平成17(わ)6476 証券取引法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年7月19日 大阪地方裁判所
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判決文本文17,843 文字)

主文 被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判確定の日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 被告人から金4924万4803円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,東京都中央区a町b番c号所在の株式会社東京証券取引所が開設する有価証券市場に上場されている有価証券である株式会社Aの株券について,株価の高値形成を図ろうと企て,平成14年4月16日から同年5月10日までの間,16取引日にわたり,同市場において,同株券の売買を誘引する目的をもって,別表1記載のとおり,被告人名義ほか5名義で,B証券株式会社ほか5社の証券会社を介し,連続した成行注文又は高指値注文を行って高値で買い上がるなどの方法により,同表「変動操作・買付状況」欄記載の同株券合計247万9000株を買い付ける一方,同表「変動操作・売付状況」欄記載の同株券合計266万9000株を売り付け,さらに,別表2記載のとおり,被告人名義ほか4名義で,B証券株式会社ほか3社の証券会社を介し,大量の下値買注文を入れて下値を支えるなどの方法により,同表「変動操作・買付委託状況」欄記載の同株券合計114万1000株の買付けの委託を行う一方,同表「変動操作・売付委託状況」欄記載の同株券1000株の売付けの委託を行い,同株券の株価を405円から530円まで高騰させるなどし,もって,同株券の売買が繁盛であると誤解させ,かつ,同株券の相場を変動させるべき一連の売買及びその委託をするとともに,同期間中,9取引日にわたり,同市場において,他人をして同株券の売買が繁盛に行われていると誤解させる等同株券の売買の状況に関し他人を誤解させる目的をもって,別表1の番号2ないし5,7,8,10, ,同期間中,9取引日にわたり,同市場において,他人をして同株券の売買が繁盛に行われていると誤解させる等同株券の売買の状況に関し他人を誤解させる目的をもって,別表1の番号2ないし5,7,8,10,12及び13記載のとおり,被告人名義ほか3名義で,B 証券株式会社ほか4社の証券会社を介し,同表「変動操作・仮装売買」欄記載の同株券合計71万2000株を売り付けると同時に別途買い付け,もって,権利の移転を目的としない仮装の株券の売買をしたものである。 (事実認定の補足説明)第1弁護人及び被告人は,平成14年4月16日から同年5月10日までの間に公訴事実記載の取引を行ったこと自体については争わないものの,被告人の行為はいずれも証券取引法違反罪に該当せず,被告人は無罪である,と主張するので,以下,検討する。 第2関係証拠によれば,以下のような事実が認められる。 株式会社Aの概要等株式会社Aは,測量機器の製造・販売等を目的として設立された会社で,昭和38年5月20日に,株式会社東京証券取引所市場第二部に株式上場し,平成元年10月2日に,同市場第一部に指定された。発行済の株式総数は,平成13年ないし平成14年の時点では2759万289株であった。 株式会社Aの経営状況についてみると,平成8年3月期までは,黒字決算が続いていたが,平成9年3月期に単独決算ベースで赤字決算に転落して以降は,平成15年3月期まで,連結決算ベースでも赤字決算が続いている状態であった。 株式会社Aの株価は,平成10年6月ころには,1株当たり100円から200円程度で推移していたが,平成12年6月ころ,仕手筋であると噂のあった者による株式の買い集めにより,450円程度に上昇したものの,その者が他の事件で逮捕されたことにより,同年8月下旬に急落し,その後,平成13年10月こ が,平成12年6月ころ,仕手筋であると噂のあった者による株式の買い集めにより,450円程度に上昇したものの,その者が他の事件で逮捕されたことにより,同年8月下旬に急落し,その後,平成13年10月ころまで,100円台から200円台で推移していた。 被告人が株式会社A株に関与した経過(1)被告人の経歴被告人は,証券会社に長年勤務していたものであるが,平成7年ころには,投資顧問株式会社を設立して代表取締役に就任し,企業の再生に向けたファイナン スを引受ける外国投資信託の組成・販売等を主に行っていた。B証券株式会社(以下「B証券」という。)の代表取締役C知り合い,平成12年ころ,同社の子会社であるDの取締役となるとともに,その関係会社の役員にも名を連ねるようになった。 (2)株式会社A株に関った端緒等平成13年3月ころ,被告人はE株式会社が資金調達のために会社が保有している株式会社A株の売却を検討しているとの情報を得て,株式会社A株の株価が上がったところで市場で売れば利益が出るなどと考え,これを購入することを決意した。購入の際には,FからE株式会社の株券を借り受け,これを代用有価証券として信用取引の担保に入れるなどして,G名義の口座を使い,株式会社A株合計110万株を買い付けた。 平成13年6月から7月にかけ,被告人は,株式会社A株を高値で売り抜けようと考え,知人の証券アナリストに依頼して,株式会社A株の推奨記事を証券雑誌に掲載してもらい,株価を上昇させた上,株式会社A株を32万9000株売ったものの,株価が下落に転じたため,それ以上の売却を断念した。 (3)株式会社A株を買い集めるに至った経緯等そして,被告人は,そのころから,株式会社A株を発行済株式の過半数を買い集めて経営権を獲得するか,3分の1を買い集めて特別決議のキャステ 却を断念した。 (3)株式会社A株を買い集めるに至った経緯等そして,被告人は,そのころから,株式会社A株を発行済株式の過半数を買い集めて経営権を獲得するか,3分の1を買い集めて特別決議のキャスティングボートを握るなどして,海外ファンドなどに高値で売却することを考え始め,同年9月,知人のHに計画への協力を求め,同人から承諾を得た。被告人は,資金不足であったため,株式会社A株を適度に値上げして,保証枠を拡大したり,益出しクロス取引による売買益を手に入れるなどして,徐々に株式会社A株を買い集めた。このころ,知人であるIに対しても,計画への協力を求め,HやIとともに,高値で買い上がったり,引け間際に多くの株を買うなどして,株価を適度に上昇させるなどしながら,株式会社A株の買い増しを行った。 (4)株式会社A株の買い集めが困難になった状況等 平成13年12月ころには,G名義口座の信用枠の拡大のため,FらのE株式会社の株を借り受け,代用有価証券として担保差入れをするなどして株式会社A株をさらに買い集めたが,同月末には,保証枠を設定していたB証券の代表取締役であるC及びDの代表取締役であるJから,株式会社A株の信用建玉の減少を強く求められるようになった。 また,被告人は,平成14年1月下旬から2月上旬にかけて,K株式会社の担当者であるLから,同社が注文を出している先の証券会社がトストネット取引(東京証券取引所が開設する有価証券市場内の取引で,立会外で行う取引のこと)による株式会社A株のクロス取引をこれ以上はしないという連絡を受けた。 被告人は,株式会社A株のクロス取引を止めると,株式会社A株の買付けができなくなり,株価を買い支え,引き上げることができなくなることから,売買取引等を立会内でせざるを得なくなった。 同年2月13日,Iを介し,買い戻し A株のクロス取引を止めると,株式会社A株の買付けができなくなり,株価を買い支え,引き上げることができなくなることから,売買取引等を立会内でせざるを得なくなった。 同年2月13日,Iを介し,買い戻しを条件として135万株の株式会社A株をMに買い受けてもらったが,その際,被告人のいうところの「M&Aの話」がまとまったときにその株を買い戻したい旨を伝えていた。同じころ,一緒に買い集めをしていたHが,買い集めは失敗に終わると見切りをつけて,株式会社A株を売り始めたことで,被告人はIと共に,Hが売った株を買い集めた。 同月末には,被告人,I,M及びHの株式会社A株の保有数は,発行済株式総数の2割強となったが,被告人関連口座の信用建玉が約11億円,Iのそれが約5億7000万円となり,信用取引口座の担保預託率が一時3割を割り込むなどしたため,株価の暴落等で被告人の取引が破綻し,B証券自体が倒産に追い込まれる危険性を感じたCらから信用建玉の減少を一層迫られるようになった。 平成14年3月・4月の状況(1)同年3月上旬ころ,被告人は,発行済株式総数の3分の1以上の株式会社A株を買い集めるには至っていなかったが,まとめて買ってくれる先があれば,買い集めた株式会社A株を処分しようと思うに至り,JやCに対して,株式会社A株 を手放すのでまとめて買ってくれる人を紹介してほしいなどと依頼した。Cから紹介を受けた外国のファンドと,株式会社A株の売却に関して交渉をしたが不調に終わった。また,このころ,FらからE株の返却を求められるようになったが,すぐに返せる状況にはなく,株式会社A株買付けの一任を受けていたNからも株式会社A株の処分を求められるようになるなど,被告人が株式会社A株を売却する必要性はより高まった。そのような状況の中,被告人は,Oに対しても,「株 く,株式会社A株買付けの一任を受けていたNからも株式会社A株の処分を求められるようになるなど,被告人が株式会社A株を売却する必要性はより高まった。そのような状況の中,被告人は,Oに対しても,「株式会社A株の一部を手放すので,買ってくれる人を紹介してほしい」などとして,大口投資家への一部売却を依頼したが,その際には買い戻すという話をしなかった。 このような状況の中,株式会社Aの株価は下落傾向にあり,同年4月15日には,2月以来の最安値である431円となった。 (2)被告人は,このまま株価の下落が続くと,大口の投資家に一括売却したとしても,その売却先が即座に売るなどして,株価が暴落する危険があり,また,株価が暴落した場合には,代用有価証券としての担保価値が下がって追証が発生するが,これをできずに取引が破綻することを危惧した。被告人は,Oから複数の売却先を紹介され,また,自分でも売却先を見つけ,売却先に対して,当日の株価で譲渡する約束を取り付けた。そのため,被告人は,株価をできるだけ上昇させるとともに,株価の下落を防ぐ必要があった。 本件期間中における被告人の取引等被告人は,上記のとおり,大口投資家に自己の保有する株式会社A株を購入してもらおうと考え,株価が上昇し続けている中で短期間で株式会社A株を売却する必要があったため,平成14年4月16日から同年5月10日までの間,直前の約定値よりも高い指値の買い注文を出したり,ザラ場に出ている売りを一気に買い上がったり,直前値よりも安い複数の値段にまとまった量の買い注文を発注したり,終値をできるだけ高くするために,引け間際に高値に誘導するような買い方をするなどの方法で,売買を頻繁に行った。また,被告人は,現物取引をす る際には,P証券株式会社,Q株式会社及びR証券株式会社のうち,どの証券会 くするために,引け間際に高値に誘導するような買い方をするなどの方法で,売買を頻繁に行った。また,被告人は,現物取引をす る際には,P証券株式会社,Q株式会社及びR証券株式会社のうち,どの証券会社に委託するのかということを指示して,各取引を行った。以下は,具体的な取引の例である。 (1)高値買い上がりア板の空いている値段に小刻みに買い注文を出す取引4月16日の取引では,前場において,直前値が405円のところ,415円で2万株,425円で1万株の買い注文を出した直後,430円で5000株の買い注文を出すなど,直前値をはるかに上回る値段による買い注文を出している。 また,5月10日の取引では,後場において,株価が506円まで下落した際には,508円で2000株の買い注文を出して,株価を508円にさせ,続けて515円で合計10万株,その直後に520円で3万株の買い注文を出し,株価を519円とした。 イ板の空いている値段に更新値幅ごとに売り注文を出して買特別気配を表示させない取引4月25日の取引では,後場の立会時間終了直前には,3000株の成行買い注文を出した後,更新値幅と同額の5円刻みで(475円で1000株,480円で1000株)売り注文を出し,その後成行買い注文を取り消し,470円で5000株の売り注文を出した。 ウ引け間際の取引4月16日の取引では,引け間際に3万株の成行買い注文を出し,株価を446円から450円に引き上げた。 4月18日の取引では,引け間際に444円で4万株の買い注文を出し,株価を441円から444円まで引き上げ,その直後,445円で2万株の買い注文を出し,株価を445円とした。 エその他4月24日の取引では,前場が453円で寄り付き,株価が下落基調で,株価 が直前値446円であったところ,450円で その直後,445円で2万株の買い注文を出し,株価を445円とした。 エその他4月24日の取引では,前場が453円で寄り付き,株価が下落基調で,株価 が直前値446円であったところ,450円で1000株の売り注文が出されていたことから,454円で3000株の買い注文を出し,株価を引き上げた。また,下落していた株価が463円まで値を戻すと,470円で5000株,その直後に同値段で2000株の買い注文を連続して発注し,株価を470円まで引き上げた。後場においては,直前値が483円まで上昇すると,その直後に,490円で1万株の買い注文を出し,株価を490円まで引き上げた。 4月25日の取引では,前場において,直前値が479円のところ,485円で1000株の買い注文を出し,株価を5円引き上げたほか,後場にも,株価が480円だったところ,485円で5000株の買い注文を出すなどして,株価を上昇させた。また,第三者の売買で株価が490円まで上昇すると,3万5000株の成り行き買い注文を出し,株価を492円まで引き上げた。 (2)下値支えア株価が下落している際に直近の値段より高い指値買いの注文を出す取引5月7日の取引では,505円で寄り付いたところ,500円で1万株の買い注文を出し,その直後に第三者から500円で1万株の売り注文が出て,9000株を約定した。そして,その直後,直前値が500円であったところ,510円で2000株の買い注文を出し,株価を505円に引き戻した。 イその他4月17日の取引では,前日の終値が449円だったところ,寄付き前に,420円で1万株,415円で1万株,410円で1万株の買い注文を出して,株価が値崩れした場合の下支えを図るとともに,買い圧力が強いという印象を与えた。 また,5月10日の取引では,前場において, 20円で1万株,415円で1万株,410円で1万株の買い注文を出して,株価が値崩れした場合の下支えを図るとともに,買い圧力が強いという印象を与えた。 また,5月10日の取引では,前場において,直前値が507円だったところ,501円で20万株の買い注文を出し,さらに,500円で20万株の買い注文を出した。 (3)被告人が,本件期間中,株式会社A株の取引を繰り返したことは,明らかであ る。本件期間中の被告人による市場関与率は5割近いものであった。 (4)なお,被告人は,公判において,「株式会社Aの発行済株式総数の過半数または3分の1を取得し(他の大口投資家に購入してもらうことも含む),高値で海外ファンド等に一括売却をしようという,被告人のいうところのM&A(以下「M&A」という。)を行うことを考えており,株式会社A株の取得を諦めていなかった,売り渡し先に対して,M&Aができるので,それまで持っていてほしいと言った」旨供述しているので,この点についてみるに,被告人は,平成14年2月に売却したMに対しては,M&Aをすることを前提に買い戻しの話をしているのに対し,それ以降の売却については買い戻しの話をしていない。これは,被告人が平成14年3月以降の時点では,買い戻しを前提に売却していたのではないことを示すものである。そして,被告人の捜査段階の供述調書には,被告人がM&Aが終了するまで株式会社A株を持っていてほしいと述べたことを窺わせる記載はなく,むしろ,被告人がその旨述べたとされる相手方らにおいて,「被告人から株式会社A株を売却してはいけないとは言われていない」と一様に供述していることからすると,売却の際に,被告人が株券を買い戻す意思を有していなかったことは明らかである。また,Iの捜査段階における供述調書によれば,被告人はIに対して「 は言われていない」と一様に供述していることからすると,売却の際に,被告人が株券を買い戻す意思を有していなかったことは明らかである。また,Iの捜査段階における供述調書によれば,被告人はIに対して「もう株式会社A株は手放すしかない。」などと告げていることが認められるところ,弁護人及び被告人は,この「手放す」という言葉の意味について,被告人自身が買い戻すことを前提としながらも,売却先に対して保有を義務づけることができないことから,自身で自由になる株式ではなくなるということであった等と主張する。しかし,この主張自体が,被告人がM&Aを行いたいというのは淡い希望に過ぎず,その時点で実現可能な目的ではなかったというに等しいものである。したがって,少なくとも本件期間中の取引の際に,被告人においてM&Aを実現しようとの考えを有していなかったことが,優に認められる。 第3証券取引法159条2項1号違反の罪の成否 1(1)法159条2項1号は,上場有価証券の売買の取引を誘引する目的をもって,上場有価証券売買等が繁盛であると誤解させ,又は取引所有価証券市場における上場有価証券等の相場を変動させるべき一連の上場有価証券売買等又はその委託・受託等をすることを禁じている。 これは,有価証券の相場を変動させるべき一連の売買取引等のすべてを違法とするものではなく,有価証券市場における有価証券の売買取引を誘引する目的をもってする,有価証券取引が繁盛であると誤解させ,又は有価証券の相場を変動させるべき一連の売買取引等が禁止されているということである。この点に関し,最高裁判所は,同条2項1号後段(改正前の法125条2項1号後段)について,「人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず,投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価 判所は,同条2項1号後段(改正前の法125条2項1号後段)について,「人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず,投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的をもってする,相場を変動させる可能性のある売買取引等を禁止するものと解される」(最高裁平成6年7月20日第三小法廷決定・刑集48巻5号201頁)としているところ,当裁判所も同様に解する。 さらにいうならば,上記にいう「自然の需給関係」とは,相場を変動させるような人為的操作とは無関係な投資者らが,それぞれの経済的合理性に基づく意図を有しながら取引に参加している状態において行われた買い付けの注文と売り付けの注文との関係のことであると解される。証券取引法が,その1条において,「この法律は,国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため,有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ,且つ,有価証券の流通を円滑ならしめることを目的とする。」と定めているように,有価証券市場が不特定多数の投資者に開かれており,参加した投資者それぞれが公正な取引を行うことによって適切に運営されることが期待されているのであるが,不公正な取引がなされた場合,他の投資者が不測の損害を被るばかりではなく,有価証券市場としての信頼がゆらぎ,ひいては国民経済の健全な発展が阻害されることになるため,自由で公正な有価証券市場を確立し,維持しようとしているのである。 したがって,法は,他の投資者に不測の損害を与える可能性のある取引だけに限られず,自由公正な有価証券市場としての信頼を損なう危険性のある不公正な取引を禁止しているものと解される。すなわち,人為的な操作を加えて相場を変動させようとしている者が,当該取引が投資者に誤解を与え,そ ず,自由公正な有価証券市場としての信頼を損なう危険性のある不公正な取引を禁止しているものと解される。すなわち,人為的な操作を加えて相場を変動させようとしている者が,当該取引が投資者に誤解を与え,それに基づいて取引に参加する可能性があるものであることを認識しながら,その意図に基づいて取引を行った場合,その取引は法の禁止に触れるものといわなければならない。 その者が,現実に,株券を購入し又は売却しようとする場合であっても,上記のような取引に当たる以上,禁止されるものであることに変わりはない。 検討(1)被告人は,資金不足のために信用取引を頻繁に行いながら,外国ファンド等への高値での一括売却を行うために株式会社A株を大量に買い集めていたが,信用建玉が増大したためにこれを減らす必要に迫られ,買い集め半ばではあったものの,海外ファンドへの一括売却をしようと考えたところ,取引が不調に終わったために,大口の売却先を紹介してくれるよう頼み,これに売却し又は売却しようとした。そして,被告人は,大口の売却先に被告人の考える適正価格,すなわち当時の株価よりも高値の株価で売却する必要があったし,また,株式会社A株の代用有価証券としての担保価値の減少を防ぐために,第2の4認定のとおりの取引を行った。これは,同一銘柄の売買を反復するものであるし,市場関与率も非常に高いものであった。このような状況において,被告人が行った,板の空いている値段に小刻みに買い注文を出す取引や,板の空いている値段に更新値幅ごとに売り注文を出して買特別気配を表示させない取引,引け間際の取引は,いずれも株価を高値に誘導するものであり,また,株価が下落している際に直近の値段より高い指値買いの注文を出す取引は,株価の下落を防止する取引といえる。これは全体として相場を変動させる可能性のある売 いずれも株価を高値に誘導するものであり,また,株価が下落している際に直近の値段より高い指値買いの注文を出す取引は,株価の下落を防止する取引といえる。これは全体として相場を変動させる可能性のある売買取引であったというべきである。 以上の取引がなされると,一般の投資者が,その相場が自然の需給関係により 形成されているものであると受け止め,その上で売買取引に参加しようと考える可能性があった。また,売買が繁盛に行われていると誤解させる取引であった。 (2)真実は,株価形成を意図した上で行った取引であるにもかかわらず,投資家が,自然の需給関係に基づいて取引がなされた結果としてその相場が形成されたものであると受け止め,その上で売買取引に参加しようと考える可能性があることについて,被告人はこのことを当然認識していたにもかかわらず,一連の売買取引等を繰り返したものである。 なお,被告人は,これらの行為について,捜査段階において,「株価が下落しそうな局面になると,直前値よりも安い複数の値段でまとまった量の買い注文を出して,株価が下落した場合のストッパーとしての下値支えをした」,「底値が堅い,市場の買い意欲が強いなどの印象を,一般投資家に与えて,一般投資家からの高値の買い注文が出されることを期待した」,「板の空いている値段に,買い注文を出すことにより,一般投資家からの高値の買い注文や売り注文が出されることを狙い,株価を引き上げようとしたこともあった」(乙10)などと供述し,公判においても,「株価を少しでも上げたいから,自分一人で株を買い上がるよりも,自分以上の高値で株を買ってくれる一般投資家がいれば,それは,ありがたいことだった」旨供述しているのであって,本件取引に際して株価を高値で形成しようとしていたこと,これを見た投資家が取引に参加することを望 上の高値で株を買ってくれる一般投資家がいれば,それは,ありがたいことだった」旨供述しているのであって,本件取引に際して株価を高値で形成しようとしていたこと,これを見た投資家が取引に参加することを望んでいたことは自認しているところである。 これらの事情からすると,被告人が,投資家を上記のとおり誤認させて売買取引に誘い込む目的をもって,本件売買取引をしたものというべきである。 (3)したがって,被告人は,人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず,投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて市場における株式会社A株の売買取引に誘い込む目的をもってする,相場を変動させる可能性のある取引をしたというべきであり,当然のことながら,売買が繁盛に行われていると誤解させる取引をしたともいうべきで,被告人の本件取引 については法159条2項1号違反の罪が成立する。 弁護人の主張について(1)弁護人は,「自然の需給関係」とは「実需に基づく需給関係」のことであると理解した上で,被告人のした取引は,人為的操作を加えて相場を変動させるべき取引ではないと主張する。すなわち,①被告人は各注文において現実に約定することを意図しており,このような取引は自然の需給関係に基づくものというべきであるから,人為的操作を加えて相場を変動させるべきものとはいえない,②「実需」に基づく取引が本罪の構成要件に該当することがあるとしても,証券取引法違反として処罰するのは,買い注文を入れてきた一般投資家に売り付けて,一般投資家を食い物にするような類型に限定されるべきであるというのである。 しかしながら,①の点については,現実に約定することを意図していたとしても,人為的な操作を加えて相場を変動させようとする取引は,証券取引法によって禁止の対象とさ 限定されるべきであるというのである。 しかしながら,①の点については,現実に約定することを意図していたとしても,人為的な操作を加えて相場を変動させようとする取引は,証券取引法によって禁止の対象とされるのである。被告人の行った本件取引が,株価を高値に誘導し,又は株価を下げないための取引であって,人為的操作を加えて相場を変動させるべき取引に当たることは上記のとおりである。弁護人の主張は採ることができない。②の点についても,上記に述べた証券取引法の趣旨等に鑑みると弁護人の主張のように処罰範囲を限定的に解釈するのは相当と思われない。 (2)また,弁護人は,仮に,被告人の取引が,人為的操作を加えて相場を変動させるべきものであったとしても,被告人には投資家を誤認させて取引に誘引する目的はなかったと主張する。すなわち,①誘引目的について,一般投資家が取引に誘い込まれる認識では足りず,一般投資家を誤解させ,取引に誘い込む積極的な意図が必要であると解すべきところ,被告人にはそのような積極的意図はなかった,②誘引の相手方は,取引相手となるものに限定すべきであるところ,被告人は,知人など特定の投資家との間で取引を行おうとしたのであるし,仮に誘引の相手方が限定されないとしても,被告人は一般投資家を取引に誘引しようとしたのではない,③被告人は手口の分散等をしておらず,株の大量保有報告書も提出 しているなど公正な取引をしており,株価が自然の需給関係により形成されているものであると一般投資家を誤認させて誘引する目的は存しない,④被告人は適正価格で売り渡し,又は担保としての価値を減少させないために株式会社A株の買付行為を行ったに過ぎず,また,株価を上昇させたのは大口投資家に保有してもらうためで,高値で売り抜ける目的など有していないのであって,被告人には本件証券 ての価値を減少させないために株式会社A株の買付行為を行ったに過ぎず,また,株価を上昇させたのは大口投資家に保有してもらうためで,高値で売り抜ける目的など有していないのであって,被告人には本件証券取引法違反を犯す動機が存しない。 しかしながら,①の点については,本罪の成立には,投資家を積極的に取引に誘い込む意図までは必要ではないと解されるのであって,弁護人の見解を採用することはできない。 ②の点については,上記のとおり,証券取引法は,証券取引市場の自由かつ公正な取引が阻害されることを防止しようとしているのであって,法159条2項1号が誘引の相手方を限定していないことは明らかである。また,被告人において,一般投資家を誘引する目的をもって取引を行ったことは上記認定のとおりである。 ③の点については,手口の分散をせず,株の大量保有報告書を提出したからといって,一般投資家を誤認させて取引に誘引する目的がなかったということはできない。本件においては,被告人は,買い上がりや下値支えを繰り返し行い,一般投資家に株価が上がっている,底値が堅いなどと思わせ,投資家が取引に参加することを期待して人為的な操作を加えているのであるから,一般投資家を誤認させて取引に誘い込む目的があったというべきである。 ④の点については,被告人の考える適正価格にするために株式会社A株を買い付けるということは,株価を高騰させるために株式会社A株を買い付けているということに他ならないのであって,弁護人の主張を採用することはできない。なお,弁護人は,持ち株が増えていることなどを根拠に,被告人は高値で売り抜けるために買付けを行ったわけではないと主張するが,この点については,本件取引時において被告人に売り抜けの意図があったか否かは認定できないものの,上 記のとおり,法は自由公正な市場 高値で売り抜けるために買付けを行ったわけではないと主張するが,この点については,本件取引時において被告人に売り抜けの意図があったか否かは認定できないものの,上 記のとおり,法は自由公正な市場に対する信頼を損なうような不公正な取引を禁止するものであって,行為者に高値で売り抜ける意図があったか否かは結論に影響しない。 第4証券取引法159条1項1号違反の罪の成否 法159条1項1号は,他人をして上場有価証券等についてその取引が繁盛に行われていると誤解させる等,これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって,権利の移転を目的としない仮装の上場有価証券の売買をすることを禁じている。この「上場有価証券等の取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」とは,取引が頻繁かつ広範に行われているとの外観を呈する等当該取引の出来高,売買の回数,価格等の変動及び参加者等の状況に関し,他の投資者に,自然の需給関係によりそのような取引の状況になっているものと誤解させることを認識することであると解せられる。 検討(1)被告人の行った取引は,権利の移転を伴わない自己売買であるところ,これが仮装売買にあたることは当然に認められる。 本件においては,上記のとおり,4月16日から5月10日にかけての16取引日において,被告人が買い上がりや下値支えをして,株価を上げていったのであって,その行為は変動操作罪にあたることは上記認定のとおりであるが,そのうちの9取引日で仮装売買がなされており,その取引数をみても,16取引日での株式会社A株の売買出来高合計918万5000株のうち被告人による出来高は442万2000株であり,そのうち仮装売買による売買取引は71万2000株にも及んでいる。仮装売買をしたことによりその日の出来高は当然増加するのであるが,本 万5000株のうち被告人による出来高は442万2000株であり,そのうち仮装売買による売買取引は71万2000株にも及んでいる。仮装売買をしたことによりその日の出来高は当然増加するのであるが,本件期間の取引についてみても,別表1記載のとおり,出来高が増加している。そして,投資家が,出来高の増加を見て,取引が繁盛に行われていると誤認し,その上で売買取引に参加しようと考える可能性は十分に認められるところである。 (2)本件において,投資家が,取引が繁盛に行われていると誤認し,その上で売買取引に参加しようと考える可能性があることを,被告人は,当然認識していたにもかかわらず,大量の仮装売買を行ったものである。 被告人は,この仮装売買を行ったことに関し,捜査段階において,「これだけの仮装売買を繰り返し行えば,一般投資家に売買が繁盛に行われているとの誤解を引き起こすということは十分に分かりながら行っていた」(乙10)などと供述し,公判においても,「仮装売買を繰り返し行うと,売買出来高が増大し,売買出来高というのは,一般投資家が投資をするか否かについての判断基準になっていることは認識していた」,「みんながいいないいなと思ってくれて,株式会社A株が人気づくことについては,当然,ある時点(株価)からは期待を大きくしていた」などと述べており,上記の認識があったことを自認している。 以上を総合すると,被告人が,上場有価証券等の取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって,仮装売買を行ったというべきである。 (3)本件において,被告人が用いた手法は,株価を上昇させていくことによって,資金調達を可能とする一方,投資家に対して,株式会社A株が投資対象として有望であるなどと誤解を生じさせることになるもので,資金を調達しようという目的と,取引の状況に関 を上昇させていくことによって,資金調達を可能とする一方,投資家に対して,株式会社A株が投資対象として有望であるなどと誤解を生じさせることになるもので,資金を調達しようという目的と,取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的は一体のものということができる。被告人は,一般投資家に繁盛に行われていると誤解を生じさせるような形態で仮装売買を行い,そのことを認識していた以上は,資金調達の目的で仮装売買を行ったとしても,取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって仮装売買をしたことを否定するものではない。 弁護人の主張について(1)弁護人は,本罪は目的犯であって,犯罪成立のために他人に誤解を生じさせる目的を要求することが益出クロス取引等の非犯罪行為と峻別する機能を有すると考える以上,行為者の主観としては,未必的認識では足りず,目的達成のために実行行為が行われたことが必要であると主張する。しかし,仮装売買をすること 自体が,特段の事情のない限り,取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的を強く推認させるものである。この目的があるというためには,被告人が,自身が行おうとしている取引を行えば第三者がその取引状況に関し実需に基づくものであると誤解する可能性があることを認識した上で,当該取引を行ったことが認められれば足りるというべきであって,弁護人の主張を採用することはできない。 (2)また,被告人は,相場操縦のための資金を捻出するために行った即金付け融資は,仮装売買に繋がるものであるとしても,一般投資家を誤解させる目的でやったのではないなどと主張するが,上記のとおり,被告人は,一般投資家が誤解する状況が作出される可能性を認識していたのであるから,本罪が成立する。被告人が,一般投資家が誤解する状況が作出されることを願望していなかったとして 張するが,上記のとおり,被告人は,一般投資家が誤解する状況が作出される可能性を認識していたのであるから,本罪が成立する。被告人が,一般投資家が誤解する状況が作出されることを願望していなかったとしても,結論に影響はない。 第5 結論 以上の次第で,本件において,法159条2項1号違反の罪及び159条1項1号違反の罪が成立する。 (法令の適用)被告人の判示所為のうち,変動操作の点は包括して証券取引法197条1項7号,159条2項1号に,仮装売買の点は包括して同法197条1項7号,159条1項1号に該当するところ,これらは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い変動操作の罪の刑で処断することとし,所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役2年及び罰金200万円に処し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予し,被告人が判示の犯罪行為により得た財産及びその対価として得た財産については,証券取引法198条の2第1項1号,2号によりいずれも没収すべきであるところ,同項ただし書を適用して,当該財産のうち, 金4924万4803円を没収することとするが,既に費消されるなどして没収することができないので,同条2項により,被告人から同価格を追徴することとする。 (追徴に関する補足説明) 必要的没収・追徴に関する証券取引法198条の2は,相場操縦等の犯罪行為により得た財産を被告人からはく奪することにより,不公正な取引を抑止するための規定であり,原則として,相場操縦等の犯罪行為によって得た財産については る証券取引法198条の2は,相場操縦等の犯罪行為により得た財産を被告人からはく奪することにより,不公正な取引を抑止するための規定であり,原則として,相場操縦等の犯罪行為によって得た財産については,すべてが同条所定の必要的没収・追徴の対象となるというべきである。もっとも,同条1項ただし書は,犯人に過酷な結果をもたらす場合などには,例外的に没収・追徴の対象から除外することを許容していると解される。 そこで,本件についてみると,被告人が現実に取得できる利益は相場操縦に係る株式の売買差益相当額に過ぎず,また買付株式と売却代金双方を没収・追徴の対象とすると,実質的には同一株式につき二重に評価することとなるので,売却代金から買付代金相当額を控除した売買差益相当額に限定するのが相当である。 以上を前提として検討すると,調査官報告書(甲24)によれば,犯行期間中に買い付け,同期間中に売り付けた売買につき,4924万4803円の売買差益が生じていることが認められるので,この差益について,没収・追徴の対象とするのが相当である。 検察官は,犯行期間前に買い付け,同期間中に売り付けた売買につき,株式会社A株の売買を現物取引分と信用取引分で区別して差益を計算し,信用取引分につき売買差益が3191万3000円生じているので,これについても被告人から没収・追徴すべきであると主張するが,上記の株式会社A株の取引によって,売買差益以上の9088万5000円の差損が生じているのであって,没収・追徴に関し,現物取引分と信用取引分を区別して考える理由はないことからすると,信用取引分の差益に限って没収・追徴の対象とするのは相当ではない。 弁護人は,被告人が,株式会社A株を投資家に売却する際,売却代金の10ないし20パーセントの現金や株券等を,投資家に支払っており,その金額 分の差益に限って没収・追徴の対象とするのは相当ではない。 弁護人は,被告人が,株式会社A株を投資家に売却する際,売却代金の10ないし20パーセントの現金や株券等を,投資家に支払っており,その金額の合計 は約2億円にのぼるのであるから,被告人には売買差益が生じておらず,被告人から没収・追徴をすべきではない旨主張している。しかしながら,被告人の支出は,株式会社A株を保有した投資家が早期に売却することを防ぐために,被告人の元に帰属する売却代金とは別個に新たに支出したものに過ぎない。そして,上記の売買差益相当額が,相場操縦等の犯罪行為によって得た財産に当たる以上は,没収・追徴の対象から除外すべき相当な理由はないというべきである。 (量刑の理由)本件は,被告人が,東京証券取引所第一部上場の株式会社Aの株券について,誘引目的で,株券の売買が繁盛であると誤解させ,かつ,同株券の相場を変動させるべき一連の取引を行うとともに,株式会社A株の売買の状況等に関して他人に誤解を生じさせる目的で,仮装売買を行った事案である。 被告人は,仮装売買を交えながら,直前の約定値よりも高い指値の買い注文を出したり,ザラ場に出ている売りを一気に買い上がったり,小刻みに指値を高くした買い注文を入れたり,直前値よりも安い複数の値段にまとまった量の買い注文を発注したり,終値をできるだけ高くするために,引け間際に高値ないし成行の買い注文を連続して買い上がるなどして,株価を高値に誘導させているのであり,その手口は巧妙なものである。また,平成14年4月16日から同年5月10日までの間に,判示のとおり,仮装売買を含めた大量の売買を繰り返し,その結果,株式会社Aの株価を405円から最高530円まで高騰させ,証券市場における自由かつ公正な取引を大きく阻害し,多くの投資家の判断を誤らせ ,判示のとおり,仮装売買を含めた大量の売買を繰り返し,その結果,株式会社Aの株価を405円から最高530円まで高騰させ,証券市場における自由かつ公正な取引を大きく阻害し,多くの投資家の判断を誤らせて損害を負わせる危険に晒した。これにより,株式会社A株の取引に参加して損害を被った投資家も少なからずいたことが認められる上,証券市場に対する国民の信頼を大きく損なわせたものであって,その結果は重大である。被告人は,資金が不足する中,株式会社A株の売却処分を迫られ,自身の行為が罪となることを完全には理解していなかったものの,証券取引法違反となるかもしれないと不安に思いながら,少しでも自己に有利な形で売却しようと株価を高値にすることを企て,各行為を行ったのであって,そ の経緯に酌量の余地はほとんどなく,利欲的かつ自己中心的な犯行動機は厳しく非難されるべきである。以上によれば,その刑責を軽くみることは許されない。 しかしながら,他方,客観的な取引行為等の事実関係については全面的に認めていること,自ら招いたことではあるとはいえ,結果として多額の財産的損失を被ったこと,前科前歴がないこと,養育すべき家族がいること等酌むべき事情も認められるので,以上の事情を総合考慮し,被告人に対しては,今回に限りその懲役刑の執行を猶予し,罰金及び追徴について主文のとおりに処するのが相当と判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役2年,罰金200万円,追徴8115万7803円)平成18年7月19日大阪地方裁判所第1刑事部秋山敬裁判長裁判官山田裕文裁判官柏原佐紀裁判官 判官 柏原佐紀裁判官

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