主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が原告に対し,平成10年11月26日付けでした被相続人Aに係る相続人B,同C及び同Dらの滞納した各相続税の連帯納付責任額の督促処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 前提事実(争いがない事実及び証拠等により容易に認定できる事実)(1) 原告の養父Aは,平成3年3月6日に死亡し,原告及びB,C,D,E,F,Gの7名がその相続人となった(以下,この相続を「本件相続」といい,これに係る相続税を「本件相続税」という。)。 (2) 原告は、本件相続税の法定納期限である平成3年9月6日,次のとおり記載した相続税申告書を被告に提出した。 ① 課税価格 3億7250万2000円② 納付すべき相続税額 2億2765万0500円(3) 原告は、相続税申告書の提出と同時に,上記相続税額を全額納付したが,他の共同相続人の課税価格に増額があったため,平成4年12月24日,他の共同相続人と共に修正申告書を次のとおり提出して,その増差税額等を全額納付した。 ① 修正増差税額 454万8700円② 過少申告加算税 45万4000円③ 延滞税 33万2300円(4) 原告は,上記修正申告書を提出した後,更に他の共同相続人の課税価格に増額があったため,平成6年10月18日,他の共同相続人と共に修正申告書を次のとおり提出して,その増差税額を全額納付した。 修正増差税額 100万9900円(5) 被告は,他の共同相続人であるB,C及びD(以下「Bら」という。)の本件相続税が滞納になっため,平成10年11月26日付けをもって原告に対し,「相続税法第34条第1項の規定により,他の相続人の相続税について,あなたが相続によって受けた利益の価額を限度と いう。)の本件相続税が滞納になっため,平成10年11月26日付けをもって原告に対し,「相続税法第34条第1項の規定により,他の相続人の相続税について,あなたが相続によって受けた利益の価額を限度として下記金額を納付する責任があります。」と記載して,1億3929万3436円の納付を督促する督促状を送付した(以下,この督促状を「本件督促状」といい,本件督促状による督促処分を「本件処分」という。)。 連帯納付責任額は,相続又は遺贈により取得した財産の価額(非課税財産の価額を含む)から,債務控除の額,固有の相続税納税義務額,登録免許税額を控除して算出されるところ,本件処分は,原告の取得財産の価額が3億7250万2536円(非課税財産はなし)であり,債務控除の額は0,原告の固有の相続税納税義務額は2億3320万円,登録免許税額は0として,連帯納付責任額を算出したものであった。 (6) 原告は,平成11年1月23日,本件処分を不服として被告に対して異議を申し立てたが,被告は,同年3月18日,これを棄却したので,原告は,同年4月19日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,同所長は,同年12月17日,これを棄却する旨の裁決をした。 (7) Bらに係る申告・納付・差押え等の経過は別紙1記載のとおりであり,Bらの滞納額の明細は別紙2記載のとおりである。 2 争点及び当事者の主張(1) 本件督促状の理由記載に不備があるか否か(争点1)(原告の主張)本件督促状には,「相続税法第34条第1項の規定により,他の相続人の相続税について,あなたが相続によって受けた利益の価額を限度として下記金額を納付する責任があります。」と付記されているにすぎず,本税1億3929万3436円と記載された算定根拠は何ら明示されていない。したがって,原告において他の共同相 けた利益の価額を限度として下記金額を納付する責任があります。」と付記されているにすぎず,本税1億3929万3436円と記載された算定根拠は何ら明示されていない。したがって,原告において他の共同相続人の誰が固有の納税義務の履行を怠っているのか,何故被告が他の共同相続人に対して法定納付期限である平成3年9月6日から7年2か月以上もの長期間を経過した時点においてなお滞納者に対する徴収手続をしていないのか等,その具体的理由が理解できないのであるから,被告の原告に対する連帯納付義務の徴収手続は明白かつ重大な瑕疵がある。 自己固有の相続税を完納した相続人としては,他の相続人がそれぞれ負担した相続税を滞納したか否かについて,また,他の相続人がその負担した相続税を滞納した場合には自己も連帯納付義務を負担するものとして督促処分を受けることについての認識があるのは,極めて稀なことである。すなわち,納税保証人及び第二次納税義務者と違って,滞納が生じた場合の納税義務の履行責任を予め認識してはいないから,単に相続税の申告書を提出し,申告書において自己のみならず,他の相続人の相続財産の価額やその納付税額について知悉していたからといって,上記の具体的理由を記載せずに督促処分を行っても連帯納付義務者に対する不意打ちにならないとはいえない。殊に,本件のように法定納期限から7年2か月以上を経過したところからみても,被告が何故に本来の納税義務者が履行不能の状況に陥ったかの事情の詳細に触れることなく,本件督促状による記載の如き通告をもってした本件処分には,手続上,重大な瑕疵がある。 (被告の主張)国税通則法37条に定める督促をすべき納税者には,連帯納付義務者も含まれ(同法2条5号),督促状の書式は国税通則法施行規則5条1項の別紙第3号書式で定められている。本件におい る。 (被告の主張)国税通則法37条に定める督促をすべき納税者には,連帯納付義務者も含まれ(同法2条5号),督促状の書式は国税通則法施行規則5条1項の別紙第3号書式で定められている。本件において,被告は,原告に対し,当該書式に従って本件督促状を作成したものであり,原告が主張するような連帯納付責任額の算定根拠の明示は督促要件ではないから,原告の主張するような瑕疵はない。 保証人及び第二次納税義務者の納付義務は,本来の納税義務者の徴収不足等確定要件を充足したときに限って納税義務を負うもので,要件充足の判定は税務署長等に委ねられており,その判定によって新たな第二次納税義務等を負わされるものであることにより,告知の必要性があるのである。これに対し,連帯納付義務は,各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して法律上当然に生じるものであるから,連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではないと解されており(最三小判昭和55年7月1日・民集34巻4号535頁),連帯納付義務は保証人及び第二次納税義務者の納付義務とはその性格を異にしていることから,これらと同様には解されない。実質的にも,原告は,他の相続人らと共同して相続税の申告書を提出していることから(甲5),その申告書上で自己の相続財産の価額及び納付税額のみならず,Bらの相続財産の価額及び納付税額についても熟知しており,連帯納付義務者として自己の納付すべき金額を把握できていたのであるから,いわゆる不意打ちにも当たらず,何ら問題はない。 (2) 原告の連帯納付義務が時効消滅しているか否か(争点2)(原告の主張)被告が本件処分をしたのは,前記のとおり,本件相続税の法定納期限から7年2か月以上を経過した時であったから,原告の連帯納付の義務も法定納期限から5年の経過により時効に か(争点2)(原告の主張)被告が本件処分をしたのは,前記のとおり,本件相続税の法定納期限から7年2か月以上を経過した時であったから,原告の連帯納付の義務も法定納期限から5年の経過により時効により消滅した(国税通則法72条)。 原告は,Bら他の共同相続人が固有の納税額を完納したのか,あるいは,相続税の延納許可申請等をしたのかなど,Bらの納税の事情については全くこれを知る立場にないものであったから,原告においてこれに対応すべき法律上の救済手段はなく,徴収手続の段階で突如として他の共同相続人が負担した未納税額について滞納処分の執行を受けることは極めて過酷である。 したがって,他の共同相続人について生じた時効中断の効力は原告には及ばないと解すべきである。 (被告の主張)相続税法34条1項の連帯納付義務は,同法が相続税徴収の確保を図るために,相互に各相続人等に課した特別の責任であるが(前掲最判昭和55年7月1日),連帯保証類似の性質を有し,付従性を有するということができるから,民法457条1項の規定の趣旨に準じて,本来の納税義務者に対する時効中断事由は連帯納付義務者に対しても当然に効力を生じると解すべきである(前掲最判の原審である大阪高判昭和53年4月12日・行裁集29巻4号514頁参照)。 本件においては,別紙1に記載した申告,一部納付,相続税延納条件変更申請などの承認(国税通則法72条3項で準用する民法147条3号,国税通則法基本通達73条関係三,四),差押え(国税通則法72条3項で準用する民法147条2号)などの中断事由により,本来の納税義務者である共同相続人Bらの固有の納税義務についての時効が中断している。 (3) 原告が相続した預金債権が本件相続開始後に銀行のした相殺により減少したことにより,原告の連帯納付義務の限度が影響を受 義務者である共同相続人Bらの固有の納税義務についての時効が中断している。 (3) 原告が相続した預金債権が本件相続開始後に銀行のした相殺により減少したことにより,原告の連帯納付義務の限度が影響を受けるか(争点3)(原告の主張)原告の連帯納付責任は,原告が相続によって受けた利益の価額を限度とする。原告が遺産分割協議により取得した株式会社三和銀行梅田新道支店の定期預金債権(以下「本件定期預金」という。)6000万円は,被相続人が生前,同人の経営するダイレックスエンタープライズ株式会社(旧商号太源興業株式会社,以下「ダイレックス」という。)の三和銀行に対する借入金債務のために担保として質権設定をしていたところ,ダイレックスが平成5年7月19日破産したことにより,内金1885万1190円が相殺され,定期預金債権額が、4114万8810円に減額された。 原告が本件相続によって取得した本件定期預金は4114万8810円であるから,原告の課税価格は被告の算定した3億7250万2000円ではなく,3億5365万0810円であり,原告の納付すべき相続税額の変更を行うべきであった。 原告が固有の相続税納税額について上記相殺によって消滅した本件定期預金につき,たまたま相続税の更正の請求をしていなかったことから,相続税法34条1項の「当該相続に因り受けた利益の価額に相当する金額を限度とする」という規定の解釈に差異があるものとはいえない。 (被告の主張)相続税法34条1項に規定する「相続又は遺贈に因り受けた利益の総額」とは,相続又は遺贈により取得した財産の価額(同法12条1項各号及び21条の3第1項各号に掲げる課税価格計算の基礎に算入されない財産の価額を含む)から,同法13条の規定による債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税 価額(同法12条1項各号及び21条の3第1項各号に掲げる課税価格計算の基礎に算入されない財産の価額を含む)から,同法13条の規定による債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した金額をいうものとする(相続税法基本通達34条関係一)とされている。 そうすると,原告の主張は,原告の主張する相殺額が,同法13条1項に規定する債務と認められることが前提となる。この点につき,同法14条1項は,「前条の規定によりその金額を控除すべき債務は,確実と認められるものに限る」と規定しているところ,この「確実と認められる債務」とは,相続開始時の現況により,債務の存在のみならず履行が確実と認められる債務をいうと解される(相続税法基本通達14条関係一参照)。しかるに,保証債務は,保証人において将来現実にその債務を履行するか否か不確実であるばかりか,仮に将来その債務を履行した場合でもその履行による損失は,法律上主たる債務者に対する求償権の行使によって補填され,原則として「確実と認められる」債務に当たらない。したがって,保証債務をもって債務控除を受けるためには,主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならない場合であって,かつ,主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合という限定的な場合に限られるものと解されるところ,原告はこの点につき何ら主張しておらず,原告の相続税額を減額すべきとの主張は理由がなく,本件処分に係る連帯納付責任額に誤りはない。 仮に,更正の請求なしにその後の相殺によって納付すべき相続税額が変更されるとする原告の主張を認めるならば,逆に,担保債務を履行した損害が求償権の行使によって補填されないことが確実と認められる債務になる時期が不明であり,控除すべき金額が被告 納付すべき相続税額が変更されるとする原告の主張を認めるならば,逆に,担保債務を履行した損害が求償権の行使によって補填されないことが確実と認められる債務になる時期が不明であり,控除すべき金額が被告に分からない結果,督促ができないという事態が生じてしまう。 (4) 延滞税についても督促しているのは適法か(争点4)(原告の主張)本件処分は,本件相続税の本税のみならず,法定納期限である平成3年9月6日の翌日から完済までの期間の延滞税についても原告から徴収する旨の内容となっているが,相続税法34条1項にいう相続税は,本税のみを意味し,これに対する延滞税を含まないから,原告から延滞税を徴収することはできない。 (被告の主張)延滞税は,納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり(国税通則法15条3項6号),その額の基礎となる税額の属する税目の国税とされている(同法60条4項)。したがって各税法中「・・税」と規定されている場合には,特別の定めがない限りその税の延滞税を含むものであり,相続税法34条1項に定める連帯納付義務に係る相続税については,本税のみを指すとか延滞税を除くとかの特別の定めはないから,同項の相続税には延滞税が含まれる。 (5) 本件処分が信義則に違反し,又は国税徴収権の濫用となるか(争点5)(原告の主張)Bらがなお負担する未納税額は,徴収すべき相続税の当初分の滞納額が多額を占めており,被告が当初分の相続税の延納条件変更申請を再三にわたり許可したこと自体,今日に至って本件相続における課税した各人の相続税の徴収不能を生じた原因というべきであり,連帯納付責任の規定をもって,徴収不能の事態を招いた責任を原告に転嫁することは信義則に反し,許されない。 相続税法39条6項は,税務署長は,延納の許可を 続税の徴収不能を生じた原因というべきであり,連帯納付責任の規定をもって,徴収不能の事態を招いた責任を原告に転嫁することは信義則に反し,許されない。 相続税法39条6項は,税務署長は,延納の許可を受けた者のその後の資力の状況の変化等により当該許可に係る条件により延納を認めることが適当でないと認める場合においては,その者の弁明を聴いた上,その許可を取り消し,又は延納期間の短縮その他延納の条件の変更をすることができると規定しているほか,同法40条2項は,税務署長は,延納の許可を受けた者が延納税額の滞納その他延納条件に違反した場合には,その延納の許可を取り消すことができる旨を規定している。これらの延納許可の取消規定からみても,被告がBら3名に対して再三にわたって延納条件変更を許可したことは,当初の相続税延納申請の許可処分をした平成4年10月30日以降次第に全国の商業地及び住宅地の地価下落傾向が続き,延納申請に係る担保の評価にも大きな変動があって担保力の不足を生じていた状況にかんがみると,相続税の確実な徴収の確保という見地に照らし,裁量権の行使に著しい注意義務違反があった。これにより,被告は,Bらから本来適切に徴収すべき時期を失し,この間に同人らの資力は急速に低下した。にもかかわらず,Bらの滞納税額を原告から徴収するのは信義則に反するし,原告が固有の相続税の全額を完納していることからすると,公平の原則にも反する。 (被告の主張)連帯納付義務の確定は,相続人らの固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して,法律上当然に生じるものであり(前掲最判昭和55年7月1日),本来の納税義務者に対する延納条件変更許可は,何ら同条項を適用する上での要件ではない。 また,相続税法は,第4章で「申告及び納付」と題し,原則として金銭による一括納付(同法 昭和55年7月1日),本来の納税義務者に対する延納条件変更許可は,何ら同条項を適用する上での要件ではない。 また,相続税法は,第4章で「申告及び納付」と題し,原則として金銭による一括納付(同法33条)を規定したのに続いて,連帯納付の義務(同法34条)を規定し,延納制度については,別途,第6章で「延納及び物納」と題し,例外的な納付手段の一つとして規定(同法38~40条)していることからみても,連帯納付の義務の発生・確定に延納制度が全く関係ないことは明らかである。 更に,相続税法34条1項は,連帯納付義務は当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度としており,この点において,国税通則法8条の特則をなすものであるが,相続税法34条1項は,各相続人らに対し,その納付義務の重なり合う範囲内においては,互いに連帯して当該相続税を納付すべき義務を課しているものであって,この納付義務の履行については,民法上の連帯債務ないし連帯保証債務と同様に,国税債権者である国との関係では補充性はないものと解される結果,第二次納税義務や納税保証債務のように,本来の納税義務者に対する滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合に限って納税義務を負担するものではない。 こうした連帯納付義務の性格に照らせば,信義則違反又は国税徴収権の濫用と評価すべき場面は極めて限定される。本来の納税義務者が現に十分な財産を有し,同人から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず,同人又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に相続税の徴収を行わなかったというような状況が認められるなら格別,本件においてはそのような状況も認められず,信義則違反又は国税徴収権の濫用には当たらない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1について前記のとおり,本 なかったというような状況が認められるなら格別,本件においてはそのような状況も認められず,信義則違反又は国税徴収権の濫用には当たらない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1について前記のとおり,本件督促状には,本件処分の理由として「相続税法第34条第1項の規定により,他の相続人の相続税について,あなたが相続によって受けた利益の価額を限度として下記金額を納付する責任があります。」とのみ記載されていた事実が認められ,原告は,本件督促状の理由記載に不備があると主張する。 しかしながら,本件処分は国税通則法37条に基づくものであるところ,同法には,本件処分につき理由を付すべき旨の明文の定めがないばかりか,同法施行規則5条1項別紙第3号書式(同法125条,同法施行令43条により,同法の委任を受けている。)は,督促状の書式につき理由を付記すべき欄を設けていない。また,相続税法34条1項の連帯納付義務は,相続人又は受遺者の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して法律上当然に確定するもので(最高裁昭和53年(行ツ)第86号同55年7月1日第三小法廷判決・民集34巻4号535頁),国税通則法36条は連帯納付義務につき納税の告知を要するものとしていない。更に,本件処分につき,行政手続法第3章(不利益処分)の規定の適用は除外されているから(国税通則法74条の2第1項),不利益処分について理由を示さなければならないとした行政手続法14条の適用はない。 以上によれば,本件処分については法令上理由付記は要求されていないものと解すべきであるから,上記の理由記載に違法は認められない。 2 争点2について相続税法34条1項は,相続人が二人以上ある場合に,各相続人に対し,自らが負担すべき固有の相続税の納付義務のほかに,他の相続人等の固有の相続税の納付義務に 違法は認められない。 2 争点2について相続税法34条1項は,相続人が二人以上ある場合に,各相続人に対し,自らが負担すべき固有の相続税の納付義務のほかに,他の相続人等の固有の相続税の納付義務について,相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として互いに連帯納付義務を負わせている。この連帯納付義務は,相続税法が相続税徴収の確保を図るために,相互に各相続人等に課した特別の責任であり(前掲最判昭和55年7月1日参照),本来の納税義務者以外の者に納付義務を負わせるものである点において,納税保証債務(国税通則法50条6号)や第二次納税義務(国税徴収法32条)に類似するが,補充性を有しない点においてこれらと性質を異にする。本来の納税義務者が負う納付義務とこれについて他の相続人が負う連帯納付義務との関係は,主たる債務と連帯保証債務との関係に類似し,連帯納付義務は,本来の納税義務者の納付義務に対して付従性を有すると解される。したがって,本来の納税義務者について生じた時効中断の事由は,連帯納付義務者についても効力を生じると解するのが相当である。 前記のとおり,本件においては,別紙1に記載した申告,一部納付,相続税延納条件変更申請などの承認(国税通則法72条3項で準用する民法147条3号,国税通則法基本通達73条関係三,四),差押え(国税通則法72条3項で準用する民法147条2号)などの中断事由が生じているものと認められる。 すなわち,Bについては,同人固有の相続税について,平成7年8月28日に相続税延納条件変更申請書(乙1,2)を提出したことにより,連帯納付責任額の法定納期限である平成3年9月6日から5年を経過していない時点で時効は中断し,その後,この中断時から5年を経過していない平成10年10月20日付けの担保物処分のための滞納 とにより,連帯納付責任額の法定納期限である平成3年9月6日から5年を経過していない時点で時効は中断し,その後,この中断時から5年を経過していない平成10年10月20日付けの担保物処分のための滞納処分による参加差押え(乙3の1,2)により時効は中断している。 次に,Cについては,同人固有の相続税について,平成6年8月25日に相続税特例物納申請書及び相続税延納条件変更申請書(乙4,5)を提出したことにより,連帯納付責任額の法定納期限である平成3年9月6日から5年を経過していない時点で時効は中断し,その後,この中断時から5年を経過していない平成10年10月20日付けの担保物処分のための滞納処分による参加差押え(乙6)により時効は中断している。 更に,Dについては,同人固有の相続税について,平成7年4月13日に相続税延納条件変更申請書(乙7)を提出したことにより,連帯納付責任額の法定納期限である平成3年9月6日から5年を経過していない時点で時効は中断し,その後,この中断時から5年を経過していない平成10年10月20日付けの担保物処分のための滞納処分による差押え及び参加差押え(乙8の1,2)により時効は中断している。 したがって,原告の連帯納付義務について消滅時効は完成していない。 3 争点3について証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によると,(1) 被相続人は,三和銀行に対し,債務者をダイレックス(当時の商号は太源興業株式会社)とする6000万円の債務について,担保提供者を被相続人とする平成2年7月27日付け定期預金担保差入証(以下「本件担保差入証」という。)を差し入れたこと,(2) 本件担保差入証には,「担保提供者は,上記債務について,この預金の元利金を限度として債務者と連帯して保証債務を負担します。」と記載されていること,(3) 入証」という。)を差し入れたこと,(2) 本件担保差入証には,「担保提供者は,上記債務について,この預金の元利金を限度として債務者と連帯して保証債務を負担します。」と記載されていること,(3)原告は,平成3年9月4日に成立した本件相続に係る遺産分割協議により,本件定期預金(6000万円)を取得し,名義を被相続人から原告に変更したこと,(4) 原告は,平成5年4月12日及び同年5月7日に本件定期預金からそれぞれ2000万円を解約し,同年5月7日付けで,三和銀行に対し,債務者をダイレックスとする2000万円の債務について,担保提供者を原告とし,「担保提供者は,上記債務について,この預金の元利金を限度として債務者と連帯して保証債務を負担します。」と記載された担保差入証を差し入れたこと,(5) ダイレックスは,平成5年7月19日,破産宣告を受けたこと,(6) 三和銀行は,同年8月25日,原告に対し,担保権を実行し,1885万1190円を同銀行のダイレックスに対する債権に充当する(以下「本件充当」という。)旨の通知をしたことがそれぞれ認められる。 ところで,相続税法34条1項の定める連帯納付義務は,「相続又は遺贈に因り受けた利益の価額」に相当する金額を限度とする旨規定されている。これは,連帯納付義務に基づく負担額が相続又は遺贈により受けた利益の額を超えないこと,すなわち,自己の固有財産を持ち出してまでこの義務を負担する必要はないことを意味するものと解される。そして,相続又は遺贈により受けた利益の額は相続開始時を基準として確定されるべきものであるから,相続税法基本通達34条関係一が,ここにいう「相続又は遺贈に因り受けた利益の価額」につき,相続又は遺贈により取得した財産の価額(同法12条1項各号及び21条の3第1項各号に掲げる課税価格計算の ら,相続税法基本通達34条関係一が,ここにいう「相続又は遺贈に因り受けた利益の価額」につき,相続又は遺贈により取得した財産の価額(同法12条1項各号及び21条の3第1項各号に掲げる課税価格計算の基礎に算入されない財産の価額を含む。)から,同法13条の規定による債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した金額をいうものとする旨定め,同法13条の規定による債務控除の額につき,同法14条1項が「前条の規定によりその金額を控除すべき債務は,確実と認められるものに限る」と規定しているのを受けて,相続税法基本通達14条関係一が,ここにいう「確実と認められる債務」とは,相続開始時の現況により,債務の存在のみならず履行が確実と認められる債務をいう旨定めているのは,いずれも相当であると解される。 原告らは,本件充当により,原告の相続した本件定期預金が減少したから,本件処分は本件充当の額を減じてされるべきであった旨主張するが,上記認定事実によれば,本件充当は,被相続人の保証債務を原告が承継したことに基づき行われたものであると認められるところ,本件相続開始時点において,上記保証債務を履行せざるを得なくなることや,求償権の行使により出捐額の回収を図ることができないことが確実であったとは認められない。そうすると,上記保証債務を相続又は遺贈により受けた利益の価額から控除することはできないというべきである。 4 争点4について被告の主張するとおり,延滞税は,納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり(国税通則法15条3項6号),その額の基礎となる税額の属する税目の国税とされている(同法60条4項)から,特別の定めがない相続税法34条1項に定める連帯納付義務に係る相続税については, る国税であり(国税通則法15条3項6号),その額の基礎となる税額の属する税目の国税とされている(同法60条4項)から,特別の定めがない相続税法34条1項に定める連帯納付義務に係る相続税については,延滞税が含まれることは明らかである。 5 争点5について相続税法34条1項の連帯納付義務は,本来の納税義務者の納付義務と連帯して負う義務であり,租税債権者である国は,本来の納付義務者と連帯納付義務者のいずれから徴収することもできるものであるから,本来の納税義務者からの徴収手続を怠ったからといって,直ちに連帯納付義務の存否や範囲に影響が生じるものではない。もっとも,連帯納付義務は,前記のとおり,相続税徴収の確保を図るために課された特別の責任なのであるから,本来の納税義務者が現に十分な財産を有し,同人から固有の相続税の徴収を図ることが極めて容易であるにもかかわらず,租税債権者である国が同人又は第三者の利益を図り,あるいは連帯納付義務者に損害を与える目的をもって,恣意的に,本来の納税義務者からの徴収を行わず,連帯納付義務者に対してその義務の履行を求めたという事情の存する場合は,国税徴収権の濫用といい得る。 しかしながら,乙1,2,5及び弁論の全趣旨によると,本件において,Bらが別紙1のように延納申請等を繰り返したのは,いわゆるバブル経済の崩壊に伴い不動産価格が下落し,かつ,将来の不動産価格の動向が予測し難かったために不動産の売却が予定どおり進まず,納税資金の捻出が困難であることを理由とするものであったことが窺われ,被告がこれら延納申請等を許可するに当たり,Bら又は第三者の利益を図り,あるいは連帯納付義務者である原告に損害を与える目的をもって,恣意的に,Bらからの徴収を行わず,原告に対してその義務の履行を求めたという事情は認められない。 した り,Bら又は第三者の利益を図り,あるいは連帯納付義務者である原告に損害を与える目的をもって,恣意的に,Bらからの徴収を行わず,原告に対してその義務の履行を求めたという事情は認められない。 したがって,この点に関する原告の主張も理由がない。 第4 結語以上によれば,原告の本訴請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部裁判長裁判官山下郁夫裁判官青木亮裁判官畑佳秀
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