平成29(ワ)11147 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年11月11日 大阪地方裁判所
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判決文本文31,222 文字)

- 1 -令和元年11月11日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成29年(ワ)第11147号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和元年9月10日判決原告ビック工業株式会社 同訴訟代理人弁護士梅本弘同井上彰同高橋英伸同訴訟復代理人弁護士吉本達哉同訴訟代理人弁理士内山邦彦 同岡田充浩同補佐人弁理士杉本勝徳同辻󠄀 忠行被告株式会社塩同訴訟代理人弁護士知念芳文 同飯島秀明同訴訟復代理人弁護士片山輝伸 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,7425万円及びこれに対する平成29年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「流体吐出管構造体」とする発明に係る特許権(以下- 2 -「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告が製造,販売する加工液改良装置ないし加工液せん断装置は本件特許の請求項1及び3に係る各発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明1」のようにいう。 また,これらを併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属するとして,当該行為につき,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金74 25万円及びこれに対する不法行為後の日である平 ,これらを併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属するとして,当該行為につき,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金74 25万円及びこれに対する不法行為後の日である平成29年12月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,本判決において書証を掲記する際には,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する ことがある。)(1) 原告が有する特許権(本件特許権,甲1,2)特許番号第3835543号発明の名称流体吐出管構造体出願日平成14年7月5日 登録日平成18年8月4日特許請求の範囲別紙「特許公報」記載のとおりなお,本件特許の願書に添付された明細書及び図面(以下,これらを併せて「本件明細書」という。)の記載は,上記別紙のとおりである。 (2) 構成要件の分説 本件各発明を構成要件にそれぞれ分説すると,本件発明1は別紙「構成要件目録1」,本件発明3は別紙「構成要件目録3」に各記載のとおりである。 (3) 被告の行為被告は,遅くとも平成21年頃から,原告が製造した加工液改良装置「BIX」を販売していたが,平成28年以降,加工液改良装置ないし加工液せん断装置 「BIX」を業として製造販売した(甲3~8,弁論の全趣旨。後者の被告製造に係- 3 -る製品のサイズは1/4inch,3/8inch,1/2inch,3/4inch,1inchの5種類があるところ,以下,製品サイズに従って「被告製品(1/4inch)」などといい,これらを併せて「被告各製品」という。)。 (4) なお,本件訴訟において, ch,3/4inch,1inchの5種類があるところ,以下,製品サイズに従って「被告製品(1/4inch)」などといい,これらを併せて「被告各製品」という。)。 (4) なお,本件訴訟において,原告は,当初,本件特許における請求項2の発明に係る特許権をも主張していたけれども,平成30年9月25日付け原告第3準備 書面により,被告各製品の構成が当該発明の構成要件を充足するとの主張を撤回した。 3 争点(1) 技術的範囲の属否(争点1)(2) 無効理由の存否(争点2) ア乙1発明を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如(争点2-1)イ乙2発明を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如(争点2-2)ウ乙3発明を主引例とする進歩性欠如(争点2-3)エ乙10発明を主引例とする進歩性欠如(争点2-4)オ明確性要件違反1(「所定の規則性」)(争点2-5) カ明確性要件違反2(「フリップフロップ現象発生用軸体」)(争点2-6)キ不完全発明(争点2-7)ク実施可能要件違反及びサポート要件違反(争点2-8)(3) 損害額(争点3)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(技術的範囲の属否)(原告の主張)(1) 被告各製品の構成及びその本件各発明の構成要件の充足被告各製品の構成は,別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載のとおりである。なお,被告各製品の構成は,製品ごとに大きな相違はないから,本件各発明 の構成要件を充足するか否かを検討するに当たり,製品ごとに検討する必要はない- 4 -ところ,被告製品(3/8inch)の写真及び図面は,別紙「被告製品(3/8inch)写真目録(原告主張)」及び「被告製品(3/8inch)図面目録(原告主張)」に各記 討する必要はない- 4 -ところ,被告製品(3/8inch)の写真及び図面は,別紙「被告製品(3/8inch)写真目録(原告主張)」及び「被告製品(3/8inch)図面目録(原告主張)」に各記載のとおりである。 これによれば,被告各製品の構成は,本件各発明の構成要件を全て充足する。具体的には,後記(2)のとおりである。 (2) 具体的な主張ア 「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」(構成要件C)の充足性(ア) 文言侵害a 本件特許に係る特許請求の範囲には,本件発明1の「流体吐出管構造体」を構成する部分として,「筒本体」と「吐出側接続部材」が記載されているけれども, これらを別体として設けるか,一体として設けるかについては記載されていない。 また,本件明細書においても,「筒本体」と「吐出側接続部材」を別体として設けるか,一体として設けるかについては言及されておらず,各部分の名称として記載されているにとどまる(【0006】,【0019】,図3)。 したがって,「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」(構成要件C)にお ける「吐出側接続部材」は,「筒本体」に,別体として設けられるものに限られず,筒本体と一体として形成されるものも含まれる。 b 被告各製品において,吐出側接続部材6は,筒本体2の他端部にこれと一体として設けられている。 c したがって,被告各製品は,「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」 (構成要件C)を充足する。 (イ) 均等侵害仮に,構成要件Cの「筒本体」と「吐出側接続部材」とは別体のものであると解釈される場合でも,以下のとおり,被告各製品は,本件各発明に係る特許請求の範囲記載の構成と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する。 a 第1要件- 5 は別体のものであると解釈される場合でも,以下のとおり,被告各製品は,本件各発明に係る特許請求の範囲記載の構成と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する。 a 第1要件- 5 -本件明細書記載の本件各発明の課題及びその解決手段並びに作用効果に鑑みると(【0004】~【0007】,【0041】,【0042】),本件各発明の本質的部分は,ひし形凸部を備えるなどした構造にある。 他方,筒本体と吐出側接続部材を別体として設けるか一体とするかという本件各発明と被告各製品との相違部分は,製造プロセス上任意になし得る選択事項にすぎ ず,本件各発明の本質的部分ではない。 したがって,被告各製品は,第1要件を充足する。 b 第2要件及び第3要件本件各発明と被告各製品との上記相違部分につき,本件各発明の構成を被告各製品のものと置き換えても,本件各発明の目的を達成することができ,同一の作用効 果を奏する。また,上記置換について,当業者は被告各製品の製造時点において容易に想到することができた。 したがって,被告各製品は,第2要件及び第3要件を充足する。 c 第4要件第4要件に係る後記被告の主張は否認ないし争う。 イ 「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)の充足性(ア) 意義「フリップフロップ現象発生用軸体」は,「フリップフロップ現象」を発生させるために使用する軸体であるところ,本件明細書の記載によれば(【0037】),本件各発明における「フリップフロップ現象」とは,「クーラント液等が,乱流と なり無数の微小な渦を発生させる現象」として定義付けられている。 他方,本件明細書の上記段落には,「フリップフロップ現象(フリップフロップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流 なり無数の微小な渦を発生させる現象」として定義付けられている。 他方,本件明細書の上記段落には,「フリップフロップ現象(フリップフロップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)」との記載もある。しかし,本件明細書には,本件各発明の「フリップフロップ現象」の意味につき,後者であることを示唆する記載がない一方で,前者であることと矛盾す る記載がないことからうかがわれるとおり,後者の記載は,電気・電子回路におけ- 6 -るフリップフロップの用語を流体に適用するとしたときの参考記載にすぎず,本件各発明の「フリップフロップ現象」の意味を明らかにした記載ではない。 したがって,「フリップフロップ現象」とは,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」を意味し,「フリップフロップ現象発生用軸体」とは,このようなフリップフロップ現象を発生させるために使用する軸体を意 味する。 (イ) 被告各製品の構成被告各製品は,「第2の軸体8」を始めとして構成a~gを備えていること,被告各製品のパンフレットにも,被告各製品がフリップフロップ現象を利用していることが記載されていること,被告の特許に係る特許公報には,その特許発明がフリ ップフロップ現象を利用していることが記載されていることに鑑みると,被告各製品の「第2の軸体8」は,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」である「フロップフロップ現象」を発生させるために使用される軸体といえる。 (ウ) 小括 したがって,被告各製品は,「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)を充足する。 ウ 「截頭円錐形」(構成要件F)の充足性前記(1)のとおり,被告各製品は,「截頭円錐形」(構成要件F)を充足する。 告各製品は,「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)を充足する。 ウ 「截頭円錐形」(構成要件F)の充足性前記(1)のとおり,被告各製品は,「截頭円錐形」(構成要件F)を充足する。 エ 「所定の規則性」(構成要件G)の充足性 (ア) 意義本件特許の特許請求の範囲請求項1と請求項2各記載の発明は,それぞれ別個の意味を有するところ,上記各記載を対比すると,請求項2は,請求項1における「ひし形凸部の形状」と「ひし形凸部の配置」を限定するものである。両者のこうした関係に鑑みると,本件発明1の「軸部の外周面に多数のひし形凸部を所定の規 則性を以って形成したもの」(構成要件G)とは,ひし形の形状そのものは問題と- 7 -しておらず,ひし形凸部の配置が所定の規則性を有すること,すなわち一定の規則性に基づいて形成されていることを意味すると解される。 ここで,一定の規則性とは,本件明細書記載のひし形凸部の研削加工方法(【0027】~【0029】)及びフリップフロップ現象を発生させるために必要なひし形の配置の仕方を併せ考慮すると,垂直方向に対する両頂部の傾きの角度とひし 形凸部の配置の間隔によって特定される。また,このうち角度は,「外周面」という特許請求の範囲の記載及び本件明細書図6から,ひし形凸部の上面のみを問題とすれば足りる。 (イ) 被告各製品の構成別紙「被告製品(3/8inch)写真目録(被告主張)」6の写真及び別紙「被告各製 品の『第2の軸体8』の写真目録(被告主張)」2~5の各写真のとおり,被告各製品の凸部32は,上記の意味での規則性に基づいて形成されていることは明らかである。また,被告の測定結果によっても,被告各製品の凸部32は,両頂部の長手方向に対する角度がほぼ同一であるし,配置の間隔 製品の凸部32は,上記の意味での規則性に基づいて形成されていることは明らかである。また,被告の測定結果によっても,被告各製品の凸部32は,両頂部の長手方向に対する角度がほぼ同一であるし,配置の間隔も肉眼で見ると有意な差を認められない。 (ウ) 小括したがって,被告各製品は,「所定の規則性」(構成要件G)を充足する。 オ 「ひし形凸部」(構成要件G)の充足性(ア) 意義「ひし形」は,「四辺の長さが互いに相等しい四角形」という数学的な意味のほ か,ひしげた四角形(押されてつぶれた四角形)という意味も有するところ,本件明細書では,「ひし形」の四辺の長さが互いに相等しいという記載はなく,むしろ,四辺について2種類のナンバリングをして区別されている(【0029】,図4及び5)。また,数学的な意味におけるひし形は二次元の概念であるが,本件各発明の「ひし形」は,「凸部」との記載が付加されていることから,三次元の概念であ り,二次元の概念である数学的な意味を前提としていない。さらに,本件明細書記- 8 -載の研削加工方法に従って「ひし形凸部」を形成する場合,四辺の長さが互いに相等しくなるとは限らないことは,当業者であれば容易に理解できる。 したがって,「ひし形凸部」の「ひし形」とは,数学的な意味でのひし形を意味するものではなく,ひしげた四角形を意味すると解される。 (イ) 被告各製品の構成 被告各製品の凸部32は,ひしげた四角形である。 (ウ) 小括したがって,被告各製品は,「ひし形凸部」(構成要件G)を充足する。 カ 「整流空間部」(構成要件L)の充足性本件各発明の実施品である原告が製造する製品の「整流空間部」と被告各製品の 「整流空間部」とは,クーラント液を整えるための空間としての有意な差は 。 カ 「整流空間部」(構成要件L)の充足性本件各発明の実施品である原告が製造する製品の「整流空間部」と被告各製品の 「整流空間部」とは,クーラント液を整えるための空間としての有意な差はない。 したがって,被告各製品は,「整流空間部」(構成要件L)を充足する。 キ本件各発明はマイクロバブルを発生させる構成のものを除外していないこと本件各発明は,「流体吐出管構造体」に関するものであるところ,「流体」が「気体と液体との総称」とされることに鑑みると,気体の吐出も当然の前提として いる。したがって,本件各発明は,マイクロバブルを発生させることを除く趣旨ではない。本件特許の出願経過において,本件各発明は乙13記載の発明(以下「乙13発明」という。)とは用途,目的において相違するとして補正したことはあるものの,これも,本件各発明につきマイクロバブルを発生させることを除く趣旨ではない。 したがって,被告各製品がマイクロバブルを発生させるからといって,本件各発明の技術的範囲に属さないわけではない。 (被告の主張)(1) 被告各製品の構成及びその本件各発明の構成要件の非充足被告各製品の構成は,別紙「被告各製品構成目録(被告主張)」記載のとおりで ある。なお,被告製品(3/8inch)の写真は,別紙「被告製品(3/8inch)写真目録- 9 -(被告主張)」に,被告各製品の「第2の軸体8」の写真は,別紙「被告各製品の『第2の軸体8』の写真目録(被告主張)」に,各記載のとおりである。 これによれば,被告各製品は,本件各発明の構成要件の全てを充足するものではない。具体的には,後記(2)のとおりである。 (2) 具体的な主張 ア 「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」(構成要件C)の充足性(ア) 文 発明の構成要件の全てを充足するものではない。具体的には,後記(2)のとおりである。 (2) 具体的な主張 ア 「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」(構成要件C)の充足性(ア) 文言侵害a 意義本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1の記載においては,その文言上,「筒本体」と「吐出側接続部材」とは別の部材として明確に区別されており,本件明細 書においても同様である(【0006】,【0019】,図3)。 したがって,「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」は,筒本体の他端部に,筒本体の別体として設けられる吐出側接続部材を意味する。 b 被告各製品の構成被告各製品には,独立の部材としての吐出側接続部材はなく,筒本体2の一部と して吐出側接続部が形成されている。 c 小括したがって,被告各製品は,「筒本体の他端部に設ける…吐出側接続部材」(構成要件C)を充足しない。 (イ) 均等侵害 以下のとおり,被告各製品は,本件各発明に係る特許請求の範囲記載の構成と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属するものではない。 a 第1要件原告の主張を前提とすれば,本件各発明の本質的部分は,少なくとも流体吐出管構造体(筒本体,入口側接続部材及び吐出側接続部材)が加圧室を介するものでは なく常圧室を介するものであることであるから,筒本体,入口側接続部材及び吐出- 10 -側接続部材の構造は,本件各発明の本質的部分の一部である。 したがって,筒本体と吐出側接続部材を別体として設けるか一体とするかの相違は,本件各発明の本質的部分の相違であるから,被告各製品は,第1要件を充足しない。 b 第2要件及び第3要件 第2要件及び第3要件に係る原告の主張は否認ないし争う。 c 第4要件「 違は,本件各発明の本質的部分の相違であるから,被告各製品は,第1要件を充足しない。 b 第2要件及び第3要件 第2要件及び第3要件に係る原告の主張は否認ないし争う。 c 第4要件「筒本体」と「吐出側接続部材」を一体とする構成及び他の被告各製品の構成は,それぞれ,本件特許出願時において公知の技術であり,また,公知の技術から当業者が容易に推考できたものであることから,被告各製品は,第4要件を充足しない。 イ 「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)の充足性(ア) 意義「フリップフロップ現象発生用軸体」は,「フリップフロップ現象」を発生させるために使用する軸体を意味する。 本件各発明の属する流体吐出管構造体(スタティックミキサー)の技術分野にお いて,フリップフロップ現象とは,渦の発生及び流体の流れる方向の周期的な交互の方向転換という2つの現象が発生することを意味する。また,「フリップフロップ現象」とは,電子工学の分野の用語に由来するところ,これを踏まえれば,「フリップフロップ」とは,「スイッチング(周期的な交互の方向転換)」という現象の発生を想起させる。これらに鑑みると,特許請求の範囲の記載から,「フリップ フロップ現象」とは,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」(渦の発生)と,「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」(流体の流れる方向の周期的な交互の方向変換)の両方を意味すると解される。 さらに,本件明細書には,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発 生させるフリップフロップ現象(フリップフロップ現象とは,流体の流れる方向が- 11 -周期的に交互に方向変換して流れる現象)」と記載されている(【0037】)。 これによれ 微小な渦を発 生させるフリップフロップ現象(フリップフロップ現象とは,流体の流れる方向が- 11 -周期的に交互に方向変換して流れる現象)」と記載されている(【0037】)。 これによれば,「フリップフロップ現象」は,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」(渦の発生)と,「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」(流体の流れる方向の周期的な交互の方向変換)の両方の現象として定義付けられているといえる。このような定義付けは,本件各 発明の属する流体吐出管構造体(スタティックミキサー)の技術分野における「フリップフロップ現象」の一般的な意味と整合する。他方,本件明細書には,【0037】以外に,「フリップフロップ現象」の意味内容を定義している記載はない。 したがって,「フリップフロップ現象」とは,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」(渦の発生)と,「流体の流れる方向が周期的 に交互に方向変換して流れる現象」(流体の流れる方向の周期的な交互の方向変換)の両方を意味する。 (イ) 被告各製品の構成a 「フリップフロップ現象」は,以下の5つの条件全てが満たされる場合に発生しやすくなり,いずれか1つでも満たさない場合には発生が困難となる。 ・流体の流入側に流体の流れを整えるための十分な長さ(例えば80mm の長さ)の整流空間部を有すること・第一平行流路要素群と第二平行流路要素群とを同一平面上で交叉させるものであること・前記第一平行流路要素群と前記第二平行流路要素群をおよそ15~90°程 度の挟角で交叉させるものであること・前記第一平行流路要素群と前記第二平行流路要素群の全体配置を略対称状とした構成であること,その結果前記第一平行 二平行流路要素群をおよそ15~90°程 度の挟角で交叉させるものであること・前記第一平行流路要素群と前記第二平行流路要素群の全体配置を略対称状とした構成であること,その結果前記第一平行流路要素群と前記第二平行流路要素群の交叉により形成される凸部は流れの方向に直線状に配列していること・前記第一平行流路要素群と前記第二平行流路要素群の交叉により形成される 凸部の個数を,流体の流れ方向に5列以上10列以下とすること- 12 -しかし,被告各製品は,上記5つの条件のいずれも満たしておらず,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」を発生させるものでもなければ,「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」を発生させるものでもない。 b 被告各製品のパンフレットに被告各製品がフリップフロップ現象を利用して いることが記載されていたことはあるものの,これは誤った記載である。これは,かつて原告から仕入れて販売していた製品のコア技術がフリップフロップ現象にあるという誤った説明を原告から受けていたことによるものである。 また,被告の特許に係る特許公報に同特許発明がフリップフロップ現象を利用していることが記載されているけれども,これも,上記理由による誤った記載である。 したがって,原告指摘に係るパンフレット等の記載は,被告各製品が,フリップフロップ現象を発生させるものであることを裏付けるものではない。 (ウ) 小括したがって,被告各製品は,「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)を充足しない。 ウ 「截頭円錐形」(構成要件F)の充足性(ア) 意義本件明細書には,「クーラント液等は…フリップフロップ現象発生用軸体8の截頭円錐形の一端部34aに送り込まれ F)を充足しない。 ウ 「截頭円錐形」(構成要件F)の充足性(ア) 意義本件明細書には,「クーラント液等は…フリップフロップ現象発生用軸体8の截頭円錐形の一端部34aに送り込まれ,この一端部34aと筒本体2の間の空間38で…再び脈流は整えられる。」と記載されている(【0036】)。「脈流」の 語義(「流れの向きは変わらずに,流れの量が時々変化するような電気又は流体の流れ」)に鑑みると,「脈流は整えられる」とは,「流体の流れの量を整える(流れの量が一定になるようにする)」ことを意味する。また,本件明細書には,(「截頭円錐形」を通過した)「クーラント液等は軸部30の外周面31に形成された所定の規則性を以った多数のひし形凸部32の間(複数の流路)に送り込ま れ」,「フリップフロップ現象」を発生させることが記載されている(【003- 13 -6】,【0037】)。上記イ(イ)のとおり,「フリップフロップ現象」を発生させるためには,流体の流入側において,脈流を整えるための十分な長さの空間を要する。 以上より,「截頭円錐形」(構成要件F)は,脈流(流体の流れの量)を整えることが可能な空間を形成できる十分な長さを有するものである。 (イ) 被告各製品の構成被告各製品の軸体の一端部の截頭円錐形34a又は略円柱形34a’は,流体の流れの量を整えることが可能な空間を形成できる十分な長さがない。 (ウ) 小括したがって,被告各製品は,「截頭円錐形」(構成要件F)を充足しない。 エ 「所定の規則性」(構成要件G)の充足性(ア) 意義「多数のひし形凸部を所定の規則性を以って形成したもの」の意味は,特許請求の範囲の記載からは一義的に明確ではない。そこで,本件明細書の記載を参酌すると(【0010】,【 )の充足性(ア) 意義「多数のひし形凸部を所定の規則性を以って形成したもの」の意味は,特許請求の範囲の記載からは一義的に明確ではない。そこで,本件明細書の記載を参酌すると(【0010】,【0018】,【0026】,【0028】~【0030】, 【0040】,図4,図5),多数のひし形凸部を「所定の規則性を以って形成したもの」とは,「両頂部が28°の鋭角を成すひし形であり,両頂部の傾きは上記軸部を平面視した場合に水平線に対して75°乃至76°を成し,かつ,上記軸部の外周面の上下左右に1個間隔に形成されている」ものに限定されると解される。 原告は,上記規則性につき,垂直方向に対する両頂部の傾きの角度とひし形凸部 の配置の間隔によって特定され,ここでの角度は,ひし形凸部の上面のみが問題となると主張する。しかし,特許請求の範囲の記載及び本件明細書図4に鑑みると,本件各発明は,ひし形凸部の配置の間隔が一定であることを前提としていない。また,本件明細書図3に鑑みると,ここでの角度は,軸部の外周面に直接接するひし形凸部の底面部が問題となる。 (イ) 被告各製品の構成- 14 -被告各製品の第2の軸体の凸部32における,底平面(凸部32の底面を真下から垂直に見た形),天井平面(凸部32の天井面を真上から垂直に見た形),及び底面から天井面までの,底面から天井面に向かう方向に対して垂直方向の各断面は,それぞれ,四辺の長さ及び四つの内角の角度が不均一な略四角形であり,その略四角形の角度は,「両頂部が28°の鋭角を成すひし形であり,両頂部の傾きは上記軸 部を平面視した場合に水平線に対して75°乃至76°を成」すものとは異なる角度である。また,当該凸部32は,本件明細書図4及び5に示された規則性によって形成されていない。 両頂部の傾きは上記軸 部を平面視した場合に水平線に対して75°乃至76°を成」すものとは異なる角度である。また,当該凸部32は,本件明細書図4及び5に示された規則性によって形成されていない。 仮に,特許請求の範囲の記載の解釈につき原告の主張によるとしても,被告各製品は,凸部32の両頂部の長手方向に対する角度は同一ではなく,凸部32の配置 の間隔も一定ではない。 (ウ) 小括したがって,被告各製品は,「所定の規則性」(構成要件G)を充足しない。 オ 「ひし形凸部」(構成要件G)の充足性(ア) 主位的主張 a 本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1には,「ひし形凸部」と記載されているところ,「ひし形」とは,「四辺の長さが互いに相等しい四辺形」である。 また,特許請求の範囲の記載は,他の請求項の記載と整合的に解釈すべきであるところ,請求項2には,「各ひし形凸部は,両頂部が28°の鋭角を成すひし形であり」と,両頂部の鋭角が同一の角度(28°)であることが明記されている。ここで は,「ひし形」という用語は数学的な意味で使用されている。 そうすると,本件特許の特許請求の範囲の記載における「ひし形」は,数学的な意味でのひし形を意味する。本件明細書の記載を見ても(【0043】,図4及び5),「ひし形」は,数学的な意味でのひし形として説明されている。 したがって,「ひし形凸部」の「ひし形」とは,数学的な意味でのひし形を意味 する。 - 15 -b 被告各製品の凸部32は,いずれも四辺の長さ及び四つの内角の角度が不均一な略四角形である。したがって,被告各製品の凸部32は,「ひし形凸部」(構成要件G)に当たらない。 (イ) 予備的主張a 仮に「ひし形凸部」につき原告主張の意味に解釈するとしても,「この両端 一な略四角形である。したがって,被告各製品の凸部32は,「ひし形凸部」(構成要件G)に当たらない。 (イ) 予備的主張a 仮に「ひし形凸部」につき原告主張の意味に解釈するとしても,「この両端 部の間である軸部の外周面に多数のひし形凸部を所定の規則性を以って形成したものである」との請求項の記載から,「ひし形凸部」は「所定の規則性を以って形成した」ものでなければならず,そのためには,「ひし形凸部」が,左右上下方向に一定の間隔で配置されると共に,長手方向に対して一定角度をもっている必要がある。そのように配置等されるためには,「ひし形凸部」は,全て同じ形状を有し, 両頂部の鋭角の角度も一定である必要がある。本件明細書の記載を見ても(【0010】,【0029】),このように解される。 したがって,仮に,「ひし形」が数学的な意味でのひし形でないとしても,「ひし形凸部」は,全て同じ形状であり,両頂部の鋭角の角度も一定である必要がある。 b 被告各製品の凸部32は,その形状に個体差があり,両頂部の鋭角の角度 も一定ではない。したがって,原告の主張を前提としても,被告各製品の凸部32は,「ひし形凸部」(構成要件G)に当たらない。 (ウ) 小括したがって,被告各製品は,「ひし形凸部」(構成要件G)を充足しない。 カ 「整流空間部」(構成要件L)の充足性 特許請求の範囲の記載によれば,「整流空間部」とは,「流体の流れを整える」部分である。 これに対し,被告各製品の隙間29は,製造の便宜上生じるものにすぎず,クーラント液の脈流を整えることができる程度の大きさが確保された空間ではない。そもそも,被告各製品は,「フリップフロップ現象」が発生するものではないから, クーラント液の脈流を整える必要はない。 - 16 - えることができる程度の大きさが確保された空間ではない。そもそも,被告各製品は,「フリップフロップ現象」が発生するものではないから, クーラント液の脈流を整える必要はない。 - 16 -したがって,被告各製品は,「整流空間部」(構成要件L)を充足しない。 キ本件各発明はマイクロバブルを発生させる構成のものを除外していること原告は,乙13発明を引用した拒絶理由通知に対し,本件発明1につき,マイクロバブルを発生させることを用途,目的とした乙13発明とは明らかに相違するものであると説明して補正した。このような出願経過に鑑みると,本件各発明は,そ の技術的範囲から,マイクロバブルを発生させる構成のものを除外している。 他方,被告各製品は,マイクロバブルを発生させて洗浄作用を高めるという目的,用途の製品である。したがって,被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属すると主張することは,出願経過禁反言の原則から許されない。 2 争点2-1(乙1発明を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如) (被告の主張)(1) 新規性欠如特開平4-247228号公報(以下「乙1公報」という。)には,本件各発明の構成要件の構成が全て開示されている。したがって,本件各発明の構成は,乙1公報記載の発明(以下「乙1発明」という。)の構成と同一であり,新規性を欠く から,本件各発明は,特許を受けることができないものであり(特許法29条1項3号),その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである(123条1項2号)。そうである以上,原告は,被告に対し,本件特許権を行使できない(104条の3第1項)。 (2) 進歩性欠如 仮に,本件各発明と乙1発明との間に相違点が存在するとしても,相違点に係る構成は,特開平10-216491号 に対し,本件特許権を行使できない(104条の3第1項)。 (2) 進歩性欠如 仮に,本件各発明と乙1発明との間に相違点が存在するとしても,相違点に係る構成は,特開平10-216491号公報(以下「乙2公報」という。)に開示されているか,技術常識に係るものである。乙1発明と乙2公報記載の発明(以下「乙2発明」という。)は,技術分野,課題並びに作用及び機能が共通することに鑑みると,本件各発明と乙1発明との相違点につき,乙1発明に,乙2発明及び技 術常識を適用することの動機付けはある。 - 17 -したがって,本件各発明の構成は,乙1発明に乙2発明及び技術常識を組み合わせることで,当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠き(特許法29条2項),その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告の主張)(1) 新規性欠如について 乙1発明は,本件発明1の構成要件のうち構成要件A~Fの構成を備えていない。 したがって,本件各発明は,いずれも乙1発明の構成と同一ではなく,新規性に欠けるところはない。 (2) 進歩性欠如について上記(1)のとおり,本件各発明と乙1発明との間には多数の相違点がある上,本件 各発明と乙1発明は,課題及びその解決手段並びに作用効果が相違しており,根本的に異なる発明であること,乙1公報には本件各発明を示唆する記載がないことに鑑みると,当業者は,乙1発明に基づき相違点に係る構成を容易に想到することができない。 したがって,本件各発明は,進歩性に欠けるところはない。 3 争点2-2(乙2発明を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如)(被告の主張)(1) 新規性欠如乙2公報には,本件各発明の構成要件の構成が全て開示されている。したがって,本件各発 3 争点2-2(乙2発明を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如)(被告の主張)(1) 新規性欠如乙2公報には,本件各発明の構成要件の構成が全て開示されている。したがって,本件各発明の構成は,乙2発明の構成と同一であり,新規性を欠くから,その特許 は特許無効審判により無効にされるべきものである。 (2) 進歩性欠如仮に,本件各発明と乙2発明との間に相違点が存在するとしても,相違点に係る構成は,乙1公報に開示されているか,技術常識に係るものである。前記のとおり,乙2発明と乙1発明は,技術分野,課題並びに作用及び機能が共通することに鑑み ると,本件各発明と乙2発明との相違点につき,乙2発明に,乙1発明及び技術常- 18 -識を適用することの動機付けはある。 したがって,本件各発明は,乙2発明に乙1発明及び技術常識を組み合わせることで,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠くから,その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告の主張) (1) 新規性欠如について乙2発明は,本件発明1の構成要件のうち構成要件D~Gの構成を備えていない。 したがって,本件各発明は,いずれも乙2発明の構成と同一ではなく,新規性に欠けるところはない。 (2) 進歩性欠如について 上記(1)のとおり,本件各発明と乙2発明との間には多数の相違点がある上,本件各発明と乙2発明は,課題及びその解決手段並びに作用効果が相違すること,乙1公報には本件発明1を示唆する記載がないこと,乙2発明は乙1発明の改良発明であることに鑑みると,当業者は,乙2発明に基づき相違点に係る構成を容易に想到することができない。 したがって,本件各発明は,進歩性に欠けるところはない。 4 争点2-3(乙3発明を 発明であることに鑑みると,当業者は,乙2発明に基づき相違点に係る構成を容易に想到することができない。 したがって,本件各発明は,進歩性に欠けるところはない。 4 争点2-3(乙3発明を主引例とする進歩性欠如)(被告の主張)特開2001-293636号公報(以下「乙3公報」という。)には,気泡発生器52として,株式会社OHR流体工学研究所製の撹拌混合装置(以下「OHRミキ サー」という。)が挙げられているところ,OHRミキサーは,本件特許出願当時周知のものであり,その構成は特開昭62-294475号公報(以下「乙5公報」という。)等に開示されている。そうすると,乙3公報には,乙5公報に開示されたOHRミキサーの構成が実質的に開示されているといえる。 この点をも踏まえると,本件各発明と乙3発明との間に相違点が存在するとして も,相違点に係る構成は,乙1公報又は乙2公報に開示されているか,技術常識に- 19 -係るものである。また,乙3発明と乙1発明は,技術分野,課題並びに作用及び機能が共通することなどに鑑みると,本件各発明と乙3発明との相違点につき,乙3発明に,乙1発明及び乙2発明並びに技術常識を適用することの動機付けはある。 したがって,本件各発明は,乙3発明に乙1発明及び乙2発明並びに技術常識を組み合わせることで,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠くから, その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告の主張)この点に係る被告の主張は,乙3公報に,乙5公報に開示されたOHRミキサーの構成が開示されていることを前提とする。しかし,乙3公報には,乙5公報に開示されたOHRミキサーの構成についての記載も示唆もない。 この点を措くとしても,OHRミキサーは,本件発 ミキサーの構成が開示されていることを前提とする。しかし,乙3公報には,乙5公報に開示されたOHRミキサーの構成についての記載も示唆もない。 この点を措くとしても,OHRミキサーは,本件発明1とは全く異なる構成である上,乙1発明及び乙2発明とは,課題の解決手段が相違することに鑑みると,当業者は,乙3発明に乙1発明及び乙2発明を組み合わせて相違点に係る構成を容易に想到することができない。 したがって,本件各発明は,進歩性に欠けるところはない。 5 争点2-4(乙10発明を主引例とする進歩性欠如)(被告の主張)技術的範囲の属否につき原告の主張を前提とすると,以下のとおり,本件各発明は,特開平10-94723号公報(以下「乙10公報」という。)記載の発明(以下「乙10発明」という。)並びに技術常識ないし乙1公報記載の技術に基づ き当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠くから,その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 すなわち,乙10発明は,本件各発明の構成要件A~C,G,H,Lの構成を備えており,本件各発明と乙10発明の相違点は,構成要件D~F及びMの構成である。しかし,これらの相違点に係る構成は,技術常識に係るものであるか,乙1公 報に開示されている。乙10発明と乙1公報記載の技術とは,技術分野,課題並び- 20 -に作用及び機能が共通するだけでなく,乙10発明の構成に技術常識の知見を適用して本件各発明の構成に変更することは,乙10公報に示唆されている技術的事項であることなどに鑑みると,乙10発明に,技術常識ないし乙1公報記載の技術を適用することの動機付けがあるといえる。 したがって,本件各発明は,乙10発明に技術常識及び乙1公報記載の技術を組 み合わせることで,当業者 と,乙10発明に,技術常識ないし乙1公報記載の技術を適用することの動機付けがあるといえる。 したがって,本件各発明は,乙10発明に技術常識及び乙1公報記載の技術を組 み合わせることで,当業者が容易に想到し得たものである。 (原告の主張)本件発明1の構成要件D及びEの構成に係る相違点についてみると,乙10発明は,本件発明1のように,それ自体竜巻のような流れを発生させつつ,クーラント液を軸体にスムーズに送り込むための「螺旋羽根本体」や,クーラント液等を乱流 とし無数の微小な渦を発生させる現象を発現させる「フリップフロップ現象発生用軸体」などのように多数の段階を経た機構を備えるものではないから,被告が主張するように乙10発明に技術常識ないし乙1公報記載の技術を適用しても,本件発明1との相違点は解消されない。 また,構成要件Fの構成に係る相違点である第2の軸体の端部の形状は,単なる 設計的事項ではない。 そうである以上,当業者は,乙10発明に技術常識ないし乙1公報記載の技術を組み合わせて相違点に係る構成を容易に想到することができない。 したがって,本件各発明は,進歩性に欠けるところはない。 6 争点2-5(明確性要件違反1〔「所定の規則性」〕) (被告の主張)「所定の規則性」につき原告の主張を前提とすると,両頂部の傾きの角度は本件明細書においても限定されておらず(【0040】),「所定の規則性」を特定できない。このため,当業者にとって,「所定の規則性」の意義は,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても理解困難であるから,本件各発明は不明確である。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとす- 21 -る発明が明確であること」(特許法36条6項2号。明確性要件)に違反す ら,本件各発明は不明確である。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとす- 21 -る発明が明確であること」(特許法36条6項2号。明確性要件)に違反するものであり,その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである(123条1項4号)。 (原告の主張)前記1(原告の主張)(2)エ(ア)のとおり,特許請求の範囲及び本件明細書の各記載 等から,「所定の規則性」は,ひし形の配置方法,すなわち垂直方向に対する両頂部の傾きの角度とひし形凸部の配置の間隔によって特定されるということは,当業者は容易に理解できる。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を満たす。 7 争点2-6(明確性要件違反2〔「フリップフロップ現象発生用軸体」〕) (被告の主張)原告主張に係る本件各発明における「フリップフロップ現象」の解釈は,本件発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書のいずれにも記載されておらず,その示唆もない。したがって,仮に,「フリップフロップ現象」の意義につき原告主張のとおり解釈するとすれば,本件各発明の技術的範囲は曖昧となり不明確となる。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件に違反し,その特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告の主張)発明において発生メカニズムを明確にする必要は必ずしもなく,また,「フリップフロップ現象発生用軸体」という名称を付してはいるものの,その軸体の形状は, 本件明細書の記載から,当業者であれば容易に理解できるのであって,何ら不明確な点はない。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を満たす。 8 争点2-7(不完全発明)(被告の主張) ら,当業者であれば容易に理解できるのであって,何ら不明確な点はない。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を満たす。 8 争点2-7(不完全発明)(被告の主張) 本件各発明は,「フリップフロップ現象」,すなわち,「クーラント液等が,乱- 22 -流となり無数の微小な渦を発生させる現象」(渦の発生)と,「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」(流体の流れる方向の周期的な交互の方向変換)の両方を発生させる発明である。この「フリップフロップ現象」は,前記1(被告の主張)(2)イの5つの条件を満たして初めて発生する。しかし,本件各発明の構成は,上記5つの条件を満たさず,「フリップフロップ現象」は発生しな い。 したがって,本件各発明は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条1項)ではないから,「発明」(29条1項柱書)に当たらず,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである(123条1項2号)。 (原告の主張) 本件各発明における「フリップフロップ現象」は,被告の主張と異なり,「クーラント液等が,乱流となり無数の微小な渦を発生させる現象」を意味するものである。これが「フリップフロップ現象発生用軸体」を通過することによって生じていることは明らかであるから,被告主張に係る無効理由はない。 9 争点2-8(実施可能要件違反及びサポート要件違反) (被告の主張)本件明細書には,「フリップフロップ現象」が発生するための前記1(被告の主張)(2)イの5つの条件が記載されていないことから,「フリップフロップ現象発生用軸体」の構造について,本件各発明に係る発明の詳細な説明には,当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされていると つの条件が記載されていないことから,「フリップフロップ現象発生用軸体」の構造について,本件各発明に係る発明の詳細な説明には,当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。こ のため,本件各発明に係る発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号(実施可能要件)に違反する。 また,同様の理由から,本件発明1に係る特許請求の範囲の「フリップフロップ現象発生用軸体」との記載は,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとして発明の詳細な説明に記載されておらず,また,出願時の技術常識 に照らしても,当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない。こ- 23 -のため,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,同条6項1号(サポート要件)に違反する。 したがって,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである(123条1項4号)。 (原告の主張) 被告の主張は,本件各発明における「フリップフロップ現象」に関する被告の主張を前提とするものである。しかし,そもそもその前提が誤っているとともに,本件各発明において流体吐出菅構造体の具体的な構成は明らかにされている以上,当業者であれば十分に実施可能であるから,被告主張に係る無効理由はない。 争点3(損害額) (原告の主張)(1) 逸失利益被告は,平成28年1月~平成29年6月までの間に,被告各製品を販売したことにより,少なくとも6750万円の利益を得た。したがって,原告の被った損害額は,少なくとも6750万円である(特許法102条2項)。 (2) 弁護士及び弁理士費用被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士及び弁理士費用相当損害額は,675万円を下らない。 (被告 も6750万円である(特許法102条2項)。 (2) 弁護士及び弁理士費用被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士及び弁理士費用相当損害額は,675万円を下らない。 (被告の主張)否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明等の技術的意義本件明細書の記載によれば,本件各発明を始めとする本件特許に係る発明の技術的意義は,次のとおりと認められる。 (1) 本件各発明の属する技術分野(【0001】) 本件各発明は,切削機械や研削機械等の各種の工作機械の刃物と加工物との接触- 24 -箇所にクーラント液(冷却水)や切削・研削油を供給したり,エンジンのクランクや,プレスのクランク,線引きダイス等に潤滑油を供給するのに使用する流体吐出管構造体に関するものである。 (2) 従来の技術(【0002】,【0003】)一般に金属材料等を所望の形状に加工する場合は,旋盤やボール盤やフライス盤 等の工作機械により,所定位置に固定された工作物にバイトやドリル等の刃物を作用させて所望の形状に加工している。この加工中は,例えば工作機械に備えたタンクに貯留されたクーラント液をポンプにより配管・ノズルを介して刃物や工作物に供給し,摩擦熱による刃先の硬さ低下や工作物の歪や刃先への工作物の溶着等を防止したり,切りくずを容易に除去できたりするようにしている。 (3) 本件各発明が解決しようとする課題(【0004】,【0005】)金属加工等の業界においては,より冷却性能の高いクーラント液等を上記の刃物や工作物に供給できて,刃物寿命を今まで以上に長くでき,刃物交換期間を長くしてランニングコストを大幅に低減できるとともに,摩擦熱による刃先や工作物への悪影響をさらに低減できるようにしたいと考え 刃物や工作物に供給できて,刃物寿命を今まで以上に長くでき,刃物交換期間を長くしてランニングコストを大幅に低減できるとともに,摩擦熱による刃先や工作物への悪影響をさらに低減できるようにしたいと考えている。本件各発明の目的は,各種 の工作機械で加工中の工作物と刃物に冷却効果の高いクーラント液や切削・研削油を供給できて刃物寿命を従来に比べ一段と向上させることができ,また各種装置や機器の所望部材に潤滑性能を向上させた潤滑液を供給できる流体吐出管構造体を提供することにある。 (4) 課題を解決するための手段(【0006】~【0013】) 本件発明1においては,その構成を採用することにより,クーラント液等は入口側接続部材側から筒本体内に供給されると,螺旋羽根本体を通過することによって強烈な竜巻流となり,さらにフリップフロップ現象発生用軸体を通過することによって乱流とともに無数の微小な渦を発生させ,吐出側接続部材の内壁面を伝わって吐出される。この吐出されたクーラント液等を工作機械の刃物と工作物に供給する ことにより,上記の渦等が刃物や工作物の表面に絡み付いて今まで以上に冷却効果- 25 -を高めることができる。そしてクーラント液が筒本体内のフリップフロップ現象発生用軸体を通過する際,截頭円錐形の一端部と筒本体との間の隙間空間によって一旦,脈流を整えることができ,この脈流の整ったクーラント液等を所定の規則性を以って形成した多数のひし形凸部の間(複数の流路)を通過することによって,フリップフロップ現象を発生し,円錐形の他端部と筒本体との間の隙間空間を通過す ることにより,渦等の発生したクーラント液が内壁面を伝うコアンダ効果を増大させることができる。 本件特許の請求項2に係る発明は,その構成を採用することにより,最適にフ の間の隙間空間を通過す ることにより,渦等の発生したクーラント液が内壁面を伝うコアンダ効果を増大させることができる。 本件特許の請求項2に係る発明は,その構成を採用することにより,最適にフリップフロップ現象を発生させて微小な無数の渦を含んだクーラント液等を効果的に得ることができる。 本件発明3は,その構成を採用することにより,クーラント液等をポンプで供給した場合に,ポンプの回転方向により右旋回流又は左旋回流となって筒本体内に流れ込むクーラント液の脈流を,整流空間部を設けることによって整えることができる。 (5) 本件各発明の効果(【0041】~【0045】) 本件発明1は,流体吐出管構造体を介して工作機械の刃物や工作物にクーラント液を供給することにより,従来以上にクーラント液が刃物や工作物にまとわり付き,これらを効果的に冷却し,現状使用刃物の寿命を延長させて大幅なコストダウンを実現することができる。また,上記クーラント液を供給することにより,加工による摩擦熱が工作物内部に蓄積されにくく,加工物の歪の発生を抑制することができ て,仕上げ加工までの連続加工作業を効率よく行うことができる。また,フリップフロップ現象発生用軸体は,効果的にフリップフロップ現象を発生させるとともにコアンダ効果を高め,冷却性能の増したクーラント液等を供給することができる。 本件特許の請求項2に係る発明は,最適にフリップフロップ現象を発生させて微細な無数の渦を発生させることができる。 本件発明3は,筒本体内に流れ込むクーラント液の脈流を整流空間部を設けるこ- 26 -とによって整えることができる。 また,フリップフロップ現象発生用軸体を通過したクーラント液等は,吐出側接続部材のテーパ状の内周壁によってコアンダ効果 液の脈流を整流空間部を設けるこ- 26 -とによって整えることができる。 また,フリップフロップ現象発生用軸体を通過したクーラント液等は,吐出側接続部材のテーパ状の内周壁によってコアンダ効果を増して,筒本体から外に吐出されて工作機械の刃物や工作物等に供給されたときに,外表面にまとわりついて一段と冷却効果や潤滑効果を高めることができる。 2 争点1(技術的範囲の属否)のうち,「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)の充足性(1) 「フリップフロップ現象発生用軸体」の意義ア本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1の「フリップフロップ現象発生用軸体」との記載は,その文言から,本件発明1の流体吐出菅構造体において「フリ ップフロップ現象」が発生することを前提として,これを発生させるために使用される軸体を意味するものと理解される。本件明細書の記載を見ても,前記1(4),(5)のとおり,本件発明1は,クーラント液が「フリップフロップ現象発生用軸体」を通過することによってフリップフロップ現象を発生させるなどして,その課題を解決するものであることが理解される。 そうすると,「フリップフロップ現象発生用軸体」という文言は,単に部材の名称として用いられているのではなく,フリップフロップ現象を発生させる軸体を意味する。 イ 「フリップフロップ現象」の意義(ア) 本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1には, 「上記筒本体の吐出側接続 部材寄りに内蔵するフリップフロップ現象発生用軸体とからなり」(構成要件E),「上記フリップフロップ現象発生用軸体は,一端部を截頭円錐形に形成するとともに他端部を円錐形に形成し」(構成要件F)との記載はあるものの,これらの記載によっては,「フリップフロップ現象」の意義は ,「上記フリップフロップ現象発生用軸体は,一端部を截頭円錐形に形成するとともに他端部を円錐形に形成し」(構成要件F)との記載はあるものの,これらの記載によっては,「フリップフロップ現象」の意義は一義的に明確ではない。 (イ) 本件明細書の記載 「フリップフロップ現象」について,本件明細書には,「上記の構成により,…- 27 -さらにフリップフロップ現象発生用軸体を通過することによって乱流とともに無数の微小な渦を発生させ」(【0007】),「規則性を以った多数の各ひし形凸部32の間(複数の流路)を通過するクーラント液等は,乱流となり無数の微小な渦を発生させるフリップフロップ現象(フリップフロップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)を起こしながらフリップフロップ現 象発生用軸体8の他端部34b側に流動していく。この円錐形の他端部34bに流れ込んだクーラント液等は,吐出側接続部材6との隙間空間の広さによる上記フリップフロップ現象以上の竜巻流の発生によってフリップフロップ現象はかき消される」(【0037】)との記載があり,このほかに,本件各発明における「フリップフロップ現象」の意義をうかがわせる記載はない。 これらの記載を総合的に見ると,本件明細書において,「フリップフロップ現象」の語は,「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」として定義される(【0037】)とともに,フリップフロップ現象発生用軸体を通過することにより,当該現象の結果として「クーラント液等」が「乱流となり無数の微小な渦を発生」した状態を指す語としても使用されているものと理解するのが合 理的である。 (ウ) 本件特許出願当時における当業者の理解本件各発明と共通する技術分野における「フリップフロ 微小な渦を発生」した状態を指す語としても使用されているものと理解するのが合 理的である。 (ウ) 本件特許出願当時における当業者の理解本件各発明と共通する技術分野における「フリップフロップ現象」ないしこれに類する語の意義に言及した本件特許出願(平成14年7月5日)以前の文献には,以下のa~gの記載がある。これらの記載によれば,「フリップフロップ現象」の 語は,渦の形成に着目した説明がされている場合も見られるものの,おおむね,流体の流れの周期的な振動ないし方向変換を意味するものとして使用されていることがうかがわれる。そうすると,本件特許出願当時における当業者は,「フリップフロップ現象」につき,本件明細書の表現によれば「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」の意味に理解するものと思われる。 a 特開平9-310703号公報(乙14)- 28 -「前者の場合は,ネットワーク交差管路内で,電子工学での双安定マルチバイブレータであるフリップ・フロップ回路と同様な振動流れが顕著にあらわれた」(【0004】)「この状態での流れはフリップ・フロップ回路の電流と同様な振動流れとなる。」(【0019】) b 特開2000-94261号公報(乙15)「フリップフロップ現象は,複数の交差管により形成されるネットワーク端末に現れ,噴流をその管の半径方向に周期振動させる。」(【0022】)「図4において,液室15からクーラントが所定の圧力で供給されているので,液室15のクーラントは溝18cに液流L1aとして流れ,また,溝17bから液 流L1bとして流れる。そして,二つの液流L1aとL1bは溝17bと18cが交差する交差路M1で合流する。この時交差路M1の経路は狭くなっているので流速が急激に て流れ,また,溝17bから液 流L1bとして流れる。そして,二つの液流L1aとL1bは溝17bと18cが交差する交差路M1で合流する。この時交差路M1の経路は狭くなっているので流速が急激に上昇する。この流速変化に伴い液流L1aとL1bの持つ流れ方向の乱れ成分は溝断面方向の乱れ成分に変換される。交差路M1を通過した液流L1aとL1bの半分は溝17bを流れ,残りの半分は溝18cを流れる。前者の液流は交 差路M2で溝18bを流れてくる,流れ方向の乱れ成分を溝断面方向の乱れ成分に変換された液流と合流し,交差路M2で更に流れ方向の乱れ成分が溝断面方向の乱れ成分に変換されその偏倚が増幅される。さらに交差路M2を通過した液流は,溝18bを通って出口部の合流点MOに至る。また,溝17cを通って流れる液流も交差路M3で偏倚が増幅され合流点MOに至る。合流点MOでは流れに略直角方向 の乱れ成分比率が増加した2つの液流が合流し夫々の液流が持つ乱れ成分が周期的振動成分に変換される。即ち,溝によって形成される流路のネットワーク構造は,流体の乱れ成分を制御しその溝を流れる液流の合流点において『フリップフロップ』現象を起こし,液流の半径方向に流れを周期的に振動させる。図示するように周期的振動流が複数の合流部に発生し,それらの周りに流出しているスリット流と 共に膜厚の厚い液膜壁が形成される。」(【0023】)- 29 -(図4)c 特開2000-130411号公報(乙16)「物体は千鳥状に配置した流路においては,交差部において流れの半径方向に周期振動を起こすフリップフロップ現象が生じる。このフリップフロップ現象は,変動速度成分を経時的に吸収する機構であり,この変動速度成分を主軸流れの半径方 向の周期的振動に転換することで知ら 向に周期振動を起こすフリップフロップ現象が生じる。このフリップフロップ現象は,変動速度成分を経時的に吸収する機構であり,この変動速度成分を主軸流れの半径方 向の周期的振動に転換することで知られている。」(【0012】)「この発明の重要な基本原理であるフリップフロップ現象の詳細についてさらい以下に説明する。このフリップフロップ現象は物体後流の速度変動が周期性を持つことを利用している。例えば,速度Vの流れの中に,物体があるとその物体から互に反対に回転する渦が交互に生じて後方に流されていくため,物体後流の速度変動 に周期性が生ずる。」(【0020】)「周期的に渦の剥離が起こり,後流噴出口において噴流を上下に振動させるフリップフロップ現象を起こす。」(【0023】)d 特開2001-21168号公報(乙17)「振動発生管路体は,ネットワーク管路を構成することによって,流体を出口側 において左右方向に交互に流出させるいわゆる流体フリップフロップ現象を発生することができる。」(【0007】)e 特開2001-62272号公報(乙18)「ネットワーク管路部20は,図4に示す如く,4本以上(図例では6本)の管路からなる一群の平行管路(一点鎖線)16と,同じく4本以上の管路からなる他 - 30 -の一群の平行管路(二点鎖線)18を凡そ15~90°(望20°~60°,さらに望ましくは25~40°)程度の挟角αで交叉させ,且つ,管路群の全体配置を略対称状とした構成とすることが,液体の噴出方向を周期的に交互に方向変換できる,いわゆる,振れ子噴出(フリップフロップ噴出)を発生させることができる。挟角αが小さすぎても大き過ぎてもコアンダ効果(壁への流脈付着現象)が得難くて液体噴 射に際して振れ子噴出(フリップフロッ いわゆる,振れ子噴出(フリップフロップ噴出)を発生させることができる。挟角αが小さすぎても大き過ぎてもコアンダ効果(壁への流脈付着現象)が得難くて液体噴 射に際して振れ子噴出(フリップフロップ噴出)を発生させ難くなる。さらに,挟角αが小さすぎると,方向変更の振れ角度が小さくなり,結果的に広範囲頒布に適しなくなる。」(【0015】)(図4)なお,これと同一の表現は,特開2001-62351号公報(乙19)の【0 017】及び図3にも見られる。 f 特開2001-219132号公報(乙20)「ネットワーク流路10の構成及び作用を,図1に基づいて,具体的に説明する。」(【0010】)「具体的には,ネットワーク流路10は,4本(図例では6本)以上の流路から なる一群の平行流路(一点鎖線)12と,同じく4本以上の流路からなる他の一群の平行流路(二点鎖線)14を凡そ15~90°(望ましくは20~60°,さらに望ましくは25°~40°)程度の挟角αで交叉させ,且つ,流路群の全体配置を略対称状とした構成とする。当該構成により,流体の噴出方向を周期的に交互に方向変換できる,いわゆる,流れに振り子流動(フリップフロップ流れ)を発生させること - 31 -ができる。挟角αが小さすぎても大き過ぎてもコアンダ効果(壁への流脈付着現象)が得難くて流体に振り子運動(フリップフロップ流れ)を発生させ難くなる。」(【0012】)「フリップフロップ流れとは,電子工学でのフリップフロップ回路に見られるスイッチング現象と同様の左右への流体振動を伴うものを言う。」(【0015】) 「『ひし形凸部』の管路内では,ひし形凸部の背後における流路の断面変化に伴って,ひし形凸部の周りに渦の連結振動が顕著に現れる。しかし,『円形凸部』の 振動を伴うものを言う。」(【0015】) 「『ひし形凸部』の管路内では,ひし形凸部の背後における流路の断面変化に伴って,ひし形凸部の周りに渦の連結振動が顕著に現れる。しかし,『円形凸部』の管路内でのフリップフロップ流れの振動状況については,『ひし形凸部』におけるような渦の連結振動までは発現せず,フリップフロップ流れの発現の顕著さ(レベル)が異なる。」【0018】 (図1)g 梅田眞三郎ほか「菱形角柱群管路内の交差流れの可視化」(可視化情報学会論文集Vol.21 No.3(2001年3月)pp.51-57。乙21)「梅田らは,…配列された物体間の中心を結ぶ交線の鋭角である配列交差角が30°の場合には,管路内の物体背後に形成される渦が連結振動を起こし,それに伴って 管路末端からの流出噴流が純流体素子からの噴流と同様の左右への振動現象を示すことを発見している。これは,電子工学でのフリップ・フロップ回路のスイッチングと同様の現象であることから,フリップ・フロップ現象と呼ばれている。」(51頁左欄下から3行目~同右欄8行目)(エ) 「ビックスの原理:研削・切削加工液改良装置『BIX(ビックス)』:株式 会社塩」と題するウェブサイト(甲3。なお,「Copyright © 2009 SioCo.,Ltd」と- 32 -の記載から,当該サイトの作成は平成21年頃と見られる。)「ビックスの原理:研削・切削加工液改良装置『BIX(ビックス)』:株式会社塩」と題するウェブサイトには,以下の記載がある。当該サイトは,本件特許の特許登録(平成18年8月4日)後に作成されたものであるが,本件特許の特許番号のほか,末尾に「ビックス開発・製造元」として原告名が記載されていることも考 慮すると,本件各発明における「フリッ の特許登録(平成18年8月4日)後に作成されたものであるが,本件特許の特許番号のほか,末尾に「ビックス開発・製造元」として原告名が記載されていることも考 慮すると,本件各発明における「フリップフロップ現象」の意義に関する原告及び被告(少なくとも被告)の認識をうかがわせるものといえる。 「ビックスは『フリップフロップ流れ』を応用しています。水などの流体を菱形の柱を網目状に配列した四角の管に通すと,管内に生じる渦により,管体から噴出する液体が,左右に規則正しくスイッチングする現象のことをフリップフロップ流 れと言います。」(1枚目「フリップフロップ現象がビックスのコア技術」の項)(オ) 小括以上によれば,本件明細書において,「フリップフロップ現象」とは,基本的には①「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」を意味し,ただ,文脈によっては,この意味でのフリップフロップ現象の結果として生じた,② 「クーラント液等」が「乱流となり無数の微小な渦を発生」した状態を指す語としても使用されることがあるものと解される。ここで,上記②の意味での使用は,あくまで①の意味におけるフリップフロップ現象の発生を前提とした,いわば派生的ないし便宜的な使用と位置付けられる。 そうすると,本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1に記載された「フリップ フロップ現象発生用軸体」の「フリップフロップ現象」の意味については,上記①の意味のものとして理解するのが適当である。 (カ) 当事者の主張についてa 被告は,本件各発明における「フリップフロップ現象」とは,上記①及び②の両方を意味すると主張する。しかし,その主張がこれら2つの意味を満たさなけ れば「フリップフロップ現象」に当たらないとする趣旨であれば,上記のとおり, リップフロップ現象」とは,上記①及び②の両方を意味すると主張する。しかし,その主張がこれら2つの意味を満たさなけ れば「フリップフロップ現象」に当たらないとする趣旨であれば,上記のとおり,- 33 -この点に関する被告の主張は採用できない。 b 原告は,本件各発明における「フリップフロップ現象」とは,上記②の意味であり,上記①の意味を記載した本件明細書【0037】の括弧書き部分の記載は,電気・電子回路における「フリップフロップ」の用語を流体に適用するとしたときの参考記載にすぎないと主張する。 しかし,本件明細書において,電気・電子回路における「フリップフロップ」の用語に言及した記載はなく,また,文脈としても,ここで参考記載として電気・電子回路におけるフリップフロップ現象に言及する必然性も必要性もうかがわれない。 そもそも,本件特許の出願に先行する各文献の記載(前記(ウ))によれば,本件特許出願当時,「流体」に関する技術分野においても「フリップフロップ現象」等の語 が上記①の意味で広く用いられていたことが認められることに鑑みると,上記①の意味での理解を排除する趣旨であることをうかがわせる記載がないにもかかわらず,上記①の意味の記載は参考記載にすぎず,本件各発明においては上記②の意味でのみ「フリップフロップ現象」の語が使用されているとは考え難い。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。 3 被告各製品の構成及び「フリップフロップ現象発生用軸体」の充足性(1) 被告各製品の構成証拠(甲9,10,乙26)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,別紙「被告各製品構成目録(被告主張)」記載のとおりの構成を有すること,このうち,被告製品(3/8inch)は,「第2の軸体8」を含め,別紙「被告製品(3 6)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,別紙「被告各製品構成目録(被告主張)」記載のとおりの構成を有すること,このうち,被告製品(3/8inch)は,「第2の軸体8」を含め,別紙「被告製品(3/8inch)写真 目録(被告主張)」1及び2に記載のとおりの構成を備えていることが認められる。 (2) 被告各製品の「第2の軸体8」と「フリップフロップ現象発生用軸体」原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」の意味での「フリップフロップ現象」を発生させるために使用される軸体であることを直接的に裏付け,これを認めるに足りる証拠を提出 しない。 - 34 -かえって,証拠(乙40)によれば,被告が,「第2の軸体8」を通過するクーラント液の状況を検証するため,被告製品(3/8inch)について,本来金属製である接続機構6’を含む筒本体2及び入口側接続部材4を,下記【参考写真】のように透明プラスチック製のものにした上で(以下「実験対象物」という。),その内部にクーラント液を通過させる実験を行ったところ,クーラント液につき,実験対象 物の入口側接続部材から流入し始めてから16分22秒の間,「第2の軸体8」の軸部の外周面に形成された凸部32の間の交差流路を流れる際,その「流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」すなわち「フリップフロップ現象」の発生が観察されなかったことが認められる。この実験結果の信用性につき,本来金属製の部分を透明プラスチック製のものとしたことを考慮しても,疑義を差し挟む べき具体的な事情はない。 【参考写真】 また,前記認定によれば,被告各製品の「第2の軸体8」の構成は,主として凸部32の形状につき各製品相互間で異なるものと見られる ,疑義を差し挟む べき具体的な事情はない。 【参考写真】 また,前記認定によれば,被告各製品の「第2の軸体8」の構成は,主として凸部32の形状につき各製品相互間で異なるものと見られる。もっとも,被告製品 (3/8inch)の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させなかったにもかかわらず,他の被告製品(1/4inch,1/2inch,3/4inch,1inch)の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させるものであると見るべき具体的な事情はない。 原告自身,被告各製品の構成には,本件各発明の構成要件充足性を検討するに当たって,有意な相違はないと主張しているところでもある。 - 35 -以上によれば,被告各製品の「第2の軸体8」は,クーラント液を通過させても「フリップフロップ現象」を発生させ得るものと認めることはできない。そうである以上,被告各製品の「第2の軸体8」は,「フリップフロップ現象発生用軸体」(構成要件E,F)に当たらない(なお,仮に,被告各製品が,別紙「被告各製品構成目録(原告主張)」記載のとおりの構成を有するとしても,その「第2の軸体 8」が,クーラント液を通過させると「フリップフロップ現象」を発生させ得るものと認めることはできないことに変わりはないから,上記結論が異なるものではない。)。 したがって,被告各製品の構成は,本件発明1の構成要件E,Fを充足しない。 また,前記第2の2(4)のとおり,本件において,原告は,被告各製品の構成が本件 特許の請求項2に係る発明の構成要件を充足するとの主張を撤回した。そうすると,被告各製品の構成は,本件発明3の構成要件Mを充足しない。 (3) 原告の主張について原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発生用軸体 足するとの主張を撤回した。そうすると,被告各製品の構成は,本件発明3の構成要件Mを充足しない。 (3) 原告の主張について原告は,被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発生用軸体」当たるとする根拠として,被告各製品のパンフレット(甲6)及び被告の特許に係 る特許公報(甲18の2及び3)の各記載を指摘する。 このうち,前者については,被告各製品である「ビックスは『フリップフロップ流れ』を応用しています。水などの流体を菱型の柱を網目状に配列した四角の管に通すと,管内に生じる渦により,管体から噴出する液体が,左右に規則正しくスイッチングする現象のことをフリップフロップ流れと言います。」などという記載が ある。しかし,ある性能等が製品のパンフレットに記載されているからといって,真実当該製品が当該性能等を有するとは限らない(そもそも,上記「フリップフロップ現象」の説明は,原告主張に係る本件各発明での「フリップフロップ現象」の意味とは異なる。)。 他方,後者については,そもそも被告各製品が後者の特許公報に記載された発明 の実施品であることを認めるに足りる証拠はない。 - 36 -そうすると,上記実験結果(乙40)にもかかわらず,これらの記載のみをもって,被告各製品の「第2の軸体8」がフリップフロップ現象を発生させ得ることを認めること,ひいては被告各製品の「第2の軸体8」が「フリップフロップ現象発生用軸体」であること(構成要件E,F)を認めることはできない。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。 (4) 以上より,被告各製品の構成は,本件発明1の構成要件E及びFを充足せず,本件発明3の構成要件Mも充足しないから,被告各製品は,本件各発明の技術的範囲に属しない。 4 小括そうであ (4) 以上より,被告各製品の構成は,本件発明1の構成要件E及びFを充足せず,本件発明3の構成要件Mも充足しないから,被告各製品は,本件各発明の技術的範囲に属しない。 4 小括 そうである以上,その余の点を論ずるまでもなく,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。 第5 結論 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 野上誠一 裁判官 大門宏一郎 別紙特許公報省略

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