令和5(行ウ)5001 出願却下処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年5月16日 東京地方裁判所
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判決文本文23,903 文字)

令和6年5月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 令和5年(行ウ)第5001号出願却下処分取消請求事件 口頭弁論終結日令和6年2月26日 原告 A 同訴訟代理人弁護士佐藤安紘 同小西絵美 同末吉亙 同補佐人弁理士中島崇晴 同藤田健 同設楽修一 同山口真紀 同高須甲斐 同石田理 同田中宏明 被告国処分行政庁特許庁長官 同指定代理人小西俊輔 同坂本千鶴子 同大谷恵菜 同中島あんず 同井坂景子 同加藤朋広 主文 1 原告の請求を棄却 島あんず同井坂景子同加藤朋広 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求特許庁長官が特願2020-543051号について令和3年10月13日付けでした出願却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要原告は、特願2020-543051に係る国際出願(以下「本件出願」という。)をした上、特許庁長官に対し、特許法184条の5第1項所定の書面に係る提出手続(以下、当該提出に係る書面を「本件国内書面」という。)をした。 そして、原告は、国内書面における発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自 律的に発明した人工知能」と記載した。これに対し、特許庁長官は、原告に対し、発明者の氏名として自然人の氏名を記載するよう補正を命じたものの、原告が補正をしなかったため、同条の5第3項に基づき、本件出願を却下する処分(以下「本件処分」という。)をした。 本件は、原告が、被告に対し、特許法にいう「発明」はAI発明を含むもので あり、AI発明に係る出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではないから、本件処分は違法である旨主張して、本件処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。)⑴ 本件処分に至る経緯等 ア原告は、令和元年9月17日、欧州特許庁における特許出願を優先権の基礎とする出願として、特許協力条約に基づき、国際出願(本件出願)を行った。本件出願 ⑴ 本件処分に至る経緯等 ア原告は、令和元年9月17日、欧州特許庁における特許出願を優先権の基礎とする出願として、特許協力条約に基づき、国際出願(本件出願)を行った。本件出願は、特許法184条の3第1項の規定により、同日にされた特許出願とみなされた。 イ原告は、令和2年8月5日、特許庁長官に対し、本件国内書面(下記⑵参 照)及び特許法184条の4第1項所定の明細書、請求の範囲、図面及び要 約の日本語による翻訳文を提出した。その際、原告は、国内書面における発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した(甲1-1ないし1-9)。 ウ特許庁長官は、令和3年7月30日、原告に対し、本件国内書面に係る提出手続においては、発明者の氏名を記載しなければならず、発明者として記 載をすることができる者は自然人に限られるのに、本件国内書面には、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されており、発明者欄の氏名に、自然人を記載する補正を行わなければならないなどとして、同法184条の5第2項の規定により、本件国内書面に係る提出手続の補正を命じた(甲2)。 エこれに対し、原告は、同年9月30日、特許庁長官に対し、上記の補正命令には法的根拠がなく補正による応答は不要である旨を記載した上申書を提出した(甲3)。 オ特許庁長官は、同年10月13日、同法184条の5第3項の規定に基づき、本件処分をした(甲4)。 カ原告は、令和4年1月17日、本件処分に対して審査請求をしたところ、特許庁長官は、同年3月9日、弁明書を提出し、これを争った。そして、審査庁は、同年10月12日、上記審査請求を棄却した(甲5ないし8-2)。 キこれに対し、原告は、本件処分は違法であ したところ、特許庁長官は、同年3月9日、弁明書を提出し、これを争った。そして、審査庁は、同年10月12日、上記審査請求を棄却した(甲5ないし8-2)。 キこれに対し、原告は、本件処分は違法である旨主張して、本件処分の取消しを求め、本件訴訟を提起した。 ⑵ 本件出願についてア本件出願に係る国内書面には、以下の記載がある(甲1-2)。 【提出日】 令和2年8月5日【出願の表示】【国際出願番号】 PCT/IB2019/057809 【出願の区分】 特許 【発明者】【氏名】 ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能【特許出願人】【氏名又は名称】 Aイ本件出願に係る明細書には、以下の記載がある(甲1-3)。 【発明の名称】 フードコンテナ並びに注意を喚起し誘引する装置及び方法 2 争点特許法にいう「発明」とは、自然人によるものに限られるかどうか。 第3 争点に関する当事者の主張 (原告の主張) 1 特許法はAI発明の保護を否定していないこと⑴ AI発明が「発明」の概念に含まれることまず、特許法2条1項は、「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義している。このうち「自然法則の利用」 とは、自然現象の裏にある因果律の利用を意味しており、ここでの「自然法則」とは、単なる精神活動、純然たる学問上の法則、人為的な取決め等が除外されることを意味しているにすぎない。また、自然法則の「利用」とは、自然法則そのものを見つけ出すような発見は、発明ではないことを意味している。さらに、「技術的思想」は、一定の課題を解決するための具体的手段が反復可能で ているにすぎない。また、自然法則の「利用」とは、自然法則そのものを見つけ出すような発見は、発明ではないことを意味している。さらに、「技術的思想」は、一定の課題を解決するための具体的手段が反復可能で あることを意味し、「創作」も、自ら作り出すことが必要であるものの、既存のものを見つけ出す発見は、創作には含まれないという程度の意味である。これらの「発明」の定義から明らかなように、日本の特許法上、「発明」は自然人がしたものに限定されておらず、これ以外の特許法の規定を通覧しても、AI発明が日本の特許法上の「発明」の概念から排除されることを根拠付ける規 定は存在しない。 以上によれば、AI発明は、発明自体の過程に自然人の関与がなくとも、特許法上の「発明」の概念に含まれることは明らかである。 ⑵ AI発明は特許要件を充足し得ること特許法は、上記「発明」の中で、特許法29条の要件(産業上の利用可能性(同条1項柱書)、新規性(同条1項)及び進歩性(同条2項))を充足する 発明には、特許が付与されるという構成をとっている。他方、特許法は、消極要件として、公序良俗又は公衆衛生を害するおそれがある発明については特許すべきではないと規定するにとどまる(特許法32条)。 これらの特許法の各規定から明らかなとおり、特許法は、特許要件についても、自然人がしたものに限定していない。客観的にみて、新規で、産業上利用 可能であり、進歩性があり、消極要件に該当しない発明であれば、特許を付与されるというのが、特許の実体的要件である。 したがって、AI発明は、特許要件の観点からも、特許法上の保護の対象から排除されていない。 ⑶ AI発明は知的所有権の貿易関係の側面に関する協定(以下「TRIPS 協定」という。)27条1項の保護 って、AI発明は、特許要件の観点からも、特許法上の保護の対象から排除されていない。 ⑶ AI発明は知的所有権の貿易関係の側面に関する協定(以下「TRIPS 協定」という。)27条1項の保護対象であることAI発明が特許法の保護対象から排除されていないと解釈することは、TRIPS協定の規定とも整合する。 すなわち、TRIPS協定27条1項は、特許の対象について、「 (2)及び(3)の規定に従うことを条件として、特許は、新規性、進歩性及び産業上の利 用可能性のある全ての技術分野の発明(物であるか方法であるかを問わない。)について与えられる。」と規定している。上記の日本語の訳文では、「特許は…与えられる」と訳出されているが、原文は「patentsshallbeavailable」であり、法律用語の「shall」は、通常、立案者が義務を課す趣旨で使用する用語である(甲9)。このため、同項は、正確には「特許は…与えられなけれ ばならない」という趣旨である。 そして、TRIPS協定27条1項が言及する同条2項は加盟国が公序良俗等に反する発明を特許の対象から除外し得ることを、同条3項は加盟国が診断方法や生物学的な方法についても特許の対象から除外し得ることを、それぞれ消極要件として定めているにとどまる。したがって、TRIPS協定27条1項は、結局のところ、新規性、進歩性、産業上の利用可能性のある発明につい ては、自然人がしたか否かにかかわらず、特許法上の保護を与えなければならない(義務)ことを規定していることになる。 このように、日本の特許法がAI発明を保護の対象から排除していないと解釈することは、TRIPS協定の規定にも整合する。逆にいえば、日本の特許法がAI発明の保護を排除していると解釈するのであれば 。 このように、日本の特許法がAI発明を保護の対象から排除していないと解釈することは、TRIPS協定の規定にも整合する。逆にいえば、日本の特許法がAI発明の保護を排除していると解釈するのであれば、そのような解釈は、 TRIPS協定27条1項の規定に反することになる。 ⑷ 欧州特許庁の判断さらに、AI発明は特許の保護対象から排除されていないと解釈することは、欧州特許庁の見解にも整合する。 すなわち、欧州特許庁は、欧州における本件出願に係る発明の対応特許出願 について、「第一に、EPC(欧州特許条約。以下「EPC」という。)52条(1)に基づき、新規であり、産業上利用可能であり、進歩性を有する発明は、特許を受けることができる。審判請求人は、この規定の対象は人為的発明に限定されないと主張している。審判部はこれに同意する。発明がどのようにしてなされたかは欧州特許制度において明らかに何の役割も果たさない。(中 略)したがって、AI生成発明もEPC52条(1)に基づいて特許を受けることができると論じることが可能である。」と述べている(甲10・4.6. 2)。 欧州特許庁の上記説示は、欧州特許条約の下では、特許発明の要件である産業上の利用可能性、新規性及び進歩性を充足する発明は、自然人が発明したか AIが発明したかにかかわらず、特許を受けることができると議論することが 可能である旨を述べたものである。欧州特許庁が説示するとおり、発明が自然人又はAIのいずれにより生成されたものであるかということは、特許を付与する上で何ら重要な事実ではない。このような欧州特許庁の説示からしても、AI発明が日本の特許法の保護対象から排除されていないことは明らかである。 ⑸ 「発明」が自然人による発明に限定されることの問題点 ら重要な事実ではない。このような欧州特許庁の説示からしても、AI発明が日本の特許法の保護対象から排除されていないことは明らかである。 ⑸ 「発明」が自然人による発明に限定されることの問題点仮に、特許法上の「発明」が自然人による発明に限定されると解釈すると、特許法29条1項各号が定める公知の発明、公然実施発明等にもAI発明が含まれないことになる。しかし、AI発明が現実に存在しているにもかかわらず、そのAI発明が引用発明にならないとすると、当該発明と同一の内容の発明を した者は、その発明について新規性要件で拒絶されることがないということになる。これは、新規の発明を公開した者に対して独占権を付与するという特許制度の根幹を揺るがすものであり、このような不合理な結果を招来する「発明」の解釈は、誤っている。 ⑹ 小括 以上のとおり、日本の特許法においては、AI発明の保護の適格性を否定する実定法上の明文の規定は存在せず、かえって、AI発明は特許の保護対象から排除されていないと解釈することは、TRIPS協定や欧州特許庁の解釈にも合致するのであるから、日本の特許法が、その実体的要件として、AI発明の保護を殊更に排除していないことは明らかである。 したがって、原処分庁が、特許の形式的要件として、国内書面の【発明者】の【氏名】の欄には自然人の氏名を記載しなければならないと解釈することによって、結果としてAI発明の保護を一律に排除することは、明らかな誤りである。 2 AI発明の出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではないこと ⑴ AI発明には発明者の氏名を記載する趣旨が妥当しない そもそも特許法184条の5第2項3号及び特許法施行規則38条の5第1号が、【発明者】の【氏名】の記載を求めていること ⑴ AI発明には発明者の氏名を記載する趣旨が妥当しない そもそも特許法184条の5第2項3号及び特許法施行規則38条の5第1号が、【発明者】の【氏名】の記載を求めていることの趣旨は、自然人が発明をした場合において、その自然人には発明者名誉権が帰属することから、その権利関係を明確にするためのものにすぎない。しかしながら、AI発明は、自然人が介在することなくAIが自律的に生成した発明であるから、そもそも発 明者名誉権なるものを観念する余地がない。そうすると、AI発明については財産権としての特許出願権は発生するものの、人格権としての発明者名誉権は発生しない。したがって、AI発明においては、発明者名誉権の帰属を明確にする必要はなく、【発明者】の【氏名】の欄に「発明者」(自然人)の氏名を記載しなければならない理由はない。 このように考えると、AI発明にはそもそも特許法184条の5第2項3号等で発明者の氏名が要求される趣旨が妥当しないから、「発明者」の「氏名」の記載は、必要的記載事項ではないと理解しなければならない。したがって、AI発明については、特許法施行規則38条の4が定める様式53の【発明者】の【氏名】の欄には、「該当なし」と記入しても、斜線(/)を引いてもよいと いうべきである。あるいは、【発明者】の【氏名】の欄に人工知能の名称(本件では、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」)が記載されていたとしても、問題はないというべきである。 このような場合でも、上記のとおり、AI発明において【発明者】の【氏名】の記載は何らの意味も持たないのであるから、そのような人工知能の名称の記 載は、出願書類における無益的記載事項と理解することになる。仮に、そのような無益的記載事項の記載があっても、出願 氏名】の記載は何らの意味も持たないのであるから、そのような人工知能の名称の記 載は、出願書類における無益的記載事項と理解することになる。仮に、そのような無益的記載事項の記載があっても、出願の対象となる発明がAI発明であるということが公示されれば、第三者は、その発明には発明者名誉権が発生していないことを理解することもできる。さらに、そもそもAI発明には発明者も発明者名誉権も存在しないのであるから、真の「発明者」の人格権が侵害さ れるという不合理な事態が招来されるということもない。 このように、AI発明の出願では発明者の氏名が必要的記載事項ではないと解釈することは、特許法184条の5第2項3号の趣旨にも整合する上、そのように解釈しても、真の発明者や第三者との関係で何らかの不合理な事態を招来するということもないのであるから、AI発明において発明者の氏名の記載が必要的ではないことは明らかである。 ⑵ 必要的記載事項とすると冒認出願の増加を招来する仮に、AI発明の出願でも【発明者】の【氏名】は必要的記載事項であると解釈するのであれば、AI発明を活用する企業は、①AI発明については保護を受けることを断念するか、②AI発明の保護を受けるため、願書の【発明者】の【氏名】の欄に適当な自然人を特定して特許を受けようとするかのいずれか の行動を取るものと考えられる。 しかし、上記①については、企業は、通常、経済合理性の観点を踏まえてその活動をしているのであるから、本来は特許法上の保護を受け得る発明について、単純にその保護を断念する行動に出ることは考え難い。そうすると、企業は、経済合理性を踏まえた上で、AI発明の保護を受けるため、上記②の行動 を取ることになる可能性が高く、少なくともそのような行動を取る企業が を断念する行動に出ることは考え難い。そうすると、企業は、経済合理性を踏まえた上で、AI発明の保護を受けるため、上記②の行動 を取ることになる可能性が高く、少なくともそのような行動を取る企業が増加することは明白である。 そして、日本の各企業が上記②の行動を取る場合、そのAI発明が特許要件を充足する限り、真実発明をしていないはずの者が発明者として記載されることになる。このような事態は、特許庁が、本来、発明者名誉権を有しない者に 対して発明者名誉権を付与したかのような外観を作出することを助長し、かつ、本来、特許を受ける権利を有しない者による特許出願を正当な出願として奨励するようなものである。このような特許出願を許容することは、特許法自身が冒認出願を拒絶理由(特許法49条7号)及び無効理由(特許法123条1項6号)と定めているにもかかわらず、AI発明については冒認出願を事実上容 認、助長、奨励することにつながり、特許法の冒認出願に関する定めを自ら無 意味にするものといえる。特許法が、このような冒認出願に関する定めを自ら無意味にするような事態を前提としているとは到底考えられない。 ⑶ 必要的記載事項とすると無効にできない特許が発生することAI発明の上記の冒認問題について、原処分庁は、審査請求において、冒認出願に誤って特許が付与された場合には、無効審判を提起すればよい旨主張し ている。 しかし、特許法123条2項は、冒認出願に該当することを理由として無効審判を請求することができる者を、特許を受ける権利を有する者に限定しているのであるから、仮に、原処分庁が主張するように、AI発明について誤って特許が付与された場合には、その特許発明に係る特許を受ける権利を「発明者」 から承継した者が存在しないため、誤って しているのであるから、仮に、原処分庁が主張するように、AI発明について誤って特許が付与された場合には、その特許発明に係る特許を受ける権利を「発明者」 から承継した者が存在しないため、誤って付与された特許について冒認出願であるとの無効理由を主張することができる者も存在しない。この場合、本来無効であるはずの特許がその業界に残り続けることになるが、このような結果が法の予定しないものであることは明らかである。このような不合理な結果が招来されるのも、ひとえに、原処分庁が、AI発明は特許法上の保護から排除さ れているという誤った法解釈をしているからに他ならない。 ⑷ 欧州特許庁の判断さらに、欧州特許庁も、AI発明の出願の際には、EPCが発明者の指定を要求しているにもかかわらず、発明者の指定は不要であると議論することは可能であると述べている。 すなわち、欧州特許庁は、EPC81条第一文の定め(「TheEuropeanpatentapplicationshalldesignatetheinventor.」(欧州特許出願は、発明者を指定しなければならない。))について、「予備的請求は、出願が人為的発明に関連しない場合にはEPC81条第一文が適用されないという主張に依拠している。審判部はこのアプローチに同意する。発明者の表示に関する規定は発明者 に特定の権利を付与するために起草されたものである。自然人の発明者を特定 できない場合には、EPC81条第一文の法理は適用されないと議論することは可能である。」と述べている。 欧州特許庁の上記の説示は、EPC81条第一文は自然人が関与していないAI発明には適用されない(=発明者の指定は不要である)という議論が可能であることを述べるものである。EPC81条第 べている。 欧州特許庁の上記の説示は、EPC81条第一文は自然人が関与していないAI発明には適用されない(=発明者の指定は不要である)という議論が可能であることを述べるものである。EPC81条第一文は、日本の特許法184 条の5第2項3号及び特許法施行規則38条の5第1号の規定と同旨であるから、このような欧州特許庁の判断に照らしても、AI発明には特許法184条の5第2項3号等は適用されず、発明者の氏名等の記載は必要的記載事項ではないと解釈されるべきである。 ⑸ 小括 以上のとおり、日本の特許法では、AI発明について【発明者】の【氏名】をどのように記載するかについての実定法上の明文の規定はなく、かえって、【発明者】の【氏名】の記載を要求する特許法184条の5第2項3号等の趣旨はAI発明には妥当しない(上記⑴)。仮に、AI発明においても【発明者】の【氏名】の欄が必要的記載事項であると解釈すると、発明者ではない自然人 が特定された出願が増加するという弊害が生じる具体的な蓋然性があり(上記⑵)、また、そのような真の発明者とは異なる自然人が特定された出願について誤って特許が付与された場合には、誰も無効にすることができないという不合理な結果を招来することになる(上記⑶)。これらに加え、欧州特許庁も、日本の特許法184条の5第2項3号に相当するEPC81条第一文はAI発 明には適用されないと議論することは可能である旨を述べていること(上記⑷)をも併せ考えると、AI発明の出願において発明者の氏名等は必要的記載事項ではないことは明らかである。 3 被告の主張に対する反論⑴ 特許法29条1項等の規定からすると、AI発明のように自然人たる発明者 が観念できないような場合に「特許を受ける権利」が発生し得ると解すること 明らかである。 3 被告の主張に対する反論⑴ 特許法29条1項等の規定からすると、AI発明のように自然人たる発明者 が観念できないような場合に「特許を受ける権利」が発生し得ると解すること は、現行特許法において極めて困難といわざるを得ないとの主張について特許法29条1項等の規定は、あくまでも、発明者が自然人である場合に、特許を受ける権利が発明者に原始的に帰属し(特許法29条1項)、他の自然人に承継させることができる(同法33条1項、34条1項)という当然の事理を定めているにすぎず、それ以上に、発明が自然人以外のものによりなされ る場合があるということを排除する趣旨まで定めた規定ではない。特に、特許法29条1項は、「発明をした者は(中略)特許を受けることができる」と定めるにとどめており、その条文の文言から明らかなとおり、発明者(自然人)は特許を受けることが「できる」と規定しているだけであって、「AI発明については特許を受ける権利が発生しない」などと規定しているわけではないし、 英国、オーストラリア又はニュージーランドのように特許を受ける権利の原始的帰属を発明者に限定する趣旨の文言を設けていない上、米国のように、特許出願人となり得る主体を限定する趣旨の条文も定めていない。したがって、日本の特許法では、諸外国の特許法とは異なり、特許を受ける権利の原始的帰属や特許出願人となり得る主体が限定されていないことが明らかであり、特許法 29条1項を根拠にAI発明の保護が排除されているということはできない。 そもそも、特許法の制定当時に、AI発明という概念やそれに伴う法律問題は存在しておらず、特許法が自然人による発明のみを前提にして制定されたことは明らかである。このような場合に、特許法がAI発明に関する規定を設け 許法の制定当時に、AI発明という概念やそれに伴う法律問題は存在しておらず、特許法が自然人による発明のみを前提にして制定されたことは明らかである。このような場合に、特許法がAI発明に関する規定を設けていないからといって、そのことだけではAI発明に係る特許出願を却下し、 AI発明の保護を一律に否定する理由にはならないというべきである。 前述のとおり、特許法の「発明」の定義からAI発明は排除されていないというべきであるから、AI発明は、特許法29条1項等があるために特許を受けることのできる対象にならないということではなく、同法29条1項等が適用されないために、どの法令のどの根拠条文に基づき誰が特許を受けることが できるのかが特許法の規定のみからは一意に導くことができないということ にとどまる。 この点につき、日本の特許法では、自然人ではない法人は発明者になることができず、法人は特許法29条1項柱書に基づき特許を受ける権利を取得することはできないと解釈されている。しかし、そもそもこのような解釈自体、特許法29条1項の文言から当然に導き出されるものではなく、特許法35条3 項と同法29条1項とを併せて読むことで、初めて法人が特許法29条1項柱書に基づき特許を受ける権利を取得することは日本の特許法から排除されていると解釈することができるものである。これに対し、AI発明には特許法35条に相当する規定がないのであるから、特許法29条1項柱書の文言だけから、AI発明については特許を受ける権利が発生しない、つまり、AI発明が 「発明」の概念から排除されているなどと解釈することができないことは、明らかである。 以上のような日本の特許法の基本構造に加え、前述のとおり、TRIPS協定27条1項が「特許の対象」を自然人がした 「発明」の概念から排除されているなどと解釈することができないことは、明らかである。 以上のような日本の特許法の基本構造に加え、前述のとおり、TRIPS協定27条1項が「特許の対象」を自然人がしたものに明示的に限定していないことや、欧州特許庁もAI発明は欧州特許法上特許を受けることができると論 じることが可能であると説示していることをも踏まえると、他に実定法上の明文の規定もないのに、自然人がした発明のみを念頭に起草された特許法29条1項等の規定ぶりのみから、AI発明が特許法上の「発明」の概念から排除されていると解釈することには、明らかな無理があるというべきである。 革新的な技術の開発は、一国の浮沈にも関わる重要な問題であり、いうまで もなく、発明の奨励は国家の重大な任務の一つである。機械学習や深層学習の発展に伴い、従来は想定もされていなかった自律的なAI発明が現に誕生し、産業界で利用されており、今後はそのような発明が質量ともに格段に増えていくことが確実に予想される。このため、近い将来の発明を奨励するには、特許法制定当時に想定されていた自然人による発明に対してインセンティブを与 えるだけではなく、AI発明に対してインセンティブを与える必要がある。A I発明が現に産業界において誕生しているにもかかわらず、発明者が自然人であることしか想定していない旧来の発明者主義に関する見解を無批判に採用し、AI発明に対するインセンティブという観点を殊更に捨象したのでは、「産業の発達に寄与する」(特許法1条)という特許法の目的に反する事態が招来されることは明らかである。このような事態を避けるため、現行法の解釈とし て認められるものについては、現行の特許法の体系を前提に、できる限りの保護を認めるように特許法を解釈運用すること 態が招来されることは明らかである。このような事態を避けるため、現行法の解釈とし て認められるものについては、現行の特許法の体系を前提に、できる限りの保護を認めるように特許法を解釈運用することが、原処分庁や特許庁のなすべき責務というべきである。 ⑵ 知的財産基本法の解釈に関する主張についてア知的財産基本法2条1項の解釈について 同法2条1項は、知的財産について「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(中略)をいう。」と定めており、被告はここで「その他」ではなく「その他の」という文言を使用していることから、「発明」は「人間の創造的活動により生み出されるもの」に包含されるとの解釈をしているようである。 しかしながら、「その他」と「その他の」という文言は、法令用語として厳密に使い分けられているわけではなく、有斐閣法律用語辞典にもその旨が記載されている。例えば、著作権法27条においても、「著作者は、その著作物を(中略)変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と規定されているところ、変形、脚色、映画化は翻案に包含されると 思われるのに、「その他の」ではなく「その他」を用いている。また、知的財産基本法2条1項においても「新品種」や「意匠」といった人間の創造的活動により生み出されるとは限らないものも知的財産に当たると定めており、「その他」と「その他の」は、厳密に使い分けられていない。 また、仮に知的財産基本法2条1項の定義規定が「その他」と「その他の」 という法令用語を混同して用いていないとしても、そもそも同規定は人間が 何らかの形で関与していればよいという趣旨に過ぎず、人間の創造的活動により知的財産自体が生み出されること の」 という法令用語を混同して用いていないとしても、そもそも同規定は人間が 何らかの形で関与していればよいという趣旨に過ぎず、人間の創造的活動により知的財産自体が生み出されること自体を条件とする趣旨ではない。同項が「(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む)」として、単なる「発見」も「人間の創造的活動により生み出されるもの」に含むとしていることからしても、やはり同項の「発 明」は人間の創造的活動により生み出されることを必ずしも前提としていないと解釈するのが自然である。そして、AI発明はその基礎となるAI自体を生成したのは人間であって、AI発明が客観的に自然法則を利用した技術的思想の創作に値することを「発見」(評価)するのも最終的に人間であることからしても、AI発明が「その他の人間の創造的活動により生み出され るもの」又は「発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるもの」に該当することは明らかである。 イ知的財産基本法の立法経緯について知的財産基本法は、プロ・パテントという時代の要請又は変化の中で、知的財産の創造・保護・活用に国家全体として取り組むことを目標として立法 化された法律である。衆参両議院の審議経過では、「発明」は自然人がしたものに限定されるとか、「知的財産」は「人間の創造的活動により生み出されるもの」に限定されるなどという矮小化された議論がなされた形跡は一切ない。知的財産基本法2条1項の「その他の人間の創造的活動により生み出されるもの」という文言は、この当時の技術水準から単にこの当時人間の創 造的活動により生み出される知的財産しか現実に存在していなかったためにそのような包括的な文言が用いられたというだけの み出されるもの」という文言は、この当時の技術水準から単にこの当時人間の創 造的活動により生み出される知的財産しか現実に存在していなかったためにそのような包括的な文言が用いられたというだけのことにすぎず、殊更に、知的財産の範囲を「人間の創造的活動により生み出されるもの」に限定する趣旨で盛り込まれたという立法経緯は全くない。 かえって、前述のとおり、同項が、本来は「発明」に含まれないようなも のまで「知的財産」に含むとしていることからすれば、知的財産基本法が、 プロ・パテントを背景とした立法経緯を踏まえ、「知的財産」 に関して想定し得る限り広範な定義規定を置き、国家戦略として、情報という無体財産を可能な限り広く積極的に保護しようとして制定された法律であることは明らかであるから、知的財産基本法の規定を根拠に特許法上の「発明」の定義を限定的な範囲にとどめるなどという解釈を導くことは、同法の立法趣旨・ 経緯にも反するものであり、不合理であることが明らかである。 ⑶ 諸外国の判断についてAI発明に係る出願に対して特許権を付与できるか否かについては、各国の法律の条文の文言や争点の設定の仕方の相違を踏まえる必要があり、その内容を具体的に吟味することなく、他国の裁判所の結論だけに歩調を合わせること は許されない。この点、条文の文言や争点の設定の仕方が本件に最も近いのは、上記欧州特許庁における事件であり、この欧州特許庁以外の諸外国の判断は、本件とは対象となる条文の文言も争点の設定の仕方も異なり、直接本件の参考にはならない。 4 結論 以上によれば、国内書面の【発明者】の【氏名】の欄に自然人ではないものの名称が記載されていることを根拠に、本件国内書面に方式違反があるとした本件処分は、違法である。 なお、 4 結論 以上によれば、国内書面の【発明者】の【氏名】の欄に自然人ではないものの名称が記載されていることを根拠に、本件国内書面に方式違反があるとした本件処分は、違法である。 なお、原告はAIであるダバスを創作した者であり、ダバスをアクセス制限等によって自己のために排他的に管理しているから、民法189条1項、民法20 5条に基づき、本件発明についての特許を受ける権利を有している。 (被告の主張) 1 現行特許法において特許権の付与により保護される「発明」とは、自然人によってなされたものに限られると解されること⑴ 現行特許法においてAIにより生成された成果物は「発明」に包含されない と解するのが相当であること ア現行特許法上、「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)と定義されているところ、ここにいう「技術的思想の創作」という文言からして、何らか自然人の精神活動が介在することが当然に前提とされていると解される。この点につき、前記発明の定義は、ドイツの法学者であるコーラーが提唱した「技術的に表示された人間の 精神的創作であり、自然を制御し自然力を利用して一定の効果を生ぜしめるもの」との定義を、実質的にそのまま踏襲したものと理解されているところ、このコーラーの定義においては、発明が「人間の精神的創作」であることがはっきりとうたわれている。そうすると、AI発明のように、自然人の創作活動の介在なしに生成された成果物については、「発明」に包含されないも のとしていると解するのが相当である。 イ知的財産基本法2条1項は、「知的財産」(同条2項により特許権が含まれる。)を「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出さ としていると解するのが相当である。 イ知的財産基本法2条1項は、「知的財産」(同条2項により特許権が含まれる。)を「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(中略)をいう。」と定義しており、「発明」につき、特許法と同様に、「人間の創造的活動により生み出される」ものである と位置づけているものである。 ウ以上のとおり、特許法における「発明」の定義の文言や沿革等に照らせば、現行特許法で特許権の付与により保護され得る「発明」については、自然人の創作活動により生み出したものであることを要するものであって、自然人の創作活動を介在させずに生成されるAI発明については、特許法2条1項 の「発明」には包含されないと解するのが相当である。 ⑵ AI発明のように自然人たる発明者が観念できないような場合に「特許を受ける権利」が発生し得ると解することは、現行特許法において極めて困難といわざるを得ないことア特許法29条1項柱書は、「産業上利用することができる発明をした者は、 (中略)その発明について特許を受けることができる」と規定している。これ は、「産業上利用できる発明」があった場合に当該「発明をした者」に「特許を受ける権利」が原始的に帰属するという、発明者主義の考え方を採用したものであり、これにより「発明を奨励し、もって産業の発達に寄与」(特許法1条)しようとするものである。そして、このような「特許を受ける権利」の発生ないし帰属に関する規律等に照らしても、特許法29条1項の「発明 をした者」とは、権利義務の帰属主体となり得るとともに、「発明」の定義が想定しているような何らかの創作活動ないし精神的活動をすることができるもの、すなわち自然人であることが当然の前提とされてい をした者」とは、権利義務の帰属主体となり得るとともに、「発明」の定義が想定しているような何らかの創作活動ないし精神的活動をすることができるもの、すなわち自然人であることが当然の前提とされていることは明らかである。この点につき、発明者は人格権としての発明者名誉権を取得するところ、このことも、「発明をした者」が人格的利益の享有主体である自然 人であることを前提にしているといえる。もとより、現行特許法上、AI発明のように自然人たる発明者を観念できない場合を念頭に、「特許を受ける権利」が発生し、それが何人かに原始的に帰属することを定めた規定は存在しない。 イこのように、現行特許法は、自然人による発明があった場合に、かつ、こ の場合に限り、「特許を受ける権利」が発生し、原則として自然人たる当該発明者に原始的に帰属することとしたのであり、これにより、自然人による発明を奨励するという、特許法の立法政策を実現しようとしているのである。 このような現行特許法の規律に照らせば、現行特許法上、AI発明といった、自然人の創作活動によって生み出されたものでない成果物が「発明」に該当 し、特許権が付与され得るなどと解することはできない。 ウ小括以上のとおり、現行特許法上の「発明」の定義規定に照らし、「発明」には自然人が創作したもの以外のものは包含されないとしているものと解され、また、「特許を受ける権利」の発生ないし帰属に関する規律の在り方に 照らしても、AI発明のような「発明をした者」に該当する自然人が観念で きない場合に「特許を受ける権利」が発生し得ると解することが極めて困難であることなどに照らせば、現行特許法においては、特許権の付与により保護される「発明」は、自然人によってなされたものに限られ、これを満たさ に「特許を受ける権利」が発生し得ると解することが極めて困難であることなどに照らせば、現行特許法においては、特許権の付与により保護される「発明」は、自然人によってなされたものに限られ、これを満たさないAI発明は、特許の対象とならないものと解するのが相当である。 2 国内書面の「発明者」の「氏名」欄には自然人の「氏名」を記載する必要があ り、これを満たさない国内書面は形式要件違反があるとの評価を免れないこと国内書面は、様式第53により作成し(特許法施行規則38条の4、同38条の5第2号)、特許法184条の5第1項各号所定の事項(2号に「発明者の氏名」が規定されている。)を記載しなければならない(特許法施行規則38条の5第1号)と定められていることから、発明者の「氏名」は、国内書面における必要的記 載事項である。もとより、現行特許法上、発明者は自然人に限られると解されることは前記のとおりであり、この「氏名」が自然人たる発明者の氏名を指すことは明らかである。そして、発明者の氏名欄の記載について、一定の場合にこれを省略したり、自然人たる発明者の氏名以外の名称等で代替することが可能であることをうかがわせる規定は、現行特許法には存在しない。 以上のとおり、特許法184条の5第2項3号及び特許法施行規則38条の4に定める国内書面の「発明者」中の「氏名」の欄には、発明者たる自然人の氏名を記載すべきであって、自然人の氏名でない名称等の記載によってはこの要件を満たす余地がなく、このような記載がある国内書面は、形式要件違反があるものとの評価を免れない。 3 「ダバス」を発明者とする国際特許出願に関する各国の対応状況原告が開発したとする人工知能である「ダバス」を発明者とする国際特許出願に関する各国の状況をみると、複数の国におい れない。 3 「ダバス」を発明者とする国際特許出願に関する各国の対応状況原告が開発したとする人工知能である「ダバス」を発明者とする国際特許出願に関する各国の状況をみると、複数の国において、発明者適格は自然人のみが有するものであり、AIは発明者になれない旨判断されている。現時点において特許が付与されているのは唯一、南アフリカにおいてのみであるが、同国では、特 許出願に対して方式審査のみが行われており、実体的な特許要件の審査制度は設 けられていない。なお、南アフリカのCIPC(企業・知的所有権登録局)は、ダバスを発明者とする出願につき具体的にどのように判断したかについて公表していないが、南アフリカの現行特許法及び特許規則には、「発明者」の定義に関するものは見受けられない。 4 原告の主張に対する反論 ⑴ AI発明にも特許権が付与されるべきとする原告の主張は、現行特許法の解釈論を超えた立法論といわざるを得ないこと原告は、日本の特許法においては、AI発明の保護の適格性を否定する明文の規定は存在しないなどとして、「日本の特許法が、その実体的要件として、AI発明の保護を殊更に排除していないことは明らかである」と主張する。 しかしながら、前記のとおり、現行特許法上、自然人による創作活動の成果物でないAI発明につき、特許権が付与されると解することができないことは明らかである。 これに対し、原告は、現行特許法が自然人による発明のみを前提に制定されたことは、AI発明の保護を一律に否定する理由にはならないと主張する。し かしながら、原告も認めるように、現行特許法は自然人による発明のみを特許権の対象として念頭に置いて制定されているのであって、我が国の立法者は、現時点までに自然人でないものが生み出した成果 し かしながら、原告も認めるように、現行特許法は自然人による発明のみを特許権の対象として念頭に置いて制定されているのであって、我が国の立法者は、現時点までに自然人でないものが生み出した成果物に特許権を付与するとの政策判断をしていないのである。この点につき、特許権者は業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法68条本文)、法 律上の根拠なくしてこのような強力な権利の発生を認めるという解釈をすることは、相当でないといわざるを得ない。AI発明について特許権の付与を否定する明文の規定がないから現行特許法の下でも特許権付与が認められるべきあるという原告の立論は、現行特許法の解釈論としてはおよそ採用し得ないものであって、もはや解釈論の域を超えた立法論といわざるを得ないものであ る。 ⑵ AI発明については、発明者の氏名が国内書面の必要的記載事項ではないとする主張に理由がないこと原告は、国内書面に発明者の氏名を記載するよう求めている特許法184条の5第2項3号及び特許法施行規則38条の5第1号の趣旨がAI発明の場合には妥当しない、AI発明に発明者の氏名の記載を義務付けると冒認出願の 増加を招く、あるいは、無効とできない特許が発生するなどと種々述べて、AI発明については、発明者の氏名は、国内書面の必要的記載事項ではないと主張する。しかしながら、このような原告の立論は、いずれもAI発明が現行特許法の下で特許権を付与され得ることを前提とするものであるところ、この前提が誤っていることは、これまでに述べたところから明らかである。もとより、 現行特許法上、国内書面について、発明者の氏名の記載を省略することが許容され得ることをうかがわせる規定は存在しない。したがって、原告の主張は根 までに述べたところから明らかである。もとより、 現行特許法上、国内書面について、発明者の氏名の記載を省略することが許容され得ることをうかがわせる規定は存在しない。したがって、原告の主張は根拠を欠いたものであって、理由がない。 ⑶ TRIPS協定の解釈に基づく主張に理由がないこと原告は、TRIPS協定27条1項が、新規性、進歩性、産業上の利用可能 性のある発明については、自然人がしたか否かにかかわらず、特許法上の保護を与えなければならないことを規定するものであり、日本の特許法がAI発明の保護を排除していると解釈することは、TRIPS協定に違反することになると主張する。しかしながら、そもそも原告が挙げるTRIPS協定27条1項が適用対象である発明を積極的に定義するものでないことは、その文言から 明らかである。もとより、AIのような自然人でないものによる成果物につき、新規性、進歩性、産業上の利用可能性さえあれば特許として保護すべきことを義務付けているというのが、TRIPS協定27条1項の一般的な解釈であるなどと解すべき的確な根拠は見当たらない。現に、TRIPS協定の加盟国のうち複数の国において、AIを発明者とすることはできない旨の司法判断が示 されているところである。 したがって、原告の主張するTRIPS協定27条1項の解釈は、原告独自の見解でしかなく、TRIPS協定違反を指摘する原告の主張は理由がない。 ⑷ 欧州特許庁審判部の判決を援用する主張に理由がないこと原告は、欧州特許庁審判部が、判決においてAI発明はEPC52条(1)(特許要件)に基づいて特許を受けることができると論じることが可能であると述 べていることからしても、AI発明が日本の特許法の保護対象から排除されていないことは明ら AI発明はEPC52条(1)(特許要件)に基づいて特許を受けることができると論じることが可能であると述 べていることからしても、AI発明が日本の特許法の保護対象から排除されていないことは明らかである旨主張する。また、原告は、欧州特許庁審判部が、判決において自然人の発明者を特定できない場合には欧州特許出願に当たり発明者の表示を求めるEPC81条第一文の法理は適用されないと議論することは可能であると述べていることからしても、AI発明には特許法184条 の5第2項3号等は適用されず、発明者の氏名等の記載は必要的記載事項ではないと解釈できる旨主張する。 しかしながら、そもそも日本はEPCの締約国ではなく、日本においては、もとより属地主義の原則により国内特許法が適用されるのであるから、日本の特許法の解釈において直ちに参照し得るものではない。しかも、原告が援用す る欧州特許庁審判部の判決は、発明者適格を有するのは自然人のみであるとして、同旨の理由により発明者をAIとする出願を却下した原処分を維持したものである。原告の引用は、いずれも、審決の結論に対する想定反論等に検討を加える説示から、想定反論等への部分的な賛意を述べた箇所を殊更に抜き出すものにすぎない。この点からも、原告の引用部分は、我が国特許法の解釈にお いて参照すべき価値に乏しいものといわざるを得ない。 5 結論以上によれば、現行特許法の「発明」とは、自然人による発明のみを指しており、「発明者の氏名」(同法184条の5第1項2号)も、自然人の氏名以外の名称等は該当し得ない。そして、本件国内書面(甲1の2)の「発明者」欄の「氏名」 には「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されているところ、 これが自然人の氏名を記載したものでないことは い。そして、本件国内書面(甲1の2)の「発明者」欄の「氏名」 には「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されているところ、 これが自然人の氏名を記載したものでないことは明白である。 したがって、本件国内書面には形式要件違反があり、これが補正されなかったことから、上記形式要件違反を理由として、本件出願を却下した本件処分は適法である。 第4 当裁判所の判断 1 我が国における「発明者」という概念知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘 密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと規定している。 上記の規定によれば、同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。 そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければならない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の 前提とするものといえる。また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発生する旨規定しているところ 文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の 前提とするものといえる。また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当で ある。 他方、特許法に規定する「発明者」にAIが含まれると解した場合には、AI発明をしたAI又はAI発明のソースコードその他のソフトウェアに関する権利者、AI発明を出力等するハードウェアに関する権利者又はこれを排他的に管理する者その他のAI発明に関係している者のうち、いずれの者を発明者とすべきかという点につき、およそ法令上の根拠を欠くことになる。のみならず、特許 法29条2項は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、進歩性を欠くものとして、その発明については特許を受けることができない旨規定する。しかしながら、自然人の創作能力と、今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困 難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIにも適用するのは相当ではない。さらに、AIの自律的創作能力と、自然人の創作能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るも 力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るものといえる。 このような観点からすれば、AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当である。グローバルな観点からみても、発明概念に係る各国の法制 度及び具体的規定の相違はあるものの、各国の特許法にいう「発明者」に直ちにAIが含まれると解するに慎重な国が多いことは、当審提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によれば、明らかである。 これらの事情を総合考慮すれば、特許法に規定する「発明者」は、自然人に限られるものと解するのが相当である。 したがって、特許法184条の5第1項2号の規定にかかわらず、原告が発明 者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して、発明者の氏名を記載しなかったことにつき、原処分庁が同条の5第2項3号に基づき補正を命じた上、同条の5第3項の規定に基づき本件処分をしたことは、適法であると認めるのが相当である。 2 原告の主張に対する判断 ⑴ 原告は、我が国の特許法には諸外国のように特許を受ける権利の主体を発明者に限定するような規定がなく、特許法の制定時にAI発明が想定されていなかったことは、AI発明の保護を否定する理由にはならない旨主張する。しかしながら、自然人を想定して制度設計された現行特許法の枠組みの中で、AI発明に係る発明者等を定めるのは困難で 明が想定されていなかったことは、AI発明の保護を否定する理由にはならない旨主張する。しかしながら、自然人を想定して制度設計された現行特許法の枠組みの中で、AI発明に係る発明者等を定めるのは困難であることは、前記において説示したと おりである。この点につき、原告は、民法205条が準用する同法189条の規定により定められる旨主張するものの、同条によっても、果実を取得できる者を特定するのは格別、果実を生じさせる特許権そのものの発明主体を直ちに特定することはできないというべきである。その他に、原告の主張は、AI発明をめぐる実務上の懸念など十分傾聴に値するところがあるものの、前記にお いて説示したところを踏まえると、立法論であれば格別、特許法の解釈適用としては、その域を超えるものというほかない。 ⑵ 原告は、AI発明を保護しないという解釈はTRIPS協定27条1項に違反する旨主張する。しかしながら、同項は、「特許の対象」を規律の内容とするものであり、「権利の主体」につき、加盟国に対し、加盟国の国内特許法に いう「発明者」にAIを含めるよう義務付けるものとまでいえず、また、原告主張に係る欧州特許庁の見解も、特許法に関する判断の国際調和という観点から一つの見解を示すものとして十分参考にはなるものの、属地主義の原則に照らし、我が国の特許法の解釈を直ちに左右するものとはいえず、本件に適切ではない。 ⑶ 原告は、知的財産基本法2条1項は「その他」と「その他の」の用法を混同 しており、「発明」が「人間の創造的活動により生み出されるもの」に包含されると規定するものではない旨主張する。しかしながら、特許法がAI発明を想定していなかったことは、原告も認めるとおりであり、知的財産基本法2条1項も、立法経緯に照らし、文言どお されるもの」に包含されると規定するものではない旨主張する。しかしながら、特許法がAI発明を想定していなかったことは、原告も認めるとおりであり、知的財産基本法2条1項も、立法経緯に照らし、文言どおり、AI発明を想定していなかったものと解するのが相当である。そして、当時想定していなかったAI発明について は、現行特許法の解釈のみでは、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた的確な結論を導き得ない派生的問題が多数生じることは、前記において繰り返し説示したとおりである。 ⑷ 以上によれば、原告の主張は、いずれも採用することができない。 3 その他 その他に、原告提出に係る準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、前記において説示したところを踏まえると、いずれも前記判断を左右するに至らない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 なお、被告は、当裁判所の審理計画の定め(第2回弁論準備手続調書参照)にかかわらず、原告主張に係るAI発明をめぐる実務上の懸念に対し、具体的な反 論反証(令和5年11月6日提出予定の被告の再々反論、再々反証をいう。上記手続調書参照)をあえて行っていないものの、特許法にいう「発明者」が自然人に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものではなく、原告の主張内容及び弁論の全趣旨に鑑みると、まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発 明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、最後に改めて付言する。 第5 結論よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁 最後に改めて付言する。 第5 結論 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 尾池悠子 裁判官 小田誉太郎は転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 中島基至

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