平成21(わ)263 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反

裁判年月日・裁判所
平成22年3月24日 大分地方裁判所 大分地方裁判所
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判決文本文4,351 文字)

主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 押収してある柳刃包丁1丁(平成22年押第2号の1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1平成21年9月3日午前9時35分ころ,大分県甲市内のA方玄関先通路において,会社経営を巡るトラブルから,殺意をもって,持っていた柳刃包丁(刃体の長さ約23.9センチメートル,平成22年押第2号の1)でA(当時50歳)の左脇腹を1回突き刺し,さらに,左顔面及び左頸部を数回切り付けるなどしたが,同人に抵抗されたため,同人に全治約1か月間を要する下行結腸損傷,腹壁損傷,顔面切創及び左頸部切創の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった第2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記柳刃包丁1丁を携帯した。 (証拠の標目)省略(判示第1の殺人未遂についての事実認定の補足説明)第1 争点 本件の争点は,①被告人が,持っていた柳刃包丁で意図的にA(以下「被害者」という。)の脇腹を刺すなどしたのか,それとも被害者とのもみ合いの中で偶然に刺さるなどしたのか,②被告人が被害者を恨んでいたのかどうか,③争点①及び②を前提にして,被告人に殺意が認められるかどうかである。 第2当裁判所の判断 被告人の行為の態様(争点①)検察官は,いきなり左脇腹を刺されたなどとする被害者の証言が信用できる として,被告人が意図的に被害者の左脇腹を刺したり,左顔面などを切り付けたりしたと主張する。 これに対し,弁護人は,被害者の証言は不合理であって信用できず,被害者の負った傷害はもみ合いの中で偶然生じたものであると主張する。 しかし,被害者の証言は,けがの状況や現場の状況と特に矛盾せず,基本的に信用することができる。 弁護人は,柳刃包丁の刃体の長さに ,被害者の負った傷害はもみ合いの中で偶然生じたものであると主張する。 しかし,被害者の証言は,けがの状況や現場の状況と特に矛盾せず,基本的に信用することができる。 弁護人は,柳刃包丁の刃体の長さに比して,左脇腹の刺創が浅いことから,体当たりしていきなり刺されたとの被害者の証言は不合理であると主張するが,B医師及びC教授の証言によれば,左脇腹の刺創は肋軟骨を切断しており,それにはかなりの力がいるので,被害者の述べる被害の態様と傷の状況は矛盾しないというのであるから,文字どおりの体当たりであったかどうかはともかくとしても,被告人からいきなり刺されたという限度では被害者の証言に特に疑いをいれない。 弁護人は,B医師が上から下に45度より立った角度で刺創が生じていると証言しているところを捉えて,被害者の述べるような態様ではそのような角度にならないとも主張しているが,階段の上から刺されたものである上,被害者が瞬間的に動いた可能性もあること,肋軟骨を切断しての刺創であるため,刃先が流れた可能性もあることなどを考慮すると,特に不合理とは思われない。 顔や頭,首を切られたと述べる部分も,少なくとも被告人が切り付け,あるいは切り付けようとし,それを被害者が必死で防ごうとするなかで傷が生じたという限度では十分に信用することができる。 血痕が階段の4段目に比較的多く飛び散っていたことが認められ,弁護人は,この点を捉えて,被害者が階段の下で刺されるなどしたと述べるところは不合理だと主張するが,顔の2か所の傷は,動脈を傷つけ,拍動性の出血があったというのであるから,相当程度飛び散ったものと考えられるし,被害者と被告人はもみ合っていたというのであるから,その態勢や位置によっては,被告人 の顔などに血が付くことなく血が飛び散るということもあり得ないではない。 そし 程度飛び散ったものと考えられるし,被害者と被告人はもみ合っていたというのであるから,その態勢や位置によっては,被告人 の顔などに血が付くことなく血が飛び散るということもあり得ないではない。 そして,そもそも被害者はもみ合うなかで階段を二,三段上がった可能性もあると述べているのであるから,なおのこと不合理とはいえない。 被告人は,包丁をケースから出して立ち上がったところ,被害者が階段を駆け上がってきて包丁を持った右手を両手でつかんできたためもみ合いになった,左脇腹,顔や首などの傷がいつ生じたのか分からないと供述しているが,被告人は,包丁を持った右手を被害者に両手でつかまれたときには,刃先を下にして右手を下げていたというのであるから,そのような状態からもみ合ったとしても,被害者の左脇腹に右斜め下方向に1か所だけの刺創が生じるとは思われない。顔や首の切創も,6か所に及び,長く,深いものもあることなどからすれば,被告人に被害者を傷つけようという意図がなければ,もみ合う中で偶然生じたとは考えにくい。被告人と被害者は四つんばいになって包丁を取り合うなどしているが,その際に左脇腹の刺創が生じたとも思われない。被告人の供述は信用できない。 したがって,行為の態様については,検察官の主張するとおり,被告人が持っていた包丁で意図的に被害者の脇腹を刺すなどしたと認めることができる。 動機(争点②)検察官は,被告人は,D組の役員を解任されて経済的に困っており,被害者に恨みを持っていたと主張する。 これに対し,弁護人は,被告人は経済的に困窮しておらず,被害者への恨みもなかったなどと主張する。 しかし,被告人は,かつてD組の役員として年収1000万円ほどを得ていたのに,D組を解任されてから,一定期間失業保険を受けていた以外には定収がなかったというのであるから もなかったなどと主張する。 しかし,被告人は,かつてD組の役員として年収1000万円ほどを得ていたのに,D組を解任されてから,一定期間失業保険を受けていた以外には定収がなかったというのであるから,経済的に困窮していたことは明らかである。 そして,被告人にD組の役員を辞めるように迫ったのは被害者であるところ,被告人が解任されたころ起こった暴力団組員による脅迫事件の捜査を担当した 警察官は,被告人に対し,被害者に報復しないよう繰り返し注意していたと証言し,被告人の交際相手であったEも,被告人から,被害者を「しとめちゃる」というメールを受け取ったなどと証言しているのであるから,被告人の被害者への恨みは相当に強いものであったと考えられる。 被告人は,被害者を恨む気持ちがまったくなかったなどと供述しているが,信用できない。 したがって,検察官の主張するとおり,被告人は被害者を恨んでいたと認めることができる。 殺意の有無(争点③)検察官は,以上に加えて,被害者の負ったけがの程度,柳刃包丁という殺傷能力が十分な凶器を用いていること,左脇腹,左顔面,首の左側という人の身体のなかで生命への危険が高い重要な部分を攻撃していること,被告人の犯行前後の言動などから,被告人の行為は,客観的に見て人が死ぬ危険性の高い行為であり,被告人はそれを分かって行ったといえるから,被告人には殺意があると主張する。 刃体の長さ約23.9センチメートルの柳刃包丁でいきなり左脇腹を刺し,引き続き,顔や首に切り付け,あるいは切り付けようとする行為は,客観的に見て人が死ぬ危険性の高い行為である。そして,常識的に見て,被告人が,自らの行為が人が死ぬ危険性の高い行為であると分かっていなかったとは考えられない。 しかも,犯行前に,被告人が交際相手であったEに送信したメールからは,被 為である。そして,常識的に見て,被告人が,自らの行為が人が死ぬ危険性の高い行為であると分かっていなかったとは考えられない。 しかも,犯行前に,被告人が交際相手であったEに送信したメールからは,被害者を殺害する覚悟がうかがわれること,被害者方へ柳刃包丁を持って行き,被害者が出てくるのを待っていたこと,被害者が玄関ドアを開けるといきなり左脇腹を刺したこと,被害者に対し,弟にも危害を加えたかのような言葉を発していることなどからすれば,殺意は強固であり,犯行の計画性も否定しがたい。 被告人は,包丁を示せば被害者が向かってこないと思って,包丁を持っていったなどと供述するが,納得できる弁解ではない。 したがって,検察官の主張するとおり,被告人に殺意があったと認めることができる。 第3 結論 よって,弁護人の主張を踏まえても,検察官の主張するとおり,被告人に殺意を認めることができる。 (法令の適用)罰条判示第1の所為刑法203条,199条判示第2の所為銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条刑種の選択判示第1の罪有期懲役刑判示第2の罪懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)未決勾留日数算入同法21条没収同法19条1項2号,2項本文(判示殺人未遂の供用物)訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)検察官が刑罰を決める上で考慮すべき事情として主張するところは,概ね是認することができ,求刑も適正な範囲内のものと考えられる。殊に,犯行の態様が,柳刃包丁で被害者の左脇腹をいきなり刺し,引き続いて,顔や首に切り付け,あるいは切り付けようとした危険なものであった点,柳刃包丁をあらかじめ準備して行った計画的なものであった点 殊に,犯行の態様が,柳刃包丁で被害者の左脇腹をいきなり刺し,引き続いて,顔や首に切り付け,あるいは切り付けようとした危険なものであった点,柳刃包丁をあらかじめ準備して行った計画的なものであった点は,刑を重くする方向での情状として重視すべきものと思われる。なお,被告人が会社経営を巡るトラブルから被害者を恨んで犯行に及ん だ経緯には理解できるところもあるが,被害者を殺害する理由にはならず,動機に特に酌むべき余地があるとはいえない。 他方,被告人には懲役前科がなく,息子が出廷して被告人の姉とともに被告人の更生を支えると述べるなど,被告人にとって刑を軽くする方向での事情も認められるが,検察官も,被告人に懲役前科がないことを考慮した上で求刑していることからすると,刑を減じるのを相当とするほどの事情があるとはにわかに認めがたい。 よって,被告人に対しては,検察官の求刑どおりの刑を言い渡すこととする。 (求刑懲役8年及び柳刃包丁1丁の没収)平成22年3月24日大分地方裁判所刑事部裁判長裁判官宮本孝文裁判官西﨑健児裁判官嶋田真紀

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