平成18(う)161 殺人,強姦致死,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年4月22日 広島高等裁判所 破棄自判 山口地方裁判所 平成11(わ)89
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判決文本文65,200 文字)

- 1 -主文第一審判決を破棄する。 被告人を死刑に処する。 理由 本件控訴の趣意は,検察官渋谷勇治提出の検察官都甲雅俊作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,差戻前の控訴審(以下「差戻前控訴審」という)弁護人定者吉人作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。検察官の論旨は,第一審判決の量刑が著しく軽きに失して甚だしく不当であるというのである。 なお,本件は上告審から差し戻された事件であり,当審において,検察官および弁護人は,公判手続の更新の際,検察官井越正人および同仁田良行連名作成の「公判手続の更新に関する意見書」ならびに弁護人安田好弘(主任),同本田兆司,同足立修一,同井上明彦,同大河内秀明,同河井匡秀,同小林修,同新川登茂宣,同新谷桂,同中道武美,同松井武,同村上満宏,同山崎吉男,同山田延廣および解任前の弁護人今枝仁連名作成の更新意見書記載のとおりそれぞれ意見を述べたほか,検察官加藤敏員および同仁田良行連名作成の弁論要旨ならびに今枝仁を除いた上記弁護人14名および弁護人岩井信,同石塚伸一,同岡田基志,同北潟谷仁,同田上剛,同舟木友比古,同湯山孝弘連名作成の弁論要旨記載のとおりそれぞれ弁論を行った。そこで,これらの主張をも合わせて検討することとする。 本件の審理経過等は以下のとおりである。 (1)平成11年4月14日夜,原判示の<A>方(以下「被害者方」という)居間の押入および天袋の中から,同人の妻である<B>(以下「被害者」という)および両名の長女である<C>(以下「被害児」という)の死体が発見- 2 -され,母子殺害事件として本件の捜査が開始された。被疑者として浮上した被告人は,同月18日,任意同行された山口県<R>警察署において,被害者および被害児を殺害したことを認め,これら殺人の - 2 -され,母子殺害事件として本件の捜査が開始された。被疑者として浮上した被告人は,同月18日,任意同行された山口県<R>警察署において,被害者および被害児を殺害したことを認め,これら殺人の被疑事実により逮捕された。そして,被告人は,引き続き勾留されて取調べを受け,少年であったことから,同年5月9日,殺人,強姦致死,窃盗保護事件として山口家庭裁判所に送致された。同裁判所は,被告人につき観護措置をとった上,同年6月4日,少年法20条により事件を検察官に送致する旨の決定をし,同月11日,山口地方裁判所に本件公訴が提起された。 (2)第一審の山口地方裁判所は,被告人が,同年4月14日午後,美人な奥さんと無理矢理にでもセックスをしたいと思い,原判示の<D>アパートを10棟から7棟にかけて,順番に排水検査を装って各室の呼び鈴を押して回り,同日午後2時20分ころ,同アパート7棟の被害者方を訪ね,排水検査を装ったところ,被害者に招じ入れられたことなどから,被害者方において,同日午後2時30分ころ,被害者を強姦しようと企て,同女の背後から抱きつき,同女を仰向けに引き倒して馬乗りになるなどの暴行を加えたが,同女が大声を出して激しく抵抗したため,同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し,仰向けに倒れている同女に馬乗りになった状態で,その頚部を両手で強く絞めつけ,同女を窒息死させて殺害した上,強いて同女を姦淫し(原判示第1),同日午後3時ころ,被害児が激しく泣き続けたため,これを聞きつけた付近住民が駆け付けるなどして上記犯行が発覚することを恐れるとともに,泣き止まない同児に激昂して,その殺害を決意し,同児を床に叩きつけるなどした上,同児の首に所携の紐を巻き,その両端を強く引っ張って絞めつけ,同児を窒息死させて殺害し(同第2),同日午後3時 ともに,泣き止まない同児に激昂して,その殺害を決意し,同児を床に叩きつけるなどした上,同児の首に所携の紐を巻き,その両端を強く引っ張って絞めつけ,同児を窒息死させて殺害し(同第2),同日午後3時ころ,被害者管理の現金約300円および地域振- 3 -興券約6枚(額面合計約6000円相当)等在中の財布1個(物品時価合計約1万7700円相当)を窃取した(同第3)旨,本件公訴事実と同旨の事実を認定した。そして,本件の罪質,身勝手かつ短絡的な動機,残忍かつ冷酷な犯行態様,結果の重大性,遺族の峻烈な被害感情,社会的影響の大きさ等を併せ考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大であり,死刑を,,選択することも十分検討されるべきであるとしながらも①各殺害行為は事前に周到に計画されたものとはいえないこと,②被告人は,犯罪的傾向,,が顕著であるとはいえないこと③犯行当時18歳と30日の少年であり内面の未熟さが顕著であること,④家庭環境が不遇で生育環境において同情すべきものがあること,⑤被告人なりの一応の反省の情が芽生えるに至ったものと評価できること,⑥矯正教育による改善更生の可能性がないとはいい難いことなどを酌量すべき事情として摘示し,過去の裁判例との比較検討をも踏まえ,極刑がやむを得ないとまではいえないとして,被告人を無期懲役に処した。 (3)第一審判決に対し,検察官が,量刑不当を理由に控訴を申し立てたところ,差戻前控訴審裁判所は,被告人の刑事責任には極めて重大なものがあり,本件は,被告人を極刑に処することの当否を慎重に検討すべき事案であるとしながら,第一審判決が摘示した上記1(2)①ないし⑥の酌量すべき事情についての判断を含め,第一審判決の量刑を是認して,検察官の控訴を棄却した。 (4)これに対し,検察官が上告を申し立て,最高裁判所は がら,第一審判決が摘示した上記1(2)①ないし⑥の酌量すべき事情についての判断を含め,第一審判決の量刑を是認して,検察官の控訴を棄却した。 (4)これに対し,検察官が上告を申し立て,最高裁判所は,概要以下のとおり説示して,被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑を是認した差戻前控訴審判決は,刑の量定が甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するとして,差戻前控訴審判決を破棄し,死刑の選択を- 4 -回避するに足りる特に酌量すべき事情があるかどうかにつき更に慎重な審理を尽くさせるため,本件を当裁判所に差し戻した。 ア死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責がまことに重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択をするほかないものといわなければならない。被告人の罪責はまことに重大であって,特に酌量すべき事情がない限り,死刑の選択をするほかないものといわざるを得ない。 イ差戻前控訴審およびその是認する第一審判決が酌量すべき事情として掲げる事情のうち,上記1(2)①②④⑤については,死刑回避を相当とするような特に酌むべき事情と評価することはできない。 結局のところ,斟酌するに値する事情といえるのは,被告人が犯行当時18歳になって間もない少年であり,その可塑性から,改善更生の可能性が否定されていないということに帰着すると思われるところ,少年法(平成12年法律第142号による改正前のもの。以下同じ)51条の趣旨に徴すれば,この点は,死刑を選択すべきかどうかの判断に当たって相応の 定されていないということに帰着すると思われるところ,少年法(平成12年法律第142号による改正前のもの。以下同じ)51条の趣旨に徴すれば,この点は,死刑を選択すべきかどうかの判断に当たって相応の考慮を払うべき事情ではあるが,死刑を回避すべき決定的な事情であるとまではいえず,総合的に判断する上で考慮すべき一事情にとどまる。差戻前控訴審判決およびその是認する第一審判決が酌量すべき事情として述べるところは,これを個々的にみても,また,これらを総合してみても,いまだ被告人につき死刑を選択しない事由として十分な理由に当たると認めることはできず,差戻前控訴審判決が判示する理由- 5 -だけでは,その量刑判断を維持することは困難である。 ウ以上によれば,差戻前控訴審判決は,量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく,被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑を是認したものであって,その量刑は甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 そこで,当裁判所は,上告審判決を受け,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の有無について慎重な審理を尽くすべく,12回の公判を開いて事実の取調べ等をした。 ところで,被告人は,捜査段階の当初を除いて,第一審公判終了まで,強姦および殺人の計画性を争ったほかは,一貫して,本件公訴事実を全面的に認めていた。そして,差戻前控訴審においては,6期日にわたり被告人質問が行われたにもかかわらず,犯行自体については全く質問がされなかった。 また,上告審においても,公判期日が指定される以前は,裁判所や弁護人に対し,本件公訴事実を争うような主張や供述をしていなかったことが窺われる(以下,被告人の捜査段階, いては全く質問がされなかった。 また,上告審においても,公判期日が指定される以前は,裁判所や弁護人に対し,本件公訴事実を争うような主張や供述をしていなかったことが窺われる(以下,被告人の捜査段階,第一審公判および差戻前控訴審公判における各供述を総称して「被告人の旧供述」ともいう)。 ところが,被告人は,当審公判で,本件各犯行に至る経緯,被害者および,,,被害児に対する各殺害行為の態様殺意強姦および窃盗の犯意等について旧供述を一変させ,以下のとおり,本件公訴事実を全面的に争う内容の供述をした(以下「被告人の新供述」ともいう)。すなわち,被告人が,被害者方,,を訪れる前に<D>アパートの10棟から7棟にかけて戸別訪問をしたのは人との会話を通じて寂しさを紛らわせるなどのためであり,強姦を目的とした物色行為ではなかった,被害者を見て,同女を通して亡くなった実母を見- 6 -ており,母親に甘えたいなどという気持ちから,被害者に背後から抱きついた,同女の頚部を両手で絞めつけたことはなく,仰向けの状態の同女の上になり,その右胸に自分の右頬をつけた状態で,同女の右腕を自分の左手で押さえ,自分の頭より上に伸ばした右手で同女の身体を押さえていたところ,同女が動かなくなり,見ると,右手が逆手の状態で同女の首を押さえている状態であった,混乱した状態の中,被害児の母親である被害者を殺めてしまったなどという自責の念から,右ポケット内に入れていたこての紐を自分の左の手首と指に絡めるようにし,右手で引っ張って締め,自傷行為をしていたところ,被害児が動かない状態になっているのに気が付いた,被害児の首を絞めたという認識はない,被害者に生き返って欲しいという思いから姦淫行為に及んだ,被害者方に持っていった布テープ(本件記録中には「ガムテープ」という表示と「布 なっているのに気が付いた,被害児の首を絞めたという認識はない,被害者に生き返って欲しいという思いから姦淫行為に及んだ,被害者方に持っていった布テープ(本件記録中には「ガムテープ」という表示と「布テープ」という表示が混在しているが,以下すべて「布テープ」と表示する)と間違えて,被害者の財布を被害者方から持ち出,,した被害者および被害児に対する殺意も強姦および窃盗の犯意もなかったというのである。 以上のとおり,被告人の新供述は,旧供述とは全く異なる内容であるところ,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の有無を検討するに当たり,被告人が,本件各犯行をどのように受け止め,本件各犯行とどのように向き合い,自己のした行為についてどのように考えているのかということが,極めて重要であることは多言を要しない。そこで,当裁判所は,被告人の新供述の信用性を判断するための証人尋問や,被告人の精神状態および心理状態に関する証人尋問等も行った。 本判決においても,まず被告人の供述を概観した上で,その信用性について検討する(以下,証拠に付したかっこ内の甲乙または当審検の数字は第一- 7 -審または当審の検察官請求証拠番号,当審弁の数字は当審の弁護人請求証拠番号である。なお,証拠については,謄本,写しの表示を省略する。)。 被告人の新供述に至るまでの供述経過は,概略以下のとおりである。 (1)被告人が本件で逮捕された当日である平成11年4月18日付けの被告人の警察官調書(乙1)には,被告人が,被害者方で,被害児を抱かせてもらっていて,同児を床に落としたところ,被害者が,わざと落としたのだろう,警察に通報すると言って,電話の方に行こうとしたので,これを阻止しようと同女を倒して上に乗り,左手で首を絞め続けた,その際,作業服に入れていたカッターナイフ ころ,被害者が,わざと落としたのだろう,警察に通報すると言って,電話の方に行こうとしたので,これを阻止しようと同女を倒して上に乗り,左手で首を絞め続けた,その際,作業服に入れていたカッターナイフが床に落ち,それを同女が取ったので,「」,,やられるかも分からんと思って同女の首を力一杯絞め続けたところ同女が息をしなくなった,その時,被害児は死んでいたようだったので,大人がやったようにみせようと思い,ベランダ近くにあった紐で同児の首を絞めて結んだ,大人の犯行のようにしようと思って,被害者の服を切ったり,ズボンやパンツを脱がしたり,同女の陰部に自分の陰茎を入れようとして陰部に当てたら射精したなどと記載されている。 ところがその翌日に作成された被告人の同月19日付け検察官調書(乙,15)には,被害者をレイプしようとしたところ,激しく抵抗されたことから,黙らせるために同女の首を手で絞めて殺し,その後,レイプして射精した,被害児が激しく泣き続けたので,このままでは近所の人が来ると思い,黙らせるために同児の首を紐で絞めて殺した,昨日刑事の前で話したときは,レイプ目的という卑劣な理由で殺したということは,人間としてどうしても言えず,また,レイプ目的ということを言うと,罪がとても重くなるという気持ちがあり,殺した本当の理由が言えなかった,本当のことを早く話して罪の償いをしたいという気持ちがあり,<O>検事(検察官<- 8 -O> のことである)からも,正直に話すことが本当の償いであると言われ〕たこともあって,本当のことを話そうと決心したなどと記載され,被告人の同月20日付け警察官調書(乙3)には,警察官調書(乙1)に記載された供述は嘘であり,美人の奥さんと話したい,顔を見たい,レイプしたいと,,,いうのが本当だった昨日の朝から本当 され,被告人の同月20日付け警察官調書(乙3)には,警察官調書(乙1)に記載された供述は嘘であり,美人の奥さんと話したい,顔を見たい,レイプしたいと,,,いうのが本当だった昨日の朝から本当のことを話そうと思っていたが昼から山口に行くことになり,初めて検事(<O>検察官)の前に座って,検事から「亡くなった2人のためには本当のことを話すことが2人への報いになるよ」と言われ,レイプ目的でアパートへ行き,殺してしまったことを話した,刑事にも本当のことを話しておかなければいけないので,今からあの時のことを話すと前置きした上で,本件公訴事実を認める内容の供述が記載されている。そして,それ以降作成された被告人の捜査段階の供述調書には,供述のニュアンスや細かな点について多少の変遷はあるものの,本件公訴事実自体については一貫して認める供述が記載されている。 なお,強姦が計画的なものであったか否かについて,家庭裁判所から検察官に事件送致された後に作成された被告人の同年6月10日付け検察官調書(乙32)には,本件当日昼過ぎころ自宅を出た後,<D>アパートの3棟に向かう途中,セックスしたい,近所のアパートを回って美人の奥さんでもいれば話をしてみたい,セックスができるかもしれない,作業着を着ているので,工事か何かを装えば,知らない家を訪ねても怪しまれないだろう,押さえつければ無理矢理セックスができるかもしれない,布テープを使って縛れば抵抗されずにセックスができる,カッターナイフを見せれば怖がるだろうと考え始めたが,まだ,本当にそんなにうまくセックスなんてできるだろうかという半信半疑のような状態であった,その後,排水検査を装って回っているうち誰も怪しまなかったため,段々と,これはいけ- 9 -る,本当に強姦できるかもしれないと思うようになった,被害者 るだろうかという半信半疑のような状態であった,その後,排水検査を装って回っているうち誰も怪しまなかったため,段々と,これはいけ- 9 -る,本当に強姦できるかもしれないと思うようになった,被害者を強姦しようという思いが抑えきれないほどに強くなったのは,同女に部屋の中に入れてもらってからであるなどという供述が記載されている。 (2)被告人は,山口家庭裁判所での審判期日において,本件殺人,強姦致死,窃盗の各事実は間違いない旨述べた。 (3)被告人は,第一審において,本件公訴事実を全面的に認める供述をした。すなわち,罪状認否において,本件公訴事実について「いずれも間違いありません。ご家族の方と遺族の方に大変申し訳ないことをしたと思っています」と陳述し,被告人質問において,殺害および強姦の計画性は否認したものの,本件公訴事実自体は認める供述をし,検察官による死刑求,「,,刑後の最終陳述においても<A>さん宅に作業員になりすまし侵入し<B>さんを殺してしまい,強姦してしまったこと,また,1歳にもなってないのに,はいはいして自分のお母さんのところに(中略)行こうとしていた<C>ちゃんを床に叩きつけたり,押入に入れたり,作業着のポケットに入っていた紐で首を・・・再婚して自分の本当の弟と認められない<P>とだぶってしまい,強く絞めてしまい,しかも癖とはいえ,蝶々結びしてしまい,申し訳ないと思います「母を亡くしたことにより,人が死ぬ悲し」みを知っていたはずですが,欲望の方が勝ってしまい,後先を考えずに行動した」などと陳述し,遺族に対する謝罪の言葉を述べた。 しかも,被告人は,逮捕の2日後に全面的に自白した経緯や心境等について,被告人質問において「逮捕された当初嘘をついていたときには,真」「,実を隠しているので重苦しかった話すこと 言葉を述べた。 しかも,被告人は,逮捕の2日後に全面的に自白した経緯や心境等について,被告人質問において「逮捕された当初嘘をついていたときには,真」「,実を隠しているので重苦しかった話すことによって自分が苦しいのがどんどん,どんどん苦しくなくなってきて(中略)刑事さんの<L>さんや<M>さんとか,すごく優しくしてくださったので,この人たちなら信じて- 10 -もいいやというふうに思えてきまして話すようになりました「三席検事」(<O>検察官のこと)から,言わんにゃあ楽にならんぞというふうな感じで言われ,三席検事の方に,事件の内容的には半分くらいしゃべり始めて,その次の日辺りから,やっぱり人を信じなければ始まらないし,やっぱりしゃべる気になったというのが本当です」(第一審第4回公判調書中の被告人供述調書136,278,279,289,290項。以下,公判調書と一体となる「,,,,被告人供述調書等の該当箇所を第一審第4回被告人136 290項」のように略記する)などと供述したほか,最終陳述においても,最初,4月18日に逮捕されたころ,まだ検事や刑事に反発して,嘘まで作って言ったり,反抗的態度を見せていたが,三席検事から,被害者の立場になるようにと言われ,本当のことを言えば楽になると言われ,その日か,。 ら被害者のために少しでもなるのならと思って努力したなどと陳述した(4)被告人は,差戻前控訴審においては,本件各犯行について供述していない。しかし,弁護人作成の答弁書および弁論要旨をみる限り,強姦の計画性の点を争うものの,第一審判決が認定した罪となるべき事実自体については争っていない。 ,,(5)上告審においても平成16年1月5日に提出された弁護人定者吉人同山口格之および同井上明彦連名作 性の点を争うものの,第一審判決が認定した罪となるべき事実自体については争っていない。 ,,(5)上告審においても平成16年1月5日に提出された弁護人定者吉人同山口格之および同井上明彦連名作成の答弁書をみる限り,第一審判決が認定した罪となるべき事実について争っていなかった。しかし,平成17年12月6日,公判期日が平成18年3月14日午後1時30分に指定さ,,,れた後同年2月28日弁護士安田好弘を弁護人に選任した旨の届出が同年3月3日,弁護士足立修一を弁護人に選任した旨の届出がそれぞれなされ,同月6日,弁護人定者および同井上から,弁護人を辞任する旨の届出がなされた(弁護人山口については,既に弁護人でなくなっていたこと- 11 -が窺われる)ところ,弁護人安田および同足立連名作成の同月7日付け弁論期日延期申請書には,被告人から,強姦の意思が生じたのは被害者を殺害した後であり,捜査段階および第一審の各供述は真実と異なるという申,,,,立てがあった旨記載されまた同弁護人らはその作成に係る弁論要旨弁論要旨補充書「弁論要旨補充書その2」および「弁論要旨補充書その,3」と題する各書面において,被害者および被害児に対する各殺害行為の態様は,第一審判決および差戻前控訴審判決が認定した事実と異なり,被告人には殺意も強姦の故意もないなどとして,差戻前控訴審判決には著しく正義に反する事実誤認がある旨主張した。そして,上告審に提出された被告人作成の同年6月15日付け上申書(当審検3。以下「本件上申書」,,という)にも被害者および被害児に対する各殺害行為の態様等についてこれら弁護人の主張と同趣旨の記載がある。 そこで,被告人の新供述の信用性について,以下検討する。 なお,弁護人は,第一審判決の事実認定を種々論難しているところ, に対する各殺害行為の態様等についてこれら弁護人の主張と同趣旨の記載がある。 そこで,被告人の新供述の信用性について,以下検討する。 なお,弁護人は,第一審判決の事実認定を種々論難しているところ,これは結局のところ,同判決が事実を認定するに当たり依拠した被告人の旧供述の信用性を批判し,ひいては被告人の新供述の方が信用できる旨を主張しているものと解されるので,これらの弁護人の主張についても本項で判断を示すこととする。 (1)上記3で概観したとおり,被告人は,逮捕の2日後に本件公訴事実を認める内容の供述をしてから,実に7年近くが経過して初めて,旧供述が,,真実ではないという供述をするに至ったのであり特に第一審においては殺人および強姦の計画性を争いつつも,本件公訴事実を全面的に認め,本件を自白した経緯や心境等についても,上記検察官調書(乙15)および警察官調書(乙3)と同趣旨の内容を公判廷で任意に供述していたものである。 - 12 -そして,被告人は,差戻前控訴審においても,強姦の計画性の点を除き,第一審判決が認定した罪となるべき事実を争わなかったところ,旧供述を翻し,弁護人に対し新供述と同旨の供述を始めたのは,上告審が公判期日を指定した後のことである。 (2)被告人は,当審公判において,旧供述が記載された供述調書の作成に応じた理由,第一審公判で真実を供述できなかった理由,旧供述を翻して新供述をするに至った理由等について,詳細に供述しているところ,その核心部分は,以下のとおり要約することができる。 ア平成11年4月19日の<O>検察官による取調べにおいて,被害者とセックスしたことを,自分はレイプと表現せず,エッチな行為をしたと話していたところ,同検察官から,被害者が,抱きつかれて抵抗したということは,被告人とセックスをしたくなか る取調べにおいて,被害者とセックスしたことを,自分はレイプと表現せず,エッチな行為をしたと話していたところ,同検察官から,被害者が,抱きつかれて抵抗したということは,被告人とセックスをしたくなかったわけだから,死後にセ,,ックスしているのはレイプであると決めつけられ言い合いになったがレイプ目的がなかったと余りにも言い張るようであれば,自分にはそのつもりはないけれども,上と協議した結果,死刑という公算が高まってしまう,生きて償いなさいと言われて涙を流し,同検察官が作成した供述調書に署名した(当審第8回被告人21ないし23,151ないし157項)。<O>検察官から,本当のことを話すことが被害者らへの報いになると言われ,本当のことを話すというのは,検察官の言い分を認めることだと認識していた(同第8回被告人59ないし61,161ないし163項)。供述調書の重要性について認識しきれていなかったし,細かい事実関係の持つ意味も分からないままに取調べが行われた(同第8回被告人30,31項)。また,<Q>検事から,供述調書には,被告人が話した内容がそのまま記載されるものではなく,取調官の印象や感想が記載されるものだと教えら- 13 -れ,不服や言い足りない部分については,後で供述調書を作成してもらえると約束した。そのような約束があったので,殺すつもりがあった,強姦するつもりがあったという供述調書の作成に応じた(同第8回被告人34,35項,同第9回被告人504ないし507項)。捜査段階の供述調書には事実と異なる内容が記載されているが,レイプ目的でないのにレイプ目的だとねじ曲げられたところから,自分が見えない状況となり,取調官が,威圧的で,自分のことを理解しようという気持ちがなく,自分の言っていることを受け止めてくれるという感覚が抱けなかった( にレイプ目的だとねじ曲げられたところから,自分が見えない状況となり,取調官が,威圧的で,自分のことを理解しようという気持ちがなく,自分の言っていることを受け止めてくれるという感覚が抱けなかった(同第9回被告人165ないし168項)。そして,捜査官に押しつけられたり誘導さ,。 れたりして捜査段階の供述調書が作成されたことを種々供述しているイ第一審で真実を話すことができなかったのは,自分自身が事件を受け止めるだけのものができ上がっていなかったし,裁判は自分を素直に表現しにくい場であり,言い足りない部分もあったと思うし,自分自身をどこまで言い表していいかも分かっていなかったからである(当審第8回被告人295,297,320項)。結果的に人を殺めてしまっている事実や,姦淫している事実は,自分自身がしたことであり揺るぎがないので,公訴事実を認めているところもあり,殺害や強姦の態様等が裁判の結果に影響するという認識は全くなく,それらの事実の重要性にまで考えが及ばなかった(同第8回被告人259,260項)。また,初めて裁判所というものに臨むに当たって,緊張状態が大変高まっており,すごく不安な状態であったし,弁護人との事前の打合せが十分になされておらず,被告人質問で具体的に何を聞き何を答えるかについての打合せはなかった(同,第8回被告人220ないし223,257,258項)。弁護人に対し強姦するつもりはなかったと話したが,結果的にセックスしているわけだから,争う- 14 -と逆に不利になるなどと言われしっかりとは争ってもらえなかった(同,第9回被告人191ないし196項)。弁護人から,通常この事件は無期懲役だから,死刑になるようなリスクがある争い方はしない方がいいと言われた(同第8回被告人245,246項)。罪状認否については,その意 回被告人191ないし196項)。弁護人から,通常この事件は無期懲役だから,死刑になるようなリスクがある争い方はしない方がいいと言われた(同第8回被告人245,246項)。罪状認否については,その意味合い,,を全く聞いていなかったし説明が不十分であった(同第8回被告人236237項)。結果的に2人を殺めてしまっていることに変わりがないという認識を持っていたので,言い逃れのような気がして,弁護人に対し,殺すつもりがなかったという言葉を用いることができなかった。法律的な,,知識がなく殺すつもりがあったかどうかが大切なことだということは全く分かっていなかった(同第9回被告人186ないし190項)。姦淫した理由が性欲を満たすためと述べたのは,生き返らせようと思って姦淫したと言うと,ばかにされると思ったからである(同第8回被告人310ないし313項,同第9回被告人565ないし570項)。 ,,,ウ差戻前控訴審の弁護人に対し事実関係特に犯行態様や計画性等が第一審判決で書かれている事実とは違うことを伝えた(当審第8回被告人344項)。その中身全体ではなく,強姦するつもりはなかったというところを,どうにかしてもらえないかということを伝えた。同弁護人に対し,被害者方に入った後や被害者を殺害した後の時点でも,当初から一貫して強姦するつもりはなかったことを伝えた(同第9回被告人946ないし949項)。 エ平成16年2月から教誨を受けるようになり,教誨師に対し事件の真相を話した。そして,平成18年2月に安田弁護士および足立弁護士と初めて接見した際,安田弁護士から,事件のことをもう一度自分の口から教えて欲しいと言われ,被害者に甘えたいという衝動が出て抱きつい- 15 -てしまったこと,殺すつもりも強姦するつもりもなかったこと,右片手で押さ 安田弁護士から,事件のことをもう一度自分の口から教えて欲しいと言われ,被害者に甘えたいという衝動が出て抱きつい- 15 -てしまったこと,殺すつもりも強姦するつもりもなかったこと,右片手で押さえたこと,被害者にスリーパーホールドをしたことなどを話し,被害児に紐を巻いたことは覚えていないことなどを話した(当審第8回被告人395ないし428項)。安田弁護士から自分の供述調書を差し入れてもらい,事件記録を初めて読んで,余りにも自分を見てもらえていないことに憤りを覚えた(同第9回被告人443項)。そして,同年3月ころから,事実と向き合い,細かい経過を思い出して紙に書き表し,勘違いや見落としをその都度修正するという作業をし,同年6月から,本件上申書の作成を始めた(同第8回被告人435ないし446項)。 (3)しかし,旧供述を翻して新供述をするに至った理由等に関する被告人の当審公判供述は,以下に説示するとおり,不自然不合理である。 ア被告人の新供述と旧供述とは,事実の経過が著しく異なっており,被害者および被害児の各殺害行為の態様,殺意,強姦の犯意の有無等についても全く異なっている。したがって,本件各犯行についての被告人の新供述が真実であるとすれば,被告人は,自分の供述調書に記載された内容が,真に自分の体験したこととは似ても似つかぬものになっている,,ことを熟知していたはずであり自分の供述調書を差し入れてもらって初めて,その記載された内容が自分の経験と違っていることに気付くというようなことはあり得ない。 しかるに,本件公訴が提起されてから安田弁護士らが上告審弁護人に選任されるまでの6年半以上もの間,第一審弁護人,差戻前控訴審弁護人および上告審弁護人に対し,強姦するつもりがなかったということを除いて,新供述のような内容の話を1回もしたこと 士らが上告審弁護人に選任されるまでの6年半以上もの間,第一審弁護人,差戻前控訴審弁護人および上告審弁護人に対し,強姦するつもりがなかったということを除いて,新供述のような内容の話を1回もしたことがないというのは,余りにも不自然である。被告人は,第一審弁護人と接見した際,供述調- 16 -書を見せられ,ここが違う,ここが正しいという確認をされた旨供述しており(当審第8回被告人251項),しかも,検察官から,供述調書の不服な部分等について,後で供述調書を作成すると約束されたというのであるから,上記のように供述調書の内容を確認された機会に,旧供述が記載された供述調書の誤りを指摘し,新供述で述べているような内容の話をしなかったということは考えられない。 この点について,被告人は,教誨師と接触するまで人間不信のような状態であった,弁護人に真相を話して良いという権利の存在自体を知らなかった,上告審段階まで弁護人が非常に頼りない存在であると認識しており,相談したいことがあっても相談できない状態であったなどと供述している(当審第8回被告人430項,同第9回被告人943,945項)。 しかし,被告人は,第一審判決および差戻前控訴審判決の言渡しを受けた際,朗読される判決書の内容を聞いているほか,これらの判決書ならびに検察官作成の控訴趣意書および上告趣意書を読んで,犯行態様や動機について全く違うことが書かれているのは分かった旨供述している(当審第9回被告人939ないし942項)ことに照らすと,弁護人に対し,上記各判決で認定された事実が真実とは異なるなどとして,その心情を伝えたり,新供述で述べるような内容を話したりすることもなく,死刑を免れたとはいえ,無期懲役という極めて重い刑罰を甘受するということは到底考え難い。特に,定者弁護士は平成12年5月26日 その心情を伝えたり,新供述で述べるような内容を話したりすることもなく,死刑を免れたとはいえ,無期懲役という極めて重い刑罰を甘受するということは到底考え難い。特に,定者弁護士は平成12年5月26日に,山口弁護士は同年9月18日に,それぞれ差戻前控訴審の国選弁護人に選任され,さらに上告審においては,定者弁護士が平成14年4月8日,山口弁護士が同月22日,井上弁護士が同年11月27日に,それぞれ私選弁護人に選任されているところ,差戻前控訴審において国選弁護人であ- 17 -った弁護士2名が,いずれも上告審において被告人により私選弁護人として選任されていることに照らすと,被告人は,差戻前控訴審における定者弁護士および山口弁護士の弁護活動を通じて両弁護士を信頼したからこそ,上告審においても私選弁護人として選任したものと解される。 ,「」そして広島拘置所長作成の捜査関係事項照会書に係る回答についてと題する書面(当審検7)によれば,定者弁護士が差戻前控訴審の国選弁護人に選任された後の平成12年6月30日から平成17年12月6日に上告審で公判期日が指定されてその旨弁護人に通知された翌7日までの間,弁護人であった定者弁護士,山口弁護士または井上弁護士は,被告人と296回もの接見をしていることが認められる。しかも,被告人は,当審公判で,父親との文通が途絶え,差戻前控訴審および上告審の弁護人であった定者弁護士が,衣服,現金,生活必需品の差入れをしてくれるなど,親代わりになったような感覚であった旨供述しており(同第9回被告人222項),多数回の接見を重ねた同弁護士に対し,強姦するつもりはなかったという点を除いて,新供述で述べるような内容の話をしなかったというのは,まことに不自然である。また,被告人は,差戻前控訴審の弁護人に対し,被害者を殺害した た同弁護士に対し,強姦するつもりはなかったという点を除いて,新供述で述べるような内容の話をしなかったというのは,まことに不自然である。また,被告人は,差戻前控訴審の弁護人に対し,被害者を殺害した後の時点も含めて,当初から一貫して強姦するつもりがなかったことを伝えたというのであるが,そのような説明を受けた弁護人が,死刑の可否が争われている重大事件において,強姦の犯意を争わないということは,通常考えにくいことである。同弁護人作成の答弁書および弁論要旨をみても,強姦の計画性を争うのみであり,むしろ,強姦の犯意を生じたのは犯行現場においてであるという趣旨の主張が記載されているところ,そのような記載がされた理由について,被告人は,分からないと述べるにとどまっている(同- 18 -第9回被告人950項)。 なお,被告人は,差戻前控訴審において,定者弁護人に対し,強姦するつもりはなかったと言ってはいないとも供述している(当審第9回被告人200,201項)ところ,このように供述が変遷すること自体不自然である。 さらに,被告人が,公訴提起後6年半以上もの間,多数回にわたる接見にもかかわらず,弁護人に対し,新供述で述べるような内容の話をしたことがなかったのに,初めて接見した安田弁護士らから,事件のこと,。 を話すように言われるや新供述を話し始めたというのも不自然であるこの点について,被告人は,当審公判で,法律的な知識に乏しかったがために,これまで真相を語ることができなかったかのような供述もしている。 しかし,いかに法律的な知識に乏しかったとしても,第一審および差戻前控訴審の各判決書,控訴趣意書等に記載された事実は,被告人が当審で真実であるとして供述する内容と余りにも異なっていることに照らすと,公訴提起後6年半以上の長期にわたり,1回も弁護人に相 および差戻前控訴審の各判決書,控訴趣意書等に記載された事実は,被告人が当審で真実であるとして供述する内容と余りにも異なっていることに照らすと,公訴提起後6年半以上の長期にわたり,1回も弁護人に相談しなかった理由として,納得できるものとはいえない。 このような被告人の供述経過および弁護人との接見状況等にかんがみると,被告人が,上告審の公判期日が指定されるまで維持していた旧供述を翻したのは,まことに不自然である。 イ被告人は,生きて償いなさいと言ってくれた検察官がいたのに,第一審で検察官が死刑を求刑するのを聞いて,大変裏切られた感が否めず,ショックを受けた旨当審公判で供述している(当審第8回被告人334ないし336項)。 - 19 -被告人が,検察官から,生きて償うように言われて,事実とは異なる内容の供述調書の作成に応じたというのが真実であれば,死刑求刑は検察官の重大な裏切り行為であり,被告人が,事実とは異なる内容の旧供述を維持する必要は全くない上,弁護人に対し,検察官に裏切られたとして,事案の真相を告げ,その後の対応策等について相談するはずである。しかるに,弁護人は,弁論において,本件公訴事実を争わなかったし,被告人も,最終陳述において,本件公訴事実を認めて,遺族に対する謝罪の気持ちを述べたのであり,検察官に対する不満も何ら述べていない。しかも,被告人は,供述調書の内容について,不服や言い足りない部分については,後で訂正してもらえるという約束があったというのであるから,旧供述を撤回して新供述に訂正する供述調書の作成を求めたり,その旨弁護人に相談したりするなどの行動を取ってもよさそうであるのに,そのような行動に出た形跡もない。生きて償うように言われて,事実とは異なる内容の供述調書の作成に応じた旨の被告人の上記供述は,たやすく信用 人に相談したりするなどの行動を取ってもよさそうであるのに,そのような行動に出た形跡もない。生きて償うように言われて,事実とは異なる内容の供述調書の作成に応じた旨の被告人の上記供述は,たやすく信用することができない。 ウ被告人は,安田弁護人から事件記録の差入れを受け,初めて自分のした行為に直面し,自分というものを見てもらえていないことが分かって憤りを覚え,その後事実と向き合うようになった旨供述する(当審第8回被告人380ないし387項,同第9回被告人439ないし451項)が,自分の記憶に照らし,検察官の主張ならびに第一審判決および差戻前控訴審判,,決の各認定事実が自分が真実と思っている事実と異なっていることは容易に分かるはずであり,事件記録を精査して初めて分かるという性質のものではない。 エ以上のとおり,被告人の当審公判供述は,旧供述を維持してきた理由- 20 -としても,旧供述を翻して新供述をするに至った理由としても,不自然不合理なものである。被告人の供述が変遷した理由は納得し難い点が多いのであるが,本件事案の内容にかんがみ,さらに新供述の内容について各犯行ごとに検討する。 (4)被害者に対する殺害行為についてア第一審判決は,被告人が,仰向けに倒れた被害者に馬乗りになった状態で同女の頚部を両手で強く絞めつけて殺害した旨認定した。 これに対し,被告人は,当審公判で,被害者の頚部を両手で絞めつけたことはない旨供述しており,仰向け状態の被害者の上にうつ伏せになり,同女の右胸に自分の右頬をつけるようにし,同女の右腕を自分の左手で押さえ,自分の頭より上に伸ばした右手で同女の身体を押さえ,右半身に体重がかかるようにして両足で踏ん張っていたところ,同女は,徐々に力がなくなっていき動かなくなった,自分の上半身を上げて正面を見ると,自 ,自分の頭より上に伸ばした右手で同女の身体を押さえ,右半身に体重がかかるようにして両足で踏ん張っていたところ,同女は,徐々に力がなくなっていき動かなくなった,自分の上半身を上げて正面を見ると,自分の右手が被害者の首を押さえており,右手の人差指から小指までの4本の指と手の甲が見えるが,親指は見えない状態であり,その指先は左側を向いていた旨供述している。そして,この供述によれば,被告人は,逆手にした右手だけで被害者の頚部を圧迫して死亡させたということになる。 イしかし,この点に関する被告人の当審公判供述は,以下に説示するとおり,被害者の死体所見と整合せず,不自然な点がある上,旧供述を翻して以降の被告人の供述に変遷がみられるなど,到底信用できない。 (ア)被害者の死体を解剖した医師<E>作成の嘱託鑑定書(甲9),実況,,見分調書(甲6)ほか関係証拠によれば被害者の死体所見等について以下の事実が認められる(被告人の当審公判供述の信用性判断に必要- 21 -な限度で示す)。 被害者の右前頚部(以下,被害者の身体の部位や動きに関する左右の向きは被害者を基準とし,頭側を上,足側を下と表し,正中線と直角に交わる線の方向を水平方向と表すこととする)および側頚部全般は多数の溢血点を伴って高度にうっ血しており,その内部と周辺には4条の蒼白帯が認められる。すなわち,右前頚上部に水平やや右上り. ,. ,の幅約10センチメートル長さ約32センチメートルの蒼白帯その1.0センチメートル下方を上端とする幅0.8センチメートル以下,長さ約4.0センチメートルの蒼白帯,その下方にある上下方向の長さ4.5センチメートル,左右方向の長さ9.0センチメート. ,. ルのうっ血した部分の内部の上部に幅10センチメートル長さ60センチメートルのやや不鮮明 トルの蒼白帯,その下方にある上下方向の長さ4.5センチメートル,左右方向の長さ9.0センチメート. ,. ルのうっ血した部分の内部の上部に幅10センチメートル長さ60センチメートルのやや不鮮明な蒼白帯,更に下方の左右下頚部に弧状をなす幅1.3センチメートル,長さ約11センチメートルの蒼白帯(以下,上から順に「蒼白帯A」ないし「蒼白帯D」という)が認められる。被害者の前頚正中上部の1.5センチメートル×0.5センチメートル大の範囲に米粒大以下・多数の皮内出血(以下「皮内出血A」という。写真当審弁31 中のCの部分),その左方に1.5セン〔〕. 「」チメートル×10センチメートル大の表皮剥脱(以下表皮剥脱Bという),その0.2センチメートル下方を上端とする0.3センチメートル×0.8センチメートル大の表皮剥脱(以下「表皮剥脱C」という。表皮剥脱B,Cは同写真中のDの部分),さらに左側頚上部に1.2センチメートル×1.2センチメートル大の表皮剥脱(以下「表皮剥脱D」という。同写真中のEの部分)が認められる。左側頚部の6.0センチメートル×2.0センチメートルの縦長の範囲にも- 22 -多数の溢血点を伴ううっ血部(同写真中のFの部分)が認められる。 (イ)ところで,医師<F>および医師<G>は,それぞれの作成に係る鑑定書(当審弁6作成,8作成)および実験結果報告書(当審弁1〔<G>〔<F>〕〕 作成)ならびに当審公判で,被害者に対する殺害態様について,〔<F>〕被告人の旧供述は被害者の死体所見と矛盾し,被告人の当審公判供述は被害者の死体所見と一致している旨の判断を示している(以下,<F>または<G>が,それぞれの作成に係る鑑定書等および当審公判で示した判断のことを「<F>意見」または「<G>意見」ともい 審公判供述は被害者の死体所見と一致している旨の判断を示している(以下,<F>または<G>が,それぞれの作成に係る鑑定書等および当審公判で示した判断のことを「<F>意見」または「<G>意見」ともいう)。 しかし,逆手にした右手による頚部圧迫という殺害態様は,被害者の死体所見と整合しない。すなわち,被告人の当審公判供述を前提にすると,4条の蒼白帯は,上(被害者のあごの側)から下(被害者の胸側)に向かって順に右手の小指ないし人差指によってそれぞれ形成され,前頚正中部の左方にある表皮剥脱Bは,右手親指によって形成されたものと考えるのが最も自然である。そして,4条の蒼白帯等の正確な位置関係を認定するに足りる的確な証拠はないものの,嘱託鑑定書(甲9),実況見分調書(甲6)および同実況見分調書に添付された写,,真⑥を拡大した写真(当審弁31)等関係証拠によれば4条の蒼白帯はほぼ水平またはやや右上向きであり,親指に対応する表皮剥脱Bは,中指に対応すると考えられる蒼白帯Cよりも上に位置していると認めるのが相当である。そして,被害者は,窒息死したのであるから,ある程度の時間継続して相当強い力で頚部を圧迫されたことは明らかであるところ,被告人が,被害者の右前頚部から右側頚部にかけて,右手の人差指ないし小指の4本の指をほぼ水平または被告人から見てやや左上向きの状態にして,しかも,親指が中指よりも上の位置にくる- 23 -ような状態で,右逆手で被害者の頚部を圧迫した場合,かなり不自然な体勢となり,そのような体勢で,人を窒息死させるほど強い力で圧迫し続けるのは困難であると考えられる。医師<H>も,その作成に係る嘱託鑑定書(当審検2)および当審公判で,被告人が,逆手にした右手で頚部を圧迫した場合,右手親指による圧痕は,4条の蒼白帯の一番下である蒼白帯 は困難であると考えられる。医師<H>も,その作成に係る嘱託鑑定書(当審検2)および当審公判で,被告人が,逆手にした右手で頚部を圧迫した場合,右手親指による圧痕は,4条の蒼白帯の一番下である蒼白帯Dと同じ高さか,それよりも下に位置するはずである旨指摘している(以下,<H>が,その作成に係る鑑定書および当審公判で示した判断のことを「<H>意見」ともいう)。 なお,この点に関し,<F>意見によれば,被告人が,右手の親指を内側に曲げて,右逆手で被害者の頚部を押さえると,親指の爪の表面が,ちょうど表皮剥脱BとCに位置するというのである(当審第6回<F>109項,実験結果報告書当審弁13 に添付された写真6ないし8〔〕等)。しかし,そのような体勢で被害者の頚部を圧迫した場合,①被告人の右手親指にも圧力が加わり,力加減によっては,被告人自身が痛みを感じることになるため,窒息死させるほどの強い力で圧迫し続けることができるのか,いささか疑問であること,②被告人の右手の平は,間に右親指が挟まって,被害者の頚部とほとんど接触しないため,<H>も当審公判で供述する(同第10回<H>530項)ように,被告人の人差指に対応する蒼白帯Dの長さが約11センチメートルにも達することになるとは考えにくいことなどに照らすと,右手の親指を内側に曲げた形での右逆手による殺害行為が,被害者の死体所見と一致する旨の<F>意見は採用できない。 また,仮に,表皮剥脱Bが右手親指によって形成されたものでなかったとしても,右逆手による頚部圧迫という殺害態様は,被害者の死- 24 -体所見と整合しないというべきである。すなわち,既に説示したとおり,蒼白帯Dは,左右下頚部に弧状をなす幅1.3センチメートル,長さ約11センチメートルの蒼白帯であるところ,<E>が,その作成に係る嘱託 見と整合しないというべきである。すなわち,既に説示したとおり,蒼白帯Dは,左右下頚部に弧状をなす幅1.3センチメートル,長さ約11センチメートルの蒼白帯であるところ,<E>が,その作成に係る嘱託鑑定書(甲9)において,被害者の死体を解剖した所見等を,,踏まえ4条の蒼白帯が手指による圧迫により生起されたと考えると例えば,加害者が左手を被害者の右方に向けてあてがい,強く扼圧したために生起されたものとして,特別矛盾しない旨鑑定していること,,,に照らすと蒼白帯Dの弧の向きは上に凸であったとは考えにくく不鮮明ではあるが蒼白帯Dが撮影された写真(当審弁31),実況見分調書(甲6)添付の写真④⑥,実況見分調書(甲5)添付の写真16ないし18等をも総合すると,蒼白帯Dの弧の向きは,下に凸であるとみるのが。 ,,合理的であるそうすると実験結果報告書(当審弁13)添付の写真910,12のとおり,被告人が,右手を逆手にして,その親指と人差指がアーチ状となるような状態で,被害者の頚部を圧迫した場合,そのアーチ状の部位によって形成される蒼白帯Dの弧の向きが下に凸になるとは考えにくく,これが下に凸になるようにしようとすれば,相当に不自然な体勢を強いられることになるのであって,結局,被害者の死体所見と整合しないというべきである。 (ウ)被告人は,当審公判で,被害者の背後から抱きついて以降,同女が動かなくなり死亡していることに気付くまでの経過について,被害者と被告人のそれぞれの動きだけでなく,そのとき室内に置かれていたストーブの上にあったやかんやストーブガードの動きまでも含めて,極めて詳細に供述している。しかも,被害者を死に至らしめた頚部の圧迫行為については,その際の被告人の左手,足,視線の向き,- 25 -体重のかけ方等を具体的に供述して ブガードの動きまでも含めて,極めて詳細に供述している。しかも,被害者を死に至らしめた頚部の圧迫行為については,その際の被告人の左手,足,視線の向き,- 25 -体重のかけ方等を具体的に供述しているにもかかわらず,被害者の頚部を圧迫していたと思われる右手に関しては,感触すら覚えていないなどとして,曖昧な供述に終始しており,まことに不自然である。被告人が当審公判で供述するように,右手で被害者の頚部を押さえつけたとすれば,自分の手が被害者のあごの下や頚部に当たっていることは,その感触から当然に分かるはずである。特に,被告人が述べるような体勢で被害者の頚部を押さえつけたとすれば,床方向に向けて右手に力を加えることは困難であり,窒息死させるほどの力を加えるのであれば,自然と被害者のあごを下から頭部方向に押すようにして右手に力を加えることになると考えられるから,自分の右手が被害者の身体のどの部位に当たっているのか分からないということはあり得ない。 また,被告人が,当審公判で供述するような態様で,被害者を押さえつけて頚部を圧迫していたとすれば,同女は,左手を動かすことができたと考えられる上,被告人の当審公判供述によれば,被害者は徐,,々に力がなくなっていき動かなくなったというのであるからその間同女は,当然,その左手を用いて懸命に抵抗したはずである。被告人の供述する両者の位置関係からすれば,被害者は,容易に被告人の頭部を攻撃することができたのであるから,左手で頭部を殴るなり頭髪をつかんで引っ張るなりして,抵抗するはずであるにもかかわらず,被告人が,頚部を圧迫している間の被害者の動きについて,極めて曖昧にしか供述していないのも,まことに不自然である。 そもそも,被告人が当審公判で供述するような態様で被害者の頚部を圧迫した場合,被害者が激し が,頚部を圧迫している間の被害者の動きについて,極めて曖昧にしか供述していないのも,まことに不自然である。 そもそも,被告人が当審公判で供述するような態様で被害者の頚部を圧迫した場合,被害者が激しく抵抗すれば,窒息死させるまで頚部- 26 -を押さえ続けることは困難であると考えられる。被告人の新供述で述べられているような態様での殺害は,被害者が全く抵抗しないか,抵抗したとしても,それが極めて弱い場合でなければ不可能であるというべきである。そうすると,被告人は,被害者に実母を見ていたといっており,実母と同視していた被害者に対し,さしたる抵抗も攻撃も受けていないのに,窒息死させるほどの強い力で頚部を圧迫したということになるところ,これもまた極めて不自然な行動であるというほかない。 (エ)さらに,被告人の新供述は,右逆手による被害者の殺害状況について,合理的な理由なく変遷しており,不自然である。すなわち,本件上申書(平成18年6月15日付け)には,被害者が大声を上げ続けたため,その口をふさごうとして右手を逆手にして口を押さえたところ,同女がいつの間にか動かなくなっていた旨記載され(9頁),<I>作成の犯罪心理鑑定報告書(当審弁9)によれば,被告人は,平成18年12月から平成19年4月にかけて実施された<I>との面接においても,被害者が大声を上げたので,右手でその口を押さえた旨供述していたことが窺われる(同報告書21頁)。ところが,被告人は,当審公判では,被害者が声を出したかどうか分からない状態にあった(当審第2回被告人307ないし309項),右手の感触は覚えておらず,どこを押さえていたか分からない(同第2回被告人343ないし353項),被害者にとりついているものを押さえるような感覚であった(同第2回被告人340項),自分の親指が折 ,右手の感触は覚えておらず,どこを押さえていたか分からない(同第2回被告人343ないし353項),被害者にとりついているものを押さえるような感覚であった(同第2回被告人340項),自分の親指が折れ曲がっていたか,伸ばしていたかは分からない(同第3回被告人281,282項)旨供述しており,被害者の発声の有無,被告人の右手の動き等について,供述を変遷させている。 - 27 -被告人は,このような供述の変遷が生じた理由について,当審公判で,本件上申書の作成時には,頭の中で起こったことと,現実に起こったこととの区別がうまくできていない状態であり,頭の中で起こったことを本件上申書に記載した,<I>と会ってから,両者の区分けがしやすくなったものの,同人に対し,自分の頭の中で起こっていることについて,前置きをしないで説明してしまったなどと供述している(当審第9回被告人1ないし21,30ないし44,471ないし491項)。しか,,,し本件上申書を作成した時点で事件から7年以上が経過しておりこの間,被告人は,捜査官から詳細な取調べを受け,少年審判,第一審および差戻前控訴審の各審理を経ていたほか,弁護人とも多数回接見を重ねていたのであって,頭の中で起こったことと現実に起こったこととの区別がうまくできない状態であったというのは不自然極まりなく,被告人の上記説明は,到底納得のいく説明とはいい難い。 ウ弁護人は,逮捕当日に作成された被告人の警察官調書(乙1)には,その4頁の6行目から7行目にかけて「奥さんを倒して上に乗り,右手で」,,,首を絞め続けたのですと記載されているとしてこのとき被告人は「」,,被害者の頚部を右手で押さえた旨供述していたものでありこれは右逆手で押さえたという新供述と同じ供述であって,捜査段階の当初にも真実の たのですと記載されているとしてこのとき被告人は「」,,被害者の頚部を右手で押さえた旨供述していたものでありこれは右逆手で押さえたという新供述と同じ供述であって,捜査段階の当初にも真実の一部を語っていた旨主張する。 そこで検討するに,上記警察官調書は,司法警察員警部補<N>が,被告人から録取した供述内容を手書きして作成したものである。そして,<N>警部補が書いた「左」という文字には癖があり,特に弁護人指摘の箇所は「右手」と記載されているように読めないこともない。しかし,同警部補が手書きで作成した被告人の警察官調書4通(乙1ないし4)の- 28 -,,「」うち弁護人が指摘する上記箇所(その写しは別紙の①)のほかに左または「右」の文字が手書きされた箇所は「左」という文字が書かれ,た箇所が,警察官調書(乙1)には1箇所(9頁2行目。その写しは別紙の②),警察官調書(乙2)には2箇所(7頁13行目,15頁9行目。その写しは別紙の④⑤),警察官調書(乙4)には1箇所(2頁10行目。その写しは別紙の⑨)あり「右」という文字が書かれた箇所が,警察官,調書(乙1)には1箇所(10頁3行目。その写しは別紙の③),警察官調書(乙2)には3箇所(15頁9行目,17頁1行目,20頁8行目。その写しは別紙の⑤⑥⑦),警察官調書(乙3)には1箇所(10頁2行目。 その写しは別紙の⑧),警察官調書(乙4)には3箇所(6頁8行目,6頁9行目,7頁1行目。その写しは別紙の⑩⑪⑫)あるところ,同警部補の書く「右」という文字にははっきりとした特徴があり,これらの手書きされた文字を比較対照すれば,弁護人指摘の警察官調書(乙1)の上記箇所は「右手」と記載されているのではなく「左手」と記載されて,,いることが明らかである。被告人は,逮捕された当初か れらの手書きされた文字を比較対照すれば,弁護人指摘の警察官調書(乙1)の上記箇所は「右手」と記載されているのではなく「左手」と記載されて,,いることが明らかである。被告人は,逮捕された当初から,被害者の頚部を左手で絞めた旨供述していたものである。被告人が,捜査段階の当初にも,被害者の頚部を右逆手で押さえたという新供述と同じ供述をしていた旨の弁護人の主張は前提を欠いている。 エ第一審判決は,被告人の旧供述と関係証拠とを総合して事実を認定しているところ,弁護人は,<F>意見および<G>意見等に依拠して,第一審判決が認定した被害者の殺害行為の態様について,被害者の死体所見と矛盾があるなどとして,第一審判決は,殺害行為の態様を誤認しており,ひいては殺意を認定したのも事実の誤認である旨主張している。 しかし,被告人の旧供述と被害者の死体所見との間に矛盾があるとは- 29 -いえないのであって,以下に説示するとおり,被告人の旧供述は信用でき,したがって,被害者の殺害行為の態様および殺意の認定に当たり,第一審判決は事実を誤認していない。 (ア)被告人が旧供述で述べる殺害行為の態様について,<F>意見または<G>意見は,①両手による扼頚であるというのに,被害者の左側頚部に被告人の右手指に対応する創傷がなく,被害者の頚部の創傷は左右非対称であること,②左手を順手にして扼頚したというのに,被害者の左側頚部等に被告人の左手親指に対応する創傷がないこと,③4条の蒼白帯のうち,最上部の蒼白帯Aの長さが約3.2センチメートルと最も短く,最下部の蒼白帯Dの長さが約11センチメートルと最も長いことに照らすと,左順手で圧迫したとは考えにくいことなどを指摘して,被告人の旧供述にある殺害行為の態様は,被害者の死体所見と矛盾する旨判断している。 しかし,①の点 が約11センチメートルと最も長いことに照らすと,左順手で圧迫したとは考えにくいことなどを指摘して,被告人の旧供述にある殺害行為の態様は,被害者の死体所見と矛盾する旨判断している。 しかし,①の点については,被告人の旧供述によれば,被告人は,左手の上に右手の平を重ねて置いて,被害者の頚部を絞めつけたというのであるから,その際の被告人の両手の重ね方や被害者の頚部との位置関係,被告人の両手に対する力のかかり方,被害者の体勢等によっては,被告人の右手が被害者の頚部に直接接触することはないと考えられるから,蒼白帯も含めて右手指に対応する創傷が,被害者の頚部に形成されなかったとしても,何ら不自然ではない。 ②の点について検討するに,たしかに,左順手により被害者の頚部を圧迫したのであれば,通常,同女の左側頚部に左手親指に対応する創傷が形成されると考えられる。 しかし,以下に説示するとおり,被告人の左手親指による圧迫行為- 30 -によって,被害者の左側頚上部(左下顎部)にある表皮剥脱Dが形成されたと推認することもできるから,被告人の左手親指に対応する創傷が,被害者の左側頚部等に形成されていないとしても不自然とはいえない。すなわち,被告人の検察官調書(乙24)には,被告人は,腰を浮かせ,被害者の喉を左手でつかむようにし,その上に右手の平を重ねて置き,全体重をかけて両手で握り込むようにしながら,同女の首を絞め上げたところ,同女の両手がパタッとカーペットに落ち,首もカクッと被告人から見てやや左に向けて倒れ,同女が動かなくなった旨記載されており,被告人は,捜査段階で犯行を再現した際にも,ほぼこの供述のとおりの状況を再現している(実況見分調書甲214 添付の〔〕写真9ないし18等参照)。そして,被害者の首が倒れた向きに加え,被告人の小指に対応する 査段階で犯行を再現した際にも,ほぼこの供述のとおりの状況を再現している(実況見分調書甲214 添付の〔〕写真9ないし18等参照)。そして,被害者の首が倒れた向きに加え,被告人の小指に対応する蒼白帯Dが,同女の右前頚部から右側頚部にかけて形成されていることも併せ考えると,同女は,被告人に頚部を圧迫されていた際,やや右側を向いていたことも十分考えられるというべきである。そうすると,被害者の顔がやや右向きであるのに伴って,左側頚上部が被告人の左手親指によって圧迫され,そこに被告人の体重がかかり表皮剥脱Dが形成されたことも十分考えられること,<H>意見は,表皮剥脱Dが,その位置,大きさ,形からして,被告人の左手親指による強い圧迫・擦過により形成されたと判断していること(嘱託鑑定書当審検2の鑑定事項③等)などを総合すると,表皮剥〔〕脱Dは,被告人の左手親指によって形成されたと推認しても不合理ではない。したがって,被告人の左手親指に対応する創傷が,被害者の左側頚部等に形成されていないことをもって,不自然であるということはできない。 - 31 -③の点について検討するに,<E>は,4条の蒼白帯について,これを含めた死体所見に基づき,加害者が左手を被害者の右方に向けてあてがい,強く扼圧したために生起されたものとしても,特別矛盾しない旨鑑定している。そして,<E>作成の嘱託鑑定書(甲9)ほか関係証拠を精査しても,4条の蒼白帯の位置・大きさ・形状・弧の向き等を正確に特定することは困難であることにかんがみると,<E>が,被害者の死体を解剖し,直接見分した所見に基づいて鑑定した内容こそ,最も信頼できるものというべきである。また,<H>意見も,左順手で頚部を握るように強く圧迫した場合,手は縦軸,横軸ともにアーチ型,,,に湾曲し親指と小指 分した所見に基づいて鑑定した内容こそ,最も信頼できるものというべきである。また,<H>意見も,左順手で頚部を握るように強く圧迫した場合,手は縦軸,横軸ともにアーチ型,,,に湾曲し親指と小指の圧迫が特に強くなるため小指による圧迫は指だけでなく,手掌小指側(尺骨側)辺縁の圧迫が加算され,蒼白帯の長さが11センチメートルになって当然であると判断している(嘱託鑑定書当審検2の鑑定事項③等)。さらに,既に説示したとおり,〔〕被告人が,左順手で被害者の頚部を圧迫した際,左手親指が被害者の左側頚上部(左下顎部)を圧迫していたのであり,同女の左側頚上部と被告人の左手親指との位置関係等によっては,被告人の左手親指に強い力が加わる一方で,左手親指の付け根等と被害者の頚部等との間に隙間が生じるなどして,左手人差指に加わる力が弱くなることも十分考えられる。そうすると,4条の蒼白帯のうち,被告人の左手人差指に対応する蒼白帯Aの長さが最も短く,小指側に向かうにつれて蒼白帯の長さが長くなったことも,合理的に説明することが可能である。 以上の次第であるから,左順手による圧迫行為と4条の蒼白帯の所見とが整合しない旨の<F>意見および<G>意見を十分考慮しても,被告人の旧供述に述べられた被害者の殺害行為の態様が,被害者の死体- 32 -所見と矛盾しているとはいえない。 なお,被告人による犯行再現状況を見分した結果が記載された実況見分調書(甲214)に添付された写真(番号9ないし13等)には,被告人が,両手で被害者の頚部を絞めた状況を再現している様子が撮影されているところ,たしかに,その撮影された扼頚の態様には,<F>意見および<G>意見が指摘するとおり,被害者の死体所見と整合しない点がある。しかし,被告人が,ある程度の時間被害者の頚部を絞め続けたことは るところ,たしかに,その撮影された扼頚の態様には,<F>意見および<G>意見が指摘するとおり,被害者の死体所見と整合しない点がある。しかし,被告人が,ある程度の時間被害者の頚部を絞め続けたことは明らかであり,被害者は,この間,必死で抵抗したと推認できることに照らすと,<H>も当審公判で供述するとおり(当審第10回<H>147ないし149,159項),時間的経過とともに,被害者の首の位置を含めた体勢が動いたり,被告人の両手の位置が動いたりして,最終的な扼頚行為が,上記犯行再現状況と異なっていたことも十分考えられる。しかも,被告人は,捜査段階において,被害者の顔を見るのが怖くて,下を向きながら,必死で同女の首を絞め続けた旨供述している(検察官調書乙24 )ことに照らすと,被告人は,扼頚行為の最終段〔〕階では,被害者の頚部や自分の手を見ていなかったと認められることも併せ考えると,上記犯行再現状況に被害者の死体所見と整合しない点があっても,被害者の殺害行為の態様に関する第一審判決の事実認定に疑問を生じさせるものとはいえない。 (イ)<F>意見および<G>意見は,①被害者の前頚正中部に表皮剥脱等の創傷がない,②皮内出血Aと表皮剥脱Bが,正中線から等距離の位置にない,③食道外膜に出血がみられないなどとして,両手親指を被害者の喉仏付近に当て,指先が白くなるほど力一杯押さえつけたとい,。 う被告人の旧供述は被害者の死体所見と整合しない旨判断している- 33 -しかし,上記のとおり,被害者の前頚正中部には,1.5センチメートル×0.5センチメートル大の範囲に皮内出血Aがあり,その左方に1.5センチメートル×1.0センチメートル大の表皮剥脱Bがあるところ,<H>意見は,皮内出血Aおよび表皮剥脱Bが,その大きさ・形状等に照らし,それぞれ左手 ル大の範囲に皮内出血Aがあり,その左方に1.5センチメートル×1.0センチメートル大の表皮剥脱Bがあるところ,<H>意見は,皮内出血Aおよび表皮剥脱Bが,その大きさ・形状等に照らし,それぞれ左手親指の指先ないし右手親指の指先による圧痕と判断している。この<H>意見の判断は,合理的なものとして首肯することができる。上記①②の指摘は,被害者が,必死に抵抗して顔を左右に動かし,圧迫されるとき顔をやや右側に向けていた可能性があることを看過しており,必ずしも当を得ているとはいえない。また,被告人は,捜査段階において,両手親指により被害者の喉仏付近を圧迫したところ,被害者が足をばたつかせるなどして必死になって払いのけようとしたため,振り落とされそうになって床に左手をついた旨供述している(検察官調書乙24 )ことに照らすと,被害者〔〕の頚部を強い力で圧迫したのは,それほど長い時間ではなかったとも考えられ,表皮剥脱Bは生じたものの,食道外膜に出血がみられなかった(③の指摘)としても,死体所見と矛盾するとまではいえない。 (ウ)弁護人は,<F>意見に依拠して,被害者の左側頚上部(左下顎付近)に形成された表皮剥脱Dについて,被告人が,被害者に対し,その首に左腕を回すなどして絞め,プロレス技であるスリーパーホールドをした際に,被告人が着用していた作業服(当庁平成13年押第11号の45)の袖口ボタン(これは正確にいえばホックの片側であるが,本件では終始弁護人がボタンと表示していたので,便宜その表示を用いることとし,以下,単に「ボタン」という)によって形成された旨主張している。 - 34 -そこで検討するに,表皮剥脱Dは,直径が約1.2センチメートル,,,の類円形である(当審弁31の写真同32の添付写真12参照)ところ<F>意見によれば,表 れた旨主張している。 - 34 -そこで検討するに,表皮剥脱Dは,直径が約1.2センチメートル,,,の類円形である(当審弁31の写真同32の添付写真12参照)ところ<F>意見によれば,表皮剥脱Dは,類円形を呈し境界明瞭であることに照らすと,ボタンが作用して成傷された可能性が高いというのである(鑑定書当審弁84,5頁等)。しかし,当庁で押収した上記作業〔〕服をみると,ボタンおよびその裏側の金具(以下,単に「金具」という)は,いずれも円形をしているものの,その直径を計測すると,ボタンが約1.5センチメートル,金具が約1.0センチメートルであると認められ,いずれも表皮剥脱Dとは大きさが異なっている。ボタンおよび金具は,いずれも金属製の鈍体であるから,これらの鈍体によって被害者の左側頚上部が強い力で圧迫された場合に,これらの鈍体と大きさの異なる表皮剥脱Dが形成されたとは,通常考えにくい。 しかも,被告人は,当審に至って初めて,被害者に対しスリーパーホールドをし,同女の力が抜けた後,呆然としていたところ,背中辺りに強い痛みが走り,同女が光る物を振り上げていた旨供述したものである。この供述は,被告人が,まず最初に被害者に対し暴行を加えたにせよ,その後同女から攻撃されて,なりゆき上,反撃行為としてやむを得ず同女に対し更に暴行に及んだと主張することも可能な内容であるにもかかわらず,当審公判まで1回もそのような供述をした形跡がない。このような供述経過は不自然であり,この供述を信用することはできない。 したがって,表皮剥脱Dが,スリーパーホールドをした際にボタンによって形成された旨の弁護人の主張は,採用できない。 むしろ,表皮剥脱Dについて,<E>,<G>および<H>は,手指また- 35 -は親指による圧迫によって形成された,あるいは, をした際にボタンによって形成された旨の弁護人の主張は,採用できない。 むしろ,表皮剥脱Dについて,<E>,<G>および<H>は,手指また- 35 -は親指による圧迫によって形成された,あるいは,そのように考えても矛盾はない旨(嘱託鑑定書甲9の鑑定の項1の3,鑑定書当審弁〔〕〔6の鑑定事項1の①,嘱託鑑定書当審検2の鑑定事項③等),<F>〕〔〕〔〕も,親指によって生じたとの解釈も可能である旨(鑑定書当審弁8の4ないし6頁等) それぞれ判断していることに照らすと上記4(4),,エ(ア)のとおり,表皮剥脱Dは,被告人の左手親指により形成されたと推認するのが合理的である。 (エ)ところで,<F>は,自ら被告人に扮し,松井弁護人を被害者役として,被告人の旧供述および新供述に基づいて,被害者に対する頚部圧迫行為を再現し,松井弁護人の頚部等に被害者と同様の創傷が形成されるか否かについて実験したとして,その結果を記載した実験結果報告書(当審弁13)を作成し,この実験に基づき,被告人の旧供述のとおりに再現した頚部圧迫行為では,被害者の死体所見と矛盾する結果が得られた旨判断している。 しかし,被告人が,被害者の頚部を圧迫したときは,床に仰向けに倒れた被害者の上になって,頚部を圧迫したにもかかわらず,上記実験は,机くらいの高さの実験台の上に被害者役が仰向けになって行ったものであって,被告人および被害者の体勢や位置関係を正確に再現したものではない。しかも,頚部を圧迫した際も,余り力を入れると危険であるため,できるだけ無理のないように力を入れたに過ぎず,被害者の抵抗については考慮していないというのである(当審第6回<F>218ないし235,264ないし273項)から,原判示第1の犯行状況を正確に再現したものとはいい難く,第一審判決の たに過ぎず,被害者の抵抗については考慮していないというのである(当審第6回<F>218ないし235,264ないし273項)から,原判示第1の犯行状況を正確に再現したものとはいい難く,第一審判決の事実認定に疑問を生じさせるようなものではない。 - 36 -(オ)そのほか,弁護人が,被害者に対する殺害行為の態様について,被告人の旧供述は信用できず,これに依拠して事実を認定した第一審判決には事実の誤認があるとして指摘する諸点を逐一検討しても,被告人の旧供述に,他の証拠と矛盾する点はなく,これに依拠した第一審判決に事実の誤認はない。 (5)被害者に対する強姦行為についてア第一審判決は,被告人が,被害者を強姦しようと企て,同女の背後から抱きつくなどしたところ,同女が激しく抵抗したため,同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し,同女を殺害して強いて姦淫した旨認定したほか,強姦について計画性があった旨認定している。 これに対し,被告人は,当審公判で,性欲を満たすために被害者を姦淫したことや,強姦の犯意および計画性を否認する供述をした。すなわち,戸別訪問をしたのは,人との会話を通して寂しさを紛らわし,何らかのぬくもりが欲しかったからであり,強姦を目的として物色行為をしたものではない,被害者を通して亡くなった実母を見ており,お母さんに甘えたい,頭を撫でてもらいたいという気持ちから,被害者の背後から抱きついた,被害者が死亡していることに気付いた後,山田風太郎の「魔界転生」という小説にあるように,姦淫行為をして精子を女性の中に入れることによって復活の儀式ができると思っており,死体に精子を入れることで亡くなった人が生き返るという考えを持っていたから,被害者に生き返って欲しいという思いで同女を姦淫したなどと供述しているので,この供述の信用性 活の儀式ができると思っており,死体に精子を入れることで亡くなった人が生き返るという考えを持っていたから,被害者に生き返って欲しいという思いで同女を姦淫したなどと供述しているので,この供述の信用性について検討する。 イ被告人は,当審公判で,被害者を姦淫したのは,性欲を満たすためではなく,同女を生き返らせるためであった旨供述する。 - 37 -しかし,被告人は,被害者の死亡を確認した後,同女の乳房を露出させて弄び,さらに,同女の陰部に自己の陰茎を挿入して姦淫行為に及び射精しているところ,これら一連の行為をみる限り,被告人が,性的欲求を満たすため姦淫行為に及んだものと推認するのが合理的である。 しかも,被告人は,捜査段階のごく初期を除いて,姦淫を遂げるために被害者を殺害し,姦淫した旨一貫して供述していた上,第一審公判においても,性欲を満たすために姦淫行為に及んだ旨明確に供述した(第一審第4回被告人229,236ないし240項)ほか,屍姦にまで及んだ理由を問われて「怖いというより,そのときには,欲望の方が上だったと思います」と供述している(同第4回被告人228項)。また,被告人の新供述によれば,被告人は,被害者を姦淫した後すぐに同女の死体を押入の中に入れており,同女の脈や呼吸を確認するなど,同女が生き返ったかどうか確認する行為を一切していない(当審第3回被告人325ないし330項)というのであって,当審公判で,そのような確認行為をしなかった理由を問われて「分かりません」と供述するにとどまっている(同第3回被告人331,332項)。なお,被告人は,被害者が死亡した直後,布テープで同女の両手首を緊縛し,同女の鼻口部を布テープを貼ってふさぐなどしており,これは,被告人に同女の生き返りを願う気持ちがあったということにそぐわない行為であるとの感を 被害者が死亡した直後,布テープで同女の両手首を緊縛し,同女の鼻口部を布テープを貼ってふさぐなどしており,これは,被告人に同女の生き返りを願う気持ちがあったということにそぐわない行為であるとの感を免れない。 ,,このような被告人の一連の行動をみる限り被害者を姦淫した目的が同女を生き返らせることにあったとみることはできない。 ,,,なお被告人は第一審公判で上記のような供述をした理由について当審公判では,死者を生き返らせるという話をすると,ばかにされるのではないかと思い,性欲を満たすためであると言った方が受け入れても- 38 -,らいやすいと思ったなどと説明する(当審第8回被告人310ないし313項同第9回被告人565ないし570項)が,不自然不合理であり到底信用できない。 さらに,死亡した女性が姦淫されることによって生き返るということ自体,荒唐無稽な発想であって,被告人が,被害者の死体を前にして実,。 際にこのようなことを思いついたのか甚だ疑わしいというべきであるまた,そのようなことを思った根拠として被告人が挙げた「魔界転生」という小説では,一定の条件を備えた男性が,瀕死の状態にあるときに女性と性交することによって,その女性の胎内に生まれ変わり,後日,その女性の身体を破ってこの世に現れるというのであって,死亡した女性を姦淫して,その女性を生き返らせるというものとは相当異なっている。そして,死者が,女性の胎内に生まれ変わってこの世に現れるというのは「魔界転生」という小説の骨格をなす極めて重要な事項であっ,て,繰り返し叙述されており,実際に「魔界転生」という小説を読んだ者であれば,それを誤って記憶するはずがなく,したがって,その小説を読んだ記憶から,死んだ女性を生き返らせるために,その女性を姦淫するという発想が浮かぶこと り,実際に「魔界転生」という小説を読んだ者であれば,それを誤って記憶するはずがなく,したがって,その小説を読んだ記憶から,死んだ女性を生き返らせるために,その女性を姦淫するという発想が浮かぶこともあり得ないというべきである。 被害者を姦淫したのは,性欲を満たすためではなく,同女を生き返らせるためであったという被告人の当審公判供述は,到底信用できない。 ウまた,被告人は,当審公判で,被害者を通して亡くなった実母を見ており,お母さんに甘えたい,頭を撫でてもらいたいという気持ちから,被害者に背後から抱きついた旨供述している。 (ア)しかし,被害者に甘えるために抱きついたというのは,同女の頚部を絞めつけて殺害し,性的欲求を満たすため同女を姦淫したという- 39 -一連の行為とは,余りにもかけ離れているといわねばならない。 また,被告人の新供述によれば,被告人は,被害者の力が徐々になくなっていった後も,その前に気絶状態から覚めて反撃されていたので,力が抜けた状態を信じ切れなかったため押さえ続けたというのである(当審第2回被告人362ないし364項)が,いかに予期しない激しい抵抗を同女から受けたとしても,同女が死に至るほど強い力を同女に対し加え続けたというのは,同女を通して母親を見ていたということに照らすと,不自然である。 しかも,被告人は,捜査のごく初期の段階から,一貫して,強姦するつもりで被害者の背後から抱きついた旨供述しており,第一審公判においても,強姦しようと思った時期を問われ「2回目にペンチを,貸してもらった時点」と供述し(第一審第4回被告人92項),襲っても余り抵抗しないのではないかという考えから,被害者を襲ってしまった,多少抵抗を受けても強姦できると思い込んだ旨供述していたのである(同第4回被告人107ないし110項)。 ( 告人92項),襲っても余り抵抗しないのではないかという考えから,被害者を襲ってしまった,多少抵抗を受けても強姦できると思い込んだ旨供述していたのである(同第4回被告人107ないし110項)。 (イ)さらに,被告人は,当審公判で,玄関ドアを開けた被害者が左腕に被害児を抱いているのを見て,淡い気持ちを抱いた(当審第2回被告人90ないし97項,同第5回被告人250ないし259項等),被害児を抱いて座椅子に座っていた被害者から「ご苦労様」という趣旨の言葉を言われ,同女に甘えたい気持ちを抑えきれなくなり,同女に背後から抱きついた旨供述している(同第2回被告人23ないし79項)。 しかし,被告人は,捜査段階においては,玄関で応対した被害者が被害児を抱いていたとは一度も供述していない。被告人は,被害者方に入った後,トイレで作業をしているふりをしてから風呂場に行き,- 40 -そこを出たところで被害児を抱いて立っている被害者を見て,初めて同児の存在を知った,廊下において自分の方に向かってはって来た被,,害児を抱き上げ居間に入ると被害者が座椅子から立ち上がったので同児を床に降ろし,同女が同児を抱き上げようと前屈みになったとこ,ろを背後から抱きついた旨供述していた(検察官調書乙24 )のであり〔〕捜査段階での検証として犯行を再現した際も,同趣旨の指示説明をしている(検証調書甲211 )。そして,このような犯行前の経緯は,被〔〕告人が供述しない限り,捜査官が知り得ない事情であるのみならず,被告人の当審公判供述と対比して,犯罪の成否や量刑に格別差異をもたらすものではないのであるから,捜査官が,被告人のいう真実と異なる内容の供述を敢えて被告人に押しつける必要性に乏しいというべきである。また,被告人としても,このような事情について,真実で 異をもたらすものではないのであるから,捜査官が,被告人のいう真実と異なる内容の供述を敢えて被告人に押しつける必要性に乏しいというべきである。また,被告人としても,このような事情について,真実であるという新供述の内容を秘したまま,真実とは異なる内容の供述をする理由というのも考えられない。結局,犯行前の経緯に関する被告人の当審での上記供述は信用できない。被告人の供述経過等にも照らすと,被告人は,後述の母胎回帰ストーリーを補強するため,この点に関する捜査段階の供述を変遷させたのではないかということを疑わざるを得ない。 ,,(ウ)以上説示したとおり被害者を通して亡くなった実母を見ておりお母さんに甘えたいなどという気持ちから被害者に抱きついたという被告人の当審公判供述は,到底信用できない。 なお,少年調査記録(少年調査記録のうち証拠として取り調べたのは,鑑別結果通知書甲218 と少年調査票甲219 のみであるところ,〔〕〔〕本判決においては,この2通をまとめて「少年調査記録」として表示- 41 -する)には「赤ん坊を抱く被害者を懐かしいような甘えたいような気持ちで見たとも言い,自分と実母との関係の投影が窺われる」などと記載されており,この記載は,被告人が,被害者に実母を投影して甘えたいという気持ちを有していたことを窺わせるものではあるが,そのような気持ちを有していたとしても,被告人が,強姦することを決意して被害者に抱きついたという認定と矛盾するものとはいえないから,上記認定を揺るがすものではない。 エ被告人は,当審公判で,戸別訪問をしたのは,人との会話を通して,寂しさを紛らわし,何らかのぬくもりが欲しかったからであり,強姦を目的とした物色行為をしたのではない旨供述する(当審第5回被告人168項等)。 (ア)しかし,関係 をしたのは,人との会話を通して,寂しさを紛らわし,何らかのぬくもりが欲しかったからであり,強姦を目的とした物色行為をしたのではない旨供述する(当審第5回被告人168項等)。 (ア)しかし,関係証拠によれば,被告人は,各部屋を戸別に訪問した際,玄関で応対した住民に対し「<K>設備の者です。排水検査に来ました。トイレの水を流して下さい」などと言うのみで,その住民が,トイレに行き水を流して玄関に戻っても,会話しようという素振りもなく立ち去ったり,住民がトイレの水を流している間に,玄関に戻って来るのを待つことなく立ち去っていることが認められる。このような被告人の行動は,人との会話を通して寂しさを紛らわすために訪問した者の行動として,いささか不自然との感を免れない。そのように立ち去った理由について,被告人は,当審公判で,ゲーム感覚になっており,ロールプレーイングゲームの中で,登場人物が同じせりふしか言えないのと同じ状態で「<K>設備の者ですが,排水管の検査で,来ました。トイレの水を流して下さい」という一定の言葉しか紡げない状況下,機械的な感じで,すぐその場を離れるようになった旨供述- 42 -する(当審第5回被告人200項)が,人との会話を通して寂しさを紛らわすという当初の訪問目的とは相当趣旨が異なっている。 (イ)しかも,被告人は,第一審公判で,戸別訪問をしたのは,時間つぶしの目的で,誰か話し相手が欲しかった,仕事の服装で気取ってみたかった,女の人としゃべりたいというのはあったが,レイプをしようという気持ちはなかったなどと供述し,強姦の計画性を否認する供述をしていた(第一審第4回被告人90,93,186ないし210項)ものの,最終的には,戸別訪問を開始した時点で,半信半疑ながらも,強姦によってでも性行為をしたいなどと考え始めてい 画性を否認する供述をしていた(第一審第4回被告人90,93,186ないし210項)ものの,最終的には,戸別訪問を開始した時点で,半信半疑ながらも,強姦によってでも性行為をしたいなどと考え始めていたことを認める供述をした。すなわち,本件が山口家庭裁判所に送致される以前に作成された被告人の供述調書には,戸別訪問を開始した時点から強姦目的があった旨の供述が記載されていたところ,同裁判所が検察官送致決定をした後に作成された被告人の検察官調書(乙32)には,当初から強姦目的があった旨の上記供述を訂正して欲しいとした上で,戸別訪問を開始した時点では,強姦によってでも性行為をしたいなどと考え始めて,,,いたものの半信半疑のような状態であった戸別訪問をするうちに誰からも怪しまれなかったため,本当に強姦できるかもしれないと思うようになった,被害者を強姦しようという思いが抑えきれないほど強くなったのは,被害者方に入れてもらってからであるという趣旨の供述が記載されており,被告人は,第一審公判で,同検察官調書に記載された上記内容を認める趣旨の供述をした(同第4回被告人303ない。 ,,し307項) 第一審公判において強姦の計画性を争っていた被告人が供述を強制されることのない法廷で任意にした上記第一審の公判供述は,高度の信用性が認められるというべきであり,強姦については,- 43 -この供述で述べられた程度の計画性があったことは,動かし難い事実であって,これに反する被告人の上記当審公判供述は信用できない。 (ウ)また,被告人は,戸別訪問をする際こての紐(以下「こて紐」ともいう)を携帯しているところ,この点について,第一審判決は「量刑の理由」の項において,こて紐を携帯していた理由について「こての紐についても管の通しの見方である『下げ振り』のま 紐(以下「こて紐」ともいう)を携帯しているところ,この点について,第一審判決は「量刑の理由」の項において,こて紐を携帯していた理由について「こての紐についても管の通しの見方である『下げ振り』のまねをしようと思って持っていたとの被告人の供述が必ずしも不自然であると断じ得ない」と説示している。 しかし,鑑定書(甲79,85)等によれば,原判示第2の犯行で使用されたこて紐は,幅が約6ミリメートル,厚みが約4ミリメートル,長さが約93センチメートルの紐であることが認められる。そして,下げ振りは,細い糸の先端に先の方が逆円錐形をしたおもりをつけ,こ,,,れを垂らして鉛直をみる道具でありこて紐はその形状等からして下げ振りのまねをするだけであるとしても,先端におもりをつけて鉛直をみる道具として使用するのに適さないことは,明らかである。しかも,下げ振りのようにして使用するためには,こて紐の先端に取りつけるおもりが必要であるのに,被告人は,おもりを携帯していなかったのである。被告人は,当審公判で,父親の道具入れの中にあるおもりを使おうと思っていたが,まだ引っ越して間がなく,父親の道具が整理されていなかったため,その使用を断念し,落ちている石をくくりつけようかと思っていた旨供述している(当審第9回被告人854ないし858項)。しかし,関係証拠によれば,被告人の家族が,本件当時の住居である<D>アパート11棟11号に引っ越したのは,本件の1年以上前の平成10年1月のことであり,引っ越して間がないとは認- 44 -められないし,こて紐に石をくくりつけるのでは,下げ振りのまねになるとは考え難い。結局,下げ振りのまねをしようと思って,こて紐,,を持っていた旨の被告人の供述はそれ自体からして真実味がない上不自然でもあり,にわかに信用し難い。 ま のでは,下げ振りのまねになるとは考え難い。結局,下げ振りのまねをしようと思って,こて紐,,を持っていた旨の被告人の供述はそれ自体からして真実味がない上不自然でもあり,にわかに信用し難い。 また,被告人は,第一審公判で,検察官から,本件当日の昼に,布テープとこて紐を自宅に取りに帰ったのではないかと問われ,布テープは朝持ち出しているが,こて紐は,その時に取りに行ったと思う旨供述し,再度「こての紐は昼間取りに行ったの」と問われ「こての,紐はそうだと思います」と供述したものの,続けて,こて紐を取りに行った理由を問われて返答に窮し,こて紐は着衣のポケットの中に入れてあったと思う旨供述を変遷させている(第一審第4回被告人164ないし170項)。被告人は,この供述の変遷について,つられて言ってしまった旨供述する(同第4回被告人310,311項)が,検察官の質問と被告人の答えとをみる限り,被告人が,質問内容を勘違いしたり,質問,,,につられたりしたとは考えにくいのであり上記のとおり被告人が本件当時こて紐を携帯していた理由について,不自然な供述をしていることも考慮すると,本件当日の昼に,こて紐を自宅に取りに戻ったのかという検察官の質問に対し,被告人が,それを肯定する供述をしたのは,少なくとも,本件当日の昼に自宅を出るとき,こて紐を持ち出したことを認めたものとみるのが相当であるそうすると,被告人は,わざわざこて紐を持ち出して,戸別訪問をする際これを携帯していながら,その使用目的については納得のいく説明をしていないことに帰する。 したがって,こて紐について下げ振りのまねをしようと思って持っ- 45 -ていたとの被告人の供述が必ずしも不自然であると断じ得ないという第一審判決の上記説示は,是認することができない。 オところで,<I>は,そ 紐について下げ振りのまねをしようと思って持っ- 45 -ていたとの被告人の供述が必ずしも不自然であると断じ得ないという第一審判決の上記説示は,是認することができない。 オところで,<I>は,その作成に係る犯罪心理鑑定報告書(当審弁9)および当審公判で,本件は,強姦目的の事案すなわち性暴力ストーリーとして事実認定されているが,調査の結果,強姦目的の事案ではなく,母胎回帰ストーリーともいうべき動機が存在することが明らかになった旨の判断を示している(以下,これらにおいて示された<I>の判断のこと「」。 ,。 を<I>意見ともいう)その核心部分は以下のように要約できるすなわち,被告人は,実母の生存時の過度な自己愛充足と,同女の自殺による急激な自己愛剥脱の影響を受け,母子一体の世界(幼児的万能感)を希求する気持ちが大きい。被告人は,本件当日の昼,自宅に戻り,義母に甘えたものの,それが満たされずに自宅を出ることになったため,人恋しい気持ちに駆られ,自分を受け止めてくれる人との出会いを求め戸別訪問をした。そして,被告人を優しく部屋に招き入れてくれ,赤ん坊を抱く被害者の中に,自分の亡くなった母親の香りを感じ,母親類似。 ,の愛着的心情を投影したテレビの前に座る被害者の後ろ姿を見たとき甘え(人恋しい)を受け入れて欲しいという感情を抑えることができなくなり,背後から抱きついたところ,予期しない抵抗にあって平常心を失い,性的欲求の達成手段としてではなく,被害者の反撃に対する過剰反応として反撃した。被告人は,被害者の死をなかなか受け入れられず,最愛の母親と重なる女性を死なせたことに対する戸惑いは,被告人を非現実的な行為に導いた。それは,自分を母親の胎内に回帰させることであり,母子一体感の実現であり,被告人は,その行為に「死と再生」の 最愛の母親と重なる女性を死なせたことに対する戸惑いは,被告人を非現実的な行為に導いた。それは,自分を母親の胎内に回帰させることであり,母子一体感の実現であり,被告人は,その行為に「死と再生」の願いを託した,というのである。 - 46 -,,,しかし<I>意見は被告人の新供述に全面的に依拠しているところ既に説示したとおり,被告人の新供述中,人恋しさから戸別訪問をしたこと,玄関で対応した被害者が被害児を抱いていたこと,被害者に甘えたくて抱きついたこと,被害者を生き返らせるために同女を姦淫したことを供述する部分は,信用できないのであるから,<I>意見は,その前提を欠いており失当である。 なお,<I>意見は,少年調査記録に「赤ん坊を抱く被害者を懐かしいような甘えたいような気持ちで見たとも言い,自分と実母との関係の投影が窺われる」などと記載されていることを,母胎回帰ストーリーを裏付けるものとして引用する。 しかし,少年調査記録の記載は,被告人が,被害者の姿に実母を投影し,甘えたい気持ちを抱いていたことを窺わせる資料とはなり得ても,それを超えて,本件が,<I>のいう母胎回帰ストーリーなる動機に基づく犯行であったことを裏付ける資料とみることはできない。 カ弁護人は,第一審判決が,強姦の計画性があったと認定したことを論難し,強姦の計画性を否認する被告人の新供述は信用できる旨主張するので,この点に関連する<J>の見解にも言及しつつ付言する。 (ア)<J>は,その作成に係る精神鑑定書(当審弁10)および当審公判において,①強姦という極めて暴力的な性交は,一般的に性経験のある者の行為であり,被告人のように性交体験がなく,これまで性体験を強く望んで行動していたこともない少年が,突然,計画的な強姦に駆り立てられるとは考えにくい,②(あ)当初から強 は,一般的に性経験のある者の行為であり,被告人のように性交体験がなく,これまで性体験を強く望んで行動していたこともない少年が,突然,計画的な強姦に駆り立てられるとは考えにくい,②(あ)当初から強姦目的があったとすると,実母のことを思い出したことや,被害者が,スリーパーホールドにより最初に気絶したとき,すぐ姦淫行為に及んでいないことは,- 47 -不自然である,(い)強姦目的であるのであれば,わざわざブラジャーを切ったり,下着を切ったりする必要はなく,すぐ下着を取り姦淫行為に及ぶはずであるなどとして,強姦目的の犯行であることに疑問を呈している(以下,これらにおいて示された<J>の判断のことを「<J>意見」ともいう)。 しかし,①の点については,一般論として,性体験のない者が計画的な強姦に及ぶことは,およそあり得ないなどとはいえない。また,<J>は,上記精神鑑定書の作成に当たり,資料として被告人の捜査段階の供述調書を検討していない(同精神鑑定書の第1の2,当審第7回<J>133項)ところ,そこには,後述のとおり,被告人が,早く性行為を経験したいとの気持ちを強め,本件当時,性的欲求を募らせていたことが記載されており,①の<J>意見は,前提に誤りがある。 ②(あ)の点については,被告人の新供述を前提としているところ,その被告人の新供述は信用できないから,前提を欠いている。 ②(い)の点については,強姦目的で女性を襲った者が,姦淫行為をする前に,被害女性の乳房のみならず身体のその他の部位を弄んでから姦淫行為に及ぶことは,往々みられることであるから,被告人の行為が不自然であるなどといえないことは多言を要しない。 ,,,,(イ)弁護人は第一審判決が被告人はカッターナイフを示したり布テープを使って抵抗させないようにして強姦することを計 被告人の行為が不自然であるなどといえないことは多言を要しない。 ,,,,(イ)弁護人は第一審判決が被告人はカッターナイフを示したり布テープを使って抵抗させないようにして強姦することを計画した旨認定しているところ,これは,脅迫を用いて強姦することを計画した旨認定したものであるという前提に立って,被告人が,実際には,被害者の抵抗を排除するために,カッターナイフを示したり布テープを用いたりしていないことや,トイレから洗浄剤スプレーを持ち出した- 48 -ことなどは,不可解極まりないし,脅迫を用いて強姦することを計画しながら,実際には脅迫を用いず暴行を用いて強姦した旨認定しているとして,第一審判決の認定は論理的に破綻している旨主張する。 しかし,第一審判決は,被告人の計画について,カッターナイフを示すほか,布テープを使って抵抗させないようにすると判示したのではなく,布テープを使って女性を縛れば抵抗できないだろうと考えた旨認定しているところ,布テープで縛る行為は,脅迫ではなく暴行にほかならない。すなわち,第一審判決は,被告人が,脅迫と暴行とを手段として強姦することを計画した旨認定しているのであるから,脅迫を手段とすることを計画しながら,実際には暴行を手段としたというものではない。そして,犯行計画というものは,犯罪の種類や態様によって,その計画の程度も様々である。本件のように,襲う相手も特定されておらず,相手を襲う場所となるはずの相手の住居も,その中の様子も前もっては分からないという場合,犯行を計画したといっても,それは一応のものであって,実際には,その場の状況や相手の抵抗の度合いによって臨機応変に実行行為がなされるものであり,あらかじめ細部にわたってまで決めておき,決めたとおりに実行するというようなことが希であることは,多言 て,実際には,その場の状況や相手の抵抗の度合いによって臨機応変に実行行為がなされるものであり,あらかじめ細部にわたってまで決めておき,決めたとおりに実行するというようなことが希であることは,多言を要しない。第一審判決も,,,,被告人が事のなりゆき次第ではカッターナイフを相手に示したり布テープを使用して相手を縛ったりして,その抵抗を排除することを考えていたことを認定したものと解されるのであり,また,そのようにあらかじめ考えていながら,犯行に使えそうな洗浄剤スプレーをトイレから持ち出したことに,不自然不合理な点は全くない。弁護人の主張は,第一審判決を不正確に理解した上で,これをいたずらに論難- 49 -しているに過ぎない。 弁護人は,被告人が,自転車の前籠に入れてあった布テープを取りに行ったことは,強姦の計画性を認める根拠にならない旨主張する。 しかし,被告人は,戸別訪問を始める前に,自分の自転車を置いていた<D>アパート3棟の階段前まで,自転車の前籠に入れていた布テープをわざわざ取りに行っていることに加え,捜査段階のごく初期を除いて,一貫して,布テープを取りに行った理由について,これを使用して相手の女性を縛れば抵抗できないだろうと思った旨供述していることも併せ考えると,この事実は,まさに強姦の計画性を裏付ける。 ,,,事実というべきであるたしかに弁護人指摘のとおり布テープは被害者が殺害されるまでの間に使用されていないが,それは,被告人が,被害者の激しい抵抗にあい,布テープを使用する間もなく,同女を窒息死させて殺害するに至ったためであると考えられるから,布テープを取りに行ったことを強姦の計画性を認定する根拠のひとつとすることに,何ら不合理な点はない。 弁護人は,第一審判決が,被告人が,犯行前の戸別訪問の際,応対した住 ためであると考えられるから,布テープを取りに行ったことを強姦の計画性を認定する根拠のひとつとすることに,何ら不合理な点はない。 弁護人は,第一審判決が,被告人が,犯行前の戸別訪問の際,応対した住民に対してトイレの水を流すように言った後,その場を立ち去っており,被害者に対するのとは異なる態度を取っていることを根拠として,強姦の計画性を認定したことを論難する。 ,,,,たしかに第一審判決が説示するように被告人は第一審公判で被害者に対し「トイレの水を流して下さい」と言った旨供述するものの,捜査段階の供述調書には,そのようなことを言ったとは記載されていない。しかし,弁護人も指摘するように,被告人の捜査段階の供述調書には,戸別訪問の際,被害者以外の住民に対しても「トイレの- 50 -水を流して下さい」と言ったとは記載されていないことに照らすと,第一審判決が説示するように,被告人が,捜査段階において,被害者に対し「トイレの水を流して下さい」と言ったとは供述していないことのみを根拠として,そのように言った旨の第一審公判供述を不自然であるとして排斥するのは,相当とはいい難い。 しかし,被害者が「トイレの水を流して下さい」と言われたとす,ると,他の住民がしたように,通常,自分でトイレの水を流すと思われ,そのように告げられながら,被害者が,自分でトイレの水を流さないで,被告人を室内に上がらせるというのは,いささか不自然との感を免れない。しかも,被害者と同じアパートの7棟の他の部屋の住民の警察官調書(甲144)によれば,被告人からトイレの水を流してくれるよう言われて,自分が流しても構わないのかと尋ねたところ,被告人が「はい」と答えて,住民の方で水を流すよう求めたことが認められる。そして,戸別訪問をしているときの気持ちについて,被告人の旧 くれるよう言われて,自分が流しても構わないのかと尋ねたところ,被告人が「はい」と答えて,住民の方で水を流すよう求めたことが認められる。そして,戸別訪問をしているときの気持ちについて,被告人の旧供述では,強姦の目的はなく,時間つぶしの目的で誰か話し相手が欲しかったといいながら,被告人の実際の行動は,どの部屋においても,訪問先の住民がトイレの水を流せば直ぐに立ち去っておりそれ以上の会話をしようとはしていないこと,新供述においても,戸別訪問をしているときは,ゲーム感覚になっており,ロールプレーイングゲームの中で登場人物が同じせりふしか言えないのと同じ状態で「<,K>設備の者ですが,排水管の検査で来ました。トイレの水を流して下さい」という一定の言葉しか紡げない状況下で,機械的な感じでいた旨供述しており(当審第5回被告人200項),いずれの供述によっても,被害者方と他の部屋とで被告人が異なる行動をする理由はないと- 51 -思われることに照らすと,被害者から,トイレの水を流すために,中に入るよう言われたとしても,他の部屋と同様に,被害者の方で水を流すように求めるのが,自然な行動であると考えられる。そして,被告人の捜査段階の供述によれば,被告人は,玄関で応対する被害者を見て,とてもかわいくて,きゃしゃであると感じ,同女を姦淫したいという気持ちを抱いたことが認められることに照らすと,被害者方室内に上がり込む機会を失する可能性のある「トイレの水を流して下さい」ということを被害者に告げたとは考えにくい。したがって,被告人が,被害者に対し「トイレの水を流して下さい」と言ったことはないと認めるのが相当であり,第一審判決の上記説示は結論において正当である。 弁護人は,被害者方と被告人方とが近接した場所にあり,しかも,被告人が,戸別訪問の際に,自 を流して下さい」と言ったことはないと認めるのが相当であり,第一審判決の上記説示は結論において正当である。 弁護人は,被害者方と被告人方とが近接した場所にあり,しかも,被告人が,戸別訪問の際に,自分の勤務先である<K>設備の作業服を着て,<K>設備の者であることを名乗り,身元を明らかにしているなどとして,本件のような犯行をすれば,被告人が犯人であることが発覚する恐れが高いのであるから,被告人は,戸別訪問をする際,強姦目的を有していなかった旨主張しており,<I>意見および<J>意見も同趣旨の指摘をしている。 たしかに,被告人がした戸別訪問の態様にかんがみると,被告人が強姦に及べば,それが被告人による犯行であることが早晩発覚するような状況であったことは,弁護人の指摘するとおりである。しかし,第一審判決も指摘するとおり,被告人は,不審に思われることなく,美人の主婦を物色するためには,排水検査を装って作業服を着用することが必要であったのである。そして,強姦によってでも性行為をし- 52 -たいと気持ちを高ぶらせた被告人が,首尾よく性行為を遂げることに意識を集中させてしまい,本件でしたような戸別訪問をすれば,強姦することができても,それが自分の犯行であることが容易に発覚することにまで思い至らなかったとしても,被告人が,当時18歳の未熟な少年であったことにも照らすと,不自然とはいえない。しかも,被,,,告人は差戻前控訴審の公判において戸別訪問をしている時点では作業服の左胸の部分に<K>設備の会社名が書かれていることを忘れていた旨供述し(差戻前控訴審第9回被告人212ないし214項),第一審公判では,被告人の父親に迷惑がかかるという考えは全くなかった,そのようなことまで考えつかなかった旨供述しており(第一審第4回被告人322項),戸別 控訴審第9回被告人212ないし214項),第一審公判では,被告人の父親に迷惑がかかるという考えは全くなかった,そのようなことまで考えつかなかった旨供述しており(第一審第4回被告人322項),戸別訪問していた時点において,犯行が発覚することにまで考えが及んでいなかったことが窺われることも併せ考えると,弁護人指摘の点を考慮しても,強姦の計画性は否定されない。 弁護人は,女性との性交渉の経験のない18歳の少年である被告人が,突如,女性を強姦しようなどと思い立つというのは,疑問である旨主張する。 たしかに,被告人の捜査段階の供述によれば,被告人は,自宅から自転車を止めていた<D>アパートの3棟に向かう途中,強姦によってでもセックスがしたいという気持ちになったというのであるから,本件当日朝から一緒にいた友人と午前11時30分ころ別れた後自宅に戻った午後1時15分ころまでの間の被告人の行動が不明であること(自宅に戻った時刻は午後零時過ぎころである旨の被告人の当審公判供述は,信用性に疑問を差し挟む余地のない被告人の義母の警察官調書甲169,170 に照らし信用できない)を考慮しても,セックスがし〔〕- 53 -たいという気持ちになったというのが唐突であることは否めない。しかし,第一審判決も説示するとおり,被告人は,中学3年生のころから性行為に強い関心を抱くようになり,ビデオや雑誌を見て自慰行為にふけったり,友人とセックスの話をしたりしていたところ,次第に性衝動を募らせ,早く性行為を経験したいとの気持ちを強めていた。 そして,被告人の捜査段階の供述によれば,被告人は,本件の約2週間前に就職して以降,ほとんど自慰行為をしておらず,性的な欲求不満を募らせて悶々としていたことが認められることに照らすと,被告人が,性交渉の経験のない少年であることを よれば,被告人は,本件の約2週間前に就職して以降,ほとんど自慰行為をしておらず,性的な欲求不満を募らせて悶々としていたことが認められることに照らすと,被告人が,性交渉の経験のない少年であることを考慮しても,突然,強姦によってでもセックスがしたいという気持ちになることが,あり得ないとはいえない。 (ウ)そのほか弁護人が,被告人には,強姦の犯意も計画性もない,強姦行為が存在しないなどとして,種々主張するところを逐一検討しても,これまで示した判断は左右されない。 (6)被害児に対する殺害行為についてア第一審判決は,被告人が,被害児を「床に叩きつけるなどした上,同児の首に所携の紐を巻き,その両端を強く引っ張って絞めつけた」と認定した。 これに対し,被告人は,当審公判で,被害児を床に叩きつけたことはない,混乱した状態の中,同児の母親を殺めてしまったなどという自責の念から,着ていた作業服右ポケット内にあったこて紐を自分の左の手首と指に絡めるようにし,右手で引っ張って締め,自傷行為をしていたところ,被害児が動かない状態になっているのに気が付いた,被害児の首を絞めたという認識はなく,同児に紐を巻いたことすら分からない旨- 54 -供述するので,この供述の信用性について検討する。 イ床に叩きつけた行為について以下に説示するとおり,被告人が被害児を床に叩きつけた(以下「叩」,,きつけ行為ともいう)こと自体は動かし難い事実というべきでありこれを否定する被告人の当審公判供述は信用することができないが,被告人の検察官調書(乙25。以下,単に「検察官調書(乙25)」ともいう)に記載された仕方で同児を床に叩きつけたことまでは認められない。 (ア)被害児の死体を解剖した<E>作成の嘱託鑑定書(甲10)によれば,①被害児の側頭前部に直径約2. 察官調書(乙25)」ともいう)に記載された仕方で同児を床に叩きつけたことまでは認められない。 (ア)被害児の死体を解剖した<E>作成の嘱託鑑定書(甲10)によれば,①被害児の側頭前部に直径約2.0センチメートル大の皮下出血,側頭中部に3.8×2.5センチメートル大の皮下出血,左後頭下部に直径約5.0センチメートル大の皮下出血が認められ,<E>は,これらの損傷が,性状不明の鈍体による打撲傷であると考えられる旨鑑定,,,,していること②頭蓋骨骨折硬膜上下腔血腫クモ膜下出血はなく脳に割面浮腫,出血,損傷がないことが認められる。 (イ)検察官調書(乙25)には,押入の天袋から,被害児の腕をつかんで引っ張り出し,両手で同児の脇の下を持って抱き上げ,そのままカーペットの敷かれた床の上に同児を後頭部から仰向けに思い切り叩きつけた旨の供述が記載されているところ,弁護人は,この供述の信用性を論難する。 そこで検討するに,検察官調書(乙25)に記載された態様で被害児を床に叩きつけた場合,通常は,同児の頭蓋内に損傷が生じるのではないかと考えられ,<F>意見および<G>意見も指摘するように,同児の頭蓋内に損傷がみられないという上記4(6)イ(ア)②の所見とは整合しないのではないかという疑問がある。そして,上記4(6)イ(ア)の- 55 -とおり,被害児の左後頭下部に皮下出血があることや,同児の頭蓋内に損傷がないことなど,同児の死体所見にかんがみると,<H>も当審公判で供述する(当審第10回<H>58ないし70項)ように,同児は,仰向けに叩きつけられて背面と後頭下部を打撲したと推認するのが合理的であるところ,背面と後頭部のどちらが先に床に落ちたかは確定できない。さらに,検察官調書(乙25)作成の3日前に被告人が犯行を再現した状況が記載された て背面と後頭下部を打撲したと推認するのが合理的であるところ,背面と後頭部のどちらが先に床に落ちたかは確定できない。さらに,検察官調書(乙25)作成の3日前に被告人が犯行を再現した状況が記載された実況見分調書(甲214)には,被害児を床に叩きつけた状況を再現させた様子について,被告人が,被害児に見立てた人形を天袋から引き出す仕草をした後,両手で人形の脇の下を持ち,被告人と対面する格好で支え上げ,そのまま回れ右をするように後ろを振り返り,床に被告人の左膝をつきながら,中腰の格好で床に人形を仰向けに叩きつける動作をした旨の説明が記載され,その様子の一部を撮影した写真(番号88,89)も添付されているところ,この再現状況は,検察官調書(乙25)に記載された叩きつけ行為とは,態様が若干異なるものである。 以上によれば,検察官調書(乙25)中,被害児を後頭部から仰向けに思い切り叩きつけた旨の供述部分は信用できない。 (ウ)しかし,被告人は,捜査段階において,検察官調書(乙25)のほかにも,押入の上の段から被害児を出すと,そのままこたつの脇のカーペット上に同児を叩きつけた旨供述しており(検察官調書乙17 ),上〔〕記のとおり,同児を床に叩きつけた状況の再現もしたほか,少年審判および第一審公判において,同児を床に叩きつけたことを認めていたものである。特に,死刑の求刑後に行われた第一審の最終陳述においても,被害児を床に叩きつけた旨供述した上で,謝罪の言葉を述べて- 56 -いたのである。そして,上記<E>の鑑定結果および上記4(6)イ(イ)で検討したところを併せ考えると,被告人が,被害児を天袋から出して床に叩きつけたこと自体は,動かし難い事実というべきであり,こ,。 れを否定する被告人の当審公判供述は到底信用することができない次いで,叩 たところを併せ考えると,被告人が,被害児を天袋から出して床に叩きつけたこと自体は,動かし難い事実というべきであり,こ,。 れを否定する被告人の当審公判供述は到底信用することができない次いで,叩きつけ行為の態様について検討すると,上記のとおり,被害児は,仰向けに叩きつけられて背面も後頭下部も打撲したと考えられることに照らすと,被告人が,同児を天袋から出した後,立ったままの状態で同児を床に叩きつけたとは考えにくく,被告人が,身を屈めたり,上記犯行再現のように床に膝をついて中腰の格好になった状態で,同児を床に叩きつけたと推認するのが合理的である。 <F>意見および<G>意見は,それぞれの鑑定事項から明らかなよう,,に検察官調書(乙25)に記載された叩きつけ行為の態様を前提として被害児の死体所見との矛盾を指摘するものであり,叩きつけ行為の態様を上記のように解した場合,同児を叩きつけたのが,畳敷きの床の上に敷かれたカーペットの上であり,衝撃がある程度吸収されると考えられることなども併せ考えると,同児の死体所見と矛盾するとはいえない。 (エ)ところで,第一審判決は,その「量刑の理由」の項において,被害児を「被告人の頭上の高さから居間の床に叩きつけ」と説示しているところ,弁護人は,この説示を論難する。 たしかに,叩きつけ行為の態様は,上記4(6)イ(ウ)のとおり,床に膝をついて中腰の格好になるなどして,被害児を床に叩きつけたのであるから,第一審判決の上記説示は,やや正確さに欠けるきらいがある。 - 57 -しかし,第一審判決の上記説示は,被告人が,被害児を天袋から出した後,その時点では,被告人の頭上の高さにいた同児を床に叩きつけたという一連の動作について説示したものと解することができるから,この説示に誤りがあるとまではいえない。 ウ が,被害児を天袋から出した後,その時点では,被告人の頭上の高さにいた同児を床に叩きつけたという一連の動作について説示したものと解することができるから,この説示に誤りがあるとまではいえない。 ウ紐による絞頚について(ア)被告人は,当審公判で,被害者の死亡後,泣いている被害児をあやすため,同児を子供部屋にあるベビーベッドに載せたと認識していたが,実際には,同児を風呂場の風呂桶に置いていたとか,被害児を抱いている被害者の幽霊を見て,パニックに陥ったとか,混乱した状態であり,そのような状態の中,被害者を殺めてしまったなどという自責の念から,着衣のポケット内にあったこて紐を左の手首と指に絡めるようにし,右手で引っ張って締め,自傷行為をしていたところ,被害児が動かない状態になっているのに気が付いた,被害児の首を絞めたという認識はなく,逮捕後の取調べの際,捜査官から,紐を示さ,,れ紐が二重巻きで蝶結びであったことなどを教えてもらった次第で当時は,同児に紐を巻いたことすら分からない状態にあった旨供述する(当審第3回被告人126ないし129項)。 (イ)しかし,被告人が,被害児の頚部にこて紐を二重に巻いた上,右耳介の下で蝶結びにしたことは,証拠上明らかであり,そのような動作をしたことの記憶が完全に欠落しているという被告人の当審公判供述は,その内容自体が不自然不合理である。しかも,被告人の当審公判供述は,被告人の旧供述に依拠した第一審判決および差戻前控訴審判決の認定事実と全く異なる内容であるばかりか,被害児を抱いている被害者の幽霊を見たことなどは,極めて特異な体験であり印象的な- 58 -出来事であるにもかかわらず,被告人は,事件から8年以上経過した当審公判に至って初めて,そのような供述をしたのである。差戻前控訴審の審理が終結するまで ,極めて特異な体験であり印象的な- 58 -出来事であるにもかかわらず,被告人は,事件から8年以上経過した当審公判に至って初めて,そのような供述をしたのである。差戻前控訴審の審理が終結するまでの間に,被告人が,当審公判で供述するような内容の話を1回でも弁護人に話したことがあれば,弁護人が,被害児に対する殺人の成否を争わなかったとは考えられない。このような供述経過は,極めて不自然不合理である。 そして,被害者を殺害し強姦したことに関する被告人の当審公判供述が全く信用できないことも併せ考えると,被害児に関する被告人の当審公判供述は到底信用できない。 (ウ)ところで,弁護人は,第一審判決が認定した紐による絞頚の態様は,被害児の死体所見と矛盾しており,同児は,紐で緩く縛ったことによる浮腫によって窒息死した旨主張する。 しかし,<E>作成の嘱託鑑定書(甲10)および実況見分調書(甲8)において示された被害児の死体所見,これら2通の書証および実況見分調書(甲7)に添付された同児の死体の写真等を精査し,被害児の頚部を1周する幅0.2ないし0.4センチメートルの褐色調の圧痕(以下「本件圧痕」ともいう)について,<E>が,同児の右側頚部の分岐の存在により,幅0.2センチメートルないしそれ以下の細い索状体を頚部に二重に巻き,強く絞搾したものと推定する旨鑑定していること(上記嘱託鑑定書),<H>も,作用時の太さが0.2ないし0.4センチメートルの細い索状物を頚部に2回巻いて頚部を圧迫し,右側頚部で結節を作っていたと推測される旨判断していること(嘱託鑑定書当審検2)などを総合すると,<F>意見および<G>意見において,〔〕被告人の捜査段階の供述に基づく絞頚の態様が,被害児の死体所見と- 59 -矛盾する旨指摘している諸点を踏まえて検討しても,第 審検2)などを総合すると,<F>意見および<G>意見において,〔〕被告人の捜査段階の供述に基づく絞頚の態様が,被害児の死体所見と- 59 -矛盾する旨指摘している諸点を踏まえて検討しても,第一審判決が認定した絞頚の態様が,被害児の死体所見と矛盾しているとはいえない(なお,弁護人は,紐を頚部に二重に巻いたことと死体所見の矛盾を指摘するが,第一審判決は,単に紐を頚部に巻いたと認定しているに過ぎず,紐を頚部に二重に巻いたとは認定していない)。 若干付言するに,弁護人は,①被害児の頚部の本件圧痕は,表皮剥脱を伴っていないことなどに照らすと,強い外力により形成されたものではない,②項部で紐を交差させた場合,交差させた箇所にしわ等の痕跡が残るはずであるなどとして,上記絞頚の態様は,被害児の死体所見と矛盾する旨主張する。 しかし,①の点については,被告人の検察官調書(乙25)には,被害児は,首を絞められてからすぐに声が出なくなり,かなり短い時間で動かなくなって死亡した旨記載されていること,被害児は生後11か月の乳児であり,<H>意見も指摘するように,抵抗がないため,必死に抵抗する成人を絞頚する場合と比べれば,作用する力は弱くても足りたと考えられること,<H>が,当審公判で,表皮は,重層扁平上皮という細胞が多数重なっており,かなり抵抗力が強いので,強い擦過力や圧迫力が作用しないと簡単には表皮剥脱は生じない,荒綱等表面の非常に粗造なものを用いて絞頚した場合,表皮剥脱を伴うことも考えられる旨供述していること(当審第10回<H>20,21項),被害児の絞頚に用いられた紐(当庁平成13年押第11号の46)は,表面が粗造であるとは認められないことなどを総合すると,被害児の頚部に巻いた紐の両端を強く引っ張って絞めつけ,それによって形成された本件,。 頚に用いられた紐(当庁平成13年押第11号の46)は,表面が粗造であるとは認められないことなどを総合すると,被害児の頚部に巻いた紐の両端を強く引っ張って絞めつけ,それによって形成された本件,。 圧痕に表皮剥脱を伴わなかったとしても不自然であるとはいえない- 60 -②の点については,上記①の点について検討したところに加えて,<H>意見によれば,紐の両端を左右に引っ張って首を絞めた場合,必ず紐の交差部の皮膚に縦のしわが生じるものではないこと,後頚部や側頚後部のように真皮の結合組織が厚くて強靱で,表皮が緊張しているところでは,紐の交差部であっても縦のしわは生じ難いと考えられること,幼児の頚部の皮膚は,成人に比べると張りがあって弾力性に富んでおり,しわはでき難いことなどが指摘されており,その内容は合理的なものとして首肯することができる。したがって,被害児の項,。 部にしわ等の痕跡が残っていなかったとしても不自然とはいえないなお,弁護人は,<G>の当審公判供述を根拠として,被害児を死亡させるまでに10分前後かかるなどとして,交差部にしわ等の痕跡が残るはずである旨主張する。しかし,<G>の当審公判供述は,被害児の首を中等度の力で絞めてから,むくみを生じて首に紐が食い込み,同児が死亡するまでの時間を述べたものと解され(当審第6回<G>129ないし133,151ないし156項),弁護人の主張は前提を欠いている。 エなお,弁護人は,被害児の死体には,両手による扼頚を疑わせる所見がないなどとして,第一審判決が,その「量刑の理由」の項において,被害児の「頚部を両手で絞めつけ」た旨認定したのは,事実を誤認している旨主張する。 しかし,被告人の検察官調書(乙25,33)には,被害児の首を両手で絞めたものの,被害者と首のサイズが余りにも違って同児の の「頚部を両手で絞めつけ」た旨認定したのは,事実を誤認している旨主張する。 しかし,被告人の検察官調書(乙25,33)には,被害児の首を両手で絞めたものの,被害者と首のサイズが余りにも違って同児の首が細過ぎたことなどの理由から,同児の首をうまく絞めることができなかった旨記載されていることに照らすと,弁護人指摘の諸点を検討しても,被害児の死体に両手による扼頚を疑わせる所見がなかったことと,第一審判決- 61 -の「量刑の理由」の項における上記認定との間に矛盾があるとはいえない。 そのほか弁護人が,被告人の被害児に対する行為は殺害行為とはいえない,被告人には殺意がないなどとして,種々主張するところを逐一検討しても,これまで示した判断は左右されない。 (7)窃盗についてア第一審判決は,原判示第1および第2の各犯行後,被告人が,被害者管理の現金約300円および地域振興券約6枚等在中の財布を窃取した旨認定した。 これに対し,被告人は,当審公判で,被害者方から出るときに,布テープ,ペンチおよび洗浄剤スプレーを持って出て,自転車を止めていた<D>アパートの3棟に着いた後,手に持っているものをガスメーターボックスの中に入れようとした際,布テープと勘違いして財布を持ち出したことに気付いた旨供述している(当審第3回被告人204ないし207項,同第5回被告人459ないし465項)ので,この供述の信用性について検討する。 イ関係証拠によれば,上記財布は,縦が約11センチメートル,横が約9センチメートル,厚さが約4センチメートル大の薄クリーム色の二つ折り財布であり,その上部に金色の金属製の留め金がついていること,被告人が,被害者方に遺留した布テープは,幅が約5センチメートル,直径が約10センチメートルの円柱状の粘着テープ1巻であり,その巻芯の直径 布であり,その上部に金色の金属製の留め金がついていること,被告人が,被害者方に遺留した布テープは,幅が約5センチメートル,直径が約10センチメートルの円柱状の粘着テープ1巻であり,その巻芯の直径は約8センチメートルであること,上記布テープは,そのはく離剤面(表面)が黄土色であることが認められる。このように,上記財布,,,,はその形状大きさ色等において上記布テープと全く異なっており- 62 -特にそれを手にしたとき,財布を布テープと勘違いするはずがないことに照らすと,原判示第1および第2の各犯行の直後であることを考慮しても,布テープと勘違いして財布を持ち出した旨の被告人の当審公判供述は,その内容自体が,かなり不自然であるといわざるを得ない。 しかも,被告人は,捜査段階から,被害者の首を絞めていた際に,同女の頭の下に財布が開いたまま落ちているのに気付き,同女を姦淫した後,これをこたつの上に置いた際,その中に地域振興券や小銭が入っていることが分かった,被害児を殺害後,これら地域振興券や小銭を小遣いとして使おうと思うとともに,自分の指紋がついた財布を残しておくと,自分が被害者を殺害したことなどが発覚すると思い,財布を盗んだなどと供述していた(検察官調書乙17,24ないし26,28 )ほか,第一審〔〕公判においても,財布を窃取したことを一貫して認めていたのであり,当審に至って初めて,布テープと間違えて財布を持ち出した旨供述したのである。このような供述経過が不自然不合理であることは,既に説示したとおりであり,財布の窃盗を認める被告人の供述に不自然な点は見当たらないことにもかんがみると,この点に関する被告人の当審公判供述は,到底信用することができない。 ウ弁護人は,被告人が,被害者と被害児を思いがけないことから死に至らしめたこ 述に不自然な点は見当たらないことにもかんがみると,この点に関する被告人の当審公判供述は,到底信用することができない。 ウ弁護人は,被告人が,被害者と被害児を思いがけないことから死に至らしめたことによる極度のパニック状態に陥っていたことから,財布を布テープと間違って被害者方から持ち帰ったに過ぎず,被告人には錯誤があり,窃盗の故意はない旨主張する。 しかし,既に検討したところによれば,被告人は,殺意をもって,被害者および被害児を殺害したのであって,同人らを思いがけないことから死に至らしめたというのは,信用できない被告人の新供述に基づく主- 63 -張であり,弁護人の主張は前提を欠いている。 また,弁護人は,被告人が,感情誘因性の幻覚を見るような状態であり,その五感の作用は相当鈍っていたと考えられるから,財布と布テープを間違えることはあり得ないことではない旨主張する。 しかし,既に説示したとおり,風呂桶をベビーベッドと見間違えたとか,被害児を抱いている被害者の幽霊を目撃したとか,幻覚を見たという被告人の当審公判供述は信用できないのであって,弁護人の主張は前提を欠いている。 さらに,弁護人は,被害者方には簡単に入手できたはずの現金が相当あったのに,被告人が物色行為をしていないのは不自然であるなどとして,被告人には窃盗の故意がなかった旨主張する。 しかし,弁護人も指摘するように,被告人は,当初から,金品窃取の目的を有していたわけではなく,関係証拠によれば,原判示第1および第2の各犯行後,一刻も早く逃げなければならないと思いながら,こたつを元の位置に戻した際に,こたつの上にあった財布を見て,これを窃。 ,,取しようと思い立ったものであると認められるしたがって被告人がその時点で,窃盗の故意を有していたことは明らかであるし,窃盗の故意が生じ 戻した際に,こたつの上にあった財布を見て,これを窃。 ,,取しようと思い立ったものであると認められるしたがって被告人がその時点で,窃盗の故意を有していたことは明らかであるし,窃盗の故意が生じたのは,被害者方から逃走する直前であることに照らすと,同人方で物色行為をしなかったとしても,不自然ではない。 (8)以上説示したとおり,被告人の新供述は,供述内容が旧供述から変遷した理由,被害者および被害児の各殺害行為の態様,各犯行における故意(犯意),他の証拠との整合性のいずれからみても信用できない。 他方,被告人の旧供述は信用できるから,これに依拠した第一審判決が認定した罪となるべき事実に事実の誤認はない。 - 64 - そこで,量刑不当の主張について判断する。 検察官の論旨は,被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑は,死刑を選択しなかった点において,著しく軽きに失して甚だしく不当であるというのである。 所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。 (1)本件は,当時18歳の少年であった被告人が,白昼,排水管の検査を装ってアパートの一室に上がり込み,同室に住む当時23歳の主婦(被害者)を強姦しようとしたところ,激しく抵抗されたため,同女を殺害した上で姦淫し(原判示第1),その後,激しく泣き続ける当時生後11か月の被害者の長女(被害児)をも殺害し(同第2),さらに,被害者管理の地域振興券等在中の財布1個を窃取した(同第3)という事案である。 ,。 (2)原判示第1および第2の各犯行に至る経緯等は以下のとおりであるすなわち,被告人は,中学3年生のころから性行為に強い関心を抱くようになり,ビデオや雑誌を見て自慰行為にふけるなどしていたところ,早く性行為を経験したいとの気持ちを次第に強めていた。被告人は,高校 すなわち,被告人は,中学3年生のころから性行為に強い関心を抱くようになり,ビデオや雑誌を見て自慰行為にふけるなどしていたところ,早く性行為を経験したいとの気持ちを次第に強めていた。被告人は,高校を卒業して,地元の配管工事等を業とする会社に就職し,見習い社員として働き始めたものの,10日も経たないうちに欠勤して友人と遊ぶようになった。本件当日の朝も,欠勤して友人と遊ぼうと考え,会社の作業服等を着用し出勤を装って自宅を出た。そして,友人宅でテレビゲームをした後,自宅に戻って昼食をとり,再び自宅を出て,自宅のある団地内のアパートの3棟に向かった。その際,被告人は,強姦によってでも性行為をしてみたいという気持ちになっており,そのようなことが本当にできるのだろうかと半信半疑に思いつつも,布テープやこて紐などを携帯し,同アパート- 65 -の10棟から7棟にかけて,排水検査の作業員を装って戸別に訪ね,呼び鈴を鳴らすなどして,若い主婦が留守を守る居室を物色して回り始めた。 そして,誰からも怪しまれなかったことから,本当に強姦できるかもしれないなどと,次第に自信を深めた。被告人は,被害者方に至り,排水検査の作業員を装い,被害者が信用したのに乗じて室内に上がり込み,同女が若くてかわいい女性であったことから,強姦によってでも性行為をしたいという気持ちを抑えきれなくなり,トイレ等で排水検査をしているふりを,,しながら様子を窺い同女のすきを見て背後から抱きつくなどしたところ同女は,大声で悲鳴を上げ,手足をばたつかせるなど激しく抵抗した。そこで,被告人は,姦淫の目的を遂げるため被害者を殺害しようと決意し,同女を殺害して姦淫を遂げた。さらに,被害児が激しく泣き続けていたことから,泣き声を付近住民が聞きつけて犯行が発覚することを恐れるとと,,。 も 淫の目的を遂げるため被害者を殺害しようと決意し,同女を殺害して姦淫を遂げた。さらに,被害児が激しく泣き続けていたことから,泣き声を付近住民が聞きつけて犯行が発覚することを恐れるとと,,。 もに同児が泣き止まないことに腹を立て同児をも殺害したものである被告人は,姦淫の目的を遂げるため,必死に抵抗する被害者を殺害してまで姦淫した上,身勝手で理不尽な理由から,いたいけな乳児をも殺害したものである。いずれも極めて短絡的かつ自己中心的な犯行である。しかも,原判示第1の犯行は,自己の性欲を満たすため,被害者の人格を無視した卑劣な犯行である。本件の動機や経緯に酌量すべき点は微塵もない。 その各犯行態様は,仰向けに倒されて必死に抵抗する被害者の頚部を両手で強く絞め続けて同女を殺害した上,万一の蘇生に備えて,布テープを用いて同女の両手首を緊縛したり鼻口部をふさいだりし,カッターナイフで下着を切り裂くなどして,乳房を弄んだ上,姦淫を遂げ,この間,被害児が,被害者にすがりつくようにして激しく泣き続けていたことを意にも介さなかったばかりか,原判示第1の犯行後,殺意をもって,同児を仰向- 66 -けに床に叩きつけるなどした上,なおも泣きながら母親の死体にはい寄ろうとする同児の首に紐を巻いて絞めつけ,同児をも殺害したものである。 被告人は,強姦および殺人の強固な犯意の下に,何ら落ち度のない被害者ら2名の生命と尊厳を相次いで踏みにじったものであり,冷酷,残虐にして非人間的な所業であるというほかない。 被害者および被害児は死亡しており,結果が極めて重大であることはいうまでもない。被害者は,その夫と深い愛情で結ばれ,被害児の成長を何よりも楽しみにしながら,一家3人で,つつましいながらも平穏で幸せな生活を送っていたにもかかわらず,最も安全であるはずの自宅において, までもない。被害者は,その夫と深い愛情で結ばれ,被害児の成長を何よりも楽しみにしながら,一家3人で,つつましいながらも平穏で幸せな生活を送っていたにもかかわらず,最も安全であるはずの自宅において,被告人の凶行により,23歳の若さで突如として絶命させられたものであり,その苦痛や恐怖,無念さは察するに余りある。被告人を排水検査の作業員と信じて室内に入らせたばかりに,理不尽な暴力を受け,かたわらで被害児が泣いているにもかかわらず,同児を守るどころか何もしてやれないまま,同児を残して事切れようとするときの被害者の心情を思うと言葉もない。被害児は,夏の大きな美しい夕陽のように人を温かく包み込む優「」,しさを持った人物になるようにという願いを込めて<C> と名づけられ両親の豊かな愛情に育まれて健やかに成長しており,あと少しで一人歩きができるまでになっていた。何が起こったのかさえも理解できず,わずか生後11か月で,余りにも短い生涯を終えたものであり,まことに不憫である。一度に妻と子を失った被害者の夫や,娘と孫を亡くした被害者の母,,,。 親をはじめ遺族の悲嘆の情や喪失感絶望感は甚だしく憤りも激しいしかるに,被告人は,慰謝の措置といえるようなことを一切していない。 当然のことながら遺族の処罰感情は峻烈を極めている。被害者の夫(被害児の父)および母親(被害児の祖母)は,当審での意見陳述において,事件- 67 -後8年以上経過した現在でも癒えることのない悲嘆の情等を切々と語り,被告人が旧供述を翻して新供述をするに至ったことに対する失望感等を述べ,峻烈な処罰感情を表明している。 また,原判示第3の窃盗は,原判示第1,第2の各犯行後,被害者方から逃走する際,地域振興券や小銭の入った財布を持ち去ったものである。 被告人は,地域振興券等を小遣いとし 峻烈な処罰感情を表明している。 また,原判示第3の窃盗は,原判示第1,第2の各犯行後,被害者方から逃走する際,地域振興券や小銭の入った財布を持ち去ったものである。 被告人は,地域振興券等を小遣いとして使おうなどと考えて,室内にあった財布を盗んだものであり,その利欲的な動機に酌むべき点はない。 被告人は,被害者らを殺害した後,犯行の発覚を遅らせるため,被害児の死体を押入の天袋に投げ入れ,被害者の死体を押入の下段に隠すなどしたほか,被害者方から,自分の指紋のついた洗浄剤スプレーやペンチを持ち出して隠匿するなど,罪証隠滅工作をした。また,窃取した財布の中にあった地域振興券でカードゲーム用のカードや菓子類を購入するなどしており,犯行後の情状も芳しくない。 そして,本件は,住宅地域内の社宅アパートの団地内で,白昼,ごく普通の家庭の母子が,自らには何の責められるべき点もないのに,自宅で惨殺された事件として,地域住民や社会に大きな衝撃と不安を与えたものであり,この点も軽視できない。 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重大であるというほかない。 (3)そこで,酌量すべき事情について検討する。 ア被告人は,布テープやこて紐を用意して携帯するなど,強姦について相応の計画を巡らせてはいたものの,その計画の程度は,戸別訪問を始めたときはいまだ漠然としたものであり,被告人自身も,そのようなことが可能であるかどうか半信半疑の状態であって,なりゆきによっては強姦に及ぼうという程度の気持ちであったと認められ,戸別訪問開始当- 68 -初から,絶対に強姦をしようという強固な意思を有していたとまでは認められない。また,事前に被害者らを殺害することまでは予定しておらず,被害者に激しく抵抗され,あるいは,被害児が激しく泣き続けるという事態に直面して殺意を形成したにとど な意思を有していたとまでは認められない。また,事前に被害者らを殺害することまでは予定しておらず,被害者に激しく抵抗され,あるいは,被害児が激しく泣き続けるという事態に直面して殺意を形成したにとどまることは否定できないから,各殺害については事前に計画されたものとはいえない。 もっとも,これらの点は,戸別訪問開始のときから強姦実行を確定的に決意し,あるいは当初から被害者らを殺害することをも計画していた場合と対比すれば,その非難の程度に差異があるものの,被告人は,強姦という凶悪事犯を計画し,被害者方に入ってからは強姦の意思を強固にし,その実行に当たり,反抗抑圧の手段ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意して次々と実行し,それぞれ所期の目的も達しているのであって,各殺害が偶発的なものといえないことはもとより,冷徹にこれを利用したものであることが明らかであることにかんがみると,上告審判決が指摘するとおり,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情といえるものではない。 イ被告人には,前科はもとより,見るべき非行歴も認められず,本件以前に家庭裁判所に事件が係属したこともない。幼少期に,実母が実父から暴力を振るわれるのを見て,かばおうとしたり,祖母が寝たきりになり介護が必要な状態になると,その排泄の始末を手伝うなど,心優しい面もある。 ウ被告人の生育環境をみると,幼少期より実父から暴力を受けたり,実父の実母に対する暴力を目の当たりにしてきたほか,中学時代に実母が自殺するなど,同情すべきものがある。また,実母の死後,実父が年若い外国人女性と再婚し,本件の約3か月前には異母弟が生まれるなど,- 69 -これら幼少期からの環境が,被告人の人格形成や健全な精神の発達に影響を与えた面があることも否定できない。もっとも,被告人は,経済的 と再婚し,本件の約3か月前には異母弟が生まれるなど,- 69 -これら幼少期からの環境が,被告人の人格形成や健全な精神の発達に影響を与えた面があることも否定できない。もっとも,被告人は,経済的に何ら問題のない家庭に育ち,高校教育も受けることができたのであるから,生育環境が特に劣悪であったとはいえない。 エ被告人は,犯行当時18歳と30日の少年であった。そして,少年法51条は,犯行時18歳未満の少年の行為については死刑を科さないものとしており,その趣旨に照らし,被告人が犯行時18歳になって間もない少年であったことは,量刑上十分に考慮すべきである。また,被告人は,本件の約1か月前に高校を卒業しており,知能水準も中程度であって,知的能力には問題がないものの精神的成熟度は低い。 オ弁護人は,刑法41条,少年法51条等を根拠として,少年の責任能力とは,犯行時にどの程度精神的に成熟していたかを問い,その成熟度(未熟さ)についての可塑性を問うものであり,少年の刑事責任を判断する際は,一般の責任能力とは別途,少年の責任能力すなわち精神的成熟度および可塑性に基づく刑事責任判断が必要となる旨主張し,18歳以上の年長少年についても,限定責任能力(精神的未成熟・可塑性の存在)の推定の下,少年独自の責任能力について実質的な判断が要請され,その結果,精神的成熟度がいまだ十分ではなく,可塑性が認められることが証拠上明らかになった場合には,少年法51条を準用して,死刑の選択を回避するか,限定責任能力を量刑上考慮すべきである旨主張する。 しかし「少年の責任能力」という一般の責任能力とは別の概念を前,提とし,年長少年について限定責任能力を推定する弁護人の主張は,独自の見解に基づくものであって採用し難い。また,少年の刑事責任を判断する際に,その精神的成熟度および 般の責任能力とは別の概念を前,提とし,年長少年について限定責任能力を推定する弁護人の主張は,独自の見解に基づくものであって採用し難い。また,少年の刑事責任を判断する際に,その精神的成熟度および可塑性について十分考慮すべきで- 70 -はあるものの,少年法51条は,死刑適用の可否につき18歳未満か以上かという形式的基準を設けるほか,精神的成熟度および可塑性といった要件を求めていないことに徴すれば,年長少年について,精神的成熟度が不十分で可塑性が認められる場合に,少年法51条を準用して,死刑の選択を回避すべきであるなどという弁護人の主張には賛同し難い。 たしかに,少年調査記録でも指摘されているように,独り善がりな自己中心性が強いことや,衝動の統制力が低いことなど,被告人の人格や精神の未熟が,本件各犯行の背景にあることは否定し難い。しかしなが,,,,,ら既に説示した本件各犯行の罪質動機態様結果にかんがみるとこれらの点は,量刑上十分考慮すべき事情ではあるものの,被告人が犯行時18歳になって間もない少年であったことと合わせて十分斟酌しても,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情であるとまではいえない。 弁護人は,少年である被告人が,児童期の父親による虐待や,母子一体関係,共生関係にあった実母の自殺等によって,精神的成長が阻害されて停留しており,その精神の未熟さ等によって対処能力を欠いていたために,事件を拡大させて,被害者らを死亡させた旨主張する。 たしかに,上記のとおり,被告人の人格や精神の未熟が本件各犯行の背景にあることは否定し難いものの,弁護人の上記主張は,被害者に実母を投影して甘えたくなり抱きついたところ,抵抗にあってパニック状態に陥って,被害者を死に至らしめ,更に,心因性の幻覚に襲われ,被害児をも死に至 とは否定し難いものの,弁護人の上記主張は,被害者に実母を投影して甘えたくなり抱きついたところ,抵抗にあってパニック状態に陥って,被害者を死に至らしめ,更に,心因性の幻覚に襲われ,被害児をも死に至らしめた後,被害者を生き返らせるために同女を屍姦したなどという被告人の新供述を前提とするものであり,被告人の新供述が信用できない以上,その前提を欠いている。 - 71 -なお,少年調査記録には,TAT(絵画統覚検査)の結果として「いわゆる罪悪感は浅薄で未熟であり,発達レベルは4,5歳と評価できる」と記載されているところ,TATの結果のみから精神的成熟度を判断するのは相当でない上,前後の文脈に照らすと,この記載は,主として被告人の罪悪感に関する発達レベルを評価したものと解される。 カ当審における事実取調べの結果によれば,被告人が,上告審の公判期日指定後,遺族に対し謝罪文を送付したほか,弁護人を通じ原判示第3の窃盗の被害弁償金6300円を送付したこと,当審においても,請願作業をして得た作業報奨金900円を弁護人を通じ遺族に対し被害弁償金として送付したこと,上告審係属中の平成16年2月以降,自ら希望して,おおむね月1回の頻度で教誨師による教誨を受けていることが認められる。また,被告人は,当審公判において,これまでの反省が不十分であったことを認める供述をし,遺族の意見陳述を聞いた後,大変申し訳ない気持ちで一杯であり,生きて生涯をかけ償いたい旨涙ながらに述べているほか,強盗強姦殺人罪等を犯した無期懲役受刑者との文通を通じて深い感銘を受け,遺族に対する謝罪,償い,反省等について考えを深めるきっかけを得たなどと述べている。 キところで,第一審判決は,酌量すべき事情として,①被告人の犯罪的傾向が顕著であるとはいえないこと,②被告人なりの一応の反省の情が 償い,反省等について考えを深めるきっかけを得たなどと述べている。 キところで,第一審判決は,酌量すべき事情として,①被告人の犯罪的傾向が顕著であるとはいえないこと,②被告人なりの一応の反省の情が芽生えるに至ったものと評価できることを摘示しているので,この点について検討する。 (ア)①の点については,被告人には本件以前に前科や見るべき非行歴は認められないものの,被告人は,いとも安易に見ず知らずの主婦をねらった強姦を計画した上,その実行の過程において,格別ためらう- 72 -様子もなく被害者らを相次いで殺害している。そして,そのような凶悪な犯行を遂げたにもかかわらず,被害者の財布を窃取したほか,被害者らの死体を押入や天袋に隠すなどの犯跡隠ぺい工作をした上で逃走し,さらには,窃取した財布内にあった地域振興券でカードゲーム用のカード等を購入するなどしていることに照らすと,その犯罪的傾向には軽視できないものがあるといわなければならない。 (イ)また,②の点については,被告人は,捜査のごく初期を除き,基本的には犯罪事実を認めて反省の弁を述べ,遺族に対する謝罪の意思を表明していたのであり,第一審の公判審理を経るに従って,被告人なりの反省の情が芽生え始めていたものである。もっとも,少年審判段階を含む差戻前控訴審までの被告人の言動,態度等をみる限り,被告人が,遺族らの心情に思いを致し,本件の罪の深刻さと向き合って内省を深め得ていたと認めることは困難であり,被告人は,反省の情が芽生え始めてはいたものの,その程度は不十分なものであったといわざるを得ない。 そして,被告人は,上告審において公判期日が指定された後,旧供述を一変させて本件公訴事実を全面的に争うに至り,当審公判でも,その旨の供述をしたところ,既に説示したとおり,被告人の新供述が到底信 。 そして,被告人は,上告審において公判期日が指定された後,旧供述を一変させて本件公訴事実を全面的に争うに至り,当審公判でも,その旨の供述をしたところ,既に説示したとおり,被告人の新供述が到底信用できないことに徴すると,被告人は,死刑に処せられる可能性が高くなったことから,死刑を免れることを企図して,旧供述を翻,。 ,した上虚偽の弁解を弄しているというほかない被告人の新供述は原判示第1の犯行が,殺人および強姦致死ではなく傷害致死のみである旨主張して,その限度で被害者の死亡について自己に刑事責任があることを認めるものではあるものの,原判示第2の殺人および第3の- 73 -窃盗については,いずれも無罪を主張するものであって,もはや,被告人は,自分の犯した罪の深刻さと向き合うことを放棄し,死刑を免れようと懸命になっているだけであると評するほかない。被告人は,上記5(3)カのとおり,遺族に対し謝罪文等を送付したり,当審公判,,において遺族に対する謝罪や反省の弁を述べたりしてはいるもののそれは表面的なものであり,自己の刑事責任の軽減を図るための偽りの言動であるとみざるを得ない。本件について自己の刑事責任を軽減すべく虚偽の供述を弄しながら,他方では,遺族に対する謝罪や反省を口にすること自体,遺族を愚弄するものであり,その神経を逆撫でするものであって,反省謝罪の態度とは程遠いというべきである。 なお,第一審判決は,公判審理を経るにしたがって,被告人なりの一応の反省の情が芽生えるに至ったものと評価できるなどとし,家庭裁判所の調査においても,その可塑性から,改善更生の可能性が否定されていないことをも併せ考慮して,矯正教育による改善更生の可能性がないとはいえないなどと判断し,無期懲役刑を選択したものであ,,,,,り差戻前控訴審 可塑性から,改善更生の可能性が否定されていないことをも併せ考慮して,矯正教育による改善更生の可能性がないとはいえないなどと判断し,無期懲役刑を選択したものであ,,,,,り差戻前控訴審判決は被告人が知人に対し本件を茶化したり被害者らの遺族を中傷するかのごとき表現を含む手紙を何通も書き送っていることを踏まえながらも,第一審判決の判断を是認したものである。両判決は,犯行時少年であった被告人の可塑性に期待し,その改善更生を願ったものであるとみることができる。ところが,被告人は,その期待を裏切り,差戻前控訴審判決の言渡しから上告審での公,,判期日指定までの約3年9か月間反省を深めることなく年月を送りその後は,本件公訴事実について取調べずみの証拠と整合するように虚偽の供述を構築し,それを法廷で述べることに精力を費やしたもの- 74 -である。被告人が,そのような態度に出たのは,20名を超える弁護,,士が弁護人となり被告人の新供述について証拠との整合性を検討し熱心な弁護活動をしてくれることから,次第に,虚偽の供述をすることによって自己の刑事責任が軽減されるかもしれないという思いが生じ,折角芽生えた反省の気持ちが薄れていったのではないかとも考えられないではない。しかし,これらの虚偽の弁解は,被告人において考え出したものとみるほかないところ,当審公判で述べたような虚偽の供述を考え出すこと自体,被告人の反社会性が増進したことを物語っているといわざるを得ない。 現時点では,被告人が,反省していると評価することはできず,反省心を欠いているというほかない。そして,自分の犯した罪の深刻さに向き合って内省を深めることが,改善更生するための出発点となるのであるから,被告人が当審公判で虚偽の弁解を弄したことは,改善更生の可能性を皆無 ているというほかない。そして,自分の犯した罪の深刻さに向き合って内省を深めることが,改善更生するための出発点となるのであるから,被告人が当審公判で虚偽の弁解を弄したことは,改善更生の可能性を皆無にするものではないとしても,これを大きく減殺する事情といわなければならない。 (4)以上を踏まえ,死刑選択の可否について検討するに,姦淫の目的を遂げるため,被害者を殺害して姦淫した上,いたいけな乳児をも殺害した各犯行の罪質は,極めて悪質であり,2名を死亡させた結果も極めて重大であること,極めて短絡的かつ自己中心的な犯行の動機や経緯に酌むべき点は微塵もないこと,各犯行の態様は,強固な犯意に基づく冷酷,残虐にして非人間的なものであること,両名を殺害した後,窃盗をしたほか,罪証隠滅工作をするなど,犯行後の情状も芳しくないこと,遺族の被害感情は峻烈を極めていること,社会的影響も大きいことなどの諸般の事情を総合考慮すれば,被告人の罪責はまことに重大であって,各殺害の計画性が認- 75 -められないこと,被告人の前科・非行歴,生育環境,犯行当時18歳になって間もない少年であること,精神的成熟度,改善更生の可能性,その他第一審判決後の事情等,被告人のために酌量すべき諸事情を最大限考慮しても,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも,極刑はやむを得ないというほかない。 当裁判所は,上告審判決を受け,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の有無について慎重に審理し,弁護人請求の証人4名,検察官請求の証人1名を取り調べ,被告人質問を6期日にわたって実施したほか,多くの証拠を取り調べたものの,第一審判決が認定した罪となるべき事実はもとより,基本的な事実関係については,上告審判決の時点と異なるものはなかったといわざるを得ない。むしろ,被告人が,当審公 ほか,多くの証拠を取り調べたものの,第一審判決が認定した罪となるべき事実はもとより,基本的な事実関係については,上告審判決の時点と異なるものはなかったといわざるを得ない。むしろ,被告人が,当審公判で,,,虚偽の弁解を弄し偽りとみざるを得ない反省の弁を口にしたことにより死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情を見出す術もなくなったというべきである。今にして思えば,上告審判決が「弁護人らが言及,する資料等を踏まえて検討しても,上記各犯罪事実は,各犯行の動機,犯意の生じた時期,態様等も含め,第1,2審判決の認定,説示するとおり揺るぎなく認めることができるのであって,指摘のような事実誤認等の違法は認められない」と説示し「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量,すべき事情があるかどうかにつき更に慎重な審理を尽くさせる」と判示し,,,たのは被告人に対し本件各犯行について虚偽の弁解を弄することなくその罪の深刻さに真摯に向き合い,反省を深めるとともに,真の意味での謝罪と贖罪のためには何をすべきかを考えるようにということをも示唆したものと解されるところ,結局,上告審判決のいう「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」は認められなかった。 - 76 -,,以上の次第であるから被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑は死刑を選択しなかった点において,軽過ぎるといわざるを得ない。論旨は理由がある。 そこで,刑事訴訟法397条1項,381条により第一審判決を破棄することとし,同法400条ただし書に従い当裁判所において更に判決する。 第一審判決が認定した罪となるべき事実に以下のとおり法令を適用する。 罰条原判示第1の所為のうち殺人の点平成16年法律第156号による改正前の刑法199条行為時においては上記改正前の刑法19 第一審判決が認定した罪となるべき事実に以下のとおり法令を適用する。 罰条原判示第1の所為のうち殺人の点平成16年法律第156号による改正前の刑法199条行為時においては上記改正前の刑法199条に,裁判時においては同改正後の刑法199条に該当するところ,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 強姦致死の点平成16年法律第156号による改正前の刑法181条(177条前段)行為時においては上記改正前の刑法181条(177条前段)に,裁判時においては同改正後の刑法181条2項(177条前段)に該当するところ,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 原判示第2の所為平成16年法律第156号による改正前の刑法199条行為時においては上記改正前の刑法199条に,裁判時においては同改正後の刑法199条に該当するところ,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 - 77 -原判示第3の所為平成18年法律第36号による改正後の刑法235条行為時においては上記改正前の刑法235条に,裁判時においては同改正後の刑法235条に該当するところ,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い裁判時法の刑による。 科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条原判示第1の所為は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い殺人罪の刑で処断する。 刑種の選択原判示第1,第2いずれも死刑を選択原判示第3懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,46条1項本文,10条刑および犯情の重い判示第1の罪につき として重い殺人罪の刑で処断する。 刑種の選択原判示第1,第2いずれも死刑を選択原判示第3懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,46条1項本文,10条刑および犯情の重い判示第1の罪につき死刑に処することとして他の刑を科さない。 訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書差戻前控訴審および当審における各訴訟費用は,いずれも被告人に負担させない。 よって,主文のとおり判決する。 平成20年5月20日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官楢崎康英- 78 -裁判官森脇淳一裁判官友重雅裕※判決理由中の別紙は添付を省略

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