令和2(ワ)1409 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年1月25日 札幌地方裁判所
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判決文本文30,876 文字)

判決 主文 1 被告は,原告に対し,432万5884円及びこれに対する平成31年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その3を被告,その2を原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告は,原告に対し,762万5884円及びこれに対する平成31年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要原告は,原告運転のバスが横転して乗客13名が重軽傷を負った事故に関して,札幌地方検察庁室蘭支部の検察官により自動車運転過失傷害罪(平成25年法律第86号による改正前の刑法211条2項)の公訴事実で公訴提起されたが,札 幌地方裁判所室蘭支部において,本件事故の原因がバスの不具合によるものであった合理的な疑いが排斥できないなどとして,無罪判決を受けた。 本件は,原告が,前記検察官の公訴提起が,検察官として通常要求される捜査を怠り,合理的な有罪の嫌疑がないにもかかわらずされた違法な公権力の行使であると主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,弁護活動に要した 費用から刑事訴訟法の規定による費用の補償がされた金額を控除した残額192万5884円,公判への対応を要求されたことに係る慰謝料500万円及び本件訴訟についての弁護士費用70万円の合計762万5884円の損害賠償及びこれに対する無罪判決確定後である平成31年3月27日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損 害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁 平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損 害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 原告原告は,昭和63年頃からバス運転手として稼働し,平成23年10月末頃 からは北海道苫小牧市所在の運送会社で勤務して稼働していた。なお,原告は,後記⑵の事故の時点において,前科前歴及び交通違反歴はなかった。 ⑵ 本件事故の発生原告は,平成25年8月26日午後2時30分頃,新千歳空港において,自らが運転する三菱ふそうトラック・バス株式会社(以下「三菱ふそう」という。) 製造の中型乗用自動車(車名:「三菱」,通称名「ふそう・エアロミディ」,型式:U-MJ527F,初度登録:平成4年2月。以下「本件バス」という。)に客を乗せた後,高速道路北海道縦貫自動車道を新千歳空港から登別方面へ向けて走行を開始した。 本件バスは,前記自動車道を苫小牧西インターチェンジ方面から白老インタ ーチェンジ方面へ向かって走行していたが,同日午後3時5分頃,北海道白老郡白老町字杜台343番地付近所在の別々川橋上(以下「本件現場」という。)において,左右に蛇行し,ガードケーブルに接触するなどした後,左側面部を路面に接地させるように横転して停止した(以下,この事故を「本件事故」という。)。本件事故により,本件バスの乗客13名が骨折等の傷害を負った。 ⑶ 本件刑事事件の経緯ア北海道警察本部交通部高速道路交通警察隊(以下,単に「警察」という。)は,本件事故について,本件事故日から,原告を被疑者とする自動車運転過失傷害被疑事件の捜査を開始した。 その後,警察から事件の送致を受けた札幌地方検察庁室蘭支部 警察隊(以下,単に「警察」という。)は,本件事故について,本件事故日から,原告を被疑者とする自動車運転過失傷害被疑事件の捜査を開始した。 その後,警察から事件の送致を受けた札幌地方検察庁室蘭支部検察官事務 取扱副検事甲(以下「本件検察官」という。)は,本件事故から2年以上が経 過した平成27年9月30日,原告を被告人とする自動車運転過失傷害被告事件について公訴を提起した(以下,「本件公訴提起」といい,本件公訴提起に係る自動車運転過失傷害被告事件を「本件刑事事件」という。)。本件公訴提起において訴因とされた過失の内容は,原告が,本件バスを運転して道路を進行するに当たり,「前方左右を注視してハンドル・ブレーキを的確に操 作し,自車の進路を適正に保持して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,前方左右を注視せず,かつ,ハンドル・ブレーキを的確に操作せず,漫然」と進行したというものであった。 イ平成29年11月17日,本件刑事事件の公判担当検察官(以下,単に「公判担当検察官」という。)は,予備的訴因として,「進行中,自車ハンドルの 振動や車体の揺れ等の異常に気付いたのであるから,直ちに自車を停止させて運転を中止すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,直ちに自車を停止させず,漫然と前記状態で運転を継続した」という新たな過失を追加した(甲12)。 ウ札幌地方裁判所室蘭支部は,平成31年3月11日,①主位的訴因につい て,本件バスの前方車底部のセンターメンバー(注:同部品の説明は後記⑷参照)が事故前に破断したことが本件事故の原因であったという合理的な疑いが排斥できないことから,原告の前方左右注視義務及びハンドル・ブレーキ的確操作義務の各違反を認めることはできないとし,また,②予備的 )が事故前に破断したことが本件事故の原因であったという合理的な疑いが排斥できないことから,原告の前方左右注視義務及びハンドル・ブレーキ的確操作義務の各違反を認めることはできないとし,また,②予備的訴因についても,原告が自車の異常又は蛇行を感知した時点では,直ちに制動措 置を講じなければ事故を回避できないような緊急状況下であるとの予見可能性があったとは認められず,原告に前記各時点において直ちに運転を中止すべき義務があったとはいえないなどとして,原告に無罪判決を言い渡した(甲13)。 検察官は,同判決に控訴せず,同判決は,平成31年3月25日の経過に より確定した。 ⑷ 本件事故に関連する本件バスの部品の概要(甲13,乙13)ア本件バスの前方車底部の構造は,別紙車両見取図1及び2(以下,併せて「別紙見取図」という。)のとおりである。 イロアアーム・コンプリート(別紙見取図では「ロワーアーム・コンプリート」と記載。以下,単に「ロアアーム」ということがある。)は,フロントサ スペンション(前輪の緩衝装置,乗り心地や操縦安定性等を向上させる機構)の一部を構成し,地面と平行に位置するひし形状の部品である。ロアアーム・コンプリートは,中央部分がセンターメンバーと結合し,これを介して車両本体と接続しており,左右両端部がそれぞれ左右前輪の連結部分(ナックルサポート)に接続している。アッパーアーム・コンプリート(別紙見取図で は「アッパアーム・コンプリート」と記載。以下,単に「アッパーアーム」ということがある。)は,ロアアーム・コンプリートの上部に並行に位置するひし形状の部品であり,ロアアーム・コンプリートと対となって上下運動する。 アッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトは,そ ,ロアアーム・コンプリートの上部に並行に位置するひし形状の部品であり,ロアアーム・コンプリートと対となって上下運動する。 アッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトは,そ れぞれ,アッパーアーム・コンプリート及びロアアーム・コンプリートとナックルサポートを結合する部品である。 ウセンターメンバーは,車両の左右前輪の中央に位置する箱型の部品であり,ロアアーム・コンプリートを含むフロントサスペンション部品を車体に固定するために設置されている。 エ No2.アウトリガーは,ロアアーム・コンプリートの支柱であり,センターメンバーの前方と後方に接続されており,センターメンバーとロアアーム・コンプリートを連結するための補助的な部品である。 オスタビライザーは,コの字型の部品で,車両のコーナリング時や道路の凸凹等による車両水平方向の傾斜を抑制して乗り心地を安定させる装置であ り,その中間部が車体フレームに,その両端部がロアアーム・コンプリート の端部にそれぞれ接続されている。 3 争点本件の主たる争点は,本件公訴提起につき,国家賠償法1条1項の適用上の違法性があるか否かである。 4 当事者の主張 【原告の主張】本件検察官は,検察官として通常要求される捜査を怠った結果,原告について合理的な有罪の嫌疑がないにもかかわらず本件公訴提起をしたものである。 原告は,本件事故の発生直後から,捜査機関の取調べに対し,本件事故の原因は本件バスの不具合であって自分に過失はないと供述しており,他方で,本件事 故後間もない実況見分において,本件バスの前方車底部のセンターメンバーやアッパーアームナックルシャフト等の部品が破断していたことが認められた。これらの部品の破断の事実は,本件事故の原 本件事 故後間もない実況見分において,本件バスの前方車底部のセンターメンバーやアッパーアームナックルシャフト等の部品が破断していたことが認められた。これらの部品の破断の事実は,本件事故の原因が本件バスの不具合であるとする原告の供述に整合するものであり,捜査機関としては,原告に過失があるかを判断するに当たって,これらの部品の破断が本件バスのハンドル操舵に与える影響につ いて,捜査を尽くすことが求められていたというべきである。具体的には,①センターメンバーの破断がハンドル操舵に与える影響について,本件事故と利害関係のない三菱ふそう以外の整備士等の自動車工学の専門家からの意見聴取,②センターメンバーを破断させた本件バスと同型のバスを使った走行実験,③三菱ふそうに対する同社製の大型・中型バスのセンターメンバー破断による不具合・事 故情報の照会といった捜査をすることが要求されていたというべきである。 本件刑事事件は,最終的に,センターメンバーの破断がハンドル操舵に影響を与えた合理的な疑いが排斥できないとして無罪とされたところ,本件検察官が前記①~③の捜査を尽くしていれば,センターメンバーが破断することでハンドル操舵が不可能となることが容易に明らかになったものであり,本件公訴提起時に おいてこれが明らかになっていれば,本件事故が原告の過失によって発生したも のとは考えられず,主位的訴因について有罪と認められる合理的な見込みはなかったというべきである。したがって,本件検察官による本件公訴提起は,検察官として通常要求される捜査を怠った結果,合理的な有罪の嫌疑がないにもかかわらずされたものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法である。 【被告の主張】 争う。原告が本件検察官に要求されていたと主張する各捜査 る捜査を怠った結果,合理的な有罪の嫌疑がないにもかかわらずされたものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法である。 【被告の主張】 争う。原告が本件検察官に要求されていたと主張する各捜査は,いずれも本件刑事事件について検察官として通常要求される捜査であったとはいえない。そして,本件公訴提起時に現に収集されていた証拠によれば,本件事故直前において,本件バスの操舵装置に異常はなく,事故直後に発見された本件バスの部品の破断のうち事故前に破断していた可能性があるものについても,それらがハンドル操 作に大きな影響を与えるものではなかったのであるから,本件事故直前において,原告が前方左右を注視し,ハンドル・ブレーキを的確に操作していれば,本件事故は発生しなかったものと合理的に認定することができる。このように,本件公訴提起時において,主位的訴因について合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったのであるから,本件公訴提起に国家賠償法1条1項の適用上の違 法性はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 本件公訴提起前の捜査ア平成25年8月26日午後3時5分頃に本件事故が発生し,警察が本件現場に臨場した直後,原告は,警察から本件事故時の状況について聴取されたのに対し,「走行中,急にハンドルがストンと落ちる感じがした。」,「その後,急に左にハンドルが取られ,ハンドルが全く利かなくなった。」,「ガードレ ール(注:本件現場に実際に設置されていたのはガードケーブルであるため, ガードケーブルのことを指しているものと解される。以下同じ。)にぶつかりそうになったので,急ブレーキを踏み,ハンドルを右に切って回 場に実際に設置されていたのはガードケーブルであるため, ガードケーブルのことを指しているものと解される。以下同じ。)にぶつかりそうになったので,急ブレーキを踏み,ハンドルを右に切って回避した。」,「車をコントロール出来なくなり,中央分離帯にぶつかって,横転した。」などと供述した(甲26,乙33。なお,乙20参照。)。 イ原告が受診のために病院に向かった後の同日午後3時50分頃から午後 5時20分頃までの間,警察は,原告の勤務先の上司Aの立会いの下で,本件現場の実況見分を行い,本件現場付近の状況,本件現場の道路上に印象されたブレーキ痕及びスリップ痕,ガードケーブルの倒壊状況,本件バスの横転状況等を確認し,現場見取図(乙3。なお乙6により一部訂正された。)を作成した。本件現場は,片側2車線の高速道路上であり,曲線半径6000 mで右に湾曲し,下り勾配0.37%であり,見通しは良く,路面は乾燥していた。また,走行車線の幅員は3.65mで,走行車線の左(南)には路側帯がある(路側帯の幅の数値は明確でないが,上記走行車線の幅員に近い(乙7参照)。)。そして,ブレーキ痕及びスリップ痕が認められたが,このうち前輪のブレーキ痕は,本件バスが走行車線上の中央やや左付近にある状態 から開始し,21.0m前進した場所で左前輪が走行車線左端に接する状態になるまで続いていた。(乙3,6,7)。 さらに,原告が受診を終えた後の同日午後5時40分頃から午後7時頃までの間,警察は,原告の立会いの下で,本件現場の実況見分を行い,原告は,危険を感じて急ブレーキをかけた地点,右にハンドルを切った地点,本件バ スが衝突した地点,本件バスが横転して停止した地点について指示説明をした(乙7)。この際,原告は,本件現場手前の路面の段差(橋梁 感じて急ブレーキをかけた地点,右にハンドルを切った地点,本件バ スが衝突した地点,本件バスが横転して停止した地点について指示説明をした(乙7)。この際,原告は,本件現場手前の路面の段差(橋梁接合部(エキスパンションジョイント))を通過した頃に本件バスに異常が発生したという趣旨の説明をした(乙7,8)。 ウ同月27日から同年9月2日にかけて,警察は,本件バスの乗客らを聴取 した。乗客の中には,本件バスが複数回蛇行した後に衝突して横転したと供 述し,原告が居眠り運転をしていたのではないかと供述する者もいたが,本件事故の際に原告が「あっ」と声を出したことを聞いたとする者がいたほかは,眠っていた,運転席付近の棚に視界を遮られていたなどにより,原告の動静を直接視認していた者はいなかった。(乙18,19,21~24)エ同年8月30日,警察は,原告並びに三菱ふそうの検査官B及び整備士C の立会いの下で,本件バスの実況見分を行った。 同実況見分において,原告が操舵装置について「事故直前,ハンドルが動かなくなった」と説明したため,これを確認したところ,操舵装置を構成する各部品に損壊やがたつき等は認められなかった。また,ハンドルを左右に回す状況を原告に確認させたところ,原告は,「ハンドルは正常に操作する ことが出来ている」と説明し,検査官Bも,前輪タイヤの動作状況について「車両操舵に異常はない」と説明した。 他方で,前輪付近の車底部及び「足回り」に関して,前方車底部に錆付き腐食があることのほか,①ロアアーム支柱(No.2アウトリガーと同じ。)が破断し,ロアアームが脱落していること,②左前輪のロアアームナックル シャフトが破断していること,③右前輪のアッパーアームナックルシャフトが破断していることなどが .2アウトリガーと同じ。)が破断し,ロアアームが脱落していること,②左前輪のロアアームナックル シャフトが破断していること,③右前輪のアッパーアームナックルシャフトが破断していることなどが確認された。これらの損傷に関し,B又はCは,①のNo.2アウトリガーの損壊時期については判断できないとしたが,②のロアアームナックルシャフト及び③のアッパーアームナックルシャフトについては,一見して強い衝撃による破断と判断し,本件事故の衝撃によっ て損壊したのではないかという見解を示した。 原告は,①については,No.2アウトリガーが破断し,かなり腐食していたことから,ロアアームが脱落してハンドル操作ができなくなったのではないかと考えたものの,本件現場の道路上にロアアームを引きずったような痕跡がないことなどを理由に,B,C及び警察官から,本件事故直前にロア アームが脱落したものとは考え難いとの見解が示されことから,走行中に損 壊したか,本件事故によって損壊したかは分からないと説明した。また,原告は,本件事故直前に本件バスの「右前がガクンと落ちた」感覚があったことから,②については本件事故によって損壊したものと思うとし,③について,当該破断が事故原因となった故障であると思うなどと説明した。(以上について,乙11,37,弁論の全趣旨) オまた,同日,警察は,原告の立会いの下で,再び本件現場の実況見分を行い,原告は,前記イ同様の指示説明に加え,車の異常を感じた地点,車が左に寄り始めた地点について指示説明をした(乙9)。 この実況見分の際,原告は,本件事故時の状況について,「橋を越えた辺りで急にガタンと大きな音がして,車が右側に沈みこむ感じがした後,ハンド ルがぶれ始め,ハンドルが利かなくなった。異音がした後 この実況見分の際,原告は,本件事故時の状況について,「橋を越えた辺りで急にガタンと大きな音がして,車が右側に沈みこむ感じがした後,ハンド ルがぶれ始め,ハンドルが利かなくなった。異音がした後は,立て直そうと必死になっていたので,アクセルを離していたかどうかは分からないが,ブレーキは踏んでいないと思う。その後,車が右に膨らんだ後,車が左に寄りはじめた。このままだとガードレールにぶつかると思ったが,ハンドルが全く利かなかったので,急ブレーキを踏んで回避するしかなかった。急ブレー キを踏んだ後,ガードレールに衝突するのを回避するためハンドルを右に切った。ガードレールを回避したと思った後は,車が滑ってコントロールできなくなり,中央分離帯にぶつかって横転した。異音がしてコントロールが全くできなくなった時,ブレーキを踏みながら路側帯にゆっくり止まれる状況ではなく,急ブレーキを踏んで止まることしかできない状況だった。」と供 述した(乙34,弁論の全趣旨(被告第1準備書面[38頁]))。 カ同年9月2日,警察は,本件現場において,本件事故時に本件バスの後続車両を運転していたGの立会いの下で,実況見分を行い,Gは,本件バスの走行態様について指示説明をした(乙17)。 また,同月20日には,Gは,警察に対し,「(本件事故直前,)バスは突然 道路左側にあるガードケーブル方向に進路を変え,ぶつかりそうになりまし たが進路を右前方に変えていったん走行車線上である私の車の前方に戻ってきたのですが,戻ったと思った瞬間,再度急に左側に車の進路を変え,道路左側のガードケーブルにぶつかったように見えました。その後,そのバスはぶつかった反動なのかは分かりませんが今度は進路を右前方に変えて道路中央にあるガードケーブルに衝突し,その に車の進路を変え,道路左側のガードケーブルにぶつかったように見えました。その後,そのバスはぶつかった反動なのかは分かりませんが今度は進路を右前方に変えて道路中央にあるガードケーブルに衝突し,その反動で追越し車線上に横転し, 停止しました。」,「観光バスの速度は90キロ前後だと思います。」,「観光バスの前に車は一台もなかったと記憶しています。」,「この事故の原因は,観光バスが二度も走行車線から外れて,進路を急に左側に変えている状況を観光バスの後方から私は目撃しており,このことから,バスを運転していた運転手が居眠り運転か脇見運転をしていたと思います。」と供述した(乙15)。 キ同月2日,警察は,科学捜査研究所に対して本件バスの運行記録計記録紙の鑑定を嘱託し,同月12日,同研究所から,本件事故発生時刻頃に本件バスが時速約70キロメートルで走行中に異常振動が発生しており,その直前の最高速度は10秒前の時速約98キロメートルであった旨の鑑定結果を得た(乙12)。 ク同年10月21日,警察は,科学捜査研究所技術吏員に本件バスの前方車底部の破断したアッパーアームナックルシャフトについての調査を依頼し,同部品の破断面に疲労損壊を示すビーチ痕が見当たらず,強い衝撃によって損壊したと推認されるものの,電子顕微鏡レベルの分析を行っていないため断定は困難である旨の見解を得た(乙27)。 ケ同日,原告の上司Aは,警察に対し,事故直後に原告が会社に電話をかけてきた際,原告がAに対して「風にあおられて事故を起こした。」旨報告したが,Aが本件現場に到着した後,風など吹いていないと指摘すると,原告は「車に異常があった。」,「走行中に右側ががたんと音をして,下がった。そして走行不能になった。」,「ハンドルを取られた。」などと発言し Aが本件現場に到着した後,風など吹いていないと指摘すると,原告は「車に異常があった。」,「走行中に右側ががたんと音をして,下がった。そして走行不能になった。」,「ハンドルを取られた。」などと発言したと供述した (乙29,30,弁論の全趣旨(被告第1準備書面[37頁]))。 コ同月24日及び同年11月30日,警察による取調べにおいて,原告は,「事故の原因については,バスの右前輪サスペンションの異常により発生したもので私の運転操作が及ぼした事故ではない」,「走行中に異音がした直後にハンドルがふれ始めましたが,何とかハンドル操作で左側のガードケーブルの衝突を避けようとしましたが,右にハンドルを切ったところ急に切れ始 め中央分離帯のガードケーブルにバスの前部から衝突し,その後横転停止した」,「橋と道路の継ぎ目を通過した直後,道路を普通に走行している時に聞こえる音以外に,運転席の後部で金属が折れたような,甲高い音が聞こえ,更に,急にハンドルから,ホイールバランスが悪いタイヤの車を運転している時のような強い振動が伝わるなどの異常を感じ,次に車体が右に傾き,左 側へ寄り始めた」などと供述した(乙35,36。これらに先立つ同年9月25日にも原告の取調べがされたが,その際の供述内容も,本件事故の原因は本件バスの不具合であるとするものであった(甲2,乙35)。)。 サ同年12月12日,警察は,三菱ふそう検査官Bよりも専門的な見識を有する三菱ふそう品質保証本部市場情報管理部技術情報(車両調査)担当のD 及びEの立会いの下で,本件バスの実況見分を行った。 同実況見分において,ステアリング(操舵装置)については,一部部品に変形等があったものの,それ以外に問題は見られず,車両前部をジャッキアップした状態でタイヤを転 下で,本件バスの実況見分を行った。 同実況見分において,ステアリング(操舵装置)については,一部部品に変形等があったものの,それ以外に問題は見られず,車両前部をジャッキアップした状態でタイヤを転舵すると正常にハンドルが転把するため,ステアリングに問題はないとされた。 また,D及びEは,フロントサスペンションについて,①右前輪のアッパーアームナックルシャフトが折損していること,②左前輪のアッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトが折損していること,③ロアアームとボディーをつないでいるスタビライザーに問題はなく,ロアアームがスタビライザーによって拘束されていること,フロントサブフレーム (エンジンやサスペンション,ステアリング等を搭載して車体に組み付ける ための骨格)について,④No.2アウトリガーが腐食により破断していること,⑤フロントサスペンションを支えているセンターメンバーの下部が腐食により破断していることを説明した。これらの部品の破断について,D及びEは,センターメンバー下部が破断し,ロアアームを支えていない状態ではあるが,スタビライザーがロアアームを拘束していること,及び,車両前 部をジャッキアップした状態でタイヤを手で転舵するとハンドルが正常に転把することから,本件バスが操舵不能になっていたとは考えられないと説明した。そして,これらの部品の破断時期については,センターメンバーの破断時期は特定できないものの,左右前輪のアッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトについては,破損状況から本件事故の衝 撃で破断したものと考えられると説明した。(以上について,乙13,弁論の全趣旨(被告第1準備書面[21~23頁]))シ同月24日,警察による取調べにおいて ては,破損状況から本件事故の衝 撃で破断したものと考えられると説明した。(以上について,乙13,弁論の全趣旨(被告第1準備書面[21~23頁]))シ同月24日,警察による取調べにおいて,原告は,「私はこのアッパーアームナックルシャフトが事故直前に損壊したことによって,車両右前がガタンと落ちたのではないかと考えております。というのも,今回の事故現場の直 前に橋桁の繋ぎ目を通過した際,自分の座っている運転席の真下からパキンという金属音が聞こえ,その直後,車両右前がガクンと落ち,ハンドルがブレ始めたからです。私は,この金属音は間違いなく異常だ,車両をすぐに左に寄せて停止させなければならないと判断して,ハンドルを左に切り,路肩に車両を停止させようとしたのです。ところが,ハンドルも私の思うように 効かなく,私がハンドルを左に回す以上に,車両が左に流れていったのです。 かなりのオーバーステアの状態で車両が左に流れて行き,左路肩のガードケーブルに衝突しそうになり,急ブレーキをかけたのですが,間に合わないと判断して,ハンドルを右に切り,左路肩のガードケーブルとの衝突を避けようとしたのです。その結果,中央分離のガードケーブルと衝突して車両は横 転してしまったのです。」と供述した(乙37)。 ス前記エ,サのとおり,原告が,本件事故の原因は右前輪のアッパーアームナックルシャフトが事故直前に損壊したことによるものであるなどと供述したことから,平成26年3月5日及び6日,警察は,本件バスの操舵装置等の異常の有無について,三菱ふそう以外の他社に在籍する整備士の見解を確認するために,北海道内の自動車メーカー等3社(以下,便宜上「同業3 社」という。)に対する意見聴取を行った。 同業3社の整備士らは,それぞれ,要 三菱ふそう以外の他社に在籍する整備士の見解を確認するために,北海道内の自動車メーカー等3社(以下,便宜上「同業3 社」という。)に対する意見聴取を行った。 同業3社の整備士らは,それぞれ,要旨,①自動車メーカーによって部品の作りや名称は異なるものの,サスペンションや操舵装置の構造は余り異ならない,②(アッパーアームナックルシャフトの損壊について,走行中に破断することがあり得るのか,同部品が破断した場合に一般的にどのようなこ とが起こり得るのか質問されたのに対し,)アッパーアームナックルシャフトが走行中に破断したということは聞いたことがない,仮にアッパーアームナックルシャフトが破断したとしても走行に大きな影響はないと考えられる,③(本件バスのアッパーアームナックルシャフトの破断面の写真及び車両底部の写真を確認させ,意見を求められたのに対し,)車底部の錆はひど いが,アッパーアームナックルシャフトの破断面に錆がないことから,事故の衝撃によって破断したものと考えられる,④(原告が本件事故直前に「車両の右前がガクンと落ちた」と供述していることに関して,車両右前が傾く現象が起こり得る原因について質問されたのに対し,)アッパーアームナックルシャフトが破断することによって極端に車両が傾くことはなく,他に車 両が傾くような原因は見当たらないなどと回答した。 なお,この意見聴取の際,警察は,同業3社の整備士らに対し,本件バスのセンターメンバーやNo2.アウトリガーの破断がハンドル操舵に与える影響について明示的には確認しなかった。(以上について,甲16~18)セ同年3月21日,警察は,当時の乗客のうち1名に対し,電話で,本件事 故直後の原告の行動,事故直前における本件バスの傾きや異音の有無等につ いて確 について,甲16~18)セ同年3月21日,警察は,当時の乗客のうち1名に対し,電話で,本件事 故直後の原告の行動,事故直前における本件バスの傾きや異音の有無等につ いて確認した。これに対し,当該乗客は,本件バスが横転した直後に原告が謝った記憶があるが,それから原告が何をしていたかは記憶しておらず,警察官が到着してから,原告が警察官に「このバスは廃車寸前のバスで,乗りたくなかった。」とバスのせいにする話をしているのを聞いて,違和感を覚えたこと,本件バスの蛇行は,バスの故障などではなく,居眠りでもしてい たような感じであったこと,事故直前に異音やバスの傾きはなく,同乗していた夫もそのように話していたことを供述した(乙20)。 ソ同年9月15日,警察は,三菱ふそうに対し,本件バスについて,①車両の破損及び変形などが本件事故により生じたものか否か,②前記破損及び変形した部位・部品の異常が本件事故発生前に生じていた場合,それが車両及 び運転操作に与える影響,③アッパーアームナックルシャフトが走行中に破損した場合,それが車両及び運転操作に及ぼす影響並びに同部品の損壊事例の有無等について捜査関係事項照会をした(乙26)。 これに対し,同月29日,三菱ふそう品質保証本部市場情報管理部長H(担当:市場情報管理部(トラックテクニカルサービス)マネージャー)は,① 右前輪のアッパーアームナックルシャフト並びに左前輪のアッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトは破断面から事故によって破断したと推定可能であるが,センターメンバー及びNo.2アウトリガー(以下「センターメンバー等」という。)は錆がひどく事故によって破断したか判断できない,②センターメンバー等が破断すると通常の走行は不能 と であるが,センターメンバー及びNo.2アウトリガー(以下「センターメンバー等」という。)は錆がひどく事故によって破断したか判断できない,②センターメンバー等が破断すると通常の走行は不能 となるが,本件バスはスタビライザーが装着されているためある程度の走行は可能であったと推定される,③アッパーアームナックルシャフトは,ナックルサポートアッセンブリーを固定してタイヤの上下動を行うが,それが破断すると,ナックルサポートアッセンブリーの上側方向の拘束がなくなるため,車両の自重でタイヤが車両内側へ倒れ込んで不安定な走行状況となり, 場合によっては走行不能となる,同部品が事故等による大きな衝撃によって 破損した例があるが,一般走行によって破損した例はないと回答した(乙1)。 タ同年10月頃,警察は,本件バスと同じ型式で初度登録が本件バスと同程度の北海道内に登録のあるバス108台のうち22台について,12事業所に対し,走行距離や主要装置の異常の有無及び修復歴等を電話で照会した(ただし,具体的にどのような照会をしたのか,主要装置とは何かなどは, 本件証拠上,必ずしも明らかとはいえない。乙28)。また,同年11月頃,警察は,本件バスと同じ型式のバスについてリコール届出の有無を確認した(ただし,具体的にどのような方法で確認をしたのか,その結果はどのようなものであったのかなどは,本件証拠上,必ずしも明らかとはいえない。乙28)。 チ平成27年3月13日,警察は,本件バスの損傷部位を明らかにする捜査報告書を作成した(乙5)。同報告書には,三菱ふそうの検査官Bによる解説として,左前輪のアッパーアームナックルシャフト及び右前輪のロアアームナックルシャフトが折損していることが記載されていたほか,センターメンバー等が破 )。同報告書には,三菱ふそうの検査官Bによる解説として,左前輪のアッパーアームナックルシャフト及び右前輪のロアアームナックルシャフトが折損していることが記載されていたほか,センターメンバー等が破断していること,センターメンバー等については腐食がひどいた めに破断時期の特定ができないこと,本件バスと同型の車両もセンターメンバー先端部が割れていたものの走行に影響していないことが記載されていた。 ツ同年5月11日及び6月18日,本件検察官による取調べにおいて,原告は,要旨,本件事故の直前に運転席の下から金属片が折れたような音が聞こ え,その後,車体の運転席側がガクンと急に下がり,ハンドルがぶれ始めたため,左に寄せて停止しようと思ってハンドルを左に切ったが,急に車体が左に持って行かれる感覚を受けたため,ハンドルを右に切ってブレーキをかけたところ,バスが中央分離帯の方に向かっていき,中央分離帯のガードケーブルに衝突して左側から道路に横転した,居眠りや脇見運転はしておらず, 事故原因について風にあおられたという説明を上司にしたこともないと供 述した(乙38~40)。 テ同年6月17日,後続車両の運転手Gは,本件検察官に対し,本件事故時における本件バスの走行態様について,二度左に寄った後,右側の中央分離帯へ向かっていき,中央分離帯のガードケーブルにぶつかった上で横転したと供述した(乙16)。 ト同月26日,原告の上司Aは,本件検察官に対し,事故直後に原告と最初に電話をした際,原告がハンドル操作ができなかったと話していなかったと供述した(乙32,弁論の全趣旨)。 ナ同年9月25日,三菱ふそうの検査官Bは,本件検察官に対し,平成25年8月30日に実施した本件バスの実況見分(前記ウ)の結果について,次 と話していなかったと供述した(乙32,弁論の全趣旨)。 ナ同年9月25日,三菱ふそうの検査官Bは,本件検察官に対し,平成25年8月30日に実施した本件バスの実況見分(前記ウ)の結果について,次 のとおり供述した(甲21,乙14)。 ①本件バスのハンドル操舵に関する部品や装置に全く異常はなく,実際にハンドルを動かしてみても正常に動いた。②原告が「バスが右に傾いた」と述べていることについて,バスが右に傾く原因としては,右前輪タイヤのバーストが考えられ,本件事故後に本件バスの右前輪タイヤに亀裂があり,バ ーストしていたことが確認されているものの,タイヤ表面がその亀裂以外はきれいな状態であり,ホイールにも傷や変形がなかったことからすれば,横転直前に何かにぶつかってバーストしたものと考えられる。③右前輪のアッパーアームナックルシャフトの破断について,破断面が新しいため,本件事故の衝撃によって破断したものと考えられる。また,本件バスで破断してい たのは右前輪側に2か所あるアッパーアームナックルシャフトのうちの1か所であり,もう一つのアッパーアームナックルシャフト及び同じ右前輪のロアアームナックルシャフトは破断しておらず,右前輪のナックルサポートアッセンブリーは3か所のナックルシャフトによって固定されていたのであるから,仮に本件事故前に破断していたとしても,本件バスの走行に支障 を生じさせたとは考えられない。④左前輪のロアアームナックルシャフトに ついて,破断面が新しいことから本件事故の衝撃によって破断したものと考えられる。また,ロアアームナックルシャフトの破断によってナックルサポートアッセンブリーとロアアームが離脱した状態になったとしても,ハンドルが少し切りにくくなる程度でハンドル操作はでき,車体が と考えられる。また,ロアアームナックルシャフトの破断によってナックルサポートアッセンブリーとロアアームが離脱した状態になったとしても,ハンドルが少し切りにくくなる程度でハンドル操作はでき,車体が沈むこともない。 ⑤No.2アウトリガーは,センターメンバーの前後にあり,そのうち前方 のものが破断して車体フレームから外れている状態であったところ,腐食が激しく,本件事故前に破断したか,本件事故の衝撃によって破断したかは断言できない。しかし,後方のNo.2アウトリガーは車体フレームとつながっており,ショックアブソーバやスタビライザーなど,足回りと車体フレームをつなげたり,支えたりする部品が他にもあるため,仮に本件事故前に破 断し,それによってハンドル操作にわずかな上下の揺れや左右の揺れ等の多少の影響があったとしても,車体が傾いたり,ハンドルが利かなくなったりするといったことは起こり得ず,本件バスの走行が不能になるような影響があったとは考えられない。⑥センターメンバーは,下部が破断していたところ,本件事故前に破断したか,本件事故の衝撃によって破断したかは断言で きないが,腐食がひどく,本件事故前から破断していた可能性が高い。仮に本件事故前に破断していたとしても,スタビライザーや後方のNo.2アウトリガーが車体フレームにつながっていたため,ハンドル操作に影響を与えたということはなかったはずである。実際に,本件バスと同型のバスを確認した際,そのバスのセンターメンバーの下部に亀裂が入って損壊していたが, 運転手は全く異常を感じなかったと話している。 ニ本件検察官は,同月30日,前記各証拠を踏まえ,前提事実⑶アのとおりの訴因で公訴を提起した(本件公訴提起)。 ⑵ 本件刑事事件の経過及び本件公訴提起後の捜査ア平成28年4 と話している。 ニ本件検察官は,同月30日,前記各証拠を踏まえ,前提事実⑶アのとおりの訴因で公訴を提起した(本件公訴提起)。 ⑵ 本件刑事事件の経過及び本件公訴提起後の捜査ア平成28年4月21日,本件刑事事件の第5回公判期日において,三菱ふ そう品質保証本部車両品質保証部CFTテクニカルサポート,バス,ブレー キ,アクスルマネージャー(前記⑴スの回答担当者)の証人尋問が行われた。 同人は,要旨,本件バスのセンターメンバー下部が完全に破断しても,スタビライザーによってロアアームが左右に動かないように拘束されているため,多少のハンドルの遊びが増えて操舵はしにくくなるものの,運転に支障は生じないが,他方で,スタビライザーがない場合,ロアアームが左右に自 由に動くことが可能となるため,ハンドル操舵が不能になる旨供述した(甲29)。 イその後,新たに選任された原告の私選弁護人2名(本件の原告代理人を含む。以下「原告代理人ら」という。)は,同年8月18日,札幌地方裁判所室蘭支部に対し,①大手大型自動車ディーラーの協力を得て本件バスの各部品 の構造,機能等についてレクチャーを受けた結果,本件事故は本件バスの不具合によって生じたものであると確信するに至った,すなわち,スタビライザーにはロアアームを補助する機能はほぼなく,本件事故の原因はセンターメンバーが破断したことにより高速走行中の本件バスの制御が困難になったことにあると考えられる,②同年7月末に,三菱ふそう製の大型・中型バ スについて,センターメンバーの腐食によるハンドル操作不能の不具合情報が8件,人身事故が3件発生している旨の報道があった,③センターメンバー破断がハンドル操作に与えた影響について,物理学的考察,類似事故の検討,再現実験等によって客 によるハンドル操作不能の不具合情報が8件,人身事故が3件発生している旨の報道があった,③センターメンバー破断がハンドル操作に与えた影響について,物理学的考察,類似事故の検討,再現実験等によって客観的真実に近づくことのできる証拠調べを実施すべきであるなどとする上申書を提出した(甲19)。 ウ平成28年9月6日,公判担当検察官は,三菱ふそうに対し,同社製のバスのセンターメンバー破断を原因とする事故及び不具合についての捜査関係事項照会をし,同月26日,三菱ふそうは,次のとおり回答した(甲15)。 ①センターメンバー破断を原因とする事故歴は3件(うち2件が本件公訴提起前のもの)あり,いずれも,ハンドル操舵が不能となったものであった が,スタビライザーが設置されていない車両の事故であった。②前記事故歴 のほかに4件の不具合情報(いずれも本件公訴提起前のもの)があり,うち2件は,スタビライザーが設置された車両であって,❶フロント右部から異音がして車体が傾いた,❷ハンドルが直進状態であるのに真っ直ぐ走行できないという不具合であった。 エ同年9月30日,公判担当検察官は,三菱ふそうに対し,前記ウの各不具 合情報の詳細(センターメンバー損壊後のハンドル操作の可否等)について捜査関係事項照会をし,同年10月27日に三菱ふそうがした回答のうち前記❶❷に関するものは,次のような内容であった(甲25)。 前記❶は,運転手が会社の敷地内で車両を切り返したところ,フロント右部から異音が発生して右前輪タイヤが傾いたというものであり,センターメ ンバー破断によっても脱落していなかったロアアームがナックルサポートを拘束していたため,ハンドル操作に影響は少なく,転回等は可能であったと考えられる。❷は,一般道を走行中,ハンドル ンターメ ンバー破断によっても脱落していなかったロアアームがナックルサポートを拘束していたため,ハンドル操作に影響は少なく,転回等は可能であったと考えられる。❷は,一般道を走行中,ハンドルが直進状態なのに「ぐにゃぐにゃ」と揺れ,直進できなかったというものであり,スタビライザーがロアアームを拘束していたため,ハンドル操作に影響はあったものの,転回等 は可能であったと考えられる。 オ同年12月22日,公判担当検察官は,証明予定事実記載書を提出したが,同書面において,公判担当検察官は,センターメンバーが前部から後部にかけて破断した場合,スタビライザーによってロアアームが拘束されていたとしても,ハンドル操作による車両の曲がり具合が鈍くなったり,ハンドルを 直進状態にしても道路の傾斜や凹凸の影響等により車両が左右にふらつく状態となったりする可能性があることを前提に,そのような場合には運転手もふらつき等を感じるはずであるとなどと主張した(甲7)。 カ平成29年5月17日頃,原告代理人らは,工学博士作成の同日付け工学鑑定書を証拠請求した。同鑑定書は,要旨,センターメンバーが完全破断又 は前部のみ破断した場合,ホイール・アライメントが安定しないため,高速 走行下においては操舵が不安定となり,安全に走行するのは不可能となる,スタビライザーは車両の水平方向の傾斜(ロール)角を抑制して乗り心地を安定させる装置であり,その構造からして,センターメンバーが破断した際にロアアームを支えて操舵を安定させる機能はないと説明するものであった(甲31)。 キ同年11月17日,公判担当検察官は,前提事実⑶イのとおり,予備的訴因を追加した。 ク平成30年5月24日,札幌地方検察庁室蘭支部検察事務官は,三菱ふそう開 のであった(甲31)。 キ同年11月17日,公判担当検察官は,前提事実⑶イのとおり,予備的訴因を追加した。 ク平成30年5月24日,札幌地方検察庁室蘭支部検察事務官は,三菱ふそう開発本部実験総括部長らの立会い,同支部検察官らの補助の下,センターメンバーが破断した状態の本件バスと同じ型式の車両について,走行実験を 行った(甲23,24)。この走行実験によれば,センターメンバーが破断した車両のロアアームは,低速走行中であっても左右に揺れ動き,車両の安定した操舵に支障が生じるものであった。 ケ同年11月20日の第9回公判期日において,三菱ふそう開発本部実験統括部長の証人尋問が行われ,同人は,要旨,次のとおり供述した(甲28)。 センターメンバー下部が破断することによって,ロアアームと車体の結合が失われ,ロアアームが左右に動くようになり,その結果,タイヤが左右に傾くようになる。もっとも,スタビライザーが付いていれば,スタビライザーの本来の機能ではないものの,ロアアームの左右の動きを抑制するため,タイヤが倒れるほどに傾くことはない。ただし,低速であればあまり問題に ならないが,速度が上がってくると,ロアアームの左右の動きが大きくなって制御が困難になる。センターメンバーの破断が完全破断に至っていない場合には,つながっている部分がロアアームの左右の動きを抑制するため,破断量が小さければ走行への影響はほとんどないが,9割程度破断した場合には,完全破断と同様ではないものの操舵に影響が生じる。本件バスと同型の 車両が高速道路を時速98キロメートルで走行中にセンターメンバーが完 全破断した場合の挙動についてコンピューターでシミュレーションを実施したところ,車両の挙動はどんどん不安定になり,早い段 が高速道路を時速98キロメートルで走行中にセンターメンバーが完 全破断した場合の挙動についてコンピューターでシミュレーションを実施したところ,車両の挙動はどんどん不安定になり,早い段階で車線からはみ出して周囲にぶつかった。同じ速度で,9割程度の破断の場合もシミュレーションしたところ,本件事故について後続車両の運転手Gが供述するのと同じような挙動となった。そのため,本件事故の原因がセンターメンバーの破 断であったとしたら,破断の程度はおそらく9割程度と思われる。シミュレーションによれば,9割程度の破断だと,ハンドルを左右に動かしていなくてもタイヤが左右に動いてしまう。時速98キロメートルで走行中に9割程度の破断が起こると,通常のハンドル操作はできなくなるものの,多少のふらつきの中でハンドルを切りながら車両を道路上で走らせることは可能で あると思われるが,路側帯に寄せて止めるのは危険であると思われる。 コ平成31年3月11日,札幌地方裁判所室蘭支部は,前提事実⑶ウのとおり,原告に無罪判決を言い渡した。 2 検察官の公訴提起の違法国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,国又は公共団体の公権力の行使に当 たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいう(最高裁平成13年(行ツ)第82号等同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁等参照)。 そして,検察官の公訴提起は,公訴提起時において検察官が現に収集し又は通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠を総合して,合理的な判断過程に より有罪と認められる嫌疑がない場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解される(最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁,最高 に より有罪と認められる嫌疑がない場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解される(最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁,最高裁昭和59年(オ)第103号平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁等参照)。 3 通常要求される捜査 ⑴ 検察官による公訴提起は,被告人となる者に対し,刑事訴訟手続に応じる経 済的,精神的負担等の多大な負担を生じさせるものであるから,検察官は,公訴提起の判断をするに当たり,犯罪の成立が認められるかを客観的に検討すべきであり,犯罪の成立を基礎付ける証拠のみならず,犯罪の成立を否定する方向に働く消極証拠にも注意を払い,積極証拠及び消極証拠のいずれについても,その証拠力を慎重に吟味し,検討する必要がある。そのため,司法警察員から 送致を受けた証拠を確認した検察官において,犯罪の成立を客観的に判断するのに足りないと思料した場合には,自ら又は司法警察職員を指揮して補充捜査を実施し,証拠の収集に努めることが要求される。 原告は,これを前提に,本件において検察官に通常要求される捜査として,①センターメンバーの破断がハンドル操作に与える影響について,本件事故と 利害関係のない三菱ふそう以外の整備士等の自動車工学の専門家からの意見聴取,②センターメンバーを破断させた本件バスと同型のバスを使った走行実験,③三菱ふそうに対する同社製の大型・中型バスのセンターメンバー破断による不具合・事故情報の照会をすべきであったと主張する。そこで,まず,原告の指摘するこれらの捜査が検察官に通常要求される捜査であったといえる かについて検討する。 ⑵ 前提事実⑵のとおり,本件事故の概要は,高速道路を走行していた原告運転に る。そこで,まず,原告の指摘するこれらの捜査が検察官に通常要求される捜査であったといえる かについて検討する。 ⑵ 前提事実⑵のとおり,本件事故の概要は,高速道路を走行していた原告運転に係る本件バスが,左右に蛇行してガードケーブル等に接触するなどし,横転したというものである。このような本件事故態様に鑑みると,検察官による公訴提起の判断においては,主に,上記の蛇行が本件バスを運転していた原告の 過失によるものであると認められるかが問題であったものといえる。 アこの点について,原告は,本件事故の発生直後の時点において,その原因はハンドル操作に影響する本件バスの不具合であると供述し,自己の過失を否認していた(認定事実⑴ア)。すなわち,原告は,本件現場や本件バスについて実況見分等がされてその客観的な状況が明らかにされる前,特に,本 件バスの不具合の有無等が具体的に確認される前の時点において,走行中に 異常を感じてハンドル操作ができなくなった旨を供述していた。そして,その後に実施された実況見分により,本件バスの前方車底部の部品に複数の破断箇所が存在することが確認されている(認定事実⑴エ。なお,原告は,本件事故直後の病院を受診する前の段階で本件バスの右前輪の足回りを自ら確認していたと供述している(乙37)。本件証拠上,その真偽は明らかで はないが,これが真実であれば,当初から足回りの不具合が原因であると認識していたことを示すものであり,仮に真実ではないとしても,実際に破断箇所の存在を認識する前に本件バスの不具合の存在を指摘していたことになる。)。そして,原告は,その後も,本件公訴提起に至るまで,一貫して本件バスの不具合が本件事故の原因であると供述し続け,その内容も,おおむ ね一貫したものであった。 存在を指摘していたことになる。)。そして,原告は,その後も,本件公訴提起に至るまで,一貫して本件バスの不具合が本件事故の原因であると供述し続け,その内容も,おおむ ね一貫したものであった。 また,本件事故現場は,右への湾曲が半径6000mというきわめて緩やかな直線に近い道路上であり,かつ,下り勾配も0.37%とわずかで,走行車線の左には路側帯もあった(認定事実⑴イ)。そして,事故直前の本件バスの走行速度は,時速100キロメートルを下回っており(認定事実⑴カ及 びキ),かつ,本件バスが先行車に接近していた形跡もない(認定事実⑴オ)ほか,本件現場にみられたブレーキ痕の状況(認定事実⑴イ)に照らすと,原告が急ブレーキを踏んだ時点において,本件バスは,車線の中央よりはやや左であったものの依然走行車線上にあり,かつ進行方向からわずかに左を向いていた程度であったと認められる。これらの事故現場の客観的な状況に 照らすと,仮に原告が一時的に居眠りや脇見をしていた場合に,目覚めたあるいは前を向き直した原告がなぜ高速道路上で急ブレーキを踏んでまで対応しなければならなかったのか全く不明であって,本件バスの不具合に起因して本件バスをコントロールできなくなったことに対応するために急ブレーキを踏むことを余儀なくされたことと整合すると評価することも可能で ある。 これらの事情に鑑みると,本件バスに不具合があるとの原告の供述内容は,相応に信用できる可能性を含むものであったことは否定できない。 イ他方で,本件バスの後続車両の運転手は,本件バスが2回にわたって走行車線から左側に外れた後に右に進路を変えて道路中央のガードケーブルに衝突したと供述し,そのような走行態様を前提に,居眠り運転や脇見運転に よる蛇行ではないかな 手は,本件バスが2回にわたって走行車線から左側に外れた後に右に進路を変えて道路中央のガードケーブルに衝突したと供述し,そのような走行態様を前提に,居眠り運転や脇見運転に よる蛇行ではないかなどと供述し(認定事実⑴カ),また,本件バスの乗客のうち一部の者も,本件バスが複数回蛇行した後に衝突して横転したと供述し,原告が居眠り運転をしていたのではないかと供述する者もいたが,本件事故の際に原告が「あっ」と声を出したことを聞いたとする者が乗客の中にいたほかは,原告の動静を直接視認していた者はおらず(認定事実⑴ウ), 客観証拠も含め,本件バスの蛇行が居眠りや脇見などの原告の過失によるものであることを積極的に基礎付けるような証拠は存在していなかった。 ウこのような証拠構造の全体像からすると,本件検察官は,原告を被告人として公訴を提起するか否かを決するに当たり,本件事故の原因,すなわち,本件バスの蛇行の原因が原告の過失によるものであるか否かを判断するた めには,少なくとも,その原因が本件バスの不具合であるとする原告の主張を排斥するに足りる証拠が存在するか否かを判断する必要があったものというべきである。そして,本件バスの客観的な状況として,その前方車底部には,錆付き腐食のほか,センターメンバー(下部),No.2アウトリガー,右前輪のアッパーアームナックルシャフト,左前輪のアッパーアームナ ックルシャフト及びロアアームナックルシャフトの各部品の破断が認められたのであるから(認定事実⑴エ及びサ),これらの破断等がハンドル操作等に与えた影響の有無・程度等について検討しなければならず,警察から送致を受けた証拠によってその影響の有無・程度等を客観的に判断するに足りなければ,補充捜査によって証拠を収集しなければならなかったものという 響の有無・程度等について検討しなければならず,警察から送致を受けた証拠によってその影響の有無・程度等を客観的に判断するに足りなければ,補充捜査によって証拠を収集しなければならなかったものという べきである。 ⑶ そこで,本件バスの前記各部品の破断に係る本件の証拠関係をみる。 警察は,前記各部品の破断が本件バスのハンドル操作等の操舵に与えた影響等について,認定事実⑴エ,ク,サ,ス,ソ,チをはじめとする各種の捜査を行った。 これらの捜査の結果,破断した前記各部品のうち,原告が本件事故の原因に なったものと指摘していた右前輪のアッパーアームナックルシャフトのほか,左前輪のアッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトについては,その破断面の状況に関する科学捜査研究所技術吏員の見解,三菱ふそう関係者の供述,三菱ふそう以外の同業3社関係者の供述などから,本件事故の衝撃によって破断したことが合理的に認められた(なお,原告は,本件 において,これらアッパーアームナックルシャフト及びロアアームナックルシャフトの破断が本件事故に影響しなかったことに関する本件検察官の判断の合理性について,問題としていない。)。 他方,センターメンバー等については,腐食のため破断時期は明らかではなく,証拠上,本件事故前に破断していた可能性を否定することはできなかった。 そして,仮に本件事故前にこれらの部品が破断していた場合の影響については,三菱ふそう関係者は,センターメンバーがロアアームを支えていない状態ではあるが,ロアアームとボディーをつないでいるスタビライザーに問題はなく,スタビライザーがロアアームを拘束していることなどから,操舵不能になっていたとは考えられないという見解(品質保証本部市場情報管理部技術情報(車 ームとボディーをつないでいるスタビライザーに問題はなく,スタビライザーがロアアームを拘束していることなどから,操舵不能になっていたとは考えられないという見解(品質保証本部市場情報管理部技術情報(車 両調査)担当D,E)や,センターメンバー等が破断すると通常の走行は不能となるが,スタビライザーが装着されているため,ある程度の走行は可能であったと推定されるという見解(同部部長H)を示していたものの,証拠上,三菱ふそう関係者のいう「通常の走行は不能」であるものの「ある程度の走行は可能」などという状態が具体的にどのような状態であるのか(ひいては,原告 の過失の判断に影響があるのか否か)は,必ずしも明らかではなかった。 本件検察官は,このような証拠関係を前提に,三菱ふそう検査官Bの取調べを行い,No2.アウトリガーの破断については,足回りと車体フレームとをつなぐなどする部品が他にもあることを理由に,ハンドル操作に多少の影響があったとしても,車体が傾いたりハンドルが利かなくなったりすることは起こり得ないとする見解を,センターメンバーについては,本件バスと同型バスの センターメンバーに亀裂が生じた事例の紹介とともに,破断しても車両の走行に全く支障がないとの説明を受けた。 ⑷ センターメンバー等の破断によっても走行不能とはならないことの理由について,D,E及びHは,スタビライザーがロアアームを拘束していることを挙げたのに対し,Bは,スタビライザー以外にもショックアブソーバその他の 部品が足回りと車体フレームをつなぐなどしていることを挙げていた。また,Hは,センターメンバーとNo2.アウトリガーとを特に区別することなく破断の影響についての見解を述べているのに対し,Bは,No2.アウトリガーの破断はハンドル操 などしていることを挙げていた。また,Hは,センターメンバーとNo2.アウトリガーとを特に区別することなく破断の影響についての見解を述べているのに対し,Bは,No2.アウトリガーの破断はハンドル操作に多少の影響があり得るとする一方で,センターメンバーの破断についてはハンドル操作に影響を与えたことはなかったはずである としていた。 このように,センターメンバー等の破断による走行への影響の有無及び程度並びにその理由について,いずれも三菱ふそう関係者であるB,D,E及びHの見解は必ずしも一致しているわけではないから,これらの見解に実質的な相違があるか否かを確認する必要がある上,実質的に相違はないと判明したとし ても,これらの見解に合理的な根拠があるか否かを検討しなければならないのであり,これらの検討・判断は,センターメンバー,No.2アウトリガー,スタビライザー,ショックアブソーバその他の前方車底部に存在する各部品の構造や機能,相互の関係(接続の方法やその強度)等を把握することなくしてできないものである。しかしながら,そのような観点からの捜査(証拠収集) は,十分にされているものとはいえない。センターメンバーの下部に亀裂が生 じた事例についても,少なくともBの供述において,亀裂にとどまる事例と破断に至った事例とを同列に扱うことができる合理的な根拠は何ら示されておらず,結局のところ,前記のような観点からの捜査(証拠収集)を遂げなければ,その点について判断することはできないものといわざるを得ない。 加えて,センターメンバー等の破断が本件バスの走行に与えた影響の有無・ 程度について,前記のとおり必ずしも三菱ふそう関係者間において一致した見解があったとまでは判断することができず,また,その見解を合理的に裏付け バー等の破断が本件バスの走行に与えた影響の有無・ 程度について,前記のとおり必ずしも三菱ふそう関係者間において一致した見解があったとまでは判断することができず,また,その見解を合理的に裏付ける証拠を三菱ふそう関係者から入手していなかったところ,警察は,三菱ふそう以外の同業者等の関係者(専門家)に対して明示的に意見聴取をしていなかった。しかし,三菱ふそうの関係者は,本件バスの構造に相対的に通じた者で あるとの側面がある一方,本件事故の原因が運転手の過失ではなく本件バスの不具合であるとされた場合,その不具合が本件バスの構造的欠陥に起因するものであれば,製造者である三菱ふそうが責任を問われる可能性もあり得たのであるから,その意味で,三菱ふそうは,本件事故の原因について一定の利害関係を有する立場にあったといえる。そうすると,センターメンバー等の破断が ハンドル操作等に与えた影響の有無・程度等について客観的に判断するためには,そのような利害関係を有しない専門家の意見を聴取する必要があったものというべきである。実際,アッパーアームナックルシャフトについては,警察は,三菱ふそう関係者のみならず,同業3社の関係者からも意見聴取も実施しているのであり,警察がこのような捜査を実施したのは,原告が本件事故の原 因として強く指摘したことによる側面もあると思われるが,製造者である三菱ふそうの見解のみでは客観性が必ずしも十分ではないと判断したためであるとみるのが合理的であって,本件バスの構造の専門家でない原告がセンターメンバー等については強く指摘をしなかったからといって,センターメンバー等の破断についてこれと異なる判断をする理由はなかったものというべきであ る。 ⑸ 以上のような警察による捜査から得られた証拠の内容 をしなかったからといって,センターメンバー等の破断についてこれと異なる判断をする理由はなかったものというべきであ る。 ⑸ 以上のような警察による捜査から得られた証拠の内容に加え,本件検察官による取調べ等の結果を前提とすると,本件検察官としては,センターメンバー等の破断の影響について判断するため,まずは,本件バスの製造者である三菱ふそうの関係者に対し,センターメンバー,No2.アウトリガー,スタビライザー等の本件バスの前方車底部の各部品の構造や機能,相互の関係等につい て十分な説明を求めるとともに(なお,被告は,本件訴訟において,これらの点について一定の主張をしているが(被告第3準備書面[5頁]),本件公訴提起の時点において存在していた証拠を引用するものではなく,少なくとも本件証拠上,同時点においてそのような証拠が存在していたことはうかがわれない。),それを前提に,改めてセンターメンバー等の破断の影響について見解を 求める必要があったものといえる。 その上で,本件検察官としては,利害関係を有しない専門家の意見を踏まえた客観的な判断をするため,通常要求される捜査として,それらの点について,三菱ふそう以外の同業他社の関係者等の専門家からも意見を聴取する必要があったものというべきである(原告が通常要求されるものであると主張する捜 査の①)。 ⑹ これに対し,被告は,センターメンバーが破断した場合のハンドル操作への影響等についての三菱ふそう関係者(B及びH)の前記見解は,相互に整合しており,内容に不合理な点は見当たらず,また,具体的な裏付け(センターメンバーに亀裂が生じていたものの運転手が全く異常を感じなかった事例)があ ったと主張する。 しかし,前記⑷のとおり,本件公訴提起時の証拠関係に照 は見当たらず,また,具体的な裏付け(センターメンバーに亀裂が生じていたものの運転手が全く異常を感じなかった事例)があ ったと主張する。 しかし,前記⑷のとおり,本件公訴提起時の証拠関係に照らすと,その整合性や合理性を判断するに足りる証拠はなかったものといわざるを得ず,また,具体的な裏付けがあるものとも評価することはできなかったのであって,その主張は採用することができない。 また,被告は,センターメンバーの破断がハンドル操作等に影響を与え得る ことは本件刑事事件の公判手続を通じて明らかになったことであり,本件公訴提起前の時点においては,センターメンバーの破断に特化した捜査を行う必要性を認識し得る状況にはなかったと主張する。 しかし,本件においては,本件バスの前方車底部に複数の部品の破断が存在したのであるから,当然,それらのすべてについてハンドル操作等に与えた影 響の有無・程度を客観的に判断しなければならなかったのであって,そのような判断の基礎となるべき証拠を収集するための捜査として,センターメンバーの破断の影響についても捜査をすべき必要性があったものというべきである。 しかも,破断していた各部品のうち,センターメンバー等以外の部品は,いずれも破断面の状況等から本件事故の衝撃によって破断したことが合理的に認 められた(少なくともその点についての複数の専門家の意見は一致していた)のに対し,センターメンバー等については,その破断時期は不明で,本件事故前に破断していた可能性を否定することができない状況であったのであるから,むしろ捜査の対象をアッパーアームナックルシャフトの破断に限定すべき理由はなかったものというべきである。 なお,原告は,右前輪のアッパーアームナックルシャフトの破断が本件事故の あるから,むしろ捜査の対象をアッパーアームナックルシャフトの破断に限定すべき理由はなかったものというべきである。 なお,原告は,右前輪のアッパーアームナックルシャフトの破断が本件事故の原因であると供述していたものの,原告は,本件バスの構造について専門的な知識を有しているわけではなく,本件事故直前に自らが体験した感覚(「急にハンドルがストンと落ちる感じ」や「右前がガクンと落ちた」感覚)を前提に,本件バスの前方車底部の右側にある部品が事故の原因ではないかと,いわ ば素人的に推測をしたものにすぎないものと考えられる。そうすると,原告の前記供述は,被疑者の弁解という意味で,その点について捜査をすべき必要性を基礎付けるものであっても,他の点について捜査の対象を限定すべき理由となるものではない。そもそも,原告は,本件事故の4日後に実施された本件バスの実況見分において,当初,No.2アウトリガーが破断するなどしてロア アームが脱落したことによりハンドル操作ができなくなったのではないかと も考えたものの,B,C及び警察官から,本件事故直前にロアアームが脱落したものとは考え難いとの見解が示されたため,No2.アウトリガーが本件事故前に(走行中に)破断したかは不明であるとした上で,右前輪のアッパーアームナックルシャフトの破断が原因であると思うと説明するに至ったのであるから(認定事実⑴エ),原告の前記のような供述を理由として捜査の対象を 限定するなどというのは相当ではないものというべきである。 そうすると,この点についての被告の前記主張も採用することができない。 4 通常要求される捜査により収集し得た証拠以上を前提に,本件検察官が前記3⑸のような捜査を遂行していたとすれば収集し得た証拠について検討する。 被告の前記主張も採用することができない。 4 通常要求される捜査により収集し得た証拠以上を前提に,本件検察官が前記3⑸のような捜査を遂行していたとすれば収集し得た証拠について検討する。 まず,原告代理人らは,認定事実⑵イのとおり,原告の私選弁護人に選任された後間もない平成28年8月,大手自動車ディーラーの協力を得て本件バスの各部品の構造,機能等についてレクチャーを受けた結果であるとして,スタビライザーにはロアアームを補助する機能はほぼなく,センターメンバーが破断した場合には高速走行中のバスを制御することが不可能になるという理解を明らかに している。そうすると,原告代理人らは,弁護人として選任されることとなった頃から短期間のうちに,センターメンバーの破断がハンドル操作等の操舵に与える影響を認識するに至ったと認められる。そして,原告代理人らは,認定事実⑵カのとおり,平成29年5月には,この点について工学博士作成の工学鑑定書を証拠請求している。 他方,公判担当検察官も,原告代理人らが前記のような理解を明らかにした約4か月後の平成28年12月には,センターメンバーが前部から後部にかけて破断した場合,スタビライザーによってロアアームが拘束されていたとしても,ハンドル操作による車両の曲がり具合が鈍くなったり,ハンドルを直進状態にしても道路の傾斜や凹凸の影響等により車両が左右にふらつく状態となったりする 可能性があることを前提とした主張をするに至っている(認定事実⑵オ)。また, その後,三菱ふそう開発本部実験総括部長も,センターメンバー下部が破断するとロアアームが左右に動くようになり,スタビライザーによってその動きが抑制されるとしても,高速走行になればその動きが大きくなり,制御が困難になる旨証言して 総括部長も,センターメンバー下部が破断するとロアアームが左右に動くようになり,スタビライザーによってその動きが抑制されるとしても,高速走行になればその動きが大きくなり,制御が困難になる旨証言している(認定事実⑵ケ)。 これらの事情に鑑みると,本件公訴提起前の時点においても,本件検察官が前 記3⑸のような捜査を遂行していれば,センターメンバーが破断した場合,スタビライザーが装着されていたとしても,高速走行中の安定的な操舵が困難になるという専門家の見解を得られたものと認めるのが相当である。 5 本件公訴提起の違法性以上のとおり,本件検察官は,通常要求される捜査として,センターメンバ ー等の破断の影響について三菱ふそう以外の同業他社の関係者等の専門家から意見を聴取すべきであり,そのような捜査を遂行していれば,センターメンバーが破断した場合にはスタビライザーが装着されていたとしても高速走行中の安定的な操舵が困難になるという専門家の見解を得ることができたものと認められる。 そして,そのような専門家の見解は,本件刑事事件とは利害関係のない専門家が第三者的立場から述べるものであって,類型的に信用性が高いものである上,それが得られたとしてもなお三菱ふそう関係者の見解のとおりセンターメンバー等の破断による影響がないといえる合理的な根拠について,具体的には見出し難いことや,前記3⑵のとおりの本件刑事事件の証拠構造からすれば, 本件公訴提起時において本件検察官が現に収集した証拠及び前記のとおり通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠を総合すると,本件事故の原因,すなわち,本件バスの蛇行の原因が原告の過失(前方左右注視義務やハンドル・ブレーキ的確操作義務の違反)にあり,原告が自動車運転過失傷害について有罪であると認められ 証拠を総合すると,本件事故の原因,すなわち,本件バスの蛇行の原因が原告の過失(前方左右注視義務やハンドル・ブレーキ的確操作義務の違反)にあり,原告が自動車運転過失傷害について有罪であると認められる合理的な嫌疑はなかったものといわざるを得ない。 したがって,本件検察官による本件公訴提起は,国家賠償法1条1項の適用上違法である。 6 損害原告は,本件刑事事件について原告代理人らを私選弁護人として選任して弁護活動を委任し,原告代理人らに対し,その報酬や実費等として合計484万 2374円を支払っており(甲14),これらの支払は本件公訴提起と相当因果関係のある損害であるところ,このうち291万6490円は費用補償によって填補されており,その残額は192万5884円である。 また,原告は,違法な本件公訴提起により,無罪判決の確定に至るまでの約3年5か月間という長期間にわたって被告人の地位に置かれ,その間,刑事訴 訟手続への対応を余儀なくされたことによって多大な精神的負担を負ったであろうことが合理的に推認される。さらに,本件事故が職業運転手である原告が業務として本件バスを運転している際に発生したものであり,多数の乗客が受傷したものとして広く報道されたことなどからすると,起訴されたことによって,原告の勤務先における立場や待遇等のほか,その私生活にも一定の影響が あったものと考えられ,そのことによる精神的負担も軽視し得ないものであったものと推察される。その他本件事故,本件公訴提起及び本件刑事事件について本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件公訴提起による原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円が相当であるというべきである。 このほか,本件事案の内容,本件審理の経過,本件における認容額等を踏ま た一切の事情を考慮すると,本件公訴提起による原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円が相当であるというべきである。 このほか,本件事案の内容,本件審理の経過,本件における認容額等を踏ま えると,本件公訴提起と相当因果関係のある弁護士費用としては40万円が相当であると認められるから,違法な本件公訴提起による原告の損害は,合計432万5884円である。 第4 結論以上のとおり,原告の請求は,432万5884円及びこれに対する平成31 年3月27日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当でないからこれを付さない。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官谷口哲也 裁判官太田雅之 裁判官木村大慶

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