平成16(行コ)389 退去強制令書発付処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(行ウ)第340号)

裁判年月日・裁判所
平成17年4月13日 東京高等裁判所 警察関係
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判決文本文10,971 文字)

主文 1 第1審被告らの控訴に基づき,原判決中第1審被告ら敗訴部分を取り消す。 2 第1審原告P1の第1審被告らに対する請求をいずれも棄却する。 3 第1審原告P1を除く第1審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,第1審原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 第1審被告ら(1) 原判決中,第1審被告東京入国管理局長(以下「第1審被告入管局長」という。)及び第1審被告東京入国管理局主任審査官(以下「第1審被告主任審査官」という。)敗訴部分を取り消す。 (2) 第1審原告P1の第1審被告らに対する請求をいずれも棄却する。 2 第1審原告ら(第1審原告P1を除く。)(1) 第1審被告入管局長が,第1審原告P2,第1審原告P3,第1審原告P4,第1審原告P5及び第1審原告P6に対して平成15年3月19日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく上記第1審原告らの異議の申出が理由がない旨の各裁決をいずれも取り消す。 (2) 第1審被告主任審査官が,第1審原告P2,同P3,同P4,同P5及び同P6に対して平成15年5月7日付けでした各退去強制令書発付処分をいずれも取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(1) 本件は,法務大臣から権限の委任を受けた第1審被告入管局長から平成15年3月19日付けで出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出が理由がない旨の各裁決を受け,第1審被告主任審査官から同年5月7日付けで退去強制令書の各発付処分を受けた第1審原告らが,上記各裁決には,第1審被告入管局長が第1審 定法49条1項に基づく異議の申出が理由がない旨の各裁決を受け,第1審被告主任審査官から同年5月7日付けで退去強制令書の各発付処分を受けた第1審原告らが,上記各裁決には,第1審被告入管局長が第1審原告らの退去強制が著しく不当であると判断しなかったことについて事実誤認の違法及び第1審被告入管局長が第1審原告らに在留特別許可を付与しなかったことについて裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法があり,これらの各裁決を前提としてされた退去強制令書の各発付処分も違法である旨主張して,上記各裁決及び各発付処分の取消しを求める事案である。 (2) 原審は,ア第1審原告P2,同P3,同P4,同P5及び同P6については,上記各主張を排斥して,その請求をいずれも棄却したが,イ同P1については,同第1審原告に在留特別許可を付与しないとする第1審被告入管局長の判断は,裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たり違法である,また,それに基づく第1審被告主任審査官がした退去強制令書の発付処分も違法であるとして,その請求を認容し,同第1審原告に対する上記裁決及び発付処分を取り消した。 (3) そこで,第1審原告P1を除く第1審原告ら及び第1審原告P1の関係で第1審被告らが,それぞれ控訴した。 2 前提事実原判決の「事実及び理由」欄の第二の一(原判決4頁9行目から11頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件の争点は,次の3点である。 ア本件各裁決について,第1審原告らの退去強制が著しく不当であるのに,第1審被告入管局長がそうではないと事実誤認したことによる違法があるか否か(争点1)。 イ第1審被告入管局長は,第1審原告らについて,特別に在留を許可すべき事情があ しく不当であるのに,第1審被告入管局長がそうではないと事実誤認したことによる違法があるか否か(争点1)。 イ第1審被告入管局長は,第1審原告らについて,特別に在留を許可すべき事情があるとは認められないとして本件各裁決をしているが,この判断は,第1審被告入管局長の有する裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものといえるか(争点2)。 ウ第1審被告主任審査官は,本件各裁決を受けて,第1審原告らに対し本件各退令処分をしているが,この処分が違法なものといえるか(争点3)。 (2) 上記各争点に関する当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」欄の第二の三(原判決12頁9行目から42頁17行目まで)に記載のとおりである(ただし,原判決14頁7行目の「育つ」を「育てる」に,28頁17行目の「1062名分集まっている」を「3418通に上っている」に,34頁19行目の「要件を構成し」を「構成要件に該当し」に,38頁5行目から6行目の「趣旨からであるとと」を「趣旨であると」に改める。)から,これを引用する。 4 双方の当審における補足主張(1) 第1審被告らア在留特別許可の許否の判断に対する裁判所の審査の手法の誤り原判決は,在留特別許可の許否についての法務大臣等の裁量権の範囲とこれに対する司法審査の在り方を正解せず,本来裁判所が行うべき違法性判断を離れて,第1審被告入管局長と同一の立場に立って裁量判断したに等しい誤った判断手法を用いている。 イ事実の評価等についての判断の誤り原判決は,第1審原告P1の生活状況や学習状況といった事情について,在留特別許可の許否の判断に当たって十分考慮されるべき事情であるとの評価を加える一方,同第1審原告の年齢が低いこと,両親の監護を受けられないことによる同第 の生活状況や学習状況といった事情について,在留特別許可の許否の判断に当たって十分考慮されるべき事情であるとの評価を加える一方,同第1審原告の年齢が低いこと,両親の監護を受けられないことによる同第1審原告の経済的困難や,心理的・物理的影響といった事情について,「軽視し難い」消極的事情と指摘しながらも,これを「過度に重視し」てはならず,「本人の判断を無視するほどに重視することは相当ではない」と評価して,結局,本件事案は,上記十分考慮されるべき事情を「適正に認定していれば在留特別許可を付与した可能性が高い」事案であると評価する。 しかし,原判決が十分考慮されるべき事情とするものは,いずれも在留特別許可を付与しなければ法の趣旨に明らかに反するような事情とはいえない。また,本件事案が在留特別許可を付与しなければ法の趣旨に明らかに反する事案でもない。したがって,原判決の認定事実を前提にしても,同人に対し在留特別許可を付与しなかった第1審被告入管局長の判断に裁量権の逸脱・濫用はない。 (2) 第1審原告ら-人権B規約17条1項違反市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「人権B規約」という。)17条1項は「何人も,その私生活,家族,住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」旨規定している。 ところで,原判決は,第1審原告P1の請求を認容し,同第1審原告に対する上記裁決及び発付処分を取り消しながら,その父母及び弟らであるその余の第1審原告らの請求をいずれも棄却したが,それによって生じる家族離散という不利益と,それによって得られる国家の利益を比較衡量すれば,前者が上回ることが明らかである。したがって,一家離散の結果を招く原判決は,人権B規約が禁じている家族生活への恣 よって生じる家族離散という不利益と,それによって得られる国家の利益を比較衡量すれば,前者が上回ることが明らかである。したがって,一家離散の結果を招く原判決は,人権B規約が禁じている家族生活への恣意的干渉を招くものであることが明らかであり,人権B規約17条1項に違反する。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件各裁決及び退去強制令書の各発付処分の取消しを求める第1審原告らの請求はいずれも理由がないものと判断する。 その理由は,次のとおりである。 1 認定事実次のとおり訂正するほかは,原判決の「第三当裁判所の判断」の一(原判決42頁19行目から54頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決47頁2行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。 「(9) 第1審原告P2の家族は,高校教師をしていた父と歯科医をしていた母の他,兄1人,姉2人及び弟3人であった。父は既に死亡したが,母と兄姉弟は健在で,母と1番目の姉がカナダ,すぐ下の弟がアメリカ合衆国に在住しているほかは,フィリピンに在住している。フィリピン在住の兄は眼科医,2番目の姉は高校教師,弟は銀行員及び眼科医手伝いをしている。(乙17の1,2,乙20の1,2)第1審原告P2は,毎年,両親の誕生日のころフィリピンの実家に集まる親族と連絡を取るなどしていた(乙20の1)。 (10) 第1審原告らについては,佐久市及びその近隣に居住する者を中心にして4800人を上回る者から,同人らの在留を希望する旨の署名が提出されている(甲47,63)。」(2) 同48頁20行目の「病院において出生した。」を「病院において出生し,以来,父母である第1審原告P2及び同P3の監護養育を受けてきた。」に改 署名が提出されている(甲47,63)。」(2) 同48頁20行目の「病院において出生した。」を「病院において出生し,以来,父母である第1審原告P2及び同P3の監護養育を受けてきた。」に改める。 (3) 同52頁7行目冒頭から12行目末尾までを次のとおり改める。 「(8) 第1審原告P2及び同P3は,二人で話すときはタガログ語を使用するが,それ以外の家族の会話は基本的には日本語で行っている。そのため,第1審原告P1は,日本語の会話や読み書きの能力には全く問題がないが,タガログ語については,日常会話を聞いて理解することはできるものの,話をすることは苦手である。英語についても,学校で勉強しただけである。(甲31,乙20の1,2,第1審原告P1。なお,同第1審原告はタガログ語を全く理解することができない旨供述しているが,第1審原告P2及び同P3の口頭審理における供述(乙20の1,2)等を総合すると,以上のとおり認めることができる。)。」 2 争点1(本件各裁決における事実誤認の違法の有無)について原判決の「第三当裁判所の判断」の二(原判決54頁2行目から59頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決55頁3行目,5行目及び57頁6行目の「入国審理官」を「入国審査官」に改め,59頁2行目の「以上によると、」の次に「入管法施行規則42条4号所定の「退去強制が著しく不当であること」は」を加える。)。 3 争点2(第1審被告入管局長の判断における裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無)について(1) 第1審原告P2及び同P3関係次のとおり付加,訂正,削除するほかは,原判決の「第三当裁判所の判断」の三1,2(一)、(二)(原判決59頁末行から76頁1行目まで)に記 (1) 第1審原告P2及び同P3関係次のとおり付加,訂正,削除するほかは,原判決の「第三当裁判所の判断」の三1,2(一)、(二)(原判決59頁末行から76頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決65頁13行目から15行目の「③佐久市及びその近隣に居住する1062名から,原告らの在留を希望する旨の署名が提出されていること」を「③佐久市及びその近隣に居住する者を中心にして4800人を上回る者から,第1審原告らの在留を希望する旨の署名が提出されていること」に改める。 イ同73頁1行目冒頭から16行目末尾までを削除する。 ウ同74頁10行目から12行目の「佐久市及びその近隣に居住する1062名から,原告らの在留を希望する旨の嘆願書が提出されていること」を「佐久市及びその近隣に居住する者を中心にして4800人を上回る者から,第1審原告らの在留を希望する旨の署名が提出されていること」に改める。 エ同75頁14行目冒頭から19行目末尾までを削除する。 なお,第1審原告らは,第1審原告P1に関してのみ本件裁決3の取消しを認めることは,それによって生じる家族離散という不利益と,それによって得られる国家の利益を比較衡量すれば,前者が上回ることが明らかであるから,そのような一家離散の結果を招く処理は,人権B規約17条1項が禁じている家族生活への恣意的干渉を招くものであり,同条項に違反する旨主張する。 しかしながら,上記に引用した原判決説示のとおり,国際慣習法上,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,受け入れる場合にいかなる条件を付すかはもっぱら当該国家が自由に決定できることとされている。しかも,人権B規約13条が,外国人について「法律に基づいて行われた決定 を自国内に受け入れるかどうか,また,受け入れる場合にいかなる条件を付すかはもっぱら当該国家が自由に決定できることとされている。しかも,人権B規約13条が,外国人について「法律に基づいて行われた決定によってのみ当該領域から追放することができる」旨規定しているところからすると,人権B規約は,上記国際慣習法を前提とするものであることが明らかである。また,家族に対する恣意的又は不法な干渉を禁止する人権B規約17条は,我が国の憲法の諸規定による人権保障に優位するものではないと解される。 したがって,人権B規約17条1項を根拠とする第1審原告らの上記主張は,その前提において採用できない。 (2) 第1審原告子ら関係ア第1審原告P1について(ア) 前記前提事実及び前記認定事実によると,第1審原告P1について次のような事実関係にあることが明らかである。 ① 第1審原告P1は,昭和63年○月○○日,本邦において第1審原告P2と同P3との間の子として出生し,フィリピン国籍を有するが,旧入管法22条の2第1項所定の在留期限である昭和63年8月19日を超えて本邦に不法に残留している。なお,自らが不法残留者であることは,平成11年11月(当時小学校5年生)に両親が東京入管入国警備官に摘発されるまで知らなかった。② 第1審原告P1は,その出生以来両親(第1審原告P2及び同P3)の監護養育を受け,佐久市内で保育園,小学校及び中学校に通学し,本件裁決3の当時中学校3年生になる直前であった。③ 第1審原告P1は,日本の文化,風土になじみ,小中学校においても日本人生徒と変わらない生活を送り,学習面で優れた成績を修め,学校での様々な活動にも積極的に参加していた。④ 第1審原告P1は,これまでフィリピンに行ったことがなく,タ なじみ,小中学校においても日本人生徒と変わらない生活を送り,学習面で優れた成績を修め,学校での様々な活動にも積極的に参加していた。④ 第1審原告P1は,これまでフィリピンに行ったことがなく,タガログ語については,日常会話を聞いて理解することはできるものの,話をすることは苦手であり,フィリピンの生活習慣等にも全くなじみがない。 日本に引き続き在留して学習を継続し,将来は福祉の仕事等に就くことを希望している。 (イ) 上記(ア)の事実によれば,確かに,第1審原告P1は,本件裁決3の当時,約15年間にもわたり日本社会において日本人の子供と全く変わりない生活を継続し,日本の生活習慣や文化にも十分になじんでおり,引き続き日本での学習を継続し,将来は日本で仕事をすることを希望していたことが明らかである。そして,同第1審原告が,言語も生活習慣も全く異なるフィリピンにおいて生活することには大きな困難が伴うことが推測されるところである。 しかしながら,このような事情をもっても,第1審被告入管局長が第1審原告P1に対し在留特別許可をしなかったことに裁量権の逸脱又は濫用があると認めることはできない。すなわち,a 確かに,第1審原告P1は,本件裁決3当時,引き続き日本での学習を継続し,日本で仕事をすることを希望していたことが明らかである。 しかしながら,第1審原告P1は,その出生以来一貫して父母である第1審原告P2及び同P3の監護養育を受けてきた者であり,本件裁決3当時満14歳の少女であった。第1審原告P1に対してのみ在留特別許可をすると,同第1審原告は日本において両親から離れて生活することになる。当時の同第1審原告の年齢を考慮すると,両親の監護を受けられないことによる影響は,ただ単に経済的な問題に止まらず,心 留特別許可をすると,同第1審原告は日本において両親から離れて生活することになる。当時の同第1審原告の年齢を考慮すると,両親の監護を受けられないことによる影響は,ただ単に経済的な問題に止まらず,心理的・物理的にも大きな影響を及ぼすことになるものと考えられるが,そのような生活を支えるだけの養育環境が整備されていたことを認めるに足りる証拠はない。 また,そもそも入管法上,中学生である外国人が扶養者である両親と離れて単独で本邦に在留し,中学校に通学するという活動を想定した定型的な在留資格は設けられていない。すなわち,前記に引用した原判決説示(三の1)のとおり,外国人の我が国への入国,在留については,当該国家が自由に決定することができるという国際慣習法と同様の考えのもとに,入管法において,原則として一定の期間を限り,特定の資格により上陸,在留を認めるという制度が取られているが,その制度の上では,中学校への通学は「留学」,「就学」に該当せず,他に在留資格として考えられる「家族滞在」も,扶養者である両親の少なくとも一方が在留資格をもって本邦に在留していることが前提となるので,結局,上記のような活動は我が国の入国管理制度上は想定されていないといわざるを得ない。 そうすると,上記のような第1審原告P1の強い希望があるとしても,それにより,直ちに同第1審原告に対し入国管理制度上の法的保護を考慮すべきことにはならないというべきである。 b また,第1審原告P1は,本件裁決3の当時,約15年間にもわたり日本社会において日本人の子供と全く変わりない生活を継続し,日本の生活習慣や文化にも十分になじんでいた。 しかしながら,第1審原告P1は,旧入管法22条の2第1項所定の在留期限である昭和63年8月19日を の子供と全く変わりない生活を継続し,日本の生活習慣や文化にも十分になじんでいた。 しかしながら,第1審原告P1は,旧入管法22条の2第1項所定の在留期限である昭和63年8月19日を超えて本邦に不法残留している者である。このように,同第1審原告は,前示の我が国の入国管理制度に照らすと,在留資格をもって在留してきた者ではないので,その在留の継続は違法状態の継続にほかならず,それが長期間平穏に継続されたからといって,直ちに法的保護を受け得ることにはならないといわざるを得ない。 もっとも,第1審原告P1は,不法残留者である第1審原告P2及び同P3の間に出生したという本人にはいかんともし難い事情により不法残留者として生活することになったものであり,不法残留について何らの責任もないということはできる。しかしながら,入管法は,出生その他の事由により上陸の手続を経ることなく本法に在留することとなる外国人が,同法22条の2所定の在留資格の取得の許可を受けないで60日の期間を超えて本邦にいる場合についても退去強制事由に該当するとしている(同法24条7号)。こうしたことに照らすと,入管法は,退去強制事由に該当するために帰責性を要件とはしていないということができる。したがって,帰責性がないことは,在留特別許可をするか否かの判断に際し斟酌され得る事情の1つになり得るとしても,それにより,直ちに法的保護を受け得ることにはならないというべきである。 c さらに,第1審原告P1が言語も生活習慣も全く異なるフィリピンにおいて生活することには大きな困難が伴うことが推測される。 しかしながら,そもそも外国で長く生活をした子女が本国に戻った際に,そのような困難に直面することがあることは,第1審原告P1に限られたこと ことには大きな困難が伴うことが推測される。 しかしながら,そもそも外国で長く生活をした子女が本国に戻った際に,そのような困難に直面することがあることは,第1審原告P1に限られたことではない。幸いにも,同第1審原告の父母である第1審原告P2及び同P3は共にフィリピンにおいて出生,生育し,そこでの生活習慣等に習熟しており,また,同第1審原告らの親族が多数フィリピンに在住しているのであるから,そうした者の養育を受け,また,支援を受けることが十分に期待し得るところである。そのほか,第1審原告P1は未だ可塑性に富む年齢であること,上記認定の同第1審原告が我が国社会で示した生活振り等に徴すると,フィリピンに帰国した際の困難を乗り越えることも十分可能であると考えられる。 そうすると,上記事情が存するとしても,そのことが,特別に在留を許可すべき事情を構成するということはできない。 d 以上によると,第1審原告P1に対し特別に在留を許可すべきものとしなかったこと(本件裁決3)が,第1審被告入管局長の裁量権の逸脱又は濫用となるものといえないことは明らかである。 イ第1審原告P4,同P5及び同P6について(ア) 前記前提事実及び前記認定事実によると,第1審原告P4,同P5及び同P6について次のような事実関係にあることが明らかである。 ① 第1審原告P4は平成5年○月○○日,同P5は平成9年○月○○日,第1審原告P6は平成11年○○月○○日に,いずれも本邦において第1審原告P2及び同P3との間の子として出生した。同第1審原告らは,それぞれ,改正前入管法22条の2第1項所定の在留期限である平成5年3月29日,平成9年4月22日及び平成12年2月19日を超えて本邦に不法に残留している。② 本件 して出生した。同第1審原告らは,それぞれ,改正前入管法22条の2第1項所定の在留期限である平成5年3月29日,平成9年4月22日及び平成12年2月19日を超えて本邦に不法に残留している。② 本件裁決4から6までの当時,第1審原告P4は小学校4年生であり,同P5及び同P6は保育園に通っていた。③ 第1審原告P4及び同P5は,日本語を使用することができるが,タガログ語や英語は全く理解することができず,同P6は,日本語をようやく理解し始めたところである。同人らは,いずれも出生以来一度もフィリピンに行ったことがなく,フィリピンの生活習慣等にもなじみがない。 (イ) 上記(ア)の事実によれば,確かに,第1審原告P4,同P5及び同P6は,本邦において出生,成長し,タガログ語や英語を全く話すことができず,フィリピンで暮らした経験もないことが明らかであるから,同人らがフィリピンに強制送還されると,生活環境や教育環境が変化することによって受けるであろう心理的・物理的影響が大きいことは,推測に難くない。 しかしながら,本件各裁決当時,第1審原告P4は満10歳,同P5は満6歳,同P6は満3歳にすぎず,その年齢に照らすと,環境の変化に対する順応性や可塑性を十分に有していたものと認められる。そうであるとすると,同第1審原告らは,第1審原告P1について説示したのと同様に,両親と共にフィリピンに帰国し,その多数の親族の支援を受けるなどすれば,当初は戸惑うことがあるとしても,時の経過とともにその生活環境になじみ得るものと考えられるので,上記心理的・物理的影響を乗り越えることが著しく困難であるとまでは認められないというべきである。そうすると,上記事情が存在するとしても,そのことが,特別に在留を許可すべき事情を構成するということはで 記心理的・物理的影響を乗り越えることが著しく困難であるとまでは認められないというべきである。そうすると,上記事情が存在するとしても,そのことが,特別に在留を許可すべき事情を構成するということはできない。 以上によると,第1審原告P4,同P5及び同P6に対し特別に在留を許可すべきものとしなかったこと(本件裁決4ないし6)が,第1審被告入管局長の裁量権の逸脱又は濫用になるものといえないことも明らかである。 ウところで,第1審原告子らは,本件裁決3ないし6が,憲法22条1項の居住の自由,児童の権利条約3条1項,憲法14条1項の平等原則,比例原則及び人権B規約17条1項に違反する旨主張する。 しかしながら,これらの主張を採用することができないことは,先に引用した原判決及び前記3(1)に説示したとおりである。 エそして,他に,第1審原告子らに在留特別許可を付与しなかったことが,第1審被告入管局長にゆだねられた裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件裁決3ないし6は適法というべきである。 4 争点3(第1審被告主任審査官の本件各退令処分の違法の有無)について入管法上,(1) 第1審被告入管局長は,入管法49条1項による異議の申出を受理したときは,異議の申出が理由があるかどうかを裁決して,その結果を第1審被告主任審査官に通知しなければならず(同条3項),(2) 同主任審査官は,同入管局長から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,速やかに当該容疑者に対しその旨を知らせるとともに,同法51条の規定よる退去強制令書を発付しなければならない(同法49条5項)こととされている。したがって,同主任審査官は,同入管局長か けたときは,速やかに当該容疑者に対しその旨を知らせるとともに,同法51条の規定よる退去強制令書を発付しなければならない(同法49条5項)こととされている。したがって,同主任審査官は,同入管局長から本件裁決の通知を受けた以上,これに従って退去強制令書を発付するほかない。 そうすると,第1審原告らに対する本件各裁決は以上説示したとおりいずれも適法であるから,それに基づく本件各退令処分も適法というべきである。 5 以上によれば,第1審原告らの第1審被告入管局長に対する本件各裁決の取消請求及び第1審被告主任審査官に対する本件各退令処分の取消請求は,いずれも理由がないことに帰する。 したがって,原判決中,第1審原告P2,同P3,同P4,同P5及び同P6の請求をいずれも棄却した部分は正当であり,同人らの本件控訴は理由がないが,第1審原告P1の請求を認容した部分は失当であり,第1審被告らの本件控訴は理由があるから,これを取り消して,第1審原告P1の第1審被告らに対する請求をいずれも棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部裁判長裁判官赤塚信雄裁判官小林崇裁判官金井康雄

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