主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して,5256万9717円及びこれに対する平成22年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを4分し,その3を被告らの負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して,7148万3123円及びこれに対する平成22年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,被告Aとの間で,被告横須賀市が運営する家庭的保育事業に基づき,原告の息子であるB(以下「被害者」という。)に係る保育委託契約(以下「本件保育委託契約」という。)を締結した。被告Aが,平成22年9月27日,家庭保育福祉員(児童福祉法34条の15第1項に基づき,市町村が行う家庭的保育事業により保護者の就労・疾病などの理由で日中家庭において保育を受けられない子供を保護者に代わって自宅で保育する者)として,本件保育委託契約に基づき被害者を保育中に,被害者が死亡した(以下「本件事故」という。)。 本件は,原告が,被告らに対し,被告Aにつき,保育中に午睡していた被害者の呼吸確認等を怠った注意義務違反があるなどと主張して,本件保育委託契約上の債務不履行ないし不法行為に基づき,被告横須賀市につき,家庭的保育事業の運営者として,家庭保育福祉員である被告Aに対する指導等が不適切であったなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,連帯して,本件事故による損害7148万3123円(内訳は,被害者の死亡逸失利益2369万1237円,被害者の死亡慰謝料3000万円,原告固有の慰謝料1000万円, 治療関係費3925円,死体検案書作成費 本件事故による損害7148万3123円(内訳は,被害者の死亡逸失利益2369万1237円,被害者の死亡慰謝料3000万円,原告固有の慰謝料1000万円, 治療関係費3925円,死体検案書作成費用1万円,葬儀関係費用101万3095円,原告の休業損害26万6400円,弁護士費用649万8466円)及びこれに対する不法行為の日である平成22年9月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(認定根拠を示すほかは,当事者間に争いがないか,争いがあることが明らかでない。) 当事者ア原告は,被害者(平成22年5月31日生,本件事故当時0歳4か月)の母である。 イ被告横須賀市は,神奈川県内の地方公共団体であり,児童福祉法34条の15第1項に基づき家庭的保育事業を運営する者である。 ウ被告Aは,平成16年3月,横須賀市家庭保育福祉員運営要綱(丙1)に基づき,被告横須賀市から家庭保育福祉員の認定を受けた。 本件保育委託契約の締結原告は,平成22年7月16日,被告横須賀市から被告Aを家庭保育福祉員として利用することが認められることを条件として,被告Aとの間で被害者の保育委託をする旨の合意をし,同日,被告横須賀市に対し家庭保育希望申立書を提出した(甲3)。被告横須賀市は,同年8月19日,被害者の家庭保育福祉員として被告Aを指定する旨の決定をした(甲4)。 本件事故の発生原告は,平成22年9月27日午前8時15分頃,本件保育委託契約に基づき,被害者を被告Aの自宅に連れて行き被告Aに預けた。被害者は,同日,被告Aによる本件保育委託契約に基づく保育中に死亡した(なお,被害者の死亡時刻及び被害者の死因については,当事者間に争いがある づき,被害者を被告Aの自宅に連れて行き被告Aに預けた。被害者は,同日,被告Aによる本件保育委託契約に基づく保育中に死亡した(なお,被害者の死亡時刻及び被害者の死因については,当事者間に争いがある。)。 本件事故に関する医学的意見書等ア C医師(以下「C医師」という。)は,鑑定処分許可状に基づき被害者の 死体を解剖し,平成23年8月20日付け鑑定書(以下「C鑑定書」という。)を作成した(甲18,29)。 イ神奈川県浦賀警察署(以下「浦賀警察署」という。)の司法警察員は,被害者の死因について小児科医から聴取し,平成24年9月25日付け捜査報告書(以下「警察官の捜査報告書」という。)を作成した(甲15)。 ウ D医師(以下「D医師」という。)は,被害者の臓器片を鑑定し,平成25年5月14日付け鑑定書(甲30。以下「D鑑定書」という。)を作成した(甲19,30)。 エ横浜地方検察庁横須賀支部検察官は,被害者の死因について小児科医から聴取し,平成26年7月15日付け捜査報告書(甲21。以下「検察官の捜査報告書1」という。)及び同年8月4日付け捜査報告書(甲22。以下「検察官の捜査報告書2」という。)をそれぞれ作成した。 オ E医師(以下「E医師」という。)は,C鑑定書及びD鑑定書を受けて,被害者の死因について,平成28年3月3日付け意見書(以下「E意見書」という。)を作成した(乙12)。 カ F医師(以下「F医師」という。)は,被害者の死因等について,平成30年2月27日付け意見書(甲37。以下「F意見書」という。)及び平成31年1月28日付け補充意見書(甲42。以下「F補充意見書」という。)を作成した。 2 争点 被害者の死亡時刻及び死因(争点1) 被告Aの債務不履行責任ないし不法行為責任の有無 31年1月28日付け補充意見書(甲42。以下「F補充意見書」という。)を作成した。 2 争点 被害者の死亡時刻及び死因(争点1) 被告Aの債務不履行責任ないし不法行為責任の有無(争点2) 被告横須賀市は被告Aに対する家庭保育福祉員としての指導等を怠ったか,またそれが国家賠償法1条1項の適用上違法となるか(争点3) 損害額(争点4) 3 争点に対する当事者の主張 争点1(被害者の死亡推定時刻及び死因)について(原告の主張)ア被害者の死亡時刻被害者の死亡時刻は,本件事故発生日の午後1時から午後2時までの間である。 イ被害者の死因被害者の死因は,吐乳吸引による窒息死である。 (被告Aの主張)ア原告の主張ア(被害者の死亡時刻)は,否認する。 一般に死後経過時間の推定には,①体温の変化,②角膜の混濁,③死後硬直,④死斑などの現象が用いられるが,前記②ないし④については数時間の幅をもって推定できるに過ぎない。そして,体温は様々な要因によって大きく変化するものである上,0.5℃又は1℃異なるだけで経過時間に1時間も差が出ること,C鑑定書に係る被害者の死体解剖は,被告Aが被害者の異変に気付いた平成22年9月27日午後3時頃から30時間以上経過した同月29日に実施されたものであり(甲6),被害者の体温は既に環境温と等しくなっていたと考えられること等に照らせば,①の体温変化によって,正確な経過時間を推定することは不可能であったというべきである。 そして,被告Aが,平成22年9月27日午後2時50分に被害者の様子を目視した際には,被害者には何らの異常もなかったが,その後,同日午後3時頃に被害者を目視した際に,被害者の顔色が白く, そして,被告Aが,平成22年9月27日午後2時50分に被害者の様子を目視した際には,被害者には何らの異常もなかったが,その後,同日午後3時頃に被害者を目視した際に,被害者の顔色が白く,鼻水のようなものが出ているのを発見した。被告Aが,ベビーラックのベルトを外して被害者を抱き上げ,被害者の名前を呼んだが,反応がなく,胸部に上下動がなかったため,その時点では被害者の呼吸は停止していたと考えられる。 したがって,被害者の死亡時刻は,同日午後2時50分から午後3時ま での間である。 イ原告の主張イ(被害者の死因)は,否認する。 C鑑定書の主要所見は,乳幼児突然死症候群(以下「SIDS」という。)による死亡の場合にもみられるものであり,被害者の死因はSIDSであった可能性がある。吐乳吸引による窒息死という判断をするためには,気管支内にどの程度のミルクが侵入したかという検討が必要不可欠であるが,C鑑定書は,これを考慮しないで細気管支内に少量の凝固ミルクが認められたことをもって,窒息死と結論付けており,妥当ではない。 D鑑定書の指摘も,少量の異物の混入によってもマクロファージは出現することからすれば,溢乳等によって気管支内部にミルクが混入したとしても同様の反応は生じるのであって,被害者の死因が吐乳による窒息死であることの裏付けとはならない。D鑑定書にみられる所見は,SIDSでも生じ得る。 E意見書のとおり,被害者の気管に凝固物が存在したからといって,硬い固形物でなく少量であるから,空気の通り道を完全に閉塞するとは考えにくく,吐乳の誤嚥が原因で完全な気道閉塞から窒息死に至ったとする根拠は乏しい。被告Aが施した蘇生術の影響で,被害者の胃内容物が気道に移動した可能性がある。被害者の終末気管支や肺胞内にミ るとは考えにくく,吐乳の誤嚥が原因で完全な気道閉塞から窒息死に至ったとする根拠は乏しい。被告Aが施した蘇生術の影響で,被害者の胃内容物が気道に移動した可能性がある。被害者の終末気管支や肺胞内にミルク様の異物は全く確認されていない。そうすると,C鑑定書には疑義があり,吐乳により気道が閉塞した機序は不明である。 F意見書は,吐乳により気道が閉塞した機序について,被害者が乳幼児であったことやベビーラックのベルトで固定されていたことが,酸素の取り込みに悪影響を及ぼす可能性を提示するにとどまり,具体的な窒息死までの経過を説明するものではない。F意見書が前提とする,ベルト固定により被害者の胸腹部が圧迫される状態はなかった。F意見書は, ガス交換が不良になれば窒息が発生し得るという一般論を述べるに過ぎない。 F補充意見書は,一般的にマクロファージの浸潤が発生する機序の説明としては,E意見書の見解に問題はなく,急性窒息においてもマクロファージの浸潤が観察される場合があるのをいうに過ぎず,死亡後にマクロファージの浸潤が観察されても,それのみでは炎症反応による浸潤か急性窒息による反応かを判別できず,せいぜい窒息死と考えても矛盾しないという意味でしかなく,窒息死の積極的所見とすることはできない。F補充意見書は,E意見書が想定するような量のミルクによる窒息死ではないとするが,通常,吐乳による誤嚥性の窒息死は飲み込んだミルクを大量に嘔吐した場合に考えられ(警察官の捜査報告書),乳児によるミルクの誤嚥は,肺炎を引き起こすことはあるが,少量のミルクで死に至ることはないから(検察官の捜査報告書2),F補充意見書が,客観的な所見をあげることなく完全ではないにせよ部分的にも気道が閉塞されことにより呼吸状態が悪化したと判断する根拠は薄弱である。 (被 ることはないから(検察官の捜査報告書2),F補充意見書が,客観的な所見をあげることなく完全ではないにせよ部分的にも気道が閉塞されことにより呼吸状態が悪化したと判断する根拠は薄弱である。 (被告横須賀市の主張)原告の主張ア(被害者の死亡時刻),イ(被害者の死因)はいずれも不知。 争点2(被告Aの債務不履行責任ないし不法行為責任の有無)について(原告の主張)ア債務不履行責任被告Aが,本件事故当時,本件保育委託契約に基づき負っていた注意義務の内容家庭保育福祉員である被告Aは,本件保育委託契約に基づき,被害者の生命,身体の安全を確保する義務を負っていたものである。そして,上記注意義務を果たすために必要とされる個別具体的な注意義務の内容は,次の①ないし④のとおりである。 ① 子の睡眠中,保育者が保育室(子のいる場所)から離れず,子の様子を見ることができる場所にいること。 ② 子の睡眠中,保育室は,後記③の確認ができる程度の明るさを保ち,子を適切な寝具に仰向けに寝かせること。 ③ 子の睡眠中,子の呼吸や顔色,嘔吐の有無など睡眠時の状態を細やかに確認すること。 ④ 前記③の観察,確認行為の一つとして,手の甲や頬を子の口元や鼻に近づけるなどして呼吸を確認する,触診して体勢・顔色・発汗を確認する,刺激覚醒を行うという睡眠チェックを実施すること。 被告Aは,平成22年6月19日に開催された家庭保育福祉員研修会を欠席したことにより,同年7月5日にフォローアップとして被告横須賀市こども育成部保育課(以下「被告横須賀市保育課」という。)の職員が被告A宅を訪ねた際に,0歳児及び1歳児については15分間隔で睡眠チェックを行うこと,顔色,呼吸状況を確認するとともに触診して体温や発汗の変化を見逃さず,眠りが深く 須賀市保育課」という。)の職員が被告A宅を訪ねた際に,0歳児及び1歳児については15分間隔で睡眠チェックを行うこと,顔色,呼吸状況を確認するとともに触診して体温や発汗の変化を見逃さず,眠りが深くならないようにすることなど,15分間隔で呼吸確認を含む睡眠チェックを行うよう指導を受けている(丙3の5)。そうすると,睡眠中の乳児の「呼吸確認」を行うことは,本件事故当時被告横須賀市の保育の水準であったから,被告横須賀市の家庭保育福祉員である被告Aが本件保育委託契約により負っていた義務の具体的内容を構成していたというべきである。 被告Aたにもかかわらず,長時間寝かせるベッドとしては使用しないようにと警告されているベビーラック(甲24)に,厚手のバスタオルを折って敷き,肩ベルトと腰ベルトで固定し,寝返りが不可能な方法で(被害者の寝返りがよりし辛くなるような方法で),被害者を2時間にわたって午 睡させ,暗い室内で子の呼吸や顔色を確認できない場所に放置した。 したがって,被告Aはした(以下「注意義務違反行為1」という。)。 注意義務違反行為1により加重される被告Aの注意義務の内容及び同義務に違反する行為被告Aは,本件事故当時,被害者の生命,身体の安全を阻害する危険性の高い1をしたから,通常求められるよりも頻繁に,睡眠中の被害者の顔色等の観察,確認,睡眠チェックを行う義務を負っていた。乳幼児に対する5分に1回の頻度の呼吸確認は,家庭保育福祉員に通常求められる義務の内容とされている(家庭的保育における基本書や家庭的保育のガイドブック等の各記載(「家庭的保育の基本と実践」(丙6(55,56頁)),「家庭的保育の安全ガイドライン」(甲33(31頁)),「保育所の保育内容に関する調査報告書」(甲34(5枚目)) 保育のガイドブック等の各記載(「家庭的保育の基本と実践」(丙6(55,56頁)),「家庭的保育の安全ガイドライン」(甲33(31頁)),「保育所の保育内容に関する調査報告書」(甲34(5枚目)),「神奈川県家庭的保育事業保育指針」(甲35(21頁)))。 そうすると,具体的には,被告Aは,万が一低酸素状態に陥ってしまった場合に呼吸停止に陥るまでの時間等に鑑みて,少なくとも5分に1回の頻度で睡眠チェックを行うべき注意義務があった。 したがって,被告Aは,1時間以上被害者の睡眠チェックを行わず,。 救命措置を執るべき注意義務及び同義務に違反する行為被害者の死亡時刻が,平成22年9月27日午後2時50分から午後3時の間であったとしても,被告Aは被害者の異変に同日午後3時に気付きながら真っ先に救命措置をとり,救急車を呼ぶべき注意義務があるところ,被告Aは,これを怠り,同日午後3時12分になって救急通報をし,その間,被害者を放置した(以下「注意義務違反行為3」という。)。 被告Aの予見可能性 平成15年から平成24年の間に東京23区で起きた5歳未満の対象事例469例中窒息は68例,そのうち60例が0歳児であり,窒息原因として最も多いのが吐乳/吐物吸引とされている(東京都監察医務院の統計(甲31))。 したがって,被告Aは,本件保育委託契約の受託者として前記各注意義務に違反すれば,吐乳吸引による窒息が起こり得ることを予見すべきであり,かつ,予見し得た。 結果回避可能性被告Aに,注意義務違反行為1がなければ,被害者が吐乳を吸引し,むせる,泣く,限られた範囲内で頭を動かそうとするなどの動きに気付くことができ,被害者の背部を叩く,胸部を突き上げるなどして,吐乳が気管に詰まることを防ぐことができ,被害者の死亡を回避する 吸引し,むせる,泣く,限られた範囲内で頭を動かそうとするなどの動きに気付くことができ,被害者の背部を叩く,胸部を突き上げるなどして,吐乳が気管に詰まることを防ぐことができ,被害者の死亡を回避することができた。 被告Aに,注意義務違反行為2がなければ,被害者の呼吸に異常を発見した際,背部を叩く,胸部を突き上げるなどして気道の詰まりを取り除く措置をとることで,窒息を防ぎ被害者の死亡を回避することができた。 被告Aに,注意義務違反行為3がなければ,被害者の心停止の前に救急隊が到着し,異物が取り除かれ,酸素投与が実施され,被害者の死亡を回避することができた。 以上によれば,注意義務違反行為1ないし3は,本件保育委託契約上の債務不履行を構成する。 イ不法行為責任被告Aは,保育委託契約の受託者として前記アの注意義務を負っていたところ,前記アのとおり,これらの注意義務を怠り,本件事故を発生させた。 したがって,被告Aの前記アの注意義務違反行為は,民法709条の不法行為を構成する。 (被告Aの主張)ア原告の主張ア(債務不履行責任)について 注意義務①は争い,同②,③はいずれも一般論としては争わず,注意義務④は,呼吸確認を行うことが注意義務の内容であるのを争う。 注意義務①について,保育者は,保育を行う上で子の様子を把握できるようにすれば足りるのであって,「保育室(子がいる場所)」という単位で,必ず同室にいなければならないということはない。被告Aは,本件事故当時,被害者の様子を把握することができる場所において,その様子を見ていたものであるから,義務違反行為はない。 注意義務②について,被告Aは,本件事故当時,部屋の明るさを睡眠チェックが可能な程度に保ち,被害者をベビーラックに仰 所において,その様子を見ていたものであるから,義務違反行為はない。 注意義務②について,被告Aは,本件事故当時,部屋の明るさを睡眠チェックが可能な程度に保ち,被害者をベビーラックに仰向けに寝かせていたものであるから,義務違反行為はない。 注意義務③について,被告Aは,被害者の睡眠中,睡眠チェックを実施していたものであり,かつ,平成22年9月27日午後2時台において,午後2時03分,同19分,同33分及び同50分の合計4回,被害者の睡眠チェックを実施しており,原告の主張する注意義務違反行為はない(乙1,2,8)。 注意義務④について。被告Aは,本件保育委託契約に基づき,適宜の方法で「睡眠チェック」を行う義務を負っていたが,「呼吸確認」を行う義務は負っていない。被告Aは,「触診して体勢・顔色・発汗を確認する」ことを睡眠チェックとして行っていた。 (注意義務違反行為1)は争う。 被告Aの注意義務違反行為1が。 (注意義務違反行為2)は,否認し争う。 本件保育委託契約上,家庭保育福祉員である被告Aに求められる注意義務の内容は,一般の家庭内で親が子に対して負う保育義務と同等のものであるところ,原告の主張する加重された注意義務の内容は,一般家庭の設備で親が子を保育する際の注意義務としては,どのような保育者であってもおよそ不可能なものであって,保育委託契約上の注意義務の内容となり得ないものである。 したがって,被告Aの注意義務違反行為2はない。 (注意義務違反行為3)は,否認し争う。 被告Aは,平成22年9月27日午後3時頃,被害者の顔色が白く,鼻水を出すなどの異変に気づき,救命措置を開始した。具体的には,被害者をベビーラックに一旦寝かせ,リビングに寝かせてい ,否認し争う。 被告Aは,平成22年9月27日午後3時頃,被害者の顔色が白く,鼻水を出すなどの異変に気づき,救命措置を開始した。具体的には,被害者をベビーラックに一旦寝かせ,リビングに寝かせていた1歳9か月児を目が届くように和室に移動させた後,被害者をベビーラックから下し,口で鼻水を吸ってから,救命措置を開始した。①寝かせてあごを上げる,②口を開けて中を確認する,③人工呼吸をする,④指で心臓マッサージをするという手順で救命措置を4セット行ったが,被害者の様子に変化はなかった。その後,午後3時10分頃,救急車を呼び,原告及び被告横須賀市保育課に連絡をして,その後,再び救命措置を継続した。 したがって,被告Aの注意義務違反行為3はない。 原告の主張アは争う。 「吐乳吸引による窒息」で死亡する事例は,出生数に対して極めて低い。したがって,仮に,被害者の死因が「吐乳吸引による窒息死」であったとしても,被告Aに予見可能性はなかった。 原告の主張アは争う。 一般に,窒息では,気道が閉塞して5分程度で呼吸中枢は麻痺し,その後10分程度で心停止になるとされている。15分に1回の割合で呼 吸チェックをしていたとしても,発見時には呼吸中枢が麻痺し,又は心停止の状態である可能性が高い。このような状態から,医師や看護師でない家庭保育福祉員が救命措置をとって,死亡結果を回避することができるものではない。被害者は,大量に嘔吐した様子もなく,むせてもおらず,泣いてもいなかったから,被告Aが被害者の様子の変化に気づき,窒息しないように救命措置を執ることは不可能である。 したがって,仮に,被害者の死因が「吐乳吸引による窒息死」であり,被告Aが注意義務違反行為1ないし3に係る義務を履行したとしても,結果回避可能性はない。 イ 措置を執ることは不可能である。 したがって,仮に,被害者の死因が「吐乳吸引による窒息死」であり,被告Aが注意義務違反行為1ないし3に係る義務を履行したとしても,結果回避可能性はない。 イ原告の主張イ(不法行為責任)は争う。 争点3(被告横須賀市は被告Aに対する家庭保育福祉員としての指導等を怠ったか等)について(原告の主張)ア被告横須賀市の権限及び義務被告横須賀市は,児童福祉法34条の15第1項に基づく家庭的保育事業の運営主体として,同法2条により児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。 被告横須賀市は,家庭保育福祉員運営要綱(丙1)を定め,家庭保育福祉員は児童の健康管理に細心の注意を払い,負傷及び罹病等を防止するように努めること(同要綱第11条2号),関係機関は家庭保育福祉員に対して助言・指導を行うこと(同条5号),市長が家庭保育福祉員として不適当と認めたときに当該家庭保育福祉員の登録を抹消することができること(同要綱第7条2項)を定めており,これは,家庭的保育が家庭保育福祉員の自宅という第三者の目の届かない場所での保育となることに鑑み,家庭的保育事業の運営主体である被告横須賀市に,家庭保育福祉員に対して適切な助言・指導を行い,認定した家庭保育福祉員が不適当と認められる 場合にはその登録を抹消するなど家庭的保育事業における危険を回避する義務を課したものということができる。 家庭的保育研究会が編集した「家庭的保育の基本と実践」(丙6)は,0歳児期は睡眠時には5分~10分おきに観察するのが望ましいとしている。 被告横須賀市は,0歳児及び1歳児に対する睡眠時チェックを15分おきに行うものしているが,それは医学的根拠に基づかないものである。そうすると,被告横須賀市には,家 に観察するのが望ましいとしている。 被告横須賀市は,0歳児及び1歳児に対する睡眠時チェックを15分おきに行うものしているが,それは医学的根拠に基づかないものである。そうすると,被告横須賀市には,家庭保育福祉員に対して,0歳児の睡眠時チェックを5分間隔で実施するよう助言指導する義務があったということができる。 イ被告横須賀市の義務違反及び権限不行使被告横須賀市は,家庭的保育事業の運営主体として,前記アの各権限及び義務を負っていたにもかかわらず,被告横須賀市の担当職員は被告Aに対して睡眠時の呼吸確認を含む睡眠チェックについて適切な指導を行わず,また,被告Aが平成22年6月に開かれた研修に欠席しても,補充の研修を実施することもなく,十分な指導・助言を行わなかった上,家庭保育福祉員としての登録を見直すこともしなかった。 被告横須賀市の市長及び同市の担当職員には,要綱第11条5号に基づいて被告Aに対して適切に睡眠時呼吸確認を行うよう助言,指導する義務を怠った点において過失があり,また,被告Aの家庭保育福祉員の登録見直しを怠った権限の不行使は,著しく合理性を欠くものであるから,これらは国家賠償法1条1項の適用上違法である。 (被告横須賀市の主張)ア原告の主張ア(被告横須賀市の権限及び義務)のうち被告横須賀市の権限及び義務の内容については,一般論としては争わない。 被告横須賀市が家庭保育福祉員を認定するにあたっての要件は,家庭保育福祉員運営要綱(丙1)2条に掲げられており,被告Aに対しては,こ れらの要件を満たす保育士として家庭保育福祉員の認定を行った。なお,被告横須賀市が,家庭保育福祉員に課す注意義務の水準は,家庭保育福祉員運営要綱2条1号「保育士の資格を有し,かつ,児童の保育の経験があること を満たす保育士として家庭保育福祉員の認定を行った。なお,被告横須賀市が,家庭保育福祉員に課す注意義務の水準は,家庭保育福祉員運営要綱2条1号「保育士の資格を有し,かつ,児童の保育の経験があること」及び2号「児童の養育に熱意と愛情を有し,かつ,必要な知識及び経験等を有すること」から明らかなとおり,保育士に相当する注意義務である。 睡眠時チェックの間隔については,保育の現場でも専門家の間でも諸説があり医学的根拠がなく,保育所保育指針(丙5)においても定めはなく,各施設の判断により実施されてきた。被告横須賀市は,平成21年の保育所保育指針改正を受けて同年公立保育園の保育士による研修会を実施し,睡眠時チェックの方法について再検討し,医師から意見聴取を行った結果や他都市の状況の調査結果の報告を受け,医師からは睡眠時チェックの間隔について一概には言えないとの助言を受けたこと,他都市では0歳児及び1歳児については15分間隔で睡眠時チェックを実施している保育園が多く,睡眠時チェックを実施していない保育園もあったと報告されたことから,同年12月に実施した公立保育園の園長会で,0歳児及び1歳児については15分間隔で睡眠時チェック自体を行うことを取り決め,平成22年6月19日に実施した家庭保育福祉員研修会で,同間隔で睡眠時チェックを行うよう指導した。 平成20年6月9日雇児発第0609001号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知(丙10)による家庭的保育事業実施の基準ないしその制度趣旨からすると,同事業における家庭的保育者に求められる保育の水準は,保育園で実施すべき保育と同等のものといえるので,被告横須賀市が,家庭的保育者となる者に求めるべき保育の水準は,被告横須賀市の公立保育園の保育士と同程度のものである。平成22年当時の児童福祉法施行 ,保育園で実施すべき保育と同等のものといえるので,被告横須賀市が,家庭的保育者となる者に求めるべき保育の水準は,被告横須賀市の公立保育園の保育士と同程度のものである。平成22年当時の児童福祉法施行規則36条の38第1項1号は,保育士資格の有無すら問われない1人の家 庭保育福祉員が3名まで乳幼児をみるのを前提としていたが,睡眠時チェックを確実に実施する場合,保育の専門家である保育士でさえ,乳幼児1人当たり少なくとも30秒を要し,記録や環境調整を含めると同1人当たり少なくとも1分前後要し,保育士ではない者が行う場合はもっと時間を要することが想定されるから,保育士ではない家庭保育福祉員が5分間隔で3人分の睡眠時チェックを実施することは事実上不可能である。本件事故当時,被告横須賀市の公立保育園において,睡眠時チェックの間隔15分間隔に統一する前も後も,睡眠中の事故や突然死は1件もなかったから,被告横須賀市が,家庭保育福祉員に同保育園と同様に15分間隔で睡眠時チェックを実施するよう求めたのは不合理ではない。被告横須賀市が,平成31年1月に他都市を対象に実施した調査の結果は,当時においても現在においても,必ずしもすべての市の公立保育園において5分間隔の睡眠チェックを実施しているとは限らず,本件事故当時においては,同間隔の睡眠時チェックが一般的であるとの認識には至っていなかった。 以上によれば,家庭保育福祉員に睡眠時チェックを5分間隔で実施するよう求めるのは一般的でなく,常時1名で保育に当たる本件事故当時の状況下においては,家庭の主婦でもある家庭保育福祉員に同間隔での実施を求めるのは非常に困難であり現実的ではなかった。なお,被告横須賀市では,平成26年度中に翌年度以降家庭的保育者による0歳児の睡眠時チェックの間隔を5分とすることを る家庭保育福祉員に同間隔での実施を求めるのは非常に困難であり現実的ではなかった。なお,被告横須賀市では,平成26年度中に翌年度以降家庭的保育者による0歳児の睡眠時チェックの間隔を5分とすることを取り決めた。 イ原告の主張イ(被告横須賀市の義務違反及び権限不行使)は争う。 被告Aの家庭保育福祉員としての見直しについては,平成16年3月に家庭保育福祉員として認定した日から本件事故発生日に至るまでの間,児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号)第1条の32及び第36条の38で定める家庭的保育者の要件をすべて満たしており,かつ,被告Aの保育実践に対し,苦情を寄せられたこともなく,被告横須賀市が被 告Aの認定を取り消すべき事由はなかった。 被告横須賀市は,家庭保育福祉員に対する助言・指導として,平成22年度から横須賀市立保育園において優れた保育実践を行っていた保育士2名を家庭保育指導員として配属し,福祉員16名(当時)に対する日常の保育指導及び巡回指導を月1回の程度で実施したほか,保育実践に必要な研修も毎年実施している。 また,被告Aに対する睡眠チェックの指導については,被告横須賀市は,家庭保育福祉員に対しての睡眠チェックに関する研修(研究)を平成22年6月19日に実施し,当該研修を欠席した被告Aに対しては平成22年7月5日に実施した巡回指導の際に研修資料(研究資料)を使用したフォローアップを実施しており,横須賀市家庭保育運営要綱第11条5号で定める保育に関する助言・指導をする義務を怠った事実はない。 被告横須賀市は,家庭保育福祉員になる者の要件を原則として保育士の資格を有する者とし,被告Aは保育士の資格を有するから,被告Aは,被告横須賀市が提供した保育実践のための助言,指導,資料,情報に疑問があれば自ら は,家庭保育福祉員になる者の要件を原則として保育士の資格を有する者とし,被告Aは保育士の資格を有するから,被告Aは,被告横須賀市が提供した保育実践のための助言,指導,資料,情報に疑問があれば自ら積極的に解消して,適切に保育を実践すべきであった。被告横須賀市は,専門家としての保育士による適切な保育の実施を期待したのであるから,逐一具体的に指示すべきとの前提によることはできない。 以上によれば,被告横須賀市において被告Aに対する家庭保育福祉員としての指導等を怠った事実はなく,国家賠償法1条1項の適用上違法はない。 争点4(損害額)について(原告の主張)原告が本件事故により被った損害は,以下のとおり合計7148万3123円である。 ア被害者の死亡逸失利益 2369万1237円 (算定)基礎収入523万0200円(賃金センサス平成22年男子学歴計)×(19.2391(67歳までのライプニッツ係数)-11.6896(18歳までのライプニッツ係数))×(1-0.4(生活費控除率))≒2369万1237円イ被害者の死亡慰謝料3000万円ウ原告固有の慰謝料1000万円エ治療関係費3925円オ死体検案書作成費用1万円(甲7)カ葬儀関係費用101万3095円(甲8の1・2,甲9)キ休業損害26万6400円原告が本件事故のために休職を余儀なくされた平成22年10月分の給与相当額(平成22年11月分給与及び同年12月分給与の平均金額から算定したもの(甲10))。 ク弁護士費用649万8466円上記アないしキの合計額である6498万4657円の約1割に相当する649万8466円が,弁護士費用として本件事故と相当因果関係のある損害である。 ))。 ク弁護士費用649万8466円上記アないしキの合計額である6498万4657円の約1割に相当する649万8466円が,弁護士費用として本件事故と相当因果関係のある損害である。 (被告Aの主張)原告の主張アないしクは,いずれも争う。 (被告横須賀市の主張)原告の主張アないしクは,いずれも不知。 第3 裁判所の判断 1 争点1(被害者の死亡推定時刻及び死因)について 認定事実掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア本件事故発生日の救急要請までの経過(乙2) 本件事故発生日朝の被害者の脇下体温は,36.2℃(室温27℃時)であった。 被害者は,本件事故発生日の午前7時30分(以下,時刻のみ記載する。)に自宅でミルク180mlを飲んだ。 被告Aは,午前8時15分に被告Aの自宅で被害者を預かった。 被害者は,午前10時09分にミルク200mlを飲んだ。 被害者は,午後0時15分頃からうとうとし始めて,午後0時40分頃には入眠した。 イ本件事故発生日の救急要請後の経過4, 被告Aは,本件事故発生日の午後3時12分(以下,時刻のみ記載する。)に救急要請した。 救急隊は,午後3時19分被告Aの自宅に到着し,被害者に接触したが,被害者は心肺停止状態であった。同接触した際,被害者に嘔吐はなかった。 救急隊は,午後3時28分被告Aの自宅を出発し,午後3時39分横須賀共済病院に被害者を搬送した。被害者は,同病院の来院時に,心肺停止の状態であった。 横須賀共済病院の医師らは,被害者に人工呼吸管理,胸骨圧迫,昇圧剤の投与を開始し治療を行った 分横須賀共済病院に被害者を搬送した。被害者は,同病院の来院時に,心肺停止の状態であった。 横須賀共済病院の医師らは,被害者に人工呼吸管理,胸骨圧迫,昇圧剤の投与を開始し治療を行ったが,被害者の反応はなかった。同医師らが,午後3時48分口腔内吸引を実施したところ,ミルク様の白色の液体がひけ,気管内にうす茶色水様のもの少量を認めた。 被害者の直腸内体温は,午後3時40分に35.1℃(室温不明),午後3時55分に34.7℃(前同)であった。 医師らは,午後3時53分に胸部レントゲン撮影を施行して肺の うっ血及び胃泡の拡大を認めたが,心肺停止につながるような異常所見を認めず,午後4時01分に胸部エコーを施行して心液の貯留がないのを確認した。同医師らは,午後4時16分被害者の死亡を確認した。 被害者の検視の際に計測された午後7時40分の直腸内温度は,31℃(室温26℃時)であった。 ウ本件事故現場の状況等 本件事故当時,被告Aは,自宅で被害者及び男児1名(当時1歳9か月)を保育していた(甲44,乙1,2,18)。 本件事故当時,本件事故現場である被告Aの自宅6畳和室には,ベビーラックが置かれ,被告Aは,同ベビーラックに被害者を寝かせていた(甲6,11ないし13,28)。被告Aは,本件事故当時,同和室の襖を保育していた(乙7)。 下段の状態に設定して全長70㎝,幅58㎝のもので,その上にクッションが敷かれ,その本体から延びる肩ベルト2本,腰ベルト2本,股ベルト1本をバックルにはめて固定することができる仕組みのものである(甲13,28)。同ベビーラックの望ましい連続使用時間は,簡易ベッドとして60分間,1日の合計使用時間は3ないし4時間であった(甲24)。被告Aは,本件事故発生日の午前9時 きる仕組みのものである(甲13,28)。同ベビーラックの望ましい連続使用時間は,簡易ベッドとして60分間,1日の合計使用時間は3ないし4時間であった(甲24)。被告Aは,本件事故発生日の午前9時20分頃から午前10時頃まで,同日午後0時以降,被害者を同ベビーラックに上記のベルトを使用して寝かせていた(乙1,2(同日分),18)。 被害者が本件事故発生日に着用していたロンパースについて,胃液中に含まれるペプシンを指標とした検査を実施した結果は,いずれも陰性反応であったが,斑痕の経時変化によりペプシンの活性が低下又は消失している可能性が考えられるため,同結果をもって吐しゃ物が付着して いるかどうかは判定できなかった(甲20)。 浦賀警察署の司法警察員は,小児科医から,被害者の死亡現場に,ミルクを大量に嘔吐した事実が認められていない,被告Aが被害者をうつぶせにしていたこと,顔面にタオルケットが覆い被さったこと等窒息死につながるような状況が見受けられないことから,被害者の死因は,吐乳吸引による窒息死ではなく,SIDSの可能性があるとの見解を聴取した(甲15(警察官の捜査報告書))。 エ死後の体温推移に係る一般的知見死亡時の直腸温を37℃として,死後10時間くらいまでは1時間当たり1℃,死後10時間から20時間までは0.5℃ずつ下降する。これを用いて算出された死後経過時間は,春と秋(外気温が17℃から18℃程度)であればそのままとし,夏ならば1.4倍,冬ならば0.7倍するのが一般的な方法である。(以上,甲37)オ窒息死ないしSIDSに係る医学的知見等窒息死に係る医学的知見(甲40)気道内異物吸引に基づく気道閉鎖ないし狭窄を含む窒息に陥った場合,そのままではいわゆる仮死状態に陥り,死の転 窒息死ないしSIDSに係る医学的知見等窒息死に係る医学的知見(甲40)気道内異物吸引に基づく気道閉鎖ないし狭窄を含む窒息に陥った場合,そのままではいわゆる仮死状態に陥り,死の転帰をとる。窒息に陥ると主徴として喘鳴を伴う呼吸困難→チアノーゼ→呼吸停止の経過をとる。 呼吸困難期には,急性呼吸困難が発症し,胸式ないし胸腹式の強い努力呼吸となる。同時に頻脈が必発し,引き続いて血圧の上昇,けいれんが起こる。けいれん発作は,間代性(筋群の短い反復収縮)から強直性(全身の筋肉における持続性の強縮)へ移行し,弓なり緊張の姿勢異常(背筋の緊張性けいれんで躯幹が弓のようにそる)をとる。随伴症状としてチアノーゼ,脱糞,尿失禁などが起こる。激しい努力呼吸やけいれんののち,意識混濁・消失とともに中枢性無呼吸(約2分前後)が起こる。 鼻口部での気流停止とともに胸腹部の呼吸運動が停止する状態を示す。 通常,無呼吸期以前に救急措置を施さなければ完全な回復は望めないとされている。 乳幼児突然死症候群診断の手引き(乙3)SIDSの診断上の定義は,それまでの健康状態及び既往症からその死亡が予測できず,しかも死亡状況調査及び解剖検査によってもその原因が同定されない,原則として1歳未満の児に突然の死をもたらした症候群である。SIDSの診断には,病歴・死亡状況調査と剖検が必須であり,死因に重大な影響を及ぼす疾患,病態,外因等を厳しく鑑別診断してなされるべきである。乳幼児の突然死の診断においては,必ずSIDSを念頭に置くべきではあるが,他にも突然死を引き起こす病態が多数知られており,その可能性も考え診断することが重要である。SIDSは,他の内因及び外因の死因と鑑別されてはじめて得られる診断名である。臨床上並びに剖検上,乳幼児の突然死の診断は,SI こす病態が多数知られており,その可能性も考え診断することが重要である。SIDSは,他の内因及び外因の死因と鑑別されてはじめて得られる診断名である。臨床上並びに剖検上,乳幼児の突然死の診断は,SIDSとの鑑別が必要な疾患・病態(全身性疾患等の疾患や窒息等の外因)を鑑別して行う。SIDSを含む乳幼児突然死の分類指針は,Ⅰ.SIDS(医療機関到着時に心肺停止状態で,臨床的情報により明らかな病死(後記Ⅱ)や外因死(同Ⅲ)が否定され,DSI(死亡状況調査)でその死亡原因が説明できず,かつ,安全な睡眠環境にあり事故による死亡とは考えにくい場合),Ⅱ.既知の疾患による病死,Ⅲ.外因死(窒息を含む。),Ⅳ.分類不能の乳幼児突然死である。 窒息を含む外因死との鑑別について,乳児の場合には,死体所見だけでなくDSIの結果も併せて考えるべきであり,両者において特に不審な点が見出せない場合にSIDSと判断することになる。 乳幼児の解剖例では,気道内にミルクを認めることがある。少量の吐乳の吸引は正常な発育をしている乳幼児においてもしばしば認められる。 たとえ比較的多くの吐乳物を吸引しても吐乳が流動的である限りは窒息 死につながることはほとんどないと考えられている。気道内のミルクの存在は,死因に関わる有意な所見とはされていない。臨床的には稀とされてはいるものの,気管支内にミルクの充満があり,それによって両肺が気腫状もしくは無気肺状を呈している場合や,喉頭口を凝固したミルク塊ががっちり閉塞している場合には,直接死因として吐乳吸引による窒息死と診断し得る。 SIDS診断の法医病理学的原則に関する提言(甲38)SIDSは,死因不明のためにやむを得ず診断されるべきもの(除外診断)であり,SIDSに特徴的な病理組織学的所見,症候,状況等は存在し SIDS診断の法医病理学的原則に関する提言(甲38)SIDSは,死因不明のためにやむを得ず診断されるべきもの(除外診断)であり,SIDSに特徴的な病理組織学的所見,症候,状況等は存在しない。 気道が吐物(吐乳)等によって生前に完全に閉塞されれば,急性窒息死する。乳幼児の気道が多量の吐物(吐乳)によって閉塞されていると,しばしば死戦期や蘇生術によるものとされ,死因をSIDSと診断されている症例が散見されるが,法医病理学的には気道内に吐物(吐乳)が吸引されている程度,生活反応の有無,生前に異物を気道に吸引する原因や状況の有無などを十分に検討する必要がある。例えば,うつ伏せ寝における鼻口部閉塞,胸腹部圧迫などに原因して低酸素血症並びに高炭酸ガス血症に陥れば中枢性に嘔吐したり,嚥下障害を惹起して気道内に吸引し,窒息死することは十分に考えられる。 カ被害者の解剖,臓器病理組織観察の所見等 C医師は,平成22年9月29日,鑑定処分許可状に基づき被害者の死体を解剖した。外部検査の結果,顔面,胸腹部に特記異常を認めず,背部に死斑の他特記異常を認めず,左右両手指爪床はチアノーゼを呈する他に特記異常を認めず,その他特記異常を認めなかった。内部検査の結果,胸腺の前面及び裏面の被膜下に溢血点及び出血点多数を認め,心臓の左右房室に軟凝固血を混ずる暗赤色流動性血液中等量を容れ,心 臓摘出時に同様血中等量を漏らした。心外膜下に溢血点,出血点を多数認め,左右肺各葉の漿膜下には溢血点,出血点多数を認め,圧により割面から泡沫を含む血液多を漏らし,血量は多く,欝血状を呈する。葉気管支,細気管支内には少量の凝固ミルクを含む粘稠稍液多量を容れ,同粘膜における細血管網は充盈している。食道,咽頭,喉頭,気管,気管支,会厭,声門部の粘膜面の 漏らし,血量は多く,欝血状を呈する。葉気管支,細気管支内には少量の凝固ミルクを含む粘稠稍液多量を容れ,同粘膜における細血管網は充盈している。食道,咽頭,喉頭,気管,気管支,会厭,声門部の粘膜面の細血管網は充盈するも溢血点は認めない。 左右腎莢膜下に溢血点多数を認め,腎盂腔粘膜には溢血点を認めない。 胃内には凝固ミルクを混ずる白色粘稠液12.8gを容れている。肝臓の血は欝血状である。 C医師は,気道内に凝固ミルクが認められること,各臓器の欝血が著明であること,板障の血量は多く,硬膜の血管網及び脳の血管網は充盈していること,食道及び気道全体の血管網が充盈していること,胸腺の被膜下に溢血点・出血点が多数認められること,心外膜下に溢血点・出血点・出血斑多数が認められること,左右両肺の漿膜下に溢血点・出血点多数が認められること,左右腎臓莢膜下に溢血点多数が認められること,胸壁の血管網が充盈していること,各臓器は欝血が著明であることから窒息の所見を呈する。その他先天的な奇形等は認められないことから死因は吐乳吸引による窒息死としてよいと判断した。 (以上,甲18(C鑑定書),29) 浦賀警察署の司法警察員が,被害者の死因について小児科医から聴取した内容は,以下のとおりである(甲15(警察官の捜査報告書))。 被害者の死因が吐乳吸引による窒息死というのは考えにくい。救急隊による胃内容の吸引量,搬送先病院での吸引量,司法解剖時の胃内容物の残存量であれば,乳幼児が吐乳によって誤嚥し窒息死する量とは考えられない。通常,吐乳による誤嚥性の窒息死に至るのであれば,飲み込んだミルクを大量に嘔吐した場合であれば考えられる。嘔吐量として, 布等に直径5㎝から10㎝程度であれば,嘔吐量として問題はない,乳幼児の場合,飲み込ん よる誤嚥性の窒息死に至るのであれば,飲み込んだミルクを大量に嘔吐した場合であれば考えられる。嘔吐量として, 布等に直径5㎝から10㎝程度であれば,嘔吐量として問題はない,乳幼児の場合,飲み込んで胃に入ったミルクが,食道や口腔内まで逆流することは一般的なことである。飲み込んだミルクが,食道や口腔内まで逆流しても,被害者の月齢からして,脳幹部の働きによってそれを飲み込む能力は備わっていることから,気管内に多量のミルクが流れ込むことはなく,少量(20㏄程度)のミルクが流れ込んだとしても,窒息死することはない。仮に,嚥下機能が低下していたとしたら,脳症異常の可能性が考えられる。保育日誌に記載のとおりにミルクを飲ませていたと仮定しても,胃内部に残存していた量は,特に問題がない。 D医師が,被害者の臓器片を鑑定した結果は,以下のとおりである(甲19(D鑑定書))。 肺には,中等度のうっ血,高度の水腫,気管支粘膜上皮細胞の剥離・落現を認める。これらは,肺の気道内に外部から異物が混入したことを疑わせるものであり,法医病理学的に乳児の吐乳吸引の際と同じ所見である。肝臓には,中等度のうっ血,類洞の拡大を認める。膵臓,脾臓,腎臓には近位尿細管胞の混濁と基底膜からの遊離を認め,副腎,大脳には軽度のうっ血と浮腫を認めるほか,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,大脳には特記すべき所見を認めない。肝臓と脳にうっ血を,腎臓に近位尿細管細胞の混濁と基底膜からの遊離を認める所見は,急性心不全若しくは窒息の際に認められるものである。臓器片の病理学的検査のみから死因について断言することは困難であるが,死因は吐乳吸引による窒息が最も疑われる。 横浜地方検察庁横須賀支部検察官が,被害者の死因について平成26年7月15日に小児科医から聴取した ら死因について断言することは困難であるが,死因は吐乳吸引による窒息が最も疑われる。 横浜地方検察庁横須賀支部検察官が,被害者の死因について平成26年7月15日に小児科医から聴取した内容は,以下のとおりである(甲21(検察官の捜査報告書1))。 死因を判断するポイントは,司法解剖時に認められた細気管支内の少量の凝固ミルクである。被害者がミルクを吐いた原因は,胃食道逆流によるものと考えられ,細気管支内のミルクが少量であったこと,ロンパースやバスタオルに吐しゃ物等による汚れ等が認められなかったことからすると,ゲップをするように静かに吐いたと考えられる。そして,その吐乳が気管支内に静かに入り込み,被害者の呼吸嘔吐が未熟だったことにより,静かに窒息したのだと考えられる。被害者の月齢の乳児では,胃と食道のつなぎ目が弱いことから,胃食道逆流が起こることがある。 横浜地方検察庁横須賀支部検察官が,被害者の死因について同月28日に小児科医から聴取した内容は,以下のとおりである(甲22(検察官の捜査報告書2))。 乳児によるミルクの誤嚥によって肺炎を起こすことはあるが,少量のミルクで死に至ることはない。被害者の体重(5.5㎏)であれば,100から200mlのミルクを気管内に入れなければ死に至ることはない。 葉気管支及び細気管支内の凝固ミルクがごく少量にとどまっている上,救急隊や搬送先の病院での吸引量も少量であること,ミルクを飲ませてから4~5時間が経過し,相当量のミルクが消化されていると考えられること,着衣や現場に嘔吐の痕跡が残っていないことなどからして,吐乳吸引による窒息死とは考え難い。 F医師の意見は,以下のとおりである(甲37(F意見書))。 C鑑定書により吐乳吸引による窒息の可能 着衣や現場に嘔吐の痕跡が残っていないことなどからして,吐乳吸引による窒息死とは考え難い。 F医師の意見は,以下のとおりである(甲37(F意見書))。 C鑑定書により吐乳吸引による窒息の可能性が考慮され,C医師の解剖所見では気管支及び細気管支内に少量の凝固ミルクを含むやや多量の粘稠液が存在したこと,被害者が本件事故当時生後4か月で種々の機能が未成熟でたとえ少量であっても吐乳は肺でのガス交換に悪影響を及ぼすことが容易に考えられることから,外因死の可能性が完全には否定されず,死因としてSIDSを考慮することすら成立しない。また, 後の体温推移に係る一般的知見により,被害者の死亡時刻を本件事故発生日の午後1時から午後2時と推定する。 E医師の意見は,以下のとおりである(乙12(E意見書))。 C鑑定書について,被害者の気管支分岐部に白色凝固物を確認できるが,同凝固物は硬い固形物ではなく,気管に存在したからといって,写真で観察できる少量で空気の通り道が完全に閉塞されることは少し考えにくく,気道の閉塞状態に陥れば,左右肺の主気管支くらいまでは完全に異物が充満し閉塞している像が求められること,細気管支,終末気管支や肺胞といった気道の末端まで組織学的検査で顕微鏡下に異物を確認することが望ましいが,そのような所見は示されていないこと,以上のことから,吐乳の誤嚥があったとしても問題はないが,これが原因で完全な気道閉塞から窒息死に至ったとする根拠に乏しい。蘇生術の影響で胃内容が気道に移動した可能性に全く言及していない点に多少違和感を覚える。吐乳の誤嚥が,異常発生後の蘇生術に伴い生じた副次的現象であることも否定できない。 また,D鑑定書について,死亡に至るほどの量の吐乳が誤嚥されたとするならば,終末気管支や肺胞内にミルク様の異物を 乳の誤嚥が,異常発生後の蘇生術に伴い生じた副次的現象であることも否定できない。 また,D鑑定書について,死亡に至るほどの量の吐乳が誤嚥されたとするならば,終末気管支や肺胞内にミルク様の異物を確認する必要があるが,これが全く確認されていないことに強い違和感を覚え,誤嚥性肺炎の典型的な組織検査像と本件で確認されている組織像とはかなり異なる。マクロファージの浸潤像を示すだけでは,異物誤嚥を十分に証明したとはいえず,誤嚥から死亡確認時刻まで2時間程度しかなかったと想定され,マクロファージがこの時間内に肺胞内に浸潤してくるとは考えにくく,肺におけるマクロファージ浸潤像が,どの程度想定される誤嚥に反応したものなのか不明である。吐乳の誤嚥を積極的に示す根拠を特には示していない。 そして,吐乳の誤嚥以外の原因による窒息をもう少し疑っておく必要があり,うつ伏せに体位変換があり,寝具類による鼻口部の閉塞が生じていなかったかを再考しておくべきで,発見時の姿勢や寝具類についても詳細な検討を加えた上で,乳幼児突然死症候群の可能性があると最終的に判断するのが望ましい。 F医師の補充意見は,以下のとおりである(以上,甲42(F補充意見書))。 E意見書について,D鑑定書は誤嚥性肺炎を想定しているわけではなく,急性窒息,肺胞にまで異物の吸引を伴わない鼻口部閉塞,気道圧迫又は気道内腔閉塞による急性窒息死の肺の病理組織学的検査において肺胞内にマクロファージ浸潤が観察される。被害者のマクロファージ浸潤は,低酸素に対する反応性のものとしてとらえるべきであり,E意見書が指摘する時間経過の過程で肺胞内にマクロファージ浸潤が認められたとしても矛盾はない。C鑑定書の解剖所見にある気管支及び細気管支にやや多量の粘稠液のみで直ちに完全に気道が閉塞されたとい り,E意見書が指摘する時間経過の過程で肺胞内にマクロファージ浸潤が認められたとしても矛盾はない。C鑑定書の解剖所見にある気管支及び細気管支にやや多量の粘稠液のみで直ちに完全に気道が閉塞されたということではないとしても,部分的に気道が閉塞されたことにより呼吸状態が悪化していったと考えてよい。 判断 ア本件事故発生前後の経過(本件事故現場の状況を含む。)として,被害者は,本件事故発生日に合計380mlのミルクを飲んだ後入眠したこと,,被告Aは,被害者が最後に200mlのミルクを飲んだ約5時間後に救急要請し,被害者は,救急隊が同要請の7分後に被害者に接触した際に嘔吐がなかったが心肺停止に至っていたことミルク様の白色液体がひけ,気管内にうす茶色水様のもの少量が認められ被害者が本件事故の前に1時間以上ベビーラックを使用 してベルトで固定されたまま寝かされて,寝返りを打つことができなかった状態にあったとみられること,被害者の死亡現場にミルクを大量に嘔吐した事実が認められないこと, 以上のことが認められる。これらの事情は,被害者が,吐乳を排出できず誤嚥して,これが被害者の気道内に残留し,気道を狭窄又は閉塞したとうかがわせるものである。そして,同イの事情は,被害者の気道の狭窄又は閉塞が,救急隊が被害者に接触し病院に搬送する前に生じていたと認めるべき事情である。 イ SIDSは,除外診断すなわち他の死因と鑑別されて初めてそれと診断できるものであること,気道内異物吸引は,それに基づく気道狭窄により本件事故の2日後に解剖を実施したC医師は,被害者の死D医師及び検察官の捜査報告書1に係る小児科医の各判断は,いずれもC医師の上記判断に沿うものである(同カF医師は,被害者の死因について少量の吐乳でも部分的に気道が閉塞されたこと 師は,被害者の死D医師及び検察官の捜査報告書1に係る小児科医の各判断は,いずれもC医師の上記判断に沿うものである(同カF医師は,被害者の死因について少量の吐乳でも部分的に気道が閉塞されたことにより呼吸状態が悪化し,窒息死に至った外因死の可能性を否定できないと判断している(同カ,)。 C医師の上記判断並びにこれに沿うD医師,上記小児科医及びF医師の各判断には,いずれも上記一般的な医学的知見に照らして異を唱えるべき点を認め難い(これと異なる医学的知見ないし判断)については,後記イ,ウで認定判断する。)。以上からすると,被害者の気道内に吐乳が残留し,その結果,気道が閉塞され,呼吸状態が悪化し,被害者が窒息死するに至ったと認められる。 ウしたがって,被害者の死因は,吐乳吸引による窒息死であると認められる。 エ被害者が入眠したのが,本件事故発生日の午後0時40分頃であること の午後3時40分から15分間で0.4℃(1時間当たり1.同時刻から4時間で4.死亡時の直腸温度を37℃として,死後10時間くらいまでは1時間当たり1℃ずつ下降するとして求められる死亡推定時間を夏ならば1.4倍するのが一般的であること(同エ),以上の事情が認められる。本件の全証拠によっても,上記認定を左右する事情は認められない。同カの死亡推定時刻は,以上の事情を前提に種々の修正要素も加味して,被害者の検視時点(同日の午後7時40分)で少なくとも死後6時間以上は経過したと判断して,被害者の死亡時刻を同日の午後1時から午後2時と推定したものである(同カ,甲37(F意見書))。本件の全証拠によっても,同推定を左右する医学的知見は認められない。 以上によれば,被害者の死亡時刻は,遅くとも本件事故発生日の午後2時頃と認められる(これと異なる被告 37(F意見書))。本件の全証拠によっても,同推定を左右する医学的知見は認められない。 以上によれば,被害者の死亡時刻は,遅くとも本件事故発生日の午後2時頃と認められる(これと異なる被告Aの主張については,後記で認定判断する。)。 被害者の死因についての補足説明ア被告Aは,被害者の死因が吐乳吸引による窒息死ではない旨,被害者の死因についてSIDSであった可能性が指摘されている旨主張する。 しかし,SIDSは,他の死因と鑑別されて初めてそれと診断できるものである。そして,被害者の死因が吐乳吸引による窒息死であると認められることは,前記⑵イ,ウで認定したとおりである。そうすると,被害者の所見がSIDSによる死亡の場合にもみられるからといって,他の死因の除外診断ができない以上,被害者の死因がSIDSであるとはいえない。 したがって,被告Aの主張は,採用することができない。 イ警察官の捜査報告書,検察官の捜査報告書2に係る各小児科医の意見は,量が少量であることをもって,被害者の死因が吐乳吸引による窒息死とは考え難いとするものである。 しかし,被害者は,本件事故当時,ベビーラックにベルトで固定されて寝かされており,寝返りをうつことができない状態であったこと(),窒息の際に認められる所見が被害者にあること(カ,F医師は,乳児は種々の機能が未成熟で,たとえ少量であっても肺でのガス交換に悪影響を及ぼすと指摘していること(同),被害者の葉気管支,細気管支に存在していたのは,少量の凝固ミルクを含むやや多量の粘稠液であり(同カ,流動性があるものとは言い難く,これにより部分的に気道が閉塞されたため,呼吸状態が悪化したと考えられることを踏まえると,仮に被害者が吸引したミルクの量が少量であったとしても,このことは あり(同カ,流動性があるものとは言い難く,これにより部分的に気道が閉塞されたため,呼吸状態が悪化したと考えられることを踏まえると,仮に被害者が吸引したミルクの量が少量であったとしても,このことは,被害者の死因が吐乳吸引による窒息であることを否定できる事情ではない。また,同の医学的知見は,吐乳が流動的である場合,気管支内にミルクが充満している場合,凝固したミルク塊が咽頭口を閉塞している場合,以上の場合を想定した知見であるが,吐乳が乳児の窒息死をもたらすのはこのような場合に限る見解とは認められず,吸引したミルクの量が少量で,それが気道を部分的に閉塞することにより呼吸状態を悪化させ,窒息死に至るという機序(同)を否定するものとは解し難い。 したがって,上記の医学的知見及び同各小児科医の意見は,いずれもウの認定判断を左右するものでなく,採用することができない。 ウ Eで認定するとおりであり,被害者の気管支部に認められた少量の白色凝固物により空気の通り道が完全に閉塞されるとは考えにくいこと,気道の末端まで異物が確認されるような完全な気道の閉塞状態に陥った所見が示されていないこと,蘇生術の影響で胃内容が気道 に移動した可能性に言及していないことに違和感があること,マクロファージ浸潤像は吐乳の誤嚥を積極的に示す所見ではないこと,以上の事情をもって,被害者の死因が吐乳吸引による窒息死とは考え難いとする。 しかし,被害者が吸引したミルクの量が少量であることが,被害者の死因が吐乳吸引による窒息であることを否定できる事情でないこと(吸引したミルクの量が少量で,それが気道を部分的に閉塞することにより窒息死に至るという機序を否定し難いことを含む。)は,イで認定判断するとおりである。 また,E医師の意見は,寝具類による鼻口部の閉塞 したミルクの量が少量で,それが気道を部分的に閉塞することにより窒息死に至るという機序を否定し難いことを含む。)は,イで認定判断するとおりである。 また,E医師の意見は,寝具類による鼻口部の閉塞の有無を検討すべきとしたものである),被害者について窒息死の所見があったことを前提とするものである。被害者は,本件事故当時寝返りを打つことができない状態であったと認められ(),他方,同意見が吐乳の誤嚥以外による窒息の原因として示唆するうつ伏せに体位変換や寝具等による鼻口部の閉塞が生じたことは,本件の全証拠によっても,認められない。 E医師の意見は,被害者が完全な気道閉塞から窒息死に至ったとする根拠に乏しく,本件で確認されている組織像が誤嚥性肺炎の典型的な組織検査画像とかなり異なることを根拠としたものであるから(),完全な気道閉塞や誤嚥性肺炎に起因する窒息死を念頭に置いたものとみられる。 そうすると,同意見は,F医師が指摘する部分的な気道閉塞による窒息死等の)を否定するものではない。他方,F医師が指摘する機序の医学的相当性を有しないとする事情が存在することは,本件全証拠によっても,認められない。 被告Aは,本件事故発生日の午後3時頃に被害者に対し人工呼吸や心臓マッサージを実施した旨陳述等するが(被告横須賀市保育課職員に対する陳述書(甲49),同職員に対する説明(乙1),被告Aのメモ(乙16),同陳述書(乙18)),被告Aが付けていた被害者の保育日誌(本件事故発 生日の分)にその旨の記載はない(乙2)。同陳述等は,その裏付けを欠くものである。そうすると,胃内容の移動についてのE医師の意見は,裏付けを欠く蘇生術の実施を前提にしたものといわざるを得ない。仮に被告Aが同時刻頃に人工呼吸等の蘇生術を実施していたとしても,被害者の死亡被告A 。そうすると,胃内容の移動についてのE医師の意見は,裏付けを欠く蘇生術の実施を前提にしたものといわざるを得ない。仮に被告Aが同時刻頃に人工呼吸等の蘇生術を実施していたとしても,被害者の死亡被告Aが蘇生術を実施したとする時刻より前であり(これと異なる被告A,搬送先病院の医師が胸骨圧迫等の蘇生術を実施した同日の午後3時39分同各蘇生術の影響により胃内容が気道に移動したとしても,それより前に被害者が吐乳吸引により窒息したことを否定できるものではない。以上のとおりであるから,蘇生術の影響で胃内容が気道に移動した可能性を指摘するE医師の意見の部分は,根拠がない。 そして,E医師の意見は,誤嚥性肺炎の典型的な組織検査像を得られていないこと,誤嚥から死亡確認時刻まで2時間程度しかなかったことを根拠に,マクロファージ浸潤像は吐乳の誤嚥を積極的に示す所見ではないとして,D鑑定書を批判するカ)。しかし,D鑑定書は,F医師の補充意見のとおり,誤嚥性肺炎を想定したものではない(同から,E医師の意見は前提を異にするもので,D鑑定書に対する批判はあたらない。 また,E医師が誤嚥から死亡確認時刻まで2時間程度しかなかったとする起点と終点が不明であり(乙12(E意見書)),仮に終点が同日の午後2時頃の死亡推定時刻を指すならば起点は午後0時頃となるが,被告Aはそれより後の同日の仮に終点が病院における死亡確認時刻である同日の午後4時16分であれば起点は同日の午後2時頃となるが亡時刻である(これと異なる被告Aの主張については,後記 する。)。本件の全証拠によっても,同時刻が起点となる窒息時であることや,被害者が病院における死亡確認時刻に死亡したことを認めるに足りる医学的知見は認められない。 以上のとおりであるから,E医師の意見から被害者の死因について ても,同時刻が起点となる窒息時であることや,被害者が病院における死亡確認時刻に死亡したことを認めるに足りる医学的知見は認められない。 以上のとおりであるから,E医師の意見から被害者の死因についてSIDSの可能性を疑うことは困難であり,同意見は,採用することができない。 被害者の死亡時刻についての補足説明被告Aは,被害者の死亡推定時刻は不明である旨主張する。 しかし,本件の全証拠によっても,Fの死後の体温推移に係る一般的知見と異なる医学的知見(体温変化により死亡からの正確な経過時間を推定することができないとする医学的知見を含む。)が,一般的であるとは認め難い。F医師はのイする体温推移に当てはめて死亡時刻を推定するのではなく,種々の修正要素エで認定する死亡時刻は,F医師が1時間の幅をもって推定する死亡時刻のうち最も遅い時刻を採用したものである。そうすると,体温が様々な要因によって大きく変化するとしても,被害者の解剖が,被告Aが被害者の異変に気付き救急要請してから30時間以上経過した後に実施されたからといって,エの認定判断を左右するものではない。 被告Aは,本件事故発生日の午後2時50分に被害者を目視した際には異常がなかった旨主張するが,被告Aが付けていた被害者の保育日誌には同時刻に被害者の睡眠時チェックをした旨の記載はない(乙2)。同保育日誌には,被告Aが同日の午後1時15分,午後1時30分,午後1時45分,午後2時10分に被害者の睡眠時チェックを行った旨の記載がある(乙2)。しかし,被告Aは,被告横須賀市保育課職員による聞き取りに対し,本件事故後に,上記保育日誌に記載のない同日の午後2時19分,午後2時33分にも被害 者の睡眠時チェックを行ったと説明しているから(乙1),被告Aは,睡眠時チェックを行った都 よる聞き取りに対し,本件事故後に,上記保育日誌に記載のない同日の午後2時19分,午後2時33分にも被害 者の睡眠時チェックを行ったと説明しているから(乙1),被告Aは,睡眠時チェックを行った都度,その旨を保育日誌に記載したわけではないといえる。 また,被告Aは,本件事故発生日にも同職員から事情を聴かれたが,被告Aが当日は気が動転していて正確な供述ができなかった上,午後2時台の睡眠チェックの方法などについて,被告Aの記憶がはっきりしておらず,不明な部分が残っていた(乙1)。加えて,被告Aのメモには,本件事故日の午後2時台にも睡眠チェックを行った旨の記載があるが(乙16),同メモは,睡眠時チェックを行った都度作成したものではない上(甲53,原告本人,弁論の全趣旨(被告Aの平成29年1月20日付け証拠説明書)),本件の全証拠によっても,被告Aが,本件事故発生日にはっきりしていなかった記憶を,同メモ作成時に至って正確に喚起できたとは認め難い。そうすると,被告Aによる同日の午後2時台以降の睡眠時チェックに係る保育日誌及びメモの各記載や同職員に対する説明は,いずれも採用することができず,エの認定判断を左右するものではない。 したがって,被告Aの主張は,採用することができない。 2 争点2(被告Aの債務不履行責任ないし不法行為責任の有無)について 前提事実及び掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア被告横須賀市による家庭的保育事業の概要 被告横須賀市による家庭的保育事業は,定められた研修を修了した家庭的保育者(家庭保育福祉員と同義)が,満3歳未満の児童を家庭的保育者の居宅等において保育する事業である(甲45,乙15の2,丙1,3の1ないし5)。 被告横須賀市の家庭保育福祉員運営要綱は,家 (家庭保育福祉員と同義)が,満3歳未満の児童を家庭的保育者の居宅等において保育する事業である(甲45,乙15の2,丙1,3の1ないし5)。 被告横須賀市の家庭保育福祉員運営要綱は,家庭保育福祉員として登録しようとする者について,保育士の資格を有し,かつ,児童保育の経験があること,又は市長が同等の能力を有すると特に認める者であることを要するとしている(丙1)。 被告横須賀市の家庭保育指導員は,平成22年10月,1歳未満,新入園児(1か月間)は15分おきに睡眠チェックをするとした睡眠チェックの手順を作成した(甲51)。 イ乳児の吐乳ないしこれによる窒息に係る知見東京23区内における平成15年から平成24年の間の5歳未満の死亡事例469例のうち窒息事例68例,うち0歳児の窒息事例は60例である。窒息事例の3分の1程度は,吐乳/吐物吸引である(甲31)。 ウ乳児の睡眠時のチェックに係る本件事故当時までの知見 厚生労働省の補助事業として社会福祉法人日本保育協会が実施した保育所の保育内容に関する調査研究の結果を平成13年3月に取りまとめた報告書は,SIDSの予防として,0歳児は5分に1回,定期的に呼吸の確認をし,同時に体にも触れ生きている確認と刺激をするとしている(甲34)。 家庭的保育研究会編集,平成21年10月1日発行の家庭的保育基礎研修テキスト「家庭的保育の基本と実践」は,睡眠中の観察について,0歳児期は睡眠時には5分~10分おき,1~2歳児期には10分ごとに観察し,異常の有無を記録しておくのが望ましいとしている(丙6)。 エ本件保育委託契約の成立被告Aは,保育士,幼稚園教諭の資格を有し,平成16年3月31日,被告横須賀市の家庭保育福祉員に登録された(乙18,丙 ておくのが望ましいとしている(丙6)。 エ本件保育委託契約の成立被告Aは,保育士,幼稚園教諭の資格を有し,平成16年3月31日,被告横須賀市の家庭保育福祉員に登録された(乙18,丙2)。原告は,平成21年11月,被告横須賀市保育課において被告横須賀市による家庭的保育事業を知り,平成22年7月,同課の家庭保育指導員であった証人G(以下「証人G」という。)から被告Aを紹介され,同月16日,家庭保育希望申立書を提出して,被告Aと面接し,被告Aとの間で,被害者を保育する合意が成立し,横須賀市長が原告に対し,同年8月19日付けで家庭保育福祉員利用決定通知書により通知して,もって,原告と被告Aの間で, 利用児童を被害者,基本料7万6300円(保護者負担額2万5400円,市負担額5万0900円),家庭保育利用期間を同年9月1日から平成23年3月31日,家庭保育福祉員を被告Aとする本件保育委託契約が成立した(証人G,原告本人,甲3,4,44,45)。 オ被告Aが受けた被告横須賀市による指導研修被告Aは,平成19年度から平成21年度にかけて被告横須賀市が実施した研修を受けたが,平成22年6月19日の研修に出席しなかった。同日の研修には,睡眠チェックの仕方,日誌についての研修が含まれていた。 (以上,丙3の2,3の4)証人Gは,被告Aに対し,平成22年7月5日,被告Aが上記のとおり欠席した研修のフォローアップを実施し,0~1歳児については,横須賀市立保育園では15分間隔で睡眠チェックを行っているので,家庭保育でも同様にすること,顔色,呼吸状況を確認するとともに触診して,体温や発汗の変化を見逃さず,眠りが深くならないようにすること,日誌にも睡眠時チェック欄を設けるので,記入すること,寝かせるときは仰向けにすること,以上 ,顔色,呼吸状況を確認するとともに触診して,体温や発汗の変化を見逃さず,眠りが深くならないようにすること,日誌にも睡眠時チェック欄を設けるので,記入すること,寝かせるときは仰向けにすること,以上のことを指導した(証人G,丙3の5,丙9)。 カ本件事故現場の状況等本件事故当時の現場の状況等ベビーラックの望ましい連続使用時間が同認定するとおりに制限されているのは,ベビーラックがベッドではないため,子供がそれを利用して睡眠をとるのに適してはいないこと,ベビーラックがプラスチック製でそれに寝かせた子供の周りを囲む状態になり,子供が寝ている間に熱がこもり呼吸が浅くなり,汗もかくこと,子供にベルトを装着してベビーラックに寝かせて使用すると,子供が寝返りを打てなくなること,以上のことがあるためである(証人G)。 キ被告Aによる本件事故発生日の被害者の寝かしつけや睡眠時チェック の態様被告Aは,被害者が本件事故発生日の午前9時20分に入眠した後,同日の午前9時32分,午前9時46分,午前9時59分に睡眠時チェックを行い,同日の午前10時9分には被害者が目を覚ましたのを確認し,被害者が同日の午後0時30分に再び入眠した後,同日の午後0時40分,午後0時52分,午後1時15分,午後1時30分,午後1時45分に睡眠時チェックを行った(乙2。被告Aが同日の午後2時台以降に睡眠時チェックを行ったとはいえないのは,1 ク被害者の死亡が確認されるまでの経過 するとおりである。 アの認定判断によれば,被告Aは,本件保育委託契約に基づき被害者を寝かしつけるに当たり以下の内容の注意義務を負い,同内容の不法行為上の注意義務も負っていたといえる。 すなわち,被告Aは,被告横須賀市の家庭保育福祉員に登録され,被告横 託契約に基づき被害者を寝かしつけるに当たり以下の内容の注意義務を負い,同内容の不法行為上の注意義務も負っていたといえる。 すなわち,被告Aは,被告横須賀市の家庭保育福祉員に登録され,被告横須賀市による家庭的保育事業として,原告との間で本件保育委託契約を締結して,委託料を受領して被害者を被告Aの自宅で保育していたから,本件保育委託契約に基づき,被告横須賀市が家庭保育福祉員に求める水準で被害者を保育すべき一般的義務を負い,この義務の内容は,具体的には,0~1歳児である被害者を寝かしつけるにあたり,被告横須賀市の指導に従い,15分間隔で,被害者の顔色,呼吸状況を確認する方法で睡眠時チェックを行う義務,寝かせるときは被害者を仰向けにするというものであったと認められる。 イそして,乳児の吐乳ないしこれによる窒息に係る知見,乳児の睡眠時チェックに係る本件事故当時までの知見は,0歳児の窒息事例の3分の1程度は,吐乳/吐物吸引であり,0歳児は5分から少なくとも10分に1回, 定期的に呼吸の確認をし,同時に体にも触れて生きている確認と刺激をす内異物吸引に基づく気道閉鎖ないし狭窄を含む窒息に陥った場合,そのままでは仮死状態に至り死の転帰をとり,窒息に陥る最初の主徴である呼吸困難期には,胸式ないし胸腹式の強い努力呼吸となり,引き続きけいれん等が,その後チアノーゼ等から意識混濁・消失,中枢性無呼吸が起こり,通常無呼吸期以前に救急措置を施さなければ完全な回復を望めないとい観察により把握できる異常(努力呼吸,けいれん等)があり,異常の把握が遅れて救急措置を施さないまま無呼吸期に至れば,完全な回復を望めないのである。乳児には,自発的に言語を発して異常を訴えるのを期待し得ない(公知の事実)。 上記の睡眠時チェックは,SIDSの予防を念頭に置いたものと を施さないまま無呼吸期に至れば,完全な回復を望めないのである。乳児には,自発的に言語を発して異常を訴えるのを期待し得ない(公知の事実)。 上記の睡眠時チェックは,SIDSの予防を念頭に置いたものともみられの鑑別を要する乳幼児ので乳幼児の睡眠時チェックを実施することは,窒息死を予防するためにも必要であり,それが一般的知見であるといえる。被告Aは,原告との間で本件保育委託契約を締結して利用児童としての被害者の保育を受託しており,注意義務の違反が乳児の死亡という重大な結果をもたらすおそれがあるきなかったとしても,同保育中に被害者の呼吸を妨げる状況が存在する等保育の具体的な態様によっては,アの一般的な注意義務に加えて,自ら被告横須賀市が指導するより短い間隔で睡眠時チェックを行う義務が生じたものと認められる。 以上により,被告Aは,アの注意義務に加えて,被害者の呼吸を妨げる状況がある等の場合には,被告横須賀市が指導するより短い間隔で被害者の睡眠時チェックを行うべき注意義務を負うといえる。 ウ被害者の死因及び死亡時刻は1⑵で,本件事故当時の現場の状況等は1ウで,被告Aによる本件事故発生日の被害者の寝かしつけや睡眠時チェックの態様は⑴キで各認定判断するとおりである。そうすると,被告Aは,被害者にベルトを装着して固定した上でベビーラックを使用して被害者を寝かしつけ,同日の午前10時09分に被害者にミルクを与え,被害者が同日の午後0時30分頃に再び入眠した後も寝返りを打てない等の不都合な事態が生じるのを避けるために設定された使用制限時間を超えてベビーラックの使用を続けて,被害者が寝返りを打つことができない状態に置きながら,被害者が寝ている被告Aの自宅和室の隣室のリビングに居て,15分間隔で同和室に行って被害者の睡眠時チェックを行っていた ベビーラックの使用を続けて,被害者が寝返りを打つことができない状態に置きながら,被害者が寝ている被告Aの自宅和室の隣室のリビングに居て,15分間隔で同和室に行って被害者の睡眠時チェックを行っていたところ,被害者は吐乳を吸引して同日の午後2時頃窒息死したのである。 エ被告Aがウで認定するとおり行動して被害者が死亡したことは,以下のとおり,イの注意義務に違反するものと認められる。 すなわち,被害者は,吐乳吸引による気道狭窄により呼吸状態が悪化して窒息死した(1被告Aは,ミルクを与えた被害者が入眠した後,寝返りを打つことができない状態に置いたままにしたから,被害者が吐乳して呼吸を妨げる状況にあるのを認識していたと認められる。そうすると,被告Aは,被害者が吐乳して呼吸を妨げられて窒息死するのを予見し得たと認められる。 そして,0歳児は5分から少なくとも10分に1回,定期的に呼吸の確認をし,同時に体にも触れて生きている確認と刺激をするという知見があるなどイの注意義務を認定判断するに当たり考慮する諸事情に鑑みると,同間隔で乳児の睡眠時チェックを行うことにより,乳児の窒息死を回避できたと認められる。そうすると,被告Aは,イの注意義務を尽くすことにより被害者の吐乳吸引による窒息死を回避することができたこと(被告Aが同注意義務に違反したために被害者が窒息死したことを含む。)が認めら れる。 以上のとおり,被告Aは,吐乳により呼吸を妨げられる状況に被害者を置き,被害者が吐乳して呼吸を妨げられて窒息死するのを予見し得たところ,同状況に即して,イの注意義務に従って,被告横須賀市の指導より短い間隔で被害者の睡眠時チェックを行うべきであったのに,本件事故発生日の午前10時09分にミルクを与えた後同日の午後0時40分頃に入眠した被害者につい イの注意義務に従って,被告横須賀市の指導より短い間隔で被害者の睡眠時チェックを行うべきであったのに,本件事故発生日の午前10時09分にミルクを与えた後同日の午後0時40分頃に入眠した被害者について,漫然と約15分間隔で自宅のリビングから隣室の和室で寝ている被害者のところに行って睡眠時チェックを行うにとどまり,被害者が吐乳吸引に起因する気道狭窄により呼吸状態が悪化したことに気付かず,同日の午後2時頃,被害者を窒息死させたから,同注意義務に違反して被害者を死亡させたと認められる。 オしたがって,原告の主張は,上記認定判断する限度で被告Aの注意義務違反行為1,2があり,これにより被害者を死亡させた債務不履行責任及び不法行為責任が成立するというものとして,理由がある。 カなお念のため,被告Aが15分間隔で被害者の睡眠時チェックを行っていた旨のウの認定について補足説明する。 被害者は,本件事故発生日の午前10時09分にミルクを飲み,午後0被告Aは,同各時刻頃,その都度被害者の状況を確認したとみられる。保育日誌には,被告Aが同日の午後1時15分,午後1時30分,午後1時45分に睡眠時チェックを行った旨の記載がある(乙2)。被害者の死亡時刻は,同日の午後2時頃である。被告Aは,同日の午後3時12分そうすると,被告Aは,入眠後1時間程度は,睡眠時チェックを行って,被害者の睡眠状況を確認したが,同日の午後2時頃以降,被害者が安定して睡眠中であると誤った判断をして,同日の午後3時頃までの間は睡眠時チェックを全く行わなかったとみられる。本件の全証拠によっても,被告 Aに,救急要請した後になって,同日の午後1時台にまでに遡って,行っていない睡眠時チェックを行った旨を保育日誌に記載する動機があるとまでは認め難い。したがって,被告Aは,同日の午 よっても,被告 Aに,救急要請した後になって,同日の午後1時台にまでに遡って,行っていない睡眠時チェックを行った旨を保育日誌に記載する動機があるとまでは認め難い。したがって,被告Aは,同日の午後1時台までは,睡眠時チェックを行った都度その旨を保育日誌に記載したとみられ,同記載の信用性までは否定し難い。本件の全証拠によっても,被告Aが,同日の午後2時10分より前に15分間隔で睡眠時チェックを行っていないとまでは断じ難い。 原告は,被告Aが15分間隔で睡眠時チェックを行ったことについて種々の事情に基づき疑問がある旨供述する(原告本人)。被告Aは,本件事故発生日の午後2時台以降に睡眠時チェックを行ったとはいえず,被告Aによる同日の午後2時台以降の睡眠時チェックに係る保育日誌及びメモの被告Aは尋問期日に出頭せず,被告Aの陳述書(乙18)における陳述について反対尋問を経ていない。しかし,そうであっても,被害者の死亡時刻より前の保育日誌の記載の信用性を否定する事情や,事情があるとまでは認め難い。もっとも,被告Aが15分間隔で睡眠時チェックを行ったからといって,被告Aに注意義務違反行為があったと認められるのは,エで認定判断するとおりである。 ア被告Aは,本件保育委託契約に基づき負担する注意義務について,前記第2の3⑵(被告Aの主張)アのとおり主張する。 しかし,被告Aは,吐乳により呼吸を妨げられる状況に被害者を置いていたのに,漫然と約15分間隔で被害者の睡眠時チェックを行うにとどまると,被告Aが主張する被害者の様子の把握の状況や被害者の状況であったとしても,被害者の睡眠時チェックに係る注意義務違反を否定できるものではない。また,被告Aは,使用制限時間を超えて被害者をベビ ーラックに固定し吐乳により呼吸を妨げられる可能性がある 況であったとしても,被害者の睡眠時チェックに係る注意義務違反を否定できるものではない。また,被告Aは,使用制限時間を超えて被害者をベビ ーラックに固定し吐乳により呼吸を妨げられる可能性がある状況に被害者を置いていたから,被告横須賀市の指導よりも短い間隔で被害者の睡眠時チェックを行う義務を負い,この義務を怠ったときは,被害者が吐乳してイ,エ)。被害者が窒息死したのは,本件事故発生日の午後2時頃被告Aが同日の午後2時台に被害者の睡眠時チェックを行ったとはいえない(同そうすると,被告Aが,同指導のとおりに15分間隔で被害者の睡眠時チェックを行ったからといって,同注意義務違反を否定できるものではない。 被告横須賀市は,睡眠時チェックについて,呼吸状況を確認するよう証人Gをして被告横須賀市が研修を実施したのが,本件事故の約3か月前平成22年6月19日であり,被告Aが,同研修を欠席したからといって,睡眠時の呼吸確認を行うことが本件事故当時の保育の水準を超えることを理由付けるとは到底いえない上,被告Aは,結局,本件事故前の同年7月5日に呼吸状況を確認するように指導を受けているのであるから,本件事故発生日における被告Aの被害者の睡眠時チェックに係る注意義務を否定する根拠になるとは到底いえない。本件の全証拠によっても,被告Aが,呼吸状況の確認を免れる医学的知見に接し,この知見に基づき,前記証人Gの指導と異なる睡眠時チェックをあえて行ったとは認められない。そうすると,被告Aは,同注意義務として,睡眠時の体勢・顔色・発汗だけでなく,呼吸の確認を行う義務を負っていたといえる。同注意義務を認定判断するに当たり考慮した諸事情によれば,被告Aが,適宜の方法にせよ,同指導よりも短い間隔で睡眠時チェックを行い,被害者の呼吸の確認を行っていれば,被 う義務を負っていたといえる。同注意義務を認定判断するに当たり考慮した諸事情によれば,被告Aが,適宜の方法にせよ,同指導よりも短い間隔で睡眠時チェックを行い,被害者の呼吸の確認を行っていれば,被害者が吐乳吸引による気道狭窄により呼吸状態が悪化したことに気付き,被害者の窒息死を回避することができたといえる。そうすると,被告Aが適宜の方法により睡 眠時の体勢・顔色・発汗をチェックしたとしても,同注意義務違反を否定できるものではない。 被告Aは,原告との間で本件保育委託契約を締結し,委託料を受領した上,吐乳により呼吸を妨げられる状況に被害者を置いたのであるから,被告Aが負うべき注意義務が,一般家庭の設備で親が子を保育する際の注意義務と同等であるとはいえないし,本件の全証拠によっても,被告Aの注意義務を一般家庭の設備で親が子を保育する際の注意義務より加重することにより,被告Aの家庭保育福祉員としての保育業務が不能になるような事情は認められない。 イ被告Aは,予見可能性について,前記第2の3⑵(被告Aの主張)アのとおり主張する。 しかし,被告Aは,吐乳により呼吸を妨げられる状況に被害者を置いたものであるに対して極めて少ないとしても,被告Aが,被害者が吐乳吸引により窒息するのを予見し得なかったとはいえない。 ウ被告Aは,結果回避可能性について,前記第2の3⑵(被告Aの主張)アのとおり主張する。 しかし,被告Aは,吐乳により呼吸を妨げられる状況に被害者を置いたのに,漫然と15分間隔で自宅のリビングから隣室の和室で寝ている被害気道内異物吸引に基づく気道閉鎖ないし狭窄を含む窒息による死亡に至る機序においては,喘鳴を伴う呼吸困難等の顕著な他覚的な症状がみられる(1。本件の全証拠によっても,被告Aが,同間隔 で寝ている被害気道内異物吸引に基づく気道閉鎖ないし狭窄を含む窒息による死亡に至る機序においては,喘鳴を伴う呼吸困難等の顕著な他覚的な症状がみられる(1。本件の全証拠によっても,被告Aが,同間隔で睡眠時チェックを行う間にも被害者の様子を確認したことや,同確認した際に,被害者が嘔吐した様子がなく,むせてもおらず,泣いてもいなかったことはいずれも認められない。被告Aは,イの注意義務に違反して,上記の態様で睡眠時チ ェックを行うにとどまったために,被害者が吐乳吸引したことや被害者にむせる等の症状が現れたことに気付かなかったと推認するのが相当である。 そうすると,被告Aが,被害者の吐乳吸引等に気付くのが不可能であったとも,吐乳吸引等に気付くことが不可能であるために,被害者の窒息死を回避することができなかったともいえない。 そして,気道内異物吸引に基づく気道閉鎖ないし狭窄を含む窒息による死亡に至る機序においては,窒息死に至る前に顕著な他覚的な症状がみられ,無呼吸期以前に救急措置を施さなければ完全な回復は望めないとされているから無呼吸期以前に同他覚的な症状に気付いて救急措置を講じて被害者を救命できる可能性は否定できない。そうすると,15分間隔の睡眠時チェックにより救命できないとしても,被告Aイの注意義務を尽くすことにより,無呼吸期以前に被害者の他覚症状に気付き,適切な救命措置を講じることにより被害者が窒息死する結果を回避し得たことを否定することはできない。被告Aは,窒息死の機序について縷々主張し,注意義務を尽くして救命措置を講じても奏功せず結果回避可能性がない旨主張するが,同主張は,15分間隔の睡眠時チェックを前提とするものであるから,前提において失当である。 ウしたがって,被告Aの主張は,いずれも採用することができない 奏功せず結果回避可能性がない旨主張するが,同主張は,15分間隔の睡眠時チェックを前提とするものであるから,前提において失当である。 ウしたがって,被告Aの主張は,いずれも採用することができない。 3 争点3(被告横須賀市は被告Aに対する家庭保育福祉員としての指導等を怠ったか等)について 被告横須賀市は,児童福祉法に基づき家庭保育事業を運営し,被告Aを同事業に係る家庭保育福祉員に認定し,原告と同認定された被告Aとの間で本件保育委託契約が成立して,被告Aが同家庭保育福祉員として,本件保育委託契約に基づき,被害者を利用児童とする家庭的保育を実施していた 。そうすると,被告横須賀市は,本件保育委託契約を締結した原告ないし同利用児童である被害者に対し,同事業 を運営し,被告Aを同家庭保育福祉員に認定した者として,被告Aが被害者の家庭的保育を適切に実施するのに必要な指導研修を実施すべき一般的義務を負う。 これを睡眠時チェックに即してみると,0歳児は5分から少なくとも10分に1回,定期的に呼吸の確認をし,同時に体にも触れて生きている確認と刺激をするという知見があること,呼吸停止に至るまでには,観察により把握できる異常(努力呼吸,けいれん等)があり,異常の把握が遅れて救急措置を施さないまま無呼吸期に至れば,完全な回復を望めないこと,乳児には,自発的に言語を発して異常を訴えるのを期待し得ないこと,乳幼児の睡眠時チェックは,窒息死を予防するためにも必要であること,以イで認定判断するとおりである。被告横須賀市は,同アの睡眠時チェックの手順を作成した際,同知見に接していた(証人G)。 証人Gの証言を含む本件の全証拠によっても,被告横須賀市が,同知見を覆すに足りる医学的根拠に基づいて,同手順を作成したとは認め難く,被告横須賀市が同 手順を作成した際,同知見に接していた(証人G)。 証人Gの証言を含む本件の全証拠によっても,被告横須賀市が,同知見を覆すに足りる医学的根拠に基づいて,同手順を作成したとは認め難く,被告横須賀市が同手順を作成する際に,同知見が医学的に誤りであるとする指摘はなかった(証人G)。 以上により,被告横須賀市は,原告ないし被害者に対し,被告Aが被害者の呼吸の異常を見逃して,これにより被害者が窒息死に至るのを防止するために,乳児の吐乳ないし窒息に係る前記医学的知見に即して,被告Aに乳児の睡眠時チェックを行うよう指導研修を実施すべき義務を負うといえる。そうすると,被告横須賀市が同指導研修を行わず,そのために,被告Aによる家庭的保育中の被害者が吐乳吸引により窒息死した場合には,被告横須賀市について,上記指導研修を実施すべき義務に違反する国家賠償法上の違法な公権力の行使があるというべきである。 イそして,2によれば,被告横須賀市が被告Aに対して行った指導研修の内容は,0~1歳児又は新入園児(1か月未満)に ついては15分間隔で睡眠時チェックを行うというものであったと認められるから,被告横須賀市は,被告Aに対し,乳児の吐乳ないしこれによる窒息に係る前記医学的知見に即した被害者の睡眠時チェックを行う指導研修を実施していなかったというべきである。 ウ被告Aが,2イの注意義務に違反して,被告横須賀市の指導どおりの間隔で睡眠時チェックを行うにとどまり,そのために被害者を窒息死させたことは,同ウ,エで認定判断するとおりである。そうすると,被告横須賀市が,アの注意義務を尽くして,これに基づき被告Aに対する指導研修を行っていれば,被告Aは,同指導研修に従った睡眠時チェックを行い,同睡眠時チェックを行えば被害者の窒息死を避けることができたと認められる。 の注意義務を尽くして,これに基づき被告Aに対する指導研修を行っていれば,被告Aは,同指導研修に従った睡眠時チェックを行い,同睡眠時チェックを行えば被害者の窒息死を避けることができたと認められる。 エ以上により,被告横須賀市には,原告ないし被害者に対して負うアの指導研修実施義務に違反して,被告Aに対し,イで認定する指導研修を被告Aに行い,そのために被告Aが漫然と同指導研修に従った睡眠時チェックしか行わず被害者を吐乳吸引に起因して窒息死させた違法な公権力の行使があったと認められる。 オしたがって,原告の主張は,上記認定判断する義務違反としての違法な公権力の行使があるというものとして理由がある。 被告横須賀市は,被告横須賀市の被告Aに対する指導研修に係る国家賠償法上の違法性について,争点3に対する被告横須賀市の主張ア(被告横須賀市の権限及び義務),イ(被告横須賀市の義務違反及び権限不行使)のとおり主張する。 しかし,乳児の睡眠時チェックに係る本件事故当時までの医学的知見は,0歳児は5分から少なくとも10分に1回,定期的に呼吸の確認をし,同時に体にも触れて生きている確認と刺激をするというものである(2)。本件の全証拠によっても,被告Aが同知見に接し又は接することができたとは 認め難く,被告横須賀市が,被告Aに対し,被告Aが保育士の資格を有するからといって,同指導研修の内容より短い間隔で睡眠時チェックを行うことを期待していたとも,同期待するのが相当であったともいい難い。そうすると,被告Aが,家庭保育福祉員運営要綱の要件を満たす保育士であり,被告横須賀市が,被告Aを保育士として家庭福祉保育員の認定を行い,被告Aに家庭福祉保育員として保育士に相当する水準の注意義務を課したからといって,乳児の睡眠時チェックに係る本件 満たす保育士であり,被告横須賀市が,被告Aを保育士として家庭福祉保育員の認定を行い,被告Aに家庭福祉保育員として保育士に相当する水準の注意義務を課したからといって,乳児の睡眠時チェックに係る本件事故当時までの医学的知見に沿って指導研修を実施すべきであるというアの指導研修実施義務が認められないということはできない。被告横須賀市は,被告横須賀市が被告Aに対し,睡眠時の呼吸確認の重要性を認識させるに足りる助言指導を行った旨縷々主張するが,被告横須賀市は,乳児の睡眠時チェックに係る本件事故当時までの医学的知見に基づく指導研修をしていない上上記認定判断するとおり,被告Aが同知見に接し又は接することができたとはいえないか なお,本件事故当時までに0歳児について5分から少なくとも10分に1回の睡眠時チェックを行うべきとする知見があり(2,同知見は,厚生労働省の補助事業による調査結果の報告書(平成13年3月取りまとめ)や家庭的保育基礎研修テキスト(平成21年10月1日発行)に示されたものである上,から,前記知見が平成22年9月27日の本件事故発生日の時点における保育現場や専門家の知見でなかったとは認め難く,睡眠時チェックの間隔に係る医学的根拠がないものであったとはいえない。 被告横須賀市は,同事業の一環として被告Aを含む被告横須賀市の家庭保育福祉員に対し,同家庭保育福祉員が同事業の利用児童の家庭的保育を適切に実施するための 指導研修を実施する者であるから(2同知見に依拠して同手順より短い間隔で睡眠時チェックの間隔を定めて,同指導研修を実施すべきであったといえる。平成11年10月29日付けの厚生省家庭局長通知である「保育所保育指針について(現行指針の改正前のもの)」(丙5)は,睡眠時チェックに関係する事項としては,六か月未満 を実施すべきであったといえる。平成11年10月29日付けの厚生省家庭局長通知である「保育所保育指針について(現行指針の改正前のもの)」(丙5)は,睡眠時チェックに関係する事項としては,六か月未満児の保育の内容について,乳児の死亡原因としてSIDSがあり,保育中にも十分に気配りをすることや(第三の観察を怠らないを配慮事項とするにとどまり,保育内容を具体的に確定して指示するものではないから,同通知に睡眠時チェックの間隔の定めがないこと等は,るものではない。そうすると,被告横須賀市の各施設がその判断により睡眠時チェックを実施していたこと,医師が睡眠時チェックの間隔について一概には言えないと助言したこと,他の都市で同知見に即した睡眠時チェックを実施していない保育園が多かったこと及び平成21年12月の公立保育園の園長会において15分間隔で睡眠時チェックを行うことを取り決めたことという被告横須賀市が主張する事実が存在していたとしても,被告横須賀市がアの指導研修実施義務を免れるものではない。また,本件事故当時の家庭保育福祉員について,保育士資格の有無が必ずしも問われない制度設計の中で,被告横須賀市が,保育士資格を有する被告Aを家庭保育福祉員と認定したからといって,15分間隔より短い間隔で睡眠時チェックを行うべきか否かの判断を被告Aに任せれば足りるとはいい難い。 被告Aが本件事故当時に保育していたのは,被害者と1歳9か月の男児で本件事故当時の児童福祉法施行規則が,保育士資格の有無すら問われない1名の家庭保育福祉員が3名まで乳幼児を見るのを許容しており(丙12),保育士資格を有する家庭保育福祉員であっても5分間隔で3人分の睡眠時チェックを行うのが事実上不可能であったとしても,被告横 須賀市は,原告に2被告Aが保育する利用児童の数や年齢 おり(丙12),保育士資格を有する家庭保育福祉員であっても5分間隔で3人分の睡眠時チェックを行うのが事実上不可能であったとしても,被告横 須賀市は,原告に2被告Aが保育する利用児童の数や年齢の組み合わせに配慮することができたといえるから,同指導研修実施義務を免れるものではない。 本件事故発生日当時までに0歳児について5分から少なくとも10分に1回の睡眠時チェックを行うべきとする知見は,厚生労働省の補助事業のよる調査結果を平成13年3月に取りまとめた報告書に示されている(2また,乳幼児に窒息死やSIDSと診断される死亡事例が決して稀ではないとの知見が本件事故発生日当時までにあった(公知の事実)。そうすると,被告横須賀市の公立保育園において睡眠中の事故や突然死が1件もなかったとしても,このことは,被告横須賀市が家庭保育福祉員に対して前記知見に基づく睡眠時チェックの指導研修を実施すべき注意義務が認められないことの根拠となるものではない。同様に,被告横須賀市による他都市を対象とする調査結果が,本件事故当時や平成31年1月の調査時において,必ずしもすべての市の公立保育園において5分間隔の睡眠時チェックを実施しているとは限らず,被告横須賀市が家庭保育福祉員による0歳児の睡眠時チェックの間隔を5分間とすることを取り決めたのが,本件事故後の平成26年度中であったからといって,同指導研修実施義務を免れるものではない。 さらに,同指導研修実施義務は,保育時間中常に0歳児を傍らに寝かせておくよう家庭保育福祉員を指導研修する義務があるというものではないから,同寝かせておくことが現実的でないという内在的な制約があるとしても,被 被告Aについて,保護者からの苦情がなかったことや被告横須賀市による訪問指導の過程で家庭保育福祉員として不適格と認める事実がな 同寝かせておくことが現実的でないという内在的な制約があるとしても,被 被告Aについて,保護者からの苦情がなかったことや被告横須賀市による訪問指導の過程で家庭保育福祉員として不適格と認める事実がなかったことを含め,被告横須賀市が被告Aについて家庭保育福祉員の認定を取り消すべき事由がなかったからといって,この事由の不存在は前記医学的知見に沿った指導研修を不要とする事情に当たらないから,同指導研修実施義務を免 れるものではない。被告横須賀市が,家庭保育指導員を配置し家庭保育福祉員に対する助言指導や研修等を実施し,被告Aについて欠席した睡眠時チェックに関する研修のフォローアップをしたからといって,被告横須賀市が2したとはいえない。 被害者が本件事故により死亡したのは,被告Aが,吐乳により呼吸を妨げられる状況に被害者を置いたのに,漫然と15分間隔で睡眠時チェックを行被告Aが同状況に被害者を置いたにせよ,被告横須賀市が同指導研修実施義務に従い,被告Aに対し知見に即した睡眠時チェックの間隔を具体的に示した指導をしていれば,本件事故による被害者の死亡を回避することができたといえる。 被告横須賀市が児童福祉法に基づき運営する家庭保育事業の一環として,家庭保育福祉員に対し,同事業の利用児童の家庭的保育を適切に実施するための指導研修を実施する者であること,被告Aが,5分ないし10分間隔で睡眠時チェックを行うべきとする知見に接し又は接することができたとはいえず,かえって,被告横須賀市が,被告Aに対し,同知見とは異なる指導研修していたことを考慮すると,被告Aが保育士の資格を有するからといって,被告横須賀市が,被告横須賀市が被告Aに対して実施した指導研修の内容より短い間隔で睡眠時チェックを行うことが保育の専門家である被告Aの合理的な裁量の範囲内の事項 が保育士の資格を有するからといって,被告横須賀市が,被告横須賀市が被告Aに対して実施した指導研修の内容より短い間隔で睡眠時チェックを行うことが保育の専門家である被告Aの合理的な裁量の範囲内の事項であり,これを期待することが相当であったとはいえない。また,被告横須賀市が,保育士の資格を有する被告Aについて,被告横須賀市が提供した助言等に疑問を抱くことや,抱いた疑問を自ら積極的に解消することを期待できるとも,このような期待に基づき被告Aにおいて被告横須賀市による指導研修に関わらず適切な保育の実施を期待するのが相当であるともいえない。被告横須賀市は,家庭保育事業を実施する者として,家庭保育福祉員による保育に必要な知見を収集し,それに基づき 家庭保育福祉員に対する指導研修を実施すべきであり,保育士資格を家庭保育福祉員の要件とすることもって,同知見の収集やそれに基づく保育の実践を専ら家庭保育福祉員に委ねれば足りるとはいえない。これと異なる被告横須賀市の主張は,失当である。 以上のとおり,被告横須賀市の主張は,く,採用することができない。 4 損害額(争点4)について 被害者の死亡逸失利益ア被害者は,平成22年5月31日生まれであり,同年9月27日本件事故により死亡した。そうすると,被害者の死亡逸失利益は,賃金センサス平成22年第1巻第1表・男・学歴計の年収額523万0200円,生活費控除率5割,就労開始時期18歳・就労可能年齢67歳まで(ライプニッツ係数7.5495)として,以下のとおり,1974万2697円(1円未満切捨)と認めるのが相当である。 5,230,200×(1-0.5)×7.5495=19,742,697.45イ原告は,被害者の死亡逸失利益算定のための生活費控除率が4割 1円未満切捨)と認めるのが相当である。 5,230,200×(1-0.5)×7.5495=19,742,697.45イ原告は,被害者の死亡逸失利益算定のための生活費控除率が4割である旨主張するが,被害者の死亡時の年齢は0歳であったから,その将来の被扶養者の有無や人数は不確定であるといわざるを得ない。そうすると,被害者の死亡逸失利益算定のための生活費控除率が5割を下回るとは認め難い。したがって,原告の主張は,採用することができない。 被害者の慰謝料及び原告固有の慰謝料ア被害者は,被告Aの注意義務違反行為及び被告横須賀市の違法な公権力の行使に起因する本件事故により死亡したから,回復できない重大な被害が生じた。被害者は,生後僅か約4か月で本件事故により突然の死を余儀なくされた。原告本人尋問の結果を含む本件の全証拠によれば,被害者の母である原告が,被害者の突然の死を受け容れ難いことは容易に認められ る。原告は,被告Aが,被告横須賀市の事業として,被害者の家庭的保育を適切に実施すると信じて本件保育委託契約を成立させて,被告Aに被害者を預けたと認められ,原告本人),本件の全証拠によれば,原告がそう信じたことは合理的であると認められる。そうすると,被告Aの注意義務違反行為及び被告横須賀市の違法な公権力の行使により上記の重大な結果を生じたことは,上記認定する原告の合理的な期待ないし信頼を裏切るものといえる。 上記認定する本件事故による結果の重大性や被害感情に係る事情によれば,本件事故により被害者及び原告が受けた精神的苦痛は,いずれも多大であると認められる。 以上の事情を含む一切の事情(被害者の年齢により死亡逸失利益算定のための生活費控除率が5割とされたことを含む。)からすると,被害者及び原告が,被告 精神的苦痛は,いずれも多大であると認められる。 以上の事情を含む一切の事情(被害者の年齢により死亡逸失利益算定のための生活費控除率が5割とされたことを含む。)からすると,被害者及び原告が,被告Aの注意義務違反行為及び被告横須賀市の違法な公権力の行使に起因して被害者が死亡することにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は,被害者につき2400万円,原告につき300万円をもって相当と認める。 イ原告は,被害者及び原告がアで認定する慰謝料額を上回る精神的苦痛を受けており,被害者について3000万円,原告について1000万円の各慰謝料が相当である旨主張する。 しかし,被告Aの注意義務違反行為の態様は,2で認定判断するとおりであり,被告横須賀市の違法な公権力の行使の態様は,3で認定判断するとおりであるから,被告らが,故意をもって本件事故を招致したとは認められない。被告Aの注意義務違反行為及び被告横須賀市の違法な公権力の行使が,いずれも原告の合理的な期待ないし信頼を裏切るものであることや,被害者及び原告が,本件事故により多大な精神的苦痛を受けたことは,いずれもアで認定判断するとおりであるが,本件の全証拠により認 められる一切の事情をしんしゃくしても,本件事故と因果関係がある被害者及び原告の精神的苦痛が,アで認定する慰謝料額を上回る程度であるとまでは認め難い。 治療関係費被害者は,本件事故発生後,横須賀共済病院に救急搬送されて,医師による治療を受けたから(1⑴療費を支出し,同支出した治療費の額は,原告が主張する3925円を下回るものではないと認められる。 死体検案書作成費用原告は,平成22年9月29日,被害者の死体検案料として1万円を支払った(甲7)。被害者は,本件事故により突然死亡したから,その死因を明 るものではないと認められる。 死体検案書作成費用原告は,平成22年9月29日,被害者の死体検案料として1万円を支払った(甲7)。被害者は,本件事故により突然死亡したから,その死因を明らかにするには死体を検案することが必要かつ相当であるといえる。 したがって,原告が上記認定するとおり支払った1万円は,本件事故と相当因果関係がある損害であると認められる。 葬儀関係費用原告は,本件事故により死亡した被害者の葬儀費用として81万3095円(甲9の総合計から検案料1万円を控除し,甲8の1の着手金を加算した金額)を支出し,これに含まれないお布施等として少なくとも20万円を支出した(弁論の全趣旨)と認められる。 したがって,原告が上記のとおり支出した合計101万3095円は,本件事故と相当因果関係がある損害であると認められる。 休業損害原告は,本件事故により平成22年10月に休業を余儀なくされ同月分の給与相当額の休業損害が発生した旨主張する。 しかし,アの認定判断や原告本人尋問の結果を含む本件の全証拠によれば,原告が,平成22年10月に休業を余儀なくされたとすれば,それは息 子である被害者の死亡という本件事故により受けた精神的苦痛によるものとみられる。同精神的苦痛については,これに対する原告固有の慰謝料300万円を認めた()。本件の全証拠によっても,同慰謝料によりなお填補されない財産的損害として,本件事故と相当因果関係がある精神的苦痛による原告の休業損害が発生したとは認め難い。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 弁護士費用本件事案の内容に鑑みれば,原告は,本訴請求のために本件を弁護士に委任するのを余儀なくされたと認められる。その他本件事案の難易度,審理経過,認 張は,採用することができない。 弁護士費用本件事案の内容に鑑みれば,原告は,本訴請求のために本件を弁護士に委任するのを余儀なくされたと認められる。その他本件事案の難易度,審理経過,認容する損害額等一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用相当額の損害は,ないしのうち認容する損害額(合計4776万9717円)の約1割である480万円をもって相当と認める。 5 請求に対する判断本件事故の発生について,被告Aに注意義務違反行為があることと,同注意義務違反行為が本件保育委託契約に基づく債務の不履行及び不法行為を構成することは,2で認定判断するとおり,被告横須賀市に違法な公権力の行使があることは,3で認定判断するとおりである。本件事故と相当因果関係がある損害は,4で認定判断するとおり5256万9717円である。原告の被告Aに対する債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由があるが,両請求は選択的併合の関係にあると解され,裁判所は後者の請求を認容することとする。本件事故は,被告Aの上記の不法行為と被告横須賀市の上記の違法な公権力の行使とが客観的に関連共同して発生したといえるから,被告らは,本件事故と相当因果関係がある上記の損害について共同不法行為責任を負うものである。 以上により,被告らは,原告に対し,被告Aにつき民法709条に基づき,被告横須賀市につき国家賠償法1条1項,4条,民法715条に基づき,連帯 して5256万9717円及びこれに対する不法行為の日である平成22年9月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。 第4 結論したがって,原告の本訴請求は,第3の5で判断する限度で理由があるから認容し,その余の請求は 9月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。 第4 結論 したがって,原告の本訴請求は,第3の5で判断する限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所横須賀支部 裁判長裁判官梶智紀 裁判官吉岡あゆみ 裁判官前澤功は,填補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官梶智紀
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