平成19(ワ)17135 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成20年9月11日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文24,870 文字)

平成20年9月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成19年(ワ)第17135号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成20年6月11日判決原告A原告B原告ら訴訟代理人弁護士原木詩人被告学校法人慈恵大学同代表者理事長C同訴訟代理人弁護士木崎孝主文 原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告らに対し,それぞれ2488万0329円及びこれに対する平成19年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,平成10年4月13日から,被告の開設する病院の呼吸器内科の医師の外来診療をおよそ1か月に1度程度継続的に受診してきたところ,平成18年3月30日に上記病院の消化器内科で受診し,同年4月8日に胃癌の確定診断を受け,同年6月2日に死亡した亡D(死亡当時85歳の女性)の相続人である原告らが,亡Dが死亡したのは,被告病院呼吸器内科の医師において,亡Dが胃腸の癌の早期発見を再三依頼し,また平成17年夏ころからは胃部の変調も訴えていたにもかかわらず,胃癌の早期発見に必要な胃X線検査などの実施を怠ったためであるなどとして,被告に対し,診療契約の債務不履行ない し不法行為に基づき,それぞれ2488万0329円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年7月26日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 前提事実(証拠原因により認定した事実については,括弧書きで当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等ア亡Dは,大正9年10月26日生まれで,東京都港区内に所在の北里研究所病院において,平成18年6月2日,胃癌 で当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等ア亡Dは,大正9年10月26日生まれで,東京都港区内に所在の北里研究所病院において,平成18年6月2日,胃癌及び癌性腹膜炎により死亡した女性である(甲A1,甲C2,甲C3。 )原告A及び原告Bは,亡Dの子であり,原告らのほかに亡Dの相続人はいない。 イ被告は,東京都港区内において「東京慈恵会医科大学付属病院」とい,う名称の病院(以下「被告病院」という)を開設している。 。 E医師は,被告病院呼吸器内科に勤務し,平成10年4月13日から平成18年3月30日までの間,亡Dの診療に関与した医師であり(昭和51年医師免許取得,呼吸器内科を専門にしている(乙A1,乙A8・7)枚目,証人E3頁,28頁。 )(2)亡Dの診療経過等ア亡Dは,昭和60年5月ころから,被告病院内科を継続的に受診していた(弁論の全趣旨。 )イ亡Dは,夫であるFとともに,被告病院の血液内科のG医師の診察を受けていたものであるところ,COLD(慢性閉塞性肺疾患)に罹患していたFが呼吸器内科に転科することになったことに伴い,亡Dも,Fと共に被告病院を受診する便宜上,平成10年4月13日,被告病院の血液内科から被告病院の呼吸器内科に転科し,呼吸器内科の担当医であるE医師の下で高血圧及び甲状腺機能低下症の管理治療を継続することになった(乙 A1・2頁,4頁,乙A8・1頁。Fは平成12年10月17日に死亡)したが,亡Dは,その後も,被告病院の呼吸器内科を受診し続けた(甲C3。 )ウ亡Dは,上記イの転科の日から平成18年3月30日までの間,診療及び検査のため,1か月に1回程度のペースで合計92回にわたって,被告病院の呼吸器内科を受診した(乙A1・4頁ないし24頁。 )エ 亡Dは,上記イの転科の日から平成18年3月30日までの間,診療及び検査のため,1か月に1回程度のペースで合計92回にわたって,被告病院の呼吸器内科を受診した(乙A1・4頁ないし24頁。 )エ亡Dは,腹痛等を主訴として,平成18年3月30日,被告病院の消化器内科を受診し,腹部CT撮影を行ったところ,CT画像上は,明らかな腫瘍は認められないものの,腹水が認められ,亡Dの年齢も考慮すると悪性腫瘍の存在が疑われた。そこで,被告病院消化器内科の担当医師であるH医師は,亡Dが同科を再度受診した同年4月5日に,上記のCT画像所見を亡Dに説明して,精査目的で入院予約を申し込んで,同日は亡Dを帰宅させたが,同月7日,亡Dは,腹痛の増悪等を主訴として被告病院を救急受診し,そのまま入院精査となった(乙A2・3頁ないし5頁,8頁,乙A3・2頁。 )オ亡Dは,平成18年4月8日,被告病院消化器内科の病棟医であるI医師,J医師及び研修医であるK医師(以下「I医師ら」という)の診察。 及び腹部内視鏡検査を受け,ステージⅣの進行胃癌と診断された(乙A3・1頁,3頁,乙B1・8枚目。亡Dは,本人の希望もあり,平成18)年5月6日に被告病院を退院し,直ちに北里研究所病院に転院して化学療法を受けたが,同年6月2日,同病院において,胃癌及び癌性腹膜炎により85歳で死亡した(甲A1,乙A3・3頁。 ) 原告らの主張(1)亡Dの胃癌の早期発見のために必要な措置を執らなかった過失ア亡DがE医師に対して胃癌の早期発見を依頼していたこと亡Dは,癌病変,特に胃腸の癌の発症を普段から恐れており,E医師に 対して,自らに癌が発症した場合の早期発見を普段から繰り返し依頼してきた。特に,平成15年9月に,娘である原告Bが直腸癌に罹患したことから,亡Dは,自らの癌発症に を普段から恐れており,E医師に 対して,自らに癌が発症した場合の早期発見を普段から繰り返し依頼してきた。特に,平成15年9月に,娘である原告Bが直腸癌に罹患したことから,亡Dは,自らの癌発症に対する不安を募らせ,E医師に対して上記依頼をことあるごとに繰り返し,E医師もこれを受諾していた。 イ亡Dの症状亡Dは,平成17年夏から秋ころより,食後の胃痛・胃部不快感を頻繁に訴え始め,その後,食間の胃痛・胃部不快感,頻回のゲップを訴えるようになり,これらの症状は,少なくとも以下の機会にはE医師にも伝えられていた。 ,,,(ア)亡Dと原告BはE医師に対し平成17年10月17日の診療時亡Dの口臭が気になること,食欲がないこと,食後に胃がムカムカしたり,胃が痛むことを訴えた。 (イ)亡Dは,E医師に対し,平成17年12月12日の診療時,食事をすると胃酸が上がってくるように感じること,食欲がないこと,胃の具合が悪いことを訴えた。 ウ検査実施義務違反亡DがE医師に対して胃癌の早期発見を依頼していたことや亡Dの症状からすれば,E医師は,平成17年夏から秋ころ,亡Dの胃部変調の訴えに対し,胃X線検査,胃内視鏡検査及びCT検査等の癌の早期発見に必要な検査を実施する義務があったにもかかわらず,腫瘍マーカーの測定をするだけで,胃X線検査の実施等の癌の早期発見に必要な措置を執らなかった。 ,,,,少なくともE医師には亡Dに対し胃癌を早期に発見するためには胃X線検査や胃内視鏡検査等の検査を行うことが必要であることを十分に説明し,検査を受けるかどうかの選択の機会を与える義務があったのに,これを怠った。 (2)亡Dの症状について誤った説明をした過失E医師は,腫瘍マーカーの検査値が正常であるから癌の心配はない旨の医学的根拠のない間違 どうかの選択の機会を与える義務があったのに,これを怠った。 (2)亡Dの症状について誤った説明をした過失E医師は,腫瘍マーカーの検査値が正常であるから癌の心配はない旨の医学的根拠のない間違った説明を繰り返し,亡Dは,これを信頼したために癌を発症している可能性はないと誤信し,その結果として,胃癌早期発見のた()めの適切な措置を執る機会を他の病院等において検査を受けることを含め事実上奪われた。 (3)因果関係E医師が亡Dの胃癌の早期発見のために必要な措置を執らなかった過失又は亡Dの症状について誤った説明をした過失と亡Dの死亡という結果との間に相当因果関係が認められることは明らかである。 (4)損害ア亡Dに生じた損害(ア)逸失利益844万2875円亡Dの死亡による逸失利益は基礎収入を年額186万6200円①,(Fが加入していた国家公務員共済組合の遺族共済年金年額146万9800円,②Fが加入していた厚生年金保険の遺族厚生年金年額32万0400円及び③亡Dが加入していた国民年金の通算老齢年金年額7万6000円の合計額,生活費控除率を30パーセント(女子単身者,))平均余命年数を8年間(対応するライプニッツ係数6.463)と評価して,以下のとおり,844万2875円となる。 186万6200円×(1-0.3)×6.463=844万2875円(イ)慰謝料3000万円亡Dは,癌の発生はないという被告病院の診断を完全に信頼していたにもかかわらず,その信頼を裏切られたばかりか,被告病院から間違った説明を受けたために,他の病院の診察を受ける機会を失い,突然予期 しない死に至った。これに対する慰謝料は3000万円を下らない。 (ウ)北里研究所病院に転院した後の治療費44万2926円亡Dは,北里研究所病院におい の病院の診察を受ける機会を失い,突然予期 しない死に至った。これに対する慰謝料は3000万円を下らない。 (ウ)北里研究所病院に転院した後の治療費44万2926円亡Dは,北里研究所病院において,細胞免疫療法等の治療を受けた。 その治療費は合計44万2926円である。 (エ)小計3888万5801円イ原告ら固有の損害(ア)慰謝料各300万円原告らは,亡Dの健康を心配し,亡Dが被告病院を受診する際は必ず同席するなどしていたところ,被告病院の間違った説明を受けてこれを信頼したために,亡Dに適切な診療を受けさせることができなかったのであり,その心痛及び精神的衝撃は大きい。これに対する慰謝料は,原告らにつきそれぞれ300万円を下らない。 (イ)葬儀費用147万4858円(ウ)弁護士費用340万円(エ)小計1087万4858円ウ合計4976万0659円 被告の主張(1)胃癌の早期発見のために必要な措置を執らなかった過失の主張についてア亡DがE医師に対して胃癌の早期発見を依頼したか否かE医師は,亡Dから,癌の早期発見を繰り返し依頼されたりはしていない。むしろ,亡Dは,早期癌の発見に有効な胃腸の検査(胃X線検査や胃),,内視鏡検査を勧めても地区の定期検診を受けているから良いと言ってそういった侵襲性のある検査を拒否する患者であった。 被告と亡Dとの間で締結されたのは,患者の症状等に応じて診療当時の医療水準を満たした診療を行うという一般的な診療契約であり,被告が特別に高度の検査義務,診療義務を負担する内容の診療契約が締結されたわ けではない。 イ亡Dの症状亡Dは,不定愁訴(内科領域で漠然とした身体的愁訴を有し,それに見合うだけの器質的疾患の裏付けの認めがたい症例)の多い患者で,胃の症状についても訴 約が締結されたわ けではない。 イ亡Dの症状亡Dは,不定愁訴(内科領域で漠然とした身体的愁訴を有し,それに見合うだけの器質的疾患の裏付けの認めがたい症例)の多い患者で,胃の症状についても訴えがあったので,継続的に胃薬を処方しているが,平成17年夏から秋ころにおいて,特段,胃に関する訴えが増悪したということはない。 ウ検査実施義務違反の主張について一般的な診療契約を前提として,亡Dに胃癌を疑わせる特段の症状がないこと,胃内視鏡検査やバリウムを使用する胃X線検査は侵襲性が高く,高齢者に対して実施する場合には,イレウス(腸閉塞)を起こすリスク等があること,及び亡Dや原告Bから検査の要請が特段にはなかったことに照らすと,E医師は,亡Dに対して,胃腸の癌を早期に発見するために上記の検査を実施すべき義務を負わない。 また,亡Dが胃X線検査や胃内視鏡検査等の検査を拒否していたことか,,,。 らもE医師は亡Dに対して上記の検査を実施すべき義務を負わないE医師は,亡Dに対し,癌が心配であれば胃X線検査や胃内視鏡検査などがあることを説明している。 なお,亡Dが罹患した胃癌は,いわゆる「スキルス」という,腫瘤を形成せず,胃壁の中で広がって粘膜の表面に現れないタイプの癌であり,さしたる自覚症状もないことから,毎年胃癌検診を受けていても,診断がなされたときには既に手遅れであるということがまれではなく,早期発見が極めて困難なものである。 (2)亡Dの症状について誤った説明をした過失の主張についてE医師は,腫瘍マーカーの値が正常範囲内であるとの説明をしたことはあるが,そのことを理由に,癌発症を心配する必要がないという説明をしたこ とはない。 第3当裁判所の判断 本件に関係する医学的知見証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併 をしたことはあるが,そのことを理由に,癌発症を心配する必要がないという説明をしたこ とはない。 第3当裁判所の判断 本件に関係する医学的知見証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,本件に関係する以下の医学的知見が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (1)進行胃癌についてア進行胃癌の定義及び分類(ア)早期胃癌と進行胃癌(乙B1・8枚目,乙B2・864頁)胃癌は,癌の浸潤の程度(深達度)により,早期胃癌と進行胃癌に分類される。早期胃癌は癌の浸潤が粘膜および粘膜下層に限局する病変を指し,リンパ節転移の有無を問わないと定義される。一方,進行胃癌は固有筋層以下(固有筋層,漿膜下層,漿膜層,漿膜外層)に癌が浸潤しているものと定義される。肉眼的な分類としては,早期胃癌の分類(日本消化器内視鏡学会分類)と進行胃癌の分類(Borrmann分類)を通常用いている。 (イ)進行胃癌の分類(Borrmann分類(乙B2・864頁右上の図18.6)4,乙B3・2512頁)①1型(限局隆起型)胃内腔に限局性に突出した形態で,表面に潰瘍を伴わない。境界は鮮明である。 ②2型(限局潰瘍型)潰瘍を形成しており,周囲に周堤を形成するもの。境界は鮮明である。 (),,③3型潰瘍浸潤型潰瘍を形成し周囲に周堤を形成しているが周堤の一部もしくは大部分がくずれており,周囲に癌がびまん性に浸潤している。周囲との境界は不鮮明である。 ④4型(びまん性浸潤型)癌がびまん性に胃壁内を浸潤する型で,境界は不鮮明である。4型の大多数が,間質結合組織の増生の強い硬 性癌である。なお,4型は「胃スキルス」とほぼ同義語として用いられている。 イ胃癌の症状(ア)臨床症状胃癌の臨床症状を記載した文献として,以下のような 大多数が,間質結合組織の増生の強い硬 性癌である。なお,4型は「胃スキルス」とほぼ同義語として用いられている。 イ胃癌の症状(ア)臨床症状胃癌の臨床症状を記載した文献として,以下のようなものがある。 ①胃癌に特有な症状はない。癌の発生部位により特有な臨床症状の出現がある場合もあるが,一般に早期胃癌では臨床症状に乏しい。癌の進展・増大にしたがって種々の症状が出現してくるが,上腹部痛・不快感,悪心・嘔吐,上腹部膨満感などの症状から胃癌を推定することはほとんどできない。 ,,進行癌であればその発生部位よりある程度の類推が可能であるが絶対的ではない。たとえば噴門部や幽門部の進行癌であれば,形態学的に狭い部位であるので容易に食物の通過障害を起こす。嚥下困難や嚥下痛は噴門部癌を,上腹部膨満感や嘔吐が強い場合には幽門部癌を疑う。消化管出血は,ほぼ50パーセント以上は消化性潰瘍からの出血であるが,その6~8パーセントに胃癌よりの出血が含まれているので,診断及び治療に留意する必要がある(乙B2・865頁,866頁。 ),,。 ②胃癌はその進行の程度にかかわらず症状が全くない場合もある逆に,早い段階から胃痛,胸焼け,黒い便がみられることもある。これらの症状は胃炎や胃潰瘍などにもみられる(乙B1・4枚目。 )(イ)身体所見(乙B2・866頁)進行癌では,ときに腫瘤を触れる場合もある。腹膜転移を起こした場合には腹水がみられることがある。末期には,貧血,るいそう,リンパ節転移を起こす。 ウ胃癌の診断方法 胃癌の存在診断はX線検査および内視鏡検査によってなされ,確定診断には内視鏡直視下生検が必要である(甲B4・71頁,乙A8・5頁,乙B1・6頁,乙B2・867頁。癌の広がり(浸潤,転移など)の診断),,,,,には び内視鏡検査によってなされ,確定診断には内視鏡直視下生検が必要である(甲B4・71頁,乙A8・5頁,乙B1・6頁,乙B2・867頁。癌の広がり(浸潤,転移など)の診断),,,,,にはX線検査超音波内視鏡検査腹部超音波検査CT検査等があり,(,,これによって病期を判定して治療方法を決定する乙B1・6頁8頁乙B2・868頁。 )(ア)X線検査存在診断を目的としたルーチン検査と,病変の存在を知った上で質的診断を目的とした精密検査とがある(甲B4・71頁。 )胃X線検査では,検査前に飲むバリウム(造影剤)によって,検査後に便秘を生じる場合があり,さらにイレウス(腸閉塞)を生じる危険性も高まる。このため,特に高齢者に対して胃X線検査を行うに当たって,(,,)。 は注意が必要である乙A8・5頁乙B1・1枚目証人E26頁①ルーチン検査胃癌の存在診断については,効果があると判定されている検査は胃X線検査であるとする見解(乙B1・1枚目)があるが,他方で,X線検査よりも内視鏡検査が優れており,ルーチン検査としてのX線検査は検診や人間ドック以外で行われることは少なくなっているとする見解もある。しかし,後者の見解でも,内視鏡検査では病変の見逃し,。 のチェックが困難でありX線検査が有利な場合もあるとされている特に,びまん性浸潤型胃癌(4型,スキルス)は,内視鏡ではときに見逃されることがあるが,X線診断は比較的容易である(甲B4・71頁,証人E24頁。 )②精密検査病変の部位,大きさ,肉眼形態,浸潤範囲および深達度を求めることを目的として行う。これらの胃癌の質的診断については,内視鏡検 査よりもX線検査の方が客観性が高く,微小病変を除けば,現在でも胃癌の治療法の決定のために必要不可欠 潤範囲および深達度を求めることを目的として行う。これらの胃癌の質的診断については,内視鏡検 査よりもX線検査の方が客観性が高く,微小病変を除けば,現在でも胃癌の治療法の決定のために必要不可欠な検査である(甲B4・71頁,72頁。 )(イ)内視鏡検査内視鏡検査の利点は,色調を観察できる点と生検で組織を確認できる点であり,微小病変の発見能においては,X線検査を凌駕している(甲B4・72頁。 )胃内視鏡検査では,検査前における鎮痙剤(胃の動きを抑える薬剤)の注射や麻酔によるショックが生じることがあるほか,出血や穿孔(胃の粘膜に穴を開けてしまうことといった事故が生じる危険性がある乙)(A8・5頁,乙B1・1枚目,証人E32頁。 )(ウ)内視鏡的直視下生検法内視鏡下に病変部より組織標本を採取(生検)することにより確定診断ができる(乙B2・867頁,868頁。 )(エ)超音波内視鏡検査癌の深達度の推定に有用な検査方法である(乙B2・868頁。 )(オ)腹部超音波検査,CT検査癌の転移や周囲臓器への浸潤,リンパ節転移などの検索に有用な検査法である(乙B1・7枚目,乙B2・868頁。 )エ胃癌の治療原則的には外科手術が第1選択である。最近では内視鏡的手術法の発達により内視鏡治療が選択される場合もある。切除不能な進行癌や再発例,胃癌術後の補助として化学療法が施行される(乙B2・868頁。しか)し,高齢者の場合には,化学療法の実施も困難な場合がある(乙A3・3頁,証人E29頁。 )オ予後 予後に関与する因子としては癌の深達度が重要であり,その程度によりリンパ節転移肝転移腹膜転移などの他臓器転移の頻度が左右される乙,,(,)。 ,B1・4枚目乙B2・869頁進行癌では1型が予後が比較的よくついで の深達度が重要であり,その程度によりリンパ節転移肝転移腹膜転移などの他臓器転移の頻度が左右される乙,,(,)。 ,B1・4枚目乙B2・869頁進行癌では1型が予後が比較的よくついで2型,3型で,4型が最も予後不良である(乙B2・869頁。 )カスキルス胃癌(乙B1・4枚目,乙B3・1枚目,乙B4・3枚目)いわゆるスキルス胃癌は,癌細胞が胃壁の中で広がって粘膜の表面には現れない特殊な胃癌で,診断がついた時点で60パーセントの患者に転移が見られる。スキルス胃癌の治療成績は極めて悪く,5年生存率が0パーセントであるといわれたことがあり,最近,その治療法の向上により少し成績が向上してきたが,なお通常の胃癌の治療成績の域には達しない。 スキルス胃癌は胃癌の中では最も悪性度が高く極めて早い速度で増殖し,時には数か月で転移するに至ることもまれではない。スキルス胃癌との診断を受けた時点で,既に癌性腹膜炎の状態で余命3か月と宣告された患者の症例において,上記診断の1年前には癌が存在しないか,存在しても極めて微少なものであった可能性が高いとされた症例も存在する。 (2)腫瘍マーカー検査についてア腫瘍マーカーについて(ア)定義腫瘍マーカーとは,癌細胞のみが産出する特別な物質を指すと考えられていたが,現在では,癌の存在や性質を知るうえで有用な物質の総称として広く用いられている(甲B1・1枚目,甲B2・1015頁,1016頁,甲B3・689頁「癌細胞が作る物質,または,癌の存)。 在に反応して他の細胞が作る物質で,それを組織,体液,排泄物中に検出することが,癌の存在,種類,進展度,性質などを示す目印となるもの」と定義するものもある(甲B3・689頁。 )(イ)役割 腫瘍マーカーは,進行した悪性腫瘍の動態を把握する(治療効果 に検出することが,癌の存在,種類,進展度,性質などを示す目印となるもの」と定義するものもある(甲B3・689頁。 )(イ)役割 腫瘍マーカーは,進行した悪性腫瘍の動態を把握する(治療効果を判定する)ために使われているのが実情であり,早期診断に使えるという意味で確立されたものはまだないとされている(甲B1・2枚目,甲B2・1016頁。 )イ腫瘍マーカーの種類(ア)CEA(癌胎児性抗原)CEA(癌胎児性抗原)は,臨床的に最も広範囲かつ頻繁に利用されている腫瘍マーカーの一種である。肺癌,乳癌,胃癌,胆道癌,膵癌,大腸癌などの検出に有用であり,食道癌の診断補助および術後・治療後の経過観察の指標としても用いられている(甲B1・1枚目,2枚目,甲B2・1016頁,1017頁,証人E11頁,12頁。 )消化器癌において比較的高い陽性率がみられるが,早期癌など進行度が低い癌では陽性率は低く,癌のスクリーニングに利用することは困難である。また,種々の良性疾患や加齢,喫煙習慣でも軽度の上昇が認められること,健常者の偽陽性率が5パーセント程度であることも念頭に入れる必要がある(甲B2・1016頁,証人E33頁。 )(イ)CA19-9CA19-9は,胃癌,胆道癌,膵癌などの検出に有用な腫瘍マーカーの一種である(甲B1・1枚目,2枚目,甲B2・1016頁,1。 018頁。血清CA19-9は,膵癌で80パーセント以上の陽性率)が報告されているが,膵癌のみに特異的ではなく,胆道癌では70パーセント,胃癌,大腸癌でも30パーセントから50パーセントの陽性率をみる。また,胆管炎や膵炎など良性疾患でも偽陽性をみるため注意が必要である(甲B2・1018頁。 )(ウ)SLX(シアリルLex-i抗原)SLX(シアリルLex-i抗原)は,肺癌, トの陽性率をみる。また,胆管炎や膵炎など良性疾患でも偽陽性をみるため注意が必要である(甲B2・1018頁。 )(ウ)SLX(シアリルLex-i抗原)SLX(シアリルLex-i抗原)は,肺癌,膵癌,卵巣癌などの検 出に有用な腫瘍マーカーの一種である(甲B1・1枚目,2枚目,甲B2・1018頁。 )(エ)SCC(扁平上皮関連抗原)SCC(扁平上皮関連抗原)は,食道癌,肺の扁平上皮癌,子宮頸部癌,子宮体部癌,頭頸部癌,皮膚癌などの扁平上皮癌一般の検出に有用な腫瘍マーカーの一種である(甲B1・1枚目,2枚目,甲B2・1016頁,証人E・14頁。 )(オ)NSE(神経特異エノラーゼ)NSE(神経特異エノラーゼ)は,神経芽細胞腫,甲状腺髄様癌,肺の小細胞癌などの検出に有用な腫瘍マーカーの一種である(甲B1・1枚目,2枚目,証人E・14頁。 )(カ)CA125(糖鎖抗原125)CA125(糖鎖抗原125)は,肺癌,乳癌,膵癌,卵巣癌などの検出に有用な腫瘍マーカーの一種である(甲B1・1枚目,2枚目,甲B2・1018頁。 )ウ胃癌の腫瘍マーカー胃癌の診断における腫瘍マーカー検査の有用性を記載した文献としては,以下のようなものがある。 (ア)胃癌に特異的な腫瘍マーカーは存在せず,いくつかを組み合わせるcombinationassayにより検出率を高めているのが現状である。胃癌診断に有用な腫瘍マーカーとしては,CEA,CA19-9,AFP(α-フェトプロテイン,CA72-4,STN(シアリルTn抗原,))CA125があるが,予後や転移との関連が明らかなものはCEAやCA19-9である。特にCEAの意義は高く,ステージⅡの胃癌において,再発群の術前CEA値は非再発群に比較して有意に高値で,再発の高危険因子であることが 予後や転移との関連が明らかなものはCEAやCA19-9である。特にCEAの意義は高く,ステージⅡの胃癌において,再発群の術前CEA値は非再発群に比較して有意に高値で,再発の高危険因子であることが報告されている(甲B2・1016頁,甲B1 ・2枚目。 )(イ)胃癌に特性の高い腫瘍マーカーは現在までのところ登場していない。 腫瘍が産生するものは体循環でおよそ5万倍に希釈されるので,これを検出するには相当な腫瘍量が必要となるわけで,原理的にも微小胃癌(早期胃癌)を診断すること,特に血清診断することが極めて困難であることは容易に理解できる。それでも,これまでに種々の腫瘍マーカーが次々に登場している。胃癌に有用な腫瘍マーカーとして,CEA,CA19-9,CA125などが30~40パーセントの陽性率などと報告されている。 また,胃癌腫瘍マーカーの早期胃癌陽性率は10パーセント以下の低率である。したがって,血清レベルで正常人や良性疾患と早期胃癌を鑑別できる腫瘍マーカーはなく,まして微小胃癌診断には腫瘍マーカーは役に立たないといわれている(甲B3・689頁,690頁。 ) 亡Dの診療経過(,,,)前記前提事実に証拠甲A3乙A8証人Eのほか各項に掲記したもの及び弁論の全趣旨を併せると,本件における亡Dの診療経過等について以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (1)亡Dの病歴亡Dは,70歳ころ,甲状腺機能低下症を発症し,平成10年3月ころには,被告病院血液内科において,高血圧及び甲状腺機能低下症の管理治療中であった(乙A1・2頁,乙A3・2頁。 )(2)被告病院呼吸器内科への転科依頼ア被告病院血液内科のG医師は,平成10年3月ころ,被告病院呼吸器内,(,)。 科のE医師に対し以下の概要 であった(乙A1・2頁,乙A3・2頁。 )(2)被告病院呼吸器内科への転科依頼ア被告病院血液内科のG医師は,平成10年3月ころ,被告病院呼吸器内,(,)。 科のE医師に対し以下の概要で転科依頼をした乙A1・2頁3頁「COLDのF殿の奥様です。呼吸器疾患ではありませんが,御夫婦で 来院されておりますので申しわけありませんが,今後のフォローアップ宜しくお願い致します。①高血圧,②甲状腺機能低下にて通院中です」。 イ上記アの転科依頼は,Fと亡Dの主治医であったG医師が被告病院から転勤することに伴って,COLD(慢性閉塞性肺疾患)という呼吸器疾患であったFについては,今後の診療をE医師に依頼していたので,亡Dについても,Fと共に通院する便宜と血痰が出るという主訴があったことを考慮して,亡Dの高血圧及び甲状腺機能低下症の管理治療も併せてE医師に依頼するものであった(証人E1ないし3頁。 )(3)被告病院呼吸器内科における主な診療経過亡Dは,平成10年4月13日以降,1か月に1回程度のペースで被告病院呼吸器内科を受診していたところ,その間の主要な診療の経過は以下のとおりである。以下の認定以外の診療においても,基本的には,E医師によって,亡Dの高血圧及び甲状腺機能低下症に対する管理治療が行われ,そのほかにも,診療の都度,亡Dの主訴に応じた治療がなされていた。亡Dの主訴としては,腰痛,全身倦怠感,めまい,風邪,便秘,胃の不調等が多かった(乙A1,乙A8・1頁,証人E3ないし6頁。 )ア平成10年4月13日の診療(初診)亡Dの状態は安定していた。亡Dからは,血痰について近医で精査(CT,気管支鏡)をしたが問題はなかったとの話があった。E医師は,上記(2)のG医師からの転科依頼を受けて,管理治療を要する疾患として,診療 状態は安定していた。亡Dからは,血痰について近医で精査(CT,気管支鏡)をしたが問題はなかったとの話があった。E医師は,上記(2)のG医師からの転科依頼を受けて,管理治療を要する疾患として,診療録に「♯1高血圧「♯2甲状腺機能低下」と記載した。亡Dに」,対しては,アダラート(血圧降下剤,チラージン(甲状腺ホルモン剤,))アリナミンF(ビタミン剤,胃散が処方された(乙A1・4頁。 ))イ同年5月11日の診療亡Dの状態は安定していた。亡Dに対しては,上記(3)アの診療時に処方されたアダラート,チラージン,アリナミンF,胃散に加えて,ガスタ ー(胃薬)とストロカイン(胃薬)も処方された(乙A1・4頁。 )同日の診療以降,亡Dに対しては,基本的には上記の処方が継続された,,,,が診療の都度における亡Dの症状に応じて処方が中止され変更され又は追加されることもあった(乙A1・4頁ないし24頁。 )ウ平成11年3月8日の診療,,,亡DはE医師に対し体が痛く整形外科を受診中であると話したほか胃の具合があまり良くないと訴えた。しかし,亡Dは,胃腸の検査はやりたくないと話していた(乙A1・6頁。 )エ平成13年4月5日の診療等(ア)亡Dは,E医師に対し,平成13年2月8日及び同年3月8日の診療において,めまいがあり,転倒して耳鼻科に入院したこと,頭がたまにボーとすることなどを訴えていた(乙A1・10頁,11頁。 )(イ)亡Dは,E医師に対し,同年4月5日の診療において,体がフワフワすること,食欲はあることなどを訴えた(乙A1・11頁。E医師)は,上記の主訴から,亡Dに悪性腫瘍があり,そのために体力が低下している可能性も考慮して,亡Dに対して採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA)を行った(乙A どを訴えた(乙A1・11頁。E医師)は,上記の主訴から,亡Dに悪性腫瘍があり,そのために体力が低下している可能性も考慮して,亡Dに対して採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA)を行った(乙A1・11頁,乙A5・3枚目,証人E11頁。 )(ウ)上記腫瘍マーカー検査(CEA)の結果,亡DのCEA値は2.4ng/mlであり,基準値(0.0ng/mlから5.8ng/mlまで)の範囲内であった(乙A5・3枚目。 )オ同年5月7日の診療亡Dの状態は安定していた。亡Dからは,E医師に対し,耳鼻科に通院中であるとの話があった。E医師は,亡Dに対し,上記(3)エの採血結果を説明した(乙A1・11頁。 )カ平成14年3月4日の診療等 (ア)亡Dは,E医師に対し,平成14年2月4日の診療において,項部から右肩にかけて痛みがあると訴えていたところ,同年3月4日の診療においても,項部の痛みはまだあると話した。E医師は,同日,亡Dに対して採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9)を行った(乙A1・13頁,乙A6・3枚目。 )(イ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9)の結果,亡DのCEA値は2.8ng/ml,CA19-9値は20U/mlであり,いずれも基準値CA19-9は0U/mlから37U/mlまでの範囲内であった乙(,)(A6・3枚目。 )キ同年7月22日の診療等(ア)亡Dが,E医師に対し,平成14年5月27日の診療において,薬疹の疑いで皮膚科を受診し,アダラートが原因ではないかと言われたと訴えたので,E医師は,同日,アダラートの処方を中止し,ディオバン。 ,,,に処方を変更したしかし同年6月24日の診療においても亡DはE医師に対し,皮膚発疹がまだあること,皮膚科医師にはアダ たので,E医師は,同日,アダラートの処方を中止し,ディオバン。 ,,,に処方を変更したしかし同年6月24日の診療においても亡DはE医師に対し,皮膚発疹がまだあること,皮膚科医師にはアダラートではなく甲状腺の薬が原因ではないかと言われたことを訴えたので,E医師は,同日,ディオバンからアダラートに処方を戻すとともに,チラージンの処方を中止し,次回診療時に採血を実施する予定とした(乙A1・3頁,14頁。 )(イ)亡Dから,E医師に対し,同年7月22日の診療において,チラージンを飲まないと全身倦怠感があること,皮膚科医師からは薬疹の原因はチラージンではないので再開するように言われたことを話した(乙A1・15頁。E医師は,同日,亡Dに対して採血を実施して,IgE)(免疫グロブリンE。南山堂医学大辞典第19版・2472頁)値の測定に加えて,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)を行った(乙A1・15頁,乙A7・3枚目,4枚目。 ) (ウ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)の結果,亡DのCEA値は2.6ng/ml,CA19-9値は23U/ml,SLX値は40U/mlであった。CEA値及びCA19-9値はいずれも基準値の範囲内であり,SLX値は,基準値(38U/ml以下)を超えたものの近似値であった(乙A7・3枚目。 )ク同年8月19日の診療亡Dの状態は安定していた。亡Dから,E医師に対し,めまいが時々あるとの話があった。E医師は,亡Dに対し,上記(3)キの採血結果を説明した(乙A1・15頁。 )ケ平成15年6月23日の診療等(ア)亡Dは,E医師に対し,平成15年4月28日の診療時において,腹部がグルグルすると訴え,E医師は,同日,亡Dに対して便潜血検査を実施することとした。亡Dは, ケ平成15年6月23日の診療等(ア)亡Dは,E医師に対し,平成15年4月28日の診療時において,腹部がグルグルすると訴え,E医師は,同日,亡Dに対して便潜血検査を実施することとした。亡Dは,E医師に対し,同年5月26日の診療時においても,あまり良くない,排便は良好だが,腹部が重い感じであることを訴えていたが,上記便潜血検査の結果は正常であった。E医師,,()。 は同日次回診療時に採血を実施する予定とした乙A1・17頁(イ)亡Dは,E医師に対し,同年6月23日,腹部の痛みや食欲がないことなどを訴えた(乙A1・17頁。E医師は,同日,亡Dに対して)尿検査とともに採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)を行った(乙A1・17頁,乙A4・5枚目。 )(ウ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)の結果,亡DのCEA値は2.7ng/ml,CA19-9値は26U/ml,SLX値は41U/mlであった。CEA値及びCA19-9値はいずれも基準値の範囲内であり,SLX値は,基準値を超えたものの近似値であった(乙A4・5枚目。 )コ同年9月22日の診療 亡Dの症状は安定していた。亡Dからは,E医師に対し,娘である原告Bについて,血便の症状があったので,大政クリニックで大腸内視鏡検査を受け,さらに社会保険病院に通院しているとの話があった(甲A3,乙A1・18頁。 )サ平成16年4月12日の診療等(ア)亡Dは,E医師に対し,腰痛を訴えた。E医師は,同日,亡Dに対して,尿検査とともに採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)を行った(乙A1・20頁,乙A4・5枚目。 )(イ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)の結果,亡DのCEA値は2.6 実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)を行った(乙A1・20頁,乙A4・5枚目。 )(イ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SLX)の結果,亡DのCEA値は2.6ng/ml,CA19-9値は30U/ml,SLX値は45U/mlであった。CEA値及びCA19-9値はいずれも基準値の範囲内であり,SLX値は,基準値を超えたものの近似値であった(乙A4・5枚目。 )シ同年7月5日の診療亡Dからは,E医師に対し,昨年9月に娘である原告Bが直腸癌の手術をしたとの話があった(甲A3,乙A1・20頁。 )ス同年8月30日の診療等(ア)亡Dからは,成人病検診があるとの話があった。E医師は,同日,亡Dに対して採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,SLX)を行った(乙A1・21頁,乙A4・5枚目。 )(イ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,SLX)の結果,亡DのCEA値は2.7ng/ml,SLX値は45U/mlであった。CEA値は基準値の範囲内であり,SLX値は基準値を超えたものの近似値であった(乙A4・5枚目。 )セ平成17年3月14日の診療亡Dからは,E医師に対し,2月20日ころに風邪をひいて38度の熱 が出たので抗生剤を服用したところ,胃の具合が悪くなったので,ザンタックを服用したが,今度はめまいが出てしまい,結局耳鼻科へ行ってザンタックを中止のうえ,メリスロンを服用したら改善したことなどの話があった。また,同日,亡Dには,口臭が認められた(乙A1・22頁,証人E27頁。 )ソ同年4月11日の診療等(ア)亡Dは,E医師に対し,めまいがあると訴えたが,胃の調子は良いとも話した。E医師は,同日,亡Dに対して,尿検査とともに採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SCC,N 療等(ア)亡Dは,E医師に対し,めまいがあると訴えたが,胃の調子は良いとも話した。E医師は,同日,亡Dに対して,尿検査とともに採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SCC,NSE)を行った(乙A1・23頁,乙A4・5枚目。 )(イ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA19-9,SCC,NSE)の結果,亡DのCEA値は3.0ng/ml,CA19-9値は25U/ml,SCC値は0.6ng/ml,NSE値は9.7ng/mlであり,いずれも基準値の範囲内であった(乙A4・5枚目。 )タ同年5月23日の診療,,,,原告Bは同日の診療から亡DがE医師の診療を受ける際には毎回E医師の外来診察室に亡Dと同席するようになった(甲A3・2枚目,乙A1・23頁,証人E3頁,被告第2準備書面1頁参照。 )チ同年6月27日の診療亡Dの状態は安定していた(乙A1・23頁。 )ツ同年8月8日の診療亡Dは,E医師に対し,左下肢後面に痛みがあり,めまいもあると訴えた(乙A1・23頁,乙A8・1頁。 )テ同年10月17日の診療亡Dは,E医師に対し,地区の定期検診を受けて,その検診結果が,白血球8900,HbAlc5.2,中性脂肪184,総コレステロール2 19,HDL59であったと話した(乙A1・23頁,乙A8・2頁。 )ト同年12月12日の診療亡Dからは,E医師に対し,何となく元気がないとの話があり,胃酸が上がってくるようだとの訴えもあった。E医師は,亡Dに対し,上記(3)イと同様の処方に加えて,パリエット(胃酸の分泌を抑制する薬)も処方した(乙A1・24頁,乙A8・2頁,弁論の全趣旨。 )ナ平成18年2月6日の診療等(ア)亡Dの症状は安定していた(乙A1・24頁,乙A8・2頁。E)医師は,同日, 分泌を抑制する薬)も処方した(乙A1・24頁,乙A8・2頁,弁論の全趣旨。 )ナ平成18年2月6日の診療等(ア)亡Dの症状は安定していた(乙A1・24頁,乙A8・2頁。E)医師は,同日,亡Dに対して,採血を実施して,腫瘍マーカー検査(CEA,CA125,SLX)を行った(乙A4・5枚目。 )(イ)上記腫瘍マーカー検査(CEA,CA125,SLX)の結果,亡DのCEA値は2.8ng/ml,CA125値は23U/ml,SLX値は37ng/mlであり,いずれも基準値の範囲内であった(乙A4・5枚目。 )ニ同年3月27日の診療亡Dは,E医師に対し,2週間前から下腹部痛があり,食べると痛みが増強する,便秘傾向であると訴えた。E医師は,亡Dについて,大腸癌の可能性も考慮して,便潜血検査をオーダーするとともに,亡Dの訴えがいつもと様子が違うので,薬の処方についても,通常1か月分程度を処方していたところを14日分のみの処方とし,通院の間隔が短くなるようにした(乙A1・24頁,乙A8・2頁,証人E31頁。 )ヌ同年3月30日の診療亡Dは,E医師に対し,胃から下腹部にかけて痛みがあり,便秘傾向であると訴え,やっと今日便通があったので,便潜血検査の検体を提出したと話した。また,亡Dには,37.2度の発熱が認められた(乙A1・24頁,乙A8・2頁。 )E医師は,亡Dの訴えがいつもと様子が違うので,亡Dを被告病院消化 器内科に紹介した(乙A1・24頁,25頁,乙A8・2頁。 )(4)被告病院消化器内科(外来)における診療経過ア平成18年3月30日の診療(ア)亡Dは,E医師の紹介を受けて,平成18年3月30日,被告病院呼吸器内科での診察に引き続いて被告病院消化器内科を受診した(乙A1・25頁,乙A2・2頁,3頁。 )(イ) 3月30日の診療(ア)亡Dは,E医師の紹介を受けて,平成18年3月30日,被告病院呼吸器内科での診察に引き続いて被告病院消化器内科を受診した(乙A1・25頁,乙A2・2頁,3頁。 )(イ)原告Bは,亡Dに代わって,被告病院消化器内科の問診票に,亡Dの症状として「胃から下腹部に鈍痛(特に食後」及び「お小水後も,)下腹部(細詳はわからない,上記症状の生じた時期として「3週間)」,位前」と記載した(乙A2・2頁。 )(ウ)被告病院消化器内科のH医師が亡Dを問診した結果,亡Dは腹痛があったが,排尿痛なし,血便なし,便通は便秘気味で硬い,嘔吐はないとのことであった。また,H医師が亡Dを触診,聴診及び打診した結果は,鼓腸と圧痛あり,筋性防御なし,反跳なし,腸音はあるが亢進していないというものであった(乙A2・3頁,乙A8・3頁。 )そこで,H医師は,亡Dに対し,まず便通コントロールを改善するた,(),めにカマ下剤を1日につき3回服用することを指示するとともにラキソベロン(下剤)1本を処方し,さらに,亡Dの年齢を考慮して,腹部CT検査を実施することとした(乙A1・25頁,乙A2・3頁,乙A8・3頁。 )同日提出された検体による便潜血検査(上記(3)ヌ参照)の結果は陽()。 ,,,性+であったまた上記腹部CT検査の所見は腹水が認められ胃壁がやや厚い印象であるが,大腸に腫瘍があるかははっきりしないというものであった(乙A2・3頁,4頁,乙A8・3頁。 )イ同年4月5日の診療亡Dには,食欲不振があるものの,嘔吐はなく,心窩部痛もなかった。 また,ガスと便は出ており,腹部圧痛が少しあるが,反跳はなかった。 H医師は,腹部CT画像上は明らかな腫瘍は認められないものの,腹水がみられることや亡Dの のの,嘔吐はなく,心窩部痛もなかった。 また,ガスと便は出ており,腹部圧痛が少しあるが,反跳はなかった。 H医師は,腹部CT画像上は明らかな腫瘍は認められないものの,腹水がみられることや亡Dの年齢を考慮すると,悪性腫瘍も考えなくてはならないと判断して,亡Dと相談のうえ,入院精査とすることを決め,入院予約をした。H医師は,亡Dに対して,何かあればすぐ受診するように指示をして,同人を帰宅させた。また,H医師は,同日,亡Dの家族に対して,(,,も同様の説明をして亡Dの入院の件は了承された乙A2・3頁5頁乙A8・3頁。 )H医師は,診療録に,引継事項として,心電図,採血,レントゲン撮影済みであり,入院後に胃内視鏡検査等を実施すべきことを記載した(乙A2・3頁。 )(5)被告病院の救急受診亡Dは,腹痛が増悪し,平成18年4月6日から3~4回嘔吐をしたが,嘔吐物に血液は混ざっていなかったと訴えて,同月7日,被告病院を救急受,。 ,,診しそのまま被告病院に入院となった亡Dは担当医師の問診に対して腹痛の性状は様々であり,波があるが,食後少し経ってから痛くなること,同月6日の夕食としてスパゲッティを少量食べ,これが受診前の最後の食事であること,食欲が低下していること,便は浣腸で出していることなどを話した。また,担当医の触診,聴診の結果,亡Dの腹部は膨張し,腫瘤を触れたほか,圧痛とグル音が認められたが,筋性防御はなかった。また,担当医の打診の結果,鼓音も認められた(乙A2・8頁,乙A8・3頁。 ),,,,担当医師は同日救急診療録兼要約書に入院精査とすることに加えて悪性の可能性が高いと記載した(乙A2・8頁。 )(6)被告病院消化器内科(病棟)における診療経過ア平成18年4月8日の診療被告病院消化 同日救急診療録兼要約書に入院精査とすることに加えて悪性の可能性が高いと記載した(乙A2・8頁。 )(6)被告病院消化器内科(病棟)における診療経過ア平成18年4月8日の診療被告病院消化器内科の病棟医であるI医師らは,亡Dに対し,胃内視鏡 検査を実施したこの胃内視鏡検査の結果肉眼所見でタイプ4の胃癌ス。 ,(キルス胃癌)を,腹水細胞診でクラスⅤを認めた。また,胃内視鏡検査の生検結果は,Poorlydifferentiatedadenocarcinomaincludingsignetringcellcarcinoma(印環細胞癌を含む低分化型腺癌)であった。これらの検査結果をふまえ,I医師らは,亡Dについて,ステージⅣの進行胃癌であるとの診断をした(乙A3・3頁,乙A8・3頁。 )イ同年4月13日の診療I医師らは,亡Dとその家族からの強い要望を受けて,被告病院臨床腫瘍科に対し,亡Dの化学療法のメニューについて照会をした。これに対して,被告病院臨床腫瘍科のL医師は,亡Dに腹水が認められることやアルブミン値が2.3という低栄養状態であることから,強めの化学療法は難しいと考えられるので,まずTS-1を単独で投与する方針で治療したらどうかと回答した(乙A2・6頁,乙A3・3頁,乙A8・3頁。 )ウ同月14日以降の診療I医師らは,上記の回答を受けて,平成18年4月14日から,亡Dに対して,TS-1の投与を開始したが,投与から3日目で食欲不振,嘔気が現れ,4日目には敗血症を生じ,血液培養から大腸菌を検出するに至ったので,同月18日にはTS-1の投与を中止して緩和ケアを中心とした治療に切り替えた(乙A3・3頁,乙A8・4頁。 )I医師らは,L医師に対し,同月20日,亡Dの化学療法のメニュー及び亡Dらが希望してい ,同月18日にはTS-1の投与を中止して緩和ケアを中心とした治療に切り替えた(乙A3・3頁,乙A8・4頁。 )I医師らは,L医師に対し,同月20日,亡Dの化学療法のメニュー及び亡Dらが希望していた免疫療法について再度照会をしたが,L医師の回答は,化学療法は困難であるというものであった(乙A2・7頁。 )しかし,セカンドオピニオンで北里研究所病院がTS-1の減量投与による治療を提案したため,亡Dらが転院を希望し,同年5月6日,亡Dは被告病院を退院し,北里研究所病院へ転院した(乙A3・3頁,乙A8・4頁。 ) 亡Dの胃癌の早期発見のために必要な措置を執らなかった過失の有無(1)亡DがE医師に対して胃癌の早期発見を依頼したか否かア原告らは,前記第2の2(1)アのとおり,E医師に対し,自らに癌が発,,症した場合の早期発見を普段から繰り返し依頼してきたものであり特に平成15年9月に原告Bが直腸癌に罹患した後は,E医師に対して上記依頼をことあるごとに繰り返し,E医師もこれを受諾していた旨主張し,原告Bは,亡Dから,E医師には癌の検査をしてくれるようにいつも頼んでいると聞かされていた旨供述している(甲A3・1頁。 )イこれに対し,E医師は,亡Dは確かに癌にかかる心配はしていたが,亡,,,Dから癌を早く発見してほしいと具体的に言われた記憶はなくむしろ亡Dは,内視鏡検査やバリウム検査の受診を勧めても,地区の定期検診を受けているからその必要はないと述べて,侵襲性のある検査を拒否する患者であった旨供述ないし証言し(乙A8・4頁,5頁,証人E5頁,そ)の供述ないし証言に格別不自然な点はない。一方,上記2(2)ア,(3)ア,イ及び証拠(乙A1・4頁ないし24頁)によれば,亡Dは,E医師の下で高血圧及び甲状腺機能低下症の管理治療 証人E5頁,そ)の供述ないし証言に格別不自然な点はない。一方,上記2(2)ア,(3)ア,イ及び証拠(乙A1・4頁ないし24頁)によれば,亡Dは,E医師の下で高血圧及び甲状腺機能低下症の管理治療を受ける目的で,平成10年3月に被告病院呼吸器内科へ転科し,転科後から平成18年3月までの間の被告病院呼吸器内科における診療では,継続的にアダラート及びチラージンが処方され,主に上記疾病の管理治療がなされていたことが認められるほか,上記2(3)ウによれば,亡Dが平成11年3月8日にE医師の診察を受けた際に,胃癌の検査はやりたくないと述べたことが認められる。 ウこれらの事情を考慮すれば,亡Dが,E医師に対し,自らに癌が発症した場合の早期発見を普段から繰り返し依頼し,これをE医師が受諾したとは認め難く,被告が,亡Dに対し,患者の症状等に応じて診療当時の医療水準を満たした診療を行うという一般的な診療契約上の債務以上に癌の早期発見のための高度の検査義務,診療義務を負担していたとは認め難い。 (2)亡Dの症状について原告らは,前記第2の2(1)イのとおり,平成17年夏から秋ころより,亡Dは,食後の胃痛・胃部不快感を頻繁に訴え始め,その後,食間の胃痛・胃部不快感,頻回のゲップを訴えるようになり,これらの症状はE医師にも伝えられていたと主張し,原告Bの陳述(甲A3・2枚目,3枚目)中にもこれに沿う記載部分がある。また,上記2(3)トのとおり,亡Dが,平成17年12月12日の診療時に,E医師に対し,胃酸が上がってくるようだと訴えたことが認められる。 もっとも,診療録(乙A1・23頁,24頁)中には,亡Dがその他に胃の不調,口臭,食欲不振及び胃がムカムカすることを訴えたことに関する記載はない。しかしながら,E医師は,亡Dが慢性的な胃の不調を含む不定愁 も,診療録(乙A1・23頁,24頁)中には,亡Dがその他に胃の不調,口臭,食欲不振及び胃がムカムカすることを訴えたことに関する記載はない。しかしながら,E医師は,亡Dが慢性的な胃の不調を含む不定愁訴の多い患者であったことから,これらの不定愁訴については特に大きく症状が変化した場合にのみ診療録に記載していた旨を述べていること(証人E27頁,上記2(3)セのとおり,E医師は,同年3月14日の診療の際に,)亡Dの口臭の症状を認め,同様の症状がその後も続いていたと述べていること(証人E27頁,上記2(3)イのとおり,亡Dは,同年8月8日から同)年12月12日までの間の診療においても,胃散,ガスター,ストロカインといった胃薬の処方を受けていることなどを総合すれば,亡Dには,平成17年夏から秋ころに胃部不調や口臭等の症状が存在したと認められる。 (3)検査実施義務違反についてア原告らは,前記第2の2(1)ウのとおり,E医師は,平成17年夏から秋ころ,亡Dの胃部変調の訴えに対し,胃X線検査の実施等の癌の早期発見に必要な措置を執らなかった過失があると主張するので,この主張について検討する。 イ上記3(2)のとおり,亡Dには,平成17年夏から秋ころに胃部不調や口臭等の症状が存在したと認められるが,他方,上記1(1)イ(ア)及び証 拠(証人E28頁)によれば,胃癌に特有の症状はなく,上腹部痛・不快感,悪心・嘔吐,上腹部膨満感などの症状から胃癌を推定することはほとんどできないこと,口臭も必ずしも胃癌を推定する症状ではないことが認められ,これらの医学的知見に照らせば,亡Dの上記のような胃部不調等の症状が,それらだけをとりあげて胃癌の発症を疑わせる症状であったとは認め難い。また,上記2(3)イのとおり,亡Dは,平成10年ころから胃の不調を訴え 的知見に照らせば,亡Dの上記のような胃部不調等の症状が,それらだけをとりあげて胃癌の発症を疑わせる症状であったとは認め難い。また,上記2(3)イのとおり,亡Dは,平成10年ころから胃の不調を訴え,胃散,ガスター,ストロカインといった胃薬の処方を受けてきたところ,上記2(3)ツ,テ,トのとおり,平成17年夏から秋ころにかけて亡Dの胃の症状に顕著な変化があったわけではなく上記2(3),トのとおり,平成17年12月12日の診療において,亡Dから,胃酸が上がってくるようだとの訴えがあったため,同日パリエットが処方されているが,パリエットの処方については,証拠(乙A1・22頁,証人E19頁)によれば,上記診療時以外にも処方されたことが認められるのであって,上記の胃酸が上がってくるようだという主訴から,直ちに亡Dの胃に関する訴えが増悪したという事実を推認することはできない。 一方,上記1(1)ウ(ア),(イ)のとおり,亡Dのような高齢者に対してX線検査や胃内視鏡検査を行う場合にはイレウスの発症や穿孔を生じる危険性があることが認められる。 これらの点を考慮すれば,平成17年夏から秋ころ,E医師が原告らが主張するような検査実施義務を負っていたと認めることはできない。 ウまた,そもそも,亡Dが平成17年夏から秋ころにおいて既に胃癌を発症していたかについて,さらに検討すると,上記2(6)アのとおり,亡Dは平成18年4月8日にいわゆるスキルス胃癌であるとの診断を受けたことが認められ,さらに,上記1(1)カ及び証拠(乙B1・4枚目,乙B4・3枚目,証人E29頁)によれば,胃癌が検診で発見されるまでの大きさになるには何年もかかるのが通常であるが,いわゆるスキルス胃癌の場 合の増殖の速度は早く,時には数か月で転移するに至ることもまれではないこと,スキル によれば,胃癌が検診で発見されるまでの大きさになるには何年もかかるのが通常であるが,いわゆるスキルス胃癌の場 合の増殖の速度は早く,時には数か月で転移するに至ることもまれではないこと,スキルス胃癌との診断を受けた時点で,既に癌性腹膜炎の状態で余命3か月と宣告された患者の症例において,上記診断の1年前には癌が存在しないか,存在しても極めて微少なものであった可能性が高いと示唆されていることが認められ,これらの医学的知見を併せ考えると,亡Dがスキルス胃癌との診断を受けた時点からおよそ10か月前である平成17,,年夏から秋ころの時点において亡Dにおいて胃癌が発症していたことは本件の全証拠によってもこれを認めるに足りない。 エ以上のとおりであるから,E医師に,平成17年夏から秋ころの亡Dの胃部変調の訴えに対して胃X線検査の実施等の癌の早期発見に必要な措置を執らなかった過失があったとはいえないし,また,E医師に,胃X線検査等の実施の必要性を亡Dに説明する義務を怠った過失があったともいえない。 亡Dの症状について誤った説明をした過失の有無(1)原告らは,前記第2の2(2)のとおり,E医師が腫瘍マーカーの検査値が正常であるから癌の心配はないとの間違った説明を繰り返し,亡Dが胃癌早期発見のための適切な措置を執る機会を奪った旨主張するので,この主張について検討する。 (2)原告Bは,亡Dから,E医師が血液検査の結果でも数値は正常だったから癌ができているようなことはないと述べたことを聞いたことがある旨,平成17年5月23日に原告Bと亡Dが一緒にE医師の診察を受けた際にも,E医師が,亡Dに「マーカーの値は正常値です。癌の心配はありません」。 と説明していた旨供述している(甲A3・1頁,2頁。 )しかしながら,上記供述は,E医師の発言を要 E医師の診察を受けた際にも,E医師が,亡Dに「マーカーの値は正常値です。癌の心配はありません」。 と説明していた旨供述している(甲A3・1頁,2頁。 )しかしながら,上記供述は,E医師の発言を要約したもので,これらの要約がE医師の元の発言をそのまま正確に再現したものかどうか疑問がある。 また,E医師の証言(証人E33頁)によれば,E医師は,進行度の低い早 期の胃癌では腫瘍マーカーはそれほど高い陽性率を示すわけではないこと,腫瘍マーカーの検査結果が陽性でなかったからといって癌でないとはいえないこと(上記1(2)ア(イ),ウ参照)を熟知していることが認められる。そして,E医師は,日頃,患者に対し,腫瘍マーカーというのは癌によって作られる物質であり,そういう物質を作る癌ができると血液の中に腫瘍マーカーが増加することになること,腫瘍マーカーの数値が正常であるということは,腫瘍マーカーを作るような癌はないということであることを説明をしているが,腫瘍マーカーの検査値が正常であれば癌の心配はない,などという説明をしたことは絶対にない旨供述ないし証言(乙A8・5頁,証人E33,),。 頁34頁しているところこの供述ないし証言に格別不自然な点はないこれらの事情を考慮すれば,E医師が,亡Dに対し,腫瘍マーカーの検査値が正常であることと癌の発症の有無との関係について医学的に誤った説明を行ったとは認め難い。 (3)証拠(甲A3)によれば,亡D及び原告Bは,腫瘍マーカーの検査結果に関するE医師の説明から,亡Dについて癌の発症はおよそないものと思い込んでいたところ,突如として手術の適応がないほどに進行した胃癌であると診断されたことに驚き,E医師の診療行為や説明の内容について強い不満を抱いたことがうかがわれる。亡Dが進行した胃癌と診断された後短 んでいたところ,突如として手術の適応がないほどに進行した胃癌であると診断されたことに驚き,E医師の診療行為や説明の内容について強い不満を抱いたことがうかがわれる。亡Dが進行した胃癌と診断された後短期間で死亡したことにつき原告らが無念の心情を抱いたことは理解できるところであるが,他方,医師としては,患者が精神的に安定した平穏な生活を送ることができるように,患者の不安を強めたり,不必要に患者の動揺や混乱をきたす発言を控えることも重要であると考えられるから,仮に腫瘍マーカーの検査結果に関するE医師の説明にそのような考慮に基づくものが含まれており,そのことが癌の発症の心配はないと亡Dが思いこむ一因になったとしても,E医師がそのような説明をしたこと自体が亡Dに対する診療契約上の債務不履行ないし不法行為を構成すると解することはできない。 結論 以上のとおりであるから,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないというべきである。 よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部孝橋宏裁判長裁判官関根規夫裁判官飯田佳織裁判官

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