平成15(わ)706 道路交通法違反、危険運転致死被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月18日 札幌地方裁判所
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判決文本文6,722 文字)

主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 公安委員会の運転免許を受けないで,かつ,酒気を帯び呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で,平成15年6月13日午前零時15分ころ,a市b区c条d丁目e番付近道路において,普通乗用自動車を運転した第2 第1記載の日時ころ,普通乗用自動車を運転し,前記場所先の交通整理の行われている交差点をf区方面からg方面に向かい直進するに当たり,対面信号機が黄色を表示しているのを同交差点の停止線の手前約170メートルの地点で認め,間もなく同信号機が赤色を表示することを認識しながら,先を急ぐ余り,同信号機の表示を意に介することなく,同信号機が赤色の灯火信号を表示していたとしてもこれを無視して進行しようと考え,同信号機が既に赤色の灯火信号を表示していたのに,これを殊更に無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約70キロメートルの速度で自車を運転して同交差点に進入したことにより,左方道路から青色信号に従って同交差点内に進入してきたA(当時37歳)運転の自動二輪車右側面部に自車前部を衝突させ,同人を跳ね飛ばして路上に転倒させ,よって,同人を頭蓋骨骨折による外傷性ショックにより即死させた第3 第2記載の日時・場所において,同記載のとおり,前記Aを死亡させる交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して同人を救護する等法律の定める必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時,場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。 (事実認定の補足説明)弁護人は,判示第2の事実について,被告人が,対面信号機が赤色灯火を表示している際に,時速約7 等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。 (事実認定の補足説明)弁護人は,判示第2の事実について,被告人が,対面信号機が赤色灯火を表示している際に,時速約70キロメートルの速度で判示交差点(以下「本件交差点」という。)に進入し,青色信号に従って交差道路を進行してきた被害者運転の自動二輪車に自車を衝突させて,被害者を死亡させたことは認めた上で,被告人は,犯行当時,対面信号機が赤色灯火を表示していることを確定的には認識しておらず,赤色信号を殊更に無視したものではないから,危険運転致死罪は成立せず,業務上過失致死罪が成立するにとどまる旨主張し,被告人も公判廷でこれに沿う弁解をする。 そこで,判示のとおり認定した理由を補足して説明する。 1 証拠上明白な事実以下の事実は,被告人も公判廷で認めているか,関係証拠上明白である。 (1) 被告人が走行していた,本件交差点に至る道路は,直線が続く道路で,前方に設置された信号機の信号表示の見通しを妨げる障害物は存在しなかった。また,犯行当時,本件交差点付近は曇っていたが,雨は降っていなかった。 被告人は,犯行当時まで,この道路を二,三十回程度走行したことがあった。 (2) 本件交差点に設置された信号機は,被告人の対面信号機が青色から黄色に変わった後3秒間黄色を表示し,その後,被告人の対面信号機と被害者の対面信号機の双方が12秒間赤色を表示してから,被害者の対面信号機が青色に変わるというサイクルになっていた。 (3) 被告人は,本件交差点に設置された対面信号機が黄色を表示しているのを確認した後,同信号機の表示を全く確認せず,客観的には対面信号機がすでに赤色表示に変わっていた本件交差点に時速約70キロメートルの速度で進入し,自車前部を被害者が運転する自動二輪車の右側面部 るのを確認した後,同信号機の表示を全く確認せず,客観的には対面信号機がすでに赤色表示に変わっていた本件交差点に時速約70キロメートルの速度で進入し,自車前部を被害者が運転する自動二輪車の右側面部に衝突させて跳ね飛ばした上,路面に転倒させ,被害者を死亡させた。 他方,被害者は,本件交差点手前で信号待ちをしていたところ,対面信号機が青色を表示した後に発進し,交差点進入直後本件事故に遭遇した。 2 被告人が対面信号機が黄色を表示しているのを確認した地点被告人は,捜査段階から,起訴時の勾留質問,第1回公判期日における罪状認否ないし弁護人による被告人質問を経て,第2回公判期日における検察官による被告人質問に至るまで,一貫して,本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点で対面信号機が黄色を表示しているのを確認したと供述している。 ところで,前記認定のとおり,本件交差点に至る道路は直線が続き,前方に設置された信号機の信号表示の見通しを妨げる障害物は存在しなかった上,犯行当時,本件交差点付近は曇りであったという天候状況を併せ勘案すると,本件交差点の停止線手前約170メートルの地点から,本件交差点に設置された対面信号機の表示状況を視認することは可能であったと認められる。また,被告人は,公判廷において,本件交差点の停止線手前約170メートルの地点付近を走行していた際の速度は時速50ないし60キロメートルで,その後同停止線手前約80メートルに至った際,速度を時速約70キロメートルに上げて本件交差点に進入したと供述しているが,このような被告人車両の速度や前記認定の本件交差点に設置された信号機の現示状況等を総合すれば,被告人車両が本件交差点の停止線手前約170メートル付近を走行していた際には,本件交差点の対面信号機は黄色を表示していたと認められる。 以上 定の本件交差点に設置された信号機の現示状況等を総合すれば,被告人車両が本件交差点の停止線手前約170メートル付近を走行していた際には,本件交差点の対面信号機は黄色を表示していたと認められる。 以上のような被告人の供述状況や,供述内容が関係証拠と整合性を有することに照らせば,本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点で対面信号機が黄色を表示しているのを確認した旨の被告人の供述は十分に信用できる(なお,この点については,弁護人も特段争っていない。)。 3 争点に対する判断(1) 以上認定した事実によると,被告人は,本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点で,本件交差点の対面信号機が黄色を表示しているのを確認したのであるから,その後間もなく同信号機が赤色に変わることを認識したというべきであって,それにもかかわらず,黄色表示を確認した後,十数秒もの間,同信号機の表示を全く確認しないまま,自車を走行させて本件交差点に進入したものである。したがって,被告人は,本件交差点に進入する際,対面信号機が赤色を表示していることを当然認識しながら,これを意に介さず,たとえ同信号機が赤色を表示していたとしても,これを無視して進行しようと考えていたものと優に認めることができる。 このように,被告人は,対面信号機が赤色を表示していることを認識しながら,およそ赤信号であるか否かについて意に介することなく,赤信号に従わずに進行したものであるから,被告人の行為は「赤色信号を殊更に無視する」行為に該当するというべきである。 (2) 被告人の公判供述の信用性被告人は,公判廷において,おおむね,「黄色信号を確認したのが本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点であるかどうかは記憶がはっきりせず,自分の記憶に従えば,本件交差点の1つ手前の交差点付近で対面信号機が 廷において,おおむね,「黄色信号を確認したのが本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点であるかどうかは記憶がはっきりせず,自分の記憶に従えば,本件交差点の1つ手前の交差点付近で対面信号機が黄色を表示しているのを確認したのではないかと思う。そして,赤信号に変わる前に本件交差点を通過できると考え,同交差点の停止線手前約80メートルの地点で再度対面信号機が黄色を表示していることを確認し,黄色信号の間に交差点を通過するため時速約70キロメートルまで加速し,それ以降は,スピードメーターだけを見て対面信号機の表示を見ることなく進行し,被害者の自動二輪車と衝突した。信号が黄色から赤色に変わる前に交差点を通過できると考えたのであって,もし途中で対面信号機が赤色に変われば交差点の手前で停止するつもりであった。仮に対面信号機が赤色を表示していることがわかっていたならば,そのまま通過することなく,交差点の手前で停止していたと思う。」などと弁解する。 しかし,当時の被告人車両の速度や本件交差点の信号現示状況などに照らせば,被告人車両が本件交差点の1つ手前の交差点付近や本件交差点の停止線の手前約80メートル付近を走行していた際には,本件交差点の対面信号機はすでに赤色を表示していたと認められるのであって,これらの地点で対面信号機が黄色を表示しているのを確認したとの被告人の弁解は,関係証拠との整合性を欠いているといわなければならない。また,被告人は,本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点で対面信号機が黄色を表示していたのを確認したことについては,前記のとおり,捜査段階から第2回公判期日における検察官による被告人質問まで一貫して供述していたのにもかかわらず,第2回公判期日における弁護人による被告人質問の際,突如として供述を変遷させたものであって,供 り,捜査段階から第2回公判期日における検察官による被告人質問まで一貫して供述していたのにもかかわらず,第2回公判期日における弁護人による被告人質問の際,突如として供述を変遷させたものであって,供述の根幹部分を合理的理由なく変遷させている上,供述内容も,本件交差点の相当手前で対面信号機が黄色を表示しているのを確認していたにもかかわらず,黄色信号の間に通過できると考えたとか,もし対面信号機が赤色に変わったら交差点の手前で停止するつもりだったと供述していながら,黄色信号を確認した後は一切信号表示を確認していないと供述するなど,不自然,不合理である。したがって,被告人の公判供述は到底信用できない。 (3) 弁護人は,被告人は本件交差点が全赤状態になることを知らなかったから,本件交差点の停止線の手前約170メートルの地点で対面信号機が黄色を表示しているのを確認し,間もなく赤色に変わることを認識しながら本件交差点に進入することは,自殺行為に等しい不合理な行動であり,被告人がそのような不合理な行動をとったとはおよそ考えられないと主張する。 確かに,本件交差点に設置された各信号機の現示状況は複雑であり,被告人がこれを完全に理解していたとは認められないが,被告人は,犯行当時までに,本件交差点を二,三十回は通行していたのであるから,被告人の捜査段階の自白の信用性を検討するまでもなく,被告人は本件交差点に設置された信号機に一定時間の全赤状態が存在することを知っていたと推認される。 そうすると,被告人が前記地点で対面信号機が黄色を表示しているのを確認した際,対面信号機は間もなく赤色に変わるであろうが,その後,他の車両が本件交差点に進入して来るまでの間に本件交差点を通過することはできると考えたとしても不自然ではなく,被告人の行為が自殺行為に等しい不合理な行動 機は間もなく赤色に変わるであろうが,その後,他の車両が本件交差点に進入して来るまでの間に本件交差点を通過することはできると考えたとしても不自然ではなく,被告人の行為が自殺行為に等しい不合理な行動であるとの弁護人の主張は採用できない。 そのほか,弁護人は,被告人には赤信号を殊更に無視して進行するほどの緊急の動機が存在しない,赤信号を無視して進行する動機があるならば本件交差点に至るまでの全ての赤信号を無視して進行しているはずであるが,そのような証拠はない等と主張して,被告人は赤色信号を殊更無視したとは認められないと主張するが,これらはいずれも前記認定の事実を左右するものではない。 4 結論以上説示したとおり,被告人は,対面信号機が赤色灯火を表示していたのに,これを殊更に無視して本件交差点に進入したと認めることができるから,被告人に危険運転致死罪が成立することは明らかであり,弁護人の主張は採用の限りではない。 (量刑の事情)本件は,被告人が,無免許で酒気帯びの状態で普通乗用自動車を運転し(第1の犯行),交差点の停止線の相当手前の地点で対面信号機が黄色を表示しているのを認め,間もなく同信号機が赤色を表示することを認識しながら,赤色信号を殊更に無視して交差点に進入したため,青色信号に従って進行してきた被害者運転の自動二輪車に自車を衝突させて被害者を死亡させた(第2の犯行)上,その場から逃走した(第3の犯行)という事案である。 被告人は,無免許であることに加え,飲酒し,当時の勤務先の社長や同僚から自動車を置いてタクシーで帰宅するよう注意され,自らも飲酒酩酊状態であることを認識していたのにもかかわらず,タクシー料金惜しさに運転を開始して第1の犯行に及び,本件交差点に差し掛かった際,交差点の停止線の相当手前で対面信号機が黄 よう注意され,自らも飲酒酩酊状態であることを認識していたのにもかかわらず,タクシー料金惜しさに運転を開始して第1の犯行に及び,本件交差点に差し掛かった際,交差点の停止線の相当手前で対面信号機が黄色を表示しているのを確認し,間もなく信号表示が赤色に変わることを認識していたにもかかわらず,先を急ぐ余り第2の犯行に及んだばかりでなく,本件事故により,被害者に重大な傷害を負わせたことを十分に認識しながら,現在の生活を壊したくないなどと考えて,被害者を全く気遣うことなくそのまま現場から逃走したというものであって,犯行動機は,いずれも身勝手極まりなく,酌量の余地は全くない。犯行態様も,無免許かつ酒気帯びの状態で自動車を運転し,市街地の交差点に,赤信号を殊更に無視し,時速約70キロメートルの高速度で進入したもので,誠に無謀かつ危険で,悪質というほかない。しかも,被告人は,その場に被害者を放置したまま現場から逃走したもので,その冷酷で人命軽視の態度は厳しく非難されなければならない。何物にも代え難い被害者の生命を奪った本件結果が重大であることはいうまでもないが,何らの落ち度がないにもかかわらず,被告人の無謀運転により突然その生命を奪われた被害者の無念は察するに余りがあり,息子を失った両親ら遺族の悲嘆,憤りには甚大なものがある。しかるに,被告人は,現在に至るまで,被害弁償の措置も講じておらず,任意保険はおろか自賠責保険にすら加入していなかったため,今後も損害が填補される見込みはほとんどない。被告人の前科関係に照らせば,被告人の道路交通法規に対する規範意識が乏しいことを指摘しなければならないが,被告人は,公判廷においても,自己の刑責を軽減するための不合理な弁解に終始しており,到底真摯に反省しているとは認められない。 以上の事情に加え,危険運転致死罪が,本 いことを指摘しなければならないが,被告人は,公判廷においても,自己の刑責を軽減するための不合理な弁解に終始しており,到底真摯に反省しているとは認められない。 以上の事情に加え,危険運転致死罪が,本件のような無謀運転に対する厳罰化を求める社会的要請に基づいて新設されたものであって,この種事犯に対しては厳しい態度で臨む必要があることを併せ勘案すれば,被告人の刑事責任は重大である。 他方,被告人は,道路交通法違反の各事実を認め,遺族に対して謝罪の手紙を送付し,公判廷でも遺族に対する謝罪の言葉を述べるなど,被告人なりの慰謝の措置に努めようとしていること,公判請求されるのは今回が初めてであること,社会復帰後の稼働先が確保されていること,妻と元稼働先の社長の妻が公判廷に出頭し,社会復帰後の指導監督を誓約していることなど,被告人に有利に斟酌すべき事情も存在するが,これらの事情をできる限り斟酌したとしても,被告人に対しては,主文掲記の刑で処断するのが相当と判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役8年)平成15年12月18日札幌地方裁判所刑事第1部裁判長裁判官小池勝雅裁判官中桐圭一裁判官辻和義

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