原告Aの永久気管ろうに通気性のないサージカルドレープを誤ってはり付け,浴室に移動させた。午前10時33分ころ,E看護師と共に原告Aの入浴介助に当たっていたF看護師が,原告Aの顔面が蒼白で自発呼吸がないことに気付い うに通気性のないサージカルドレープを誤ってはり付け,浴室に移動させた。午前10時33分ころ,E看護師と共に原告Aの入浴介助に当たっていたF看護師が,原告Aの顔面が蒼白で自発呼吸がないことに気付いた。そこで,同看護師は,午前10- 3 -時36分ころ,上記サージカルドレープを除去し,原告Aを病室へ搬送して,心臓マッサージ,人工呼吸を行うとともに,G医師に報告した。 被告病院の医師らは,救命措置等を施したが,原告Aは,無酸素脳症による意識障害に陥り,遷延性意識障害(後遺障害等級1級)を負った(平成15年12月31日に症状固定。 )OPCAについて(甲10,11,乙B1,6)OPCAは脊髄小脳変性症(運動失調を主症状とする原因不明の神経変性疾患の総称)の一つである。その症状は,初期には起立・歩行の失調が生じ,病気の進行により4肢の協調運動障害構音障害なども生じるそして5年以内遅,,。 ,(くとも10年以内)に錐体外路症状(筋固縮,動作緩慢,安静時振戦,屈曲姿勢などパーキンソニズムなど)が加わることが多い。経過と共に,起立性低血圧や尿失禁などの自律神経症状が加わることもある。その予後は不良である。 争点及び当事者の主張前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,E看護師が原告Aに造設された永久気管ろうにサージカルドレープをはり付けたことに過失が認められるので,同看護師の使用者である被告が民法715条による損害賠償義務を負担することは明らかであり,被告も,前記1のとおり法律上の損害賠償義務の発生を認めているところである。 そこで,本件における争点は,本件事故により原告らの被った損害の有無及びその内容となる。 上記争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。 (原告らの主張)原告Aの被った損害及びその額についてア後 で,本件における争点は,本件事故により原告らの被った損害の有無及びその内容となる。 上記争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。 (原告らの主張)原告Aの被った損害及びその額についてア後遺症慰謝料原告Aの負った障害は,後遺障害等級1級に相当する。原告Aは,OPCAに罹患し,手足の不自由,発語不能といった機能障害はあったものの,大脳機- 4 -能に問題はなく,意識も清明であった。ところが,本件事故により,社会と繋がるために残された唯一の手段である大脳の機能までも失い,いわゆる植物状態になってしまったのであり,本件事故により失われたものの価値は極めて大きい。 本件事故は,極めて初歩的かつ悪質な過失行為に起因するものである。 この過失行為により,原告Aは,意識清明の状態で無呼吸を強いられ苦しみながら意識を失っていったのであり,その際の苦痛は極めて甚大であった。 また,被告は,当初,原告らに対し,もともとの病気が原因となって本件事故が起きたとの虚偽の説明を行ったり,あまりに低額な賠償額を提案するなどしており,本件事故後の対応が不誠実であった。 以上の事情からすると,原告Aの後遺症慰謝料は2900万円を下らない。 イ入院慰謝料原告Aは,4月1日から症状固定までの640日間入院を余儀なくされたのであり,この入院慰謝料は,少なくとも376万円を下らない。 ウ入院付添費原告Aの家族は,入院中ほぼ毎日原告Aに付き添っており,今後も付添い介護が必要不可欠である。被告病院は基準看護の体制をとっているものの,着替えやタオルの持参,おむつの交換等は家族の役目であるし,看護師による巡回は1時間に1回程度であり,食事の注入の際にも,家族が見守り,それが終了した段階で看護師を呼んで管を外してもらっているのであり,家族による付添いが不要となるような体制で 目であるし,看護師による巡回は1時間に1回程度であり,食事の注入の際にも,家族が見守り,それが終了した段階で看護師を呼んで管を外してもらっているのであり,家族による付添いが不要となるような体制ではない。 また,原告Aの症状の改善には,マッサージ,声掛け,音楽を流すことなど家族による心の通った介護が必要不可欠である。 そのため,原告Aは,同人の家族等による付添い介護が不可欠なものとなり,過去(本件事故後症状固定までの640日間)及び将来18年間の付添費として3829万3340円を負担することとなった。 - 5 -エ入院雑費入院雑費として,1日につき1500円を要し,症状の固定した平成15年12月31日までの640日間で96万円を要した。 オ弁護士費用上記アないしエの合計額の1割に当たる720万1134円を本件事故と相当因果関係のある損害とするのが相当である。 原告B,同C及び同Dの被った損害及びその額についてア慰謝料けいれんでベッドの上を飛び跳ねる原告Aの姿を目の当たりにするなど,上記アのとおりの原告Aの苦痛を思う家族の精神的苦痛の甚大さ,反応のない原告Aのために通院介護を余儀なくされることの負担,本件事故が初歩的で悪質な過失行為に起因するものであること,本件事故後の被告の対応の不誠実さなどからすると,原告Aの夫である原告Bの慰謝料は400万円,子である原告C及び同Dの慰謝料は各200万円を下らない。 イ交通費本件事故後原告Aの家族らは被告病院に通っており,平成16年11月末日までの間に,その交通費として,原告Bは57万8820円,原告Cは10万4220円,原告Dは56万2260円を支出した。 ウ弁護士費用弁護士費用については,それぞれ上記ア及びイの合計額の1割に相当する額(原告Bにつき45万7882円,原告Cにつき21 原告Cは10万4220円,原告Dは56万2260円を支出した。 ウ弁護士費用弁護士費用については,それぞれ上記ア及びイの合計額の1割に相当する額(原告Bにつき45万7882円,原告Cにつき21万0422円,原告Dにつき25万6226円)をもって,本件事故と相当因果関係のある損害とするのが相当である。 被告の主張に対する反論ア素因減額について本件において,原告Aの罹患していたOPCAは本件結果の発生や拡大- 6 -に寄与していないから,素因減額の対象とならない。 イ損益相殺について損益相殺は,明文上規定がなく,公平の理念の要請に基づく政策的判断としてされるものであるから,損益相殺をすることが相当であることが明らかな場合に限定して適用されるべきであり,積極的な給付を受けた場合に限り適用されるべきである。そのため,介護の必要性がないという被告の主張を前提としても,ホームヘルパーへの報酬の支払を免れたという消極的な利益について損益相殺は適用されない。 また,被告は,あたかも本件事故により原告Bが楽になったかのような主張をするが,現状に対する無理解に基づくものである。原告Bは,本件事故の結果,自宅における介護が不可能となり,遠方の被告病院に通って介護しなければならなくなったのであり,その負担は重くなっている。 (被告の主張)原告Aの被った損害及びその額についてア原告Aの後遺症慰謝料について後遺症慰謝料の算定に当たっては,既存の障害による減額を考慮すべきである。原告Aは,本件事故前,既に後遺障害等級1級に該当する障害を負っており,本件事故前後で後遺障害別等級に変化はないから,理論的には後遺症慰謝料は発生せず,無等級としての後遺症慰謝料が発生するのみである。 また,後遺症慰謝料には,苦痛の期間という意味で年齢(余命年数)を考慮に入 故前後で後遺障害別等級に変化はないから,理論的には後遺症慰謝料は発生せず,無等級としての後遺症慰謝料が発生するのみである。 また,後遺症慰謝料には,苦痛の期間という意味で年齢(余命年数)を考慮に入れるべきである。例えば,余命1日の患者が医療事故により意識レベル3桁となった場合に3000万円近い慰謝料を認めることが不合理であることは明らかである。原告Aは,平成7年にOPCAを発症しており,その生命予後は発症から4~11年(平均7~8年)であるから,本件事故(3月31日)当時の原告Aの余命は,6か月ないし1年6か月程度であった。 ,,,なお原告らが問題にする本件事故後の被告の対応については被告は- 7 -本件事故直後には救命措置を優先して,事故原因について断定することを避けていたに過ぎず,隠蔽の意思はなかったし,賠償額の提示についても,原告Bとの交渉の結果を踏まえて提示したものであり,不誠実な対応はしていない。 イ入院慰謝料について入院慰謝料は,入院に伴う苦痛を慰謝するためのものであるから,本件事故直後から意識のない原告Aには発生しない。 ウ入院付添費について被告病院は,基準看護であり,原告Aへの付添いは必要的なものではない。 エ入院雑費について突然の入院に伴う身の回り品の購入費用などとして入院雑費が認められている。原告Aは突然入院したわけではないから,入院雑費は生じない。 オ原告Aの弁護士費用について争う。 原告B,同C及び同Dの被った損害及びその額についてア慰謝料について家族の慰謝料は後遺症等級1級を超えるような損害が発生した場合に認められるところ,本件では,前記アのとおり,そのような損害が発生したとはいえないから,同原告らの慰謝料は本人である原告Aの慰謝料の中で評価されるべきである。 イ交通費について上記ウの た場合に認められるところ,本件では,前記アのとおり,そのような損害が発生したとはいえないから,同原告らの慰謝料は本人である原告Aの慰謝料の中で評価されるべきである。 イ交通費について上記ウのとおり,同人らの付添いは必要的なものではないから,そのための交通費は損害とならない。 ウ弁護士費用について争う。 被告の主張- 8 -ア素因減額原告Aは,OPCAに罹患しており,寝たきりの状態であったのであるから,これを素因として素因減額(民法722条2項類推適用)すべきである。 イ損益相殺原告Aは,看護師を住み込みで雇用していたが,本件事故後は看護師に対する賃金は発生していない。また,原告Bは,本件事故後,原告Aの介護から解放されたのであり,この点も減額の要素となる。 第3争点に対する判断 原告Aの被った損害及びその額について慰謝料について本件事故は看護師に求められる基本的な注意義務に違反した結果生じたも,,,,のでありこれにより原告Aは症状固定まで640日もの入院を強いられた上最終的には後遺障害等級1級に該当する遷延性意識障害の後遺症を負い,いわゆる植物状態に至らしめられたのである。そして,原告Aの呼吸のための唯一の空気の通路を閉塞するという本件事故の態様やその結果の重大性をも併せ考慮すると,同人が被った精神的苦痛は甚大なものであったというべきである。 ところで,原告Aは,平成7年秋ころにはOPCAに罹患しており,手足に運動機能障害があり,平成12年6月には寝たきりの状態となり,平成13年4月13日の時点では,運動失調及び筋力低下のため,両上肢機能が全廃し,独力で()(,)背もたれなしで座位を保つことができない状態であった乙A1原告B本人が,他方,本件事故前には,同人の大脳機能に問題はなく,意 調及び筋力低下のため,両上肢機能が全廃し,独力で()(,)背もたれなしで座位を保つことができない状態であった乙A1原告B本人が,他方,本件事故前には,同人の大脳機能に問題はなく,意識もしっかりしていた(甲19ないし22,26,原告B本人,原告C本人)のである。このように,原告Aについては,本件事故の結果,従前問題のなかった大脳機能に重大な障害が新たに生じた以上,従前から,これと異質な運動機能に重度の障害を負っていたからといって,そのことから直ちに本件事故により新たに後遺症慰謝料が発生することはないとか,当然に大幅に減額すべきであると解することはできないというべき- 9 -である。 また,OPCAの予後が不良であることは前記第2の2で認定したとおりである。そして「標準神経病学(株式会社医学書院,平成12年発行。乙B6),」においては,予後について「経過は4~11年(平均7~8年)である」とされており,この記載がOPCAの患者のその発症からの余命に関するものであることを前提にして,その平均値に基づいて原告Aについて計算してみると,本件事故(3月31日)当時の同人の余命は6か月ないし1年6か月程度ということになるが,同人は本件の口頭弁論終結の日である平成18年3月1日現在において存命しているところである。こうしたことに,上記のとおりのOPCAによる障害と本件により原告Aが負った後遺障害の性質の違いなどにかんがみると,本件においては,OPCAの予後ないし生命予後が悪いことを慰謝料額の算定に当たり過大に評価することはできない。 そして,原告Aは本件事故当時高齢ではあったが,同人にとって残された人生をいかに生きるのかは,その生涯の中で極めて重大な意義を有するものであるということができる。その意味で,本件事故に遭った結果,夫で して,原告Aは本件事故当時高齢ではあったが,同人にとって残された人生をいかに生きるのかは,その生涯の中で極めて重大な意義を有するものであるということができる。その意味で,本件事故に遭った結果,夫である原告B,子である原告C及び同Dらと意思疎通すらできなくなったことに伴う精神的被害は極めて大きいといわなければならない。 これら本件事故の態様,結果の重大性,原告Aが罹患していた病気の性質等の上記各事情を総合的に斟酌すると,原告Aが本件事故により被った精神的損害に対する慰謝料は,総体として2800万円をもって相当と認める。 入院付添費について証拠(原告B本人及び原告C本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故前においても,原告Aは,住み込みの看護師や原告Bの看護を受けていたこと,本件事故後,被告病院においては,通常付添看護が必要とされない看護体制(基準看護)をとっていること,本件事故後,原告B,同C及び同Dが原告Aに絶えず付き添っているわけではないことが認められる。こうした事実に徴すると,原告Aの介- 10 -護のための付添費については,これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。 入院雑費について原告Aは,胃ろう交換目的で入院したのであるが,本件事故により退院することができず,症状固定まで640日間入院することを余儀なくされたのであるから,その入院期間中の諸雑費として,1日当たり1500円の割合で算出した96万円をもって,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 被告は,原告Aは突然の入院ではないから入院雑費は生じない旨主張するが,入院中の諸雑費は,入院生活を送ることに伴い支出される費用であり,上記のとおり原告Aは本件事故により入院せざるを得なくなったことにかんがみると,採用できない。 弁護士費用について本件事案の内 が,入院中の諸雑費は,入院生活を送ることに伴い支出される費用であり,上記のとおり原告Aは本件事故により入院せざるを得なくなったことにかんがみると,採用できない。 弁護士費用について本件事案の内容,本件訴訟の審理の経過及び原告Aの損害額等の事情を総合すると,本件に要した弁護士費用のうち300万円を本件事故と相当因果関係のある損害として認める。 原告B,同C及び同Dの被った損害額について慰謝料について不法行為により身体に傷害を受けた者の近親者が,そのために被害者の生命侵害の場合にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けたときは,民法709条,710条に基づいて自己の権利として慰謝料を請求し得るものと解される。そして,原告B,同C及び同Dは,上記1説示のとおり,本件事故の結果,原告Aと意思疎通すらできなくなったのであり,その精神上の苦痛が原告Aの生命侵害の場合にも比肩し得べきものであったことは想像に難くなく,それぞれ独自に慰謝料を請求できるというべきである。 なお,原告B,同C及び同Dが原告Aの見舞い等のために被告病院に頻繁に通い,交通費を支出していることについて,本件事故と相当因果関係のある損害- 11 -と認めることができないことは,後記説示のとおりであるが,本件事故により原告Aが症状固定まで640日もの入院を強いられて最終的にいわゆる植物状態に至らしめられた状況の下において,妻又は母である同人のもとに通い,その見舞いをする同原告らの心情は理解できる。そして,そのために,時間と費用を費やしている状況にあることも,慰謝料を算定する際の事情の一つとして考慮すべきである。 以上の事情を総合的に考慮すると,慰謝料として,原告Aと長年連れ添った夫である原告Bについては300万円,原告Aの子である原告C及び同Dについては各150万円を認めるのが相 として考慮すべきである。 以上の事情を総合的に考慮すると,慰謝料として,原告Aと長年連れ添った夫である原告Bについては300万円,原告Aの子である原告C及び同Dについては各150万円を認めるのが相当である。 交通費について上記1のとおり,原告Aの介護のための付添費については,これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできないのであり,その付添いのための交通費も損害と認めることはできない。なお,慰謝料の事情の一つとして考慮することは上記のとおりである。 弁護士費用について本件事案の内容,本件訴訟の審理の経過及び原告B,同C及び同Dの損害額等の事情を総合すると,本件に要した弁護士費用のうち,原告Bについては30万円,原告C及び同Dについては各15万円を本件事故と相当因果関係のある損害として認める。 素因減額について被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平に失するときは,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項を類推適用して,被害者の疾患を斟酌することができるものと解される(いわゆる素因減額。しかしながら,本件においては,本件事故)前から存在した原告Aの疾患であるOPCA(前記前提となる事実認定のとおり,運動失調を主症状とする脊髄小脳変性症の一つである)が本件事故と競合する原。 - 12 -因となって,遷延性意識障害という損害が発生したと認めることはできない。被告病院医師が,本件事故後の6月4日と平成15年3月4日に,原告Bに対し,原告Aの病状及びその進展の見通しについて説明した書面(甲3,4)中でも「無酸,素脳症による意識障害」と「脊髄小脳変性症」のそれぞれについて独立に項目 6月4日と平成15年3月4日に,原告Bに対し,原告Aの病状及びその進展の見通しについて説明した書面(甲3,4)中でも「無酸,素脳症による意識障害」と「脊髄小脳変性症」のそれぞれについて独立に項目を立てており,予後についても相互に関連づけていない。したがって,本件において,OPCAを素因減額の対象となる素因として同条項を類推適用するのは相当でないというべきである。 損益相殺について証拠(甲20,原告B本人)によれば,次の事実が認められる。 原告Bは,平成11年ころから主として原告Aの介護のためにホームヘルパーを依頼しており,月に54万円を支払っていた。そして,平成12年ないし平成13年ころからはホームヘルパーであるHが住み込みでそれに当たっていた。 原告Bは,本件事故後しばらくの間は,家事をしてもらうために引き続きHに家事労働等を依頼していたが,本件事故により原告Aが被告病院に入院することになったことに加え,Hから,高齢であることもあり故郷へ帰りたい旨の申し出を受けたため,原告BはHに対する上記依頼を止め,その後はホームヘルパーを依頼していない。 ところで,被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性があり,その利益によって,,被害者に生じた損害が現実に填補されたということができる限り公平の見地からその利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除すべきものと解される。 被告は,原告Bがホームヘルパーに対する支出をしなくなったことについて,損益相殺をすべきであると主張する。しかしながら,上記認定の経緯からすれば,原告Bがホームヘルパーへの支出をしなくなったことについて,損害の発生と同一の原因によって利益を受けたものと評価できるか疑問があることに加え,上記 と主張する。しかしながら,上記認定の経緯からすれば,原告Bがホームヘルパーへの支出をしなくなったことについて,損害の発生と同一の原因によって利益を受けたものと評価できるか疑問があることに加え,上記- 13 -各損害とその「利益」との間に同質性があると認めることもできず,その「利益」によって原告Bに生じた損害(精神的損害)を補填されたということもできないから,被告の上記主張を採用することはできない。 また,被告は,本件事故により,原告Bは原告Aの介護から解放されたのであり,この点も減額の要素となる旨主張するが,本件事故により原告Bが介護から解放されたと評価することには疑問があり,また,損害の公平な分担を図るという損益相殺的な調整をすることの趣旨からしても,この点を減額要素とすることは相当でないので,この主張も採用できない。 よって,原告らの本件請求は,不法行為に基づく損害賠償として,原告Aに対し3196万円,原告Bに対し330万円,原告Cに対し165万円,原告Dに対し165万円及びこれらに対する不法行為の日の後である平成14年4月1日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第35部裁判長裁判官金井康雄裁判官本吉弘行裁判官望月千広
▼ クリックして全文を表示