平成15(わ)157 公職選挙法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成15年9月11日 函館地方裁判所
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判決文本文3,580 文字)

平成15年9月11日宣告平成15年(わ)第157号公職選挙法違反被告事件主文被告人を懲役2年に処する。 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成15年4月13日施行の渡島支庁所管区域北海道議会議員選挙に際し,同選挙区から立候補する決意を有していたものであるが,自己の当選を得る目的で,A,B及びCらと共謀の上,別紙一覧表のとおり,いまだ立候補届出のない平成15年1月31日ころから同年3月29日ころまでの間,北海道上磯郡a町字bc番地のd所在の「D後援会連絡所」ほか1か所において,いずれも,自己の選挙運動者であるEほか3名に対し,自己のために投票取りまとめ等の選挙運動をしたことの報酬として現金合計86万1000円を供与するとともに,立候補届出前の選挙運動をしたものである。 (事実認定の補足説明)被告人及び弁護人は,被告人がEほか3名(以下「運動者」という。)に行わせた戸別訪問は,被訪問者に対する被告人の後援会への加入の呼び掛けにすぎないのであって,運動者に供与された現金は被告人のために投票取りまとめ等の選挙運動をしたことの報酬ではなく,事前運動にも当たらない,被告人は適法な後援会活動と認識していたのであるから故意もないなどとして無罪を主張するので,補足して説明する。 関係証拠によれば,本件戸別訪問は,今回選挙を間近に控えた平成15年1月21日ころから約2か月間にわたって行われたこと,運動者は,a町,e町,f町, g町のほぼ全域を回って,有権者から「入会申込書」と題する書面に署名を集めていたこと,運動者は,戸別訪問に当たって,同年1月20日に開かれた説明会の席上,被告人らから指示されたとおり,被訪問者に対し,「4月の道議選に立候補するD ら「入会申込書」と題する書面に署名を集めていたこと,運動者は,戸別訪問に当たって,同年1月20日に開かれた説明会の席上,被告人らから指示されたとおり,被訪問者に対し,「4月の道議選に立候補するDの後援会事務所です。もうお決まりですか。お決まりでなかったら,署名をいただけますか。」などと言って,拡大すればそのまま被告人の選挙ポスターとなる被告人の顔写真,今回選挙において被告人が使用した通称名である「D」などが印刷されたチラシを配布したこと,運動者は,そのほとんどが被告人と面識がなかった者であり,被告人の人格に共鳴しその政策等に賛同して本件戸別訪問を行ったわけではなく,実際にも,戸別訪問に当たって,被告人の後援会の活動内容等後援会に関する事項や被告人の政策,実績,人柄等の説明をしておらず,入会申込書に署名したらどうなるのかという質問に対し,「後でお礼の電話とはがきが来るだけです。」と答える程度であったこと,被告人は,平成14年11月中旬ころ,h・i合同事務所開きをするなどして,今回選挙に立候補し2期目の当選を果たす意思を表明していたこと,被告人は,平成11年4月施行の前回選挙において,最下位で初当選したが,次点の候補者との得票差は700票余りにすぎず,特にa,e地区の得票数が少なかったこと,被告人は,共犯者Bに対し,「a,eが薄い。もっと俺の顔を覚えてほしい。」などと述べて,同人に運動者を集めさせたことなどが認められる。このような本件戸別訪問の時期,規模,態様,経緯を総合考慮すれば,被告人が運動者に行わせた本件戸別訪問は,被訪問者に被告人が今回選挙に立候補する予定であることを認識させるとともに,その名前と顔の売り込みを図ったものであり,後援会会員の加入勧誘に藉口した被告人に対する投票依頼の趣旨でなされたものであるとみるほかない。 これに 挙に立候補する予定であることを認識させるとともに,その名前と顔の売り込みを図ったものであり,後援会会員の加入勧誘に藉口した被告人に対する投票依頼の趣旨でなされたものであるとみるほかない。 これに対し,適法な後援会活動であると認識していたとの被告人の弁解は,上記認定事実のほか,共犯者,運動者及び被訪問者のいずれもが本件戸別訪問が今回選挙における被告人に対する投票依頼を目的としているものと受け取っていたこと,被告人による入会申込書等の破棄,関係者との口裏合わせ等の罪証隠滅行為に照ら して信用できない。 なお,弁護人は,運動者の活動は,①戸別訪問して後援会入会の勧誘行為,②後援会が主催する「新春の集い(道政報告会)」の受付,入場整理券の配布,集会への参加を呼び掛けるウグイス行為,③後援会会報の会員への配布行為に分けられるところ,①の行為が被告人への投票依頼として選挙運動に該当すると解される余地はあるとしても,②及び③の行為は許される後援会活動そのものであるから,本件において供与された現金合計86万1000円すべてが選挙運動をしたことの報酬とはいえないともいう。しかしながら,弁護人の指摘する道政報告会は平成15年3月21日にa町内で開催され,会報は同月8日付けで発行されており,いずれも今回選挙が差し迫った時期であること,会報には「推薦します」,「北海道知事候補と互いに激励しあい,勝利を目指して握手するD氏」,「当選の暁には,お互いに「知」を出し合い」云々などと記載されていること等に照らせば,道政報告会の開催や会報の配布は被告人が今回選挙に立候補することを強く認識させるとともに被告人に対する投票の獲得を狙ったものとみざるを得ないのであって,運動者に供与された現金合計86万1000円すべてが選挙運動をしたことの報酬であると解するのが相当である ことを強く認識させるとともに被告人に対する投票の獲得を狙ったものとみざるを得ないのであって,運動者に供与された現金合計86万1000円すべてが選挙運動をしたことの報酬であると解するのが相当である。 (法令の適用)罰条判示各所為について事前運動の点各人に対する各金銭供与行為ごとに刑法60条,公職選挙法239条1項1号,129条供与の点各人に対する各金銭供与行為ごとに刑法60条,公職選挙法221条1項3号科刑上一罪の処理判示各所為についてそれぞれ刑法54条1項前段,10条(重い供与の罪の刑で処断) 刑種の選択判示各罪についていずれも懲役刑併合罪の処理同法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重いFに対する平成15年2月28日ころの供与の罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予同法25条1項訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の事情)本件はいわゆる運動買収並びに事前運動の事案であるところ,選挙運動者4名に供与された現金は合計86万円余と多額に上っているうえ,選挙運動者は,被告人の指示に基づいて,a町,e町,f町,g町のほぼ全域を回り,少なくとも1000名を超える有権者から署名を集めるなどして,後援会活動に藉口した被告人への投票依頼という選挙運動を立候補届出前に大規模に行ったのであって,本件は今回選挙の自由公正を損なったものと評せざるを得ない。被告人は,共犯者Bをして戸別訪問に当たらせる選挙運動者を1日5000円の報酬の支払いを約束して集めさせ,自ら選挙運動者に対し後援会活動の外形を装った戸別訪問の具体的方法を指示し,更に買収金を出捐するなどしたのであって,まさに本件の主導者である。被告人には古いとはいえ同種の公職選挙法違反罪による前科があることにもかんがみると,この種事案に対する規範意識の低さが 法を指示し,更に買収金を出捐するなどしたのであって,まさに本件の主導者である。被告人には古いとはいえ同種の公職選挙法違反罪による前科があることにもかんがみると,この種事案に対する規範意識の低さがうかがえる。加えて,被告人が本件当時現職の道議会議員として高いモラルと廉潔性を求められる立場にあったことを考慮すれば,犯情はよくなく,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。 他方,被告人は,本年8月道議会議員を辞職するとともに政務調査費を返納しており,議員報酬についても返納する意向を示していること,被告人は,当公判廷において,自己に投票してくれた1万6000人余の有権者に対し申し訳ないなどと述べて謝罪したこと,今後政治活動からは一切身を引くと述べていること,その他健康状態等被告人のために酌むべき事情が認められる。 そこで,これら諸般の事情を総合考慮して,被告人に対しては,主文の刑に処した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。 (求刑懲役2年)平成15年9月11日函館地方裁判所刑事部裁判長裁判官園原敏彦裁判官伊藤聡裁判官野村武範(別紙一覧表省略)

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