平成14(行ケ)293

裁判年月日・裁判所
平成15年9月25日 東京高等裁判所
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判決文本文14,054 文字)

平成14年(行ケ)第293号審決取消請求事件平成15年9月25日判決言渡,平成15年9月11日口頭弁論終結判決原告株式会社モリタ製作所訴訟代理人弁護士松村信夫,和田宏徳,塩田千恵子,弁理士篠田實,河野登夫,水谷好男被告藤栄電気株式会社訴訟代理人弁理士鈴江武彦,福原淑弘 主文 特許庁が無効2001-35444号事件について平成14年4月30日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 以下において,「および」は「及び」と統一して表記した。その他,引用箇所においても公用文の表記方式に従った箇所がある。 第1 原告の求めた裁判主文第1項同旨の判決。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯原告が特許権者である本件特許第2873722号「根尖位置検出装置」の請求項1及び2に係る発明(本件発明1,本件発明2)は,平成2年7月3日出願,平成11年1月14日設定登録に係るものである。 被告は,平成13年10月11日,本件発明1及び2の特許無効審判請求をし,無効2001-35444号事件として係属したところ,平成14年4月30日,本件発明1及び2についての特許を無効とするとの審決があり,その謄本は同年5月11日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨(本件発明1)測定電極と口腔電極との間のインピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置であって,測定電極と口腔電極の間に周波数の異なる測定信号を印加する信号出力手段と,各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段とを備え,測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し,上記根管内インピーダンス値の比が変化することを 各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段とを備え,測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し,上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出することを特徴とする根尖位置検出装置。 (本件発明2)上記信号出力手段が,周波数の異なる測定信号を交互に出力するマルチプレクサを備えたものである請求項1記載の根尖位置検出装置。 3 被告が無効審判請求で主張した無効理由【無効理由1】 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1及び2を特定する事項である「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段」(「事項a」)についての具体的な説明がなく,当業者が容易に実施できる程度にその発明の構成が記載されていないから,本件特許は,特許法36条3項(昭和62年法律27号によるもの。以下同じ)所定の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,特許法第123条1項3号(昭和62年法律27号によるもの。以下同じ)の規定に該当し,無効とされるべきである。 【無効理由2】 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1及び2を特定する事項である「測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し,上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出すること」(「事項b」)について,当業者が容易に実施できる程度にその発明の構成が記載されていないから,本件特許は,特許法36条3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法123条1項3号の規定に該当し,無効とされるべきである。 4 審決の理由の要点(無効理由1についての判断)(1) 本件明細書の記載内容本件明細書の発明の詳細な説明において, ものであり,同法123条1項3号の規定に該当し,無効とされるべきである。 4 審決の理由の要点(無効理由1についての判断)(1) 本件明細書の記載内容本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明1及び2の原理に関する内容として,ア.「この発明では2種類の周波数におけるインピーダンス値の比を求め,次の式によってkの影響を少なくしているのである。 すなわち,比=(1+1/k+ωC0R)/(1+1/k+5ωC0R)={1+ωC0R/(1+1/k)}/{1+5ωC0R/(1+1/k)} ………④ただし k=1~10であり,この式は,1/kの変化の影響が比をとるための割算処理によって小さくなり,根ごとのキャリブレーションが不要になることを示しているのである。」(本件特許公報3頁右欄下から4行~4頁左欄5行参照。「記載事項1」),また,本件発明1及び2の実施例に関する内容として,イ.「第3図のブロック図において,・・・負荷電流は,抵抗5によって電圧の形で検出され,これを波形整形回路16で整流して波形を整えた後,A-D変換器17でディジタルデータに変換される。演算回路18はこのデータをラッチしながら周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータとの比を逐次演算するように構成されており,演算結果は表示部19に送られる。」(本件特許公報4頁左欄〈実施例〉の項参照。「記載事項2」),との記載がなされている。 (2) 記載事項1についての判断記載事項1並びに本件特許公報第1図(a)の測定回路及び同図(b)の等価回路を参酌すれば,上記④式は,測定電極と口腔電極の間の電圧について,ωと5ωの角周波数を用いた場合の電圧値の比,すなわち,根管内電圧値の比を求めたもの 公報第1図(a)の測定回路及び同図(b)の等価回路を参酌すれば,上記④式は,測定電極と口腔電極の間の電圧について,ωと5ωの角周波数を用いた場合の電圧値の比,すなわち,根管内電圧値の比を求めたものであると認められる。 そして,上記等価回路に基づいて導き出された上記④式の根管内電圧値の比を考察すれば,1/kの変化の影響が小さくなり,根ごとのキャリブレーションが不要になることは理解できるところである。 しかしながら,上記④式で表される根管内電圧値の比は,あくまでも,根管内インピーダンス値の比とは異なる概念であることは明らかである。 なぜならば,根管内インピーダンス値は,根管内電圧値を負荷電流値で除したものであるから,根管内インピーダンス値の比を求めるためには,上記④式の根管内電圧値の比に,さらに,ωと5ωの角周波数を用いた場合の負荷電流値の比が考慮されなければならないからである。 したがって,記載事項1は,根管内インピーダンス値の比を採用する場合の演算式を表したものであるとも,それに基づく効果を記載したものであるとも認めることができず,根管内インピーダンス値の比を表す演算式及び該演算式に基づく効果については不明であるといわざるをえない。 (3) 記載事項2についての判断記載事項2によれば,演算回路18は,負荷電流を抵抗5によって電圧の形で検出される測定データ,すなわち,抵抗5の両端電圧値について,周波数fの場合の電圧値と周波数5fの場合の電圧値との比を演算処理するものと認められる。 そうすると,抵抗5の両端電圧値の比が,根管内インピーダンス値の比とは異なる概念であることは明らかであるから,上記の演算回路18が,根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段であるとは到底いえない。 (4) 無効理由1についてのまとめ上記( ス値の比とは異なる概念であることは明らかであるから,上記の演算回路18が,根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段であるとは到底いえない。 (4) 無効理由1についてのまとめ上記(2)及び(3)で検討したように,記載事項1及び2の記載内容は,いずれも,根管内インピーダンス値の比を説明したものとはなっていないため,無効理由1に記載の事項aの「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段」を表しているとは到底認められず,さらに,本件明細書の発明の詳細な説明の項全体を参酌しても,事項aが記載ないし開示されていると認めることができない。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,事項aについての具体的な説明がなく,当業者が容易に実施できる程度にその発明の構成が記載されていないと解釈するのが相当である。 (5) したがって,無効理由2について検討するまでもなく,本件特許は,特許法36条3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法123条1項3号の規定に該当し,無効とすべきものである。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(「根管内電圧値の比」と「根管内インピーダンス値の比」とは異なる概念であるとした判断の誤り)について本件明細書には,従来技術の説明においても本件発明の原理説明においても,根管内インピーダンスを,インピーダンスに対応した検出電圧で代用することが記載されており,「2種類の周波数におけるインピーダンス値の比」に代え,「2種類の周波数における電圧の比」を使うことは,当業者に明らかである。 インピーダンス測定においては,略定電流を使うのが技術常識であるから,本件明細書に開示された2種類の周波数でのインピーダンス測定は,結局2種類の周波数での電圧 を使うことは,当業者に明らかである。 インピーダンス測定においては,略定電流を使うのが技術常識であるから,本件明細書に開示された2種類の周波数でのインピーダンス測定は,結局2種類の周波数での電圧測定と技術的に等しい。 にもかかわらず,審決は,誤って,④式で表される根管内電圧値の比は,あくまでも,根管内インピーダンス値の比とは異なる概念であると判断したものである。 2 取消事由2(負荷電流が流れることにより抵抗5の両端に生成される電圧を演算処理する演算処理回路が相対比検出手段ではないとの判断の誤り)について定電圧源を用い負荷電流を検出抵抗の両端電圧として測定してその電圧をインピーダンス値として検出するという方法は,歯科用装置のインピーダンス測定の技術分野における技術常識であり,この技術常識を踏まえて明細書をみると,負荷電流が流れる抵抗の両端電圧が根管のインピーダンス値に対応することが明らかであるにもかかわらず,審決は,誤って,抵抗5の両端電圧値の比が,根管内インピーダンス値の比とは異なる概念であることは明らかであるから,上記の演算回路18が,根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段であるとは到底いえないと判断したものである。 第4 審決取消事由に対する被告の反論 1 学術用語である「インピーダンス値」を「根管内インピーダンスに対応して電圧あるいは電流の形で得られる値」と解釈することはできない。 (1) 「インピーダンス」とは,学術用語であり,「電圧」,「電流」とは異なる物理量を示すものとして普通に使用されているものである。根管内において,「インピーダンス」と「電圧」,「電流」とは,同一の変化を示すものではないから,原告主張のように,「インピーダンス」を,「インピーダンスに対応して電圧あるいは電流の形で得られる値」と解する おいて,「インピーダンス」と「電圧」,「電流」とは,同一の変化を示すものではないから,原告主張のように,「インピーダンス」を,「インピーダンスに対応して電圧あるいは電流の形で得られる値」と解することはできない。 本件特許請求の範囲には,「根管内インピーダンス値の比を算出する」と記載されているのであって,「根管内インピーダンスに対応する電圧あるいは電流値の比を測定する」とは記載されていない。インピーダンスを測定することはできるのであるから,「根管内インピーダンス値の比を算出する」ためには,インピーダンスの測定が前提となるはずである。明細書中には,「根管内インピーダンス値」が根管内インピーダンスに対応して電圧あるいは電流の形で得られる値であることは,定義されているわけでもないし,この値を用いて根尖位置を検出できることが説明されているわけでもない。 「インピーダンスに対応」という場合の「対応」の意味が明らかでない。インピーダンスに対応した検出電圧とは,インピーダンスの変化を電圧が変化する様子として検出した検出電圧のことであり,「インピーダンスに応答して電圧,電流の形で得られる値」とは異なると解すべきである。 「根管内インピーダンスに対応して電圧あるいは電流の形で得られる値」が「インピーダンス値」であるとされている周知事実はない。 (2) 本件発明が「インピーダンスの変化」によるのではなく,「インピーダンス値の比」を用いて,正確に根尖位置を検出するという新規な発明であるなら,「インピーダンス」と「電圧」,「電流」が異なる物理量である以上,「インピーダンス」値が正確に測定されなければならない。インピーダンスを検出するために,簡便な「電圧電流計法」を用いて「電圧」,「電流」を検出する手法が周知慣用であるからといって,新規な発明において,イン ーダンス」値が正確に測定されなければならない。インピーダンスを検出するために,簡便な「電圧電流計法」を用いて「電圧」,「電流」を検出する手法が周知慣用であるからといって,新規な発明において,インピーダンスに代え,「電圧」,「電流」を測定することまでもが周知であるとはいえない。 しかも,本件明細書に記載された条件は,簡便な電圧電流計法とは異なり,根管内インピーダンス値Z>>検出抵抗値R,R>>Zの条件を満たすものではない。 電圧,電流の比の変化を検知して根尖位置を正確に検出することができるとする根拠も示されていない。原告は,根尖位置の検出は,必要な精度が得られれば装置として機能するから,インピーダンス値を直接測定する必要はなく,電圧,電流値の測定で十分な精度が得られると主張するが,本件発明は,「根管内インピーダンス値の比の変化を検知して根尖位置を検出する」もので,「根管内インピーダンス値の比が一定値になることを検知して根尖位置を検出する」ものではないから,十分な精度を得られるかどうかは不明である。 2 本件発明は,根管内インピーダンスの近似値を求めるものではない。 原告は,電圧,電流値を検出して根管内インピーダンスの近似値が求められるから,根管内インピーダンス値の比を求めることは当業者が容易に実施できるとも主張するが,そもそも,本件明細書中には,「電圧」,「電流」の比を測定して,インピーダンス値の比を求めることの記載はない。原告の主張は,「インピーダンス」が「電圧」,「電流」を示し,「インピーダンス」の測定が,「電圧」,「電流」の測定という前提に立つものであり,前提が誤っている以上,誤りである。 3 従来技術の説明が,本件発明における「インピーダンス値」を定義するものではない。 原告は,本件明細書中の従来技術に関する説明からすると 前提に立つものであり,前提が誤っている以上,誤りである。 3 従来技術の説明が,本件発明における「インピーダンス値」を定義するものではない。 原告は,本件明細書中の従来技術に関する説明からすると,「インピーダンス」の検出は,「電圧」,「電流」の検出であることが容易に理解できると主張するが,従来技術は,本件発明の構成を説明するものではなく,また,この説明が,「インピーダンス値」を定義しているわけでもない。 従来技術は,インピーダンス変化(インピーダンス値の測定は不要)を検出する回路の各出力を逐次比較して差分を出力し,この差分が最小となる点を根尖位置として検出するものである。これに対して,本件発明は,「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」(インピーダンス値の測定が必要)新規な発明であり,根尖位置を検出するためのデータを異にしているというべきであり,正確な根尖位置の検出ができるかどうか疑問なしとはしない。 第5 当裁判所の判断 1 甲第11号証(電子通信学会編「電子通信ハンドブック」(昭和54年発行))には,「電圧電流計法は,原理的には未知インピーダンスZxを流れる電流とその端子間電圧の測定からZxを求める方法であるが,通常は図21に示すように電流を測定する代わりに,既知の高インピーダンスZsを直列に接続して定電流を作り,入出力の電圧比からZxを求めている。すなわち,Zs>>Zxでは,回路には定電流I=Ei/Zsが流れる。したがって,Zxは次式で与えられる。Zx=(Zs×Eo)/Ei」,「また,Zxが大きい場合には,Zs<<Zxになるような小さなZsを用いて,Zsの端子間電圧を測定することによってZxを求めることができる。」と記載されており,この記載から,未知インピーダンスZ 」,「また,Zxが大きい場合には,Zs<<Zxになるような小さなZsを用いて,Zsの端子間電圧を測定することによってZxを求めることができる。」と記載されており,この記載から,未知インピーダンスZxを流れる電流とその端子間電圧の測定から未知インピーダンス値を求めることに代え,既知の高インピーダンスZs(Zs>>Zx)を直列に接続して定電流を作り,入出力の電圧比からZxを求めること,Zs(Zs<<Zx)の端子間電圧を測定することによってZxを求めることが,電気計測機器の技術分野においては電圧電流計法として慣用されていることが認められる。 2 根尖位置検出装置の分野においても,根管内インピーダンス変化検出回路としては,定電圧源を用い,検出抵抗の両端電圧値を測定して,根管内インピーダンス値の変化に伴って変化する電圧値を測定するようにしたものが広く採用されており(例えば,特開昭54-149295号公報(甲第6号証の2)の第2図及びその説明,「ZOOMUP」66号(平成元年4月,長田電機工業株式会社発行。 甲第6号証の6)の6頁図3及びその説明,日本歯科保存学雑誌17巻2号(昭和49年,日本歯科保存学雑誌編集部発行。甲第15号証)の100頁図4及びその説明),「歯界広報」41巻6号(昭和55年,歯界広報社発行。甲第16号証)13頁「1.種類」の項),従来から,根管内インピーダンスの変化を直接検出するのではなく,根管内インピーダンスの変化に対応して変化する検出抵抗の両端電圧値又は電流値を検出して,根管内インピーダンスの変化を間接的に検出することが慣用されていたことを認めることができる。 もっとも,根尖位置検出装置の技術分野における慣用法は,電気計測機器の技術分野における慣用法と異なり,インピーダンス値そのものを計算によって求めるものではなく, れていたことを認めることができる。 もっとも,根尖位置検出装置の技術分野における慣用法は,電気計測機器の技術分野における慣用法と異なり,インピーダンス値そのものを計算によって求めるものではなく,検出抵抗に流れる電流の変化をもって根管内インピーダンスの変化を検出するというものであるが,定電圧源を用いた根管内インピーダンス変化検出回路においては,インピーダンス値と検出抵抗に流れる電流値とがオームの法則に基づいた一定の対応関係にあり,インピーダンス変化を検出抵抗に流れる電流の変化ととらえることができるということを前提としていることは明らかである。 3 本件明細書(本件特許公報。甲第7号証)に〈従来の技術〉として引用されている特公昭62-2817号公報(甲第6号証の4)には,次の記載のあることが認められる。 ◇「測定針と片電極間のインピーダンス変化により根尖孔位置を検出する根尖孔位置検出装置において,2種類の異なる周波数信号を発生する回路と,前記各々の周波数に応答して前記インピーダンス変化を検出する回路と,前記検出する回路の各出力を逐次比較して差分を出力する回路とを備えたことを特徴とする歯科用根尖孔位置検出装置。」(特許請求の範囲第1項,1欄2~11行)◇「前記従来方法(注:歯科医師の触感による方法,X線撮影する方法)の欠点を改良するものとして,第1図に示す装置も知られている。この装置は根管1に挿入したリーマ2と口腔粘膜3に当接した片電極5との間に抵抗6,交流電源7及び電流計8からなる回路を構成し,リーマ2が根尖孔9に至った時に生じるリーマ2と片電極5間のインピーダンス変化を電流計8により電流変化として検出して根尖孔9の位置を検出するものである。」(2欄15~22行)◇「パルス発生器15からは1KHzのインパルス信号と5KHzのインパ 片電極5間のインピーダンス変化を電流計8により電流変化として検出して根尖孔9の位置を検出するものである。」(2欄15~22行)◇「パルス発生器15からは1KHzのインパルス信号と5KHzのインパルス信号が所定周期で多重され出力される。この出力信号及びリーマ2と片電極5間のインピーダンスとに応答した微弱電流が抵抗16に流れ,この微弱電流は増幅器17及び18でそれぞれ増幅される。このうち1KHzのインパルス信号に応答するものだけがフィルタ22を通りa点(第2図)の出力波形は第3図中aで示す出力波形となる。同様に5KHzのインパルス信号に応答するものだけがフィルタ19を通りb点(第2図)の出力波形は第3図中bで示す出力波形となる。・・・両出力a及びbの差分に着目すると,各入力周波数に対する周波数特性により出力a及びbの変化率が異なるがこの変化率は根尖孔9付近で最も大きくなるため,この両出力a及びbの差分が最小となる点(第3図中A点)が根尖孔9の位置として検出される。」(4欄2~32行),これらの記載からすると,特公昭62-2817号公報に示された,測定針と片電極間のインピーダンス変化により根尖孔位置を検出する根尖孔位置検出装置においては,リーマ(測定針)と片電極間のインピーダンスに応答して回路を流れる微弱電流を,回路に接続した検出抵抗によって検出するようにしたインピーダンス変化検出回路を設けており,この検出回路は,上記根尖位置検出装置の技術分野における慣用法に従ったものということができる。 4 本件明細書(本件特許公報。甲第7号証)の発明の詳細な説明には,以下の記載が認められる。 (1)「〈従来の技術〉根尖の位置を電気的に検出して根管長を測定する装置としては,根管内に挿入される測定電極と口の中の軟組織に接続される口腔電極との間の抵 細な説明には,以下の記載が認められる。 (1)「〈従来の技術〉根尖の位置を電気的に検出して根管長を測定する装置としては,根管内に挿入される測定電極と口の中の軟組織に接続される口腔電極との間の抵抗値を検出する方式のもの(例えば特公昭62-25381号公報(甲第29号証)参照),あるいは両電極間のインピーダンスを検出する方式のもの(例えば特公昭62-2817号公報(甲第6号証の4)参照)等が知られている。」(1頁右欄3~9行)(2)「後者の方式は・・・1根ごとにキャリブレーションが必要で操作が煩わしく,治療の効率化が妨げられるという問題点がある。 第4図はこのキャリブレーションを説明したものであり,・・・縦軸はインピーダンスに対応した検出電圧で示してある。2種類の周波数f1,f2(ただしf1<f2)による検出値は・・・根管内の状態に応じて上下に変動する。」(2頁左欄21~32行)(3)「今,歯頸部での検出値がV10,V20,根尖位置での検出値がV1,V2であったとし,電極位置の変化による各検出値の変化量をΔV1,ΔV2とすると,変化量の差ΔV2-ΔV1が根管内の状態の影響が除かれ,周波数に依存したインピーダンスの相対的な変化を示したものとなる。すなわち,ΔV2-ΔV1=(V2-V20)-(V1-V10)=(V2-V1)-(V20-V10)の関係が成立するのであり,歯頸部での検出値を用いて上式の第2項の(V20-V10)に相当するバイアス分を補償するためのキャリブレーションをその都度実施し,根管内の状態の影響を除くことが必要となるのである。」(2頁左欄33~44行)(4)「係数kは薬液や血液の存在等の根管内環境によって決定されるもので、良電導液で満たされている場合は小となり、乾燥時には大となるので、これが誤 が必要となるのである。」(2頁左欄33~44行)(4)「係数kは薬液や血液の存在等の根管内環境によって決定されるもので、良電導液で満たされている場合は小となり、乾燥時には大となるので、これが誤差要因として作用する。なお、根管内の位置によってもkは変化する。今、根管の等価回路に印加される電圧をVtとし,負荷電流を,iとすると,i=Vt・(1/kR+ωC0)・・・Vt=V/(1+1/k+ωC0R)・・・①となり,分母に1/kを含んでいるため根管内の環境によりVtの値が変動し,このままでは検出値として使用できない」(2頁右欄34行~3頁左欄4行)(5)「ここで,前述の公報記載の後者において採用している2種類の異なる周波数信号に対応したインピーダンス値の差分を検出する方式は,上記の式(注;式①)のVtを異なる周波数において求め,その差を計算していることになる。すなわち,例えばωと5ωの角周波数を用いた場合,差分=V/(1+1/k+ωC0R)-V/(1+1/k+5ωC0R)・・・②=4ωC0RV/(1+1/k+ωC0R)(1+1/k+5ωC0R)・・・③という形になり,1/k≪ωC0Rでない限り1/kの影響を消すためには根ごとにキャリブレーションを行うことが必要になるのである。」(3頁右欄4行~下より5行)(6)「これに対して,この発明では2種類の周波数におけるインピーダンス値の比を求め,次の式によってkの影響を少なくしているのである。 すなわち,比=(1+1/k+ωC0R)/(1+1/k+5ωC0R)={1+ωC0R/(1+1/k)}/{1+5ωC0R/(1+1/k)}・・・④ただし k=1~10であり,この式は,1/kの変化の影響が比をとるための割算処理によって小さくな 1+ωC0R/(1+1/k)}/{1+5ωC0R/(1+1/k)}・・・④ただし k=1~10であり,この式は,1/kの変化の影響が比をとるための割算処理によって小さくなり,根ごとのキャリブレーションが不要になることを示しているのである。」(3頁右欄下から4行~4頁左欄5行,審決認定の「記載事項1」)(7)「第3図のブロック図において,・・・負荷電流は抵抗5によって電圧の形で検出され,これを波形整形回路16で整流して波形を整えた後,A-D変換器17でディジタルデータに変換される。演算回路18はこのデータをラッチしながら周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータとの比を逐次演算するように構成されており,演算結果は表示部19に送られる。」(4頁左欄〈実施例〉の項,審決認定の「記載事項2」)(8)「このように検出値の比をとることによって,根管内が乾燥状態か湿潤状態であるかの差異,薬液や血液等の電導液の存在による差異などの根管内の状態や,根尖孔の直径,測定電極の太さなどの外部要素等の影響が自動的に消去され,測定の都度煩わしいキャリブレーションを行う必要がなくなるのである。また構成部品の劣化の影響を自動的に除くことも可能となる。更に,交流電源によるハムやその他のノイズの影響も軽減できるので,スケーラーに組み込んで根管拡大する等の応用も容易となる。」(4頁右欄〈発明の効果〉の項) 5 上記記載からすると,本件明細書の発明の詳細な説明中には,インピーダンスの変化を検出するに当たり,2種類の異なる周波数信号を用いて検出回路に流れる微弱電流の差分を算出し,その差分が最小となる点を根尖孔位置として検出するという,特公昭62-2817号公報に係る従来技術にあっては,その都度キャリブレーションを実施する煩 を用いて検出回路に流れる微弱電流の差分を算出し,その差分が最小となる点を根尖孔位置として検出するという,特公昭62-2817号公報に係る従来技術にあっては,その都度キャリブレーションを実施する煩わしさがあることから,キャリブレーションを不要とすることを技術的課題として,従来技術におけるインピーダンス値の差分を求めることに代え,インピーダンス値の比を求めることによって,インピーダンスの変化を検出することが記載されていると認められることができる。そして,インピーダンス値の比を求めるに際しては,インピーダンス値自体を直接検出ないしは計算により求めるのではなく,インピーダンスに対応した電圧値の検出ないしは検出抵抗に流れる負荷電流の電圧値の形での検出によって間接的にインピーダンスを検出していることが,発明の詳細な説明の記載全体からみて明らかである。 つまり,本件明細書の発明の詳細な説明中には,インピーダンス値の比の変化を検出するに際しては,インピーダンスを,特公昭62-2817号公報に係るような従来技術と同様にして検出すること,すなわち,根尖位置検出装置の技術分野における慣用法に立脚して検出することが記載されているということができる。 6 本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明の要旨参照)冒頭の「測定電極と口腔電極との間のインピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置であって」との記載からすると,本件発明が,「インピーダンスの変化から根尖位置を検出する」ことを前提とするものであることが明らかである。そして上述のとおり,根尖位置検出装置の技術分野においては,インピーダンスの変化を,インピーダンスの変化に対応する電圧等の変化により検出することが慣用されているのであるし,本件明細書の発明の詳細な説明も,慣用法を用いることを前提として記載されている ては,インピーダンスの変化を,インピーダンスの変化に対応する電圧等の変化により検出することが慣用されているのであるし,本件明細書の発明の詳細な説明も,慣用法を用いることを前提として記載されている。 そうすると,本件発明において,「インピーダンスの変化から根尖位置を検出する」とは,「インピーダンスの変化をインピーダンスの変化に対応する電圧等の変化により検知して根尖位置を検出する」という,根尖位置検出装置の技術分野における慣用法を採用して検出することと理解することができる。 そうであれば,特許請求の範囲の「根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段」という記載についても,「測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し,上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という記載についても,上記慣用法を前提として解釈すべきである。そのように解釈すれば,前記発明の詳細な説明中の記載と齟齬するところはない。 7 したがって,本件発明において,「インピーダンス値の比」を,インピーダンスに対応した「電圧値」又は「電流値」の比によって求めることは当業者が容易に理解できるので,「電圧値」又は「電流値」の比がインピーダンス値の比とは異なる概念であるとすることはできない。 審決は,上記慣用技術について考慮することなく,記載事項1及び2の記載内容は,いずれも,根管内インピーダンス値の比を説明したものとはなっておらず,請求項1に記載された「根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段」は明細書の詳細な説明中に記載されていないと認定判断したものであり,誤りである。 8 「インピーダンスの変化」を検出することについては,インピーダンスの変化に対応した電圧値又は電流値の変化を検出して,インピーダンスの変化を 載されていないと認定判断したものであり,誤りである。 8 「インピーダンスの変化」を検出することについては,インピーダンスの変化に対応した電圧値又は電流値の変化を検出して,インピーダンスの変化を間接的に検出することが慣用されていたし,また,発明の詳細な説明中に記載された本件発明の技術的意義が,インピーダンス値の変化を,従来技術どおり「電圧」等の変化で検出することを前提とし,インピーダンス値の変化の差を求める代わりに比を求めることにあるものであることは上記説示のとおりであり,インピーダンスの変化,インピーダンスの比の変化とは,従来技術におけると同様,「電圧」値等の変化,「電圧値」等の比の変化の意味に解釈すべきものである。このように,学術用語に拘泥することなく,本件発明における「インピーダンス」の意味を,当該技術分野の慣用技術,従来技術を考慮しつつ素直に解釈すれば,本件発明の正確な理解が得られるものと認めることができる。 この点に反する被告の主張(前記第4の1(1))は,理由がない。 9 被告は,慣用されている電圧電流計法は誤差を伴うもので,正確な根尖位置の検出に利用できることまでもが周知ではなく,明細書に記載の条件は,慣用されている電圧電流計法における条件である根管内インピーダンス値Z>>検出抵抗値R,R>>Zを満たすものではない,などとも主張する。しかし,本件発明は,インピーダンス値の変化を,従来技術のとおり,インピーダンスに対応した「電圧」等の変化で検出することを前提とするものであるところ,従来技術におけるキャリブレーションを不要にするために,インピーダンス値の差ではなく比を求めるものであるから,電圧電流計法の誤差を無視できることは当業者にとって自明のことである。被告主張の点をもって,事項aについて当業者が容易に実施できる程度に ために,インピーダンス値の差ではなく比を求めるものであるから,電圧電流計法の誤差を無視できることは当業者にとって自明のことである。被告主張の点をもって,事項aについて当業者が容易に実施できる程度に発明の構成が記載されていないとすることはできない。 第6 結論以上のとおりであり,原告の請求は認容されるべきである。 東京高等裁判所第18民事部裁判長裁判官塚原朋一裁判官塩月秀平裁判官古城春実

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