令和4(ワ)13408 職務発明対価請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年5月11日 東京地方裁判所
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判決文本文11,994 文字)

令和5 年5 月11 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4 年(ワ)第13408 号職務発明対価請求事件口頭弁論終結日令和5 年3 月7 日判決 原 告 A同訴訟代理人弁護士服 部 謙太朗同補佐人弁理士藤野清規同山本洋三 被告株式会社ダイセイコー 同訴訟代理人弁護士小林幸夫同木村剛大同河部康弘 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、5000 万円及びこれに対する令和4 年6 月23 日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、被告の元従業員である原告が、発明の名称を「吹矢の矢」とする特許(特許第4910074 号。以下「本件特許」という。)に係る特許発明の一部につき、 原告が単独で行った職務発明であり、その特許を受ける権利を被告に承継させ たと主張して、被告に対し、特許法(以下「法」という。)35 条3 項(平成27年法律第55 号による改正前のもの。以下、同項につき同じ。)に基づく相当の対価請求権の一部として5000 万円及びこれに対する令和4 年6 月23 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない 00 万円及びこれに対する令和4 年6 月23 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)(1) 当事者等原告は、被告の元従業員であり、平成19 年に被告に入社した後、平成21 年以降は商品研究開発課でスポーツ吹矢の用具開発に従事し、平成30 年4 月日、被告を退職した。 被告は、スポーツ用具の製造、販売等をその目的とする株式会社であり、その主要事業の一つとして、スポーツ吹矢用具開発・販売事業がある。 (2) 原告の職務発明 原告は、被告在職中、スポーツ吹矢の用具開発を行った際、本件特許に係る発明(請求項の数は11 あり、このうち、特許請求の範囲請求項1 に係る発明を「本件発明1」と、同請求項2 に係る発明を「本件発明2」といい、これらを併せて「本件各発明」という。)を行った。 (3) 本件各発明に係る特許を受ける権利の承継及び本件特許 本件各発明の当時、被告には職務発明規定は存在しておらず、また、被告が本件各発明につき特許出願するに際して、原告と被告との間で特段の契約は締結していない。もっとも、本件各発明につき、職務発明に該当するものとして、被告は、原告からその特許を受ける権利を承継した。 被告は、本件各発明を含む発明につき特許出願し、以下のとおり、本件特 許を受けた(ただし、後記のとおり、本件各発明が原告の単独発明か否かは 争いがある。)。 特許番号特許第4910074 号出願日平成23 年9 月13 日 (ただし、後記のとおり、本件各発明が原告の単独発明か否かは 争いがある。)。 特許番号特許第4910074 号出願日平成23 年9 月13 日登録日平成24 年1 月20 日発明者原告、B(以下「B」という。) 発明の名称吹矢の矢(4) 本件同意書原告は、平成24 年2 月24 日付け被告宛て「同意書」と題する書面(甲5。 以下「本件同意書」という。)を作成した。本件同意書の内容は、次のとおりである(「/」は改行を意味する。)。(甲5) 「私ことAは吹矢の矢の特許取得に関して、以下の項目に同意します。 /第1 項私は株式会社ダイセイコーが新型吹矢の特許を取得するにあたって、発明者としての報酬やその他の権利は一切主張しません。/第2 項私は株式会社ダイセイコーが特許の権利を主張する限り在職中、退職後にかかわらずこれを認めます。」 (5) 被告社内での表彰被告は、原告に対し、平成24 年6 月27 日付け「ヒット商品開発したで賞」と題する表彰状(甲6)及びその賞品として被告オリジナルのクオカード(ただし、後記のとおり、その金額については当事者間に争いがある。)を授与した(上記のほか、甲7)。 上記表彰状の内容は、次のとおりである(「/」は改行を意味する。)。 「NEW 矢の特許取得から製造そして販売までこぎつけ、売上げに貢献しました/その実績に対しこの賞を贈ります」(6) 本件訴訟に至る経緯等原告は、令和3 年4 月24 日、被告に対し、「職務発明対価請求に関する通 知」と題する書面(甲3 の1)を送付して本件各発明に係る相当の対価の支 ) 本件訴訟に至る経緯等原告は、令和3 年4 月24 日、被告に対し、「職務発明対価請求に関する通 知」と題する書面(甲3 の1)を送付して本件各発明に係る相当の対価の支 払を求め、同月26 日、同書面は被告に到達した(甲3 の2)。 これに対し、被告は、原告に対し、同年5 月14 日付け回答書(甲4)を送付し、本件同意書の差入れにより原告は被告に対する本件各発明に係る対価請求権を放棄したとして、原告の請求を拒絶した。 原告は、令和4 年6 月1 日、本件訴訟を提起した。 被告は、令和5 年3 月7 日実施の第1 回口頭弁論期日において、被告第1準備書面の陳述により、原告の請求に係る対価請求権の消滅時効を援用した。 3 争点(1) 対価請求権の放棄の効力(争点1)(2) 消滅時効の成否(争点2) (3) 相当の対価の額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(対価請求権の放棄の効力)について(被告の主張)ア原告は、本件同意書において、「私は株式会社ダイセイコーが新型吹矢の 特許を取得するにあたって、発明者としての報酬やその他の権利は一切主張しません。」として、職務発明の対価請求権を放棄した。 イ職務発明の対価請求権に係る特許法の規定が強行法規であるとしても、個々の職務発明について合意がされた場合は、対価請求権を放棄することができるところ、本件同意書は、本件特許の登録からわずか1 か月後の平 成24 年2 月24 日に、本件各発明という個別の職務発明について原告が放棄の意思表示をしたものである。 また、原告は、本件特許出願の3 か月前である平成23 年6 月1 日には被告商品研究開発課課長に昇進し、被告における待遇に十分に満足したために本件同 いて原告が放棄の意思表示をしたものである。 また、原告は、本件特許出願の3 か月前である平成23 年6 月1 日には被告商品研究開発課課長に昇進し、被告における待遇に十分に満足したために本件同意書を作成したとみられるのであって、意思を事実上抑圧され た状態でこれを作成したものではない。 (原告の主張)ア使用者が従業員(発明者)から放棄書を取得すれば相当の対価の支払義務を免れられるとしたのでは、特許法が法定の請求権として発明者に職務発明対価請求権を規定した趣旨が没却される。このため、職務発明対価請求権に関する法35 条は強行法規であって、本件同意書は、これに反し無効 である。 特に、本件では、原告は本件特許の登録がされた直後に被告から本件同意書に署名捺印を要求された。一従業員に過ぎない原告がこれを拒否できるはずもなく、原告の意思は事実上抑圧された状態にあった。このような事情も踏まえると、本件同意書は無効である。 イ原告は、課長昇進前に複数の商品の開発を完了していたところ、これらの商品の売上は33 期(2010 年6 月~2011 年5 月末)の1 年間だけで約 2000 万円であり、課長に昇進するに足る十分な実績を挙げていた。このため、本件各発明と課長昇進とは無関係であり、原告の課長昇進・昇給はそれまでの成果に対する正当な評価に過ぎない。 (2) 争点2(消滅時効の成否)について(被告の主張)ア消滅時効の完成及び援用職務発明に基づく相当の対価請求権の消滅時効の起算点は特許を受ける権利の承継時であるところ、本件においては、遅くとも本件特許の出願日 である平成23 年9 月13 日の時点で、被告は、原告から、本件各発明に係る特許を受ける権利を承継していた。 したがっ 権利の承継時であるところ、本件においては、遅くとも本件特許の出願日 である平成23 年9 月13 日の時点で、被告は、原告から、本件各発明に係る特許を受ける権利を承継していた。 したがって、仮に原告に職務発明の対価請求権が存在したとしても、原告による訴訟提起日である令和4 年6 月1 日時点で、その「権利を行使することができる時」(平成29 年法律第44 号による改正前の民法(以下「平 成29 年改正前の民法」という。)166 条1 項)から10 年を経過しているか ら、その請求権は時効により消滅した(同法167 条1 項)。 イ時効中断の再抗弁について(ア) 表彰事由(被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)60 条)から理解し得るように、被告における表彰制度は、会社に貢献した者に対し、広く表彰という形で謝意を示し、労働意欲を向上させようという ものであり、職務発明の対価とは無関係である。 また、原告が受賞したのは「ヒット商品開発したで賞」であるところ、これは商品開発を評価する賞であり、売上に貢献したことが授賞理由となっている。特許権の取得はヒット商品を開発し売上に至るプロセスで行われたものに過ぎず、原告に対する表彰は、本件就業規則所定の表彰 事由との関係では、「業務に関して、有益な発明考案をしたとき」(60 条(3))ではなく、むしろ「業務成績優良で他の模範と認められるとき」(60条(2))に該当する。すなわち、仮に本件就業規則60 条(3)が職務発明に関する規定だとしても、原告が受けた表彰は職務発明に関するものではない。 したがって、原告が本件各発明につき表彰状及び2000 円分のクオカードの授与を受けたことは、被告による債務の承認ないし一部弁済に当たらず、これを理由 彰は職務発明に関するものではない。 したがって、原告が本件各発明につき表彰状及び2000 円分のクオカードの授与を受けたことは、被告による債務の承認ないし一部弁済に当たらず、これを理由に時効が中断することはない。 (イ) 仮に、原告による対価請求権の放棄が認められないとしても、少なくとも被告は本件同意書によってこれが放棄されたと認識している。そう である以上、被告は、そもそも職務発明の対価請求権が存在していない前提で意思表示をしていることになる。したがって、被告の意思表示は債務承認にはなり得ず、また、被告が職務発明の対価請求権について弁済をすることはあり得ない。 ウ権利濫用又は信義則違反の再抗弁について 否認又は争う。 (原告の主張)ア消滅時効の完成について否認又は争う。 本件就業規則60 条(3)は、従業員が「業務に関して、有益な発明考案をしたとき」との表彰事由を定めており、これは職務発明の対価に関する規 定である。被告においては、各事業年度が終了し翌事業年度に切り替わる毎年6 月末に前年度の表彰を行っており、これを前提とすると、本件各発明に係る対価の支払時期は平成24 年6 月末となる。したがって、消滅時効の起算点はこの時点となり、原告は、令和4 年6 月1 日付けで本件訴訟を提起したから、消滅時効は完成していない。 また、「権利を行使することができる時」とは、その権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることを要するところ、本件は、被告が、在職中に使用者に対し自由な意思表示をすることは原則として不可能という状況を利用して、原告に本件同意書に署名押印させた事案であり、原告が被告 に在職した ることを要するところ、本件は、被告が、在職中に使用者に対し自由な意思表示をすることは原則として不可能という状況を利用して、原告に本件同意書に署名押印させた事案であり、原告が被告 に在職したまま権利行使をすることは現実的に期待できるものではない。 このため、本件では、対価請求権の消滅時効の起算点は原告の被告退職時(平成30 年4 月30 日)又は本件同意書の有効性に関する合理的な検討期間(少なくともその作成から6 か月間)経過後とすべきである。これを前提とすれば、原告の対価請求権の消滅時効は完成していない。 イ時効中断の再抗弁仮に、消滅時効の起算点につき特許を受ける権利の承継時とした場合であっても、本件では被告による債務承認が行われた。すなわち、被告は、本件各発明につき、「従業員が業務に関して有益な発明考案をした場合」(本件就業規則60 条(3))との表彰事由により、平成24 年6 月27 日、原告に 対し、表彰状及び賞品として1000 円分のクオカードを授与した。これは職 務発明の対価の一部弁済に当たり、時効の中断が認められる。 ウ権利濫用又は信義則違反の再抗弁本件は、被告が、使用者と従業員という力関係や原告が在職中に使用者に対して自由な意思表示をすることは原則として不可能という状況を利用して、原告に本件同意書に署名捺印をさせたという事案であり、これによ り、原告は、対価請求権を行使することはできないのではないかと長年誤信し、これを行使することが困難となった。被告が、このような状況を作出しておきながら、従前の裁判例の事案と同様に消滅時効の起算点は権利承継時であるとして消滅時効を援用することは、権利濫用に該当し、信義則上許されない。 (3) 争点3(相当の対価の額)について ておきながら、従前の裁判例の事案と同様に消滅時効の起算点は権利承継時であるとして消滅時効を援用することは、権利濫用に該当し、信義則上許されない。 (3) 争点3(相当の対価の額)について(原告の主張)ア売上額被告は、平成24 年以降現在に至るまで、本件発明1 を自己実施した商品である矢(以下「被告製品1」という。)を販売し、また、平成31 年3 月 以降、本件発明2 を自己実施した商品である矢(以下「被告製品2」といい、これと被告製品1 を併せて「被告製品」という。)を販売している。 平成24 年以降の被告製品の売上額は、総額8 億円を下らない。 イ超過売上の割合被告製品1 の販売開始後、被告が販売する矢の売上の大半は被告製品1 が占めていること及び被告が株式会社トラストクルー(以下「トラストクルー」という。)に対し本件特許に係る特許権(以下「本件特許権」という。)の侵害訴訟を提起している(以下「別件訴訟」という。)ことから明らかなとおり、被告は、本件特許権につき他社に実施許諾するのではなく、むしろ、本件特許権に基づき他社を排除しようとしている。 これらの事情を踏まえると、本件では、超過売上の割合は60%を下らな い。 ウ被告製品の利益率被告製品1 及び2 の限界利益率は47.14%である。 エ発明者貢献度原告は、被告商品研究開発課の従業員として、被告から、新たなスポー ツ吹矢用具の開発という抽象的な課題の提示は受けたものの、本件各発明に係る矢の開発について具体的な指示を受けたことはなく、独自の創意工夫に基づき本件各発明に至った。 このような事情を踏まえると、本件各発明の発明者である原告の貢献度は50%を下らない。 オ共同発明者 て具体的な指示を受けたことはなく、独自の創意工夫に基づき本件各発明に至った。 このような事情を踏まえると、本件各発明の発明者である原告の貢献度は50%を下らない。 オ共同発明者間の貢献割合本件各発明は原告の単独発明であるから、発明者間の貢献度は100%である。なお、本件特許に係る特許公報にはBも発明者として記載されているが、同人は本件各発明に係る請求項の従属項である請求項3 以下の発明の発明者として記載されたのであって、本件各発明には関与していない。 カまとめ以上を踏まえると、本件における相当の対価額は、1 億1313 万6000 円(=8 億円×0.6×0.4714×0.5)を下らない。 原告は、職務発明の対価請求権に基づき、その一部請求として5000 万円の支払を求める。 (被告の主張)ア否認又は争う。 イ仮に原告の対価請求権が存在するとしても、以下の事情に鑑みれば、超過売上割合は零である。 すなわち、被告代表者の登録商標でもある「スポーツ吹矢」は、被告の 創業者が、それまであくまで武術の一つであった吹矢をスポーツ競技とし て確立したものである。その普及のため、同人は、平成10 年4 月に日本スポーツ吹矢協会(以下「吹矢協会」という。)を設立したが、当初の十数年間は、原告が家賃等各種費用を負担し、同協会の活動を支えてきた。被告の吹矢協会に対する多大な資金援助がなければ、被告製品のようなスポーツ吹矢の用具が売れることもあり得なかった。このように、本件において は、被告が吹矢協会を設立し、「スポーツ吹矢」市場を確立させなければ、吹矢用具を販売しても市場そのものが存在していない状況にあった。また、吹矢協会内の内紛によりトラストクルーに吹矢協会の公 て は、被告が吹矢協会を設立し、「スポーツ吹矢」市場を確立させなければ、吹矢用具を販売しても市場そのものが存在していない状況にあった。また、吹矢協会内の内紛によりトラストクルーに吹矢協会の公認が与えられるまで、吹矢協会は被告のみに公認を与えており、被告以外の製造する吹矢は吹矢協会の公式大会で使用ができなかったため、スポーツ吹矢市場には、 被告以外の吹矢メーカーが存在しなかった。 以上のとおり、少なくともトラストクルーが市場に参入する平成31 年1月15 日までは、吹矢競技の矢を販売する業者自体が被告のみであった以上、特許の有無にかかわらずどのような吹矢であろうが被告の一社独占であるから、超過売上は存在しない。 また、被告がトラストクルーに対して提起した別件訴訟において、トラストクルーの製品は本件発明2 の技術的範囲に属しない旨判断された。そもそも、事実としてトラストクルーの販売行為を止められていない以上、トラストクルーの市場参入後も超過売上はない。 さらに、被告は、吹矢協会設立以降、吹矢競技につき一貫して被告代表 者の有する登録商標「スポーツ吹矢」の名称を用いており、被告製品が売れているのは「スポーツ吹矢」の公式吹矢であることによる。すなわち、被告製品の売上は「スポーツ吹矢」ブランドによるところが大きいことから、本件特許による超過売上はない。 しかも、原告代理人は、審決取消訴訟において本件特許につき無効であ る旨主張している。本件特許が無効であるならば、それによる超過売上は ない。 ウ発明者貢献度上記のとおり、被告の多大な努力がなければそもそもスポーツ吹矢市場が存在せず、それまで市場が存在しなかったが故に先行技術が少なく特許になりやすかったという状況にあった。そのような状況の 明者貢献度上記のとおり、被告の多大な努力がなければそもそもスポーツ吹矢市場が存在せず、それまで市場が存在しなかったが故に先行技術が少なく特許になりやすかったという状況にあった。そのような状況の中で、原告は、 スポーツ吹矢の開発をするためだけに従業員として何のリスクも負わずに開発ができた。これらの事情に加え、原告代理人自身が無効と主張する本件各発明の技術としての価値や、新幹線通勤の費用負担という被告の原告に対する厚遇の内容等に照らせば、被告の貢献度は98%を下らず、発明者である原告の貢献度はせいぜい2%以下というべきである。 エ共同発明者間の貢献割合本件特許に係る特許発明の発明者として原告とBの両名が記載されている以上、共同発明者間の貢献割合は50%であると考えられる。それを覆すのであれば、原告の側が本件各発明にBが関与していないことを立証すべきであるが、その立証はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点2(消滅時効の成否)について事案に鑑み、まず、争点2(消滅時効の成否)について検討する。 (1) 消滅時効の起算点についてア勤務規則等の定めに基づき職務発明について特許を受ける権利を使用者 に承継させた従業者は、使用者に対し相当の対価の支払請求権を取得するところ(法35 条3 項)、同請求権についての消滅時効の起算点は、勤務規則等に支払時期の定めのないときは特許を受ける権利の承継時であるが、勤務規則等に使用者が従業者に対して支払うべき対価の支払時期に関する定めがあるときは、その支払時期が消滅時効の起算点となると解される(最 高裁平成15 年4 月22 日第三小法廷判決・民集57 巻4 号477 頁参照)。 イ本件の場合、被告には職務発明規定という名称の規定は存在してお 算点となると解される(最 高裁平成15 年4 月22 日第三小法廷判決・民集57 巻4 号477 頁参照)。 イ本件の場合、被告には職務発明規定という名称の規定は存在しておらず(前提事実(3))、また、被告において、被告が従業者に対して支払うべき対価の支払時期に関する定めを含む勤務規則等が存在することをうかがわせる証拠もない。 したがって、被告において職務発明をし、その特許を受ける権利を被告 に承継させた従業者の被告に対する対価請求権は、その特許を受ける権利の承継時を起算点として消滅時効が進行するものと認められる。 ウ原告の主張についてこの点につき、原告は、従業員が「業務に関して、有益な発明考案をしたとき」を表彰事由とする本件就業規則60 条(3)が職務発明の対価に関す る規定であり、被告においては各事業年度が終了し翌事業年度に切り替わる毎年6 月末に前年度の表彰を行っていることから、本件各発明に係る対価の支払時期は平成24 年6 月末となる旨や、被告在職中に原告が権利行使をすることは現実的に期待できないため、消滅時効の起算点は退職時(平成30 年4 月30 日)又は本件同意書の有効性について合理的な検討期間 (少なくとも作成から6 か月間)経過後とすべきである旨を主張する。 証拠(乙6、7、37)及び弁論の全趣旨によれば、本件就業規則(なお、本件就業規則の実施は平成24 年6 月1 日からとされている(同規則附則)。)条(表彰)には、「従業員が次のいずれかに該当する場合には、その都度審査のうえ表彰する。」とした上で、「業務に関して、有益な発明考案を したとき」((3))が表彰事由とされていること、原告に対する表彰状及び賞品の授与(前提事実(5))は、この規定に基づき行われ 査のうえ表彰する。」とした上で、「業務に関して、有益な発明考案を したとき」((3))が表彰事由とされていること、原告に対する表彰状及び賞品の授与(前提事実(5))は、この規定に基づき行われたことが認められる。 もっとも、上記のとおり、本件就業規則60 条は「表彰」に関する規定であることが表題として明示されていること、他の表彰事由は「永年にわたり誠実に勤務し、勤務ぶりが他の模範となるとき」((1))、「その他前各号に 準ずる程度の業務上の功績が認められるとき」((6))などであり、業務上の 功績と認められる事情が広範に表彰対象とされ得ること、表彰に際して支給される経済的利益の内容やその支給時期はおろか、表彰それ自体の内容や時期についても本件就業規則上規定されていないことに鑑みると、本件就業規則60 条をもって職務発明の対価やその支払時期について定めたものと理解することはできない。 また、「権利を行使することができる時」(平成29 年改正前の民法166 条 1 項)とは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなった時であり、権利者の一身上の都合で権利を行使できないことや、権利行使に事実上の障害があることは影響しないものと解される。そうすると、仮に原告の対価請求権行使につき原告主張のとおりの事情があったとしても、そのような 事情は、消滅時効の起算点に影響するものではない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 (2) 消滅時効の完成ア本件の場合、本件特許の出願日は平成23 年9 月13 日であるから(前提事実(3))、遅くともこの時点で、被告は原告から本件各発明に係る特許を 受ける権利を承継していたことが認められる。したがって、本件各発明に係る原告の対価請求権の消滅時効の起 であるから(前提事実(3))、遅くともこの時点で、被告は原告から本件各発明に係る特許を 受ける権利を承継していたことが認められる。したがって、本件各発明に係る原告の対価請求権の消滅時効の起算点は、遅くとも平成23 年9 月13日となる。 他方、原告による本件訴訟の提起は令和4 年6 月1 日であり(前提事実(6))、その時点で既に平成23 年9 月13 日から10 年が経過していた。 したがって、被告による消滅時効の援用(前提事実(6))によって、原告の被告に対する相当の対価請求権は時効により消滅したものと認められる。 イ時効中断の抗弁の成否これに対し、原告は、本件各発明につき被告が平成24 年6 月27 日付けで表彰すると共に賞品としてクオカードを交付したことをもって、被告に よる本件各発明に係る対価の支払債務の承認及び一部弁済に当たり、時効 の中断が認められる旨を主張する。 しかし、前記(1)ウのとおり、本件就業規則60 条は、その表題のとおり表彰制度について定めたものであって、職務発明の対価について定めた規定とはいえない。このため、被告がこの規定に基づいて表彰状及び賞品を授与したことをもって、原告に対する対価支払債務の承認ないしその一部 弁済と見ることはできない。また、原告は、上記表彰に先立ち、被告に対し、同年2 月24 日付けで本件同意書を提出していたのであり、本件同意書の有効性はともかく、既にこのような書面の提出を受けていた被告が、原告に対し、職務発明の対価の一部弁済として賞品を交付したとも考え難い。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 (3) 権利濫用又は信義則違反の抗弁の成否原告は、被告が、原告との力関係等を利用して原告に本件同意書に署名押 したとも考え難い。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 (3) 権利濫用又は信義則違反の抗弁の成否原告は、被告が、原告との力関係等を利用して原告に本件同意書に署名押印させて対価請求権を行使することはできないものと誤信させ、対価請求権の行使を困難にする状況を作出しておきながら、消滅時効の起算点が特許を受ける権利承継時であるとして消滅時効を援用することは権利濫用に該当し、 これを本件訴訟において主張することは信義則上許されない旨を主張する。 しかし、前記のとおり、仮に原告の対価請求権行使につき原告主張のとおりの事情があったとしても、このことは、消滅時効の起算点に影響するものではない。まして、原告は、被告退職後であり対価請求権の消滅時効完成前である令和3 年4 月には、代理人弁護士に委任して、被告に対し本件各発明 に係る対価の支払を請求し、同年5 月にはこれを拒絶する回答を被告から得ていた(前提事実(6))。原告は、少なくともこの段階では、対価請求権に基づき訴訟を提起することにより時効中断の効果を生じさせることができたといえる。そうである以上、仮に、原告につき本件同意書の作成に係る上記状況があったとしても、被告による消滅時効の援用をもって権利濫用又は信義則 違反と評価することはできない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 2 まとめ以上のとおり、仮に原告が被告に対し本件各発明に係る対価請求権を有するとしても、同請求権は時効完成により消滅したものといえる。そうである以上、その余の点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、本件各発明に 係る対価請求権を有しない。 第4 結論よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、 うである以上、その余の点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、本件各発明に係る対価請求権を有しない。 第4 結論 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官稲垣雄大は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官杉浦正樹

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